説明

分散液、その製造方法、プロトン伝導性材料、該プロトン伝導性材料を基材とする固体電解質膜、該固体電解質膜の製造方法、及び該固体電解質膜を備えた固体高分子型燃料電池

【課題】水性溶媒にも非水性溶媒中にも高分散しなかったカーボンナノチューブの高分散液を得る。また、フッ素系電解質の代替となり、プロトン伝導性を有し、耐熱性等にも優れるポリベンゾイミダゾール(PBI)の機械的強度を向上させた、プロトン伝導性材料を得るとともに、特に固体高分子型燃料電池に適した固体高分子電解質膜を提供する。
【解決手段】(A)ポリベンズイミダゾール又はポリベンズイミダゾール誘導体、プロトン伝導性基が導入されたポリベンズイミダゾール又はポリベンズイミダゾール誘導体と、(B)カーボンナノチューブ又はプロトン伝導性基が導入されたカーボンナノチューブを含有する分散液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来高分散が困難であるとされていたカーボンナノチューブの分散液、その製造方法に関する。また、本発明は、従来のフッ素系高分子電解質の代替となるプロトン伝導性材料に関する。更に、該プロトン伝導性材料を基材とする固体電解質膜、該固体電解質膜の製造方法、及び該固体電解質膜を備えた固体高分子型燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電解質膜として固体高分子電解質膜を用いた固体高分子電解質型燃料電池は、小型化が容易であること、低い温度で作動すること、などの利点があることから、特に携帯用、移動体用電源として注目されている。
【0003】
従来、固体高分子型燃料電池の電解質膜としては、高いプロトン伝導性を有し、また、耐酸化性に優れることから、ナフィオン(商品名、デュポン社製)に代表されるパーフルオロカーボンスルホン酸膜が一般的に用いられてきた。しかし、パーフルオロカーボンスルホン酸膜は、フッ素系樹脂を材料とするため高価であり、燃料電池のコスト削減を阻む要因の一つとなっている。
【0004】
そのため、安価な材料を用いた電解質膜の開発が進められており、中でも、ポリベンゾイミダゾール(PBI)は、スルホン酸やリン酸等のプロトン伝導性化合物との複合化、又はスルホ基やリン酸基等のプロトン伝導性基の導入が可能であり、また、耐熱性や機械的特性等にも優れることから注目されている。
【0005】
例えば、ポリベンズイミダゾール膜にプロトン伝導性化合物である酸をドープしてなる電解質膜(特許文献1)や、ポリベンズイミダゾールにプロトン伝導性基を有する側鎖を導入した電解質膜(特許文献2)等が提案されている。
【0006】
ポリベンズイミダゾールを用いた電解質膜のプロトン伝導性を向上させるために、ポリベンズイミダゾール膜への酸のドープ量を増加したり、ポリベンズイミダゾールに導入するプロトン伝導性基の量を増加することが行われている。しかしながら、酸のドープ量又はプロトン伝導性基の導入量の増加に伴い、電解質膜の機械的強度が低下してしまうという問題がある。
【0007】
つまり、ポリベンズイミダゾールはリン酸をドープすることで、無加湿条件下においてもプロトン伝導性を示すことから、無加湿用燃料電池電解質膜への応用が期待されている。しかし、(1)酸(液)をドープすると酸自体が可塑剤として働き、電解質膜が軟化し、機械的強度が低下する、(2)ドープした酸が電解質膜内に長期安定的に保持できないため、電解質膜から溶出する、という問題から実用化が困難であった。
【0008】
他方、スルホ基を有するポリアリーレンにオゾン処理したカーボン材料を添加することにより、高温での耐久性を向上させたプロトン伝導性膜が提案されている(特許文献3)。
【0009】
特許文献3の方法では、オゾン処理によってカーボンに修飾される親水性基では混合するポリアリーレンが溶解する有機溶媒には十分な分散度が得られないために、均一な分散状態が得られず、電解質膜の機械的強度が低下するという問題がある。
【0010】
【特許文献1】特開2006−131731号公報
【特許文献2】特開平09−110982号公報
