説明

分析用デバイスと分析方法

【課題】測定のばらつきが少なく、短時間であっても正確な値が得られ、液体試料のロスが少ない分析用デバイスを提供することを目的とする。
【解決手段】キャビティ53に試料40を流し込み、連結部59を介してキャビティ53の周方向に隣接したキャビティ61に吸い上げ凝集試薬67a,67bと反応させる。キャビティ61からこの外周側に形成されたキャビティ66へ連結流路64を介して遠心力で移送するとともに遠心分離する。連結流路70を介してキャビティ66と連結された計量流路80に定量を吸い上げる。計量流路80に保持された試料を外周側に形成されたセル52aへ遠心力によって移送し、試薬58a1,58a2を有する毛細管エリア56aへセル52aの試料を吸い上げて反応させる。毛細管エリア56aに保持された試料を遠心力によってセル52aに移送して、セル52aの外周側に溜まった液体にアクセスして計測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物などから採取した液体試料の分析に使用する分析用デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、血液中のHDL(High Density Lipoprotein)コレステロールを分析する場合には、血液中の分析に不要な成分(非HDL成分)を凝集沈殿させて、分析に必要な成分(HDL成分)を分離して計量することが行われている。
【0003】
図25は特許文献1などに記載されているメンブレンフィルタを用いた分析用デバイスを示している。分析用デバイスは、HDL成分と反応して発色するテストフィルム306の手前に、分離層303と第1担体304および第2担体305が積層されている。
【0004】
液体試料の血液が分離層303に付けられると、血液中の血球成分が分離層303で捕捉されて血漿成分が第1担体304へ浸透する。第1担体304には、非HDL成分を凝集させる試薬を担持させてあり、血漿成分が第1担体304を通過することによって非HDL成分が凝集する。第1担体304を通過したHDL成分と凝集した非HDL成分のうち、凝集した非HDL成分だけが第2担体305によってトラップされて、非HDL成分を含まない成分のみが第2担体305を通過してテストフィルム306に浸透する。HDL成分と反応して発色したテストフィルム306の発色状態は、フィルム307を通して計測されてHDL成分の定量測定が行われている。302はケーシングである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】US 6,171,849 B1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら特許文献1では、メンブレンが試薬を担持する第1担体304と非HDL成分を分離する機能を持つ第2担体305と2層に分かれており、構成が複雑なため、それが測定結果のばらつきの要因となる可能性がある。
【0007】
さらに、血液を分離層303に付けるて非HDLを凝集させる試薬と触れる際、試薬の溶解度合いに分布ができ、また非HDL凝集成分を生成するのに時間がかかったり、処理が不十分で正確な値が得られないという問題がある。
【0008】
また、メンブレンフィルタ特有の課題として、測定に必要なHDL成分の一部までも第2担体305においてトラップされる可能性が高く液体試料のロスが大きい。そのため、必要以上の液体試料を準備する必要がある。これは、被験者に対して大きな苦痛を与えてしまう。
【0009】
本発明は、測定結果のばらつきが少なく、短時間であっても正確な値が得られ、液体試料のロスが少ない分析用デバイスと分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1記載の分析用デバイスは、液体試料を遠心力によって測定セルに向かって移送するマイクロチャネル構造を有し、前記測定セルにおける液体にアクセスする読み取りに使用される分析用デバイスであって、液体試料である定量の希釈血漿が流れ込む保持キャビティと、前記保持キャビティの周方向に隣接した位置に形成され毛細管力の作用する連結部を介して前記保持キャビティに連結されるとともに非HDL凝集試薬を有する操作キャビティと、前記操作キャビティよりも外周側に形成され毛細管力の作用する隙の連結流路を介して連結された分離キャビティと、前記分離キャビティの周方向に隣接し毛細管力の作用する連結流路を介して前記分離キャビティと連結された計量流路と、前記計量流路よりも外周側に形成された測定セルと、前記測定セルよりも内周側に形成され酵素試薬およびメディエータを有する毛細管エリアとを有し、前記毛細管エリアで反応した反応溶液を前記遠心力を大きくして前記測定セルの外周側に移送し、前記測定セルの外周側に溜まった前記反応溶液にアクセスして前記液体試料のHDLを計測するよう構成したことを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項2記載の分析用デバイスは、請求項1において、前記操作キャビティにおける前記非HDL凝集試薬を担持している試薬担持部の隙は、前記操作キャビティの隙より薄くなるよう前記操作キャビティより突出して形成されていることを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項3記載の分析用デバイスは、請求項1において、前記操作キャビティに半径方向に伸長した攪拌リブを形成し、前記攪拌リブの高さは前記操作キャビティの外周壁も低いことを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項4記載の分析用デバイスは、請求項1において、前記分離キャビティから前記計量流路に、前記分離キャビティの壁面に形成された毛細管が作用する毛細管キャビティによって比重の重い沈殿物よりも上澄みの希釈血漿の方を優先的に吸い上げて移送するよう構成したことを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項5記載の分析方法は、液体試料を遠心力によって測定セルに向かって移送するマイクロチャネル構造を有する分析用デバイスを使用して、前記測定セルにおける液体にアクセスして読み取るに際し、液体試料である定量の希釈血漿を前記分析用デバイスを軸心周りに回転させて遠心力によって保持キャビティに定量の希釈血漿を流し込み、前記遠心力を小さくして、前記保持キャビティの外周側に溜まった希釈血漿を、毛細管力の作用する連結部を介して前記保持キャビティの周方向に隣接した位置に形成された操作キャビティに移送し、前記操作キャビティの内側の外周側に担持された非HDL凝集試薬と反応させ、前記操