前立腺癌の代謝プロファイリング法
本発明は癌マーカーに関する。特に、本発明は前立腺癌中に差次的に存在する代謝産物を提供する。さらに、本発明は癌に特異的な代謝産物を標的とする診断、研究、および治療用途を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、仮特許出願第60/956,239号(2007年8月16日出願)、第61/075,540号(2008年6月25日出願)、および第61/133,279号(2008年6月27日出願)の優先権を主張するものであり、これらの各々を全体として本明細書において参照により援用する。
【0002】
この発明は、国立衛生研究所の助成金番号5U01CA084986およびU01CA111275のもとで政府援助によってなされたものである。政府は本発明に一定の権利を保有する。
【0003】
本発明は、癌マーカーに関する。詳しくは、本発明は前立腺癌中に異なって存在する代謝産物を提供する。さらに、本発明は癌に特異的な代謝産物を標的とする診断、研究、および治療用途を提供する。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
65歳を超えた男性9人のうち1人が罹患する前立腺癌(PCA)は男性癌関連死亡の主要原因であり、肺癌に次いで第2位である(Abate-Shen and Shen, Genes Dev 14:2410 [2000](非特許文献1); Ruijter et al, Endocr Rev, 20:22 [1999](非特許文献2))。米国癌学会は、約184,500人のアメリカの男性が前立腺癌と診察されて39,200人が2001年に死ぬだろうと、推測している。
【0005】
前立腺癌は、一般に、直腸指診および(または)前立腺特異性抗原(PSA)スクリーニングによって診断される。高血清PSA値によってPCAを示すことができる。PSAが前立腺細胞によってのみ分泌されることから、PSAは前立腺癌のマーカーとして用いられる。健康な前立腺は安定した量、概ね1ミリリットルあたり4ナノグラム(すなわちPSA読み取り値が「4」以下)を生産する。一方、癌細胞では該の重症度に対応して生産量が増加する。その量が4ないし10の場合、患者が前立腺癌であると医師が疑う可能性があり、一方、量が50を超えると腫瘍が体内の他の箇所へ広がったことを示すと考えられる。
【0006】
PSAまたは指診によって癌の存在する可能性が高いことが示される場合、前立腺をマッピングして、いっさいの疑わしい領域を明らかにするために、経直腸超音波(TRUS)が用いられる。前立腺の種々の領域を生検することで、前立腺癌の存在が判断される。治療オプションは、癌の病期に依存する。グリーソン(Gleason)スコアが低く、かつ腫瘍が前立腺を超えて広がっていない男性の余命は10年以下で、しばしば経過観察で治療される(無治療)。侵襲性がより強い癌に対する治療法の選択肢として、前立腺を完全に摘出(神経保存術の有無にかかわらず)する根治的前立腺摘除(RP)等の外科治療と、体外から前立腺に対して線量を直接当てる外部ビームを介した放射線療法または癌細胞を局所的に殺すために前立腺内部に埋め込まれる低線量放射性シードを介した放射線療法とが、挙げられる。抗アンドロゲンホルモン療法は、単独で、あるいは手術または放射線療法と共に用いられる。ホルモン療法は黄体形成ホルモン放出ホルモン(LH−RH)類似体を用いる。このLH−RHは、脳下垂体がテストステロン生成刺激ホルモンを生成するのを阻害する。患者は、余命中、LH−RH類似体を注射し続けなければならない。
【0007】
外科治療およびホルモン治療が局所的なPCAに対してしばしば効果を示す一方で、進行した疾患は本質的に不治のままである。アンドロゲン除去は、進行したPCAに対して最も一般的な治療法であり、アンドロゲン依存型悪性細胞の広範なアポトーシスおよび一時的腫瘍退縮をもたらす。しかし、多くの場合、腫瘍の再出現が著しく、アンドロゲンシグナルとは無関係に腫瘍が増殖し得る。
【0008】
前立腺特異性抗原(PSA)スクリーニングが登場したことで、PCAの早期検出が可能となり、PCAに関連した死亡が著しく減少した。しかし、癌による死亡率に対するPSAスクリーニングの影響は、前向き無作為化スクリーニング試験の結果が得られるまでは、依然として不明である(Ezioni et al, J. Natl. Cancer Inst, 91 :1033 [1999](非特許文献3); Maattanen et al, Br. J. Cancer 79: 1210 [1999](非特許文献4); Schroder et al, J. Natl. Cancer Inst., 90:1817 [1998](非特許文献5))。血清PSA検査を主に制限しているものは、前立腺癌感度および特異性が、特にPSA検出の中間範囲(4〜10ng/ml)内で、不足していることである。高い血清PSA値は、良性前立腺肥大症(BPH)および前立腺炎等の非悪性症状を持つ患者で、しばしば検知され、検知された癌の悪性度に関する情報がほとんど得られない。血清PSA検査の増加と時を同じくして、前立腺針生検の実施数が著しく増加した(Jacobsen et al., JAMA 274:1445 [1995](非特許文献6))。このことは、あいまいな理由による前立腺生検の急増をもたらした(Epstein and Potter J. Urol., 166:402 [2001](非特許文献7))。したがって、PSAスクリーニングを補完するために、追加の血清および組織バイオマーカーの開発が必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Abate-Shen and Shen, Genes Dev 14:2410 [2000]
【非特許文献2】Ruijter et al, Endocr Rev, 20:22 [1999]
【非特許文献3】Ezioni et al, J. Natl. Cancer Inst, 91 :1033 [1999]
【非特許文献4】Maattanen et al, Br. J. Cancer 79: 1210 [1999]
【非特許文献5】Schroder et al, J. Natl. Cancer Inst., 90:1817 [1998]
【非特許文献6】Jacobsen et al., JAMA 274:1445 [1995]
【非特許文献7】Epstein and Potter J. Urol., 166:402 [2001]
【発明の概要】
【0010】
本発明は、癌マーカーに関する。詳しくは、本発明は前立腺癌中に特異的に存在する代謝産物を提供する。さらに、本発明は癌に特異的な代謝産物を標的とする診断、研究、および治療用途を提供する。
【0011】
例えば、いくつかの実施形態では、本発明は癌(例えば前立腺癌)を診断する方法を提供し、該方法は、被験者の試料(例えば、組織(例えば生検)試料、血液試料、血清試料、または尿試料)から、1つ以上(例えば、2つ以上、3つ以上、5つ以上、10以上等の、多重またはパネル・フォーマットで一緒に測定)の癌特異的代謝産物(例えば、サルコシン、システイン、グルタミン酸塩、アスパラギン、グリシン、ロイシン、プロリン、スレオニン、ヒスチジン、n−アセチルアスパラギン酸(N−アセチルアスパルタート(NAA))、イノシン、イノシトール、アデノシン、タウリン、クレアチン、尿酸、グルタチオン、ウラシル、キヌレニン、グリセリン−s−リン酸塩、グリココール酸、スベリン酸、チミン、グルタミン酸、キサントシン、4−アセトアミド酪酸、クエン酸塩、リンゴ酸塩、およびN−アセチルチロシンまたはチミン)の有無を検出すること、癌特異的代謝産物の存在にもとづいて癌を診断すること、を含む。いくつかの実施形態では、癌特異的代謝産物は癌試料に存在するが、非癌試料には存在しない。いくつかの実施形態では、癌特異的代謝産物とともに、さらなる癌マーカーが1つ以上検出される(例えば、パネルまたは多重フォーマットで)。いくつかの実施形態では、パネルはクエン酸塩、リンゴ酸塩、およびN−アセチルアスパラギン酸、ならびにサルコシンを検出する。
【0012】
本発明は、さらに、化合物をスクリーニングする方法を提供するもので、該方法は、癌特異的代謝産物を含む細胞(例えば、癌細胞(例えば、前立腺癌細胞)を試験化合物と接触させること、癌特異的代謝産物の濃度を検出すること、を含む。いくつかの実施形態では、該方法はさらに、試験化合物の存在下での癌特異的代謝産物の濃度を試験化合物の非存在下での癌特異的代謝産物の濃度と比較するステップを含む。いくつかの実施形態では、細胞は、インビトロ、非ヒト哺乳類動物体内、またはエクスビボにある。いくつかの実施形態では、試験化合物は、癌特異的代謝産物の合成または分解に関与する酵素の発現を抑制する小分子または核酸(例えば、アンチセンス核酸、siRNA、またはmiRNA)である。いくつかの実施形態では、癌特異的代謝産物は、サルコシン、システイン、グルタミン酸塩、アスパラギン、グリシン、ロイシン、プロリン、スレオニン、ヒスチジン、n−アセチルアスパラギン酸、イノシン、イノシトール、アデノシン、タウリン、クレアチン、尿酸、グルタチオン、ウラシル、キヌレニン、グリセロール−s−リン酸塩、グリココール酸、スベリン酸、チミン、グルタミン酸、キサントシン、4−アセトアミド酪酸、n−アセチルチロシン、またはチミンである。いくつかの実施形態では、この方法は生産性の高い方法である。
【0013】
本発明はさらに、前立腺癌を特徴付ける方法を提供するもので、該方法は、癌と診断された被験者由来の試料(例えば、組織試料、血液試料、血清試料、または尿試料)中における高濃度のサルコシンの有無を検出すること、高濃度のサルコシンの有無に基づいて前立腺癌を特徴付けること、を含む。いくつかの実施形態では、試料中に高濃度のサルコシンが存在することで、被験者が侵襲性の前立腺癌であることが示される。
【0014】
いくつかの実施形態では、本発明は細胞(例えば、癌細胞)の増殖を抑制する方法を提供するもので、該方法は、化合物が癌特異的代謝産物(例えば、サルコシン、システイン、グルタミン酸塩、アスパラギン、グリシン、ロイシン、プロリン、スレオニン、ヒスチジン、n−アセチルアスパラギン酸、イノシン、イノシトール、アデノシン、タウリン、クレアチン、尿酸、グルタチオン、ウラシル、キヌレニン、グリセロール−s−リン酸塩、グリココール酸、スベリン酸、チミン、グルタミン酸、キサントシン、4−アセトアミド酪酸、グリシンN−メチル基転移酵素あるいはチミン)の濃度を増加または減少させる条件下で、細胞を該化合物と接触させることを含む。いくつかの実施形態では、化合物は、癌特異的代謝産物の合成または分解に関与する酵素の発現を抑制する小分子または核酸(例えば、アンチセンス核酸、siRNA、またはmiRNA)である。
【0015】
本発明のさらなる実施形態を、以下の詳細な説明および実験の項で説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は前立腺癌の代謝学的プロファイリングを示す。a.前立腺由来組織の代謝プロファイリングに含まれるステップの説明図。b.良性前立腺組織(n=16)、臨床的限局性前立腺癌(PCA、n=12)、および転移性前立腺癌(Mets、n=4)を含む3つのクラスの前立腺関連組織のいたる所で測定された626の代謝産物の分布を示すベン図。c.bに記載した前立腺関連組織の無監督(unsupervised)階層的構造形成を示す系統図。N、良性前立腺。T、PCA。M、転移性(Mets)。d.良性前立腺試料の平均値に正規化された前立腺癌試料でモニターされた626の代謝産物に関するZ値プロット。e.代謝学的変化に基づいた前立腺組織資料の主成分分析。
【図2】図2は、前立腺癌進行の異なった代謝学的変化特性を示す。a.良性前立腺組織中における中間値に関連した局所的PCAで変化した代謝産物のZ値プロット。b.aと同様ではあるが、PCA試料の平均に関連したデータによる転移性とPCAとを比較するためのもの。
【図3】図3は、前立腺癌の代謝学的プロファイルの統合的分析と、前立腺癌のマーカーとしてのサルコシンの検証とを示す。a.PCAシグニチャー(signature)における過剰発現の代謝学的プロファイルに関する分子概念分析のネットワーク図。b.aと同様ではあるが、「転移性試料シグニチャーにおける過剰発現」の代謝学的プロファイルに関するもの。c.同位体希釈GC/MS分析に基づく、良性、PCA、および転移性の個々の組織におけるサルコシン・レベル。d.生検陽性および陰性の個々の被験者から得た尿沈渣中のアラニン・レベルに正規化されたサルコシンを示す同位体希釈GC/MS分析に基づいたサルコシン・レベルのボックスプロット(平均値±SEM:0.30±0.13対−0.35±0.13、ウィルコクソン検定P値=0.0004)。e.dと同様ではあるが、生検陰性対照群と比較した生検陽性前立腺癌患者においてクレアチンレベルに対して高サルコシンであることが示される尿上清(平均値±SEM:−5.92±0.13対−6.49±0.17、ウィルコクソン検定P値=0.0025)。
【図4】図4は、サルコシンが前立腺癌侵入および悪性度に関係していることを示す。a.サルコシンと前立腺癌細胞系統および良性上皮細胞の侵入性との事前評価。b.(左図) RWPE細胞におけるアデノウイルス感染によるEZH2の過剰発現がサルコシン・レベルの増加と、ベクター対照との比較した場合の侵入の有意な増加(t検定P値=0.0001)とに関係している。(右図)DU145細胞におけるsiRNAによるEZH2のノックダウンは、サルコシン・レベルの減少と、非標的siRNA対照と比較した場合の侵入の有意な減少(t検定P値=0.0115)とに関係している。c.(左図)RWPEにおけるTMPRSS2−ERGまたはTMPRSS2−ETV1の過剰発現は、野生型対照と比較すると、サルコシン・レベルの上昇(各々、t検定:P=0.0035およびP=0.0016)と侵入の値増加(t検定:P=0.0019およびP=0.0057)とに関係している。(右図)VCaP細胞におけるTMPRSS2−ERGのノックダウンは、非標的siRNA対照と比較したところ、サルコシン・レベルの減少および侵入の有意な減少に関係している(t検定:P値=0.0004)。d.修正ボイデンチャンバー分析を用いて測定されたアラニン(丸)、グリシン(三角)、およびサルコシン(四角)を外から添加した場合の前立腺上皮細胞における侵入の評価。e.GNMTsiRNAを用いたDU145細胞におけるGNMTのノックダウンは侵入およびサルコシンの減少に関連している。f.RWPE細胞におけるGNMTの減衰は、侵入を引き起こす外来グリシンの能力を抑制するが、サルコシンの能力は抑制しない。g.免疫ブロット分析は、アラニンと比較した場合のRWPE細胞に対する50μMサルコシン処理によるEGFRの時間依存性リン酸化を示す。h.10μMエルロチニブによる前処理に対するPrEC前立腺上皮細胞のサルコシン誘導侵入の減少(F検定:P値=0.0003)。DU145細胞は、細胞侵入に関する陽性対照としての役割を果たす。i.RWPE細胞をC225によって前処理することで、サルコシン処理単独と比較してサルコシン誘導侵入が減少する(F検定:P値=0.0056)。
【図5】図5は、プロファイルした2つの実験用バッチにわたって、代謝産物についての標準化ピーク強度の相対分布と各試料クラス由来の組織標本の分布とを示す。3種類の組織クラスの各々から得た試料を等しく2つのバッチに分配した(X軸)。Y軸は、この研究に用いた42個の組織試料においてプロファイルされた624の代謝産物に関する標準化ピーク強度(m/z)を示す。
