制御システム
【課題】遺伝的アルゴリズムを利用して最適な制御値を求めることができる制御システムを提供することを課題とする。
【解決手段】制御対象システムを制御するための制御値を出力する制御システムであって、制御対象システムに対する最適な制御値を生成する最適制御装置を有し、最適制御装置は、遺伝的アルゴリズムを実施した回数が設定された実施回数になるまで、遺伝的アルゴリズムを実施する毎に初期個体を発生し、その発生した初期個体を用いて遺伝的アルゴリズムを実施して適応度の高い個体を探索し、遺伝的アルゴリズムを実施した回数が実施回数になった場合、その実施回数分の遺伝的アルゴリズムでそれぞれ探索された個体の中から最も適応度の高い個体を選択し、その選択した個体に基づいて制御対象システムに出力する制御値を生成することを特徴とする。
【解決手段】制御対象システムを制御するための制御値を出力する制御システムであって、制御対象システムに対する最適な制御値を生成する最適制御装置を有し、最適制御装置は、遺伝的アルゴリズムを実施した回数が設定された実施回数になるまで、遺伝的アルゴリズムを実施する毎に初期個体を発生し、その発生した初期個体を用いて遺伝的アルゴリズムを実施して適応度の高い個体を探索し、遺伝的アルゴリズムを実施した回数が実施回数になった場合、その実施回数分の遺伝的アルゴリズムでそれぞれ探索された個体の中から最も適応度の高い個体を選択し、その選択した個体に基づいて制御対象システムに出力する制御値を生成することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝的アルゴリズムを利用した制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
空調システム等の各種システムでは、設計時にシステムに組み込まれる各機器の定格情報等に基づいて省エネルギ等を目的とした制御テーブル等が設定され、その制御テーブル等から導出される各機器に対する制御値に基づいて運転される。しかし、各機器の性能については個体差があり、また、使用頻度に応じて各機器の経年変化も異なるので、システムを最適制御するためには運転開始後に制御テーブル等を随時更新する必要がある。システムの制御テーブル等を更新する手法は様々提案されており、遺伝的アルゴリズムを利用した手法がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、空気調和機のコンプレッサモータのインバータ回路に対する周波数制御において、運転時の周波数と室内検出温度との間の動特性に適合するように遺伝的アルゴリズムを用いて周波数制御テーブルを更新することが記載されている。特許文献2には、空気調和機等の冷凍サイクル制御装置において、弁開度と過熱度との間の動特性に適合するように遺伝的アルゴリズムを用いて電子膨張弁の弁開度用過熱度制御テーブルを更新することが記載されている。特許文献3には、住宅の発電機による電力と熱を利用したコジェネレーションシステムにおいて、各住宅のエネルギ需要量の履歴データに基づいて遺伝的アルゴリズムを用いて制御マップを更新することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−253236号公報
【特許文献2】特開平8−166169号公報
【特許文献3】特開2006−275473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
遺伝的アルゴリズムでは、初期個体をランダムに発生させ、その初期個体から適応度の高い個体(例えば、エネルギ消費量の少ない個体)を探索する。しかし、初期個体をランダムに発生させているので、初期個体が適切でない場合には適応度の高い個体が生まれずに、最適制御に適した制御テーブル等が得られない場合がある。また、遺伝的アルゴリズムでは遺伝的操作として突然変異も行うが、初期個体が適切でない場合には突然変異だけでは適応度の高い個体が生まれる確率が低い。その結果、制御対象システムの各機器に対する最適な制御値が得られず、最適制御ができない。
【0006】
そこで、本発明は、遺伝的アルゴリズムを利用して最適な制御値を求めることができる制御システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る制御システムは、制御対象システムを制御するための制御値を出力する制御システムであって、制御対象システムに対する最適な制御値を生成する最適制御装置を有し、最適制御装置は、遺伝的アルゴリズムを実施する実施回数を設定する実施回数設定手段と、初期個体を発生する初期個体発生手段と、遺伝的アルゴリズムを実施する実施手段とを備え、遺伝的アルゴリズムを実施した回数が実施回数設定手段で設定した実施回数になるまで、遺伝的アルゴリズムを実施する毎に初期個体発生手段で初期個体を発生し、当該発生した初期個体を用いて実施手段で遺伝的アルゴリズムを実施して適応度の高い個体を探索し、遺伝的アルゴリズムを実施した回数が実施回数設定手段で設定した実施回数になった場合、実施回数設定手段で設定した実施回数分の遺伝的アルゴリズムでそれぞれ探索された個体の中から最も適応度の高い個体を選択し、当該選択した個体に基づいて制御対象システムに出力する制御値を生成することを特徴とする。
【0008】
この制御システムは、制御対象システムを制御するためのシステムであり、制御対象システムを最適に制御するための制御値を生成する最適制御装置を有している。最適制御装置では、実施回数設定手段によって遺伝的アルゴリズムを繰り返し実施する実施回数を設定する。遺伝的アルゴリズムを実施した回数がその実施回数になるまで、最適制御装置では、遺伝的アルゴリズムを実施する毎に、初期個体変更手段で初期個体を新たに発生し、その初期個体を用いて実施手段で遺伝的アルゴリズムを実施して適応度の高い個体を探索する。遺伝的アルゴリズムを実施した回数がその実施回数になると、最適制御装置では、実施回数分の遺伝的アルゴリズムでそれぞれ探索された個体の中から最も適応度の高い個体を選択し、最も適応度の高い個体に基づいて制御対象システムに出力する制御値を生成する。このように、初期個体を実施回数分発生させることにより、様々な初期個体によって遺伝的アルゴリズムを実施できる。この際、一部の初期個体が不適切で適応度の高い個体が得られない場合でも、それ以外の初期個体から適応度の高い個体を得ることができ、その適応度の高い個体の中から最も適応度の高い個体を得ることができ、最適な制御値を生成できる。このように、制御システムは、初期個体を変更して遺伝的アルゴリズムを繰り返し実施することにより、最適な制御値を求めることができる。
【0009】
なお、最も適応度の高い個体に基づいて制御対象システムに出力する制御値を生成する場合、最も適応度の高い個体から制御値を直接生成してもよいし、あるいは、最も適応度の高い個体から制御値を導出するための制御テーブルや制御特性式等を生成し、その制御テーブル等から制御値を生成してもよい。
【0010】
本発明の上記制御システムでは、制御対象システムに対する基本の制御値を生成する基本制御装置を有し、制御対象システムに出力する制御値を最適制御装置と基本制御装置との間で切り替える場合、切り替え前の制御装置の制御値から切り替え後の制御装置の制御値に徐々に変える構成としてもよい。
【0011】
この制御システムは、最適制御装置の他に、制御対象システムを制御するための基本の制御値を生成する基本制御装置を有している。そして、制御システムでは、制御対象システムに出力する制御値を最適制御装置の制御値から基本制御装置の制御値へ又は基本制御装置の制御値から最適制御装置の制御値へ切り替える場合、切り替え前の制御装置の制御値から切り替え後の制御装置の制御値に徐々に変える。このように、制御システムは、最適制御装置と基本制御装置とを切り替えるときには制御値を徐々に変えることにより、制御値が急激に変化することを防止でき、制御対象システムでの急峻な出力を抑制できる。また、制御システムは、最適制御装置に不具合が発生して最適化制御できない場合でも、基本制御装置によって基本的な制御が可能である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、初期個体を変更して遺伝的アルゴリズムを繰り返し実施することにより、最適な制御値を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施の形態に係る空調システムの構成図である。
【図2】図1の空調システムにおける制御システムの構成図である。
【図3】データベース1の一例である。
【図4】データベース2の一例である。
【図5】図1の最適制御用パソコンで実施されるメインプログラムの流れを示すフローチャートである。
【図6】図1の最適制御用パソコンで実施されるプログラムAの流れを示すフローチャートである。
【図7】図1の最適制御用パソコンで実施されるプログラムBによるエネルギ消費量計算の説明図である。
【図8】図1の最適制御用パソコンで実施されるプログラムC(ON時)の流れを示すフローチャートである。
【図9】図1の最適制御用パソコンで実施されるプログラムC(OFF時)の流れを示すフローチャートである。
【図10】図1の最適制御用パソコンで実施されるプログラムE(ON時)の流れを示すフローチャートである。
【図11】図1の最適制御用パソコンで実施されるプログラムE(OFF時)の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明に係る制御システムの実施の形態を説明する。なお、各図において同一又は相当する要素については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0015】
本実施の形態では、本発明に係る制御システムを、空調システム(熱源システム)を制御するための制御システムに適用する。本実施の形態に係る制御システムは、空調システムにおけるエネルギ消費量やCO2排出量を最小にする最適制御を行う最適制御機能と最適制御が行われない場合でも空調システムに対する基本的な制御を行う基本制御機能を有しており、オペレータによる中央監視にて機能を切り替える。
【0016】
まず、図1を参照して、本実施の形態に係る空調システム1について説明する。図1は、本実施の形態に係る空調システムの構成図である。
【0017】
空調システム1は、複数台の冷却塔1a、冷却水ポンプ1b、冷凍機1c、一次ポンプ(冷水ポンプ)1d等を備えている(図1の例では、2台の冷却塔1a、冷却水ポンプ1b、冷凍機1c、一次ポンプ1dだけを描いている)。冷却塔1aは、冷凍機1cで冷却に使われて戻ってきた温度の高い冷却水を冷却する。冷却水ポンプ1bは、冷却塔1aと冷凍機1c間で冷却水を循環させる。冷凍機1cは、空調機(図示せず)で使われて戻ってきた温度の高い水を、冷却塔1aからの冷却水を用いて再度冷やす。一次ポンプ1dは、冷凍機1cと空調機間で冷水(熱媒体)を循環させる。なお、本実施の形態では、空調システム1が特許請求の範囲に記載する制御対象システムに相当する。
【0018】
空調システム1は、制御システム2によって制御され、空調システム1を最適に制御するための運転台数、熱源容量、冷却水温度、冷却水流量、冷水流量等の制御値が与えられる。この制御のために、空調システム1での運転中、一定時間毎に、外気の温度や湿度、運転台数、熱源容量、冷却水温度、冷却水流量、冷水温度、冷水流量等のデータが検知され、その各データが制御システム2で収集され、過去ログデータとして蓄積される。
【0019】
空調システム1は、冷却塔1a、冷却水ポンプ1b、冷凍機1c、一次ポンプ1dが1つの対となって運転され、例えば、冷凍機1cの運転台数が3台の場合には3台の冷凍機1cにそれぞれ対となる冷却塔1a、冷却水ポンプ1b、一次ポンプ1dもそれぞれ運転される。空調システム1では、空調負荷がピーク(100%)のときには全台数の冷却塔1a、冷却水ポンプ1b、冷凍機1c、一次ポンプ1dが運転されが、空調負荷がピークでないとき(部分負荷)にはその負荷に応じて運転台数が決定され、その運転台数分の冷却塔1a、冷却水ポンプ1b、冷凍機1c、一次ポンプ1dだけが運転される。
【0020】
このように、空調システム1では、常に全ての台数の機器が運転しているのではなく、殆ど時間で一部の台数の機器が運転している。さらに、運転している場合でも、常に機器の能力の100%で運転しているのではなく、殆ど時間で負荷の状態に応じて100%未満の能力で運転している。また、同じ運転台数でも、運転する機器と停止する機器の組み合わせが随時変わるため、経年変化による劣化状態が各機器によって異なる。また、同じ機器でも、個体差があり、性能が多少異なる。以上により空調システム1に対して最適制御を行う場合、設計時の定格情報(カタログ情報)に基づいて設定された制御テーブルに基づいて制御を行っても最適制御とならず(特に、運転開始後から時間が経過するほど)、運転中の各機器の過去ログデータを用いて制御テーブルを定期的に更新する必要がある。
【0021】
