説明

冷間圧延における潤滑油供給方法およびその装置

【課題】潤滑油供給制御の応答性に優れ、焼付き疵のない高品質の製品を製造することができる冷間圧延における潤滑油供給方法を提供する。
【解決手段】融点が20℃以上の潤滑油原液をロールバイト入側に供給する潤滑油供給方法であって、潤滑油タンク20と潤滑油供給管24に加熱装置23、27を設置して潤滑油を液体の状態で供給し、摩擦係数や先進率に応じて温度制御によりロールバイトへの油量を制御する。また、板幅方向に複数の潤滑油ノズル32を配置して板形状検出装置からの出力に基づいて幅方向に温度制御を実施し、板形状を制御することも可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は冷間圧延における潤滑油供給方法およびその装置、特に潤滑油原液をワークロールに供給するニート潤滑方式による潤滑油供給方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
冷間圧延では、ステンレス鋼板を除いて通常エマルション潤滑が用いられている。しかし、エマルション潤滑ではむだになる潤滑油が多く、また圧延速度が高速になると潤滑不足を生じて焼付き疵を生じる場合がある。
【0003】
上記エマルション潤滑の問題を解決する技術として、潤滑油原液(以下、単に潤滑油という)をロールおよび/または鋼板に供給するニート潤滑がある。ニート潤滑は摩擦を低減する有効な手段であるが、従来の潤滑油供給方法では、潤滑油原液をノズルから供給するので次のような問題があった。
【0004】
(1)潤滑過多を生じてスリップを起こし、疵を生じる場合がある。(2)潤滑油供給量を減少し過ぎると、潤滑油はエマルションより粘度が高いためにロールや板の全体に広がらず、供給されない部分で焼付き疵を生じる場合がある(幅方向不均一)。(3)板端やロール端からこぼれ落ちる潤滑油が現状より増加し、特にダイレクト潤滑では歩留りが悪化する。(4)リサーキュレーション潤滑ではダイレクト潤滑ほど歩留りの悪化はないものの、粘度が高く不純物を内包しやすいので再使用するための不純物の除去等が難しい。
【0005】
上記ニート潤滑の問題を解決する技術として、鋼板の圧延用ワークロールの潤滑油供給装置であって、ワークロールに5mm以下の間隙で近接して潤滑油を供給する吐出口を設けた潤滑油供給装置がある。この装置では、吐出口の網状組織の細孔から潤滑油を滲み出させてワークロールに供給する。潤滑油供給量は、潤滑油に加わる圧力を調整して制御する。(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、特許文献2のように噴霧によって潤滑油を供給する方法もある。
【特許文献1】特開2001−179313号公報(第4頁、第5頁、図1および 図4)
【特許文献2】特願2004−012678
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1の圧延ロールのニート潤滑方法は、摩擦係数低減には有効である。しかし、潤滑油を細孔から滲み出させ、潤滑油に加わる圧力を調整して潤滑油供給量を制御するので、制御の応答に遅れが生じることがあった。このために、焼付き疵が生じるおそれがあった。
【0008】
また、特許文献2の技術では潤滑油として元々液体のものに限定しており、常温や圧延機周辺の使用環境中(周辺の温度)で固体の潤滑油は使用することができなかった。現在、冷間タンデム圧延で使用しているエマルション潤滑で用いられている潤滑油には常温で固体の潤滑油も多く、また潤滑性の観点から高性能な潤滑油で固体のものも多い。
【0009】
