説明

制震システムを有する住宅

【課題】制振装置のダンパ寿命を容易に判定可能な制振システムを備えた住宅を提供することを目的とする。
【解決手段】摺動距離と減衰力との相関を予め求めて条件DB76Aに予め記憶しておき、ダンパ34の変位量を検出して累積して履歴DB76Bに記憶する(100〜104)そして、これらの情報を読み出して、ダンパ34の寿命を判定する(106〜110)。例えば、摺動距離と減衰力の関係から、制振性能を満足する閾値減衰力を予め定めて記憶しておくことにより、対応する累積変位量(累積閾値)が分るので、変位センサ82によって監視したダンパ34の変位量の累積値が累積閾値以上になったか否かを判定することによってダンパ34の寿命を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制震システムを有する住宅にかかり、特に、制振装置のダンパ寿命を推測可能な制震システムを有する住宅に関する。
【背景技術】
【0002】
地震によって生じる建物の損傷等を判断する劣化診断技術としては、例えば、特許文献1に記載の技術が提案されている。
【0003】
特許文献1の技術では、別部材を設けることなく劣化診断が容易に出来る耐力要素、或いは耐震要素、及びその耐力要素の劣化診断方法を提供することを目的として、外力によるエネルギー吸収部の累積損傷量と、該エネルギー吸収部の表面に塗装された塗料の剥離量との間に所定の相関関係を有する塗料を該エネルギー吸収部の表面に塗装することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4215686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、弾塑性エネルギー吸収体の損傷度合や交換要否の判断については有効であるが、制振装置のダンパの寿命や建物全体に関する被災度の判定などの面では改善の余地がある。
【0006】
本発明は、上記事実を考慮して成されたもので、制振装置のダンパ寿命を容易に判定可能な制振システムを備えた住宅を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために請求項1に記載の建物は、構造体に設けられて地震による揺れを減衰させるダンパを有する制振装置と、前記揺れを減衰させる際の前記ダンパの変位量及び前記ダンパに関する温度の少なくとも一方の情報を検出する検出手段と、前記検出手段の検出結果に基づいて前記ダンパの寿命を推定する推定手段と、を備えることを特徴としている。
【0008】
請求項1に記載の技術によれば、制震装置は、構造体に設けられて地震による揺れを減衰させるダンパを有している。すなわち、地震が発生した場合には、建物の揺れがダンパによって減衰される。
【0009】
検出手段では、地震の揺れを減衰させる際のダンパの変位量及びダンパに関する温度の少なくとも一方の情報が検出される。すなわち、地震が発生したときには、ダンパが変位すると共に、振幅変位による摺動抵抗によってダンパに関する温度(ダンパ内部のオイル温度やダンパの表面温度)が上昇するので、検出手段は、ダンパの変位量及びダンパに関する温度の少なくとも一方の情報を検出する。
【0010】
そして、推定手段では、検出手段の検出結果に基づいてダンパの寿命が推定される。例えば、検出手段がダンパの変位量を検出する場合には、変位量を累積することにより、予め定めた累積変位量になったところでダンパの寿命と判定し、検出手段がダンパに関する温度を検出する場合には、最大温度が予め定めた温度以上になった場合に寿命と判定することが可能となる。従って、制震装置のダンパ寿命を容易に判定することができる。
【0011】
なお、請求項2に記載の発明のように、検出手段によって検出された変位量及び温度の少なくとも一方の情報を履歴として記憶する履歴記憶手段を更に備えて、推定手段が、記憶手段に記憶された履歴に基づいて、ダンパの寿命を判定するようにしてもよい。
【0012】
また、請求項3に記載の発明のように、ダンパ内のオイル温度又はダンパの表面温度とダンパの劣化度合との相関関係をダンパの寿命を判定するための条件として記憶する条件記憶手段を更に備えて、検出手段が、ダンパ内のオイル温度又はダンパの表面温度を検出し、推定手段が、検出手段の検出結果に対応する劣化度合を読み出すことによってダンパの寿命を推定するようにしてもよい。
【0013】
