説明

分散液及びその製造方法

【課題】活性水素を有する樹脂を含有する溶剤系塗料に配合した場合でも長期間安定にイソシアネート化合物を保存することができ、また、粒子径が小さくて塗料中での分散性に優れている、イソシアネート化合物を内包するマイクロカプセルを含有する分散液、並びにその分散液の製造方法を提供すること。
【解決手段】イソシアネート化合物を内包するマイクロカプセルが脂肪族炭化水素系分散媒中に分散している分散液であって、溶解性パラメーター(SP値)が8.9〜9.7であるビニル系樹脂の存在下で該脂肪族炭化水素系分散媒中に該イソシアネート化合物を乳化させた後に該イソシアネート化合物と多価アミン化合物又は多価アルコールとの界面重合によりマイクロカプセル化することによって得られたものであり、該マイクロカプセルの累積度50%粒子径が0.1〜100μmである分散液、及びその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料組成物、インク組成物、接着剤組成物等に好適に用いることができる、イソシアネート化合物を内包するマイクロカプセルが脂肪族炭化水素系分散媒中に分散している分散液及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イソシアネート化合物はアミン、酸、水、尿素等と非常に反応しやすく、この高い反応性を利用して塗料、インク、接着剤、プラスチック改質剤等に広く使用されている。しかし、イソシアネート化合物はその高い反応性の故に空気中の水分と反応してしまうなど、長期保存安定性に問題があった。また、活性水素を有する樹脂を含有した塗料中にイソシアネート化合物を添加すると反応が起こり、ポットライフ(塗装可能時間)に制限が生じていた。それで、この問題を解決するために、従来から、イソシアネート化合物について様々な提案がなされている。
【0003】
例えば、イソシアネート化合物が皮膜に内包されたイソシアネート含有マイクロカプセル及びその製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、その製造方法ではカプセルが水中に分散された状態であり、そのカプセルを溶剤系塗料に使用するためには水を除去したのち溶剤で置換しなければならず、そのとき、イソシアネート化合物含有マイクロカプセルが凝集を起こしたり、使用する有機溶剤によっては溶剤がカプセル壁に進入してカプセル壁を膨潤させ、その結果としてカプセル内包物であるイソシアネート化合物がカプセル壁を通過してカプセル外に溶出してしまう事がある。また、カプセルの周りにイソシアネートと反応する水が存在するため、経時で安定性を維持できない致命的な問題があった。
【0004】
【特許文献1】特開2006−61802号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の従来の実情に鑑みてなされたものであり、活性水素を有する樹脂を含有する溶剤系塗料に配合した場合でも長期間安定にイソシアネート化合物を保存することができ、また、粒子径が小さくて塗料中での分散性に優れている、イソシアネート化合物を内包するマイクロカプセルを含有する分散液、並びにその分散液の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記の目的を達成するために鋭意検討した結果、脂肪族炭化水素系分散媒中のイソシアネート化合物からなるO/O(オイル イン オイル)エマルションを形成させ、その後に界面重合させてマイクロカプセル化することにより上記の目的が達成されることを見いだし、本発明を完成した。
【0007】
即ち、本発明の分散液は、イソシアネート化合物を内包するマイクロカプセルが脂肪族炭化水素系分散媒中に分散している分散液であって、溶解性パラメーター(SP値)が8.9〜9.7であるビニル系樹脂の存在下で該脂肪族炭化水素系分散媒中に該イソシアネート化合物を乳化させた後に該イソシアネート化合物と多価アミン化合物又は多価アルコールとの界面重合によりマイクロカプセル化することによって得られたものであり、該マイクロカプセルの累積度50%粒子径が0.1〜100μmであることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の分散液の製造方法は、脂肪族炭化水素系分散媒、イソシアネート化合物及び溶解性パラメーター(SP値)が8.9〜9.7であるビニル系樹脂の混合物を撹拌し、乳化させて脂肪族炭化水素系分散媒中のイソシアネート化合物からなるO/O(オイル イン オイル)エマルションを形成させ、その後に多価アミン化合物又は多価アルコールを添加して該イソシアネート化合物と該多価アミン化合物又は多価アルコールとを界面重合させてマイクロカプセル化することにより上記の分散液を製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