この発明は、潤滑油供給制御の応答性に優れ、焼付き疵のない高品質の製品を製造することができる潤滑油供給方法およびその装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明の冷間圧延における潤滑油供給方法は、
(1)潤滑油原液を潤滑油ノズルから圧縮気体で霧状に噴射してロールバイト入側に供給する、冷間圧延における潤滑油供給方法において、融点が20℃以上の潤滑油を潤滑油タンクに貯蔵し、潤滑油タンクおよび潤滑油供給管に設けた加熱装置により前記潤滑油を加熱して、前記潤滑油タンクから潤滑油供給管への出口から噴霧される潤滑油ノズルまでの潤滑油を液体にして供給し、圧延機出側で少なくともワークロールに冷却水を供給し、ワークロール出側のロール面および/または圧延機出側の金属板面に付着した冷却水を水切り装置で除去することを特徴としている。
【0011】
ここで、潤滑油原液は、鉱油、油脂または合成潤滑油からなり、酸化防止剤、油性向上剤などの添加剤が添加されたものも含む。固体の潤滑油は加熱することにより液体へと変態し、更に温度が上昇するほど粘度は減少してくる。潤滑油の粘度が高い方がロールバイトへの導入油量は大きくなり、摩擦係数は減少する方向にあるので、潤滑油温度を制御することにより摩擦係数を制御することが可能となる。
【0012】
(2)上記(1)の潤滑油供給方法において、圧延材種および圧延スケジュールに応じて必要な摩擦係数もしくは先進率を算出し、当該数値から必要な潤滑油粘度を推定し、当該潤滑油粘度になるように潤滑油温度を制御することを特徴としている。
【0013】
(3)上記(1)または(2)の潤滑油供給方法において、タンデム圧延機でスタンド毎に必要な摩擦係数もしくは先進率を算出し、スタンド毎に潤滑油温度を制御することを特徴としている。
【0014】
(4)上記(1)、(2)または(3)の潤滑油供給方法において、スタンド出側に形状検出装置を備えた圧延機において、複数の潤滑油ノズルおよび潤滑油供給管を板幅方向に沿って設置し、前記形状検出装置で検出した板形状に基づいて前記潤滑油ノズル毎に必要な摩擦係数を推定し、当該推定値から必要な潤滑油温度を算出して前記潤滑油タンクとそれぞれの潤滑油供給管の潤滑油温度を潤滑油供給管毎に独立に制御することを特徴としている。ロール軸方向に複数の潤滑油ノズル噴出口があり、それぞれに対して潤滑油温度を制御することができるようにしておけば、幅方向の摩擦係数制御が可能となり、形状制御を行うことができる。
【0015】
この発明の冷間圧延機の潤滑油供給装置は、
(5)潤滑油を前記潤滑油ノズルから圧縮気体で霧状に噴射してロールバイト入側に供給する潤滑油供給装置であって、融点が20℃以上の潤滑油原液を貯蔵する潤滑油タンクと、潤滑油タンクに接続された潤滑油供給管と、潤滑油供給管に接続された潤滑油ノズルと、圧縮気体タンクと、一端が圧縮気体タンクに、他端が前記潤滑油ノズルに接続され圧縮気体供給管と、前記潤滑油タンクおよび潤滑油供給管にそれぞれ設置され前記潤滑油原液を液状に加熱する加熱装置と、圧延機出側に設けられた少なくともワークロールに冷却水を供給するロール冷却装置と、ワークロール出側のロール面および/または圧延機出側の金属板面に付着した冷却水を除去する水切り装置とを備えていること特徴としている。
【0016】
(6)上記(5)の潤滑油供給装置において、圧延材種および圧延スケジュールに応じて必要な摩擦係数もしくは先進率を算出し、当該数値から必要な潤滑油粘度を推定し、当該潤滑油粘度になるように前記加熱装置の出力を調整して潤滑油温度を制御する潤滑制御装置を備えたことを特徴としている。
【0017】
(7)上記(6)の潤滑油供給装置において、タンデム圧延機において、スタンド毎に必要な摩擦係数もしくは先進率を算出し、スタンド毎に前記加熱装置の出力を調整して潤滑油温度を制御する潤滑制御装置を備えたことを特徴としている。
