説明

分注装置およびそのノズルの降下動作の制御方法

【課題】分注ノズルと親検体容器の間に放電が生じた場合の分注処理に要する時間を短縮する。
【解決手段】分注ノズル12と親検体容器14との間の電気的特性、例えば静電容量を測定する。分注ノズルを降下させつつ、前記電気的特性の監視を行い、電気的特性に所定の変化が生じた場合、分注ノズルの降下を停止し、所定時間経過後、再度前記電気的特性の測定する。この再測定の結果に基づき、分注ノズルが、親検体容器に収容された検体へ接触したのか、放電によるノイズが検出されたのかを判断する。真に検体へ接触した場合には、検体を吸引する処理に移行し、放電ノイズの場合には、再び分注ノズルを下降させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分注装置に関し、特に検体を吸引するノズルの降下動作の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
親検体容器に収容された血液等の検体を分析するために、少量を子検体容器に取り分ける分注装置が知られている。分注動作においては、親検体容器に収容された検体に、分注ノズルの先端を差し入れ、その後に検体を吸引しつつ、ノズルを降下させる動作が行われる。検体の吸引時には、空気を巻き込まないようにするなどの要請から、ノズルを検体の液面より所定深さまで差し入れ、その後吸引を開始するようにしている。このために、ノズル先端が液面から差し入れられた深さを知る必要があり、検体の液面を検出する必要がある。液面を検出する方法として、ノズルと親検体容器の間の静電容量に基く方法が、例えば下記特許文献1に記載されている。
【0003】
親検体容器が樹脂製など、低導電性の材料であると、静電気が帯電することがあり、降下してくるノズルとの間で、放電が起こる場合がある。この放電は、静電容量などの電気的特性の測定においてノイズとなり、液面の誤検出の原因となる。放電によるノイズにより液面の誤検出が生じた場合には、ノズルを一旦上昇させた後、再度検体吸引動作をノズルの降下からやり直していた。
【0004】
【特許文献1】特開2000−55713号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
液面の誤検出のあった後、ノズル上昇後、再度ノズルの降下動作からやり直すのでは、上昇、降下に時間を要してしまう。また、1回の放電では、容器に帯電している電荷がなくならず、検体吸引動作を繰り返す場合があり、こうなると検体吸引動作が完了するまで多大な時間を要してしまう。
【0006】
本発明は、放電による液面の誤検出があったとき、より短い時間で検体吸引動作が終了するようにする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の分注装置は、親検体容器からノズルにより検体を吸引し、子検体容器に所定量の検体を取り分ける分注装置であって、ノズルを昇降させるノズル昇降部と、ノズルと親検体容器との間の電気的特性を測定する電気特性測定部と、測定された電気的特性に基づき液面の位置を算出し、ノズル昇降部を制御する制御部と、を有し、制御部は、ノズルを降下させつつ電気的特性を測定し、電気的特性またはその変化量が所定のしきい値を超えるとノズルの降下を一旦停止し、その後の電気的特性を測定して先の電気的特性のしきい値超えが液面を検出したものか、ノズルと親検体容器の間の放電によるものか判断し、液面検出による場合は所定の検体吸引時の降下動作を実行させ、放電によるものであった場合には、再度電気的特性を取得しつつノズルを降下させるものである。
【0008】
また、本発明の他の態様である、分注ノズルの親検体容器への降下動作の制御方法は、親検体容器からノズルにより検体を吸引し、子検体容器に所定量の検体を取り分ける分注装置における、ノズルの親検体容器への降下動作の制御方法であって、ノズルと親検体容器との間の電気的特性を測定しつつ、ノズルを降下させ、電気的特性またはその変化量が所定のしきい値を超えたときノズルの降下を一旦停止し、その後の電気的特性を測定して先の電気的特性のしきい値超えが液面を検出したものか、ノズルを親検体容器の間の放電によるものかを判断し、液面検出による場合は所定の検体吸引時の降下動作を実行させ、放電によるものであった場合には、再度電気的特性を取得しつつノズルを降下させるものである。
