説明

制振構造および制振建造物

【課題】長期間にわたって優れた制振機能を維持できる耐久性の高い制振構造および、それを用いた制振建造物を提供する。
【解決手段】方形開口部5を区画する建物の骨組部材1の、それぞれの柱3に取り付けた二枚一対のパネル6と、土台2および梁4の少なくとも一方に取り付けられて、前記方形開口部側5へ突出する固定ブラケット8と、この固定ブラケット8に制振材9を介して連結した可動ブラケット10とを具え、各パネル6が、可動ブラケット10に粘弾性体11で連結してなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震等による建物の変形を抑制するとともに、建物の振動の減衰を図るための制振構造および、それを用いた制振建造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地震が発生したときの、建物の耐震性が強く求められるようになってきており、これがため、建物の耐震性を向上させて地震被害を軽減するべく、地震の発生時の、建物の変形を抑制したり、柱の傾動振動および、土台と梁等との水平方向相対振動等を減衰したりするための、制振構造を建物に組み込み、これによって、振動エネルギーを吸収することで、各種の変形を抑制して、建物の揺れを抑制する技術が、種々提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、建築用の壁パネルに開口部が形成されており、この開口部内に制振装置が取り付けられてなる制振壁パネルであって、前記制振装置は、前記開口部内に取り付けられたフレームと、このフレームに対向して設けられた一対の支持部と、この一対の支持部によって支持されて、震動によって一対の支持部が変位した場合に、該一対の支持部間の略中央部を中心として振れるように構成された振り子部材と、この振り子部材の端部と前記フレームとの間に設けられた制振部材とを備え、振り子部材の変形を増幅して、建物の小さな変形から制振機能を有効に働かせる技術が開示されている。
【0004】
しかるに、このような制振構造は、フレームと支持部の連結部分にボルトやナット等の機械的な締結手段が用いられているため、特に数十年に渡る長期耐久性を考えた場合に、例えば、繰り返しの制振機能の発揮によって連結部分が摩滅したり、逆に不作用期間の長期化に起因して錆などにより連結部分が固着して、制振機能が低下するおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−152788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、長期間にわたって優れた制振機能を維持できる耐久性の高い制振構造および、それを用いた制振建造物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明にかかる制振構造は、方形開口部を区画する建物の骨組部材の、それぞれの柱に取り付けた二枚一対のパネルと、土台および梁の少なくとも一方に取り付けられて、前記方形開口部側へ突出する固定ブラケットと、この固定ブラケットに制振材を介して連結した可動ブラケットとを具えてなるものであって、各パネルが、可動ブラケットに粘弾性体で連結してなることを特徴とするものである。
【0008】
ここで、「建物の骨組部材」とは、柱、土台、梁等の骨格部材をいうものとし、対をなす柱と、土台および梁、または、対をなす梁とによって、方形の開口部を区画するものをいう。
「固定ブラケットに制振材を介して連結」とは、制振材を固定ブラケットで挟み込む場合や、制振材を介して固定ブラケットを連結する場合がある。
「粘弾性体で連結」させる形態としては、一枚のパネルを、二枚の可動ブラケット間に粘弾性体を介して挟み込む場合の他、一枚の可動ブラケットを、二枚のパネル間に粘弾性体を介して挟み込む場合がある。
「制振材」には、天然ゴム系・合成ゴム系・シリコン系などの熱硬化性樹脂や、スチレン系・アクリル系・ジエン系などの熱可塑性樹脂を用いた粘弾性体を用いることができる。
「粘弾性体」には、天然ゴム系・合成ゴム系・シリコン系や未加硫ゴムなどの熱硬化性樹脂や、スチレン系・アクリル系・ジエン系などの熱可塑性樹脂を用いた粘弾性体を用いることができる。
【0009】
このような制振構造においてより好ましくは、可動ブラケットおよびパネルのいずれか一方に固定した芯部材と、他方に固定した筒状部材とを設け、筒状部材の内側で粘弾性体によって芯部材を連結させる。
【0010】
また好ましくは、一対のパネルの間に摩擦ダンパーを設ける。