【0018】
(8)上記(5)、(6)または(7)の潤滑油供給装置において、前記潤滑油タンクに接続された複数の潤滑油供給管と、各潤滑油供給管の先端部にそれぞれ取り付けられ、板幅方向に沿って配置された複数の潤滑油ノズルと、圧延機出側に配置された板形状検出装置と、板形状検出装置で検出した板形状に基づいて前記潤滑油ノズル毎に必要な摩擦係数を推定し、当該推定値から必要な潤滑油温度を算出し、各潤滑油供給管の加熱装置の出力を調整して潤滑油温度を潤滑油供給管毎に独立に制御する潤滑制御装置とを備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
前記(1)の潤滑油供給方法では、固体の潤滑油原液を潤滑油タンクおよび潤滑油供給管に設置した加熱装置で加熱して液体の状態にして潤滑油ノズルから圧縮気体で霧状に噴射してロールバイト入側に供給する。現在、冷間タンデム圧延機のエマルション潤滑で使用されている潤滑油も常温では固体のものも多い。エアアトマイズ法では固体の潤滑油を使用することは難しいので、潤滑性の良い潤滑油があっても使用環境で固体では使用することが難しくなる。加熱装置を使用することでその欠点を補うことが可能となる。
【0020】
前記(2)または(3)の潤滑油供給方法では、温度を変化させると粘度を変化させることができるので、粘度変化を狙って温度を制御し、各スタンド毎、かつ/または幅方向で粘度を制御することにより理想的な摩擦係数へと制御することが可能となる。この結果、潤滑不足による焼付き疵の発生を防ぎ高品質の製品を製造することが可能であり、さらに潤滑油の節減を図ることができる。
【0021】
前記(4)の潤滑油供給方法では、板幅方向の摩擦係数制御により形状を自在に制御することができ、所要の板形状の製品を得ることができる。
【0022】
前記(5)〜(8)の潤滑油供給装置は、上記(1)〜(4)の潤滑油供給方法をそれぞれ効果的に実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明は、常温もしくは使用環境中で固体の潤滑油(潤滑油原液)を潤滑油タンクと潤滑油供給管内で加熱して液体に変態させて潤滑油ノズル先端まで供給し、水と混合せずに圧縮空気を用いて噴霧状態でロールバイト入側に潤滑油を供給する。
【0024】
発明者らは冷延工場において、現在の潤滑油タンクおよびタンクから圧延機までの配管の周辺の温度を調査したところ、冬季では潤滑油供給管付近で20℃まで下がる可能性があることが判明した。潤滑油の融点が20℃以上の場合、潤滑油タンクで加熱して潤滑油供給管へ供給しても、本発明のエアアトマイズ法のように供給量が少ない場合、潤滑油が冬季には潤滑油供給管内で固化してしまう可能性がある。また、固化した潤滑油の温度を徐々に上昇させて固体から固液共存のシャーベット状を経由して液体まで変態させ、エアアトマイズ法によって(1)潤滑油の供給量を制御可能であるか、(2)ロールや鋼板に均一に供給可能であるかの調査を融点が35℃である精製パーム油を用いて行った。その結果、固体の状態では空気圧を上げても潤滑油ノズルから潤滑油が噴霧されることはほとんどないか、塊状で供給されるため、固体の状態では潤滑油を供給することが難しいことが判明した。液体の状態では噴霧も均一供給も全く問題ないことが確認された。固液共存のシャーベット状の場合も、噴霧は全く問題なかった。均一性については液体と比較するとロールや鋼板への潤滑油の付着時に若干液体より大きな粒径の部分も確認されたものの、そのまま圧延してもムラになることはなく、少しでもシャーベット状になるまで加熱できれば圧延には問題ないことが確認された。つまり融点以上になればエアアトマイズ法は実現できるため、使用環境を考慮して潤滑油の融点を20℃以上と規定した。
