説明

列車のブレーキシステム

【課題】 列車の滑走が生じた場合でも、列車の後退の誤検知による、誤制御を確実に防止することのできる列車のブレーキシステムを提供する。
【解決手段】 列車1に搭載される車輪4の制動動作を行う機械式ブレーキ装置7と、車輪4の回転量を検出するタコジェネレータ9と、タコジェネレータ9の検出信号が入力される車上装置8と、運転台2の操作に応じて機械式ブレーキ装置7の動作制御を行うとともに、発電ブレーキ動作信号を車上装置8に送る列車制御装置3と、を備えており、車上装置8は、列車制御装置3から発電ブレーキ動作信号が入力された際に、タコジェネレータ9による後退検知信号をマスクして後退検出信号に基づく制御を行わない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は列車のブレーキシステムに係り、特に、列車の滑走が生じた場合に、車軸に直結した速度検出センサーが列車の後退を検知した場合でも、保安ブレーキ制御などの誤制御を確実に防止することを可能とした列車のブレーキシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、列車には、ブレーキシステムが搭載されている。このようなブレーキシステムとしては、例えば、列車の車輪を制動するための機械式のブレーキや車輪の駆動モータによる発電ブレーキなどがある。そして、従来から、列車のブレーキシステムとして、発電ブレーキを動作させた場合に、車輪が滑走し一部の軸が逆回転する場合があることが知られている。
【0003】
このようなブレーキシステムによる空転あるいは滑走を検出する技術として、従来、例えば、車輪滑走時の情報から実際の粘着係数の推定値を算出し、その算出値が駆動軸の期待粘着係数値より小さい場合には算出値を期待粘着係数として用い、遅れ込め制御の量を削減するようにした技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、その他の技術として、例えば、複数軸の速度発電機のパルス数をカウントするカウンタおよびパルス数倍周カウンタと、何れか1つのカウンタのカウント値から複数時間のサンプリング速度に変換する速度変換処理部と、この変換されたサンプリング速度ごとに加減速度を算出する加減速度算出部と、これら複数時間のサンプリング速度及び各加減速度と予め登録される線形データを用いて空転・滑走の発生・終了を検知する発生・終了検出手段と、これら発生・終了信号から空転・滑走中を判断し、大空転・大滑走時に短時間のサンプリング速度の空転・滑走、微小空転・滑走時は長時間のサンプリング速度の空転・滑走を選択し各軸ごとの空転・滑走を判断する判断手段とを設けるようにした技術が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特願2005−261095号公報
【特許文献2】特願2004−173399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記特許文献1および特許文献2に記載の技術においては、いずれも列車の車輪の滑走を検出するものである。ここで、列車には、車輪の回転量を検出して列車の進行方向を検出するためのタコジェネレータが搭載されているが、発電ブレーキが一般的に複数軸の複数電動機を一括制御していることから、車輪が滑走した場合に、一部車軸が逆回転することがあり、実際には列車が後退していないにもかかわらず、タコジェネレータにより列車が後退したことを検出してしまうことがあるという問題を有している。
【0007】
このように車輪の滑走により列車が後退していることを検出してしまうと、列車の後退を防止するため、保安ブレーキが動作するなどの、列車後退時の制御が動作してしまうという問題を有している。
【0008】
本発明は前記した点に鑑みてなされたものであり、列車の滑走が生じた場合でも、列車の後退の誤検知による、誤制御を確実に防止することのできる列車のブレーキシステムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は前記目的を達成するために、請求項1の発明に係る列車のブレーキシステムは、列車に搭載される車輪の制動動作を行うブレーキ装置と、
前記車輪の回転量を検出するタコジェネレータと、
前記タコジェネレータの検出信号が入力される車上装置と、
運転台の操作に応じて前記ブレーキ装置の動作制御を行うとともに、発電ブレーキ動作信号を車上装置に送る列車制御装置と、を備え、
前記車上装置は、前記列車制御装置から発電ブレーキ動作信号が入力された際に、前記タコジェネレータによる後退検知信号をマスクして後退検出信号に基づく制御を行わないことを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る発明は、列車に搭載される車輪の制動動作を行うブレーキ装置と、
前記車輪の回転量を検出するタコジェネレータと、
前記タコジェネレータの検出信号が入力される車上装置と、
運転台の操作に応じて前記ブレーキ装置の動作制御を行って前記車上装置に送る列車制御装置と、を備え、
前記車上装置は、前記タコジェネレータによる検出信号に基づいて前記車輪の滑走を検知した際に、後退検知信号をマスクして後退検出信号に基づく制御を行わないことを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項2において、前記車上装置は、前記タコジェネレータによる検出信号に基づいた前記列車の減速度が10km/h/sec以上となったときに、前記車輪が滑走したことを検出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明によれば、車上装置により、列車制御装置から発電ブレーキ動作信号が入力された際に、タコジェネレータによる後退検知信号をマスクして後退検出信号に基づく制御を行わないようにしているので、後退検知信号を入力した場合の保安ブレーキ動作などの後退防止に関する制御を行ってしまうことがなく、急ブレーキなどを防止して、安全に列車を停止させることができる。
