切断方法
【課題】シリコンウェハを容易に切断できる切断方法を提供する。
【解決手段】シリコンウェハ2aの内部に集光点を合わせて、集光点のピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上の条件でパルスレーザ光を照射し、パルスレーザ光を切断予定ラインに沿って相対的に移動させることにより、切断予定ラインに沿ってシリコンウェハ2aの内部に溶融処理領域211aを形成すると共に、シリコンウェハ2aの内部であって溶融処理領域211aを挟んでパルスレーザ光の入射側とは反対側に、切断予定ラインに沿って相互に離隔するように複数の微小空洞211bを形成する。このとき、パルスレーザ光のパルスピッチは2.00μm〜7.00μmである。そして、溶融処理領域211aと微小空洞211bとからなる改質領域211を起点として割れを発生させ、切断予定ラインに沿ってシリコンウェハ2aを切断する。
【解決手段】シリコンウェハ2aの内部に集光点を合わせて、集光点のピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上の条件でパルスレーザ光を照射し、パルスレーザ光を切断予定ラインに沿って相対的に移動させることにより、切断予定ラインに沿ってシリコンウェハ2aの内部に溶融処理領域211aを形成すると共に、シリコンウェハ2aの内部であって溶融処理領域211aを挟んでパルスレーザ光の入射側とは反対側に、切断予定ラインに沿って相互に離隔するように複数の微小空洞211bを形成する。このとき、パルスレーザ光のパルスピッチは2.00μm〜7.00μmである。そして、溶融処理領域211aと微小空洞211bとからなる改質領域211を起点として割れを発生させ、切断予定ラインに沿ってシリコンウェハ2aを切断する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ加工によって加工対象物を切断する方法として下記非特許文献1に記載のものがある。この非特許文献1に記載のレーザ加工方法はシリコンウェハを切断するものであって、シリコンが透過する1μm近辺の波長を使用し、ウェハ内部で集光して改質層を連続的に形成し、それをきっかけとして切断する方法である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】荒井一尚、「半導体ウェハにおけるレーザダイシング加工」、砥粒加工学会誌、Vol.47、No.5、2003 MAY.229−231
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のレーザ加工方法で加工したシリコンウェハを切断する場合にはウェハを曲げる方向に力を加えて内部亀裂を進展させる必要がある。従って、シリコンウェハの裏面に貼り付けたテープをシリコンウェハに並行に引き離して切断する方法(エキスパンド法)を採用すると歩留まりが悪くなる。
【0005】
そこで本発明では、シリコンウェハを容易に切断できる切断方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の切断方法は、シリコンウェハの内部に集光点を合わせて、集光点のピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上の条件でパルスレーザ光を照射し、パルスレーザ光をシリコンウェハの切断予定ラインに沿って相対的に移動させることにより、切断予定ラインに沿ってシリコンウェハの内部に溶融処理領域を形成すると共に、シリコンウェハの内部であって溶融処理領域を挟んでパルスレーザ光の入射側とは反対側に、切断予定ラインに沿って相互に離隔するように複数の微小空洞を形成する工程と、溶融処理領域と微小空洞とからなる改質領域を起点として割れを発生させ、切断予定ラインに沿ってシリコンウェハを切断する工程と、を備え、パルスレーザ光のパルスピッチは2.00μm〜7.00μmである。ここで、微小空洞のできる位置の深さは、45μm〜90μmであることが好ましい。
【0007】
この切断方法によれば、シリコンウェハにパルスレーザ光を照射して、溶融処理領域と微小空洞とをシリコンウェハ内部に形成できる。このとき、パルスピッチが2.00〜7.00μmのパルスレーザ光をシリコンウェハに照射するので、的確に微小空洞を形成できる。そして、溶融処理領域と微小空洞とからなる改質領域を起点として、切断予定ラインに沿ってシリコンウェハを容易に切断できる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、シリコンウェハを容易に切断ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施形態のレーザ加工方法によってレーザ加工を行う加工対象物の平面図である。
【図2】図1に示す加工対象物のII−II断面図である。
【図3】本実施形態のレーザ加工方法によってレーザ加工を行った加工対象物の平面図である。
【図4】図3に示す加工対象物のIV−IV断面図である。
【図5】図3に示す加工対象物のV−V断面図である。
【図6】本実施形態のレーザ加工方法によって切断された加工対象物の平面図である。
【図7】本実施形態のレーザ加工方法に使用できるレーザ加工装置の概略構成図である。
【図8】本実施形態のレーザ加工方法を説明するためのフローチャートである。
【図9】本実施形態のレーザ加工方法によって切断されたシリコンウェハの断面の写真を表した図である。
【図10】本実施形態のレーザ加工方法によって切断されたシリコンウェハの断面の写真を表した図である。
【図11】図9及び図10に示す断面の全体を示す写真である。
【図12】本実施形態のレーザ加工方法の条件を検討した図である。
【図13】本実施形態のレーザ加工方法によって切断されたシリコンウェハの断面の写真を表した図である。
【図14】本実施形態のレーザ加工方法によって切断されたシリコンウェハの断面の写真を表した図である。
【図15】図14の模式図である。
【図16】本実施形態のレーザ加工方法によってレーザ加工を行った加工対象物の断面図である。
【図17】本実施形態のレーザ加工方法によってレーザ加工を行った加工対象物の断面図である。
【図18】本実施形態のレーザ加工方法によってレーザ加工を行った加工対象物の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の知見は、例示のみのために示された添付図面を参照して以下の詳細な記述を考慮することによって容易に理解することができる。引き続いて、添付図面を参照しながら本発明を実施するための形態を説明する。可能な場合には、同一の部分には同一の符号を付して、重複する説明を省略する。
【0011】
本実施形態のレーザ加工方法について説明する。本実施形態のレーザ加工方法は、多光子吸収により被処理部(溶融処理領域)を形成すると共に、その被処理部に対応する所定の位置にその周囲が実質的に結晶構造が変化していない微小空洞を形成している。多光子吸収はレーザ光の強度を非常に大きくした場合に発生する現象である。まず、多光子吸収について簡単に説明する。
【0012】
材料の吸収のバンドギャップEGよりも光子のエネルギーhνが小さいと光学的に透明となる。よって、材料に吸収が生じる条件はhν>EGである。しかし、光学的に透明でも、レーザ光の強度を非常に大きくするとnhν>EGの条件(n=2,3,4,・・・である)で材料に吸収が生じる。この現象を多光子吸収という。パルス波の場合、レーザ光の強度はレーザ光の集光点のピークパワー密度(W/cm2)で決まり、例えばピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上の条件で多光子吸収が生じる。ピークパワー密度は、(集光点におけるレーザ光の1パルス当たりのエネルギー)÷(レーザ光のビームスポット断面積×パルス幅)により求められる。また、連続波の場合、レーザ光の強度はレーザ光の集光点の電界強度(W/cm2)で決まる。
【0013】
このような多光子吸収を利用する本実施形態のレーザ加工方法について図1〜図6を用いて説明する。図1はレーザ加工中の加工対象物1(半導体基板)の平面図であり、図2は図1に示す加工対象物1のII−II線に沿った断面図であり、図3はレーザ加工後の加工対象物1の平面図であり、図4は図3に示す加工対象物1のIV−IV線に沿った断面図であり、図5は図3に示す加工対象物1のV−V線に沿った断面図であり、図6は切断された加工対象物1の平面図である。
【0014】
図1及び図2に示すように、加工対象物1の表面3には切断予定ライン5がある。切断予定ライン5は直線状に延びた仮想線である。本実施形態に係るレーザ加工方法は、多光子吸収が生じる条件で加工対象物1の内部に集光点Fを合わせてレーザ光Lを加工対象物1に照射して被処理部7を形成する。なお、集光点とはレーザ光Lが集光した箇所のことである。
【0015】
レーザ光Lを切断予定ライン5に沿って(すなわち矢印A方向に沿って)相対的に所定のピッチPで移動させることにより、集光点Fを切断予定ライン5に沿って移動させる。これにより、図3〜図5に示すように被処理部7及び微小空洞8からなる改質領域が切断予定ライン5に沿って加工対象物1の内部にのみ形成される。また、被処理部7及び微小空洞8は、図5に示すようにレーザ光Lを移動させた所定のピッチPで形成される。このピッチPはレーザ光Lのパルスピッチに相当する。加工対象物1の厚みBに対して、微小空洞8は加工深さCの位置に形成される。図5に示すように、微小空洞8はレーザ光Lの照射方向からみて被処理部7とは反対側に形成される。図5においては、被処理部7と微小空洞8とは所定の間隔が空いているけれども、被処理部7と微小空洞8とが連続して形成される場合もある。本実施形態に係るレーザ加工方法は、加工対象物1がレーザ光Lを吸収することにより加工対象物1を発熱させて被処理部7を形成するのではない。加工対象物1にレーザ光Lを透過させ加工対象物1の内部に多光子吸収を発生させて被処理部7を形成している。よって、加工対象物1の表面3ではレーザ光Lがほとんど吸収されないので、加工対象物1の表面3が溶融することはない。
【0016】
加工対象物1の切断においては上述のように加工対象物1に被処理部7及び微小空洞8を形成して加工処理物とし、例えば加工対象物1の裏面にテープを貼り付けて、そのテープを加工対象物1の切断予定ライン5に垂直な方向に引き離して切断することができる(図6参照)。また、切断する箇所に起点があると加工対象物1はその起点から割れるので、図6に示すように比較的小さな力で加工対象物1を切断することができる。よって、加工対象物1の表面3に不必要な割れ、すなわち切断予定ラインを大きく外れる割れ、を発生させることなく加工対象物1の切断が可能となる。
【0017】