【0025】
冷間タンデム圧延の場合、現状のエマルション潤滑では、水の熱伝導率が高いために十分な冷却効果が得られるが、エアアトマイズ法では十分な冷却効果が期待できない。焼付きを防ぐために、圧延機出側から冷却水をワークロールに散布する。
【0026】
飛散した冷却水がワークロールの表面に付着すると、潤滑油の鋼板への付着が妨げられるので、水切り板をワークロール出側に近接して設けている。水切り板は飛散する冷却水のワークロールへ付着を防ぎ、潤滑油の鋼板への付着を確実にする。また、水切り板は冷却水およびヒュームの圧延機周辺への飛散を防ぎ、良好な作業および設備環境を保つ。
【0027】
潤滑油温度は、摩擦係数もしくは摩擦係数と密接な関係がある先進率に基づいて制御することができる。ワークロール周速はワークロール回転速度検出装置で、また板速度は圧延機出側の板速度検出装置でそれぞれ測定される。これらの測定結果は潤滑制御装置に送られ、これらの測定結果より、摩擦係数もしくは先進率と潤滑油温度の関係を予め求めておく。潤滑油温度が低いと、ロールバイトに潤滑油が多く入り込み、油膜厚が厚くなり、摩擦係数は下がり、先進率が小さくなる。逆に潤滑油温度が高いと、ロールバイトに潤滑油が少なく入り込み、油膜厚が薄くなり、摩擦係数は上がり、先進率が大きくなる。この関係に基づいて所要の潤滑油温度を求め、潤滑油ヒーターの出力調整によって温度を制御する。これにより、潤滑油供給量が一定でも、ロールバイトの油膜は所要の厚さに維持できる。必要な摩擦係数や先進率は圧延材の種類や圧下スケジュール等によって変化するため、それらに合わせたテーブルや補正項を予め準備しておくのがよい。
【0028】
また、潤滑油供給量も、摩擦係数と密接な関係がある先進率に基づいて制御することができる。潤滑油の温度と供給量の2種類の制御端ができたので、これらの選択はコストを考慮して予めどちらをどの条件で使用するかを決定しておけばよい。
【0029】
図1は、上記潤滑油供給方法を実施する装置の一例を示している。以下、金属板が鋼板であるとして説明する。圧延機10は、ワークロール12およびバックアップロール14を備えた4段圧延機である。
【0030】
圧延機10は、融点が20℃以上の潤滑油を貯蔵する潤滑油タンク20を備えている。潤滑油タンク20内には、潤滑油を加熱する潤滑油ヒーター21および熱電対などの潤滑油温度検出装置23が設けられている。潤滑油ヒーター21はヒーター電源22が接続されており、ヒーター電源22は出力調整が可能である。潤滑油タンク20に潤滑油供給管24が接続されており、潤滑油供給管24には潤滑油ポンプ25、潤滑油圧力調節弁26が取り付けられている。潤滑油供給管24の一部に、潤滑油タンク20のものと同様の潤滑油ヒーター27および潤滑油温度検出装置29が取り付けられている。潤滑油ヒーター27に接続されたヒーター電源28も出力調整が可能である。
【0031】
圧延機10の入側に潤滑油ヘッダー30が配置されており、潤滑油ヘッダー30には潤滑油供給管24が接続されている。潤滑油ヘッダー30には、鋼板1とワークロール12に近接するとともに、板幅方向に沿って複数の潤滑油ノズル32が設けられている。潤滑油ノズル32には圧縮空気供給管42を介して圧縮空気タンク40が接続されている。圧縮空気供給管42には空気流量調節弁46が取り付けられている。
【0032】
圧延機10は、コンピューターからなる潤滑制御装置60を備えている。潤滑制御装置60には、潤滑油供給量および摩擦係数もしくは先進率と潤滑油温度との関係が圧延材の種類や圧下スケジュール毎にテーブルとして予め格納されている。潤滑制御装置60は、潤滑油圧力調節弁26、空気流量調節弁46および冷却水量調節弁56に操作信号を出力し、潤滑油および冷却水の供給量を調整するとともに、ヒーター電源22、28に操作信号を出力し、潤滑油温度を調整する。
