説明

凍結物の解凍方法および装置

【課題】吊下部材に上部を保持されることによって吊り下げられた冷凍状態の畜肉ブロックをそのままの状態で解凍できるようにした凍結物の解凍方法を提供すること。
【解決手段】導電材料からなる吊下部材1に上部を保持されることによって吊り下げられた冷凍状態の畜肉ブロックMの下部に導電材料からなる電極部材2を装着し、吊下部材1と電極部材2との間に交流電圧を印加し、ジュール加熱により畜肉ブロックの解凍を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凍結物の解凍方法および装置に関し、特に、吊下部材に上部を保持されることによって吊り下げられた冷凍状態の畜肉ブロックをそのままの状態で解凍できるようにした凍結物の解凍方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、食肉工場や食肉貯蔵庫等においては、豚肉や牛肉等の大きな塊状の畜肉ブロックを手動(手押し)又は自動で運搬可能なように、建屋の天井部等にレール部材を架設し、このレール部材に沿って移動可能に吊下部材を配設し、この吊下部材に畜肉ブロックの上部を保持することによって畜肉ブロックを吊り下げるようにしていた。
【0003】
ところで、畜肉ブロックは、通常、冷凍状態で貯蔵されるが、この冷凍状態の畜肉ブロックを食肉工場等において加工する場合は、冷凍状態の畜肉ブロックを自然解凍した後、小ブロックに切り分ける方法や冷凍状態のまま小ブロックに切り分ける方法が採用され、このため、作業性が悪いという問題があった。
【0004】
なお、従来より、ジュール加熱により冷凍状態の食品の解凍を行うことが提案され、実用化されている(例えば、特許文献1参照)が、畜肉ブロックのような大きな塊状のものの解凍を行うものは、電極板の設置方法等の点で問題があり、存在しなかった。
【特許文献1】特開2002−186415号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来の冷凍状態の畜肉ブロックの解凍に関して存在する問題点に鑑み、吊下部材に上部を保持されることによって吊り下げられた冷凍状態の畜肉ブロックをそのままの状態で解凍できるようにした凍結物の解凍方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の凍結物の解凍方法は、導電材料からなる吊下部材に上部を保持されることによって吊り下げられた冷凍状態の畜肉ブロックの下部に導電材料からなる電極部材を装着し、前記吊下部材と電極部材との間に交流電圧を印加し、ジュール加熱により畜肉ブロックの解凍を行うことを特徴とする。
【0007】
また、本発明の凍結物の解凍装置は、冷凍状態の畜肉ブロックの上部を引っ掛けて吊り下げて保持する導電材料からなるフック状の吊下部材と、畜肉ブロックの下部を引っ掛けて保持する導電材料からなるフック状の電極部材と、前記吊下部材と電極部材との間に交流電圧を印加する電源装置とからなり、ジュール加熱により畜肉ブロックの解凍を行うことを特徴とする。
【0008】
この場合において、吊下部材および電極部材を、導電材料からなる基部に複数個のフック片を略等間隔に設けて形成することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の凍結物の解凍方法および装置によれば、吊下部材に上部を保持されることによって吊り下げられた冷凍状態の畜肉ブロックを、吊下部材と畜肉ブロックの下部に装着した電極部材との間に電源装置から交流電圧を印加することによって、ジュール加熱によりそのままの状態で解凍でき、これにより、冷凍状態の畜肉ブロックを加工する際の作業性を向上することができる。
【0010】
また、吊下部材および電極部材を、導電材料からなる基部に複数個のフック片を略等間隔に設けて形成することにより、冷凍状態の畜肉ブロックの解凍を、加熱ムラを発生することなく均一に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の凍結物の解凍方法および装置の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【0012】
図1に、本発明の凍結物の解凍方法を実施する解凍装置の一例を示す。
この凍結物の解凍装置は、冷凍状態の畜肉ブロックMの上部を引っ掛けて吊り下げて保持するチタン等の導電材料からなるフック状の吊下部材1と、畜肉ブロックMの下部を引っ掛けて保持するチタン等の導電材料からなるフック状の電極部材2と、吊下部材1と電極部材2との間に交流電圧を印加する電源装置3とからなり、電源装置3から吊下部材1と電極部材2との間に交流電圧を印加することにより、吊り下げられた冷凍状態の畜肉ブロックMをそのままの状態でジュール加熱により解凍するようにしたものである。
