説明

制電性アクリル系樹脂組成物、制電性アクリル系感圧式接着剤組成物、及びそれを用いてなる光学部材保護用感圧式接着性保護フィルム

【課題】 塗料、粘着剤等に使用可能な制電性アクリル系樹脂組成物であって、架橋剤で架橋した後にもイオン電導性が低下せず、特に、液晶ディスプレイの製造に用いられる偏光板等の光学部材の表面保護フィルム用の感圧式接着層として好適な、透明な、剥離時の静電気の発生が少ない制電性アクリル系樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】 水酸基及びアルキレンオキサイド鎖を有するアクリル系樹脂(A)、水酸基と反応し得る官能基を有する化合物(B)及び特定構造のイオン化合物(C)を含有する制電性アクリル系樹脂組成物であって、前記アクリル系樹脂(A)が、一級の水酸基を有し、アルキル鎖の炭素数が3〜20であるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを必須の構成成分とするものであることを特徴とする制電性アクリル系樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制電性アクリル系樹脂組成物、制電性アクリル系感圧式接着剤組成物、及びそれを用いてなる光学部材保護用感圧式接着性保護フィルムに関する。より詳しくは、電子、光学部品の包装材に用いる透明性に優れた制電性アクリル系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ICチップに代表される電子部品や光学部品の包装材については、静電気対策が求められている。特許文献1(特開2003−261774号公報)には、イオン化合物としてのリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを含む制電性樹脂組成物が、高い静電気消散機能を有し、持続性、成形加工性に優れた、着色しない制電性樹脂組成物として開示されている。しかし、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドが高価な材料であるため、成形品全体を当該制電性樹脂組成物で作製した場合にはコスト高を招き、高付加価値の特殊用途にしか使用できない。
そこで、特許文献2(特開2003−41194号公報)には、成形品の表面に、制電性樹脂組成物の塗膜を形成する経済性に優れた制電性塗料が開示されている。
【0003】
一方で、包装材自体の形態が、従来のコンテナ等の容器から、キャリアテープや光学部品用途の保護フィルムに代表されるように、テープ化やフィルム化が進んでいる。
特に、保護フィルムは、液晶ディスプレイの普及に伴って伸長著しく、使用例としては、液晶ディスプレイに用いられる偏光板やそれに準ずる積層体等の光学部品等に、ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン等からなる透明なフィルムが粘着層を介して積層されて使用される。
保護フィルムは、液晶ディスプレイ等に組み込みが完了した後に光学部品等から剥離除去されるが、剥離する際に生じる静電気により液晶や電子回路が破壊されるトラブルの発生が問題となっている。保護フィルム表面に制電性樹脂を塗工するだけでは、剥離時に発生する静電気の抑制には十分な効果が得られていない。
【0004】
そこで、保護フィルムの粘着層を形成するための、粘着性を有する制電性樹脂組成物が求められ、特許文献3(特開2005−314579号公報)には、過塩素酸リチウムとアルキレンオキサイド鎖を有するモノマーを含むアクリル樹脂系粘着剤が開示されている。しかし、剥離性を付与する為に、架橋剤でアクリル樹脂を硬化することで、アルキレンオキサイド鎖の分子運動が阻害され、イオン電導性が低下する。その結果、近年の液晶テレビの大画面化に伴い、保護フィルム自体も大面積化し、かつ、剥離速度も速くなる為に、剥離時に生じる静電気を防止する効果が十分得られていない。その為、更なる制電性の向上が求められている。
【0005】
また、特許文献4(特開2006−291172号公報)、特許文献5(特開2007−92056号公報)には、それぞれ、イオン性液体(常温溶融塩)もしくはアルカリ金属塩、及びアルキレンオキサイド鎖を有するノニオン系反応性乳化剤を構成成分とするアクリル樹脂を含有するアクリル系粘着剤が汚染性の少ない制電性の優れた粘着剤として開示されている。ノニオン系反応性乳化剤を用いたアクリル樹脂は、ノニオン系反応性乳化剤を用いないアクリル樹脂に比して制電性は優れるので、イオン性液体やアルカリ金属塩の配合量を減量や汚染性の改良も期待できる。しかし、フッ素含むイオン性液体は、ブリードし易く、被着体を汚染してしまう懸念がある。一方、アルカリ金属塩は、電子製品や電子部品に用いられる電子材料の分野では、ナトリウムイオンやカリウムイオン等のアルカリ金属イオンやアルカリ土類金属イオンによる汚染が問題視されている。これらイオンが、電子材料に混入することにより、電子製品や電子部品の機能を低下、もしくは破壊するのみでなく、これらに起因した発熱や発火、さらには爆発の危険も含むこととなる。このような観点から、電子製品や電子部品に応用される材料は、金属イオンを含有しないことが望ましいとされている。さらに、アルカリ金属塩においては、周囲の環境による性能への影響が大きい。とりわけ、湿度の影響が大きいとされる。一般的には、湿度の高い条件下では、帯電防止効果を発揮するが、湿度が低くなるとその効果が薄れ、最終的には全く機能しなくなることもある。制電性や被着体非汚染性に対する要求がますます高まる近年、被着体汚染の原因となり得るフッ素含むイオン性液体やアルカリ金属塩を含有しないものが求められている。
【特許文献1】特開2003−261774号公報
【特許文献2】特開2003−41194号公報
【特許文献3】特開2005−314579号公報
【特許文献4】特開2006−291172号公報
【特許文献5】特開2007−92056号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、塗料、粘着剤等に使用可能な制電性アクリル系樹脂組成物であって、架橋剤で架橋した後にもイオン電導性が低下しにくく、制電性能が環境湿度に依存しない制電性アクリル系樹脂組成物の提供を目的とする。特に、液晶ディスプレイの製造に用いられる偏光板等の光学部材の表面保護フィルム用の感圧式接着剤創の形成に好適な、透明性に優れ、剥離時の静電気の発生が少なく、その発生量が湿度に影響されず、汚染(剥離による感圧式接着剤の残り)の懸念のない、制電性アクリル系感圧式接着剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、水酸基及びアルキレンオキサイド鎖を有するガラス転移温度が−80〜0℃のアクリル系樹脂(A)、水酸基と反応し得る官能基を有する化合物(B)及び下記一般式[1]で表されるイオン化合物(C)を含有する制電性アクリル系樹脂組成物であって、
前記アクリル系樹脂(A)が、一級の水酸基を有し、アルキル鎖の炭素数が3〜20であるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを必須の構成成分とするものであることを特徴とする制電性アクリル系樹脂組成物に関する。
【0008】
【化1】

(式中、R1〜R4は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアルキニル基、置換基を有してもよいアリール基、または、置換基を有してもよい複素環基を表し、R1〜R4は、互いに結合して環を形成してもよい。)
【0009】
前記発明において、一般式[1]中のR1〜R4は、それぞれ独立に、置換基を有してもよいアルキル基、または、置換基を有してもよいアリール基であることが好ましく、さらにR2〜R4は、R1と同じであることが好ましい。
【0010】
また、本発明は、水酸基及びアルキレンオキサイド鎖を有するアクリル系樹脂(A)100重量部に対して、イオン化合物(C)を0.01〜10重量部含むことを特徴とする前記発明のいずれかに記載の制電性アクリル系樹脂組成物に関する。
【0011】
さらに本発明は、水酸基及びアルキレンオキサイド鎖を有するアクリル系樹脂(A)のアルキレンオキサイド鎖の付加モル数が、4〜16であることを特徴とする前記発明のいずれかに記載の制電性アクリル系樹脂組成物に関する。
【0012】
また、本発明は、水酸基及びアルキレンオキサイド鎖を有するアクリル系樹脂(A)のアルキレンオキサイド鎖がエチレンオキサイド鎖であることを特徴とする前記発明のいずれかに記載の制電性アクリル系樹脂組成物に関する。
【0013】
また、本発明は、水酸基と反応し得る官能基を有する化合物(B)が、3官能イソシアネート化合物であることを特徴とする前記発明のいずれかに記載の制電性アクリル系樹脂組成物に関する。
【0014】
また、本発明は、前記発明のいずれかに記載の制電性アクリル系樹脂組成物が制電性アクリル系感圧式接着剤組成物であり、アクリル系樹脂(A)のガラス転移温度が−80〜0℃以下であることを特徴とする、制電性アクリル系感圧式接着剤組成物に関する。
【0015】