作キャビティの反応した希釈血漿を直前よりも前記遠心力を大きくして、前記操作キャビティと前記操作キャビティよりも外周側に形成され毛細管力の作用する隙の連結流路を介して連結された分離キャビティに移送するとともに非HDL凝集成分とHDL成分を含む希釈血漿成分に遠心分離し、前記分離キャビティ中のHDL成分を含む希釈血漿成分を直前よりも前記遠心力を小さくして、前記分離キャビティの周方向に隣接した計量流路に、毛細管力の作用する連結流路を介して沈殿物を除去したHDL成分を含む希釈血漿を移送し、計量流路に保持されていた希釈血漿を計量流路よりも外周側に形成された測定セルに直前よりも前記遠心力を大きくして移送し、前記測定セルに移送されたHDL成分を含む希釈血漿を、直前よりも前記遠心力を小さくして、前記測定セルよりも内周側に形成された試薬担持部としての毛細管エリアに毛細管力によって吸い上げ、前記毛細管エリアに担持されている酵素試薬およびメディエータと反応させ、前記毛細管エリアで反応した反応溶液を、直前よりも前記遠心力を大きくして前記測定セルの外周側に移送し、前記測定セルの外周側に溜まった前記反応溶液にアクセスして前記液体試料のHDLを計測することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の分析用デバイスと分析方法は、保持キャビティと、非HDL凝集試薬を有する操作キャビティと、分離キャビティと、計量流路と、測定セルと、酵素試薬およびメディエータを有する毛細管エリアとがマイクロチャネル構造で形成されており、遠心力を制御することによって移送・試薬との混合攪拌・分離とを、少ない液体試料のロスで、しかも短時間であっても正確な値が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態における分析用デバイスの保護キャップを閉じた状態と開いた状態の斜視図
【図2】同実施の形態の分析用デバイスの分解斜視図
【図3】同実施の形態のベース基板の拡大斜視図
【図4】同実施の形態の希釈液容器の平面図、A−A断面図、側面図、背面図、正面図
【図5】同実施の形態の保護キャップの平面図、側面図、B−B断面図、正面図
【図6】同実施の形態の希釈液容器の密封状態と保護キャップを開いた状態および希釈液放出状態の断面図
【図7】同実施の形態の分析用デバイスを出荷状態にセットする工程の断面図
【図8】同実施の形態の分析装置のドアを開いた状態の斜視図
【図9】同実施の形態の分析装置の断面図
【図10】同実施の形態の分析装置の構成図
【図11】同実施の形態の分析用デバイスの注入口付近の拡大斜視図、保護キャップを開いて指先から試料液を採取する状態の斜視図、分析用デバイスのマイクロチャネル構造をターンテーブルの側からカバー基板を透過して見た拡大斜視図
【図12】同実施の形態の分析用デバイスに点着しターンテーブルにセットして回転させる前の状態図
【図13】同実施の形態の分析用デバイスの毛細管キャビティ内に試料液を保持し、希釈液溶液のアルミシールが破られた状態でターンテーブルにセットされた状態図と分離された状態図
【図14】同実施の形態の希釈液容器の液放出を説明する拡大断面図
【図15】同実施の形態の工程3において分離キャビティから計量流路に流れて定量保持した状態図と工程4において計量流路から混合キャビティに流れ込む状態図
【図16】同実施の形態の工程6において分析用デバイスを揺動させる状態図とターンテーブルを時計方向に回転駆動して測定セルおよび保持キャビティに流れ込んだ状態図
【図17】同実施の形態の工程8において分析用デバイスを揺動させる状態図と工程9においてターンテーブルを時計方向に回転駆動させて操作キャビティの試薬と反応した希釈血漿が分離キャビティに流れ込み、さらに高速回転を維持することで、操作キャビティ内で生成された凝集物を遠心分離する状態図
【図18】同実施の形態の工程10においてターンテーブルを停止させ希釈血漿が計量流路に流れて定量が保持された状態図と工程11において計量流路に保持されていた希釈血漿が測定セルに流れ込んだ状態図
【図19】同実施の形態の工程12において測定セルの希釈血漿と試薬との反応が開始される状態図と工程13において試薬と希釈血漿の攪拌の状態図
【図20】同実施の形態の工程2において希釈液容器から流出した希釈液が排出流路を介して保持キャビティに流入する状態の拡大斜視図と希釈血漿を混合キャビティから毛細管流路を介して次工程へ移送する状態の拡大斜視図
【図21】ターンテーブルを180°付近で停止させた場合の分析用デバイスの平面図とターンテーブルを60°,300°付近で停止させた場合の分析用デバイスの平面図
【図22】同実施の形態の分析用デバイスの図16におけるF−F断面図
【図23】同実施の形態の分析用デバイスの毛細管エリアにおける試薬の担持状態を示す拡大平面図とG−G断面図
【図24】同実施の形態の分析用デバイスの操作キャビティにおける試薬の担持状態を示す拡大平面図とH−H断面図
【図25】特許文献1の構成図
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1〜図7は本発明の分析用デバイスを示す。
図1(a)(b)は分析用デバイス1の保護キャップ2を閉じた状態と開いた状態を示している。図2は図1(a)における下側を上に向けた状態で分解した状態を示している。
【0018】
この分析用デバイス1は、微細な凹凸形状を表面に有するマイクロチャネル構造が片面に形成されたベース基板3と、ベース基板3の表面を覆うカバー基板4と、希釈液を保持している希釈液容器5と、試料液飛散防止用の保護キャップ2とを合わせた4つの部品で構成されている。
【0019】
図3はベース基板3の表面の凹凸形状を示しており、ハッチング150で示す個所がカバー基板4との貼り合わせ面である。ハッチング151で示す個所がカバー基板4との貼り合わせ面よりも僅かに低く形成された個所を示しており、カバー基板4との貼り合わせ後に毛細管力が作用する隙となる個所である。
【0020】
分析用デバイス1の底面で前記カバー基板4には、分析用デバイス1の底部に突出して調芯用嵌合部としての回転支持部15が形成されている。保護キャップ2の内周部には回転支持部16が形成されており、保護キャップ2を閉じた分析用デバイス1では、回転支持部16が回転支持部15の外周に接するように形成されている。さらに、前記カバー基板4には、基端が回転支持部15に接続されて先端が外周に向かって延びる回り止め用係合部としての凸部114が形成されている。
【0021】
ベース基板3とカバー基板4は、希釈液容器5などを内部にセットした状態で接合され、この接合されたものに保護キャップ2が取り付けられている。
