説明

制振構造

【課題】多層構造の建物の一部の層に制振機構を設置して、建物全体の応答低減効果を得ることが可能な制振構造を提供する。
【解決手段】多層構造の建物1に、この建物1に作用した振動エネルギーを減衰させるための制振機構2を設置してなる制振構造Aであって、制振機構2が回転慣性質量ダンパー3と付加バネ4を直列に接続して構成され、この制振機構2を、建物1の中間層の架構1bを挟んで上下に位置する上層と下層の架構1a、1cに接続して複数層に跨って設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばマンションやオフィスビルなどの多層構造の建物に、この建物に作用した振動エネルギーを減衰させるための制振機構を設けて構成した制振構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マンションやオフィスビルなどの多層構造の建物においては、建物内に設置した制震ダンパーによって、例えば地震時に作用した地震エネルギー(振動エネルギー)を吸収して減衰させ、建物の応答を低減させるようにしている。すなわち、制震ダンパーを設置することで耐震性能を向上させ、建物を制震構造(制振構造)にしている。また、このような制震ダンパーには、鋼材等の降伏耐力やすべり材の摩擦抵抗を利用した履歴系ダンパー、粘性体の粘性抵抗を利用したオイルダンパーなどの粘性系ダンパー、粘弾性体のせん断抵抗を利用した粘弾性系ダンパーが多用されている。
【0003】
そして、一般に、この種の制震ダンパーは、地震時に生じる建物の変形に抵抗するようにブレース、壁、間柱の形状として各階(各層)の柱と梁の架構内(層間)に設置される。しかしながら、このように制震ダンパーの設置箇所を各階の架構内に限定することで、建物の階数が多くなるほど制震ダンパーの設置台数が増え、建築計画を行う上で必要十分な台数の制震ダンパーの配置に苦慮する場合が多々ある。
【0004】
これに対し、特許文献1の制震構造物(制振構造)では、ブレースと制震ダンパー(可変減衰装置)からなる制震機構(制振機構)を、応答最大せん断力が大きくなる下層階においては各層(各階)ごとに設置し、下層階に比べて応答最大せん断力が小さい上層階においては2層または3層以上に跨る柱梁架構ごとに設置している。これにより、少ない設置台数で、各階ごとに制震ダンパーを設置する場合と同様の応答低減効果を得ることを可能にしている。なお、制震とは制振のうち専ら地震のみを対象としたものを指している。
【0005】
一方、地震時の応答を低減する手段として、いわゆるTMD(Tuned Mass Damper)と称する制震装置(制振機構)を採用する場合もある。このTMDは、錘体(重錘)と付加バネとオイルダンパーなどの付加減衰装置とを備え、錘体が往復振動する1自由度振動系として構成されている。そして、建物の1次固有周期と同調させて、建物の振動と逆方向に錘体を振動させることにより、すなわち錘体が振動することによる慣性抵抗力(慣性質量効果)を利用することによって、建物に作用した地震エネルギーを減衰させ、建物の応答を低減させることを可能にしている。
【特許文献1】特開平11−256869号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の制震構造においては、ブレースに履歴系ダンパー、粘性系ダンパー、粘弾性系ダンパーを接続して制震機構が構成され、TMDのように慣性質量効果を利用して地震エネルギーを減衰させるものではないため、建物の最下層から最上層(1階から最上階)まで連続的に制震機構(制震ダンパー)を配置することが必要になる。このため、上層階において2層または3層以上に跨る柱梁架構ごとに設置するようにしても、十分な応答低減効果を得るためには、やはり多くの制震機構(制震ダンパー)を設置することが必要になってしまう。また、制震機構の設置箇所が架構内(層間)に限定されるため、やはり建築計画を行う上で、その配置に苦慮することになる。
【0007】
一方、TMDにおいても、地震のような過渡応答に対して応答低減効果を確実に発揮させるためには、建物重量の数%の重量の錘体を建物の頂部近傍に設置することが必要になる。このため、TMDを屋上庭園に一体に設けた実施例があるものの、建物への荷重負荷が大きくなり、且つ大きな設置スペースを要するため、現実的には採用できない場合が多い。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑み、多層構造の建物への制振機構の設置台数を大幅に少なくして、確実に建物全体の応答低減効果を得ることが可能な制振構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0010】
