説明

制動制御装置

【課題】高圧のブレーキ液圧供給時の液圧脈動に伴うブレーキ打音を抑制すること。
【解決手段】ブレーキ液圧の増圧対象となる制御対象輪(例えば前輪WFR,WFL)とブレーキ液圧の増減圧対象とならない非制御対象輪(例えば後輪WRR,WRL)とが少なくとも一輪ずつ存在している場合に、制御対象輪(前輪WFR,WFL)の制動力発生手段50FR,50FLに対するブレーキ液圧を増圧させるべく当該制御対象輪(前輪WFR,WFL)のブレーキ液圧調整手段40FR,40FLを制御し、そのブレーキ液圧調整手段40FR,40FLと上流側で連通状態にある非制御対象輪(例えば右側後輪WRR)のブレーキ液圧調整手段40RRの上流側のブレーキ液圧を低下させるべく当該非制御対象輪(右側後輪WRR)のブレーキ液圧調整手段40RRを制御するようにブレーキ液圧制御手段(電子制御装置1)を構成すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輌における夫々の車輪の制動力を個別に調節可能な車輌用制動装置の制御を行う制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、運転者のアクセルペダルの踏み込み操作(つまり加速操作)に伴って駆動輪がスリップした際、そのスリップ状態にある駆動輪の制動力や機関出力を調節し、最適な駆動力を駆動輪に対して働かせるようにする所謂トラクションコントロールシステムが知られている。従って、このトラクションコントロールシステムにおいては、制動制御装置による車輌用制動装置に対しての制動力の制御によってトラクション制御が実行される。例えば、下記の特許文献1には、トラクション制御中にブレーキ操作が為された際の非駆動輪における制動力の応答性を向上させるべく、駆動輪のブレーキシリンダに動力液圧源を連通させてトラクション制御を実行する際に、非駆動輪のブレーキシリンダを駆動輪のブレーキシリンダから遮断してマスタシリンダと液圧ブースタの内の少なくとも一方に連通させる技術が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2006−123889号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の技術においては、トラクション制御におけるブレーキ液圧の増圧の際、駆動輪のブレーキシリンダのみに対して高圧のブレーキ液圧が短時間の内に供給されるので、そのブレーキシリンダに至るまでのブレーキ液の通路内でブレーキ液が液圧脈動を起こし、これに伴う打音(以下、「ブレーキ打音」という。)が発生してしまう。
【0005】
そこで、本発明は、かかる従来例の有する不都合を改善し、高圧のブレーキ液圧を供給する際の液圧脈動に伴うブレーキ打音の抑制が可能な制動制御装置を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する為、請求項1記載の発明では、車輌の夫々の車輪の制動力発生手段に対するブレーキ液圧を個別に調節可能なブレーキ液圧調整手段の制御を行うブレーキ液圧制御手段を備えた制動制御装置において、ブレーキ液圧の増圧対象となる制御対象輪とブレーキ液圧の増減圧対象とならない非制御対象輪とが少なくとも一輪ずつ存在している場合に、その制御対象輪の制動力発生手段に対するブレーキ液圧を増圧させるべく当該制御対象輪のブレーキ液圧調整手段を制御し、その制御対象輪のブレーキ液圧調整手段と上流側で連通状態にある非制御対象輪のブレーキ液圧調整手段の上流側のブレーキ液圧を低下させるべく当該非制御対象輪のブレーキ液圧調整手段を制御するようにブレーキ液圧制御手段を構成している。
【0007】
この請求項1記載の制動制御装置は、その非制御対象輪のブレーキ液圧調整手段の上流側のブレーキ液圧を低下させることによって、制御対象輪のブレーキ液圧調整手段の上流側のブレーキ液圧が低くなる。これが為、この制動制御装置は、その制御対象輪の制動力発生手段に至るまでのブレーキ液の通路に供給されるブレーキ液圧を低下させることができる。
【0008】
ここで、請求項2記載の発明の如く、ブレーキ液圧調節手段は、その上流側と抜圧室とを連通させる抜圧モードを有するように構成し、ブレーキ液圧制御手段は、非制御対象輪のブレーキ液圧調整手段を抜圧モードに制御して当該非制御対象輪のブレーキ液圧調整手段の上流側のブレーキ液圧を低下させるように構成すればよい。
【0009】
また、そのブレーキ液圧調節手段は、請求項3記載の発明の如く、制御対象輪の制動力発生手段に対するブレーキ液圧の増圧期間よりも非制御対象輪のブレーキ液圧調整手段の上流側のブレーキ液圧を低下させる期間の方が短くなる制御を行うように構成することが好ましい。
【0010】
また、そのブレーキ液圧調節手段は、請求項4記載の発明の如く、制御対象輪の制動力発生手段に対するブレーキ液圧の増圧期間の初期段階で非制御対象輪のブレーキ液圧調整手段の上流側のブレーキ液圧が低下されているように構成することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る制動制御装置は、上流側で連通している非制御対象輪のブレーキ液圧調整手段の上流側のブレーキ液圧を低下させ、制御対象輪の制動力発生手段に至るまでのブレーキ液の通路に供給されるブレーキ液圧を低下させるので、その通路内の液圧脈動を減少させてブレーキ打音の抑制を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明に係る制動制御装置の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。尚、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【実施例】