ベース基板3の上面に形成されている数個の凹部の開口をカバー基板4で覆うことによって、後述の複数の収容エリアとその収容エリアの間を接続するマイクロチャネル構造の流路などが形成されている。
【0022】
収容エリアのうちの必要なものには各種の分析に必要な試薬が予め担持されている。保護キャップ2の片側は、ベース基板3とカバー基板4に形成された軸6a,6bに係合して開閉できるように枢支されている。検査しようとする試料液が血液の場合、毛細管力の作用する前記マイクロチャネル構造の各流路の隙間は、50μm〜300μmに設定されている。
【0023】
この分析用デバイス1を使用した分析工程の概要は、希釈液が予めセットされた分析用デバイス1に試料液を点着し、この試料液の少なくとも一部を前記希釈液で希釈した後に測定しようとするものである。
【0024】
図4は希釈液容器5の形状を示している。
図4(a)は平面図、図4(b)は図4(a)のA−A断面図、図4(c)は側面図、図4(d)は背面図、図4(e)は開口部7から見た正面図である。この開口部7は希釈液容器5の内部5aに、図6(a)に示すように希釈液8を充填した後にシール部材としてのアルミシール9によって密封されている。希釈液容器5の開口部7とは反対側には、ラッチ部10が形成されている。この希釈液容器5は、ベース基板3とカバー基板4の間に形成され希釈液容器収容部11にセットされて図6(a)に示す液保持位置と、図6(c)に示す液放出位置とに移動自在に収容されている。
【0025】
図5は保護キャップ2の形状を示している。
図5(a)は平面図、図5(b)は側面図、図5(c)は図5(a)のB−B断面図、図5(d)は開口2aから見た正面図である。保護キャップ2の内側には、図1(a)に示した閉塞状態で図6(a)に示すように、希釈液容器5のラッチ部10が係合可能な係止用溝12が形成されている。
【0026】
この図6(a)は使用前の分析用デバイス1を示す。この状態では保護キャップ2が閉塞されており、保護キャップ2の係止用溝12に希釈液容器5のラッチ部10が係合して希釈液容器5が矢印J方向に移動しないように液保持位置に係止されている。この状態で利用者に供給される。
【0027】
試料液の点着に際して保護キャップ2が図6(a)でのラッチ部10との係合に抗して図1(b)に示したように開かれると、保護キャップ2の係止用溝12が形成されている底部2bが弾性変形して図6(b)に示すように保護キャップ2の係止用溝12と希釈液容器5のラッチ部10との係合が解除される。
【0028】
この状態で、分析用デバイス1の露出した注入口13に試料液を点着して保護キャップ2を閉じる。この際、保護キャップ2を閉じることによって、係止用溝12を形成していた壁面14が、希釈液容器5のラッチ部10の保護キャップ2の側の面5bに当接して、希釈液容器5を前記矢印J方向(液放出位置に近づく方向)に押し込む。希釈液容器収容部11には、ベース基板3の側から突出部としての開封リブ11aが形成されており、希釈液容器5が保護キャップ2によって押し込まれると、希釈液容器5の斜めに傾斜した開口部7のシール面に張られていたアルミシール9が図6(c)に示すように開封リブ11aに衝突して破られる。
【0029】
なお、図7は分析用デバイス1を図6(a)に示した出荷状態にセットする製造工程を示している。先ず、保護キャップ2を閉じる前に、希釈液容器5の下面に設けた溝42(図2と図4(d)参照)と、カバー基板4に設けた孔43とを位置合わせして、この液保持位置において孔43を通して希釈液容器5の溝42に、ベース基板3またはカバー基板4とは別に設けられた係止治具44の突起44aを係合させて、希釈液容器5を液保持位置に係止した状態にセットする。そして、保護キャップ2の上面に形成されている切り欠き45(図1参照)から、押圧治具46を差し入れて保護キャップ2の底面を押圧して弾性変形させた状態で保護キャップ2を閉じてから押圧治具46を解除することによって、図6(a)の状態にセットできる。
【0030】
なお、この実施の形態では希釈液容器5の下面に溝42を設けた場合を例に挙げて説明したが、希釈液容器5の上面に溝42を設け、この溝42に対応してベース基板3に孔43を設けて係止治具44の突起44aを溝42に係合させるようにも構成できる。
【0031】
また、保護キャップ2の係止用溝12が希釈液容器5のラッチ部10に直接に係合して希釈液容器5を液保持位置に係止したが、保護キャップ2の係止用溝12と希釈液容器5のラッチ部10とを間接的に係合させて希釈液容器5を液保持位置に係止することもできる。
【0032】
この分析用デバイス1を、図8と図9に示す分析装置100のターンテーブル101にセットする。
この実施の形態では、ターンテーブル101は、図9に示すように傾斜した回転軸心107に取り付けられて水平線Hに対して角度θ(10°〜45°の範囲)だけ傾斜しており、分析用デバイス1の回転停止位置に応じて、分析用デバイス1内の溶液にかかる重力の方向を制御できる。
【0033】
具体的には、図21(a)に示す位置(真上を0°(360°)として表現した場合に180°付近の位置)で分析用デバイス1を停止させた場合は、操作キャビティ121の下側122が正面から見て下側に向くため、操作キャビティ121内の溶液125は外周方向(下側122)に向かって重力を受ける。
【0034】
また、図21(b)に示す60°付近の位置で分析用デバイス1を停止させた場合は、操作キャビティ121の左上側123が正面から見て下側に向くため、操作キャビティ121内の溶液125は左上方向に向かって重力を受ける。同様に、図21(c)に示す300°付近の位置では、操作キャビティ121の右上側124が正面から見て下側に向くため、操作キャビティ121内の溶液125は右上方向に向かって重力を受ける。
【0035】
このように、回転軸心107に傾斜を設け、任意の位置に分析用デバイス1を停止させることで、分析用デバイス1内の溶液を所定の方向に移送させるための駆動力の1つとして利用できる。
【0036】
分析用デバイス1内の溶液にかかる重力の大きさは、回転軸心107の角度θを調整することで設定することができ、移送する液量と、分析用デバイス1内の壁面に付着する力との関係に応じて設定することが望ましい。
【0037】
角度θが10°より小さいと溶液にかかる重力が小さすぎて移送に必要な駆動力が得られないおそれがあり、角度θが45°より大きくなると回転軸心107への負荷が増大したり、遠心力で移送させた溶液が自重で勝手に動いて制御できなくなるおそれがある。
【0038】
ターンテーブル101の上面には環状溝102が形成されており、分析用デバイス1をターンテーブル101にセットした状態では分析用デバイス1のカバー基板4に形成された回転支持部15と保護キャップ2に形成された回転支持部16が環状溝102に係合してこれを収容している。
