説明

分割転がり軸受

【課題】2分割された外輪の接合部をV字形状として接合する場合であっても、軸受けとして転がり軸受を用いる場合であっても、V字形状のV字先端との接触を回避させて保持器に損傷を与えることがないようにする。
【解決手段】円周上に複数個配設された針状ころ30が保持器32により保持され、この針状ころ30を保持した保持器32の外周に2分割された外輪22が配設され、この2分割された外輪22の周方向の接合部36が軸方向で見てV字形状37の係合で行われている。そして、前記2分割された外輪22のV字形状接合箇所のV字先端37aが位置する軸方向位置に対応する保持器の軸方向位置の外周面に円周上に亘って凹部40が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分割転がり軸受に関する。特に、内燃機関(エンジン)のクランクシャフトのクランクジャーナルやコンロッド大端に適用される分割軸受に関し、詳細には、2分割された外輪の接合部がV字形状で接合される分割転がり軸受に係る。
【背景技術】
【0002】
自動車等車両に搭載される内燃機関のクランクシャフトは通常クランク形状の一体型として形成されている。このクランクシャフトのクランクジャーナルやコンロッド大端の軸受部は、そのクランク形状の形状の特性から、一体型の軸受を用いることができなく、周方向に2分割された分割軸受が用いられる。
なお、分割軸受としては、従来普通には、滑り軸受が用いられていたが、最近では、環境等への配慮から省燃費の自動車が求められるようになったことに伴い、滑り軸受に代えて転がり軸受を用いることが提案されるようになって来た。
転がり軸受の一般的構成は、内輪と、外輪と、この内外輪間に配設される転動ころを保持した保持器とからなっている。分割軸受の場合、これらの構成部品が周方向に対して分割して構成され、組み合わせられて用いられる。
2分割された構成部品を組み合わせるに当っては、分割された構成部品が軸方向に相対移動しないように接合されることが行われている。外輪についても、2分割された外輪の周方向の接合部に軸方向で見てV字形状の係合で行われる箇所を設けて、これにより相互に軸方向に相対移動するのを防止する構成としている。
【特許文献1】特開2005−337352号公報
【特許文献2】特開2007−24207号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述したように、2分割された外輪の接合部をV字形状として接合する場合、これにより2分割された外輪の軸方向の相対移動を防止することはできる。しかし、V字形状とした接合部のV字先端が、外輪の内周側に配設される保持器の外周面と接触して、引っ掛かることがあり、これにより摩耗が促進されて、保持器が損傷するという問題を生じることがある。
【0004】
而して、本発明は上述した問題を解決するものとして創案したものであり、本発明が解決しようとする課題は、2分割された外輪の接合部をV字形状として接合する場合であっても、V字形状のV字先端との接触を回避させて保持器に損傷を与えることがないようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を達成するために、本発明に係る分割転がり軸受は次の手段をとる。
本発明に係る分割転がり軸受は、先ず、円周上に複数個配設された転動ころが保持器により保持され、該転動ころを保持した保持器の外周に2分割された外輪が配設され、該2分割された外輪の周方向の接合部に軸方向で見てV字形状の係合で行われている箇所を有する構成をとる。そして、かかる構成において、前記2分割された外輪のV字形状接合箇所のV字先端が位置する軸方向位置に対応する保持器の軸方向位置の外周面に円周上に亘って凹部が形成されていることを特徴とする構成をとる。
本発明は、上記のように2分割された外輪の接合部をV字形状とすることにより従来と同様に、2分割された外輪の軸方向の相対移動を阻止して組み合わせることができる。そして、V字形状のV字先端の位置に対応した保持器の外周面に円周上に亘って凹部が形成されているため、V字形状のV字先端が保持器の外周面と接触することが回避されて、V字先端が保持器の外周面に接触することがないため、保持器が損傷することがない。
【0006】
なお、前述した本発明の手段における2分割された外輪に形成されるV字形状の係合が行われるV字先端の軸方向位置は、そのV字形状が1箇所で行われる場合には、外輪の軸方向中央位置で行われる構成であることが好ましく、V字形状が2箇所で行われる場合には、該2箇所のV字形状の周方向での向きが相互に異なった向きとして配置することが好ましい。
上記のようにV字形状の接合が外輪の軸方向中央位置の1箇所で行われる場合には、外輪の左右をバランス良く構成できるという構成上の利点があり、また、V字形状の周方向での向きを相互に異なった向きとした2箇所で行われる場合には、周方向の両方向でより確実に2分割された外輪の軸方向の相対移動を阻止して組み合わせることができる。