【図6】図6は、組織代謝産物プロファイルの分析に関与するステップの概要を示す。
【図7】図7は、発見相で用いられる代謝学的プロファイリング・プラットフォームの再現性を示す。
【図8】図8は、異なる部位に由来する転移性組織の全域における転移性癌特異的代謝産物の相対的発現を示す。
【図9】図9は、局所前立腺癌および転移性疾患のOCM分析に関与する異なるステップの概要を示す。
【図10】図10は、同位体希釈GC−MSを用いたサルコシン評価の再現性を示す。(a)3つの前立腺由来細胞系統の生物学的レプリケートにおけるサルコシン測定は、再現性が高かく、CVが<10%であった。(b)異なるGC−MS機器を2台用いて89個の前立腺由来組織試料に対してサルコシン測定をおこなったところ、相関性が高く、Rhoが>0.9であった。
【図11】図11は、同位体希釈GC/MSを用いて転移性前立腺癌を有する患者由来の担癌組織と非腫瘍対照群とにおけるサルコシン・レベルの比較を示す。(a)肺への前立腺癌転移における固有のサルコシンの定量を示すGC/MSトレース。(b)(a)と同様ではあるが、隣接した対照肺組織におけるもの。(c)同位体希釈GC/MS分析に基づいて、転移性組織におけるサルコシン・レベルが高いことを示す棒プロット。
【図12】図12は、癌に関して生検が陽性および陰性である男性から得た尿沈渣中のサルコシンの評価を示す。(a)32人の生検陽性被験者と28人の生検陰性被験者から得た一組(バッチ)60個の尿沈渣物において、アラニンと比較してサルコシン・レベルが著しく高いことを示すボックスプロット((ウィルコクソンの順位和検定:P=0.0188)。(b)60個の試料についてのレシーバー・オペレーター特性(ROC)曲線では、AUCが0.68(95%CI:0.54、0.82)である。(c)(a)と同様ではあるが、33個の試料からなる1つの独立した組(バッチ)(生検陽性の被験者17人と生検陰性の被験者16人)で実施。(d)(b)における33個の試料についてのROC曲線では、AUCが0.76(95%CI:0.59、0.93)である。(e)(a)および(c)に示す93個の試料からなるセット全体についてのボックスプロット。(f)データセット全体(n=93)についてのROC曲線では、AUCが0.71(95%CI:0.61、0.82)である。
【図13】図13は、生検陽性および生検陰性の尿上清に含まれるサルコシンの評価を示す。(a)生検陽性被験者59人および生検陰性被験者51人から得た110個の尿上清からなる一組(バッチ)において、クレアチニンと比較してサルコシン・レベルが顕著に高いことを示すボックスプロット(ウィルコクソンの順位和検定:P=0.0025)。(b)レシーバー・オペレーター)曲線では、AUCが0.67(95%CI:0.57、0.77)である。
【図14】図14は、前立腺由来組織試料において、さらなる前立腺癌関連代謝産物の確認を示す。(a)良性から転移性疾患へ臨床的に限局する進行の過程におけるシステインレベルの上昇を示すボックスプロット(各々n=5、良性対PCA対Metsの平均±SEM:6.19±0.13対7.14±0.34対8.00±0.37)。(b)(a)と同様であるが、グルタミン酸の場合(良性対PCA対Metsの平均±SEM:9.00±0.26対9.92±0.41対11.15±0.44)。(c)(a)と同様であるが、グリシンの場合(良性対PCA対Metsの平均±SEM:8.00±0.06対8.51±0.28対9.28±0.28)。(d)(a)と同様であるが、チミンの場合(良性対PCA対Metsの平均±SEM:1.33±0.15対2.01±0.28対2.27±0.31)。
【図15】図15は、前立腺由来細胞系統におけるEZH2過剰発現およびノックダウンの免疫ブロット法による確認を示す。
【図16】図16は、VCaP細胞におけるERG遺伝子融合生成物のノックダウンのリアルタイムPCRベースの定量を示す。
【図17】図17は、前立腺および乳房上皮細胞に内在化されたサルコシンの評価を示す。
【図18】図18は、アミノ酸処理前立腺上皮細胞における細胞周期分析および増殖の評価を示す。(a)未処理前立腺細胞系統RWPEまたは(b)アラニン、(c)グリシン、および(d)サルコシンのいずれか50μMによって24時間処理したものの細胞周期プロファイル。(e)(a)〜(d)に対するコールターカウンターを用いる細胞数の評価。
【図19】図19は、前立腺細胞系統におけるGNMTノックダウンのリアルタイムPCRベースの定量を示す。(a)DU145細胞では、siRNAを媒介としたノックダウンによってGNMTmRNAレベルが約25%減少した。(b)RWPE細胞では、siRNAを媒介としたノックダウンによってGNMTmRNAレベルが約42%減少した。
【図20】図20は、グリシン誘導侵入を示す。しかし、サルコシン誘導侵入はGNMTのノックダウンによって抑制されている。
【図21】図21は、アラニン処理前立腺上皮細胞と比較して、サルコシン処理前立腺上皮細胞で過剰発現した遺伝子のオンコマイン(Oncomine)概念図を示す。
【図22】図22は、サルコシンによって活性化されたEGFR経路の下流読み出し(download read-out)を示す。
【図23】図23は、エルロチニブがPrEC細胞のサルコシンを媒介とした侵入を抑制することを示す。(a)10μMエルロチニブによるEGFRリン酸化の抑制を示す免疫ブロット分析。(b)10μMエルロチニブによるPrEC細胞の前処理は、サルコシン誘導侵入の顕著な減少をもたらす。(c)(b)の比色定量。
【図24】図24は、エルロチニブがRWPE細胞におけるサルコシンを媒介とした侵入を抑制することを示す。(a)10μMエルロチニブによるRWPE細胞の前処理によってサルコシン誘導侵入が2倍減少する。
【図25】図25は、C225がRWPE細胞のサルコシンを媒介とした侵入を抑制することを示す。(a)50mg/mlのC225によってRWPE細胞を前処理することで、サルコシン誘導侵入の著しい減少をもたらす。(b)50mg/mlのC225によってEGFRリン酸化の抑制を示す免疫ブロット分析。
【図26】図26は、EGFRのノックダウンがサルコシンを媒介とした細胞侵入を減少させることを示す。(a)細胞の顕微鏡写真。(b)侵入の比色評価。(c)QRT−PCRによるEGFRノックダウンの確認。
【図27】図27は、非侵襲から高侵襲に至る範囲にわたって、癌腫瘍一連の腫瘍中の癌腫瘍侵襲性を決定するのに有用なバイオマーカーのパネルの3次元プロットを示す。良性(ダイヤモンド)、転移性(二等辺三角形)、GS3(正方形)、GS4(正三角形)。X軸(クエン酸塩/リンゴ酸塩);Y軸、NAA;Z軸、サルコシン。いくつかの転移性試料は、尺度基準から外れ、示されるようにグラフ上では見ることはできない。
【図28】図28は、前立腺癌の進行中において、メチオニン経路のサルコシンおよび関連代謝産物が高いレベルを示しているZスコアプロットを示す。
【図29】図29は、前立腺癌および転移癌における同位体希釈GCMSを用いたサルコシンの確認を示す。
【図30】図30は、RWPE細胞におけるSARDHのノックダウンを示す。(a)サルコシンのGCMS評価。(b)侵入の比色定量評価。(c)(b)の顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0017】
定義
本発明の理解を容易にするために、いくつかの用語および句を以下に定義する。
【0018】
「前立腺癌」とは、男性生殖器系の腺である前立腺で癌が発現する疾患のことをいう。「低悪性度」または「より低い悪性度」の前立腺癌とは、非転移性の前立腺癌のことをいい、転移する可能性が低い悪性腫瘍(すなわち、悪性度が少ないと考えられる前立腺癌)が挙げられる。「高悪性度」あるいは「より高い悪性度」の前立腺癌とは、被験者の体内で転移した前立腺癌のことをいい、転移する可能性が高い悪性腫瘍(悪性度が高いと考えられる前立腺癌)が挙げられる。
【0019】
本明細書中で用いられる、用語「癌特異的代謝産物」とは、非癌細胞と比較して癌細胞中に差別的に存在する代謝産物のことをいう。例えば、いくつかの実施形態では、癌特異的代謝産物は癌細胞に存在するが、非癌細胞には存在しない。他の実施形態では、癌細胞には癌特異的代謝産物が存在しないが、非癌細胞には存在している。さらに別の実施形態では、非癌細胞と比較して、癌特的代謝産物が異なる濃度(例えば、高濃度または低濃度)で癌細胞に存在している。例えば、癌特異的代謝物は任意の濃度で差別的に存在する。しかし、一般に癌特異的代謝産物は、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%、少なくとも110%、少なくとも120%、少なくとも130%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも140%、少なくとも150%、またはそれ以上の増加する濃度で、存在することが可能であり、あるいは一般に、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも100%(すなわち、不在)まで減少する濃度で、存在することが可能である。癌特異的代謝産物は、統計的に有意である濃度(すなわち、ウェルチのt検定またはウィルコクソンの順位和検定のいずれかを用いて決定されるように、p値は0.05未満および/またはq値は0.10未満)で、好ましくは差別的に存在する。例示的な癌特異的代謝産物は、以下の詳細な説明および実験の部で説明する。
【0020】
本明細書および請求の範囲にある用語「試料(sample)」は、最も広い意味で用いられている。一方では、それは、検体(specimen)または培養(culture)を包含することを意図している。他方では、それは、生体試料および環境試料の両方を包含することを意図している。試料として、合成されたものに由来する検体を挙げることもできる。
【0021】
生体試料として、ヒトを含む動物、流体、固体(例えば便)あるいは組織、ならびに液体および固形食、ならびに飼料および成分、例えば乳製品、野菜、肉および食肉副産物、ならびに廃棄物が考えられる。生体試料は、種々の属の家畜全てから得られ、野獣または野生動物からも得られる。しかし、限定されるものではないが、そのような動物としては、有蹄動物、熊、魚、ウサギ等が挙げられる。生体試料は、所望のバイオマーカーを検知するのに適当な任意の生体物質を含むものであってもよく、被検体由来の細胞物質および/または非細胞物質を含むものであってもよい。試料は、適当な生体組織または生体液、例えば前立腺組織、血液、血漿、尿、または脳脊髄液(CSF)から単離することができる。
【0022】
環境試料として、表面物質、土、水、および産業試料と、食物および乳加工用の道具、装置、機材、器具、使い捨てもしくは使い捨てではない製品から得られる試料が挙げられる。これらの例は、本発明に適用可能である試料の種類を限定するものとして解釈されるものではない。
【0023】
代謝産物の「基準レベル」とは、特定の症状、疾病表現型、またはそれらの欠如を示す、あるいは特定の症状、疾病表現型、またはそれらの欠如の組み合わせを示す代謝産物のレベルを意味する。代謝産物の「陽性」基準レベルとは、特定の症状または疾病表現型を示すレベルを意味する。代謝産物の「陰性」基準レベルは、特定の症状または疾病表現型の不足を示すレベルを意味する。例えば、代謝産物の「前立腺癌陽性基準レベル」は、被験者の前立腺癌の陽性診断を示す代謝産物のレベル意味し、また代謝産物の「前立腺癌陽性基準レベル」は、被験者の前立腺癌の陰性診断を示す代謝産物のレベルを意味する。代謝産物の「基準レベル」は、代謝産物の絶対量もしくは相対量または代謝産物の濃度、代謝産物の有無、代謝産物の量もしくは濃度の範囲、代謝産物の最小および/もしくは最大の量もしくは濃度、代謝産物の平均量もしくは平均濃度、ならびに/または代謝産物の中央量もしくは中央濃度であってもよく、また、さらに、代謝産物の組み合わせの「基準レベル」もまた、2種類以上の代謝産物の絶対量もしくは相対量もしくは濃度について、互いに関する比率であってもよい。特定の症状、疾病表現型、およびそれらの欠如に関する代謝産物の適当な陽性基準レベルおよび陰性基準レベルを、1人以上の適当な被験者における所望の代謝産物のレベルを測定することによって、決定することが可能である。また、そのような基準レベルを被験者の特定の集団に合わせてもよい(例えば、基準値を年齢一致させてもよく、一定の年齢の被験者に由来する試料の代謝産物レベルと、一定の年齢層における特定の症状、疾病表現型、またはそれらの欠如の基準レベルとを比較してもよい)。そのような基準レベルは、生体試料の代謝物のレベルを測定する際に用いられる特定の技術(例えば、LC−MS、GC−MS)によって異なるものであってもよく、用いられる特定技術に応じて代謝産物のレベルが異なる場合もある。
【0024】
本明細書中で用いられる、用語「細胞」とは、インビトロまたはインビボにある任意の真核細胞または原核細胞(例えば、大腸菌(E.coli)、酵母細胞、哺乳動物細胞、鳥類細胞、両生類細胞、植物細胞、魚類細胞、および昆虫細胞)のことをいう。
【0025】
本明細書中で用いられる、用語「プロセッサ」とはプログラムにもとづく一セットのステップを実行する装置(例えば、デジタル・コンピュータのことをいう。例えば、プロセッサとして、プログラム制御のもとでデータの受信、送信、記憶、および/もしくは操作をおこなうための中央処理装置(CPU)、電子装置、またはシステムが挙げられる。
【0026】
本明細書中で用いられる、用語「メモリ素子」、すなわち「コンピュータ・メモリ」とは、コンピュータによって読み取り可能である任意のデータ保存装置のことであり、例えば、限定されるものではないが、ランダム・アクセス・メモリ、ハードディスク、磁気(フロッピ)ディスク、コンパクト・ディスク、DVD、磁気テープ、およびフラッシュ・メモリー等が挙げられる。
【0027】
用語「プロテオミクス」とは、Liebler, D. Introduction to Proteomics: Tools for the New Biology, Humana Press, 2003に記載されているように、多数のタンパク質セットを分析することをいう。プロテオミックスは、タンパク質の同定および定量、該タンパク質の局在化、修飾、相互作用、活性、ならびに該タンパク質の生化学的および細胞機能を扱う。プロテオミックス分野の爆発的な成長は、生産性が高い新規の研究法および測定技術(例えばゲル電気泳動法および質量分析法)と、膨大なデータを処理、分析、および解釈する革新的なコンピュータ・ツールおよび方法によって、もたらされている。
【0028】
「質量分析法」(MS)は、標的分子のフラグメント化を伴う分子の測定および分析をおこない、質量/電荷比に基づいたフラグメントの分析をおこなうことで、「分子の指紋」として役立つ質量スペクトルを作り出す技術である。対象物の質量/電荷比を、その対象物によって電磁エネルギーが吸収される波長を測定する手段によって、測定している。イオンの質量と電荷との比を測定するために一般に用いられる方法にはいくつかあり、そのいくつかはイオン軌跡と電磁波との相互作用を測定するものであり、他のものはイオンが所定の距離を移動するのに要する時間を測定するもので、あるいはそれらを組み合わせたものである。これらのフラグメント質量測定のデータの検索をデータベースに対しておこない、標的分子の最終的な同定が得られる。質量分析法はまた、その他多くの領域の中でも石油化学または医薬品質管理等の他の化学領域で、幅広く用いられている。
【0029】
用語「溶解」とは、物理化学的手段によって引き起こされた細胞の破裂をいう。これは、血清試料または組織試料由来のタンパク質抽出液を得るためにおこなわれる。
