説明

制振装置における制振体の固有振動数設定方法及び装置

【課題】制振体の固有振動数を構造物の固有振動数に合わせる設定調整作業を容易に行うことができるようにする。
【解決手段】構造物1上に制振体3を水平方向へ反復移動させるように載置してある制振装置において、制振体3の中立位置での制振体3の下面中央部とその真下に位置する構造物1との間に、弾性構造体12を上下方向に取り付ける。弾性構造体12は、引張コイルばね16と連結用ロッド18とを有する。連結用ロッド18は、下端部にねじ部21aを有するロッド18aと、上端部にねじ部21aとは逆のねじ部21bを有するロッド18bと、ねじ部21a,21bに螺合させたターンバックル22とからなる。ターンバックル22の回転操作で連結用ロッド18の長さを変えることにより初期張力を調整して、制振体3の固有振動数を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は吊橋のタワー、超高層ビルディング、タワー、鉄塔等の構造物の上部に設置して、これら構造物の風荷重や地震による振動(揺動)を抑えて早期に振動を減衰させるために用いる制振装置における制振体の固有振動数設定方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来におけるこの種制振装置としては、図9にその一例の概略を示す如く、構造物1の上面に、該構造物1が揺れる方向と平行にガイドレール2を敷設すると共に、該ガイドレール2上に、錘りである制振体3を、ガイドレール2に沿って水平方向へ移動できるように車輪4を介して載置し、且つ該制振体3の移動方向の一端側の構造物1上に立てた支持フレーム5と制振体3の一端面との間に、制振体3の運動エネルギーを減衰させるための減衰機(ダンパ)6と制振体3の固有振動数を調節するためのばね7とを介装した構成としたものがあり、構造物1に揺れが発生すると、その揺れエネルギーが制振体3に伝えられるため、制振体3は構造物1の揺れに対し90度遅れの位相でガイドレール2上を反復移動させられることになり、このとき、制振体3の運動エネルギーが減衰機6で減衰させられる結果、構造物1の揺れが抑えられるようにしてある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、かかる制振装置の場合、構造物1に最適な制振効果を与えるためには、制振体3の質量や移動ストローク等を選定し、且つ制振体3の固有振動数を構造物1の固有振動数に合わせて設定することが必要であるが、その設定調整が非常に面倒であるという問題がある。
【0004】
すなわち、上記制振装置において、制振体3の質量をm、固有振動数調整用のばね7のばね定数をk、制振体3の振動を減衰させる減衰機6の減衰力(制御力)をcとすると、制振体3の固有振動数ωは、ω=√(k/m)、減衰係数比μは、μ=c/2√(mk)となる。ここで、制振体3の固有振動数ωを変更する場合、ばね7のばね定数をkからkにすれば、ω´=√(k/m)となり、変更することができるが、構造物1の固有振動数が設計どおりに得られているとは限らないので、ばね定数の異なるばね7を複数本用意しておいて、構造物1の実際の固有振動数に対応する固有振動数が得られるばね7を選定する必要があり、又、構造物1の固有振動数の変化に応じて、制振体3の固有振動数を調整する必要が生じたときには、その都度、ばね定数の異なるばね7に交換しなければならない、という問題がある。
【0005】
一方、ばねのばね定数に依らずに制振体の固有振動数を設定できるようにした制振装置としては、図10に概略を示す如く、底面をV字状に形成した制振体8を、構造物1上に離隔させて設置した2個所の支持ローラ9上に、ライナープレート10を介して揺動自在に載置して、制振体8を等価的に単振子に類似した制振装置としたものがあるが、この制振装置の場合、制振体8の固有振動数を調整するためには、ライナープレート10を厚みの異なるものと交換する必要があり、この作業には、現場で油圧ジャッキや、レバーブロック、チェーンブロック等の大掛かりな装置、工具が必要で、非常に手間が掛かるという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、制振体を水平方向へ反復移動させるようにしてある制振装置において、制振体の固有振動数の設定調整を容易に行うことができるような制振体固有振動数設定方法及び装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために、構造物上に水平方向へ反復移動させるように載置してある制振体と構造物との間に、上下方向に張力が作用するようにコイルばね又は皿ばねを備える弾性構造体を取り付け、該弾性構造体の初期張力を調整することにより制振体の固有振動数を設定する制振装置における制振体の固有振動数設定方法及び装置とする。
【0008】
上下方向に配した弾性構造体自体の初期張力は任意に調整できるので、制振体の固有振動数を容易に設定することができる。
【0009】
又、弾性構造体を、コイルばね又は皿ばねと、長さを可変調整できる連結用ロッドとを有する弾性構造体とし、上記連結用ロッドの長さを変えることにより初期張力を調整するようにしたり、あるいは弾性構造体を、コイルばね又は皿ばねと連結用ロッドとを有する弾性構造体として、連結用ロッドの反ばね側の端部に取り付けた支持プレートを制振体又は構造物に固定したブラケットに重ね合わせて回動自在に連結し、支持プレートとブラケットとの連結位置を変えることにより初期張力を調整するようにすることによって、制振体の固有振動数を構造物の固有振動数に合わせて最適値に設定することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の制振装置における制振体の固有振動数設定方法及び装置によれば、以下の如き優れた効果を発揮する。
(1)構造物上に水平方向へ反復移動させるように載置してある制振体と構造物との間に、上下方向に張力が作用するようにコイルばね又は皿ばねを備える弾性構造体を取り付け、該弾性構造体の初期張力を調整することにより制振体の固有振動数を設定する方法及び装置としてあるので、従来のように複数本のばねを用意することなく制振体の固有振動数を容易に設定調整することができると共に、再調整も支障なく簡単に行うことができ、したがって、現場でも容易に固有振動数設定を行うことができ、工期の短縮、工費のコストダウンを図ることができる。
(2)弾性構造体を、コイルばね又は皿ばねと、長さを可変調整できる連結用ロッドとを有する弾性構造体とし、上記連結用ロッドの長さを変えることにより初期張力を調整するようにしたり、あるいは弾性構造体を、コイルばね又は皿ばねと連結用ロッドとを有する弾性構造体として、連結用ロッドの反ばね側の端部に取り付けた支持プレートを制振体又は構造物に固定したブラケットに重ね合わせて回動自在に連結し、支持プレートとブラケットとの連結位置を変えることにより初期張力を調整するようにすることによって、制振体の固有振動数を構造物の固有振動数に合わせて最適値に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の制振装置における制振体の固有振動数設定方法及び装置の実施の一形態を示す概要図である。
【図2】本発明の実施に用いる弾性構造体の一例を示す概略図である。
【図3】上下方向に取り付けた弾性構造体の引張コイルばねと制振体に作用する復元力との関係を示す一例図である。
【図4】上下方向に取り付けた弾性構造体の引張コイルばねの撓み量と制振体の固有振動数との関係を示す一例図である。
【図5】弾性構造体の他の例を示す概略図である。
【図6】弾性構造体の更に他の例を示す概略図である。
【図7】弾性構造体の初期張力調整部分の他の例を示す概略図である。
【図8】本発明の変形例を示す概要図である。
【図9】従来の制振装置の一例を示す概略図である。
【図10】従来の制振装置の他の例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態を図面を参照して説明する。
【0013】
図1は本発明の実施の一形態を示すもので、構造物1の上面に、矩形フレーム形状としたベース架台11を据え付け、該ベース架台11上の前後両側位置に、構造物1の揺れ方向となる左右方向(矢印X方向)に沿ってガイドレール2を平行に敷設すると共に、該両ガイドレール2上に、錘りである制振体3を車輪4を介して左右方向へ移動自在に載置し、且つ上記ベース架台11の左右方向一端部の前後方向中央部に立てた支持フレーム5と制振体3の一端面との間に減衰機6が介装してある制振装置において、上記ガイドレール2の長手方向中間位置となる制振体3の中立位置での該制振体3のたとえば下面中央部と、その真下に位置する構造物1との間に、固有振動数調整用の弾性構造体12を、上下方向に張力が作用するように且つベース架台11、ガイドレール2と干渉することのないように鉛直に取り付けて、該弾性構造体12の初期張力Fを調整することにより制振体3の固有振動数を設定するようにする。
【0014】
上記弾性構造体12は、図2に拡大して示す如く、構造物1上に固設したブラケット13にリンク部材14の下端部をピン15により左右方向へ回動自在に取り付けて、該リンク部材14の上端部に下端部を係止させて上下方向に配した引張コイルばね16と、該引張コイルばね16の上端部と制振体3の下面に固定したブラケット19とを連結するターンバックル付連結用ロッド18とからなり、該ターンバックル付連結用ロッド18は、上端にアイプレート17aを有し且つ下端部にねじ部21aを有するロッド18aと、下端にアイプレート17bを有し且つ上端部にねじ部21aとは逆向きのねじ部21bを有するロッド18bの各ねじ部21a,21bにターンバックル22を螺合させてなる構成としてあり、ロッド18bの下端のアイプレート17bに上記引張コイルばね16の上端を係止させ、更に、ロッド18aの上端のアイプレート17aを、制振体3の下面のブラケット19にピン20により左右方向へ回動自在に取り付けるようにし、上記ターンバックル22の回転操作で連結用ロッド18の長さを変えることにより引張コイルばね16の引張反力としての撓み量を変更できるようにしてある。
【0015】
制振体3の固有振動数を構造物1の固有振動数に合わせるように設定調整する場合は、弾性構造体12における連結用ロッド18に装備させてあるターンバックル22を回転操作して連結用ロッド18の長さを変化させ、これにより引張コイルばね16の撓み量に基づく弾性構造体12全体の初期張力Fを調整して、制振体3の固有振動数を設定するようにする。
【0016】
上記の状態において、空気力等により構造物1に揺れが発生すると、その揺れエネルギーは制振体3に伝達されるため、制振体3が水平方向に移動する運動エネルギーに変換され、そのエネルギーが減衰機6で消費される、という間接的なエネルギー消費形式によって構造物1の揺れが速やかに抑えられる。この際、構造物1への制振力は、制振体3の質量、移動ストローク、固有振動数を選定することにより最適に得られるが、固有振動数調整用の弾性構造体12が制振体3と構造物1との間に上下方向に取り付けてあって、制振体3が左右方向へ移動すると、該弾性構造体12は下端部のピン15を支点に斜め左右方向に引き伸ばされて復元するときの水平分力を制振体3に作用させることになる。そのため、図9に示したばね7の如く水平方向に伸縮する場合に比して引張コイルばね16の撓み量(伸び量)が少ないことから、制振体3の動きを制約することはなく、又、上下方向の弾性構造体12の初期張力Fは任意に調整できるので、制振体3の固有振動数を構造物1の固有振動数に容易に合わせることができる。なお、上記引張コイルばね16は、鉛直状態から斜め方向に引き伸ばされても張力は変わらないので、長さ変動分を許容できるだけの長さを有するものを使用すればよい。
【0017】
上記において、弾性構造体12の引張コイルばね16と制振体3に作用する復元力との関係は、たとえば、引張コイルばね16の自由長さが600mm、ばね定数が755N/mm、制振体3の質量が3000kgとした場合、図3に一例を示す如くなる。又、引張コイルばね16と制振体3の固有振動数との関係は、図4に一例を示す如くであり、図4から、引張コイルばね16の撓み量を30〜70mmの範囲で変更することで制振体3の固有振動数を概ね0.7〜0.9Hzの範囲で無段階に調整できることが分る。したがって、制振体3の固有振動数を構造物1の固有振動数に合わせて最適値に設定することができると共に、構造物1の固有振動数の変化に応じて制振体3の固有振動数を再調整する必要が生じても、従来の如くその都度ばね定数の異なるばねに交換するような必要はない。
【0018】
次に、図5は本発明の実施に用いる弾性構造体12の他の例を示すもので、図2に示したロッド18bと引張コイルばね16に代えて、ピストンロッド24と圧縮コイルばね23を用いたものである。すなわち、ピストン24aを収納したシリンダ胴25の長手方向の一端壁からピストンロッド24を出入させるようにして、該シリンダ胴25内の上記一端壁とピストン24aとの間に、圧縮コイルばね23を配置し、且つシリンダ胴25から突出するピストンロッド24の上端部にねじ部21bを設けて、ロッド18aの下端部のねじ部21aとの間に図2に示したと同様にターンバックル22を装備させ、シリンダ胴25の下端となる長手方向の他端壁外面に固設したアイプレート26を、ピン15により構造物1側のブラケット13に左右方向へ回動自在に取り付けたものである。その他の構成は図2に示すものと同じであり、同一のものには同一符号が付してある。
【0019】
図5に示す弾性構造体12を用いても、ターンバックル22の回転操作で圧縮コイルばね23の圧縮反力に基づく初期張力を調整することにより、制振体3の固有振動数を容易に設定調整することができる。
【0020】
次いで、図6は本発明の実施に用いる弾性構造体12の更に他の例を示すもので、図5に示した圧縮コイルばね23に代えて、皿ばね27を用いたものである。その他の構成は、図5に示すものと同じであり、同一のものには同一符号が付してある。
