説明

分析デバイス、分析デバイスの製造方法及び分析デバイスを用いる分析装置

【課題】汎用的な光学系を用いて、検出感度の高い分析デバイス並びに分析装置及び簡便かつ低コストの分析デバイスの製造法を提供する。
【解決手段】検体液を導入する検体液導入口10、検体液導入口により導入された検体液を測定する測定部20及び測定部から排出される検体液を受ける検体液排出口30を備えた分析デバイス5と、分析デバイス5の測定部20に検査光を照射する光照射器50と、分析デバイス5の測定部20からの測定光を検出する受光器60とを備えた分析装置1とし、測定部20が深さdと幅wとのアスペクト比d/wが3以上であり、かつ、幅wが50μm以下である流路からなり、流路の深さ方向と流路を通過する検査光及び測定光の光路方向とが一致するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析デバイス、分析デバイスの製造方法及び分析デバイスを用いる分析装置に関するものである。更に詳細には、本発明は、血液、体液、遺伝子等の少量の検体液の光学的分析に用いるマイクロサイズかつ高アスペクト比の流路の分析デバイス、分析デバイスの製造方法及び分析デバイスを用いる分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、μTAS(Micro Total Analysis System)といわれる分野で分析システムのダウンサイジングの研究が盛んに行われており、健康診断チップやポータブル環境計測システムへの応用が期待されている。分析システムのダウンサイジングはシリコンやガラスの基板上に微細化された流路(マイクロチャネル)、マイクロバルブ、マイクロポンプ、マイクロミキサーなどのマイクロ流体制御素子や電極、レンズなどの検出部を集積化することにより行われ、このような基板上に集積化されたチップはマイクロチップと呼ばれている。これらの素子や検出部は微細かつ精巧に作られる必要があるため、その加工方法として、微細機械加工技術では微細化に限界があり、リソグラフィーやエッチングといった半導体製造技術が使われている。しかし、年々、更にマイクロチップの構造のアスペクト比の向上、流路の壁面の平滑性、材料由来による検出感度低減の防止を達成する等の新しい技術が提案されている。例えば、シリコン基板をプラズマでエッチングする方法(非特許文献1)では、流路の壁面の平滑性が不充分であり、プラズマ装置が高価で使用に熟練を要するという問題があり、レーザーパルスで化学エッチングを用いる方法(非特許文献2)では、プロセスが複雑なわりに精度が不充分である。
【0003】
一方、マイクロチップによる分析では扱う検体液の量が非常に少ない、流路が狭いため検体液の濃度もあまり高くできない等のため、高感度な分析が望まれる。しかし、吸光分析、蛍光分析等の光学的分析では、マイクロチップの分析対象を通過する光路長も短くなるため、検出感度を上げるために、流路の上流から下流までの流路全体の情報を同時に検出・積算したり(非特許文献3)、光路が流路を複数回通過するマルチパスシステムとしたり(非特許文献4)、流路の上流(又は下流)から下流(又は上流)へと流路方向に光路を取る(特許文献1)等の光学系の工夫をして、検出感度を高める方法が用いられている。しかし、これらの光学系の工夫をすると専用の光学系を有する分析装置となるため、汎用的な光学系を用いることが可能な、検出感度の高い分析デバイス並びに分析装置が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-14636号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Jpn J Appl Phys 2006,45,5597
【非特許文献2】Optics Express 2004,12,2120
【非特許文献3】Electrophoresis 2001,22,230
【非特許文献4】Electrophoresis 2000,21,1291
