説明

分析装置

【課題】試料を安定して保持することができる分析装置を提供する。
【解決手段】本体と、試料を載置する載置面を有し、当該載置面を前記本体外部に露出させる第1の位置と、当該載置面を前記本体内に収容する第2の位置とを通る軌道において往復移動可能に前記本体に設けられたスライダと、前記スライダに設けられ、前記本体と係合して前記スライダを係止させる係合部材と、を備え、前記係合部材は、前記スライダに沿って突出する突出部を有し、前記係合の解除に伴い前記突出部が前記載置面を覆うことを許容するとともに、前記係合に伴い前記突出部による前記載置面の覆いを解除することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン付着質量分析装置40(Ion Attachment Mass Spectrometer)では、被測定ガスの分子をイオン化するとき、当該分子にイオンを付着させる。被測定ガスの分子にイオンが付着するとき、イオンはガス分子の電荷の偏りのある場所に非常に穏やかに付着(会合)し、解離の発生はほとんどない。このためイオン付着質量分析装置40は、被測定ガスの分子をイオン化し、解離を発生させずに当該被測定ガスを質量分析することができるという利点を有している。
【0003】
例えば特許文献1には、低濃度の被測定ガス(被検出ガス)を計測しようとする場合に生じていた干渉ピークの問題を解決する技術が開示されている。すなわち、予め複数種類の第三体ガスまたは複数種類のイオン放出体等を用意しておき、かつ干渉ピークの発生をモニタし、干渉ピークが発生した場合には適切な第三体ガスまたはイオン放出体を選択して使用し、干渉ピークの発生を排除できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−203509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、文献1に開示される装置では、分析対象試料を安定して保持することについて考慮がなされていない。そのため、例えば分析対象試料を用意する工程で振動や外部衝撃を受けた場合、当該試料が容器から落ちてしまったり、容器自体が落ちてしまったりする可能性がある。
【0006】
そこで本発明は、試料を安定して保持することができる分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するため、本発明に係る分析装置は、本体と、試料を載置する載置面を有し、当該載置面を前記本体外部に露出させる第1の位置と、当該載置面を前記本体内に収容する第2の位置とを通る軌道において往復移動可能に前記本体に設けられたスライダと、前記スライダに設けられ、前記本体と係合して前記スライダを係止させる係合部材と、を備え、前記係合部材は、前記スライダに沿って突出する突出部を有し、前記係合の解除に伴い前記突出部が前記載置面を覆うことを許容するとともに、前記係合に伴い前記突出部による前記載置面の覆いを解除することを特徴とする。
【0008】
また、本発明の分析装置は、本体と、試料を収容する試料容器を支持する保持棒と、前記試料容器を加熱して前記試料の少なくとも一部を気化させる加熱機構と、気化した前記試料に付着することで、当該試料をイオン化させる金属イオン放出体が設けられたイオン化室と、イオン化された前記試料を質量分別する質量分析器と、質量分別された前記試料を検出する検出部と、を備え、前記保持棒は、前記本体と係合する係合部を有するとともに、前記試料容器を前記本体外部に露出させる第1の位置と、前記試料容器を前記本体内に収容する第2の位置とを通る軌道において往復移動可能であり、前記係合部は、前記スライダに沿って突出する突出部を有し、前記係合の解除に伴い前記突出部が前記試料容器を覆うことを許容するとともに、前記係合に伴い前記突出部による前記試料容器の覆いを解除することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、試料を安定して保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係るイオン付着質量分析装置40の構成を表す概略図。
【図2】ダイレクトプローブを拡大した図。
【図3】本実施例におけるダイレクトプローブを示す図。
【図4】本実施例におけるダイレクトプローブを質量分析装置側から見た図。
【図5】本実施例における係合部と質量分析装置に設けられた被係合部との係合の形態を示した図。
【図6】本実施例における試料を試料支持棒に搭載する工程を示す図。
【図7】本実施例における試料を搭載した試料支持棒を装置内に移動させる工程を示す図。
【図8】本実施例における試料を搭載した試料支持棒を装置内に収容・係止させる工程を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、イオン付着質量分析装置40の改良、特に、イオン付着質量分析装置40に試料を導入するためのダイレクトプローブの形状を改良したものである。