【0013】
請求項2に係る発明によれば、車上装置により、タコジェネレータによる検出信号に基づいて車輪の滑走を検知した際に、後退検知信号をマスクして後退検出信号に基づく制御を行わないようにしているので、後退検知信号を入力した場合の保安ブレーキ動作などの後退防止に関する制御を行ってしまうことがなく、急ブレーキなどを防止して、安全に列車を停止させることができる。
【0014】
請求項3に係る発明によれば、車上装置により、タコジェネレータによる検出信号に基づいた列車の減速度が10km/h/sec以上となったときに、車輪が滑走したことを検出するようにしているので、車上装置により、確実に車輪の滑走を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る列車のブレーキシステムの第1実施形態を示す概略構成図である。
【図2】本発明に係る列車のブレーキシステムの第1実施形態における発電ブレーキ動作と後退検知との関係を示す説明図である。
【図3】本発明に係る列車のブレーキシステムの第1実施形態の動作を示すフローチャートである。
【図4】本発明に係る列車のブレーキシステムの第2実施形態における車輪滑走検知と後退検知との関係を示す説明図である。
【図5】本発明に係る列車のブレーキシステムの第2実施形態の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0017】
図1は、本発明に係る列車のブレーキシステムの第1実施形態を示す概略構成図である。列車1には、運転者が各種操作を行う運転台2が設置されており、列車1には、運転台2の操作に基づいて列車1の制御を行う列車制御装置3が搭載されている。
【0018】
また、列車1には、車輪4を回転駆動するための駆動モータ5が設けられており、列車1には、エアなどの圧力でブレーキシュー6を車輪4の外周面または専用のブレーキディスクに押圧動作させて車輪4の制動を行うための機械式ブレーキ装置7が設けられている。この駆動モータ5および機械式ブレーキ装置7は、運転者の操作に従って運転台2から送られる操作信号に基づいて、列車制御装置3によりそれぞれ駆動制御されるように構成されている。
【0019】
また、列車1には、列車制御装置3に接続される車上装置8が設けられており、列車1には、車軸の回転に伴ってパルス状の出力信号を出力する速度発電機、いわゆるタコジェネレータ9が設けられている。そして、車上装置8は、タコジェネレータ9による出力信号に基づいて現在の列車1の走行距離情報や走行速度情報を演算し、列車制御装置3に出力するように構成されており、列車制御装置3は、車上装置8からの情報に基づいて、列車1の制御を行うように構成されている。
【0020】
ここで、列車1のブレーキとして、前述の機械式ブレーキ装置7の他に、車輪4の回転により駆動モータ5が発生する起電力を発生させ、駆動モータ5内で通常の駆動とは逆の回転抵抗を生じさせて駆動モータ5の制動力を得るいわゆる発電ブレーキがある。通常、ブレーキを動作させる場合、指示されたブレーキ力を得るため、機械式ブレーキと発電ブレーキとを併用するものであるが、ブレーキシューの磨耗を少なくするため、発電ブレーキが優先される。発電ブレーキは、列車1の速度が低下すると発電電力が低下し、必要なブレーキ力が得られなくなるため、列車1の速度が所定の速度以下に低下したら発電ブレーキ回路を遮断し、機械式ブレーキ装置7のみに切り換えるようになっている。
【0021】
そして、発電ブレーキを動作させた場合に、車輪4が滑走して一部車軸が逆転することがあることから、実際には、列車1が後退していないにもかかわらず、タコジェネレータ9により列車1が後退したことを検出してしまうことがある。そのため、本実施形態においては、図2に示すように、列車制御装置3により駆動モータ5の発電ブレーキを動作させた場合に、列車制御装置3から車上装置8に発電ブレーキの動作信号を出力するように構成されており、車上装置8は、列車制御装置3から発電ブレーキの動作信号が入力された後、タコジェネレータ9により後退検知信号が入力された場合に、タコジェネレータ9による後退検知信号をマスクして後退検出信号に基づく制御を行わないように構成されている。すなわち、実際には、図2に破線で示すように、後退検知信号は検知されるものであるが、発電ブレーキの動作信号が入力されている状態では、後退検知信号を無視して制御を行うものである。
【0022】
そして、本実施形態においては、発電ブレーキの動作信号が解除された場合には、後退検知信号のマスクは行わず、通常の制御に戻るように構成されている。
【0023】
次に、本実施形態の作用について、図3に示すフローチャートを参照して説明する。
【0024】
まず、本実施形態においては、列車1の走行中に(ST1)、ブレーキが動作されると(ST2)、発電ブレーキが動作されて列車制御装置3から発電ブレーキの動作信号が入力される。そして、発電ブレーキの動作信号が入力された場合には(ST3:YES)、発電ブレーキの動作信号が入力された後、タコジェネレータ9により後退検知信号が入力された場合には(ST4:YES)、後退検知信号をマスクするようになっている(ST5)。これにより、後退検知信号が入力された場合でも、後退検知時になされる、例えば、保安ブレーキなどの動作を行わないことになる。