さらに本発明は、水酸基及びアルキレンオキサイド鎖を有するアクリル系樹脂(A)100重量部に対して、水酸基と反応し得る官能基を有する化合物(B)を0.1〜30重量部含むことを特徴とする前記破滅名に記載の制電性アクリル系感圧式接着剤組成物に関する。
【0016】
さらに本発明は、プラスチックフィルムと該プラスチックフィルムの少なくとも一方の面に位置する制電性アクリル系感圧式接着層とを具備する光学部材保護用感圧式接着性フィルムであって、前記感圧式接着層が前記発明に記載の制電性アクリル系感圧式接着剤組成物から形成されたものであることを特徴とする光学部材保護用感圧式接着性フィルムに関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、塗料、粘着剤等に使用可能な制電性アクリル系樹脂組成物であって、架橋剤で架橋した後にもイオン電導性が低下せず、特に、液晶ディスプレイの偏光板等の光学部材の表面保護フィルム用の感圧式接着層形成用として好適な、透明性に優れ、剥離時の静電気の発生が少なく、その発生量も湿度に影響されず、汚染(剥離による感圧式接着剤の残り)の懸念のない、制電性アクリル系感圧式接着剤組成物が得られるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明に用いられる、水酸基及びアルキレンオキサイド鎖を有するアクリル系樹脂(A)は、水酸基を有するアクリル系モノマー(a1)と、アルキレンオキサイド鎖を有するアクリル系モノマー(a2)と必要に応じてこれらと共重合可能な他のアクリル系モノマー(a3)から合成することができる。
【0019】
本発明において水酸基を有するアクリル系モノマー(a1)を使用する目的は、被着体に対する粘着力を確保しつつ剥離性を確保するためである。さらに詳しく説明すると、粘着層を形成する際に使用する後述の水酸基と反応し得る官能基を有する化合物(B)と、水酸基及びアルキレンオキサイド鎖を有するアクリル系樹脂(A)〔以下、単に「アクリル系樹脂(A)」と表記することもある〕中の水酸基との反応を利用して架橋構造を形成するが、アクリル系共重合体(A)の分子量を含めて制御することにより、粘着性と剥離性とのバランスをとることができる。よって、アクリル系樹脂(A)を構成するモノマーの合計を100重量%とした場合、水酸基を有するアクリル系モノマー(a1)は0.5〜30重量%であることが好ましい。さらに好ましくは、1〜10重量%である。
水酸基を有するアクリル系モノマー(a1)が0.5重量%未満の場合、粘着層としての凝集力が不足し、剥離性が低下して好ましくない。30重量%を超えると、架橋度が高くなりすぎて粘着性、制電性が乏しくなるので好ましくない。
【0020】
本発明に用いられる、水酸基を有するアクリル系モノマー(a1)は、一級の水酸基を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを必須の構成成分とするものであって、アルキル鎖の炭素数が3〜20であることが重要であり、4〜12であることが好ましい。
一級の水酸基を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのアルキル鎖の炭素数が2以下では、硬化剤として使用する、水酸基と反応し得る官能基を有する化合物(B)で架橋後にアルキレンオキサイド鎖の分子運動を阻害してしまうために、イオン化合物(C)による制電性も低下してしまい好ましくない。一方、20より多い場合は、硬化剤を増やしても粘着層としての凝集力が不足し、剥離性が低下して好ましくない。
【0021】
一級の水酸基を有し、アルキル鎖の炭素数が3〜20であるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとして、具体的には、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸6−ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸8−ヒドロキシオクチルや(メタ)アクリル酸10−ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸12−ヒドロキシラウリル、(メタ)アクリル酸18−ヒドロキシステアリル等が挙げられる。
前記化合物のうち、本発明では4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸6−ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸8−ヒドロキシオクチルや(メタ)アクリル酸10−ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸12−ヒドロキシラウリルが好ましい。
また、水酸基を有するアクリル系モノマー(a1)として、本発明の効果を阻害しない範囲で、二級もしくは三級の水酸基を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類や、アルキル鎖の炭素数が2以下もしくは20を超えるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類を併用してもよい。
【0022】
本発明に用いられる、アルキレンオキサイド鎖を有するアクリル系モノマー(a2)〔以下、単に「アクリル系モノマー(a2)」と表記することもある〕としては、エチレンオキサイド鎖を有するモノマー、プロピレンオキサイド鎖を有するモノマー、およびその両者を有するモノマーが挙げられる。
アルキレンオキサイド鎖の付加モル数、即ちアルキレンオキサイドの繰り返し単位の数としては、4〜16が好ましく、6〜12がより好ましい。アルキレンオキサイド鎖の付加モル数が16より大きくなると、重合の結果得られる共重合体の結晶性が高くなり、粘着性が著しく低下してしまい好ましくない。一方、アルキレンオキサイド鎖の付加モル数が4より小さくなると、制電性を得るのが困難になり好ましくない。
【0023】
エチレンオキサイド鎖を有するアクリル系モノマー(a2)としては、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のアルコキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートやポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0024】
プロピレンオキサイド鎖を有するモノマーとしては、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等のアルコキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレートやポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0025】
本発明では、後述のイオン化合物(C)との相溶性を考慮して、エチレンオキサイド鎖を有するモノマーが好ましい。また、イソシアネート系架橋剤と、主剤中の、モノマー(a1)に由来する水酸基との反応性を阻害しないという点から、アルキレンオキサイド鎖の末端の水酸基がアルキル基で封鎖されたアルコキシ基であることが好ましい。本発明で用いられるアルキレンオキサイド鎖を有するアクリル系モノマー(a2)としては、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートが特に好ましい。
なお、本発明においては、末端が水酸基であるアルキレンオキサイド鎖を有するモノマーは、アクリル系モノマー(a2)に分類するものとする。
【0026】
本発明にアルキレンオキサイド鎖を有するアクリル系モノマー(a2)を使用する目的は、イオン化合物(C)とアルキレンオキサイド鎖とで錯体を形成させ、導電性を発現させるためである。よって、アルキレンオキサイド鎖の役割は非常に大きく、単に錯体形成の場を与えるだけでなく、イオン化合物(C)の移動媒体としての働きも同時に担っている。言い換えると、本発明における制電性は、イオン化合物(C)の量とアルキレンオキサイド鎖を有するアクリル系モノマー(a2)の含有量に依存する。
【0027】
よって、アクリル系樹脂(A)を構成するモノマーの合計を100重量%とした場合、アルキレンオキサイド鎖を有するアクリル系モノマー(a2)は、0.1〜40重量%が好ましく、10〜30重量%であることがさらに好ましい。
アルキレンオキサイド鎖を有するアクリル系モノマー(a2)が0.1重量%未満の場合、制電性を得るのが困難になり、一方、40重量%を超える場合、アクリル系モノマー(a2)中に不純物として含まれている2官能モノマーの影響により、重合時にゲル化しやすくなるために好ましくない。
【0028】
本発明に用いられる、前記の水酸基を有するアクリル系モノマー(a1)及びアルキレンオキサイド鎖を有するアクリル系モノマー(a2)と共重合可能なモノマー(a3)としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、ノナデシル(メタ)アクリレート、イコシル(メタ)アクリレート、ヘンイコシル(メタ)アクリレート、ドコシル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸等を挙げることができる。本発明においては、粘着性を確保するという点で、アルキル鎖の炭素数が4〜24のアルキル(メタ)アクリレートを共重合に供することが好ましい。さらに好ましくは、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートである。