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、前記の公知分析デバイスとは異なる、汎用的な光学系を用いて、検出感度の高い分析デバイス並びに分析装置及び簡便かつ低コストの分析デバイスの製造法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の構造の分析デバイスを作製するに至り、汎用的な光学系を用いて、検出感度が高まるという知見を得た。
【0008】
すなわち本発明は、以下のものに関する。
[1]少なくとも、検体液導入口、測定部及び検体液排出口を備える分析デバイスであって、前記測定部が深さdと幅wとのアスペクト比d/wが3以上であり、かつ、幅wが50μm以上である流路からなることを特徴とする分析デバイス。
[2]さらに、検査試薬液導入口を有することを特徴とする、[1]に記載の分析デバイス。
[3]基板上に膜厚100μm以上の感光性樹脂膜を形成する感光性樹脂膜形成工程と、感光性樹脂膜形成工程で形成された感光性樹脂膜に対して、フォトマスクを介して紫外線を照射して幅50μm以上の鋳型パターンを形成する鋳型パターン形成工程と、鋳型パターン形成工程で形成された鋳型パターンを用いて、前記感光性樹脂膜から離型可能な高分子材料を成型する高分子材料形成工程と、を含むことを特徴とする分析デバイスの製造方法。
[4]少なくとも、検体液を導入する検体液導入口、検体液導入口により導入された検体液を測定する測定部及び測定部から排出される検体液を受ける検体液排出口を備えた分析デバイスと、分析デバイスの測定部に検査光を照射する光照射手段と、分析デバイスの測定部からの測定光を検出する受光手段とを備えた分析装置であって、前記測定部が深さdと幅wとのアスペクト比d/wが3以上であり、かつ、幅wが50μm以上である流路からなり、流路の深さ方向と流路を通過する検査光及び測定光の光路方向とが一致することを特徴とする分析装置。
[5]さらに、検査試薬液を分析デバイスに導入する検査試薬液導入手段を有することを特徴とする[4]に記載の分析装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高アスペクト比のマイクロ流路からなる分析デバイスを得られることにより、光学的分析において高感度で検出することができる。
また、予め、高アスペクト比の鋳型パターンを作製し、前記鋳型パターンを用いて分析デバイスを作製することから、高アスペクト比のマイクロ流路からなる分析デバイスを容易に設計及び製造することができ、操作の簡便化と低コスト化が達成される。更に、流路の途中で複数の検出を行うことが可能なため、反応速度の観測も可能できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】分析装置1の概略の構成を示す構成図である。
【図2】感光性樹脂膜の作製の概略の工程を示す図である。
【図3】アスペクト比w/dが4.2である流路の電子顕微鏡写真である。
【図4】Y字型の流路を有する分析デバイス5の検出限界を示す図である。
【図5】I字型の流路を有する分析デバイスの検出限界を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施の形態を図、実施例等を用いて説明する。これらの図、実施例等及び説明は、本発明を例示するものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
本発明において「検体液」とは、血液、体液、遺伝子、タンパク質、糖鎖等を分析対象として含む液である。臨床診断、薬剤のスクリーニング等の目的で、血液、体液、遺伝子、タンパク質、糖鎖等の分析対象を、予め、希釈、分離、及び検査試薬と反応等の前処理を経たものも含む。光学的分析に支障のない範囲で、水、生理的食塩水、緩衝液等を含んでもよい。
【0012】
本発明において「検査試薬液」とは、蛍光ラベル化剤、特定の吸収を持つ色素等の検査試薬を含む液である。
例えば、蛍光色素フルオレセインイソチオシアネート、サンセットイエロー FCF等が挙げられる。
【0013】
