説明

制振装置

【課題】二部材同士の間に介装されて二部材の相対変位の抑制効果を高めることができ、特定の方向の寸法を小さくすることができ、しかも安価な制振装置を提供する。
【解決手段】隣り合って配された二部材同士の間に介装されて、前記二部材同士の前記相対変位を抑制する制振装置10であって、前記二部材のうちの一方の部材5aに設定された支点周りに揺動可能に支持された揺動部材21と、前記揺動部材21を前記二部材のうちの他方の部材5bに連結する連結部材31と、前記揺動部材21において前記相対変位よりも大きく移動する位置に一体に設けられた質量体27と、を有する。前記揺動部材21の揺動動作に応じて、前記連結位置Pjが前記揺動部材21の揺動回転に係る回転半径方向に移動可能で、前記相対変位が前記支点Ps及び前記連結部材31を介して前記揺動部材21に入力されて前記揺動部材21が揺動することにより、前記相対変位を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、隣り合って配置された二部材の相対変位を抑制すべく前記二部材同士の間に介装される制振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建物の層間等に設けられ、建物の揺れを抑制する装置として制振装置が使用されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−138784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
その一例として、図1の縦断面図に示すように、ボールねじ120を用いた制振装置110がある。ボールねじ120は、軸部121と、この軸部121に複数のボール(不図示)を介して螺合するナット部123と、を有し、ナット部123には質量体125が一体に設けられている。そして、軸部121を介してボールねじ120に層間変位が入力されると、入力された層間変位がナット部123の回転運動に変換されて、ナット部123と一体となって質量体125が回転し、質量体125の回転慣性により層間変位が抑制される。
しかしながら、一般にボールねじ120は複雑構造であり高価である。
また、上述の層間変位の抑制効果を大きくするには、質量体125の質量を大きくするか、質量体の回転半径を大きくすることが考えられるが、質量体125の質量を大きくすると、堅牢な構造のボールねじ120を使用しなければならずコストアップを招き、他方、回転半径を大きくすると、質量体125の回転軌道が層間変位の方向と直交する平面内に形成されることから、当該制振装置120を、建物の壁内等に収め難くなる。
【0005】
本発明は、上記のような従来の問題に鑑みなされたものであって、二部材同士の間に介装されて二部材の相対変位の抑制効果を高めることができるとともに、相対変位の方向と直交する方向の寸法を小さくすることができ、しかも安価な制振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために請求項1に示す発明は、
隣り合って配された二部材同士の間に介装されて、前記二部材同士が隣り合う方向と交差する所定方向に相対変位する際に前記二部材同士の前記相対変位を抑制する制振装置であって、
前記二部材のうちの一方の部材に設定された支点周りに揺動可能に支持された揺動部材と、
前記揺動部材における所定位置を連結位置として、前記揺動部材を前記二部材のうちの他方の部材に連結する連結部材と、
前記揺動部材において前記相対変位よりも大きく移動する位置に一体に設けられた質量体と、を有し、
前記揺動部材の揺動動作に応じて、前記連結位置が前記揺動部材の揺動回転に係る回転半径方向に移動可能なように、前記連結部材と前記揺動部材とは連結されており、
前記相対変位が前記支点及び前記連結部材を介して前記揺動部材に入力されて前記揺動部材が揺動することにより、前記相対変位を抑制することを特徴とする。
【0007】
上記請求項1に示す発明によれば、前記質量体は、前記相対変位よりも大きく移動する位置に設けられている。よって、相対変位を抑制するための抑制力の大きさは、相対変位の加速度と質量体の質量との単なる乗算で求まる力の値を、更に相対変位の増幅倍率を表す比率R(これについては後述する)の二乗に基づいて拡大した大きさとなり(以下、慣性増幅効果とも言い、これについては後述する)、当該拡大された抑制力に基づいて、前記相対変位は有効に抑制される。
【0008】
また、制振装置の本体は、質量体を有した揺動部材という簡単な構成であり、ボールねじ等の複雑な装置を用いずに済むので、制振装置の製造コストを低減できる。
更には、慣性増幅効果に係る上記比率Rを大きくするには、揺動部材を長くすることになるが、揺動部材の揺動方向は、相対変位の方向と略平行である。つまり、揺動部材の揺動回転の軌道面内に前記相対変位の方向が含まれている。よって、この揺動回転の軌道面と直交する方向については制振装置の寸法を小さく収めることができて、もって当該制振装置を建物の壁内等に収容し易くなる。
【0009】
また、連結位置は、揺動部材の回転半径方向に移動可能であるので、揺動部材は、二部材の相対変位に基づいて速やかに揺動することができる。
更に、連結位置は、揺動部材の回転半径方向に移動可能であるので、前記二部材の相対変位が大きくなるにつれて上記比率Rが小さくなる。よって、相対変位が過大になる時において、揺動部材から二部材へ付与される前記抑制力の拡大を抑えることができて、その結果、二部材の破損を有効に防止することができる。
【0010】
請求項2に示す発明は、請求項1に記載の制振装置であって、
前記隣り合う方向は鉛直方向であり、
前記相対変位に係る前記所定方向は水平方向であり、
前記一方の部材は、前記他方の部材の上方に載置されており、
前記揺動部材における前記支点と前記質量体との間の位置に前記連結位置が設定されており、