【0009】
上記のノズルと親検体容器の間の電気的特性は、静電容量とすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の分注装置においては、放電により液面を誤検出したとき、ノズルを上昇させることなく、再度電気的特性の測定を行いつつ降下を開始する。これにより、ノズルを一旦上昇させ、再度下降させる時間が省けて、動作時間が短縮される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を、図面に従って説明する。図1は、分注装置10の要部構成を示す図である。分注ノズル12は、親検体容器14中の検体を吸引し、子検体容器16に所定の量を小分けする、いわゆる分注動作を行う。分注ノズル12には、検体を吸引し、吐出するためのシリンジがフレキシブルな管で接続されているが、図1においては省略されている。分注動作において、分注ノズル12は、分注ヘッド18上に設けられたZ方向(上下方向)ガイドに沿って、Z軸駆動機構20により駆動される。また、分注ヘッド18は、X方向(水平方向)ガイド22に沿って、X軸駆動機構24により駆動される。
【0012】
また、分注装置10は、ノズル12と親検体容器14の間の静電容量を検出する静電容量検出部26を有し、さらに、この静電容量に基づき親検体容器14内の液面の検出を行う制御部28を有する。制御部28はまた、X軸駆動機構24、Z軸駆動機構20の制御を行う。Z軸駆動機構20の制御は、液面を検出するための制御および検出された液面に基づく制御を含む。
【0013】
分注動作において、まず、分注ノズル12を分注対象の親検体容器14の上方に位置決めし、ここからZ軸駆動機構20によって降下させる。分注ノズル12は、予測される液面位置より、十分余裕のある高さまで、高速で降下され、その後低速で降下される。制御部28は、分注ノズル12を低速で降下するよう制御しつつ、分注ノズル12の先端の液面への接触を監視する。この液面への接触の監視については、後に詳述する。ノズル先端が液面に接触した後、ノズル先端を液面下の所定深さまで進入させ、検体の吸引が開始される。この吸引動作の制御についても制御部28が制御を行う。検体が吸引されると、液面が下がり、分注ノズル12もこれに合わせて降下するように制御される。所定量の検体が吸引されると、分注ノズル12を上昇させ、X軸駆動機構24により水平方向に移動して、子検体容器16上に位置決めする。ここから、分注ノズル12を所定の高さまで降下させて、子検体容器16中に所定量の検体を注入する。注入時、注入による液面の上昇に合わせて分注ノズル12を上昇制御することもできる。検体を複数の子検体容器16に分ける場合には、一つの子検体容器16への注入が終わると、分注ノズル12を上昇させて、別の子検体容器16上に位置決めし、これに分注を行うようにできる。別の子検体容器16上方への分注ノズル12の位置決めは、子検体容器16を移動させて行うことができる。
【0014】
図2は、液面検出に係る構成を示す図である。前述のように、分注装置10は、分注ノズル12と親検体容器14の間の静電容量Cに基づき、液面の検出を行う。具体的には、分注ノズル12の先端が検体液面に接触したとき、前記静電容量が増加することを検出して液面の検出を行っている。抵抗Rで形成されたブリッジ回路30の接続点Aに分注ノズル12が接続され、接続点Dには、所定の周波数fの電圧を発生する発振部32が接続されている。接続点Dに対向する接続点Fはグランドに接続されている。親検体容器14もグランドに接続されており、この結果、親検体容器14と分注ノズル12の間の容量Cは、接続点A,Dの間に配置される。ブリッジ回路30の残りの接続点Bには、アンプ34が接続され、アンプ34のもう一方の端子は接続点Aに接続されている。接続点AB間の電位差VABは、式(1)で表される。
【数1】

【0015】
この電位差をアンプ34で増幅して、静電容量の検出信号として制御部28に送出する。したがって、ブリッジ回路30、発振部32およびアンプ34が、図1の静電容量検出部26の主要な構成となる。
