説明

分析デバイス、読取装置及び情報管理システム

【課題】病原微生物及び毒素等の低濃度サンプルの高感度分析に際し、オンサイト分析が可能であり、迅速に分析を行うことができ、かつ小型の分析デバイスを得る。
【解決手段】試料注入口1aを有する基板内に流路が形成されており、該流路の途中に固相表面アッセイ部11が設けられており、固相表面アッセイ部11に測定対象物質16に特異的に結合するアナライト特異結合性物質12が固定化されており、固相表面アッセイ部11のアナライト特異結合性物質14に、半導体ナノ粒子15が結合された発光性プローブ13を分散媒に分散させたプローブ試薬が試薬収納部から供給されるように構成されており、固相表面アッセイ部11において、プローブ結合複合体17が形成された後に、光の照射による半導体ナノ粒子15の励起により生じたフォトルミネッセンス現象による光信号を検出して、アナライト16を1分子から検出することを可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、約1μmから約1000μmというサイズで代表されるマイクロメートルオーダーの流路幅のマイクロキャピラリー流路と固相表面アッセイ部とが形成されている基板を有する分析デバイスに関し、より詳細には、発光性半導体ナノ粒子で標識されたプローブ試薬を用いた分析デバイス並びにそれを用いた読取装置及び情報管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
「流体物質混合物の電気泳動分離のための装置および方法」の名称で下記の特許文献1で開示されている、流路幅が約1μm〜約500μmのマイクロチップを基礎とする小型化キャピラリー電気泳動システムや、下記の特許文献2で開示されている「小型全分析システム」をはじめとして、分析デバイス及び読取機の小型化が盛んに研究されている。分析デバイスの小型化の主なメリットとして、(1)分析サンプル量が微量で済むこと及び(2)マイクロ空間の反応加速効果で分析時間が短くなること等が挙げられる。また、読取機の小型化のメリットとして、持ち運びができることによるオンサイトでの使用が可能となることが挙げられる。
【0003】
実際、このような技術に基づく迅速検査では、肝臓疾患の患者や特定の感染症患者の血液、尿、だ液、髄液もしくは間質液等の体液または糞便抽出液から1ng/mL程度以上の濃度の抗体タンパク質、疾患マーカー物質または毒素を数十分という短時間で迅速に検知定量することができる。
【0004】
しかしながら、現在の臨床検査並びに鑑定検査において、濃度1ng/mLは比較的高濃度であり、このような濃度の分析は低感度の機器分析法に区分される。一方で1pg/mL程度の検出感度が必要な毒素、薬物、サイトカイン類もしくはカテコールアミン類等が存在する。また、50CFU程度の検出感度が必要な高感染性の病原微生物などの検査項目も存在する。これらを便宜上、病原微生物及び毒素等低濃度サンプルと呼ぶことにする。ここでの病原微生物サンプルは、感染危険度が高いが未感染の低濃度の状態である。これら病原微生物及び毒素等低濃度サンプルの分析は、高感度が必要な分析に区分される。
【0005】
病原微生物及び毒素等低濃度サンプルを分析する場合には、数十分といった迅速な分析時間で確実な結果が得られる分析手段は未だに実現されていない。その最大の原因は、バイオセンサからの微小な信号をADコンバータ(アナログ−デジタルコンバータ)が読取可能なレベルにまで信号を増幅する電気的増幅部のゲイン(利得)が7桁から9桁を超えると、信号−ノイズ比(SN比)が急激に悪くなり、意味の有る信号処理ができなくなるからである。
【0006】
不足するゲインを補うために、酵素増感や遺伝子増幅といったノイズが少ない生物学的信号増幅手段をバイオセンサ部分もしくはその前段で併用することが一般的に行われている。すなわち、酵素もしくは増幅可能な遺伝子断片を失活しないように標識したプローブ試薬が用いられる。例えば、酵素増感イムノアッセイ法による1pg/mLの抗体タンパク質の定量には6〜12時間かかる。また、50CFU程度の病原微生物の場合には、培養またはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)後にアッセイを行うことで必要な感度が達成できるが、培養には少なくとも数日を要し、PCRには数時間を要す。マイクロ空間におけるPCRでさえ、前段増幅のためだけに、少なくとも40分間の処理時間を要する。
【0007】
マイクロ空間におけるPCRを利用する核酸診断装置は、下記の特許文献3に開示されている。特許文献3に記載の核酸診断装置は、複数のプレートの積層体からなり、該積層体内に、複数の反応チャンバーと、反応チャンバーに接続されるキャピラリー流路とが設けられている。そして、反応チャンバーにおいて分析サンプル中のアナライトが反応した結果が外部から光学的装置等により検出され得ると記載されている。
【0008】
生物学的信号増幅手段を併用するのではなく、バイオセンサからの信号そのものを大きくする試みもある。そうした試みのひとつにシングル半導体ナノ結晶(single semiconductor nanocrystalで標識した(1)免疫アッセイ、(2)PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)に基づくDNA型別及び同定、(3)フローサイトメトリー/蛍光活性化セルソーター、(4)前記(1)〜(3)への多色同時使用が下記の特許文献4で開示されている。
【特許文献1】特開平7−198680号公報
【特許文献2】特開平8−334505号公報
【特許文献3】特表平11−509094号公報
【特許文献4】特表2003−524147号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述の病原微生物及び毒素等の低濃度サンプルの高感度分析につき、オンサイト分析が可能なようにしようとすると、いくつかの課題に直面することとなる。
【0010】
課題の第一は分析時間である。上記のように、特許文献3には、複数のプレートの積層体からなり、キャピラリー流路及び反応チャンバーが構成されている核酸診断装置が開示されており、この核酸診断装置や卓上サイズの化学発光免疫分析法(CLIA)分析機といった生物学的信号増幅手段を併用する分析手段を用いれば、病原微生物及び毒素等低濃度サンプルにおいてもアナライトの検知定量は可能である。しかしながら生物学的信号増幅手段を併用する分析手段を用いて病原微生物及び毒素等低濃度サンプルを分析する限り、オンサイト分析を意図する場合に要求される約20分以内という短い分析時間で確実な結果を得ることはできなかった。
【0011】
課題の第二は確実性である。PCR法は最終的な検出にハイブリダイゼーションを利用する。この際、ミスハイブリダイゼーションの係数は通常20〜30%あり、さらに電場加速した場合などでは40%を超えることもある。このためPCRを併用する分析手段はCV値5%以下が要求される定量分析には向かず、その用途は検知に限られがちである。このため、病原微生物の低濃度サンプルの定量目的において培養法は現在でもなくてはならない技術となっている。また、病原微生物の検知に限ってみても、生きていない遺伝子断片をも検出してしまうので、偽陽性の問題も抱えている。
【0012】
第三の課題は読取機の大きさである。例えば、従来の装置(蛍光ルミノメーター)では9桁程度の電子増幅手段の限界に近い増幅ゲインを実現するために、冷却カメラまたは光電子増倍管付カメラ、アバランシェ・フォトダイオード(avalanche photodiodes)カメラ、高感度撮像管、もしくはイメージインテンシファイア結合CCDといった限界照度が1×10-3ルックスより高感度な特殊な高感度撮像素子と、高圧水銀灯、重水素ランプもしくはキセノンランプ等とをフィルターまたは回折格子と共に用いたものや、レーザー光源等に代表される高輝度紫外モノクローム光源と、共焦点光学系を有するような高価で比較的大型なモジュール技術が使われる。
【0013】
冷却カメラは熱ノイズを低減し、光電子倍増管付カメラやアバランシェ・フォトダイオード、高感度撮像管、イメージインテンシファイア結合CCDは熱ノイズのない増幅を行
う。高輝度紫外モノクローム光源は、ストークスシフトの大きな蛍光体による発光性プローブ試薬と共に用いることで迷光によるノイズを低減する。共焦点光学系は、焦点位置前後の光をカットすることでクリアな信号を得る。いずれもSN比を改善することによって感度の向上に貢献しているが、その一方で読取機を大型化させている。
【0014】
生物的信号増幅手段を廃し、バイオセンサの信号そのものを大きくする試みである特許文献4の発光性半導体ナノ粒子標識によるプローブ試薬の技術は、試薬の安定性の問題もあって、これを用いた小型全分析システムは報告されていない。
【0015】
本発明の目的は、上記病原微生物及び毒素等低濃度サンプル中のアナライトを対象に、例えば10分以内といった短時間で確実に検知定量することを可能とする分析デバイス及びこれに対応した読取機並びに情報管理システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る分析デバイスは、少なくとも一部が透光性とされている基板を有し、前記基板内に、液状の分析サンプルを注入する注入口及びマイクロキャピラリー流路が形成されており、かつ分析サンプル中のアナライトに特異的に結合する試薬が収納されており、前記マイクロキャピラリー流路に連結されている試薬収納部と、前記試薬とマイクロキャピラリー流路を流れてきた分析サンプルとが接触するように、前記マイクロキャピラリー流路の途中に設けられた固相表面アッセイ部とをさらに備え、前記試薬が、発光性半導体ナノ粒子で標識された発光性プローブを分散媒に分散させてなるプローブ試薬であることを特徴とする。
【0017】
本発明に係る分析デバイスのある特定の局面では、上記プローブ試薬は、さらに着色剤を含有している。
【0018】
本発明に係る分析デバイスの他の特定の局面では、前記試薬収納部に連結されており、前記プローブ試薬を前記固相表面アッセイ部に送液するガス湧出部がさらに備えられている。
【0019】
本発明に係る分析デバイスのさらに他の特定の局面では、前記ガス湧出部は、外的刺激によりガスを発生する機構を有する。
【0020】
本発明に係る分析デバイスの他の特定の局面では、前記分析サンプルが微生物を含み、該微生物由来のアナライトが分析・定量されるように構成されており、前記固相表面アッセイ部の上流に、前記微生物を溶解する部位が設けられている。
【0021】
本発明に係る分析デバイスのさらに別の特定の局面では、前記固相表面アッセイ部が暗視野照明または擬似暗視野照明となる照明光を受けるように構成されている。
【0022】
本発明に係る分析デバイスのさらに他の特定の局面では、前記基板に、前記固相表面アッセイ部に励起光を導入するための光導波路がさらに設けられている。
【0023】
本発明に係る分析デバイスのさらに他の特定局面では、光導波路を有し、複数種類のアナライト特異結合性物質が該光導波路表面に空間的にコード化して分散配置されている。
【0024】
本発明に係る分析デバイスのさらに別の特定の局面では、前記基板が複数のレイヤーを積層した構造を少なくとも有し、各レイヤー間の接合が、レイヤーを構成する光後硬化性レジンフィルムを積層後光照射することにより形成される化学結合にて行われていることを特徴とする。
【0025】
本発明に係る読取機は、本発明に従って構成された分析デバイスが挿入される挿入口を有し、前記分析デバイスに励起光を照明するための光源と、前記分析デバイスの前記固相表面アッセイ部において分析サンプル中のアナライトと、前記発光性プローブとの反応により形成されたプローブ結合複合体を標識している発光性半導体ナノ粒子の発光を検出する受光センサーと、前記受光センサーに接続されており、受光センサーにより出力された信号に基づいて前記分析サンプル中のアナライトの有無もしくは量を表示する表示装置とを備えることを特徴とする。
【0026】
本発明に係る読取機のある特定の局面では、前記分析デバイスの固相表面アッセイ部に励起光を照射するための光源がLED光源であり、前記受光センサーが光源によって励起された発光性半導体ナノ粒子のフォトルミネッセンス現象による光信号を検出するCCDにより構成されている。
【0027】
本発明に係る読取機のさらに他の特定の局面では、分析結果と位置情報を外部に向けて送信する送信装置がさらに備えられている。
【0028】