以下、図面を参照し、本発明における一実施形態について具体的に説明する。
図1は、本発明に係るイオン付着質量分析装置40の構成を表す概略図である。
また、図2は、図1に示すダイレクトプローブを拡大して表す図を示す。
本発明の質量分析装置40は、イオン化室11、質量分析室13、及びイオン化室11と質量分析室13の間に設けられた差動排気室12を含む。イオン化室11と差動排気室12の間、差動排気室12と質量分析室13の間は、各々開孔を有する第1の仕切り板18、第2の仕切り板22で仕切られており、各開孔19,23を通して検出ガスが移動できるようになっている。
【0012】
イオン化室11には、分析試料、及び被検出物質に応じた分析標準物質を収容した試料容器10を設置し得るダイレクトプローブ14、試料容器10を加熱して分析試料及び被検出物質から検出ガスを得るための加熱機構15例えば赤外ランプ、赤外レーザ等、及び検出ガスに付着して、検出ガスをイオン化検出ガスにせしめる金属イオン例えばLiを提供する金属イオン放出体16が設けられている。金属イオン放出体16には、加熱用フィラメント17が挿入されている。金属イオンとしては、本発明の一実施態様ではLi+が使用される。その他、例えばK+、Na+、Rb+、Cs+、Al+、Ga+、及びIn+等を使用することができる。
【0013】
図2に示すように、試料容器をイオン化室に導入するためのダイレクトプローブ14には、複数の試料容器10を設置することが可能であり、1つの分析試料の分析が完了した後、ダイレクトプローブ14を一定距離スライドするだけで、後続の分析試料をすぐにイオン化室に導入することができるようになっている。
【0014】
この差動排気室12は、10ないし1000Paであるイオン化室11と、1×10−3Pa以下である質量分析室13を真空的に接続する役割を担っており、0.1ないし1Paの圧力となっている。差動排気室12には、集束レンズ24が設けられている。集束レンズ24は、静電界を利用した静電レンズである。また、差動排気室12には真空ポンプ21例えばターボポンプ(TMP)が接続されている。この真空ポンプ21で差動排気室12内部を排気すると、開孔19を通ってイオン化室11内部も同時に例えば100Pa迄排気される。これにより、イオン化室11から差動排気室12への検出ガス等の流れが生じる。
【0015】
質量分析室13には、イオン化検出ガスを質量分別する例えばQポール型質量分析器31、及び質量分別されたイオン化検出ガスを検出する電子倍増管35が設けられている。また、質量分析室にもまた真空ポンプ21が接続されており、例えば10−3Paまで排気され得る。質量分析器は、Qポール型のみならず、三次元(3D)型、磁場セクター型、TOF(飛行時間)型、及びイオン・サイクロトロン・レゾナンス(ICR)型等を使用することができる。
【0016】
本発明に用いられる分析試料は必要に応じて所望の大きさにカットするだけで、複雑な前処理を施す必要がなく、予め分析標準物質を収容した試料容器内に、直接入れるだけで、質量分析を行うことができる。質量分析装置40に入れられた分析試料は、加熱機構により加熱され、分析標準物質及び分析試料から検出ガスが熱抽出される。この検出ガスに金属イオン放出体16から出た金属イオンが付着してイオン化検出ガス(アダクトイオン)となる。イオン化検出ガスは、集束レンズ20を通過して移動し、Qポール型質量分析器内で質量毎に分別され、電子倍増管35の入り口に捕らえられて、検出される。
【0017】
ダイレクトプローブ14は、複数の試料容器10が全て質量分析装置40から露出する位置と、これらの試料容器10が全て質量分析装置40内に収容される位置とを通る軌道で移動可能である。本実施例の質量分析装置40では、ダイレクトプローブ14が複数の試料容器10を質量分析装置40外に露出させた位置にある状態で当該試料容器10に分析対象物質を入れた後、試料容器10が全て質量分析装置40内に収容される位置までダイレクトプローブ14を移動させて分析を実行する。ここで、例えば試料容器10に分析対象物質を入れた状態のダイレクトプローブ14を移動させる過程で振動や外部衝撃を受けた場合、当該試料が試料容器10から落ちてしまったり、試料容器10自体がダイレクトプローブ14から落ちてしまったりする可能性がある。
【0018】
そこで本発明は、試料を安定して保持することができる機構を質量分析装置40に備える。以下、図3および図4を参照しながら本実施例の質量分析装置40の動作について説明することで、当該質量分析装置40が試料を安定して保持することができる機構を備えることを示す。図3は、本実施例におけるダイレクトプローブを示す図である。図4は、本実施例におけるダイレクトプローブを質量分析装置40側から見た図である。