図2〜図11を参照して、本実施の形態に係る制御システム2について説明する。図2は、制御システムの構成図である。図3は、データベース1の一例である。図4は、データベース2の一例である。図5は、最適制御用パソコンで実施されるメインプログラムの流れを示すフローチャートである。図6は、最適制御用パソコンで実施されるプログラムAの流れを示すフローチャートである。図7は、最適制御用パソコンで実施されるプログラムBによるエネルギ消費量計算の説明図である。図8は、最適制御用パソコンで実施されるプログラムC(ON時)の流れを示すフローチャートである。図9は、最適制御用パソコンで実施されるプログラムC(OFF時)の流れを示すフローチャートである。図10は、最適制御用パソコンで実施されるプログラムE(ON時)の流れを示すフローチャートである。図11は、最適制御用パソコンで実施されるプログラムE(OFF時)の流れを示すフローチャートである。
【0022】
制御システム2は、空調システム1の最適運転を目的として空調システム1でのエネルギ消費量やCO2排出量が最小になるように最適制御を行うとともに、最適制御が行われていない場合には空調システム1に対する制御を保障するために空調システム1に対して基本的な制御を行う。そのために、制御システム2は、インテリジェントコントローラ2a、BEMS[Building Energy Management System]2b、熱源群管理用PLC[Programable Logic Controller]2c、最適制御用PLC2d、最適制御用パーソナルコンピュータ(以下、最適制御用パソコン)2e、制御システムコントローラ2jを備えている。この最適制御用PLC2dと最適制御用パソコン2eによって最適制御を行い、制御システムコントローラ2jによって基本制御を行い、中央監視にてオペレータが最適制御をONしているときには最適制御用パソコン2eによる制御値を最適制御用PLC2dを介して出力し、中央監視にてオペレータがOFFしているときには制御システムコントローラ2jの制御値を出力し、ONとOFFとが切り替わる過渡期には徐々に変化する制御値を出力する。なお、本実施の形態では、最適制御用PLC2dと最適制御用パソコン2eが特許制御の範囲に記載する最適制御装置に相当し、制御システムコントローラ2jが特許請求の範囲に記載する基本制御装置に相当する。
【0023】
インテリジェントコントローラ2aとBEMS2bと最適制御用パソコン2e間は、IPv[Internet Protocol Version]4又はIPv6のネットワーク2fで通信が行われる。インテリジェントコントローラ2aと熱源群管理用PLC2c間は、同軸ケーブル2gで通信が行われる。熱源群管理用PLC2cと最適制御用PLC2d間は、同軸ケーブル2hで通信が行われる。熱源群管理用PLC2cと制御システムコントローラ2j間は、同軸ケーブル2kで通信が行われる。最適制御用PLC2dと最適制御用パソコン2e間は、イーサネット(登録商標)2iで通信が行われる。
【0024】
インテリジェントコントローラ2aは、外気から検知されたデータを収集して管理し、そのデータを最適制御用パソコン2eに送信する。収集するデータとしては、例えば、外気温度、外気湿度がある。また、最適制御用PLC2dは、空調システム1で検知されたデータを収集して管理し、そのデータを最適制御用パソコン2eに送信する。収集するデータとしては、例えば、空調システム1の運転台数、各機器の運転状態(冷却水の出口温度と入口温度、冷却水流量、冷水の出口温度と入口温度、冷水流量、熱源容量等)がある。
【0025】
BEMS2bは、空調システム1のエネルギデータを収集して管理し、そのデータを最適制御用パソコン2eに送信する。収集するデータとしては、例えば、空調システム1の各機器の電力消費量(エネルギ消費量)、空調機の負荷率(熱量消費率)がある。
【0026】
熱源群管理用PLC2cは、最適制御用PLC2dから空調システム1に対する制御値を受信する毎に、その制御値を制御システムコントローラ2jに送信する。制御システムコントローラ2jでは、熱源群管理用PLC2cを介して空調システム1に対する制御値を最適制御用PLC2dから受信する毎に、その制御値に基づいて空調システム1の各機器に命令を出力する。各機器に対する命令としては、例えば、各冷却塔1aに対する冷却水温度制御命令、各冷却水ポンプ1bに対する冷却水流量比に基づくインバータ周波数制御命令、各一次ポンプ1dに対する一次ポンプ流量比に基づくインバータ周波数制御命令がある。この際、空調負荷状態に応じて運転台数が決定されているので、運転が停止される機器については通電が停止され、制御が行われない。また、制御システムコントローラ2jでは、現在の外気温度、外気湿度、空調システム1の各機器の運転状態等に基づいて空調システム1に対する基本的な制御を行い、空調システム1に対する制御値を求め、最適制御がOFFのときにはその制御を行う。この基本的な制御については、従来の方法を適用する。なお、熱源群管理用PLC2cについては、複数台で構成してもよい。
【0027】
最適制御用PLC2dは、最適制御用パソコン2eから空調システム1に対する制御値を受信する毎に、その制御値を熱源群制御用PLC2cに送信する。
【0028】
最適制御用パソコン2eは、空調システム1の運転開始後に、運転中の空調システム1の各機器の運転状態や電力消費量等のデータに基づいてエネルギ消費量やCO2排出量を最小にする最適制御を行う。そのために、最適制御用パソコン2eは、空調システム1の過去ログを格納するためのログデータベースを保持しており、インテリジェントコントローラ2aからの外気温度、外気湿度と最適制御用PLC2dからの空調システム1の各機器の運転状態とBEMS2bからの空調システム1の各機器の電力消費量(エネルギ消費量)、空調機の負荷率(熱量消費率)をログデータベースに蓄積する。また、最適制御用パソコン2eは、各機器の制御値を設定するための制御テーブルとしてデータベース1とデータベース2を保持しており、一定期間毎(例えば、1ヶ月毎)に、ログデータベースに蓄積されたデータを利用して空調システム1全体として最適制御を行うためにデータベース1とデータベース2を更新する。この際、最適制御用パソコン2eは、各機器のエネルギ消費量を計算するための特性式の係数の最適値を探索するために遺伝的アルゴリズムを用いる。
【0029】
空調システム1全体としての最適運転のために、各機器に対する制御を相互連携させることによってシステム効率の最大化を図る。各機器に対する省エネルギ制御として、冷却塔1aの冷却水温度を上げると冷却塔1aの電力消費量が減り、冷却水ポンプ1bによる冷却水流量を絞ると冷却水ポンプ1bの電力消費量が減り、一次ポンプ1dによる冷水流量を絞ると一次ポンプ1dの電力消費量が減るので、これらの各制御を相互に連携させることによってシステム効率の最大化を図る。そのために、運転台数毎に各機器に対する制御値の全ての組み合わせについての空調システム1全体の電力消費量(エンルギ消費量)を求め、空調システム1全体の電力消費量が最小となる制御値の組み合わせを抽出する。
【0030】
最適制御用パソコン2eでの具体的な処理を説明する前に、最適制御用パソコン2eで用いられるデータベース1とデータベース2について説明しておく。まず、図3を参照してデータベース1について説明する。データベース1は、空調システム1の運転台数を決定するためのデータベースである。データベース1は、外気エンタルピ(外気温度と外気湿度で決まる物理量)と二次側装置負荷率(空調機での熱量消費率)とで決まる運転台数を規定したデータベースである。図3に示すデータベース1は空調システム1の最大運転台数が4台の場合であり、例えば、外気エンタルピが56であり、二次側装置負荷率が0.40のときには運転台数が3台(3台の冷凍機1cを運転させるので、その3台の冷凍機1cと対となる冷却塔1a、冷却水ポンプ1b、一次ポンプ1dもそれぞれ運転させる)となる。なお、空調システム1の運転開始時には、データベース1は、設計時に各機器のカタログ値に基づいてシミュレーションによってエネルギ消費量やCO2排出量が最小になるように設定されたものである。
【0031】
次に、図4を参照してデータベース2について説明する。データベース2は、データベース1で決定した運転台数で空調システム1を運転する場合の制御値を決定するためのデータベースである。データベース2は、制御値の組み合わせ毎の空調システム1全体の電力消費量(エネルギ消費量)及び各機器の電力消費量からなるデータベースであり、運転台数毎の空調システム1全体の電力消費量が最小となる制御値の組み合わせを示したデータベースである。なお、データベース2については、運転台数毎のデータを示したものでもよいし、あるいは、全ての運転台数のデータを示したものでもよい。
【0032】
図4に示すデータベース2は空調システム1の最大運転台数が4台の場合であり、機器NO.1〜NO.4の冷却塔1a、冷却水ポンプ1b、冷凍機1c、一次ポンプ1dを備えている。特に、図4では、データベース2における運転台数が3台の場合のデータの一部を示している。制御値としては、機器NO.1〜NO.4についての空調機への送水温度、一次ポンプ1dの流量比、冷却塔1aでの冷却水設定温度、冷却水ポンプ1bの流量比がある。また、電力消費量としては、空調システム全体の電力消費量と機器NO.1〜NO.4についての冷凍機1cの電力消費量、一次ポンプ1dの電力消費量、冷却水ポンプ1bの電力消費量、冷却塔1aのファンの電力消費量がある。なお、制御値や電力消費量が「0」になっている機器(図4の例では、機器NO.4)については運転を停止する。
【0033】
制御値の組み合わせは、送水温度、一次ポンプ流量比、冷却塔設定温度、冷却水ポンプ流量比をそれぞれの変動範囲内でそれぞれ一定の刻み幅で変化させた全ての組み合わせである。図4の例の場合、流量比については「0.05」の刻み幅で変化させており、温度について「1」の刻み幅で変化させている。この制御値の全ての組み合わせについて空調システム1の各機器の電力消費量がそれぞれ計算され、その各機器の電力消費量からシステム電力消費量が計算され、この制御値の全ての組み合わせについてシステム電力消費量の中から最小となるシステム電力消費量が抽出され、その抽出されたシステム電力消費量のときの制御値の組み合わせが最適な制御となる。
【0034】
図4に示す例は、運転台数が3台の場合であり、機器NO.1〜NO.3を運転し、機器NO.4を停止させる場合のデータが示されており、制御値は機器NO.4の各値が全て「0」となっており、電力消費量も機器NO.4の各値が全て「0」となっている。この図4に示す例の場合、システム電力消費量としては「647.4」が最小となり、そのシステム電力消費量が「647.4」となるときの制御値の組み合わせCが抽出されており、その抽出された制御値の組み合わせCがデータベース2の特定箇所に格納される。したがって、データベース1で運転台数が「3」と決定された場合、データベース2の特定箇所からシステム電力消費量が最小の制御値の組み合わせを抽出することにより、エネルギ消費量やCO2排出量を最小にする最適な制御値の組み合わせとなる。
【0035】
最適制御用パソコン2eでの処理について説明する。最適制御用パソコン2eでは、メモリ装置に空調システム1を最適制御するための各プログラム(メインプログラム、プログラムA、プログラムB、プログラムC(ON時)、プログラムC(OFF時)、プログラムD、プログラムE(ON時)、プログラムE(OFF時)等)を保持しており、この各プログラムをRAMにロードしてCPUで実行する。なお、本実施の形態では、プログラムAでの各処理が特許請求の範囲に記載する実施回数設定手段、初期個体発生手段、実施手段に相当する。
【0036】
まず、図5のフローチャートに沿って、最適制御用パソコン2eでのメインプログラムの処理の流れを説明する。最適制御用パソコン2eは、一定周期毎に(制御周期と同じ周期であり、例えば、5分毎)、空調システム1の過去ログデータをログデータベースに蓄積する(S1)。ログデータベースに格納されるデータは、例えば、データ収集された時刻毎に、外気温度、外気湿度、空調システム1の各機器の運転状態(冷却水の出口温度と入口温度、冷却水流量、冷水の出口温度と入口温度、冷水流量等)、各機器のエネルギ消費量(電力消費量)、運転モード、制御値の組み合わせがある。
【0037】
最適制御用パソコン2eでは、プログラムAを起動し、ログデータベースの過去ログデータを用いて、空調システム1の機器毎にエネルギ消費量(電力消費量)を計算するための機器特性式の係数を遺伝的アルゴリズムを利用して計算する(S2)。そして、最適制御用パソコン2eでは、空調システム1の機器毎に、機器特性式の係数のファイルをCSV[Comma Separated Values]形式で作成する(S3)。このファイルは、各機器についての機器特性式の係数列である。
【0038】
最適制御用パソコン2eでは、プログラムBを起動し、各ケース(運転台数毎に全ての制御値の組み合わせ)について、機器毎に機器特性式(機器特性式にCSVファイルの係数値を組み込んだもの)を用いてエネルギ消費量を計算し、空調システム1全体のエネルギ消費量を計算する(S4)。そして、最適制御用パソコン2eでは、その計算した各ケースについての各機器のエネルギ消費量(電力消費量)及び空調システム全体のエネルギ消費量(システム電力消費量)により、データベース2を書き換える(S5)。このデータベース2の書き換えに応じて、最適制御用パソコン2eでは、データベース1も書き換える。このデータベースの書き換え(更新)は、指定された期間毎(例えば、1ヶ月に1回)に行われる。したがって、最適制御では、この指定された期間毎に更新されるデータベース1とデータベース2を用いて、エネルギ消費量やCO2排出量を最小にする最適な制御値を設定する。