本発明に係る情報管理システムは、本発明に従って構成された読取機から送信された分析結果ならびに位置情報を受信し、該受信した情報を時空間データベースおよび地理情報システムと互換させることにより処理し、各分析装置の位置を地図上にマッピングすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係る分析デバイスでは、基板内に設けられた試薬収納部にアナライトに特異的に結合するプローブ試薬が収納されており、該プローブ試薬は、発光性半導体ナノ粒子でアナライト特異結合性物質を標識した発光性プローブを分散媒に分散させたプローブ試薬である。発光性半導体ナノ粒子は、光子のエネルギーが発光性半導体ナノ粒子のバンドギャップエネルギーより大きい光、すなわち半導体ナノ粒子のバンドギャップエネルギーに対応する波長よりも短い波長の光、を広く吸収してフォトルミネッセンス現象を引き起こす。一方、公知の有機色素蛍光体では、蛍光発光に寄与するのは特性吸収波長に対応する狭い幅の波長の光だけである。また、発光性半導体ナノ粒子の励起から発光までの時間は、公知の有機色素蛍光体のそれより数百倍短く、励起−発光サイクルのターンアラウンド回数の違いとして、一定時間の光信号量に差が出る。このため、LEDのような小型で簡便で消費電力が小さく波長に幅がある非モノクローム光を照射する光源を用いた場合、発光性半導体ナノ粒子は、公知の有機色素蛍光体より約100〜1000倍程度の光量の光信号を発する。
【0030】
よって、公知の有機色素蛍光体で標識されたプローブ試薬を用いる系では、励起に波長幅が狭くて高輝度なレーザー光源を、受光センサーに感度が高い冷却カメラ等を使用していたのに対し、本発明によれば、光源に安価でかつ小型の非モノクロームなLED光源を、受光センサーに汎用CCDを用いることができ、読取機の小型化を大幅におし進めることができる。例えば手で携帯し得る程度の読取機により、本発明に係る分析デバイスの固相表面アッセイ部におけるアナライトの検出を行うことができる。
【0031】
本発明に係るプローブ試薬が、着色剤を含有している場合には、着色剤として例えば疑似散乱光や迷光などを吸収することができる着色剤を用いることにより、SN比をより一層高めることができる。
【0032】
本発明において、試薬収納部に連結されたガス湧出部がさらに備えられており、該ガス湧出部からのガスの排除体積効果によりプローブ試薬が送液されている場合には、送液に
あたって機械的な要素を必要としないため、分析デバイスの小型化を進めることができる。ガス湧出部は、分析デバイスの外部のガス源に接続するように実装することもできるが、ガス発生機構を分析デバイスに内蔵するのが望ましい。ガス発生機構の制御は、電気的配線または機械的接触によるほか、熱または光といった外的刺激により制御されるように構成することもできる。上記ガス発生機構が、熱または光といった外的刺激により制御されるように構成されている場合には、電気的配線または機械的接触に寄らずガスを発生させて送液することができる。従って、分析デバイスと読取機のインターフェイスを簡略化することができ、分析デバイスならびに読取機の双方の小型化をより一層進めることができる。
【0033】
ガス発生機構は固体電解質膜によるマイクロガスポンプ、電解質溶液の電気分解による機構、または物理的刺激により分解または化合してガスを発生する材料で構成されるため非常にコンパクトで、多数実装が容易であり、多段のバッチ的な流体操作を伴う化学分析プロセスの全体が自動化される。
【0034】
また、ガス湧出部が特定波長の光照射によりガスを発生する樹脂である場合には、分析デバイス上の送液制御も読取機側にLED光源等を用意するだけで行われ得る。また、CCDを蓄積ドライビングすることにより、通常のCCDのSN比を約10〜5000倍改善することができるので、1ルックス程度の限界照度のCCDでも見かけの限界照度が1×10-4ルックス程度にまで小さくなり、LED励起によるシングル半導体ナノ粒子のフォトルミネッセンス現象を肉眼で観察するのと同様に1分子から検出することができる。よって、生物学的な増幅手段が必要なくなり、本発明の分析デバイスおよび読取機の小型化を充分に進めることができ、病原微生物及び毒素等低濃度サンプルについてもハンディなサイズの読取機で短時間の迅速な分析が実現される。
【0035】
本発明に係る分析デバイスにおいて、前記分析サンプルが微生物を含み、該微生物由来のアナライトが測定されるように構成されており、前記固相表面アッセイ部の上流に、前記微生物を溶解する部位が設けられている場合には、本発明の分析デバイスを用い、固相表面アッセイ部の上流側で分析サンプル中の微生物を溶解し、さらに固相表面アッセイ部において微生物由来の特定物質を高精度に測定することができる。また、微生物の細胞膜に存在する特定の膜タンパク質を測定するように分析デバイスが構成されている場合には、PCRや酵素増幅といった生物学的信号増幅手段を併用することなく、短時間で迅速高感度に検知することができる。従って、例えば炭疽菌などの芽胞菌などに由来する物質や毒素を測定する際に、測定に先立ち芽胞やオーシストなどを破壊もしくは溶解することができるので、このような菌体由来の毒素や物質を本発明の分析デバイスを用いて測定することができる。
【0036】
本発明に係る分析デバイスにおいて、前記固相表面アッセイ部が暗視野照明または擬似暗視野照明となる照明光を受けるように構成されている場合には、コントラストが強くつくため、非常にSN比の良い光信号を取り出すことができる。
【0037】
本発明において、前記固相表面アッセイ部に励起光を導入するための光導波路がさらに設けられている場合には、光導波路に導入伝播された光に伴い光導波路表面約500nm以内の近傍に局在する非伝播光であるエバッネッセント光が発光性プローブ試薬を標識している半導体ナノ粒子を励起しフォトルミネッセンス現象を引き起こす。このとき、エバネッセント光は表面局在光であり、通常の光と異なり長距離伝播しないので、固相表面アッセイ部で反応した発光性プローブ試薬のみを選択的に励起することとなり、反応しなかった遊離の発光性プローブは殆ど励起されることはない。このため、通常のアッセイで必要なB/F分離工程を省略することができる。また、エバネッセント光照明は、不要な散乱体が光導波路表面に無いように注意すれば、理想的な暗視野照明系となる。
【0038】
本発明において、基板内に光導波路が設けられており、該光導波路の表面に複数種類のアナライト特異結合性物質が空間的にコード化して分散配置されている場合には、各種のアナライト特異結合性物質それぞれの見かけ上の局所密度を下げることができるので、反応平衡に達するまでの時間を短縮することができ、適正な信号分離演算処理を施すことにより、バックグランドノイズの影響を除去して、複数種のアナライトを同時分析することが可能となる。
【0039】
本発明において、基板が複数のレイヤーを積層した構造を少なくとも有し、各レイヤーが光後硬化性を残す樹脂組成物からなるカットオフされたレジンフィルムである場合には、光照射によりレイヤー同士が強固に結合される。従って、キャピラリー流路をレイヤー同士の接着に用いられる接着剤によって埋めてしまうことなく簡便に、キャピラリー流路により分析操作が自動化された、機械的強度に優れた基板を有する分析デバイスを提供することができる。
【0040】
本発明に係る読取機では、本発明に係る分析デバイスが読取機の挿入口に挿入され、前述のように分析デバイスの固相表面アッセイ部分で反応した発光性プローブの半導体ナノ粒子標識を励起するための光源を内蔵する。この種の分析法では、従来は、高圧水銀灯、重水素ランプ、キセノンランプ等を光学波長フィルターまたは回折格子と共に用いたものやレーザー光源等に代表される高輝度紫外モノクローム光源が使用されてきたが、本発明にかかる読取機では、光源としてLEDのような小型で安価な非モノクローム光源を用いることができる。本発明に係る分析デバイスでは、固相表面アッセイ部にかかる基板の透光性部分への照明光が、CCD画素上に結像する光学系の光束とアッセイ部11表面以外で重ならないように光源と伝播光学系が配置され、いわゆる暗視野照明を構成するか擬似暗視野照明を構成することが好ましい。
【0041】
本発明に係る読取機の一実施態様としては、本発明に従って構成された分析デバイスを固定できる測定暗箱と、発光性プローブ試薬を標識している半導体ナノ粒子を励起するためのLED光源と、ガス発生機構を制御するLED光源と、発光性半導体ナノ粒子のフォトルミネッセンス現象を検出するCCDと、固相表面アッセイ部の像をCCD画素上に結像する光学系と、CCD画素上の瞬間の情報を蓄積または積算する機構と測定信号から分析結果に変換する機構とを備える装置が挙げられ、より好ましくは更に分析結果についての表示装置とデータ通信機能を備える。
【0042】
本発明の分析デバイスと読取機とを組合せて用いることにより、ADコンバータ前段の信号につき約1000倍〜100000のSN比改善効果が達成される。従って、PCRや酵素増感といった生物的信号増幅手段を併用することなく、1pg/mLの抗体タンパク質や50CFUの細菌に代表される病原微生物及び毒素等低濃度サンプルの迅速高感度な検知定量が可能となると共に、片手で持ちうる程度の携帯にも適する小型な読取機として本発明の構成を実現できる。
【0043】
また、上記固相表面アッセイ部において、分析サンプル由来のアナライトとプローブ試薬由来の発光性プローブとの反応により形成されたプローブ結合複合体を標識している発光性半導体ナノ粒子のフォトルミネッセンス現象が受光センサーにより検出されるように構成されており、かつ受光センサーに接続された表示装置がさらに備えられているので、本発明に係る読取機のみを用いることにより、分析から分析結果の表示までを本発明に係る読取機を用いて行うことができる。
【0044】
本発明に係る読取機において、分析デバイスの固相表面アッセイ部に励起光を照射するための光源がLED光源であり、受光センサーがCCDにより構成されている場合には、
LED光源及びCCDが小型であるため、小型の読取機を提供することができる。
【0045】
本発明に係る読取機が、測定結果を外部に向けて送信する送信装置をさらに備えている場合には、本発明に係る読取機を、病院、役所、郵便局、警察署、入国管理局などの様々な部署に配置しておくことにより、これらの様々な部署において分析サンプル中のアナライトを速やかに測定し得るだけでなく、測定結果を位置情報と共にリアルタイムで、例えば集中監視システムに速やかに送信することができる。
【0046】
また、本発明に係る情報管理システムでは、本発明の読取機から送信された測定結果と位置情報を受信し、地図上にマッピングするように構成されている。従って、広域の汚染状況や災害状況、イベント発生状況を速やかに把握し、対策に役立てることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る分析デバイス及び該分析デバイスと組み合わせて用いられる読取機についての具体的な実施形態を説明する。
【0048】
(本実施形態の分析デバイス及び読取機の概要)
本実施形態では、図1(a)に内部流路を透視して示す分析デバイス1と、図5の右側に示されている読取機101とを用いて低濃度の微生物及び毒素等が検知定量される。分析デバイス1は、掌中に収められ得る程度の小さなカードとして構成されている。この分析デバイス1の寸法は限定されないが、取り扱いを容易とするために、例えば、30mm×80mm×厚み2mm以下の寸法とされている。もっとも、分析デバイス1は、図示のようなある程度の幅方向寸法を有する矩形形状に限らず、ストリップ形状などの細長い形状とされていてもよい。
【0049】
分析デバイス1には、分析サンプルが注入され、分析デバイス1内において、測定サンプル中の微生物の細胞膜やウィルス外套膜が溶解された後に、微生物由来のタンパク質やリガンドが、後ほど詳述するように、分析デバイス1内の固相表面アッセイ部に固定化されているアナライト特異結合性物質と、半導体ナノ粒子により標識された発光性プローブと競合的にもしくは非競合的にプローブ結合複合体を形成する。
【0050】
他方、読取機101には、上記半導体ナノ粒子を励起する光源が備えられている。測定に際しては、分析デバイス1を、読取機101の測定暗箱101a内にセットする。そして、読取機101において、光源から光を固相表面アッセイ部に照射し、固相表面アッセイ部に固定化されているアナライト特異結合性物質とプローブ結合複合体を形成している発光性プローブを標識している半導体ナノ粒子を励起する。その結果、半導体ナノ粒子がフォトルミネッセンス現象により半導体ナノ粒子のサイズで決まる波長で発光し、該発光現象が読取機101により測定される。この発光現象の信号強度を基に所定の演算を行った結果として、測定サンプル中のアナライト(多くは、微生物由来のタンパク質またはリ
ガンド)の総量が測定され、結果的に微生物及び毒素等が検知定量される。
【0051】
本実施形態の分析デバイス1及び読取機101は、上記のようにして用いられるものであり、分析デバイス1が掌中に納まる程度の小さなカード型の形状を有する。そして、吸光バンドが広い高輝度な発光性半導体ナノ粒子をプローブ試薬の標識として用いているため、特別に強力な高輝度モノクローム光源を必要としない。例えば、青色から紫色の波長域で発光するLEDのような小型でかつ安価な非モノクローム光源を励起光源として用いることができる。更に、特殊な高感度カメラを用いずにCCDのドライビングに次のような工夫を施してある。すなわち、暗電流および欠点素子の情報を差し引きながら正の信号のみをCCD上で蓄積する、ダーク補正処理を伴う電荷蓄積方法、画像情報を一旦フレームバッファに読み出した後にダーク補正処理を行なった画像を時間積分していく方法が選
