説明

分注装置

【課題】
EWOD方式の化学分析装置において、試薬やサンプル液、またはその混合物である液滴を、所定量だけ精度よく分注するとともに、分注を高速化する。
【解決手段】
分注装置では、表面に共通電極が配置された第1の基板23と、表面に駆動電極列129が配置された第2の電極21とを、電極面を内側に互いにほぼ平行に配置する。第1の基板に形成した孔531に、液体が供給可能なノズル131を挿入する。第2の基板に配置した駆動電極列は、このノズルに最も近い電極51の外周形状が、ノズル用孔に向けて滑らかな曲線部を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EWOD方式の化学分析装置に係り、特にその化学分析装置が備える分注装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の化学分析装置に用いるEWOD(Electrowetting on Dielectric)方式の液滴移送装置の例が、特許文献1に記載されている。この公報に記載の液滴移送装置では、液滴を挟持する2枚の面の一方にだけ電極を配置し、その面上を液滴が移送される。この場合、電極が配置された面と平行に他方の面を配置し、液滴を挟持する。そして面に埋め込まれたまたは含まれる電極が、定められた手順に従って連続的に電圧の印加または停止を繰り返すことにより、EWOD方式による液滴移送が実行される。この公報に記載の方法によれば、種々の液滴移送方法が可能であり、例えば、2つの液滴の結合や混合、複数の液滴への分離、連続的な液のサンプリングが可能になっている。
【0003】
液滴移送の他の例が、非特許文献1に記載されている。この文献には、μTAS(マイクロ・トータル・アナリシス)を実行するときに必要なデジタル・マイクロ流体回路を構成するために、不可欠な流体の4種の変化形態が開示されている。それらは、(1)液滴の生成、(2)液滴の移送、(3)液滴の分離、(4)液滴の結合である。これらすべてを、EWODで実行するために、液滴を挟持する並行平板間距離を液滴材料に応じて規定している。
【0004】
また、非特許文献2には、システムを汚染することなくチップ上でサンプルを注入、分配、混合することが記載されている。この文献では、電極間に液溜めを形成し、この液溜めに接続した電極列を構成する電極に順次電圧を印加している。そして、液滴を電極列に沿って引き伸ばしている。その際、数電極分引き伸ばしたら、液滴の最先端に位置する電極に電圧を印加する。それとともに液溜めに形成した半円状の大電極にも電圧を印加して、液滴を引き戻す。これにより、液滴にくびれが生じ、液滴の先端に位置する電極上に液滴を分注している。
【0005】
【特許文献1】国際公開2004/030820号パンフレット
【非特許文献1】Cho et al, “Creating, Transporting, Cutting, and Merging Liquid Droplets by Electrowetting-Based Actuation for Digital Microfluidic Circuits”, JOURNAL OF MICROELECTROMECHANICAL SYSTEMS, VOL. 12, NO. 1, pp70-80, FEBRUARY 2003
【非特許文献2】Fair et al, “Electrowetting-based On-Chip Sample Processing for Integrated Microfluidics”, IEEE Inter. Electron Devices Meeting (IEDM) 2003, 2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1および非特許文献1に記載のEWOD方式による液滴移送装置では、並行平板内に設けた電極列上で液滴を移動させるので、液の移動にポンプなどの機械要素を必要とせず、機構が簡素化する。所定量の液滴を分注するため、予め分析デバイス内部の電極上に液滴を載せ、液滴が載っている電極の下流側の電極列に順次電圧を印加している。特に非特許文献2に記載のように、液滴を引き伸ばした上で上流側の電極に電圧をかけて引き戻し液体を分割するものでは、分割されて電極上に残る液滴の体積がばらつくおそれがあり、高精度の分析に適用するのが困難であった。さらに、電圧を印加する電極を切り換える際に、電圧を数段階に切り換える必要があり、分注に要する時間および電極数が増加している。