【0033】
圧延機10の出側に、板速度検出装置62が配置されており、ワークロール12には回転速度検出装置(図示しない)が取り付けられている。圧延機出側の板速度およびワークロール回転速度の検出値は潤滑制御装置60に出力され、潤滑制御装置60はこれら検出値に基づいて先進率を演算する。
【0034】
上記のように構成された圧延機10において、潤滑油が潤滑油タンク20から潤滑油ポンプ25により潤滑油供給管24を経て潤滑油ヘッダー30に送られる。常温もしくは使用環境中で固体の潤滑油は潤滑油タンク20と潤滑油供給管24に設置された潤滑油ヒーター21、27によって液体に変態させられる。液体となった潤滑油は、潤滑油ヘッダー30から潤滑油ノズル32に流入する。一方、圧縮空気タンク40から乾燥した圧縮空気が圧縮空気供給管42を経て潤滑油ノズル32に供給される。潤滑油は圧縮空気と混合されて潤滑油ノズル32から噴出し、霧吹き状となってワークロール12と鋼板1に供給される。ニート潤滑であるので効果的に摩擦係数を減少させることができる。
【0035】
潤滑制御装置60には、圧延材の種類や圧下スケジュールに基づいて潤滑油供給量および潤滑油温度が予め設定されている。圧延中は、潤滑油圧力調節弁36で潤滑油圧力を一定に維持し、空気流量調節弁46で空気流量を調整して潤滑油供給量を設定値に維持する。圧延機出側の板速度およびワークロール回転速度の検出値により求めた先進率からロールバイトに供給される潤滑油粘度つまり潤滑油温度を推定し、潤滑油温度が設定温度となるようにヒーター電源22、28の出力を制御する。潤滑油温度検出装置21で検出された潤滑油供給管中の潤滑油の温度は潤滑制御装置60に送られ、フィードバック制御される。
【0036】
この発明の実施の形態では、圧延機10のワークロール出側に複数の冷却水ノズル34をロール軸方向に沿って配置し、ワークロール12を水冷するようにしている。冷却水は、冷却水タンク50から冷却水供給管52を経て冷却水ヘッダー34に冷却水ポンプ54で送られる。冷却水はロール軸方向に沿って冷却水ヘッダー24に取り付けられた複数の冷却水ノズル36からワークロール12の出側表面に散布され、ワークロール12を冷却する。冷却水量は冷却水流量調節弁56で制御する。
【0037】
飛散した冷却水がワークロール12の表面に付着すると、潤滑油の鋼板1への付着が妨げられるので、水切り板38をワークロール出側に近接して設けている。水切り板38は、ロール回転方向に関して冷却水ノズル36の下流側に位置している。ワークロール表面と水切り板38の先端面との間の間隙は、0〜5mm程度である。したがって、水切り板38は飛散する冷却水のワークロール12へ付着を防ぎ、潤滑油の鋼板1への付着を確実にする。また、水切り板38は冷却水およびヒュームの圧延機周辺への飛散を防ぎ、良好な作業および設備環境を保つ。なお、水切り板38が柔らかい材料、例えばプラスチックで作製されている場合、ワークロール表面と水切り板38の先端とが接触(間隙が0mm)していてもよい。
【0038】
タンデム圧延機では、各スタンドで所望の摩擦係数や先進率が異なる場合がある。例えば前段は蛇行が問題になるので摩擦係数は若干高めに設定し、後段は焼き付きが問題になるので摩擦係数を低めに設定するなどである。これらを実現するために、潤滑油温度をスタンド毎に制御することが可能である。潤滑油温度が高いと摩擦係数は上がるので、前段では潤滑油温度を高めとし、後段では潤滑油温度を低めとすれば良い。潤滑油タンクが1つであっても、潤滑油タンクからの流出時の温度は一定で各スタンドへ繋がる潤滑油供給管内で温度を上昇させるなどの補正を施して各スタンドで異なる温度の潤滑油を供給することが可能である。
