説明

制震柱脚構造及びこれを用いた制震構造物

【課題】 地震等の外力のエネルギーを制震部材により吸収することによって、建築構造物の構造骨組に発生する応力を低減させ、その応力による構造骨組の損傷を軽減することができる制震柱脚構造及びこれを用いた制震構造物を提供する。
【解決手段】 柱支持構造101が、柱10下端部に固定されたエンドプレート22と、露出して基礎コンクリート12上に固定されたベースプレート32と、エンドプレート22とベースプレート32との間に設けられ柱10下端部の垂直軸が傾くような回動を許容する回動許容手段22a、32a、40と、エンドプレート22とベースプレート32との間に設けられ入力した外力のエネルギーを吸収する制震部材45とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、建物や橋梁等の建築構造物の柱下端部を基礎コンクリートに支持させる制震柱脚構造及びこれを用いた制震構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の建物や橋梁等の柱下端部を基礎コンクリートに支持させる柱支持構造としては、アンカーボルトとナットの締め付けにより基礎コンクリート上に固定されたベースプレート(柱脚金物)の上に、柱下端部が溶接等により固定されて支持されるようにした柱脚構造があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、このような従来の柱脚構造においては、建物等の建築構造物に地震等の大きな外力が加わった場合は、ベースプレートを固定するのに用いられたアンカーボルトが伸びて塑性変形することにより、外力のエネルギーを吸収するような構造となっていた。
【0004】
ところが、アンカーボルトはエネルギー吸収能力が小さいため、外力のエネルギーが非常に大きい場合は建築構造物の構造骨組に大きな応力が発生して、その応力によりその構造骨組が損傷を受けるおそれがあるという問題があった。
【0005】
他方、アンカーボルトはその一端部が基礎コンクリート中に埋め込まれて定着されているため、アンカーボルトが塑性域まで変形してその後使用できなくなってしまうとその交換は非常に難しいので、柱脚構造の機能を回復することができなくなるおそれがあるという問題があった。
【0006】
そこで本発明は、上記問題点に鑑みて、地震等の外力のエネルギーを制震部材により吸収することによって、建築構造物の構造骨組に発生する応力を低減させ、その応力による構造骨組の損傷を軽減することができる制震柱脚構造及びこれを用いた制震構造物を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る制震柱脚構造は、
柱下端部に固定されたエンドプレートと、
露出して基礎コンクリート上に固定されたベースプレートと、
前記エンドプレートと前記ベースプレートとの間に設けられ柱下端部の垂直軸が傾くような回動を許容する回動許容手段と、
前記エンドプレートと前記ベースプレートとの間に設けられ入力した外力のエネルギーを吸収する制震部材とを備えたことを特徴とするものである。
【0008】
また、上記課題を解決するために、本発明に係る制震構造物は、
柱下端部に固定されたエンドプレートと、
露出して基礎コンクリート上に固定されたベースプレートと、
前記エンドプレートと前記ベースプレートとの間に設けられ柱下端部の垂直軸が傾くような回動を許容する回動許容手段と、
前記エンドプレートと前記ベースプレートとの間に設けられ入力した外力のエネルギーを吸収する制震部材と
を備えた制震柱脚構造を少なくとも1つ用いたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
このような構成の制震柱脚構造及びこれを用いた制震構造物によれば、地震等の外力のエネルギーを制震部材により吸収することによって、建築構造物の構造骨組に発生する応力を低減させ、その応力による構造骨組の損傷を軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明に係る制震柱脚構造及びこれを用いた制震構造物の実施の形態について、図面に基づいて具体的に説明する。
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る制震柱脚構造101について説明するために参照する図である。
【0011】
図1に示す制震柱脚構造101において、柱10の根元部10a(柱下端部)は、基礎コンクリート12の上方に設けられたエンドプレート22上に溶接により固定されている。また、エンドプレート22の下方にはベースプレート32が配置されており、このベースプレート32は、その周部がアンカーボルト24にネジ結合されたナット26によって締め付けられることにより、基礎コンクリート12上に固定されている。
【0012】
エンドプレート22の中央下面には球面凹部22a(凹状部)が形成され、ベースプレート32の中央上面には、その先端部が上記球面凹部22aと摺接する球面凸部40aが形成された、球面凸状部材40が溶接により固定されている。これらの、球面凹部22a及び球面凸状部材40は、柱10の根元部10aの垂直軸が傾くような回動を許容する回動許容手段を構成している。