また、請求項4に記載の発明のように、検出手段によって検出されたダンパの変位量に基づいて、塑性化の有無、最大塑性率、及び累積塑性変形倍率のうち少なくとも1つの損傷度合を算出することにより、ダンパが設けられた構造体の損傷度合を予測する予測手段を更に備えるようにしてもよい。この場合には、請求項5に記載の発明のように、予測手段によって予め定めた値以上の損傷度合が予測された場合に、交換またはメンテナンスの警告を行う警告手段を更に備えるようにしてもよい。さらに、予測手段は、請求項6に記載の発明のように、前回算出した損傷度合と、今回算出した損傷度合を比較して建物の損傷状況を予測するようにしてもよい。
【0014】
なお、制震装置は、請求項7に記載の発明のように、住宅の各方向の外周部に1以上有することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように本発明によれば、ダンパの変位量及びダンパに関する温度の少なくとも一方の情報を検出して、検出結果に基づいてダンパの寿命を推定するので、制振装置のダンパ寿命を容易に判定することができる、という効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態に係わる制震システムを有する住宅の概略を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態に係わる制振システムを有する住宅に設けれた制振装置の概略構成を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態に係わる制振システムの概略構成を示すブロック図である。
【図4】DBの構成及び記憶される情報の一例を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態に係わる制振システムにおいて診断プログラムを実行した場合の処理の流れを表すフローチャートである。
【図6】(A)はダンパの摺動距離と減衰力の関係を示す模式図であり、(B)はダンパの温度と減衰力の特性を説明するための模式図であり、(C)はダンパの累積作動時間に対する作動時温度の上昇を示す模式図である。
【図7】(A)は制振装置の配置例を示し、(B)は捩れやすい建物に対して水平力が作用したときの各通りの変位量を示すための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態の一例を詳細に説明する。図1は、本発明の実施の形態に係わる制震システムを有する住宅の概略を示す図である。
【0018】
住宅は、本発明の実施の形態では、複数個(図1では8個)の建物ユニット12からなるユニット建物の住宅10を一例として説明するが、ユニット建物に限定されるものではなく、他の構造の建物を適用するようにしてもよい。
【0019】
なお、説明の便宜上、建物ユニット12の各部材に名称付けをしておく。建物ユニット12は、4本の柱14と、互いに平行に配置された長短二組の天井大梁16、18と、これらの天井大梁16、18に対して上下に平行に配置された長短二組の床大梁20、22とを備えており、梁の端部を天井と床の仕口に溶接することによりラーメン構造として構成されている。但し、ユニット構成は上記に限られることなく、他の箱形の架構構造としてもよい。
【0020】
本実施の形態では、天井大梁16、18、及び床大梁20、22に、断面コ字形状のチャンネル鋼(溝形鋼)が用いられている。
【0021】
建物ユニット12は、矩形枠状に組まれた天井フレーム24と床フレーム26とを備えており、これらの間に4本の柱14が立設される構成となっている。天井フレーム24は四隅に天井仕口部(柱)27を備えており、この天井仕口部27に長さの異なる天井大梁16、18の長手方向の端部が溶接されている。
【0022】
同様に、床フレーム26は四隅に床仕口部(柱)28を備えており、この床仕口部28に長さの異なる床大梁20、22の長手方向の端部が溶接されている。
【0023】
そして、上下に対向して配置された天井仕口部27と床仕口部28との間に、柱14の上下端部が溶接により剛接合されて及びボルトにより仮固定されて建物ユニット12が構成される。
【0024】
次に、本発明の実施の形態に係わる住宅10に備えた制振装置について説明する。図2は、本発明の実施の形態に係わる制振システムを有する住宅10に設けれた制振装置の概略構成を示す図である。
【0025】
図1、2に示すように、本発明の実施の形態に係わる住宅10に備えた制振装置30は、天井大梁16と床大梁22との間に設けられている。なお、床大梁20と天井大梁18との間に設けるようにしてもよい。
【0026】
本実施の形態の制振装置30は、以下に説明する、第1の延材32、ダンパ34、第2の延材36から構成されている。なお、制振装置30の構成は、一例として説明するが、これに限定されるものではなく、他の構成としてもよい。