択できる。フレームバッファを用いる方法では、NTSC信号やPAL信号等の時系列信号による信号伝送が関与してもよい。これらを便宜上、CCDの蓄積ドライビングと呼ぶことにする。
【0052】
CCDの蓄積ドライビングは多少の電子回路配線とソフトウェアで実現されているのでとてもコンパクトに実現でき、なおかつ安価である。1ルックス程度の限界感度の安価なCCDを蓄積ドライビングすることにより、見かけ上1×10-4ルックス程度の限界感度を達成することができる。従って、読取機101もまた、小型かつ安価に構成され得る。例えば、読取機101は、片手で携帯し得る程度の大きさすなわち携帯型の読取機とすることができる。
【0053】
よって、本実施形態の分析デバイス1及び読取機101を用いた分析システムは、規模の大きな病院や臨床検査センターだけでなく、郵便局、入出国管理局、警察署、または様々なオフィスに備え付けることができる。また、これらの様々な部署で、不審物検査やBC災害の原因分析を目的とするオンサイト分析に使用することができる。
【0054】
以下、本実施形態における測定原理、分析デバイスの詳細及び読取機101の詳細を順に説明する。
【0055】
(本発明に係る分析デバイス1を用いた測定法の原理)
本発明の分析デバイスを用いた測定方法としては、一般の蛍光標識免疫検査に類似の競合法もしくは非競合法が選択される。
【0056】
本発明で用いられる蛍光標識免疫検査類似の競合法では、測定サンプル中のアナライトと特異的に結合する固相表面アッセイ部表面に固定されたアナライト特異結合性物質に対し、分析サンプル中のアナライトと、発光性半導体ナノ粒子により標準物質を標識した発光性プローブ試薬とを競合反応させて、固相表面アッセイ部の表面に固定されたアナライト特異結合性物質とアナライトからなる非発光の結合複合体並びに固相アッセイ部表面に固定されたアナライト特異結合性物質と発光性半導体ナノ粒子により標識された標準物質からなる発光性の結合複合体が形成される。
【0057】
本発明で用いられる蛍光標識免疫検査類似の非競合法では、分析サンプル中のアナライトと特異的に結合する固相アッセイ部表面に固定されたアナライト特異結合性物質と、発光性半導体ナノ粒子により標識されたやはりアナライトと特異的に結合する発光性プローブによりサンドイッチ型のプローブ結合複合体が形成される。
【0058】
競合法、非競合法ともに、分析デバイスの固相表面アッセイ部に固定されたアナライト特異結合性物質としては、アナライトと特異的に結合する物質であれば何でもよく、抗体タンパク質、改変抗体、受容体タンパク質、DNA、RNA、ファージテイル由来リガンド、ペプチド、ペプチド核酸(PNA)、アプタマー、包接化合物、キレート試薬等が好適に用いられる。
【0059】
競合法で用いられる発光性プローブは、アナライトの標準品を発光性半導体ナノ粒子で標識したものであり、該発光性プローブは、固相表面アッセイ部に固定されたアナライト特異結合性物質に対し、アナライトと共に競合的に反応してプローブ結合複合体を形成する。前記のアナライトの標準品としては、精製されたアナライトのほか、アナライトと同じ認識部位を有すためにアナライトと同じ発光性プローブと結合する改変体もしくはモデル物質であってもよい。
【0060】
非競合法で用いられる発光性プローブは、アナライトと特異的に結合する物質を発光性
半導体ナノ粒子で標識したものであり、該発光性プローブは、固相表面アッセイ部に固定されたアナライト特異結合性物質とアナライトと共に、サンドイッチ型のプローブ結合複合体を形成する。ここで用いられるアナライト特異結合性物質としては、抗体タンパク質、改変抗体、抗原、受容体タンパク質、受容体タンパク質に対応するリガンド、酵素、補酵素、ハプテン、DNA、RNA、ペプチド、ペプチド核酸(PNA)、アプタマー、糖鎖、包接化合物、キレート試薬等が好適に用いられる。
【0061】
従来、有機色素蛍光体や無機錯体蛍光体、もしくはこれらを包埋する発光性粒子を発光性標識物質として用いた発光性プローブ試薬によって固相表面アッセイを行なってプローブ結合複合体を形成し、発光性標識物質からの信号の総量の強度を測定する方法が知られている。もっとも、発光性標識物質としてフォトルミネッセンス能を有する発光性半導体ナノ粒子を用い、なおかつマイクロキャピラリー流路を有する分析デバイス1において化学分析プロセスの全体を自動化する技術としては前例を見ない。これは発光性半導体ナノ粒子の保存安定性、特に凝集に問題があったためである。
【0062】
すなわち、本発明の重要な特徴の1つは、凝集せずに保管できる発光性半導体ナノ粒子標識プローブ試薬を開発し、蛍光現象ではなく半導体ナノ粒子が発現するフォトルミネッセンス現象を利用するマイクロキャピラリー流路式分析デバイスを可能にしたことにある。その結果、バイオセンサである固相表面アッセイ部の光信号出力のSN比が約100〜1000倍改善され、これに更に、通常のCCDのSN比を10〜1000倍改善する蓄積ドライビング法を読取機の内部処理として実施することで、従来のようにPCRや酵素増感といった生物学的信号増幅手段を併用することなく、1pg/mLの抗体タンパク質や50CFUの細菌に代表される病原微生物並びに毒素等の低濃度サンプルを10分以内の短時間で迅速に高感度に検知定量することを可能としている。
【0063】
前記の発光性半導体ナノ粒子とは、そのサイズが約10nm未満の半導体ナノ粒子であり、このくらいの大きさになると量子サイズ効果により半導体単結晶のバンドギャップが増大してバンドギャップよりもエネルギーの高い光を吸収してバンドギャプのエネルギーに対応する波長の光を輻射するフォトルミネッセンス現象が見られるようになる。
【0064】
フォトルミネッセンス現象を示す発光性半導体ナノ粒子の特徴として、次のようなことがあげられる。
【0065】
1)II−VI族の発光性半導体ナノ粒子の吸光係数は有機色素蛍光体とほぼ同程度であり、また遷移が直接遷移型であるため発光量子収率も高く、バンドギャップのエネルギーを超える波長の光さえ当てれば、1光子からの微弱な光でも確実に発光する。
【0066】
2)発光性半導体ナノ粒子の発光寿命はおよそ1から数十ナノ秒で、現在使われている有機色素蛍光体に比べて5桁ほども短く、吸収・発光のサイクルを素早く繰り返すことになり、時間平均による見かけの輝度が高い発光が得られる。
【0067】
3)大きさを揃えた発光性半導体ナノ粒子の集団の発光は、スペクトル波長幅が25〜30nmでほとんどガウス関数形のシャープでテーリングのない発光スペクトルとすることができる。更に、発光波長は半導体ナノ粒子のサイズで制御できるので、感度が高いフォトデテクタが揃っている赤から近赤外の波長で発光する半導体ナノ粒子を狙いどおりに作ることができる。
【0068】
4)有機色素蛍光体では、特定波長の比較的波長幅の狭い光の吸収だけが蛍光に結びつき、しかも吸収波長と発光波長とが接近していることが多い。これに対し、発光性半導体ナノ粒子の場合は、励起光はバンドギャップより高エネルギーであればよいので、吸収と
発光の波長を大きく離すことができるうえ、モノクロームではない光源の出力を有効に狭い波長域の強い発光に結びつけることができる。
【0069】
5)公知の有機色素蛍光体はレーザー光のような強力な光を照射するとフォトブリーチングしてしまう。このとき起こる有機色素蛍光体から非蛍光種への変換は不可逆で、更にこの非蛍光種が時にアッセイ反応に干渉し正確な測定を阻害する。これに対し、発光性半導体ナノ粒子にはフォトブリーチング耐性がある。
【0070】
6)有機色素蛍光体は濃度が高くなると濃度消光を起して発光が極端に弱くなるが、発光性半導体ナノ粒子のフォトルミネッセンス現象では濃度消光はみられない。
【0071】
このような特徴ゆえ、発光性半導体ナノ粒子で標識した発光性プローブは輝度が高く、小型で安価な非モノクローム光源であるLEDで励起したときでさえ、肉眼でも1分子からの検出が可能である。より具体的に説明すると、比べる有機色素蛍光体の励起波長を発光中心波長にもつLEDで照明して、濃度を揃えた有機蛍光色素と発光性半導体ナノ粒子とで発光波長での照度を比較した場合、発光性半導体ナノ粒子標識によるプローブ試薬の方が有機色素蛍光体によるプローブ試薬よりも約百〜数千倍明るい。
【0072】
ところで、半導体ナノ粒子は表面の割合がきわめて大きく、表面エネルギーが大きいため、不安定で凝集しやすい。また、細心の注意を払ってつくったものでないと、表面のダングリングボンドなどの欠陥により励起子が用意に無輻射失活するので、ほとんど発光しない。これを回避するためには、遷移元素イオンが半導体ナノ粒子にドープされていることが望ましい。遷移元素イオンをドープした半導体ナノ粒子では、表面状態に特に注意しなくてもある程度の発光効率は得られるが、ドープしていないナノ結晶では、励起子は容易に表面欠陥にトラップされて失活する。II−VI族の半導体ナノ粒子を作製するに当たっては、表面の状態を制御し、不活性化することがきわめて重要である。
【0073】
本発明において用いる発光性半導体ナノ粒子としては、例えば、CuCl等のI−VII族化合物半導体、CdS、CdSe等のII−VI族、InAs等のIII−V族化合物半導体、IV族半導体等の半導体結晶、TiO2等の金属酸化物、フタロシアニン、ア
ゾ化合物等の有機化合物からなるもの、またはそれらの複合材料等が挙げられる。このような複合材料としては、例えば、CdSをコア−CdSeをシェル、CdSeをコア−CdSをシェル、CdSをコア−ZnSをシェル、CdSeをコア−ZnSをシェル、CdSeのナノ結晶をコア−ZnSをシェル、CdSeのナノ結晶をコア−ZnSeをシェル、Siをコア−SiO2をシェルとするコア−シェル構造を有するもの等が挙げられる。
【0074】
上記発光性半導体ナノ粒子としては、好ましくはカルコゲナイド半導体ナノ粒子(chalcogenide semiconductor nanoparticles)またはシリコン シングル半導体ナノ結晶(Si single semicondactor nanocristal)、シリコン非晶質ナノ粒子が挙げられる。上記半導体ナノ粒子の粒子径は好ましくは10nm未満であり、好ましい下限は3nmである。
【0075】
上記の発光性半導体ナノ粒子を発光性標識としてプローブ試薬を調製する際の方法は特に限定されない。例えば、半導体ナノ粒子の表面にはメルカプト基やホスフィンオキシド基等の配位性構造を利用して種々の化合物を結合させる事ができる。分子末端にカルボキシル基、アミノ基等を有するアルカンチオール類を表面に固定して半導体ナノ粒子を水溶液中に安定化できる。また末端のカルボキシル基やアミノ基を介して特定の生物活性物質、アビジン、ストレプトアビジン等にも連結可能になる。また、半導体ナノ粒子15を合成樹脂に包含し、該合成樹脂をアナライト特異結合性物質または標準物質に化学的に結合する方法を用いることができる。上記発光性半導体ナノ粒子を合成樹脂粒子に含有させる
方法は、従来より公知の任意の方法で行われ得る。例えば、半導体ナノ粒子の存在下で重合性モノマーを乳化重合、懸濁重合などの重合方法で重合する方法が挙げられる。
【0076】
上記モノマーとしては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−ビニルトルエン、m−ビニルトルエン、p−ビニルトルエン等の芳香族ビニル化合物;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等のアクリレート類;(メタ)アクリロニトリル、シアン化ビニリデン等のシアン化ビニル化合物;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン等のハロゲン化ビニル化合物;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステルなどが挙げられる。
【0077】
上記重合性モノマーは、これらの重合性モノマーを重合する際に一般に共重合されている単官能性モノマーや多官能性モノマーが共重合されてよく、単官能性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸、グリシジルアクリレート等が挙げられ、多官能性モノマーとしては、例えば、ジビニルベンゼン、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピオングリコールジ(メタ)アクリレート、メリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0078】
なお、合成樹脂粒子中の発光性半導体ナノ粒子の含有量は特に限定されない。もっとも、測定感度を十分な大きさとするには、合成樹脂粒子中、発光性半導体ナノ粒子は5〜80重量%の範囲で含有されていることが好ましく、より好ましくは15〜60重量%である。
【0079】
上記合成樹脂粒子の粒径は小さいことが好ましく、10μm以下が好ましく、より好ましくは20〜500nmであり、さらに好ましくは30〜200nmの範囲である。
【0080】