ここで、摩擦ダンパーとは、面が擦れ合うときの摩擦力を減衰力に変換したものであって、摺動面に用いられる材料としては、(自動車用ブレーキ材に用いられる)有機系ポリマーを結合材とし、各種の繊維と有機・無機充填材からなる複合材料や、焼結金属系摩擦材、ポリテトラフルオロエチレン摩擦材または金属系摩擦材等を用いることができる。
【0011】
そしてまた好ましくは、粘弾性体が、制振材より剪断弾性率を大きくする。
【0012】
本発明に係る制振建造物は、上述したいずれかの制振構造を用いて形成される。
【発明の効果】
【0013】
この発明の制振構造では、各パネルが、可動ブラケットに、ボルトやナット等の機械的な締結手段を用いることなく、粘弾性体で連結することで、従来の連結部分で発生した摩滅や錆などが発生せずに、長期にわたって、制振構造の耐久性を継続することができる。
【0014】
また、このような制振構造では、建物に地震等の横揺れ振動によって変形が生じると、この建物の土台と梁とが左右に変位し、一対のパネルが固定ブラケットおよび可動ブラケットを介して変位することによって、柱の傾動振動をパネルで拘束するとともに、固定ブラケットおよび可動ブラケットの間に介在させた制振材によって、地震の際の様々な入力、パネルを介した柱の傾動振動する力と、柱および土台に取り付けたそれぞれのブラケットとが複合された合力および、その合力の作用方向に起因する捻れ方向の力が制振材に作用することになるため、制振材により大きなエネルギーを吸収し、および、可動ブラケットおよびパネルの間に介在させた粘弾性体によって、それぞれの粘弾性体の変形反力に基づいて、地震の発生に伴う振動の減衰効果を大きく向上させることができる。その結果、複合された様々な変形に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)は、本発明の制振構造の一の実施形態を示す、概略正面図であり、(b)は、(a)の制振構造に振動による変形を生じたときの様子を示す概略正面図である。
【図2】パネルとブラケットの連結の状態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、図面を参照しながら本発明の制振構造を詳細に説明する。
図1(a)は、本発明の制振構造の一の実施形態を示す、概略正面図であり、図1(b)は、(a)の制振構造に振動による変形を生じたときの様子を示す概略正面図である。
【0017】
図中の骨組部材1は、土台2と、それに対して鉛直方向に延びる二本の柱3と、それら柱3の相互を水平に連絡する梁4とからなり、例えば、高さが2000〜3000mmで、幅が500〜1000mmの縦長の方形開口部5を区画する。
【0018】
骨組部材1で区画される、このような方形開口部5の内側で、それぞれの柱3には、図では、等脚台形状のパネル6を配設し、例えば、鋼材等の剛性部材で構成することができる、このパネル6の長辺(上底または下底)側を、土台2および梁4から所定の間隔をおいて、柱にL型金具を釘またはビス(ネジ)にて固定するなどして接着し、それぞれの短辺(上底または下底)をほぼ平行にして配置する。
好ましくは、一対のパネル6の間には平板状の摩擦材を接着または金具・ビスで固定するなどして、摩擦ダンパー7を設ける。
【0019】
また、土台2または梁4の少なくとも一方、図では両方に、例えば等脚台形状の固定ブラケット8の長辺(上底または下底)側を、両柱3から所定の間隔をおいてL型金具を釘またはビス(木ネジ)にて固定等して接着する。これらの固定ブラケット8の短辺(上底または下底)側には、制振材9を介して、例えば等脚台形状の可動ブラケット10の短辺(上底または下底)側を接着する。これらのブラケット8,10は土台2および梁4から方形開口部5に突出させて設ける。
【0020】
それらのブラケット8,10は、土台2および梁4のそれぞれで、表裏のそれぞれの側に間隔をおいて対をなす、例えば、剛体(鋼材)製とすることができ、ブラケット8,10両者の突出長さは100〜200mm、突出幅は100〜200mmとすることができる。
【0021】
さらに、この制振構造では、図では各パネル6の短辺側の頂点周辺部分と、可動ブラケット10の長辺側の頂点周辺部分に粘弾性体11で連結する。
すなわち、各パネル6は、短辺側で固定ブラケット8および可動ブラケット10を介して土台2および梁4と、長辺側で柱3に固定されて、複合された様々な変形に対応することができる。
【0022】
なおこの場合、それぞれの制振材9および粘弾性体11の厚さは1〜95mmの範囲とし、表面積は100〜62500mmの範囲とすることが好ましい。この範囲により、パネル6およびブラケット8,10と、制振材9および粘弾性体11とが接合力を確保するとともに、所望の制振効果を得ることができる。