【0030】
用語「分離」は、複雑な混合物からその構成要素であるタンパク質または代謝産物を分離することをいう。共通の実験室分離技術として、ゲル電気泳動およびクロマトグラフィが挙げられる。
【0031】
用語「ゲル電気泳動法」とは、電流の影響下でゲルの中を分子が移動する相対距離にもとづいて、該分子の分離および生成をおこなう技術のことをいう。自動ゲル切り出し技術は、本明細書中に記載した方法およびシステムの入力として用いることが可能であるラージ・データセット・フォーマットのデータを提供することが可能である。
【0032】
用語「キャピラリー電気泳動」とは、緩衝液で満たされたキャピラリーの両端に電圧を印加して溶液中の分子を分離する自動分析技術のことをいう。キャピラリー電気泳動は一般にイオンの分離に用いられ、電圧が印加されると、イオンの大きさおよび電荷に依存して、イオンが異なる速度で移動する。溶質(イオン)は検出器を通過する際にピークとして確認され、各ピークの面積が該溶質中のイオン濃度に比例する。このことは、イオンの定量を可能にする。
【0033】
用語「クロトグラフィ」とは、分離すべき成分が2つの相の間に分布する物理的な分離方法のことをいい、該相の1つが固定されており(固定相)、他方(移動相)は一定の方向に移動する。クロトグラフィの出力データを本発明による操作に用いることが可能である。
【0034】
用語「クロトグラフィ時間」は、質量分析法データとの関連で用いられる場合、分離装置に試料を注入してからのクロトグラフィ・プロセスの経過時間のことをいう。「質量分析器」とは、イオンの混合物を該イオンの質量電荷比によって分離する質量分析計内の装置である。
【0035】
「供給源」は、分析すべき試料をイオン化する質量分析計内の装置である。
【0036】
「検出器」はイオンを検知する質量分析計内の装置である。
【0037】
「イオン」は、原子への電子の添加または原子からの電子の除去によって形成される荷電体である。
【0038】
「質量スペクトル」は、質量分析計によって生成されるデータのプロットであり、一般にX軸上にm/z値およびy軸上に強度値が含まれる。
【0039】
「ピーク」は、比較的高いy値を持つ質量スペクトル上の点である。
【0040】
用語「m/z」とは、その電荷数でイオンの質量数を割ることによって形成される無次元量のことをいう。それは長い間、「質量電荷」比と呼ばれてきた。
【0041】
用語「代謝」は、生物の組織内で生ずる化学変化のことをいい、「同化」および「異化」が含まれる。同化とは、分子の生合成または蓄積のことをいい、異化は分子の分解のことをいう。
【0042】
「代謝産物」は、物質代謝に起因する中間体または生成物である。代謝産物は、しばしば「低分子」と言及される。
【0043】
用語「代謝学」は、細胞代謝産物の研究のことをいう。
【0044】
「生体高分子」は、1種類以上の反復単位からなる高分子である。生体高分子は、一般に生物系で見出され、特に多糖類(炭水化物等)およびペプチド(この用語はポリペプチドおよびタンパク質を含むようにして用いられる)およびポリヌクレオチド、同様にそれらの類似体、例えばアミノ酸類似体もしくは非アミノ酸基から構成もしくは含むそれらの化合物、あるいはヌクレオチド類似体もしくは非ヌクレオチド基が挙げられる。これは、従来の主鎖が天然主鎖または合成主鎖によって置き換えられているポリヌクレオチド、および1つ以上の従来の塩基が、ワトソン・クリック型の水素結合相互作用に関与することができる基(天然もしくは合成)と置き換えられている核酸(または合成類似体もしくは天然の類似体)を含む。ポリヌクレオチドとして、単鎖または複鎖状の構成が挙げられ、1本以上の鎖が別のものと完全に整列されていてもよく、あるいはされていなくてもよい。
【0045】
本明細書中で用いられる、用語「手術後組織」とは、外科的処置の過程で被検体から除去された組織のことをいう。例として、限定されるものではないが、生検試料、切除器官、および器官の切除部分が挙げられる。
【0046】
本明細書中で用いられる、用語「検出する」、「検出された」、または「検出」は、検出可能に標識された組成物の発見もしくは識別の一般的行為または特異的な観察を説明するものであってもよい。
【0047】
本明細書中で用いられる、用語「臨床的失敗」とは、前立腺摘除後の陰性結果のことをいう。臨床失敗に関連した結果の例として、限定されるものではないが、PSA値の増加(例えば、少なくとも0.2ng/mlの増加)または疾患(例えば、転移性前立腺癌)の再発が挙げられる。
【0048】
本明細書中で用いられる、用語「siRNA」とは低分子干渉RNAのことをいう。いくつかの実施形態では、siRNAは二重、すなわち二本鎖の領域から構成され、約18〜25ヌクレオチド長である。しばしば、siRNAは、約2ないし4つの不対ヌクレオチドを各々の鎖の3’末端に有する。siRNAの二重または二本鎖領域の少なくとも一本鎖は、標的RNA分子に対して、実質的に相同、または実質的に相補的である。標的RNA分子に対して相補的な鎖は、「アンチセンス鎖」である。標的RNA分子に対して相同な鎖は、「センス鎖」であり、siRNAアンチセンス鎖に対しては相補的である。siRNAはまた、追加の配列も含む。そのような配列の非限定例としては、連結配列、またはループ、同様に幹構造および他の折り畳み構造が挙げられる。siRNAは、無脊椎動物および脊椎動物においてRNA干渉を引き起こす際に、また植物において転写後の遺伝子サイレンシングの過程で配列特異的RNA分解を引き起こす際に、重要な中間体として機能する。
【0049】
用語、「RNA干渉」あるいは「RNAi」とは、siRNAsによる形質発現をサイレンシングまたは減少させることをいう。それは、動物および植物における配列特異的な転写後遺伝子サイレンシングのプロセスであり、サイレンシングされた遺伝子の配列に対する二重領域で相同であるsiRNAによって開始される。遺伝子は、生物に対して内因性または外因性のものであってよく、染色体に結合して存在、あるいはゲノムに結合されない導入ベクター内に存在してもよい。遺伝子の発現は、完全または部分的に抑制される。RNAiはまた、標的RNAの機能を阻害するとも考えられ、標的RNAの機能は完全または部分的であってもよい。
【0050】
発明の詳細な説明
本発明は癌マーカーに関する。特定の実施形態では、本発明は前立腺癌中に異なって存在する代謝産物を提供する。本発明の実施形態の開発の過程で行われた実験は、正常の前立腺に対して前立腺癌に異なって存在していることから一連の代謝産物を同定した。本発明の実施形態の開発過程で実施した実験で同定されたものは、例えばサルコシン、システイン、グルタミン酸塩、アスパラギン、グリシン、ロイシン、プロリン、スレオニン、ヒスチジン、N−アセチルアスパラギン酸、イノシン、イノシトール、アデノシン、タウリン、クレアチン、尿酸、グルタチオン、ウラシル、キヌレニン、グリセロール−s−リン酸塩、グリココール酸、スベリン酸、チミン、グルタミン酸、キサントシン、4−アセトアミド酪酸、N−アセチルチロシン、およびチミンであった。表3、4、10、および11は限局性かつ転移性の癌に存在する別の代謝産物を提供する。開示されたマーカーを診断および治療の標的として用いられることがわかる。いくつかの実施形態では、本発明は、サルコシンのレベル(例えば、腫瘍組織または他の体液中で)が高いことに基づいて侵襲性の前立腺癌を同定する方法を提供する。
【0051】
I. 診断適用
いくつかの実施形態では、本発明は癌を診断するための方法および組成物を提供するもので、限定されるものではないが、癌特異的代謝産物または該代謝産物の誘導体、前駆体、代謝産物等に基づいて、癌のリスク、癌の病期、癌の侵襲性、その他を特徴付けることが含まれている。例示的な診断方法を以下に説明する。
【0052】
したがって、被験者が前立腺癌であるかどうかを診断する(または診断を助ける)方法は、(1)被験者由来の試料中で、サルコシン、システイン、グルタミン酸塩、アスパラギン、グリシン、ロイシン、プロリン、スレオニン、ヒスチジン、N−アセチルアスパラギン酸、イノシン、イノシトール、アデノシン、タウリン、クレアチン、尿酸、グルタチオン、ウラシル、キヌレニン、グリセロール−s−リン酸塩、グリココール酸、スベリン酸、チミン、グルタミン酸、キサントシン、4−アセトアミド酪酸、およびN−アセチルチロシンおよびチミンから選択される1種類以上の癌特異的代謝産物の有無または差レベルを検出すること、ならびに(B)癌特異的代謝産物の有無または差レベルに基づいて癌を診断することが含まれる。そのような方法が前立腺癌の診断を助ける場合、該方法の結果が、被験者に前立腺癌があるかどうかの臨床的判断に役立つ他の方法(あるいはそれの結果)と共に、用いられてもよい。
【0053】
別の例において、前立腺癌を特徴づける方法は、癌と診察された被験者からの試料の有無または代謝産物(例えばサルコシン)の増加量を検出すること;ならびに(b)前記高レベルの代謝産物(例えばサルコシン)の存在に基づいて前立腺癌を特徴づけること、を含む。
【0054】
A. 試料
癌特異的代謝産物を含有すると思われる任意の患者試料を、本明細書中に記載の方法に基づいて試験する。非限定的な例として、試料は、組織(例えば前立腺生検試料あるいは手術後の組織)、血液、尿、またはそれらの分画(例えば血漿、漿液、尿上清、尿細胞沈渣、もしくは前立腺細胞)であってもよい。いくつかの実施形態では、試料は、生検または外科手術(例えば前立腺生検)から得られた組織試料である。
【0055】
いくつかの実施形態では、患者試料は、癌特異的代謝産物を含む細胞について、試料を単離または濃縮するように設計された予備処理を実施する。この目的のために、当業者に知られている種々の技術を用いることが可能であり、該方法として、限定されるものではないが、遠心分離、免疫捕捉、および溶菌が挙げられる。
【0056】
B. 代謝産物の検出
代謝産物は、任意の適当な方法を用いて検出することが可能であり、該方法として、限定されるものではないが、液体クロトグラフィおよび気体クロトグラフィを単独として、または質量分析法(例えば、以下の実験の項を参照)、NMR(例えば、本明細書に援用される米国特許公報第20070055456号を参照)、免疫学的アッセイ、化学的アッセイ、および分光法等が挙げられる。いくつかの実施形態では、クロトグラフィおよびNMR分析用の市販の装置が用いられる。
【0057】
他の実施形態では、代謝産物(すなわち、バイオマーカーおよびその誘導体)の検出は、磁気共鳴分光法(MRS)、磁気共鳴画像(MRI)、CATスキャン、超音波、MSに基づいた組織画像診断、またはX線検出法(例えばエネルギー分散方式のX線螢光検出)等の光学的画像形成技術を用いて、おこなわれる。
【0058】
生体試料中の1種類以上の代謝産物の有無またはレベルを決定するために、任意の適当な方法を用いて該生体試料を分析する。適当な方法として、クロトグラフィ(例えばHPLC、ガスクロトグラフィ、液体クロトグラフィ)、質量分析法(例えばMS、MS−MS)、酵素結合抗体免疫吸着アッセイ(ELISA)、抗体リンケージ、他の免疫化学的技術、生化学反応もしくは酵素反応、または分析、およびそれの組み合わせが挙げられる。さらに、1種類以上の代謝産物のレベルを、例えば、測定が臨まれるバイオマーカーのレベルと関連する測定されることが所望のバイオマーカーのレベルと相関関係を有する化合物(または複数の化合物)のレベルを測定するアッセイを用いることによって、間接的に測定することも可能である。
【0059】
列挙された代謝産物の1つ以上のレベルを本発明の方法で測定することが可能である。例えば、そのような方法で、1つの代謝産物、2つ以上の代謝産物、3つ以上の代謝産物、4つ以上の代謝産物、5つ以上の代謝産物、6つ以上の代謝産物、7つ以上の代謝産物、8つ以上の代謝産物、9つ以上の代謝産物、10以上の代謝産物のレベルを測定または使用することが可能であり、該代謝産物として、限定されるものではないが、例えばサルコシン、システイン、グルタミン酸塩、アスパラギン、グリシン、ロイシン、プロリン、スレオニン、ヒスチジン、N−アセチルアスパラギン酸、イノシン、イノシトール、アデノシン、タウリン、クレアチン、尿酸、グルタチオン、ウラシル、キヌレニン、グリセロール−s−リン酸塩、グリココール酸、スベリン酸、チミン、グルタミン酸、キサントシン、4−アセトアミド酪酸、N−アセチルチロシン、およびチミン等の一部または全部の組み合わせが挙げられる。代謝産物の組み合わせのレベルを決定することで、前立腺癌を診断する方法および前立腺癌の診断を補助する方法等の方法で、より高い感度および特異度が可能となり、また他の前立腺疾患(例えば前立腺肥大症(BPH)、前立腺炎等)または前立腺癌に対して同様もしくはオーバーラップする代謝産物を有すると思われる他の癌の良好な分化または特徴付けを可能とすると考えられる。例えば生体試料に含まれる複数の特定の代謝産物のレベルの比によって、前立腺癌を診断する方法および前立腺癌の診断を補助する方法等の方法で、より高い感度および特異度が可能となり、また前立腺癌に対して同様もしくはオーバーラップする代謝産物を有すると思われる他の癌または他の前立腺疾患の良好な分化または特徴付けを可能とすると考えられる(前立腺癌を持たない被験者と比較)。
【0060】
C. データ分析
いくつかの実施形態では、コンピュータ・ベースの分析プログラムは検出分析(例えば癌特異的代謝産物の有無または量)によって生成された生データを臨床医のための予測価のデータに翻訳するために用いられる。臨床医は任意の適当な手段を用いて、予測データにアクセスすることができる。したがって、いくつかの実施形態では、本発明は、代謝産物分析の訓練を受けていないと思われる臨床医が生データを理解する必要がないという、さらなる利点が得られる。データは、該データの最も有用な形態で、臨床医に直接提示される。続いて、臨床医は、被験者の診療を最適化するために、情報を直ちに利用することができる。
【0061】
本発明が検討することは、分析を実施する研究所間での情報の受信、処理、および送信を可能にする任意の方法であり、情報は医療関係者および被験者に提供される。例えば、本発明のいくつかの実施形態では、被験者から試料(例えば生検試料あるいは血液、尿、または血清試料)を得る。この試料は、世界中の任意の場所(被験者が居住する国とは異なる国の中、もしくは情報が最終的に使用されるところ)に位置したプロファイリング・サービス(例えば医療施設などの臨床試験室)に提出される。試料に組織または他の生体試料が含まれる場合には、被験者は医療センターに出向いて試料の採取をおこない、プロファイリング・センターに送る。あるいは、被験者は自分自身で試料(例えば、尿試料)を採取し、直接それをプロファイリング・センターへ送ってもよい。試料が既に決定された生体情報を含む場合には、被験者によってこの情報を直接プロファイリング・サービスに送付することも可能である(例えば、情報を含む情報カードをコンピュータでスキャンし、電子通信システムを用いてデータをプロファイリング・センターのコンピュータへ送信してもよい)。プロファイリング・サービスによって受信されるとただちに、被験者が臨む診断または予後情報に限定された試料の処理およびプロファイルの作成(すなわち、代謝学的プロファイル)がおこなわれる。
【0062】
その後、プロファイル・データを、治療をおこなう医師が解釈するのに適したフォーマットに調製される。例えば、生データを提供するのではなく、準備したフォーマットが患者の診断またはリスク・アセスメント(例えば、癌存在の可能性)を、特定の治療オプションの推奨とともに、提示するものであってもよい。データを任意の適当な方法によって臨床医が表示してもよい。例えば、いくつかの実施形態では、プロファイリング・サービスは、臨床医に対して印刷可能な報告書(例えば、診療現場で)を生成してもよく、または臨床医に対してコンピュータ上に表示してもよい。
