説明

分散液及びその使用

(A)水、(B)(a)フェニル部分;(b)カルボニル部分及び/又はスルホン部分;及び(c)エーテル部分及び/又はチオエーテル部分を含む型のポリマー系材料、(C)カルボニル部分又はスルホン部分及び親水性基を含む表面活性剤を含有して成る水性分散液。好ましい実施形態は、スルホコハク酸アルキルである表面活性剤と結合したポリケトンに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散液及びその使用に関する。特に、排他的ではないが、本発明は、ポリアリールエーテルケトン又はスルホンのポリマー又はコポリマーを含む水性分散液、及び基材のコーティングにおけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアリールエーテルケトン及びスルホンのポリマー又はコポリマーは、コーティングとして基材に施すことが、多くの他の機能性コーティングと比べ、より困難であり得る。これは、たいてい、高い加工処理温度、低い樹脂延伸性及び急速結晶化反応速度の組み合わせによるものである。例えば、ポリエーテルエーテルケトンは340℃で融解し、380℃〜400℃の加工処理温度範囲を有する。ポリエーテルエーテルケトンコーティングが施される基材は、このような加工処理温度に少なくとも1時間、耐えることができなければならない。さらに、基材は、気体を放出したり、遊離性又は脆性の表面酸化物を形成したりするものであってはならない。
【0003】
ポリアリールエーテルケトン又はスルホンのポリマー又はコポリマー以外のポリマー系材料に関して、ポリマー系材料の水性分散液を形成すること、及び基材上にコーティングを形成するためにこのような分散液を使用することが知られている。しかしながら、ポリアリールエーテルケトン及びスルホンは、容易に水中に分散され得ず、コーティングにおいて使用できない。
【0004】
出願人は、ポリアリールエーテルケトン又はスルホンのポリマー又はコポリマーの市販の水性分散液は全く知らない、及び/又はこのような分散液の基材のコーティングにおける使用を知らない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記課題に取り組むことである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様により、
(A) 水;
(B)(a) フェニル部分;
(b) カルボニル部分及び/又はスルホン部分;及び
(c) エーテル部分及び/又はチオエーテル部分;
を含む型のポリマー系材料;ならびに
(C) カルボニル又はスルホン部分及び親水性基を含む表面活性剤
を含有して成る水性分散液が提供される。
【0007】
表面活性剤のカルボニル又はスルホン部分が、ポリマー系材料のカルボニル部分及び/又はスルホン部分と相互作用し得、それによりポリマー系材料及び表面活性剤が相溶化される;次いで、表面活性剤の親水性基がポリマー系材料/ 表面活性剤を水と相溶化させると考えられる。
【0008】
上記ポリマー系材料は、好ましくは下記式の部分
【0009】
【化1】

【0010】
及び/又は下記式の部分
【0011】
【化2】

【0012】
及び/又は下記式の部分
【0013】
【化3】

【0014】
を有するものである。
式中、単位I、II及びIIIにおけるフェニル部分は独立して任意に置換及び任意に架橋される。ここで、m,r,s,t,v,w及びzは独立して0又は正の整数を表し、E,E' は独立して酸素原子又は硫黄原子又は直接結合を表し、Gは酸素原子もしくは硫黄原子、直接結合又はO−Ph−O−部分を表し、Phはフェニル基を表し、Arは、1つ以上のフェニル部分を介して隣接する部分に結合する以下の部分(i)、(i)**、(i)〜(x)
【0015】
【化4】

【0016】
の一つから選択される。
本明細書において特に記載のない限り、フェニル部分は、それが結合している部分への1,4−又は1,3−結合、特に1,4−結合を有し得る。
【0017】
(i)において、中央のフェニルは1,4−又は1,3−置換されていてもよい。
上記のポリマー系材料は、1つ以上の異なる種類の式Iの反復単位、1つ以上の異なる種類の式IIの反復単位、及び1つ以上の異なる種類の式IIIの反復単位を含み得る。しかしながら、好ましくは式I、II及び/又はIIIの1つの反復単位のみが提供される。
【0018】
上記部分I,II,IIIは、好ましい反復単位である。ポリマー系材料中において、単位I、単位II及び/又は単位IIIは、互いに適切に結合している。すなわち、単位
I、単位II、及び単位IIIの間には他の原子又は基は結合されていない。
【0019】
単位I、単位II又は単位IIIにおけるフェニル部分が任意に置換される場合、フェニル部分は1つ以上のハロゲン、特にフッ素及び塩素原子、又はアルキル、シクロアルキル、又はフェニル基により任意に置換され得る。好ましいアルキル基はC1−10、特にC1−4アルキル基である。好ましいシクロアルキル基は、シクロヘキシルと、例えばアダマンチルのような多環基(multicyclic group )とを含む。
【0020】
単位I、単位II又は単位IIIにおけるフェニル部分の任意の置換基の別の基は、アルキル、ハロゲン、yが0以上の整数であるC2y+1、O−R(Rはアルキル、ペルフルオロアルキル及びアリールから成る群から選択される)、CF=CF2、CN、NO及びOHを含む。トリフルオロメチル化されたフェニル部分が好ましい状況もあり得る。
【0021】
好ましくは、上記フェニル部分は、上記のように任意選択で置換されたものでない。
上記のポリマー系材料が架橋処理される場合、ポリマー系材料は、特性を改良するため、好適に架橋処理(cross-linked)される。架橋を行うためには、任意の適当な手段が用いられ得る。例えば、Eが硫黄原子を表す場合は、ポリマー鎖間の架橋は、それぞれの鎖上の硫黄原子を介して行われ得る。好ましくは、上記のポリマー系材料は記載されるように任意に架橋処理されない。
【0022】
w及び/又はzが0より大きい場合、式II及び/又は式IIIの反復単位において、各フェニレン部分は独立して他の部分への1,4−又は1,3−結合を有し得る。好ましくは、上記フェニレン部分は1,4−結合を有する。
【0023】
好ましくは、ポリマー系材料のポリマー鎖は−S−部分を含まない。好ましくは、Gは直接結合を表す。
好ましくは、「a」は、上記のポリマー系材料における式Iのモル%を表し、好ましくは、各単位Iは同一である。「b」は上記のポリマー系材料における式IIのモル%を表し、好ましくは、各単位IIは同一である。「c」はポリマー系材料における式IIIのモル%を表し、好ましくは、各単位IIIは同一である。好ましくは、aは、45〜100の範囲、より好ましくは45〜55の範囲、特に48〜52の範囲にある。好ましくは、b及びcの合計は0〜55の範囲、より好ましくは45〜55の範囲、特に48〜52の範囲にある。好適には、a対b及びcの合計の比率は0.9〜1.1の範囲にあり、より好ましくは約1である。好ましくは、a、b及びcの合計は、少なくとも90であり、好ましくは、少なくとも95であり、より好ましくは少なくとも99、特に約100である。好ましくは、上記の第1材料は本質的に部分I、部分II及び/又は部分IIIから成る。
【0024】
上記のポリマー系材料は、一般式IVの反復単位を有するホモポリマー
【0025】
【化5】