【0027】
図2に示すように、床大梁22の上面には、制振装置30を構成する第1の延材32が設置されている。
【0028】
第1の延材32は、鉛直方向に伸びる鋼製の第1の柱部材38、及び第1の柱部材38に対して傾斜する第2の柱部材40を備えている。第2の柱部材40の上端は、第1の柱部材38の側面上側に溶接されている。なお、第1の延材32の形状は他の形状であってもよい。
【0029】
第1の柱部材32の下端には、床大梁22に取り付けるためのフランジ板42が溶接されている。なお、第2の柱部材40の下端にも同様にフランジ板42が溶接されている。
【0030】
なお、図2では省略するが、床大梁22の内部には、鋼板で形成された枠形のブラケットが挿入されており、ブラケットの上面は床大梁22の上側部分、ブラケットの下面は床大梁22の下側板部分に密着して床大梁を補強している。
【0031】
フランジ板42、床大梁22の上側板部分、及びブラケットの上部は、図示しないボルトで互いに連結されており、床大梁22の下側板部分、及びブラケットの下部は、基礎44に固定されたアンカーボルトで固定されている。
【0032】
第1の柱部材38の上端付近の側面には、第1のダンパ取付部材46が固定されており、天井大梁16の下面には、第2の延材36が固定されている。
【0033】
なお、天井大梁16と、第1の柱部材38との間には、間隙が設けられているものとする。
【0034】
第1のダンパ取付部材46と第2の延材36との間にはダンパ34が水平に配置されており、ダンパ34は、一端がピン46Aを介して第1のダンパ取付部材46に連結され、他端がピン36Aを介して第2の延材36に連結されている。
【0035】
ダンパ34は、第1のダンパ取付部材46と第2の延材36との相対変位(床大梁22の軸方向、及び天井大梁16の軸方向の相対変位であって、図2の矢印A方向の相対変位。)時に減衰力を発生する。例えば、ダンパ34は、ダンパ34内部に設けたオリフィスをオイルが通過することによって振動を減衰させるもの(自動車のショックアブソーバー等のオイルダンパ)を適用するようにしてもよいし、地震による揺れを回転運動に変換し、ダンパ34の内部に設けた回転体の周囲の粘性体(例えば、シリコーンオイル)の抵抗によって振動を減衰させるものを適用するようにしてもよい。なお、ダンパ34は、図2の矢印A方向の相対変位時減衰力を発生するものであれば、オイルダンパや粘弾性ダンパ等の周知のダンパ(例えば、速度依存型のダンパ等のダンパ)を用いることができる。
【0036】
また、ダンパ34には、ダンパ34の寿命判定や、建物損傷予測を行うための情報を計測するするための計測器80が設けられている。計測器80は、本実施の形態では、ダンパ34の変位量を計測すると共に、ダンパ34内のオイル温度を計測する。
【0037】
なお、制振装置30は、建物の建築後に後付可能としてもよい。例えば、制振パネルとしてパネル内に制振部材などの制振装置を設けてパネル交換等によって後付可能とすることができる。
【0038】
続いて、上述の制振装置30のダンパ34の劣化診断機能を備えた制振システムについて説明する。図3は、本発明の実施の形態に係わる制振システム50の概略構成を示すブロック図である。
【0039】
制振システム50は、パーソナルコンピュータ(PC)52を含んで構成されている。PC52は、CPU54、ROM56、RAM58、及び入出力ポート60を備えている。これらがアドレスバス、データバス、及び制御バス等の各種バスを介して互いに接続されている、入出力ポート60には、各種の入出力機器として、ディスプレイ62、マウス64、キーボード66、ハードディスク(HD)68、及び各種ディスク(例えば、CD−ROMやDVD等)72から情報の読み出しを行うディスクドライブ70が各々接続されている。
【0040】
入出力ポート60には、ダンパ34の変位量を計測する変位センサ82、及びダンパ34の温度を計測する温度センサ84を含む計測器80が接続されている。変位センサ82は、例えば、レーザ光線等を利用してダンパ34の伸縮時の変位量を計測し、計測結果をPC52へ出力する。また、温度センサ84は、ダンパ34内のオイル温度を計測して計測結果をPC52へ出力する。これによって、PC52では、計測器80の計測結果を用いて、ダンパ34の寿命を判定したり、建物損傷を予測する。
【0041】
また、入出力ポート60には、ネットワーク74が接続されており、ネットワーク74に接続された各種機器と情報の授受が可能とされている。本実施の形態では、ネットワーク74には、データベース(DB)76が接続されたデータサーバ78が接続されており、DB76に対して情報の授受が可能とされている。