【0029】
これらのモノマー(a3)は、制電性アクリル系樹脂組成物としての望ましい物性を得る目的のため、適宜選択して単独で、あるいは2種類以上を組み合わせて使用することができる。
制電性アクリル系樹脂組成物を感圧式接着剤組成物として用いる場合には、制電性アクリル系樹脂組成物から形成される層が、粘着性を発現できるように、該層のTgが−80〜0℃であることが好ましく、より好ましくは−70〜−50℃となるようにすることが好ましい。そのためには、用いるアクリル系樹脂(A)のTgが−80〜0℃であることが好ましく、より好ましくは−70〜−50℃となるように、モノマー(a3)の種類、量を選択することが好ましい。なお、ガラス転移温度(Tg)は、DSC(示差走査熱量計)で測定して求めた値である。
【0030】
ところで、感圧式接着剤組成物の場合、主成分たるアクリル系樹脂(A)に対し、硬化剤たる水酸基と反応し得る官能基を有する化合物(B)は、少量配合することが一般的である。このような感圧式接着剤組成物から形成される感圧式接着剤組成物層は、架橋状態が緩い(換言すると疎)なので、緻密に架橋される硬化塗膜とは異なり、感圧式接着剤組成物層のTgは、架橋前のアクリル系樹脂(A)のTgにほぼ等しい。従って、制電性アクリル系樹脂組成物を感圧式接着剤組成物として用いる場合には、制電性アクリル系樹脂組成物から形成される感圧式接着剤組成物層のTgが−80〜0℃、好ましくは−70〜−50℃となるように、モノマー(a3)の種類、量を選択することが好ましい。
【0031】
上述の水酸基を有するアクリル系モノマー(a1)、アルキレンオキサイド鎖を有するアクリル系モノマー(a2)及びその他のモノマー(a3)等を共重合してなるアクリル系樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)は20万〜100万であることが好ましく、30万〜70万であることがより好ましい。
20万未満では、必要な剥離性が得られにくく、100万を超えると、合成時の粘度が高くなり過ぎ、生産性が低下しやすいため好ましくない。
ところで、光学部材の中には非常に薄く、壊れやすいものがある一方、比較的丈夫なものもあり、保護フィルムをどのような被着体に貼着するかによって、保護フィルムの粘着層に要求される剥離力の大きさは異なる。
即ち、壊れやすい光学部材を被着体とする場合には、貼着後保護フィルムを剥離する際に被着体を損傷しないようにするために、剥離力は200g/25mm以下であることが好ましく、さらに好ましくは100g/25mm以下である。
一方、比較的強靭な光学部材を被着体とする場合には、剥離力は1000g/25mm程度まで許容され得る。
尚、剥離時に制電性アクリル系感圧式接着剤組成物が被着体に残らないことは被着体がどのようなものであっても常に要求される。
【0032】
制電性アクリル系感圧式接着剤組成物を用いてなる保護フィルムの剥離力は、主成分であるアクリル樹脂自体の有する凝集力及び、該主成分と、後述する硬化剤として機能する、水酸基と反応し得る官能基を有する化合物(B)との架橋の状況によって大きく影響を受ける。一般に主成分に対して硬化剤を多量に用いることによって、剥離力を低下することができる。
また、一般に主成分の分子量を大きくすることによって、主成分自体の凝集力を大きくすることができる。本発明おいて、剥離時に200g/25mm以下の低剥離力が要求される場合には、主成分、即ちアクリル系樹脂(A)100重量部に対して硬化剤を1〜30重量部の量で用いることが好ましく、2〜20重量部の量で用いることがより好ましく、3〜15重量部の量で用いることがさらに好ましい。
尚、低剥離力発現の観点からは硬化剤は多い方が好ましい。しかし、多すぎると架橋が過度になり、制電性が低下するので、好ましくない。
【0033】
次に、イオン化合物(C)について説明する。
本発明は、イオン化合物(C)としては下記一般式[1]で表される化合物あることが重要である。
【0034】
【化2】

(式中、R1〜R4は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアルキニル基、置換基を有してもよいアリール基、または、置換基を有してもよい複素環基を表し、R1からR4は、互いに結合して環を形成してもよい。)
【0035】
本発明における一般式[1]で示される化合物のR1からR4は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアルキニル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよい複素環基を表す。
【0036】
置換基を有してもよいアルキル基としては、炭素数1〜30のアルキル基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、セプチル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、1−エチルペンチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、トリフルオロメチル基、2−エチルヘキシル基、フェナシル基、1−ナフトイルメチル基、2−ナフトイルメチル基、4−メチルスルファニルフェナシル基、4−フェニルスルファニルフェナシル基、4−ジメチルアミノフェナシル基、4−シアノフェナシル基、4−メチルフェナシル基、2−メチルフェナシル基、3−フルオロフェナシル基、3−トリフルオロメチルフェナシル基、3−ニトロフェナシル基等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0037】
置換基を有してもよいアルケニル基としては、炭素数2〜10のアルケニル基が好ましく、例えば、ビニル基、アリル基、スチリル基、ビニリデン基、スチレン基、アクリル基、メタクリル基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、イソプロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、1−オクテニル基、1−デセニル基、1−オクタデセニル基、1−シクロヘキセニル基、トリフルオロエテニル基、1−クロロエテニル基、2,2−ジブロモエテニル基、4−ヒドロキシ−1−ブテニル基、1−カルボキシエテニル基、5−メルカプト−1−ヘキセニル基、1−シアノエテニル基、3−ニトロ−1−プロペニル基、4−アジド−2−ブテニル基等重合可能なアルケニル基が挙げられるがこれらに限定されない。
【0038】
置換基を有してもよいアルキニル基としては、炭素数2〜10のアルキニル基が好ましく、例えば、エチニル基、プロピニル基、プロパルギル基等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0039】
置換基を有してもよいアリール基としては、炭素数6〜60のアリール基が好ましく、6〜30のアリール基がより好ましい。例えば、フェニル基、ビフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、9−アンスリル基、9−フェナントリル基、1−ピレニル基、5−ナフタセニル基、1−インデニル基、2−アズレニル基、9−フルオレニル基、ターフェニル基、クオーターフェニル基、o−、m−、およびp−トリル基、キシリル基、o−、m−、およびp−クメニル基、メシチル基、ペンタレニル基、ビナフタレニル基、ターナフタレニル基、クオーターナフタレニル基、ヘプタレニル基、ビフェニレニル基、インダセニル基、フルオランテニル基、アセナフチレニル基、アセアントリレニル基、フェナレニル基、フルオレニル基、アントリル基、ビアントラセニル基、ターアントラセニル基、クオーターアントラセニル基、アントラキノリル基、フェナントリル基、トリフェニレニル基、ピレニル基、クリセニル基、ナフタセニル基、プレイアデニル基、ピセニル基、ペリレニル基、ペンタフェニル基、ペンタセニル基、テトラフェニレニル基、ヘキサフェニル基、ヘキサセニル基、ルビセニル基、コロネニル基、トリナフチレニル基、ヘプタフェニル基、ヘプタセニル基、ピラントレニル基、オバレニル基等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0040】
置換基を有してもよい複素環基としては、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、リン原子を含む、芳香族あるいは脂肪族の複素環が好ましい。例えば、チエニル基、ベンゾ[b]チ