【0026】
又は、一般式Vの反復単位を有するホモポリマー
【0027】
【化6】

【0028】
又は式IV及び/又は式Vの少なくとも2つの異なる単位を含むランダムコポリマー又はブロックコポリマーであり得る。
式中、A、B、C及びDは独立して0又は1を表し、E,E' ,G,Ar,m,r,s,t,v,w及びzは本明細書中のいずれかの文に記載されているのと同様である。
【0029】
上述した単位IV及び/又は単位Vを含むポリマー系材料の代わりとして、上記のポリマー系材料は化学式の反復単位を有するホモポリマー
【0030】
【化7】

【0031】
又は化学式Vの反復単位を有するホモポリマー
【0032】
【化8】

【0033】
又は、式IV及び/又は式Vの少なくとも2つの異なる単位を有するランダムコポリマー又はブロックコポリマーであり得る。式中、A、B、C及びDは独立して0又は1を表し、E,E' ,G,Ar,m,r,s,t,v,w及びzは本明細書中のいずれかの文に記載されている通りである。
【0034】
好ましくは、mは0〜3の範囲、より好ましくは0〜2の範囲、特に0〜1の範囲にある。好ましくは、rは0〜3の範囲、より好ましくは0〜2の範囲、特に0〜1の範囲にある。好ましくは、tは0〜3の範囲、より好ましくは0〜2の範囲、特に0〜1の範囲にある。好ましくは、sは0又は1である。好ましくはvは0又は1である。好ましくは、wは0又は1である。好ましくはzは0又は1である。
【0035】
上記のポリマー系材料は、一般式IVの反復単位を有するホモポリマーである。
好ましくは、Arは以下の部分(xi),(xi)**、(xi)〜(xxi)から選択される。
【0036】
【化9】