本発明の制振構造は、多層構造の建物に、該建物に作用した振動エネルギーを減衰させるための制振機構を設置してなる制振構造であって、前記制振機構が、回転慣性質量ダンパーと付加バネを直列に接続して構成され、前記建物の中間層の架構を挟んで上下に位置する上層と下層の架構に接続して、複数層に跨って設けられていることを特徴とする。
【0011】
この発明においては、制振機構が回転慣性質量ダンパーと付加バネを直列に接続して構成されているため、TMDと同様に回転慣性質量と付加バネからなる付加振動系の固有振動数を建物と同調させることで、回転慣性質量ダンパーの錘体の回転慣性を利用し、その慣性抵抗力によって、同調振動数における建物の応答を低減させることができる。
【0012】
また、この制振機構を、複数層に跨って中間層の架構を挟んで上下に位置する上層と下層の架構に接続して設けることで、例えば建物の外周部(外側)や建物内の上下に連通する吹き抜け部(床開口部)などに設置できる。このため、従来の制震ダンパーのように架構内(層間)に設置したり、従来のTMDのように建物の頂部近傍に設置するものと比較し、設置箇所の制約が少なく、建築計画を行う上でその配置を容易に決めることが可能になる。
【0013】
さらに、この制振機構を、例えば建物の階高が大きく層剛性が小さい階など、特定箇所(特定した複数階の間)にのみ設置して、建物全体の応答を低減することが可能になる。このとき、制振機構を複数層に跨って設けることにより、1層だけでは層間変位が小さい場合においても、複数層全体の相対変位(層間変位を合計した比較的大きな相対変位)を制振機構に作用させることが可能になるため、大きな制振効果を発揮させることが可能になる。このため、従来のように、各階(各層)ごとに制震ダンパー(層間ダンパーとしてブレースダンパーや制震壁などの制震機構)を設置する場合と比較し、制振機構の設置台数を大幅に減らすことが可能になる。これにより、建築平面計画を阻害することなく建物への荷重負荷を軽減して、低コストで耐振性能を向上させることが可能になる。
【0014】
さらに、付加バネ(付加バネのバネ剛性)を調整することによって、制振機構の固有振動数を容易に調整することができる。このため、例えば建物の1次固有振動数に制振機構の固有振動数を容易に同調させることができ、建物に作用した1次モードの振動エネルギーを確実に吸収して減衰させ、建物の応答を低減させることが可能になる。また、このとき、制振機構がTMDと同様に慣性質量効果を利用して振動エネルギーを減衰させるものであるため、微小振幅から制振効果を発揮させることが可能である。
【0015】
また、本発明の制振構造においては、前記制振機構が、付加減衰装置を備え、該付加減衰装置を前記回転慣性質量ダンパーあるいは前記付加バネに対して並列に接続して構成されていることが望ましい。
【0016】
この発明においては、制振機構が例えばオイルダンパーなどの付加減衰装置を備えて構成されているため、回転慣性質量ダンパーと付加バネと付加減衰からなる動吸振機構により、建物に作用した振動エネルギーを消費して建物の応答を低減させることが可能になる。
【0017】
さらに、本発明の制振構造においては、前記制振機構が、前記上層と下層の架構に接続して設けられて前記上層と下層の架構が相対変位するとともに該上層と下層の架構の相対変位量よりも大きな変位量を生じる変位拡大機構を備えており、前記回転慣性質量ダンパーと前記付加バネ、及び/又は前記付加減衰装置が前記変位拡大機構に接続して設けられていることがより望ましい。
【0018】
この発明においては、建物に振動エネルギーが作用して上層と下層の架構が相対変位した際に、この相対変位量よりも大きな変位量で変位拡大機構が変位するため、この変位拡大機構に接続した回転慣性質量ダンパーや付加減衰装置を大きく変位させることが可能になる。これにより、回転慣性質量ダンパーや付加減衰装置が、上層と下層の架構の相対変位に対して大きな慣性質量効果、減衰効果を発揮することになり、より確実に建物に作用した振動エネルギーを減衰させて建物の応答を低減させることが可能になる。また、変位拡大機構に組込むことで、回転慣性質量ダンパーや付加減衰装置に作用する力が小さくてすみ、安価な装置を用いることが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の制振構造によれば、制振機構が回転慣性質量ダンパーと付加バネを直列に接続して構成され、この制振機構を複数層に跨って中間層の架構を挟んで上下に位置する上層と下層の架構に接続して設けることにより、設置箇所を限定することなく、少ない設置台数で、確実に建物全体の応答を低減させる大きな制振効果を得ることが可能になる。これにより、建築計画を行う上で、制振機構の配置を容易に決めることができ、低コストで確実に耐振性能を向上させることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図1から図13を参照し、本発明の第1実施形態に係る制振構造について説明する。