本実施形態において多光子吸収により形成される被処理部の一つの例として、溶融処理領域がある。この場合には、レーザ光を加工対象物(例えばシリコンウェハのような半導体材料)の内部に集光点を合わせて、集光点における電界強度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅が1μs以下の条件で照射する。これにより加工対象物の内部は多光子吸収によって局所的に加熱される。この加熱により加工対象物の内部に溶融処理領域が形成される。
【0018】
溶融処理領域とは一旦溶融後再固化した領域、溶融状態中の領域及び溶融から再固化する状態中の領域のうち少なくともいずれか一つを意味する。また、溶融処理領域は相変化した領域や結晶構造が変化した領域ということもできる。また、溶融処理領域とは単結晶構造、非晶質構造、多結晶構造において、ある構造が別の構造に変化した領域ということもできる。
【0019】
つまり、例えば、単結晶構造から非晶質構造に変化した領域、単結晶構造から多結晶構造に変化した領域、単結晶構造から非晶質構造及び多結晶構造を含む構造に変化した領域を意味する。加工対象物がシリコン単結晶構造の場合、溶融処理領域は例えば非晶質シリコン構造である。なお、電界強度の上限値としては、例えば1×1012(W/cm2)である。パルス幅は例えば1ns〜200nsが好ましい。
【0020】
一方、本実施形態において形成される微小空洞は、その周囲が実質的に結晶構造が変化していないものである。加工対象物がシリコン単結晶構造の場合には、微小空洞の周囲はシリコン単結晶構造のままの部分が多い。
【0021】
引き続いて、本実施形態のレーザ加工方法の具体例について説明する。図7に本発明の実施形態であるレーザ加工方法に用いるレーザ加工装置100を示す。図7に示すレーザ加工装置100は、レーザ光Lを発生するレーザ光源101と、レーザ光Lの出力やパルス幅等を調節するためにレーザ光源101を制御するレーザ光源制御部102と、レーザ光Lの反射機能を有しかつレーザ光Lの光軸の向きを90度変えるように配置されたダイクロイックミラー103と、ダイクロイックミラー103で反射されたレーザ光Lを集光する集光用レンズ105と、集光用レンズ105で集光されたレーザ光Lが照射される加工対象物1が載置される載置台107と、載置台107をX軸方向に移動させるためのX軸ステージ109(制御手段)と、載置台107をX軸方向に直交するY軸方向に移動させるためのY軸ステージ111(制御手段)と、載置台107をX軸及びY軸方向に直交するZ軸方向に移動させるためのZ軸ステージ113(制御手段)と、これら三つのステージ109,111,113の移動を制御するステージ制御部115(制御手段)と、を備える。また、図示はしていないが、レーザ光源101と集光用レンズ105との間には、レーザ光のガウシアン分布を広げるための光学系が配置されている。本実施形態の場合は加工対象物1はシリコンウェハであるから、加工対象物1の裏面にはエキスパンドテープ106が貼り付けられている。
【0022】
Z軸方向は加工対象物1の表面3と直交する方向なので、加工対象物1に入射するレーザ光Lの焦点深度の方向となる。よって、Z軸ステージ113をZ軸方向に移動させることにより、加工対象物1の内部にレーザ光Lの集光点Fを合わせることができる。また、この集光点FのX(Y)軸方向の移動は、加工対象物1をX(Y)軸ステージ109(111)によりX(Y)軸方向に移動させることにより行う。X(Y)軸ステージ109(111)が移動手段の一例となる。
【0023】
レーザ光源101はパルスレーザ光を発生するNd:YAGレーザである。レーザ光源101に用いることができるレーザとして、この他、Nd:YVO4レーザ、Nd:YLFレーザやチタンサファイアレーザがある。被処理部が溶融処理領域であるものを形成する場合、Nd:YAGレーザ、Nd:YVO4レーザ、Nd:YLFレーザを用いるのが好適である。改質領域が屈折率変化領域であるものを形成する場合、チタンサファイアレーザを用いるのが好適である。
【0024】
加工対象物1の加工にパルスレーザ光を用いているが、多光子吸収を起こさせることができるなら連続波レーザ光でもよい。なお、本発明においてレーザ光はレーザビームを含む意味である。集光用レンズ105は集光手段の一例である。Z軸ステージ113はレーザ光の集光点を加工対象物の内部に合わせる手段の一例である。集光用レンズ105をZ軸方向に移動させることによっても、レーザ光の集光点を加工対象物の内部に合わせることができる。
【0025】
レーザ加工装置100はさらに、載置台107に載置された加工対象物1を可視光線により照明するために可視光線を発生する観察用光源117と、ダイクロイックミラー103及び集光用レンズ105と同じ光軸上に配置された可視光用のビームスプリッタ119と、を備える。ビームスプリッタ119と集光用レンズ105との間にダイクロイックミラー103が配置されている。ビームスプリッタ119は、可視光線の約半分を反射し残りの半分を透過する機能を有しかつ可視光線の光軸の向きを90度変えるように配置されている。観察用光源117から発生した可視光線はビームスプリッタ119で約半分が反射され、この反射された可視光線がダイクロイックミラー103及び集光用レンズ105を透過し、加工対象物1の切断予定ライン5等を含む表面3を照明する。
【0026】
レーザ加工装置100はさらに、ビームスプリッタ119、ダイクロイックミラー103及び集光用レンズ105と同じ光軸上に配置された撮像素子121及び結像レンズ123を備える。撮像素子121としては例えばCCD(charge−coupled device)カメラがある。切断予定ライン5等を含む表面3を照明した可視光線の反射光は、集光用レンズ105、ダイクロイックミラー103、ビームスプリッタ119を透過し、結像レンズ123で結像されて撮像素子121で撮像され、撮像データとなる。
【0027】
レーザ加工装置100はさらに、撮像素子121から出力された撮像データが入力される撮像データ処理部125と、レーザ加工装置100全体を制御する全体制御部127と、モニタ129と、を備える。撮像データ処理部125は、撮像データを基にして観察用光源117で発生した可視光の焦点が表面3上に合わせるための焦点データを演算する。この焦点データを基にしてステージ制御部115がZ軸ステージ113を移動制御することにより、可視光の焦点が表面3に合うようにする。よって、撮像データ処理部125はオートフォーカスユニットとして機能する。また、撮像データ処理部125は、撮像データを基にして表面3の拡大画像等の画像データを演算する。この画像データは全体制御部127に送られ、全体制御部で各種処理がなされ、モニタ129に送られる。これにより、モニタ129に拡大画像等が表示される。
【0028】
全体制御部127には、ステージ制御部115からのデータ、撮像データ処理部125からの画像データ等が入力し、これらのデータも基にしてレーザ光源制御部102、観察用光源117及びステージ制御部115を制御することにより、レーザ加工装置100全体を制御する。よって、全体制御部127はコンピュータユニットとして機能する。
【0029】
引き続いて、図7及び図8を用いて、本実施形態に係るレーザ加工方法を具体的に説明する。図8は、このレーザ加工方法を説明するためのフローチャートである。加工対象物1はシリコンウェハである。
【0030】
まず、加工対象物1の光吸収特性を図示しない分光光度計等により測定する。この測定結果に基づいて、加工対象物1に対して透明な波長又は吸収の少ない波長のレーザ光Lを発生するレーザ光源101を選定する(S101)。次に、加工対象物1の厚さを測定する。厚さの測定結果及び加工対象物1の屈折率を基にして、加工対象物1のZ軸方向の移動量を決定する(S103)。これは、レーザ光Lの集光点Fが加工対象物1の内部に位置させるために、加工対象物1の表面3に位置するレーザ光Lの集光点を基準とした加工対象物1のZ軸方向の移動量である。この移動量が全体制御部127に入力される。
【0031】
加工対象物1をレーザ加工装置100の載置台107に載置する。そして、観察用光源117から可視光を発生させて加工対象物1を照明する(S105)。照明された切断予定ライン5を含む加工対象物1の表面3を撮像素子121により撮像する。この撮像データは撮像データ処理部125に送られる。この撮像データに基づいて撮像データ処理部125は観察用光源117の可視光の焦点が表面3に位置するような焦点データを演算する(S107)。
【0032】
この焦点データはステージ制御部115に送られる。ステージ制御部115は、この焦点データを基にしてZ軸ステージ113をZ軸方向の移動させる(S109)。これにより、観察用光源117の可視光の焦点が表面3に位置する。なお、撮像データ処理部125は撮像データに基づいて、切断予定ライン5を含む加工対象物1の表面3の拡大画像データを演算する。この拡大画像データは全体制御部127を介してモニタ129に送られ、これによりモニタ129に切断予定ライン5付近の拡大画像が表示される。
【0033】
全体制御部127には予めステップS103で決定された移動量データが入力されており、この移動量データがステージ制御部115に送られる。ステージ制御部115はこの移動量データに基づいて、レーザ光Lの集光点Fが加工対象物1の内部となる位置に、Z軸ステージ113により加工対象物1をZ軸方向に移動させる(S111)。
【0034】
続いて、加工対象物1の表面3に切断予定ライン5を設定する。切断予定ライン5の設定は、加工対象物1を所望の位置で切断するためのレーザスキャン位置を設定するものである。切断予定ライン5の設定は、設計データ等で予め判っているダイシングストリート(切断予定ライン)の位置情報を利用しても良いし、表面を観察したり表面情報を計測したり等して設定しても良い。つまり、切断予定ラインの設定とは、加工対象物の所望の位置にレーザ光を照射するようにレーザ加工装置が制御されるようにすることである。次に、レーザ光源101からレーザ光Lを発生させて、レーザ光Lを加工対象物1の表面3の切断予定ライン5に照射する。レーザ光Lの集光点Fは加工対象物1の内部に位置しているので、改質領域としての溶融処理領域は加工対象物1の内部にのみ形成される。そして、切断予定ライン5に沿うようにX軸ステージ109やY軸ステージ111を所定のピッチPで移動させて、溶融処理領域を所定のピッチPで切断予定ライン5に沿うように加工対象物1の内部に形成する。このように溶融処理領域を形成すると、それぞれに対応するように微小空洞が形成される(S113)。そして、加工対象物1の裏面に貼られているエキスパンドテープ106をウェハの周縁方向に拡張して、加工対象物1を切断予定ライン5に沿って分離して切断する(S115)。これにより、加工対象物1をシリコンチップ(加工生産物)に分割する。
【0035】
