説明

分光器

【課題】応答速度が速く、小型の分光器を提供する。
【解決手段】 本発明に係る分光器は、電気光学効果を有する電気光学結晶、および該電気光学結晶の内部に電界を印加するための電極対を含むビーム偏向器と、前記ビーム偏向器からの出射光を分光する分光手段と、該分光手段で分光された出射光の中から、任意の波長の光を選択する波長選択手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分光器に関し、より詳細には、任意の波長の光信号を選択するための分光器に関する。
【背景技術】
【0002】
分光器は、物質の吸収スペクトル、蛍光スペクトルなどの分光特性を測定する装置に用いられている(非特許文献1参照)。
【0003】
図1に、従来のプリズムを用いた分光器を示す。分光器100は、分光手段としてのプリズム101と、波長選択手段としてのスリット板102と、光検出器103とを備えている。
【0004】
図2に、従来の回折格子を用いた分光器を示す。分光器200は、分光手段としての回折格子201と、波長選択手段としてのスリット板202と、光検出器203とを備えている。
【0005】
図1,2において、分光手段として、プリズム101、回折格子201といった波長分散素子を用いて、入射光を波長ごとに異なる方向に、空間的に分散させる。分散された光の一部分のみを、波長選択手段により取り出すことによって、特定の波長の光を得ることができる。このとき、プリズム101および回折格子201を、機械的に回転させることにより、取り出す波長を任意に選択することができる。
【0006】
一方、光通信の分野における信号処理のうち、波長選択に分光器が用いられている。図3に、従来のアレイ導波路格子を用いた分光器を示す。アレイ導波路格子301は、入力導波路302に接続された入力スラブ導波路303と、出力導波路307に接続された出力スラブ導波路306と、入力スラブ導波路303と出力スラブ導波路306との間を接続するアレイ導波路304とを備えている。アレイ導波路304は、隣合う導波路間で一定の光路長差が設定され、個々の導波路ごとに、ヒータ305a、305bが設けられている。
【0007】
入力導波路302に入力された光信号は、入力スラブ導波路303を経由してアレイ導波路304に分配される。出力スラブ導波路306への入射面では、光信号に、その波長に応じた異なる位相がそれぞれ付与される。出力スラブ導波路306は、集光レンズとして動作し、出力スラブ導波路306と出力導波路307との境界において、光信号は、波長ごとに異なる位置に集光する。従って、出力スラブ導波路306と出力導波路307との境界に集光した特定の波長の光信号のみが、出力導波路307から出力される。
【0008】
ここで、アレイ導波路304上に配置されたヒータ305aまたは305bに電流を流すことにより、熱光学効果を利用して、アレイ導波路304の等価屈折率を変化させることができる。等価屈折率の変化により、アレイ導波路304を通過する光信号の位相が変化する。従って、この位相の変化量を制御することにより、任意の波長の光信号のみを、出力導波路307から出力させることができる。
【0009】
【非特許文献1】櫛田孝司著、「光物理学」、共立出版株式会社、1993年4月15日初版第8刷発行、p.128-135
【発明の開示】
【0010】
しかしながら、図1および2に示した従来の分光器では、分光手段としてのプリズムや回折格子を機械的に回転させるためのモータ、およびモータを駆動するための駆動回路など機械的な制御機構を備える必要があり、分光器の構成が大型になるという問題があった。また、機械的な動作のために、波長を可変する際の時間応答は低速であり、数msを要するという問題もあった。
【0011】
図3に示した従来の分光器では、熱光学効果を発生させるために、ヒータに通電するための消費電力が大きい。このため、電力の供給と、発熱に対する対策のために熱制御機構を必要とするので、装置の小型化が図れないという問題があった。また、熱光学効果を用いるため、波長を可変する際の時間応答は2〜60msと遅いという欠点を有していた。
【0012】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、応答速度が速く、小型の分光器を提供することにある。
【0013】
本発明の第1の実施態様は、分光器であって、電気光学効果を有する電気光学結晶、および該電気光学結晶の内部に電界を印加するための電極対を含むビーム偏向器と、前記ビーム偏向器からの出射光を分光する分光手段と、該分光手段で分光された出射光の中から、任意の波長の光を選択する波長選択手段とを備えることを特徴とする。
【0014】
上記第1の実施態様によれば、電気光学効果を有する電気光学結晶からなるビーム偏向器と、分光手段と、波長選択手段とを備えたので、応答速度が速く、小型化を図ることが可能となる。
【0015】
また、第2の実施態様は、応答速度の高速化、および小型化の実現に加えて、分光器の高感度化を実現することを目的として、ビーム偏向器の開口を大きくする。すなわち、第2の実施態様は、第1の実施態様において、上記ビーム偏向器の幅は、該ビーム偏向器の厚さよりも大きいことを特徴とする。また、第2の実施態様に係る分光器は、上記ビーム偏向器に、断面が楕円形状の光を入射するための手段をさらに備えても良い。このとき、断面が楕円形状の光は、該楕円の長軸方向と前記幅の方向とが一致するように前記ビーム偏向器に入射される。
【0016】
また、第3の実施態様は、応答速度の高速化、および小型化の実現に加えて、高分解能測定および広帯域測定を一回の測定で同時に実現することを目的としており、分光手段として、低屈折率分散を有するプリズムと、高屈折率分散を有するプリズムとを用いている。すなわち、第3の実施態様は、第1の実施態様において、上記分光手段は、第1のプリズムと、該第1のプリズムよりも屈折率分散が大きい第2のプリズムであり、第3の実施態様に係る分光器は、入力された光を2つの異なる方向に出力する出力手段をさらに備えており、上記2つの異なる方向に出力された光はそれぞれ、第1のプリズムおよび第2のプリズムに入射されることを特徴とする。
【0017】
第3の実施態様では、上記出力手段は、前記ビーム偏向器と前記第1および第2のプリズムとの間に配置されていても良く、また上記出力手段は、上記ビーム偏向器から出射された光を上記2つの異なる方向に出力するようにしても良い。
【0018】
また、第3の実施態様では、上記出力手段は、前記ビーム偏向器の前段に配置されていても良く、上記2つの異なる方向に出力された光はそれぞれ、上記ビーム偏向器の異なる領域に入射して、上記第1および第2のプリズムに入射するようにしても良い。
【0019】
また、第3の実施態様では、上記ビーム偏向器は、第1のビーム偏向器と第2のビーム偏向器を含んでも良く、上記出力手段は、上記第1および第2のビーム偏向器の前段に配置され、上記2つの異なる方向に出力された光はそれぞれ、上記第1のビーム偏向器および第2のビーム偏向器に入射して、上記第1および第2のプリズムに入射するようにしても良い。
【0020】
さらに、第3の実施態様では、上記波長選択手段は、上記第1のプリズムの後段に配置された第1の波長選択手段と、上記第2のプリズムの後段に配置された第2の波長選択手段とを含んでも良く、上記第2の波長選択手段は移動可能であっても良い。
【0021】
また、第4の実施態様は、応答速度の高速化、および小型化の実現に加えて、簡便で高分解能な分光器を実現することを目的としており、分光手段に含まれる電気光学結晶の入射端および出射端の少なくとも一方をウェッジ加工している。すなわち、第4の実施態様は、分光器であって、電気光学効果を有する電気光学結晶、および該電気光学結晶の内部に電界を印加するための電極対を含む分光手段であって、入射端および出射端の少なくとも一方は、上記電極対の第1の電極が配置された第1の面から、上記電極対の第2の電極が配置され、上記第1の面と対向する第2の面に向って徐々に厚さが薄くなるようなくさび型の端面である分光手段と、該分光手段で分光された出射光の中から、任意の波長の光を選択する波長選択手段とを備えることを特徴とする。
【0022】
また、第5の実施態様は、電気光学効果を有する電気光学結晶を備えるビーム偏向器から出射される光の偏向角を大きくすることなく高分解能を得ることが可能であり、かつ所定の分解能を得るための上記ビーム偏向器への印加電圧の低減を可能にすることを目的としている。該目的を達成するために、ビーム偏向器と、プリズムや回折格子といった分光手段との間の光路長差を大きくしている。
【0023】
すなわち、第5の実施態様は、第1の実施態様において、上記電極対に第1の電圧を印加する際の、上記ビーム偏向器からの出射光が上記分光手段に入射する位置を第1の入射位置とし、上記電極対に第2の電圧を印加する際の、上記前記ビーム偏向器からの出射光が上記分光手段に入射する位置を第2の入射位置とし、上記電極対に第1の電圧を印加する際の、上記分光手段から光が出射する位置を第1の出射位置とし、上記電極対に第2の電圧を印加する際の、上記分光手段から光が出射する位置を第2の出射位置とし、上記電極対に印加する電圧を第1の電圧から第2の電圧に変化した際の、上記第1の入射位置から第2の入射位置への入射シフト量より、上記第1の出射位置から第2の出射位置への出射シフト量が大きいことを特徴とする。
【0024】
また、第5の実施態様では、上記電極対に第3の電圧を印加することにより、上記ビーム偏向器からの出射光に含まれる、検出したい波長帯域の最も短波長の光を検出するための第1の電界を印加する場合に上記分光手段の出射面から出射される、上記検出したい波長帯域の最も短波長の光の光軸方向と、上記出射面とのなす角度を第1の角度とし、上記電極対に第4の電圧を印加することにより、上記検出したい波長帯域の最も長波長の光を検出するための第2の電界を印加する場合に上記分光手段の出射面から出射される、上記検出したい波長帯域の最も長波長の光の光軸方向と、上記出射面とのなす角度を第2の角度とし、上記第2の角度が上記第1の角度よりも大きくなるように上記第1の電圧および上記第2の電圧が設定されるようにしても良い。
【0025】
また、第5の実施態様において、分光手段は、プリズムであっても良い。このとき、上記電極対に、検出したい波長帯域の最も短波長の光を検出するための第3の電圧を印加する際の、上記ビーム偏向器からの出射光が上記プリズムに入射する位置を第3の入射位置とし、上記電極対に、検出したい波長帯域の最も長波長の光を検出するための第4の電圧を印加する際の、上記ビーム偏向器からの出射光が上記プリズムに入射する位置を第4の入射位置とし、上記電極対に第3の電圧を印加する際の、上記プリズムから光が出射する位置を第3の出射位置とし、上記電極対に第4の電圧を印加する際の、上記プリズムから光が出射する位置を第4の出射位置とし、上記第3の電圧を印加した際の、上記ビーム偏向器からの出射光の光軸と、上記プリズムの入射面とのなす角をθとし、上記第4の電圧を印加した際の上記ビーム偏向器からの出射光の偏向角をφとし、上記プリズムの屈折率をnとし、上記プリズムの頂角をβとし、上記頂角から上記第3の入射位置までの距離をP1とし、上記頂角から上記第4の入射位置までの距離をP2とし、上記頂角から上記第3の出射位置までの距離をF1とし、上記頂角から上記第4の出射位置までの距離をF2とし、上記ビーム偏向器と上記プリズムとの間の光路長差をLとすると、P2=P1+L(Sinθ−Cosθ・Tan(θ−φ))であり、F1=P1Cosβ+P1Tan(β−Sin-1(1/n・Sinθ))Sinβであり、F2=P2Cosβ+P2Tan(β−Sin-1(1/n・Sin(θ−φ)))Sinβであり、F2とF1との差(F2−F1)が所定の値となるように上記ビーム偏向器と上記プリズムとの間の光路長差Lが設定されていても良い。