【0039】
最適制御用パソコン2eでは、中央監視による最適制御に対するON/OFFに応じて、ONの場合にはプログラムC(ON時)を起動し、OFFの場合にはプログラムC(OFF時)を起動し、制御値を最適制御用PLC2d、熱源群管理用PLC2cを介して制御システムコントローラ2jに受け渡す(S6)。最適制御がOFFからONに切り替わったときには所定期間の間はプログラムC(ON時)で出力される制御値が用いられ、最適制御が完全ONするとデータベース2による制御値(最適制御の制御値)がそのまま用いられる。一方、最適制御がONからOFFに切り替わったときには所定期間の間はプログラムC(OFF時)で出力される制御値が用いられ、最適制御が完全OFFすると制御システムコントローラ2jによる制御値(基本制御の制御値)がそのまま用いられる。
【0040】
そして、制御システム2では、制御システムコントローラ2jからの命令によって空調システム1の各機器を制御する。空調システム1が運転中、インテリジェントコントローラ2aによって外気のデータが収集され、最適制御用PLC2dによって空調システム1の各機器の運転状態のデータが収集されてログデータとして管理されるとともに、BEMS2bによって空調システム1の各機器の電力消費量(エネルギ消費量)が収集されてログデータとして管理される。そして、最適制御用パソコン2eでは、プログラムDを起動し、一定周期毎に、インテリジェントコントローラ2a、最適制御用PLC2dで管理されているログデータ及びBEMS2bで管理されているログデータを受領し(S7)、その受領したログデータ及びそのときの制御値をログデータベースに蓄積する(S1)。
【0041】
図6のフローチャートに沿って、プログラムAについて説明する。プログラムAについて具体的に説明する前に、機器特性式について説明しておく。機器特性式の一例として、冷凍機のエネルギ消費量f1を計算するための機器特性式(1)を示す。式(1)におけるx1(t)〜x5(t)はログデータベースに格納される過去ログデータであり、x1(t)は負荷率であり、x2(t)は冷却水温度であり、x3(t)は冷却水流量であり、x4(t)は一次冷水流量であり、x5(t)は送水温度である。tは、ログデータベースに格納されるログデータが収集されたときの時刻パラメータである。式(1)におけるc1(t)〜c5(t)は影響度である。c1(x1(t),x2(t))は式(2)で求められ、負荷率と冷却水温度の影響度である。c2(x3(t))は式(3)で求められ、冷却水流量の影響度である。c3(x4(t))は式(4)で示すように1.0であり、一次冷水流量の影響度である。c4(x5(t))は式(5)で求められ、送水温度の影響度である。式(2)〜式(5)におけるu1(i)〜u13(i)は機器特性式の係数である。iは、個体数である。このように、冷凍機のエネルギ消費量f1は、式(1)を用いて、x1(t)〜x5(t)を変数とし、u1(i)〜u13(i)の係数によって求めることがきる。プログラムAでは、ログデータベースに格納される過去ログデータを用いて、各機器のついての機器特性式の各係数uの最適値を求める。
【数1】
【0042】
それでは、プログラムAについて説明する。プログラムAは空調システム1の全ての機器に対してそれぞれ実行され、全ての機器についての機器特性式の最適な係数を計算する。ここでは、機器毎、遺伝的アルゴリズムを利用して、係数の組み合わせを順次変えながら機器特性式によってエネルギ消費量を順次計算し、その機器特性式によるエネルギ消費量の計算値とエネルギ消費量の実測値(過去ログデータ)との偏差が最小となる係数の組み合わせを決める。
【0043】
最適制御用パソコン2eでは、プログラムの初期条件のデータと計算対象の各機器の固有データを取得する(S10)。初期条件のデータとしては、例えば、ログデータベースのデータ数(例えば、過去1ヶ月分の5分周期で収集されたデータの数)、遺伝的アルゴリズムを繰り返し実施する最大ステップ数(例えば、5回、10回、20回)、遺伝的アルゴリズムの最大世代数がある。各機器の固有データとしては、例えば、機器の定格情報(例えば、定格能力、定格電力消費量)、機器の基準係数、機器の影響度、初期個体適応度がある。また、最適制御用パソコン2eでは、ログデータベースから過去ログデータを取得する(S11)。過去ログデータとしては、例えば、冷凍機の場合、冷水流量、冷水出口温度、冷水入口温度、冷却水流量、冷却水出口温度、冷却水入口温度、電力消費量がある。なお、過去ログデータとしては、システム起動/停止時のデータは変動する場合があるので、システム起動の30分経過後から停止の30分前までのデータを用いる。
【0044】
最適制御用パソコン2eでは、機器特性式の各係数を遺伝子と見立て、初期個体をランダムに発生させる(S12)。そして、遺伝的アルゴリズムを実施する。具体的には、最適制御用パソコン2eでは、生存個体を決定し(S13)、遺伝子交叉を行い(S14)、突然変異を行う(S15)。そして、最適制御用パソコン2eでは、生成された遺伝子(機器特性式の各係数)を元に機器特性式によって計算されたエネルギ消費量とエネルギ消費量の実測値(過去ログデータ)との偏差(適応度に相当)を計算する(S16)。さらに、最適制御用パソコン2eでは、各遺伝子を元に計算されているエネルギ消費量(適応度)の高い順にソートする(S17)。そして、最適制御用パソコン2eでは、最大世代数分の遺伝子操作を繰り返したか否かを判定する(S18)。S18にて最大世代数分の遺伝子操作を繰り返していないと判定した場合、最適制御用パソコン2eでは、S13の処理に戻って、遺伝子操作を再度行う。
【0045】
S18にて最大世代数分の遺伝子操作を繰り返したと判定した場合、最適制御用パソコン2eでは、最大ステップ数分の遺伝的アルゴリズムを繰り返したかを判定する(S18)。S18にて最大ステップ数分の遺伝的アルゴリズムを繰り返していないと判定した場合、最適制御用パソコン2eでは、S12の処理に戻って、初期個体をランダムに再度発生させ、異なる初期個体に基づいて遺伝的アルゴリズムを実施する。ここで、初期個体を順次変えて、遺伝的アルゴリズムが繰り返し実施される。初期個体が適切でなく、適応度の高い個体が得られない場合があるかもしれないが、初期個体を幾つも発生させているので、それらの初期個体の中から適応度の高い個体が必ず探索でき、その適応度の高い個体の中から最も適応度の高い個体を得ることができる。
【0046】
S18にて最大ステップ数分の遺伝的アルゴリズムを繰り返したと判定した場合、最適制御用パソコン2eでは、最大ステップ数分の遺伝的アルゴリズムを実施した全ての固体の中から、エネルギ消費量(適応度)の最も高い個体を選択する(S20)。そして、最適制御用パソコン2eでは、その選択した個体の遺伝子を機器特性式の各係数として出力する(S21)。上記の処理が、空調システム1の全ての機器についてそれぞれ行われ、全ての機器についての機器特性式の最適な係数が求められる。
【0047】
このように、従来のように遺伝的アルゴリズムを1回だけ行うのではなく、初期個体を変更しながら遺伝的アルゴリズムを所定回数行う。様々な初期個体によって遺伝的アルゴリズムが実施されるので、初期個体の中に適応度が高くならない不適切な初期個体があったとしても、他の初期個体によって適応度の高い個体を確実に得ることができる。
【0048】
図7を参照して、プログラムBについて説明する。プログラムBは、プログラムAで求められた各機器の係数を組み込んだ機器特性式によって各機器のエネルギ消費量(電力消費量)をそれぞれ計算し、各機器のエネルギ消費量から空調システム全体のエネルギ消費量を計算する。このエネルギ消費量の計算は、運転台数毎に所定の刻み幅で変化させた全ての制御値の組み合わせについて行われ、データベース2のデータが書き換えられる。運転台数が同じ場合でも、運転する機器と停止する機器を変化させた全ての組み合わせについてそれぞれ行われる。
【0049】
まず、最適制御用パソコン2eでは、モード情報の定義及び境界情報を取得する。境界情報としては、例えば、外界条件、二次側熱量(負荷率)、運転台数がある。
【0050】
次に、最適制御用パソコン2eでは、計算タイムが0のときに、各機器の接続情報及び属性情報を取得する。接続情報としては、例えば、各機器との水情報接続の番号、空気情報接続の番号、モード情報接続の番号、運転情報接続の番号、計算順序、機器タイプがある。属性情報としては、例えば、冷凍機の場合には定格能力、定格入力、定格補機入力、定格冷水流量、定格冷却水流量、係数がある。さらに、最適制御用パソコン2eでは、各機器の制御値及び運転モード情報を取得する。このプログラムBでは、制御値(例えば、インバータ周波数による流量、冷却水温度)を境界条件として与える。そして、最適制御用パソコン2eでは、取得した情報を用いて、機器(オブジェクト)のエネルギ消費量を計算する。流量と熱量に変化がなくなるまで、制御値の組み合わせを変えて、上記の処理を繰り返し行い、エネルギ消費量を計算する。
【0051】
図7には、オブジェクトのエネルギ消費量を計算するモデルを示している。オブジェクトO(冷凍機の場合)には属性情報及びプログラムAで求めた機器特性式の機器係数情報が入力され、その機器係数からなる機器特性式が組み込まれている。オブジェクトOは、取得した接続情報に基づいて他のオブジェクトとの水接続や空気接続の関係が規定され、各ノードN1〜N4に運転情報、モード情報、水情報(冷水)、水情報(冷却水)が入力されると、各ノードN5〜N7から水情報(冷水)、水情報(冷却水)及びエネルギ情報(電力情報)を出力する。
【0052】
最適制御用パソコン2eでは、任意の制御値の組み合わせについて機器のエネルギ消費量(電力消費量)を計算する毎に、データベース2を書き換える。そして、最適制御用パソコン2eでは、任意の制御値の組み合わせについて全ての機器のエネルギ消費量(電力消費量)を計算すると、その全ての機器のエネルギ消費量から空調システム全体のエネルギ消費量(電力消費量)を計算し、データベース2を書き換える。最適制御用パソコン2eでは、上記処理を、全ての運転台数(運転する機器と停止する機器の全ての組み合わせも変えて)、全ての制御値の組み合わせについて行い、データベース2を全て書き換える。最後に、運転台数毎に、空調システム1全体のエネルギ消費量が最小となる制御値の組み合わせを選択し、データベース2を書き換える。
【0053】
図8のフローチャートに沿って、プログラムC(ON時)について説明する。プログラムC(ON時)は、中央監視にてオペレータが最適制御をONしたときに実行される。プログラムC(ON時)は、最適制御がONされると制御システムコントローラ2jの制御値から最適制御の制御値に切り替えるので、制御値が急激に変わらないように制御値を徐々に切り替えるための制御値を出力し、制御値の偏差がなくなると最適制御の制御値に完全に切り替える。
【0054】
最適制御が中央監視にて手動でONされると(S30)、一定制御周期毎に(例えば、5分周期毎に)、最適制御用パソコン2eでは、外気の温度と湿度、各機器の運転状態やエネルギ消費量を取得する(S31)。そして、最適制御用パソコン2eでは、データベース1を用いて、外気エンタルピ及び熱源負荷率(二次側装置負荷率)より運転台数を決定する(S32)。さらに、最適制御用パソコン2eでは、データベース2から、決定された運転台数に対応した各機器の制御値(最適制御の制御値)を抽出する(S33)。
【0055】
最適制御用パソコン2eでは、プログラムE(ON時)を起動し、過去データ及び直前データ、各機器の運転状態等から制御値を変更する(S34)。ここでは、最適制御がONしたときには、制御システムコントローラ2jの基本的な制御値から最適制御の制御値に切り替える際に制御値が急激に変わらないように、基本的な制御値から最適制御の制御値に徐々に変化する制御値を求める。この際、冷却水ポンプ1bと一次ポンプ1dとのバランスを考慮する。
【0056】
最適制御用パソコン2eでは、データベース2による最適制御の制御値とプログラムE(ON時)による制御値との偏差がゼロになったか否かを判定する(S35)。S35にて偏差がゼロになったと判定した場合、最適制御が完全ONし(S36)、最適制御用パソコン2eでは、データベース2による最適制御の制御値を最適制御用PLC2dを介して制御システムコントローラ2jにそのまま出力する。一方、S35にて偏差がゼロでないと判定した場合、最適制御用パソコン2eでは、プログラムE(ON時)で出力される制御値を最適制御用PLC2dを介して制御システムコントローラ2jに出力する(S37)。
【0057】
最適制御用パソコン2eでは、最適制御が中央監視にて手動でOFFされたか否かを判定する(S38)。S38にて最適制御がOFFされていないと判定した場合、最適制御用パソコン2eでは、S31の処理に戻る。一方、S38にて最適制御がOFFされたと判定した場合、最適制御用パソコン2eでは、プログラムC(OFF時)に移行する(S39)。