なお、半導体基板であるシリコンウェハは、切断予定ラインに沿って形成される溶融処理領域と微小空洞からなる改質領域でもって形成される切断予定部を起点として断面方向に向かって割れを発生させ、その割れがシリコンウェハの表面と裏面とに到達することにより、結果的に切断される。シリコンウェハの表面と裏面に到達するこの割れは自然に成長する場合もあるし、シリコンウェハに力が印加されることにより成長する場合もある。なお、切断予定部からシリコンウェハの表面と裏面とに割れが自然に成長する場合には、切断予定部を形成する改質領域の溶融処理領域が溶融している状態から割れが成長する場合や、切断予定部を形成する溶融処理領域が溶融している状態から再固化する際に割れが成長する場合や、溶融処理領域と微小空洞により割断面に生じる応力分布による歪により割れが成長する場合のいずれもある。ただし、どの場合も溶融処理領域や微小空洞はシリコンウェハの内部のみに形成され、切断後の切断面には、内部にのみ溶融処理領域が形成されている。半導体基板の内部に溶融処理領域と微小空洞でもって切断予定部を形成すると、割断時、切断予定部ラインから外れた不必要な割れが生じにくいので、割断制御が容易となる。また、微小空洞を形成することにより、溶融処理領域や溶融処理領域と微小空洞との間に応力分布を生じることにより、より容易に割断することができる。
【0036】
このレーザ加工方法によって切断したシリコンウェハの切断面写真を図9及び図10に示す。図9及び図10に示す切断面写真は同一の切断面の写真を異なる縮尺で示したものである。図9及び図10に示す切断面を形成した際の詳細条件は以下の通りである。
【0037】
(A)加工対象物:シリコンウェハ(厚さ100μm)
(B)レーザ
光源:半導体レーザ励起Nd:YAGレーザ
波長:1064nm
ビーム径:3.99mm
広がり角2.34mrad
繰り返し周波数:40kHz
パルス幅:200nsec
パルスピッチ:7μm
加工深さ:13μm
パルスエネルギー:20μJ/パルス
(C)集光用レンズ
NA:0.8
(D)加工対象物が載置される載置台の移動速度:280mm/sec
【0038】
図9及び図10に示す切断面の溶融処理領域(被処理部)13は、シリコンウェハの厚み方向(図中の上下方向)の幅が13μm程度で、レーザを移動する方向(図中の左右方向)の幅が3μm程度である。また、微小空洞8は、シリコンウェハの厚み方向(図中の上下方向)の幅が7μm程度で、レーザを移動する方向(図中の左右方向)の幅が1.3μm程度である。溶融処理領域13と微小空洞8との間は1.2μm程度である。図9及び図10に示す切断面の全体を現す写真を図11に示す。
【0039】
引き続いて、図9及び図10に示す切断面をラマン分析した結果を説明する。測定装置と測定方法は以下の通りである。
【0040】
(1)装置:Ramanor U−1000(Jobin Yvon)(II)
(2)測定モード:マイクロプローブ 顕微鏡(Olympus BH−2型)
Beam Splitte:照射系、R=25%
集光系、R=100%
対物レンズ :×90(長焦点)
(3)光源:Ar+レーザ 457.9nm
(4)偏光:入射光 P、散乱光 S+P
(5)分光器:U−1000(回折格子 Plane Holographic 1800gr/mm)
(6)検出器:CCD Jobin Yvon
【0041】
このラマン分析を、溶融処理領域13の近傍の測定位置1、微小空洞8の近傍の測定位置2、溶融処理領域13及び微小空洞8の間の測定位置3、溶融処理領域13の上方の測定位置4について行った。(アモルファスSiの評価)
【0042】
いずれの位置からもアモルファスSi由来のラマン線は明確に観測されなかった。アモルファスSiが存在しないか、または存在量が検出限界以下である可能性が考えられる。(結晶性の評価)
【0043】
測定位置2、3、4のスペクトルの半値幅は、同程度である。また、リファレンスSi(110)と比較しても同程度であることから、測定位置2、3、4は、いずれも結晶性の高い単結晶Siであると考えられる。一方、測定位置1では、ブロードなラマン線が観測された。測定位置1に関しては、多結晶Siである可能性が考えられる。(応力の評価)
【0044】
測定位置1は、かなり大きな圧縮応力が生じている可能性が考えられる。また、測定位置3では、圧縮応力が生じている可能性が考えられる。測定位置2及び4では、検出限界程度のわずかな応力が生じているものと考えられる。
【0045】
ここで、6インチの大きさで厚みが100μmのシリコンウェハを用いて、オリエンテーションフラットに対して並行及び垂直方向に5mmピッチで改質領域を形成し、複数の5mm×5mmのチップに分割されるようにパルスピッチと加工深さとを変化させて、エキスパンダ分離した場合の切断性について評価した結果を図12を用いて説明する。
【0046】
この評価は、パルスピッチを固定して加工深さ(微小空洞のできる位置の深さ)を、厚さ100μmウェハにおいて、45μm〜90μmまで変化させたときの表面状態と切断性とを評価したものである。図12中で、「HC、山」とあるのは「ハーフカット、山うっすら」という意味であり、シリコンウェハのレーザ入射側の表面に亀裂等が見えるものを示している。「ST、谷」とあるのは「ステルス、谷うっすら」という意味であり、レーザ入射側とは反対側の表面に亀裂等が見えるものを示している。「ST」とあるのは、「ステルス」の意味であり、いずれの表面にも亀裂等が確認できないものを示す。また、丸印はシリコンウェハの裏面に張ってあるテープを引っ張ってエキスパンダ分離した場合に全数切断できたものを示し、三角印は全数切断できなかったものを示す。
【0047】
図12によれば、パルスピッチは4.00μm近傍が好適であることがわかる。また、加工深さ(微小空洞のできる位置の深さ)は深い方が好ましい。パルスピッチはあまり広げない方が好ましい。これらを総合的に評価すると、パルスピッチは1.00μm〜7.00μmであることが好ましく、3.00μm〜5.00μmであることが好ましい。また、加工深さ(微小空洞のできる位置の深さ)は、厚さ100μmウェハにおいて、45μm〜90μmであることが好ましく、65μm〜85μmであることが好ましい。
【0048】
例えば、シリコンウェハが300μmといった厚いものである場合には、上述のレーザ加工工程を、加工深さを変えて数回繰り返して行うことが好ましく、少なくとも一段が溶融処理領域と微小空洞との組合せとなることが好ましい。
【0049】
厚いシリコンウェハに対してレーザ加工を複数回行ったものの断面写真の例を、図13及び図14に示す。図13に示す断面写真の場合は、シリコンウェハ2の裏面21から表面20に向かって複数回のレーザ加工を行っている。その結果、改質領域201〜206が形成されている。改質領域203に対応する部分は、近接した部分で複数回のレーザ加工が行われているために微小空洞が視認できない状態となっている。その他の改質領域201、202、204、205、206においては微小空洞が形成されている。微小空洞を形成することにより、溶融処理領域や溶融処理領域と微小空洞との間に応力分布が生じ、より容易に割断することができる。また、外部から力を印加した場合に微小空洞も割断の起点となり易い。そして、内部に改質領域を形成した半導体基板を固定したテープを拡張することで半導体基板の割断・分離を行うには、容易に割断できる条件が必要であり、微小空洞の形成によりその条件が実現できる。以上のように溶融処理領域と共に微小空洞を形成することは、テープの拡張により内部に改質領域を形成した半導体基板を割断・分離する場合に特に有効である。
【0050】
図14に示す断面写真は、図13と同様のレーザ加工を行ったシリコンウェハ2aを示している。図14に示すシリコンウェハ2aの模式図を図15に示す。シリコンウェハ2aには改質領域211及び212が形成されている。改質領域211は、溶融処理領域211a及び微小空洞211bを有している。改質領域212は、溶融処理領域212a及び微小空洞212bを有している。微小空洞212bは、一様に空洞が形成されている。一方、微小空洞211bには、空洞が形成されていない領域211cがある。微小空洞はレーザ入射面の表面状態(凹凸やレーザ光の透過率の差異)により、形成され難い部分が生じる。このような場合、図14のように溶融処理領域211aは切断予定ラインに沿って連続的に形成されているが、微小空洞212bはところどころに形成されている。このような場合でも、微小空洞があることにより割断し易くなっている。これは溶融処理領域211aがほぼ連続的に形成されていることにより、切断の起点となる領域は切断予定ラインほぼ全てに形成されている。そして、切断予定ライン全てに微小空洞212bが形成されていなくても、より割断し易くするための微小空洞212bがあることにより、割断時には溶融処理領域と微小空洞がある領域の亀裂の進展が溶融処理領域のみの領域に対しても割断し易く作用しているものと考えられる。要は、加工対象物(半導体基板)の内部に被処理部(溶融処理領域)が切断予定ラインに沿って形成される被処理領域(第1のゾーン)と、微小空洞が切断予定ラインに沿って形成される微小空洞領域(第2のゾーン)が形成されることにより、これらを切断の起点として加工対象物(半導体基板)を容易に割断することが可能となる。そして、これらの領域は切断予定ライン全てに形成されなくても(切断予定ラインのところどころに存在するような場合でも)、微小空洞があることにより割断し易くなっている。尚、GaAsなどのように劈開性の良好な半導体基板の場合、切断予定ライン全てに改質領域を形成する必要は無く、切断予定ラインの一部分に改質領域を形成しても良い。また、割断精度を上げたい部分のみに改質領域を形成しても良い。
【0051】
本実施形態においては、シリコンウェハの表面にパターンが形成されている場合には、パターンが形成されている面の反対側の面からレーザ光を入射させることが好ましい。微小空洞側の割断面は溶融処理領域側の割断面に比べて割断面がきれいになる傾向になるので、パターン形成面側に微小空洞を形成すると良品率がより向上する。より具体的には、図16に示すように、表面に電子回路や半導体発光部等の光デバイスやMEMSのような微小電気機械システム等の機能素子(機能デバイス)181を形成したシリコンウェハ180において、機能素子181が形成されている側に微小空洞182を形成することにより、機能素子181側の割段精度をより向上させることができる。従って、良品率を向上させることが可能となり、生産効率を向上させることができる。また、内部に改質領域を形成した半導体基板を固定したテープを拡張することで半導体基板の割断・分離を行うには、容易に割断できる条件が必要であるが、微小空洞によりその条件が実現できる。溶融処理領域と共に微小空洞を形成することは、テープの拡張により内部に改質層を形成した半導体基板を割断・分離する場合に有効である。図16に示すシリコンウェハ180を割断・分離する場合には、図17に示すようにシリコンウェハ180をテープ183に固定する。その後、図18に示すようにテープ183を拡張してシリコンウェハ180を割断・分離する。尚、割断・分離工程として、半導体基板の内部に改質領域を形成した後にテープ(エキスパンドテープ、ダイシングフィルム)を貼り付けて拡張する場合も、半導体基板にテープを貼り付けてから半導体基板の内部に改質領域を形成してからテープを拡張する場合のどちらでも可能である。