【0016】
図3は、分注ノズル12の先端の位置と静電容量検出信号の関係の一例を示す図である。分注ノズル12の先端位置は、横軸の右に行くほどノズルが下降した位置であることを示している。分注ノズル12の先端が液面に接触すると、図3に符号P1で示すように検出信号が急激に増加する。制御部28は、このときの変化量またはあらかじめ設けられた検出信号のしきい値に基づき、分注ノズル12が液面に達したことを判定する。具体的には、検出信号の変化があらかじめ定められている値より急峻だったとき、また検出信号があらかじめ定められているしきい値を超えたときに、ノズルが液面に達したと判定する。
【0017】
親検体容器14が帯電していると、分注ノズル12との間に放電が生じる場合があり、このときには、検出信号に図4に示すようなノイズが発生する。前述のように、ノイズの液面への到達の判定を、検出信号の値またはその変化量により行っていると、図4に示すようなノイズも、上記の判定基準を満足してしまう。ノイズか、否かの判断は、検出信号の増加があった時点T1で分注ノズル12の降下を停止し、時点T1から所定時間経過後の検出信号の値に基づき行う。真に分注ノズル12の先端が液面に達していたのであれば、所定時間経過後においても検出信号は増加しているはずであり、ノイズであれば、検出信号のレベルは以前と変わらないはずである。これをもって、ノイズか、真の液面検出の信号であるかを判断する。
【0018】
図5は、親検体容器14から検体(サンプル)を所定量吸引する際の制御フローチャートである。検体吸引フローが開始されると(S100)、分注ノズル12を吸引対象の親検体容器14の上方に移動させ、所定の液面検出開始位置まで降下させる(S102)。液面検出開始位置は、親検体容器14中の、一般的な検体液面または想定できる上限の検体液面に対し、所定の間隔が開くように定められた位置である。この位置から、液面検出動作が開始される。具体的には、ステップS102における降下速度より遅い速度で分注ノズル12を降下させつつ、分注ノズル12と親検体容器14の間の静電容量が監視される(S104)。
【0019】
静電容量の検出信号が、ノズル先端が検体液面に達したと判断される値になった、または変化を生じると、一旦、ノズルの降下が停止される(S106)。そして、所定時間経過後の静電容量の検出信号を取得し、真の液面検出であったか、または放電によるノイズを検出したものであるかを判断する(S108)。真の液面検出であれば、所定時間経過後において検出された静電容量は、ノズル先端が検体液面に達する前のものとは異なる値を示すはずであり、またノイズであれば、ノズル先端は未だ検体液面に達していないので、静電容量は変化していないはずである。これをもって、液面検出の真偽について判断を行う。
【0020】
ステップS108において、放電ノイズによる検出であった、すなわち真の液面ではなかったと判断された場合、ノイズ検出回数のカウンタ値を更新し(S110)、更新されたカウンタ値が上限を超えたかが判断される(S112)。カウンタ値が上限を超えてなければ、ステップS104に戻り、ノイズが生じた位置から分注ノズル12を低速で再度降下させる。ステップS108で、放電ノイズによる液面検出ではない、すなわち真の液面検出であった場合、誤検出回数のカウンタ値をリセットし(S114)、分注ノズル12を所定量降下させた後、検体の吸引を開始する(S116)。このとき、吸引による検体液面低下に追従するように分注ノズル12も降下させる。所定量の吸引が終わったら、または検体がなくなったら、分注ノズル12を上昇させ(S118)、この親検体容器14に対する検体吸引のフローを終了する。
【0021】
また、ステップS112にて、カウンタ値がリミットを超えた場合、この親検体容器14に対する検体吸引処理を中止し、吸引処理に不具合があった情報を記憶する等のエラー処理を実行する(S120)。エラー処理実行後、分注ノズル12を上昇させてこの親検体容器に対する吸引処理を終了する。
【0022】