【特許文献3】特開2006−335815号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、従来、水性溶媒にも非水性溶媒中にも高分散しなかったカーボンナノチューブの高分散液を得る。また、本発明は、フッ素系電解質の代替となり、プロトン伝導性を有し、耐熱性等にも優れるポリベンゾイミダゾール(PBI)の機械的強度を向上させた、プロトン伝導性材料を得るとともに、特に固体高分子型燃料電池に適した固体高分子電解質膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、ポリベンゾイミダゾール電解質膜のプロトン伝導性と機械的強度の両立を検討する中で、ポリベンズイミダゾール又はプロトン伝導性基が導入されたポリベンズイミダゾールには、特定の補強材が高分散されて、ポリベンズイミダゾールの機械的強度が向上するとともに、酸基の漏れ出しが抑制され、耐久性が向上することを見出し、本発明に到達した。
【0013】
即ち、第1に、本発明は、分散液の発明であり、(A)ポリベンズイミダゾール又はポリベンズイミダゾール誘導体、プロトン伝導性基が導入されたポリベンズイミダゾール又はポリベンズイミダゾール誘導体と、(B)カーボンナノチューブ又はプロトン伝導性基が導入されたカーボンナノチューブを含有する分散液である。
【0014】
従来、カーボンナノチューブは、水性溶媒にも非水性溶媒中にも高分散しなかったが、今回、ポリベンズイミダゾール又はポリベンズイミダゾール誘導体、プロトン伝導性基が導入されたポリベンズイミダゾール又はポリベンズイミダゾール誘導体が、カーボンナノチューブ又はプロトン伝導性基が導入されたカーボンナノチューブを高分散することを発見した。
【0015】
カーボンナノチューブを高分散する分散液により、従来困難であったカーボンナノチューブの均一系又は近均一系での化学的修飾反応が可能となり、カーボンナノチューブの用途の拡大に役立つ。
【0016】
ポリベンズイミダゾールやカーボンナノチューブを修飾する、前記プロトン伝導性基としては、硫黄及び/又はリンを含む酸性基が好ましく、スルホン酸基及び/又はリン酸基がより好ましく例示される。
【0017】
第2に、本発明は、上記分散液の製造方法の発明であり、(A)ポリベンズイミダゾール又はポリベンズイミダゾール誘導体、プロトン伝導性基が導入されたポリベンズイミダゾール又はポリベンズイミダゾール誘導体と、(B)カーボンナノチューブ又はプロトン伝導性基が導入されたカーボンナノチューブを有機溶媒中で攪拌混合することを特徴とする。
前記攪拌混合の方法は特に限定されないが、超音波照射により行うことが好ましい。
【0018】
第3に、本発明は、プロトン伝導性材料の発明であり、(A)ポリベンズイミダゾール又はポリベンズイミダゾール誘導体、プロトン伝導性基が導入されたポリベンズイミダゾール又はポリベンズイミダゾール誘導体と、(B)カーボンナノチューブ又はプロトン伝導性基が導入されたカーボンナノチューブを含有するプロトン伝導性材料である。
【0019】
ポリベンズイミダゾール自体はプロトン伝導性を有するが、カーボンナノチューブを高分散する分散液の発見により、補強材としてカーボンナノチューブが作用し、従来のように酸ドープすることなく、優れたプロトン伝導性と機械的強度を両立させたプロトン伝導性材料が得られた。
【0020】
第4に、本発明は、上記のプロトン伝導性材料を基材とする固体電解質膜である。
第5に、本発明は、上記固体電解質膜の製造方法の発明であり、(A)ポリベンズイミダゾール又はポリベンズイミダゾール誘導体、プロトン伝導性基が導入されたポリベンズイミダゾール又はポリベンズイミダゾール誘導体と、(B)カーボンナノチューブ又はプロトン伝導性基が導入されたカーボンナノチューブを有機溶媒中で攪拌混合し、分散液を製膜して得られる固体電解質膜の製造方法である。
前記攪拌混合を超音波照射により行うことが好ましいことは上述の通りである。
【0021】
第6に、本発明は、上記のプロトン伝導性材料を基材とする固体電解質膜を備えた固体高分子型燃料電池である。
【発明の効果】
【0022】
カーボンナノチューブを高分散する分散液の発見により、カーボンナノチューブの均一系又は近均一系での化学的修飾反応が可能となった。
【0023】
また、フッ素系電解質の代替となり、プロトン伝導性を有し、耐熱性等にも優れるポリベンゾイミダゾール(PBI)の機械的強度を向上させた、プロトン伝導性材料を得ることが可能となった。更に、非フッ素系樹脂のプロトン伝導性膜により、特に固体高分子型燃料電池に適した固体高分子電解質膜が得られた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明で言う「ポリベンズイミダゾール又はポリベンズイミダゾール誘導体、プロトン伝導性基が導入されたポリベンズイミダゾール又はポリベンズイミダゾール誘導体」は、下記一般式(I)で表される。