エニル基、ナフト[2,3−b]チエニル基、チアントレニル基、フリル基、ピラニル基、イソベンゾフラニル基、クロメニル基、キサンテニル基、フェノキサチイニル基、2H−ピロリル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、ピリジル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、インドリジニル基、イソインドリル基、3H−インドリル基、インドリル基、1H−インダゾリル基、プリニル基、4H−キノリジニル基、イソキノリル基、キノリル基、フタラジニル基、ナフチリジニル基、キノキサニリル基、キナゾリニル基、シンノリニル基、プテリジニル基、4aH−カルバゾリル基、カルバゾリル基、β−カルボリニル基、フェナントリジニル基、アクリジニル基、ペリミジニル基、フェナントロリニル基、フェナジニル基、フェナルサジニル基、イソチアゾリル基、フェノチアジニル基、イソキサゾリル基、フラザニル基、フェノキサジニル基、イソクロマニル基、クロマニル基、ピロリジニル基、ピロリニル基、イミダゾリジニル基、イミダゾリニル基、ピラゾリジニル基、ピラゾリニル基、ピペリジル基、ピペラジニル基、インドリニル基、イソインドリニル基、キヌクリジニル基、モルホリニル基、チオキサントリル基等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0041】
さらに、前述した置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアルキニル基、置換基を有してもよいアリール基および置換基を有してもよい複素環基の水素原子はさらに他の置換基で置換されていても良い。
【0042】
そのような置換基としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン基、メトキシ基、エトキシ基、tert−ブトキシ基等のアルコキシ基、フェノキシ基、p−トリルオキシ基等のアリールオキシ基、メトキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基等のアリールオキシカルボニル基、ビニルオキシカルボニル基等のアルケニルオキシカルボニル基、アセチル基、ベンゾイル基、イソブチリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、メトキサリル基、プロピオロイル基、クロトノイル基、シンナモイル基、フロイル基、テノイル基等のアシル基、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、アクリロイルオキシ基、プロピオロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、クロトノイルオキシ基、シンナモイルオキシ基、フロイルオキシ基、テノイルオキシ基等のアシルオキシ基、メチルスルファニル基、tert−ブチルスルファニル基等のアルキルスルファニル基、アセチルスルファニル基、ベンゾイルスルファニル基、イソブチリルスルファニル基、アクリロイルスルファニル基、メタクリロイルスルファニル基、メトキサリルスルファニル基、プロピオロイルスルファニル基、クロトノイルスルファニル基、シンナモイルスルファニル基、フロイルスルファニル基、テノイルスルファニル基等のアシルスルファニル基、フェニルスルファニル基、p−トリルスルファニル基等のアリールスルファニル基、メチルアミノ基、シクロヘキシルアミノ基等のアルキルアミノ基、ベンゾイルアミノ基、アクリロイルアミノ基、プロピオロイルアミノ基、メタクリロイルアミノ基、クロトノイルアミノ基、シンナモイルアミノ基、フロイルアミノ基、テノイルアミノ基等のアシルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、モルホリノ基、ピペリジノ基等のジアルキルアミノ基、フェニルアミノ基、p−トリルアミノ基等のアリールアミノ基、メチル基、エチル基、tert−ブチル基、ドデシル基等のアルキル基、フェニル基、p−トリル基、キシリル基、クメニル基、ナフチル基、アンスリル基、フェナントリル基等のアリール基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミド基、スルホンアミド基、ホルミル基、メルカプト基、アルキルチオ基、スルホ基、メシル基、p−トルエンスルホニル基、アミノ基、ニトロ基、ニトロソ基、シアノ基、トリフルオロメチル基、トリクロロメチル基、トリメチルシリル基、ホスフィニコ基、ホスホノ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、トリアルキルアンモニウム基、ジメチルスルホニウミル基、トリフェニルフェナシルホスホニウミル基等が挙げられるがこれらに限定されない。これらの置換基は、さらにハロゲン基によって置換されていてもよい。
【0043】
1からR4は、アクリル系樹脂(A)との相溶性や帯電防止能の観点から、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基が好ましく、さらに、R1からR4がすべて同じ場合がより好ましい。置換基を有してもよいアルキル基としては、枝別れのない直鎖型の炭素数2〜10が好ましく、炭素数2〜6がより好ましい。炭素数が2より小さいと、耐湿熱性が低下する傾向がある。10より大きいと再剥離性が低下する場合がある。
また、化合物の合成上の観点からも、R1からR4がすべて同じ場合が好ましい。
【0044】
本発明の一般式[1]で表される化合物の代表例を例示化合物(1)〜(80)として以下に具体的に例示するが、これらに限られるものではない。なお、例示化合物中のMeはメチル基、Etはエチル基、Prはノルマルプロピル基、Buはノルマルブチル基を示す。
【0045】
【化3】

【0046】
【化4】

【0047】
【化5】

【0048】
【化6】

【0049】
本発明の一般式[1]で示される帯電防止剤は、単独で、または2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0050】
本発明においては、イオン化合物(C)として界面活性剤を使用することもできる。
イオン化合物(C)として用い得る界面活性剤としては、カチオン性界面活性剤、及びアニオン性界面活性剤が挙げられる。
【0051】
カチオン性界面活性剤としては、たとえば、アルキルトリメチルアンモニウム塩、アシロイルアミドプロピルトリメチルアンモニウムメトサルフェート、アルキルベンジルメチルアンモニウム塩、アシル塩化コリン、ジメチルアミノエチルメタクレート4級化物などの4級アンモニウム基を有する(メタ)アクリレート共重合体、ポリビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライドなどの4級アンモニウム基を有するスチレン共重合体、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライドなどの4級アンモニウム基を有するジアリルアミン共重合体などがあげられる。これらの化合物は単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0052】
アニオン性界面活性剤としては、たとえば、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルエトキシ硫酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩、スルホン酸基含有スチレン共重合体等があげられる。これらの化合物は単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0053】
また、イオン化合物(C)の含有量は、アクリル系樹脂(A)100重量部に対して0.01〜10重量部であることが好ましい。さらに好ましくは0.05〜5重量部である。0.01重量部未満では十分なイオン導電性が得られず、10重量部よりも多くイオン化合物(C)を含有しても導電性向上の効果がほとんど期待できなくなり、さらに粘着性が低下し好ましくない。
【0054】
本発明の制電性アクリル系樹脂組成物においては、凝集力及び架橋度を上げるために、硬化剤として、水酸基と反応し得る官能基を有する化合物(B)〔以下、単に「化合物(B)」と表記することもある〕を使用することが重要である。
本発明に用いる化合物(B)としては、アクリル系樹脂(A)中に含まれる水酸基と反応し得る官能基を好ましくは1分子中に2個以上有するものが好ましい。例えば、公知の3官能イソシアネート化合物、公知の多官能エポキシ化合物を好適に使用することができる。これらは併用することもできる。
【0055】
公知の3官能イソシアネート化合物としては、公知のジイソシアネート化合物を3官能ポリオール成分で変性したいわゆるアダクト体、ジイソシアネート化合物が水と反応したビュレット体、ジイソシアネート化合物3分子から形成されるイソシアヌレート環を有する3量体(イソシアヌレート体)を使用することができる。
【0056】
公知のジイソシアネート化合物としては、芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、芳香脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート等が挙げられる。
【0057】