なお、上記球面凹部をベースプレート32側に形成し、上記球面凸状部材をエンドプレート22側に設けるようにしてもよい。
【0013】
エンドプレート22及びベースプレート32のそれぞれには、球面凸状部材40の半径方向外側の周囲部に、球面凸状部材40の周方向に沿って間隔をおいて、複数の(例えば、4本、8本、12本等の)制震部材45が配置されている。これらの制震部材45それぞれの両端部は、エンドプレート22及びベースプレート32に、ネジ結合や溶接などにより取り付けられている。
【0014】
この制震部材45としては、例えば、棒形状の鋼材履歴ダンパを用いることができる。この鋼材履歴ダンパは、大きな外力が入力した場合は、塑性変形することによりエネルギーを吸収する。またこの鋼材履歴ダンパは、アンカーボルト24より先に降伏して塑性変形するように設定されている。
【0015】
このような構成の制震柱脚構造101においては、地震等の大きな外力が加わって、柱10の根元部10aにその垂直軸が傾くように回動するような力が働いたときには、エンドプレート22の球面凹部22aは、ベースプレート32側の球面凸状部材40の球面凸部40a先端部と摺接され、柱10の根元部10aの垂直軸が傾いて回動することを許容し易くなっている。
【0016】
このように、柱10の根元部10aの垂直軸が傾いて回動することを許容し易くなっていることにより、地震等の大きな外力によって柱10の根元部10aの垂直軸が傾いて回動しようとしたときに、その回動による変形を制震部材45にすべて負担させることができる。
【0017】
そして、複数の制震部材45の一方はその軸方向に引っ張られ、柱10を挟んで反対側の他方の制震部材45は圧縮されて塑性変形する。このように制震部材45が塑性変形することにより、外力によるエネルギーを吸収して、建築構造物の構造骨組に減衰力を付加することができるため、その構造骨組に発生する応力を低減することができ、その応力による構造骨組の損傷を軽減することができる。
【0018】
また、制震部材45がアンカーボルト24より先に降伏することにより、アンカーボルト24が塑性変形して柱脚構造の機能を回復することができなくなることを防止することができる。すなわち、前述のようにアンカーボルトは基礎コンクリート中に埋め込まれて定着されているため、その交換が非常に困難であるが、これに対して制震部材45は基礎コンクリート12の外部に露出して配置されているので、アンカーボルト24に比べてその交換が容易であるということができる。
【0019】
また、制震部材45の長さを変えることにより塑性変形の進行速度を調整することもでき、例えば、制震部材45の長さを短くすることにより、その塑性変形の進行速度を速くしてエネルギー吸収の効率を向上させることができる。
【0020】
図2は、本発明の第2の実施の形態に係る制震柱脚構造102について説明するために参照する図である。
【0021】
同図において、エンドプレート22の中央下面には球面凹部22aが形成され、ベースプレート32の中央上面には球面凹部32aが形成されている。また、エンドプレート22とベースプレート32との間には、これらの球面凹部22a、32aに各々の先端部が摺接する球面凸部41a、41bが表裏両面に形成された、両面凸状部材41が挟まれて設けられている。
【0022】
これらの球面凹部22a、32a、及び、両面凸状部材41の球面凸部41a、41bは、柱10の根元部10aの垂直軸が傾くような回動を許容する回動許容手段を構成している。
【0023】
エンドプレート22及びベースプレート32のそれぞれには、両面凸状部材41の半径方向外側の周囲部に、両面凸状部材41の周方向に沿って間隔をおいて、前記第1の実施の形態と同様の、複数の(例えば、4本、8本、12本等の)制震部材45が配置されている。これらの制震部材45それぞれの両端部は、エンドプレート22及びベースプレート32に、ネジ結合や溶接などにより取り付けられている。
【0024】
このような構成の制震柱脚構造102においては、地震等の大きな外力が加わって、柱10の根元部10aにその垂直軸が傾くように回動するような大きな力が働いたときには、エンドプレート22及びベースプレート32の球面凹部22a、32aは、両面凸状部材41の球面凸部41a、41bの各先端部と摺接され、柱10の根元部10aの垂直軸が傾いて回動することをさらに許容し易くなっている。
【0025】
このような本発明の第2の実施の形態によっても、前記第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0026】
図3は、本発明の第3の実施の形態について説明するために参照する図である。
同図において、エンドプレート22の中央下面とベースプレート32の中央上面との間には、ゴム支承43(回動許容手段)が設けられている。このためやはり、柱10の根元部10aの垂直軸が傾いて回動することを許容し易くなっている。