検体液中の分析対象と、検査試薬液中の検査試薬とが、化学反応及び物理吸着等の相互作用により、光学的分析における検出感度が高まる。光学的分析に支障のない範囲で、水、生理的食塩水、緩衝液等を含んでもよい。
【0014】
本発明において「光学的分析」とは、赤外光、可視光及び紫外光の吸光度及び蛍光強度を用いた分析(測定)を意味する。
本発明の分析デバイス5は、少なくとも、図1に示すように、検体液導入口10、測定部20及び検体液排出口30を備える分析デバイス5であって、前記測定部20が深さdと幅wとのアスペクト比d/wが3以上であり、かつ、幅wが50μm以上である流路からなることを特徴とする分析デバイス5である。
【0015】
「検体液導入口10」から、前記検査液を本発明の分析デバイス5に取り込むことができる。分析デバイス5に取り込まれた検査液は、「測定部20」を経て、「検体液排出口30」に至り、分析デバイス5から排出される。
【0016】
「測定部20」は、検体液導入口10と検体液排出口30以外の検体の流路であり、光照射器50から検査光を照射し、照射した検査光を受光器60で受光することにより、蛍光分析又は吸光分析を行うものである。
【0017】
具体的には、深さdと幅wとのアスペクト比d/wが3以上であり、かつ、幅wが50μm以上である流路からなる。流路のアスペクト比は、検出感度を高くする観点から、好ましくは4以上、特に好ましくは5以上である。また、アスペクト比は、分析デバイス5が大きくなりすぎて、少量の検体液の測定に適用できなくなるという理由から、20以下が好ましく、特に10以下が好ましい。さらに、流路の幅wは、50μm以上であり、少量の検体液の測定に適用するため、好ましくは、70μm以上、特に好ましくは、90μm以上である。また、少量の検体液の測定に適用する理由から、流路の幅は500μm以下が好ましい。
【0018】
少なくとも、検体液導入口10、測定部20及び検体液排出口30を備える分析デバイス5は、通常、I字型の流路を有して、I字型の流路の一方の端が検体液導入口10、他方の端が検査試薬液導入口40であり、I字型の流路の両端以外の部分が測定部20である。測定部20の流路は、必ずしもI字型に直線的形状である必要はないが、検査液を流しやすくする理由から直線的形状が好ましい。
【0019】
本発明の分析デバイス5には、さらに、検査試薬液導入口40を有していてもよい。検体液導入口10、検査試薬液導入口40、測定部20、検体液排出口30からなる分析デバイス5は、通常、Y字型の流路があり、Y字型の流路のY字の上端2つの一方が検体液導入口10、他方が検査試薬液導入口40、Y字型の流路のY字の下端が検体液排出口30として、Y字型の流路の三叉路から下方の下端より上方の部分が測定部20である。測定部20の流路は、必ずしもY字型に直線的形状である必要はないが、検査液を流しやすくする理由から直線的形状が好ましく、Y字のはさみ角度が小さい方が検査液及び検査試薬液を流しやすくする理由から好ましい。
【0020】
分析デバイス5の内壁に、予め、「検査試薬類似の機能を有する分子」を固定化してもよいが、分析対象と相互作用する前の「検査試薬類似の機能を有する分子」は光学的分析における検出感度がなく、分析対象と相互作用した後に光学的分析における検出感度が高まる分子を選択する必要がある。また、分析対象と検査試薬との相互作用の後、次のステップとして、「検査試薬類似の機能を有する分子」と相互作用をしたり、あるいは、分析対象、検査試薬及び「検査試薬類似の機能を有する分子」の3者が相互作用をしたり、必要に応じて、適切な設計をしてもよい。
【0021】
検査光を照射する光照射器50、及び、測定光を受光する受光器60を、分析デバイス5の前記流路に対して垂直となる同じ光路方向、かつ、互いに対向する位置に配置して分析装置1を組み見立てる。
【0022】
検査光、測定光(透過光又は蛍光発光等)ともに波長200〜800nmの範囲で、分析対象、検査試薬及び検査試薬類似の機能を有する分子等の性質に合わせて、波長を選定する。例えば、核酸(DNA)では230, 260, 280, 320nm、タンパク質では280nmを用いることで、蛍光ラベル化することなく、核酸純度の測定・定量、タンパク質の定量を測定できる。