【0007】
また、前述した本発明の手段における外輪の2分割形成は切断加工で行って形成することが好ましい。外輪の2分割形成は割り加工で行うこともできるが、割り加工はそのV字形状の形成が不安定であるため、切断加工の方がV字形状の形状の加工を安定して行うことができるという利点がある。
【発明の効果】
【0008】
本発明の分割軸受は上述した手段をとることにより次の効果を得ることができる。
先ず、2分割された外輪の接合部をV字形状として接合する場合であっても、V字形状のV字先端に対応する位置の保持器の外周面に凹部を形成してV字先端に対して逃げ溝としたため、V字形状のV字先端との接触が回避され保持器に損傷を与えることがない。
また、V字形状の接合が外輪の軸方向中央位置の1箇所で行われる場合には、外輪の左右をバランス良く構成できるという構成上の利点がある。
また、V字形状の周方向での向きを相互に異なった向きとした2箇所で行われる場合には、周方向の両方向でより確実に2分割された外輪の軸方向の相対移動を阻止して組み合わせることができる。
また、外輪の2分割形成を切断加工で行って形成する場合には、割り加工で行う場合に比べV字形状の形状の加工を安定して行うことができるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明を実施するための最良の形態の実施例を、図面を用いて説明する。この実施例の分割転がり軸受は、針状ころ軸受形式の転がり軸受であり、内燃機関(エンジン)のクランクシャフトのクランクジャーナルや、コンロッド大端の軸受部に適用される場合のものである。
図1は内燃機関に組み込まれる通常のクランクシャフトの部分斜視図を示す。この図1に示されるように、クランクシャフト10はクランク形状に一体型として形成されている。このクランクシャフト10はそのクランクジャーナル12が転がり軸受20を介して内燃機関本体部(図示省略)に回転可能に支承される。転がり軸受20はクランクシャフト10がクランク形状に一体型で形成される形状の特性から輪状の一体型の転がり軸受を用いることができなく、周方向に2分割された構成の分割軸受が用いられる。なお、図1において、14はコンロッド大端の軸受部を示し、このコンロッド大端の軸受部14にも図示は省略されているが、分割軸受が用いられる。
【0010】
この実施例のクランクジャーナル12に用いられる分割転がり軸受20は針状ころ軸受形式のものが用いられている。針状ころ軸受形式の分割転がり軸受20は、外輪22と、転動ころとしての針状ころ30と、針状ころ30を保持する保持器32とから構成されている。なお、内輪はこの実施例ではクランクジャーナル12の外周面にその機能を受け持たせた構成となっている。しかし、内輪を別途設けるものであっても良い。
この分割転がり軸受20を構成する外輪22、針状ころ30を保持する保持器32は、周方向に2分割して形成されている。図1から図4に2分割した外輪22の第1実施例が示されている。図2は正面図、図3は側面図、図4は上半分の断面図を示している。
これらの図から良く分かるように、外輪22は周方向に2分割して形成されており、図2及び図3で見て、上方の上外輪22aと下方の下外輪22bとからなっている。2分割の分割位置はほぼ180度離間した位置とされており、分割面の接合部36の形状は図2に良く示されるようにV字形状37とされている。これにより上外輪22aと下外輪22bを組み合わせて一体化した際における両外輪22a、22bの軸方向の相対移動を阻止して、位置決めを確実に行っている。なお、この第1実施例においてはV字形状37のV字先端37aの位置が外輪22の軸方向中央位置となっており、外輪22を左右バランス良く構成できる構成としている。
【0011】
図4に示すように、2分割された外輪22の内周側には、円周上に多数配置される針状ころ30を保持した保持器32が配設されている。保持器32の外周面は針状ころ30の転動に伴う回動移動中に外輪22の内周面に摺動接触する状態として配設されている。
この保持器32の外周面には、その軸方向中央位置に逃げ溝としての凹部40が円周上に亘って形成されている。この凹部40が形成される位置は、前述した2分割した外輪22の接合面に形成されるV字形状37のV字先端37aの軸方向位置に対応した軸方向位置とされている。すなわち、外輪22に形成されるV字形状37のV字先端37aは保持器32が回動移動するいずれの位置状態においても、逃げ溝としての凹部40がある構成となっている。なお、この第1実施例における凹部40の溝形状は、いわゆる傾斜面で形成されており断面皿形状で形成されている。
【0012】
上記第1実施例の構成によれば、外輪22の接合部36に形成されるV字形状37のV字先端37aは、常に、保持器32に形成された逃げ溝としての凹部40が形成された位置にあり、V字先端37aが凹部40の溝底部に接触することがない。すなわち、V字先端37aは保持器32の外周面に接触することがないので、V字先端37aが保持器32の外周面に摺動接触して摩耗して保持器32を損傷すると言うことがない。