【0058】
図10のフローチャートに沿って、プログラムE(ON時)について説明する。プログラムE(ON時)は、制御システムコントローラ2jの基本制御の制御値から最適制御の制御値に徐々に切り替える制御値を出力する。なお、最適制御がONされたときに、最適制御の制御値が前ステップの制御値に近い場合には徐々に制御値を切り替えることなく、最適制御の制御値をそのまま出力する。
【0059】
プログラムE(ON時)を起動すると、最適制御用パソコン2eでは、前ステップの外気の温度と湿度、各機器の運転状態やエネルギ消費量、運転モード及び現在ステップの時刻を取得する(S34a)。また、最適制御用パソコン2eでは、現時点から過去1時間の制御値を保持する(S34b)。例えば、制御周期を5分周期とすると、1時間で12回分の制御値を保持しておく。ここでは、少なくとも前ステップの制御値と前々ステップの制御値を保持しておけばよい。
【0060】
最適制御用パソコン2eでは、プログラムDのS32、S33の処理と同様に、S34aで取得したデータを用いてデータベース2による最適制御の制御値(Yco,n)を取得する(S34c)。なお、nは、制御値の総数である。
【0061】
また、最適制御用パソコン2eでは、データベース2による最適制御の制御値(Yco,n)を目標値として、前ステップで採用された制御値と前々ステップで採用された制御値との偏差からPID[Proportional Integral Derivative]理論により制御値(Yff、n)を計算する(S34d)。この制御値(Yff、n)は、最適制御の制御値(Yco,n)に徐々に近づく制御値であり、前ステップの制御値Y’からの変化量が制限された制御値である。どの程度を限度として制御値を近づけるかは、PID理論での制御パラメータにより設定可能であり、前後ステップの制御値の変化に応じて空調システム1の運転状態の変化によって室内の人が違和感を受けない程度とする。ここでは、n個分の制御値について、制御値Yffがそれぞれ計算される。
【0062】
そして、最適制御用パソコン2eでは、式(6)により、前ステップで採用された制御値Y’とデータベース2による最適制御の制御値(Yco,n)との差|ΔY1|を計算する(S34e)。また、最適制御用パソコン2eでは、式(7)により、前ステップで採用された制御値Y’とPID理論による制御値(Yff,n)との差|ΔY3|を計算する(S34e)。そして、最適制御用パソコン2eでは、その|ΔY1|と|ΔY3|及び前ステップの制御値Y’を用いて、式(8)により、現在ステップでの制御値Yを計算する(S34e)。ここでは、|ΔY1|が|ΔY3|以下になるまでは現在ステップでの制御値YとしてPID理論による制御値(Yff,n)が採用され、|ΔY1|が|ΔY3|以下になると現在ステップでの制御値Yとして最適制御の制御値(Yco,n)が採用される。なお、現在ステップの制御値Yと前ステップの制御値Y’との差が最大でも制御値の最大操作量(制御値の最大変動範囲)の10%となるように、現在ステップの制御値Yを設定する。そして、最適制御用パソコン2eでは、その制御値Yを出力する(S34f)。
【数2】
【0063】
最適制御のOFFからONの過渡期には制御システムコントローラ2jの基本制御の制御値から最適制御の制御値に徐々に近づく制御値を実際に出力する制御値とし、その実際に出力している制御値と最適制御の制御値との偏差がなくなると最適制御が完全にONとなり、最適制御の制御値を出力する。
【0064】
図9のフローチャートに沿って、プログラムC(OFF時)について説明する。プログラムC(OFF時)は、中央監視にてオペレータが最適制御をOFFしたときに実行される。プログラムC(OFF時)は、最適制御がOFFされると最適制御の制御値から制御システムコントローラ2jの制御値に切り替えるので、制御値が急激に変わらないように制御値を徐々に切り替えるための制御値を出力し、制御値の偏差がなくなると制御システムコントローラ2jの制御値に完全に切り替える。
【0065】
最適制御が中央監視にて手動でOFFされると(S50)、一定制御周期毎に(例えば、5分周期毎に)、最適制御用パソコン2eでは、プログラムE(OFF時)を起動し、過去データ及び直前データ、各機器の運転状態等から制御値を変更する(S51)。
【0066】
最適制御用パソコン2eでは、制御システムコントローラ2jによる制御値とプログラムE(OFF時)による制御値との偏差がゼロになったか否かを判定する(S52)。S52にて偏差がゼロになったと判定した場合、最適制御が完全OFFし(S53)、制御システムコントローラ2jの制御値が用いられる。一方、S52にて偏差がゼロでないと判定した場合、最適制御用パソコン2eでは、プログラムE(OFF時)で出力される制御値を制御システムコントローラ2jに出力する(S54)。なお、最大でも120分以内に最適制御OFFでの運転を実行する。それ以上の場合には制御システムコントローラ2jの制御値に強制的に切り替える。
【0067】
図11のフローチャートに沿って、プログラムE(OFF時)について説明する。プログラムE(OFF時)は、最適制御の制御値から制御システムコントローラ2jの基本制御の制御値に徐々に切り替える制御値を出力する。なお、最適制御がOFFされたときに、基本制御の制御値が前ステップの制御値に近い場合には徐々に制御値を切り替えることなく、基本制御の制御値をそのまま出力する。
【0068】
プログラムE(OFF時)を起動すると、最適制御用パソコン2eでは、前ステップの外気の温度と湿度、各機器の運転状態やエネルギ消費量、運転モード及び現在ステップの時刻を取得する(S51a)。また、最適制御用パソコン2eでは、現時点から過去1時間の制御値を保持する(S51b)。
【0069】
最適制御用パソコン2eでは、S51aで取得してデータに基づく制御システムコントローラ2jの基本的な制御の制御値(Ym,n)を取得する(S51c)。
【0070】
また、最適制御用パソコン2eでは、制御システムコントローラ2jの基本的な制御の制御値(Ym,n)を目標値として、前ステップで採用された制御値と前々ステップで採用された制御値との偏差からPID理論により制御値(Yff,n)を計算する(S51d)。この制御値(Yff、n)は、制御システムコントローラ2jの基本制御の制御値(Ym,n)に徐々に近づく制御値であり、前ステップの制御値Y’からの変化量が制限された制御値である。ここでは、n個分の制御値について、制御値Yffがそれぞれ計算される。
【0071】
そして、最適制御用パソコン2eでは、式(9)により、前ステップで採用された制御値Y’と制御システムコントローラ2jの基本制御の制御値(Ym,n)との差|ΔY2|を計算する(S51e)。また、最適制御用パソコン2eでは、式(10)により、前ステップで採用された制御値Y’とPID理論による制御値(Yff,n)との差|ΔY3|を計算する(S51e)。そして、最適制御用パソコン2eでは、その|ΔY2|と|ΔY3|及び前ステップの制御値Y’を用いて、式(11)により、現在ステップでの制御値Yを計算する(S51e)。ここでは、|ΔY2|が|ΔY3|以下になるまでは現在ステップでの制御値YとしてPID理論による制御値(Yff,n)が採用され、|ΔY2|が|ΔY3|以下になると現在ステップでの制御値Yとして基本制御の制御値(Ym,n)が採用される。なお、現在ステップの制御値Yと前ステップの制御値Y’との差が最大でも制御値の最大操作量の10%となるように、現在ステップの制御値Yを設定する。そして、最適制御用パソコン2eでは、その制御値Yを出力する(S51f)。
【数3】
【0072】
最適制御のONからOFFの過渡期には最適制御の制御値から制御システムコントローラ2jの基本制御の制御値に徐々に近づく制御値を実際に出力する制御値とし、その実際に出力している制御値と基本制御の制御値との偏差がなくなると最適制御が完全にOFFとなり、基本制御の制御値を出力する。
【0073】
この制御システム2によれば、初期個体を変更して遺伝的アルゴリズムを繰り返し実施して制御テーブルを更新することにより、その制御テーブルから最適な制御値を得ることができる。初期個体を所定回数分発生させることにより、様々な初期個体によって遺伝的アルゴリズムを実施できる。その結果、その中の適切な初期個体から適応度の高い個体を得ることができ、その適応度の高い個体の中から最も適応度の高い個体を得ることができ、その最も適応度の高い個体から制御テーブルを更新するための最適な機器係数を取得できる。また、最適な制御値を用いて空調システム1を運転することにより、空調システム1のエネルギ効率を最適化できる。その結果、システム全体としてのエネルギ消費量やCO2排出量を最小化にでき、省エネルギ化及び省CO2化を図ることができる。
【0074】
さらに、制御システム2によれば、空調システム1の各機器の運転状態や電力消費量等の過去ログデータに基づいて定期的(例えば、1ヶ月毎)に制御テーブルを更新することにより、空調システム1の各機器の経年変化等を反映した制御テーブルで最適制御ができ、最適な制御値を求めることができる。
【0075】
また、制御システム2によれば、データベース2による最適制御の制御値と制御システムコントローラ2jの基本制御の制御値とを切り替えるときには制御値を徐々に変えることにより、制御値が急激に変化することを防止でき、空調システム1の運転状態の急峻な変化を抑制できる。また、制御システム2では、最適制御用パソコン2eあるいは最適制御用PLC2dに不具合が発生して最適制御できない場合でも、制御システムコントローラ2jによって基本制御が可能であり、空調システム1に対する制御を保障できる。
【0076】
以上、本発明に係る実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されることなく様々な形態で実施される。
【0077】
例えば、本実施の形態では空調システム(熱源システム)に適用したが、各種プラント等の他のシステムにも適用できる。
【0078】
また、本実施の形態では制御システムにおいて制御システムコントローラで基本制御を行って空調システム1に対する最低限の運転制御を保障する構成としたが、基本制御は行わずに、常に最適制御を行うようにしてもよい。また、本実施の形態では本発明を実現するためのハードウェア構成の一例を示したが、本発明を実現するためのハードウェア構成については他の任意の形態で構成してもよい。
【0079】
また、本実施の形態では省エネルギ化、省CO2化を目的とする最適制御としたが、他の目的に対する最適制御にも適用可能である。
【0080】
また、本実施の形態では最適制御の制御値をデータベース1とデータベース2の2つの制御テーブルを用いて求める構成としたが、他の方法で最適制御の制御値を求めてもよい。例えば、制御テーブルとして1つのデータベースだけで制御値を求めるようにしてもよい。また、制御テーブルを用いるのでなく、制御特性式等を用いて制御値を求めるようにしてもよい。このような最適制御の手法に応じて遺伝的アルゴリズムで探索する制御係数も変わる。
【0081】
また、本実施の形態では最適制御がONからOFFされた場合又はOFFからONされた場合に一方の制御値から他方の制御値に徐々に切り替える手法の一例を示したが、他の手法で制御値を徐々に切り替えるようにしてもよい。例えば、各制御値に対して前ステップの制御値からの最大許容変化量(固定値)を予め用意しておき、前ステップの制御値から最大許容変化量を限度として現在ステップの制御値を求める。最適制御がOFFからONになった場合、最適制御の制御値と前ステップの制御値との差が最大許容変化量より大きい場合には前ステップの制御値に最大許容変化量を加算して現在ステップの制御値とし、最適制御の制御値と前ステップの制御値との差が最大許容変化量以下の場合には最適制御の制御値を現在ステップの制御値とする。
【符号の説明】
【0082】
1…空調システム、1a…冷却塔、1b…冷却水ポンプ、1c…冷凍機、1d…一次ポンプ、2…制御システム、2a…インテリジェントコントローラ、2b…BEMS、2c…熱源群管理用PLC、2d…最適制御用PLC、2e…最適制御用パソコン、2f…ネットワーク、2g,2h…同軸ケーブル、2i…イーサネット,2j…制御システムコントローラ、2k…同軸ケーブル。
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝的アルゴリズムを利用した制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