【0025】
【化1】

【0026】
ここで、一般式(I)中、Rは4価の芳香族基、Rは脂肪族基、脂環族基または芳香族基、R〜Rは同一または異なり、水素原子または炭素数2〜5のアルキルスルホン酸基(またはその塩)又はアルキルリン酸基(またはその塩)であり、かつR〜R中には繰り返し構造単位1ユニット中、0.1〜2個の水素原子、アルキルスルホン酸基(またはその塩)又はアルキルリン酸基(またはその塩)を含み、nは10〜10,000である。
【0027】
ポリベンズイミダゾール又はポリベンズイミダゾール誘導体の具体例を示す。
ポリベンズイミダゾールは下記一般式で表される。
【0028】
【化2】

【0029】
このポリベンズイミダゾールの具体例としては、ポリ−2,2′−(m−フェニレン)−5,5′−ビベンズイミダゾール、ポリ−2,2′−(ピリジレン−3′,5′)−5,5′−ビベンズイミダゾール、ポリ−2,2′−(フリレン−2′,5′)−5,5′−ビベンズイミダゾール、ポリ−2,2′−(ナフタレン−1′,6′)−5,5′−ビベンズイミダゾール、ポリ−2,2′−(ビフェニレン−4′,4′)−5,5′−ビベンズイミダゾール、ポリ−2,2′−(アミレン)−5,5′−ビベンズイミダゾール、ポリ−2,2′−(オクタメチレン)−5,5′−ビベンズイミダゾール、ポリ−2,2′−(m−フェニレン)−5,5′−ジイミダゾベンゼン、ポリ−2,2′−(m−フェニレン)−5,5′−ジ(ベンズイミダゾール)エーテル、ポリ−2,2′−(m−フェニレン)−5,5′−ジ(ベンズイミダゾール)スルフィド、ポリ−2,2′−(m−フェニレン)−5,5′−ジ(ベンズイミダゾール)スルホン、ポリ−2,2′−(m−フェニレン)−5,5′−ジ(ベンズイミダゾール)メタン、ポリ−2,2′−(m−フェニレン)−5,5′−ジ(ベンズイミダゾール)プロパン−2,2、ポリ−2,2′−(m−フェニレン)−5,5′−ジ(ベンズイミダゾール)−エチレン−1,2などが挙げられる。
【0030】
特には、R、Rがベンゼン環、ナフタレン環などのπ共役系の化合物を含むことが必要である。特に環状化合物であることが好ましい。
【0031】
これらの中で、下記一般式で表される、ポリ−2,2′−(m−フェニレン)−5,5′−ベンズイミダゾールがより好ましく例示される。
【0032】
【化3】

【0033】
ポリベンズイミダゾールの重合度(n)は、通常、10〜10,000、好ましくは20〜5,000であり、10未満では機械的強度が劣り問題となり、一方、10,000を超えると溶剤への溶解性が悪くなるため、キャスティングなどの成形性に問題が生じる場合がある。
【0034】
本発明で用いられる、プロトン伝導性基が導入されたポリベンズイミダゾール又はポリベンズイミダゾール誘導体は、上記ポリベンズイミダゾールにアルキルスルホン酸基やアルキルリン酸基を導入することにより得ることができる。アルキルスルホン酸基やアルキルリン酸基を導入する方法としては、公知の方法を採用することができる。
【0035】
本発明の分散液を製造される際に用いられる有機溶媒としては、「ポリベンズイミダゾール又はポリベンズイミダゾール誘導体、プロトン伝導性基が導入されたポリベンズイミダゾール又はポリベンズイミダゾール誘導体」を溶解するものであれば特に限定されない。溶媒量は「ポリベンズイミダゾール又はポリベンズイミダゾール誘導体、プロトン伝導性基が導入されたポリベンズイミダゾール又はポリベンズイミダゾール誘導体」を溶解するものであれば特に限定されない。
【0036】
有機溶剤の具体例としては、例えば、n−ヘキサンなどの炭化水素溶剤、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶剤、ジメチルアセトアミド(DMAC)、ジメチルホルムアミドのようなアミド系溶剤、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチル−2−ピロリドンなどが挙げられ、好ましくはジメチルスルホキシド(DMSO)である。