【0037】
(xi)において、中央のフェニルは1,4−又は1,3−置換されていてもよい。
好ましくは、(xv)は1,2−の部分、1,3−の部分、又は1,5−の部分から選択され、(xvi)は1,6−の部分、2,3−の部分、2,6の−部分、又は2,7−
の部分から選択され、(xvii)は1,2−の部分、1,4−の部分、1,5−の部分、1,8−の部分、又は2,6−の部分から選択される。
【0038】
一つの好ましいクラスのポリマー系材料は、式IIIの部分は少しも含まず、式I及び/又はIIの部分を好適に含むに過ぎない。上述されたように、上記ポリマー系材料がホモポリマー、又はランダムコポリマー、又はブロックコポリマーである場合、上記のホモポリマー又はコポリマーは、一般式IVの反復単位を好適に含む。このようなポリマーは、いくつかの実施の形態において、一般式Vの反復単位を少しも含まなくてもよい。
【0039】
好適なAr部分は、部分(i)、(i)、(ii)、(iii)及び(iv)であり、これらのうち、部分(i)、(i)及び(iv)が好ましい。他の好ましいAr部分は、部分(xi)、(xii)、(xi)、(xiii)及び(xiv)であり、これらのうち、部分(xi)、(xi)及び(xiv)が特に好ましい。
【0040】
特に好ましいクラスのポリマー系材料は、ケトン部分及び/又はエーテル部分と結合したフェニル部分から本質的に成るポリマー(又はコポリマー)である。すなわち、好ましいクラスにおいて、ポリマー系材料は、−S−又はフェニル以外の芳香族基を含む反復単位を含まない。上記の型の好ましいポリマー系材料としては、
(a) Arが部分(iv)を表し、E及びE' が酸素原子を表し、mが0を表し、wが1を表し、Gが直接結合を表し、sが0を表し、A及びBが1を表す式IVの単位を含有するポリマー(すなわち、ポリエーテルエーテルケトン);
(b) Eが酸素原子を表し、E' が直接結合を表し、Arが構造(i)である部分を表し、mが0を表し、Aが1を表し、Bが0を表す式IVの単位を含有するポリマー(すなわち、ポリエーテルケトン);
(c) Eが酸素原子を表し、Arが部分(i)を表し、mが0を表し、E' が直接結合を表し、Aが1を表し、Bが0を表す式IVの単位を含有するポリマー(すなわち、ポリエーテルケトンケトン);
(d) Arが部分(i)を表し、E及びE' が酸素原子を表し、Gが直接結合を表し、mが0を表し、wが1を表し、rが0を表し、sが1表し、A及びBが1を表す式IVの単位を含有するポリマー(すなわち、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン);
(e) Arが部分(iv)を表し、E及びE' が酸素原子を表し、Gが直接結合を表し、mが0を表し、wが0を表し、s、r、A及びBが1を表す式IVの単位を含有するポリマー(すなわち、ポリエーテルエーテルケトンケトン);
(f) Eが酸素原子を表し、E' が直接結合を表し、Arが構造(ii)である部分を表し、mが0を表し、Aが1を表し、Bが0を表す式IVの単位を含有するポリマー(すなわち、ポリエーテルスルホン);
(g) E及びE' が酸素原子を表し、Arが部分(xi)**を表し、mが0を表し、zが1を表し、Gが直接結合を表し、Vが0を表し、C及びDが1を表す式Vの単位を含有するポリマー(すなわち、ポリスルホン);
(h) Arが部分(iv)を表し、E及びE' が酸素原子を表し、mが1を表し、wが1を表し、Aが1を表し、Bが1を表し、r及びsが0を表し、Gが直接結合を表す式IVの単位を含有するポリマー(すなわち、ポリエーテルジフェニルエーテルフェニルケトンフェニル−)
が挙げられる。
【0041】
上記ポリマー系材料は、好ましくは半結晶性である。ポリマーにおける結晶化度のレベル及び程度は、好ましくは、例えばブランデル(Blundell)及びオズボーン(Osborn)により記載されたもの(Polymer 24, 953, 1983 )のような広角X線回折(広角X線散乱又はWAXSとも呼ばれる)によって測定される。あるいはまた、結晶化度は、示差走査熱量測定(DSC)により評価され得る。
【0042】
上記ポリマー系材料における結晶化度のレベルは、少なくとも1%、好適には少なくとも3%、好ましくは少なくとも5%、より好ましくは少なくとも10%であり得る。特に好ましい実施の形態では、結晶化度は、30%より大きく、より好ましくは40%、特に45%であり得る。
【0043】
上記ポリマー系材料のガラス転移温度(T)は、少なくとも140℃、好適には少なくとも144℃、好ましくは少なくとも154℃、より好ましくは少なくとも160℃、特に少なくとも164℃であり得る。場合によっては、Tgは、少なくとも170℃、又は少なくとも190℃、又は250℃より高い、又は300℃でさえあり得る。
【0044】
上記ポリマー系材料は、少なくとも0.1、好適には少なくとも0.3、好ましくは少なくとも0.4、より好ましくは少なくとも0.6、特に少なくとも0.7(これは、最小(least) 0.8の還元粘度(RV)に相当する)の固有(inherent)粘度(IV)を有し得る。ここで、RVは、密度1.84gcm−3の濃硫酸中のポリマー溶液にて25℃で測定される(該溶液は、溶液100cm−3あたり1gのポリマーを含有する)。IVは、密度1.84gcmの濃硫酸中のポリマー溶液にて25℃で測定される(該溶液は、溶液100cmあたり0.1gのポリマーを含有する)。
【0045】
RV及びIVの両方の測定はともに、好適には、およそ2分の溶媒流下(flow)時間を有する粘度計を用いる。
上記ポリマー系材料(結晶性の場合)の融解吸熱(Tm)の主要ピークは、少なくとも300℃であり得る。
【0046】
上記ポリマー系材料は、上記規定の単位(a)〜(h)のうちの1つから本質的に成るものであり得る。あるいは、上記ポリマー系材料は、上記規定の(a)〜(h)から選択される少なくとも2種類の単位を含有するコポリマーを含有し得る。好ましいコポリマーは、単位(a)を含む。例えば、コポリマーは単位(a)及び(h)を含有し得、又は単位(a)及び(e)を含有し得る。
【0047】
好ましい実施の形態では、上記ポリマー系材料は、ポリエーテルエーテルケトン及びポリエーテルケトンから選択される。特に好ましい実施の形態では、上記ポリマー系材料はポリエーテルエーテルケトンである。
【0048】
上記表面活性剤について、上記表面活性剤の上記カルボニル基の残りの2つの原子の手の一方は炭素原子に結合され得る。好ましくは、残りの2つの原子の手の他方は炭素、窒素又は酸素原子に結合され得る。したがって、上記表面活性剤の上記カルボニル基は、ケトン基、又はカルボキシレートもしくはイミド部分の一部であり得る。好ましくは、上記表面活性剤の上記カルボニル基はカルボキシレート部分の一部である。このような部分内のエーテル酸素原子の存在は、表面活性剤とポリマー系材料間の相互作用を促進し得る。