【0063】
いくつかの実施形態では、情報の分析は、診療現場あるいは地域施設で最初に分析される。その後、生データは、詳細な分析および/または臨床医もしくは患者にとって有用な情報への生データの変換をおこなうために、中央処理施設に送られる。中央処理施設は、データ分析のプライバシー(データはすべて一定のセキュリティ・プロトコルで中央施設に保存される)、速度、および均一性という利点をもたらす。その後、中央処理施設は、被験者を治療した後のデータの運命を制御することができる。例えば、電子通信装置を用いると、中央施設は臨床医、被験者、あるいは研究者にデータを供給することができる。
【0064】
いくつかの実施形態では、被験者は電子通信装置を用いて、データに直接アクセスすることができる。被験者は、結果に応じて、診療あるいはカウンセリングさらに選ぶことが可能である。いくつかの実施形態では、データは研究使用に用いられる。例えば、特定病状または病期の有用な指標としてマーカーの取り込みまたは除去のさらなる最適化に、データを用いてもよい。
【0065】
試料中の1種類以上の代謝産物の量またはレベルが決定される場合、量またはレベルを、前立腺癌代謝産物基準レベル、例えば前立腺癌陽性基準レベルおよび/または前立腺癌陰性基準レベルと比較することで、診断の補助または患者が前立腺癌を持っているかどうかの診断を補助することが可能である。前立腺癌陽性基準レベルに対応する試料中の1種類以上の代謝産物のレベル(例えば、基準レベルと同じ、実質的に基準レベルと同じ、最小の基準レベル未満および/または最大の基準レベル未満よりも上および/または下、および/または基準レベルの範囲内であるレベル)は、被験者の前立腺癌を診断する指標となる。さらに、前立腺癌陰性基準レベルと比較して、試料内に異なって存在している1種類以上の代謝産物のレベル(特に統計的に有意なレベルで)は、被検体の前立腺癌を診断する上での指標となる。前立腺癌陽性基準レベルと比較して、試料内に異なって存在している1種類以上の代謝産物のレベル(特に統計的に有意なレベルで)は、被検体の前立腺癌を診断する上での指標となる。
【0066】
様々な技術を用いて、1種類以上の代謝産物のレベルを前立腺癌陽性基準レベルおよび/または前立腺癌陰性基準レベルと比較することが可能であり、該技術として、生体試料中の1種類以上の代謝産物のレベルを前立腺癌陽性基準レベルおよび/または前立腺癌陰性基準レベルと単純に比較(例えば手作業で比較)することが挙げられる。生体試料中の1種類以上の代謝産物のレベルも、1つ以上の統計的分析(例えばT検定、ウェルチのT検定、ウィルコクソンの順位和検定、ランダムフォレスト)を用いて、前立腺癌陽性レベルおよび/または前立腺癌陰性レベルと比較可能である。
【0067】
D. 組成物およびキット
本発明のいくつかの実施形態の診断法で用いるための(例えば、十分に、必要な、または有用な)組成物として、癌特異的代謝産物の有無を検出するための試薬が挙げられる。これらの組成物のいずれも、単独で、または本発明の他の組成物と組み合わせて、キットの形で提供することが可能である。キットは、さらに、制御剤および/または検出試薬を複含む。
【0068】
E. パネル
本発明の実施形態は、本発明のマーカーの1つ以上を同時に検出する多重アッセイまたはパネル・アッセイを提供するもので、該マーカー(例えば、サルコシン、システイン、グルタミン酸塩、アスパラギン、グリシン、ロイシン、プロリン、スレオニン、ヒスチジン、N−アセチルアスパラギン酸およびイノシン、イノシトール、アデノシン、タウリン、クレアチン、尿酸、グルタチオン、ウラシル、キヌレニン、グリセロール−s−リン酸塩、グリココール酸、スベリン酸、チミン、グルタミン酸、キサントシン、4−アセトアミド酪酸、N−アセチルチロシン、またはチミン)を単独であるいは当該技術分野で公知の別の癌マーカーと組み合わせる。例えば、いくつかの実施形態では、パネル・アッセイまたは組み合わせアッセイを用いて、単一のアッセイで2種類以上、3種類以上、4種類以上、5種類以上、6種類以上、7種類以上、8種類以上、9種類以上、10種類以上、15種類以上、または20種類以上のマーカーを検出する。いくつかの実施形態では、アッセイは自動化されている、または高処理である。
【0069】
いくつかの実施形態では、さらに別の癌マーカーが多重分析またはパネル分析に含まれている。マーカーの選択は、予測価単独に対して、または本明細書に記載した代謝マーカーと組み合わせに対して、おこなわれる。典型的な前立腺癌マーカーとして、限定されるものではないが、AMACR/P504S(米国特許第6,262,245号);PCA3(米国特許第7,008,765号);PCGEML(米国特許第6,828,429号);プロステイン/P501S、P503S、P504S、P509S、P510S、プロスターゼ/P703P、P710P(米国特許公報第20030185830号);ならびに米国特許第5,854,206号および第6,034,218号、および米国特許公報第20030175736号に開示されたものが挙げられ、これらの各々を全体として本明細書において参考として援用する。他の癌、疾患、感染、及び代謝学的症状のマーカーもまた、多重フォーマットまたはパネル・フォーマットへの包含が意図される。
【0070】
II. 治療方法
いくつかの実施形態では、本発明は治療方法(例えば本明細書中に記載した癌特異的代謝産物を標的にするもの)を提供する。いくつかの実施形態では、治療方法は本明細書中に記載した癌特異的代謝産物の酵素または経路構成要素を標的にする。
【0071】
例えば、いくつかの実施形態では、本発明は、本発明の癌特異的代謝産物を標的とする化合物を提供する。化合物は、例えば癌特異的代謝産物の合成を妨げることによって(例えば代謝産物の合成に関与する酵素の転写あるいは翻訳を阻害することによって、代謝産物の合成に関与する酵素の不活性化によって(例えば翻訳後修飾もしくは不可逆阻害剤への結合によって)、またはさもなければ代謝産物の合成に関与する酵素の活性を抑制することによって)、あるいはそれらの前駆体または代謝産物のレベルを、癌特異的代謝産物に結合してその機能を抑制することによって、癌特異的代謝産物の標的に結合することによって(例えば競合阻害剤または拮抗阻害剤)、あるいは代謝産物の破壊またはクリアランスを増加することによって、癌特異的代謝産物のレベルを減少させうる。化合物は、例えば、癌特異的代謝産物の分解またはクリアランスを抑制することによって(例えば代謝産物の分解に関与する酵素の抑制によって)、癌特異的代謝産物の前駆体のレベルを増加させることによって、あるいはその標的に対する代謝産物の親和性を増加させることによって、癌特異的代謝産物のレベルを増加させることが可能である。典型的な治療標的として、限定されるものではないが、グリシン−N−メチル基転移酵素(GNMT)およびサルコシンが挙げられる。
【0072】
A. 代謝経路
典型的な癌特異的代謝産物の代謝経路を以下に説明する。追加の代謝産物については、本発明の組成物および方法での使用について検討し、例えば、以下の実施例の項で説明する。
【0073】
i. サルコシン代謝
例えば、サルコシンは、肝臓でのコリン代謝に関係する。哺乳類の肝臓でのグリシンへのコリンの酸化分解反応は、ミトコンドリア内で起こり、ここでそれは特異的な輸送体を介して入る。この代謝経路の最後の2ステップは、ジメチルグリシンをサルコシンに変換するジメチルグリシン・デヒドロゲナーゼ(ME2GLYDH)と、サルコシン(N−メチルグリシン)をグリシンに変換するサルコシンデヒドロゲナーゼ(SARDH)とによって、触媒される。したがって、いくつかの実施形態では、治療組成物はME2GLYDHおよび/またはSARDHを標的にする。典型的な化合物は、例えば本明細書に記載の薬物スクリーニング方法を用いて、同定される。
【0074】
ii. グリシド酸代謝
コレステロール利用の最終生産物は、肝臓内で合成される胆汁酸である。胆汁酸の合成は、過剰なコレステロールを排出することに対する主要なメカニズムである。しかし、胆汁酸の形となったコレステロールの排出は、食事によるコレステロールの過剰摂取を相殺するには不十分である。ヒトの胆汁で最も豊富な胆汁酸は、ケノデオキシコール酸(45%)およびコール酸(31%)である。胆汁酸のカルボキシル基は、胆細管への分泌に先だってグリシンまたはタウリンのいずれかへ、アミド結合を介して共役結合する。これらの共役結合反応は、グリココール酸およびタウロコール酸の各々を生ずる。胆細管は胆汁小導管と連結し、その後、胆管を形成する。それらの管を介して、胆汁酸は肝臓から胆嚢へ運ばれ、将来の使用のために、胆嚢に蓄えられる。胆汁酸の最終的な運命は、小腸に分泌されることであり、該小腸で食物中の脂肪の乳化を助ける。腸では、グリシンおよびタウリンの残渣が除去され、胆汁酸は腸によって排泄(僅かな割合)または再吸収され、肝臓に戻される。このプロセスを腸肝循環と呼ぶ。
【0075】
iii. スベリン酸代謝
スベリン酸(さらにオクタン二酸)は、式C6H12(COOH)2のジカルボン酸である。ジカルボン酸のペルオキシゾームの代謝は、中鎖ジカルボン酸、アジピン酸、スベリン酸、およびセバシン酸の生成をもたらし、これらは尿中に排泄される。
【0076】
iv. キサントシン物質代謝
キサントシンはプリンヌクレオシド物質代謝に関係する。具体的には、キサントシンはグアノシンへのイノシンの転化における中間物である。キサンチル酸は、急性リンパ芽球性白血病(ALL)の子どもたちにとって最適なチオプリン療法を保証することで推奨されるように、プリン代謝におけるイノシン酸リン酸塩デヒドロゲナーゼ酵素活性の定量測定に用いられる。
【0077】
B. 小分子療法
いくつかの実施形態では、小分子療法に利用される。一実施形態では、小分子療法は癌特異的代謝産物を標的にする。いくつかの実施形態では、小分子療法は、例えば、本発明の薬物スクリーニング法を用いることで、確認される。
【0078】
C. 核酸に基づく療法
他の実施形態では、核酸ベースの療法が用いられる。典型的な核酸ベースの治療法として、限定されるものではないが、アンチセンスRNA、siRNA、およびmiRNAが挙げられる。いくつかの実施形態では、核酸ベースの治療法は、癌特異的代謝産物(例えば、上記したもの)の代謝経路の酵素の発現を標的にする。
【0079】
いくつかの実施形態では、核酸ベースの治療法はアンチセンスである。siRNAは遺伝子に特有の治療薬として用いられる(Tuschl and Borkhardt, Molecular Intervent. 2002; 2(3): 158-67, 参照により本明細書中に援用する)。動物細胞へのsiRNAのトランスフェクションは、特定遺伝子を効力のある永続的な転写後サイレンシングをもたらす(Caplen et al, Proc Natl Acad Sci U.S.A. 2001; 98: 9742-7; Elbashir et al., Nature. 2001; 411 :494-8; Elbashir et al., Genes Dev. 2001;15: 188-200; および Elbashir et al, EMBO J. 2001; 20: 6877-88、これら全てを参照により本明細書中に援用する)。siRNAによるRNAiをおこなうための方法および組成物は、例えば、米国特許第6,506,559号(参照により本明細書中に援用する)。
【0080】
他の実施形態では、癌特異的代謝産物の代謝経路に含まれる遺伝子の発現はアンチセンス化合物を用いて調節される。該アンチセンス化合物は酵素をコードする1つ以上の核酸と特異的にハイブリダイズする(例えば、Georg Sczakiel, Frontiers in Bioscience 5, d194-201 January 1, 2000; Yuen et al., Frontiers in Bioscience d588-593, June 1, 2000; Antisense Therapeutics, Second Edition, Phillips, M. Ian, Humana Press, 2004; これらの各々の参照により本明細書中に援用する)。
【0081】
D. 遺伝子治療
本発明は、ここに記述された癌特異的代謝産物の代謝経路に含まれる酵素の発現の調節で使用される任意の遺伝子操作の使用を検討する。遺伝子操作の例として、限定されるものではないが、遺伝子ノックアウト(例えば、組換え等を用いて染色体から遺伝子を取り除く)、誘導プロモーターの有無によるアンチセンス構築物の発現等が挙げられる。核酸構築物をインビトロまたはインビボの細胞へ送達することは、任意の適当な方法を用いておこなうことが可能である。適当な方法としては、所望の事象(アンチセンス構築物の発現)が起こるように、核酸構築物を細胞の中に導入する方法である。遺伝子治療もまた、インビボ(例えば、誘導プロモーターによる刺激に対して)で発現するsiRNAまたは他の干渉分子の送達に用いてもよい。
【0082】
遺伝子情報を担持する分子を細胞内に導入することは、種々の方法のいずれによっても達成される。種々の方法として、限定されるものではないが、裸DNA構築物の直接注入、上記構築物によってロードされた金粒子による微粒子銃、ならびにリポソームおよび生体ポリマー等を用いた巨大分子媒介遺伝子導入が挙げられる。好ましい方法は、ウイルス由来の遺伝子送達ビヒクルを用いるもので、該ウイルスとして、限定されるものではないが、アデノウイルス、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、およびアデノ関連ウイルスが挙げられる。レトロウイルスと比べて効率が高いことから、アデノウイルス由来のベクターが、インビボで核酸分子を宿主細胞に導入するための好ましい遺伝子送達ビヒクルとしてある。アデノウイルス・ベクターは、動物モデルにおける種々の固形腫瘍への、および免疫欠陥マウスにおけるヒト固形腫瘍異種移植片へのインビボ遺伝子導入においてかなり効率的である。遺伝子導入のためのアデノウイルス・ベクターおよび方法の例は、PCT公報WO 00/12738およびWO 00/09675ならびに米国特許出願第6,033,908号、第6,019,978号、第6,001,557号、第5,994,132号、第5,994,128号、第5,994,106号、第5,981,225号、第5,885,808号、第5,872,154号、第5,830,730号、および第5,824,544号(これらの各々のその全体を参照により本明細書中に援用する)に記載されている。
【0083】
被験者に対するベクターの投与を、様々な方法でおこなうことが可能である。例えば、本発明のいくつかの実施形態では、ベクターは、直接注射を用いて、腫瘍または腫瘍関連組織に投与される。他の実施形態では、投与は血液またはリンパ循環を介して行われる(例えば、PCT公報99/02685を参照。その全体を参照により本明細書中に援用する)。アデノウイルス・ベクターの典型的な投与レベルは、潅流液に対して添加された108ないし1011個のベクター粒子が好ましい。
【0084】
E.抗体療法