空調システム等の各種システムでは、設計時にシステムに組み込まれる各機器の定格情報等に基づいて省エネルギ等を目的とした制御テーブル等が設定され、その制御テーブル等から導出される各機器に対する制御値に基づいて運転される。しかし、各機器の性能については個体差があり、また、使用頻度に応じて各機器の経年変化も異なるので、システムを最適制御するためには運転開始後に制御テーブル等を随時更新する必要がある。システムの制御テーブル等を更新する手法は様々提案されており、遺伝的アルゴリズムを利用した手法がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、空気調和機のコンプレッサモータのインバータ回路に対する周波数制御において、運転時の周波数と室内検出温度との間の動特性に適合するように遺伝的アルゴリズムを用いて周波数制御テーブルを更新することが記載されている。特許文献2には、空気調和機等の冷凍サイクル制御装置において、弁開度と過熱度との間の動特性に適合するように遺伝的アルゴリズムを用いて電子膨張弁の弁開度用過熱度制御テーブルを更新することが記載されている。特許文献3には、住宅の発電機による電力と熱を利用したコジェネレーションシステムにおいて、各住宅のエネルギ需要量の履歴データに基づいて遺伝的アルゴリズムを用いて制御マップを更新することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−253236号公報
【特許文献2】特開平8−166169号公報
【特許文献3】特開2006−275473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
遺伝的アルゴリズムでは、初期個体をランダムに発生させ、その初期個体から適応度の高い個体(例えば、エネルギ消費量の少ない個体)を探索する。しかし、初期個体をランダムに発生させているので、初期個体が適切でない場合には適応度の高い個体が生まれずに、最適制御に適した制御テーブル等が得られない場合がある。また、遺伝的アルゴリズムでは遺伝的操作として突然変異も行うが、初期個体が適切でない場合には突然変異だけでは適応度の高い個体が生まれる確率が低い。その結果、制御対象システムの各機器に対する最適な制御値が得られず、最適制御ができない。
【0006】
そこで、本発明は、遺伝的アルゴリズムを利用して最適な制御値を求めることができる制御システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る制御システムは、制御対象システムを制御するための制御値を出力する制御システムであって、制御対象システムに対する最適な制御値を生成する最適制御装置を有し、最適制御装置は、遺伝的アルゴリズムを実施する実施回数を設定する実施回数設定手段と、初期個体を発生する初期個体発生手段と、遺伝的アルゴリズムを実施する実施手段とを備え、遺伝的アルゴリズムを実施した回数が実施回数設定手段で設定した実施回数になるまで、遺伝的アルゴリズムを実施する毎に初期個体発生手段で初期個体を発生し、当該発生した初期個体を用いて実施手段で遺伝的アルゴリズムを実施して適応度の高い個体を探索し、遺伝的アルゴリズムを実施した回数が実施回数設定手段で設定した実施回数になった場合、実施回数設定手段で設定した実施回数分の遺伝的アルゴリズムでそれぞれ探索された個体の中から最も適応度の高い個体を選択し、当該選択した個体に基づいて制御対象システムに出力する制御値を生成することを特徴とする。
【0008】
この制御システムは、制御対象システムを制御するためのシステムであり、制御対象システムを最適に制御するための制御値を生成する最適制御装置を有している。最適制御装置では、実施回数設定手段によって遺伝的アルゴリズムを繰り返し実施する実施回数を設定する。遺伝的アルゴリズムを実施した回数がその実施回数になるまで、最適制御装置では、遺伝的アルゴリズムを実施する毎に、初期個体変更手段で初期個体を新たに発生し、その初期個体を用いて実施手段で遺伝的アルゴリズムを実施して適応度の高い個体を探索する。遺伝的アルゴリズムを実施した回数がその実施回数になると、最適制御装置では、実施回数分の遺伝的アルゴリズムでそれぞれ探索された個体の中から最も適応度の高い個体を選択し、最も適応度の高い個体に基づいて制御対象システムに出力する制御値を生成する。このように、初期個体を実施回数分発生させることにより、様々な初期個体によって遺伝的アルゴリズムを実施できる。この際、一部の初期個体が不適切で適応度の高い個体が得られない場合でも、それ以外の初期個体から適応度の高い個体を得ることができ、その適応度の高い個体の中から最も適応度の高い個体を得ることができ、最適な制御値を生成できる。このように、制御システムは、初期個体を変更して遺伝的アルゴリズムを繰り返し実施することにより、最適な制御値を求めることができる。
【0009】
なお、最も適応度の高い個体に基づいて制御対象システムに出力する制御値を生成する場合、最も適応度の高い個体から制御値を直接生成してもよいし、あるいは、最も適応度の高い個体から制御値を導出するための制御テーブルや制御特性式等を生成し、その制御テーブル等から制御値を生成してもよい。
【0010】
本発明の上記制御システムでは、制御対象システムに対する基本の制御値を生成する基本制御装置を有し、制御対象システムに出力する制御値を最適制御装置と基本制御装置との間で切り替える場合、切り替え前の制御装置の制御値から切り替え後の制御装置の制御値に徐々に変える構成としてもよい。
【0011】
この制御システムは、最適制御装置の他に、制御対象システムを制御するための基本の制御値を生成する基本制御装置を有している。そして、制御システムでは、制御対象システムに出力する制御値を最適制御装置の制御値から基本制御装置の制御値へ又は基本制御装置の制御値から最適制御装置の制御値へ切り替える場合、切り替え前の制御装置の制御値から切り替え後の制御装置の制御値に徐々に変える。このように、制御システムは、最適制御装置と基本制御装置とを切り替えるときには制御値を徐々に変えることにより、制御値が急激に変化することを防止でき、制御対象システムでの急峻な出力を抑制できる。また、制御システムは、最適制御装置に不具合が発生して最適化制御できない場合でも、基本制御装置によって基本的な制御が可能である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、初期個体を変更して遺伝的アルゴリズムを繰り返し実施することにより、最適な制御値を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施の形態に係る空調システムの構成図である。
【図2】図1の空調システムにおける制御システムの構成図である。
【図3】データベース1の一例である。
【図4】データベース2の一例である。
【図5】図1の最適制御用パソコンで実施されるメインプログラムの流れを示すフローチャートである。
【図6】図1の最適制御用パソコンで実施されるプログラムAの流れを示すフローチャートである。
【図7】図1の最適制御用パソコンで実施されるプログラムBによるエネルギ消費量計算の説明図である。
【図8】図1の最適制御用パソコンで実施されるプログラムC(ON時)の流れを示すフローチャートである。
【図9】図1の最適制御用パソコンで実施されるプログラムC(OFF時)の流れを示すフローチャートである。
【図10】図1の最適制御用パソコンで実施されるプログラムE(ON時)の流れを示すフローチャートである。
【図11】図1の最適制御用パソコンで実施されるプログラムE(OFF時)の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明に係る制御システムの実施の形態を説明する。なお、各図において同一又は相当する要素については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0015】
本実施の形態では、本発明に係る制御システムを、空調システム(熱源システム)を制御するための制御システムに適用する。本実施の形態に係る制御システムは、空調システムにおけるエネルギ消費量やCO2排出量を最小にする最適制御を行う最適制御機能と最適制御が行われない場合でも空調システムに対する基本的な制御を行う基本制御機能を有しており、オペレータによる中央監視にて機能を切り替える。
【0016】
まず、図1を参照して、本実施の形態に係る空調システム1について説明する。図1は、本実施の形態に係る空調システムの構成図である。
【0017】
空調システム1は、複数台の冷却塔1a、冷却水ポンプ1b、冷凍機1c、一次ポンプ(冷水ポンプ)1d等を備えている(図1の例では、2台の冷却塔1a、冷却水ポンプ1b、冷凍機1c、一次ポンプ1dだけを描いている)。冷却塔1aは、冷凍機1cで冷却に使われて戻ってきた温度の高い冷却水を冷却する。冷却水ポンプ1bは、冷却塔1aと冷凍機1c間で冷却水を循環させる。冷凍機1cは、空調機(図示せず)で使われて戻ってきた温度の高い水を、冷却塔1aからの冷却水を用いて再度冷やす。一次ポンプ1dは、冷凍機1cと空調機間で冷水(熱媒体)を循環させる。なお、本実施の形態では、空調システム1が特許請求の範囲に記載する制御対象システムに相当する。
【0018】
空調システム1は、制御システム2によって制御され、空調システム1を最適に制御するための運転台数、熱源容量、冷却水温度、冷却水流量、冷水流量等の制御値が与えられる。この制御のために、空調システム1での運転中、一定時間毎に、外気の温度や湿度、運転台数、熱源容量、冷却水温度、冷却水流量、冷水温度、冷水流量等のデータが検知され、その各データが制御システム2で収集され、過去ログデータとして蓄積される。
【0019】
空調システム1は、冷却塔1a、冷却水ポンプ1b、冷凍機1c、一次ポンプ1dが1つの対となって運転され、例えば、冷凍機1cの運転台数が3台の場合には3台の冷凍機1cにそれぞれ対となる冷却塔1a、冷却水ポンプ1b、一次ポンプ1dもそれぞれ運転される。空調システム1では、空調負荷がピーク(100%)のときには全台数の冷却塔1a、冷却水ポンプ1b、冷凍機1c、一次ポンプ1dが運転されが、空調負荷がピークでないとき(部分負荷)にはその負荷に応じて運転台数が決定され、その運転台数分の冷却塔1a、冷却水ポンプ1b、冷凍機1c、一次ポンプ1dだけが運転される。
【0020】
このように、空調システム1では、常に全ての台数の機器が運転しているのではなく、殆ど時間で一部の台数の機器が運転している。さらに、運転している場合でも、常に機器の能力の100%で運転しているのではなく、殆ど時間で負荷の状態に応じて100%未満の能力で運転している。また、同じ運転台数でも、運転する機器と停止する機器の組み合わせが随時変わるため、経年変化による劣化状態が各機器によって異なる。また、同じ機器でも、個体差があり、性能が多少異なる。以上により空調システム1に対して最適制御を行う場合、設計時の定格情報(カタログ情報)に基づいて設定された制御テーブルに基づいて制御を行っても最適制御とならず(特に、運転開始後から時間が経過するほど)、運転中の各機器の過去ログデータを用いて制御テーブルを定期的に更新する必要がある。
【0021】
図2〜図11を参照して、本実施の形態に係る制御システム2について説明する。図2は、制御システムの構成図である。図3は、データベース1の一例である。図4は、データベース2の一例である。図5は、最適制御用パソコンで実施されるメインプログラムの流れを示すフローチャートである。図6は、最適制御用パソコンで実施されるプログラムAの流れを示すフローチャートである。図7は、最適制御用パソコンで実施されるプログラムBによるエネルギ消費量計算の説明図である。図8は、最適制御用パソコンで実施されるプログラムC(ON時)の流れを示すフローチャートである。図9は、最適制御用パソコンで実施されるプログラムC(OFF時)の流れを示すフローチャートである。図10は、最適制御用パソコンで実施されるプログラムE(ON時)の流れを示すフローチャートである。図11は、最適制御用パソコンで実施されるプログラムE(OFF時)の流れを示すフローチャートである。
【0022】
制御システム2は、空調システム1の最適運転を目的として空調システム1でのエネルギ消費量やCO2排出量が最小になるように最適制御を行うとともに、最適制御が行われていない場合には空調システム1に対する制御を保障するために空調システム1に対して基本的な制御を行う。そのために、制御システム2は、インテリジェントコントローラ2a、BEMS[Building Energy Management System]2b、熱源群管理用PLC[Programable Logic Controller]2c、最適制御用PLC2d、最適制御用パーソナルコンピュータ(以下、最適制御用パソコン)2e、制御システムコントローラ2jを備えている。この最適制御用PLC2dと最適制御用パソコン2eによって最適制御を行い、制御システムコントローラ2jによって基本制御を行い、中央監視にてオペレータが最適制御をONしているときには最適制御用パソコン2eによる制御値を最適制御用PLC2dを介して出力し、中央監視にてオペレータがOFFしているときには制御システムコントローラ2jの制御値を出力し、ONとOFFとが切り替わる過渡期には徐々に変化する制御値を出力する。なお、本実施の形態では、最適制御用PLC2dと最適制御用パソコン2eが特許制御の範囲に記載する最適制御装置に相当し、制御システムコントローラ2jが特許請求の範囲に記載する基本制御装置に相当する。
【0023】