【0049】
表面活性剤がスルホン部分を含む場合、残りの2つの原子の手の一方は炭素原子に結合され得る。好ましくは、残りの2つの原子の手の他方は、炭素又は窒素原子に結合され得る。しかしながら、より好ましくは、上記スルホン部分の残りの2つの原子の手の各々が、それぞれ炭素原子に結合される。
【0050】
上記ポリマー系材料がカルボニル部分を含む場合、上記表面活性剤は、好ましくは、記載の型のカルボニル部分を含む。上記ポリマー系材料がカルボニル部分及びスルホン部分を含む場合、上記表面活性剤は、好ましくは、記載の型のカルボニル部分を含む。上記ポリマー系材料がカルボニル部分をまったく含まない場合、上記表面活性剤は、記載の型の
カルボニル部分又はスルホン部分を含み得る。
【0051】
好ましくは、上記表面活性剤はカルボニル部分及び親水性基を含む。好ましくは、上記表面活性剤は、その上記親水性基内以外にスルホン部分を含まない。
上記表面活性剤は、好ましくは疎水性部分を含む。該疎水性部分は、好ましくは、少なくとも4個、好ましくは少なくとも6個、より好ましくは少なくとも7個、特に少なくとも8個の炭素原子を有する炭素原子含有鎖を含む。該鎖は、環式部分の一部であり得る。しかしながら、好ましくは、上記炭素原子含有鎖は、直鎖又は分枝鎖である。上記鎖内の炭素原子は、任意選択で置換されていてもよい。該鎖内の炭素原子は、任意選択で置換された(好ましくは非置換の)アルキル基を規定し得る。好ましくは、上記鎖内の炭素原子のみが飽和している。
【0052】
上記表面活性剤は、好ましくは、C〜C16、好ましくはC〜C12、より好ましくはC〜C10の疎水性部分を含む。該部分は、好ましくは、脂肪族の直鎖又は分枝鎖である。該部分は、好ましくは飽和している。
【0053】
上記表面活性剤は、記載の型の疎水性部分を1つより多く含み得る。好ましくは、上記表面活性剤は、2つ以下の疎水性部分を含む。より好ましくは、上記表面活性剤は、好ましくは少なくとも一部が表面活性剤の他の部分(特に上記のカルボニル又はスルホン部分)により離隔された2つの疎水性部分を含む。
【0054】
上記親水性基は、イオン性部分及び非イオン性部分から選択され得る。
上記親水性基がイオン性部分を含む場合、該親水性基は、好ましくはカチオン性部分及びアニオン性部分を含む。上記親水性基としては、好ましくは、−COO、−SO−又はPO2−部分が挙げられる。−SO−部分は、スルホネートの一部(例えば、−SO−が炭素原子に結合している場合)又はスルフェートの一部(すなわち、−O−SO)であり得る。−PO2−部分は、好ましくはホスフェートの一部(すなわち、−OPO2−)である。
【0055】
好ましくは、上記親水性基は、−SO(特にスルホネート)部分を含む。
親水性基は、好適には、第I族及び第II族金属イオンから選択され得る適切なカチオン性部分を含む。ナトリウム及びカリウム、特にナトリウムは好ましいカチオン性部分である。
【0056】
界面活性剤は、記載の型のイオン性部分を1個より多く含み得るが、好ましくは1個の該部分を含む。
上記親水性基は、芳香族部分、例えばフェニル部分からペンダントしたものであり得る。しかしながら、好ましくは、脂肪族部分からペンダントしたものである。
【0057】
上記親水性基が非イオン性部分を含む場合、該部分は、エーテル官能基又はヒドロキシ官能基を含み得る。上記親水性基は、各々が独立してエーテル及びヒドロキシ基から選択され得る少なくとも2個の離隔された官能基を含み得る。上記親水性基は、アルキレンオキシ(例えば、エチレンオキシ又はプロピレンオキシ、特にエチレンオキシ)部分及びヒドロキシ基から選択され得る。上記親水性基は、1個以上のアルキレンオキシ基又はヒドロキシ基を含み得る。
【0058】
上記表面活性剤は一般式:
A−L1−X−L2−B
(式中、
Aは上記疎水性部分を表す;
L1は連結原子もしくは連結基又は直接結合を表す;
Xは上記カルボニル部分又はスルホン部分を表す;
L2は連結原子もしくは連結基又は直接結合を表す;及び
Bは上記親水性部分を表す)
を有し得る。
【0059】
Aは、好ましくは、上記のC〜C16の疎水性部分を表す。
L1は、直接結合(その場合、上記疎水性部分がX部分に直接結合される)であり得るか、又はO−部分を含み得る。
【0060】
好ましくは、L1は−O−部分を含む。このような部分は別の部分の一部であってもよく、又はL1は−O−部分から成るものであってもよい。
一つの実施の形態において、L1は、式
−[O(CHn1m1−O−
(式中:
n1は1〜4の範囲である;及び
m1は0〜5の範囲である)
の部分を含有し得る。
【0061】
好ましくは、n1は2であり、m1は0〜3の範囲である。
より好ましくは、m1は0である。
Xは、好ましくはカルボニル部分を表す。
【0062】
L2は、好ましくは、連結又は原子又は基を表す。L2は、好ましくは、親水性部分(例えば、−SO部分)をカルボニル部分又はスルホニル部分と離隔(space) させる。L2はフェニル部分であり得、その場合、親水性部分が該フェニル部分の環内の1つの位置からペンダントし得、Xが該フェニル部分の環内の別の位置からペンダントし得る。しかしながら、好ましくは、L2は、カルボニル部分又はスルホン部分の炭素原子又は硫黄原子のそれぞれと上記親水性部分(例えば、該部分が−SOの場合の硫黄原子)との間に配置される1個又は2個(好ましくは1個だけ)の原子(1種類又は複数)(好ましくは1個又は2個の炭素原子)を含む。
【0063】
L2は、カルボニル部分又はスルホン部分を含み得る。これにより、表面活性剤とポリマー系材料間の相溶性の程度が増加し得る。好ましくは、L2は、カルボニル部分を含む。L2は疎水性部分を含み得る。このような部分は、例えばL1に関する上記の疎水性部分の任意の特徴を有し得る。
【0064】
L2は、部分
A−L1−X−
(式中、A、L1及びXは上記のとおりである)
と一体化していてもよい。
【0065】
上記表面活性剤が記載のように一般式A−L1−X−L2−Bを有し、記載のようにL2が部分A−L1−X−と一体化している場合、好ましくは、A、L1及びXは、A−L1−X−L2−B及びA−L1−Xの両方において、それぞれ同じ原子又は基を表す。
【0066】
L2は、部分
A−L1−X−L3−
(式中、L3は連結原子もしくは連結基又は直接結合である)
と一体化していてもよい。
【0067】
好ましくは、L3は、1〜5個、好ましくは1〜3個、特に2個の炭素原子を含み得る連結基である。L2は、好ましくは飽和アルキリル残基である。
好ましくは、上記表面活性剤は、式
【0068】
【化10】