【0026】
さらに、第1の実施態様に係る分光器は、上記電界に平行な偏光軸方向の成分のみの入射光を、上記ビーム偏向器に入射するための偏光板をさらに備えていても良い。
【0027】
また、第1の実施態様において、上記分光手段は、プリズムであっても良い。
【0028】
また、第1の実施態様において、ビーム偏向器の入射端および出射端の少なくとも一方は、上記電極対の第1の電極が配置された第1の面から、上記電極対の第2の電極が配置され、上記第1の面と対向する第2の面に向って徐々に厚さが薄くなるようなくさび型の端面であっても良い。
【0029】
また、第1の実施態様において、上記分光手段は、回折格子であっても良い。
【0030】
また、第1の実施態様において、上記波長選択手段は、スリット板であっても良い。
【0031】
また、第1の実施態様において、上記電気光学結晶は、KTaO3、KTa1-xNbx3、K1-yLiyTa1-xNbx3(0<x<1、0<y<1)、LiNbO3、LiTaO3、LiIO3、KNbO3、KTiOPO4、BaTiO3、SrTiO3、Ba1-xSrxTiO3(0<x<1)、Ba1-xSrxNb26(0<x<1)、Sr0.75Ba0.25Nb26、Pb1-yLayTi1-xZrx3(0<x<1、0<y<1)、Pb(Mg1/3Nb2/3)O3-PbTiO3、KH2PO4、KD2PO4、(NH4)H2PO4、BaB24、LiB35、CsLiB610、GaAs、CdTe、GaP、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdS、CdSe、およびZnOのいずれか1つであっても良い。
【0032】
本発明によれば、電気光学効果を有する電気光学結晶からなるビーム偏向器と、分光手段と、波長選択手段とを備えたので、応答速度が速く、小型化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、従来のプリズムを用いた分光器を示す図である。
【図2】図2は、従来の回折格子を用いた分光器を示す図である。
【図3】図3は、従来のアレイ導波路格子を用いた分光器を示す図である。
【図4】図4は、本発明の一実施形態にかかる分光器を示す図である。
【図5】図5は、本発明の一実施形態にかかるビーム偏向器の原理を説明するための図である。
【図6】図6は、本発明の一実施形態にかかる電気光学結晶への印加電圧と偏向角との関係を示す図である。
【図7】図7は、本発明の一実施形態にかかるプリズムによる分光の原理を説明するための図である。
【図8】図8は、本発明の一実施形態にかかる分光器を示す図である。
【図9】図9は、本発明の一実施形態にかかる分光の原理を説明するための図である。
【図10】図10は、本発明の一実施形態にかかる分光の原理を説明するための図である。
【図11】図11は、本発明の一実施形態にかかる検出したい波長帯域内の波長の光を検出可能にするための条件を説明するための図である。
【図12】図12は、本発明の一実施例にかかる、第1の電圧印加状態と第2の電圧印加状態との間のプリズムからの出射位置のシフト量と、ビーム偏向器からプリズムまでの距離との関係を示す図である。
【図13】図13は、本発明の一実施例にかかる、第1の電圧印加状態と第2の電圧印加状態との間のプリズムからの出射位置のシフト量と、ビーム偏向器の偏向角およびビーム偏向器への印加電圧との関係を示す図である。
【図14】図14は、本発明の一実施形態にかかる検出したい波長帯域内の波長の光を検出可能にするための条件を説明するための図である。
【図15】図15は、本発明の一実施形態にかかる分光器を示す図である。
【図16】図16は、本発明の一実施形態に係る分光器を示す図である。
【図17】図17は、本発明の一実施形態に係る分光器を示す図である。
【図18】図18は、本発明の一実施形態に係るビーム偏向器の斜視図である。
【図19】図19は、本発明の一実施形態に係る分光器を示す図である。
【図20A】図20Aは、本発明の一実施形態に係る分光器を示す図である。
【図20B】図20Bは、本発明の一実施形態に係る分光器を示す図である。
【図20C】図20Cは、本発明の一実施形態に係る分光器を示す図である。
【図21】図21は、本発明の一実施形態に係る、出射端をくさびにした際の効果を説明するための図である。
【図22】図22は、本発明の一実施形態に係る、出射端をくさびにした際の効果を説明するための図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下で説明する図面で、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0035】
(第1の実施形態)
本発明では、従来に比べて応答速度が速く、さらに小型化を図ることが可能な分光器を実現することを目的としている。このような目的を達成するために、本発明の一実施形態では、電気光学効果を有する電気光学結晶を用いた、入射された光を偏向して出射可能なビーム偏向器を、分光手段としてのプリズムや回折格子の、分光の際の光の進行方向の上流側に配置している。図4は、このような形態を有する分光器の構成を示す図である。
【0036】
図4において、分光器10は、入射光の偏光を制御する偏光板11と、電気光学効果を有する結晶からなるビーム偏向器12と、分光手段としてのプリズム13と、波長選択手段としてのスリット板14と、光検出器15とを備えている。
【0037】
電気光学定数の大きな結晶として、KTaO3、KTa1-xNbx3(0<x<1、以下、KTNという)、K1-yLiyTa1-xNbx3(0<x<1、0<y<1)、LiNbO3、LiTaO3、LiIO3、KNbO3、KTiOPO4、BaTiO3、SrTiO3、Ba1-xSrxTiO3(0<x<1)、Ba1-xSrxNb26(0<x<1)、Sr0.75Ba0.25Nb26、Pb1-yLayTi1-xZrx3(0<x<1、0<y<1)、Pb(Mg1/3Nb2/3)O3-PbTiO3、KH2PO4、KD2PO4、(NH4)H2PO4、BaB24、LiB35、CsLiB610、GaAs、CdTe、GaP、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdS、CdSe、およびZnOの電気光学結晶が挙げられる。
【0038】
図5を参照して、本発明の一実施形態にかかるビーム偏向器における偏向の原理を説明する。
【0039】
例えば、ビーム偏向器12は、組成KTa1-xNbx3(x=約0.40)からなるKTN結晶21を備え、上面と下面とにTi/Pt/Auの電極22、23が蒸着されている。本明細書においてTi/Pt/Auは、最下層のTi上にPt、Auがこの順で積層されていることを表す。KTN結晶21のサイズは、長さ(z軸方向)6mm、幅(y軸方向)4mm、厚さ(x軸方向)0.5mmである。上面と下面とに蒸着した電極22、23のz軸方向の長さは5mmである。ここでは、上面に正の電極22、下面に負の電極23を設けているが、この逆であってもよいし、正負を切替えることのできる電源を接続してもよい。
【0040】
例えば、入射光は、偏光板11により、電界に平行な偏光軸方向(x軸方向)の成分のみとなってKTN結晶21に入射される。なお、図4では偏光板11の透過容易軸を電極22、23によって形成される電界に平行な方向(x軸方向)としているが、この方向に限定されない。例えば、偏光板11の透過容易軸を、上記電界に平行な方向に垂直な方向(y軸方向)に設定しても良いし、上記電界に平行な方向と任意の角度の方向に設定しても良い。あるいは、偏光板11を設けなくても良い。すなわち、本発明の一実施形態で重要なことは、後述するように、ビーム偏向器12からの出射光をKTN結晶21への電圧印加状態に応じて偏向させることである。KTN結晶21に入射された光の偏波状態により偏向の程度に差は出るが、後述するように、KTN結晶21に入射された光は、電圧印加により電界傾斜が生じて偏向することになる。従って、KTN結晶21への偏波状態はいずれであっても良いのである。
【0041】
ただし、KTN結晶21への入射光が、上記電界に平行な方向に振動している場合は、得られる偏向角は最も大きくなる。よって、図4のように偏光板11を配置して、入射光の、電界に平行な偏光軸方向(x軸方向)の成分のみをKTN結晶21に入射する形態が好ましい形態である。
【0042】
ここで、特に、KTN等の電気光学効果を有する電気光学結晶を用い、かつ電極をオーミック接触させる場合、電圧が印加されると電気光学結晶内に電界傾斜が発生する。よって、電極22,23に電源24を接続し、電極間に直流電圧を印加すると、KTN結晶21の内部に電荷が生じ、KTN結晶21に印加する電圧の印加方向に電界の傾斜を生じる。
【0043】
この電気光学結晶の内部に生じた電界の傾斜により、入射光のビームの光軸に対して垂直な断面における電気光学効果による屈折率の変化量に傾斜を生じさせる。すなわち、電界の傾斜に応じた屈折率の傾斜が生じることになる。よって、該屈折率の傾斜により、ビームの光軸に対して垂直な断面上の光の進行速度分布に傾斜を生じさせることになる。結果として、光が結晶中を伝搬する間、光の進行方向は、屈折率の傾斜に応じて連続的に変化させられて偏向角を累積することになる。
【0044】
すなわち、電極22、23によりKTN結晶21に電圧を印加することによって、入射光はKTN結晶21内で偏向し、偏向角θの出射光が出力される。
【0045】
図6に、電気光学結晶への印加電圧と偏向角との関係を示す。図5に示したように、ビーム偏向器12からの出射光の偏向角θは、+250Vの印加電圧に対して最大125mrad、−250Vの印加電圧に対して最大−125mradの偏向角が得られる。すなわち、合わせて250mradに近い偏向角を実現することができる。
【0046】
このような構成により、大きな偏向角を簡便な構成で得ることができるので、ビーム偏向器12により、分光手段としてのプリズム13への入射角を変えることにより、応答速度の速い分光器を実現することができる。また、分光器として機械的な制御機構が不要となり、装置の小型化を図ることができる。KTN結晶21には電界を印加するだけなので、消費電流が少なく、熱制御機構も必要としない。さらに、ビーム偏向器12の応答速度は、マイクロ秒オーダーであり、従来の分光器と比較して、3桁程度高速化することができる。
【0047】
図7を参照して、プリズムの一例に基づいて、分光の原理を説明する。例えば、プリズム13は、BK7ガラスからなり、光の透過する一辺の長さ15mmであり、頂角aは60度である。ビーム偏向器12からプリズム13までの光路の長さは、20mmである。なお、プリズム13として、より小型のプリズムを使用すれば、さらに光路の長さを短くすることができる。図7において、符号31は、入射光の中から選択されたスリット板14を透過する波長の光である。また、符号32aは、印加電圧が−55Vのときの波長400nmの光信号であり、符号33aは、印加電圧が−55Vのときの波長700nmの光信号である。さらに、符号32bは、印加電圧が+55Vのときの波長400nmの光信号であり、符号33bは、印加電圧が+55Vのときの波長700nmの光信号である。
【0048】
図7において、入射光の波長範囲を400nm〜700nmとする。ビーム偏向器12への印加電圧+55Vのとき、プリズム13への入射光の入射角40度とし、波長700nmの光信号33bがスリット板14を通過して光検出器15で検出されるように配置する。ビーム偏向器12からの出射光は、プリズム13により波長に応じて光信号32から光信号33まで分光される。従って、ビーム偏向器12の印加電圧を調整することにより、入射光の中からスリット板14を通過する光の波長を選択することができる。
【0049】