【0039】
ターンテーブル101に分析用デバイス1をセットした後に、ターンテーブル101の回転させる前に分析装置のドア103を閉じると、セットされた分析用デバイス1は、ドア103の側に設けられたクランパ104によって、ターンテーブル101の回転軸心上の位置が付勢手段としてのバネ105aの付勢力でターンテーブル101の側に押さえられて、分析用デバイス1は、回転駆動手段106によって回転駆動されるターンテーブル101と一体に回転する。107はターンテーブル101の回転中の軸心を示している。
【0040】
このように構成したため、ターンテーブル101に分析用デバイス1をセットすると、図9に示すように、ターンテーブル101の環状溝102の内周に等間隔に形成されている溝の何れかに、分析用デバイス1の凸部114の先端114aが係合して、ターンテーブル101の周方向に分析用デバイス1がスリップしない状態になる。
【0041】
保護キャップ2は注入口13の付近に付着した試料液が、分析中に遠心力によって外部へ飛散を防止するために取り付けられている。
分析用デバイス1を構成する部品の材料としては、材料コストが安価で量産性に優れる樹脂材料が望ましい。前記分析装置100は、分析用デバイス1を透過した光を測定する光学的測定方法によって試料液の分析を行うため、ベース基板3およびカバー基板4の材料としては、PC,PMMA,AS,MSなどの透明性が高い合成樹脂が望ましい。
【0042】
また、希釈液容器5の材料としては、希釈液容器5の内部に希釈液8を長期間封入しておく必要があるため、PP,PEなどの水分透過率の低い結晶性の合成樹脂が望ましい。保護キャップ2の材料としては、成形性のよい材料であれば特に問題がなく、PP,PE,ABSなどの安価な樹脂が望ましい。
【0043】
ベース基板3とカバー基板4との接合は、前記収容エリアに担持された試薬の反応活性に影響を与えにくい方法が望ましく、接合時に反応性のガスや溶剤が発生しにくい超音波溶着やレーザー溶着などが望ましい。
【0044】
また、ベース基板3とカバー基板4との接合によってベース基板3,カバー基板4の間の微小な隙間による毛細管力によって溶液を移送させる部分には、毛細管力を高めるための親水処理がなされている。具体的には、親水性ポリマーや界面活性剤などを用いた親水処理が行われている。ここで、親水性とは水との接触角が90°未満のことをいい、より好ましくは接触角40°未満である。
【0045】
図10は分析装置100の構成を示す。
この分析装置100は、ターンテーブル101を回転させるための回転駆動手段106と、分析用デバイス1内の溶液を光学的に測定するための光学測定手段108と、ターンテーブル101の回転速度や回転方向および光学測定手段の測定タイミングなどを制御する制御手段109と、光学測定手段108によって得られた信号を処理し測定結果を演算するための演算部110と、演算部110で得られた結果を表示するための表示部111とで構成されている。
【0046】
回転駆動手段106は、ターンテーブル101を介して分析用デバイス1を回転軸心107の回りに任意の方向に所定の回転速度で回転させるだけではなく、所定の停止位置で回転軸心107を中心に所定の振幅範囲、周期で左右に往復運動をさせて分析用デバイス1を揺動させることができるように構成されている。
【0047】
光学測定手段108には、分析用デバイス1の測定部に特定の波長光を照射するための光源112と、光源112から照射された光のうち、分析用デバイス1を通過した透過光の光量を検出するフォトディテクタ113とを備えている。
【0048】
分析用デバイス1をターンテーブル101によって回転駆動して、注入口13から内部に取り込んだ試料液を、注入口13よりも内周にある前記回転軸心107を中心に分析用デバイス1を回転させて発生する遠心力と、分析用デバイス1内に設けられた毛細管流路の毛細管力を用いて、分析用デバイス1の内部で溶液を移送していくよう構成されており、分析用デバイス1のマイクロチャネル構造を分析工程とともに詳しく説明する。
【0049】
図11は分析用デバイス1の注入口13の付近を示している。
図11(a)は注入口13を分析用デバイス1の外側から見た拡大図を示し、図11(b)は保護キャップ2を開いて指先120から試料液18を採取するときの様子を示したものであり、図11(c)は前記マイクロチャネル構造をターンテーブル101の側からカバー基板4を透過して見たものである。
【0050】
注入口13は分析用デバイス1の内部に設定された回転軸心107から外周方向へ突出した形状で、内周方向に伸長するようベース基板3とカバー基板4との間に形成された微小な隙間δの毛細管力の作用する誘導部17を介して、毛細管力により必要量保持できる毛細管キャビティ19に接続されているため、保護キャップ2を開いてこの注入口13に試料液18を直接に付けることによって、注入口13の付近に付着した試料液が誘導部17の毛細管力によって分析用デバイス1の内部に取り込まれる。
【0051】
誘導部17と毛細管キャビティ19と接続部にはベース基板3に凹部21を形成して通路の向きを変更する屈曲部22が形成されている。
誘導部17から見て毛細管キャビティ19を介してその先には、毛細管力が作用しない隙間の受容キャビティ23aが形成されている。毛細管キャビティ19と屈曲部22および誘導部17の一部の側方には、大気に開放したキャビティ24が形成されている。キャビティ24の作用によって、注入口13から採取された試料液は誘導部17および毛細管キャビティ19のキャビティ24が形成されていない側の側壁を優先的に伝って充填されていくため、注入口13で気泡が混入した場合に、誘導部17のキャビティ24と隣接している区間内で空気がキャビティ24に向かって排出され、気泡を巻き込まずに試料液18を充填することができる。
【0052】
図12はこのようにして点着後の分析用デバイス1をターンテーブル101にセットして回転させる前の状態を示している。このとき、図6(c)で説明したように希釈液容器5のアルミシール9が開封リブ11aに衝突して破られている。25a〜25mはベース基板3に形成された空気孔である。
【0053】
分析工程を、回転駆動手段106の運転を制御している制御手段109の構成と共に説明する。
− 工程1 −
検査を受ける試料液が注入口13に点着された分析用デバイス1は、図13(a)に示すように毛細管キャビティ19内に試料液を保持し、希釈液溶液5のアルミシール9が破られた状態でターンテーブル101にセットされる。
【0054】
− 工程2 −