インテリジェントコントローラ2aとBEMS2bと最適制御用パソコン2e間は、IPv[Internet Protocol Version]4又はIPv6のネットワーク2fで通信が行われる。インテリジェントコントローラ2aと熱源群管理用PLC2c間は、同軸ケーブル2gで通信が行われる。熱源群管理用PLC2cと最適制御用PLC2d間は、同軸ケーブル2hで通信が行われる。熱源群管理用PLC2cと制御システムコントローラ2j間は、同軸ケーブル2kで通信が行われる。最適制御用PLC2dと最適制御用パソコン2e間は、イーサネット(登録商標)2iで通信が行われる。
【0024】
インテリジェントコントローラ2aは、外気から検知されたデータを収集して管理し、そのデータを最適制御用パソコン2eに送信する。収集するデータとしては、例えば、外気温度、外気湿度がある。また、最適制御用PLC2dは、空調システム1で検知されたデータを収集して管理し、そのデータを最適制御用パソコン2eに送信する。収集するデータとしては、例えば、空調システム1の運転台数、各機器の運転状態(冷却水の出口温度と入口温度、冷却水流量、冷水の出口温度と入口温度、冷水流量、熱源容量等)がある。
【0025】
BEMS2bは、空調システム1のエネルギデータを収集して管理し、そのデータを最適制御用パソコン2eに送信する。収集するデータとしては、例えば、空調システム1の各機器の電力消費量(エネルギ消費量)、空調機の負荷率(熱量消費率)がある。
【0026】
熱源群管理用PLC2cは、最適制御用PLC2dから空調システム1に対する制御値を受信する毎に、その制御値を制御システムコントローラ2jに送信する。制御システムコントローラ2jでは、熱源群管理用PLC2cを介して空調システム1に対する制御値を最適制御用PLC2dから受信する毎に、その制御値に基づいて空調システム1の各機器に命令を出力する。各機器に対する命令としては、例えば、各冷却塔1aに対する冷却水温度制御命令、各冷却水ポンプ1bに対する冷却水流量比に基づくインバータ周波数制御命令、各一次ポンプ1dに対する一次ポンプ流量比に基づくインバータ周波数制御命令がある。この際、空調負荷状態に応じて運転台数が決定されているので、運転が停止される機器については通電が停止され、制御が行われない。また、制御システムコントローラ2jでは、現在の外気温度、外気湿度、空調システム1の各機器の運転状態等に基づいて空調システム1に対する基本的な制御を行い、空調システム1に対する制御値を求め、最適制御がOFFのときにはその制御を行う。この基本的な制御については、従来の方法を適用する。なお、熱源群管理用PLC2cについては、複数台で構成してもよい。
【0027】
最適制御用PLC2dは、最適制御用パソコン2eから空調システム1に対する制御値を受信する毎に、その制御値を熱源群制御用PLC2cに送信する。
【0028】
最適制御用パソコン2eは、空調システム1の運転開始後に、運転中の空調システム1の各機器の運転状態や電力消費量等のデータに基づいてエネルギ消費量やCO2排出量を最小にする最適制御を行う。そのために、最適制御用パソコン2eは、空調システム1の過去ログを格納するためのログデータベースを保持しており、インテリジェントコントローラ2aからの外気温度、外気湿度と最適制御用PLC2dからの空調システム1の各機器の運転状態とBEMS2bからの空調システム1の各機器の電力消費量(エネルギ消費量)、空調機の負荷率(熱量消費率)をログデータベースに蓄積する。また、最適制御用パソコン2eは、各機器の制御値を設定するための制御テーブルとしてデータベース1とデータベース2を保持しており、一定期間毎(例えば、1ヶ月毎)に、ログデータベースに蓄積されたデータを利用して空調システム1全体として最適制御を行うためにデータベース1とデータベース2を更新する。この際、最適制御用パソコン2eは、各機器のエネルギ消費量を計算するための特性式の係数の最適値を探索するために遺伝的アルゴリズムを用いる。
【0029】
空調システム1全体としての最適運転のために、各機器に対する制御を相互連携させることによってシステム効率の最大化を図る。各機器に対する省エネルギ制御として、冷却塔1aの冷却水温度を上げると冷却塔1aの電力消費量が減り、冷却水ポンプ1bによる冷却水流量を絞ると冷却水ポンプ1bの電力消費量が減り、一次ポンプ1dによる冷水流量を絞ると一次ポンプ1dの電力消費量が減るので、これらの各制御を相互に連携させることによってシステム効率の最大化を図る。そのために、運転台数毎に各機器に対する制御値の全ての組み合わせについての空調システム1全体の電力消費量(エンルギ消費量)を求め、空調システム1全体の電力消費量が最小となる制御値の組み合わせを抽出する。
【0030】
最適制御用パソコン2eでの具体的な処理を説明する前に、最適制御用パソコン2eで用いられるデータベース1とデータベース2について説明しておく。まず、図3を参照してデータベース1について説明する。データベース1は、空調システム1の運転台数を決定するためのデータベースである。データベース1は、外気エンタルピ(外気温度と外気湿度で決まる物理量)と二次側装置負荷率(空調機での熱量消費率)とで決まる運転台数を規定したデータベースである。図3に示すデータベース1は空調システム1の最大運転台数が4台の場合であり、例えば、外気エンタルピが56であり、二次側装置負荷率が0.40のときには運転台数が3台(3台の冷凍機1cを運転させるので、その3台の冷凍機1cと対となる冷却塔1a、冷却水ポンプ1b、一次ポンプ1dもそれぞれ運転させる)となる。なお、空調システム1の運転開始時には、データベース1は、設計時に各機器のカタログ値に基づいてシミュレーションによってエネルギ消費量やCO2排出量が最小になるように設定されたものである。
【0031】
次に、図4を参照してデータベース2について説明する。データベース2は、データベース1で決定した運転台数で空調システム1を運転する場合の制御値を決定するためのデータベースである。データベース2は、制御値の組み合わせ毎の空調システム1全体の電力消費量(エネルギ消費量)及び各機器の電力消費量からなるデータベースであり、運転台数毎の空調システム1全体の電力消費量が最小となる制御値の組み合わせを示したデータベースである。なお、データベース2については、運転台数毎のデータを示したものでもよいし、あるいは、全ての運転台数のデータを示したものでもよい。
【0032】
図4に示すデータベース2は空調システム1の最大運転台数が4台の場合であり、機器NO.1〜NO.4の冷却塔1a、冷却水ポンプ1b、冷凍機1c、一次ポンプ1dを備えている。特に、図4では、データベース2における運転台数が3台の場合のデータの一部を示している。制御値としては、機器NO.1〜NO.4についての空調機への送水温度、一次ポンプ1dの流量比、冷却塔1aでの冷却水設定温度、冷却水ポンプ1bの流量比がある。また、電力消費量としては、空調システム全体の電力消費量と機器NO.1〜NO.4についての冷凍機1cの電力消費量、一次ポンプ1dの電力消費量、冷却水ポンプ1bの電力消費量、冷却塔1aのファンの電力消費量がある。なお、制御値や電力消費量が「0」になっている機器(図4の例では、機器NO.4)については運転を停止する。
【0033】
制御値の組み合わせは、送水温度、一次ポンプ流量比、冷却塔設定温度、冷却水ポンプ流量比をそれぞれの変動範囲内でそれぞれ一定の刻み幅で変化させた全ての組み合わせである。図4の例の場合、流量比については「0.05」の刻み幅で変化させており、温度について「1」の刻み幅で変化させている。この制御値の全ての組み合わせについて空調システム1の各機器の電力消費量がそれぞれ計算され、その各機器の電力消費量からシステム電力消費量が計算され、この制御値の全ての組み合わせについてシステム電力消費量の中から最小となるシステム電力消費量が抽出され、その抽出されたシステム電力消費量のときの制御値の組み合わせが最適な制御となる。
【0034】
図4に示す例は、運転台数が3台の場合であり、機器NO.1〜NO.3を運転し、機器NO.4を停止させる場合のデータが示されており、制御値は機器NO.4の各値が全て「0」となっており、電力消費量も機器NO.4の各値が全て「0」となっている。この図4に示す例の場合、システム電力消費量としては「647.4」が最小となり、そのシステム電力消費量が「647.4」となるときの制御値の組み合わせCが抽出されており、その抽出された制御値の組み合わせCがデータベース2の特定箇所に格納される。したがって、データベース1で運転台数が「3」と決定された場合、データベース2の特定箇所からシステム電力消費量が最小の制御値の組み合わせを抽出することにより、エネルギ消費量やCO2排出量を最小にする最適な制御値の組み合わせとなる。
【0035】
最適制御用パソコン2eでの処理について説明する。最適制御用パソコン2eでは、メモリ装置に空調システム1を最適制御するための各プログラム(メインプログラム、プログラムA、プログラムB、プログラムC(ON時)、プログラムC(OFF時)、プログラムD、プログラムE(ON時)、プログラムE(OFF時)等)を保持しており、この各プログラムをRAMにロードしてCPUで実行する。なお、本実施の形態では、プログラムAでの各処理が特許請求の範囲に記載する実施回数設定手段、初期個体発生手段、実施手段に相当する。
【0036】
まず、図5のフローチャートに沿って、最適制御用パソコン2eでのメインプログラムの処理の流れを説明する。最適制御用パソコン2eは、一定周期毎に(制御周期と同じ周期であり、例えば、5分毎)、空調システム1の過去ログデータをログデータベースに蓄積する(S1)。ログデータベースに格納されるデータは、例えば、データ収集された時刻毎に、外気温度、外気湿度、空調システム1の各機器の運転状態(冷却水の出口温度と入口温度、冷却水流量、冷水の出口温度と入口温度、冷水流量等)、各機器のエネルギ消費量(電力消費量)、運転モード、制御値の組み合わせがある。
【0037】
最適制御用パソコン2eでは、プログラムAを起動し、ログデータベースの過去ログデータを用いて、空調システム1の機器毎にエネルギ消費量(電力消費量)を計算するための機器特性式の係数を遺伝的アルゴリズムを利用して計算する(S2)。そして、最適制御用パソコン2eでは、空調システム1の機器毎に、機器特性式の係数のファイルをCSV[Comma Separated Values]形式で作成する(S3)。このファイルは、各機器についての機器特性式の係数列である。
【0038】
最適制御用パソコン2eでは、プログラムBを起動し、各ケース(運転台数毎に全ての制御値の組み合わせ)について、機器毎に機器特性式(機器特性式にCSVファイルの係数値を組み込んだもの)を用いてエネルギ消費量を計算し、空調システム1全体のエネルギ消費量を計算する(S4)。そして、最適制御用パソコン2eでは、その計算した各ケースについての各機器のエネルギ消費量(電力消費量)及び空調システム全体のエネルギ消費量(システム電力消費量)により、データベース2を書き換える(S5)。このデータベース2の書き換えに応じて、最適制御用パソコン2eでは、データベース1も書き換える。このデータベースの書き換え(更新)は、指定された期間毎(例えば、1ヶ月に1回)に行われる。したがって、最適制御では、この指定された期間毎に更新されるデータベース1とデータベース2を用いて、エネルギ消費量やCO2排出量を最小にする最適な制御値を設定する。
【0039】
最適制御用パソコン2eでは、中央監視による最適制御に対するON/OFFに応じて、ONの場合にはプログラムC(ON時)を起動し、OFFの場合にはプログラムC(OFF時)を起動し、制御値を最適制御用PLC2d、熱源群管理用PLC2cを介して制御システムコントローラ2jに受け渡す(S6)。最適制御がOFFからONに切り替わったときには所定期間の間はプログラムC(ON時)で出力される制御値が用いられ、最適制御が完全ONするとデータベース2による制御値(最適制御の制御値)がそのまま用いられる。一方、最適制御がONからOFFに切り替わったときには所定期間の間はプログラムC(OFF時)で出力される制御値が用いられ、最適制御が完全OFFすると制御システムコントローラ2jによる制御値(基本制御の制御値)がそのまま用いられる。
【0040】
そして、制御システム2では、制御システムコントローラ2jからの命令によって空調システム1の各機器を制御する。空調システム1が運転中、インテリジェントコントローラ2aによって外気のデータが収集され、最適制御用PLC2dによって空調システム1の各機器の運転状態のデータが収集されてログデータとして管理されるとともに、BEMS2bによって空調システム1の各機器の電力消費量(エネルギ消費量)が収集されてログデータとして管理される。そして、最適制御用パソコン2eでは、プログラムDを起動し、一定周期毎に、インテリジェントコントローラ2a、最適制御用PLC2dで管理されているログデータ及びBEMS2bで管理されているログデータを受領し(S7)、その受領したログデータ及びそのときの制御値をログデータベースに蓄積する(S1)。
【0041】