【0052】
レンズ口径に対してガウシアン分布を広げてレンズ入射ビームをトップハットのように使うことが好ましい(NAの大きな光線のエネルギーを高くすることが好ましい。)。NAは0.5〜1.0であることが好ましい。
【0053】
パルス幅は500nsec以下であることが好ましい。より好ましくは10nsec〜500nsecである。より好ましくは10nsec〜300nsecである。また、より好ましくは100nsec〜200nsecである。
【0054】
溶融処理領域と微小空洞がペアで、それぞれの深さが厚みに対して所定の関係にあると考えられる。特に、NAに応じて溶融処理領域と微小空洞とが所定の関係にあるとよい。
【0055】
切断方向は、オリエンテーションフラット(オリフラ)に対して並行、垂直だと好ましい。結晶方向に沿って溶融処理領域を形成していくことが好ましい。
【0056】
本実施形態においては、加工対象物としてシリコン製の半導体ウェハを用いているが、半導体ウェハの材料はこれに限られるものではない。例えば、シリコン以外のIV族元素半導体、SiCのようなIV族元素を含む化合物半導体、III−V族元素を含む化合物半導体、II−VI族元素を含む化合物半導体、更に種々のドーパント(不純物)をドープした半導体を含む。
【0057】
本実施形態の効果を説明する。これによれば、多光子吸収を起こさせる条件でかつ加工対象物1の内部に集光点Fを合わせて、パルスレーザ光Lを切断予定ライン5に照射している。そして、X軸ステージ109やY軸ステージ111を移動させることにより、集光点Fを切断予定ライン5に沿って所定のピッチPで移動させている。これにより、被処理部を切断予定ライン5に沿うように加工対象物1の内部に形成すると共に、微小空洞を形成している。これにより、加工対象物1の表面3に切断予定ライン5から外れた不必要な割れを発生させることなく加工対象物1を切断することができる。
【0058】
また、加工対象物1に多光子吸収を起こさせる条件でかつ加工対象物1の内部に集光点Fを合わせて、パルスレーザ光Lを切断予定ライン5に照射している。よって、パルスレーザ光Lは加工対象物1を透過し、加工対象物1の表面3ではパルスレーザ光Lがほとんど吸収されないので、改質領域形成が原因で表面3が溶融等のダメージを受けることはない。
【0059】
以上説明したように、加工対象物1の表面3に切断予定ライン5から外れた不必要な割れや溶融が生じることなく、加工対象物1を切断することができる。よって、加工対象物1が例えば半導体ウェハの場合、半導体チップに切断予定ラインから外れた不必要な割れや溶融が生じることなく、半導体チップを半導体ウェハから切り出すことができる。表面に電極パターンが形成されている加工対象物や、圧電素子ウェハや液晶等の表示装置が形成されたガラス基板のように表面に電子デバイスが形成されている加工対象物についても同様である。よって、加工対象物を切断することにより作製される製品(例えば半導体チップ、圧電デバイスチップ、液晶等の表示装置)の歩留まりを向上させることができる。
【0060】
また、加工対象物1の表面3の切断予定ライン5は溶融しないので、切断予定ライン5の幅(この幅は、例えば半導体ウェハの場合、半導体チップとなる領域同士の間隔である。)を小さくできる。これにより、一枚の加工対象物1から作製される製品の数が増え、製品の生産性を向上させることができる。
【0061】
また、加工対象物1の切断加工にレーザ光を用いるので、ダイヤモンドカッタを用いたダイシングよりも複雑な加工が可能となる。
【0062】
ところで、上記レーザ加工方法(切断方法)が実施されるレーザ加工装置は、レーザ光源と、加工対象物を戴置する戴置台と、レーザ光源と戴置台との相対的な位置関係を制御する制御手段と、を備え、制御手段は、加工対象物の内部に集光点が合うようにレーザ光源と戴置台との間隔を制御すると共に、レーザ光源からレーザ光が出射されると、レーザ光源及び戴置台を加工対象物の切断予定ラインに沿って相対的に移動させて、切断予定ラインに沿って加工対象物の内部に多光子吸収による被処理部を形成すると共に、加工対象物の内部であって被処理部に対応する所定の位置に微小空洞を形成する。
【0063】
このレーザ加工装置によれば、被処理部に対応させて微小空洞を形成するので、一対の被処理部と微小空洞とを加工対象物内部に形成できる。
【0064】
また、上記レーザ加工方法(切断方法)が実施されるレーザ加工装置は、レーザ光源と、半導体基板を戴置する戴置台と、レーザ光源と戴置台との相対的な位置関係を制御する制御手段と、を備え、制御手段は、半導体基板の内部に集光点が合うようにレーザ光源と戴置台との間隔を制御すると共に、レーザ光源からレーザ光が出射されると、レーザ光源及び戴置台を半導体基板の切断予定ラインに沿って相対的に移動させて、切断予定ラインに沿って半導体基板の内部に溶融処理領域を形成すると共に、半導体基板の内部であって溶融処理領域に対応する所定の位置に微小空洞を形成する。
【0065】
このレーザ加工装置によれば、溶融処理領域に対応させて微小空洞を形成するので、一対の溶融処理領域と微小空洞とを加工対象物内部に形成できる。
【0066】
また、上記レーザ加工方法(切断方法)が実施されるレーザ加工装置は、レーザ光源と、半導体基板を戴置する戴置台と、レーザ光源と戴置台との相対的な位置関係を制御する制御手段と、を備え、制御手段は、半導体基板の内部に集光点が合うようにレーザ光源と戴置台との間隔を制御すると共に、レーザ光源からパルスレーザ光が出射されると、レーザ光源及び戴置台を半導体基板の切断予定ラインに沿って相対的に移動させて、切断予定ラインに沿って半導体基板の内部に溶融処理領域を形成すると共に、半導体基板の内部であって溶融処理領域に対応する所定の位置に微小空洞を形成する際に、パルスレーザのパルス幅が500nsec以下である。
【0067】
このレーザ加工装置によれば、パルス幅が500nsec以下のパルスレーザ光を半導体基板に照射するので、より的確に微小空洞を形成できる。
【0068】
また、上記レーザ加工方法(切断方法)が実施されるレーザ加工装置は、レーザ光源と、半導体基板を戴置する戴置台と、レーザ光源と戴置台との相対的な位置関係を制御する制御手段と、を備え、制御手段は、半導体基板の内部に集光点が合うようにレーザ光源と戴置台との間隔を制御すると共に、レーザ光源からパルスレーザ光が出射されると、レーザ光源及び戴置台を半導体基板の切断予定ラインに沿って相対的に移動させて、切断予定ラインに沿って半導体基板の内部に溶融処理領域を形成すると共に、半導体基板の内部であって溶融処理領域に対応する所定の位置に微小空洞を形成する際に、パルスレーザのパルスピッチが1.00〜7.00μmである。
【0069】
このレーザ加工装置によれば、パルスピッチが1.00〜7.00μmのパルスレーザ光を半導体基板に照射するので、より的確に微小空洞を形成できる。
【0070】
また、上記レーザ加工方法(切断方法)が実施されるレーザ加工装置では、微小空洞を切断予定ラインに沿って複数形成し、それぞれの微小空洞が相互に離隔するように形成することも好ましい。微小空洞が相互に離隔して形成されるので、より効率的に微小空洞を形成できる。
【0071】
また、上記レーザ加工方法(切断方法)による加工生産物は、加工対象物をレーザ加工によって切断して生産される加工生産物であって、切断によって形成された主面に沿った部分に多光子吸収によって改質されている被処理部と、切断によって形成された主面であって被処理部に対応する所定の位置に開口部を有する微小空洞と、が形成されている。
【0072】
この加工生産物は、加工対象物に被処理部と微小空洞とを対応させて形成して加工処理物とし、その加工処理物を被処理部及び微小空洞が形成されている部分で切断して生産される。
【0073】
また、上記レーザ加工方法(切断方法)による加工生産物では、加工対象物が半導体基板であって、被処理部は溶融処理領域であることも好ましい。加工対象物としての半導体基板にレーザ光を照射するので、溶融処理領域と微小空洞とを形成できる。
【0074】
また、上記レーザ加工方法(切断方法)による加工生産物では、微小空洞は切断予定ラインに沿って複数形成され、それぞれの微小空洞は相互に離隔していることも好ましい。微小空洞が相互に離隔して形成されるので、より効率的に微小空洞を形成できる。
【0075】
また、上記レーザ加工方法(切断方法)による加工生産物では、微小空洞相互の間隔が1.00〜7.00μmとなるように形成されていることも好ましい。微小空洞の間隔が1.00〜7.00μmなので、より的確に微小空洞を形成できる。
【0076】
また、上記レーザ加工方法(切断方法)による加工生産物では、被処理部は切断予定ラインに沿った第1のゾーンに形成され、複数の微小空洞は第1のゾーンと所定の間隔を空けた第2のゾーンに形成されていることも好ましい。被処理部及び微小空洞がそれぞれのゾーンごとに形成されているので、一群のものとして形成できる。
【0077】
また、上記レーザ加工方法(切断方法)による加工生産物は、加工対象物をレーザ加工によって切断して生産される加工生産物であって、切断によって形成された主面には被処理部が形成された被処理領域と、切断によって形成された主面に開口部を有する微小空洞が形成された微小空洞領域と、が形成されている。
【0078】
また、上記レーザ加工方法(切断方法)による加工生産物では、加工対象物は半導体基板であって、被処理部は溶融処理領域であることも好ましい。
【符号の説明】
【0079】
2a…シリコンウェハ、211…改質領域、211a…溶融処理領域、211b…微小空洞。
【技術分野】
【0001】
本発明は、切断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ加工によって加工対象物を切断する方法として下記非特許文献1に記載のものがある。この非特許文献1に記載のレーザ加工方法はシリコンウェハを切断するものであって、シリコンが透過する1μm近辺の波長を使用し、ウェハ内部で集光して改質層を連続的に形成し、それをきっかけとして切断する方法である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】荒井一尚、「半導体ウェハにおけるレーザダイシング加工」、砥粒加工学会誌、Vol.47、No.5、2003 MAY.229−231