前記質量体は、前記揺動部材の二つの揺動端部のうちで前記支点から遠い方の揺動端部の質量を前記支点に近い方の揺動端部よりも大きくすべく、前記遠い方の揺動端部に一体に設けられていることを特徴とする。
上記請求項2に示す発明によれば、前記他方の部材に対して地震動等の水平方向の外力が入力された際に、一方の部材と他方の部材との間の水平方向の相対変位が大きくなる虞があるが、これを有効に防止可能となる。詳細については図4を参照しつつ後述する。
【0011】
また、連結位置は、前記支点と前記質量体との間に設定されているので、揺動部材の長大化を防ぐことができる。
【0012】
請求項3に示す発明は、請求項1に記載の制振装置であって、
前記隣り合う方向は鉛直方向であり、
前記相対変位に係る記所定方向は水平方向であり、
前記他方の部材は、前記一方の部材の上方に載置されており、
前記揺動部材における前記支点と前記質量体との間の位置に前記連結位置が設定されており、
前記質量体は、前記揺動部材の二つの揺動端部のうちで前記支点から遠い方の揺動端部の質量を前記支点に近い方の揺動端部よりも大きくすべく、前記遠い方の揺動端部に一体に設けられていることを特徴とする。
上記請求項3に示す発明によれば、前記一方の部材よりも下方に位置する部材に対して地震動等の水平方向の外力が入力された際に、前記一方の部材と、前記下方に位置する部材との間の水平方向の相対変位が大きくなる虞があるが、これを有効に防止可能となる。詳細については図7を参照しつつ後述する。
また、連結位置は、前記支点と前記質量体との間に設定されているので、揺動部材の長大化を防ぐことができる。
【0013】
請求項4に示す発明は、請求項1乃至3の何れかに記載の制振装置であって、
前記揺動部材の揺動動作が入力されるダンパー部材を有し、
前記ダンパー部材は、前記揺動動作の運動エネルギーを熱エネルギーに変換して吸収することを特徴とする。
上記請求項4に示す発明によれば、ダンパー部材によって、前記二部材同士の相対変位に係る振動を減衰することができる。
【0014】
請求項5に示す発明は、請求項4に記載の制振装置であって、
前記ダンパー部材として、互いに当接する摩擦材と滑り板とを有し、
前記摩擦材及び前記滑り板のうちの一方の部材が前記揺動部材に固定されるとともに、前記一方の部材に対向してもう一方の部材が設けられ、
前記揺動部材の揺動によって、前記一方の部材が前記もう一方の部材に対して摺動することを特徴とする。
上記請求項5に示す発明によれば、揺動部材の揺動動作の運動エネルギーは、ダンパー部材によって摩擦熱等に変換されて消費され、これにより、前記二部材同士の相対変位に係る振動は有効に減衰される。
また、摩擦材が質量体の位置に固定され、かつ、この質量体の位置が、前記相対変位よりも大きく移動する位置にある場合には、摩擦材と滑り板との間に生じる摩擦力の大きさを、相対変位の増幅倍率を表す比率Rに基づいて拡大して、相対変位に沿う方向の減衰力として付与することができて、大きな減衰力を出力可能となる。
【0015】
請求項6に示す発明は、請求項1乃至5の何れかに記載の制振装置であって、
前記制振装置は、所定の大きさの摩擦力により接合された一対の摩擦面を有し、
前記一対の摩擦面に入力される力の大きさが前記摩擦力以下の場合には、前記一対の摩擦面同士は相対移動不能に当接する一方、前記一対の摩擦面に入力される力の大きさが前記摩擦力を超える場合には、前記一対の摩擦面同士が相対移動して、前記質量体への前記力の伝達を抑制することを特徴とする。
上記請求項6に示す発明によれば、過大な加速度を伴った相対変位の質量体への入力は、前記一対の摩擦面同士の相対移動により有効に抑制される。従って、質量体が過度に激しく揺動されて揺動部材や前記二部材が破損することは有効に回避される。
【0016】
請求項7に示す発明は、請求項6に記載の制振装置であって、
前記揺動部材は、前記質量体の位置と前記連結位置との間で分割された一対の分割体を本体とし、
一方の分割体及び他方の分割体は、それぞれ、前記一対の摩擦面うちの一方の摩擦面及び他方の摩擦面を有し、
前記一対の摩擦面同士は、互いに前記揺動部材の揺動回転方向に相対移動可能に案内されていることを特徴とする。
上記請求項7に示す発明によれば、過大な加速度を伴った相対変位の質量体への入力は、前記一対の摩擦面同士の相対移動によって確実に抑制される。
【0017】
請求項8に示す発明は、請求項1乃至5の何れかに記載の制振装置であって、
前記制振装置は、互いに対向しつつ相対移動可能に案内された一対の面と、前記一対の面の間に介装固定された弾性体と、を有し、
前記一対の面に高次振動が入力された際に、該高次振動を前記弾性体が吸収して、前記質量体への伝達を軽減することを特徴とする。
上記請求項8に示す発明によれば、相対変位が高次振動を伴っている場合であっても、当該高次振動は、弾性体に吸収されて質量体への伝達は軽減される。よって、質量体が高次振動により過度に振動されて揺動部材や前記二部材が破損することは有効に回避される。
【0018】
請求項9に示す発明は、請求項1乃至8の何れかに記載の制振装置であって、
前記一方の部材に対する前記他方の部材の前記相対変位を拡大して前記連結位置に入力するための梃子部材を有していることを特徴とする。
上記請求項9に示す発明によれば、梃子部材によって揺動部材の揺動動作が更に拡大される。よって、制振装置用のスペースを大きく確保せずとも、慣性増幅効果の拡大を図れる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、二部材同士の間に介装されて二部材の相対変位の抑制効果を高めることができるとともに、特定の方向の寸法を小さくすることができ、しかも安価な制振装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】ボールねじ120を利用した参考例の制振装置110の縦断面図である。
【図2】図2A及び図2Bは、第1実施形態の制振装置10の側面図である。
【図3】相対変位δと抑制力Fとの関係のグラフである。