ビーム偏向器12の印加電圧を+55Vから−55Vまで変化させることにより、プリズム13への入射光の入射角は、40度から42度に変化する。スリット板14では、波長700nmの光信号33bから波長400nmの光信号32bまで通過し、光検出器15により検出することができる。このとき、波長範囲700nm〜400nmを掃引するのに要する時間は、マイクロ秒オーダーである。
【0050】
スリット板14のスリット幅は、200μmである。波長分解能は、ビームの広がり角、プリズム材料の屈折率の波長分散、プリズム13への入射角、およびプリズム13からスリット板14までの距離に依存する。第1の実施形態では、ビーム偏向器12のビーム直径が400μm、プリズム材料がBK7、プリズム13への入射角が40度、およびプリズム13からスリット板14までの距離が130mmである。このとき、波長分解能は、波長400nm付近で約4nm、波長700nm付近で約35nmとなる。
【0051】
(プリズム)
ここで、プリズムの材料について、上述したBK7ガラスと、F2ガラスと、SF10ガラスとを比較しながら説明する。入射光の中心波長550nmのときの最小偏角条件と、波長700nmと波長400nmの間の屈折角の差を求めると表1のようになる。このように、屈折角に差が生じるのは、プリズムの材料により屈折率の波長依存性が異なるからである。波長700nmと波長400nmの間の屈折率の差も合わせて表1に示す。
【0052】
なお、偏角とはプリズムによって光が偏向される角度のことである。つまり、プリズムへの入射光とプリズムからの出射光が成す角を指す。最小偏角条件とは、この偏角が最小になる条件のことであり、プリズムへの入射角と出射角とが等しい際に実現される。最小偏角条件が満たされるときに、分解能が最大、光の反射損が最小になる。
【0053】
【表1】

【0054】
分光器としての波長分解能は、屈折角の差が大きいほど高くなるので、プリズム材料としてSF10ガラスを選択すれば、波長分解能が最も高くなる。一方、プリズムの入射角の変化と出射角の変化の関係は、入射角の変化が10度以下と小さい場合には、ほぼ比例関係にあるといえる。波長範囲700nm〜400nmを掃引するための入射角の変化を表2に示す。このとき、この入射角の変化に必要なビーム偏向器12の印加電圧の変化量も表2に示す。ビーム偏向器12の印加電圧は、図6から求めることができる。
【0055】
【表2】

【0056】
このように、波長分解能と印加電圧とはトレードオフの関係にある。本実施形態では、低電圧の動作を優先するためにBK7ガラスを使用した。また、波長700nm付近での波長分解能を40nm以下とするために、プリズム13への入射角を、最小偏角条件(49.4度)より小さい40度とした。これにより、波長範囲700nm〜400nmにおける屈折角の差が2度(=35mrad)となり、最小偏角条件の場合と比較して大きくなっている。なお、このときのビーム偏向器12の印加電圧の変化は、+55〜−55Vである。
【0057】
(第2の実施形態)
図8に、本発明の、応答速度を速くし、小型化を実現するための第2の実施形態にかかる分光器を示す。分光器40は、入射光の偏向を制御する偏向板41と、電気光学効果を有する結晶からなるビーム偏向器42と、分光手段としての回折格子43と、波長選択手段としてのスリット板44と、光検出器45とを備えている。分光手段として、上述の第1の実施形態のプリズムに代えて、回折格子を利用した形態である。
【0058】
回折格子43は、一辺の長さ20mmの正方形の形状を有し、格子本数が150本/mmである。ビーム偏向器42から回折格子43までの光路の長さは、20mmである。なお、回折格子43として、より小型の回折格子を使用すれば、さらに光路の長さを短くすることができる。
【0059】
入射光の波長範囲を400nm〜700nmとする。ビーム偏向器42の印加電圧−85Vのとき、回折格子43への入射光の入射角43.5度とし、回折された光のうち波長700nmの光がスリット板44を通過して光検出器45で検出されるように配置する。ビーム偏向器42からの出射光は、回折格子43により波長に応じて分光される。従って、ビーム偏向器42の印加電圧を調整することにより、入射光の中からスリット板44を通過する光の波長を選択することができる。
【0060】
ビーム偏向器42の印加電圧を−85Vから+85Vまで変化させることにより、回折格子43への入射光の入射角は、43.5度から47.8度に変化する。スリット板44では、波長700nmの光から波長400nmの光まで通過し、光検出器45により検出することができる。このとき、波長範囲700nm〜400nmを掃引するのに要する時間は、マイクロ秒オーダーである。
【0061】
スリット板44のスリット幅は、200μmである。波長分解能は、ビームの広がり角、回折格子43の格子本数、回折格子43への入射角、および回折格子43からスリット板44までの距離に依存する。本実施形態では、ビーム偏向器42のビーム直径が400μm、回折格子43の格子本数が150本/mm、回折格子43への入射角が43.5度、および回折格子43からスリット板44までの距離が120mmである。このとき、波長分解能は、波長400nm付近で約4.5nm、波長700nm付近で約9nmとなる。
【0062】
分光手段として回折格子を用いる場合も、プリズムの場合と同様に、波長分解能と印加電圧とはトレードオフの関係にある。回折格子43の格子本数が多いほど波長分解能は高くなるが、要求される波長範囲を掃引するのに必要な印加電圧の変化量が大きくなる。従って、これらの関係を考慮して、回折格子43の格子本数、回折格子43への入射角を決定する必要がある。
【0063】
以上述べたように、従来の分光器では、分光手段であるプリズムまたは回折格子を回転させて、入射光の入射角を変化させるのに対して、第1および第2の実施形態によれば、電気光学効果を有する結晶からなるビーム偏向器により、分光手段への入射光の入射角を変化させるので、応答速度を速くすることができる。また、分光器として機械的な制御機構が不要となり、消費電流が少なく、熱制御機構を必要としないので、小型の分光器を実現することができる。
【0064】
このように、第1および第2の実施形態は、上述の効果を有しており、非常に優れた分光器を実現することができるので非常に有用な構成である。このような有用な構成において、ビーム偏向器12、42の偏向角を大きくすることなく高分解能を得たり、所定の分解能を得るためのビーム偏向器12、42への印加電圧の低減が実現できれば、さらに有効な構成となる。
【0065】
(第3の実施形態)
本実施形態では、分光手段(分光媒質)としてプリズムを用いた場合に、電気光学効果を有する電気光学結晶を備えるビーム偏向器から出射される光の偏向角を大きくすることなく高分解能を得ることが可能であり、かつ所定の分解能を得るための上記ビーム偏向器への印加電圧の低減が実現可能な分光器について説明する。
【0066】
図9は、第1の実施形態における分光の原理を説明するための図である。
【0067】
図9において、符号131は、プリズム13の頂角であり、符号132は、プリズム13の、ビーム偏向器12から出射された光が出射する出射面である。符号134aは、ビーム偏向器12に対して第1の電圧印加状態におけるプリズム13からの出射光のうち、検出したい波長帯域の最も長波長の光(出射光134aとも呼ぶ)である。また、符号134bは、ビーム偏向器12に対して上記第1の電圧印加状態におけるプリズム13からの出射光のうち、検出したい波長帯域の最も短波長の光(出射光134bとも呼ぶ)である。また、符号135aは、ビーム偏向器12に対して第1の電圧印加状態とは異なる第2の電圧印加状態におけるプリズム13からの出射光のうち、検出したい波長帯域の最も長波長の光(出射光135aとも呼ぶ)である。さらに、符号135bは、ビーム偏向器12に対して上記第2の電圧印加状態におけるプリズム13からの出射光のうち、検出したい波長帯域の最も短波長の光(出射光135bとも呼ぶ)である。
【0068】
第1の実施形態では分光機能を実現するために、ビーム偏向器12への電圧印加状態に応じて、スリット板14を通過する光の波長を変えることが重要である。この要件を実現するために、第1の実施形態では、スリット板14を通して光検出器15にて検出したい波長の光に応じて、ビーム偏向器12への各電圧印加状態を制御してビーム偏向器12から出射される光の偏向角を制御し、ビーム偏向器12からプリズム13への入射角を変えている。そして、波長分散により出射面132からは波長が短い光ほど屈折するので、検出したい波長帯域の長波長側を検出するために、該長波長側を検出する際の出射面132からの光の屈折が、短波長側を検出する際の出射面132からの光の屈折よりも大きくする必要がある。第1の実施形態では、上記入射角の制御を、ビーム偏向器12から出射される光の偏向によって制御するものであり、短波長側を検出する際に、出射面132からの出射光の屈折が長波長側を検出する場合に比べて大きくなるようにビーム偏向器12への電圧印加状態を制御している。すなわち、出射面132から出射される、検出したい波長帯域の最も長波長の光の光軸と、最も短波長の光の光軸とのなす角度である出射角の変化量θoutを変化させるような、入射光136のプリズム13への入射角の偏向が実現されるように、電圧印加状態とを設定するのである。
【0069】
なお、ビーム偏向器12への電圧印加状態とは、KTN結晶21に対して電極22、23により電圧を印加する際の印加される電圧の大きさ(形成される電界の強さ)を指し、電圧が印加されない状態も含まれる。特に、第1の電圧印加状態は、検出したい波長帯域の最も短波長の光がスリット板14のスリットを通過するための電圧印加状態である。また、第2の電圧印加状態は、検出したい波長帯域の最も長波長の光がスリット板14のスリットを通過するための電圧印加状態である。なお、検出したい波長帯域の、最も短波長と最も長波長との間の波長の光を検出する際には、それに相当する電圧印加状態にすれば良いことは言うまでも無い。
【0070】
また、ビーム偏向器12からプリズム13への入射光は、ビーム偏向器12に印加される電圧状態によって偏向方向が変わるが、図9では図面の簡便化を図るために、ビーム偏向器12への電圧状態によらず、一定の方向の光(入射光136)として記載している。
【0071】
さて、上述の第1の実施形態では、一例としてビーム偏向器12からプリズム13までの光路の長さが20mmの形態について説明した。この場合、ビーム偏向器12からプリズム13への入射光136の、プリズム13の入射面での入射位置は、第1の電圧印加状態(検出したい波長帯域の最も長波長の光を検出する場合に対応)と第2の電圧印加状態(検出したい波長帯域の最も短波長の光を検出する場合に対応)とにおいてほとんど変わらない。従って、第1の電圧印加状態および第2の電圧印加状態の双方においては、プリズム13に入射し、プリズム13中を伝搬した光は、ほとんど同じ位置133から出射されることになる。
【0072】
この場合、分解能を高めるためには、プリズム13を分散の大きなプリズムにし、ビーム偏向器12の偏向角を大きくする必要がある。このように偏向角を大きくするためには、ビーム偏向器12への印加電圧を大きくする必要がある。
【0073】
つまり図9において、短波長側の検出および長波長側の検出の双方においてプリズム13からの出射位置はほとんど変化ないので、長波長側を検出する際には、出射面132からの出射光の屈折を大きくする必要がある。すなわち、第1の電圧印加状態において検出したい波長帯域の最も短波長の光134bがスリット板14のスリットを通過し、第2の電圧印加状態において検出したい波長帯域の最も長波長の光135aがスリット板14のスリットを通過するように、ビーム偏向器12から出射される入射光136の偏向角を大きくする必要がある。よって、第2の電圧印加状態において、ビーム偏向器12への印加電圧を大きくする必要があるのである。