【0007】
本発明は上記従来技術の不具合に鑑みなされたものであり、その目的は、EWOD方式の化学分析装置において、試薬やサンプル液、またはその混合物である液滴を、所定量だけ精度よく分注することにある。本発明の他の目的は、EWOD方式の化学分析装置において、分注の速度を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明の特徴は、表面に共通電極が配置された第1の基板と、表面に駆動電極列が配置された第2の電極とを、電極面を内側に互いにほぼ平行に配置したEWOD方式の化学分析装置が備える分注装置において、前記第1、第2の基板の一方に形成した孔に挿入され液体が供給可能なノズルを有し、前記第2の基板に配置した駆動電極列はこのノズルに最も近い電極の外周形状が、前記ノズル用孔に向けて滑らかな曲線部を有することにある。
【0009】
そしてこの特徴において、滑らかな曲線は、円または楕円または雫形であるのが望ましく、駆動電極列は、互いに隙間をおいて配置した複数のオーバーラップ円形状であってもよい。また、駆動電極列を前記ノズルと対称位置に複数設け、この電極の最もノズル孔に近い電極の形状を雫形にし、前記第2の基板に、前記電極の雫形状と合った形状をし僅かに雫形の電極と隙間を有して配置された補助電極を有するのが好ましい。
【0010】
上記目的を達成する本発明の他の特徴は、表面に電極列が形成された2枚の平板を互いの電極列が対向するように平行に配置したEWOD方式の分注装置において、前記各電極列上に絶縁体膜を形成し、前記対向する電極列間に電圧を印加する電圧印加手段と、前記2枚の平板間に液体を供給する液体供給手段とを設け、一方の前記電極列の少なくとも1個の電極の外形が、滑らかな曲線部を有することにある。
【0011】
そしてこの特徴において、前記滑らかな曲線部は、円または楕円であるのがよく、前記滑らかな曲線部を有する電極は少なくとも2個あり、この滑らかな曲線部を有する電極を隣りあわせで配置し、それら電極の中心間距離を、電極半径または短径の1.5〜1.8倍とするのがさらに好ましい。また液体供給手段は、前記滑らかな曲線部を有する電極の中心から電極半径または短径の1.5〜1.8倍の倍数だけ離れた位置に配置されているのがよく、液体供給手段は、前記滑らかな曲線部を有する電極の中心側に開口部が形成されたノズルを備えるものであってもよい。さらに、液体供給手段は、一方の前記平板に形成した穴に挿入されるノズルを有することが望ましい。
【0012】
また上記特徴において、一方の基板に複数の電極列を形成し、前記液体供給手段をこの複数の電極列の中心部に配置し、この液体供給手段から複数の電極列に液体を供給するのが望ましく、複数の電極列は、前記液体供給手段から放射状に延びているのがさらに好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、分割される液滴の形状に応じた電極を分注部に設けたので、液滴の形状を同一化するのが容易になり、同一形状の液滴を分注できる。また、平行に配置した基板の対向する面を、サンプル液滴や試薬液滴に混じらない物質で覆ったので、分注後の洗浄が不要になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図13に、本発明に係る化学分析装置100の一実施例の主要部を、斜視図で示す。本化学分析装置100は、EWOD方式の医用自動分析装置である。EWOD方式では、矩形状の下部電極基板21にほぼ平行に上部電極基板23を配置し、下部電極基板21と上部電極基板23の間にわずかな隙間を形成する。そして、この隙間に導入した液滴を、電極列211、215〜217を駆動して移動させ、各種分析を実行する。下部電極基板21には、矩形状の電極からなる駆動電極列211、215〜217が形成されている。下部電極基板21及び上部電極基板23は、分析デバイス2を構成する。