【0013】
本発明に係る制動制御装置の実施例を図1から図6に基づいて説明する。
【0014】
本実施例の制動制御装置は、後述する車輌用制動装置を制御して制動力を車輪に働かせるものであり、図1に示す電子制御装置1によってその制御機能が構成されている。その電子制御装置1は、図示しないCPU(中央演算処理装置),所定の制御プログラム等を予め記憶しているROM(Read Only Memory),そのCPUの演算結果を一時記憶するRAM(Random Access Memory),予め用意された情報等を記憶するバックアップRAM等で構成されている。この電子制御装置1には、制動制御を実行する上で必要な演算や設定等を行う後述する各種手段が用意されている。
【0015】
本実施例の制動制御装置の制御対象たる車輌用制動装置についての説明を行う。この車輌用制動装置は、車輌の各車輪WFR,WFL,WRR,WRLの制動力を個別に調節し得るものであり、その各車輪WFR,WFL,WRR,WRLの内の少なくとも一輪のみに対して制動力を加えることもできるように構成されている。
【0016】
この車輌用制動装置は、大別すると、ブレーキ液圧を発生させるブレーキ液圧発生部と、そのブレーキ液圧を各車輪WFR,WFL,WRR,WRL毎に調節可能なブレーキ液圧調節部と、そのブレーキ液圧を利用して各車輪WFR,WFL,WRR,WRLに加える制動力を発生させる制動力発生部と、で構成する。
【0017】
具体的に、ここで例示する車輌用制動装置には、図1に示す如く、運転者によるブレーキペダル10の操作量に応じたブレーキ液圧を発生させるブレーキ液圧発生手段20と、ブレーキ液を加圧してブレーキ液圧発生手段20によるブレーキ液圧よりも高圧のブレーキ液圧(アキュムレータ圧)を発生させる高圧発生手段30と、がブレーキ液圧発生部として用意されている。また、この車輌用制動装置には、ブレーキ液圧調節部の一部分を成すブレーキ液圧調整手段40FR,40FL,40RR,40RLが各車輪WFR,WFL,WRR,WRL毎に用意されている。これら各ブレーキ液圧調整手段40FR,40FL,40RR,40RLは、ブレーキ液圧発生手段20や高圧発生手段30の発生したブレーキ液圧を調圧できるものである。また、この車輌用制動装置には、それら各ブレーキ液圧調整手段40FR,40FL,40RR,40RLを経たブレーキ液圧が夫々供給され、そのブレーキ液圧に応じた制動力を発生させる各車輪WFR,WFL,WRR,WRL毎の制動力発生手段50FR,50FL,50RR,50RLが制動力発生部として用意されている。
【0018】
先ず、ブレーキ液圧発生手段20は、運転者によるブレーキペダル10の操作量に応じたブレーキ液圧(マスタシリンダ圧)を発生させるマスタシリンダ21と、その操作量に応じたブレーキ液圧(レギュレータ圧)を発生させるハイドロブースタ22と、を備えている。本実施例においては、そのマスタシリンダ21とハイドロブースタ22とが一体化されたブレーキ液圧発生手段20を例示する。
【0019】
そのマスタシリンダ21は、ハウジング21aと、そのハウジング21aの内部で液密性を保ちつつ摺動可能に嵌合された加圧ピストン21bと、を備え、ブレーキペダル10の押動に伴う加圧ピストン21bの前進によって加圧室21cのブレーキ液圧を増圧させるものである。
【0020】
一方、ハイドロブースタ22は、運転者によるブレーキ操作力を倍力し、その倍力した大きさに応じたブレーキ液圧を発生させる液圧調節部22aと、ブレーキペダル10の動きに連動して前進又は後進するパワーピストン等からなる入力部22bと、そのパワーピストンの後方(ブレーキペダル10側)のブースタ室22cと、を備えている。その液圧調節部22aは、図示しないスプールバルブや調圧室等を有しており、高圧発生手段30とリザーバ23に接続される。この液圧調節部22aにおいては、加圧ピストン21bの移動に伴ってスプールバルブの弁体が作動し、調圧室にこれらを選択的に連通させることにより、調圧室のブレーキ液圧をブレーキ操作力に応じた大きさに調整する。ハイドロブースタ22は、その調圧室のブレーキ液をブースタ室22cに供給してパワーピストンに前進方向の力を加え、これにより運転者によるブレーキ操作力の助勢を行う。従って、加圧ピストン21bは、その助勢力と運転者によるブレーキ操作力とによって前進し、加圧室21cのブレーキ液圧を増圧させる。尚、リザーバ23には、ブレーキ液が大気圧で貯留されている。
【0021】
ここで、マスタシリンダ21の加圧室21cには、図1に示すマスタ通路101が接続されており、ハイドロブースタ22のブースタ室22cには、図1に示すブースタ通路102が接続されている。
【0022】
また、そのマスタ通路101には、ストロークシミュレータ61とシミュレータ制御弁62とを備えたストロークシミュレータ装置60が接続されている。そのシミュレータ制御弁62は、ソレノイドに電流が供給されない(即ち、非励磁状態にある)通常時は閉弁状態にある常閉式の電磁弁であって、電子制御装置1のブレーキ液圧制御手段の制御指令に従って作動する。
【0023】
本実施例においては、上述したマスタ通路101とブースタ通路102が図1に示す主制御圧通路104に接続され、その主制御圧通路104が各ブレーキ液圧調整手段40FR,40FL,40RR,40RLの上流側制御圧通路105FR,105FL,105RR,105RLに夫々接続されている。更に、その主制御圧通路104は、リザーバ通路106の一端に接続され、そのリザーバ通路106を介してリザーバ23に接続されている。尚、ここで言う上流とは、各ブレーキ液圧調整手段40FR,40FL,40RR,40RLを中心にして見た場合、ブレーキ液圧発生手段20側や高圧発生手段30側のことを指す。従って、その場合の下流とは、制動力発生手段50FR,50FL,50RR,50RL側のことを言う。