いくつかの実施形態では、本発明の標的癌特異的代謝産物または該産物の代謝経路に関与する酵素を標的とする抗体を提供する。任意の適当な抗体(例えば、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、または合成抗体)をここに開示した治療方法で用いることが可能である。好ましい実施形態では、癌治療に用いる抗体は、ヒト化抗体である。抗体をヒト化する方法は当該技術分野において周知である(例えば米国特許第6,180,370号、第5,585,089号、第6,054,297号、および第5,565,332号を参照。これらの各々を参照により本明細書中に援用する)。
【0085】
いくつかの実施形態では、抗体ベースの治療法は、下記に述べられるような医薬組成物として処方される。好ましい実施形態では、本発明の抗体組成物の投与は、癌の測定可能な減少(例えば、腫瘍の減少または除去)をもたらす。
【0086】
F. 医薬組成物
本発明はさらに医薬組成物を提供する(例えば癌特異的代謝産物のレベルまたは活性を調節する医薬製剤を含む)。本発明のいくつかの実施形態の医薬組成物は、局所治療または全身治療のいずれが求められているのかに応じて、および処置すべき領域に応じて、多くの方法で投与可能である。投与は、局所(眼科用と膣・直腸送達を含む粘膜とに対するものが挙げられる)、肺(例えば、散剤もしくはエアゾール剤の吸入もしくは吸送、あるいは噴霧器によるもの、気管内、鼻腔、表皮、および経皮投与)、経口、または非経口投与が挙げられる。非経口投与として、静脈内、動脈内、皮下、腹腔内もしくは筋肉内注射、または輸液;あるいは頭蓋内、例えば、鞘内または脳室内の投与が挙げられる。
【0087】
局所投与用の医薬組成物および製剤として、軟膏剤、ローション剤、クリーム剤、ゲル剤、点滴剤、坐剤、噴霧剤、液剤、および散剤を挙げることが可能である。従来の医薬担体、水性、粉末、または油性の基剤、増粘剤、およびその他も必要である場合があり、または望ましい場合もある。
【0088】
経口投与用の組成物および製剤として、粉末または顆粒、水中または非水性媒体中の懸濁液または溶液、カプセル、サシェ、あるいは錠剤が挙げられる。増粘剤、香料、賦形剤、乳化剤、分散助剤、または結合材も望まれる場合もある。
【0089】
非経口、鞘内、あるいは脳室内投与の組成物および製剤として、緩衝液、希釈剤、および他の適当な添加剤、例えば、限定されるものではないが、浸透促進剤、担体化合物、および他の医薬的に許容し得る担体または賦形剤等も含むことが可能である滅菌水溶液が挙げられる。
【0090】
本発明の医薬組成物として、限定されるものではないが、溶液、乳剤、およびリポソーム含有製剤が挙げられる。これらの組成物は、種々の成分から生成することが可能であり、該成分として、限定されるものではないが、予備成形液体、自己乳化固体、および自己乳化半固体物質が挙げられる。
【0091】
単位剤形によって簡便に示される本発明の医薬製剤は、薬品工業でよく知られている従来の技術によって調製することが可能である。そのような技術は、有効成分を医薬担体または賦形剤と結合させるステップを含む。一般に、製剤の調製は、有効成分あるいは最終的に分けられる固体担体またはそれらの両方を液体担体と均一かつ一様に結合させ、さらに、必要に応じて、生成物を成形することによって、なされるものである。
【0092】
本発明の組成物を、数多くの可能な剤形のいずれかに処方することが可能であり、該剤形として、限定されるものではないが、例えば錠剤、カプセル剤、液体シロップ剤、ソフトゲル剤、坐薬、および浣腸剤が挙げられる。本発明の組成物を、水性もしくは非水性、または混合媒体状の懸濁剤として構築することも可能である。水性懸濁液は、さらに、懸濁液の粘度を高める物質を含むものであってもよく、該物質として、ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、ソルビトールおよび/またはデキストランが挙げられる。その懸濁液はさらに安定剤を含むものであってもよい。
【0093】
本発明の一実施形態では、医薬組成物を泡として処方および使用することも可能である。医薬用の泡沫には、製剤、例えば、限定されるものではないが、エマルジョン、マイクロエマルジョン、クリーム、ゼリー、およびリポソームが含まれる。自然界において基本的に類似しているが、これらの製剤は最終生産物の成分およびコンシステンシーが異なる。
【0094】
細胞レベルでオリゴヌクレオチドの摂取を増強する薬剤も本発明の医薬組成物および他の組成物に加えられることが可能である。例えば、リポフェクチン(米国特許第許5,705,188号)等のカチオン脂質、カチオン性グリセリン誘導体、およびポリリジン等のポリカチオン性分子(WO 97/30731)もまた、細胞によるオリゴヌクレオチドの取り込みを増強する。
【0095】
本発明の組成物は、さらに、医薬組成物に従来見出されている他の付加的成分をさらに含むものであってもよい。したがって、例えば、組成物は、付加的で、互換性があり、医薬的に活性のある物質を含むものであってもよく、該物質として、例えば、例えばかゆみ止め、収斂剤、局所麻酔剤または抗炎症薬が挙げられる。あるいは、本発明の組成物の種々の剤形を物理的に処方するのに有用な付加的な物質を含むものであってもよく、該物質として、染料、香料、防腐剤、酸化防止剤、乳白剤、増粘剤、および安定化剤が挙げられる。しかし、そのような物質は、添加した場合に、本発明の組成物の成分の生物活性を過度に妨げるものであってはならない。製剤を滅菌することも可能であり、また必要に応じて、助剤と混合することもできる。該助剤として、例えば、潤剤、防腐剤、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧に影響を及ぼす塩類、緩衝液、着色剤、香味剤、および/または芳香族物質等が挙げられ、これらは製剤の核酸と有害的な相互作用するものであってはならない。
【0096】
本発明の特定の実施形態は、医薬組成物を提供するものであり、該医薬組成物は、(a)1種類以上の核酸化合物と、(b)異なる機構で作用する1種類以上の他の化学療法剤を含む。そのような化学療法剤の例として、限定されるものではないが、ダウノルビシン、ダクチノマイシン、ドクソルビシン、ブレオマイシン、マイトマイシン、ナイトロジェンマスタード、クロラムブチル、メルファラン、シクロホスファミド、6−メルカプトプリン、6−チオグアニン、シタラビン(CA)、5−フルオロウラシル(5−FU)、フロクスウリジン(5−FUdR)、メトトレキセート(MTX)、コルヒチン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、エトポシド、テニポシド、シスプラチン、およびジエチルスチルベストロール(DES)等の抗癌薬が挙げられる。抗炎症薬(限定されるものではないが、非ステロイド系抗炎症薬およびコルチコステロイド)ならびに抗ウイルス剤(限定されるものではないが、リビビリン、ビダラビン、アシクロビル、およびガンシクロビル)もまた、本発明の組成物と混合してもよい。他の非アンチセンス化学療法剤は、さらにこの発明の範囲内である。2種類以上の混合化合物を一緒または連続的に使用することも可能である。
【0097】
投薬は、数日から数か月にわたって、あるいは治療が効果を示すか、または疾患状態の減少が達成されるまでの治療経過とともに、扱われる疾患状態の重症度および反応性に依存するものである。最適な投薬スケジュールは、患者体内の薬物蓄積の測定から計算することができる。投与する医師は、容易に最適な投薬量、投薬方法論、および反復率を決定することができる。最適投与量は、個々のオリゴヌクレオチドの相対的な潜在能力に依存して変動する場合があり、一般に、インビトロ・インビボの動物モデルに効果的と分かるEC50に基づいて、あるいは本明細書に記述された例に基づく評価することができる。一般に、投与量は体重1kgあたり0.01μgないし100gであり、毎日、毎週、毎月、または毎年1回以上投与することが可能である。治療をおこなう医師は、測定残留時間および体液および組織中の薬物濃度に基づいて投与するための繰り返し率を評価することができる。治療の成功に続いて、被験者に症状の再発を防ぐための維持療法を受けさせることが望ましいと考えられる。ここでは、医薬組成物の投与は、体重1kgあたり0.01μgないし100gの範囲で、毎日1回以上、20年毎に1回まで、おこなう。
【0098】
III. 薬物スクリーニング適用
いくつかの実施形態では、本発明は薬物スクリーニング検査(例えば、抗癌薬のスクリーニングするために)を提供する。本発明のスクリーニング方法は、本明細書中に記述された癌特異的代謝産物を利用する。上に記述されるように、いくつかの実施形態では、試験化合物は小分子、核酸、あるいは抗体である。いくつかの実施形態では、試験化合物は癌特異的代謝産物を直接標的とする。他の実施形態では、それらは癌特異的代謝産物の代謝経路に関与する酵素を標的とする。
【0099】
好ましい実施形態では、薬物スクリーニング法は高生産性(ハイスループット)の薬物スクリーニング法である。ハイスループットスクリーニングのための方法は当該技術分野では周知であり、限定されるものではないが、米国特許第6468736号、WO06009903、および米国特許第5972639号(本明細書中、これらの各々を参照により援用する)に記載されたものが挙げられる。
【0100】
本発明のいくつかの実施形態の試験化合物は、生物学のライブラリーを含む当該技術分野中で既知の組み合わせのライブラリー方法の中で多数のアプローチのうちのどれでも用いて得ることができる。すなわち、ペプトイド・ライブラリー(ペプチドの機能を持つが、生物活性はそのままであるにもかかわらず、酵素的分解に対して耐性を示す新規な非ペプチド主鎖を有するペプチドの機能性を持った分子のライブラリー(例えば、Zuckennann et al, J. Med. Chem. 37: 2678-85 [1994]を参照)、空間的にアドレス可能な並列固相または溶液相ライブラリー、ディコンボリューションを要求する合成ライブラリー方法、「一ビーズ一化合物」ライブラリー方法、およびアフィニティー・クロトグラフィを用いる合成ライブラリ方法が挙げられる。生物学的ライブラリーおよびペプトイド・ライブラリーによるアプローチは、ペプチド・ライブラリーとともに使用することが好ましく、一方他の4通りのアプローチはペプチド、非ペプチド・オリゴマーまたは複数の化合物の低分子ライブラリーに適用可能である(Lam (1997) Anticancer Drug Des. 12:145)。
【0101】
分子ライブラリーを合成する方法の例を当該技術分野で見出すことができる(その例として、DeWitt et al, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 90:6909 [1993]; Erb et al, Proc. Nad. Acad. Sci. USA 91 :11422 [1994]; Zuckermann et al, J. Med. Chem. 37:2678 [1994]; Cho et al, Science 261 : 1303 [1993]; Carrell et al, Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33.2059 [1994]; Carell et al, Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33:2061 [1994]; and Gallop et al, J. Med. Chem. 37:1233 [1994]、が挙げられる)。
【0102】
化合物のライブラリーは、溶液(例えば、Houghten, Biotechniques 13:412-421 [1992])、またはビーズ上で提示される場合(Lam, Nature 354:82-84 [1991]), チップで提示される場合 (Fodor, Nature 364:555-556 [1993]), 細菌または胞子で提示される場合 (米国特許第5,223,409号、参照により本明細書中に援用)、プラスミド(Cull et al, Proc. Nad. Acad. Sci. USA 89:18651869 [1992])、またはファージ (Scott and Smith, Science 249:386-390 [1990]; Devlin Science 249:404-406 [1990]; Cwirla et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 87:6378-6382 [1990]; Felici, J. MoI. Biol. 222:301 [1991])の状態で提示される。
【0103】
いくつかの実施形態では、本明細書中に記述されたマーカーを用いて、癌のための治療薬を同定するためのモデル系を生産する。例えば、癌特異的バイオマーカー代謝産物(例えば細胞増殖を活性化するサルコシン)は細胞株の癌悪性度を増加させるために細胞株に加えることができる。細胞株は、抗癌剤をスクリーニングするのに有用である反応(例えば、「読み出し」)の動的範囲が改善される。インビトロの例が記述されているが、モデル・アッセイ系はインビトロ、インビボ、またはエクスビボであってもよい。
【0104】
VII. トランスジェニック動物
本発明は、外因性の遺伝子(例えば、癌特異的代謝産物のレベルが変更される)を含むトランスジェニック動物の生成を検討する。好ましい実施形態では、野生型の動物と比較して、トランスジェニック動物において疾病表現型の変化(例えば代謝産物の増加または減少の存在)が示される。そのような疾病表現型の有無を分析する方法として、限定されるものではないが、本明細書中に開示されたものが挙げられる。いくつかの好ましい実施形態では、トランスジェニック動物は、さらに、腫瘍増殖の増大または減少あるいは癌の徴候の増大または減少を示す。
【0105】
本発明のトランスジェニック動物を用いることで、薬物(例えば癌治療)スクリーニングがおこなえることがわかった。いくつかの実施形態では、試験化合物(例えば、癌の治療に有用であると考えられている薬物)および対照化合物(例えば、偽薬)をトランスジェニック動物および対照動物に投与し、効果を評価する。
【0106】
トランスジェニック動物を、種々の方法を介して生成することができる。いくつかの実施形態では、様々な発生段階の胎児細胞が、トランスジェニック動物生産用のトランス遺伝子導入に用いられる。胎児細胞の発生段階に依存して、異なる方法が用いられる。顕微微量注射にとって、受精卵は最良の標的である。マウスでは、雄性前核は直径が約20マイクロメートルの大きさに到達し、それによって1〜2ピコリットル(pi)のDNA輸液を再現可能に注射することが可能になる。遺伝子移入のための標的として受精卵を用いる主な利点は、多くの場合に、注入DNAが第一回目の卵割の前に宿主ゲノムに取り込まれるということである(Brinster et ah, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82:4438-4442 [1985])。結果として、トランスジェニック非ヒト動物の全ての細胞では、取り込まれたトランス遺伝子を運ぶ。このことは、一般的に、生殖細胞の50%がトランス遺伝子を保持することから、トランス遺伝子の効率的な転写にも反映され、創始細胞の子孫への効率的な伝達にも反映される。米国特許第4,873,191号は、受精卵に対する顕微微量注射の方法を開示している。この特許の開示内容全体を本明細書に援用する。
【0107】