【0015】
分析対象のサンプル11を収容するサンプル収容部15は、複数のサンプルカップ10を有している。サンプルカップ10は、円板状のホルダ1の外周付近に保持される。サンプルカップ10内には、サンプル11が収容されている。サンプル11は、たとえば血清である。
【0016】
サンプルホルダ1を回転駆動して、サンプル収容部15の近傍に設けた回転ロッド382とアーム381を有するサンプル分注装置16に、分析対象のサンプル11が含まれたサンプルカップ10を位置決めする。アーム381の先端には、ノズル31が取り付けられており、回転ロッド382の回転と上下動とにより、ノズル31がサンプルカップ10に入り、ノズル31に接続した図示しないポンプによりサンプル11を吸引する。
【0017】
サンプル11を吸引し終えたら、回転ロッド382を回転させて、サンプル分注用電極2151上にノズル31を位置決めし、サンプル11を基板21、23間の隙間に分注する。サンプルを1回の分析に必要な量よりも多くノズル31から吸引したとき等のために、サンプル11注入用の電極2151からまっすぐに延びる搬送用の駆動電極列215と、この搬送用の駆動電極列215にほぼ平行に設けた保管用の駆動電極列216とが下部電極基板21に形成されている。
【0018】
矩形状の下部電極基板21の一辺に沿って複数の密閉型の試薬タンク42が配置されている。各試薬タンク42の上部には、バルブ44が取り付けられており、下部にはノズル43が取り付けられている。ノズル43は、試薬分注装置を構成する試薬45搬送用の駆動電極列217付近に位置決めされている。ノズル43から注入され電極262で分注されて液滴451となった試薬45は、駆動電極列217上を移動して、電極素子2117に到達する。
【0019】
一方、ノズル31から注入されたサンプル11は、電極2151で分注されて液滴となる。この液滴は、駆動電極列215上を移動して、駆動電極列215と交差する駆動電極列218に移り、電極2117上に到達する。これら2種の液滴は、電極2117上で混合し、四角枠状に形成されたループ電極列219上をたどることにより攪拌され、混合液滴452となって、図示しない検査部に送られる。検査部で所定の計測及び分析をした後、混合液滴452は排出部から廃棄される。なお、下部電極基板21は、スペーサ222により複数の部分に区画され、各区画には同一の駆動電極パターンが形成されている。これにより、1対の電極基板21、23を使いながら、複数個のサンプルの計測及び分析が可能になる。スペーサは、電極基板21、23間の隙間を、所定隙間に保持するのにも使用される。また、各駆動電極列211、215〜219を構成する各電極には、図示しない電源から、電圧が個別に選択的に印加可能になっている。
【0020】
このように構成した分析デバイス2の詳細を、図4に、縦断面で示す。上述したように、分析デバイス2は、2枚の光を透過する石英やガラスなどの電極基板21、23を有する。上側の電極基板23には共通電極214が設けられており、下側の電極基板21には、液滴駆動用の駆動電極列211が設けられている。駆動電極列211側には、絶縁薄膜としてParylen(商品名)やSiO2などの誘電体薄膜212を、CVDなどで形成する。この誘電体薄膜212の上にさらに撥水性を向上させるために、AF1601(商品名)などのフッ素系の撥水膜213をコーティングする。共通電極214側には、撥水膜213のみコーティングする。
【0021】
本実施例の化学分析装置100は、水などの誘電率の高い物質を主成分とする、たとえば血清のような液滴12を取り扱う。この場合、液滴12が接する駆動電極2111に隣り合う駆動電極2112に正の電圧を印加すると、液滴12の一部がこの駆動電極2112上にあれば、隣の駆動電極2112上の液滴12の接触角が減少する。そして、駆動電極2112側に液滴12が引っ張られ、最終的に駆動電極2112上に液滴12が移動する。