【0027】
このような本発明の第3の実施の形態によっても、前記第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0028】
なお、前記実施の形態においては、制震部材45として、棒形状の鋼材履歴ダンパを用いた場合について説明してきたが、本発明は、棒形状の鋼材履歴ダンパに限定する必要はなく、円筒形状や板形状の鋼材履歴ダンパ、さらには板を折り曲げた形状の鋼材履歴ダンパを用いてもよい。
また、本発明は、鋼材履歴ダンパに限定する必要はなく、その他の、オイルダンパ等の粘性ダンパ、粘弾性ダンパ、摩擦ダンパ等、どのような種類の制震部材を用いてもよい。
【0029】
また、前記実施の形態においては、エンドプレート22とベースプレート32との間に設けられた、柱下端部の垂直軸が傾くような回動を許容する回動許容手段として、第1から第3の実施の形態について説明してきたが、本発明は、それらに限定する必要はなく、柱下端部の回動を許容して柱を支持するものであれば、他のどのような実施の形態を用いてもよい。
例えば、エンドプレート及びベースプレートの中央部に板状部材を配置してもよい。また、エンドプレート及びベースプレートのいずれかに、その中央部に段差部を設けてもよい。
【0030】
また、前記実施の形態においては、本発明の制震柱脚構造に係る実施の形態について説明してきたが、本発明は、上記のような制震柱脚構造が用いられた制震構造物についても適用することができる。
【0031】
以上、本発明に係る制震柱脚構造及びこれを用いた制震構造物の各実施の形態について具体的に述べてきたが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて、その他にも各種の変更が可能なものである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る制震柱脚構造101を示す一部断面側面図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態に係る制震柱脚構造102を示す一部断面側面図である。
【図3】本発明の第3の実施の形態に係る制震柱脚構造103を示す一部断面側面図である。
【符号の説明】
【0033】
10 柱
10a 根元部
12 基礎コンクリート
22 エンドプレート
22a 球面凹部
24 アンカーボルト
26 ナット
29 定着部材
32 ベースプレート
32a 球面凹部
40 両面凸状部材
40a,40b 球面凸部
41 両面凸状部材
41a、41b 球面凸部
43 ゴム支承
45 制震部材
101、102,103 制震柱脚構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱下端部に固定されたエンドプレートと、
露出して基礎コンクリート上に固定されたベースプレートと、
前記エンドプレートと前記ベースプレートとの間に設けられ柱下端部の垂直軸が傾くような回動を許容する回動許容手段と、
前記エンドプレートと前記ベースプレートとの間に設けられ入力した外力のエネルギーを吸収する制震部材と
を備えたことを特徴とする制震柱脚構造。
【請求項2】
前記回動許容手段として、前記エンドプレートと前記ベースプレートの間に、曲面を有する凸状部材と、前記曲面に摺接する凹状部又は凹状部材とを配置し、前記凸状部材及び前記凹状部又は凹状部材のそれぞれを、前記エンドプレート及び前記ベースプレートのそれぞれの中央部に一体に設けたことを特徴とする請求項1に記載の制震柱脚構造。
【請求項3】
前記回動許容手段として、前記エンドプレートと前記ベースプレートの各中央部間に、表裏両面側に凸状部が形成された両面凸状部材を配置し、前記エンドプレートと前記ベースプレートの各中央部に、前記両面凸状部材の各凸状部の先端部が摺接する凹部を形成したことを特徴とする請求項1に記載の制震柱脚構造。
【請求項4】
前記エンドプレートと前記ベースプレートの各中央部間にゴム支承を設けたことを特徴とする請求項1に記載の制震柱脚構造。
【請求項5】
前記制震部材として、鋼材履歴ダンパを用いたことを特徴とする請求項1に記載の制震柱脚構造。
【請求項6】
柱下端部に固定されたエンドプレートと、
露出して基礎コンクリート上に固定されたベースプレートと、
前記エンドプレートと前記ベースプレートとの間に設けられ柱下端部の垂直軸が傾くような回動を許容する回動許容手段と、
前記エンドプレートと前記ベースプレートとの間に設けられ入力した外力のエネルギーを吸収する制震部材と
を備えた制震柱脚構造を少なくとも1つ用いたことを特徴とする制震構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−233488(P2006−233488A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−47047(P2005−47047)
【出願日】平成17年2月23日(2005.2.23)
【出願人】(000233239)日立機材株式会社 (225)
【Fターム(参考)】