【図4】相対変位δが零の状態において左方向の地震動が建物に入力された瞬間の制振装置10の状態の説明図である。
【図5】第1実施形態の制振装置10の望ましい設置高さの説明図である。
【図6】図6A及び図6Bは、第1実施形態の制振装置の変形例10aの側面図である。
【図7】相対変位δが零の状態において左方向の地震動が建物に入力された瞬間の制振装置10aの状態の説明図である。
【図8】第1実施形態の制振装置の変形例10aの望ましい設置高さの説明図である。
【図9】図9A及び図9Bは、第2実施形態の制振装置10bの側面図である。
【図10】図10A及び図10Bは、粘性ダンパーの一般的構成の説明図である。
【図11】第3実施形態の制振装置10cに係るフェールセーフ機構51の説明図であり、揺動部材21を図2中のXI-XI断面視で示している。
【図12】フェールセーフ機構の変形例51aの説明図である。
【図13】図13A及び図13Bは、第4実施形態の制振装置10dの側面図である。
【図14】図14A及び図14Bは、第4実施形態の制振装置の変形例10eの側面図である。
【図15】図15Aは、比較例として示す、慣性増幅機構を有しない従来の一自由度系モデルの説明図であり、図15Bは、ボールねじ120を用いた参考例の制振装置110に係る一自由度系モデルの説明図であり、図15Cは、第1実施形態及びその変形例の制振装置10,10aに係る一自由度系モデルの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
===第1実施形態===
図2A及び図2Bは、第1実施形態の制振装置10の側面図である。なお、図2Aには、上梁5aと下梁5bとの相対変位δが無い状態を示し、図2Bには同相対変位δが生じた状態を示している。
【0022】
制振装置10は、例えば複数階からなる多層建物の柱梁架構3において、鉛直方向の上下に隣り合う一対の梁5a,5b同士の間に介装される。そして、図2Bに示すように、これら上梁5aと下梁5bとの間の水平方向の相対変位δを抑制する。つまり、この例では、上梁5aが、請求項における「一方の部材」に相当し、下梁5bが「他方の部材」に相当し、鉛直方向が「隣り合う方向」に相当し、水平方向が「所定方向」に相当する。
【0023】
制振装置10は、(1)柱梁架構3の上梁5aに固定された取り付け部材13と、(2)取り付け部材13に設定された支点Ps周りに揺動可能に支持された揺動部材21と、(3)揺動部材21における所定位置を連結位置Pjとして、揺動部材21を柱梁架構3の下梁5bに連結する連結部材31と、(4)揺動部材21に一体に設けられた質量体27と、を有している。
【0024】
そして、図2Bに示すように地震時等において上梁5aと下梁5bとが相対変位すると、当該相対変位δが、支点Ps及び連結位置Pjを介して揺動部材21に入力されて当該揺動部材21が揺動するが、その揺動に伴って生じる揺動部材21の質量体27の慣性力が、相対変位δの抑制力として作用して当該相対変位δが抑制されるようになっている。
【0025】
以下、各構成要素13,21,31,27について説明する。
取り付け部材13は、上梁5aに揺動部材21を揺動可能に支持させるための部材である。すなわち、取り付け部材13は、ボルト止め等により上梁5aに移動不能に固定され、また、同取り付け部材13には水平ピン13aが設けられており、そして、この水平ピン13aに揺動部材21がピン接合されている。よって、当該水平ピン13aを前記支点Psとして揺動部材21は、前記相対変位δの方向を含む鉛直面内を揺動回転可能に支持されている。
【0026】
揺動部材21は、例えば長手方向を有した部材であり、長手方向の一端部たる上端部には、上述の支点Psが設定されており、つまり上記水平ピン13aを挿通するピン孔が形成されている。また、揺動部材21の他端部たる下端部には、質量体27が一体に固定されている。よって、この例では、上端部が、請求項における「支点Psから近い方の揺動端部」に相当し、下端部が、「支点Psから遠い方の揺動端部」に相当する。なお、質量体27については後述する。
【0027】
連結部材31は、前記支点Psと協同して揺動部材21に前記相対変位δを入力する部材であり、この入力に基づいて揺動部材21は揺動する。連結部材31は、例えば下梁5bに移動不能に固定された一対の脚材31a,31aと、一対の脚材31a,31aに架け渡された水平材31bと、を有し、水平材31bには水平ピン33が設けられている。また、揺動部材21には、水平ピン33を挿通する連結孔21hが形成されている。よって、水平ピン33を連結孔21hに挿通することにより、揺動部材21は連結部材31を介して下梁5bに連結される。
【0028】
ここで、連結孔21hは、長孔形状に形成されており、この長孔21hの長手方向は、揺動部材21の揺動回転に係る回転半径方向を向いている。よって、揺動部材21における連結位置Pjたる前記水平ピン33の位置は、適宜連結孔21h内を前記回転半径方向にスライド移動可能であり、これにより、揺動部材21は、前記相対変位δに応じて大きな抵抗無く速やかに揺動することができる。
【0029】
質量体27は、錘として機能し得るような高密度の部材であり、例えば鋼製のブロック部材である。そして、当該質量体27は、前述したように揺動部材21の下端部に一体に固定されている。ここで、この質量体27が設けられる前記下端部は、支点Psを基準として連結位置Pjよりも遠方に位置している。また、同下端部は、連結位置Pjを基準として支点Psよりも離れた位置に位置しているが、これは、相対変位δよりも質量体27を大きく移動させることで慣性増幅効果を生じさせて、相対変位δを抑制するための抑制力を大きくするためである。詳しく説明する。先ず、支点Psから連結位置Pjまでの距離をD1、支点Psから質量体27の重心までの距離をD2とする。すると、連結位置Pjから質量体27の重心までの距離は(D2−D1)となるが、ここで、相対変位δの増幅倍率を表す比率R(=(D2−D1)/D1)は、R>1となる。よって、前記相対変位δは、前記比率Rに基づき拡大されて質量体27へ入力される。これにより、質量体27の加速度は、相対変位δに係る加速度をR倍に拡大した値となり、この拡大された加速度に基づき質量体27の慣性力が生じる。また、この慣性力は、梃子の原理に基づいて更に前記比率Rで拡大されて前記連結位置Pjに作用する。よって、以上をまとめると、質量体27の質量mに相対変位δの加速度を乗算してなる大きさの力を、前記比率Rの二乗で拡大した力が連結位置Pjに作用することとなり、つまり、この拡大された力が相対変位δの抑制力として作用し、その結果、前記相対変位δの抑制性は格段に高められる。これが、慣性増幅効果である。