【0022】
この過程を、順次隣り合う駆動電極2113、…で繰り返すと、液滴12は図で左方にどんどん移動する。すなわち、液滴12を移動させるには、各電極2111、2112、…のON/OFFを切り換えればよい。ここで、駆動電極211及び共通電極214の表面を、液滴12の流れを円滑にするとともに、液滴12に含まれる成分により分析デバイス2の内部が汚染されるのを防止するために、水と混じらないシリコンオイルなどのオイルで覆う。
【0023】
ところで、サンプル液滴111や試薬液滴451を搬送するのには、矩形状の電極を使用する。ただし、試薬分注装置やサンプル分注装置にも矩形状の電極を使用すると、分注はできるものの、分注されて形成された液滴111、451の大きさを一様化するのが困難である。そこで、本発明では、電極列211、215を形成する一部の電極の外形形状を、円形とした。電極の外形形状を円形にすると、同一電極面積を有する種々の形状の電極の中では、電極の周囲長が最短になる。電圧を印加して液滴を電極上に保持する場合、液滴は電極の周囲に倣って位置しようとする。したがって、電極の周囲長が短いと、同一体積の場合、表面エネルギーが小さくなり液滴が安定する。
【0024】
この原理を、図1を用いて説明する。同一面積でかつ正方形をした3個の駆動電極2115〜2117が、相隣り合って配置されている場合(同図(a))と、同一面積でかつ円形の3個の駆動電極2215〜2217が相隣り合って配置されている場合(同図(b))に、液滴を分割する。両端の駆動電極2115、2117;2215、2217に電圧を印加し、中央の電極2116、2216には電圧を印加しない。両端の駆動電極2115、2117;2215、2217の濡れ性が向上して、図1でハッチングで示した部分に位置する液滴は、両端側に引き離されていく。この図1では、中央で液滴が分離する瞬間を模式的に示している。
【0025】
液滴の周囲長は、円形電極の方が小さく表面エネルギーも小さい。一方、電極形状が円形から外れていくに従い、曲率の変化が生じて曲率変化が大きい部分で液滴の保持が難しくなる。液を導入または分割する場合に、液の形状が不安定になり、分割された液滴の液量がばらついて分注精度が低下する。
【0026】
本発明者らが、円形の電極上で液滴を分割した結果を高速カメラで測定例を、図2に上面視で示す。同図(a)は、円形電極51〜53を直線状に配置した電極列上で、液滴が分割される瞬間の写真であり、同図(b)は、分注が完了した後の写真である。ここで、隣り合う円形電極51、52;52、53の中心間の距離は、電極51〜53の外径の約0.75倍である。隣り合う2つの円形電極51、52;52、53の重複部は、移動方向に平行に複数の櫛歯がかみ合って形成されている。この櫛歯部では、電極51、52;52、53間は数十μmの隙間を設けている。したがって、電極51、52;52、53間では、導通していない。また、左側の円形電極51と右側の円形電極53に電圧を印加し、中央の円形電極52には電圧を印加していない。
【0027】
左右の円形電極51、53の濡れ性がよくなり、液体は左右に引き裂かれる。このとき、液体のくびれ部分121は、円形電極52の中心とは異なる位置に位置している。くびれ部分121を含むくびれ部の外形は、円形電極51〜53と同じ外径の破線で示した円125、126に一致している。この仮想的な円125、126は、電極51〜53画形成する電極列の中心軸129で、接している。さらに、液体の外形をなぞった仮想的な円127、128を追加すると、この仮想的な円127、128は、それぞれ円125、126に外接する。
【0028】