芳香族ジイソシアネートとしては、1,3−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−トルイジンジイソシアネート、ジアニシジンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルエーテルジイソシアネート等を挙げることができる。
【0058】
脂肪族ジイソシアネートとしては、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、1,2−プロピレンジイソシアネート、2,3−ブチレンジイソシアネート、1,3−ブチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等を挙げることができる。
【0059】
芳香脂肪族ジイソシアネートとしては、ω,ω’−ジイソシアネート−1,3−ジメチルベンゼン、ω,ω’−ジイソシアネート−1,4−ジメチルベンゼン、ω,ω’−ジイソシアネート−1,4−ジエチルベンゼン、1,4−テトラメチルキシリレンジイソシアネート、1,3−テトラメチルキシリレンジイソシアネート等を挙げることができる。
【0060】
脂環族ジイソシアネートとしては、3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、1,3−シクロペンタンジイソシアネート、1,3−シクロヘキサンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチル−2,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチル−2,6−シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、1,4−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン等を挙げることができる。
【0061】
本発明に用いられる3官能イソシアネート化合物を形成するジイソシアネート化合物としては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(「イソホロンジイソシアネート」とも言う)を使用することが好ましい。
上述の化合物(B)については、単独で、もしくは2種以上を組み合わせて使用することができる。柔軟性を重視する用途で使用する場合は、3官能イソシアネート化合物を使用することが好ましい。
【0062】
ところで、光学部材の中には表面に特殊なコーティングをしたものもあり、表面が平滑でなく、凹凸のあるものも多い。このような部材に保護フィルムを張り合わせる場合であっても、粘着層は、空気を巻き込むことなく、吸い付くように滑らかに凹凸に追従する必要がある。3官能イソシアネート化合物の中でも、ヘキサメチレンジイソシアネートの3官能イソシアネート化合物は前記の追従性に優れている。このため、ヘキサメチレンジイソシアネートのアダクト体、ビュレット体、イソシアヌレート体を使用することがより好ましく、単独で、もしくは2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0063】
前述したように200g/25mm以下、好ましくは100g/25mm以下の低剥離力が求められる場合には、アクリル系樹脂(A)100重量部に対して化合物(B)を1〜30重量部用いることが重要であり、2〜20重量部用いることが好ましく、3〜15重量部用いることがより好ましい。
【0064】
本発明の制電性アクリル系樹脂組成物には、アルキレンオキサイド鎖を有する化合物を配合することもできる。アルキレンオキサイド鎖を有する化合物としては、例えば、分子内にエチレンオキサイド鎖及び/またはプロピレンオキサイド鎖を有する化合物を使用することができる。特に、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンンブロック構造部を持つことが好ましく、アルキレンオキサイド鎖を有する化合物中に占めるエチレンオキサイド鎖の含有率は10〜80重量%であることが好ましく、20〜50重量%であることがより好ましい。
また、アルキレンオキサイド鎖を有する化合物の重量平均分子量は1000〜10000であることが好ましく、1000〜5000であることがより好ましい。
アルキレンオキサイド鎖を有する化合物としては、具体的には例えば、商品名エパン420、450、720、750(第一工業製薬社製)等が使用できる。
なお、アルキレンオキサイド鎖を有する化合物におけるエチレンオキサイド鎖の含有率が10重量%未満では、十分なイオン電導性が得られにくく、80重量%よりも大きくなったり、重量平均分子量が10000を越えると、結晶性が高くなるためにイオン電導性が低下して好ましくない。
また、重量平均分子量が1000未満では、粘着層の表面にブリードしやすく、被着体表面を汚染しやすいため、好ましくない。
アルキレンオキサイド鎖を有する化合物は、アクリル系樹脂(A)100重量部に対し、1〜20重量部、好ましくは1〜10重量部を配合する。アルキレンオキサイド鎖を有する化合物の配合量が1重量部未満の場合、十分な制電性が得られにくいことがあり、一方、20重量部を越える場合、粘着性が著しく低下してしまい好ましくない。
【0065】
本発明の制電性アクリル系樹脂組成物には、さらに必要に応じて、他の樹脂、例えばアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂を併用することもできる。また、用途に応じて、粘着付与剤、タルク、炭酸カルシウム、酸化チタン等の充填剤、着色剤、紫外線吸収剤、消泡剤、光安定剤、酸化防止剤等の添加剤を配合しても良い。
【0066】
本発明の制電性アクリル系樹脂組成物のうち、制電性アクリル系感圧式接着剤組成物を用いて形成される粘着層と、プラスチックフィルム、紙、布、発泡体等の基材とが積層された粘着シートを得ることができ、粘着層の表面を剥離シートで被覆しておくことができる。
粘着シートは、各種基材に制電性アクリル系感圧式接着剤組成物を塗布したり含浸したりし、これを乾燥・硬化することによって得ることができる。あるいは、剥離シート上に制電性アクリル系感圧式接着剤組成物を塗布し、これを乾燥し、形成されつつある粘着層表面に各種基材を積層し、アクリル系樹脂(A)中の水酸基と化合物(B)中のイソシアネート基、あるいはアクリル系樹脂(A)中のカルボキシル基と化合物(B)中のエポキシ基との反応を進行させることによっても得ることができる。
【0067】
本発明の制電性アクリル系感圧式接着剤組成物は、基材として好ましくは透明なプラスチックフィルムに適用することによって、光学部材用の表面保護粘着フィルムを好適に得ることができる。
すなわち、光学部材保護用感圧式接着性フィルムは、プラスチックフィルムの少なくとも一方の面に位置するように、制電性アクリル系感圧式接着層を具備する。該感圧式接着層は、前記の制電性アクリル系感圧式接着剤組成物から形成される。
【0068】
プラスチックフィルムとしては、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリウレタンフィルム、ナイロンフィルム、処理ポリオレフィンフィルム、未処理ポリオレフィンフィルム等が挙げられる。
本発明の制電性アクリル系樹脂組成物は、乾燥・硬化した際に2〜200μm程度の厚みになるように基材等に塗布することが好ましい。2μm未満であるとイオン導電性が乏しくなり、200μmを越えると粘着シートの製造、取り扱いが難しくなる。
【0069】
本発明の制電性アクリル系樹脂組成物を用い、その用途、要求性能等を考慮した上で、種々の態様の制電粘着フィルムを得ることができる。
例えば、偏光板の保護フィルム用の制電粘着フィルムについて、図面に基づいて説明する。
【0070】
図1は、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム基材1とその一方の表面上に担持された制電性アクリル系感圧式接着剤層2とからなる、本発明による光学部材保護用感圧式接着性フィルムを、制電性アクリル系感圧式接着剤層2によって偏光板3に貼付した状態を示す模式的断面図である。
【0071】
図2は、PETフィルム基材1の両面に制電性アクリル系感圧式接着剤層2を設けてなる本発明による制電粘着フィルムを、一方の制電性アクリル系感圧式接着剤層2によって偏光板3に貼付した状態を示す模式的断面図である。
【0072】
図3は、PETフィルム基材1の一方の表面に制電アクリル系樹脂組成物から制電コーティング剤層4を設け、さらにその上に粘着層2を担持させてなる本発明による制電粘着フィルムを、前記感圧式接着剤層2’によって偏光板3に貼付した状態を示す模式的断面図である。
【0073】
図4は、PETフィルム基材1の一方の表面に感圧式接着剤層2’を設け、その反対側表面に制電アクリル系樹脂組成物から制電コーティング剤層4を設けてなる本発明による制電粘着フィルムを、前記感圧式接着剤層2’によって偏光板3に貼付した状態を示す模式的断面図である。なお、図3、4における感圧式接着剤層2’は、制電性感圧式接着剤層であることが好ましく、制電性アクリル系感圧式接着剤層であることがより好ましい。
【0074】