【0030】
なお、この慣性増幅効果を高めるには、連結位置Pjから質量体27までの距離(D2−D1)を長くする必要があるが、その場合にあっても、上述の構成によれば、概ね揺動部材21の揺動回転の回転半径が長くなるのみであり、揺動回転の軌道面と直交する方向(図2Bの紙面を貫く方向)の寸法については何等変化ない。つまり、当該方向については制振装置10の寸法を大きくせずに済み、その結果、当該制振装置10を建物の壁内等に収容し易くなる。
【0031】
また、上述したように連結位置Pjたる水平ピン33の位置は、連結孔21hの長孔形状に基づき、揺動部材21の揺動回転に係る回転半径方向に移動可能になっているので、図2Aと図2Bの対比から明らかなように、前記相対変位δが大きくなるにつれて連結位置Pjが質量体27の方へと移動し、つまり上記比率Rは小さくなる。よって、相対変位δが大きい時に、揺動部材21から上下梁5a,5b及びその近傍部分へ付与される抑制力Fの拡大を抑えることができる(図3を参照)。
【0032】
ところで、図2Aに示すような相対変位δが零の場合には、図1の参考例の制振装置110は全く機能しない。例えば、地震動等により上梁5aと下梁5bとが同じ絶対加速度αで移動している場合であっても(図4を参照)、相対変位δが生じなければ参考例の制振装置110は作動しない。これは、当該参考例の制振装置110にあっては、発生した相対変位δに基づきナット部123が質量体125を回転することにより、相対変位δを抑制するための抑制力を得るからである。
【0033】
但し、相対変位δが零であっても、上梁5a及び下梁5bが絶対加速度αで移動する際に、その後の相対変位δの発生を抑制する方向に制振装置が作動するのであれば、その方がより効果的に相対変位δを抑制できて好ましいものと考えられる。この点につき、上述の第1実施形態の制振装置10は、そのように作動する。以下、説明する。
【0034】
図4は、相対変位δが零の状態において左方向の地震動が建物に入力された瞬間の状態を示している。この地震動の入力により、下梁5bには左向きの絶対加速度αが生じ、上梁5aにも同方向で同じ大きさの絶対加速度αが生じるとする。そして、次の瞬間、上梁5aには、上梁5a及びその上層階の質量に基づく慣性力が右方向に作用し、これにより、専ら下梁5bが上梁5aに対して左方向へ相対移動して、その結果、梁5a,5b同士の間に相対変位δが生じてしまうことになる。
【0035】
この点につき、この第1実施形態の制振装置10によれば、図4の瞬間においては、揺動部材21には質量体27の慣性力mα(mは質量体27の質量であり、ここでは、質量体27の絶対加速度の大きさをαと仮定する)が右方向に作用し、これにより、支点Psを介して揺動部材21から取り付け部材13へと左向きの力F1(=mα×[(D2−D1)/D1])が作用し、この力F1によって上梁5aは左向きに移動するように付勢される。その結果、下梁5bに対する上梁5aの相対変位δの発生は有効に抑制される。
【0036】
このように、当該制振装置10は、これを設置した上梁5a及びその上層階の質量に起因した慣性力を軽減して相対変位δの発生を抑制する効果がある。このため、当該制振装置10を建物の中間高さよりも上側の部分に設けるよりは、図5に示すように、中間高さよりも下側の部分に設ける方が望ましい。
【0037】
図6A及び図6Bは、第1実施形態の制振装置の変形例10aの側面図である。なお、図6Aには、上梁5aと下梁5bとの相対変位δが無い状態を示し、図6Bには同相対変位δが生じた状態を示している。
【0038】
この変形例10aは、上述の第1実施形態との対比において、上梁5a及び下梁5bに対する揺動部材21の接続関係が逆になっている点で相違する。すなわち、第1実施形態では、図2Aに示すように揺動部材21の上端部の支点Psが上梁5a側の部材13に設定されているとともに、支点Psよりも下端部寄りの連結位置Pjにおいて下梁5b側の部材31に連結されていたが、この変形例10aでは、図6Aに示すように揺動部材21の上端部の支点Psが下梁5b側の部材31に設定されているとともに、支点Psよりも下端部寄りの連結位置Pjにおいて上梁側の部材13に連結されている。
【0039】
そして、これにより、揺動部材21の揺動動作が、第1実施形態とは逆になっている。すなわち、上梁5aと下梁5bとの相対変位時において、図2Bの第1実施形態では上梁5aの移動方向とは逆方向に揺動部材21の下端部たる揺動端部は移動していたが、この変形例では、図6Bに示すように上梁5aの移動方向と同方向に揺動部材21の下端部は移動するようになっている。なお、この場合には、相対変位の増幅倍率を表す比率Rは、R=(D2/D1)となる。
【0040】
また、図6Aに示すように相対変位δが零の状態において、地震動等により建物に水平方向の外力が入力された際の相対変位δの発生の抑制対象の点でも、第1実施形態とは異なっている。つまり、第1実施形態では、上梁5aと下梁5bとの間の相対変位δの発生を抑制していたが、この変形例では、下梁5bとその更に下方の梁5cとの間の相対変位δの発生を抑制する。図7は、その説明図であり、相対変位δが零の状態において左方向の地震動が建物に入力された瞬間の状態を示している。この地震動の入力により、下梁5bの下方の梁5cには左向きの絶対加速度αが生じるが、ここでは下梁5bにも同方向で同じ大きさの絶対加速度αが生じると仮定する。そして、次の瞬間、下梁5bには、下梁5b及びその上層階の質量に基づく慣性力が右方向に作用し、これにより、専ら下梁5bの下方の梁5cが、下梁5bに対して左方向へ相対移動して、その結果、梁5b,5c同士の間に相対変位δが生じてしまうことになる。