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のレーザ加工方法で加工したシリコンウェハを切断する場合にはウェハを曲げる方向に力を加えて内部亀裂を進展させる必要がある。従って、シリコンウェハの裏面に貼り付けたテープをシリコンウェハに並行に引き離して切断する方法(エキスパンド法)を採用すると歩留まりが悪くなる。
【0005】
そこで本発明では、シリコンウェハを容易に切断できる切断方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の切断方法は、シリコンウェハの内部に集光点を合わせて、集光点のピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上の条件でパルスレーザ光を照射し、パルスレーザ光をシリコンウェハの切断予定ラインに沿って相対的に移動させることにより、切断予定ラインに沿ってシリコンウェハの内部に溶融処理領域を形成すると共に、シリコンウェハの内部であって溶融処理領域を挟んでパルスレーザ光の入射側とは反対側に、切断予定ラインに沿って相互に離隔するように複数の微小空洞を形成する工程と、溶融処理領域と微小空洞とからなる改質領域を起点として割れを発生させ、切断予定ラインに沿ってシリコンウェハを切断する工程と、を備え、パルスレーザ光のパルスピッチは2.00μm〜7.00μmである。ここで、微小空洞のできる位置の深さは、45μm〜90μmであることが好ましい。
【0007】
この切断方法によれば、シリコンウェハにパルスレーザ光を照射して、溶融処理領域と微小空洞とをシリコンウェハ内部に形成できる。このとき、パルスピッチが2.00〜7.00μmのパルスレーザ光をシリコンウェハに照射するので、的確に微小空洞を形成できる。そして、溶融処理領域と微小空洞とからなる改質領域を起点として、切断予定ラインに沿ってシリコンウェハを容易に切断できる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、シリコンウェハを容易に切断ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施形態のレーザ加工方法によってレーザ加工を行う加工対象物の平面図である。
【図2】図1に示す加工対象物のII−II断面図である。
【図3】本実施形態のレーザ加工方法によってレーザ加工を行った加工対象物の平面図である。
【図4】図3に示す加工対象物のIV−IV断面図である。
【図5】図3に示す加工対象物のV−V断面図である。
【図6】本実施形態のレーザ加工方法によって切断された加工対象物の平面図である。
【図7】本実施形態のレーザ加工方法に使用できるレーザ加工装置の概略構成図である。
【図8】本実施形態のレーザ加工方法を説明するためのフローチャートである。
【図9】本実施形態のレーザ加工方法によって切断されたシリコンウェハの断面の写真を表した図である。
【図10】本実施形態のレーザ加工方法によって切断されたシリコンウェハの断面の写真を表した図である。
【図11】図9及び図10に示す断面の全体を示す写真である。
【図12】本実施形態のレーザ加工方法の条件を検討した図である。
【図13】本実施形態のレーザ加工方法によって切断されたシリコンウェハの断面の写真を表した図である。
【図14】本実施形態のレーザ加工方法によって切断されたシリコンウェハの断面の写真を表した図である。
【図15】図14の模式図である。
【図16】本実施形態のレーザ加工方法によってレーザ加工を行った加工対象物の断面図である。
【図17】本実施形態のレーザ加工方法によってレーザ加工を行った加工対象物の断面図である。
【図18】本実施形態のレーザ加工方法によってレーザ加工を行った加工対象物の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の知見は、例示のみのために示された添付図面を参照して以下の詳細な記述を考慮することによって容易に理解することができる。引き続いて、添付図面を参照しながら本発明を実施するための形態を説明する。可能な場合には、同一の部分には同一の符号を付して、重複する説明を省略する。
【0011】
本実施形態のレーザ加工方法について説明する。本実施形態のレーザ加工方法は、多光子吸収により被処理部(溶融処理領域)を形成すると共に、その被処理部に対応する所定の位置にその周囲が実質的に結晶構造が変化していない微小空洞を形成している。多光子吸収はレーザ光の強度を非常に大きくした場合に発生する現象である。まず、多光子吸収について簡単に説明する。
【0012】
材料の吸収のバンドギャップEGよりも光子のエネルギーhνが小さいと光学的に透明となる。よって、材料に吸収が生じる条件はhν>EGである。しかし、光学的に透明でも、レーザ光の強度を非常に大きくするとnhν>EGの条件(n=2,3,4,・・・である)で材料に吸収が生じる。この現象を多光子吸収という。パルス波の場合、レーザ光の強度はレーザ光の集光点のピークパワー密度(W/cm2)で決まり、例えばピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上の条件で多光子吸収が生じる。ピークパワー密度は、(集光点におけるレーザ光の1パルス当たりのエネルギー)÷(レーザ光のビームスポット断面積×パルス幅)により求められる。また、連続波の場合、レーザ光の強度はレーザ光の集光点の電界強度(W/cm2)で決まる。
【0013】
このような多光子吸収を利用する本実施形態のレーザ加工方法について図1〜図6を用いて説明する。図1はレーザ加工中の加工対象物1(半導体基板)の平面図であり、図2は図1に示す加工対象物1のII−II線に沿った断面図であり、図3はレーザ加工後の加工対象物1の平面図であり、図4は図3に示す加工対象物1のIV−IV線に沿った断面図であり、図5は図3に示す加工対象物1のV−V線に沿った断面図であり、図6は切断された加工対象物1の平面図である。
【0014】
図1及び図2に示すように、加工対象物1の表面3には切断予定ライン5がある。切断予定ライン5は直線状に延びた仮想線である。本実施形態に係るレーザ加工方法は、多光子吸収が生じる条件で加工対象物1の内部に集光点Fを合わせてレーザ光Lを加工対象物1に照射して被処理部7を形成する。なお、集光点とはレーザ光Lが集光した箇所のことである。
【0015】
レーザ光Lを切断予定ライン5に沿って(すなわち矢印A方向に沿って)相対的に所定のピッチPで移動させることにより、集光点Fを切断予定ライン5に沿って移動させる。これにより、図3〜図5に示すように被処理部7及び微小空洞8からなる改質領域が切断予定ライン5に沿って加工対象物1の内部にのみ形成される。また、被処理部7及び微小空洞8は、図5に示すようにレーザ光Lを移動させた所定のピッチPで形成される。このピッチPはレーザ光Lのパルスピッチに相当する。加工対象物1の厚みBに対して、微小空洞8は加工深さCの位置に形成される。図5に示すように、微小空洞8はレーザ光Lの照射方向からみて被処理部7とは反対側に形成される。図5においては、被処理部7と微小空洞8とは所定の間隔が空いているけれども、被処理部7と微小空洞8とが連続して形成される場合もある。本実施形態に係るレーザ加工方法は、加工対象物1がレーザ光Lを吸収することにより加工対象物1を発熱させて被処理部7を形成するのではない。加工対象物1にレーザ光Lを透過させ加工対象物1の内部に多光子吸収を発生させて被処理部7を形成している。よって、加工対象物1の表面3ではレーザ光Lがほとんど吸収されないので、加工対象物1の表面3が溶融することはない。
【0016】
加工対象物1の切断においては上述のように加工対象物1に被処理部7及び微小空洞8を形成して加工処理物とし、例えば加工対象物1の裏面にテープを貼り付けて、そのテープを加工対象物1の切断予定ライン5に垂直な方向に引き離して切断することができる(図6参照)。また、切断する箇所に起点があると加工対象物1はその起点から割れるので、図6に示すように比較的小さな力で加工対象物1を切断することができる。よって、加工対象物1の表面3に不必要な割れ、すなわち切断予定ラインを大きく外れる割れ、を発生させることなく加工対象物1の切断が可能となる。
【0017】
本実施形態において多光子吸収により形成される被処理部の一つの例として、溶融処理領域がある。この場合には、レーザ光を加工対象物(例えばシリコンウェハのような半導体材料)の内部に集光点を合わせて、集光点における電界強度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅が1μs以下の条件で照射する。これにより加工対象物の内部は多光子吸収によって局所的に加熱される。この加熱により加工対象物の内部に溶融処理領域が形成される。
【0018】
溶融処理領域とは一旦溶融後再固化した領域、溶融状態中の領域及び溶融から再固化する状態中の領域のうち少なくともいずれか一つを意味する。また、溶融処理領域は相変化した領域や結晶構造が変化した領域ということもできる。また、溶融処理領域とは単結晶構造、非晶質構造、多結晶構造において、ある構造が別の構造に変化した領域ということもできる。
【0019】
つまり、例えば、単結晶構造から非晶質構造に変化した領域、単結晶構造から多結晶構造に変化した領域、単結晶構造から非晶質構造及び多結晶構造を含む構造に変化した領域を意味する。加工対象物がシリコン単結晶構造の場合、溶融処理領域は例えば非晶質シリコン構造である。なお、電界強度の上限値としては、例えば1×1012(W/cm2)である。パルス幅は例えば1ns〜200nsが好ましい。
【0020】
一方、本実施形態において形成される微小空洞は、その周囲が実質的に結晶構造が変化していないものである。加工対象物がシリコン単結晶構造の場合には、微小空洞の周囲はシリコン単結晶構造のままの部分が多い。
【0021】
引き続いて、本実施形態のレーザ加工方法の具体例について説明する。図7に本発明の実施形態であるレーザ加工方法に用いるレーザ加工装置100を示す。図7に示すレーザ加工装置100は、レーザ光Lを発生するレーザ光源101と、レーザ光Lの出力やパルス幅等を調節するためにレーザ光源101を制御するレーザ光源制御部102と、レーザ光Lの反射機能を有しかつレーザ光Lの光軸の向きを90度変えるように配置されたダイクロイックミラー103と、ダイクロイックミラー103で反射されたレーザ光Lを集光する集光用レンズ105と、集光用レンズ105で集光されたレーザ光Lが照射される加工対象物1が載置される載置台107と、載置台107をX軸方向に移動させるためのX軸ステージ109(制御手段)と、載置台107をX軸方向に直交するY軸方向に移動させるためのY軸ステージ111(制御手段)と、載置台107をX軸及びY軸方向に直交するZ軸方向に移動させるためのZ軸ステージ113(制御手段)と、これら三つのステージ109,111,113の移動を制御するステージ制御部115(制御手段)と、を備える。また、図示はしていないが、レーザ光源101と集光用レンズ105との間には、レーザ光のガウシアン分布を広げるための光学系が配置されている。本実施形態の場合は加工対象物1はシリコンウェハであるから、加工対象物1の裏面にはエキスパンドテープ106が貼り付けられている。