図6のフローチャートに沿って、プログラムAについて説明する。プログラムAについて具体的に説明する前に、機器特性式について説明しておく。機器特性式の一例として、冷凍機のエネルギ消費量f1を計算するための機器特性式(1)を示す。式(1)におけるx1(t)〜x5(t)はログデータベースに格納される過去ログデータであり、x1(t)は負荷率であり、x2(t)は冷却水温度であり、x3(t)は冷却水流量であり、x4(t)は一次冷水流量であり、x5(t)は送水温度である。tは、ログデータベースに格納されるログデータが収集されたときの時刻パラメータである。式(1)におけるc1(t)〜c5(t)は影響度である。c1(x1(t),x2(t))は式(2)で求められ、負荷率と冷却水温度の影響度である。c2(x3(t))は式(3)で求められ、冷却水流量の影響度である。c3(x4(t))は式(4)で示すように1.0であり、一次冷水流量の影響度である。c4(x5(t))は式(5)で求められ、送水温度の影響度である。式(2)〜式(5)におけるu1(i)〜u13(i)は機器特性式の係数である。iは、個体数である。このように、冷凍機のエネルギ消費量f1は、式(1)を用いて、x1(t)〜x5(t)を変数とし、u1(i)〜u13(i)の係数によって求めることがきる。プログラムAでは、ログデータベースに格納される過去ログデータを用いて、各機器のついての機器特性式の各係数uの最適値を求める。
【数1】
【0042】
それでは、プログラムAについて説明する。プログラムAは空調システム1の全ての機器に対してそれぞれ実行され、全ての機器についての機器特性式の最適な係数を計算する。ここでは、機器毎、遺伝的アルゴリズムを利用して、係数の組み合わせを順次変えながら機器特性式によってエネルギ消費量を順次計算し、その機器特性式によるエネルギ消費量の計算値とエネルギ消費量の実測値(過去ログデータ)との偏差が最小となる係数の組み合わせを決める。
【0043】
最適制御用パソコン2eでは、プログラムの初期条件のデータと計算対象の各機器の固有データを取得する(S10)。初期条件のデータとしては、例えば、ログデータベースのデータ数(例えば、過去1ヶ月分の5分周期で収集されたデータの数)、遺伝的アルゴリズムを繰り返し実施する最大ステップ数(例えば、5回、10回、20回)、遺伝的アルゴリズムの最大世代数がある。各機器の固有データとしては、例えば、機器の定格情報(例えば、定格能力、定格電力消費量)、機器の基準係数、機器の影響度、初期個体適応度がある。また、最適制御用パソコン2eでは、ログデータベースから過去ログデータを取得する(S11)。過去ログデータとしては、例えば、冷凍機の場合、冷水流量、冷水出口温度、冷水入口温度、冷却水流量、冷却水出口温度、冷却水入口温度、電力消費量がある。なお、過去ログデータとしては、システム起動/停止時のデータは変動する場合があるので、システム起動の30分経過後から停止の30分前までのデータを用いる。
【0044】
最適制御用パソコン2eでは、機器特性式の各係数を遺伝子と見立て、初期個体をランダムに発生させる(S12)。そして、遺伝的アルゴリズムを実施する。具体的には、最適制御用パソコン2eでは、生存個体を決定し(S13)、遺伝子交叉を行い(S14)、突然変異を行う(S15)。そして、最適制御用パソコン2eでは、生成された遺伝子(機器特性式の各係数)を元に機器特性式によって計算されたエネルギ消費量とエネルギ消費量の実測値(過去ログデータ)との偏差(適応度に相当)を計算する(S16)。さらに、最適制御用パソコン2eでは、各遺伝子を元に計算されているエネルギ消費量(適応度)の高い順にソートする(S17)。そして、最適制御用パソコン2eでは、最大世代数分の遺伝子操作を繰り返したか否かを判定する(S18)。S18にて最大世代数分の遺伝子操作を繰り返していないと判定した場合、最適制御用パソコン2eでは、S13の処理に戻って、遺伝子操作を再度行う。
【0045】
S18にて最大世代数分の遺伝子操作を繰り返したと判定した場合、最適制御用パソコン2eでは、最大ステップ数分の遺伝的アルゴリズムを繰り返したかを判定する(S18)。S18にて最大ステップ数分の遺伝的アルゴリズムを繰り返していないと判定した場合、最適制御用パソコン2eでは、S12の処理に戻って、初期個体をランダムに再度発生させ、異なる初期個体に基づいて遺伝的アルゴリズムを実施する。ここで、初期個体を順次変えて、遺伝的アルゴリズムが繰り返し実施される。初期個体が適切でなく、適応度の高い個体が得られない場合があるかもしれないが、初期個体を幾つも発生させているので、それらの初期個体の中から適応度の高い個体が必ず探索でき、その適応度の高い個体の中から最も適応度の高い個体を得ることができる。
【0046】
S18にて最大ステップ数分の遺伝的アルゴリズムを繰り返したと判定した場合、最適制御用パソコン2eでは、最大ステップ数分の遺伝的アルゴリズムを実施した全ての固体の中から、エネルギ消費量(適応度)の最も高い個体を選択する(S20)。そして、最適制御用パソコン2eでは、その選択した個体の遺伝子を機器特性式の各係数として出力する(S21)。上記の処理が、空調システム1の全ての機器についてそれぞれ行われ、全ての機器についての機器特性式の最適な係数が求められる。
【0047】
このように、従来のように遺伝的アルゴリズムを1回だけ行うのではなく、初期個体を変更しながら遺伝的アルゴリズムを所定回数行う。様々な初期個体によって遺伝的アルゴリズムが実施されるので、初期個体の中に適応度が高くならない不適切な初期個体があったとしても、他の初期個体によって適応度の高い個体を確実に得ることができる。
【0048】
図7を参照して、プログラムBについて説明する。プログラムBは、プログラムAで求められた各機器の係数を組み込んだ機器特性式によって各機器のエネルギ消費量(電力消費量)をそれぞれ計算し、各機器のエネルギ消費量から空調システム全体のエネルギ消費量を計算する。このエネルギ消費量の計算は、運転台数毎に所定の刻み幅で変化させた全ての制御値の組み合わせについて行われ、データベース2のデータが書き換えられる。運転台数が同じ場合でも、運転する機器と停止する機器を変化させた全ての組み合わせについてそれぞれ行われる。
【0049】
まず、最適制御用パソコン2eでは、モード情報の定義及び境界情報を取得する。境界情報としては、例えば、外界条件、二次側熱量(負荷率)、運転台数がある。
【0050】
次に、最適制御用パソコン2eでは、計算タイムが0のときに、各機器の接続情報及び属性情報を取得する。接続情報としては、例えば、各機器との水情報接続の番号、空気情報接続の番号、モード情報接続の番号、運転情報接続の番号、計算順序、機器タイプがある。属性情報としては、例えば、冷凍機の場合には定格能力、定格入力、定格補機入力、定格冷水流量、定格冷却水流量、係数がある。さらに、最適制御用パソコン2eでは、各機器の制御値及び運転モード情報を取得する。このプログラムBでは、制御値(例えば、インバータ周波数による流量、冷却水温度)を境界条件として与える。そして、最適制御用パソコン2eでは、取得した情報を用いて、機器(オブジェクト)のエネルギ消費量を計算する。流量と熱量に変化がなくなるまで、制御値の組み合わせを変えて、上記の処理を繰り返し行い、エネルギ消費量を計算する。
【0051】
図7には、オブジェクトのエネルギ消費量を計算するモデルを示している。オブジェクトO(冷凍機の場合)には属性情報及びプログラムAで求めた機器特性式の機器係数情報が入力され、その機器係数からなる機器特性式が組み込まれている。オブジェクトOは、取得した接続情報に基づいて他のオブジェクトとの水接続や空気接続の関係が規定され、各ノードN1〜N4に運転情報、モード情報、水情報(冷水)、水情報(冷却水)が入力されると、各ノードN5〜N7から水情報(冷水)、水情報(冷却水)及びエネルギ情報(電力情報)を出力する。
【0052】
最適制御用パソコン2eでは、任意の制御値の組み合わせについて機器のエネルギ消費量(電力消費量)を計算する毎に、データベース2を書き換える。そして、最適制御用パソコン2eでは、任意の制御値の組み合わせについて全ての機器のエネルギ消費量(電力消費量)を計算すると、その全ての機器のエネルギ消費量から空調システム全体のエネルギ消費量(電力消費量)を計算し、データベース2を書き換える。最適制御用パソコン2eでは、上記処理を、全ての運転台数(運転する機器と停止する機器の全ての組み合わせも変えて)、全ての制御値の組み合わせについて行い、データベース2を全て書き換える。最後に、運転台数毎に、空調システム1全体のエネルギ消費量が最小となる制御値の組み合わせを選択し、データベース2を書き換える。
【0053】
図8のフローチャートに沿って、プログラムC(ON時)について説明する。プログラムC(ON時)は、中央監視にてオペレータが最適制御をONしたときに実行される。プログラムC(ON時)は、最適制御がONされると制御システムコントローラ2jの制御値から最適制御の制御値に切り替えるので、制御値が急激に変わらないように制御値を徐々に切り替えるための制御値を出力し、制御値の偏差がなくなると最適制御の制御値に完全に切り替える。
【0054】
最適制御が中央監視にて手動でONされると(S30)、一定制御周期毎に(例えば、5分周期毎に)、最適制御用パソコン2eでは、外気の温度と湿度、各機器の運転状態やエネルギ消費量を取得する(S31)。そして、最適制御用パソコン2eでは、データベース1を用いて、外気エンタルピ及び熱源負荷率(二次側装置負荷率)より運転台数を決定する(S32)。さらに、最適制御用パソコン2eでは、データベース2から、決定された運転台数に対応した各機器の制御値(最適制御の制御値)を抽出する(S33)。
【0055】
最適制御用パソコン2eでは、プログラムE(ON時)を起動し、過去データ及び直前データ、各機器の運転状態等から制御値を変更する(S34)。ここでは、最適制御がONしたときには、制御システムコントローラ2jの基本的な制御値から最適制御の制御値に切り替える際に制御値が急激に変わらないように、基本的な制御値から最適制御の制御値に徐々に変化する制御値を求める。この際、冷却水ポンプ1bと一次ポンプ1dとのバランスを考慮する。
【0056】
最適制御用パソコン2eでは、データベース2による最適制御の制御値とプログラムE(ON時)による制御値との偏差がゼロになったか否かを判定する(S35)。S35にて偏差がゼロになったと判定した場合、最適制御が完全ONし(S36)、最適制御用パソコン2eでは、データベース2による最適制御の制御値を最適制御用PLC2dを介して制御システムコントローラ2jにそのまま出力する。一方、S35にて偏差がゼロでないと判定した場合、最適制御用パソコン2eでは、プログラムE(ON時)で出力される制御値を最適制御用PLC2dを介して制御システムコントローラ2jに出力する(S37)。
【0057】
最適制御用パソコン2eでは、最適制御が中央監視にて手動でOFFされたか否かを判定する(S38)。S38にて最適制御がOFFされていないと判定した場合、最適制御用パソコン2eでは、S31の処理に戻る。一方、S38にて最適制御がOFFされたと判定した場合、最適制御用パソコン2eでは、プログラムC(OFF時)に移行する(S39)。
【0058】
図10のフローチャートに沿って、プログラムE(ON時)について説明する。プログラムE(ON時)は、制御システムコントローラ2jの基本制御の制御値から最適制御の制御値に徐々に切り替える制御値を出力する。なお、最適制御がONされたときに、最適制御の制御値が前ステップの制御値に近い場合には徐々に制御値を切り替えることなく、最適制御の制御値をそのまま出力する。
【0059】
プログラムE(ON時)を起動すると、最適制御用パソコン2eでは、前ステップの外気の温度と湿度、各機器の運転状態やエネルギ消費量、運転モード及び現在ステップの時刻を取得する(S34a)。また、最適制御用パソコン2eでは、現時点から過去1時間の制御値を保持する(S34b)。例えば、制御周期を5分周期とすると、1時間で12回分の制御値を保持しておく。ここでは、少なくとも前ステップの制御値と前々ステップの制御値を保持しておけばよい。
【0060】
最適制御用パソコン2eでは、プログラムDのS32、S33の処理と同様に、S34aで取得したデータを用いてデータベース2による最適制御の制御値(Yco,n)を取得する(S34c)。なお、nは、制御値の総数である。
【0061】
また、最適制御用パソコン2eでは、データベース2による最適制御の制御値(Yco,n)を目標値として、前ステップで採用された制御値と前々ステップで採用された制御値との偏差からPID[Proportional Integral Derivative]理論により制御値(Yff、n)を計算する(S34d)。この制御値(Yff、n)は、最適制御の制御値(Yco,n)に徐々に近づく制御値であり、前ステップの制御値Y’からの変化量が制限された制御値である。どの程度を限度として制御値を近づけるかは、PID理論での制御パラメータにより設定可能であり、前後ステップの制御値の変化に応じて空調システム1の運転状態の変化によって室内の人が違和感を受けない程度とする。ここでは、n個分の制御値について、制御値Yffがそれぞれ計算される。
【0062】