【0041】
この点につき、この変形例の制振装置10aを設けておけば、図7の瞬間においては、揺動部材21には質量体27の慣性力mα(αは質量体27の絶対加速度である)が右方向に作用し、これにより、支点Ps及び部材31を介して揺動部材21から下梁5bへと左向きの力F2(=mα×[(D2−D1)/D1])が作用し、この力F2によって下梁5bは左向きに移動するように付勢される。その結果、下方の梁5cに対する下梁5bの相対変位δの発生は有効に抑制される。
【0042】
このような制振装置10aは、上述のように、制振装置10aを設置した下梁5b及びその上層階の質量に起因した慣性力を軽減して相対変位δの発生を抑制する効果があるため、図8に示すように建物の中間高さよりも上側の部分に設けるのが望ましい。
【0043】
===第2実施形態===
図9A及び図9Bは、第2実施形態の制振装置10bの側面図である。なお、図9Aには、上梁5aと下梁5bとの相対変位δが無い状態を示し、図9Bには同相対変位δが生じた状態を示している。
第1実施形態では、相対変位δに係る振動を減衰するダンパー部材が設けられていなかったが、この第2実施形態ではダンパー部材が設けられている点で相違する。これ以外の内容は概ね第1実施形態と同様のため、同一の構成については同一の符号を付して示し、その説明は省略する。
【0044】
このダンパー部材は、摩擦ダンパー41であり、揺動部材21における質量体27の位置に一体に固定された摩擦材43と、摩擦材43に対向配置されて当接する滑り板45と、を有する。そして、揺動部材21の揺動動作によって摩擦材43が滑り板45に対して摺動することにより摩擦熱を発し、これにより、上梁5aと下梁5bとの間の相対変位δに係る振動エネルギーを熱エネルギーに変換して消費し、その結果、相対変位δに係る振動を減衰する。なお、摺動時の摩擦力の大きさの安定化を図るべく、適宜なばね部材(不図示)を揺動部材21に設け、このばね部材の弾発力により摩擦材43を滑り板45に押し付けても良い。
また、図9Aの例では、摩擦材43は質量体27に固定されている。そして、この質量体27の位置は、連結位置Pjを基準として支点Psよりも離れた位置にある。よって、摩擦材43と滑り板45との間に生じる摩擦力の大きさを、前記比率R(=(D2−D1)/D1)に基づいて拡大して、相対変位δに沿う方向の減衰力として連結位置Pjに付与することができて、すなわち、大きな減衰力を相対変位方向に出力可能となる。
【0045】
摩擦材43の具体例としては、例えば四フッ化エチレンや超高分子量ポリエチレン等を例示でき、滑り板45としてはステンレス鋼板等を例示できるが、摺動時に両者43,45同士の間に適度な大きさの摩擦力が生じるものであれば、何等これらに限らない。
更に言えば、ダンパー部材は、何等上述の摩擦ダンパー41に限るものではない。例えば、オイルダンパー等の粘性ダンパーや、粘弾性ダンパー、又は鋼材ダンパーを用いても良く、つまり、これらのダンパーの何れかを、揺動部材21と上梁5a(取り付け部材13を含む)又は下梁5b(連結部材31を含む)との間に介装しても良い。
【0046】
ちなみに、一般的な粘性ダンパーの構成は、図10A及び図10Bに示すように、シリンダ47と、シリンダ47内を往復移動可能なピストン48と、シリンダ47内におけるピストン48以外の空間に充填された粘性流体と、を有した構成であるが、当該構成の場合、望ましくは、揺動部材21における粘性ダンパーの取り付け位置Pdを、揺動部材21における質量体27よりも支点Ps側の部位にすると良く、これは、ピストン48の移動ストロークが長い粘性ダンパーほど高価になるからである。
また、第1実施形態の変形例10aに対して上述のダンパー部材を適用可能なのは言うまでもない。
【0047】
===第3実施形態===
図11は、第3実施形態の制振装置10cの説明図であり、揺動部材21を図2中のXI-XI断面視で示している。
この第3実施形態の制振装置10cは、第1実施形態の制振装置10に対してフェールセーフ機構51を追設したものである。すなわち、相対変位δが過大な加速度を伴っている場合には、この相対変位δの質量体27への伝達をフェールセーフ機構51によって抑制し、これにより、質量体27が過度に激しく揺動されて揺動部材21や上下梁5a,5b等が破損してしまうことを未然に防ぐようにしている。
【0048】
このフェールセーフ機構51を設けるべく、この第3実施形態に係る揺動部材21は、質量体27の位置と連結位置Pjとの間で2分割されてなる一対の分割体22,23を本体とし、また、一方の分割体22及び他方の分割体23は互いに摩擦接合されている。すなわち、各分割体22,23は、それぞれ、互いに対向して当接する摩擦面22a,23aを有するとともに、これら摩擦面22a,23a同士は、締結ボルトやナット等の適宜な締結部材53によって圧接されており、摩擦面22a,23a同士の間の摩擦力で接合されている。更に、これら摩擦面22a,23a同士は、レール等の適宜なガイド部材54によって互いに揺動部材21の揺動回転方向に相対移動可能に案内されている。
【0049】
よって、一対の摩擦面22a,23aに入力される力の大きさが前記摩擦力以下の場合には、前記一対の摩擦面22a,23a同士は摺動不能状態を維持する一方、前記入力される力の大きさが前記摩擦力を超える場合には、前記一対の摩擦面22a,23a同士が前記揺動回転方向に摺動して、質量体27への前記力の伝達を抑制する。そして、これにより、過大な加速度を伴った相対変位δの質量体27への入力は有効に回避される。