光学部材、電子部材の表面保護用のフィルムに本発明の樹脂組成物を用いる場合、剥離帯電量をさらに低減するために、図3および図4に示すように、制電コーティング剤層を設けることも可能である。また、プラスチックフィルムに機能性を持たせる様な用途では、図2に示すように、基材フィルムの両面に粘着層を設け、一方の粘着層に、機能性フィルム(例えば、位相差フィルム、光学補償フィルム、光拡散フィルム、電磁波シールドフィルム等)をさらに貼り合わせることもできる。作業性及び製作コスト等を考慮すると、図1の態様が最も好ましい。
図3および図4に示すように粘着層とプラスチックフィルム基材との間、またはプラスチックフィルム基材の粘着層側でない反対側に粘着性を有しない制電コーティング剤層を設ける場合には、金属フィラー、4級アンモニウム塩誘導体、界面活性剤、導電性樹脂等を用いることができる。
金属フィラーとしては、酸化錫、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化アンチモン等の金属酸化物、カーボン、銀、銅等の金属等が挙げられる。コーティング膜の透明性を考慮すると、酸化錫、酸化アンチモン等が好ましい。
4級アンモニウム塩誘導体としては、4級アンモニウム基を有する(メタ)アクリレートモノマーの重合体、もしくは他の(メタ)アクリレートモノマーとの共重合体を使用することができる。また、本発明の制電性アクリル系樹脂組成物のTgを調整することで、制電コーティング剤層に用いることも可能である。
制電コーティング剤層は、塗膜として0.01μm〜10μmの厚さが好ましく、さらに好ましくは0.1μm〜5μmである。0.01μm未満では、静電気を防止する効果が十分に発揮できず、5μmを超えると、コスト、塗工性等に問題がある。
【実施例】
【0075】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、例中、「部」とは「重量部」を、「%」とは「重量%」をそれぞれ示すものとする。
【0076】
(合成例1)
表1に示す組成比(重量比)のモノマーから構成されるアクリル系樹脂を以下の要領で得た。
即ち、撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下ロートを備えた4口フラスコを用い、反応釜に2EHAの50重量%〔表1に記載の「73」重量%の内の50重量%の意味;以下同様〕、BAの50重量%、4HBAの50重量%、溶剤として酢酸エチル、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを適量仕込み、
残りのモノマーの全量に、酢酸エチル、アゾビスイソブチロニトリルを適量添加して混合した溶液を約1時間かけて滴下し、窒素雰囲気下約80℃にて5時間重合させた。反応終了後、冷却し、酢酸エチルで希釈した。この反応溶液は、固形分41%、粘度1500mPa・s、Mw(重量平均分子量)380,000、Tg−50℃以下であった。
【0077】
(合成例2)
表1に示す組成比(重量比)のモノマーから構成されるアクリル系樹脂を以下の要領で得た。
即ち、撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下ロートを備えた4口フラスコを用い、反応釜に2EHAの50重量%、BAの50重量%、アクリル酸6−ヒドロキシヘキシルの75重量%、溶剤として酢酸エチル、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを適量仕込み、
残りのモノマーの全量に、酢酸エチル、アゾビスイソブチロニトリルを適量添加して混合した溶液を約1時間かけて滴下し、窒素雰囲気下約80℃にて5時間重合させた。反応終了後、冷却し、酢酸エチルで希釈した。この反応溶液は、固形分41%、粘度1500mPa・s、Mw(重量平均分子量)380,000、Tg−50℃以下であった。
【0078】
(合成例3)
表1に示す組成比(重量比)のモノマーから構成されるアクリル系樹脂を以下の要領で得た。
即ち、撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下ロートを備えた4口フラスコを用い、反応釜に2EHAの50重量%、BAの50重量%、アクリル酸12−ヒドロキシラウリルの全量、溶剤として酢酸エチル、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを適量仕込み、
残りのモノマーの全量に、酢酸エチル、アゾビスイソブチロニトリルを適量添加して混合した溶液を約1時間かけて滴下し、窒素雰囲気下約80℃にて5時間重合させた。反応終了後、冷却し、酢酸エチルで希釈した。この反応溶液は、固形分41%、粘度1500mPa・s、Mw(重量平均分子量)360,000、Tg−50℃以下であった。
【0079】
(合成例4)
表1に示す組成比(重量比)のモノマーから構成されるアクリル系樹脂を以下の要領で得た。
即ち、撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下ロートを備えた4口フラスコを用い、反応釜に2EHAの50重量%、BAの50重量%、4HBAの50重量%、溶剤として酢酸エチル、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを適量仕込み、
残りのモノマーの全量に、酢酸エチル、アゾビスイソブチロニトリルを適量添加して混合した溶液を約1時間かけて滴下し、窒素雰囲気下約80℃にて5時間重合させた。反応終了後、冷却し、酢酸エチルで希釈した。この反応溶液は、固形分41%、粘度1600mPa・s、Mw(重量平均分子量)380,000、Tg−50℃以下であった。
【0080】
(合成例5)
表2に示す組成比(重量比)のモノマーから構成されるアクリル系樹脂を以下の要領で得た。
即ち、撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下ロートを備えた4口フラスコを用い、反応釜に2EHAの50重量%、BAの50重量%、4HBAの50重量%、溶剤として酢酸エチル、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを適量仕込み、
残りのモノマーの全量に、酢酸エチル、アゾビスイソブチロニトリルを適量添加して混合した溶液を約1時間かけて滴下し、窒素雰囲気下約80℃にて5時間重合させた。反応終了後、冷却し、酢酸エチルで希釈した。この反応溶液は、固形分41%、粘度1700mPa・s、Mw(重量平均分子量)380,000、Tg−50℃以下であった。
【0081】
(合成例6)
表1に示す組成比(重量比)のモノマーから構成されるアクリル系樹脂を以下の要領で得た。
即ち、撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下ロートを備えた4口フラスコを用い、反応釜に2EHAの50重量%、4HBAの50重量%、溶剤として酢酸エチル、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを適量仕込み、
残りのモノマーの全量に、酢酸エチル、アゾビスイソブチロニトリルを適量添加して混合した溶液を約1時間かけて滴下し、窒素雰囲気下約80℃にて5時間重合させた。反応終了後、冷却し、酢酸エチルで希釈した。この反応溶液は、固形分41%、粘度400mPa・s、Mw(重量平均分子量)115,000、Tg−50℃以下であった。
【0082】
(合成例7)
表1に示す組成比(重量比)のモノマーから構成されるアクリル系樹脂を以下の要領で得た。
即ち、撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下ロートを備えた4口フラスコを用い、反応釜に2EHAの50重量%、BAの50重量%、4HBAの50重量%、溶剤として酢酸エチル、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを適量仕込み、
残りのモノマーの全量に、酢酸エチル、アゾビスイソブチロニトリルを適量添加して混合した溶液を約1時間かけて滴下し、窒素雰囲気下約80℃にて5時間重合させた。反応終了後、冷却し、酢酸エチルで希釈した。この反応溶液は、固形分41%、粘度2500mPa・s、Mw(重量平均分子量)400,000、Tg−50℃以下であった。
【0083】
(比較合成例1)
表1に示す組成比(重量比)のモノマーから構成されるアクリル系樹脂を以下の要領で得た。
即ち、撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下ロートを備えた4口フラスコを用い、反応釜に2EHAの50重量%、BAの50重量%、4HBAの50重量%、溶剤として酢酸エチル、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを適量仕込み、
残りのモノマーの全量に、酢酸エチル、アゾビスイソブチロニトリルを適量添加して混合した溶液を約1時間かけて滴下し、窒素雰囲気下約80℃にて5時間重合させた。反応終了後、冷却し、酢酸エチルで希釈した。この反応溶液は、固形分41%、粘度1700mPa・s、Mw(重量平均分子量)390,000、Tg−50℃以下であった。
【0084】
(比較合成例2)