【0021】
本実施形態の制振構造Aは、図1及び図2に示すように、例えばマンションやオフィスビルなどの多層構造の建物1に、制振機構2を設けて構成されている。ここで、本実施形態においては、建物1が鉄骨造の15階建てで建造されているものとし、図1はこの建物1に制振機構2を設けてなる制振構造Aの架構モデル(軸組図)、図2は制振構造Aの振動モデルをそれぞれ示している。
【0022】
また、本実施形態の制振機構2は、回転慣性質量ダンパー3と、積層ゴムなどの付加バネ4と、オイルダンパーなどの付加減衰装置5とを備えて構成されている。また、回転慣性質量ダンパー3と付加バネ4を直列に接続し、付加減衰装置5を付加バネ4に対して並列に接続して、制振機構2が構成されている。
【0023】
そして、このように構成した制振機構2は、建物1の1階(1FL)と2階(2FL)の複数階に跨って(建物1の複数層に跨って)、例えば建物1の外周部(外側)や建物1内の上下に連通する吹き抜け部などに設置されている。具体的に、この制振機構2は、2階の床梁(中間層の架構1b)を挟んで、上方に位置する3階(3FL)の床梁(上層の架構1c)に付加バネ4と付加減衰装置5とをそれぞれ接続し、下方に位置する1階の床梁(下層の架構1a)に回転慣性質量ダンパー3を接続して、2階の床梁1bに接続することなく設置されている。
【0024】
また、本実施形態において、回転慣性質量ダンパー3は、図1、図3及び図4に示すように、錘体3aと、この錘体3aを収容する外枠(ケース)3bとを備えて構成されている。錘体3aは、その上端側が外枠3bに軸支された回転軸(ピン)3cに繋げられ、この回転軸3cの軸線回りに回動自在に懸吊状態で支持されている。そして、回転慣性質量ダンパー3は、外枠3bの下端を1階の床梁1aに固定して設置され、錘体3aの回転軸3cよりも上方に位置する上端部分に付加バネ4と付加減衰装置5をそれぞれ接続して設置されている。
【0025】
ついで、上記構成からなる制振構造Aの作用及び効果について説明する。
【0026】
例えば地震や風などによって建物1に振動エネルギーが作用し、1階の床梁1aと3階の床梁1cとが相対変位するとともに、付加バネ4を通じて回転慣性質量ダンパー3の錘体3aの上端側に横方向の加力が作用する。そして、このように加力された錘体3aが回転軸3cの軸線回りに回動し、この錘体3aの回動による慣性抵抗力が回転慣性質量ダンパー3の負担力となって、建物1に作用した振動エネルギーを吸収し減衰させる。このとき、錘体3aの上端側が回転軸3cに軸支されているため、加力点変位(錘体3aの上端の変位)より錘体3aの重心位置の変位が大きくなり、これにより、錘体3aの質量よりも大幅に大きな慣性抵抗力が発生し、効果的に振動エネルギーが減衰することになる。
【0027】
また、このとき、1階の床梁1aと3階の床梁1cとが相対変位するとともに、付加減衰装置5が作動し、この付加減衰装置5によっても振動エネルギーが吸収されて減衰する。これにより、回転慣性質量ダンパー3の慣性質量効果と付加減衰装置5の減衰効果とによってエネルギーを消費することで、建物1に作用した振動エネルギーが減衰し、建物1の応答が低減される。
【0028】
また、上記のように制振機構2で建物1に作用した振動エネルギーを減衰させるためには、この制振機構2の固有振動数(回転慣性質量ダンパー3の錘体3aの固有振動数)を、建物1の固有振動数(例えば建物の1次固有振動数)に同調させる必要がある。ここで、制振機構2の固有振動数fは、制振機構2の回転慣性質量をΨ、付加バネ4の剛性をkとしたとき、式(1)で表される。なお、この式(1)において等号を用いないのは、減衰によりわずかに固有振動数がずれるからである。
【0029】
【数1】

【0030】
このため、付加バネ4の剛性kを調整することによって、容易に制振機構2の固有振動数fを建物1の1次固有振動数に同調させることが可能になる。そして、制振機構2の固有振動数fを建物1の1次固有振動数に同調させることで、回転慣性質量ダンパー3の慣性質量効果と付加減衰装置5の減衰効果とにより、振動エネルギーを減衰させ、建物1の応答が低減される。
【0031】