【0022】
Z軸方向は加工対象物1の表面3と直交する方向なので、加工対象物1に入射するレーザ光Lの焦点深度の方向となる。よって、Z軸ステージ113をZ軸方向に移動させることにより、加工対象物1の内部にレーザ光Lの集光点Fを合わせることができる。また、この集光点FのX(Y)軸方向の移動は、加工対象物1をX(Y)軸ステージ109(111)によりX(Y)軸方向に移動させることにより行う。X(Y)軸ステージ109(111)が移動手段の一例となる。
【0023】
レーザ光源101はパルスレーザ光を発生するNd:YAGレーザである。レーザ光源101に用いることができるレーザとして、この他、Nd:YVO4レーザ、Nd:YLFレーザやチタンサファイアレーザがある。被処理部が溶融処理領域であるものを形成する場合、Nd:YAGレーザ、Nd:YVO4レーザ、Nd:YLFレーザを用いるのが好適である。改質領域が屈折率変化領域であるものを形成する場合、チタンサファイアレーザを用いるのが好適である。
【0024】
加工対象物1の加工にパルスレーザ光を用いているが、多光子吸収を起こさせることができるなら連続波レーザ光でもよい。なお、本発明においてレーザ光はレーザビームを含む意味である。集光用レンズ105は集光手段の一例である。Z軸ステージ113はレーザ光の集光点を加工対象物の内部に合わせる手段の一例である。集光用レンズ105をZ軸方向に移動させることによっても、レーザ光の集光点を加工対象物の内部に合わせることができる。
【0025】
レーザ加工装置100はさらに、載置台107に載置された加工対象物1を可視光線により照明するために可視光線を発生する観察用光源117と、ダイクロイックミラー103及び集光用レンズ105と同じ光軸上に配置された可視光用のビームスプリッタ119と、を備える。ビームスプリッタ119と集光用レンズ105との間にダイクロイックミラー103が配置されている。ビームスプリッタ119は、可視光線の約半分を反射し残りの半分を透過する機能を有しかつ可視光線の光軸の向きを90度変えるように配置されている。観察用光源117から発生した可視光線はビームスプリッタ119で約半分が反射され、この反射された可視光線がダイクロイックミラー103及び集光用レンズ105を透過し、加工対象物1の切断予定ライン5等を含む表面3を照明する。
【0026】
レーザ加工装置100はさらに、ビームスプリッタ119、ダイクロイックミラー103及び集光用レンズ105と同じ光軸上に配置された撮像素子121及び結像レンズ123を備える。撮像素子121としては例えばCCD(charge−coupled device)カメラがある。切断予定ライン5等を含む表面3を照明した可視光線の反射光は、集光用レンズ105、ダイクロイックミラー103、ビームスプリッタ119を透過し、結像レンズ123で結像されて撮像素子121で撮像され、撮像データとなる。
【0027】
レーザ加工装置100はさらに、撮像素子121から出力された撮像データが入力される撮像データ処理部125と、レーザ加工装置100全体を制御する全体制御部127と、モニタ129と、を備える。撮像データ処理部125は、撮像データを基にして観察用光源117で発生した可視光の焦点が表面3上に合わせるための焦点データを演算する。この焦点データを基にしてステージ制御部115がZ軸ステージ113を移動制御することにより、可視光の焦点が表面3に合うようにする。よって、撮像データ処理部125はオートフォーカスユニットとして機能する。また、撮像データ処理部125は、撮像データを基にして表面3の拡大画像等の画像データを演算する。この画像データは全体制御部127に送られ、全体制御部で各種処理がなされ、モニタ129に送られる。これにより、モニタ129に拡大画像等が表示される。
【0028】
全体制御部127には、ステージ制御部115からのデータ、撮像データ処理部125からの画像データ等が入力し、これらのデータも基にしてレーザ光源制御部102、観察用光源117及びステージ制御部115を制御することにより、レーザ加工装置100全体を制御する。よって、全体制御部127はコンピュータユニットとして機能する。
【0029】
引き続いて、図7及び図8を用いて、本実施形態に係るレーザ加工方法を具体的に説明する。図8は、このレーザ加工方法を説明するためのフローチャートである。加工対象物1はシリコンウェハである。
【0030】
まず、加工対象物1の光吸収特性を図示しない分光光度計等により測定する。この測定結果に基づいて、加工対象物1に対して透明な波長又は吸収の少ない波長のレーザ光Lを発生するレーザ光源101を選定する(S101)。次に、加工対象物1の厚さを測定する。厚さの測定結果及び加工対象物1の屈折率を基にして、加工対象物1のZ軸方向の移動量を決定する(S103)。これは、レーザ光Lの集光点Fが加工対象物1の内部に位置させるために、加工対象物1の表面3に位置するレーザ光Lの集光点を基準とした加工対象物1のZ軸方向の移動量である。この移動量が全体制御部127に入力される。
【0031】
加工対象物1をレーザ加工装置100の載置台107に載置する。そして、観察用光源117から可視光を発生させて加工対象物1を照明する(S105)。照明された切断予定ライン5を含む加工対象物1の表面3を撮像素子121により撮像する。この撮像データは撮像データ処理部125に送られる。この撮像データに基づいて撮像データ処理部125は観察用光源117の可視光の焦点が表面3に位置するような焦点データを演算する(S107)。
【0032】
この焦点データはステージ制御部115に送られる。ステージ制御部115は、この焦点データを基にしてZ軸ステージ113をZ軸方向の移動させる(S109)。これにより、観察用光源117の可視光の焦点が表面3に位置する。なお、撮像データ処理部125は撮像データに基づいて、切断予定ライン5を含む加工対象物1の表面3の拡大画像データを演算する。この拡大画像データは全体制御部127を介してモニタ129に送られ、これによりモニタ129に切断予定ライン5付近の拡大画像が表示される。
【0033】
全体制御部127には予めステップS103で決定された移動量データが入力されており、この移動量データがステージ制御部115に送られる。ステージ制御部115はこの移動量データに基づいて、レーザ光Lの集光点Fが加工対象物1の内部となる位置に、Z軸ステージ113により加工対象物1をZ軸方向に移動させる(S111)。
【0034】
続いて、加工対象物1の表面3に切断予定ライン5を設定する。切断予定ライン5の設定は、加工対象物1を所望の位置で切断するためのレーザスキャン位置を設定するものである。切断予定ライン5の設定は、設計データ等で予め判っているダイシングストリート(切断予定ライン)の位置情報を利用しても良いし、表面を観察したり表面情報を計測したり等して設定しても良い。つまり、切断予定ラインの設定とは、加工対象物の所望の位置にレーザ光を照射するようにレーザ加工装置が制御されるようにすることである。次に、レーザ光源101からレーザ光Lを発生させて、レーザ光Lを加工対象物1の表面3の切断予定ライン5に照射する。レーザ光Lの集光点Fは加工対象物1の内部に位置しているので、改質領域としての溶融処理領域は加工対象物1の内部にのみ形成される。そして、切断予定ライン5に沿うようにX軸ステージ109やY軸ステージ111を所定のピッチPで移動させて、溶融処理領域を所定のピッチPで切断予定ライン5に沿うように加工対象物1の内部に形成する。このように溶融処理領域を形成すると、それぞれに対応するように微小空洞が形成される(S113)。そして、加工対象物1の裏面に貼られているエキスパンドテープ106をウェハの周縁方向に拡張して、加工対象物1を切断予定ライン5に沿って分離して切断する(S115)。これにより、加工対象物1をシリコンチップ(加工生産物)に分割する。
【0035】
なお、半導体基板であるシリコンウェハは、切断予定ラインに沿って形成される溶融処理領域と微小空洞からなる改質領域でもって形成される切断予定部を起点として断面方向に向かって割れを発生させ、その割れがシリコンウェハの表面と裏面とに到達することにより、結果的に切断される。シリコンウェハの表面と裏面に到達するこの割れは自然に成長する場合もあるし、シリコンウェハに力が印加されることにより成長する場合もある。なお、切断予定部からシリコンウェハの表面と裏面とに割れが自然に成長する場合には、切断予定部を形成する改質領域の溶融処理領域が溶融している状態から割れが成長する場合や、切断予定部を形成する溶融処理領域が溶融している状態から再固化する際に割れが成長する場合や、溶融処理領域と微小空洞により割断面に生じる応力分布による歪により割れが成長する場合のいずれもある。ただし、どの場合も溶融処理領域や微小空洞はシリコンウェハの内部のみに形成され、切断後の切断面には、内部にのみ溶融処理領域が形成されている。半導体基板の内部に溶融処理領域と微小空洞でもって切断予定部を形成すると、割断時、切断予定部ラインから外れた不必要な割れが生じにくいので、割断制御が容易となる。また、微小空洞を形成することにより、溶融処理領域や溶融処理領域と微小空洞との間に応力分布を生じることにより、より容易に割断することができる。
【0036】
このレーザ加工方法によって切断したシリコンウェハの切断面写真を図9及び図10に示す。図9及び図10に示す切断面写真は同一の切断面の写真を異なる縮尺で示したものである。図9及び図10に示す切断面を形成した際の詳細条件は以下の通りである。
【0037】
(A)加工対象物:シリコンウェハ(厚さ100μm)
(B)レーザ
光源:半導体レーザ励起Nd:YAGレーザ
波長:1064nm
ビーム径:3.99mm
広がり角2.34mrad
繰り返し周波数:40kHz
パルス幅:200nsec
パルスピッチ:7μm
加工深さ:13μm
パルスエネルギー:20μJ/パルス
(C)集光用レンズ
NA:0.8
(D)加工対象物が載置される載置台の移動速度:280mm/sec
【0038】
図9及び図10に示す切断面の溶融処理領域(被処理部)13は、シリコンウェハの厚み方向(図中の上下方向)の幅が13μm程度で、レーザを移動する方向(図中の左右方向)の幅が3μm程度である。また、微小空洞8は、シリコンウェハの厚み方向(図中の上下方向)の幅が7μm程度で、レーザを移動する方向(図中の左右方向)の幅が1.3μm程度である。溶融処理領域13と微小空洞8との間は1.2μm程度である。図9及び図10に示す切断面の全体を現す写真を図11に示す。