【0024】
ここで、この主制御圧通路104上には、これを二分した状態と、その分けられた双方の通路を必要に応じて連通させた状態と、を作り出す図1に示す分割制御弁71が配設されている。その分割制御弁71は、通常時は閉弁状態にある常閉式の電磁弁であって、電子制御装置1のブレーキ液圧制御手段の制御指令に従い作動してブレーキ液圧調節部のブレーキ液圧調節機能の一端を成すものである。本実施例においては、主制御圧通路104における分割制御弁71を挟んだ一方の通路にマスタ通路101を接続し、他方の通路にブースタ通路102と高圧通路103を接続する。また、その一方の通路には、右側前輪WFRのブレーキ液圧調整手段40FRの上流側制御圧通路105FRと左側前輪WFLのブレーキ液圧調整手段40FLの上流側制御圧通路105FLとを接続し、その他方の通路には、右側後輪WRRのブレーキ液圧調整手段40RRの上流側制御圧通路105RRと左側後輪WRLのブレーキ液圧調整手段40RLの上流側制御圧通路105RLとを接続する。従って、分割制御弁71が励磁状態でない通常時には、その右側前輪WFRと左側前輪WFLの夫々のブレーキ液圧調整手段40FR,40FLにマスタシリンダ圧が供給され、右側後輪WRRと左側後輪WRLの夫々のブレーキ液圧調整手段40RR,40RLにレギュレータ圧が供給される。
【0025】
また、本実施例においては、マスタ通路101上におけるストロークシミュレータ装置60との接続部よりも下流側に、マスタシリンダ21の加圧室21cと主制御圧通路104との間の連通又は遮断の状態を制御して、右側前輪WFRと左側前輪WFLの夫々のブレーキ液圧調整手段40FR,40FLへのマスタシリンダ圧の供給状態を制御するマスタシリンダ圧供給制御弁72が配設されている。そのマスタシリンダ圧供給制御弁72は、通常時は開弁状態にある常開式の電磁弁であって、電子制御装置1のブレーキ液圧制御手段の制御指令に従い作動してブレーキ液圧調節部のブレーキ液圧調節機能の一端を成すものである。ここで、そのマスタ通路101におけるストロークシミュレータ装置60とマスタシリンダ圧供給制御弁72の間には、マスタ通路101のマスタシリンダ圧を検出するマスタシリンダ圧センサ81が接続されている。そのマスタシリンダ圧センサ81の検出信号は、電子制御装置1に送られる。
【0026】
更に、ブースタ通路102上には、ハイドロブースタ22のブースタ室22cと主制御圧通路104との間の連通又は遮断の状態を制御して、右側後輪WRRと左側後輪WRLの夫々のブレーキ液圧調整手段40RR,40RLへのレギュレータ圧の供給状態を制御するレギュレータ圧供給制御弁73が配設されている。そのレギュレータ圧供給制御弁73は、通常時は開弁状態にある常開式の電磁弁であって、電子制御装置1のブレーキ液圧制御手段の制御指令に従い作動してブレーキ液圧調節部のブレーキ液圧調節機能の一端を成すものである。
【0027】
続いて、高圧発生手段30について詳述する。
【0028】
この高圧発生手段30は、図1に示す如く、モータ31と、このモータ31により駆動されてリザーバ23のブレーキ液を汲み上げ、これを加圧して吐出するポンプ32と、このポンプ32で加圧されたブレーキ液を貯留するアキュムレータ33と、ブレーキ液圧が設定圧以上になった際にその余剰分を低圧側に戻すリリーフ弁34と、を備えている。
【0029】
そのモータ31は、図1に示す電子制御装置(ECU)1の高圧制御手段によって駆動制御される。その高圧制御手段は、アキュムレータ33内の圧力(アキュムレータ圧)が所定の下限値よりも低くなったときにモータ31を駆動させ、そのアキュムレータ圧が所定の上限値よりも高くなったときにモータ31を停止させるように構成されている。つまり、アキュムレータ圧は、その下限値と上限値の間に調整されるようになっている。
【0030】
また、この高圧発生手段30においては、ポンプ32及びアキュムレータ33の下流側(換言するならば、高圧側)に高圧通路103が接続されている。更に、その高圧通路103やポンプ32及びアキュムレータ33の下流側には、アキュムレータ圧を検出するアキュムレータ圧センサ82が接続されている。そのアキュムレータ圧センサ82の検出信号は、電子制御装置1に送られる。
【0031】
本実施例においては、その高圧通路103が主制御圧通路104における上記の他方の通路に接続される。そして、その高圧通路103上には、高圧発生手段30と主制御圧通路104との間の連通又は遮断の状態を制御して、主制御圧通路104への高圧発生手段30からの高いブレーキ液圧(アキュムレータ圧)の供給状態を制御するアキュムレータ圧供給制御弁74が配設されている。そのアキュムレータ圧供給制御弁74は、通常時は閉弁状態にある常閉式のリニア電磁制御弁であって、電子制御装置1のブレーキ液圧制御手段の制御指令に従い作動してブレーキ液圧調節部のブレーキ液圧調節機能の一端を成すものである。
【0032】
ここで、その高圧通路103上におけるアキュムレータ圧供給制御弁74よりも下流側には、各ブレーキ液圧調整手段40FR,40FL,40RR,40RLに供給される制御ブレーキ液圧を検出する制御圧センサ83が接続されている。その制御圧センサ83の検出信号は、電子制御装置1に送られる。
【0033】