ついで、制振機構2を設置して建物1を制振構造Aにした場合と、制振機構2を設置していない場合における応答解析を行った結果を示す。
【0032】
ここで、制振機構2は、回転慣性質量ダンパー3の錘体3aの質量Ψを10000ton、付加バネ4の剛性kを100kN/mm、付加減衰装置5の減衰定数Cを44kN/kineとし、固有振動数fを建物1の1次固有振動数に同調させるように設定した。このとき、付加振動系の減衰定数は0.07である。
【0033】
また、建物1の階高h、各階の質量m、層間バネの剛性kは図5に示すようにした。この建物1の1次固有周期(1次固有振動数の逆数)は1.98秒であり、減衰は1次固有振動数に対して2%の振動数比例型としている。
【0034】
ここでは、入力地震動に建築センター波L2を用いている。入力地震動の加速度波形は図6に示す通りであり、最大加速度は356galで1方向入力とした。また、解析モデルは、基礎固定で等価せん断型の振動モデルとし、応答解析は、継続時間120秒として、架構の非線形を無視した弾性応答解析としている。
【0035】
以下に、上記の振動モデルに対して時刻歴応答解析を行った結果を示す。
図7は、制振機構2を設置した場合(制震あり)と、設置してない場合(制震なし)における建物1の変位、図8は各階の加速度、図9は各階の層間変位、図10は各階の層せん断力をそれぞれ示している。
【0036】
これらの結果から、本実施形態の制振機構2を建物1に設けて制振構造Aにすることによって、最大で30%以上の応答低減効果が得られることが確認された。また、この制振機構2は、1階と3階の床梁1a、1cを連結しただけであるが、建物1全体の応答を効果的に抑制できることが確認された。なお、図7に示すように、制振機構2の回転慣性質量ダンパー3の変位が0.149mとなり、1階と3階の架構1a、1cの相対変位の3.4倍となるが、これは十分ダンパーのストロークでカバーできる範囲であり特に問題となる大きさではない。
【0037】
また、図11は建物1の頂部変位の時間変化、図12は頂部加速度の時間変化、図13は7階における層間変位の時間変化を示している。
【0038】
これらの結果から、いずれも制振機構2を付加することで大きな応答低減効果が得られることが確認された。また、振動が励起されていく過程での応答低減はあまり認められないが、その後に続く、特に50秒以降で一定周期の揺れ(後揺れ)が効果的に低減されることが確認された。
【0039】
したがって、本実施形態の制振構造Aにおいては、制振機構2が回転慣性質量ダンパー3と付加バネ4を直列に接続して構成されているため、TMDと同様に、回転慣性質量ダンパー3の錘体3aの回転慣性を利用し、付加振動系となる制振機構Aの固有振動数を建物1と同調することで、建物1に作用した振動エネルギーを効果的に消費して建物1の応答を低減させることができる。
【0040】
また、この制振機構2を、複数階に跨って(複数層に跨って)中間層の架構1bを挟んで上下に位置する上層と下層の床梁(架構)1a、1cに接続して設けることで、建物1の外周部(外側)や建物1内の上下に連通する吹き抜け部(床開口部)などに設置できる。このため、従来の制震ダンパーのように架構内(層間)に設置したり、従来のTMDのように建物1の頂部近傍に設置するものと比較し、設置箇所の制約が小さくなり、建築計画を行う上でその配置を容易に決めることが可能になる。
【0041】
さらに、この制振機構2を、特定箇所(本実施形態では1階床から3階床の間)にのみ設置することで、建物1全体の応答を低減することが可能になる。このとき、制振機構2を複数階に跨って設けることにより、1層だけでは層間変位が小さい場合においても、複数層全体の相対変位(この間の層間変位の合計となる比較的大きな相対変位)を制振機構2に作用させることが可能になるため、大きな制振効果を発揮させることが可能になる。また、特に、地震動の継続時間が長く、後揺れが問題になる場合には、絶大な応答低減効果を得ることが可能である。また、風荷重など長時間にわたり1次モードが卓越する振動を効果的に抑制できるため、建物1の居住性を向上させることが可能である。
【0042】
これにより、従来のように、各階(各層)ごとに制震ダンパー(層間ダンパー、ブレースダンパーや制震壁などの制震機構)を設置する場合と比較し、制振機構2の設置台数を大幅に減らすことが可能になる。よって、建物1への荷重負荷を軽減して、低コストで確実に且つ好適に耐振性能を向上させることが可能になる。
【0043】