ドア103を閉じた後にターンテーブル101を時計方向(C2方向)に回転駆動(5000rpm〜8000rpm)すると、保持されている試料液が屈曲部22の位置で破断し、誘導部17内の試料液は保護キャップ2内に排出され、毛細管キャビティ19内の試料液18は図13(b)に示すように受容キャビティ23aを介して分離キャビティ23b,23cに流入する40〜70秒間回転を保持すると、分離キャビティ23b,23cで血漿成分18aと血球成分18bとに遠心分離される。
【0055】
希釈液容器5から流出した希釈液8は、図13(b)および図20(a)に示すように排出流路26を介して保持キャビティ27に流入する。保持キャビティ27に流入した希釈液8が所定量を超えると、余剰の希釈液8は溢流流路28aを介して溢流キャビティ29aに流れ込み、さらに毛細管流路37を乗り越えて、溢流キャビティ29b、溢流通路28bを経由して、リファレンス測定セルとしての溢流キャビティ29cに流れ込む。
【0056】
溢流キャビティ29cに流入した希釈液は、保持キャビティ27と同様に、所定量を超えると、余剰の希釈液は溢流流路28cを介して溢流キャビティ29dに流れ込む。
なお、希釈液容器5は、アルミシール9でシールされている開口部7とは反対側の底部の形状が、図4(a)(b)に示すように円弧面32で形成され、かつ図13(b)に示す状態の希釈液容器5の液放出位置においては、図14に示すように円弧面32の中心mが回転軸心107よりも排出流路26に近づくよう距離dだけオフセットするように形成されているため、この円弧面32に向かうように流れた希釈液8が円弧面32に沿って外側から開口部7に向かう流れ(矢印n方向)に変更されて、希釈液容器5の開口部7から効率よく希釈液容器収容部11に放出される。
【0057】
− 工程3 −
次に、ターンテーブル101の回転を停止させると、血漿成分18aは分離キャビティ23bの壁面に形成された毛細管キャビティ33に吸い上げられ、毛細管キャビティ33と連通する連結流路30を介して図15(a)に示すように計量流路38に流れて定量が保持される。
【0058】
ここで、この実施の形態では、計量流路38の出口に、充填確認エリア38aが内周方向に伸長するように形成されており、次工程に移る前に、100rpm前後で低速回転させて、充填確認エリア38aに血漿成分18aを保持したまま、光学的に血漿成分18aの有無を検出することができる構成としている。分析用デバイス1内の充填確認エリア38aの内面は、光を透過させたときに充填確認エリア38aを通過する光が散乱するように表面を粗らしており、血漿成分18aが充填されていない場合は、透過する光量が減少し、血漿成分18aが充填された場合は、表面の微細な凹凸にも液が充填されるため、光の散乱が抑制されて透過する光量が増加する。その光量の差を検出することで血漿成分18aの充填の有無を検出可能としている。
【0059】
また、分離キャビティ23b,23c内の試料液は、分離キャビティ23cと溢流キャビティ36bを連結しているサイホン形状を有する連結流路34内に呼び水され、同様に、希釈液8も保持キャビティ27と混合キャビティ39を連結しているサイホン形状を有する連結流路41内に呼び水される。
【0060】
ここで、連結流路41の出口に形成された流入防止溝32aは、連結流路41から計量流路38へ希釈液8が流入するのを防止するために形成されており、ベース基板3およびカバー基板4の両方に0.2mm〜0.5mm程度の深さで形成されている。
【0061】
毛細管キャビティ33は、分離キャビティ23bの最外周の位置から内周側に向かって形成されている。換言すると、毛細管キャビティ33の最外周の位置は、図13(b)に示す血漿成分18aと血球成分18bとの分離界面18cよりも外周方向に伸長して形成されている。
【0062】
このように毛細管キャビティ33の外周側の位置を上記のように設定することによって、毛細管キャビティ33の外周端が、分離キャビティ23bにおいて分離された血漿成分18aと血球成分18bに浸かっており、血漿成分18aは血球成分18bに比べて粘度が低いため、血漿成分18aの方が優先的に毛細管キャビティ33によって吸い出され、連結流路30を介して計量流路38に向かって血漿成分18aを移送できる。
【0063】
また、血漿成分18aが吸い出された後、血球成分18bも血漿成分18aの後を追って吸い出されるため、毛細管キャビティ33および連結流路30の途中までの経路を血球成分18bで置換することができ、計量流路38が血漿成分18aで満たされると、連結流路30および毛細管キャビティ33内の液の移送も止まるため、計量流路38に血球成分18bが混入することはない。
【0064】
− 工程4 −
ターンテーブル101を時計方向(C2方向)に回転駆動(4000rpm〜6000rpm)すると、図15(b)に示すように、計量流路38に保持されていた血漿成分18aは大気開放キャビティ31の位置で破断し、定量だけ混合キャビティ39に流れ込み、保持キャビティ27内の希釈液8もサイホン形状の連結流路41を介して混合キャビティ39に流れ込む。
【0065】
また、分離キャビティ23b,23cおよび連結通路30、毛細管キャビティ33内の試料液18はサイホン形状の連結流路34と逆流防止通路35を介して溢流キャビティ36aに流れ込む。
【0066】
− 工程5 −
次に、ターンテーブル101の回転を停止し、分析用デバイス1を図15(b)に示す位置にして、±1mm程度の揺動を分析用デバイス1に与えるようにターンテーブル101を20〜70Hzの周波数で制御して、混合キャビティ39内に移送された希釈液8と血漿成分18aからなる測定対象の希釈血漿40を攪拌する。
【0067】
− 工程6 −
その後に、分析用デバイス1を図16(a)に示す位置にして、±1mm程度の揺動を分析用デバイス1に与えるようにターンテーブル101の揺動の強度を徐々に100Hz程度まで上げて混合キャビティ39に保持される希釈血漿40を、希釈血漿40の液面よりも内周側に形成された毛細管流路37の入口まで移送する。
【0068】
毛細管流路37の入口まで移送された希釈血漿40は、毛細管力によって毛細管流路37内に吸い出され、毛細管流路37、計量流路47a,47b,47c、溢流流路47dに順次移送される。
【0069】
− 工程7 −
ターンテーブル101を時計方向(C2方向)に回転駆動(4000rpm〜6000rpm)すると、図16(b)に示すように、計量流路47a,47b,47cに保持されていた希釈血漿40は、大気と連通する大気開放キャビティ50との連結部である屈曲部48a,48b,48c,48dの位置で破断して、定量だけ測定セル52b,52cおよび保持キャビティ53に流れ込む。
【0070】
また、このとき溢流流路47dに保持されていた希釈血漿40は、逆流防止通路55を介して溢流キャビティ54に流れ込む。また、このとき毛細管流路37内の希釈血漿40は、溢流キャビティ29b,溢流流路28bを介して溢流キャビティ29cに流れ込む。