【0019】
本実施例のダイレクトプローブ14は、本体部141と、ハンドル部142と、係合部143と、試料支持棒144と、落下防止部材145とを有する。
本体部141とハンドル部142とは、常に質量分析装置40外に露出している。本体部141は、例えば試料支持棒144の端部と連結する。本体部141は、質量分析装置40と対向する面に係合部材143を有する。この係合部材143は、係合爪1431を有す。係合爪1431は、試料容器10が全て質量分析装置40内に収容される位置までダイレクトプローブ14を移動させたときに、ハンドル部142の操作を受けて質量分析装置40と係合することでダイレクトプローブ14を係止させる。
【0020】
また、本体部141は試料支持棒144を中心にして、当該試料支持棒144と独立して回動可能に設けられる。ここで、独立とは互いに別の動作をすることが可能であることを意味し、本体部141の回動移動に伴って試料支持棒144が連動して回転することはない。
【0021】
ハンドル部142は、外部操作を受けて本体部141、係合部材143、及び落下防止部材145の移動制御を可能にする。試料支持棒144は、複数の試料容器10を搭載するための複数の開口を有する。
【0022】
落下防止部材145は、本体部141における質量分析装置40と対向する面から、試料支持棒144に沿って伸びている。また、図4に示すように、落下防止部材145は、本体部141の回動移動に伴って試料支持棒144が連動して回転する。ここでは、落下防止部材145が本体部141と一体として設けられた形態を示すが、本体部141の回動移動に伴って試料支持棒144が連動して回転可能であれば、本体部141にと別体で設けられていても良い。
【0023】
次に、図5を参照しながら本実施例における係合部143による係合について説明する。図5は、本実施例における係合部143と質量分析装置40に設けられた被係合部152との係合の形態を示した図である。
【0024】
本実施例における質量分析装置40には、ダイレクトプローブ14を収容するための開口部150が設けられる。この開口部150は、係合部143と係合するための被係合部151が形成されている。更に被係合部151には、係合爪1431が収容される凹部152が形成される。
【0025】
本実施例では、試料容器10が全て質量分析装置40内に収容される位置までダイレクトプローブ14を移動した場合に、被係合部151の中に係合部143が収容される。この状態で、図面上側に本体部141を回動させた場合、凹部152に係合爪1431が入り込むことで係合を成す。
【0026】
ここで、本実施例の質量分析装置40では、係合部材143と質量分析装置40とが係合する位置に在るとき、落下防止部材145は試料支持棒144の試料容器10載置面から外れた位置に在り、係合部材143と質量分析装置40との係合が解除される位置に在るとき、落下防止部材145が試料支持棒144の試料容器10載置面を覆う位置に在るように構成される。この構成を図6乃至図8を参照しながら説明する。図6は、本実施例における試料を試料支持棒144に搭載する工程を示す図である。図7は、本実施例における試料を搭載した試料支持棒144を装置内に移動させる工程を示す図である。図8は、本実施例における試料を搭載した試料支持棒144を装置内に収容・係止させる工程を示す図である。
【0027】
図6乃至図8に示すように、本実施例の本体部141は、係合部材143と質量分析装置40とが係合する位置と、係合部材143と質量分析装置40との係合を解除する位置との間で回動可能である。
【0028】
図6に示すように、先ずダイレクトプローブ14が複数の試料容器10を質量分析装置40外に露出させた位置にある状態では、係合部材143と質量分析装置40とが係合する位置に本体部141を移動させる。この動作に伴い、落下防止部材145は試料支持棒144の試料容器10載置面から外れる。これにより、分析対象物質を入れた試料容器10を着脱可能な状態にすることができる。
【0029】
次に、図7に示すように、分析対象物質を入れた試料容器10を試料支持棒144に搭載した後、係合部材143と質量分析装置40との係合が解除する位置に本体部141を移動させる。この動作に伴い、落下防止部材145は試料支持棒144の試料容器10載置面を覆う。これにより、分析対象物質を入れた試料容器10が試料支持棒144から落下すること、或いは分析対象物質が試料容器10からこぼれ落ちることを防止することができ、試料容器10が全て質量分析装置40内に収容される位置まで安定してダイレクトプローブ14を移動させることができる。
【0030】
最後に、図8に示すように、試料容器10が全て質量分析装置40内に収容される位置までダイレクトプローブ14を移動した状態において、係合部材143と質量分析装置40とが係合する位置に本体部141を移動させる。これに伴い、落下防止部材145は試料支持棒144の試料容器10載置面から外れる。これにより、質量分析装置40では分析対象物質を分析できるようになる。