【0074】
すなわち、高分解能であるということは、プリズムなどの分光手段から出射した光において検出したい波長帯域が広角度に分散されていることに対応する。つまり、図9の出射光134aの光軸方向と出射光134bの光軸方向とのなす角度を大きくすることによって高分解能化が実現される。このとき、検出したい波長帯域(出射光134aと出射光134bとの間の波長帯域)の全てを検出するためには、ビーム偏向器12の偏向角の変化を大きくし、検出したい波長帯域の全てがスリット板14のスリットに入射するような出射角の変化を得る必要がある。よって、上述のようにビーム偏向器12への印加電圧を大きくする必要があるのである。
【0075】
そこで、本実施形態では、ビーム偏向器12への印加電圧を大きくしなくても高分解能を実現するために、ビーム偏向器12とプリズム13とを相対的に離すことにより、すなわち、ビーム偏向器12からプリズム13までの光路の長さを大きくすることにより、長波長側を検出する際の出射面132における出射位置を、短波長側を検する際の出射面132における出射位置からシフトさせている。
【0076】
図10は、本実施形態における分光の原理を説明するための図である。
【0077】
図10において、符号140は、ビーム偏向器12への電圧印加状態が第1の電圧印加状態の場合の、出射面132からの光の出射位置であり、符号141は、ビーム偏向器12への電圧印加状態が第2の電圧印加状態の場合の、出射面132からの光の出射位置である。符号142は、図9の構成(ビーム偏向器12からプリズム13までの光路が20mmの場合)において、ビーム偏向器12とプリズム13との間の光路を長くした構成(ビーム偏向器12からプリズム13までの光路長が500mmの場合)におけるプリズム13の入射面である。符号143は、第1の電圧印加状態においてビーム偏向器12から出射された光の入射面142での入射位置であり、符号144は、第2の電圧印加状態においてビーム偏向器12から出射された光の入射面142での入射位置である。
【0078】
符号145は、仮想面であって、図10のように配置されたビーム偏向器12から20mm離れた位置にプリズム13が配置された(すなわち、図9の構成)と仮定した場合の、ビーム偏向器12から出射された光のプリズム13の入射面である。符号146は、上記仮定における、第1の電圧印加状態においてビーム偏向器12から出射された光の入射面145での入射位置であり、符号147は、上記仮定における、第2の電圧印加状態においてビーム偏向器12から出射された光の入射面145での入射位置である。
【0079】
図9に示したような第1の実施形態においては、ビーム偏向器12とプリズム13の入射面145とは20mmと近いので、第1の電圧印加状態における入射位置146と第2の電圧印加状態における入射位置147とはあまり離れていない。従って、プリズム13からの出射位置は、図9に示すように、第1の電圧印加状態と第2の電圧印加状態との間でほとんど動かない。
【0080】
これに対して、図10のように、ビーム偏向器12とプリズム13とを離すことによって、ビーム偏向器12からプリズム13までの光路が長くなり、その結果、第1の電圧印加状態における入射位置143と第2の電圧印加状態における入射位置144とは離れることになる。すなわち、第2の電圧印加状態における入射面142での入射位置144は、第1の電圧印加状態における入射面142での入射位置143からシフトすることになる。
【0081】
よって、図10に示すように、第1の電圧印加状態のビーム偏向器12から出射された光は入射面142において入射位置143からプリズム13に入射し、プリズム13中を伝搬して出射面132の出射位置140から出射される。一方、第2の電圧印加状態のビーム偏向器12から出射された光は入射面142において、入射位置143からシフトされた位置である入射位置144からプリズム13に入射する。そして、該入射された光は、プリズム13中を伝搬して出射面132において、出射位置140からシフトした位置である出射位置141から出射される。このとき、出射位置140と出射位置141との間の距離は6mmとなり、出射位置が十分にシフトしている。
【0082】
このように本実施形態では、ビーム偏向器12とプリズム13との距離を離す等してビーム偏向器12からプリズム13までの光路を大きくすることによって、ビーム偏向器12への電圧印加状態に応じてプリズム13への入射光の入射位置をシフトすることができ、その結果、プリズム13からの出射位置をシフトすることができる。
【0083】
本実施形態では、このように出射位置をシフトすることによって、ビーム偏向器への印加電圧を低電圧にしても高分解能が実現することができる。以下でその理由を説明する。
【0084】
第1の実施形態では図9に示すように、プリズム13からの出射角のみでスリット板14への入射波長を制御していたのに対して、本実施形態では、プリズム13からの出射角および出射位置の双方でスリット14への入射波長を制御できる。本実施形態では、図10に示すように、出射位置が位置140から位置141にシフトすることは出射角の変化による検出波長の変化を助長する。従って、分散媒質であるプリズムの材料が同じ場合には、図9の構成に比べて図10の構成の方がビーム偏向器12の偏向角は小さくて良い、つまり低電圧で良いことになる。また、図9に示すような、出射位置がほとんどシフトしない構成では、上述したように、高分解能を得たい場合には分散の大きなプリズムを使用し、出射角の変化、およびそれを決める偏向角の変化を大きくする必要がある。これに対して、図10に示す本実施形態の構成では、出射位置のシフトがスリット板14への入射波長の変化を増大させるので、より小さな出射角の変化、より小さな偏向角の変化で良いことになる。すなわち、より低電圧で高分解能が得られることになる。
【0085】
すなわち、KTN等の電気光学効果を有する電気光学結晶からなるビーム偏向器12と、分光手段としてのプリズム13とを、所定の光路長以上離すようにしているので、第1の電圧印加状態から第2の電圧印加状態にした際に、プリズム13からの出射光の出射位置のシフト量(出射位置140と出射位置141との間の距離;出射シフト量)を、プリズム13への入射光の入射位置のシフト量(入射位置143と入射位置144との間の距離;入射シフト量)よりも大きくすることができる。従って、上記出射シフト量の増大により得られるスリット板14への入射波長の変化の増大効果により、ビーム偏向器12での偏向角を大きくしなくても高分解能化を実現することができる。よって、低駆動電圧による高分解能化を図ることができるのである。
【0086】
このように、本実施形態では、ビーム偏向器12とプリズム13との間の光路長を、出射シフト量が大きくなるような長さ以上に設定することが重要となる。出射シフト量がほとんど無い場合は、上述のように、第1の電圧印加状態と第2の電圧印加状態とで出射位置がほとんど変化していない。従って、分光の際には、プリズム13の出射面においてほぼ同じ出射位置で角度を振ることによって、検出したい波長帯域の長波長と短波長とを検出することになる。よって、高分解能化を図るためには、ビーム偏向器12への印加電圧を大きくする必要がある。
【0087】
これに対して、本実施形態では、検出したい波長帯域の短波長を検出する際の出射位置(図10の出射位置140)と、検出したい波長帯域の長波長を検出する際の出射位置(図10の出射位置141)とを異なるようにすること、すなわち、出射位置をシフトさせることが本質である。出射シフト量が入射シフト量よりも顕著に大きくなるようにすることにより、出射位置は大きくシフトすることになる。すなわち、ビーム偏向器12とプリズム13との間の光路長を大きくすればするほど、プリズム13からの出射位置は大きくシフトすることになる。このとき、ビーム偏向器12とプリズム13との間の光路長をある一定の長さ以上にすると、上記検出したい波長帯域の短波長を検出する際の出射位置と、上記検出したい波長帯域の長波長を検出する際の出射位置とを十分に離すことができる。このような長さが上記所定の光路長である。
【0088】
さて、上述したように、本実施形態においては、ビーム偏向器12とプリズム13とを所定の光路長以上離すようにすることを本質としている。これに加えて、本発明は分光器に関する発明であるので、検出したい波長帯域(所望の波長帯域)内の全ての波長の光を検出できることが好ましい。そのためには、ビーム偏向器12からの光の偏向を制御して、上記検出したい波長帯域の最も長波長の光と、最も短波長の光とを検出可能にすることが重要となる。すなわち、第1の電圧印加状態においては、出射位置140から出射した、検出したい波長帯域の最も短波長の光である出射光134bをスリット板14のスリットに入射可能とし、かつ第2の電圧印加状態においては、出射位置141から出射した、検出したい波長帯域の最も長波長の光である出射光135aをスリット板14のスリットに入射可能とすることが重要となる。
【0089】
図11は、本施形態にかかる検出したい波長帯域内の波長の光を検出可能にするための条件を説明するための図である。
【0090】
図11において、θ1は、検出したい波長帯域の最も短波長の光を検出するための電圧がビーム偏向器12に印加される場合(第1の電圧印加状態)において、プリズム13の出射面132から出射される出射光134bの光軸方向と、出射面132とのなす角度(出射角θ1とも呼ぶ)である。また、θ2は、検出したい波長帯域の最も長波長の光を検出するための電圧がビーム偏向器12に印加される場合(第2の電圧印加状態)において、プリズム13の出射面132から出射される出射光135aの光軸方向と、出射面132とのなす角度(出射角θ2とも呼ぶ)である。
【0091】
本実施形態では、ビーム偏向器12から出射される光の偏向角に応じて、プリズム13の出射面132における出射位置が異なる(シフトされる)。よって、出射光135aの出射位置141は、出射光134bの出射位置140からシフトしているので、出射角θ1と出射角θ2とが等しい場合、すなわち、出射光134bと出射光135aとが平行になる場合は、検出したい波長帯域の最も長波長の光である出射光135aをスリット板14のスリットに入射することができない。よって、検出したい波長帯域の最も長波長の光を検出することができず、検出したい波長帯域の光を検出できなくなる。
【0092】
そこで本実施形態では、検出したい波長帯域全域の波長の光を検出可能にすべく、検出したい波長帯域の、最も短波長の光と、最も長波長の光とを検出可能にするために、
θ1<θ2
の条件を満たすように、第1の電圧印加状態と第2の電圧印加状態との出射位置のシフトを制御する。なお、このとき、θ2は、θ1<θ2を満たしながら極力大きいことが望ましい。
【0093】
上記θ1およびθ2は、ビーム偏向器12からプリズム13までの光路長およびプリズム中の光路長の少なくとも一方と、KTN結晶21(ビーム偏向器12)への印加電圧によって決まる。よって、本実施形態では、
θ1<θ2
の条件を満たすように、ビーム偏向器12からの出射位置から、プリズム13の出射位置までの光路長に応じて、第1の電圧印加状態および第2の電圧印加状態を設定する。
【0094】
なお、本実施形態では、プリズム13からの出射位置をビーム偏向器12への電圧印加状態に応じてシフトさせることが重要であり、そのために、ビーム偏向器12をプリズム13から離すことによって、プリズム13への入射位置を上記電圧印加状態に応じてシフトするようにしている。ここで、高分解能化の実現の観点からすると、ビーム偏向器12とプリズム13との距離を大きくすることが本質ではなく、ビーム偏向器12とプリズム13との間の光路の長さを大きくすることが本質である。すなわち、ビーム偏向器12とプリズム13との距離を物理的に離す形態に限らない。