なお、一対の摩擦面22a,23aは、それぞれ、図11の例のように一方の分割体22に滑り板55aを固定し、他方の分割体23に摩擦板55bを固定して形成しても良いし、あるいは、各分割体22,23の摩擦面22a,23aとなり得る部分に対してショットブラスト等の粗面加工を施して形成しても良い。
【0050】
図12は、フェールセーフ機構の変形例51aの説明図である。上述の図11と同様、揺動部材21を図2中のXI-XI断面視で示している。
この変形例51aでは、第3実施形態の滑り板55a及び摩擦板55bに代えて弾性体としての板ゴム57が介装されている。すなわち、一方の分割体22及び他方の分割体23は互いに対向する面22c,23cを有し、これら面22c,23c同士の間には板ゴム57が介装されて各面22c,23cに移動不能に固定されている。また、前記面22c,23c同士は、第3実施形態の場合と同様に、レール等の適宜なガイド部材54aによって互いに揺動部材21の揺動回転方向に相対移動可能に案内されている。
【0051】
よって、この構成によれば、相対変位δが高次振動を伴っている場合であっても、当該高次振動が、連結位置Pjから質量体27へ向かう過程で、その途中の弾性体57にて吸収されて質量体27への伝達は軽減される。よって、質量体27が高次振動により過度に振動されて揺動部材21や上下梁5a,5b等が破損することは有効に回避される。
なお、これらフェールセーフ機構51,51aの設置位置は、何等揺動部材21に限るものではなく、前記部材13や前記部材31に対して設置しても良い。すなわち、これら部材13,31の一方に対して、前記摩擦面22a,23aや前記面22c,23c等を形成しても良い。
また、第1実施形態の変形例10aに対して上述のフェールセーフ機構51,51aを適用可能なのは言うまでもない。
【0052】
===第4実施形態===
図13A及び図13Bは、第4実施形態の制振装置10dの側面図である。なお、図13Aには、上梁5aと下梁5bとの相対変位δが無い状態を示し、図13Bには同相対変位δが生じた状態を示している。
【0053】
第1実施形態との対比において、この第4実施形態では、図13Bに示すように下梁5bを揺動部材21の連結位置Pjに連結するための連結部材61が、梃子部材63を有しており、この梃子部材63によって、上梁5aに対する下梁5bの相対変位δを拡大して前記連結位置Pjに入力するように構成されている。これ以外の構成は、ほぼ第1実施形態と同様であり、同じ構成には同じ符号を付して示し、その説明は省略する。
【0054】
第4実施形態に係る連結部材61は、下梁5bに移動不能に固定された第1部材62と、上梁5aに移動不能に固定された第2部材64と、梃子部材63とを有する。そして、梃子部材63の一端部たる下端部が、梃子の支点Pmとして第2部材64にピン接合され、他端部たる上端部が、梃子の力点Pfとして揺動部材21の連結位置Pjに接続され、これら下端部と上端部との間の部位が、梃子の作用点Pnとして第1部材62に接続されている。これにより、梃子部材63の支点Pm及び作用点Pnから入力された前記相対変位δは、支点Pmから作用点Pnまでの距離D3と作用点Pnから力点Pfまでの距離(D4−D3)との比率Rs(=(D4−D3)/D3)で拡大されて揺動部材21の連結位置Pjに入力される。その結果、揺動部材21の質量体27の揺動変位は、第1実施形態の場合よりも更にRs倍だけ拡大されることとなる。つまり、相対変位δに対する質量体27の揺動変位の拡大率は、前記比率R(=(D2−D1)/D1)の更にRs倍となり、これにより、慣性増幅効果を更に高めることができる。
【0055】
なお、梃子部材63を前記支点Pm周りに円滑に揺動回転させて梃子として確実に機能させるべく、第1部材62と梃子部材63との前記作用点Pnでの接続は、当該作用点Pnの位置が梃子部材63の揺動回転の回転半径方向には移動可能にしつつ揺動回転方向には移動不能となるようになされている。すなわち、図13Bの例では、梃子部材63に長孔63hが形成され、この長孔63hの長手方向は前記回転半径方向を向いているとともに、この長孔63hに、第1部材62の水平ピン62aが挿通されることで上記の接続を達成している。
【0056】
図14A及び図14Bは、第4実施形態の制振装置の変形例10eの側面図である。なお、図14Aには、上梁5aと下梁5bとの相対変位δが無い状態を示し、図14Bには同相対変位δが生じた状態を示している。
この変形例10eは、上述の第4実施形態との対比において、上梁5a及び下梁5bに対する梃子部材63の接続関係が逆になっている点で相違する。すなわち、第4実施形態では、梃子部材63の下端部の支点Pmが上梁5a側の第2部材64に設定されているとともに、支点Pmよりも上端部寄りの作用点Pnにおいて下梁5b側の第1部材62に連結されていたが、この変形例では、梃子部材63の下端部の支点Pmが下梁5b側の第1部材62に設定されているとともに、支点Pmよりも上端部寄りの作用点Pnにおいて上梁5a側の第2部材64に連結されている。
【0057】
そして、これにより、揺動部材21の揺動動作が、第4実施形態とは逆になっている。すなわち、上梁5aと下梁5bとの相対変位時において、図13Bの第4実施形態では上梁5aの移動方向とは逆方向に揺動部材21の下端部たる揺動端部は移動していたが、この変形例では、図14Bに示すように上梁5aの移動方向と同方向に揺動部材21の下端部は移動するようになっている。
【0058】
なお、この第4実施形態の変形例10eは、第1実施形態の変形例10aに対応する構成であり、慣性増幅効果が拡大することを除けば、この第4実施形態の変形例10eの作用効果は、第1実施形態の変形例10aと同じなので、その説明は省略する。
【0059】
===本発明に係る作用効果の補足===
ここで、第1実施形態及び第1実施形態の変形例の作用効果を、一自由度系モデルに基づいて説明する。
【0060】
図15Aは、比較例として示す、慣性増幅機構を有しない従来の一自由度系モデルである。この一自由度系モデルが地動yを受ける場合の振動方程式は、式(1)で表すことができる。