【0023】
本発明の分析デバイス5の製造方法は、基板上に膜厚100μm以上の感光性樹脂膜を形成する感光性樹脂膜形成工程、前記工程で形成された感光性樹脂膜に対して、フォトマスクを介して紫外線を照射して幅50μm以上の鋳型パターンを形成する鋳型パターン形成工程、及び前記工程で形成された鋳型パターンを用いて、前記感光性樹脂膜から離型可能な高分子材料を成型する高分子材料形成工程を含むことを特徴とする。
【0024】
本発明の分析デバイス5の製造方法において、「基板」とは、シリコン基板、ガラス基板等が感光性樹脂膜が付着する基板であれば、特に制限はない。
基板上に膜厚100μm以上の感光性樹脂膜を形成する工程とは、エポキシ樹脂等からなるプレポリマー及び硬化剤、必要に応じて溶媒を混合して、基板上に塗布した後に加熱硬化する方法、又は、予め、硬化、乾燥している感光性樹脂膜(いわゆる、ドライフィルムレジスト)を基板上に重ねて加熱下に圧着して貼り合わせる方法で、感光性樹脂膜を形成する工程である。感光性樹脂膜の膜厚は、前者の方法では塗布する厚みや塗布回数、後者の方法では貼り合わせ回数で、制御することができる。膜厚が100μm以上とするには、後者の方法の方が簡便であり、好ましい。
【0025】
感光性樹脂として周知の材料から選定して、硬化条件を適切に調整すればよい。
前記工程で形成された感光性樹脂膜に対して、フォトマスクを介して紫外線を照射して幅50μm以上の鋳型パターンを形成する工程とは、幅50μm以上の所望の流路パターンが描かれたフォトマスクを介して、感光性樹脂膜に紫外線を照射し、露光部分を硬化した後、現像液で未硬化部分を剥離して、鋳型パターンを形成する。
【0026】
前記工程で形成された鋳型パターンを用いて、前記感光性樹脂膜から離型可能な高分子材料を成型する工程とは、前記鋳型パターンの上に、感光性樹脂膜から離型可能な高分子材料を硬化前のプレポリマー、硬化剤及び必要に応じて希釈溶媒と共に塗布した後、加熱硬化する方法、又は、前記鋳型パターン及び他の板材料により鋳型を作り、感光性樹脂膜から離型可能な高分子材料を溶融状態で流し込んで冷却する方法で、前記高分子材料を成型する工程である。
【0027】
本発明において「感光性樹脂膜から離型可能な高分子材料」とは、ポリジメチルシロキサン(PDSM)、ポリメチルシロキサン等のシリコーン樹脂又はその誘導体、ポリエチレン、ポリプロピレン、飽和環状ポリオレフィン等のオレフィン樹脂等である。特に、測定光を透過し、かつ、感光性樹脂膜から離型性が良く、硬化剤を添加して加熱下で硬化するため取り扱いやすい、ポリジメチルシロキサン(PDSM)、ポリメチルシロキサン等のシリコーン樹脂又はその誘導体が好ましい。
【0028】
本発明の分析装置1とは、少なくとも、検体液を導入する検体液導入口10、前記検体液導入口10により導入された前記検体液を測定する測定部20及び前記測定部20から排出される前記検体液を受ける検体液排出口30を備えた分析デバイス5と、前記分析デバイス5の測定部20に検査光を照射する光照射器50と、前記分析デバイス5の測定部20からの測定光を検出する受光器60とを備えた分析装置1であって、前記測定部20が深さdと幅wとのアスペクト比d/wが3以上であり、かつ、幅wが50μm以上である流路からなり、流路の深さ方向と流路を通過する検査光及び測定光の光路方向とが一致することを特徴とする分析装置1である。前述の分析デバイス5の検体液導入口10に検体液を分析デバイス5に導入する検体液導入手段を、前述の分析デバイス5の検体液排出口30に分析デバイス5から排出される検体液を受ける検体液排出手段を、分析デバイス5の測定部20に検査光を照射する光照射器50および測定光を検出する受光器60を配置して、分析装置1とする。
【0029】
さらに、前述の分析デバイス5の検査試薬液導入口40に、検査試薬液を分析デバイス5に導入する検査試薬液導入手段を配置してもよい。
[実験例]
本発明を以下に実験例等によって具体的に説明する
(感光性樹脂膜の作製)