【0037】
重合体中のスルホ基又はリン酸基の対イオンとしては、プロトン、リチウム、ナトリウムなどのアルカリ金属、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属、アンモニア、有機アミンなど特に制限はない。プロトン伝導性高分子固体電解質として使用する場合には、対イオンはプロトンが好ましい。
【0038】
「プロトン伝導性基が導入されたポリベンズイミダゾール又はポリベンズイミダゾール誘導体」中の水素原子、スルホ基又はリン酸基量は、重合体を構成する1ユニットに対して、通常、0.1〜2個である。0.1個未満では、プロトン伝導性基の絶対数が少ないため、プロトン伝導性が上がらないなど充分な性能が得られず、2個を超えるものはポリベンズイミダゾールの構造上得難い。
【0039】
本発明で用いられるカーボンナノチューブ(CNT)としては、シングルウオールカーボンナノチューブ(SWNT)、ダブルウオールナノカーボンナノチューブ(DWNT)、マルチウオールカーボンナノチューブ(MWNT)などカーボンナノチューブ(CNT)類であれば種類はとわない。また、微細なカーボンファイバー(CF)などもこれに含む。
【0040】
本発明で採用する混合攪拌方法は特に限定されないが、超音波を照射することが好ましい。超音波の種類は特に限りはないが、バス型の超音波洗浄機で間接的に照射するよりも、プローブ型の振動子を直接溶媒の中に入れ、照射するほうがより効率的である。
【0041】
超音波照射時間としては、装置、分散させる量などにもよるが、1分〜3時間ほどが適当であり、特に10分から1時間程度が望ましい。
【0042】
分散溶液の回収方法は特に限定されないが、超音波照射後、望ましくは1000G〜150000Gで遠心分離し、上澄みを回収する方法が好ましく例示される。ただし、遠心分離の有無、遠心強度はこれに限定されない。
【0043】
プロトン伝導性高分子固体電解質膜を調製するには、例えば本発明の分散液をブレンドしたのち、キャスティングによりフィルム状に成形する方法、圧力をかけて成形するなどの方法が挙げられる。
【0044】
本発明のプロトン伝導性材料の用途として、高分子固体電解質が挙げられ、一次電池用電解質、二次電池用電解質、燃料電池用電解質、表示素子、エレクトロクロミック素子(窓)、各種センサー、信号伝達媒体、固体コンデンサーなどに利用可能である。
【0045】
他の用途としては、例えば塩化ナトリウムの電解膜、各種カチオンの交換樹脂(膜)、透析膜、ガス選択透過膜、水蒸気選択透過膜、抗血液凝固材料などの医療材料、電池用セパレーター、電極素子、電気化学センサー、帯電防止剤などが好ましく挙げられる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明の実施例を示す。
[実施例1:PBI−CNT分散液]
ポリ−2,2′−(m−フェニレン)−5,5′−ベンズイミダゾール20mgをジメチルスルホキシド(DMSO)10mlに加え溶解させる。そこに、シングルウオールカーボンナノチューブ(SWNT)を0.2mg加え、超音波を10分間照射し、混合攪拌し、均一な分散溶液を得た。
【0047】
図1に、得られたPBI−CNTを含むDMSO分散液のUV(紫外)−vis−NIR(近赤外)スペクトルを示す。本来、シングルウオールカーボンナノチューブには3個の異なる構造が知られているが、通常のシングルウオールカーボンナノチューブ非分散液又は低分散液では、これらのスペクトルはなだらかな曲線を描くのに対し、本実施例では三箇所にピークが見られることより、シングルウオールカーボンナノチューブがばらばらに高分散していることが分かる。
【0048】
[実施例2:PBI−CNT補強膜]
実施例1のように、ポリ−2,2′−(m−フェニレン)−5,5′−ベンズイミダゾール50mgをジメチルスルホキシド(DMSO)10mlに加え溶解させる。そこに、シングルウオールカーボンナノチューブ0.2mg加え、超音波を10分照射し分散させ、分散溶液を得た。
【0049】
この溶液を脱泡し、ガラス基盤の上にキャストで、100℃真空乾燥を行い、100μmの膜を得た。
【0050】
本実施例の膜(0.4wt%SWNT/PBI)の引っ張り強度(ヤング率)が1850MPaであったのに対して、PBI単独膜の引っ張り強度(ヤング率)は1630MPaであった。この比較より、CNTの混合でPBI膜の強度を向上できることが分かる。