他の実施形態では、レトロウイルス感染を用いて、トランス遺伝子を非ヒト動物に導入する。いくつかの実施形態では、レトロウイルスが用いられ、卵母細胞の卵黄周囲腔にレトロウイルス・ベクターを注入することによって卵母細胞のトランスフェクションをおこなう(米国特許第6,080,912号、参照により本明細書中に援用する)。他の実施形態では、発生中の非ヒト胚をインビトロで培養して胚盤胞期にすることができる。この時期では、割球がレトロウイルス感染の標的となり得る(Janenich, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 73:1260 [1976])。割球の効率的な感染は、透明帯を酵素処理によって取り除くことによって得られる(Hogan et al, in Manipulating the Mouse Embryo, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y. [1986])。トランス遺伝子の導入に用いられるウイルスベクターは、一般に、トランス遺伝子を運ぶレプリケート欠損レトロウイルス (Jahner et al, Proc. Natl. Acad Sci. USA 82:6927 [1985])である。トランスフェクションは、ウイルス産生細胞からなる単層上で割球を培養することによって、容易かつ効率的に得られる(Stewart, et al, EMBO J., 6:383 [1987])。あるいは、感染を後期段階でおこなうことができる。ウイルスまたはウイルス産生細胞を胞胚腔に注入することができる (Jahner et al, Nature 298:623 [1982])。創始細胞の多くがトランス遺伝子に対してモザイクとなる。なぜなら、トランスジェニック動物を形成する細胞の部分集合のみに取り込みが生ずるからである。さらに、創始細胞は、一般に子孫に分離されるゲノム内の異なる位置にトランス遺伝子の種々のレトロウイルス挿入片を含むと思われる。また、効率が低いとはいえ、妊娠中期胚の子宮内レトロウイルス感染によってトランス遺伝子を生殖細胞形列に導入することが可能である(Jahner et al, 上掲[1982])。当業者に公知のトランスジェニック動物を作るためのレトロウイルスまたはレトロウイルス・ベクターを用いる別の手段は、受精卵または初期胚の卵黄周囲腔にレトロウイルスを生産するレトロウイルス粒子の顕微微量注射またはマイトマイシンC処理細胞を含む (PCT International Application WO 90/08832 [1990]、およびHaskell and Bowen, MoI. Reprod. Dev., 40:386 [1995])。
【0108】
他の実施形態では、トランス遺伝子は胚性幹細胞へ導入される。また、トランスフェクトされた幹細胞は胚を形成するために利用される。ES細胞は、適当な条件下で着床前の胚をインビトロで培養することにより得られる(Evans et al, Nature 292: 154 [1981]; Bradley et al, Nature 309:255 [1984]; Gossler et al, Proc. Acad. Sci. USA 83:9065 [1986]; and Robertson et al, Nature 322:445 [1986])。トランス遺伝子は、当該技術分野で公知の様々な方法によるDNAのトランスフェクションをおこなうことで、ES細胞に効率的に導入されるもので、該方法として、リン酸カルシウム共沈、プロトプラスト、スフェロプラスト融合、リポフェクション、およびDEAEデキストラン媒介トランスフェクションが挙げられる。トランス遺伝子も、レトロウイルスを媒介とした形質導入あるいは顕微微量注射によって、ES細胞へ導入可能である。その後、そのようなトランスフェクトされたES細胞は、胚盤胞期の胚の胞胚腔内への導入に続いて、胚をコロニー化し、結果として生ずるキメラ動物の生殖細胞系列に寄与する(総説として、例えばJaenisch, Science 240:1468 [1988]を参照)。胞胚腔の中へのトランスフェクトされたES細胞の導入に先立って、トランスフェクトされたES細胞は、ES細胞を豊富にすべき様々な選択プロトコルによって処理することが可能であり、該E細胞は、トランス遺伝子が組み込まれており、該トランス遺伝子によってそのような選択の手段が提供されると考える。あるいは、トランス遺伝子を組み込んだES細胞をスクリーニングするため、ポリメラーゼ連鎖反応を用いてもよい。この技術は、胞胚腔への転移に先立って適当な選択条件下でトランスフェクトされたES細胞の増殖の必要性を取り除く。
【0109】
さらに別の実施形態では、相同組換えを用いて遺伝子機能のノックアウトまたは欠損変異株(例えば、切断突然変異体)の作成をおこなう。相同組換えの方法を米国特許第5,614,396号(参照により本明細中に援用する)に記載する。
【0110】
実験
以下の実施例は、本発明のいくつかの好ましい実施形態および態様を実証するとともにさらに例証するためのものであり、それらの範囲の制限として解釈されるものではない。
【0111】
実施例1
A. 方法:
臨床の試料:
良性の前立腺および局所的な前立腺癌組織を、ミシガン大学病院での一連の根治的前立腺摘除から得た。また、転移性前立腺癌生物検体は迅速剖検プログラム(Rapid Autopsy Program)から得たものである。これらは、両方とも、ミシガン大学における前立腺癌のスペシャライズド・プログラム・オブ・リサーチ・エクセレンス・ティッシュ・コア(Specialized Program of Research Excellence (S.P.O.R.E) Tissue Core)の一部である。試料を、インフォームド・コンセプトと、ミシガン大学での施設内治験審査委員会承認とを受けて、収集した。この研究のプロファイリング・フェーズで使用した組織試料の各々に関する詳細な臨床情報を表1に示す。サルコシンを検証するための組織および尿試料に関する類似の情報を、それぞれ表5および6に示す。代謝学的評価に先立って、試料の全てから識別子を取り除いた。プロファイリング研究をおこなうために、いかなる臨床的情報を付加することもなく、組織試料をメタボロン(Metabolon)社へ送付した。受取に際して、メタボロン(Metabolon)によって各々試料がLIMSシステムに登録され、固有の10桁の識別子が各々の試料に割り当てられた。試料にはバーコードが付加され、この匿名の識別子のみが全ての試料の取り扱い、タスク、結果等を追跡する際に用いられた。試料の全てを、使用まで−80℃に保存した。
【0112】
一般的な考察: すべての試料の代謝学的プロファイリング分析を、次のような一般的なプロトコルを用いて、メタボロン(Metabolon)と共同で実施した。任意の実験的ドリフト(図5)を回避するために、質量分光分析に先立って試料の全てを無作為化した。注入標準、プロセス標準、およびアラインメント標準を含む多くの内部標準を用いることで、QA/QC標的が満たされたことを保証し、かつ実験的ばらつきを制御した(標準の説明については表2を参照)。組織標本を、21の試料の各々について2つのバッチで処理した。3つの組織診断分類(良性前立腺、PCA、および転移性腫瘍)の各々に由来する試料を2つのバッチに等しく分配した(図5)。したがって、各バッチでは、8つの良性前立腺試料、6つのPCA試料、および7つの転移性腫瘍試料があった(図5)。続いて、試料を以下のように処理した。
【0113】
試料調製: 分析を実施するまで、試料を冷凍保存した。試料調製をプログラム化かつ自動化した。そのことはハミルトン・カンパニー(Hamilton Company (Reno, NV))のMicroLab STAR(登録商標)試料調製システム上で実施した。試料抽出を、連続的な有機および水抽出によるものとした。回収の基準を、抽出過程の最初に導入した。結果として生ずるプールされた抽出物を、液体クロトグラフィ(LC)分画およびガスクロトグラフィ(GC)分画に等しく分けた。有機溶媒を取り除くために、TurboVap(登録商標)蒸発装置(Zymark, Claiper Life Science, Hopkinton, MA)上で、試料の乾燥をおこなった。最後に、試料を凍結し、凍結乾燥した。以下に具体的に説明されるように、試料の全てを、注入に先立って最終的な溶解強度および量に合わせた。注入標準を、最終的な溶解過程で導入した。対照およびブランクに加えて、試料調製および分析ばらつきを絶えず評価することができるように、別の十分に特徴付けられた試料(QC検証のためのQC対照)を、無作為化スキームに複数回含ませた。
【0114】
液体クロトグラフィ/質量分析(LC/MS): プラットフォームのLC/MS部分は、サーベイヤー(Surveyor)HPLCおよびテルモ・フィニガン(Thermo−Finnigan)LTQ−FT質量分析計(Thermo Fisher Corporation, Waltham, MA)に基づく。LTQ側データを化合物の定量に用いた。FT側データは、回収した際に、特異的な化合物の同一性を単に確認するために用いられた。機器の設定を、陽性・陰イオンの両方が連続監視できるようにした。いくつかの化合物は、これらのデータ・ストリームの複数にわたって重複して視覚化されるが、インターフェース間で感度および線形性が著しく異なるだけではなく、いくつかの例では、それらの重複性がQCプログラムの一部として実際に使われる。
【0115】
減圧乾燥された試料を、一定の濃度の注入標準を5つ以上含む100μlの注入用溶媒に再度溶解させた。クロトグラフィを標準化し、けっして変更させることはしなかった。注入およびクロトグラフィの一貫性(コンシステンシー)を確認するために、両方とも内部標準を用いた。クロトグラフィ装置の操作は、5%〜100%を8分間、その後に100%ACNで8分間というアセトニトリル(ACN):水勾配(両方の溶媒は0.1%TFAの添加によって変更)を用いて、おこなった。その後、カラムを再調整することで、開始状態にもどした。カラム(Aquasil C-18, Thermo Fisher Corporation, Waltham, MA)の使用中には、温度調節されたチャンバーに保管し、毎回50回の注入後にカラムの交換、洗浄、および再調整をおこなった。メタボロン(Metabolon)の一般業務の一部として、これらの実験の開始時に、全てのカラムを単一の製造元ロットから購入した。全ての溶媒も同様に、全ての実験を完了するのに十分な量で、単一の製造元ロットから大量購入した。全ての試料にLIMSによるバーコードを取り付け、全てのクロトグラフィの稼働をLIMSによりスケジューリングされたタスクとした。生データファイルについては、それらのLIMS識別子による追跡および処理を施し、定期的にDVDへアーカイブ保管した。生データの処理を後述のようにおこなった。
【0116】
上に記述されるような同様のLC/MSプロトコルを、尿上清中のサルコシンおよびクレアチニンの評価に用いた。
【0117】
ガスクロトグラフィ/質量分析(GC/MS): 代謝学的プロファイリング研究のために、GCが予定された試料を、ビストリメチルシリル−トリフルオロアセトアミド(BSTFA)を用いた乾燥窒素下での誘導化に先立って、最小24時間にわたる真空乾燥下で、再乾燥した。試料の分析は、電子衝撃イオン化および高解像度を用いて、テルモ・フィニガン・マット(Thermo−Finnigan Mat)−95 XP(Thermo Fisher Corporation, Waltham, MA)上でおこなった。分析用のカラムを(5%フェニル)−メチルポリシロキサンとした。実行中、16分間のうちに温度を40℃から300℃へ一挙に上昇させた。結果として得られたスペクトルを基準化合物のライブラリーと比較した。既に記したように、全ての試料がLIMSによって予定管理されていることから、クロトグラフィの実行はLIMSスケジュールに基づいたタスクであった。生データの同定を、該生データのLIMS識別子によっておこない、生データを定期的にDVDへアーカイブ保管した。生データの処理を以下のようにおこなった。
【0118】
サルコシンおよびアラニン(尿沈渣の場合、図3d)の同位体希釈GC/MS分析については、残留した水は、100μLのジメチルホルムアミド(DMF)により共沸混合物を形成させ、懸濁液を真空乾燥させて、試料から除去した。全ての試料の注入は、カラム・インジェクターおよびアジレント(Agilent)6890Nガスクロマトグラフを用いておこなった。このガスクロマトグラフには、15−mDB−5キャピラリーカラム(内径0.2mm、膜厚0.33ミクロン、J & W Scientific Folsom, CA)が設けられており、かつアジレント(Agilent)5975MSD質量検出器と接続されている。サルコシンのt−ブチル・ジメチルシリル誘導体の量を、同位体希釈電子衝撃イオン化GC/MSを用いて、選択イオン検出(SIM)により測定した。それぞれ3.8分および4.07分で溶出したアラニンのレベルとサルコシンのレベルとを定量化した。この定量化は、天然代謝産物([M−O−t−ブチル−ジメチルシリル]−)由来のm/z232のイオンと、該化合物の同位体標識された重水素化内部標準[2H3]由来で、それぞれアラニンおよびサルコシンに関するm/z233および235のイオンとの相対比を用いて、おこなった。同様の戦略を、組織中でのサルコシン、システイン、チミン、グリシン、およびグルタミン酸の評価に用いた。これらの化合物に関する天然および標識分子ピークのm/zは、それぞれ158および161(サルコシン)、406および407(システイン)、432および437(グルタミン酸)、297および301(チミン)、ならびに218および219(グリシン)であった。尿上清(図3e)の場合には、サルコシンを測定してクレアチニンに対して標準化した。各化合物の相対面積計算値はエックスカリバ(Xcalibur)ソフトウェア(Thermo Fisher Corporation, Waltham, MA)を用いて、各化合物に対応するクロマトグラム・ピークのマニュアル積分によって得られた。データは比率(サルコシン・イオン計数)/(クレアチニン・イオン計数)の対数として示される。代謝産物確認をおこなうために、全ての試料を機器上で1回実行することによって評価した。この際、組織のサルコシン確認については除外する。各々の試料の実行を四重におこない、平均値を計算されたサルコシンのレベルとした。検出限界(信号/雑音>10)は、同位体希釈GC/MSを用いたころ、サルコシンについては約0.1フェムトモルであった。
【0119】
代謝学的ライブラリー: これらは質量分析データを探索するために用いた。ライブラリーは、メタボロン(Metabolon)LIMSに収集および登録された約800種類の市販の化合物を用いて作成した。化合物すべてを、実験試料としての条件下で、多くの異なる濃度で分析し、各々の化合物の特性をLIMSベースのライブラリーへ登録した。同じライブラリーを、それらが検知可能な特性の決定を目的として、LCおよびGCの両方のプラットフォームで用いた。その後、これらの分析を、カスタム・パッケージ・ソフトを用いておこなった。初期データ視覚化では、SASおよびスポットファイア(Spotfire)を用いた。
【0120】
統計的分析(アウトラインは図6を参照):
a) 代謝学的データ
データの補完: 代謝データは質量分析計データの閾値化により左側打ち切り(left censored)した。欠測値を、被験者全てにわたる代謝産物の平均発現に基づいて入力した。試料全体にわたる平均代謝産物測度(mean metabolite measure across samples)が100,000を超える場合、ゼロが補完(impute)され、さもなければその最小測度の2分の1が補完される。このように、どの代謝産物が試料における不在により欠測値を持っていたのか、およびどれが機器閾値により見当たらなかったかについての識別をおこなった。試料最小値を補完値(imputed value)として用いた。その理由は、検出のための質量分析閾値が試料間で異なり、閾値レベルを捕らえることが好ましいからであった。