【0042】
DB76には、図4に示すように、ダンパ34の寿命判定や建物損傷予測を行うために必要な情報を記憶する条件DB76A、及び計測器80の計測結果等を記憶する履歴DB76Bを有する。
【0043】
条件DB76Aとはしては、例えば、ダンパの摺動距離と耐久性の相関や、ダンパ温度とオイル劣化の相関、建物剛性や耐力データなどの情報、損傷程度と層間変形の相関等の情報が予め記憶されている。これらの情報は、実験等によって予め求めたデータが記憶される。
【0044】
また、履歴DB76Bには、ダンパ34の変位量の最大値、最小値、累積値、ダンパ温度等の各種計測結果が履歴として記憶される。
【0045】
DB76に記憶された情報を読み出して、ダンパ34の寿命判定や、建物損傷予測を行う際に利用するようになっている。なお、本実施の形態では、データサーバ78に接続されたDB74に、各種情報が記憶されるものとして説明するが、パーソナルコンピュータ30に内蔵されたHDD46や外付けのハードディスク等にDB76の情報を記憶するようにしてもよい。
【0046】
また、PC52のHDD68には、上述したダンパ34の寿命判定や、建物の損傷予測を行うための診断プログラムがインストールされている。本実施の形態の診断プログラムをPC52にインストールするには、幾つかの方法があるが、例えば、診断プログラムをセットアッププログラムと共にCD−ROMやDVD等に記憶しておき、ディスクドライブ72にディスクをセットし、CPU54に対してセットアッププログラムを実行することによりHDD68に診断プログラムをインストールするようにしてもよいし、公衆電話回線やネットワーク74を介してPC52と接続される他の情報処理機器と通信することで、HDD68に診断プログラムをインストールするようにしてもよい。
【0047】
続いて、上述の診断プログラムを実行した場合の処理の流れについて説明する。図5は、本発明の実施の形態に係わる制振システム50において診断プログラムを実行した場合の処理の流れを表すフローチャートである。なお、診断プログラムは、例えば、制振システム50が住宅10に設置されて電源が投入された場合に開始する。
【0048】
ステップ100では、計測器80によるダンパ34のモニタリングが開始されてステップ102へ移行する。すなわち、住宅の揺れによって発生するダンパ34の伸縮が変位センサ82によって検出されると共に、ダンパ34が作動することによって摺動抵抗により昇温されるオイルの温度が温度センサ84によって検出され、各センサの検出結果がPC52に入力される。
【0049】
ステップ102では、ダンパ34の変位量または温度変化があるか否かが判定され、該判定が肯定された場合にはステップ104へ移行し、否定された場合にはステップ106へ移行する。
【0050】
ステップ104では、変位量及び温度計測結果が履歴としてDB76に記憶されてステップ106へ移行する。例えば、変位センサ82によって検出されたダンパ34の最大変位量、最少変位量、累積変位量等が履歴DB76Bに記憶されると共に、温度センサ84によって検出されたダンパ34作動時のオイル温度(例えば、最大値)が履歴DB76Bに記憶される。
【0051】
ステップ106では、ダンパ34の寿命判定を開始するか否かが判定される。該判定は、キーボード66やマウス64等によってダンパ34の寿命判定開始を行う操作が行われたか否かを判定し、該判定が肯定された場合にはステップ108へ移行し、否定された場合にはステップ116へ移行する。
【0052】
ステップ108では、計測履歴が履歴DB76Bから読み出されてステップ110へ移行する。すなわち、ステップ104で記憶された変位量及び温度計測結果が読み出される。
【0053】
ステップ110では、計測履歴に基づくダンパ寿命判定が行われてステップ112へ移行する。ここで、ダンパ寿命判定の方法の一例について説明する。
【0054】
制震装置30のダンパ34は、伸縮を繰り返すことによって、内部のオイルが劣化して所定の減衰力を得ることができなくなり、ダンパ34としての機能を果たさなくなってしまう。すなわち、ダンパ34の摺動距離と減衰力との間には相関があるため、摺動距離からダンパ34の寿命を判定することができる。そこで、本実施の形態では、摺動距離と減衰力との相関を実験等によって予め求めておき、条件DB76Aに記憶しておく、そして、ダンパ34の変位量を検出して累積して履歴DB76Bに記憶することにより、これらの情報を読み出して、ダンパ34の寿命を判定することができる。摺動距離と減衰力の関係が、例えば、図6(A)に示すような関係であるとすると、制振性能を満足する閾値減衰力を予め定めておくことにより、対応する累積変位量(累積閾値)が分るので、変位センサ82によって監視したダンパ34の変位量の累積値が累積閾値以上になったか否かを判定することによってダンパ34の寿命を判定することができる。