【0095】
例えば、ビーム偏向器12とプリズム13との間に少なくとも1つのミラーを配置し、該ミラーを介してビーム偏向器12から出射された光をプリズム13に入射するようにしても良い。また、レンズを用いた光学系を用いても良い。このような構成によれば、ビーム偏向器12とプリズム13との物理的な距離が近くても、ビーム偏向器12とプリズム13との間の光路長は大きくできるので、ビーム偏向器12からプリズム13までの光路長を長くしながら装置の小型化を実現できる。
【0096】
また、本実施形態では、ビーム偏向器12からの出射位置からプリズム13の出射位置までの光路長を長くすることができれば、上述したプリズム13の出射位置をシフトさせることができる。従って、ビーム偏向器12とプリズム13との間の光路長を大きくする代わりに、プリズムを大きくしても、ビーム偏向器12からの出射位置からプリズム13の出射位置までの光路長を長くすることができる。
【0097】
本実施形態では、θ1<θ2という条件を満たせば、高分解能化を図るためにビーム偏向器12とプリズム13との間の光路長を大きく設定しても、検出したい波長帯域の、最も長波長の光、および最も短波長の光を検出することができ、検出したい波長帯域の全域の波長の光を検出することができる。
【0098】
本実施形態では、第1の電圧印加状態と第2の電圧印加状態とにおいて、プリズム13における出射位置の十分なシフトを得るために、ビーム偏向器12からプリズムまでの光路長を長くするおよび/またはプリズム13の大きさを大きくすることが重要であるが、ただ光路長をかせぐだけでは、ビーム偏向器12を所定の位置に固定した場合において、検出したい波長帯域全域の光を検出器15にて検出できない場合がある。
【0099】
よって、本実施形態では、検出したい波長帯域の長波長側を検出する際と短波長側を検出する際とでプリズム13における出射位置を大きく変えることが目的の1つであるが、分光器として機能させるために、検出したい波長帯域の、最も長波長の光と最も短波長の光とをスリット板14のスリットに通すことが重要となる。すなわち、本実施形態では、分解能を大きくするために、ビーム偏向器12とプリズム13との間の光路長を大きくしたり、プリズムを大きくしてプリズム中を通過する光の光路を大きくする場合であっても、検出したい波長帯域の最も長波長の光と最も短波長の光とを良好に検出できることが重要なのである。そのために、本実施形態では、θ1<θ2という条件を満たすように、配置された装置構成に応じて、ビーム偏向器12に印加する電圧を設定するのである。
【0100】
逆に言うと、θ1<θ2の条件を満たすように設計しさえすれば、ビーム偏向器12とプリズム13との間の光路長やプリズムの大きさによらず、検出したい波長帯域の、最も長波長の光と最も短波長の光とを良好に検出することができることになり、高分解能化を実現するために、ビーム偏向器12とプリズム13との間の光路長を大きくしたり、プリズム13を大きくすることができる。
【0101】
このように、本実施形態によれば、ビーム偏向器12から出射された光の偏向角を大きくしなくても高分解能を実現できるので、ビーム偏向器12に対して印加する電圧を大きくすることなく、高分解能を得ることができる。すなわち、本実施形態のビーム偏向器12と第1の実施形態のビーム偏向器12とに同じ電圧を印加する場合、本実施形態の方が第1の実施形態に比べて得られる分解能を高くすることができる。
【0102】
また、波長分解能を劣化させることなく、ビーム偏向器12の偏向角を小さくすることができるので、本実施形態と第1の実施形態とで同じ分解能を実現する場合、本実施形態の方が第1の実施形態よりも、ビーム偏向器12への印加電圧を小さくすることができる。
【0103】
よって、ビーム偏向器12を構成する電気光学結晶(KTN結晶21)への印加電圧の低減が図れるので、消費電力の低下に繋がる。
【0104】
(実施例)
本実施例では、プリズム13としてBK7ガラスを用い、プリズムの頂角60°とした。また、ビーム偏向器12に用いるKTN結晶21の長さを5mm、厚さを0.5mm、屈折率を2.2、s11を1.0×10-14m2/V2とした。また、入射位置143から頂角131までの距離を10mm、出射位置140からスリット板14までの距離を130mmとした。本実施例において、検出したい波長帯域を400nm〜700nmとした。
【0105】
プリズム13への入射位置(入射位置143、144)、およびプリズム13からの出射位置(出射位置140、141)は、ビーム偏向器12からプリズム13までの距離(光路長差)Lと、ビーム偏向器12による偏向角によって決まる。
【0106】
図10において、頂角131と入射位置143までの距離をP1とし、入射位置143から入射位置144へ入射位置をシフトさせるのに必要な偏向角をφ(第2の電圧印加状態のときの偏向角)とすると、頂角131から入射位置144までの距離P2は、
P2=P1+L(Sinθ3−Cosθ3・Tan(θ3−φ))
式(1)
で表される。ここで、θ3は、ビーム偏向器12から出射された光の、入射位置143でのプリズム13への入射角(プリズム13への入射光の光軸方向と入射面142とのなす角)である。
【0107】
頂角131から出射位置140までの距離をF1とし、βを頂角131とし、プリズム13の屈折率をnとすると、
F1=P1Cosβ+P1Tan(β−Sin-1(1/n・Sinθ3))Sinβ
式(2)
であり、同様に、頂角131から出射位置141までの距離をF2とすると、
F2=P2Cosβ+P2Tan(β−Sin-1(1/n・Sin(θ3−φ)))Sinβ
式(3)
で表せる。
【0108】
図12は、検出したい波長帯域を全て検出できるようにビーム偏向器で偏向させた場合に、式(1)〜(3)に示される条件において、第1の電圧印加状態と第2の電圧印加状態とのプリズム13からの出射位置のシフト量(F2−F1)と、ビーム偏向器12からプリズム13までの距離Lとの関係を示す図である。
【0109】
図12から分かるように、ビーム偏向器12とプリズム13との間の光路長を長くすることによって、第1の電圧印加状態における出射位置140から第2の電圧印加状態における出射位置141への出射位置のシフト量は大きくなる。
【0110】
本実施例では、上記偏向角φはビーム偏向器12を第2の電圧印加状態にした際の偏向角、すなわち、検出したい波長帯域の最も長波長の光を分光する場合の偏向角である。よって、低駆動電圧で動作させるために第2の電圧印加状態を低く設定する場合(例えば、Vα)であっても、十分な分解能を得るように出射位置のシフト量を所定の値に設定することにより、式(1)〜(3)によって、適切な距離(光路長差)Lを求めることができる。逆に言えば、ビーム偏向器12とプリズム13との間の光路長差を、所定の出射位置のシフト量=F1−F2を満たすような上記適切な距離(光路長差)Lに設定し、第2の電圧印加状態をVαに設定することにより、第2の電圧印加状態時のプリズム13からの出射位置は十分にシフトすることになり、低駆動電圧での高分解能化を実現することができる。
【0111】
このように、「F1−F2=所定の出射位置のシフト量」の関係を用いることによって、図12に示すように、例えば、ビーム偏向器12からプリズム13までの距離(光路長差)Lが0〜500mmの範囲においては、上記距離Lを大きくするほど、出射位置のシフト量を大きくすることができ、低駆動電圧での高分解能出力を行うことができる。また、小型化を考慮すると距離Lを小さくすることが好ましいが、上記関係に従って設計することにより、0〜500mmの範囲では、距離Lを少し大きくするだけで、出射位置のシフト量を大きくすることができる。
【0112】
さらに、「F1−F2=所定の出射位置のシフト量」という関係を用いることにより、所望の分解能を実現するように求められた出射位置のシフト量を実現するための距離Lを求めることができる。よって、ビーム偏向器12とプリズム13との間の距離(光路長差)Lを上記所望の分解能を得るのに最適な距離に設定することができる。
【0113】
なお、図12に示すように、ビーム偏向器12とプリズム13との間の光路長を500mm以上では、出射位置のシフト量は約6mmと大きな値となり、またほぼ一定の値となる。よって、本実施例においては、低駆動電圧による高分解能化を図るために出射位置のシフト量を大きくする観点からすると、ビーム偏向器12とプリズム13との間の光路長を500mm以上にすることは好ましい。
【0114】
出射位置のシフト量はビーム偏向器からプリズムまでの光路長とビーム偏向器の偏向角によって決まる。図13に出射位置でのシフト量に対応したビーム偏向器の偏向角を示す。この偏向角は波長400nmから波長700nmまでを検出するのに必要なビーム偏向器の偏向角である。各々の出射位置のシフト量において、ビーム偏向器とプリズムとの距離は、図12に示す通りである。印加電圧の幅は、波長400nmを検出する際の電圧と波長700nmを検出する際の印加電圧との差である。
【0115】
表2で示したように、出射位置がシフトしない場合には、ビーム偏向器の偏向角は28mrad、印加電圧の変化量は+55Vから−55Vであり、図13では波長400nmを検出する際の電圧と波長700nmを検出する際の印加電圧との差が110Vとなっている。一方、本実施例によれば、ビーム偏向器とプリズムとの距離(光路長)を500mmとした場合得られる出射位置のシフト量は6mmであり、この際に必要なビーム偏向器の偏向角は10mradである。この偏向角を得るための印加電圧の差は64Vであり、印加電圧の変化は+32Vから−32Vまでで良い。つまり、出射位置のシフトがほとんど無い場合(第1の基本構成)に比べて、約58%の印加電圧で良いことになる。出射位置のシフトをさらに大きくすれば、印加電圧低減の効果はさらに顕著になる。
【0116】
さらに、ビーム偏向器12への印加電圧を、動作中心点を決める直流電圧(バイアス電圧)と、スリット板14に形成されたスリットへの入射波長を制御する交流電圧との2つに分割することにより、本実施形態の効果がより顕著になる。
【0117】
KTNやKLTN等の電気光学結晶を有するビーム偏向器の偏向角は印加電圧の2乗に比例するので、印加電圧の変化量が同じ場合には高電圧の方が偏向角の変化は大きくなる。例えば、動作中心点を決める直流電圧(バイアス電圧)を240Vとした場合には、波長400nmから700nmを検出するのに必要な電圧の変化量は表3のようになる。
【0118】
【表3】

【0119】
表3から分かるように、バイアス電圧を用いた場合には、スリットへの入射波長を制御する交流電圧の振幅は第1の基本構成に比べて38%となり、バイアス電圧を用いない場合に比べて本発明の効果がより顕著になる。
【0120】
(第4の実施形態)
本実施形態では、分光手段(分光媒質)として回折格子を用いた場合に、電気光学効果を有する電気光学結晶を備えるビーム偏向器から出射される光の偏向角を大きくすることなく高分解能を得ることが可能であり、かつ所定の分解能を得るための上記ビーム偏向器への印加電圧の低減が実現可能な分光器について説明する。
【0121】
本実施形態においても、ビーム偏向器から出射される光の偏向角を大きくすることなく高分解能を得ることができ、かつ所定の分解能を得るための上記ビーム偏向器への印加電圧を低減することができるようにするために、回折格子43からの出射光の出射位置をシフトさせることが重要となり、そのために、ビーム偏向器42と回折格子43との間の光路長を大きくしている。このとき、検出したい波長帯域全域の波長の光を検出可能とするために、検出したい波長帯域の、最も長波長の光、および最も短波長の光を検出することが重要となる。
【0122】