通常、活性水素を有する樹脂を含有する塗料中にカプセル化されていないイソシアネート基を有する硬化剤を加えた場合には、数時間から数日で塗料はゲル化してしまう。しかし、本発明のイソシアネート化合物を内包するマイクロカプセルが脂肪族炭化水素系分散媒中に分散している分散液は、イソシアネート化合物がカプセル壁によって外界と隔てられているため、活性水素を有する樹脂を含有する溶剤系塗料に直接配合してもイソシアネート化合物が活性水素を有する樹脂と直接接触することはない。このため、本発明の分散液を活性水素を有する樹脂を含有する溶剤系塗料に配合した場合でもその塗料は貯蔵安定性が飛躍的に向上しており、長期間安定に保存することができる。また、そのような塗料から形成された塗膜を加熱することによってカプセル壁が溶融し、カプセル中に内包されていたイソシアネート化合物を外部に放出させ、イソシアネート化合物と活性水素を有する樹脂とを架橋反応させることができる。更に、塗膜中にカプセルの状態で保持された場合には、塗膜にクラックなどが入ったときにその応力でカプセルも壊れ、カプセル内のイソシアネート化合物が染み出し塗膜の自己修復を行なうこともできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の分散液は、イソシアネート化合物を内包するマイクロカプセルが脂肪族炭化水素系分散媒中に分散している分散液であって、溶解性パラメーター(SP値)が8.9〜9.7であるビニル系樹脂の存在下で該脂肪族炭化水素系分散媒中に該イソシアネート化合物を分散させた後に該イソシアネート化合物と多価アミン化合物又は多価アルコールとの界面重合によりマイクロカプセル化することによって得られたものであり、該マイクロカプセルの累積度50%粒子径が0.1〜100μmであるものである。ここで、累積度数50%粒子径とは、粒度分布が求められている粒体集団の全体積を100%として累積カーブを求めたとき、その累積カーブが50%となる点の粒径をいうものである。なお、累積度数50%粒子径は、例えば、Nanotrac MODEL:UPA−ST150(日機装社製)で測定した値である。
【0011】
本発明においてはマイクロカプセル中に内包されるイソシアネート化合物として、一分子中に2つ以上のイソシアネート基又はイソチオシアネート基を有する化合物を用いることができる。このようなイソシアネート化合物として、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、リジンジイソシアネートなどの脂肪族ポリイソシアネート類、これらのポリイソシアネートのビューレットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物;イソホロンジイソシアネート、4,4´−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチルシクロヘキサン−2,4−(又は−2,6−)ジイソシアネート、1,3−(又は1,4−)ジ(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−シクロペンタンジイソシアネート、1,2−シクロヘキサンジイソシアネートなどの脂環族ジイソシアネート類、これらのジイソシアネ−トのビュ−レットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物;キシリレンジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、1,4−ナフタレンジイソシアネート、4,4´−トルイジンジイソシアネ−ト、4,4´−ジフェニルエーテルイソシアネート、(m−もしくはp−)フェニレンジイソシアネート、4,4´−ビフェニレンジイソシアネート、3,3´−ジメチル−4,4´−ビフェニレンジイソシアネート、ビス(4−イソシアナトフェニル)スルホン、イソプロピリデンビス(4−フェニルイソシアネート)などの芳香族ジイソシアネート化合物、これらのジイソシアネ−ト化合物のビュ−レットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物;トリフェニルメタン−4,4´,4´´−トリイソシアネート、1,3,5−トリイソシアナトベンゼン、2,4,6−トリイソシアナトトルエン、4,4´−ジメチルジフェニルメタン−2,2´,5,5´−テトライソシアネートなどの1分子中に3個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート類、これらのポリイソシアネートのビューレットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、ジメチロールプロピオン酸、ポリアルキレングリコール、トリメチロ−ルプロパン、ヘキサントリオ−ルなどのポリオールとポリイソシアネート化合物とをポリオールの水酸基にイソシアネート基が過剰量となる比率で反応させてなるウレタン化付加物、これらのウレタン化付加物のビューレットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物などを挙げることができ、複数の上記のイソシアネート化合物を混合して用いることもできる。
【0012】
本発明の分散液においては脂肪族炭化水素系分散媒はアルカン系Cn2n+2及びシクロアルカン系Cn2nの脂肪族炭化水素分散媒を70%以上含有しているものを意図し、例えば、ミネラルスピリット、vm&pナフサ、ShellSol D38、ShellSol D40、ShellSol D43、ShellSol D60、ShellSol DSC、ShellSol D70、ShellSol D80、ShellSol D100(Shell Chemicals社製)、ipソルベント1016、ipソルベント1620、ipソルベント2835(出光石油化学社製)、ISOPAR C、ISOPAR E、ISOPAR G、ISOPAR H、ISOPAR K、ISOPAR L、ISOPAR M、ISOPAR V(EXXON社製)などを挙げることができる。
【0013】
本発明においてはイソシアネート化合物を脂肪族炭化水素系分散媒中で分散させ、乳化させるために溶解性パラメーター(SP値)が8.9〜9.7であるビニル系樹脂を用いる。このようなビニル系樹脂としてアクリル樹脂、メタクリル樹脂、スチレン樹脂、ビニル樹脂などを用いることができ、このようなビニル系樹脂を得るために用いることができるモノマーとして、スチレン、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、プロピルアクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘキシルメタクリレート、オクタデシルアクリレート、オクタデシルメタクリレート、ラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシヘキシルアクリレート、ヒドロキシヘキシルメタクリレート、ヒドロキシオクタデシルアクリレート、ヒドロキシオクタデシルメタクリレート、ヒドロキシラウリルアクリレート、ヒドロキシラウリルメタクリレート、フェネチルアクリレート、フェネチルメタクリレート、6−フェニルヘキシルアクリレート、6−フェニルヘキシルメタクリレート、フェニルラウリルアクリレート、フェニルラウリルメタクリレート、3−ニトロフェニル−6−ヘキシルメタクリレート、3−ニトロフェニル−18−オクタデシルアクリレート、エチレングリコールジシクロペンチルエーテルアクリレート、ビニルエチルケトン、ビニルプロピルケトン、ビニルヘキシルケトン、ビニルオクチルケトン、ビニルブチルケトン、シクロヘキシルアクリレート、トリフルオロメチルスチレン、トリフルオロメチルアクリレート、トリフルオロメチルメタクリレート、テトラフルオロプロピルアクリレート、テトラフルオロプロピルメタクリレート、ヘプタフルオロブチルメタクリレート、イソブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、イソオクチルアクリレート、イソオクチルメタクリレート、N,N−ジヘキシルアクリルアミド、N,N−ジオクチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、ピペリジノ−N−エチルアクリレート、ビニルプロピオネート、ビニルアセテート、ビニルブチレート、ビニルブチルエーテル、及びビニルプロピルエーテル、エチレン、ビニルカルバゾール、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、ビニルピレン、α−メチルスチレン、ジメチルスチレン、メチルスチレン、ビニルビフェニル、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、グリシジルプロピレン、2−メチル−2−ビニルオキシラン、ビニルピリジン、アミノエチルメタクリレート、アミノエチルフェニルアクリレート、マレイミド、N−フェニルマレイミド、N−ヘキシルマレイミド、N−ビニルフタルイミド、及びN−ビニルマレイミド、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルアクリレート、ポリビニルアルコール、ビニルピロリドン、ビニル−4−メチルピロリドン、ビニル−4−フェニルピロリドン、ビニルイミダゾール、ビニル−4−メチルイミダゾール、ビニル−4−フェニルイミダゾール、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、アリールオキシジメチルアクリルアミド、アリールオキシピペリジン、アリルアミン、N,N−ジエチルアリルアミン、ビニルスルホンアミド、アリルアクリレート、アリルメタクリレート、ブテニルアクリレート、ウンデセニルアクリレート、ウンデセニルメタクリレート、ビニルアクリレート、及びビニルメタクリレート、ジエン(例えば、ブタジエン及びイソプレン)、飽和グリコール又はジオールと不飽和モノカルボン酸とのエステル(例えば、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、ペンタエリトリトールテトラアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート)及び多官能価芳香族化合物(例えば、ジビニルベンゼン)等を挙げることができ、それらを単独で重合させても、共重合させてもよい。
【0014】
特にブチルアクリレート、ブチルメタクリレート,ヘキシルアクリレート、ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、オクタデシルアクリレート、オクタデシルメタクリレート、ラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレートなど、樹脂中にCn2n(n>4)である構造の比率が20%以上である樹脂を使用すると乳化時の分散性を向上させることが出来る。
【0015】
樹脂の溶解性パラメーター(SP値)とは、Fedors法[Polym.Eng.Sci.14(2)152,(1974)]によって算出される値であり、本発明においては溶解性パラメーター(SP値)が8.9〜9.7、好ましくは8.9〜9.2のビニル系樹脂を用いる。また、水酸基価は望ましくは20以下、さらに望ましくは10以下であり、酸価は望ましくは20以下、さらに望ましくは10以下のビニル系樹脂を用いる。
【0016】
本発明においてはイソシアネート化合物との界面重合でカプセル壁を形成させてマイクロカプセルを得るために多価アミン化合物又は多価アルコールを用いる。多価アミン化合物としてヘキサメチレンジアミン、m−キシリレンジアミン、エチレンジアミン、1,4−ジアミノブタン、p−フェニレンジアミン、リジン、ピペラジン、二塩基アミノ酸等のジアミン、エポキシ樹脂のアミン付加物等の変性ポリアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等の3価以上のアミンなどを挙げることができる。
【0017】