また、本実施例においては、そのアキュムレータ圧の供給を止めた際、各ブレーキ液圧調整手段40FR,40FL,40RR,40RLの上流側制御圧通路105FR,105FL,105RR,105RLのブレーキ液圧を素早く下げるべく、主制御圧通路104上に減圧制御弁75が用意されている。その減圧制御弁75は、通常時は閉弁状態にある常閉式のリニア電磁制御弁であって、電子制御装置1のブレーキ液圧制御手段の制御指令に従い作動してブレーキ液圧調節部のブレーキ液圧調節機能の一端を成すものである。
【0034】
続いて、ブレーキ液圧調整手段40FR,40FL,40RR,40RLについて詳述する。
【0035】
これらブレーキ液圧調整手段40FR,40FL,40RR,40RLは、前述したようにブレーキ液圧発生手段20や高圧発生手段30の発生したブレーキ液圧を調圧するものであって、各車輪WFR,WFL,WRR,WRLの制動力発生手段50FR,50FL,50RR,50RLに供給するブレーキ液圧を各々調整して所謂ABS制御や所謂トラクション制御等を実行させるものである。尚、その制動力発生手段50FR,50FL,50RR,50RLとは、例えばディスクロータやキャリパ等で構成されたものである。従って、この場合のブレーキ液圧は、キャリパに供給される。
【0036】
また、これらブレーキ液圧調整手段40FR,40FL,40RR,40RLの上流側制御圧通路105FR,105FL,105RR,105RLは、上述したように、各々主制御圧通路104に接続されている。一方、ブレーキ液圧調整手段40FR,40FL,40RR,40RLの下流側は、夫々に図1に示す減圧通路107FR,107FL,107RR,107RLを介して主減圧通路108に接続されている。その主減圧通路108は、リザーバ通路106を介してリザーバ23に接続されている。
【0037】
右側前輪WFRのブレーキ液圧調整手段40FRは、通常時は開弁状態にあり、電子制御装置1のブレーキ液圧制御手段の制御指令に従って閉弁状態となる増圧弁NOFRと、通常時は閉弁状態にあり、そのブレーキ液圧制御手段の制御指令に従って開弁状態となる減圧弁NCFRと、を備えている。本実施例においては、その増圧弁NOFRとして2ポート2位置切換型の常開式の電磁弁を用いると共に、その減圧弁NCFRとして2ポート2位置切換型の常閉式の電磁弁を用いる。その増圧弁NOFRは、図1に示す非励磁状態のときにブレーキ液圧調整手段40FRの上流部(主制御圧通路104)と右側前輪WFRの制動力発生手段50FRを連通させる一方、励磁状態のときにブレーキ液圧調整手段40FRの上流部とその制動力発生手段50FRとの間の連通を遮断させるものである。また、減圧弁NCFRは、非励磁状態のときに右側前輪WFRの制動力発生手段50FRとリザーバ23との間の連通を遮断させる一方、励磁状態のときにその制動力発生手段50FRとリザーバ23を連通させるものである。従って、このブレーキ液圧調整手段40FRにおいては、増圧弁NOFRと減圧弁NCFRとの間に図1に示す右側前輪通路109FRが接続されている。その右側前輪通路109FRは、右側前輪WFRの制動力発生手段50FRに接続されたものである。
【0038】
このブレーキ液圧調整手段40FRは、増圧弁NOFRと減圧弁NCFRの双方が非励磁状態にあるときに、ブレーキ液圧調整手段40FRの上流部のブレーキ液を制動力発生手段50FRに供給する。これにより、このブレーキ液圧調整手段40FRは、右側前輪WFRの制動力発生手段50FRのブレーキ液圧を増圧させる(増圧モード)。また、このブレーキ液圧調整手段40FRは、増圧弁NOFRが励磁状態になり且つ減圧弁NCFRが非励磁状態になったときに、制動力発生手段50FRのブレーキ液圧をそのときの大きさのまま保持する(保持モード)。また、このブレーキ液圧調整手段40FRは、増圧弁NOFRと減圧弁NCFRの双方が励磁状態にあるときに、制動力発生手段50FR内のブレーキ液をリザーバ23に戻す。これにより、このブレーキ液圧調整手段40FRは、右側前輪WFRの制動力発生手段50FRのブレーキ液圧を減圧させる(減圧モード)。
【0039】
残りの車輪WFL,WRR,WRLのブレーキ液圧調整手段40FL,40RR,40RLについては、図1に示す如く、上述した右側前輪WFRのブレーキ液圧調整手段40FRと同様に構成されている。つまり、左側前輪WFLのブレーキ液圧調整手段40FLは、増圧弁NOFLと減圧弁NCFLを備えており、左側前輪通路109FLを介して接続された左側前輪WFLの制動力発生手段50FLに対するブレーキ液圧制御の増圧モード,保持モード又は減圧モードを実現させる。また、右側後輪WRRのブレーキ液圧調整手段40RRは、増圧弁NORRと減圧弁NCRRを備えており、右側後輪通路109RRを介して接続された右側後輪WRRの制動力発生手段50RRに対するブレーキ液圧制御の増圧モード,保持モード又は減圧モードを実現させる。また、左側後輪WRLのブレーキ液圧調整手段40RLは、増圧弁NORLと減圧弁NCRLを備えており、左側後輪通路109RLを介して接続された左側後輪WRLの制動力発生手段50RLに対するブレーキ液圧制御の増圧モード,保持モード又は減圧モードを実現させる。
【0040】
電子制御装置1のブレーキ液圧制御手段は、所謂トラクション制御を行う際、アキュムレータ圧供給制御弁74と分割制御弁71を励磁状態にして開弁させると共に、制御対象輪のブレーキ液圧調整手段を増圧モードに切り替えさせ、その制御対象輪に対して制動力が加えられるようにする。これにより、トラクション制御実行の際には、制御対象輪の制動力発生手段に対してアキュムレータ圧が供給され、その制動力発生手段へのブレーキ液圧が増圧させられる。
【0041】