なお、本実施形態では、分光手段として回折格子43を用いているので、ある波長の光に対して、回折格子43への入射位置と出射位置とは同じとなる。
【0123】
図14は、本施形態にかかる検出したい波長帯域内の波長の光を検出可能にするための条件を説明するための図である。
【0124】
図14において、符号150は、ビーム偏向器42への電圧印加状態が第3の電圧印加状態の場合の、回折格子43の出射面154からの光の出射位置であり、符号151は、ビーム偏向器42への電圧印加状態が第4の電圧印加状態の場合の、出射面154からの光の出射位置である。
【0125】
なお、本実施形態において、第3の電圧印加状態は、検出したい波長帯域の最も長波長の光がスリット板44のスリットを通過するための電圧印加状態である。また、第4の電圧印加状態は、検出したい波長帯域の最も短波長の光がスリット板44のスリットを通過するための電圧印加状態である。
【0126】
また、符号152aは、回折格子43に対して第3の電圧印加状態における回折格子43からの出射光のうち、検出したい波長帯域の最も短波長の光(出射光152aとも呼ぶ)である。また、符号152bは、回折格子43に対して上記第3の電圧印加状態における回折格子43からの出射光のうち、検出したい波長帯域の最も長波長の光(出射光152bとも呼ぶ)である。また、符号153aは、回折格子43に対して第4の電圧印加状態における回折格子43からの出射光のうち、検出したい波長帯域の最も短波長の光(出射光153aとも呼ぶ)である。さらに、符号153bは、回折格子43に対して上記第4の電圧印加状態における回折格子43からの出射光のうち、検出したい波長帯域の最も長波長の光(出射光153bとも呼ぶ)である。
【0127】
さらに、θ1’は、検出したい波長帯域の最も長波長の光を検出するための電圧が回折格子43に印加される場合(第3の電圧印加状態)において、回折格子43の出射面154から出射される出射光152bの光軸方向と、出射面154とのなす角度(出射角θ1’とも呼ぶ)である。また、θ2’は、検出したい波長帯域の最も短波長の光を検出するための電圧が回折格子43に印加される場合(第4の電圧印加状態)において、回折格子43の出射面154から出射される出射光153aの光軸方向と、出射面154とのなす角度(出射角θ2’とも呼ぶ)である。
【0128】
本実施形態では、図14からも分かるように、検出したい波長帯域の最も長波長の光を検出する際はビーム偏向器42を第3の電圧印加状態とし、ビーム偏向器43から出射された光を出射位置150に入射する。すると、該入射された光は出射位置150にて分光され、出射位置150から各周波数の光がそれぞれの波長に応じて回折し、検出したい波長帯域の最も長波長の光である出射光152bがスリット板44のスリットに入射して光検出器45にて検出される。
【0129】
一方、検出したい波長帯域の最も短波長の光を検出するためにビーム偏向器43を第4の電圧印加状態とすると、ビーム偏向器42から出射された光は、回折格子43において、出射位置150からシフトされた位置である出射位置151に入射する。よって、第4の電圧印加状態においては、第3の電圧印加状態とは異なる出射位置である151から分光された光が出射されることになる。このとき、検出したい波長帯域の最も短波長の光である出射光153aがスリット板44のスリットに入射して光検出器45にて検出される。
【0130】
このように、回折格子43からの出射位置をシフトさせることによって、第3の実施形態と同様に、ビーム偏向器42から出射される光の偏向角を大きくしなくても、高分解能化を実現することができる。
【0131】
ただし、本実施形態においても第3の実施形態と同様に、第3の電圧印加状態における出射光152bと、第4の電圧印加状態における出射光153aとが平行となると、該出射光153aをスリット板44のスリットに入射させることができない。よって、本実施形態においても、
θ1’<θ2’
の条件を満たすように、ビーム偏向器42からの出射位置から、回折格子43の出射位置までの光路長に応じて、第3の電圧印加状態および第4の電圧印加状態を設定する。なお、このとき、θ2’は、θ1’<θ2’を満たしながら極力大きいことが望ましい。
【0132】
このように設定することによって、高分解能化を実現するためにビーム偏向器42から回折格子43までの光路長を大きくする場合であっても、検出したい波長帯域の全域の波長の光を検出することができる。
【0133】
なお、第3の実施形態や第4の実施形態では、ビーム偏向器への電圧印加を、第1の電圧印加状態から第2の電圧印加状態へと変化させる形態、あるいは第3の電圧印加状態から第4の電圧印加状態に変化させる形態について説明したが、これに限定されない。例えば、ビーム偏向器への電圧印加を、第2の電圧印加状態から第1の電圧印加状態へと変化させても良いし、第4の電圧印加状態から第3の電圧印加状態に変化させても良い。
【0134】
(第5の実施形態)
本実施形態では、応答速度の高速化、および小型化の実現に加えて、高分解能測定および広帯域測定を一回の測定で同時に実現することを目的としている。
【0135】
分光器において高分解能化を実現する際には、プリズムといった分散媒質からより広角な波長の分散を得る必要がある。しかしながら、高分解能の観点から分散媒質でより広角に波長の分散を得るようにすると、その分、ビーム偏向器に要求される偏向角も大きくなる。また、ビーム偏向器で実現される偏向角の変化量が一定の場合に、広帯域測定を行なう場合には、上記分散媒質の屈折率分散を小さくしなければならず、分解能が低下することになる。
【0136】
そこで、本実施形態では、同一分光器において一回の測定で高分解能測定および広帯域測定を同時に行うために、KTNといった電気光学結晶を備えるビーム偏向器から出力された光を2つの異なる方向に分波する。そして、該分波された一方の光を所望の測定帯域の全部を分光するのに用い(広帯域測定に用い)、他方の光を測定帯域の一部を高分解能で分光するのに用いる(高分解能測定に用いる)。
【0137】
図15は、本実施形態に係る、高分解能測定と広帯域測定とを一回の測定にて実現可能な分光器を示す図である。
【0138】
図15において、KTN結晶21を有するビーム偏向器12の後段側には、入力された光を2つの異なる方向に出力する手段としての偏波ビームスプリッタ151が配置されている。
【0139】
上記ビーム偏向器12において、電極22、23に電圧を印加するとKTN結晶21中に電界傾斜が生じる。そして、電界傾斜が生じているKTN結晶21に無偏光である入射光156が入射すると、該入射光156の垂直偏光成分と平行偏光成分とがそれぞれKTN結晶21において偏向する。ここで、電気光学効果には偏光依存性があるため、垂直偏光成分に対する屈折率変化の傾斜と、平行偏光成分に対する屈折率変化の傾斜とは異なる。よって、KTN結晶21によって偏向された垂直偏光成分と平行偏光成分とでは実現される偏向角が異なる。
【0140】
なお、本明細書において、「平行偏光」とは、偏光方向が、光軸に垂直方向であって、電気光学結晶に配置された電極間に生じる電界の方向と一致する方向の偏光である。図15で言うと、偏光方向が紙面内、かつ光軸に垂直である偏光である。
【0141】
また、本明細書において、「垂直偏光」とは、偏光方向が、光軸に垂直方向であって、電気光学結晶に配置された電極間に生じる電界の方向と直交する方向の偏光である。図15で言うと、偏光方向が紙面垂直方向である偏光である。
【0142】
なお、上述のように、電圧を印加するとビーム偏向器12からは平行偏光成分と垂直偏光成分とが出力されるが、図15では図面の簡便化を図るために、上記平行偏光成分と垂直偏光成分とを含めて光157として記載している。
【0143】
偏波ビームスプリッタ151は、ビーム偏向器12から出射された光157が入射されると、上記平行偏光成分と垂直偏光成分とを分離して、それぞれを異なる方向に出力する。すなわち、偏波ビームスプリッタ151は、入射された光157のうち平行偏光成分を透過させて平行偏光である光158aとして出力する。一方、偏波ビームスプリッタ151は、入射された光157のうち垂直偏光成分を反射させて垂直偏光である光158bとして出力する。偏波ビームスプリッタ151の、光158aの出力側には低屈折率分散(波長による屈折率の小さい)のプリズム152が配置されている。また、偏波ビームスプリッタ151の、光158bの出力側には、プリズム152の屈折率分散よりも大きい高屈折率分散(波長による屈折率の大きい)のプリズム153が配置されている。
【0144】
さらに、プリズム152、153のそれぞれの後段には、波長選択手段としての、スリット板154、155が配置されている。
【0145】
このような構成において測定を行う場合は、ビーム偏向器12に、平行偏光および垂直偏光以外の任意の偏光成分を有する入射光156を入射する。このときビーム偏向器12に電圧が印加されていると、ビーム偏向器12からは所定の角度で偏向された、平行偏光成分および垂直偏光成分が出力される。該平行偏光成分および垂直偏光成分を含む光157が偏波ビームスプリッタ151に入射すると、該偏波ビームスプリッタ151は入射された光157を偏波成分毎に分離して2つの異なる方向に分波する。すなわち、平行偏光成分は偏波ビームスプリッタ151を透過して光158aとしてプリズム152に入射し、垂直偏光成分は偏波ビームスプリッタ151にて反射して光158bとしてプリズム153に入射する。
【0146】
光158aはプリズム152にて分光され、スリット板154の後段に配置された光検出器(不図示)によって検出したい波長帯域(所望の波長帯域)の全域を測定する。
【0147】
ここで、例えば、検出した波長帯域を400nm〜700nmとする。そして、検出したい波長帯域の最も長波長の光がスリット板154を通過するための、ビーム偏向器12への電圧状態を第5の電圧印加状態とする。また、検出したい波長帯域の最も短波長の光がスリット板155を通過するための、ビーム偏向器12への電圧状態を第6の電圧印加状態とする。
【0148】
測定の際には、所望に応じて第5の電圧印加状態から第6の電圧印加状態に変化させることによって、検出したい波長帯域の全域の測定を行うことができる。
【0149】
なお、検出したい波長帯域に応じて、ビーム偏向器12、偏波ビームスプリッタ151、プリズム152、およびスリット板154の位置、プリズム152の材質、第5および第6の電圧印加状態等を設定すれば良い。
【0150】
一方、光158bはプリズム153にて分光され、スリット板155の後段に配置された光検出器(不図示)によって検出したい波長帯域(所望の波長帯域)の一部のみを高分解能で測定する。
【0151】
ここで、例えば、高分解能で検出したい波長帯域を600nm〜650nmとする。
【0152】
本実施形態では、プリズム153の屈折率分散は、検出したい波長帯域の全域を検出するためのプリズム152の屈折率分散よりも大きい。従って、プリズム153の方がプリズム152よりも大きく光を屈折させる。よって、例えば、500nm〜750nmの波長帯域に着目すると、ある電圧状態時において、プリズム153から出射される、波長500nmの光の光軸方向と波長750nmの光の光軸方向とのなす角度は、プリズム152から出射される、波長500nmの光の光軸方向と波長750nmの光の光軸方向とのなす角度よりも大きくなる。よって、ビーム偏向器12への電圧状態を第5の電圧印加状態から第6の電圧印加状態に変えた場合の、プリズム153からの出射光におけるスリット板155を通過する光の波長の変化量は、プリズム152からの出射光におけるスリット板154を通過する光の変化量よりも小さくなる。
【0153】
従って、ビーム偏向器12での偏向角の変化量が一定の場合(印加電圧の変化量が一定の場合)でも、プリズム153では、プリズム152よりも高分解能で測定を行うことができる。すなわち、本実施形態では、プリズム153側では、第5の電圧印加状態において波長600nmの光の検出を行うことができ、第6の電圧印加状態において波長650nmの光の検出を行うことができる。
【0154】
なお、高分解能で検出したい波長帯域に応じて、ビーム偏向器12、偏波ビームスプリッタ151、プリズム153、およびスリット板155の位置、プリズム153の材質、第5および第6の電圧印加状態等を設定すれば良い。
【0155】
また、本実施形態は、検出したい波長帯域の全域の測定、および該検出したい波長帯域の一部の測定を同一の装置で一回の測定で行うことが可能な構成である。すなわち、第5の電圧印加状態から第6の電圧印加状態に変化させたときに、プリズム152側において検出したい波長帯域の全域の測定を行い、プリズム153側においてその一部の測定を行うものである。
【0156】
上記高分解能測定を行うためのプリズム153においては、高分解能に検出する波長帯域を可変とすることが有効である。よって、本実施形態では、高分解能に検出する波長帯域を可変とするために、スリット板155に可動部を設け、所望に応じてスリット板155を可動させることが好ましい。
【0157】
すなわち、スリット板155を固定する場合は、高分解能に検出する波長帯域(例えば、600nm〜650nm)を固定にすることができる。
【0158】
一方、スリット板155を移動させることで、高分解能に検出する波長帯域を可変にすることができる。このようにスリット板155を所望に応じて駆動させたい場合は、例えば、スリット板155をレール等の上に配置し、手動により移動させるようにすれば良い。また、スリット板155を、例えばアクチュエータ等の動力制御部に設けることによりスリット板155の移動を自動に行うことができる。
【0159】
本実施形態では、スリット板155をある位置に固定した場合、第5の電圧印加状態から第6の電圧印加状態に変化させた時に、スリット板155に入射される光の波長範囲が、高分解能で検出したい波長帯域となる。よって、スリット板155の位置に応じて、上記光の波長範囲が変化する。従って、本実施形態では、スリット板155を可動とすることにより、スリット板155に入射する光の波長範囲を可変とすることができる。すなわち、高分解能で検出したい波長帯域に応じて、第5の電圧印加状態から第6の電圧印加状態に変化させた際に、上記高分解能で検出したい波長帯域の光がスリット板155に入射するようにスリット板155の位置を決定することにより、高分解能で検出する波長帯域を可変とすることができる。
【0160】
このように、本実施形態では、検出したい波長帯域の全域を検出するために相対的に低い屈折率分散を有するプリズム152を用い、検出したい波長帯域の一部を検出するために相対的に高い屈折率分散を有するプリズム153を用いている。そして、測定光である光156をビーム偏向器12により偏向して2つに分波し、該分波されたそれぞれの光を低屈折率分散のプリズム152および高屈折率分散のプリズム153に入射して分光を行う。従って、プリズム152側において検出したい波長帯域の全域の測定を行うことができ、これと同時にプリズム153側において高分解能測定を行うことができる。
【0161】
また、上述のように、ビーム偏向器12によって偏向された光を、検出したい波長帯域の全域の測定用の光、および高分解能測定用の光に分波しているので、ビーム偏向器12に対する電圧制御のみにより、検出したい波長帯域の全域の測定、および高分解能測定の双方の制御を行うことができる。
【0162】
なお、本実施形態において、検出したい波長帯域の全域測定用の偏光成分および高分解能測定用の偏光成分は、平行偏光成分および垂直偏光成分のいずれを用いても良いが、平行偏光成分の方が、同じ測定帯域なら高分解能測定が可能になり、同じ分解能なら広帯域測定が可能となる。
【0163】
本実施形態では、上述のように、ビーム偏向器12から偏向された光をプリズム152およびプリズム153に入射するために、2つに分波することが重要となり、偏波ビームスプリッタ151を用いることは本質ではない。本実施形態では、偏波ビームスプリッタ151に代わりに、例えば、ハーフミラー等の、入射光を2つの異なる方向に分波して出力可能な手段であればいずれの手段を用いても良い。
【0164】
ハーフミラーを用いる場合は、良好な測定を行うために、プリズム152および153には平行偏光成分および垂直偏光成分のいずれか一方(好ましくは、平行偏光成分)を入射するのが好ましい。
【0165】
例えば、KTN結晶21の2次の電気光学定数s11とs12とが逆符号である場合、垂直偏光成分と平行偏光成分とは反対方向に偏向する。従って、各プリズムにおいて、平行偏光成分を用いて測定を行う場合には、垂直偏光成分の光もプリズムに入射することになり、ビーム偏向器12への電圧の極性が変わると、垂直偏光成分の光が測定に影響する場合がある。従って、ハーフミラーを用いる場合は、平行偏光成分および垂直偏光成分のいずれか一方を用いることが望ましいのである。
【0166】
よって、分波手段としてハーフミラーを用いる場合は、ビーム偏向器12の前段に偏光子を設け、該偏光子によりビーム偏向器12に平行偏光成分および垂直偏光成分のいずれか一方を入射するようにすれば良い。
【0167】
また、本実施形態では、上述のように、同一の装置内で一回の測定により、検出したい波長帯域の全部、および検出したい波長帯域の一部(高分解能測定)を行うことが重要である。すなわち、測定光としての入射光156を分波し、分波された一方の光をプリズム152に入射して検出したい波長帯域の全部の測定を行い、他方の光をプリズム153に入射して高分解能測定を行うことが本質である。
【0168】
よって、本実施形態では、図16に示すように、ビーム偏向器12の前段において、入射光156を2つに分波するようにしても良い。図16において、符号161はλ/2波長板であり、符号162はミラーである。
【0169】
本実施形態では、平行偏光成分を用いることが好ましいので、偏波ビームスプリッタ151から分波された垂直偏光成分をλ/2波長板にて偏光方向を変えることが好ましい。すなわち、偏波ビームスプリッタ151の後段の垂直偏光成分が出力される側にλ/2波長板161を設けることにより、プリズム152、153の双方に平行偏光成分を入射することができる。
【0170】
なお、λ/2波長板161は設けなくても良いことは言うまでもない。
【0171】
図16では、ビーム偏向器の偏向制御を1箇所で行うために、1つのビーム偏向器12の異なる領域に、プリズム152に入射するための光とプリズム153に入射するための光とを入射する必要がある。従って、λ/2波長板161の後段にミラー162を設け、λ/2波長板161から出射された光の方向を変えている。
【0172】
また、本実施形態では、図17に示すように、偏波ビームスプリッタ151から分波された光の光路のそれぞれにビーム偏向器12を設けるようにしても良い。
【0173】
(第6の実施形態)
本実施形態では、応答速度の高速化、および小型化の実現に加えて、分光器の高感度化を実現することを目的としている。
【0174】
高感度な分光器を実現するためには、KTNといった電気光学結晶を備えるビーム偏向器に入射される光量をなるべく大きくすることが望ましく、ビーム偏向器の入射面の開口を大きくする必要がある。このように開口を大きくすることは、特に小さい径への集光、コリメートが困難なインコヒーレント光の分光では重要となる。
【0175】
開口を大きくする場合、KTNといった2次の電気光学効果を有する電気光学結晶を利用し、電極間に屈折率の傾斜を発生させ光ビームを偏向させるビーム偏向器では、電極間の距離(結晶の厚さ)がa倍になると、同じ偏向角を得るのにa√a倍の電圧が必要になる。
【0176】
そこで、本実施形態では、ある偏向角を得るのに必要な電圧の増大を招かないようにしながら、ビーム偏向器の入射面の開口を大きくするために、KTN等の電気光学結晶の厚さ(電極間の距離)を、上記ある偏向角を実現するのに必要な厚さから変化させず、電気光学結晶の幅が電気光学結晶の厚さよりも大きい電気光学結晶を利用する。さらに、断面が楕円形状の入射光をビーム偏向器に入射するようにする。
【0177】
なお、本明細書において、「(電気光学結晶の)厚さ」とは、電極が形成される、対向する2つの面の一方から他方に向った電気光学結晶の長さを指す。また、本明細書において、「(電気光学結晶の)幅」とは、電気光学結晶の厚さ方向および電気光学結晶中を進行する光の方向と垂直な方向に沿った電気光学結晶の長さである。
【0178】
図18は、本実施形態に係るビーム偏向器の斜視図である。
【0179】
図18において、KTN結晶21の厚さよりも幅が広くなっている。従って、電極22と23との間の距離を変えずに、ビーム偏向器12の入射面181における開口を大きくすることができる。よって、開口を大きくしても、必要とされる電圧の増大を防ぐことができる。
【0180】
また、本実施形態では、入射面181に対して、断面が楕円形状の入射光182を入射している。従って、入射光182の断面形状である楕円の短軸と同じ長さの半径を有する円形状が断面の光を入射する場合に比べて、入射光182の断面形状である楕円の長軸の増大分に応じて入射光量を大きくすることができる。従って、必要な電圧の増大を招くことなく、分光器の高感度化を実現することができる。
【0181】
なお、本実施形態では、シリンドリカルレンズやスリット等に測定光を入射することにより、断面が楕円形状の入射光182を得ることができる。このような、入射面182に断面が楕円形状の光を入射するための手段としては、シリンドリカルレンズ、スリットに限らず、入射された光を断面が楕円形状となる光として出力可能なものであればいずれを用いても良い。
【0182】
開口を大きくする際に、従来のように、厚さ方向を大きくするという着眼点に立つと、KTN結晶21の厚さの増大により開口は大きくなるが、電極22と23との間の距離が大きくなることになるので、上述のように同じ偏向角を得るのに必要な電圧も大きくなってしまう。
【0183】
そこで、本実施形態では、必要な電圧の増大を起こさないようにして開口を大きくするために、電圧に影響がでる厚さを制御するのではなく、必要な電圧に影響しない幅方向を制御するようにしている。すなわち、ある偏向角を実現するのに必要な電圧を確保したまま、すなわち、上記必要な電圧に対応する厚さを確保したまま、KTN結晶21の幅を厚さよりも大きくすることにより、開口の増大を図っている。
【0184】
そして、KTN結晶21の幅を厚さよりも大きくした分、開口が大きくなるので、入射光182がインコヒーレント光であっても、ビーム偏向器12に良好に入射することができる。しかしながら、従来のように、断面が円形状の入射光では、開口が大きくなり入射光とビーム偏向器12とが良好にマッチングしても、入射光量の観点からすると入射光の断面の円形の半径が律速になる。よって、KTN結晶21の幅を広くして開口を大きくしても、KTN結晶21の厚さが大きくなるわけではなく、結局、入射光量の増大は見込めない。
【0185】
しかしながら、本実施形態では、入射光182の断面を楕円形状にしているので、KTN結晶21の幅を広くした分、入射光182の断面である楕円の長軸を大きくすることができる。従って、ビーム偏向器12への入射光量を大きくすることができ、その分高感度化を図ることができる。
【0186】
このように、本実施形態では、インコヒーレント光であってもビーム偏向器に良好に結合するように、ビーム偏向器の入射面での開口を大きくすることが重要となる。このとき、電気光学結晶の厚さをa倍して開口の増大を行うと、同じ偏向角を得るのに必要な電圧がa√a倍となってしまい、電圧増を招いてしまう。そこで、本実施形態では、必要な電圧の増大を防ぎつつ、開口を大きくするために、用いる電気光学結晶の幅を厚さよりも大きくしている。