多価アルコールとしてエチレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、キシリレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール等のポリエーテルポリオール、エチレンアジペート、アクリルエステロール等のポリエステルポリオール、アクリルポリオール、ポリブタンジエンポリオール、ポリオレフィン系ポリオール、ケン化EVA(エチレン−酢酸ビニル共重合物)等の主鎖がC−C結合よりなるポリオール、含リンポリオール、含ハロゲンポリオール、芳香族アミン系ポリオール、フェノール系ポリオール、芳香族系ポリエステル等の難燃ポリオールを挙げることができる。
【0018】
これら多価アミン化合物又は多価アルコールは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また、多価アミン化合物を用いる場合には、脂肪族炭化水素系分散媒、多価アミン化合物及び溶解性パラメーター(SP値)が8.9〜9.7であるビニル系樹脂の混合物を撹拌し、乳化させて得られる脂肪族炭化水素系分散媒中の多価アミン化合物として、脂肪族炭化水素系分散媒中のイソシアネート化合物からなるO/Oエマルションに添加することが好ましい。上記の多価アミン化合物又は多価アルコールの添加量は、イソシアネート化合物の反応当量の10〜100%とすることが好ましい。
【0019】
本発明においてはイソシアネート化合物を内包するマイクロカプセルのカプセル壁はポリウレタン樹脂又はポリウレア樹脂である。この中でも、イソシアネート化合物と多価アミン化合物との反応は室温でも架橋反応が進み、容易にカプセル壁を形成させることができるのでポリウレア樹脂であることが好ましい。
【0020】
本発明においてはマイクロカプセルの累積度50%粒子径は0.1〜100μm、好ましくは0.15〜20μm、更に好ましくは0.20〜5μmある。マイクロカプセルの累積度50%粒子径が100μmを超える場合には、イソシアネート化合物を内包するマイクロカプセルの脂肪族炭化水素系分散媒中での分散性が不安定なり、塗料主剤に添加したときの塗膜外観も悪くなる傾向がある。また、累積度50%粒子径が0.1μm未満の場合には、カプセル壁の膜厚も薄くなるため、貯蔵安定性が悪くなる傾向がある。
【0021】
本発明のイソシアネート化合物を内包するマイクロカプセルが脂肪族炭化水素系分散媒中に分散している分散液は、活性水素を有する樹脂を含有する塗料や接着剤に直接添加することができる。そして、加熱などによりマイクロカプセルから放出されたイソシアネート化合物は活性水素を有する樹脂と架橋反応することによって、塗膜を強固にしたり、接着強度を高めたりすることができる。
【0022】
本発明のイソシアネート化合物を内包するマイクロカプセルが脂肪族炭化水素系分散媒中に分散している分散液の製造方法は、例えば、まず、分散剤となる溶解性パラメーター(SP値)が8.9〜9.7であるビニル系樹脂を脂肪族炭化水素系分散媒に完全に溶解させ、その中にイソシアネート化合物を添加し、温度が上がらないようにし乳化機を用いてO/Oエマルションを調製し、その後に、撹拌しながら多価アミン化合物又は多価アルコールを添加して該イソシアネート化合物と該多価アミン化合物又は多価アルコールとを界面重合させてカプセル壁を形成させ、マイクロカプセル化させる。多価アミン化合物を用いる場合には、脂肪族炭化水素系分散媒、多価アミン化合物及び溶解性パラメーター(SP値)が8.9〜9.7であるビニル系樹脂の混合物を撹拌し、乳化させて得られる脂肪族炭化水素系分散媒中の多価アミン化合物として、脂肪族炭化水素系分散媒中のイソシアネート化合物からなるO/Oエマルションに添加することが好ましい。添加した多価アミン化合物又は多価アルコールとイソシアネート基とを完全に反応させるために加熱を行なうこともできる。
【0023】
<イソシアネート分散用樹脂Aの合成>
フラスコにミネラルスピリット20.0質量部を仕込み、その液温を110℃に維持しながら、スチレン10.0質量部、i−ブチルメタクリレート20.0質量部、2−エチルヘキシルメタクリレート19.0質量部、ヒドロキシエチルメタクリレート1.0質量部、メタクリル酸0.5質量部及びアゾビスイソブチロニトリル0.5質量部からなる混合物を滴下し、更にミネラルスピリット30.0質量部を加えて分散用アクリル樹脂を合成した。得られたアクリル樹脂の質量平均分子量は45000であり、SP値は9.2であり、酸価は6.5であり、水酸基価は8.5であった。