電極51〜53配置と液滴形成の関係を、図3を用いて説明する。この図3では、図2に示したように、電極51〜53を配置している。図では、電極の輪郭を実線で、液滴のくびれを含む円の形状を破線で示している。円形電極51〜53の輪郭を示す円127、124;124、128間の距離を、円形電極51〜53の半径の(√3倍)にしたときに、左右対称の安定な液滴分割が得られた。図2(b)に示した写真では、液滴が直径4mmの円形電極51〜53の形状にならって、正確に分注されている。この電極を用いた分注の繰り返し実験の結果では、画像で見る限り有意な液滴の大きさの差は見られない。
【0029】
この実験結果からは、複数の同一外径の円形電極を用い、電極間の距離を電極外径の(√3)倍程度にすれば、正確で再現性よく分注できることが知られた。さらに、円形電極間の距離を電極外径の0.75倍程度にしても、液を分注できることが知られた。これより、製作誤差などを考慮して、円形電極間の中心間距離を、電極外径(直径)の0.75倍から0.9倍程度の範囲とするのが好ましい。本実施例では、液滴が切れるときの形状に沿う電極形状としているので、液滴の分割が容易になる。また、液滴の分割の再現性が向上する。
【0030】
図5に、円形電極を用いて分注するときの分注装置における液滴の分注経過を、模式的に示す。同図(1)は、分注装置の拡大上面図であり、同図(2a)〜(2e)は分注経過における液滴の様子を上面図で示している。ノズル131から、分注対象のサンプル液または試薬液が、ノズル131真下に位置する液引き戻し用電極54と、この液引き戻し用電極54の左側部に配置した半円形の半円電極53上に注入される。液引き戻し用電極54は、後述するその他の電極51〜52、55〜57よりは大径の円の一部を、削ぎとった形状をしている。液引き戻し用電極54の右側部には、矩形状の排出用電極55が液引き戻し用電極54の内側に食い込んで配置されている。このため、液引き戻し用電極54は、排出用電極55とオーバーラップする部分を切り欠いている。排出用電極55の中央部には、廃液を排出する孔532が形成されている。
【0031】
半円電極と同一外形の2個の円形電極51、52が、半円電極53の左側にそれぞれの外径よりも短いピッチで配置されている。したがって、円形電極51、52と半円電極53は、オーバーラップ部を生じるので、半円電極53及び円形電極52は、オーバーラップ部を切り欠いて、2重にならないようにしている。円形電極51のさらに左側には、円形電極の外径と辺の長さがほぼ同じ矩形電極56、57が配置されている。矩形電極56と円形電極51とのピッチは円形電極51の外径よりも短いので、矩形電極56は円形電極51とオーバーラップする部分を切り欠いている。なお、各電極51〜57間には、わずかな隙間を形成して、互いを絶縁している。
【0032】
半円電極53の円の中心に対応する上側の電極基板23(図4参照)に、貫通孔231を形成し、この孔231にノズル131を挿入する。ノズル131の先端は、上側の電極基板21と下側の電極基板23の間に位置する。上下の電極基板21、23間の隙間と円形電極51の面積の積に2.5倍を乗じた量だけ、分注する試薬またはサンプルの液体12を注入する。注入された液体12は、ノズル131を中心に円形状に広がる(図5(2a))。
【0033】
円形電極51、52に電圧を印加し、液体12を左方に引き伸ばす(同図(2b))。円形電極52への電圧印加を中止する。それとともに、円形電極51、半円電極53および液引き戻し用電極54に電圧を印加する。これにより円形電極52の濡れ性が低下し、円形電極52上で液体12にくびれが生じる(同図(2c))。この状態を継続すると、やがて液滴12は分裂し、円形電極51上に液滴121が残る(同図(2d))。さらに矩形電極列56、57に順次電圧を印加すると、液滴121は左方に搬送される(同図(2e))。
【0034】
右側に残った液体122は、ノズル131に吸い戻される。もしくは、半円電極53と液引き戻し用電極54への電圧の印加を止め、排出用電極55に電圧を印加する。この場合、液122は、排出用電極55に引き込まれ、排出用電極55に形成した孔232から外部に排出される。図示しない電極列を経由して、外部に通じる孔または電極基板21、23の端部に形成した液溜めから排出してもよい。本実施例によれば、残留した液体を外部に排出できるので、次に別の液体を分注するときに前の液体の混入を防止できる。なおその際、電極基板21、23の対向する面は、液体と混じらないオイル等で覆われているので、完全に前の液体が後の液体を汚染するのを防止できる。