【0071】
計量流路47aの一部の側壁には、屈曲部48aの近傍に大気開放キャビティ50と連通するよう凹部49が形成されているため、屈曲部48aの近傍での壁面に付着する力が低下し、屈曲部48aでの液切れをよくしている。
【0072】
測定セル52a〜52cの形状は、遠心力の働く方向に伸長した形状で、具体的には、分析用デバイス1の回転中心から最外周に向かって分析用デバイス1の周方向の幅が細く形成されている。
【0073】
複数の測定セル52a〜52cの外周側の底部は分析用デバイス1の同一半径上に配置されているため、複数の測定セル52a〜52cを測定するのに同一波長の光源112やそれに対応するフォトディテクタ113を別の半径距離に複数個配置する必要が無く、装置のコストを削減できると共に、同一測定セル内に複数の異なる波長を用いて測定することもできるため、混合溶液の濃度に応じて最適な波長を選択することで測定感度を向上させることができる。
【0074】
さらに、各測定セル52a〜52cの周方向に位置する側壁の一側壁には、前記測定セルの外周位置から内周方向に伸長するように試薬を担持している毛細管エリア56a〜56cが形成されている。図16(b)におけるF−F断面を図22に示す。
【0075】
毛細管エリア56bの吸い上げ可能な容量は、測定セル52bに保持される試料液を全て収容できる容量よりも少ない容量に形成されている。毛細管エリア56a,56cも同様に、それぞれの測定セル52a,52cに保持される試料液を全て収容できる容量よりも少ない容量に形成されている。
【0076】
測定セル52a〜52cの光路長は、それぞれの検査対象の成分と試薬を反応させた後の混合溶液から得られる吸光度の範囲によって調整されている。
また、毛細管エリア56a,56b,56c内には図23(a)に示すように、それぞれの検査対象の成分と反応させるための試薬58a1,58a2,58b1,58b2,58b3,58c1,58c2が、毛細管エリア56a,56b,56c内に形成された試薬担持部57a1,57a2,57b1,57b2,57b3,57c1,57c2に担持されている。図23(a)におけるG−G断面を図23(b)に示す。
【0077】
試薬担持部57b1,57b2,57b3のカバー基板4との隙は、毛細管エリア56bのカバー基板4との隙より薄くなるよう毛細管エリア56bより突出して形成している。
【0078】
そのため、この試薬担持部57b1,57b2,57b3に試薬58b1,58b2,58b3を塗布することで、試薬58b1,58b2,58b3の広がりを試薬担持部57b1,57b2,57b3と毛細管エリア56bとの段差で抑制できるため、種類の異なる試薬同士を混ざることなく担持することが可能となる。
【0079】
さらには、試薬担持部57b1,57b2,57b3の隙の方が、毛細管エリア56bよりも薄いため、毛細管エリア56bに吸上げられた液が確実に試薬担持部57b1,57b2,57b3へ充填されるため、試薬58b1,58b2,58b3を確実に溶解させることができる。
【0080】
毛細管エリア56bは、50〜300μm程度の毛細管力が作用する隙で形成しているため、試薬担持部57b1,57b2,57b3は毛細管エリア56bよりも数十μm程度だけ突出するように形成している。毛細管エリア56a,56cにおいても同様に構成されている。
【0081】
− 工程8 −
次に、ターンテーブル101の回転を停止し、分析用デバイス1を図17(a)に示す位置にして、±1mm程度の揺動を分析用デバイス1に与えるようにターンテーブル101を60〜120Hzの周波数で制御して、保持キャビティ53に保持される希釈血漿40を希釈血漿40の液面に浸かるよう保持キャビティ53の側壁に形成された連結部59を介して毛細管力の作用により操作キャビティ61に移送する。
【0082】
さらにターンテーブル101を40秒〜60秒にわたって10〜40Hzの周波数で制御して、図24(a)に示す操作キャビティ61に担持された試薬67a,67bと希釈血漿40を攪拌し、希釈血漿40内に含まれる特定の成分と試薬を反応させる。
【0083】
ここでは測定セル52aにおいてHDL−コレステロールを計測しようとしており、操作キャビティ61に乾燥担持されている試薬67a,67bは、非HDL凝集試薬であって、具体的には、燐タングステン酸ナトリウム(ナカライテスク(株)製)を使用した。
【0084】
また、測定セル52b,52cに移送された希釈血漿40は、毛細管力によって図17(a)に示すように毛細管エリア56b,56cに吸い上げられ、この時点で試薬58b1,58b2,58b3,58c1,58c2の溶解が開始され、希釈血漿40内に含まれる特定の成分と試薬の反応が開始される。
【0085】
図24(a)に示すように、回転軸心107に対して保持キャビティ53の周方向に隣接して操作キャビティ61が形成されている。操作キャビティ61のカバー基板4との隙は毛細管力の作用する隙に形成されており、試薬67a,67bが試薬担持部65a,65bに担持されている。操作キャビティ61には、試薬67a,67bの周辺で、具体的には試薬67a,67bの間に半径方向に伸長されるとともにその高さは前記操作キャビティ61の外周壁の寸法(=ベース基板3とカバー基板4との隙)よりも小さい攪拌リブ63が形成されている。
【0086】
攪拌リブ63とカバー基板4との厚み方向の断面寸法は、図24(b)に示すように、操作キャビティ61のカバー基板4との厚み方向の断面寸法よりも小さい。つまり、試薬担持部65a,65bの隙は、前記操作キャビティ61の隙より薄くなるよう前記キャビティ61より突出して形成されている。
また、試薬担持部65a,65bのカバー基板4との隙は、操作キャビティ61のカバー基板4との隙より薄くなるよう操作キャビティ61より突出して形成している。
【0087】
そのため、試薬担持部65a,65bの隙の方が、操作キャビティ61よりも薄いため、操作キャビティ61に流入した液が確実に試薬担持部65a,65bへ充填されるため、試薬67a,67bを確実に溶解させることができる。試薬担持部65a,65bは操作キャビティ61よりも数十μm程度だけ突出するように形成している。
【0088】
操作キャビティ61の内周側の側方にはキャビティ62が形成されており、キャビティ62は保持キャビティ53と連通部60で連結されている。キャビティ62のカバー基板4との隙は、毛細管力の作用しない隙に形成されている。またキャビティ62は、連通部60の近傍に形成された空気孔25hを介して大気に連通している。
【0089】