表1に示す組成比(重量比)のモノマーから構成されるアクリル系樹脂を以下の要領で得た。
即ち、撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下ロートを備えた4口フラスコを用い、反応釜に2EHAの50重量%、BAの50重量%、溶剤として酢酸エチル、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを適量仕込み、
残りのモノマーの全量に、酢酸エチル、アゾビスイソブチロニトリルを適量添加して混合した溶液を約1時間かけて滴下し、窒素雰囲気下約80℃にて5時間重合させた。反応終了後、冷却し、酢酸エチルで希釈した。この反応溶液は、固形分41%、粘度1300mPa・s、Mw(重量平均分子量)350,000、Tg−50℃以下であった。
【0085】
(比較合成例3)
表1に示す組成比(重量比)のモノマーから構成されるアクリル系樹脂を以下の要領で得た。
即ち、撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下ロートを備えた4口フラスコを用い、反応釜に2EHAの50重量%、BAの50重量%、2HEAの50重量%、溶剤として酢酸エチル、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを適量仕込み、
残りのモノマーの全量に、酢酸エチル、アゾビスイソブチロニトリルを適量添加して混合した溶液を約1時間かけて滴下し、窒素雰囲気下約80℃にて5時間重合させた。反応終了後、冷却し、酢酸エチルで希釈した。この反応溶液は、固形分41%、粘度1500mPa・s、Mw(重量平均分子量)330,000、Tg−50℃以下であった。
【0086】
【表1】

【0087】
次に、本発明における化合物の合成例を示す。
<合成例8> 化合物(5)の合成
KSCN 97gを、イオン交換水0.2Lに溶解させ、水溶液を得た。この水溶液に、テトラブチルアンモニウムブロミド 338gをイオン交換水0.3Lに溶解させて得たテトラブチルアンモニウムブロミド水溶液を徐々に添加した。酢酸エチルで抽出、濃縮することにより、化合物(5)を 278g得た。元素分析((株)柳本製作所製 MT−5)より、(組成式:C17362S 計算値(%):C,67.94; H,12.07; N,9.32; 実測値(%):C,67.88; H, 12.12; N; 9.33)であることを確認した。
【0088】
<合成例9> 化合物(17)の合成
テトラブチルアンモニウムブロミド の代わりに、ベンジルトリエチルアンモニウムブロミド を用いた以外は、合成例1と同様にして、化合物(17)を得た。元素分析により、(組成式:C14222S 計算値(%):C,67.15; H,8.86; N,11.19 実測値(%):C,67.11; H,8.90; N,11.21)であることを確認した。
【0089】
<合成例10> 化合物(37)の合成
テトラブチルアンモニウムブロミドの代わりに、メタクロイルコリンクロリドを用いた以外は、合成例1と同様にして、化合物(37)を得た。元素分析により、(組成式:C101822S 計算値(%):C,52.15; H,7.88; N,12.16 実測値(%):C,52.18; H,7.79; N,12.17)であることを確認した。
【0090】
<合成例11> 化合物(42)の合成
テトラブチルアンモニウムブロミド の代わりに、アリルベンジルジエチルアンモニウムブロミド を用いた以外は、合成例1と同様にして、化合物(42)を得た。元素分析により、(組成式:C15222S 計算値(%):C,68.66; H,8.45; N,10.48 実測値(%):C,68.55; H,8.47; N,10.50)であることを確認した。
【0091】
<合成例12> 化合物(61)の合成
テトラブチルアンモニウムブロミド の代わりに、(3−アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド を用いた以外は、合成例2と同様にして、化合物(61)を得た。元素分析により、(組成式:C10193OS 計算値(%):C,52.37; H,8.35; N,18.32 実測値(%):C,52.25; H,8.43; N,18.30)であることを確認した。
【0092】
<合成例13> 化合物(78)の合成
KSCNの代わりにNaSCNを、テトラブチルアンモニウムブロミド の代わりに、メタコリンブロミド を用いた以外は、合成例8と同様にして、化合物(78)を得た。元素分析により、(組成式:C91822S 計算値(%):C,49.51; H,8.31; N,12.83 実測値(%):C,49.55; H,8.26; N,12.76)であることを確認した。
【0093】
<その他の合成例> 化合物(1)〜(4)、(6)〜(16)、(18)〜(36)、(38)〜(41)、(43)〜(60)、(62)〜(77)および(79)〜(80)の合成
合成例8に従い、KSCNまたはNaSCNNと、目的とする化合物に相当するアンモニウム塩のブロミド、クロリドまたはヨージドとの塩交換により化合物を合成した。なお、原料はアルドリッチ社、東京化成社、ナカライテスク社、メルク社等の試薬メーカーから購入した。
【0094】
表2に合成した化合物のうち代表的なものの元素分析値を示す。
【表2】

【0095】
[実施例1]
合成例1で得られたアクリル系樹脂溶液の固形分40部に対して、化合物(4) 1.0部、トリレンジイソシアネートトリメチロールプロパンアダクト体の37%酢酸エチル溶液 5部を配合し、感圧式接着剤組成物を得た。
得られた感圧式接着剤組成物を剥離紙に乾燥塗膜の厚さが20μmになるように塗工し、100℃で2分間乾燥させた後、形成されつつある粘着剤層にポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ38μm)を積層し、この状態で室温で2日間経過させ、試験用感圧式接着シートを得た。
該感圧式接着シートを用いて、以下に示す方法に従って、粘着力、表面抵抗値、再剥離性、透明性の評価を行った。
【0096】
<粘着力>
試験用感圧式接着テープを25mm幅に裁断し、剥離紙を剥がし、露出した感圧式接着剤層を厚さ2mmのSUS板(ステンレス板)に23℃−50%RHにて貼着し、JIS Z−0237に準じてロール圧着した。圧着から24時間経過後、ショッパー型剥離試験器にて剥離強度(180度ピール、引っ張り速度300mm/分、単位;g/25mm)を測定した。
100g/25mm未満 ○
100〜200g/25mm以下 △
200g/25mmより大きい場合 ×
【0097】
<表面抵抗値>
試験用感圧式接着テープの剥離ライナーを剥がし、露出した感圧式接着剤層表面の表面抵抗値を、23℃−35、45、55%RHの各条件下で、表面抵抗値測定装置(三菱化学株式会社製)を用いて測定した(単位:Ω/□)。
表面抵抗値(Ω/□)のレベルによって、以下のように評価。
1010台以下の値 ◎
1011乗台Ω/□の値 ○
1012乗台Ω/□の値 △
1013乗Ω/□以上 ×
【0098】
<再剥離性>
試験用感圧式接着テープの剥離紙を剥がし、露出した感圧式接着剤層をガラス板に貼着した後、60℃−95%RHの条件下に100時間に亘って放置し、23℃−50%RHに冷却した後、ガラス板から剥離し、ガラス板への糊移行性を目視で評価した。具体的には、剥離後の状態を以下の4段階で評価した。
ガラス板への糊移行の全くないもの ◎
ごくわずかにあるもの ○
部分的にあるもの △
完全に移行しているもの ×
【0099】
<透明性>
試験用感圧式接着テープの剥離紙を剥がし、露出した感圧式接着剤層をガラス板に貼着した後、60℃−95%RHの条件下に100時間に亘って放置し、23℃−50%RHに冷却した後、目視で評価した。
無色透明なもの ◎
ごく僅か曇っているもの ○
白濁、凝集物が見られるもの △
全面に白濁、凝集物が見られるもの ×
【0100】
<追従性>
A4サイズの試験用感圧式接着シートの剥離紙を剥がし、露出した感圧式接着剤層を偏光板に23℃−50%RHにて、長辺センター部を1cm幅で線状に部分貼着した後に、両端を放し、端部までの全面が空気を巻き込むことなく自重で速やかに且つ滑らかに貼着するまでの時間を測定して評価した。
30秒以下 ◎
30〜60秒 ○
60秒以上 △
【0101】
[実施例2、3、4、5、6]
合成例2、3、4、5、6で得られたアクリル樹脂溶液をそれぞれ用いたこと以外は、実施例1と同様にして感圧式接着剤を得、実施例1と同様に評価した。
【0102】
[実施例7]
合成例7で得られたアクリル樹脂溶液を用い、化合物(4)を0.2部用いたこと以外は実施例1と同様にして感圧式接着剤を得て評価した。
【0103】
[実施例8]〜[実施例87]
合成例7で得られたアクリル樹脂溶液を用い、化合物(1)〜化合物(80)を1.0部用いたこと以外は実施例1と同様にして感圧式接着剤を得て評価した。
【0104】
[実施例88]
合成例5で得られたアクリル系樹脂溶液の固形分40部に対して、化合物(4)を1.0部、エチレンオキサイド鎖を有する化合物として「エパン750」(第一工業製社製:重量平均分子量4000、エチレンオキサイド鎖の含有率50%) 4.0部、トリレンジイソシアネートトリメチロールプロパンアダクト体の37%酢酸エチル溶液 5部を配合し感圧式接着剤を得、実施例1と同様に評価した。
