説明

制御ループ診断装置

【課題】 主観的要因を排除し、客観的な事象に基づくデータにより、制御ループ健全でない場合の要因の特定を可能とする、制御ループ診断装置を実現する。
【解決手段】 測定流体が流れる管路に調節弁が挿入され、前記測定流体の流量の測定信号を用いて制御演算を行い、演算で求めた制御信号で前記調節弁を制御する制御ループの健全性を診断する制御ループ診断装置において、
前記測定信号、前記制御信号及び前記調節弁の開度信号を監視データとして取得して保持する入力処理手段と、
この入力処理手段より前記監視データを読み出し、各監視データの変化傾向のパターンの組み合わせを監視する変化傾向監視手段と、
を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定流体が流れる管路に調節弁が挿入され、前記測定流体の流量の測定信号を用いて制御演算を行い、演算で求めた制御信号で前記調節弁を制御する制御ループの健全性を診断する制御ループ診断装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
測定流体が流れる管路に挿入された調節弁を強制的に開閉操作し、測定値変化の挙動から制御ループの健全性を診断する技術が特許文献1に開示されている。本発明は、制御ループを通常の制御状態のままでその健全性を診断する、制御ループ診断装置に関する。
【0003】
図3は、従来の制御ループ診断装置が適用された制御システムの構成例を示す機能ブロック図である。Aはフィールドの領域、Bは制御システムの領域を示す。フィールドの領域Aにおいて、1は流体Fが流れる管路、2はこの管路に挿入された調節弁、3は同じくこの管路に挿入された伝送器である。
【0004】
制御システムの領域Bにおいて、4は調節計であり、伝送器3からの測定信号PVと設定値SVを入力し、その偏差を演算した制御信号MVを調節弁2へ出力し、流体Fの流量を設定値SVに制御する制御ループが形成されている。
【0005】
5は、この制御ループの健全性を診断する制御ループ診断装置である。この制御ループ診断装置において、51は入力処理手段であり、測定信号PV、設定値SV、制御信号MV及び調節計4より警報信号AL、制御モード信号MDを監視データとして取得する。
【0006】
入力処理手段51は、取得したこれら監視データより、SVに対するMVやPVの追従特性、PVの振幅、取り込んだデータの警報発生状況及び自動制御状態を解除した時間割合等を定周期で算出し、監視データ保持手段52に保持する。
【0007】
53は、ユーザにより事前に設定されるベンチマークデータ保持手段である。54はパフォーマンス測定手段であり、ベンチマークデータ保持手段53に保持されたベンチマークに対する監視データ保持手段52に保持された監視データの達成度を測定する。
【0008】
55は診断手段であり、パフォーマンス測定手段54からの測定データを取得して、所定のアルゴリズムに基づいて制御ループの健全性やプロセスの問題を評価、診断してユーザに通知する。
【0009】
【特許文献1】特開2002−076807号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の制御ループ診断装置では、次のような問題点がある。
(1)制御ループにおいては、調節機能を有する2つの要素である調節計および調節弁の動作状況を把握することが重要であるが、アナログ計装では、調節弁の挙動を調節結果として反映される測定信号PVとしてしか測定できない。
【0011】
そのために、制御ループが健全でない場合の要因が、調節弁の調整不足や不具合によるものか、プロセスに起因よるものか特定が困難である。 当然ながら、その詳細の特定までは至らず、現場でのメンテナンスを通してこれらを特定することになる。
【0012】
(2)制御ループの健全性を評価する指標が、ベンチマークに対する達成度であり、このベンチマークの設定がユーザの主観的要因で大きく変わるため、診断結果の客観性が低くなり、汎用的な制御ループ診断装置とはなりえない。
【0013】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、主観的要因を排除し、客観的な事象に基づくデータにより、制御ループが健全でない場合の要因の特定を可能とする、制御ループ診断装置を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このような課題を達成するために、本発明は次の通りの構成になっている。
(1)測定流体が流れる管路に調節弁が挿入され、前記測定流体の流量の測定信号を用いて制御演算を行い、演算で求めた制御信号で前記調節弁を制御する制御ループの健全性を診断する制御ループ診断装置において、
前記測定信号、前記制御信号及び前記調節弁の開度信号を監視データとして取得して保持する入力処理手段と、
この入力処理手段より前記監視データを読み出し、各監視データの変化傾向のパターンの組み合わせを監視する変化傾向監視手段と、