さらに、付加バネ4(付加バネ4の剛性k)を調整することによって、制振機構2の固有振動数を容易に調整することが可能である。このため、例えば建物1の1次固有振動に制振機構2の固有振動数を容易に同調させることができ、建物1に作用した1次モードの振動エネルギーを確実に吸収して減衰させ、建物1の応答を低減させることが可能になる。また、このとき、制振機構2がTMDと同様に慣性質量効果を利用して振動エネルギーを減衰させるものであるため、微小振幅から制振効果を発揮させることが可能である。
【0044】
また、制振機構2が例えばオイルダンパーなどの付加減衰装置5を備えて構成されているため、回転慣性質量ダンパー3による慣性質量効果に加えてこの付加減衰装置5による減衰効果によって、さらに建物1に作用した振動エネルギーを減衰させて建物1の応答を低減させることが可能になる。
【0045】
このとき、付加減衰装置5の減衰定数Cを44kN/kineと桁違いに小さくしても建物1の応答を低減させることが可能である。このため、従来の制震ダンパーと比べて付加減衰装置5の減衰は小さくてよく、安価なダンパーを付加減衰装置5として使用できる。
【0046】
さらに、本実施形態のように建物1の最下部(1階から3階の間)に制振機構2を設けることで、建物頂部に設置する従来のTMDのように建物1への荷重負荷が大きくなることがなく、制振機構2の自重や反力処理を容易に行うことも可能である。
【0047】
以上、本発明に係る制振構造の第1実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、本実施形態では、制振機構2の固有振動数fを建物1の1次固有振動数に同調させるものとしたが、本発明の制振構造は、制振機構2の固有振動数fを建物1の2次や3次の高次の振動数に同調させるようにしたり、建物1内に収納され、振動を嫌う装置機器類の固有振動数に同調させて、任意の固有振動数の揺れを低減させるために適用してもよい。
【0048】
また、本実施形態では、付加減衰装置5が付加バネ4と並列に配置して設けられているものとしたが、回転慣性質量ダンパー3と並列に配しても本実施形態と同様の効果を得ることが可能である。また、特定の振動数で加振される場合には付加減衰装置5を備えずに制振機構2を構成してもよい。
【0049】
さらに、本実施形態では、制振機構2が1階と3階の床梁1a、1cに接続して設けられているものとしたが、例えば地震時に層間変位が大きくなる階を含めるようにして制振機構2を設置することが効果的であり、制振機構2を設置する階を限定する必要はない。また、制振機構2を特定の階間にだけ設置することに限定せず、建物1内の全ての層に配置したり、複数の制振機構2を例えば1階と3階の間、4階と6階の間というように不連続に配置してもよい。
【0050】
また、本実施形態では、回転慣性質量ダンパー3が、錘体3aと外枠3bとを備え、この錘体3aを回転軸3cによって回動自在に支持して構成されているものとしたが、回転慣性質量ダンパー3は、必ずしもこのように構成されていなくてもよく、周知の他の回転慣性質量ダンパーを採用してもよい。
【0051】
ついで、図14及び図15を参照し、本発明の第2実施形態に係る制振構造について説明する。本実施形態においては、第1実施形態と同様の構成に対して同一符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0052】
本実施形態の制振構造Bは、図14に示すように、第1実施形態と同様、建物1の1階(1FL)と2階(2FL)の複数階に跨って(建物1の複数層に跨って)、制振機構10を設置して構成されている。
【0053】
本実施形態の制振機構10は、変位拡大機構11と回転慣性質量ダンパー12と付加バネ4とからなり、変位拡大機構11は、上下一対のV型鉄骨ブレース11a、11bと変位拡大部材11cとを備えて構成されている。
【0054】
そして、変位拡大機構11の一方のV型鉄骨ブレース11aは、両端部を2階の床梁(中間層の架構1b)を挟んで上方に位置する3階(3FL)の床梁(上層の架構1c)に固定して設置されている。また、他方のV型鉄骨ブレース11bが、両端部を2階の床梁1bを挟んで下方に位置する1階の床梁(下層の架構1a)に固定して設置されている。
【0055】
変位拡大部材11cは、例えばH形鋼であり、一方のV型鉄骨ブレース11aの下端と他方のV型鉄骨ブレース11bの上端の間に配置されている。そして、この変位拡大部材11cは、その長さ方向中央において一方のV型鉄骨ブレース11aの下端と他方のV型鉄骨ブレース11bの上端とにそれぞれ回転軸(ピン)13、14を介して回転可能に接続して支持されている。これにより、変位拡大部材11cは、建物1に振動エネルギーが作用していない状態で水平に保持され、1階の床梁1aと3階の床梁1cとが横方向に相対変位して一方のV型鉄骨ブレース11aと他方のV型鉄骨ブレース11bとが横方向に相対変位するとともに、図15に示すように回転軸13、14を中心に上下方向に回転する。