【0039】
引き続いて、図9及び図10に示す切断面をラマン分析した結果を説明する。測定装置と測定方法は以下の通りである。
【0040】
(1)装置:Ramanor U−1000(Jobin Yvon)(II)
(2)測定モード:マイクロプローブ 顕微鏡(Olympus BH−2型)
Beam Splitte:照射系、R=25%
集光系、R=100%
対物レンズ :×90(長焦点)
(3)光源:Ar+レーザ 457.9nm
(4)偏光:入射光 P、散乱光 S+P
(5)分光器:U−1000(回折格子 Plane Holographic 1800gr/mm)
(6)検出器:CCD Jobin Yvon
【0041】
このラマン分析を、溶融処理領域13の近傍の測定位置1、微小空洞8の近傍の測定位置2、溶融処理領域13及び微小空洞8の間の測定位置3、溶融処理領域13の上方の測定位置4について行った。(アモルファスSiの評価)
【0042】
いずれの位置からもアモルファスSi由来のラマン線は明確に観測されなかった。アモルファスSiが存在しないか、または存在量が検出限界以下である可能性が考えられる。(結晶性の評価)
【0043】
測定位置2、3、4のスペクトルの半値幅は、同程度である。また、リファレンスSi(110)と比較しても同程度であることから、測定位置2、3、4は、いずれも結晶性の高い単結晶Siであると考えられる。一方、測定位置1では、ブロードなラマン線が観測された。測定位置1に関しては、多結晶Siである可能性が考えられる。(応力の評価)
【0044】
測定位置1は、かなり大きな圧縮応力が生じている可能性が考えられる。また、測定位置3では、圧縮応力が生じている可能性が考えられる。測定位置2及び4では、検出限界程度のわずかな応力が生じているものと考えられる。
【0045】
ここで、6インチの大きさで厚みが100μmのシリコンウェハを用いて、オリエンテーションフラットに対して並行及び垂直方向に5mmピッチで改質領域を形成し、複数の5mm×5mmのチップに分割されるようにパルスピッチと加工深さとを変化させて、エキスパンダ分離した場合の切断性について評価した結果を図12を用いて説明する。
【0046】
この評価は、パルスピッチを固定して加工深さ(微小空洞のできる位置の深さ)を、厚さ100μmウェハにおいて、45μm〜90μmまで変化させたときの表面状態と切断性とを評価したものである。図12中で、「HC、山」とあるのは「ハーフカット、山うっすら」という意味であり、シリコンウェハのレーザ入射側の表面に亀裂等が見えるものを示している。「ST、谷」とあるのは「ステルス、谷うっすら」という意味であり、レーザ入射側とは反対側の表面に亀裂等が見えるものを示している。「ST」とあるのは、「ステルス」の意味であり、いずれの表面にも亀裂等が確認できないものを示す。また、丸印はシリコンウェハの裏面に張ってあるテープを引っ張ってエキスパンダ分離した場合に全数切断できたものを示し、三角印は全数切断できなかったものを示す。
【0047】
図12によれば、パルスピッチは4.00μm近傍が好適であることがわかる。また、加工深さ(微小空洞のできる位置の深さ)は深い方が好ましい。パルスピッチはあまり広げない方が好ましい。これらを総合的に評価すると、パルスピッチは1.00μm〜7.00μmであることが好ましく、3.00μm〜5.00μmであることが好ましい。また、加工深さ(微小空洞のできる位置の深さ)は、厚さ100μmウェハにおいて、45μm〜90μmであることが好ましく、65μm〜85μmであることが好ましい。
【0048】
例えば、シリコンウェハが300μmといった厚いものである場合には、上述のレーザ加工工程を、加工深さを変えて数回繰り返して行うことが好ましく、少なくとも一段が溶融処理領域と微小空洞との組合せとなることが好ましい。
【0049】
厚いシリコンウェハに対してレーザ加工を複数回行ったものの断面写真の例を、図13及び図14に示す。図13に示す断面写真の場合は、シリコンウェハ2の裏面21から表面20に向かって複数回のレーザ加工を行っている。その結果、改質領域201〜206が形成されている。改質領域203に対応する部分は、近接した部分で複数回のレーザ加工が行われているために微小空洞が視認できない状態となっている。その他の改質領域201、202、204、205、206においては微小空洞が形成されている。微小空洞を形成することにより、溶融処理領域や溶融処理領域と微小空洞との間に応力分布が生じ、より容易に割断することができる。また、外部から力を印加した場合に微小空洞も割断の起点となり易い。そして、内部に改質領域を形成した半導体基板を固定したテープを拡張することで半導体基板の割断・分離を行うには、容易に割断できる条件が必要であり、微小空洞の形成によりその条件が実現できる。以上のように溶融処理領域と共に微小空洞を形成することは、テープの拡張により内部に改質領域を形成した半導体基板を割断・分離する場合に特に有効である。
【0050】
図14に示す断面写真は、図13と同様のレーザ加工を行ったシリコンウェハ2aを示している。図14に示すシリコンウェハ2aの模式図を図15に示す。シリコンウェハ2aには改質領域211及び212が形成されている。改質領域211は、溶融処理領域211a及び微小空洞211bを有している。改質領域212は、溶融処理領域212a及び微小空洞212bを有している。微小空洞212bは、一様に空洞が形成されている。一方、微小空洞211bには、空洞が形成されていない領域211cがある。微小空洞はレーザ入射面の表面状態(凹凸やレーザ光の透過率の差異)により、形成され難い部分が生じる。このような場合、図14のように溶融処理領域211aは切断予定ラインに沿って連続的に形成されているが、微小空洞212bはところどころに形成されている。このような場合でも、微小空洞があることにより割断し易くなっている。これは溶融処理領域211aがほぼ連続的に形成されていることにより、切断の起点となる領域は切断予定ラインほぼ全てに形成されている。そして、切断予定ライン全てに微小空洞212bが形成されていなくても、より割断し易くするための微小空洞212bがあることにより、割断時には溶融処理領域と微小空洞がある領域の亀裂の進展が溶融処理領域のみの領域に対しても割断し易く作用しているものと考えられる。要は、加工対象物(半導体基板)の内部に被処理部(溶融処理領域)が切断予定ラインに沿って形成される被処理領域(第1のゾーン)と、微小空洞が切断予定ラインに沿って形成される微小空洞領域(第2のゾーン)が形成されることにより、これらを切断の起点として加工対象物(半導体基板)を容易に割断することが可能となる。そして、これらの領域は切断予定ライン全てに形成されなくても(切断予定ラインのところどころに存在するような場合でも)、微小空洞があることにより割断し易くなっている。尚、GaAsなどのように劈開性の良好な半導体基板の場合、切断予定ライン全てに改質領域を形成する必要は無く、切断予定ラインの一部分に改質領域を形成しても良い。また、割断精度を上げたい部分のみに改質領域を形成しても良い。
【0051】
本実施形態においては、シリコンウェハの表面にパターンが形成されている場合には、パターンが形成されている面の反対側の面からレーザ光を入射させることが好ましい。微小空洞側の割断面は溶融処理領域側の割断面に比べて割断面がきれいになる傾向になるので、パターン形成面側に微小空洞を形成すると良品率がより向上する。より具体的には、図16に示すように、表面に電子回路や半導体発光部等の光デバイスやMEMSのような微小電気機械システム等の機能素子(機能デバイス)181を形成したシリコンウェハ180において、機能素子181が形成されている側に微小空洞182を形成することにより、機能素子181側の割段精度をより向上させることができる。従って、良品率を向上させることが可能となり、生産効率を向上させることができる。また、内部に改質領域を形成した半導体基板を固定したテープを拡張することで半導体基板の割断・分離を行うには、容易に割断できる条件が必要であるが、微小空洞によりその条件が実現できる。溶融処理領域と共に微小空洞を形成することは、テープの拡張により内部に改質層を形成した半導体基板を割断・分離する場合に有効である。図16に示すシリコンウェハ180を割断・分離する場合には、図17に示すようにシリコンウェハ180をテープ183に固定する。その後、図18に示すようにテープ183を拡張してシリコンウェハ180を割断・分離する。尚、割断・分離工程として、半導体基板の内部に改質領域を形成した後にテープ(エキスパンドテープ、ダイシングフィルム)を貼り付けて拡張する場合も、半導体基板にテープを貼り付けてから半導体基板の内部に改質領域を形成してからテープを拡張する場合のどちらでも可能である。
【0052】
レンズ口径に対してガウシアン分布を広げてレンズ入射ビームをトップハットのように使うことが好ましい(NAの大きな光線のエネルギーを高くすることが好ましい。)。NAは0.5〜1.0であることが好ましい。
【0053】
パルス幅は500nsec以下であることが好ましい。より好ましくは10nsec〜500nsecである。より好ましくは10nsec〜300nsecである。また、より好ましくは100nsec〜200nsecである。
【0054】
溶融処理領域と微小空洞がペアで、それぞれの深さが厚みに対して所定の関係にあると考えられる。特に、NAに応じて溶融処理領域と微小空洞とが所定の関係にあるとよい。
【0055】
切断方向は、オリエンテーションフラット(オリフラ)に対して並行、垂直だと好ましい。結晶方向に沿って溶融処理領域を形成していくことが好ましい。
【0056】
本実施形態においては、加工対象物としてシリコン製の半導体ウェハを用いているが、半導体ウェハの材料はこれに限られるものではない。例えば、シリコン以外のIV族元素半導体、SiCのようなIV族元素を含む化合物半導体、III−V族元素を含む化合物半導体、II−VI族元素を含む化合物半導体、更に種々のドーパント(不純物)をドープした半導体を含む。
【0057】
本実施形態の効果を説明する。これによれば、多光子吸収を起こさせる条件でかつ加工対象物1の内部に集光点Fを合わせて、パルスレーザ光Lを切断予定ライン5に照射している。そして、X軸ステージ109やY軸ステージ111を移動させることにより、集光点Fを切断予定ライン5に沿って所定のピッチPで移動させている。これにより、被処理部を切断予定ライン5に沿うように加工対象物1の内部に形成すると共に、微小空洞を形成している。これにより、加工対象物1の表面3に切断予定ライン5から外れた不必要な割れを発生させることなく加工対象物1を切断することができる。
【0058】