【0039】
つぎに、この発明の他の実施の形態について説明する。板幅方向に潤滑油供給管が複数設置してあり、それぞれに独立に加熱装置が設置してあれば、板幅方向に異なる温度の潤滑油を供給することも可能となる。板幅方向の潤滑油温度を変化させることにより粘度変化によってロールバイト内の油膜量が変化し、中伸びや端伸びを意図的に作り出すこともできる。特に高張力圧延を行う場合、板端の微小クラック起因の板破断を回避するために端伸び気味に圧延する場合があるが、この実施の形態はそのためにも有効である。
【0040】
図2は、上記潤滑油供給方法を実施する装置の一例を示している。図2において、図1に示す装置、部材と同様の装置、部材には同一の参照符号を付け、その詳細な説明は省略する。
【0041】
潤滑油タンク20には5本の潤滑油供給管24a〜24eが接続されおり、各潤滑油供給管24a〜24eには、潤滑油ポンプ25a〜25e、潤滑油圧力調節弁26a〜26eが取り付けられている。潤滑油供給管24a〜24eの一部に、潤滑油ヒーター27a〜27eおよび潤滑油温度検出装置29a〜29eが取り付けられている。潤滑油ヒーター27a〜27eに接続されたヒーター電源28a〜28eは、それぞれ独立して出力調整が可能である。
【0042】
圧延機10の入側に潤滑油ヘッダー30a〜30eが配置されており、潤滑油ヘッダー30a〜30eには潤滑油供給管24a〜24eがそれぞれ接続されている。潤滑油ヘッダー30a〜30eには、鋼板1とワークロール12に近接するとともに、板幅方向に沿って複数の潤滑油ノズル32a〜32eが設けられている。潤滑油ノズル32a〜32eはそれぞれ複数個からなり、板両端部、板幅中央部およびこれらの中間部に向かって配置されている。潤滑油ノズル32a〜32eには圧縮空気供給管42を介して圧縮空気タンク40が接続されている。圧縮空気供給管42には空気流量調節弁46が取り付けられている。
【0043】
水切り板39が、圧延機10の出側に配置されている。鋼板1の形状を検出する板形状検出装置64が、水切り板39の下流側に設けられている。鋼板面と水切り板39の先端面との間の間隙は0〜5mm程度である。水切り板39によって冷却水の鋼板表面へ付着した冷却水は除去され、ヒュームが圧延機周りに多量に飛散する状況にはならないので環境的な問題がほとんどなく、板形状検出装置64の設置が可能である。
【0044】
上記のように構成された圧延機において、板形状検出装置64により圧延機出側の板形状を検出する。検出結果に基づいてヒーター電源28a〜28eをそれぞれ独立して出力調整し、板幅方向に異なる温度の潤滑油を供給して板形状をフィードバック制御する。
【0045】
この発明は上記実施の形態に限られるものではない。例えば、潤滑油温度を一定に維持し、潤滑油供給量を制御するようにしてもよい。水切り装置として水切り板以外に圧縮空気などの不燃焼性圧縮気体をワークロール面および/または金属板面に噴射する噴射装置であってもよい。第2の実施の形態でワークロールの出側にも水切り板を設けてもよい。更に、確実に所要の厚みの油膜を金属板表面に形成するために、油膜厚検出装置を圧延機出側の金属板の上、下面の両方またはいずれか一方に配置し、油膜厚検出値に基づいて潤滑油温度または潤滑油供給量を制御することもできる。潤滑油ノズルに供給する圧縮気体は、空気のほかに窒素ガスなどの不燃焼気体であってもよい。潤滑油タンクに接続される潤滑油供給管は2〜4、6〜8本であってもよい。ロールバイトから圧延機上流側に距離をおいて、潤滑油ノズルを配置することも可能である。圧延材は鋼のほかにチタン、アルミニウム、マグネシウム、銅などの金属およびこれら各金属の合金であってもよい。