【0121】
試料正規化: 試料間のばらつき(試料間変動)を減少するために、各組織試料に関する補完代謝測度を中央値に合わせ、その四分位範囲(IQR)によって見積もった。
【0122】
分析:
zスコア: このzスコア分析は参照分布によって各代謝産物をスケーリングした。別段の定めがない限り、良性試料を参照分布として指定した。このように、良性の試料の平均および標準偏差を代謝産物ごとに決定した。その後、試料を、それぞれ、診断にかかわらず、良性の平均によって中心化し、また1つの代謝産物あたり、良性の標準偏差によってスケーリングした。このように、代謝産物発現がどのように良性の状態から外れるか見ることができる。
【0123】
階層的クラスタリング:階層的クラスタリングを実施し、正規化データを対数変換した。小さな値(単位元(unity))を各々の正規化値に加えて対数変換させた。視覚化を良好にするためのクラスタリングに先立って、代謝産物毎に、対数変換されたデータを中央値に合わせた。ピアソンの相関を類似性測定基準に用いた。クラスタリングを、クラスタ・プログラムを用いておこない、ツリー表示(Treeview)1を用いて視覚化した。薄黄色/青色カラー・スキームを代謝産物のヒートマップに用いた。
【0124】
比較テスト: 代謝産物検出と診断との関連を調べるために、測度を存在または非存在(すなわち、検出されず)の二つに分けた。カイ2乗検定を用いて、診断群間の各代謝産物の測度の存在/非存在の割合の差を評価した。診断群間の代謝産物発現レベル間の関連性を評価するために、両側ウィルコクソンの順位和検定を2試料テスト(すなわち良性対PCA、PCA対Mets)に用いた。クラスカル−ヴァリス(Kruskal−Wallis)テストを、すべての診断群間の3方向比較(良性対PCA対Mets)に用いた。ノンパラメトリック検定法を用いて、補完値の影響を減少させることが可能である。テストを、試料の少なくとも20%で検知可能な発現をした代謝産物上で、1つの代謝産物あたり実行した。試料ラベルをシャッフルして試験を再計算する順列試験を用いて有意性の決定をおこなった。これを1000回繰り返した。オリジナルの統計量が変更された検定統計量より極端に多かったテストは、診断群間の違いのない帰無仮説のエビデンスを増加させた。誤り発見率は、Rパッケージ「q値」にインプリメントされるように、ストレイ(Storey)ら2のq値変換アルゴリズムを用いて、置換P値から決定される。細胞株データおよび小規模組織データにおける表現のペアワイズ差を、サタスウェイト(Satterthwaite)分散評価による両側検定のt検定を用いて試験した。多数の細胞株を比較するのに、1つの細胞株あたりの多数の測度を調節する反復測定分散分析(ANOVA)を用いた。対数スケール上でANOVAを用いて変化倍率(fold change)を評価した後、モデル対数log(Y)=A+B*処理+Eをおこなう。このようにして、exp(B)は、(Y|処理=1)/(Y|処理=0)の評価であり、exp(B)の標準誤差を、デルタ法を用いてSE(B)から評価し得る。
【0125】
分類: 経験的pP値の増加に基づく分類子に対して、代謝産物を付加した。最適な分類子を決定するために、サポートベクタマシン(SVM)を用いた。リーブ・ワン・アウト・クロス・バリデーション(LOOCV)を用いて、分類子間の誤差率を評価した。バイアスを回避するために、経験的なP値ランキングを決定する比較テストを個々のリーブ・ワン・アウト試料セットに対して、繰り返した。SVMは、分類子への包含にとって最適な経験的P値を選択する。選択された経験的P値以下にある少なくとも80%のLOOCV試料に現れた代謝産物を、分類セットとして選択した。主成分分析を用いることで、代謝産物の生じる分類セットによって与えられる分離の視覚化が促された。主成分1種類、2種類、および4種類をプロットに用いた。
【0126】
尿中のサルコシンの確認: 尿沈渣実験を3つのバッチ全てにわたって実施した。バッチ・レベル変動を2回の修正を用いて取り除いた。最初に、レスポンスとしてアラニンへのサルコシンの対数変換率を備えたANOVAモデルでの、この細胞株データだけを用いて、細胞株対照DU145およびRWPE上で利用可能な測定を備えた2つのバッチ(n=15およびn=18)を、バッチ・レベルの違いを評価することで、組み合わせた。第2の調整は、残りの第三のバッチ(n=60)と一緒に生じる結合したバッチ(n=33)を、センタリング(中央値による)およびスケーリング(中央値絶対偏差による)によって、これら2つのバッチの各々の中に置く。図12で見られるように、サルコシンとアラニンとの比は、結合したデータセット内のみならず、これら2つの小さなバッチの各々で別々に、生検ステータスの予言サルコシン対アラニンの比率は、結合したデータセットだけでなくこれらの2つの各々中の生検ステータスを予測した。
【0127】
尿上清実験は、クレアチニンとの関連でサルコシンを測定した。クレアチニンからの変化倍率示す2を底とする対数を用いて、分析をおこなった。尿沈渣および上清を、生検ステータス間の違いについて両側ウィルコクソンの順位和検定を用いて、試験した。臨床パラメーターの関連性については、連続変数用のピアソンの相関係数およびカテゴリー変数のための両側ウィルコクソンの順位和検定によって評価した。
【0128】
(b) 遺伝子発現:
サルコシン処理PrEC前立腺上皮細胞の発現プロファイリング
50μMのアラニンまたはサルコシンのいずれかで6時間にわたり処理されたPrEC細胞の発現プロファイリングを、アジレントのヒト全ゲノム・オリゴ・マイクロアッセイ(Agilent Whole Human Genome Oligo Microarray (Santa Clara, CA))を用いて実施した。トリゾール(Trizol)を用いて処理された細胞から単離された全RNAを、キアゲンRNAイージー・マイクロ・キット(Qiagen RNAeasy Micro kit (Valencia, CA))を用いて精製した。未処理のPrEC細胞由来の全RNAを参照として用いた。全RNA1μgをcRNAに変換し、製造元のプロトコル(Agilent)に従って、標識した。ハイブリダイゼーションを16時間、65℃で実施し、アレイをアジレント(Agilent)DNAマイクロアレイ・スキャナで走査した。アジレント・フィーチャー・エクストラクション・ソフトウェア(Agilent Feature Extraction Software)9.1.3.1を用いて、画像の分析およびデータの抽出をおこなった。この際、各々のアレイに対して、線形およびロース(lowess)正規化をおこなった。2回の処理の各々に対して、テクニカラル・レプリケートが含まれた。変化倍率は、2つのレプリケートの各々に関してアラニンに対するサルコシンの比として決定した。遺伝子をさらに検討し、両方のレプリケートにおいて、上昇または下降のいずれかで2倍の変化が見られた。
【0129】
共通の識別子への「オミクス(Omics)」データのマッピング
実施例においてプロファイリングされた代謝産物を、それらの化合物IDを用いて、KEGGの代謝マップにマッピングし、その後、マッピングされた経路のすべての同化酵素および異化酵素の同定をおこなった。この後に、KEGGのDBGET統合データ情報検索方式を用いてその公式遺伝子IDにマッピングされた酵素に関する公式酵素委員会番号(EC番号)の検索をおこなった。
【0130】
分子的概念(Molecular Concept)のエンリッチメント
様々な分子の概念と統合データ(メタボロームから得られた情報を含む)との相互関係のネットワークを探索するために、オンコマイン・コンセプト・マップ・バイオインフォマティクス・ツール(Oncomine Concepts Map bioinformatics tool)を用いた(Rhodes et al., Neoplasia 9, 443-454 (2007); Tomlins et al., Nat Genet 39, 41-51 (2007))。連関分析用遺伝子セットの最大のコレクションであることに加えて、リンクした概念の「エンリッチメント・ネットワーク」の同定および視覚化を考慮に入れて、それがデータベース中のすべての遺伝子セット内のペアワイズ連関を計算するという点で、オンコマイン・コンセプト・マップ(OCM)は独特である。OCMを備えた統合は、分子シグニチャー(すなわち、この場合代謝学的シグニチャー)を14,000以上の分子の概念に系統的にリンクさせることを可能にする。代謝学的データのみに起因するエンリッチメントを研究することは、代謝産物の遺伝子IDリストの生成を伴い、該代謝産物は、なされている比較に対して0.05未満のP値で有意であった。このシグニチャーを用いて分析をおこなった。遺伝子発現ベースのエンリッチメント分析と同様に、なされている比較にとって有意(p<0.05)である転写産物の遺伝子IDを用いたことに注意されたい。一旦シーディングされると、分子概念の各々の対を、フィッシャーの直接法を用いて、連関について試験した。その後、概念をそれぞれ独立して分析し、また最も重要な概念を報告した。所定のテストにオッズ比(>1.25およびP値<0.01)があった場合、結果を保存した。多重比較のための調整を、すべてのエンリッチメント分析に対するq値の計算によりおこなった。1x10−4未満のP値を有する全ての概念は有意であると考えられた。さらに、前立腺上皮細胞のサルコシン誘導侵潤の根底にある生物学のニュアンスを明らかにするためにOCMを用いた。アラニン処理と比較して2倍のサルコシン処理によって上制御されるこの遺伝子リストに関して、両方のレプリケートをエンリッチメントに使用した。
【0131】
B. 結果
多くのグループでは、トランスクリプトーム・レベルで、遺伝子発現マイクロアレイを使用して、前立腺癌組織(Dhanasekaran et al., Nature 412, 822-826. (2001); Lapointe et al., Proc Natl Acad Sci U S A 101, 811-816 (2004); LaTulippe et al., Cancer Res 62, 4499-4506 (2002); Luo et al., Cancer Res 61, 4683-4688. (2001); Luo et al., Mol Carcinog 33, 25-35. (2002); Magee et al., Cancer Res 61, 5692-5696. (2001); Singh et al., Cancer Cell 1, 203-209. (2002); Welsh et al., Cancer Res 61, 5974-5978. (2001); Yu et al., J Clin Oncol 22, 2790-2799 (2004))と、他の腫瘍(Golub, T.R., et al. Science 286, 531-537 (1999); Hedenfalk et al. The New England Journal of Medicine 344, 539-548 (2001); Perou et al., Nature 406, 747-752 (2000); Alizadeh et al., Nature 403, 503-511 (2000))とをプロファイリングしている。さらにより限定された範囲では、プロテオーム・レベルで使用されている(Ahram et al., Mol Carcinog 33, 9-15 (2002); Hood et al., Mol Cell Proteomics 4, 1741-1753 (2005); Prieto et al., Biotechniques Suppl, 32- 35 (2005); Varambally et al., Cancer Cell 8, 393-406 (2005); Martin et al., Cancer Res 64, 347-355 (2004); Wright et al., Mol Cell Proteomics 4, 545-554 (2005); Cheung et al., Cancer Res 64, 5929-5933 (2004))。しかし、ゲノミクスとプロテオミクスとは対照的に、代謝学(メタボロミックス)(すなわち、広範囲な観点および先入観のない観点で代謝産物を調べる)は、新たに生起した科学であり、関連する病態生理学と同様に、細胞の状態の遠位読み出し(distal read-out)を意味する。システム生物学的観点の一部として、代謝学的プロファイリングは他のアプローチに対する有用な補完物である。
【0132】
代謝学的プロファイリングは、長い間、高圧液体クロトグラフィ(HPLC)、核磁気共鳴(NMR)(Brindle et al., J MoI Recognit 10, 182-187 (1997))、質量分析法(Gates and Sweeley, Clin Chem 24, 1663-1673 (1978))(GC/MSおよび LC/MS) 、および酵素免疫吸着法(ELISA)の使用に依存していた。集中的なアプローチでそのような技術を用いることは、新生物の代謝に関するほとんどの初期の研究は、低酸素症への腫瘍適応について調べることであった(Dang and Semenza, Trends Biochem Sci 24, 68-72 (1999); Kress et al., J Cancer Res Clin Oncol 124, 315-320 (1998))。これらの研究によって、新生細胞が低い酸素圧条件下で成育することを可能にする代謝産物(例えばブドウ糖または酸素)および生長因子の勾配を変えることにより構成された腫瘍内の異質性が明らかにされた(Dang and Semenza、上掲)。これらのターゲットとされたアプローチには、前立腺癌進行の過程におけるシトラートとコリンとに密接に関係する研究である (Mueller-Lisse et al., European radiology 17, 371-378 (2007); Wu et al., Magn Reson Med 50, 1307-1311 (2003))。多くのグループは、腫瘍の悪性度の異なる程度によるエネルギー利用経路の変化を理解するために細胞株モデルも使用している(Vizan et al., Cancer Res 65, 5512-5515 (2005); Al-Saffar et al., Cancer Res 66, 427 -434 (2006))。Ramanathanらは、腫瘍進行の異なる病期を生体エネルギー経路と関連させるツールとして、メタボリックプロファイリングを用いた(Proc Natl Acad Sci U S A 102, 5992-5997 (2005)。最近、核磁気共鳴を用いるメタボロームのホリスティック・インテロゲーション (Wu et al.,上掲; Cheng et al., Cancer Res 65, 3030-3034 (2005); Burns et al., Magn Reson Med 54, 34-42 (2005); Kurhanewicz et al., J Magn Reson Imaging 16, 451-463 (2002)) および飛行時間型質量分析と結び付けられたガスクロトグラフィ(Denkert et al., Cancer Res 66, 10795-10804 (2006); Ippolito et al., Proc Natl Acad Sci U S A 102, 9901-9906 (2005))によって、腫瘍個体群を分類する際に代謝学的シグニチャーが持つ力が明らかにされている。この力の増大にもかかわらず、しかしながら、これらの研究でモニターされた代謝産物の数は限られている。