具体的に、このブレーキ液圧制御手段は、トラクション制御でブレーキ液圧を増圧させる際、その制御対象輪のブレーキ液圧調整手段をデューティ制御して増圧モードと保持モードを交互に繰り返させ、その制御対象輪の制動力発生手段に対してブレーキ液圧を増圧(つまり、制動力を増加)させる。また、このブレーキ液圧制御手段は、その制御対象輪が制動力の増加に伴ってロック状態になりそうなときに、これを回避すべくブレーキ液圧調整手段を減圧モードに切り替え、制動力発生手段に対してのブレーキ液圧を減圧させて制御対象輪の制動力を低下させる。
【0042】
しかしながら、トラクション制御においてブレーキ液圧を増圧させる際には、制御対象輪の制動力発生手段に対して高圧のアキュムレータ圧を短時間の内に繰り返し供給するので、その制動力発生手段のキャリパに至るまでのブレーキ液の通路内でブレーキ液が液圧脈動を起こし、これに伴うブレーキ打音が発生してしまう。特に、増圧の初期段階においては、制動力が加えられていない状態の制御対象輪の制動力発生手段に対して高圧のアキュムレータ圧が供給されるので、その液圧脈動が増大し、ブレーキ打音が大きくなってしまう。
【0043】
例えば摩擦係数の低い路面(以下、「低μ路」という。)上での発進時や加速走行時(即ち、駆動トルク増加時)には、駆動輪が駆動トルクを路面へと伝えきれずにスリップしやすくなる。これが為、この際のブレーキ液圧制御手段は、そのスリップ状態にある双方の駆動輪を制御対象輪にしてトラクション制御を実行し、その夫々の制御対象輪に制動力を加えて車輪スリップを抑え込むようにする。従って、この場合には、双方の駆動輪のブレーキ液の通路においてブレーキ打音が発生する。また、例えば、左右で摩擦係数の異なる路面(所謂またぎ路面)上での駆動トルク増加時には、低μ路上の一方の駆動輪がスリップを起こしやすくなる。これが為、この際のブレーキ液圧制御手段は、そのスリップ状態にある駆動輪を制御対象輪にしてトラクション制御を実行し、その制御対象輪に制動力を加えて車輪スリップを抑え込むようにする。従って、この場合には、その一方の駆動輪のブレーキ液の通路においてブレーキ打音が発生する。
【0044】
そこで、本実施例においては、そのような高圧のブレーキ液圧を供給する際の液圧脈動に伴うブレーキ打音の抑制が可能な電子制御装置1のブレーキ液圧制御手段を構成する。
【0045】
具体的に、そのブレーキ液圧制御手段は、制御対象輪の制動力発生手段に対してブレーキ液圧を増圧させる際、その制御対象輪のブレーキ液圧調整手段を増圧モードに制御すると共に、その制御対象輪のブレーキ液圧調整手段の上流側制御圧通路におけるブレーキ液圧を低下させ、その制御対象輪の制動力発生手段に対して供給されるブレーキ液圧が低くなるようにする。そのブレーキ液圧の低下については、制御対象輪のブレーキ液圧調整手段の上流側制御圧通路と連通状態にある上流側制御圧通路を有する少なくとも1つの非制御対象輪のブレーキ液圧調整手段を制御することによって行う。ここでは、その非制御対象輪のブレーキ液圧調整手段における上流側制御圧通路と減圧通路とを連通させ、主制御圧通路104に供給されたアキュムレータ圧の一部を抜圧室としてのリザーバ23に逃がすようにして、制御対象輪のブレーキ液圧調整手段の上流側制御圧通路におけるブレーキ液圧を低下させる。つまり、ブレーキ液圧制御手段は、制御対象輪の制動力発生手段に対してブレーキ液圧を増圧させる際、少なくとも1つの非制御対象輪のブレーキ液圧調整手段の増圧弁を非励磁状態にして開弁させると共に、そのブレーキ液圧調整手段の減圧弁を励磁状態にして開弁させるように構成する。以下においては、そのブレーキ液圧調整手段に対するブレーキ液圧制御モードのことを「抜圧モード」という。
【0046】
以下、この電子制御装置1のブレーキ液圧制御手段によるブレーキ打音抑制制御動作について、具体例と共に図2のフローチャートを用いて説明する。
【0047】
先ず、電子制御装置1には、各種検出値が入力される(ステップST1)。ここで入力される検出値としては、トラクション制御に要する情報であって、少なくとも夫々の車輪WFR,WFL,WRR,WRLの車輪速度や車輌の横加速度、運転者による図示しないアクセルペダルのオンやオフの状態値である。その夫々の車輪速度は、各車輪WFR,WFL,WRR,WRLに夫々設けた図1に示す車輪速センサ91FR,91FL,91RR,91RLに検出させる。また、横加速度は、車輌に設けた図1に示す横加速度センサ92に検出させる。また、アクセルペダルのオンやオフの状態値としては、アクセルペダルのアクセル開度を利用する。そのアクセル開度は、これを検出可能な図1に示すアクセル開度センサ93を利用して検出する。
【0048】
電子制御装置1は、トラクション制御中であるのか否かを判断する(ステップST2)。そのトラクション制御中とは、所謂トラクションコントロールシステムが作動している状態のことであり、車輌が加速走行中で且つスリップ状態にある制御対象輪のスリップを抑えるべく、図示しない駆動源(例えば内燃機関)の出力やその制御対象輪の制動力を調節しているときのことをいう。このステップST2においては、電子制御装置1のトラクション制御手段が駆動力制御手段やブレーキ液圧制御手段に対して、トラクション制御に伴う駆動源の出力や制御対象輪の制動力の調節指令を行っているのか否かに応じて判断を行う。つまり、このステップST2においては、その調節指令が行われていればトラクション制御中との判断が為され、その調節指令が行われていなければトラクション制御中ではないとの判断が為される。
【0049】
このステップST2にてトラクション制御中ではないと判断された場合、電子制御装置1は、本動作を一旦終えて上記のステップST1に戻る。
【0050】
一方、ステップST2にてトラクション制御中であると判断された場合、電子制御装置1のブレーキ液圧制御手段は、制御対象輪のブレーキ液圧調整手段に対して行うブレーキ液圧制御モードが増圧モードであるのか否かを判断する(ステップST3)。