図1(b)は、本発明の分析デバイス及び読取機を用いた場合の測定原理を模式的に示す図である。図1(b)に示すように、本発明の分析デバイスでは、マイクロキャピラリー流路の途中に固相表面アッセイ部11が設けられている。固相表面アッセイ部11において、アナライト特異結合性物質12が固定されている。アナライト特異結合性物質12に、アナライト16を介して別のアナライト特異結合性物質14に発光性半導体ナノ粒子15が結合されている発光性プローブ13が結合される。このようにしてプローブ結合複合体17が固相表面アッセイ部11に固定化される。上記発光性プローブ13は、アナライト特異結合性物質または標準物質14と、発光性半導体ナノ粒子15とが結合された構造を有する限り、上記合成樹脂粒子に発光性半導体ナノ粒子15を含有させたものなど任意の形態とされ得る。
【0081】
また、上記発光性プローブ13は、分析デバイス1内においては、後述するように、適宜の分散媒に分散されたプローブ試薬という状態で、固相表面アッセイ部に搬送される。プローブ試薬の分散媒としては、通常用いられる緩衝液を適宜用いる事ができる。例えば、リン酸緩衝液、グリシン緩衝液、トリス緩衝液、硼酸緩衝液等が挙げられる。粒子の安定性を保持する為に牛血清アルブミン、カゼイン、乳性タンパク質等のタンパク質、ポリビニルアルコール等の高分子を適宜添加する事ができる。
【0082】
プローブ試薬には発光性プローブと分散媒のほかに、染料あるいは顔料を複合化した樹脂微粒子等の着色微粒子が含まれていてもよい。着色微粒子の吸収波長は、すくなくとも発光性半導体ナノ粒子の励起波長もしくは発光波長と重なるように選ぶのが望ましい。着色粒子はエバッネッセント光照明における二次散乱光やその他の迷光を吸収し、SN比が
改善される。着色微粒子を用いる場合には、発光の測定を着色微粒子が邪魔しない方向、たとえば、光導波路の上面に固相表面アッセイ部を設けた場合には光導波路の下面から発光性半導体ナノ粒子を含むプローブ結合複合体のフォトルミネッセンスを観察する。
【0083】
着色微粒子に用いられる樹脂の種類としてはスチレン、α−メチルスチレン、p−クロロスチレン、クロロメチルスチレン等のスチレン誘導体;塩化ビニル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;アクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、エチレングリコール(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル誘導体等を重合したもの等が挙げられる。これらの樹脂は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。平均粒径は20nmから1μmで、粒径分布は狭いものが望ましい。粒径は好ましくは30nmから200nmである。
【0084】
着色微粒子に用いられる着色剤としては吸収波長のピークが300nm以上で発光波長のピークが400nm以上のものが好ましく、市販の染料、顔料から適宜選択可能である。樹脂微粒子の合成過程で着色剤を共存させて合成する方法としては懸濁重合、乳化重合、ミニエマルジョン重合、ソープフリー重合が選択できる。また、樹脂微粒子を合成後、着色化する方法としては、物理吸着法、溶媒存在化で含浸する方法、加圧下で含浸する方法等適宜選択できる。
【0085】
他方、図1(b)に示すように、固相表面アッセイ部11においては、アナライト特異結合性物質12が固定化されている。このアナライト特異結合性物質12としては、前述したように、アナライトに応じて、抗体タンパク質、改変抗体、抗原、受容体タンパク質、受容体タンパク質に対応するリガンド、酵素、補酵素、ハプテン、DNA、RNA、ペプチド、ペプチド核酸(PNA)、アプタマー、糖鎖、包接化合物、キレート試薬等により構成され得る。すなわち、アナライトと特異的に結合し得る適宜の物質が用いられる。アナライト特異結合性物質の固定方法についても特に限定されず、物理吸着、共有結合、イオン結合または包接などの様々な方法で行われ得る。
【0086】
前述したように、プローブ結合複合体17が形成され、プローブ結合複合体に励起光が照射されると、プローブ結合複合体を構成する発光性プローブの半導体ナノ粒子15がフォトルミネッセンス現象による発光を示す。この発光を観測することにより、プローブ結合複合体17が検出される。発光性半導体ナノ粒子15の発光強度が非常に高く、従来の有機色素蛍光体に比べSN比がよいため、本発明の半導体ナノ粒子15を用いた測定方法では、生物学的信号増幅手段を併用することなく病原微生物および毒素等低濃度サンプルの分析が行え、光源を含む装置全体の小型化を著しく進めることができる。
【0087】
(実施形態に係る分析デバイスの詳細)
次に、本実施形態の分析デバイス1の詳細を図面を参照しつつ説明する。
【0088】
図1(a)は、本実施形態の分析デバイスの内部に構成されているマイクロキャピラリー流路や固相表面アッセイ部を説明するための模式的平面図であり、図2は、分解斜視図である。なお、図1では、内部の流路や固相表面アッセイ部を図示するために、分析デバイスの上面の構成の図示は省略されて内部流路を透視しているかのように示していることを指摘しておく。すなわち、図3(b)に平面図で示すように、具体的には、分析デバイス1の上面には、後述する遮光層が形成されており、該遮光層の一部が切り欠かれて、観測窓23が設けられている。
【0089】
また、図2では、分析デバイス1を構成するための各部材の構造を説明するために、分析デバイス1が分解斜視図で示されている。
【0090】
分析デバイス1は、カード型の基板であり、図2に示すように、基板材3a、レイヤー4a〜4c及び基板材3bを積層した構造を有する。本実施形態では、基板材3a,3bは合成樹脂板からなる。このような合成樹脂板としては、特に限定されず、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ乳酸系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂などが挙げられる。
【0091】
他方、中間に位置しているレイヤー4a〜4cは、基板材3a,3bよりも薄い合成樹脂フィルムからなる。また、レイヤー4a〜4cは、好ましくは、合成樹脂フィルムを打ち抜くことにより形成されており、さらに各レイヤー4a〜4cには、後述するように、多数の貫通孔が形成されており、該貫通孔により、流路や試薬注入部等が構成されている。他方、基板材3aの下面にも、図2に示されているように、多数の凹部が形成されており、さらに後述の試料注入口を形成するための貫通孔も形成されている。
【0092】
なお、レイヤー4a〜4cは、同一材料で構成されていてもよく、異なる材料で構成されていてもよい。レイヤー4aには、固相表面アッセイ部11を形成するために大きな貫通孔が形成されており、該貫通孔に、光導波路を形成するための光導波路構成部材21Aが嵌め込まれる。
【0093】
上記レイヤー3とレイヤー4aとの間には、光導波路を形成するための光導波路構成部材21Aが積層されている。
【0094】
上記レイヤー4a〜4cを構成する合成樹脂としては、特に限定されないが、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ乳酸系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂などが挙げられる。
【0095】
上記基板材3a,3b及びレイヤー4a〜4cを構成する樹脂には、適宜、無機充填剤や色素等が配合されていてもよい。
【0096】
さらに、本発明では、抗原、抗体もしくはハプテン等のタンパク質等の生物学的物質がアナライトとして測定され得るため、基板材3a,3b及びレイヤー4a〜4cを構成する材料は、変異原性を有しないものであることが好ましい。
【0097】
上記光導波路構成部材21Aは、ガラスまたは透明合成樹脂からなる矩形板状のフィルムで構成されている。この光導波路構成部材21Aの一部には、光導波路に光を効率よく導き入れるために、回折格子またはプリズム状の形状加工が行われているのが好ましい。
【0098】
本実施形態では、上記基板材3a,3b間に配置される複数のレイヤー4a〜4cは、後述するように、光硬化性を有する半硬化状態の樹脂フィルムにより好ましくは形成される。その場合には、半硬化状態の樹脂フィルムからなるレイヤー4a〜4cを積層し、光導波路構成部材21Aを配置し、上下に基板材3a,3bを積層した状態において、積層体に光を照射すればよい。光の照射により、光硬化性を有するレイヤー4a〜4cが硬化するとともに、化学結合により、レイヤー4a〜4c相互及びレイヤー4a,4cと基板材3a,3bとが接合され、積層体2が容易にかつ確実に形成され得る。基板材3a,3bならびにレイヤー4a〜4cは、前記光硬化反応を阻害しない程度の透光性を有することが必要であることはいうまでもない。
【0099】
なお、本発明において、分析デバイス1が積層体であるということは、複数のレイヤー
を積層した構造を有するものである限り、特に限定されず、複数のレイヤーが積層されている構造のみにより積層体を構成してもよい。すなわち、上記基板材3a,3bを、レイヤー4a〜4cを構成している光後硬化性の樹脂フィルムにより構成してもよい。
【0100】
図1(a)及び図2を併せて参照しつつ、分析デバイス1の構造の詳細を説明する。
【0101】
図1(a)に示すように、注入口1aが分析デバイス1に設けられている。すなわち、図2に示されている基板材3aに貫通孔として注入口1aが形成されている。注入口1aから、液状の分析サンプルが注入される。この注入は、基板材3aの注入口1aが上になるように分析デバイスを保持し、ピペットやシリンジ等の適宜の部材を用いて行い得る。注入口1aは、分析サンプルを注入したのち、シールテープ等で塞がれる。
【0102】
図1(a)に示すように、注入口1aにキャピラリー流路である流路7が連なっている。この流路7は、50μm〜800μm程度の径もしくは幅方向寸法を有する。流路7の途中には、脱泡部7aが構成されている。脱泡部7aは、流路7よりも大きな表面積を有する空間を設けることにより構成されている。注入口1aの上流側には、外部からのエネルギーによりガスを放出するガス発生機構からなるガス湧出部7bが設けられている。このガス湧出部7bから湧き出すガスの排除体積効果により、注入口1aに供給された液状の分析サンプルが流路7に送られる。そして、分析サンプルは、脱泡部7aを経て流路7のさらに下流側に送られる。脱泡部7aがある程度の空間を有するように構成されているため、脱泡部7aにおいて分析サンプル中の泡が脱泡部7aに留まり、流路7の下流側に移動しないように構成されている。
【0103】
また、脱泡部7aの下流側において、流路7には、分岐流路7cが接続されている。分岐流路7cは、ガス湧出部7dに接続された試薬収納部8aが接続されている。従って、ガス湧出部7dで発生したガスにより、試薬収納部8aに収納されている試薬が分岐流路7cから流路7に供給される。
【0104】
上記試薬収納部8aには、微生物を溶解するための試薬が収納されている。本実施形態の分析デバイス1では、分析サンプルが微生物を含み、該微生物の細胞膜や外套膜に存在する特定のタンパク質を測定する用途に用いられている。そのため、微生物を溶解するための試薬が試薬収納部8aから流路7に供給され、後述する混合部7fにより微生物の細胞膜や外套膜が溶解される。そして、流路7の分岐流路7cに接続されている部分よりも下流側には、流路7の途中にコイル状流路からなる混合部7fが配置されている。前述したように、混合部7fは、微生物の細胞膜や外套膜を溶解する溶解部を構成している。混合部7fは、流路7と同等の径を有し、但し複数ターンの巻回部を有するコイル状の流路である。従って、混合部7fを通過する際に、試薬と液状試薬が十分に混合されるように構成されている。この混合部は、必ずしもコイル状流路である必要はなく、混合機能を発現するものであれば、既知の異なる流路形態で置き換えてもよい。また、混合部7fの途中には、試薬注入流路8bを介して第2の試薬収納部8cが接続されている。試薬収納部8cには、ガス湧出部8dが接続されている。従って、ガス湧出部8dには光でガスを発生する樹脂が充満されており、ガス湧出部8dに対向する位置に配置された読取機内のL
EDを点灯させることにより、第2の試薬収納部8cに収納されていた試薬が、さらに試薬注入流路8bから混合部7fを流れている分析サンプルに添加され、混合が続けられる。
【0105】
本実施形態では、第1の試薬収納部8a及び第2の試薬収納部8cに、それぞれ、検体に応じた試薬が収納される。例えば、微生物による低濃度サンプルを分析デバイス上で微生物の溶解を行って分析する場合には、第1の試薬収納部8aに、微生物を溶解するための溶解試薬が、第2の試薬収納部8cに中和剤が収納される。この溶解試薬としては、ト