【0024】
<イソシアネート分散用樹脂Bの合成>
フラスコにミネラルスピリット20.0質量部を仕込み、その液温を110℃に維持しながら、ラウリルメタクリレート10.0質量部、t−ブチルメタクリレート20.0質量部、2−エチルヘキシルメタクリレート19.0質量部、ヒドロキシエチルメタクリレート1.0質量部、メタクリル酸0.5質量部及びアゾビスイソブチロニトリル0.5質量部からなる混合物を滴下し、更にミネラルスピリット30.0質量部を加えて分散用アクリル樹脂を合成した。得られたアクリル樹脂の質量平均分子量は43000であり、SP値は9.0であり、酸価は6.5であり、水酸基価は8.5であった。
【0025】
<イソシアネート分散用樹脂Cの合成>
フラスコにミネラルスピリット20.0質量部を仕込み、その液温を110℃に維持しながら、エチルアクリレート10.0質量部、メチルメタクリレート22.0質量部、エチルメタクリレート10.0質量部、ヒドロキシエチルメタクリレート6.0質量部、メタクリル酸2.0質量部及びアゾビスイソブチロニトリル0.5質量部からなる混合物を滴下し、更にミネラルスピリット30.0質量部を加えて分散用アクリル樹脂を合成した。得られたアクリル樹脂の質量平均分子量は49000であり、SP値は9.9であり、酸価は51.8であり、水酸基価は26.1であった。
【0026】
<イソシアネート分散用樹脂Dの合成>
フラスコにミネラルスピリット20.0質量部を仕込み、その液温を110℃に維持しながら、t−ブチルメタクリレート46.0質量部、ヒドロキシエチルメタクリレート2.4質量部、メタクリル酸1.6質量部及びアゾビスイソブチロニトリル0.5質量部からなる混合物を滴下し、更にミネラルスピリット30質量部を加えて分散用アクリル樹脂を合成した。得られたアクリル樹脂の質量平均分子量は49000であり、SP値は8.9であり、酸価は20.9であり、水酸基価は20.7であった。
【0027】
実施例1
金属製容器にミネラルスピリット60.0質量部を仕込み、その中に上記のイソシアネート分散用樹脂A20.0質量部を完全に溶解させた後、イソシアネート化合物(D−165N:三井化学ポリウレタン社製)15.0質量部を加え、超音波ホモジナイザーを用いてO/Oエマルションの調製を行なった。このとき、金属製容器を冷却し温度の上昇を抑えた。さらに、酢酸ブチル2.0質量部とアミン(JEFFAMINE DER-148:Huntsman社製)3.0質量部とを混合した溶液を徐々にO/Oエマルション中に滴下し、30℃で5時間攪拌を行ない、イソシアネート化合物を内包するマイクロカプセルがミネラルスピリット中に分散している分散液を得た。このようにして形成されたマイクロカプセルの累積度50%粒子径は0.9μmであった。なお、累積度数50%粒子径は、Nanotrac MODEL:UPA−ST150(日機装社製)にて測定した。
【0028】
実施例2
金属製容器にミネラルスピリット60.0質量部を仕込み、その中に上記のイソシアネート分散用樹脂B20.0質量部を完全に溶解させた後、イソシアネート化合物(D−165N:三井化学ポリウレタン社製)15.0質量部を加え、超音波ホモジナイザーを用いてO/Oエマルションの調製を行なった。このとき、金属製容器を冷却し温度の上昇を抑えた。さらに、酢酸ブチル2.0質量部とアミン(JEFFAMINE DER-148:Huntsman社製)3.0質量部とを混合した溶液を徐々にO/Oエマルション中に滴下し、30℃で5時間攪拌を行ない、イソシアネート化合物を内包するマイクロカプセルがミネラルスピリット中に分散している分散液を得た。このようにして形成されたマイクロカプセルの累積度50%粒子径は実施例1と同じ測定で0.7μmであった。
【0029】
実施例3