【0051】
図2に、図1と同様に、得られたPBI+SWNTキャスト膜のUV(紫外)−vis−NIR(近赤外)スペクトルを示す。スペクトルが3個のピークを有することから、SWNTがPBI中に均一に分散していることが分かる。
【0052】
PBIに対するCNTの重量比(CNT/PBI(wt%))は、0.0001〜10wt%程度が好ましく、0.01〜5wt%がさらに好ましい。
【0053】
溶存、または気泡として存在する気体を液外へ排出する脱法方法は問わない。具体的には超音波、遠心、減圧などがあげられる。また、この工程はなくてもよい。
【0054】
製膜方法は、必要な膜厚に伸ばすことができれば特に問わない。具体的には溶液をスピンコートやドクターブレード、キャストなどで必要な厚さに伸ばす。
【0055】
乾燥方法は、溶媒を除去できれば特に問わない。具体的には減圧、過熱、風乾、などがある。
【0056】
[実施例3:PBI−化学修飾CNT]
CNTを酸官能基で修飾し、それをPBIと混合し、酸をドープする必要のないPBI電解質膜、もしくは触媒層の電解質として利用する。
【0057】
酸基を導入したCNTをPBI中に均一分散することによって、酸のドープが必要なくなる。酸のドープが必要なくなるのでPBI自体の膜強度の低下を抑制できるのに加え、CNTの混合によって機械的強度を向上することができる。
【0058】
このようにして得た化学修飾CNTをPBI中に分散させ、溶媒を蒸発させて固形分を電解質膜あるいは触媒層電解質として使用する。また、これに後工程でリン酸を含浸させても、もちろんよい。
【0059】
フッ素化カーボンナノチューブ(F−CNT)50mgをエチレンジアミン100mlにいれ、超音波洗浄機で15分攪拌した。それを80℃で24h攪拌し、CNT−(F)(NH−C−NHを得た。得たCNT−(F)(NH−C−NH10mgと1,3−プロパンスルトンを超音波洗浄機で15分攪拌し、125℃で3h反応させ、CNT−(F)(NH−C−NH2−SOH)を得た。
【0060】
CNT−(F)(NH−C−NH2−SOH)を実施例2と同様の方法でPBIと混合し、酸化学修飾CNT/PB1複合電解質を得ることができた。
【0061】
本実施例の酸化学修飾CNT/PB1複合電解質には、それ自体で優れたプロトン伝導性を有するので酸をドープする必要がないが、更に、本電解質に後工程でリン酸などを含浸させてもよい。
【0062】
まず、CNTを酸官能基で修飾する。修飾は直接CNTに化学結合をさせる(CNTの直接修飾方法)か、もしくはハロゲン化したCNTのハロゲンとの置換反応によって末端にスルホン酸、もしくはホスホン酸をもつ官能基などを修飾する(CNTの置換修飾方法)ことによって得る。図3に、化学修飾されたCNTの立体模式図を示す。
【0063】
CNTの直接修飾方法としては、末端に酸官能基が結合しているものをCNTに修飾できれば公知の方法でかまわないが、望ましくは求核反応、求電子反応、ラジカル反応が望ましい。CNTの置換修飾方法としては、F化、Cl化などハロゲン化されたCNTを原料とするのが望ましく、そのハロゲンとの置換反応を経由して、最終的に末端に酸官能基をCNTに修飾できれば公知の方法でかまわない。修飾官能基数としては、
CNT由来の炭素数/修飾されている官能基数(n+m or x+y)≦2
である。
【0064】
[実施例4:PBI−化学修飾CNT複合膜の酸漏れ出し評価]
PBI−化学修飾CNT複合膜からの酸漏れ出しが如何程であるか実験した。
【0065】
図4に、スルホン化SWNT(SWNT−SO)の合成法を示す。また、図5に、化学修飾CNTとしてスルホン化SWNTをPBIに混合して、スルホン化SWNT/PBI複合膜(複合フィルム)の作製法を示す。同様に、図6に、化学修飾CNTとしてスルホン化SWNTをPBIに混合して、スルホン化SWNT/PBI複合膜(複合フィルム)の作製工程を化学式で示す。
【0066】
得られたスルホン化SWNT/PBI複合膜(複合フィルム)を煮沸せずに蛍光X線測定による硫黄(S)含有量を測定したところ、0.05%であった。このスルホン化SWNT/PBI複合膜(複合フィルム)を6時間煮沸した後に蛍光X線測定による硫黄(S)含有量を測定したところ、0.05%であった。このように、煮沸前後で硫黄含有量に変化はないことから、酸の漏れ出しはなかったことが分かる。即ち、本発明のPBI−化学修飾CNT複合膜は酸漏れ出しがない系だと言える。