【実施例1】
【0046】
単スタンド4Hiの実験ミルを用いてコイルを本発明のエアアトマイズ法で潤滑して圧延した。潤滑油としてはパーム油を使用した。潤滑油タンクには潤滑油ヒーターが設置してあり、温度自動制御ができるものを用いた。潤滑油供給管は簡単のためにリボンヒーターを巻き付け、潤滑油供給金属管に熱電対を付着させて設定温度に対してON/OF制御を行う方式とした。ワークロールには冷却水を供給した。また、1200m/minの圧延速度にしたのち、予め本発明のエアアトマイズ法で潤滑油温度を変化させた実験を行い、油膜厚計にて油膜を測定して油膜厚の自在制御が温度制御によって可能なことを確認し、同時に必要最小油膜厚を求めておいた。実験では圧延速度を増加させて1200m/minになったところで定常圧延に入り、当該条件で20分圧延を行ったのち、減速して実験を終了した。圧延後にコイルを確認したが、焼付き疵の発生は見られなかった。
【0047】
また、潤滑油温度を60℃から40℃へ下げると、60℃の時の潤滑油供給量の0.85倍の供給量で同じ油膜厚を実現できることが確認できた。パーム油は常温で固体であり、高速圧延に耐えうる潤滑油であることは広く知られている。本発明によってこのような固体の高性能油を使用できることが可能となった。
【実施例2】
【0048】
実施例1の圧延機を用いて幅方向に5つの潤滑ノズルを等間隔に配置して、それぞれの供給管に加熱装置を設置して、ノズルから吐出される潤滑油温度を幅方向で変化させられるようにした。温度は中央のノズルを基準に幅方向に左右対称として、中央の温度は50℃で一定とした。板端のノズルおよび板端と中央の中間点のノズル(以下中間ノズル)の温度を中央ノズルの温度と比較して−10℃、−5℃、+5℃、+10℃と変化させて、あらゆる組み合わせで圧延し、圧延後に形状を目視で観察して効果を確認した。板端の温度が低い場合は端伸び、高い場合は中伸び傾向であり、中間ノズル温度によってはクォーター伸びが発生する場合もあった。幅方向に温度分布を付けることによって、自在に形状を変化させることができることが確認でき、この特性を用いれば、圧延機出側で形状を測定して潤滑油温度にフィードバックすることによって形状制御ができることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】この発明の潤滑油供給方法を実施する装置の一例を示す装置構成図である。
【図2】この発明の潤滑油供給方法を実施する装置の他の例を示す装置構成図である。
【符号の説明】
【0050】
1 金属板(鋼板) 10 圧延機
12 ワークロール 14 バックアップロール
20 潤滑油タンク 21、27 潤滑油ヒーター
22、28 ヒーター電源 23、29 潤滑油温度検出装置
24 潤滑油供給管 25 潤滑油ポンプ
26 潤滑油圧力調節弁 30 潤滑油ヘッダー
32 潤滑油ノズル 34 冷却水ヘッダー
36 冷却水ノズル 38、39 水切り板
40 圧縮空気タンク 42 圧縮空気供給管
46 空気流量調節弁 50 冷却水タンク
54 冷却水ポンプ 56 冷却水流量調節弁
60 潤滑油供給制御装置 62 板速度検出装置
64 板形状検出装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油原液を潤滑油ノズルから圧縮気体で霧状に噴射してロールバイト入側に供給する、冷間圧延における潤滑油供給方法において、融点が20℃以上の潤滑油を潤滑油タンクに貯蔵し、潤滑油タンクおよび潤滑油供給管に設けた加熱装置により前記潤滑油を加熱して、前記潤滑油タンクから潤滑油供給管への出口から噴霧される潤滑油ノズルまでの潤滑油を液体にして供給し、圧延機出側で少なくともワークロールに冷却水を供給し、ワークロール出側のロール面および/または圧延機出側の金属板面に付着した冷却水を水切り装置で除去することを特徴とする冷間圧延における潤滑油供給方法。