金属製容器にミネラルスピリット60.0質量部を仕込み、その中に上記のイソシアネート分散用樹脂A20.0質量部を完全に溶解させた後、イソシアネート化合物(D−165N:三井化学ポリウレタン社製)15.0質量部を加え、超音波ホモジナイザーを用いてO/Oエマルションの調製を行なった。このとき、金属製容器を冷却し温度の上昇を抑えた。また、ミネラルスピリット1.0質量部、上記の分散用アクリル樹脂A1.0質量部及びアミン(JEFFAMINE DER-148:Huntsman社製)3.0質量部を混合し、超音波ホモジナイザーを用いてアミン分散液を調製し、上述のO/Oエマルション中に滴下し、30℃で5時間攪拌を行ない、イソシアネート化合物を内包するマイクロカプセルがミネラルスピリット中に分散している分散液を得た。このようにして形成されたマイクロカプセルの累積度50%粒子径は実施例1と同じ測定で0.5μmであった。
【0030】
実施例4
金属製容器にミネラルスピリット60.0質量部を仕込み、その中に上記のイソシアネート分散用樹脂B20.0質量部を完全に溶解させた後、イソシアネート化合物(D−165N:三井化学ポリウレタン社製)15.0質量部を加え、超音波ホモジナイザーを用いてO/Oエマルションの調製を行なった。このとき、金属製容器を冷却し温度の上昇を抑えた。また、ミネラルスピリット1.0質量部、上記の分散用アクリル樹脂B1.0質量部及びアミン(JEFFAMINE DER-148:Huntsman社製)3.0質量部を混合し、超音波ホモジナイザーを用いてアミン分散液を調製し、上述のO/Oエマルション中に滴下し、30℃で5時間攪拌を行ない、イソシアネート化合物を内包するマイクロカプセルがミネラルスピリット中に分散している分散液を得た。このようにして形成されたマイクロカプセルの累積度50%粒子径は実施例1と同じ測定で0.4μmであった。
【0031】
実施例5
金属製容器にミネラルスピリット60.0質量部を仕込み、その中に上記のイソシアネート分散用樹脂A20.0質量部を完全に溶解させた後、イソシアネート化合物(D−165N:三井化学ポリウレタン社製)15.0質量部を加え、超音波ホモジナイザーを用いてO/Oエマルションの調製を行なった。このとき、金属製容器を冷却し温度の上昇を抑えた。さらに、酢酸ブチル2.0質量部とエチレングリコール1.5質量部とを混合した溶液を徐々にO/Oエマルション中に滴下し、40℃で5時間攪拌を行ない、イソシアネート化合物を内包するマイクロカプセルがミネラルスピリット中に分散している分散液を得た。このようにして形成されたマイクロカプセルの累積度50%粒子径は実施例1と同じ測定で1.0μmであった。
【0032】
比較例1
ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート20.0質量部及びミネラルスピリット15.0質量部を混合してイソシアネート含有液とした。このイソシアネート含有液に対し、5%ポリビニルアルコール水溶液50.0質量部及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.25質量部を加え、超音波ホモジナイザーによりO/Wエマルションを調製した。さらに、このO/Wエマルションを室温で撹拌しながら、5%ジエチレントリアミン水溶液15.0質量部を加え、30℃で5時間撹拌を行い、イソシアネート化合物を内包するマイクロカプセルの分散液を得た。このようにして形成されたマイクロカプセルの累積度50%粒子径は実施例1と同じ測定で0.5μmであった。減圧を行い、水を取り除いた後、ミネラルスピリット60.0質量部を添加した。
【0033】
比較例2
金属製容器にミネラルスピリット60.0質量部を仕込み、その中に上記のイソシアネート分散用樹脂D25.0質量部を完全に溶解させた後、イソシアネート化合物(D−165N:三井化学ポリウレタン社製)10.0質量部を加え、平均粒子径が0.08μmになるまで超音波ホモジナイザーにより超音波を照射してO/Oエマルションを得た。さらに、酢酸ブチル3.0質量部とアミン(JEFFAMINE D ER−148:Huntsman社製)2.0質量部との混合溶液を徐々にO/Oエマルション中に滴下し、30℃で5時間攪拌を行ない、イソシアネート化合物を内包するマイクロカプセルの分散液を得た。このようにして形成されたマイクロカプセルの累積度50%粒子径は実施例1と同じ測定で0.09μmであった。
【0034】
比較例3