【0025】
そして、発電ブレーキの動作信号が解除された場合には(ST6:YES)、後退検知信号のマスクを解除して通常の制御に戻る(ST7)。
【0026】
以上述べたように、本実施形態においては、発電ブレーキを動作させた場合に、列車制御装置3から車上装置8に発電ブレーキの動作信号を送り、車上装置8にタコジェネレータ9から後退検知信号が入力された場合でも、後退検知信号をマスクするようにしているので、後退検知信号を入力した場合の保安ブレーキ動作などの後退防止に関する制御を行ってしまうことがなく、急ブレーキなどを防止して、安全に列車1を停止させることができる。
【0027】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
【0028】
本実施形態における列車1の構成については、図1に示すものと同様であるため、本実施形態においても図1を用いて説明する。そして、前記第1実施形態においては、車上装置8が、発電ブレーキの動作信号を入力した後に、後退検知信号を入力されたら、この後退検知信号をマスクするようにしたが、本実施形態においては、図5に示すように、タコジェネレータ9の検出信号に基づいて、車輪4の滑走を検知した場合に、その後、後退検知信号が入力されたら、この後退検知信号をマスクするように構成されている。すなわち、発電ブレーキを動作した際に、タコジェネレータ9により検出される車輪4の回転量と、実際の列車1の走行量とが一致せず、車輪4が線路上を滑走してしまうことがあることから、車輪4の滑走を検出することにより、間接的に発電ブレーキの検知を行うようにしたものである。
【0029】
そして、本実施形態においては、列車1の減速度が一定以上になると車輪4の滑走が生じることが分かっているので、例えば、タコジェネレータ9による検出信号に基づいて列車1の減速度が10km/h/sec以上となったときに、車輪4が滑走したことを検出するように構成されている。そして、滑走を検知しなくなったら、後退検知信号のマスクは行わず、通常の制御に戻るように構成されている。
【0030】
次に、本実施形態の作用について、図5に示すフローチャートを参照して説明する。
【0031】
まず、本実施形態においては、列車1が走行中に(ST10)、ブレーキが動作されると(ST11)、発電ブレーキが動作される。そして、タコジェネレータ9の検出信号に基づいて、列車1の減速度が10km/h/sec以上となった場合に(ST12:YES)、タコジェネレータ9により後退検知信号が入力された場合には(ST13:YES)、後退検知信号をマスクするようになっている(ST14)。これにより、後退検知信号が入力された場合でも、後退検知時になされる、例えば、保安ブレーキなどの動作を行わないことになる。
【0032】
そして、車輪4の滑走が検知されなくなった場合には(ST15:YES)、後退検知信号のマスクは行わず、通常の制御に戻る(ST16)。
【0033】
以上述べたように、本実施形態においては、タコジェネレータ9により車輪4の滑走を検知した後に、タコジェネレータ9から後退検知信号が入力された場合でも、後退検知信号をマスクするようにしているので、後退検知信号を入力した場合の保安ブレーキ動作などの後退防止に関する制御を行ってしまうことがなく、急ブレーキなどを防止して、安全に列車1を停止させることができる。
【0034】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 列車
2 運転台
3 列車制御装置
4 車輪
5 駆動モータ
6 ブレーキシュー
7 機械的ブレーキ装置
8 車上装置
9 タコジェネレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
列車に搭載される車輪の制動動作を行うブレーキ装置と、
前記車輪の回転量を検出するタコジェネレータと、
前記タコジェネレータの検出信号が入力される車上装置と、
運転台の操作に応じて前記ブレーキ装置の動作制御を行うとともに、発電ブレーキ動作信号を車上装置に送る列車制御装置と、を備え、
前記車上装置は、前記列車制御装置からの発電ブレーキ動作信号が入力された際に、前記タコジェネレータによる後退検知信号をマスクして後退検出信号に基づく制御を行わないことを特徴とする列車のブレーキシステム。
【請求項2】
列車に搭載される車輪の制動動作を行うブレーキ装置と、
前記車輪の回転量を検出するタコジェネレータと、
前記タコジェネレータの検出信号が入力される車上装置と、
運転台の操作に応じて前記ブレーキ装置の動作制御を行って前記車上装置に送る列車制御装置と、を備え、
前記車上装置は、前記タコジェネレータによる検出信号に基づいて前記車輪の滑走を検知した際に、後退検知信号をマスクして後退検出信号に基づく制御を行わないことを特徴とする列車のブレーキシステム。
【請求項3】
前記車上装置は、前記タコジェネレータによる検出信号に基づいた前記列車の減速度が10km/h/sec以上となったときに、前記車輪が滑走したことを検出することを特徴とする請求項2に記載の列車のブレーキシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−90489(P2013−90489A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230141(P2011−230141)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000004651)日本信号株式会社 (720)
【Fターム(参考)】