また、式(1)の両辺をMで除すことで式(2)が得られる。

【0061】
次に、慣性増幅機構として図1のボールねじ120を用いた参考例の制振装置110の場合について説明する。図15Bは、その一自由度系モデルの説明図である。この場合、ボールねじ120のナット部123に固定された質量体125に基づいて慣性増幅効果を奏し、この質量体125の質量をmとすると、当該制振装置110を適用した一自由度系モデルが地動yを受ける場合の振動方程式は、式(3)で表すことができる。

【0062】
ここで、左辺のLは、ボールねじ120のリード長当たりに質量体125が回転移動する周長を前記リード長で除した値であり、いわば慣性増幅効果に係る前記比率Rに対応するパラメータである。よって、以下では、比較を簡単にするために、RとLとは互いに等しいものとして扱う。つまり、式(3)を、下式(3a)のように書き換えて説明する。ここでR>1とする。

そして、式(3a)の両辺を(M+mR)で除すことで式(4)が得られる。

式(4)は、式(5)〜(8)の形式で表すことができる。

式(6)〜(8)より、参考例たるボールねじ式慣性増幅機構を有した一自由度系モデルでは、式(2)の慣性増幅機構を有しない従来の一自由度系モデルと比べて、減衰係数およびバネ剛性をM/(M+mR)倍に低減し、地動加速度についても(M+m)/(M+mR)倍に低減する形として捉えることが出来る。
【0063】
次に、第1実施形態の制振装置10の場合について説明する。図15Cは、この制振装置10を有した一自由度系モデルの説明図である。なお、簡略のため、建物の柱梁架構3が1層の場合のモデルを用い、且つ前記比率Rが変動しないものとして扱う。この場合の振動方程式は式(9)のように表すことができる。

ここで、右辺の−mRの項は、図4を参照して前述したように、地動yによって、揺動部材21の質量体27から取り付け部材13を介して建物たる質点に力F1(=mα×[(D2−D1)/D1])が作用するからである。
【0064】
また、式(9)の両辺を(M+mR)で除すことで式(10)が得られる。

そして、式(10)は、式(11)〜(12)の形式で表すことができる。

式(11)〜(12)より、第1実施形態に係るモデルの場合には、式(2)の慣性増幅機構を有しない従来の一自由度系モデルの場合と比べて、減衰係数およびバネ剛性をM/(M+mR)倍に低減する形として捉えることができる。さらに、地動加速度については(M−mR)/(M+mR)倍に低減する形であり、これは、これは式(8)の参考例たるボールねじ式慣性増幅機構を有した一自由度系モデルの場合よりも更に地動加速度を低減する形として捉えることが出来る。
【0065】
最後に、第1実施形態の変形例10aの場合について説明する。なお、この場合も簡略のため、建物の柱梁架構3が1層の場合のモデルを用い、且つ前記比率Rが変動しないものとして扱う。この場合の振動方程式は式(13)のように表すことができる。