リクロロ酢酸や、SDS(ソディウムドデシルサルフェイト)等の界面活性剤、リゾチーム等の溶菌酵素分散液などが挙げられる。溶解試薬は液状とされている。混合部7fの下流側には、逆止弁7eが配置されている。逆止弁7eは、ガス湧出部7hからのガス圧で内部のゲルを移動し、混合部7fの下流端を閉塞する。この操作は、フィルター9でのろ過が終わった後に起動される。ガス湧出部7hからのガスはその後、フィルター9の出口側蛇行流路に流れ込み、フィルター9でのろ過後の分析サンプルをフラッシュし、計量部7jへ搬送する駆動力となる。
【0106】
なお、微生物溶解処理は、分析デバイスに分析サンプルを注入する前に済ませておいても問題ない。その場合には、分析デバイス1において、溶解処理を行うための試薬を収納する試薬収納部や溶解処理を行うための混合部等は必要ではない。
【0107】
フィルター9は、混合された分析サンプルと試薬中の異物や夾雑物を除去するために配置されている。このフィルター9は、多孔質吸着フィルムを蛇行流路で上下から挟み込んだ構造をしている。蛇行流路で挟むのは、固定と大面積化を両立させるためである。
【0108】
フィルター9の下流側において、逆止弁7iを介して計量部7jへと接続する。
【0109】
逆止弁7iは計量部7jと協調して、分析サンプルの体積計量を行う。ガス湧出部7kは、逆止弁7iの駆動用であり、ガス湧出部7mは、計量後の液体搬送用である。計量部7jの下流側には、第2の混合部7nが設けられている。混合部7nは、コイル状の流路により構成されており、混合部7nに、ガス湧出部7oに接続された試薬収納部8eが接続されている。試薬収納部8eから、混合部7nにさらに試薬を供給し、混合することができる。試薬収納部8eには、競合法における発光標識された標準物質または、非競合法における希釈のための分散媒が格納される。流路7は更に固相表面アッセイ部11にまで連なり、アナライトは、固相表面アッセイ部11の表面に固定されているアナライト特異結合性物質と反応して固定される。その後、逆止弁7qが閉塞され、試薬収納部8fから非競合法におけるプローブ試薬が供給され、続いて分散媒収納部8gから供給される分散媒でB/F分離が行われる。ガス湧出部7rは逆止弁7q駆動用、7sはプローブ試薬搬
送用、7tはB/F分離用分散媒の搬送用である。
【0110】
固相表面アッセイ部11においては、上方に、図2に示した光導波路構成部材21Aが配置されており、光導波路が構成されている。なお、固相表面アッセイ部11の下流にさらにマイクロキャピラリー流路7は延び、ある程度の容積を有する廃液貯留部7wに接続されている。
【0111】
上記廃液貯留部7wは、図2において、基板材3aに大きな凹部として形成されている。すなわち、本実施形態の分析デバイス1では、廃液は、閉じられた廃液貯留部7wに収納される。従って、毒性を有する廃液が分析デバイス1外へ漏洩することを防止することができる。よって、安全性が高められている。
【0112】
もっとも、廃液貯留部7wに廃液を円滑に導くには、廃液の漏洩を防止し得るが、気体を逃がすことができる微小な貫通孔が廃液貯留部7wから外部に通じるように形成されていてもよい。
【0113】
上述したように、本実施形態の分析デバイス1では、図2に示したレイヤー4a〜4cに流路7や混合部7f,7n、フィルタ9、試薬収納部などを形成するための多数の貫通孔が形成されている。また、基板材3aの下面にも、同様に、これらを構成するための凹部が多数形成されている。そして、レイヤー4a〜4cの積層体の上下に基板材3a,3bが積層されて、上記流路7、混合部7f,7n、フィルタ9及び試薬収納部などが構成
されている。
【0114】
ところで、上記分析デバイス1では、流路7において、分析サンプルや分析サンプルと試薬との混合物を搬送するために、複数箇所に、ガス湧出部7b、7k、7mなどが配置されていた。同様に、マイクロキャピラリー流路7に、試薬を供給するために、試薬収納部の上流側に、ガス湧出部7d,8dなども配置されていた。このようなガス湧出部は、ガス発生物質を配置し、外部から刺激を与えることによりガスを発生する。従って、非常に小型の液体搬送手段を構成することができる。図4は、このような外部刺激によるガス発生手段を有するガス湧出部の一例としてのガス湧出部7dが設けられている部分の略図的部分切欠断面図である。ここでは、ガス湧出部7dと試薬収納部8aとが接続されている部分が略図的に示されている。
【0115】
そして、上記ガス湧出部7dにおいて、上記複数の基板材を積層した基板内にガス発生物質が収納されている。このようなガス発生物質は、適宜の温度に加湿されたり、光が照射されたりするとガスを発生する。このガスの排除体積効果により、試薬収納部8aに収納されていた溶解試薬が流路7に送られる。従って、混合部7fにおいて、測定サンプル中の微生物が溶解されたりする。
【0116】
上記のガス発生機構は、好ましくは温度変化や光等の外的刺激によりガスを発生する機構が望ましく、中でも光によりガスを発生するポリマー材料がより好ましい。しかし、本来的にはガスが湧き出てくる機構であれば何でもよく、例えば、電解質溶液の微小電極上での電気分解によるガス発生機構であったり、固体電解質膜による酸素ポンプや水素ポンプであったり、MEMS等マイクロマシーン技術によるマイクロガスポンプ機構であってもかまわない。
【0117】
上記ガス発生物質としては、熱または光線等によりガスを発生する材料であれば従来公知の任意の材料が使用可能であるが、この材料が流出して分析デバイスによる測定の邪魔にならないように固定されていることが好ましい。このような熱または光線によりガスを発生する材料としては、熱または光線により分解して自らがガスを発生する酸素含有量が15〜55重量%のポリオキシアルキレン樹脂、アゾ化合物等が好ましい。
【0118】
上記ポリオキシアルキレン樹脂としては、例えば、ポリアルキレングリコール、ポリオキシアルキレンをセグメントとして含有する重合体等が挙げられる。
【0119】
上記ポリアルキレングリコールとしては、例えば、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられ、これらは単独で使用されてもよいし、2種以上が併用されてもよい。2種以上を併用する場合はポリプロピレングリコールを50重量%以上添加するのが好ましい。
【0120】
上記ポリオキシアルキレンをセグメントとして含有する重合体は、例えば、ポリオキシメチレン、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシトリメチレン、ポリオキシテトラメチレン等のポリオキシアルキレンをセグメントとして含有する重合体であって、例えば、上記ポリオキシアルキレンをセグメントとして含有するポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリ(メタ)アクリレート、ポリスチレン等が挙げられる。
【0121】
上記ポリオキシアルキレン樹脂の数平均分子量は、小さくなると揮発性が高くなり、大きくなるとガスが発生しにくくなるので、500〜500万が好ましい。
【0122】
上記ポリオキシアルキレン樹脂は架橋されていてもよい。架橋は物理架橋でも化学架橋
でもよい。
【0123】
上記アゾ化合物としては、特に限定されず、例えばアゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル、アゾジカルボン酸バリウム塩、2,2−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2−アゾビス(2−シクロプロピルプロピオニトリル)、2,2−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)等のアゾ化合物、ヒドラドジカルボンアミド、ニトロソグアニジン、p,p’−オキシビスベンゼンスルホニルセミカルバジド、ベンゼンスルホニルヒドラジド、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン、トルエンスルホニルヒドラジド、4,4−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)等が挙げられる。
【0124】
前述した固相表面アッセイ部11は、前述した固相表面アッセイによる測定を行う部分である。固相表面アッセイ部11の表面には、図1(b)に示したように、予め、アナライト特異結合性物質12が固定化されている。また、固相表面アッセイ部11は、ある程度の空間を有し、該固相表面アッセイ部11に、溶解された分析サンプルが流れ込むことになる。
【0125】
図3(a),(b)に示すように、基板材3aの一部において、すなわち固相表面アッセイ部11が設けられている部分の上方において、遮光層22が形成されている。この遮光層22は、基板材3aの上面の全面に至るように形成されていてもよいが、本実施形態では、図3(a)の破線Xで囲まれた部分が遮光層22とされている。
【0126】
遮光層22が設けられている部分において、遮光層22の一部が切り欠かれて、観測窓23が形成されている。固相表面アッセイ部でプローブ結合複合体に含まれる発光性半導体ナノ粒子が発光して生じる信号は、観測窓23と集光光学系を経由して、後述の図7に示すように、受光センサー104に結像する。従って、観測窓23は、固相表面アッセイ部11の上方に位置している。
【0127】
また、図3に示すように、光導波路21が光導波路構成部材により構成されている。光導波路21は透明であり、光導波路21の一部下面にアナライト特異結合性物質が固定されて固相表面アッセイ部11が形成されている。光導波路21は、外部の励起光源から検出に際して照射された励起光を固相表面アッセイ部11に導くために設けられている。光導波路21は、上記のように、励起光を分析デバイス1の固相表面アッセイ部11に導き得る限り、適宜の態様で配置され得る。固相表面アッセイ部11では、光導波路表面に局在するエバネッセント光によりプローブ結合複合体の半導体ナノ粒子が励起される。エバネッセント照明法は、長距離伝播しない特殊な表面局在光による暗視野照明の構成例である。
【0128】
上記光導波路21の厚みは、発光性半導体ナノ粒子の発光波長の10〜1000倍程度の範囲が好ましく、一般に5〜600μmが好ましく、より好ましくは15〜100μmである。
【0129】
なお、固相表面アッセイ部11は、光導波路21の下面に配置されていたが、上面側に配置されていてもよい。
【0130】
上記光導波路21の屈折率は、固相表面アッセイ部を流れる液体の屈折率よりも大きいことが必要である。分析サンプルが水溶液の場合、水の屈折率は1.33であるため、光導波路の屈折率は1.35以上、好ましくは1.49以上とすることが望ましい。
【0131】
上記光導波路21を構成する材料については、ガラス、石英、アクリル系樹脂、ポリカ
ーボネート樹脂などの適宜の透光性材料を挙げることができる。
【0132】
もっとも、本発明においては、上記発光性半導体ナノ粒子15を励起する光として、エバネッセント光を用いる必要は必ずしもなく、その場合には、光導波路を構成することなく流路表面に固相表面アッセイ部を形成し、観測窓から通常知られている方法で暗視野照明系もしくは擬似暗視野照明系を構成すればよい。
【0133】
ガス発生機構のガス発生物質の分解によるガスの排除体積効果により、プローブ試薬が固相表面アッセイ部11に搬送され得るように構成されている。他方、図1(a)に示すように、固相表面アッセイ部11の下流側においては、固相表面アッセイ部11よりも大きな内部空間を有する廃液貯留部7wが設けられている。廃液貯留部7wは、固相表面アッセイ部11から測定終了後に流下されてきた測定サンプルが貯留される部分である。該廃液貯留部には、空気抜きのために、約5μm以下のオリフィスもしくは微小孔があいているのが望ましい。
【0134】
前述したように、分析デバイス1は、掌中に納まる程度の小さなカード型の形態とされており、従って取り扱いが容易である。しかも微量の測定サンプルを注入するだけで、固相表面アッセイ部11において、分析サンプル中の微生物由来のタンパク質やリガンド、毒素等といったアナライトが結合したプローブ結合複合体を形成させることができる。そして、このプローブ結合複合体では、発光性半導体ナノ粒子が標識として用いられている。発光性半導体ナノ粒子の吸光バンドは広く、発光は高輝度である。従って、前述したように、青色から紫色のLEDのような小型で安価な非モノクローム光源からの光を照射するだけで、十分な強度の発光信号を発生させることができる。よって、病原微生物及び毒素等低濃度サンプルを小型の読取機を用いて簡便にかつ迅速にかつ高感度で検出することができる。
【0135】
なお、本発明に係る分析デバイスは、病原微生物および毒素等低濃度サンプルの検知定量に限らず、様々な抗原、抗体もしくはハプテン等のタンパク質、ペプチド,DNA、RNA、糖鎖、疾患マーカー、リガンド、サイトカイン、カテコールアミン類、環境有害物質、重金属イオン等の検出に広く用いることができる。
【0136】
従って、上記微生物溶解部3は、必ずしも必須ではなく、微生物以外の微生物や、他の測定物質を検出する場合、微生物溶解部3は必ずしも設けられずともよい。また、微生物溶解部3に代えて、抽出部などの検出反応に先立って行うことが好ましい様々な操作を行う部分を分析デバイス1に設けてもよい。このような他の部分としては、例えば、夾雑物等を捕捉するフィルター部、一定の体積率で測定サンプルを希釈する計量希釈部、キャピラリー電気泳動部、ナノリットル体積のクロマトカラム部などを挙げられる。