ところで、制振材9および粘弾性体11は、相互に同一または異なる物性および大きさをそれぞれ有することもできる。
【0023】
このような制振構造においてより好ましくは、可動ブラケット10およびパネル6のいずれか一方、図ではパネル6に固定した芯部材12と、可動ブラケット10に固定した筒状部材13とを設け、筒状部材13の内側で粘弾性体11によって芯部材12を連結させる。
この構成とすることで、従来のボルト・ナットを用いたピン構造と同様な回転運動を可能にし、ピン構造のような摺動部が無いことから摩擦・磨耗による性能低下がなく、かつ、粘弾性体11に減衰性を付与することで、更なる制振性能を向上させることができる。
【0024】
また好ましくは、一対のパネル6の間に摩擦ダンパー7を設けることで、さらに摩擦ダンパー7に起因した減衰を付加し、制振性能を向上させることができる。
【0025】
ところで、粘弾性体11が、制振材9より剪断弾性率を大きくすることで、粘弾性体11でパネル6と可動ブラケット10との捩れや剪断変形を拘束し、制振材9で高減衰機能を発揮して制振効果を高めることができる。
【0026】
例えば、制振材9として、天然ゴム系・合成ゴム系・シリコン系などの熱硬化性樹脂や、スチレン系・アクリル系・ジエン系などの熱可塑性樹脂を用いることができる。
粘弾性体11としては、未加硫ゴムが配合されており、その未加硫ゴムの配合によって振動減衰性能を高める事ができる。また粘弾性体11は等価減衰定数(Heq)=0.15以上の粘弾性を用いることで振動減衰性能を高めることができ、微小な変形から大変形に至るまで有効にエネルギー吸収が可能であるとともに、一旦塑性変形しても、数日後にはほぼ元のヒステリシス特性に復元するという性質を有することが最も好ましい。
【0027】
また、粘弾性体11は前記剪断弾性率が0.1〜0.3N/mmの柔らかいゴムを、制振材9は、剪断歪100%時の剪断弾性率が0.4〜0.7N/mmの硬いゴムを適用した場合には、図2に示す粘弾性体11が微振動では軸直行方向に動く(芯部材12が筒状部材13内で輔直交方向に僅かに動く)ことで、優先的に変形し、大きな地震で(芯部材12が筒状部材13と、その間に設けた粘弾性体11により軸直交方向の変位が停止し)、制振構造がそれ以上変形しようとすると、図2に示す芯部材12と筒状部材13が回転方向に変形し、硬い制振材9が変形する事になるので、微小変形から大地震まで制振機能を発揮することができる。
【0028】
上述した制振構造を用いて、制振建造物、例えば木造住宅(在来木造軸組み工法の住宅)、鉄骨プレハブ住宅、鉄骨のビルディングに形成することが好ましく、地震の吸収エネルギーの減衰効果が大きいとともに、省スペースに低コストで設けることができる。
【符号の説明】
【0029】
1 骨組部材
2 土台
3 柱
4 梁
5 方形開口部
6 パネル
7 摩擦ダンパー
8 固定ブラケット
9 制振材
10 可動ブラケット
11 粘弾性体
12 芯部材
13 筒状部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
方形開口部を区画する建物の骨組部材の、それぞれの柱に取り付けた二枚一対のパネルと、土台および梁の少なくとも一方に取り付けられて、前記方形開口部側へ突出する固定ブラケットと、この固定ブラケットに制振材を介して連結した可動ブラケットとを具えてなる制振構造において、
各パネルが、可動ブラケットに粘弾性体で連結してなることを特徴とする制振構造。
【請求項2】
可動ブラケットおよびパネルのいずれか一方に固定した芯部材と、他方に固定した筒状部材とを設け、筒状部材の内側で粘弾性体によって芯部材を連結してなる請求項1に記載の制振構造。
【請求項3】
一対のパネルの間に摩擦ダンパーを設けてなる請求項1または2に記載の制振構造。
【請求項4】
粘弾性体が、制振材より剪断弾性率を大きくしてなる請求項1〜3のいずれかに記載の制振構造。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の制振構造を設けてなる制振建造物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−149146(P2011−149146A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8652(P2010−8652)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】