【請求項2】
圧延材種および圧延スケジュールに応じて必要な摩擦係数もしくは先進率を算出し、当該数値から必要な潤滑油粘度を推定し、当該潤滑油粘度になるように潤滑油温度を制御することを特徴とする請求項1項記載の冷間圧延における潤滑油供給方法。
【請求項3】
用いる圧延設備がタンデム圧延機である場合において、スタンド毎に必要な摩擦係数もしくは先進率を算出し、スタンド毎に潤滑油温度を制御することを特徴とする請求項2記載の冷間圧延における潤滑油供給方法。
【請求項4】
スタンド出側に形状検出装置を備えた圧延機において、複数の潤滑油ノズルおよび潤滑油供給管を板幅方向に沿って設置し、前記形状検出装置で検出した板形状に基づいて前記潤滑油ノズル毎に必要な摩擦係数を推定し、当該推定値から必要な潤滑油温度を算出して前記潤滑油タンクとそれぞれの潤滑油供給管の潤滑油温度を潤滑油供給管毎に独立に制御することにより形状制御することを特徴とする請求項1項から3項のいずれか1項に記載の冷間圧延における潤滑油供給方法。
【請求項5】
潤滑油を前記潤滑油ノズルから圧縮気体で霧状に噴射してロールバイト入側に供給する潤滑油供給装置であって融点が20℃以上の潤滑油原液を貯蔵する潤滑油タンクと、潤滑油タンクに接続された潤滑油供給管と、潤滑油供給管に接続された潤滑油ノズルと、圧縮気体タンクと、一端が圧縮気体タンクに、他端が前記潤滑油ノズルに接続され圧縮気体供給管と、前記潤滑油タンクおよび潤滑油供給管にそれぞれ設置され前記潤滑油原液を液状に加熱する加熱装置と、圧延機出側に設けられた少なくともワークロールに冷却水を供給するロール冷却装置と、ワークロール出側のロール面および/または圧延機出側の金属板面に付着した冷却水を除去する水切り装置とを備えていること特徴とする冷間圧延機の潤滑油供給装置。
【請求項6】
圧延材種および圧延スケジュールに応じて必要となる摩擦係数もしくは先進率の算出手段と、当該数値から必要な潤滑油粘度の推定手段と、当該潤滑油粘度になるように前記加熱装置の出力を調整して潤滑油温度を制御する潤滑制御装置を備えたことを特徴とする請求項5記載の冷間圧延機の潤滑油供給装置。
【請求項7】
タンデム圧延機用の潤滑油供給装置であって、スタンド毎に必要となる摩擦係数もしくは先進率の算出手段と、スタンド毎に前記加熱装置の出力を調整して潤滑油温度を制御する潤滑制御装置とを備えたことを特徴とする請求項6記載の冷間圧延機の潤滑油供給装置。
【請求項8】
前記潤滑油タンクに接続された複数の潤滑油供給管と、各潤滑油供給管の先端部にそれぞれ取り付けられ、板幅方向に沿って配置された複数の潤滑油ノズルと、圧延機出側に配置された板形状検出装置と、板形状検出装置で検出した板形状に基づいて前記潤滑油ノズル毎に必要となる摩擦係数の推定手段と、当該推定値から必要な潤滑油温度の算出手段と、各潤滑油供給管の加熱装置の出力を調整して潤滑油温度を潤滑油供給管毎に独立に制御する潤滑制御装置とを備えたことを特徴とする請求項5項から7項のいずれか1項に記載の冷間圧延機の潤滑油供給装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−263740(P2006−263740A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−82064(P2005−82064)
【出願日】平成17年3月22日(2005.3.22)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】