また、式(13)の両辺を(M+mR)で除すことで式(14)が得られる。

式(14)は、式(15)〜(16)の形式で表すことができる。

式(15)〜(16)より、第1実施形態の変形例10aに係るモデルの場合には、式(2)の慣性増幅機構を有しない従来の一自由度系モデルの場合と比べて、減衰係数およびバネ剛性をM/(M+mR)倍にし、地動加速度については(M+m(R−1))/(M+mR)倍にする形として捉えることが出来る。
【0066】
===その他の実施の形態===
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、かかる実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で以下に示すような変形が可能である。
【0067】
上述の実施形態では、揺動部材21における連結位置Pjを、支点Psと質量体27との間に位置させていたが、何等これに限るものではない。すなわち、揺動部材21において相対変位δよりも大きく移動する位置に質量体27が位置していれば、慣性増幅効果を奏することができるので、当該位置関係を満足していれば良く、例えば、質量体27と連結位置Pjとの間に支点Psが位置していても良い。
【符号の説明】
【0068】
3 柱梁架構、5a 上梁(一方の部材)、5b 下梁(他方の部材)、
10 制振装置、10a 制振装置、10b 制振装置、10c 制振装置、
10d 制振装置、10e 制振装置、
13 取り付け部材、13a 水平ピン、
21 揺動部材、21h 連結孔、
22 分割体、22a 摩擦面、22c 面、
23 分割体、23a 摩擦面、23c 面、
27 質量体、
31 連結部材、31a 脚材、31b 水平材、
33 水平ピン、41 摩擦ダンパー(ダンパー部材)、
43 摩擦材、45 滑り板、
47 シリンダ、48 ピストン、
51 フェールセーフ機構、51a フェールセーフ機構、
53 締結部材、54 ガイド部材、54a ガイド部材、
55a 滑り板、55b 摩擦板、57 板ゴム(弾性体)、
61 連結部材、62 第1部材、62a 水平ピン、
63 梃子部材、63h 長孔、64 第2部材、
Ps 支点、Pj 連結位置、
Pf 力点、Pm 支点、Pn 作用点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣り合って配された二部材同士の間に介装されて、前記二部材同士が隣り合う方向と交差する所定方向に相対変位する際に前記二部材同士の前記相対変位を抑制する制振装置であって、
前記二部材のうちの一方の部材に設定された支点周りに揺動可能に支持された揺動部材と、
前記揺動部材における所定位置を連結位置として、前記揺動部材を前記二部材のうちの他方の部材に連結する連結部材と、
前記揺動部材において前記相対変位よりも大きく移動する位置に一体に設けられた質量体と、を有し、
前記揺動部材の揺動動作に応じて、前記連結位置が前記揺動部材の揺動回転に係る回転半径方向に移動可能なように、前記連結部材と前記揺動部材とは連結されており、
前記相対変位が前記支点及び前記連結部材を介して前記揺動部材に入力されて前記揺動部材が揺動することにより、前記相対変位を抑制することを特徴とする制振装置。
【請求項2】
請求項1に記載の制振装置であって、
前記隣り合う方向は鉛直方向であり、
前記相対変位に係る前記所定方向は水平方向であり、
前記一方の部材は、前記他方の部材の上方に載置されており、
前記揺動部材における前記支点と前記質量体との間の位置に前記連結位置が設定されており、
前記質量体は、前記揺動部材の二つの揺動端部のうちで前記支点から遠い方の揺動端部の質量を前記支点に近い方の揺動端部よりも大きくすべく、前記遠い方の揺動端部に一体に設けられていることを特徴とする制振装置。
【請求項3】
請求項1に記載の制振装置であって、
前記隣り合う方向は鉛直方向であり、
前記相対変位に係る記所定方向は水平方向であり、
前記他方の部材は、前記一方の部材の上方に載置されており、
前記揺動部材における前記支点と前記質量体との間の位置に前記連結位置が設定されており、
前記質量体は、前記揺動部材の二つの揺動端部のうちで前記支点から遠い方の揺動端部の質量を前記支点に近い方の揺動端部よりも大きくすべく、前記遠い方の揺動端部に一体に設けられていることを特徴とする制振装置。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載の制振装置であって、
前記揺動部材の揺動動作が入力されるダンパー部材を有し、
前記ダンパー部材は、前記揺動動作の運動エネルギーを熱エネルギーに変換して吸収することを特徴とする制振装置。
【請求項5】
請求項4に記載の制振装置であって、
前記ダンパー部材として、互いに当接する摩擦材と滑り板とを有し、
前記摩擦材及び前記滑り板のうちの一方の部材が前記揺動部材に固定されるとともに、前記一方の部材に対向してもう一方の部材が設けられ、
前記揺動部材の揺動によって、前記一方の部材が前記もう一方の部材に対して摺動することを特徴とする制振装置。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れかに記載の制振装置であって、
前記制振装置は、所定の大きさの摩擦力により接合された一対の摩擦面を有し、
前記一対の摩擦面に入力される力の大きさが前記摩擦力以下の場合には、前記一対の摩擦面同士は相対移動不能に当接する一方、前記一対の摩擦面に入力される力の大きさが前記摩擦力を超える場合には、前記一対の摩擦面同士が相対移動して、前記質量体への前記力の伝達を抑制することを特徴とする制振装置。
【請求項7】
請求項6に記載の制振装置であって、
前記揺動部材は、前記質量体の位置と前記連結位置との間で分割された一対の分割体を本体とし、
一方の分割体及び他方の分割体は、それぞれ、前記一対の摩擦面うちの一方の摩擦面及び他方の摩擦面を有し、
前記一対の摩擦面同士は、互いに前記揺動部材の揺動回転方向に相対移動可能に案内されていることを特徴とする制振装置。
【請求項8】
請求項1乃至5の何れかに記載の制振装置であって、
前記制振装置は、互いに対向しつつ相対移動可能に案内された一対の面と、前記一対の面の間に介装固定された弾性体と、を有し、
前記一対の面に高次振動が入力された際に、該高次振動を前記弾性体が吸収して、前記質量体への伝達を軽減することを特徴とする制振装置。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れかに記載の制振装置であって、
前記一方の部材に対する前記他方の部材の前記相対変位を拡大して前記連結位置に入力するための梃子部材を有していることを特徴とする制振装置。

【図1】
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【図3】
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【図11】
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【図15】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−21689(P2011−21689A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−167160(P2009−167160)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】