そして、最適制御用パソコン2eでは、式(6)により、前ステップで採用された制御値Y’とデータベース2による最適制御の制御値(Yco,n)との差|ΔY1|を計算する(S34e)。また、最適制御用パソコン2eでは、式(7)により、前ステップで採用された制御値Y’とPID理論による制御値(Yff,n)との差|ΔY3|を計算する(S34e)。そして、最適制御用パソコン2eでは、その|ΔY1|と|ΔY3|及び前ステップの制御値Y’を用いて、式(8)により、現在ステップでの制御値Yを計算する(S34e)。ここでは、|ΔY1|が|ΔY3|以下になるまでは現在ステップでの制御値YとしてPID理論による制御値(Yff,n)が採用され、|ΔY1|が|ΔY3|以下になると現在ステップでの制御値Yとして最適制御の制御値(Yco,n)が採用される。なお、現在ステップの制御値Yと前ステップの制御値Y’との差が最大でも制御値の最大操作量(制御値の最大変動範囲)の10%となるように、現在ステップの制御値Yを設定する。そして、最適制御用パソコン2eでは、その制御値Yを出力する(S34f)。
【数2】
【0063】
最適制御のOFFからONの過渡期には制御システムコントローラ2jの基本制御の制御値から最適制御の制御値に徐々に近づく制御値を実際に出力する制御値とし、その実際に出力している制御値と最適制御の制御値との偏差がなくなると最適制御が完全にONとなり、最適制御の制御値を出力する。
【0064】
図9のフローチャートに沿って、プログラムC(OFF時)について説明する。プログラムC(OFF時)は、中央監視にてオペレータが最適制御をOFFしたときに実行される。プログラムC(OFF時)は、最適制御がOFFされると最適制御の制御値から制御システムコントローラ2jの制御値に切り替えるので、制御値が急激に変わらないように制御値を徐々に切り替えるための制御値を出力し、制御値の偏差がなくなると制御システムコントローラ2jの制御値に完全に切り替える。
【0065】
最適制御が中央監視にて手動でOFFされると(S50)、一定制御周期毎に(例えば、5分周期毎に)、最適制御用パソコン2eでは、プログラムE(OFF時)を起動し、過去データ及び直前データ、各機器の運転状態等から制御値を変更する(S51)。
【0066】
最適制御用パソコン2eでは、制御システムコントローラ2jによる制御値とプログラムE(OFF時)による制御値との偏差がゼロになったか否かを判定する(S52)。S52にて偏差がゼロになったと判定した場合、最適制御が完全OFFし(S53)、制御システムコントローラ2jの制御値が用いられる。一方、S52にて偏差がゼロでないと判定した場合、最適制御用パソコン2eでは、プログラムE(OFF時)で出力される制御値を制御システムコントローラ2jに出力する(S54)。なお、最大でも120分以内に最適制御OFFでの運転を実行する。それ以上の場合には制御システムコントローラ2jの制御値に強制的に切り替える。
【0067】
図11のフローチャートに沿って、プログラムE(OFF時)について説明する。プログラムE(OFF時)は、最適制御の制御値から制御システムコントローラ2jの基本制御の制御値に徐々に切り替える制御値を出力する。なお、最適制御がOFFされたときに、基本制御の制御値が前ステップの制御値に近い場合には徐々に制御値を切り替えることなく、基本制御の制御値をそのまま出力する。
【0068】
プログラムE(OFF時)を起動すると、最適制御用パソコン2eでは、前ステップの外気の温度と湿度、各機器の運転状態やエネルギ消費量、運転モード及び現在ステップの時刻を取得する(S51a)。また、最適制御用パソコン2eでは、現時点から過去1時間の制御値を保持する(S51b)。
【0069】
最適制御用パソコン2eでは、S51aで取得してデータに基づく制御システムコントローラ2jの基本的な制御の制御値(Ym,n)を取得する(S51c)。
【0070】
また、最適制御用パソコン2eでは、制御システムコントローラ2jの基本的な制御の制御値(Ym,n)を目標値として、前ステップで採用された制御値と前々ステップで採用された制御値との偏差からPID理論により制御値(Yff,n)を計算する(S51d)。この制御値(Yff、n)は、制御システムコントローラ2jの基本制御の制御値(Ym,n)に徐々に近づく制御値であり、前ステップの制御値Y’からの変化量が制限された制御値である。ここでは、n個分の制御値について、制御値Yffがそれぞれ計算される。
【0071】
そして、最適制御用パソコン2eでは、式(9)により、前ステップで採用された制御値Y’と制御システムコントローラ2jの基本制御の制御値(Ym,n)との差|ΔY2|を計算する(S51e)。また、最適制御用パソコン2eでは、式(10)により、前ステップで採用された制御値Y’とPID理論による制御値(Yff,n)との差|ΔY3|を計算する(S51e)。そして、最適制御用パソコン2eでは、その|ΔY2|と|ΔY3|及び前ステップの制御値Y’を用いて、式(11)により、現在ステップでの制御値Yを計算する(S51e)。ここでは、|ΔY2|が|ΔY3|以下になるまでは現在ステップでの制御値YとしてPID理論による制御値(Yff,n)が採用され、|ΔY2|が|ΔY3|以下になると現在ステップでの制御値Yとして基本制御の制御値(Ym,n)が採用される。なお、現在ステップの制御値Yと前ステップの制御値Y’との差が最大でも制御値の最大操作量の10%となるように、現在ステップの制御値Yを設定する。そして、最適制御用パソコン2eでは、その制御値Yを出力する(S51f)。
【数3】
【0072】
最適制御のONからOFFの過渡期には最適制御の制御値から制御システムコントローラ2jの基本制御の制御値に徐々に近づく制御値を実際に出力する制御値とし、その実際に出力している制御値と基本制御の制御値との偏差がなくなると最適制御が完全にOFFとなり、基本制御の制御値を出力する。
【0073】
この制御システム2によれば、初期個体を変更して遺伝的アルゴリズムを繰り返し実施して制御テーブルを更新することにより、その制御テーブルから最適な制御値を得ることができる。初期個体を所定回数分発生させることにより、様々な初期個体によって遺伝的アルゴリズムを実施できる。その結果、その中の適切な初期個体から適応度の高い個体を得ることができ、その適応度の高い個体の中から最も適応度の高い個体を得ることができ、その最も適応度の高い個体から制御テーブルを更新するための最適な機器係数を取得できる。また、最適な制御値を用いて空調システム1を運転することにより、空調システム1のエネルギ効率を最適化できる。その結果、システム全体としてのエネルギ消費量やCO2排出量を最小化にでき、省エネルギ化及び省CO2化を図ることができる。
【0074】
さらに、制御システム2によれば、空調システム1の各機器の運転状態や電力消費量等の過去ログデータに基づいて定期的(例えば、1ヶ月毎)に制御テーブルを更新することにより、空調システム1の各機器の経年変化等を反映した制御テーブルで最適制御ができ、最適な制御値を求めることができる。
【0075】
また、制御システム2によれば、データベース2による最適制御の制御値と制御システムコントローラ2jの基本制御の制御値とを切り替えるときには制御値を徐々に変えることにより、制御値が急激に変化することを防止でき、空調システム1の運転状態の急峻な変化を抑制できる。また、制御システム2では、最適制御用パソコン2eあるいは最適制御用PLC2dに不具合が発生して最適制御できない場合でも、制御システムコントローラ2jによって基本制御が可能であり、空調システム1に対する制御を保障できる。
【0076】
以上、本発明に係る実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されることなく様々な形態で実施される。
【0077】
例えば、本実施の形態では空調システム(熱源システム)に適用したが、各種プラント等の他のシステムにも適用できる。
【0078】
また、本実施の形態では制御システムにおいて制御システムコントローラで基本制御を行って空調システム1に対する最低限の運転制御を保障する構成としたが、基本制御は行わずに、常に最適制御を行うようにしてもよい。また、本実施の形態では本発明を実現するためのハードウェア構成の一例を示したが、本発明を実現するためのハードウェア構成については他の任意の形態で構成してもよい。
【0079】
また、本実施の形態では省エネルギ化、省CO2化を目的とする最適制御としたが、他の目的に対する最適制御にも適用可能である。
【0080】
また、本実施の形態では最適制御の制御値をデータベース1とデータベース2の2つの制御テーブルを用いて求める構成としたが、他の方法で最適制御の制御値を求めてもよい。例えば、制御テーブルとして1つのデータベースだけで制御値を求めるようにしてもよい。また、制御テーブルを用いるのでなく、制御特性式等を用いて制御値を求めるようにしてもよい。このような最適制御の手法に応じて遺伝的アルゴリズムで探索する制御係数も変わる。
【0081】
また、本実施の形態では最適制御がONからOFFされた場合又はOFFからONされた場合に一方の制御値から他方の制御値に徐々に切り替える手法の一例を示したが、他の手法で制御値を徐々に切り替えるようにしてもよい。例えば、各制御値に対して前ステップの制御値からの最大許容変化量(固定値)を予め用意しておき、前ステップの制御値から最大許容変化量を限度として現在ステップの制御値を求める。最適制御がOFFからONになった場合、最適制御の制御値と前ステップの制御値との差が最大許容変化量より大きい場合には前ステップの制御値に最大許容変化量を加算して現在ステップの制御値とし、最適制御の制御値と前ステップの制御値との差が最大許容変化量以下の場合には最適制御の制御値を現在ステップの制御値とする。
【符号の説明】
【0082】
1…空調システム、1a…冷却塔、1b…冷却水ポンプ、1c…冷凍機、1d…一次ポンプ、2…制御システム、2a…インテリジェントコントローラ、2b…BEMS、2c…熱源群管理用PLC、2d…最適制御用PLC、2e…最適制御用パソコン、2f…ネットワーク、2g,2h…同軸ケーブル、2i…イーサネット,2j…制御システムコントローラ、2k…同軸ケーブル。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象システムを制御するための制御値を出力する制御システムであって、
前記制御対象システムに対する最適な制御値を生成する最適制御装置を有し、
前記最適制御装置は、
遺伝的アルゴリズムを実施する実施回数を設定する実施回数設定手段と、
初期個体を発生する初期個体発生手段と、
遺伝的アルゴリズムを実施する実施手段と
を備え、
遺伝的アルゴリズムを実施した回数が前記実施回数設定手段で設定した実施回数になるまで、遺伝的アルゴリズムを実施する毎に前記初期個体発生手段で初期個体を発生し、当該発生した初期個体を用いて前記実施手段で遺伝的アルゴリズムを実施して適応度の高い個体を探索し、
遺伝的アルゴリズムを実施した回数が前記実施回数設定手段で設定した実施回数になった場合、前記実施回数設定手段で設定した実施回数分の遺伝的アルゴリズムでそれぞれ探索された個体の中から最も適応度の高い個体を選択し、当該選択した個体に基づいて前記制御対象システムに出力する制御値を生成することを特徴とする制御システム。
【請求項2】
前記制御対象システムに対する基本の制御値を生成する基本制御装置を有し、
前記制御対象システムに出力する制御値を前記最適制御装置と前記基本制御装置との間で切り替える場合、切り替え前の制御装置の制御値から切り替え後の制御装置の制御値に徐々に変えることを特徴とする請求項1に記載の制御システム。
【請求項1】
制御対象システムを制御するための制御値を出力する制御システムであって、
前記制御対象システムに対する最適な制御値を生成する最適制御装置を有し、
前記最適制御装置は、
遺伝的アルゴリズムを実施する実施回数を設定する実施回数設定手段と、
初期個体を発生する初期個体発生手段と、
遺伝的アルゴリズムを実施する実施手段と
を備え、
遺伝的アルゴリズムを実施した回数が前記実施回数設定手段で設定した実施回数になるまで、遺伝的アルゴリズムを実施する毎に前記初期個体発生手段で初期個体を発生し、当該発生した初期個体を用いて前記実施手段で遺伝的アルゴリズムを実施して適応度の高い個体を探索し、
遺伝的アルゴリズムを実施した回数が前記実施回数設定手段で設定した実施回数になった場合、前記実施回数設定手段で設定した実施回数分の遺伝的アルゴリズムでそれぞれ探索された個体の中から最も適応度の高い個体を選択し、当該選択した個体に基づいて前記制御対象システムに出力する制御値を生成することを特徴とする制御システム。
【請求項2】
前記制御対象システムに対する基本の制御値を生成する基本制御装置を有し、
前記制御対象システムに出力する制御値を前記最適制御装置と前記基本制御装置との間で切り替える場合、切り替え前の制御装置の制御値から切り替え後の制御装置の制御値に徐々に変えることを特徴とする請求項1に記載の制御システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−83947(P2012−83947A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−229668(P2010−229668)
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】
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