【0035】
図6に本発明に係る分注装置の他の実施例を、上面図で示す。本実施例が上記実施例と相違するのは、液戻し用電極及び排出用電極を省き、半円電極の代わりに円形電極52と同形の円形電極53を、円形電極53に隣り合わせに配置したことである。上側電極基板23では、半円電極の代わりの円形電極53の中心に対応する位置に、ノズル131挿入用の孔531が形成されている。
【0036】
分割された液滴121は、上記実施例と同様の方法(図6(2a)〜同図(2e)参照)で生成される。一方、ノズル131が配置された円形基板53上に残った液は、円形電極53へ電圧を印加してノズル31から吸い取る。この動作は、図6(2c)の状態から開始する。このとき、円形電極52の濡れ性が低下し、それとともに、基板21、23間の液量が減少して、円形電極52で液体のくびれが促進される。本実施例によれば、ノズル131が残液を吸い込むので、分注に必要な電極数を少なくできる。また、分注速度が向上する。
【0037】
本発明に係る分注装置のさらに他の実施例を、図7に上面図(同図(1))及び図7(1)のA−A断面図(同図(2))で示す。図6に示した実施例において、ノズル131位置に対応する円形電極を省いている。ノズル131の先端の一方側にだけ切り欠き311を形成し、切り欠き311側を円形電極52に向ける(同図(2)、(3a))。円形電極52に電圧を印加すると共にノズル131から液体12を注入する(同図(3b))。ノズル31から出た液体12は徐々に円形電極52を覆い、やがて円形電極51に先端が及ぶ(同図(3c))。このとき円形電極51と上側電極基板23に形成した共通電極間の静電容量を図示しない電気回路で測定する。
【0038】
円形電極51上の液体12の面積に比例して静電容量が増加する。静電容量の値が設定値を超えたら、ノズル31からの液体12の注入を中止する。それとともに、円形電極51に電圧を印加し、円形電極52の電圧の印加を止める。これにより円形電極52の濡れ性が低下し、円形電極51に液体12が引き付けられる。ノズル31から液体12が分離して液滴121となり円形電極51上に残る。さらに左側の矩形電極に電圧を順次印加することにより液滴121を搬送し、図示しない他の箇所に搬送する。本実施例によれば、ノズルの下側の電極を省略できるので、分注に必要な電極数を少なくできる。また、分注速度を向上できる。
【0039】
図8に、本発明に係る化学分析装置の分注装置のさらに他の実施例を、上面図(同図(1))及びA−A断面図(同図(2))示す。図7の実施例において、さらにノズル131に近い側の円形電極52を省いている。ノズル131の中心軸は、電極列129の中心線上にある。ノズル131の中心と、円形電極51の中心との距離を、円形電極51の半径の(√3)倍程度にする。図2、3で説明したように、ノズル131から流出した液体12の液切れ性能が、向上する。
【0040】
本実施例によれば、余分な液体を電極基板21、23間に供給することなく、液滴の分注精度を向上できる。また液滴分離時に、ノズル131側から余分な液体12を吸引すれば、液滴121を確実に分離させることができる。さらに本実施例によれば、中央の円形電極52を省略できるので、分注に必要な電極数が少なくて済む。また、分注速度が向上するとともに、形成される液滴と同程度の液体量だけ電極間に注入して分注するので、電極内への液体の汚染が最小限にとどめられる。
【0041】
図9に、本発明に係る化学分析装置に用いる分注装置のさらに他の実施例を、上面図で示す。本実施例では、図2に示した写真から得られた液滴分離時の液滴形状に合わせて、電極51、52を形成している。すなわち、隣合う2個の51a、53a電極は、互いに所定間隔をおいて配置されており、その対向する側をしずく形状に延ばした円形電極となっている。2個の雫形電極51a、53aの間では、電極51a、53aの紙面上下方向の幅が急減し、液体が移動し難い。そこで、液体の移動をスムーズにするために、これら2個の雫形電極51a、53a間に、補助電極52aを配置する。補助電極52aは、雫形電極51a、53aの雫形状に合わせている。