【0055】
或いは、制震装置30のダンパ34は、例えば、作動することによって摺動抵抗により温度が上昇して、図6(B)に示すように減衰力が低下すると共に、温度上昇によってオイル劣化が進む。そして、図6(C)に示すように、内部のオイルが劣化するに従って作動時の温度が高くなるので、作動時の温度と劣化の相関を予め測定して条件DB76Aに記憶しておき、ダンパ34の作動時の最大温度から劣化を予測して、予め定めた閾値と比較することで寿命か否かを判定するようにしてもよい。なお、この場合には、作動量や作動時間によって最大温度が変化するので、正確な寿命判定ができないことがあるため、変位センサ82の検出結果を用いて振幅や作動時間等を更に考慮して寿命判定するようにしてもよい。これによって寿命判定精度を高めることが可能となる。また、オイル温度ではなくダンパの表面温度を計測するようにしてもよい。この場合には、外気温の変動による影響が大きいので、オイル温度を計測する場合よりもダンパ34の寿命判定精度が低下する可能性があるので、外気温の変動を受けにくくする構成が必要となる。
【0056】
このようにダンパ34の寿命判定が行われると、続いてステップ112では、寿命判定の結果、ダンパ34が寿命か否かが判定され、該判定が肯定された場合にはステップ114へ移行し、否定された場合にはステップ116へ移行する。
【0057】
ステップ114では、交換警告が行われてステップ116へ移行する。交換警告方法としては、例えば、ダンパ34が寿命である旨をディスプレイ62に表示する。このとき、対応するダンパ34の位置等を合わせて表示するようにしてもよい。
【0058】
ステップ116では、建物損傷予測を行うか否かが判定される。該判定は、建物損傷予測を行う指示がキーボード66やマウス64等によって行われたか否かを判定し、該判定が肯定された場合にはステップ18へ移行し、否定された場合にはステップ126へ移行する。
【0059】
ステップ118では、計測履歴が履歴DB76Bから読み出されてステップ120へ移行する。すなわち、ステップ104で記憶された変位量及び温度計測結果が読み出される。
【0060】
ステップ120では、建物損傷予測が行われてステップ122へ移行する。建物損傷予測は、例えば、住宅に設けられた各ダンパ34の変位センサ82の検出結果から、塑性化の有無、最大塑性率、累積塑性変形倍率等を算出することができるので、塑性化の有無、最大蘇生率、及び累積変形倍率のうち少なくとも1つの損傷度合を求めることによってラーメン構造の損傷度合を予測することができる。また、条件DB76Aの損傷程度(クロス切れや巾木外れ等)と層間変形の相関を読み出して、変位センサ82の検出結果が層間変形に対応するので、対応する損傷程度を求めることにより建物損傷予測を行うことができる。さらには、構造体及び非構造体の荷重−変位特性から建物の変形で消費したエネルギ等についても推測することができる。例えば、建物の剛性及び耐力は既知であるため、変位×剛性=荷重より、荷重と変位の履歴を得ることができ、これらより消費エネルギを求めることができる。
【0061】
なお、建物損傷予測を行う際には、前回算出した損傷度合と、今回算出した損傷度合とを比較して建物の損傷状況を予測するようにしてもよい。すなわち、過去の損傷度合と比較することにより、損傷状況の進行度合も予測して、直ぐに改修が必要であるかの判断を行うことも可能となる。
【0062】
続いて、ステップ122では、改修が必要か否かが判定される。該判定は、ステップ120の建物損傷予測の結果と予め定めた閾値等を比較することによって改修が必要か否かを判定し、該判定が肯定された場合にはステップ124へ移行し、否定された場合にはステップ126へ移行する。
【0063】
ステップ124では、改修警告が行われてステップ128へ移行する。改修警告方法としては、例えば、改修が日宇町である旨をディスプレイ62に表示する。このとき、対応する部位についても表示するようにしてもよい。
【0064】
ステップ126では、システムを停止するか否かが判定される。該判定は、例えば、制振システム50のメンテナンス等によって電源を停止する指示等が行われたか否かを判定し、該判定が否定された場合にはステップ100に戻って上述の処理を繰り返し、判定が肯定された場合には一連の処理を終了する。
【0065】
このように、本実施の形態に係わる住宅10では、制振システム50がダンパ34の変位量や温度を監視して履歴を記憶しておくことにより、ダンパ34の寿命を判定することができると共に、建物損傷を予測することができる。