【0051】
このステップST3で増圧モードであると判断された場合、ブレーキ液圧制御手段は、その制御対象輪のブレーキ液圧調整手段の上流側制御圧通路と連通状態にある上流側制御圧通路を有する非制御対象輪のブレーキ液圧調整手段を認定し、その内の少なくとも1つの非制御対象輪のブレーキ液圧調整手段に対してのブレーキ液圧制御モードを上述した抜圧モードに設定する(ステップST4)。尚、このブレーキ液圧制御手段は、このステップST4で設定対象とならない非制御対象輪のブレーキ液圧調整手段のブレーキ液圧制御モードを保持モードのまま保たせる。
【0052】
続いて、このブレーキ液圧制御手段は、制御対象輪のブレーキ液圧調整手段のブレーキ液圧制御モードを増圧モードに切り替えると共に、上記ステップST4で設定対象となった非制御対象輪のブレーキ液圧調整手段のブレーキ液圧制御モードを抜圧モードに切り替える(ステップST5)。
【0053】
ここで、ブレーキ液圧制御手段は、図3に示す如く、その制御対象輪のブレーキ液圧調整手段の増圧モードへの切り替えとその非制御対象輪のブレーキ液圧調整手段の抜圧モードへの切り替えとを略同時に実行する。これにより、主制御圧通路104に供給されたアキュムレータ圧は、上流側制御圧通路を介して制御対象輪のブレーキ液圧調整手段に供給されると共に、その一部が抜圧モードに切り替わった非制御対象輪のブレーキ液圧調整手段を介してリザーバ23に逃げる。これが為、その制御対象輪のブレーキ液圧調整手段にはリザーバ23に逃がした分だけ低いブレーキ液圧が供給されるので、この制御対象輪の制動力発生手段に至るまでのブレーキ液の通路には、アキュムレータ圧よりも低圧のブレーキ液圧が供給されるようになる。従って、この際には、制御対象輪の制動力発生手段に至るまでのブレーキ液の通路内におけるブレーキ液の液圧脈動が減り、ブレーキ打音の発生が抑制される。
【0054】
また、このブレーキ液圧制御手段は、図3に示す如く、その制御対象輪のブレーキ液圧調整手段を増圧モードに制御している期間(制御対象輪の制動力発生手段に対するブレーキ液圧の増圧期間)Aよりもその非制御対象輪のブレーキ液圧調整手段を抜圧モードに制御している期間(ブレーキ液圧の抜圧期間であって、非制御対象輪のブレーキ液圧調整手段の上流側のブレーキ液圧を低下させる期間)Bの方が短くなるように設定及び制御する(A>B)。つまり、このブレーキ液圧制御手段は、制御対象輪に係るブレーキ液圧の増圧期間Aにおける初期段階に非制御対象輪のブレーキ液圧調整手段を抜圧モードへと制御している。これは、上述したように増圧の初期段階において液圧脈動が増えてブレーキ打音が大きくなってしまうからである。更に、そのような期間設定にする理由は、或る程度ブレーキ液圧が増圧させられたならば、ブレーキ液の通路内のブレーキ液圧が安定して液圧脈動が起こりにくくなるからであり、また、非制御対象輪においてアキュムレータ圧の一部を逃がし続けると、制御対象輪の制動力発生手段に供給されるブレーキ液圧が目標制動力を達成させるまで増加できなくなる虞があるからである。ここで、本実施例のブレーキ液圧制御手段は、制御対象輪のブレーキ液圧調整手段の増圧モードへの切り替えと非制御対象輪のブレーキ液圧調整手段の抜圧モードへの切り替えとを略同時に実行させるものとする。
【0055】
具体的には、トラクション制御を行う場合、ブレーキ液圧制御手段は、分割制御弁71,マスタシリンダ圧供給制御弁72,レギュレータ圧供給制御弁73及びアキュムレータ圧供給制御弁74に通電して、図4又は図5に示す如く、分割制御弁71とアキュムレータ圧供給制御弁74を開弁させると共に、マスタシリンダ圧供給制御弁72とレギュレータ圧供給制御弁73を閉弁させる。また、この場合、ブレーキ液圧制御手段は、減圧制御弁75を非励磁状態(閉弁状態)のまま保持させる。そして、このブレーキ液圧制御手段は、各車輪WFR,WFL,WRR,WRLの内の制御対象輪のブレーキ液圧調整手段に対して、そのブレーキ液圧制御モードを適宜増圧モード,減圧モード又は保持モードの何れかに制御する。
【0056】
例えば、上述した低μ路上で駆動トルクを増加させた際のトラクション制御の場合には、駆動輪(ここでは前輪WFR,WFLとする)が制御対象輪になる。この場合、ブレーキ液圧制御手段は、その前輪WFR,WFLのブレーキ液圧調整手段40FR,40FLに対するブレーキ液圧制御モードが増圧モードであると上記ステップST3で判断したならば、そのブレーキ液圧調整手段40FR,40FLの上流側制御圧通路105FR,105FLと連通状態にある上流側制御圧通路105RR,105RLを有する後輪WRR,WRLのブレーキ液圧調整手段40RR,40RLの双方又は何れか一方を抜圧モードに設定する。ここでは、右側後輪WRRのブレーキ液圧調整手段40RRのみを抜圧モードに設定し、残りの左側後輪WRLのブレーキ液圧調整手段40RLを保持モードのまま保たせる。そして、このブレーキ液圧制御手段は、図4に示す如く、制御対象輪たる前輪WFR,WFLのブレーキ液圧調整手段40FR,40FLを増圧モードに制御すると共に、設定された非制御対象輪たる右側後輪WRRのブレーキ液圧調整手段40RRを抜圧モードに制御する。
【0057】