【0069】
(式中、A、L1及びXは、各々、同じであっても異なってもよいが、好ましくは同じである)のものである。好ましくは、式中、AはC〜C16の疎水性部分であり、L1は酸素原子であり、Xはカルボニル基であり、L3は−(CHn3−部分(式中、n3は1〜5、好ましくは2である)であり、Bは好ましくは−SO部分を含む。Bは、ナトリウム又はカリウムのカチオンを含み得る。
【0070】
上記表面活性剤は、好適には、スルホコハク酸アルキル、好ましくはスルホコハク酸ジアルキルである。
上記表面活性剤は、ジオクチルスルホコハク酸塩、ジトリデシルスルホコハク酸塩、ジイソブチルスルホコハク酸塩、ジヘキシルスルホコハク酸塩、ジメチルアミルスルホコハク酸塩、ジアミルスルホコハク酸塩及びイソデシルスルホコハク酸塩から選択され得る。前述のものうちナトリウム塩が好ましい。
【0071】
特に好ましい表面活性剤はジオクチルスルホコハク酸塩、特にジオクチルスルホコハク酸ナトリウムである。
上記水性分散液は、少なくとも35wt%、好ましくは少なくとも40wt%、より好ましくは少なくとも45wt%、特に少なくとも50wt%の水を含み得る。
【0072】
上記分散液は、80wt%未満、好適には75wt%未満、好ましくは70wt%未満、より好ましくは65wt%未満、特に60wt%未満の水を含み得る。
上記水性分散液は、少なくとも1wt%、好適には少なくとも2wt%、好ましくは少なくとも2.5wt%、より好ましくは少なくとも3wt%、特に少なくとも3.5wt%の上記表面活性剤を含み得る。
【0073】
上記水性分散液は、15wt%未満、好適には12wt%未満、好ましくは10wt%未満、より好ましくは8wt%未満、特に6wt%未満の上記表面活性剤を含み得る。
上記水性分散液は、少なくとも10wt%、好適には少なくとも15wt%、好ましくは少なくとも20wt%、より好ましくは少なくとも25wt%、特に少なくとも30wt%の上記第1の態様の(B)に記載のポリマー系材料(1種類又は複数)を含み得る。
【0074】
上記水性分散液は、60wt%未満、好適には50wt%未満、好ましくは45wt%未満、より好ましくは40wt%未満の(B)に記載のポリマー系材料(1種類又は複数)を含み得る。
【0075】
上記水性分散液は、1種類より多い異なる型のポリマー系材料を含み得る。例えば、1種類より多い異なる型の(B)に記載のポリマー系材料が含まれ得る。任意選択で、上記水性分散液は、(B)に記載の上記材料と比べると異なる型の第2のポリマー系材料を含
み得る。該第2のポリマー系材料のwt%の(B)に記載の型のポリマー系材料(1種類又は複数)のwt%に対する比は、好ましくは1以下である。該分散液は、上記第2のポリマー系材料を0〜20wt%、好ましくは0〜10wt%含み得る。
【0076】
上記第2のポリマー系材料はフルオロポリマーであり得る。
好ましくは、上記分散液中のポリマー系材料(1種類又は複数)は単独で、上記第1の態様の(B)に記載の型のものである。
【0077】
(B)に記載の上記ポリマー系材料は、100μm未満、好ましくは60μm未満、より好ましくは40μm未満、特に20μm未満のD50を有し得る。D50は、1μmより大きくてもよい。
【0078】
本明細書でいうD50は、レーザー回折により、例えば、シンパティック社のHelos (H0476) RODOSアナライザをシンパティックゲーエムベーハー社(ドイツ)のWindoxソフトウェアとともに用いて測定され得る。
【0079】
上記水性分散液は、ヒドロキシル基含有材料、例えば、ヒドロキシル基含有溶媒を含み得る。上記水性分散液は、このような材料を0〜3wt%、好適には0〜1.5wt%含み得る。上記ヒドロキシル基含有材料は、1〜6個、好ましくは1〜4個、特に1又は2個の炭素原子を含み得る。このような材料は、好ましくは飽和している。このような材料は、好ましくは、120未満、好ましくは100未満、より好ましくは80未満、特に60未満の分子量を有する。該材料は、3個まで、好ましくは2個まで、より好ましくは1個だけのヒドロキシル基を含み得る。該材料は、好ましくはアルコール、より好ましくは一価アルコールである。C1〜3のアルコール、特にエタノールが好ましい。
【0080】
上記水性分散液は、他の添加剤を0〜10wt%、好適には0〜5wt%含み得る。該他の添加剤は、粒子状で上記分散液に不溶性であり得る。例としては、ガラス粒子、セラミック粒子、金属粒子、炭素粒子、鉱物粒子及び顔料が挙げられる。好適な粒子の具体例としては、ガラスビーズ、ガラスマイクロスフェア、ガラス繊維、シリカ粒子、ランダムガラスマイクロファイバー、カーボンブラック、二酸化チタン粒子、チタン酸バリウム粒子、二硫化モリブデン及び雲母が挙げられる。
【0081】
好ましい実施の形態において、上記水性分散液は、
(A) 水50〜70wt%;
(B) ポリエーテルエーテルケトン又はポリエーテルケトン30〜50wt%;
(C) カルボキシレート部分、アルキル部分及びスルホネート部分を含む表面活性剤2〜6wt%
を含有して成る。
【0082】
本発明の第2の態様により、
(A)水;
(B)上記第1の態様による(B)に記載のポリマー系材料(特にポリエーテルエーテルケトン又はポリエーテルケトン)、ここで、該ポリマー系材料は100μm未満(特に50μm未満)のD50を有する;及び
(C)上記第1の態様による(C)に記載の表面活性剤
を含有して成る水性分散液が提供される。
【0083】
第2の態様の水性分散液は、必要な変更を加えて、第1の態様の分散液の任意の特徴を有し得る。
本発明の第3の態様により、水、上記第1の態様に記載のポリマー系材料及び表面活性
剤を接触させる工程を含む、水性分散液を調製する方法が提供される。
【0084】
該方法は、好ましくは、水と上記表面活性剤を接触させること、好ましくはこれらの成分を混合すること、及び続いて水と該表面活性剤との混合物を上記ポリマー系材料と接触させることを含む。
【0085】
該方法において水との接触のために選択される上記表面活性剤は、表面活性剤配合物の一部であってもよい。このような配合物は、上記第1の態様に記載の上記表面活性剤及びヒドロキシル基含有材料を含み得る。配合物における該材料の該表面活性剤に対するwt%の比は、0〜0.2、好ましくは0〜0.15、特に0〜0.12の範囲であり得る。上記表面活性剤配合物は、水を例えば10〜25wt%、例えば15〜20wt%の水を含み得る。
【0086】
好ましくは、上記水と上記表面活性剤との接触は、10〜40℃、好ましくは15〜30℃の範囲の温度、より好ましくは常温で行なわれる。好ましくは、上記水及び表面活性剤の上記混合物の接触は、10〜40℃、好ましくは15〜30℃の範囲の温度、より好ましくは周囲温度で行なわれる。
【0087】
好ましくは、上記分散液は、水、上記ポリマー系材料及び上記表面活性剤の混合物を高剪断混合に供することによって好ましく調製される。
本発明の第4の態様により、基材を、第1又は第2の態様による水性分散液、又は上記第3の態様により調製した場合の水性分散液と接触させることを含む、基材をコーティングする方法が提供される。
【0088】
上記基材は、好ましくは、鋼(ステンレス鋼を含む)、アルミニウム及び銅から好ましく選択される金属から作られたものである。
上記分散液は、好ましくは、上記基材との接触直前で10〜40℃、好ましくは15〜30℃の範囲の温度、より好ましくは周囲温度である。
【0089】
上記基材は、好ましくは、上記分散液との接触直前で10〜40℃、好ましくは15〜30℃の範囲の温度、より好ましくは周囲温度である。
上記基材と水性分散液との接触後、該方法は、好ましくは、水を基材上の分散液から除去させる工程を含む。水を、好ましくは、蒸散(flash off) させる。これは、基材を、温度が少なくとも100℃であり、好ましくは100℃〜150℃の範囲である環境に供することを伴う。
【0090】
水の除去後、分散液をその上面に有する上記基材を、好ましくは、ポリマー系材料の融解及び流動を引き起こすように調整した温度に供する。基材は、350℃〜450℃の範囲の温度に供し得る。
【0091】
該方法において、100μm未満、好ましくは80μm未満、より好ましくは50μm未満の平均厚さを有する第1のコーティング層が上記のようにして作製され得る。厚さは少なくとも10μmであり得る。厚さは、好ましくは15〜40μmの範囲である。
【0092】
該方法は、第1のコーティング層の作製後に第2のコーティング層の作製を含み得る。第2のコーティング層の作製は、上記第1のコーティング層の作製について記載した工程の使用を伴い得る。該第2のコーティング層は、上記第1のコーティング層について記載した厚さを有し得る。
【0093】
上記第4の態様の方法を使用して、15〜120μmの範囲、好ましくは15〜100
μmの範囲の平均厚さを有するコーティングを作製し得る。
該方法を使用して、使用時に(in use)液体中に浸漬され得る基材をコーティングし得る。この場合、好ましくは、基材の浸漬され得る部分を上記コーティング内に包被(encapsulate) し、その結果、該部分は、使用時に液体と接触し得るコーティング周縁部を含まない。
【0094】
本発明の第5の態様により、第4の態様による方法においてコーティングされた基材が提供される。好ましくは、該基材は、上記の厚さのコーティングを有する。
本発明の第6の態様により、上記第1の態様の(B)に記載のポリマー系材料及び上記第1の態様の(C)に記載の表面活性剤の残基を含有するコーティングが提供される。
【0095】
本明細書に記載の任意の発明、又は実施の形態の任意の態様の任意の特徴を、必要な変更を加えた本明細書に記載の任意の発明又は実施の形態の他のものの任意の態様の任意の特徴と組合せ得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0096】
本発明の具体的な実施形態を、実施例により以下に記載する。
下記のものは、以下のとおりのものを指す。
PEEK D150UF10(商標)−ビクトレックス株式会社(英国)から入手した9.6μmのD50を有するポリエーテルエーテルケトン粉末。
【0097】
PEEK 150XF(商標)−ビクトレックス株式会社(英国)から入手した25μmのD50を有するポリエーテルエーテルケトン粉末。
PEEK D450UF10(商標)−ビクトレックス株式会社(英国)から入手した10μmのD50を有するポリエーテルエーテルケトン粉末。
【0098】
PEEK HT(商標)−10μmのD50を有するポリエーテルケトン粉末。
Aerosol(登録商標) OT75%E−ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム(73〜75wt%)、エタノール(6〜7wt%)及び水の混合物を含有するサイテックインダストリーズUKリミテッド( Cytec Industries UK Ltd) 製の界面活性剤。
【0099】
ポリマーの水性分散液を、実施例1〜6に記載のようにして調製した。
【実施例1】
【0100】
プラスチック製5000ml容ビーカーに脱塩水(1.45kg)を入れ、これに、攪拌しながら界面活性剤Aerosol OT75 E(l00g)をゆっくりと添加した。混合物が均一になったとき、PEEK D150UF10ポリマー(lkg)をゆっくりと添加した。ポリマーが完全に一体化されるまで攪拌を継続した。
【0101】
ビーカーを、エマルジョン用ヘッドスターラーが装着された(emulsion head stirrer attachment)高剪断Silverson実験室用ミキサー下に置いた。ミキサーの速度をゆっくりと3000rpmまで上げ、その速度で5分間維持した。試料の微量の気泡があった。
【0102】
分散液を4つの500ml容ガラス瓶内に注入した。72時間後、分散液は優れた安定性を示し、分離の兆候はなかった。
【実施例2】
【0103】
Aerosol OT75の量を100gから130gに増やし、PEEK D150UF10ポリマー(1kg)をPEEK 150XFポリマー(1kg)に置き換えた以
外は、実施例1の手順を繰り返した。
【0104】
分散液を4つの500ml容ガラス瓶内に注入した。72時間後、分散液は優れた安定性を示し、分離の兆候はなかった。
【実施例3】
【0105】
Aerosol OT75の量を100gから130gに増やし、PEEK D150UF10ポリマー(1kg)をPEEK D450UF10ポリマー(1kg)に置き換えた以外は、実施例1の手順を繰り返した。
【0106】
分散液を4つの500ml容ガラス瓶内に注入した。72時間後、分散液は優れた安定性を示し、分離の兆候はなかった。
【実施例4】
【0107】
Aerosol OT75の量を100gから130gに増やし、PEEK D150UF10ポリマーをPEEK HT D220UF10ポリマーに置き換えた以外は、実施例1の手順を繰り返した。
【0108】
分散液を4つの500ml容ガラス瓶内に注入した。72時間後、分散液は優れた安定性を示し、分離の兆候はなかった。
【実施例5】
【0109】
界面活性剤Aerosol OT75の量を変更した(詳細は以下の表1に示す)以外は、実施例1の手順を繰り返した。
【0110】
【表1】