【0021】
図6に示す弾性構造体12を用いても、ターンバックル22の回転操作で皿ばね27の圧縮反力に基づく初期張力を調整することにより、制振体3の固有振動数を容易に設定調整することができる。
【0022】
更に、図7は上記弾性構造体12による初期張力調整部分の別の例を示すもので、図2に示す連結用ロッド18を、ターンバックル22を廃止した1本構造とし、且つ該連結用ロッド18の上端部にアイプレート17aを設けることに代えて、上下方向に複数の孔31を有する支持プレート17cを取り付け、該支持プレート17cの上記いずれかの孔31とブラケット19の孔19aとをボルト32及びナットにより連結し、この連結位置を変えることにより初期張力を調整できるようにしたものである。又、この図7に示す構成は、図5、図6に示すものにおいて、ロッド18aとターンバックル22に代えて、ピストンロッド24の上端部に採用することができる。なお、上記複数の孔31に代えて長孔としてもよい。
【0023】
図7に示すような調整部分により弾性構造体12の初期張力を調整しても、制振体3の固有振動数を設定調整することができる。
【0024】
なお、上記各実施の形態で示した弾性構造体12は、上下逆配置としてもよいこと、又、図8に示す如く、図1に示した制振体3の下面中央部と構造物1の上部との間に弾性構造体12を取り付けることに代えて、ベース架台11及び制振体3を取り囲む位置に、固定部材としての支持架構33を設置して、制振体3を上方から吊るように、制振体3のたとえば上面中央部と支持架構33の上部ビーム体33aとの間に、弾性構造体12を上下方向に鉛直に取り付けるようにしてもよいこと、更に、構造物1の規模及び制振体3の質量によっては、弾性構造体12としてゴムを用いるようにしてもよいこと、実施の形態ではパッシブ型の制振装置への適用例について示したが、アクティブ型の制振装置についても同様に適用できること、その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0025】
1 構造物
3 制振体
12 弾性構造体
16 引張コイルばね(コイルばね)
17c 支持プレート
18 連結用ロッド
19 ブラケット
23 圧縮コイルばね(コイルばね)
27 皿ばね

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物上に水平方向へ反復移動させるように載置してある制振体と構造物との間に、上下方向に張力が作用するようにコイルばね又は皿ばねを備える弾性構造体を取り付け、該弾性構造体の初期張力を調整することにより制振体の固有振動数を設定することを特徴とする制振装置における制振体の固有振動数設定方法。
【請求項2】
構造物上に制振体を水平方向へ反復移動できるように載置し、該制振体と構造物との間に、上下方向に張力が作用するようにコイルばね又は皿ばねを備え且つばねの初期張力を調整できるようにした弾性構造体を取り付け、該弾性構造体の初期張力を調整することにより制振体の固有振動数を設定するようにした構成を有することを特徴とする制振装置における制振体の固有振動数設定装置。
【請求項3】
弾性構造体を、コイルばね又は皿ばねと、長さを可変調整できる連結用ロッドとを有する弾性構造体とし、上記連結用ロッドの長さを変えることにより初期張力を調整するようにする請求項1記載の制振装置における制振体の固有振動数設定方法。
【請求項4】
弾性構造体を、コイルばね又は皿ばねと連結用ロッドとを有する弾性構造体として、連結用ロッドの反ばね側の端部に取り付けた支持プレートを制振体又は構造物に固定したブラケットに重ね合わせて回動自在に連結し、支持プレートとブラケットとの連結位置を変えることにより初期張力を調整するようにする請求項1記載の制振装置における制振体の固有振動数設定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2009−168248(P2009−168248A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−22900(P2009−22900)
【出願日】平成21年2月3日(2009.2.3)
【分割の表示】特願2002−147966(P2002−147966)の分割
【原出願日】平成14年5月22日(2002.5.22)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.レバーブロック
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】