【0042】
なお、補助電極58は、雫形であることが液滴分離のためには最も望ましいが、電極51a、53a間を移動できる形状であれば、雫形に限るものではない。本実施例によれば、液滴が分離する寸前の形状に電極形状を合わせているので、液滴の分割が容易になる。また、再現性がよくなる。
【0043】
液滴分離のさらに他の実施例を、図10を用いて説明する。図10は、分離装置のモデルである。分離用の電極は、円形電極ではなく楕円状の電極51b〜53bである。電極列129bの方向に、楕円の短軸を配置する。楕円電極51b〜53bを用いると、楕円電極51b、52b;52b、53bの中心間の距離は、楕円の短径aの(√3)倍程度にする。なお、楕円電極51b、52b;52b、53b間の距離を、楕円の短径の1.5倍程度まで狭めても、液を分割できることが知られたので、製作誤差などを考慮して、楕円電極51b、52b;52b、53b間の距離を、楕円の短径の1.5倍から1.8倍程度にする。
【0044】
本実施例によれば、楕円電極を用いても電極の曲率の変化を連続的に変化させることができ、液滴を分割するときの形状が滑らかになり、安定して分注できる。また、分注後に液滴が載った電極への電圧印加を中止すると、液滴の外形が円に戻り、隣り合う電極表面を覆う液滴の量が増す。隣り合う電極に液滴がスムーズに移行し、液滴の移動ミスが減少する。また、液滴の移動時間も短縮する。
【0045】
本発明に係る化学分析装置に用いる分注装置のさらに他の実施例を、図11に示す。本実施例は、図8に示した実施例を左右対称に形成するとともに、各雫形電極511、512の面積の和と上下の電極基板23、21間の隙間との積程度の液体12を、ノズル131から注入する(図11(2a)参照)。注入された液体12は、ノズル131を中心に円形状に広がり、雫形電極511、512の表面の一部を覆う(同図(2b))。雫形電極511、512に電圧を印加する。雫形電極の濡れ性が向上し、液体12は左右に引き伸ばされ(同図(2c))、中央で分離して2個の液滴1211、1212が生成される(同図(2d))。
【0046】
このとき、雫形電極511、512と上側電極基板23の共通電極間の静電容量を図示しない電気回路で測定する。雫形電極511、512を覆う液体12の面積に比例して、静電容量が増加する。静電容量の値が設定した値を超えたら、ノズル131からの液体12の注入を中止する。余分な液体を供給せずに液滴を分注するので、分注精度が向上する。液滴分離時に、ノズル131から液体12を吸引すれば、確実に液滴を分離できる。なお、各雫形電極511、512および矩形電極列の大きさを、左右の電極列129c、129dで異ならせてもよい。
【0047】
図12に、ノズル131の回りに形成する電極列をさらに4個に増やした例を、上面図で示す。90度ピッチで、4個の電極列129c〜129fがノズル131回りに形成されている。ノズル131に最も近い電極は、雫形電極511〜514である。電極列129cは矩形電極561、571を、電極列129dは矩形電極562、572を、電極列129eは矩形電極563、573を、電極列129fは矩形電極564、574を有する。
【0048】
本実施例によれば、1個のノズル131から複数方向の電極列に液滴を分注及び移動させるので、液滴の生成速度が速くなる。また、各電極列で電極サイズを変更すれば、体積の異なる液滴を生成できる。したがって、分析装置などでサンプルや試薬の混合比を容易に変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】液滴の分離を説明する図。
【図2】液滴分離の実験結果を示す写真。
【図3】電極配置を説明する図。
【図4】本発明に係る化学分析装置の一実施例の縦断面図。
【図5】本発明に係る分注装置の一実施例の上面図。