また、加工対象物1に多光子吸収を起こさせる条件でかつ加工対象物1の内部に集光点Fを合わせて、パルスレーザ光Lを切断予定ライン5に照射している。よって、パルスレーザ光Lは加工対象物1を透過し、加工対象物1の表面3ではパルスレーザ光Lがほとんど吸収されないので、改質領域形成が原因で表面3が溶融等のダメージを受けることはない。
【0059】
以上説明したように、加工対象物1の表面3に切断予定ライン5から外れた不必要な割れや溶融が生じることなく、加工対象物1を切断することができる。よって、加工対象物1が例えば半導体ウェハの場合、半導体チップに切断予定ラインから外れた不必要な割れや溶融が生じることなく、半導体チップを半導体ウェハから切り出すことができる。表面に電極パターンが形成されている加工対象物や、圧電素子ウェハや液晶等の表示装置が形成されたガラス基板のように表面に電子デバイスが形成されている加工対象物についても同様である。よって、加工対象物を切断することにより作製される製品(例えば半導体チップ、圧電デバイスチップ、液晶等の表示装置)の歩留まりを向上させることができる。
【0060】
また、加工対象物1の表面3の切断予定ライン5は溶融しないので、切断予定ライン5の幅(この幅は、例えば半導体ウェハの場合、半導体チップとなる領域同士の間隔である。)を小さくできる。これにより、一枚の加工対象物1から作製される製品の数が増え、製品の生産性を向上させることができる。
【0061】
また、加工対象物1の切断加工にレーザ光を用いるので、ダイヤモンドカッタを用いたダイシングよりも複雑な加工が可能となる。
【0062】
ところで、上記レーザ加工方法(切断方法)が実施されるレーザ加工装置は、レーザ光源と、加工対象物を戴置する戴置台と、レーザ光源と戴置台との相対的な位置関係を制御する制御手段と、を備え、制御手段は、加工対象物の内部に集光点が合うようにレーザ光源と戴置台との間隔を制御すると共に、レーザ光源からレーザ光が出射されると、レーザ光源及び戴置台を加工対象物の切断予定ラインに沿って相対的に移動させて、切断予定ラインに沿って加工対象物の内部に多光子吸収による被処理部を形成すると共に、加工対象物の内部であって被処理部に対応する所定の位置に微小空洞を形成する。
【0063】
このレーザ加工装置によれば、被処理部に対応させて微小空洞を形成するので、一対の被処理部と微小空洞とを加工対象物内部に形成できる。
【0064】
また、上記レーザ加工方法(切断方法)が実施されるレーザ加工装置は、レーザ光源と、半導体基板を戴置する戴置台と、レーザ光源と戴置台との相対的な位置関係を制御する制御手段と、を備え、制御手段は、半導体基板の内部に集光点が合うようにレーザ光源と戴置台との間隔を制御すると共に、レーザ光源からレーザ光が出射されると、レーザ光源及び戴置台を半導体基板の切断予定ラインに沿って相対的に移動させて、切断予定ラインに沿って半導体基板の内部に溶融処理領域を形成すると共に、半導体基板の内部であって溶融処理領域に対応する所定の位置に微小空洞を形成する。
【0065】
このレーザ加工装置によれば、溶融処理領域に対応させて微小空洞を形成するので、一対の溶融処理領域と微小空洞とを加工対象物内部に形成できる。
【0066】
また、上記レーザ加工方法(切断方法)が実施されるレーザ加工装置は、レーザ光源と、半導体基板を戴置する戴置台と、レーザ光源と戴置台との相対的な位置関係を制御する制御手段と、を備え、制御手段は、半導体基板の内部に集光点が合うようにレーザ光源と戴置台との間隔を制御すると共に、レーザ光源からパルスレーザ光が出射されると、レーザ光源及び戴置台を半導体基板の切断予定ラインに沿って相対的に移動させて、切断予定ラインに沿って半導体基板の内部に溶融処理領域を形成すると共に、半導体基板の内部であって溶融処理領域に対応する所定の位置に微小空洞を形成する際に、パルスレーザのパルス幅が500nsec以下である。
【0067】
このレーザ加工装置によれば、パルス幅が500nsec以下のパルスレーザ光を半導体基板に照射するので、より的確に微小空洞を形成できる。
【0068】
また、上記レーザ加工方法(切断方法)が実施されるレーザ加工装置は、レーザ光源と、半導体基板を戴置する戴置台と、レーザ光源と戴置台との相対的な位置関係を制御する制御手段と、を備え、制御手段は、半導体基板の内部に集光点が合うようにレーザ光源と戴置台との間隔を制御すると共に、レーザ光源からパルスレーザ光が出射されると、レーザ光源及び戴置台を半導体基板の切断予定ラインに沿って相対的に移動させて、切断予定ラインに沿って半導体基板の内部に溶融処理領域を形成すると共に、半導体基板の内部であって溶融処理領域に対応する所定の位置に微小空洞を形成する際に、パルスレーザのパルスピッチが1.00〜7.00μmである。
【0069】
このレーザ加工装置によれば、パルスピッチが1.00〜7.00μmのパルスレーザ光を半導体基板に照射するので、より的確に微小空洞を形成できる。
【0070】
また、上記レーザ加工方法(切断方法)が実施されるレーザ加工装置では、微小空洞を切断予定ラインに沿って複数形成し、それぞれの微小空洞が相互に離隔するように形成することも好ましい。微小空洞が相互に離隔して形成されるので、より効率的に微小空洞を形成できる。
【0071】
また、上記レーザ加工方法(切断方法)による加工生産物は、加工対象物をレーザ加工によって切断して生産される加工生産物であって、切断によって形成された主面に沿った部分に多光子吸収によって改質されている被処理部と、切断によって形成された主面であって被処理部に対応する所定の位置に開口部を有する微小空洞と、が形成されている。
【0072】
この加工生産物は、加工対象物に被処理部と微小空洞とを対応させて形成して加工処理物とし、その加工処理物を被処理部及び微小空洞が形成されている部分で切断して生産される。
【0073】
また、上記レーザ加工方法(切断方法)による加工生産物では、加工対象物が半導体基板であって、被処理部は溶融処理領域であることも好ましい。加工対象物としての半導体基板にレーザ光を照射するので、溶融処理領域と微小空洞とを形成できる。
【0074】
また、上記レーザ加工方法(切断方法)による加工生産物では、微小空洞は切断予定ラインに沿って複数形成され、それぞれの微小空洞は相互に離隔していることも好ましい。微小空洞が相互に離隔して形成されるので、より効率的に微小空洞を形成できる。
【0075】
また、上記レーザ加工方法(切断方法)による加工生産物では、微小空洞相互の間隔が1.00〜7.00μmとなるように形成されていることも好ましい。微小空洞の間隔が1.00〜7.00μmなので、より的確に微小空洞を形成できる。
【0076】
また、上記レーザ加工方法(切断方法)による加工生産物では、被処理部は切断予定ラインに沿った第1のゾーンに形成され、複数の微小空洞は第1のゾーンと所定の間隔を空けた第2のゾーンに形成されていることも好ましい。被処理部及び微小空洞がそれぞれのゾーンごとに形成されているので、一群のものとして形成できる。
【0077】
また、上記レーザ加工方法(切断方法)による加工生産物は、加工対象物をレーザ加工によって切断して生産される加工生産物であって、切断によって形成された主面には被処理部が形成された被処理領域と、切断によって形成された主面に開口部を有する微小空洞が形成された微小空洞領域と、が形成されている。
【0078】
また、上記レーザ加工方法(切断方法)による加工生産物では、加工対象物は半導体基板であって、被処理部は溶融処理領域であることも好ましい。
【符号の説明】
【0079】
2a…シリコンウェハ、211…改質領域、211a…溶融処理領域、211b…微小空洞。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンウェハの内部に集光点を合わせて、前記集光点のピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上の条件でパルスレーザ光を照射し、前記パルスレーザ光を前記シリコンウェハの切断予定ラインに沿って相対的に移動させることにより、前記切断予定ラインに沿って前記シリコンウェハの内部に溶融処理領域を形成すると共に、前記シリコンウェハの内部であって前記溶融処理領域を挟んで前記パルスレーザ光の入射側とは反対側に、前記切断予定ラインに沿って相互に離隔するように複数の微小空洞を形成する工程と、
前記溶融処理領域と前記微小空洞とからなる改質領域を起点として割れを発生させ、前記切断予定ラインに沿って前記シリコンウェハを切断する工程と、を備え、
前記パルスレーザ光のパルスピッチは2.00μm〜7.00μmである、切断方法。
【請求項2】
前記微小空洞のできる位置の深さは、45μm〜90μmである、請求項1に記載の切断方法。
【請求項1】
シリコンウェハの内部に集光点を合わせて、前記集光点のピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上の条件でパルスレーザ光を照射し、前記パルスレーザ光を前記シリコンウェハの切断予定ラインに沿って相対的に移動させることにより、前記切断予定ラインに沿って前記シリコンウェハの内部に溶融処理領域を形成すると共に、前記シリコンウェハの内部であって前記溶融処理領域を挟んで前記パルスレーザ光の入射側とは反対側に、前記切断予定ラインに沿って相互に離隔するように複数の微小空洞を形成する工程と、
前記溶融処理領域と前記微小空洞とからなる改質領域を起点として割れを発生させ、前記切断予定ラインに沿って前記シリコンウェハを切断する工程と、を備え、
前記パルスレーザ光のパルスピッチは2.00μm〜7.00μmである、切断方法。
【請求項2】
前記微小空洞のできる位置の深さは、45μm〜90μmである、請求項1に記載の切断方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2012−192459(P2012−192459A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−158718(P2012−158718)
【出願日】平成24年7月17日(2012.7.17)
【分割の表示】特願2010−167359(P2010−167359)の分割
【原出願日】平成16年7月20日(2004.7.20)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年7月17日(2012.7.17)
【分割の表示】特願2010−167359(P2010−167359)の分割
【原出願日】平成16年7月20日(2004.7.20)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】
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