金属製容器にミネラルスピリット60.0質量部を仕込み、その中に上記のイソシアネート分散用樹脂C20.0質量部を完全に溶解させた後、イソシアネート化合物(D−165N:三井化学ポリウレタン社製)1 5.0質量部を加え、スターラーによる攪拌でO/Oエマルションを得た。さらに、酢酸ブチル2.0質量部及びアミン(JEFFAMINE DER-148:Huntsman社製)3.0質量部の混合溶液を徐々にO/Oエマルション中に滴下し、30℃で5時間攪拌を行ない、イソシアネート化合物を内包するマイクロカプセルの分散液を得た。このようにして形成されたマイクロカプセルの累積度50%粒子径は105μmであった。なお、累積度数50%粒子径は、SALD−7000(島津製作所社製)にて測定した。
【0035】
実施例1〜5及び比較例2〜3で得た各々のイソシアネート化合物を内包するマイクロカプセルの分散液40質量部に塗料用主剤(DNTウレタンスマイルクリーン主剤[シロ]:大日本塗料社製)60質量部を添加し、十分に混合を行なった。6ミルアプリケーターでブリキ板上に塗布し、80℃30分間乾燥を行いその外観を観察して下記の基準で評価した。また、上記イソシアネート化合物を内包するマイクロカプセルの分散液40質量部に塗料用主剤(DNTウレタンスマイルクリーン主剤[シロ]:大日本塗料社製)60質量部を添加し、十分に混合を行なった後の塗料を35℃で1カ月間保管して貯蔵安定性を下記の基準で評価した。それらの評価の結果は下記の第1表に示す通りであった。
【0036】
<外観の評価>
○=光沢良好
×=光沢減少
<貯蔵安定性>
○=1ヶ月後でも変化なし
×=1ヶ月後で増粘
【0037】
なお、比較例1については水を取り除いた後、ミネラルスピリットを添加した時点でカプセルが凝集したので、外観の評価及び貯蔵安定性の評価はできなかった。
【0038】
【表1】

【0039】
実施例1〜5で製造した塗料については塗膜外観及び貯蔵安定性は共に良好であった。しかし、比較例2についてはマイクロカプセルの累積度50%粒子径が小さいため貯蔵安定性が悪く、又比較例3については溶解性パラメーターの大きいビニル系樹脂を使用しており、マイクロカプセルの累積度50%粒子径が大きいため塗膜外観及び貯蔵安定性は共に悪かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソシアネート化合物を内包するマイクロカプセルが脂肪族炭化水素系分散媒中に分散している分散液であって、溶解性パラメーター(SP値)が8.9〜9.7であるビニル系樹脂の存在下で該脂肪族炭化水素系分散媒中に該イソシアネート化合物を乳化させた後に該イソシアネート化合物と多価アミン化合物又は多価アルコールとの界面重合によりマイクロカプセル化することによって得られたものであり、該マイクロカプセルの累積度50%粒子径が0.1〜100μmであることを特徴とする分散液。
【請求項2】
脂肪族炭化水素系分散媒、イソシアネート化合物及び溶解性パラメーター(SP値)が8.9〜9.7であるビニル系樹脂の混合物を撹拌し、乳化させて脂肪族炭化水素系分散媒中のイソシアネート化合物からなるO/O(オイル イン オイル)エマルションを形成させ、その後に多価アミン化合物又は多価アルコールを添加して該イソシアネート化合物と該多価アミン化合物又は多価アルコールとを界面重合させてマイクロカプセル化することにより請求項1記載の分散液を製造することを特徴とする分散液の製造方法。
【請求項3】
脂肪族炭化水素系分散媒中のイソシアネート化合物からなるO/Oエマルション中に多価アミン化合物を添加してイソシアネート化合物と該多価アミン化合物とを界面重合させてマイクロカプセル化することを特徴とする請求項2記載の分散液の製造方法。
【請求項4】
脂肪族炭化水素系分散媒、多価アミン化合物及び溶解性パラメーター(SP値)が8.9〜9.7であるビニル系樹脂の混合物を撹拌し、乳化させて得られる脂肪族炭化水素系分散媒中の多価アミン化合物を、脂肪族炭化水素系分散媒中のイソシアネート化合物からなるO/Oエマルションに添加することを特徴とする請求項3記載の分散液の製造方法。

【公開番号】特開2010−82527(P2010−82527A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−253332(P2008−253332)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000003322)大日本塗料株式会社 (275)
【Fターム(参考)】