【0137】
(読取機)
図5に示すように、上記分析デバイス1は、読取機101の測定暗箱101a内にセットされ、分析が行われる。図5に示されているように、読取機101は、筐体102を有する。筐体102は、後述するように、片手で持てる程度に比較的小型に構成され得る。
【0138】
読取機101の構成を、図6に概略ブロック図で示す。読取機101内には、光源103が内蔵されている。光源103は、図7に示す光源103に相当し、挿入された分析デバイス1の固相表面アッセイ部11に光を照射するために配置されている。固相表面アッセイ部11では、プローブ結合複合体の形成により発光性半導体ナノ粒子が存在し、発光性半導体ナノ粒子を励起する光は、半導体ナノ粒子のバンドギャップに対応する波長よりも短い波長の光であれば、非モノクローム光でよい。したがって、光源103は非モノクローム光源でよく、青色から紫色のLED光源を用いることができる。レーザー光源など
の比較的高額かつ大型の高輝度なモノクローム光源を必要としないため、読取機101は、例えば片手で携帯し得る程度の大きさとされ得る。
【0139】
なお、上記読取機101においては、光源103の光を分析デバイス1の前述した光刺激でガスを発生する樹脂が充填されたガス湧出部に光を与え、ガスを発生させるための光源として用いてもよい。さらに、光源103とは別に、光刺激でガスを発生する樹脂が充填されたガス湧出部に光を与え、ガスを発生させるための光源103aを別途読取機101内に内蔵させてもよい。光の照射によりガスを発生する場合、上記のようなLEDのような光源を用いることができる。
【0140】
もっとも、ガス湧出部において内蔵されるガス発生機構が熱でガスを発生する材料である場合には、熱源を読取機内に配置すればよい。
【0141】
なお、上記励起用の光源103としては、LEDに限定されず、例えば、小型のレーザー、Xeフラッシュランプ、冷陰極線管などを用いることができる。また、照明法は、暗視野照明もしくは疑似暗視野照明であることが好ましい。このような照明法の具体的な例としては、観測光束と重ならないように光を斜め方向から照射する照明法や、光ファイバーにより光を導き照射するファイバー照明法などを挙げることができる。
【0142】
図6に示すように、読取機101は、受光センサー104を備えている。受光センサー104は、図7に示すように、分析デバイス1の観測窓から集光光学系121を介して固相表面アッセイ部11からの発光信号を受光し、その発光信号を電気信号に変換する。このような受光センサー104としては、フォトダイオード、フォトマルチプライアー、CCD(charge−coupled device:電荷移送型素子)などの適宜の光電変換装置を用いることができる。固相表面アッセイ部は、多数をアレイ状に配置することもできる。これら全ての観測をスキャニングにより達成することもできるが、2次元アレイ状の撮像素子を使用するのが望ましい。集光装置には、通常のマクロレンズが使用できるが、画像の歪が測定誤差に影響する場合には、テレセントリックレンズまたはGRINレンズアレイなどの集光装置を用いるのが好ましい。多数をアレイ状に配置する場合、単に多項目の分析を並列化するのみならず、特願2003−387062に出願のようにコード化して配置することもできる。
【0143】
上記図8では、固相表面アッセイ部11に暗視野照明法により励起光が照射されている。そして、前述したように、フォトルミネッセンス光が集光光学系121を介して受光センサー104に与えられる。
【0144】
本発明では、光学系を用いる方法に限定されず、例えば図7に示すように、固相表面アッセイ部11に、エバネッセント照明法により励起光を矢印Zで示すように照射し、フォトルミネッセンス光を集光光学系121を介して受光センサー101により受光する方法を用いてもよい。なお、図8では、プリズム122が光導波路21上に配置されている。このプリズム122は、励起光を光導波路21に導くために用いられている。もっとも、プリズム122に代えて、回折格子を用いてもよく、あるいは光導波路21の表面に引っかき傷等を形成し、該引っかき傷を利用して励起光を光導波路21内に導いてもよい。
【0145】
読取機101においては、制御演算部105に、光源103及び受光センサー104が電気的に接続されている。制御演算部105は、読取機101がオン状態とされ、分析デバイス1がセットされた際に、ガス発生機構駆動シーケンスが作動する。これにより、分析デバイス1のガス湧出部にガスが発生し、その排除体積効果で液体サンプルが搬送され、分析デバイス上で分析化学プロセスが実行される。次いで、光源103をオン状態とし、励起光を固相表面アッセイ部11に照射する。発光性半導体ナノ粒子の発光寿命は大変
短いので、励起光の照射は連続的でなくとも、パルス光照射による間欠的励起を行って励起光とフォトルミネッセンスの相関をとってもかまわない。そして、集光光学系と波長制限フィルターを介して受光センサー104から得られた電気信号に基づき、アナライトの有無またはその量を演算する。この求められたアナライトの有無の評価結果または量を示す信号が表示部106に与えられる。表示部106は、図5に示す読取機101の上面に配置されており、測定結果を表示する。
【0146】
上記のように、本実施形態の読取機101は、LEDのような小型で安価な非モノクローム光源を用いて構成され、特殊な高輝度光源を必要としないため、非常に小型に構成され得る。従って、読取機101は、病院や臨床検査センターなどの専門の検査機関だけでなく、オフィス、警察署、郵便局、入出国管理局などに容易に設置することができ、簡便に測定物質を検査することを可能とする。
【0147】
また、図6に示すように、読取機101には、送信部107が内蔵されている。送信部107は、測定結果と位置情報を外部に送信するために設けられている。送信部107は、得られた測定結果と位置情報を送信部107から外部に送信させる。従って、図9に示すように、様々なオフィス、郵便局、または警察署等に配置された多数の読取機101からの送信情報を、例えば集中監視システム111の受信装置により受信するシステムを構成することができる。すなわち、集中監視システム111の受信装置により、様々な場所に配置された読取機から送信された測定結果と位置情報を受信し、受信した情報を地図表示上にマッピングすることができる。従って、このようなシステムを用いれば、いつ、如何なる場所で、測定対象である病原微生物及び毒素等が検出されたか、広域での分布がどうなっているか、をリアルタイムに把握し、防疫学的判断に役立て、迅速な対応をとることが可能となる。
【0148】
(光導波路表面へのアナライト特異結合性物質の好ましい配置形態)
本発明においては、好ましくは、複数種類のアナライト特異結合性物質が光導波路表面に空間的にコード化して分散配置される。このような複数のアナライト特異結合性物質を分散配置する意味は、次のとおりである。すなわち、分析に必要な各種類のアナライト特異結合性物質のみかけ上の密度を下げて、反応平衡に至る時間を短くし分析の迅速化を図ることができる。また、ただ一種類の発光波長の発光性プローブだけで、バックグランドノイズを分離しつつ、多項目同時検査を実現することができる。これを、図10〜図14を参照して説明する。
【0149】
まず、図10及び図11は、本発明に係る複数種類のアナライト特異結合性物質を二次元的にコード化して分散配置した検査用アレイを備えた固相表面アッセイ部周辺の要部を断面により見た模式図であり、図12は、対照例に係る固相表面アッセイ部周辺の要部を断面により見た模式図である。なお、説明のためにこれらの図では厚み方向の縮尺と平面方向の縮尺とは必ずしも一致していなく、その詳細は以下の説明により明らかとなる。
【0150】
これらの図において、符号201は検査用アレイであり、その表面201a側にはアナライト特異結合性物質としての抗体AB(いずれも不図示)が固定されている。この検査用アレイ201の表面201a側には、分析サンプルを含む溶液Sが供給され、その溶液Sの上面には検査用アレイ201とともに間に溶液Sの厚みdの薄膜を形成する壁体202が配設されている。
【0151】
ここで、図10では、一種類の抗体ABが非コード化されて分散配置され、図11では、複数種類の抗体AB(AB1、AB2、AB3…)がコード化されて互いに離間して分散配置されている。また、この抗体ABは、溶液S中の抗原より充分過剰に保持されている。
【0152】
本発明の分散配置とはこのような拡散符号により離間して配置される場合を包含している。ここで、「コード化」とは複数種類の各抗体AB(AB1、AB2、AB3…)を規則的に配列することにより得られた情報信号の処理が規則的に行えることを意味し、抗体ABをコード化し分散配置すれば複数種類の抗原AGをただ1種類の標識物質で同時並行的に測定することが可能になる。
【0153】
検査用アレイの表面に抗体ABをコード化して分散配置する一例は、図13に示されている。ここで、この抗体AB1〜AB3は、本発明におけるアナライト特異結合性物質の一例である。
【0154】
この図13において、拡散符号の一種であるM系列にしたがって複数の種類の抗体がコード化分散配置された検査用アレイの表面には、符号AB1、AB2及びAB3で示される3種の抗体が1周期が7ビット長で4周期に亘ってコード化されて平面方向に分散して配列されて固定されている。なお、図13においては、対象位置に複数の抗原が保持されていることを示し、抗原同士が上下方向に反応して保持されていることを示すものではない。
【0155】
一般に複数種類の抗体AB(AB1、AB2、AB3…)を平面方向にコード化させて緻密に配列することは困難であるが、有る程度の間隔を開けて配列することは容易である。抗体ABがコード化配列された1周期に亘って分析サンプルを含む溶液Sを流すことができればその配列間隔は自由に設定することができる。
【0156】
これに対して、図12では、複数の抗体AB(AB1、AB2、AB3…)が一カ所に局在化されて配置され、この図12のように局在化された抗体AB(AB1、AB2、AB3…)の配置は、抗体の種類数だけの区別できる信号を発する標識物質を必要とし、本発明の対象外である。
【0157】
なお、これらの図10〜12において、溶液S中の抗原AGは、表面201a側に固定された抗体AB(不図示)により補足されて抗体AB(不図示)が固定された位置に応じて抗原ABが補足された状態が説明されている。符号NPはノイズタンパク質であり、分析サンプルを含む溶液S由来の夾雑物として間違って抗体ABに吸着している様子を示している。溶液S中の濃淡は、抗体ABに補足されて溶液S中の抗原AGの濃度に拡散律速による濃淡が生じていることを示しており、表面201a側から順次特異的結合反応が進行し、図10及び図11で示すように、表面201a側に抗原AGが補足され、溶液S中の抗原AGの濃度は表面202a側から表面201aに向けて漸減している。
【0158】
ここで、これらの実施例に係る図では、濃度が表面202a側から表面201aに向けて漸減しているが、反応時間を十分に確保すれば、全ての抗原AGが補足されて実質的な濃淡が無くなり、これにより一層正確に各抗原AGの濃度を測定することができる。
【0159】
一方、図12では、複数種の抗体AB(AB1、AB2、AB3…)が局在化されて固定された領域(抗体配置領域)には、複数種の抗原AG(AG1、AG2、AG3…)が補足され、領空には抗原AGの濃度が低減した「抗原欠乏領域」が形成され、抗体配置領域から遠い領域は、抗原AGが抗体ABに補足されないで「抗原AGの濃度の高い領域」が残っている。
【0160】
本発明は図11に示されているが、分析サンプルを含む溶液Sについで、複数種類の発光性プローブLAB(LAB1、LAB2、LAB3…)を含むプローブ試薬が検査用アレイ201の上面に供給されることにより、検査用アレイ201の表面に固定された各ア
ナライト特異結合性物質としての抗体AB(AB1、AB2、AB3…)の配列に補足されているアナライトである抗原AG(AG1、AG2、AG3、・・・)に応じてそれぞれに対応する発光性プローブLAB(LAB1、LAB2、LAB3、・・・)がプローブ結合複合体LC(LC1、LC2、LC3、・・・)を形成して固定され、その発光画像をCCDカメラなどで取り込むことができる。ここで、LCは、AB-AG-LABのように模式的にあらわされる複合体である。
【0161】
なお、分析サンプルを含む溶液Sは、薄膜状態で検査用アレイ201の表面に供給されることが、アナライトの拡散時間を短くする上で好ましい。
【0162】
本発明の検査方法においては、アナライトの種類数mに応じた複数種類のアナライト特異結合性物質としての抗体AB(AB1、AB2、AB3、…、ABm)が分散コード化配置されて検査用アレイ201の表面に配列されて固定されている。固定抗体ABkの分
散コード化配置に関する符号系列を列ベクトル
【0163】
【数1】