【0031】
また、本実施例では、イオン付着質量分析装置40を実施形態の一例として示したが、これに限らず、試料棒を有したダイレクトプローブの機構を備える装置であればよく、例えば透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope)等にも適用することができる。
【0032】
このように、本実施例では、試料を安定して保持することができる分析装置を提供することができる。
本発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態に構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0033】
1…分析標準物質
2…分析試料
5…通気板
6…側壁
11…イオン化室
12…差動排気室
13…質量分析室
14…ダイレクトプローブ
15…赤外ランプ
16…金属イオン放出体
17…加熱用フィラメント
141…本体部
142…ハンドル部
143…試料支持棒
144…係合部材143
145…落下防止部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体と、
試料を載置する載置面を有し、当該載置面を前記本体外部に露出させる第1の位置と、当該載置面を前記本体内に収容する第2の位置とを通る軌道において往復移動可能に前記本体に設けられたスライダと、
前記スライダに設けられ、前記本体と係合して前記スライダを係止させる係合部材と、
を備え、
前記係合部材は、前記スライダに沿って突出する突出部を有し、前記係合の解除に伴い前記突出部が前記載置面を覆うことを許容するとともに、前記係合に伴い前記突出部による前記載置面の覆いを解除すること
を特徴とする分析装置。
【請求項2】
前記係合部材は、前記スライダが前記第1の位置から第2の位置へと移動する間に前記突出部による前記載置面の覆いを成す
ことを特徴とする請求項1記載の分析装置。
【請求項3】
前記突出部は、前記スライダの周囲を回動可能に設けられ、前記載置面と対向する位置まで回動することで前記載置面の覆いを成す
ことを特徴とする請求項2記載の分析装置。
【請求項4】
前記係合部材は、前記本体と係合するとともに、前記スライダの周囲を回動可能に設けられた係合部を有し、
前記突出部は、前記本体と係合する位置までの前記係合部の回動により、前記載置面と対向する位置から離れて前記載置面の覆いを解除する
ことを特徴とする請求項3記載の分析装置。
【請求項5】
前記載置面は、前記試料を入れる開口を有したケースを載置し、
前記突出部は、前記ケースの開口を覆うことを特徴とする請求項4記載の分析装置。
【請求項6】
本体と、
試料を収容する試料容器を支持する保持棒と、
前記試料容器を加熱して前記試料の少なくとも一部を気化させる加熱機構と、
気化した前記試料に付着することで、当該試料をイオン化させる金属イオン放出体が設けられたイオン化室と、
イオン化された前記試料を質量分別する質量分析器と、
質量分別された前記試料を検出する検出部と、
を備え、
前記保持棒は、前記本体と係合する係合部を有するとともに、前記試料容器を前記本体外部に露出させる第1の位置と、前記試料容器を前記本体内に収容する第2の位置とを通る軌道において往復移動可能であり、
前記係合部は、前記スライダに沿って突出する突出部を有し、前記係合の解除に伴い前記突出部が前記試料容器を覆うことを許容するとともに、前記係合に伴い前記突出部による前記試料容器の覆いを解除すること
を特徴とする分析装置。
【請求項7】
前記係合部は、前記保持棒が前記第1の位置から第2の位置へと移動する間に前記突出部による前記試料容器の覆いを成す
ことを特徴とする請求項6記載の分析装置。
【請求項8】
前記突出部は、前記保持棒の周囲を回動可能に設けられ、前記試料容器と対向する位置まで回動することで前記試料容器の覆いを成す
ことを特徴とする請求項7記載の分析装置。
【請求項9】
前記係合部は、前記保持棒の周囲を回動可能に設けられ、
前記突出部は、前記本体と係合する位置までの前記係合部の回動により、前記試料容器と対向する位置から離れて前記試料容器の覆いを解除する
ことを特徴とする請求項8記載の分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−177057(P2010−177057A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−18760(P2009−18760)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】