【0013】
この場合において、吊下部材1および電極部材2は、フック状の引っ掛けて保持する形式のもののほか、クリップ状のチャックして保持する形式のもの等、任意の形式のものを用いることができる。
特に、図2に示すように、吊下部材1および電極部材2を、導電材料からなる基部10(20)に複数個のフック片11(21)を略等間隔、例えば、10〜40cm間隔、好ましくは、10〜20cm間隔に設けて形成するようにすることにより、冷凍状態の畜肉ブロックMの解凍を、加熱ムラを発生することなく均一に行うことができる。
【0014】
また、電源装置3から吊下部材1と電極部材2との間に交流電圧を印加するに当たっては、電源装置3から延びるクリップ状の端子31、32を、吊下部材1および電極部材2に直接接続するほか、図1に示すように、架設したレール部材4を介して、吊下部材1に接続する等、任意の接続形式を採用することができる。
この場合、必要に応じて、電気的な絶縁処理を施すようにする。
【0015】
電源装置3から吊下部材1と電極部材2との間に印加する交流電圧は、例えば、商用周波数〜500KHz、好ましくは、商用周波数〜50KHzの周波数で、50〜200V、好ましくは、60〜140V、より好ましくは、80〜120Vの交流電圧を用いるようにする。
【0016】
この凍結物の解凍方法および装置によれば、吊下部材1に上部を保持されることによって吊り下げられた冷凍状態の畜肉ブロックMを、吊下部材1と畜肉ブロックMの下部に装着した電極部材2との間に電源装置3から交流電圧を印加することによって、ジュール加熱によりそのままの状態で解凍でき、これにより、冷凍状態の畜肉ブロックMを加工する際の作業性を向上することができるとともに、冷凍状態の畜肉ブロックMの解凍を短時間に、かつ均一に行うことができることから、畜肉ブロックMからのドリップの発生が少なく、解凍に伴う畜肉ブロックMの肉質の悪化を防止することができる。
【0017】
以下、冷凍状態の畜肉として豚肉を対象に行った解凍試験の結果について説明する。
[試料・器具]
・試料:豚バラ肉(グルコマンナン2%水溶液に電解質(NaCl)を添加したものに浸漬)、豚肉ブロック
・温度測定用センサー(4本)
・電流計
・電極・通電加熱コントロールシステム(イズミフードマシナリ社製)
[試験方法]
・温度測定用センサーt1〜t4を図3に示すように試料Wの各部(4カ所)に取り付け、試験中の温度変化を記録計で保存する。
・商用周波数、電圧50、100、140V、200Vの交流電圧を用いてジュール加熱を行い、試料の温度の一部が10℃以上に達した点で電圧の印加を停止する。
・ジュール加熱中は、電流も併せて測定する。
[結果および考察]
・冷凍赤身試料
室温解凍では、図4−1に示すように、試料に0℃以下の段階で温度ムラが生じているのに対して、ジュール加熱(100V)による解凍では、図4−2に示すように、試料の温度が0℃までほぼ均一に上昇し、0℃を越えると温度差が生じた。
・冷凍脂肪試料
室温解凍では、図5−1に示すように、試料に0℃以下の段階で温度ムラが生じているのに対して、ジュール加熱(100V)による解凍では、図5−2に示すように、試料の温度が0℃までほぼ均一に上昇し、0℃を越えると若干の温度差が生じた。
・冷凍混合試料
室温解凍では、図6−1に示すように、試料に0℃以下の段階で温度ムラが生じているのに対して、ジュール加熱(100V)による解凍では、図6−2に示すように、試料の温度が0℃までほぼ均一に上昇し、0℃を越えると温度差が生じた。
・印加電圧(冷凍赤身試料)
図7に示すように、印加電圧を上げることにより、加熱時間が短縮されることが確認できた。
ただし、印加電圧を上げると、特に、140V以上の電圧では、加熱時間をより短縮することができるものの、温度が上昇するに従って加熱ムラが発生した。
これらのことから、豚肉ブロックを均一に加熱し、また加熱時間を短縮するためには、例えば、図8に示すように、−5℃近くまで140V、−5℃近くからは100Vの電圧という組み合わせで通電を行うことがよいことが明らかとなった。
・豚肉ブロック試料
室温解凍では、図9−1に示すように、試料に0℃以下の段階で温度ムラが生じているのに対して、ジュール加熱(100V)による解凍では、図9−2に示すように、試料の温度が0℃までほぼ均一に上昇し、0℃を越えると温度差が生じた。