これにより、右側後輪WRRにおける上流側制御圧通路105RRのブレーキ液圧は、ブレーキ液がブレーキ液圧調整手段40RRと減圧通路107RRと主減圧通路108とリザーバ通路106とを介してリザーバ23に戻されるので、主制御圧通路104に供給されているアキュムレータ圧よりも低くなる。これが為、その主制御圧通路104のブレーキ液圧がアキュムレータ圧よりも低圧になり、前輪WFR,WFLのブレーキ液圧調整手段40FR,40FLや制動力発生手段50FR,50FLには、その低くなったブレーキ液圧が供給されるようになる。従って、この前輪WFR,WFLにおいては、ブレーキ液圧の増圧に伴い制動力が増加してトラクション制御が実行されると共に、その制動力発生手段50FR,50FLに至るまでのブレーキ液の通路(上流側制御圧通路105FR,105FL、右側前輪通路109FRや左側前輪通路109FL等)内におけるブレーキ液の液圧脈動が減り、ブレーキ打音の発生が抑制される。
【0058】
ブレーキ液圧制御手段は、上述した期間Bを経た後で非制御対象輪たる右側後輪WRRのブレーキ液圧調整手段40RRを抜圧モードから保持モードに切り替えると共に、上述した期間Aに到達するまで制御対象輪たる前輪WFR,WFLのブレーキ液圧調整手段40FR,40FLを増圧モードに制御し続ける。その後、このブレーキ液圧制御手段は、前輪WFR,WFLのブレーキ液圧調整手段40FR,40FLを保持モードに切り替えて、所定期間経過の後、再び上記と同様の制御対象輪に対するトラクション制御と非制御対象輪に対するブレーキ打音抑制制御を繰り返す。
【0059】
また、例えば、上述したまたぎ路面上での駆動トルクを増加させた際のトラクション制御の場合には、スリップ状態にある駆動輪(ここでは右側前輪WFRとする)が制御対象輪になる。この場合、ブレーキ液圧制御手段は、その右側前輪WFRのブレーキ液圧調整手段40FRに対するブレーキ液圧制御モードが増圧モードであると上記ステップST3で判断したならば、そのブレーキ液圧調整手段40FRの上流側制御圧通路105FRと連通状態にある上流側制御圧通路105FL,105RR,105RLを有する左側前輪WFL及び後輪WRR,WRLのブレーキ液圧調整手段40FL,40RR,40RLの内の少なくとも1つを抜圧モードに設定する。ここでは、左側前輪WFLのブレーキ液圧調整手段40FLのみを抜圧モードに設定し、残りの後輪WRR,WRLのブレーキ液圧調整手段40RR,40RLを保持モードのまま保たせる。そして、このブレーキ液圧制御手段は、図5に示す如く、制御対象輪たる右側前輪WFRのブレーキ液圧調整手段40FRを増圧モードに制御すると共に、設定された非制御対象輪たる左側前輪WFLのブレーキ液圧調整手段40FLを抜圧モードに制御する。
【0060】
これにより、左側前輪WFLにおける上流側制御圧通路105FLのブレーキ液圧は、ブレーキ液がブレーキ液圧調整手段40FLと減圧通路107FLと主減圧通路108とリザーバ通路106とを介してリザーバ23に戻されるので、主制御圧通路104に供給されているアキュムレータ圧よりも低くなる。これが為、その主制御圧通路104のブレーキ液圧がアキュムレータ圧よりも低圧になり、右側前輪WFRのブレーキ液圧調整手段40FRや制動力発生手段50FRには、その低くなったブレーキ液圧が供給されるようになる。従って、この右側前輪WFRにおいては、ブレーキ液圧の増圧に伴い制動力が増加してトラクション制御が実行されると共に、その制動力発生手段50FRに至るまでのブレーキ液の通路(上流側制御圧通路105FRや右側前輪通路109FR等)内におけるブレーキ液の液圧脈動が減り、ブレーキ打音の発生が抑制される。
【0061】
この場合においても、ブレーキ液圧制御手段は、上述した期間Bを経た後で非制御対象輪たる左側前輪WFLのブレーキ液圧調整手段40FLを抜圧モードから保持モードに切り替えると共に、上述した期間Aに到達するまで制御対象輪たる右側前輪WFRのブレーキ液圧調整手段40FRを増圧モードに制御し続ける。その後、このブレーキ液圧制御手段は、右側前輪WFRのブレーキ液圧調整手段40FRを保持モードに切り替えて、所定期間経過の後、再び上記と同様の制御対象輪に対するトラクション制御と非制御対象輪に対するブレーキ打音抑制制御を繰り返す。
【0062】
尚、上記ステップST3で増圧モードではないと判断された場合、ブレーキ液圧制御手段は、制御対象輪のブレーキ液圧調整手段を通常通り減圧モード又は保持モードに制御して(ステップST6)、通常のトラクション制御を実行する。
【0063】
以上示した如く、本実施例の制動制御装置は、トラクション制御実行時の制御対象輪と上流側が連通している非制御対象輪のブレーキ液圧調整手段を制御して主制御圧通路104のブレーキ液圧をアキュムレータ圧よりも低下させ、その低下したブレーキ液圧を制御対象輪に係るブレーキ液通路に対して供給する。これが為、この制動制御装置は、その制御対象輪に制動力を加えてトラクション制御を実行させることができると共に、そのブレーキ液通路内におけるブレーキ液の液圧脈動を減少させてブレーキ打音の発生を抑制することができる。
【0064】
ここで、上述した実施例では、制御対象輪に係るブレーキ液圧の増圧期間Aの初期段階における非制御対象輪のブレーキ液圧調整手段の抜圧モードへの制御の際、制御対象輪のブレーキ液圧調整手段の増圧モードへの切り替えと非制御対象輪のブレーキ液圧調整手段の抜圧モードへの切り替えとを略同時に実行させた。しかしながら、ブレーキ液圧制御手段には、図6に示す如く、僅かな時間(時間D)でも非制御対象輪のブレーキ液圧調整手段の抜圧モードへの切り替えを先に行わせる方が好ましい。これは、増圧モードへの切り替えと抜圧モードへの切り替えとが略同時に実行されると、上流側制御圧通路のブレーキ液圧を低下させる前に高圧のままのブレーキ液圧が制御対象輪のブレーキ液圧調整手段や制動力発生手段に供給されてしまう可能性が否めないからである。従って、かかる可能性を排除してブレーキ打音の発生を確実に抑えるべく、非制御対象輪のブレーキ液圧調整手段の抜圧モードへの切り替えは、制御対象輪のブレーキ液圧調整手段の増圧モードへの切り替えよりも先に実行しておくことが望ましい。つまり、ブレーキ液圧制御手段は、先ず非制御対象輪のブレーキ液圧調整手段の抜圧モードへの切り替えを行った後に、制御対象輪のブレーキ液圧調整手段を増圧モードへと切り替え、その非制御対象輪のブレーキ液圧調整手段の抜圧モードをその増圧モードの実行期間における初期段階で終わらせるようにしてもよい。