を備えることを特徴とする制御ループ診断装置。
【0015】
(2)前記変化傾向監視手段は、前記各監視データを、上昇、下降、ハンチング、変化なし、のいずれかの変化傾向のパターンに分類することを特徴とする(1)に記載の制御ループ診断装置。
【0016】
(3)前記監視データの変化傾向のパターンの組み合わせに対応して想定される制御ループの異常パターンを設定して保持する異常パターン保持手段と、
この異常パターン保持手段に保持された異常パターンが、前記変化傾向監視手段で監視される前記各監視データの変化傾向のパターンと一致した場合に、異常診断情報を時間情報と共に出力して保持する診断手段と、
を備えることを特徴とする(1)または(2)に記載の制御ループ診断装置。
【0017】
(4)前記診断手段に保持された診断情報を表示若しくはネットワークに送出する診断結果通知手段を備えることを特徴とする(3)に記載の制御ループ診断装置。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したことから明らかなように、本発明によれば次のような効果がある。
(1)制御ループが健全でない場合に、その要因が調節弁の調整不足や不具合によるものか、プロセスの要因によるものかを客観的に診断できるようになる。
【0019】
(2)また、その問題箇所の詳細部位の特定が可能となるため、これまで行われてきた現場でのメンテナンス作業が削減され、プラント操業の生産性向上が期待される。
【0020】
(3)診断情報が客観性を備えるので、この情報をさらに上位のシステムに渡し、プラント設備の中長期の管理システム等の構築が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を図面により詳細に説明する。図1は、本発明の制御ループ診断装置が適用された制御システムの実施形態示す機能ブロック図である。図3で説明した従来装置と同一要素には、同一符号を付して説明を省略する。以下、本発明の特徴部につき説明する。
【0022】
図1において、100は本発明の特徴部を形成する制御ループ診断装置である。この制御ループ診断装置において、101は入力処理手段であり、伝送器3から送信される測定信号PV、調節計4から出力される制御信号MV及び調節弁2から送信される開度信号RVを監視データとして定周期で取得し、監視データ保持手段102に格納する。
【0023】
103は変化傾向監視手段であり、定期的に監視データ保持手段102にアクセスし、各監視データを上昇、下降、ハンチング、変化なしの傾向に分類し、それらを組み合わせたパターンを監視する。
【0024】
104は異常パターン保持手段であり、ユーザにより予め各監視データの変化の傾向パターンの組み合わせで予測される異常パターン情報及びそのパターンで予測される要因情報が設定され、保持されている。
【0025】
105は診断手段であり、変化傾向監視手段103異常パターンで監視される各監視データの変化傾向の組み合わせパターンを、異常パターン保持手段104に照会し、合致するパターンがあればその異常パターン及びそのパターンで予測される要因情報を、時間情報と共に診断情報保持手段106に格納する。
【0026】
107は診断結果通知手段であり、利用者からの要求に従い、診断情報保持手段106に格納された異常パターンとその発生時刻、及び事前に設定格納された異常パターンで予想される要因情報を、表示若しくはネットワークを介して注意報、警報及び電子メイル等で利用者に通知する。
【0027】
図2は、監視データの変化傾向の組み合わせに基づく異常パターンとその要因情報を対応させたテーブルの一例であり、このテーブル内容が異常パターン保持手段104に設定・保持されている。以下、このテーブルから参照される異常パターン(a),(b),
(c),(d)につき説明する。
【0028】
(a)PVは変化していないが、MV及びRVが上昇しているパターンの組み合わせ:
ある一定の物質収支で平衡している系において、その物質収支を維持するために調節計の出力が増加(調節弁開指令)し、その結果で調節弁開度が増加した場合には、所定の物質量を下流側へ流すために必要な圧力が、それまでの調節弁開度では低すぎるため、調節弁開度が増加していることが要因として挙げられる。
【0029】
その根源の要因としては、以下が考えられる。
・プロセスの配管及び/又は調節弁が閉塞傾向である。
・系に物質を供給しているポンプ又はブロアーの吐出圧力がそれらの前又は後に設置 されている弁によって絞られているため、所定の圧力が確保できなくなった。
【0030】
(b)PVは変化していないが、MV及びRVが下降しているパターンの組み合わせ:
ある一定の物質収支で平衡している系において、その物質収支を維持するために調節計の出力が減少(調節弁閉指令)し、その結果で調節弁開度が減少した場合には、所定の物質量を下流側へ流すために必要な圧力が、それまでの調節弁開度では高すぎるため、調節弁開度が減少していることが要因として挙げられる。