【0056】
一方、回転慣性質量ダンパー12は、ボールネジとフライホイール(回転錘、錘体)を組み合わせて構成され、図14に示すように、その下端に高減衰積層ゴムなどの付加減衰機能を併せもつ付加バネ4が直列に接続されている。そして、本実施形態の制振機構10においては、直列に接続した回転慣性質量ダンパー12と付加バネ4が2組設けられており、一方の付加バネ4(4a)が1階の左右一対の柱1d、1eの一方の柱(下層の架構)1dに、他方の付加バネ4(4b)が他方の柱(下層の架構)1eにそれぞれ固定されている。また、一方の付加バネ4aに接続した一方の回転慣性質量ダンパー12(12a)の上端が変位拡大部材11cの長さ方向一端側に回転軸(ピン)15を介して回転可能に接続されている。さらに、他方の付加バネ4bに接続した他方の回転慣性質量ダンパー12(12b)の上端が変位拡大部材11cの長さ方向他端側に回転軸(ピン)16を介して回転可能に接続されている。
【0057】
このように構成した本実施形態の制振機構10(制振構造B)においては、図15に示すように、例えば地震によって建物1に振動エネルギーが作用し、1階の床梁1aと3階の床梁1cとが横方向に相対変位して変位拡大部材11cが回転すると、1階の床梁1aと3階の床梁1cの相対変位量t1に対して変位拡大部材11cの両端側の上下方向の変位量t2(変位拡大機構11の変位量)が大きくなる。このため、変位拡大部材11cの両端側にそれぞれ回転可能に接続した各回転慣性質量ダンパー12(12a、12b)と付加バネ4との合計の変位量t2が1階の床梁1aと3階の床梁1cの相対変位量t1に対して大きくなる。
【0058】
これにより、1階の床梁1aと3階の床梁1cに回転慣性質量ダンパー12を直接接続した場合と比較し、1階の床梁1aと3階の床梁1cの相対変位に対して回転慣性質量ダンパー12が大きな慣性質量効果を発揮することになる。
【0059】
したがって、本実施形態の制振構造Bによれば、建物1に振動エネルギーが作用して床梁1a、1cが相対変位した際に、この相対変位量t1よりも大きな変位量t2で変位拡大機構11が変位するため、この変位拡大機構11に接続した回転慣性質量ダンパー12を大きく変位させることが可能になる。これにより、回転慣性質量ダンパー12が床梁1a、1cの相対変位に対して大きな慣性質量効果を発揮することになり、より確実に且つ効率的に建物1に作用した振動エネルギーを減衰させて建物1の応答を低減させることが可能になる。
【0060】
また、制振機構10が建物1の複数階に跨って設けられることで、第1実施形態と同様に、設置箇所を限定することなく、少ない設置台数で、確実に建物1全体の応答を低減させる大きな制振効果を得ることが可能になる。これにより、建築計画を行う上で、制振機構10の配置を容易に決めることができ、建物1への荷重負荷を軽減して、低コストでさらに耐振性能を向上させることが可能になる。
【0061】
なお、本発明は上記の第2実施形態に限定されるものではなく、第1実施形態に示した変更例を含め、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、本実施形態では、変位拡大機構11が上下一対のV型鉄骨ブレース11a、11bとH形鋼からなる変位拡大部材11cとで構成されているものとしたが、変位拡大機構11は、建物1の床梁1a、1cの相対変位量t1よりも大きな変位量t2で変位し、回転慣性質量ダンパー12と付加バネ4とを直列にしてこの大きな変位量t2で変位させることが可能であれば、特にその構成を限定する必要はない。
【0062】
また、本実施形態では、回転慣性質量ダンパー12の慣性質量効果によって建物1に作用した振動エネルギーを減衰させるように構成しているが、第1実施形態と同様に、高減衰ゴムを用いないでオイルダンパーなどの付加減衰装置を設けて、慣性質量効果に加えこの付加減衰装置の減衰効果で振動エネルギーを減衰させるようにしてもよい。例えば図16に示すように、一端を建物1の架構に、他端を変位拡大機構11の変位拡大部材11cに接続して付加減衰装置17を設置することで、減衰効果を発揮させることが可能である。そして、この場合、建物1に振動エネルギーが作用して床梁1a、1cが相対変位した際に、回転慣性質量ダンパー12と同様に、この相対変位量t1よりも大きな変位量t2で付加減衰装置17が変位することになる。このため、付加減衰装置17が床梁1a、1cの相対変位に対して大きな減衰効果を発揮することになり、さらに確実に且つ効率的に建物1に作用した振動エネルギーを減衰させて建物1の応答を低減させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の第1実施形態に係る制振構造を示す図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る制振構造の振動モデルを示す図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る制振構造において、制振機構が備える回転慣性質量ダンパーを示す図である。