【0105】
[実施例89]
トリレンジイソシアネートトリメチロールプロパンアダクト体の37%酢酸エチル溶液 10部の代わりに、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体の37%酢酸エチル溶液6部を用いたこと以外は、実施例11と同様にして感圧式接着剤を得て評価した。
【0106】
[実施例90]
トリレンジイソシアネートトリメチロールプロパンアダクト体の37%酢酸エチル溶液 10部の代わりに、ヘキサメチレンジイソシアネートのビュレット体の37%酢酸エチル溶液6部を用いたこと以外は、実施例11と同様にして感圧式接着剤を得て評価した。
【0107】
[実施例91]
実施例1で得られた感圧式接着剤を、酸化アンチモンを制電コーティング処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ38μm)の未処理面に乾燥塗膜20μmになるように塗工し、100℃で2分間乾燥させた後、形成されつつある感圧式接着剤層に剥離紙を積層し、この状態で室温で2日間経過させ、試験用感圧式接着シートを得、実施例1と同様に評価した。
【0108】
[実施例92]
酸化アンチモンを制電コーティング処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ38μm)の未処理面に、デナトロンP−502RG(ナガセケムテック製)を、乾燥塗膜0.1μmになるように塗工し、100℃で1分間乾燥させた後、更に実施例1と同様にして得た感圧式接着剤を、乾燥塗膜20μmになるように塗工し、100℃で2分間乾燥させた後、形成されつつある感圧式接着剤層に剥離紙を積層し、この状態で室温で7日間経過させ、試験用感圧式接着シートを得、実施例1と同様に評価した。
【0109】
[比較例1、2、3]
比較合成例1、2、3で得られたアクリル樹脂溶液をそれぞれ用いたこと以外は、実施例1と同様にして感圧式接着剤を得、実施例1と同様に評価した。
【0110】
[比較例4]
合成例1で得られたアクリル樹脂溶液を用い、「トリレンジイソシアネートトリメチロールプロパンアダクト体の37%酢酸エチル溶液」を用いないこと以外は実施例1と同様にして感圧式接着剤を得て評価した。
【0111】
[比較例5]
合成例1で得られたアクリル樹脂溶液を用い、化合物(4)を用いないこと以外は実施例1と同様にして感圧式接着剤を得て評価した。
【0112】
[比較例6]
合成例7で得られたアクリル樹脂溶液を用い、KCSN(ロダン酸カリウム 和光純薬 試薬)1.0部を用いたこと以外は実施例1と同様にして感圧式接着剤を得て評価した。
【0113】
【表3】

【0114】
表3の続き

【0115】
以上のように本発明の制電性アクリル系樹脂組成物は、液晶ディスプレイの偏光板等の光学部材の表面保護フィルム用の感圧式接着層として用いた場合に、剥離時の静電気の発生が少なく、透明性、再剥離性、自接着性に優れているが分かる。
これに対して、比較例1に示したアクリル系樹脂組成物は、アルキレンオキサイド鎖を有しないアクリル系樹脂のため、表面抵抗値、再剥離性が不良となっている。比較例2に示したアクリル系樹脂組成物は、水酸基を有しないアクリル系樹脂のため、粘着力が高く、再剥離性が不良であった。比較例3に示したアクリル系樹脂は2−ヒドロキシエチルアクリレートを使用している為にイオン導電性が低下し表面抵抗値が高い。比較例4に示したアクリル系樹脂組成物は、水酸基と反応し得る官能基を有する化合物(B)が含まれていないため粘着力が高く、再剥離性が不良であった。比較例5に示したアクリル系樹脂組成物は、イオン化合物(C)を含有していないため、表面抵抗値が不良となった。比較例6はロダン酸のアルカリ金属を用いた為に、表面抵抗値に湿度依存性があり、表面抵抗値が不良であり、再剥離性、透明性にも劣る。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明の制電性アクリル系樹脂組成物は、塗料、粘着剤等に使用可能な制電性アクリル系樹脂組成物であって、架橋剤で架橋した後にもイオン電導性が低下せず、且つ、透明性に優れるので、被着体表面を所定の期間、機械的及び電気的に保護するための表面保護フィルムとして好適であり、例えば、液晶パネル、プラズマディスプレイ、偏光板、CRT(ブラウン管)等の光学部品の表面保護用粘着フィルム形成に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】PETフィルム基材とその一方の表面上に担持された制電性アクリル系感圧式接着層とからなる本発明による制電感圧式接着フィルムを、感圧式接着層によって偏光板に貼付した状態を示す模式的断面図である。
【図2】PETフィルム基材の両面に制電性アクリル系感圧式接着層を設けてなる本発明による制電感圧式接着フィルムを、一方の感圧式接着層によって偏光板に貼付した状態を示す模式的断面図である。
【図3】PETフィルム基材の一方の表面に制電コーティング剤層を設け、さらにその上に感圧式接着層を担持させてなる本発明による制電感圧式接着フィルムを、前記感圧式接着層によって偏光板に貼付した状態を示す模式的断面図である。
【図4】PETフィルム基材の一方の表面に感圧式接着層を設け、その反対側表面に制電コーティング剤層を設けてなる本発明による制電感圧式接着フィルムを、前記感圧式接着層によって偏光板に貼付した状態を示す模式的断面図である。
【符号の説明】
【0118】
1:PETフィルム基材
2、2’:感圧式接着層
3:偏光板
4:制電コーティング剤層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基及びアルキレンオキサイド鎖を有するアクリル系樹脂(A)、水酸基と反応し得る官能基を有する化合物(B)及び下記一般式[1]で表されるイオン化合物(C)を含有する制電性アクリル系樹脂組成物であって、
前記アクリル系樹脂(A)が、一級の水酸基を有し、アルキル鎖の炭素数が3〜20であるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを必須の構成成分とするものであることを特徴とする制電性アクリル系樹脂組成物。
【化1】

(式中、R1〜R4は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアルキニル基、置換基を有してもよいアリール基、または、置換基を有してもよい複素環基を表し、R1〜R4は、互いに結合して環を形成してもよい。)
【請求項2】
1〜R4が、それぞれ独立に、置換基を有してもよいアルキル基、または、置換基を有してもよいアリール基である請求項1記載の制電性アクリル系樹脂組成物。
【請求項3】
2〜R4が、R1と同じである請求項1または2記載の制電性アクリル系樹脂組成物。
【請求項4】
水酸基及びアルキレンオキサイド鎖を有するアクリル系樹脂(A)100重量部に対して、イオン化合物(C)を0.01〜10重量部含むことを特徴とする請求項1ないし3いずれか記載の制電性アクリル系樹脂組成物。
【請求項5】
水酸基及びアルキレンオキサイド鎖を有するアクリル系樹脂(A)のアルキレンオキサイド鎖の付加モル数が、4〜16であることを特徴とする請求項1ないし4いずれかに記載の制電性アクリル系樹脂組成物。
【請求項6】
水酸基及びアルキレンオキサイド鎖を有するアクリル系樹脂(A)のアルキレンオキサイド鎖がエチレンオキサイド鎖であることを特徴とする請求項1ないし5いずれかに記載の制電性アクリル系樹脂組成物。
【請求項7】
水酸基と反応し得る官能基を有する化合物(B)が、3官能イソシアネート化合物であることを特徴とする請求項1ないし6いずれかに記載の制電性アクリル系樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1ないし7いずれか記載の制電性アクリル系樹脂組成物が制電性アクリル系感圧式接着剤組成物であり、アクリル系樹脂(A)のガラス転移温度が−80〜0℃以下であることを特徴とする、制電性アクリル系感圧式接着剤組成物。
【請求項9】
水酸基及びアルキレンオキサイド鎖を有するアクリル系樹脂(A)100重量部に対して、水酸基と反応し得る官能基を有する化合物(B)を0.1〜30重量部含むことを特徴とする請求項8記載の制電性アクリル系感圧式接着剤組成物。
【請求項10】
プラスチックフィルムと該プラスチックフィルムの少なくとも一方の面に位置する制電性アクリル系感圧式接着層とを具備する光学部材保護用感圧式接着性フィルムであって、前記感圧式接着層が請求項8又は9記載の制電性アクリル系感圧式接着剤組成物から形成されたものであることを特徴とする光学部材保護用感圧式接着性フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−298916(P2009−298916A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−154780(P2008−154780)
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】