【産業上の利用可能性】
【0067】
カーボンナノチューブを高分散する分散液の発見により、カーボンナノチューブの均一系又は近均一系での化学的修飾反応が可能となった。また、フッ素系電解質の代替となり、プロトン伝導性を有し、耐熱性等にも優れるポリベンゾイミダゾール(PBI)の機械的強度を向上させた、プロトン伝導性材料を得ることが可能となった。更に、非フッ素系樹脂のプロトン伝導性膜により、特に固体高分子型燃料電池に適した固体高分子電解質膜が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】PBI−CNTを含むDMSO分散液のUV(紫外)−vis−NIR(近赤外)スペクトルを示す。
【図2】PBI+SWNTキャスト膜のUV(紫外)−vis−NIR(近赤外)スペクトルを示す。
【図3】化学修飾されたCNTの立体模式図を示す。
【図4】スルホン化SWNT(SWNT−SO)の合成法を示す。
【図5】化学修飾CNTとしてスルホン化SWNTをPBIに混合して、スルホン化SWNT/PBI複合膜(複合フィルム)の作製法を示す。
【図6】化学修飾CNTとしてスルホン化SWNTをPBIに混合して、スルホン化SWNT/PBI複合膜(複合フィルム)の作製工程を化学式で示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリベンズイミダゾール又はポリベンズイミダゾール誘導体、プロトン伝導性基が導入されたポリベンズイミダゾール又はポリベンズイミダゾール誘導体と、(B)カーボンナノチューブ又はプロトン伝導性基が導入されたカーボンナノチューブを含有する分散液。
【請求項2】
前記プロトン伝導性基が、硫黄及び/又はリンを含む酸性基であることを特徴とする請求項1に記載の分散液。
【請求項3】
前記プロトン伝導性基が、スルホ基及び/又はリン酸基であることを特徴とする請求項1に記載の分散液。
【請求項4】
(A)ポリベンズイミダゾール又はポリベンズイミダゾール誘導体、プロトン伝導性基が導入されたポリベンズイミダゾール又はポリベンズイミダゾール誘導体と、(B)カーボンナノチューブ又はプロトン伝導性基が導入されたカーボンナノチューブを有機溶媒中で攪拌混合することを特徴とする分散液の製造方法。
【請求項5】
前記攪拌混合を超音波照射により行うことを特徴とする請求項4に記載の分散液の製造方法。
【請求項6】
(A)ポリベンズイミダゾール又はポリベンズイミダゾール誘導体、プロトン伝導性基が導入されたポリベンズイミダゾール又はポリベンズイミダゾール誘導体と、(B)カーボンナノチューブ又はプロトン伝導性基が導入されたカーボンナノチューブを含有するプロトン伝導性材料。
【請求項7】
前記プロトン伝導性基が、硫黄及び/又はリンを含む酸性基であることを特徴とする請求項6に記載のプロトン伝導性材料。
【請求項8】
前記プロトン伝導性基が、スルホ基及び/又はリン酸基であることを特徴とする請求項6に記載のプロトン伝導性材料。
【請求項9】
請求項6乃至8のいずれかに記載のプロトン伝導性材料を基材とする固体電解質膜。
【請求項10】
(A)ポリベンズイミダゾール又はポリベンズイミダゾール誘導体、プロトン伝導性基が導入されたポリベンズイミダゾール又はポリベンズイミダゾール誘導体と、(B)カーボンナノチューブ又はプロトン伝導性基が導入されたカーボンナノチューブを有機溶媒中で攪拌混合し、分散液を製膜して得られる固体電解質膜の製造方法。
【請求項11】
前記攪拌混合を超音波照射により行うことを特徴とする請求項10に記載の固体電解質膜の製造方法。
【請求項12】
請求項6乃至8のいずれかに記載のプロトン伝導性材料を基材とする固体電解質膜を備えた固体高分子型燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−13374(P2009−13374A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−179887(P2007−179887)
【出願日】平成19年7月9日(2007.7.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】