図2に示すように、直径3インチの片面研磨のシリコン基板上に、感光性樹脂(ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂)製の膜厚5μmのドライフィルムレジスト(商品名:XP SU−8 3000、日本化薬株式会社製)をポリプロピレン製の離型フィルムと共に、シリコン基板にドライフィルムレジストが直接接触するように重ねて置き、ホットプレート上で65℃に加熱下、離型フィルムの上から柔らかいゴムローラーで30〜45秒間圧着して、シリコン基板とドライフィルムレジストを張り合わせて、離型フィルムを剥離した。さらに、貼り合わされたドライフィルムレジストの上に、新たに離型フィルムと共に、ドライフィルムレジスト同士が直接接触するように重ねて置き、同様に、加熱下に離型フィルムの上からゴムローラーで圧着して貼り合わせ、離型フィルムを剥離した。これを繰り返すことによって、シリコン基板上に所望の厚み(5μm、25μm、65μm、420μm)の感光性樹脂膜をそれぞれ作製した。得られた感光性樹脂膜をホットプレートで65℃1〜2分予備加熱処理した。ドライフィルムレジストを積層して得られた感光性樹脂膜は、各層相互の界面は充分に密着していた。
(鋳型パターンの作製)
露光装置(マスクアライナー:ズース・マイクロテック社製、i線)を用い、流路パターン(幅100μm)が描かれたフォトマスクを介してパターン露光(ソフトコンタクト)を行った。フォトマスクとしては、流路パターン(幅100μm、I字型の流路)が描かれたフォトマスクを用いた。その後、ホットプレートにより60℃で2分間、90℃で6分間加熱処理を行い、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)を用いて浸漬法により25℃で6分間現像処理を行い、180℃で15分間再度加熱処理を行うことでシリコン基板上に硬化した樹脂鋳型パターンを得た。樹脂鋳型パターンの厚みは、前述で得られた感光性樹脂膜の厚み(5μm、25μm、65μm、420μm)を、樹脂鋳型パターンの幅は、フォトマスクに描かれた流路パターンの幅100μmを、流路形状は、フォトマスクのI字型を保持していた。
(流路を有する分析デバイスの作製)
シリコン基板上に形成されて樹脂鋳型パターン(I字型)を用いて、ポリジメチルシロキサン(PDMS)を成型(鋳型上にPDMSのプレポリマーと硬化剤(Sylgard 184 Silicon elastomer, base & curning agent、ダウ・コーニング社製)を10/1で混合したものをキャストし、65 ℃で1時間加熱処理した後、硬化したPDMSをクリーンベンチ内で鋳型から剥がし取る)して、流路が形成されたPDMS成型体を得た。PDMS成型体に形成された流路を電子顕微鏡で観察すると、流路の幅w、深さdのアスペクト比w/dが、それぞれ、0.05、0.25、0.65、4.2であった。図3は、アスペクト比w/dが4.2である流路の電子顕微鏡写真であり、流路の立ち上がり壁面が垂直であることも確認できた。
【0030】
得られたPDMS成型体と、必要に応じて所望の位置に穴を有する平板状のPDMS圧着して貼り合わせて、流路を有する分析デバイス5を得た。
(分析デバイス5の評価)
得られた流路を有する分析デバイス5には、それぞれ、Y字型又はI字型の流路があり、Y字型の流路のY字の上端2つの一方が検体液導入口10、他方が検査試薬液導入口40、Y字型の流路のY字の下端が検体液排出口30、I字型の流路の一方の端が検体液導入口10、他方の端が検査試薬液導入口40として、Y字型の流路の三叉路から下方の下端より上方の部分、並びに、I字型の流路の両端以外の部分を測定部20として、分析デバイス評価に用いた。蛍光分析、吸光分析、それぞれの検出限界を確認する目的のため、分析対象を共存させず、それぞれ、蛍光色素、可視光吸収を持つ色素を用いた。
(蛍光分析)