【実施例6】
【0111】
ポリエーテルエーテルケトン及びPFAの水性分散液
様々な量のPFAを添加した以外は、実施例1に記載の手順を繰り返した。詳細は以下の表2に示す。
【0112】
【表2】

【0113】
(a)−PEEKの重量基準
実施例7にコーティング試験の結果を記載する。
【実施例7】
【0114】
実施例7a − コーティング試験
使用したコーティングガンは、先端サイズが0.06のBinks Bullows 630型であった。ガンへの空気圧は、どのようなタイプのコーティングが必要とされるか(例えば、薄い、又は厚い)に応じて30〜40psiとした。コーティング用の基材は、2mm厚×75mm×75mm四方の軟鋼製プラークであった。プラークを、トリクロロエチレン蒸気を用いて脱脂し、次いで、酸化アルミニウムを用いたグリットブラストを行なった。
【0115】
試験用のすべての分散液試料を、噴霧ガンリザーバー内に注入する前に、攪拌棒により手動で混合した。
プラークを、空気を抜いた噴霧用キャビネット内に入れ、液状コーティングを塗布した。次いで、コーティングされたプラークを、100℃に設定した炉内に5分間入れ、水を蒸散させた。プラークを、390℃に設定した炉内に10分間放置し、コーティングを溶融及び流動化させた。
【0116】
炉から取り出した後、プラークをエアガンで強制冷却した。これは、第2の液状コーティングを塗布する前に、使用したポリマー系材料の結晶化を引き起こす。第2のコーティングを炉内で2回目の「流動化(flow out)」させ、次いで、室温に冷却した。
【0117】
続いて、作製したコーティングを平滑性及び欠陥について目視により評価した。詳細を以下の表3に示す。
【0118】
【表3】

【実施例8】
【0119】
耐摩耗性及び摩擦係数
実施例7b及び7fのコーティングされた基材の耐摩耗性及び摩擦係数を、他のポリマー(すなわちECTFE、PTFE及びPPS)でコーティングした基材と比較した。その詳細を以下に示す。結果は以下の表4に示す。
(1) ECTFEコーティング
製造業者: ソルベイ/ソレキス(Solvay/Solexis)(以前はオーシモント(米国)
製品名/番号:
Halar 6614下塗り剤(静電粉末コーティング):
エチレン、クロロトリフルオロエチレン及びヘキサフルオロイソブチレンのコポリマー:およその重量% 71〜73%
第二コバルト/第一コバルト酸化物 1〜4%
ウォラストナイト 7〜15%
酸化クロム 1〜3%
二酸化チタン 0.25〜1.25%
エポキシ樹脂 5〜20%