【0164】
で、分散コード化配置の全体を、行列
【0165】
【数2】

【0166】
で表し、装置関数をBとすると、検査用アレイのn個の各要素の発光状況(z1,z2,・・・,zn)を表す列ベクトル
【0167】
【数3】

【0168】
は、
【0169】
【数4】

【0170】
と書き表される。ここで、α'B αが正方行列となるようなα'をとると、下記式(4)
の連立方程式が得られる。
【0171】
【数5】

【0172】
この連立方程式を解くことにより、m種類のプローブ結合複合体LC(LC1,LC2,LC3,・・・,LCm)の分子数に相当する数値(v1,v2,・・・,vm)が、列ベクトル
【0173】
【数6】

【0174】
として導出することができる。
【0175】
次に本発明の検査方法によればバックグランド信号が除去されることを説明する。
【0176】
実際の観測信号は、必ずノイズ成分を含むから、理想的な信号を
【0177】
【数7】

【0178】
、ノイズ成分を
【0179】
【数8】

【0180】
として
【0181】
【数9】

【0182】
と書くことにする。同様に、プローブ結合複合体の真の濃度を
【0183】
【数10】

【0184】
、ノイズ信号による測定誤差を
【0185】
【数11】

【0186】
として
【0187】
【数12】

【0188】
と書くことにする。すると、式4は次のようになる。
【0189】
【数13】

【0190】
定義より
【0191】
【数14】

【0192】
であるから、ノイズによる測定誤差とノイズについても
【0193】
【数15】

【0194】
と書けることが判る。本発明では、この
【0195】
【数16】

【0196】
が0になることを示す。
【0197】
まず、この実施の形態で用いる検査用アレイの配置を図13に示す。この図に示すように、検査用アレイの表面には、符号AB1、AB2及びAB3で示される3種の抗体がそれぞれ位相をずらして、1周期が7ビット長のM系列で4周期に亘る符号により分散コード化されて固定されている。
【0198】
ここで、ベクトル
【0199】
【数17】