【0065】
また、上述した実施例においてはトラクション制御時を例に挙げて説明したが、本発明は、ブレーキ液圧を増圧して制動力を増加させる制御対象輪とブレーキ液圧の増減圧対象とならない非制御対象輪とが少なくとも一輪ずつ存在している制動力の制御形態であるならば、上記の例示と同様にして適用可能である。例えば、各車輪WFR,WFL,WRR,WRLの内の何れかにのみ制動力を加え、これにより車輌の挙動の安定化を図る制御(所謂ビークルスタビリティ制御等)が存在している。かかる制御においては、制動力を加える車輪を制御対象輪とし、これと上流側でブレーキ液通路が連通している制動力を加えない車輪を非制御対象輪とすることで、トラクション制御のときと同様に、その制御対象輪のブレーキ液通路の液圧脈動を減少させてブレーキ打音の発生を抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
以上のように、本発明に係る制動制御装置は、高圧のブレーキ液圧を供給した際の液圧脈動に伴うブレーキ打音を抑制させる技術に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明に係る制動制御装置とその制御対象たる車輌用制動装置の構成の一例について示す図である。
【図2】本発明に係る制動制御装置のブレーキ打音抑制制御動作について説明するフローチャートである。
【図3】制御対象輪のブレーキ液圧の増圧時期と非制御対象輪のブレーキ液圧の減圧時期の一例について示す図である。
【図4】低μ路でのトラクション制御中にブレーキ打音抑制制御を実行した際のブレーキ液圧の回路の状態について示す図である。
【図5】またぎ路面でのトラクション制御中にブレーキ打音抑制制御を実行した際のブレーキ液圧の回路の状態について示す図である。
【図6】制御対象輪のブレーキ液圧の増圧時期と非制御対象輪のブレーキ液圧の減圧時期の他の例について示す図である。
【符号の説明】
【0068】
1 電子制御装置(ECU)
10 ブレーキペダル
20 ブレーキ液圧発生手段
21 マスタシリンダ
22 ハイドロブースタ
23 リザーバ
30 高圧発生手段
40FR,40FL,40RR,40RL ブレーキ液圧調整手段
50FR,50FL,50RR,50RL 制動力発生手段
71 分割制御弁
72 マスタシリンダ圧供給制御弁
74 アキュムレータ圧供給制御弁
75 減圧制御弁
101 マスタ通路
102 ブースタ通路
103 高圧通路
104 主制御圧通路
105FR,105FL,105RR,105RL 上流側制御圧通路
106 リザーバ通路
107FR,107FL,107RR,107RL 減圧通路
108 主減圧通路
109FR 右側前輪通路
109FL 左側前輪通路
109RR 右側後輪通路
109RL 左側後輪通路
NCFR,NCFL,NCRR,NCRL 減圧弁
NOFR,NOFL,NORR,NORL 増圧弁
FR,WFL,WRR,WRL 車輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輌の夫々の車輪の制動力発生手段に対するブレーキ液圧を個別に調節可能なブレーキ液圧調整手段の制御を行うブレーキ液圧制御手段を備えた制動制御装置において、
前記ブレーキ液圧制御手段は、ブレーキ液圧の増圧対象となる制御対象輪とブレーキ液圧の増減圧対象とならない非制御対象輪とが少なくとも一輪ずつ存在している場合に、前記制御対象輪の制動力発生手段に対するブレーキ液圧を増圧させるべく当該制御対象輪のブレーキ液圧調整手段を制御し、該制御対象輪のブレーキ液圧調整手段と上流側で連通状態にある非制御対象輪のブレーキ液圧調整手段の上流側のブレーキ液圧を低下させるべく当該非制御対象輪のブレーキ液圧調整手段を制御するように構成したことを特徴とする制動制御装置。
【請求項2】
前記ブレーキ液圧調節手段は、その上流側と抜圧室とを連通させる抜圧モードを有し、前記ブレーキ液圧制御手段は、前記非制御対象輪のブレーキ液圧調整手段を抜圧モードに制御して当該非制御対象輪のブレーキ液圧調整手段の上流側のブレーキ液圧を低下させるように構成したことを特徴とする請求項1記載の制動制御装置。
【請求項3】
前記ブレーキ液圧制御手段は、前記制御対象輪の制動力発生手段に対するブレーキ液圧の増圧期間よりも前記非制御対象輪のブレーキ液圧調整手段の上流側のブレーキ液圧を低下させる期間の方が短くなる制御を行うように構成したことを特徴とする請求項1又は2に記載の制動制御装置。
【請求項4】
前記ブレーキ液圧制御手段は、前記制御対象輪の制動力発生手段に対するブレーキ液圧の増圧期間の初期段階で前記非制御対象輪のブレーキ液圧調整手段の上流側のブレーキ液圧が低下されているように構成したことを特徴とする請求項1,2又は3に記載の制動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−202631(P2009−202631A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−44339(P2008−44339)
【出願日】平成20年2月26日(2008.2.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】