【0187】
また、電気光学結晶の幅を厚さよりも広くすることにより実現された、必要な電圧の増大を招かない、大きな開口が実現されたビーム偏向器の入射面において、入射光の断面を楕円形状とし、該楕円の長軸が電気光学結晶の幅と平行となるように上記入射光を入射することにより、ビーム偏向器への入射光量を大きくすることができ、高感度な分光器を実現することができる。
【0188】
(第7の実施形態)
本実施形態では、応答速度の高速化、および小型化の実現に加えて、簡便で高分解能な分光器を実現することを目的としている。
【0189】
本実施形態では、簡便な構成で応答速度が速い分光器を実現するために、ビーム偏向器12の入射端および出射端の少なくとも一方をウェッジ加工し、該少なくとも一方をくさび型の面にしている。この加工により、第1〜第6の実施形態における、ビーム偏向器とプリズムといった分光手段とを1つの装置で実現することができる。
【0190】
図19は、本実施形態に係る分光器を示す図である。
【0191】
図19において、分光器190は、KTN結晶191を備えている。該KTN結晶191の第1の面には、電極192が形成されており、該第1の面に対向する第2の面には、電極193が形成されている。符号194は分光器190の入射端であり、符号195は分光器190の出射端である。
【0192】
分光器190(KTN結晶191)の出射端195において、電圧印加により光ビームの偏向する面内に角度をなすようにくさび型に加工することにより、くさび型の出射端196が形成されている。すなわち、出射端195において、電極193が形成された第2の面から電極192が形成された第1の面に向って斜面が形成されるように徐々に厚さが薄くなるようなくさび型の出射端196を形成する。
【0193】
上記ウェッジ加工は、図5に示すようなビーム偏向器12を作製し、出射端を切断、または研磨することによって行うことができる。
【0194】
このようにくさび型の出射端196を形成することにより、電極192、193への印加電圧状態に応じて、くさび型の出射端196からの出射光を振ることができる。
【0195】
本実施形態では、出射端195において、光ビームの偏向する面と垂直な方向に角度をなすようなくさび型の出射端(図19では、紙面手前(紙面奥)から紙面奥(紙面手前)に向って徐々に厚さが薄くなるようなくさび型の出射端)を形成しても、ビーム偏向の方向と、くさび型の斜面による分散の方向とが一致していない。従って、分光器として機能しない。これに対して、図19のように、KTN結晶191の厚さが変化する方向と電界の印加方向とが一致するようにすることで、くさび型の出射端196における分散の方向と、ビーム偏向の方向とが一致するので、分光器として良好に機能させることができる。
【0196】
さて、KTNといった電気光学結晶の出射端がくさび型になっていると、電気光学結晶内を伝搬した光の該出射端(くさび型の出射端)における界面への入射が斜入射になる。KTNといった電気光学結晶は、屈折率の波長分散(通常、短波長ほど屈折率が高い)を有するので、上記斜入射にあると、各波長毎の出射角が変化する。これによって、ビーム偏向器のみで分光まで行うことができるのである。
【0197】
このように、本実施形態では、出射端をくさび型の出射端196にすることにより、出射端196からは、各波長毎に分散された光を出射することができる。そして、徐々に厚さが薄くなる方向が、電極192と193との間に形成される電界の方向になるように、くさび型の出射端196を形成するので、分散された光が広がる方向(分散の方向)と、ビーム偏向の方向とを一致させることができ、分光器の機能を実現することができる。
【0198】
なお、KTN結晶191の出射端での分光のみでは分解能が不十分のときは、分光器190の後段にプリズムや回折格子等の分散媒質を配置しても良い。
【0199】
また、本実施形態では、くさび型の加工を施すのは、出射端に限らず、入射端(図20A)、入射端および出射端の双方(図20B、20C)であっても良い。
【0200】
図21、22にて、本実施形態のように、分光器190の出射端をくさび型に加工した効果を説明する。
【0201】
図21および22は、KTN結晶191中を通過する光の出射端195への入射角と、結晶外部への出射角の変化量である分散角の関係を表している。KTN結晶191の波長700nmの屈折率を2.25とし、波長400nmの屈折率が0.1もしくは0.2高いとして、波長700nmと400nmの出射角の差を分散角として示している。KTN結晶191内部での偏向角は波長に関係なく、−50mradから50mradまでである。
【0202】
図21は出射端195がくさび型に加工されていない場合である。この場合、図21に示すように、KTN結晶195内部での偏向角が大きくなるにつれて、出射端195への斜入射となり結晶外部での分散角も大きくなるが、せいぜい1mrad程度である。
【0203】
一方、図22はKTN結晶191内部で偏向しない場合に20度(349mrad)の入射角を有するように出射端195をくさび型に加工した場合の、KTN結晶191のくさび型の出射端196への入射角と分散角の関係を表している。屈折率差が0.1の場合、分散角は最大で8mradとなり、屈折率差が0.2の場合、分散角は最大で19mrad得られることになる。このように、KTN結晶191の出射端への入射角が大きいほど分散角は大きくなり、くさび型形状の効果が顕著に得られる。
【0204】
また、KTN結晶191の出射端195がくさび型に加工されていない場合、図21に示すように、分散角が0になる場合がある。これに対して、本実施形態のようにKTN結晶191の出射端195をくさび型の出射端196のようにすると、図22に示すように、常に分散が生じる状態となる。
【0205】
よって、本実施形態のように、KTN結晶の入射端および出射端の少なくとも一方をくさび型に加工することにより、分光器として機能させることができるので、簡便な構成の分光器を実現することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気光学効果を有する電気光学結晶、該電気光学結晶の内部に電界を印加するための電極対、および断面が楕円形状の光を入射するための手段を含むビーム偏向器と、
前記ビーム偏向器からの出射光を分光する分光手段と、
前記分光手段で分光された出射光の中から、任意の波長の光を選択する波長選択手段と
を備え、
前記断面が楕円形状の光は、該楕円の長軸方向と前記電気光学結晶の幅の方向とが一致するように前記電気光学結晶に入射されることを特徴とする分光器。
【請求項2】
電気光学効果を有する電気光学結晶、および該電気光学結晶の内部に電界を印加するための電極対を含むビーム偏向器と、
入力された光を2つの異なる方向に出力する出力手段と、
前記ビーム偏向器からの出射光を分光する、第1のプリズムと、該第1のプリズムよりも屈折率分散が大きい第2のプリズムとからなる分光手段と、
前記分光手段で分光された出射光の中から、任意の波長の光を選択する波長選択手段と
を備える分光器であって、
前記出力手段によって2つの異なる方向に出力された光はそれぞれ、第1のプリズムおよび第2のプリズムに入射されることを特徴とする分光器。
【請求項3】
前記出力手段は、前記ビーム偏向器と前記第1および第2のプリズムとの間に配置されており、
前記出力手段は、前記ビーム偏向器から出射された光を前記2つの異なる方向に出力することを特徴とする請求項2に記載の分光器。
【請求項4】
前記出力手段は、前記ビーム偏向器の前段に配置され、
前記2つの異なる方向に出力された光はそれぞれ、前記ビーム偏向器の異なる領域に入射して、前記第1および第2のプリズムに入射することを特徴とする請求項2に記載の分光器。
【請求項5】
前記ビーム偏向器は、第1のビーム偏向器と第2のビーム偏向器を含み、
前記出力手段は、前記第1および第2のビーム偏向器の前段に配置され、
前記2つの異なる方向に出力された光はそれぞれ、前記第1のビーム偏向器および第2のビーム偏向器に入射して、前記第1および第2のプリズムに入射することを特徴とする請求項2に記載の分光器。
【請求項6】
前記波長選択手段は、前記第1のプリズムの後段に配置された第1の波長選択手段と、前記第2のプリズムの後段に配置された第2の波長選択手段とを含み、
前記第2の波長選択手段は移動可能であることを特徴とする請求項2に記載の分光器。
【請求項7】
電気光学効果を有する電気光学結晶、該電気光学結晶の内部に電界を印加するための電極対を含むビーム偏向器と、
前記ビーム偏向器からの出射光を分光する分光手段と、
前記分光手段で分光された出射光の中から、任意の波長の光を選択する波長選択手段と
を備え
前記ビーム偏向器の入射端および出射端の少なくとも一方は、前記電極対の第1の電極が配置された第1の面から、前記電極対の第2の電極が配置され、前記第1の面と対向する第2の面に向って徐々に厚さが薄くなるようなくさび型の端面であることを特徴とする分光器。
【請求項8】
電気光学効果を有する電気光学結晶、該電気光学結晶の内部に電界を印加するための電極対を含むビーム偏向器と、
前記ビーム偏向器からの出射光を分光する分光手段と、
前記分光手段で分光された出射光の中から、任意の波長の光を選択する波長選択手段と
を備え、
前記ビーム偏向器と前記分光手段とは同一の電気光学結晶からなり、
前記電気光学結晶の入射端および出射端の少なくとも一方は、前記電極対の第1の電極が配置された第1の面から、前記電極対の第2の電極が配置され、前記第1の面と対向する第2の面に向って徐々に厚さが薄くなるようなくさび型の端面であることを特徴とする分光器。
【請求項9】
前記波長選択手段は、スリット板であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の分光器。
【請求項10】
前記電気光学結晶は、KTaO3、KTa1-xNbx3、K1-yLiyTa1-xNbx3(0<x<1、0<y<1)、LiNbO3、LiTaO3、LiIO3、KNbO3、KTiOPO4、BaTiO3、SrTiO3、Ba1-xSrxTiO3(0<x<1)、Ba1-xSrxNb26(0<x<1)、Sr0.75Ba0.25Nb26、Pb1-yLayTi1-xZrx3(0<x<1、0<y<1)、Pb(Mg1/3Nb2/3)O3-PbTiO3、KH2PO4、KD2PO4、(NH4)H2PO4、BaB24、LiB35、CsLiB610、GaAs、CdTe、GaP、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdS、CdSe、およびZnOのいずれか1つであることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の分光器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20A】
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【図20B】
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【図20C】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2012−215595(P2012−215595A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−179850(P2012−179850)
【出願日】平成24年8月14日(2012.8.14)
【分割の表示】特願2009−525425(P2009−525425)の分割
【原出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】