【0200】
の各要素をj個分ローテーションする操作を
【0201】
【数18】

【0202】
と書くことにし、三種類の抗体の各符号系列のシフト量をそれぞれ0,2,4とすると、
【0203】
【数19】

【0204】
であるから、
7ビットのM系列の1周期を[1,1,1,0,0,1,0]とすれば、それを4周期分並べて、
【0205】
【数20】

【0206】
は次式のようになる。
【0207】
【数21】

【0208】
また、行列αは、次のとおりとなる。
【0209】
【数22】

【0210】
α´はTranspose[α]の各要素(ij成分)を次の規則により置き換える。
【0211】
(1) αij =1のときα'ij =1
(2) αij =0のときα'ij =−(α中の要素で1である数)/(α中の要素で0である
数)
したがってこの場合α'は以下のようになる。
【0212】
【数23】

【0213】
上の規則にしたがって変換することにより、浮遊標識やノイズタンパク質のような夾雑物や熱雑音由来のバックグランド信号を、拡散符号と相関を持たないがゆえに、正味の信号と区別して除去することができる。
【0214】
ここで、M系列を複数周期にする理由は、浮遊標識やバックグラウンドタンパク質、結合抗体の付き方が基板上で一様でなく、M系列の周期に比べてゆっくり変動する場合に対応するためである。つまり、M系列の1中に浮遊標識やバックグラウンドタンパク質の変化を無視することができる場合、M系列の周期内ではこれらの量を定数と見なせ、正しい値を導くことができる。
【0215】
実際、Bを28×28の単位行列×1/(αの1列中の1の数)とすれば、
【0216】
【数24】

【0217】
は以下のようになる。
【0218】
【数25】

【0219】
この式に、バックグラウンド信号として
【0220】
【数26】

【0221】
を代入すると、右辺は0になり、任意の装置関数に対してV'も0となり、これらが除去
されることがわかる。
【0222】
また、プローブ結合複合体LC1、LC2、LC3からの光信号及びバックグラウンド信号の和が図14に示すように、1、8、21.333及び56で分布したとする。
【0223】
このときの本方式での出力値はAB1、AB2及びAB3がそれぞれ1、8及び21.333となり、いずれもバックグランド信号の影響が除去された正しい値を出力していることがわかる。そのため、先行文献において必要なB/F分離として知られる洗浄工程が本方式で
は不要となり、検査工程の簡略化が可能である。
【0224】
(複数のレイヤーから成る基板材の接合方法の好ましい形態)
上記実施形態では、分析デバイス1は、複数のレイヤーを積層した構造を有する。各レ
イヤーとしては、好ましくは、光後硬化性を残す樹脂組成物からなるカットオフされたレジンフィルムが用いられる。各レイヤーが積層された後、光を照射することで、各レイヤー間に化学結合が生じ一体の積層構造を形成することができる。この場合には、幅がマイクロメートルオーダー以下のマイクロキャピラリー流路を正確に形成することができ、かつ正確に複数の各レイヤーが積層された分析デバイスを得ることができる。これに対し、通常の接着剤による貼り合わせでは、接着剤がマイクロキャピラリー流路の一部または全幅を塞ぐおそれがあり、好ましくない。
【0225】
上記のような光硬化性を残す樹脂組成物としては、特に限定されず、光の照射により硬化する適宜の硬化性樹脂組成物を用いることができる。このような樹脂組成物としては、例えば、金属原子に加水分解性の官能基が結合した加水分解性金属化合物(A)と、光を照射することにより酸素存在下で加水分解性金属化合物(A)の反応、重合または架橋を促進させる化合物(B)とを含有するものが効果的に用いられる。上記加水分解性金属化合物(A)としては、金属原子に加水分解性の官能基が結合した適宜の化合物を用いることができ、該加水分解性金属化合物(A)は、1種のみを用いてもよく、複数種を併用してもよい。また、無機材料と有機材料の混合物であってもよく、無機骨格と有機骨格とを共に有する有機−無機ハイブリッド材料であってもよい。
【0226】
上記金属原子については特に限定されず、また上記加水分解性の官能基としても特に限定されない。このような官能基としては、アルコキシ基、フェノキシ基、ベンジルオキシ基、硝酸基、塩素基、有機酸基、錯体を形成する配位子などが挙げられる。中でも、金属元素がSiである加水分解性金属化合物(A)が好適に用いられる。
【0227】
また、上記化合物(B)としては、光の照射により上記加水分解性金属化合物(A)を酸素存在下で反応、重合または架橋を促進させる性質を有する適宜の化合物を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0228】
【図1】(a)及び(b)は、本発明の一実施形態に係る分析デバイスの内部流路等を説明するための模式的平面図であり、(b)は、本発明の一実施形態の分析デバイスにおける測定原理を説明するための模式図。
【図2】本発明の一実施形態に係る分析デバイスにおいて積層されている部材の構造を示すための各部材を示す分解斜視図。
【図3】(a)は本発明の一実施形態の分析デバイスの固相表面アッセイ部を含む要所の平面図、(b)は、同中央横断面図、(c)は、同中央縦断面図。
【図4】本発明の一実施形態の分析デバイスのガス湧出部が配置されている部分の模式的断面図。
【図5】本発明の一実施形態の分析デバイスが読取機に挿入される状態を示す斜視図。
【図6】本発明の一実施形態の読取機の構成を示す概略ブロック図。
【図7】本発明の分析デバイスの固相表面アッセイ部に暗視野照明法にて励起光を照射し、フォトルミネッセンス光を受光する工程を説明するための模式的断面図。
【図8】本発明の分析デバイスの固相表面アッセイ部にエバネッセント照明法にて励起光を照射し、フォトルミネッセンス光を受光する工程を説明するための模式的断面図。
【図9】本発明の一実施形態の読取機を多数用いた集中監視システムを説明するための概略構成図。
【図10】本発明に係る分析デバイスの固相表面アッセイ部周辺の要部を断面により見た模式図。
【図11】本発明に係る分析デバイスの固相表面アッセイ部周辺の要部を断面により見た模式図。
【図12】対照例に係る分析デバイスの固相表面アッセイ部周辺の要部を断面により見た模式図。
【図13】コード化してアナライト特異結合性物質を配置する一例を説明する図である。
【図14】プローブ結合複合体LC1、LC2、LC3のそれぞれからの光信号とバックグラウンド信号の和の分布を示す図。
【符号の説明】
【0229】
1…分析デバイス
1a…注入口
2…積層体
3…基板材
4a〜4c…レイヤー
7…マイクロキャピラリー流路
7a…脱泡部
7b…ガス湧出部
7c…分岐流路
7d…ガス湧出部
7e…複合バルブ
7f…混合部
7i…逆止弁
7j…体積計量部
7k,7m,7o…ガス湧出部
7n…混合部
7q…パッシブバルブ(細絞り部)
7r,7s,7t…ガス湧出部
7w・・・廃液貯留部
8a…試薬収納部
8b…試薬注入流路
8c…試薬収納部
8d…ガス湧出部
8e…試薬収納部
8f,8g…試薬収納部
11…固相表面アッセイ部
12…アナライト特異結合性物質
13…発光性プローブ
14…アナライト特異結合性物質
15…発光性半導体ナノ粒子
16…アナライト
17…プローブ結合複合体
21…光導波路
22…遮光層
23…観測窓
101…読取機
101a…測定暗箱
102…筐体
103…励起用光源
104…受光センサー
105…制御演算部
106…表示部
107…送信部
111…集中監視装置
NP…ノイズタンパク質(夾雑物)
S…溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部が透光性とされている基板を有し、前記基板に、液状の分析サンプルを注入する注入口及びマイクロキャピラリー流路が形成されており、
前記基板内に設けられており、かつ分析サンプル中のアナライトに結合する試薬が収納されており、前記マイクロキャピラリー流路に連結されている試薬収納部と、
前記試薬とマイクロキャピラリー流路を流れてきた分析サンプルとが接触するように、前記マイクロキャピラリー流路の途中に設けられた固相表面アッセイ部とをさらに備え、
前記試薬が、発光性半導体ナノ粒子で標識された発光性プローブを分散媒に分散させてなるプローブ試薬であることを特徴とする、分析デバイス。
【請求項2】
前記プローブ試薬が、さらに着色剤を含有していることを特徴とする、請求項1に記載の分析デバイス。
【請求項3】
前記試薬収納部に連結されており、前記プローブ試薬を前記固相表面アッセイ部に送液するガス湧出部をさらに備える、請求項1または2に記載の分析デバイス。
【請求項4】
前記ガス湧出部が、外的刺激によりガスを発生する機構を有することを特徴とする、請求項3に記載の分析デバイス。
【請求項5】
前記分析サンプルが微生物を含み、該微生物由来のアナライトが測定されるように構成されており、前記固相表面アッセイ部の上流に、前記微生物を溶解する部位が設けられている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の分析デバイス。
【請求項6】
前記固相表面アッセイ部が暗視野照明または擬似暗視野照明となる照明光を受けるように構成されている請求項1〜5のいずれか1項に記載の分析デバイス。
【請求項7】
前記基板に、前記固相表面アッセイ部に励起光を導入するための光導波路がさらに設けられていることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の分析デバイス。
【請求項8】
光導波路を有し、複数種類のアナライト特異結合性物質が該光導波路表面に空間的にコード化して分散配置されていることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の分析デバイス。
【請求項9】
前記基板が複数のレイヤーを積層した構造を少なくとも有し、各レイヤー間の接合が、レイヤーを構成する光後硬化性レジンフィルムを積層後光照射することにより形成される化学結合にて行われていることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の分析デバイス。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の分析デバイスが挿入される挿入口を有し、
前記分析デバイスに励起光を照明するための光源と、
前記分析デバイスの前記固相表面アッセイ部において分析サンプル中のアナライトと、前記発光性プローブとの反応により形成されたプローブ複合体を標識している発光性半導体ナノ粒子の発光を検出する受光センサーと、
前記受光センサーに接続されており、受光センサーにより出力された信号に基づいて前記分析サンプル中のアナライトの有無もしくは量を表示する表示装置とを備えることを特徴とする、読取機。
【請求項11】
前記分析デバイスの固相表面アッセイ部に励起光を照明するための光源がLED光源であり、前記受光センサーがCCDにより構成されていることを特徴とする、請求項10に
記載の読取機。
【請求項12】
分析結果ならびに位置情報を外部に向けて送信する送信装置をさらに備える、請求項10または11に記載の読取機。
【請求項13】
請求項12に記載の読取機から送信された分析結果ならびに位置情報を受信し、該受信した情報を時空間データベースおよび地理情報システムと互換させることにより処理し、各分析装置の位置を地図上にマッピングすることを特徴とする、情報管理システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2006−170853(P2006−170853A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−364872(P2004−364872)
【出願日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】