Halar 6014トップコーティング(静電粉末コーティング):
エチレン、クロロトリフルオロエチレン及びヘキサフルオロイソブチレンのコポリマー:およその重量% 100%
(2) PTFEコーティング(液状分散体コーティング):
製造業者:ウィットフォードコーポレーション
製品名/番号: Xylan 1052/880
組成: ポリアミド−イミドバインダー中5.4% PTFE w/3.25% MOS2
(3) PPSコーティング(静電粉末コーティング):
製造業者: ウィットフォードコーポレーション
製品名/番号: Dykor 860/PPS粉末状ブレンド
組成: PPS(ポリフェニレンスルフィド)及び充填剤としての二酸化チタン。
【0120】
【表4】

【0121】
15〜100μmの範囲厚さを有する記載の型のコーティングが、上記のようにして作製され得る。より厚いコーティングは、多数回のサイクル工程(各サイクル工程により15〜40μm厚の層が構築される)によって作製され得る。好適には、分散液の使用により、非常に複雑な幾何学的構造がコーティングされるのを可能にし、孔、深絞り部及び凹
部周囲において、他の可能な手法と比べ、より優れた被覆率がもたらされることがわかっている。
【0122】
記載の型のコーティングは、他のほとんどの熱可塑性コーティングと比べ、より優れた潤滑性及び耐磨耗性を有することがわかった。
加えて、記載の型のコーティングは、優れた結合強度及び接着特性を有する。
【0123】
記載の型のコーティングが、使用時に溶媒中に浸漬される基材又はその一部分に施される場合、浸漬される部分を完全に包被し、層間剥離のリスクを最小限に抑えることが好ましい。
【0124】
関心は、本願に関して本明細書と同時又は本明細書に先行して提出され、本明細書とともに公開された全ての論文及び文書に向いているが、そのような全ての論文及び文書の内容は、参照によって本明細書に組み込まれるものとする。
【0125】
本明細書(添付の特許請求の範囲、要約書及び図面を含む)に開示の全ての特徴及び/又はそのように開示された方法又はプロセスの全ての工程は、そのような特徴及び/又は工程の少なくとも一部が互いに排除する組み合わせを除き、いかなる組み合わせでも組み合わせることができる。
【0126】
本明細書(添付の特許請求の範囲、要約書及び図面を含む)に開示の各特徴は、別段の明瞭な断りがない限り、同一、等価又は類似の目的に寄与する代替的な特徴によって置き換えることが可能である。従って、別段の明瞭な断りがない限り、開示の各特徴は、包括的な一連の等価又は類似の特徴の1例に過ぎない。
【0127】
本発明は、上記実施形態(複数可)の詳細に限定されるものではない。本発明は、本明細書(添付の特許請求の範囲、要約書及び図面を含む)に開示の特徴のあらゆる新規なもの又は新規な組み合わせ、又はそのように開示された方法もしくはプロセスの工程のあらゆる新規なもの又は新規な組み合わせに適用されるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A) 水と、
(B)(a) フェニル部分、
(b) カルボニル部分スルホン部分、及び
(c) エーテル部分及びチオエーテル部分のうちの少なくとも1つ
を含む型のポリマー系材料と、
(C) カルボニル部分又はスルホン部分及び親水性基を含む表面活性剤とを含有して成る水性分散液。
【請求項2】
前記ポリマー系材料が、化学式
【化1】

で表される部分、化学式
【化2】

で表される部分、及び、化学式
【化3】

で表される部分のうちの少なくとも1つを有し、
式中、単位I、II及びIIIにおけるフェニル部分は独立して任意に置換及び任意に架橋され、ここで、m、r、s、t、v、w、zは独立して0又は正の整数を表し、E,E'は独立して酸素原子又は硫黄原子又は直接結合を表し、Gは酸素原子もしくは硫黄原子
、直接結合又はO−Ph−O−部分を表し、Phはフェニル基を表し、Arは、1つ以上のフェニル部分を介して隣接する部分に結合する以下の部分(i)、(i)**、(i)〜(x)
【化4】

の一つから選択される、請求項1に記載の分散液。
【請求項3】
前記ポリマー系材料が、化学式
【化5】

の反復単位を有するホモポリマー、又は化学式
【化6】

の反復単位を有するホモポリマー、又は化学式IV及び化学式Vのうちの少なくとも1つから、少なくとも2つの異なる単位を含むランダムコポリマー又はブロックコポリマー、又は、化学式
【化7】

の反復単位を有するホモポリマー、又は化学式
【化8】

の反復単位を有するホモポリマー、又は、化学式IV及び化学式Vのうちの少なくとも1つから、少なくとも2つの異なる単位を有するランダムコポリマー又はブロックコポリマーであり、
式中、A、B、C及びDは独立して0又は1を表し、E、E' は独立して酸素原子又
は硫黄原子又は直接結合を表し、Gは酸素原子もしくは硫黄原子、直接結合又はO−Ph−O−部分を表し、Arは、1つ以上のフェニル部分を介して隣接する部分に結合する以下の部分(i)、(i)**、(i)〜(x)
【化9】