【0013】
次に、2分割された外輪の第2実施例を説明する。第2実施例は図5に示されている。図5は上述した第1実施例の図4に対応させて示した上半分を示す断面図である。なお、上述の第1実施例と同一構成部分には同一符号を付して示した。
第2実施例は、図5に示されるように、2分割される分割面の接合部36に形成されるV字形状が38と39で示される2箇所の場合である。この2箇所のV字形状38、39は、そのV字形状の周方向での向きが相互で異なった向きとして形成されている場合である。この第2実施例では、図5で見て、V字形状38が上向きとして形成されているのに対し、V字形状39が下向きとして形成されている。このようにV字形状38、39が相互で異なった向きとして形成されていると、周方向の両方向でより確実に2分割された外輪の軸方向の相対移動を阻止して組み合わせることができる。
【0014】
第2実施例では、V字形状38,39が2箇所形成されるに伴い、これに対応させて保持器32の外周面に形成される逃げ溝としての凹部42,44も2箇所形成されている。凹部42,44が形成される位置はV字形状38,39のV字先端38a、39aに対応した軸方向位置であり、その位置の設定関係は上述の第1実施例の場合と同じである。
この第2実施例の場合も、上述の第1実施例の場合と同様に、外輪22の接合部36に形成される2箇所のV字形状38、39のV字先端38a、39aは、常に、保持器32に形成された逃げ溝としての凹部42,44が形成された位置にあり、V字先端38a、39aが凹部42,44の溝底部に接触することがない。すなわち、V字先端38a、39aは保持器32の外周面に接触することがないので、V字先端38a、39aが保持器32の外周面に摺動接触して摩耗して保持器32を損傷すると言うことがない。
【0015】
なお、上記第1及び第2実施例の場合も、2分割される外輪22の2分割形成は切断加工で行うのが良い。外輪22の2分割形成は割り加工で行うこともできるが、割り加工はそのV字形状の形成が不安定であるため、切断加工の方がV字形状の形状の加工を安定して行うことができる。
【0016】
以上、本発明の各実施例について説明したが、本発明はその他各種の実施形態が考えられるものである。
例えば、上記実施例では内燃機関(エンジン)のクランクシャフトのクランクジャーナルやコンロッド大端に分割転がり軸受を適用した場合について説明したが、その他同様の各種の構成箇所に適用できるものである。
また、上記実施例では、外輪に形成されるV字形状のV字先端が鋭角な場合について説明したが、本発明は、先端部が曲線形状となる分割面が形成される場合にも適用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る分割転がり軸受が適用されるクランクシャフトを部分的に示す斜視図である。
【図2】第1実施例の外輪を示す正面図である。
【図3】同外輪を示す側面図である。
【図4】同外輪の上半分を示す断面図である。
【図5】第2実施例の外輪の上半分を示す断面図である。
【符号の説明】
【0018】
10 クランクシャフト
12 クランクジャーナル
14 コンロッド大端軸受部
20 転がり軸受(分割転がり軸受)
22 外輪
22a 上外輪
22b 下外輪
30 針状ころ(転動ころ)
32 保持器
36 接合部
37 V字形状
37a V字先端
38 V字形状
38a V字先端
39 V字形状
39a V字先端
40 凹部
42 凹部
44 凹部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
円周上に複数個配設された転動ころが保持器により保持され、該転動ころを保持した保持器の外周に2分割された外輪が配設され、該2分割された外輪の周方向の接合部に軸方向で見てV字形状の係合で行われている箇所を有する分割転がり軸受であって、
前記2分割された外輪のV字形状接合箇所のV字先端が位置する軸方向位置に対応する保持器の軸方向位置の外周面に円周上に亘って凹部が形成されていることを特徴とする分割転がり軸受。
【請求項2】
請求項1に記載の分割転がり軸受であって、
前記2分割された外輪に形成されるV字形状の係合が外輪の軸方向中央位置で行われる構成であることを特徴とする分割転がり軸受。
【請求項3】
請求項1に記載の分割転がり軸受であって、
前記2分割された外輪に形成されるV字形状の係合が外輪の軸方向の2箇所で行われる構成であり、該2箇所のV字形状の周方向での向きが相互に異なった向きとなっていることを特徴とする分割転がり軸受。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−162244(P2009−162244A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−339236(P2007−339236)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】