分析デバイス5としてY字型の流路を有する分析デバイス5(流路の深さdは、それぞれ5μm、25μm、65μm、420μm)を、検体液として蛍光色素フルオレセインイソチオシアネート水溶液(濃度1〜100 nM)を用いて、検査光として励起光(488 nm)を照射する光照射器50(レーザー、発光ダイオード、高圧水銀ランプ、ハロゲンランプなど)及び測定光として蛍光発光(520 nm)を受光する受光器60(フォトマルチプライヤ、CCDなど)を前記流路に対して垂直となる同じ光路方向、かつ、互いに対向する位置に配置して分析装置1を組み、各分析デバイス5の検出限界を確認した(図4、表1参照。)。なお、光路長は流路の深さdに対応するので、それぞれ、5μm、25μm、65μm、420μmであった。
【0031】
アスペクト比4.2(光路長420μm)では、検出限界が極めて低濃度となった。
【0032】
【表1】

【0033】
(吸光分析)
分析デバイスとしてI字型の流路を有する分析デバイス(流路の深さdは、それぞれ25μm、65μm、420μm)を、検体液としてサンセットイエロー FCF水溶液(濃度0.0001〜1.0 mM)を用いて、検査光(488 nm)を照射する光照射器50及び測定光として透過光(同じく488 nm)を受光する受光器60を前記流路に対して垂直となる同じ光路方向、かつ、互いに対向する位置に配置して分析装置1を組み、各分析デバイスの検出限界を確認した(図5、表2参照。)。なお、光路長は流路の深さdに対応するので、それぞれ、25μm、65μm、420μmであった。
【0034】
アスペクト比4.2(光路長420μm)では、検出限界が極めて低濃度となった。
【0035】
【表2】

【符号の説明】
【0036】
1…分析装置、5…分析デバイス、10…検体液導入口、20…測定部、30…形態液排出口、40…検査試薬液導入口、50…光照射器、60…受光器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、検体液導入口、測定部及び検体液排出口を備える分析デバイスであって、
前記測定部が深さdと幅wとのアスペクト比d/wが3以上であり、かつ、幅wが50μm以上である流路からなることを特徴とする分析デバイス。
【請求項2】
さらに、検査試薬液導入口を有することを特徴とする請求項1に記載の分析デバイス。
【請求項3】
基板上に膜厚100μm以上の感光性樹脂膜を形成する感光性樹脂膜形成工程と、
前記感光性樹脂膜形成工程で形成された感光性樹脂膜に対して、フォトマスクを介して紫外線を照射して幅50μm以上の鋳型パターンを形成する鋳型パターン形成工程と、
前記鋳型パターン形成工程で形成された鋳型パターンを用いて、前記感光性樹脂膜から離型可能な高分子材料を成型する高分子材料形成工程と、
を含むことを特徴とする分析デバイスの製造方法。
【請求項4】
少なくとも、検体液を導入する検体液導入口、前記検体液導入口により導入された前記検体液を測定する測定部及び前記測定部から排出される前記検体液を受ける検体液排出口を備えた分析デバイスと、前記分析デバイスの測定部に検査光を照射する光照射手段と、前記分析デバイスの測定部からの測定光を検出する受光手段とを備えた分析装置であって、
前記測定部が深さdと幅wとのアスペクト比d/wが3以上であり、かつ、幅wが50μm以下である流路からなり、
流路の深さ方向と流路を通過する検査光及び測定光の光路方向とが一致することを特徴とする分析装置。
【請求項5】
さらに、検査試薬液を分析デバイスに導入する検査試薬液導入手段を有することを特徴とする請求項4に記載の分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−95193(P2011−95193A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−251536(P2009−251536)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、文部科学技術省、科学技術総合研究委託事業「先端融合領域イノベーション創出拠点の形成 分析・診断医工学による予防早期医療の創成」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】