保持キャビティ53と操作キャビティ61とは、保持キャビティ53の側壁から前記連通部60を通過して延びる連結部59を介して連結されている。連結部59のカバー基板2との隙は、毛細管力の作用する隙に形成されている。ここでは連結部59の先端は、保持キャビティ53に保持された希釈血漿40の液面よりも前記回転軸心について外周方向に伸長して形成されている。
【0090】
操作キャビティ61の外周側には、分離キャビティ66が形成されており、連結通路64を介して接続されている。連結通路64のカバー基板4との間の厚み方向の断面寸法は、毛細管力の作用する隙で、操作キャビティ61に作用する毛細管力よりも大きくなるよう制限されている。
【0091】
操作キャビティ61には希釈血漿40で満たされている空間と隙の大きさは同じであるけれども希釈血漿40で満たされていない僅かな空間61aが残っている。
図17(a)に示す状態では、希釈血漿40と試薬67a,67bとが接触して試薬67a,67bが希釈血漿40に溶け出す。この状態で分析用デバイス1を回転軸心107を中心に所定角度の揺動をさせると、操作キャビティ61の希釈血漿40は前記空間61aがあるために操作キャビティ61の中で移動して、この攪拌の際に、攪拌リブ63に衝突してより確実に攪拌される。これによって、試薬の比重が大きい場合であっても試薬を沈殿させないようにより有効に作用している。
【0092】
− 工程9 −
次に、ターンテーブル101を時計方向(C2方向)に回転駆動(5000rpm〜7000rpm)すると、図17(b)に示すように、操作キャビティ61の試薬と反応した希釈血漿が連結通路64を通過して分離キャビティ66に流れ込み、さらに高速回転を20〜40秒間にわたって維持することで、操作キャビティ61内で生成された非HDL凝集成分とHDL成分を含む希釈血漿成分を遠心分離する。
【0093】
この実施の形態では、検査対象の成分と試薬を反応させる際に、前記反応を阻害する成分を前工程で排除するよう構成しており、操作キャビティ61で希釈血漿を試薬と反応させることで、後工程の反応を阻害する特定の成分を凝集処理し、次工程で遠心分離することで前記凝集物を排除している。
【0094】
また、毛細管エリア56b,56cに保持されていた試薬と希釈血漿の混合溶液は、遠心力によって測定セル52b,52cの外周側に移送することで、試薬と希釈血漿の攪拌が行われる。
【0095】
ここでは、分析用デバイス1の回転と停止の動作を繰り返し行うことで、試薬と希釈血漿の攪拌を促進しているため、拡散のみの攪拌に比べて確実に且つ短時間で攪拌を行うことが可能となる。
【0096】
− 工程10 −
次に、ターンテーブル101の回転を停止させると、希釈血漿40中のHDL成分を含む希釈血漿成分は分離キャビティ66の壁面に形成された毛細管キャビティ69に吸い上げられ、毛細管キャビティ69と連通する連結流路70を介して図18(a)に示すように計量流路80に流れて定量が保持される。
【0097】
また、分離キャビティ66内の非HDL凝集成分を含む希釈血漿40は、分離キャビティ66と溢流キャビティ81aを連結しているサイホン形状を有する連結流路68内に呼び水される。
【0098】
また、測定セル52b,52cに移送された試薬と希釈血漿の混合溶液は、毛細管力によって再び毛細管エリア56b,56cに吸い上げられる。
毛細管キャビティ69の最外周の位置は、図18(a)に示すように、分離キャビティ66に保持される希釈血漿に浸かるように外周方向に伸長して形成されている。
【0099】
このように毛細管キャビティ69を形成することで、比重の重い沈殿物よりも上澄みの希釈血漿の方が優先的に毛細管キャビティ69によって吸い出され、連結流路70を介して計量流路80に向かって沈殿物を除去したHDL成分を含む希釈血漿40を移送できる。
【0100】
− 工程11 −
ターンテーブル101を時計方向(C2方向)に回転駆動(4000rpm〜6000rpm)すると、図18(b)に示すように、計量流路80に保持されていた希釈血漿40は、大気と連通する大気開放キャビティ83との連結部である屈曲部84の位置で破断して、定量だけが測定セル52aに流れ込む。
【0101】
また、分離キャビティ66および連結通路70、毛細管キャビティ69内の希釈血漿40はサイホン形状の連結流路68を介して溢流キャビティ81aに流れ込む。
また、毛細管エリア56b,56cに保持されていた試薬と希釈血漿の混合溶液は、遠心力によって測定セル52b,52cの外周側に移送することで、試薬と希釈血漿の攪拌が行われる。
【0102】
ここで、溢流キャビティ81aに移送された希釈血漿40は、分析用デバイス1の回転の停止と共に、大気と連通する溢流キャビティ81bと接続される溢流流路82cに充填されるため、溢流キャビティ81aの出口が大気と遮断されて内部が負圧になる。そのため、溢流キャビティ81aから希釈血漿40が連結流路68を通って流出するのを防ぐことができる。
【0103】
− 工程12 −
次に、ターンテーブル101の回転を停止させると、測定セル52aに移送されたHDL成分を含む希釈血漿40は、毛細管力によって図19(a)に示すように毛細管エリア56aに吸い上げられ、この時点で図23(a)に示す試薬58a1,58a2の溶解が開始され、希釈血漿40内に含まれる特定の成分と試薬の反応が開始される。
【0104】
ここでは測定セル52aにおいてHDL−コレステロールを計測しようとしているため、HDL測定試薬である試薬58a1,58a2のうちの乾燥担持されている試薬58a1は酵素試薬であって、具体的には、コレステロールエステラーゼ(東洋紡社製)、コレステロールデヒドロゲナーゼ(天野エンザイム社製)およびジアホラーゼ(東洋紡社製)を使用した。乾燥担持されている試薬58a2はメディエータとしての発色試薬であって、具体的にはNAD+(オリエンタル酵母社製)およびWST−8(同仁化学社製)を使用した。
【0105】
また、測定セル52b,52cに移送された試薬と希釈血漿の混合溶液は、毛細管力によって再び毛細管エリア56b,56cに吸い上げられる。
− 工程13 −
ターンテーブル101を時計方向(C2方向)に回転駆動すると、図19(b)に示すように、毛細管エリア56a,56b,56cに保持されていた試薬と希釈血漿の混合溶液は、遠心力によって測定セル52a,52b,52cの外周側に移送することで、試薬と希釈血漿の攪拌が行われる。
【0106】
測定セル52aに移送された希釈血漿40についても、工程11と工程12の動作を繰り返し行うことで、試薬と希釈血漿に含まれるHDL−コレステロールと試薬の反応を促進しているため、拡散のみの攪拌に比べて確実に且つ短時間で攪拌を行うことが可能となる。
【0107】
− 工程14 −