の一つから選択され、m、r、s、t、v、w、zは独立して0又は正の整数を表す、請求項1又は2に記載の分散液。
【請求項4】
前記ポリマー系材料が、ケトン部分及びエーテル部分と結合したフェニル部分のうちの少なくとも1つから本質的に成るポリマー又はコポリマーである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項5】
前記ポリマー系材料が、以下の(a)〜(h)、
(a) Arが部分(iv)を表し、E及びE' が酸素原子を表し、mが0を表し、wが1を表し、Gが直接結合を表し、sが0を表し、A及びBが1を表す式IVの単位を含有するポリマー(すなわち、ポリエーテルエーテルケトン)、
(b) Eが酸素原子を表し、E' が直接結合を表し、Arが構造(i)である部分を表し、mが0を表し、Aが1を表し、Bが0を表す式IVの単位を含有するポリマー(すなわち、ポリエーテルケトン)、
(c) Eが酸素原子を表し、Arが部分(i)を表し、mが0を表し、E' が直接結合を表し、Aが1を表し、Bが0を表す式IVの単位を含有するポリマー(すなわち、ポリエーテルケトンケトン)、
(d) Arが部分(i)を表し、E及びE' が酸素原子を表し、Gが直接結合を表し、mが0を表し、wが1を表し、rが0を表し、sが1表し、A及びBが1を表す式IVの単位を含有するポリマー(すなわち、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン)、
(e) Arが部分(iv)を表し、E及びE' が酸素原子を表し、Gが直接結合を表し、mが0を表し、wが0を表し、s、r、A及びBが1を表す式IVの単位を含有するポリマー(すなわち、ポリエーテルエーテルケトンケトン)、
(f) Eが酸素原子を表し、E' が直接結合を表し、Arが構造(ii)である部分を表し、mが0を表し、Aが1を表し、Bが0を表す式IVの単位を含有するポリマー(すなわち、ポリエーテルスルホン)、
(g) E及びE' が酸素原子を表し、Arが部分(xi)**を表し、mが0を表し、zが1を表し、Gが直接結合を表し、Vが0を表し、C及びDが1を表す式Vの単位を含有するポリマー(すなわち、ポリスルホン)、及び
(h) Arが部分(iv)を表し、E及びE' が酸素原子を表し、mが1を表し、wが1を表し、Aが1を表し、Bが1を表し、r及びsが0を表し、Gが直接結合を表す式IVの単位を含有するポリマー(すなわち、ポリエーテルジフェニルエーテルフェニルケトンフェニル−)
から選択される、先行の請求項のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項6】
前記ポリマー系材料が半結晶性である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項7】
前記ポリマー系材料が、ポリエーテルエーテルケトン及びポリエーテルケトンから選択される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項8】
前記表面活性剤の前記カルボニル基の残りの2つの原子の手(bond)の一方が炭素原子に結合している、請求項1〜7のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項9】
前記残りの2つの原子の手の他方が、炭素、窒素又は酸素原子に結合している、請求項9に記載の分散液。
【請求項10】
前記表面活性剤の前記カルボニル基が、ケトン基又はカルボキシレート部分もしくはイミド部分の一部である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項11】
前記表面活性剤の前記カルボニル基がカルボキシレート部分の一部である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項12】
前記表面活性剤がスルホン部分を含み、前記残りの2つの原子の手の一方が炭素原子に結合しており、該残りの2つの原子の手の他方が、炭素原子又は窒素原子に結合している、請求項1〜7のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項13】
前記表面活性剤がカルボニル部分及び親水性基を含む、請求項1〜12のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項14】
前記表面活性剤が、少なくとも4 個の炭素原子を有する炭素原子含有鎖を含む疎水性部分を含む、請求項1〜13のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項15】
前記炭素原子含有鎖が直鎖又は分枝鎖である、請求項14に記載の分散液。
【請求項16】
前記鎖内の炭素原子のみが飽和している、請求項14又は15に記載の分散液。
【請求項17】
前記表面活性剤がC〜C16疎水性部分を含む、請求項1〜16のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項18】
前記表面活性剤が1個より多い疎水性部分を含む、請求項1〜17のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項19】
前記親水性基が、イオン性部分及び非イオン性部分から選択される、請求項1〜18のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項20】
前記親水性基がカチオン性部分及びイオン性部分を含む、請求項1〜19のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項21】
前記親水性基が−COO、−SO−又はPO2−部分を含む、請求項1〜20のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項22】
前記親水性基が−O−SO部分を含む、請求項1〜21のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項23】
前記親水性基が、エーテル官能基又はヒドロキシル官能基から選択される非イオン性部分を含む、請求項1〜22のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項24】
前記表面活性剤が一般式:
A−L1−X−L2−B
(式中、
Aは前記疎水性部分を表し、
L1は連結原子もしくは連結基又は直接結合を表し、
Xは前記カルボニル部分又はスルホン部分を表し、
L2は連結原子もしくは連結基又は直接結合を表し、及び
Bは前記親水性部分を表す)
のものである、請求項1〜23のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項25】
前記表面活性剤が、化学式
【化10】

(式中、各A、L1及びXは同一であるか又は異なる)
のものである、請求項24に記載の分散液。
【請求項26】
式中、AがC〜C16の疎水性部分であり、L1が酸素原子であり、Xがカルボニル基であり、L3が−(CHn3−部分(式中、n3は1〜5である)、及びBは−SO−部分を含む、請求項24又は25に記載の分散液。
【請求項27】
前記表面活性剤がスルホコハク酸アルキルである、請求項1〜26のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項28】
前記表面活性剤がジオクチルスルホサクシネートである、請求項1〜27のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項29】
前記分散液が、少なくとも35wt%の水であって80wt%未満である水を含む、請求項1〜28のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項30】
少なくとも10wt%の(B)に記載のポリマー系材料であって、60wt%未満である前記(B)に記載のポリマー系材料を含む、請求項1〜29のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項31】
前記ポリマー系材料が100μm未満であって1μmより大きいD50を有する、請求項1〜30いずれか1項に記載の分散液。
【請求項32】
(A) 水50〜70wt%と、
(B) ポリエーテルエーテルケトン又はポリエーテルケトン30〜50wt%と、
(C) カルボキシレート部分、アルキル部分及びスルホネート部分を含む表面活性剤2〜6wt%と
を含有して成る、請求項1〜31のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項33】
水、ポリマー系材料及び表面活性剤を接触させる工程を含む、請求項1〜32のいずれか1項に記載の水性分散液の調製方法。
【請求項34】
基材をコーティングする方法であって、基材を請求項1〜32のいずれか1項に記載の水性分散液、又は請求項33に従って調製した場合の水性分散液と接触させることを含む、基材をコーティングする方法。
【請求項35】
請求項34に記載の方法においてコーティングされる基材。
【請求項36】
請求項1〜32のいずれか1項に記載されるポリマー系材料;及び請求項1〜32のいずれか1項に記載される表面活性剤の残基を含んでなるコーティング。

【公表番号】特表2007−504319(P2007−504319A)
【公表日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−525177(P2006−525177)
【出願日】平成16年8月31日(2004.8.31)
【国際出願番号】PCT/GB2004/003710
【国際公開番号】WO2005/023893
【国際公開日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(501097318)ビクトレックス マニュファクチャリング リミテッド (15)
【氏名又は名称原語表記】VICTREX MANUFACTURING LIMITED
【Fターム(参考)】