親検体容器14が樹脂などの導電性のない材料の場合、電荷が移動しないので、1回放電が起きても、容器の他の部分は未だ帯電している場合があり、再度放電が起こる場合がある。再度の放電は、分注ノズル12がすでに通過した親検体容器の上方の部分では起こりづらい。したがって、放電が生じた後、ノズルを上昇させ、再度検体吸引処理の最初から、つまりステップS102の所定の液面検出開始位置まで戻って、検体吸引処理を実行する必要はないと考えられる。そこで、本実施形態においては、ステップS108で真の液面検出ではないと判断された場合には、その位置から分注ノズル12を静電容量を測定しつつ再度降下させる。また、1個の親検体容器14に関し、液面検出が放電ノイズによるものであると判断された回数が多い場合、他の異常も考えられ、またこの親検体容器14ばかりに時間を掛けてはいられないので、この容器に関しての吸引処理は終了する。
【0023】
以上、分注ノズル12と親検体容器14の間の静電容量に基づき検体液面の検出を行う装置について説明したが、前述の検体吸引処理は、ノズルと容器の間の抵抗(またはコンダクタンス)など、他の電気的特性に基づき検体液面の検出を行う分注装置にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】分注装置の要部構成を示す図である。
【図2】静電容量検出に係る回路図である。
【図3】分注ノズルと親検体容器の間の静電容量と、分注ノズル先端位置の関係を示す図である。
【図4】放電ノイズ発生後の、静電容量検出信号の時間変化を示す図である。
【図5】検体吸引処理の制御フローを示す図である。
【符号の説明】
【0025】
10 分注装置、12 分注ノズル、14 親検体容器、18 分注ヘッド、20 Z軸駆動機構、26 静電容量検出部、28 制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親検体容器からノズルにより検体を吸引し、子検体容器に所定量の検体を取り分ける分注装置であって、
ノズルを昇降させるノズル昇降部と、
ノズルと親検体容器との間の電気的特性を測定する電気特性測定部と、
測定された電気的特性に基づき液面の位置を算出し、ノズル昇降部を制御する制御部と、
を有し、
制御部は、ノズルを降下させつつ電気的特性を測定し、電気的特性またはその変化量が所定のしきい値を超えるとノズルの降下を一旦停止し、その後の電気的特性を測定して先の電気的特性のしきい値超えが液面を検出したものか、ノズルと親検体容器の間の放電によるものか判断し、液面検出による場合は所定の検体吸引時の降下動作を実行させ、放電によるものであった場合には、再度電気的特性を取得しつつノズルを降下させる、
分注装置。
【請求項2】
請求項1に記載の分注装置であって、ノズルと親検体容器との間の前記電気的特性は、静電容量である、分注装置。
【請求項3】
親検体容器からノズルにより検体を吸引し、子検体容器に所定量の検体を取り分ける分注装置における、ノズルの親検体容器への降下動作の制御方法であって、
ノズルと親検体容器との間の電気的特性を測定しつつ、ノズルを降下させ、
電気的特性またはその変化量が所定のしきい値を超えたときノズルの降下を一旦停止し、その後の電気的特性を測定して先の電気的特性のしきい値超えが液面を検出したものか、ノズルを親検体容器の間の放電によるものかを判断し、
液面検出による場合は所定の検体吸引時の降下動作を実行させ、放電によるものであった場合には、再度電気的特性を取得しつつノズルを降下させる、
分注装置のノズルの降下動作の制御方法。
【請求項4】
請求項3記載の分注装置のノズルの降下動作の制御方法において、前記ノズルと親検体容器との間の前記電気的特性は静電容量である、制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−70264(P2008−70264A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−249938(P2006−249938)
【出願日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(390029791)アロカ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】