分析用デバイス1を反時計方向(C1方向)または時計方向(C2方向)に回転駆動(1000rpm〜1500rpm)して、各測定セル52a,52b,52cが光源112とフォトディテクタ113の間を通過するタイミングに、演算部110がフォトディテクタ113の検出値を読み取って、特定成分の濃度を算出する。なお、工程7および工程11で希釈血漿40が各測定セル52a,52b,52cに流入した際に、各測定セル52a,52b,52cが光源112とフォトディテクタ113の間を通過するタイミングに、演算部110がフォトディテクタ113の検出値を読み取ることで、試薬と反応前の吸光度を算出できるため、演算部110での計算処理に測定セル52a,52b,52cのリファレンスデータとして利用することで、測定精度を改善することができる。
【0108】
また、保持キャビティ53に流れ込んだ定量の希釈血漿40を、試薬と反応させながら測定セル52aに向かって遠心力の作用によって移送して測定しているので、試薬の溶解度合いの分布もなく、測定精度の向上が期待できる。
【0109】
また、保持キャビティ53と、操作キャビティ61と、分離キャビティ66と、計量流路80と、測定セル52aと、毛細管エリア56aと、測定セル52aへ順に遠心力で移送してHDL成分を効率よく測定セル52aに届けることができるため、液体試料のロスも少なくて済み、被験者に優しい検査を実現できる。
【0110】
上記の実施の形態では、測定セルにおいて光学的にアクセスして減衰量から成分を測定していたが、試薬と試料との反応物に測定セルにおいて電気的にアクセスして成分を測定する場合でも同様である。この場合、電極を使用してアクセスする場合のメディエータとしてはフェリシアン化カリウムなどを使用できる。
【0111】
上記の実施の形態では、操作キャビティ61に担持した非HDL凝集試薬と試料との攪拌効率を向上させるために攪拌リブ63を設けたが、毛細管エリア56a,56b,56cにも同様の攪拌リブを形成することによって、試薬と試料との攪拌効率を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明は、生物などから採取した液体の成分分析に使用する分析用デバイスの小型化ならびに高性能化に有用である。
【符号の説明】
【0113】
52a 測定セル
53 保持キャビティ
56a 毛細管エリア
58a1 酵素試薬
58a2 発色試薬(メディエータ)
59 連結部
61 操作キャビティ
63 攪拌リブ
64 連結流路
65a,65b 試薬担持部
66 分離キャビティ
67a,67b 非HDL凝集試薬
69 毛細管キャビティ
70 連結流路
80 計量流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料を遠心力によって測定セルに向かって移送するマイクロチャネル構造を有し、前記測定セルにおける液体にアクセスする読み取りに使用される分析用デバイスであって、
液体試料である定量の希釈血漿が流れ込む保持キャビティと、
前記保持キャビティの周方向に隣接した位置に形成され毛細管力の作用する連結部を介して前記保持キャビティに連結されるとともに非HDL凝集試薬を有する操作キャビティと、
前記操作キャビティよりも外周側に形成され毛細管力の作用する隙の連結流路を介して連結された分離キャビティと、
前記分離キャビティの周方向に隣接し毛細管力の作用する連結流路を介して前記分離キャビティと連結された計量流路と、
前記計量流路よりも外周側に形成された測定セルと、
前記測定セルよりも内周側に形成され酵素試薬およびメディエータを有する毛細管エリアと
を有し、
前記毛細管エリアで反応した反応溶液を前記遠心力を大きくして前記測定セルの外周側に移送し、前記測定セルの外周側に溜まった前記反応溶液にアクセスして前記液体試料のHDLを計測するよう構成した
分析用デバイス。
【請求項2】
前記操作キャビティにおける前記非HDL凝集試薬を担持している試薬担持部の隙は、前記操作キャビティの隙より薄くなるよう前記操作キャビティより突出して形成されている
請求項1記載の分析用デバイス。
【請求項3】
前記操作キャビティに半径方向に伸長した攪拌リブを形成し、前記攪拌リブの高さは前記操作キャビティの外周壁よりも低い
請求項1記載の分析用デバイス。
【請求項4】
前記分離キャビティから前記計量流路に、前記分離キャビティの壁面に形成された毛細管が作用する毛細管キャビティによって比重の重い沈殿物よりも上澄みの希釈血漿の方を優先的に吸い上げて移送するよう構成した
請求項1記載の分析用デバイス。
【請求項5】
液体試料を遠心力によって測定セルに向かって移送するマイクロチャネル構造を有する分析用デバイスを使用して、前記測定セルにおける液体にアクセスして読み取るに際し、
液体試料である定量の希釈血漿を前記分析用デバイスを軸心周りに回転させて遠心力によって保持キャビティに定量の希釈血漿を流し込み、
前記遠心力を小さくして、前記保持キャビティの外周側に溜まった希釈血漿を、毛細管力の作用する連結部を介して前記保持キャビティの周方向に隣接した位置に形成された操作キャビティに移送し、前記操作キャビティの内側の外周側に担持された非HDL凝集試薬と反応させ、
前記操作キャビティの反応した希釈血漿を直前よりも前記遠心力を大きくして、前記操作キャビティと前記操作キャビティよりも外周側に形成され毛細管力の作用する隙の連結流路を介して連結された分離キャビティに移送するとともに非HDL凝集成分とHDL成分を含む希釈血漿成分に遠心分離し、
前記分離キャビティ中のHDL成分を含む希釈血漿成分を直前よりも前記遠心力を小さくして、前記分離キャビティの周方向に隣接した計量流路に、毛細管力の作用する連結流路を介して沈殿物を除去したHDL成分を含む希釈血漿を移送し、
計量流路に保持されていた希釈血漿計量流路よりも外周側に形成された測定セルに直前よりも前記遠心力を大きくして移送し、
前記測定セルに移送されたHDL成分を含む希釈血漿を、直前よりも前記遠心力を小さくして、前記測定セルよりも内周側に形成された試薬担持部としての毛細管エリアに毛細管力によって吸い上げ、前記毛細管エリアに担持されている酵素試薬およびメディエータと反応させ、
前記毛細管エリアで反応した反応溶液を、直前よりも前記遠心力を大きくして前記測定セルの外周側に移送し、
前記測定セルの外周側に溜まった前記反応溶液にアクセスして前記液体試料のHDLを計測する分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2011−21954(P2011−21954A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−166211(P2009−166211)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】