【0031】
その根源の要因としては、以下が考えられる。
・調節弁のプラグ及び/又はシートリングが磨耗し、同じ開度での通過物質量が増加し ている。
・調節弁上流側の系で系外への物質の流出(プロセス配管などからの漏洩)が発生して いる。
【0032】
(c)PVは上昇、MVは下降、RVは上昇変化しているパターンの組み合わせ:
ある一定の物質収支で平衡している系において、その物質収支を維持するために調節計の出力が減少(調節弁閉指令)しているが、調節弁がそれに追従せずにMVと調節弁開度の偏差発生が継続しており、調節弁異常である。その想定される要因としては、駆動源(空気や油圧)の圧力低下が考えられる。
【0033】
(d)PVの挙動には関係なく、RVは変化しないがMVが上昇又は下降変化しているパターンの組み合わせ:
調節計のMVの増加(または減少)に対して、調節弁開度が変化しない場合も調節弁異常である。その想定される要因としては、調節弁ステムの固着及び/又はグランドパッキンの過締めが要因として考えられる。
【0034】
以上説明した図1の実施形態では、簡単のために調節計4を独立要素の形で示したが、分散型制御システムの制御ステーションで実現される機能と同等である。又、制御ループ診断装置100は、分散型制御システムの上位装置内に組み込むこともできる。又は、この分散型制御システムとネットワークを介して通信するユーザPCのアプリケーションとして稼動させる実施形態であってもよい。
【0035】
本発明によれば、診断情報が客観性を備えているので、この情報をさらに上位のシステムに渡し、プラント設備の中長期の管理システムの構築ができる。即ち、制御ループの健全性診断と連携したCBO(Condition Based Operation: プラント設備の健全性に基づく操業)の実現、及び上記に加え、センサ、伝送器および調節弁個々の健全性診断まで含めた高信頼なCBOの構築が可能である。
【0036】
更に、上記CBOを、装置レベルで集約管理した装置診断の実現や、中長期に亘るCBOを支えるCBM(Condition Based maintenance: プラント設備の状態に基づくメンテナンス)による設備資産の効率的運用の実現も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の制御ループ診断装置が適用された制御システムの実施形態示す機能ブロック図である。
【図2】監視データの変化傾向の組み合わせに基づく異常パターンとその要因情報を対応させたテーブルである。
【図3】従来の制御ループ診断装置が適用された制御システムの構成例を示す機能ブロック図である。
【符号の説明】
【0038】
1 管路
2 調節弁
3 伝送器
4 調節計
100 制御ループ診断装置
101 入力処理手段
102 監視データ保持手段
103 変化傾向監視手段
104 異常パターン保持手段
105 診断手段
106 診断情報保持手段
107 診断結果通知手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定流体が流れる管路に調節弁が挿入され、前記測定流体の流量の測定信号を用いて制御演算を行い、演算で求めた制御信号で前記調節弁を制御する制御ループの健全性を診断する制御ループ診断装置において、
前記測定信号、前記制御信号及び前記調節弁の開度信号を監視データとして取得して保持する入力処理手段と、
この入力処理手段より前記監視データを読み出し、各監視データの変化傾向のパターンの組み合わせを監視する変化傾向監視手段と、
を備えることを特徴とする制御ループ診断装置。
【請求項2】
前記変化傾向監視手段は、前記各監視データを、上昇、下降、ハンチング、変化なし、のいずれかの変化傾向のパターンに分類することを特徴とする請求項1に記載の制御ループ診断装置。
【請求項3】
前記監視データの変化傾向のパターンの組み合わせに対応して想定される制御ループの異常パターンを設定して保持する異常パターン保持手段と、
この異常パターン保持手段に保持された異常パターンが、前記変化傾向監視手段で監視される前記各監視データの変化傾向のパターンと一致した場合に、異常診断情報を時間情報と共に出力して保持する診断手段と、
を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の制御ループ診断装置。
【請求項4】
前記診断手段に保持された診断情報を表示若しくはネットワークに送出する診断結果通知手段を備えることを特徴とする請求項3に記載の制御ループ診断装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−94794(P2007−94794A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−283845(P2005−283845)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】