・印加電圧(豚肉ブロック試料)
図10に示すように、印加電圧を上げることにより、加熱時間が短縮されることが確認できた。
ただし、印加電圧を上げると、特に、200V以上の電圧では、加熱時間をより短縮することができるものの、温度が上昇するに従って加熱ムラが発生した。
【0018】
以上、本発明の凍結物の解凍方法および装置について、その実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明の凍結物の解凍方法および装置は、吊下部材に上部を保持されることによって吊り下げられた冷凍状態の畜肉ブロックをそのままの状態で解凍できる特性を有していることから、食肉工場等における畜肉ブロックの解凍の用途に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の凍結物の解凍方法を実施する解凍装置の一例を示す概念図で、(a)は正面図、(b)は側面断面図である。
【図2】吊下部材(電極部材)の一例を示す斜視図である。
【図3】解凍試験における試料への温度測定用センサーの取付箇所を示す説明図である。
【図4−1】冷凍赤身試料の室温解凍の場合の温度上昇を示すグラフである。
【図4−2】冷凍赤身試料のジュール加熱による解凍の場合の温度上昇を示すグラフである。
【図5−1】冷凍脂肪試料の室温解凍の場合の温度上昇を示すグラフである。
【図5−2】冷凍脂肪試料のジュール加熱による解凍の場合の温度上昇を示すグラフである。
【図6−1】冷凍混合試料の室温解凍の場合の温度上昇を示すグラフである。
【図6−2】冷凍混合試料のジュール加熱による解凍の場合の温度上昇を示すグラフである。
【図7】ジュール加熱による解凍において印加電圧を変えた場合の温度上昇を示すグラフである。
【図8】ジュール加熱による解凍において印加電圧を段階的に変えた場合の温度上昇を示すグラフである。
【図9−1】豚肉ブロック試料の室温解凍の場合の温度上昇を示すグラフである。
【図9−2】豚肉ブロック試料のジュール加熱による解凍の場合の温度上昇を示すグラフである。
【図10】ジュール加熱による解凍において印加電圧を上げた場合の温度上昇を示すグラフである。
【符号の説明】
【0021】
1 吊下部材
10 基部
11 フック片
2 電極部材
20 基部
21 フック片
3 電源装置
31 端子
32 端子
4 レール部材
M 畜肉ブロック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電材料からなる吊下部材に上部を保持されることによって吊り下げられた冷凍状態の畜肉ブロックの下部に導電材料からなる電極部材を装着し、前記吊下部材と電極部材との間に交流電圧を印加し、ジュール加熱により畜肉ブロックの解凍を行うことを特徴とする凍結物の解凍方法。
【請求項2】
冷凍状態の畜肉ブロックの上部を引っ掛けて吊り下げて保持する導電材料からなるフック状の吊下部材と、畜肉ブロックの下部を引っ掛けて保持する導電材料からなるフック状の電極部材と、前記吊下部材と電極部材との間に交流電圧を印加する電源装置とからなり、ジュール加熱により畜肉ブロックの解凍を行うことを特徴とする凍結物の解凍装置。
【請求項3】
吊下部材および電極部材が、導電材料からなる基部に複数個のフック片を略等間隔に設けてなることを特徴とする請求項2記載の凍結物の解凍装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図6−2】
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【図9−1】
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【図9−2】
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【図10】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図6−1】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−97516(P2007−97516A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−293688(P2005−293688)
【出願日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【出願人】(000127237)株式会社イズミフードマシナリ (53)
【Fターム(参考)】