【0066】
ところで、制振装置30は、図7(A)に示すように、各方向で相対する外周部(若しくはそれに近い)通りに1以上の制震装置30を配置することにより、捩れの影響を考慮した被災度判定が可能となる。
【0067】
例えば、図7(A)のように剛心Kと重心Gがずれている場合には建物が捩れやすく、Y方向に水平力が作用すると、図7(B)の各矢印で示すように、部位によって変位量が異なる。このとき図7(A)の制振装置30のうち各方向1箇所をなくした状態とした場合には、計測器80によって計測した通りを建物の層間変位として被災度を判定すると、捩れやすい建物(例えば、剛心Kと重心Gのずれ量が大きい建物)ほど被災度の判定精度が悪く、実際よりも過剰に安全または過剰に危険であると判定してしまう可能性があるが、図7(B)に示すように、外周部通りに1以上の制振装置30を配置することにより、変位の大きい通りと小さい通りで異なる判定とすることが可能となると共に、制振装置30のない通りの層間変位についても逆算で予測できるため、捩れやすい建物でも精度のよい被災度判定が可能となる。
【0068】
なお、上記の実施の形態では、制振システム50を住宅10に備える構成として説明したが、これに限るものではなく、例えば、制振システム10の機能をネットワーク接続されたデータサーバ78に設け、住宅10の制振装置30のダンパ34に設けられた計測器80の情報をデータサーバ78から取得して、データサーバ78でダンパ34の寿命判定や、建物損傷予測を行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0069】
10 制振システムを有する住宅
30 制振装置
34 ダンパ
50 制振システム
52 パーソナルコンピュータ
76 DB
76A 条件DB
76B 履歴DB
80 計測器
82 変位センサ
84 温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造体に設けられて地震による揺れを減衰させるダンパを有する制振装置と、
前記揺れを減衰させる際の前記ダンパの変位量及び前記ダンパに関する温度の少なくとも一方の情報を検出する検出手段と、
前記検出手段の検出結果に基づいて前記ダンパの寿命を推定する推定手段と、
を備えた制振システムを有する住宅。
【請求項2】
前記検出手段によって検出された前記変位量及び前記温度の少なくとも一方の情報を履歴として記憶する履歴記憶手段を更に備え、前記推定手段が、前記記憶手段に記憶された前記履歴に基づいて、前記ダンパの寿命を推定する請求項1に記載の制振システムを有する住宅。
【請求項3】
前記ダンパ内のオイル温度又は前記ダンパの表面温度と前記ダンパの劣化度合との相関関係を前記ダンパの寿命を判定するための条件として記憶する条件記憶手段を更に備え、
前記検出手段が、前記ダンパ内のオイル温度又は前記ダンパの表面温度を検出し、前記推定手段が、前記検出手段の検出結果に対応する劣化度合を読み出すことによって前記ダンパの寿命を推定する請求項1又は請求項2に記載の制震システムを有する住宅。
【請求項4】
前記検出手段によって検出された前記変位量に基づいて、塑性化の有無、最大塑性率、及び累積塑性変形倍率のうち少なくとも1つの損傷度合を算出することにより、前記ダンパが設けられた構造体の損傷度合を予測する予測手段を更に備えた請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の制震システムを有する住宅。
【請求項5】
前記予測手段によって予め定めた値以上の損傷度合が予測された場合に、交換またはメンテナンスの警告を行う警告手段を更に備えた請求項4に記載の制振システムを有する住宅。
【請求項6】
前記予測手段は、前回算出した前記損傷度合と、今回算出した前記損傷度合を比較して建物の損傷状況を予測する請求項4または請求項5に記載の制振システムを有する住宅。
【請求項7】
前記制振装置は、住宅の各方向の外周部に1以上有する請求項1〜6の何れか1項に記載の制振システムを有する住宅。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−102590(P2012−102590A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−253834(P2010−253834)
【出願日】平成22年11月12日(2010.11.12)
【出願人】(504093467)トヨタホーム株式会社 (391)
【Fターム(参考)】