【図4】図3のX−X線矢視図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係る制振構造に対して応答解析を行う際の建物の設定条件を示す図である。
【図6】本発明の第1実施形態に係る制振構造に対し応答解析を行う際の入力地震動の加速度波形を示す図である。
【図7】本発明の第1実施形態に係る制振構造に対し応答解析を行った結果であり、建物の変位を示す図である。
【図8】本発明の第1実施形態に係る制振構造に対し応答解析を行った結果であり、各階の加速度を示す図である。
【図9】本発明の第1実施形態に係る制振構造に対し応答解析を行った結果であり、各階の層間変位を示す図である。
【図10】本発明の第1実施形態に係る制振構造に対し応答解析を行った結果であり、各階の層せん断力を示す図である。
【図11】本発明の第1実施形態に係る制振構造に対し応答解析を行った結果であり、頂部変位の時間変化を示す図である。
【図12】本発明の第1実施形態に係る制振構造に対し応答解析を行った結果であり、頂部加速度の時間変化を示す図である。
【図13】本発明の第1実施形態に係る制振構造に対し応答解析を行った結果であり、7階における層間変位の時間変化を示す図である。
【図14】本発明の第2実施形態に係る制振構造を示す図である。
【図15】本発明の第2実施形態に係る制振構造において、制振機構の変位拡大機構が変位した状態を示す図である。
【図16】本発明の第2実施形態に係る制振構造の変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0064】
1 建物
1a 1階の床梁(下層の架構)
1b 2階の床梁(中間層の架構)
1c 3階の床梁(上層の架構)
1d 1階の柱(下層の架構)
1e 1階の柱(下層の架構)
2 制振機構
3 回転慣性質量ダンパー
3a 錘体
3b 外枠
3c 回転軸
4 付加バネ
5 付加減衰装置
10 制振機構
11 変位拡大機構
11a 一方のV型鉄骨ブレース
11b 他方のV型鉄骨ブレース
11c 変位拡大部材
12 回転慣性質量ダンパー
13 回転軸
14 回転軸
15 回転軸
16 回転軸
17 付加減衰装置
A 制振構造
B 制振構造
t1 架構の相対変位量
t2 変位拡大機構の変位量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層構造の建物に、該建物に作用した振動エネルギーを減衰させるための制振機構を設置してなる制振構造であって、
前記制振機構が、回転慣性質量ダンパーと付加バネを直列に接続して構成され、前記建物の中間層の架構を挟んで上下に位置する上層と下層の架構に接続して、複数層に跨って設けられていることを特徴とする制振構造。
【請求項2】
請求項1記載の制振構造において、
前記制振機構が、付加減衰装置を備え、該付加減衰装置を前記回転慣性質量ダンパーあるいは前記付加バネに対して並列に接続して構成されていることを特徴とする制振構造。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の制振構造において、
前記制振機構が、前記上層と下層の架構に接続して設けられて前記上層と下層の架構が相対変位するとともに該上層と下層の架構の相対変位量よりも大きな変位量を生じる変位拡大機構を備えており、
前記回転慣性質量ダンパーと前記付加バネ、及び/又は前記付加減衰装置が前記変位拡大機構に接続して設けられていることを特徴とする制振構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2009−155801(P2009−155801A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−331611(P2007−331611)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】