【図6】本発明に係る分注装置の他の実施例の上面図。
【図7】本発明に係る分注装置のさらに他の実施例の上面図及び縦断面図。
【図8】本発明に係る分注装置のさらに他の実施例の上面図及び縦断面図。
【図9】本発明に係る分注装置に用いる電極の一実施例の上面図。
【図10】電極配置を説明する図。
【図11】本発明に係る分注装置のさらに他の実施例の上面図。
【図12】本発明に係る分注装置のさらに他の実施例の上面図。
【図13】本発明に係る化学分析装置の一実施例の主要部の斜視図。
【符号の説明】
【0050】
12…液滴、21…下部電極基板、23…上部電極基板、31…ノズル、51…円形電極、52…円形電極、53…円形電極、531…孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に共通電極が配置された第1の基板と、表面に駆動電極列が配置された第2の電極とを、電極面を内側に互いにほぼ平行に配置したEWOD方式の化学分析装置が備える分注装置において、前記第1、第2の基板の一方に形成した孔に挿入され液体が供給可能なノズルを有し、前記第2の基板に配置した駆動電極列はこのノズルに最も近い電極の外周形状が、前記ノズル用孔に向けて滑らかな曲線部を有することを特徴とする分注装置。
【請求項2】
前記滑らかな曲線は、円または楕円または雫形であることを特徴とする請求項1に記載の分注装置。
【請求項3】
前記駆動電極列は、互いに隙間をおいて配置した複数のオーバーラップ円形状であることを特徴とする請求項1に記載の分注装置。
【請求項4】
前記駆動電極列を前記ノズルと対称位置に複数設け、この電極の最もノズル孔に近い電極の形状を雫形にし、前記第2の基板に、前記電極の雫形状と合った形状をし僅かに雫形の電極と隙間を有して配置された補助電極を有することを特徴とする請求項1に記載の分注装置。
【請求項5】
表面に電極列が形成された2枚の平板を互いの電極列が対向するように平行に配置したEWOD方式の分注装置において、前記各電極列上に絶縁体膜を形成し、前記対向する電極列間に電圧を印加する電圧印加手段と、前記2枚の平板間に液体を供給する液体供給手段とを設け、一方の前記電極列の少なくとも1個の電極の外形が、滑らかな曲線部を有することを特徴とする分注装置。
【請求項6】
前記滑らかな曲線部は、円または楕円であることを特徴とする請求項5に記載の分注装置。
【請求項7】
前記滑らかな曲線部を有する電極は少なくとも2個あり、この滑らかな曲線部を有する電極を隣りあわせで配置し、それら電極の中心間距離を、電極半径または短径の1.5〜1.8倍としたことを特徴とする請求項6に記載の分注装置。
【請求項8】
前記液体供給手段は、前記滑らかな曲線部を有する電極の中心から電極半径または短径の1.5〜1.8倍の倍数だけ離れた位置に配置されていることを特徴とする請求項6または7に記載の分注装置。
【請求項9】
前記液体供給手段は、前記滑らかな曲線部を有する電極の中心側に開口部が形成されたノズルを備えることを特徴とする請求項6または7に記載の分注装置。
【請求項10】
前記液体供給手段は、一方の前記平板に形成した穴に挿入されるノズルを有することを特徴とする請求項6または7に記載の分注装置。
【請求項11】
前記一方の基板に複数の電極列を形成し、前記液体供給手段をこの複数の電極列の中心部に配置し、この液体供給手段から複数の電極列に液体を供給することを特徴とする請求項5に記載の分注装置。
【請求項12】
前記複数の電極列は、前記液体供給手段から放射状に延びていることを特徴とする請求項11に記載の分注装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−317364(P2006−317364A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−142076(P2005−142076)
【出願日】平成17年5月16日(2005.5.16)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】