【0133】
前立腺癌は、西洋世界における男性の癌関連死亡の一般的な原因の2番目であり、65歳以上の男性の9人に1人が罹患している(Abate- Shen and Shen, Genes Dev 14, 2410-2434 (2000); Ruijter et al, Endocr Rev 20, 22-45 (1999))。前立腺癌開始、無秩序な増殖、浸潤および転移を特徴づける複雑な分子の事象をよりよく理解するために、局所的な疾患およびそれに続く転移に、前駆体病変からのその進行を指令する遺伝子、タンパク質および代謝産物からなる異なった集まりを描写することは重要である。グローバル(大域的)なプロファイリング戦略の出現で、分子の変質のそのような組織分析は今や可能である。
【0134】
前立腺癌進行中のメタボロームをプロファイリングするために、質量分析法と結び付けられた液体クロトグラフィとガスクロトグラフィとの組み合わせを用いて、42の前立腺関連組織標本全体について代謝産物の相対的なレベルを検討した。図1aは、代謝学的プロファイリングのために使用された戦略を概説するものである。詳しくは、この研究では、良性の隣接前立腺試験片(n=16)、臨床的限局性前立腺癌(PCA、n=12)、および転移性前立腺癌(Mets、n=14)(図1b)が含まれた。さらに、異なる部位からの転移性組織試料の選択は、非前立腺の組織の影響を最小化した(臨床情報については表1を参照)。組織標本を、各々のグループが3つのクラスから均等に分配された標本から構成される2つのグループに分けて、処理した(図5)。この研究の中で用いられる代謝学プラットフォームの技術的構成要素は、ロウトン(Lawton)らの文献(Pharmacogenomics 9: 383 (2008)) に記載されており、また概要を図1aに示す。このプロセスには試料抽出、分離、検出、分光分析、データ正規化、クラス特異的代謝産物の描写、経路マッピング、確認、および候補代謝産物の機能的特徴付けが含まれた(図6は、データ分析戦略の概要を提供する)。プロファイリング・プロセスの再現性を2段階で検討した。すなわち、一方は機器による変動のみを測定することによって、また他方は全体的なプロセスによる変動を測定することによっておこなった(再現性を検討する際に用いた対照群のリストを表2に示す)。機器ばらつきの測定は、注入直前に添加された一連の内部標準(この研究ではn=14)によるものであった。内部標準化合物に対する中央変動係数(CV)値は、3.9%だった。全体的なプロセス変動を検討するために、代謝学的研究を強化して実験試料の技術的レプリケート9つからなる一組(また、マトリックスとも呼び、MTRXと略す)を含め、これらは毎日におこなわれる注入剤の間で、均一に間隔を置いた。これらの9つの反復試験試料の各々で検知されたn=339の化合物に関する再現性分析によって、抽出、回復、誘導体化、注入、および機器ステップを含むすべてのプロセス構成要素に関する複合的な変動の基準が得られた。実験試料の技術的レプリケートの中央CV値(この研究の組織プロファイリング部分)は、14.6%だった。図7は、これらの実験試料技術的レプリケートの再現性を示す。技術的レプリケート対間のスピアマンの順位相関係数は0.93〜0.97の範囲で変動した。
【0135】
上記の確証されたプロセスを用いて、前立腺由来組織中の代謝学的変化を定量した。全体では、前立腺組織の高処理プロファイリングは626の代謝産物(175の指定されたもの、19の同重体(isobar)、および同定されない432の代謝産物)を識別した。これらを3つの組織クラス全体にわたって組織試料中で定量的に検出した(プロファイリングした代謝産物の完全なリストについては表3を参照)。これらのうち、515の代謝産物が3つのクラスにまたがって共有されていた(図1b)。PCAおよび/または転移性腫瘍で見つかったが、良性前立腺では見つからない代謝産物は、60あった。
【0136】
3通りの分析を実施してデータの全体的な展望を得た。最初にもちいたものは、正規化データ上での教師なし階層的クラスタリング(手順を詳細に説明するためのデータ分析法の詳細な概要は図6を参照)であった。この分析によって、良性組織およびPCA組織の両方から転移性試料が分離されたが、良性前立腺から臨床的限局性前立腺癌を正確にはクラスタリングしなかった(図1c)。これは、良性およびPCA標本に関連のある転移性試料の代謝学的変化の程度がよりいっそう高いことを示しており、データのヒートマップによる描写によって強調されている。この知見は、遺伝子発現解析(Dhanasekaran et al., 上掲; Tomlins et al., Nat Genet 39, 41-51 (2007))に基づいた以前の観察と一致している。さらに、図8に示されるように、代謝学的変化のこのパターンは、起源の異なる部位に由来した多数の転移性試料全体にわたって共有された。
【0137】
第2の分析では、各代謝産物を平均値に中心化し、正規化された良性代謝産物レベルの標準偏差に基づいてスケーリングすることで、良性試料の分布に基づいたzスコアを作成した(詳細については、図6および方法を参照)。図1dは、各々のクラスの試料について、縦軸にプロットされた626の代謝産物と、横軸にプロットされた各々の試料の良性ベースのZスコアを示す。図に示されるように、代謝学的含有量の変化が転移性腫瘍(zスコア範囲:−13.6〜81.9)で最も確実に生じる。特に、分析された転移性試料の少なくとも33%で、105の代謝産物が2以上のzスコアを有していた。対照的に、38の代謝産物だけが、試料の少なくとも33%で2以上のzスコアを有するように、臨床的限局性前立腺癌試料の変化は転移性疾患未満(zスコア範囲:−7.7〜45.8)であった。
【0138】
代謝学的プロファイルの分類ポテンシャルを検討するために、第三の分析は、リーブ・ワン・アウト・クロス・バリデーションによるサポートベクターマシン(SVM)分類アルゴリズムを用いた(方法を参照)。12のPCA試料のうち2つを誤って良性と分類したものの、この予測は、良性および転移性試料のすべてを正確に同定した。誤って分類された2つの癌試料は、グリーソン・グレードが低く、3+3であった。このことは、それほど高悪性度ではない腫瘍であることを示している。また、リーブ・ワン・アウト・クロス・バリデーションで検証されたデータセットの少なくとも80%で、有意性(P=0.05レベル)があった198の代謝産物のリストを作成した(198の代謝産物のリストについては表4を参照)。視覚化をおこなうために、この198の代謝産物のデータマトリックスに対して、主成分分析を用いた(図1e)。結果として得られた図は、SVMを用いて得られた分類と類似しており、試料は、3つの主成分のみを用いて、十分に描写された。
【0139】
分析された3つのクラスの試料を識別する代謝学的要素をさらに描写するために、PCA試料と良性試料の間の差次的変化を、順列テスト(n=1,000)と組み合わせたウィルコクソンの順位和検定を用いて選択した。合計87/518の代謝産物は、P値カットオフ0.05でのこれら2つのクラス全体にわたって異なっており、23%の誤り発見率に一致した。複数の症状にまたがる87の調節異常代謝産物間の関係を視覚化するために、試料全てに対してそれらの相対的レベルに基づいて、代謝産物を整えるために階層的クラスタリングを用いた。不安定な代謝産物のなかで、50がPCAにおいて上昇し、一方37が下方制御された。図2aは、良性前立腺とPCAとの間で異なる代謝産物とされた37の相対的レベルを示す。上方制御された代謝産物の中には、多くのアミノ酸(すなわちシステイン、グルタミン酸塩、アスパラギン、グリシン、ロイシン、プロリン、スレオニン、およびヒスチジン、あるいはサルコシン、n−アセチルアスパラギン酸等の様なそれらの誘導体)があった。下方制御されたものはイノシン、イノシトール、アデノシン、タウリン、クレアチニン、尿酸、およびグルタチオンを含んだ。
【0140】
同様のアプローチを転移性前立腺癌において異なる代謝産物を識別するために用い、124代謝産物が結果として得られた。これらの代謝産物は臓器に限定された状態と比較して転移性状態において上昇し、102の化合物は下方制御され、289/518(56%)が未変化(P値カットオフが0.05、4%の誤り発見率に一致)であった。図2bは、癌進行中に調節異常になった代謝産物とされた81のレベルを示す。これは、単に転移性前立腺癌で検出された代謝産物、すなわち4−アセトアミド酪酸、チアミン、および2つの特定されていない代謝産物であった。6つの代謝産物からなるサブセットでは、疾患進行にともなって著しく高められた。これらはサルコシン、ウラシル、キヌレニン、グリセリン-3-リン酸塩、ロイシン、およびプロリンを含んでいた。PCA試料の一部および転移性試料の大多数でそれらが生ずることから、これらの代謝産物は進行性の疾患用バイオマーカーとして役立つ。
【0141】
クラス特異的代謝学的パターンを定義する際、これらの変更は、前立腺癌の発生および進行の過程における生化学的経路のコンテキストおよび生化学的プロセスの変化において、評価した。まず、京都遺伝子ゲノム百科事典(Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes (KEGG, リリース 41.1).)に概説されているように、それらの各々の経路に代謝学的プロファイルをマッピングした。これは、癌の進行の過程におけるアミノ酸代謝の増加と窒素の分解経路の増加を明らかにし、前立腺癌の進行過程の初期の出来事としてのアンドロゲン調節されたタンパク質合成の遺伝子発現ベースの予測を支持している(Tomlins et al, 2007; supra)。これらの傾向は転移性疾患への進行過程で維持されるのみならず、そのような傾向の増大も生じた。
【0142】
さらに、統合クラス特異的代謝産物パターンの検討を、バイオインフォマティクス・ツールを用いておこなった。このツールは、分子的概念への代謝学的シグニチャーの系統的のリンケージを可能にして前立腺癌の生物学的進行に関する新しい仮説を生成するオンコマイン・コンセプト・マップ(Oncomine Concept Map)である(局所的な前立腺癌および転移性前立腺癌の分析の概要を示す図9を参照するとともに、OCMの性状のための方法を参照する)(Rhodes et al., Neoplasia 9, 443-454 (2007))。KEGG分析と一致して、このテーマおよび(図3a)に対してオンコマイン(Oncomine)分析を適用するとともに、これらの標本(図3a)でのアミノ酸代謝のエンリッチメント・ネットワークを同定した。これらには、最もエンリッチされたGO生物学的方法、アミノ酸代謝産物(P=6x10−13)と、グルタミン酸塩代謝産物(P=6.1x10−24)のKEGG経路とが含まれていた。また、グリシン、セリンおよびスレオニン代謝(P=2.8x10−14)、アラニンおよびアスパルテート代謝(P=3.3x10−11)、アルギニンおよびプロリン代謝(P=2.3x10−10)、およびアミノ基(P=1.7x10−6)の尿素サイクルおよび代謝のKEGG経路も、強いエンリッチメントが見られた。
【0143】
「転移性試料での過剰発現」した化合物の代謝学的プロファイル(図3b)は、メチルトランスファラーゼ活性の上昇に対して高いエンリッチメントを示した(図3b)。このメチル化ポテンシャルの増加は、Sアデノシル・メチオニン(SAM)を媒介としたメチルトランスフェラーゼ活性のマルチプル・エンリッチメントによって、支持され、これにはエンリッチされたインタープロ(InterPro)概念、SAM結合モチーフ(P=1.1x10−11)、およびGOモレキュラー・ファンクション(Molecular Function)、メチルトランスフェラーゼ活性(P=7.7x10−8)が含まれる。これらのエンリッチメントは、PCA試料と比較して、転移性試料の中のSアデノシル・メチオニン(P=0.004)のレベルの有意な上昇の結果だった。腫瘍のメチル化ポテンシャルで生じる増強は、追加の概念によってさらに支持された。該概念は、転移性試料におけるクロマチン修飾の増加(GOバイオロジカル・プロセス(GO Biological Process)、P=2.9x10−6)、タンパク質(インタープロ(InterPro)(P=7.4x10−7)を含むSET領域の関与、およびヒストン・リジンN−メチルトランスフェラーゼ活性(GOモレキュラー・ファンクション(GO Molecular Function)、P=6.3x10−6)(図3b)を説明した。これは、転移性腫瘍にヒストン・メチルトランスフェラーゼEZH2を含んでいるSET領域の上昇を示す初期の研究を裏付けるものである(Rhodes et al., Neoplasia 9, 443-454 (2007); Varambally et al., Nature 419, 624-629 (2002); van der Vlag and Otte, Nat Genet 23, 474-478. (1999); Laible et al., Embo J 16, 3219-3232. (1997); Cao et al., Science 298, 1039-1043. (2002); Kleer et al., Proc Natl Acad Sci U S A 100, 11606-11611 (2003))。
【0144】
アミノ酸前駆体の濃縮および腫瘍のメチル化ポテンシャルに照らして、これらのメカニズムを両方とも代表した代謝学的バイオマーカーを特徴づけた。アミノ酸代謝産物サルコシン(グリシンのN−メチル誘導体)は、それがメチル化され、過剰なアミノ酸プールおよびメチル化の増加の存在下で、増加すると予想されるこの基準に適合する(Mudd et al., Metabolism: clinical and experimental 29, 707-720 (1980))。確かに、転移性試料の代謝学的プロファイルは、分析された(カイ2乗検定、P=0.0538)標本の79%でサルコシンが有意に高いレベルを示した。しかし、PCA試料の42%は、この代謝産物(図2a−b)のレベルの段階的増加を示した。良性試料はいずれも、検知できるレベルのサルコシンがなかった。
【0145】
転移性試料中のサルコシンのレベルはPCA試料より有意に高かった(ウィルコクソンの順位和検定、P=0.005)、(図2b)。このことによって、それが代謝産物マーカーとして臨床的に有用であり、また疾患進行および悪性度のモニタリングにとっても有用である。確認については、正確に組織および細胞の試料(検出限界=0.1フェントモル(fmol))からのサルコシンの量を計る非常に高感度で特異的な同位体希釈GC/MS方法が開発された。図10は、前立腺由来細胞株および組織の両方を用いて、GC−MSプラットフォームの再現性を示す。
【0146】
この方法を用いて、バイオマーカーとしてのサルコシンの有用性を89の組織試料からなる独立集合で検証した(25は良性、36はPCA、および28は転移性前立腺癌(試料の情報は表5を参照))。図3cに示すように、サルコシン・レベルは、良性試料と比較して、PCA試料中で有意に上昇した(ウィルコクソンの順位和、P=4.34x10−11)。さらに、サルコシン・レベルは、臓器に限定された疾患(ウィルコクソンの順位和(P=6.02x10−11))と比較して、転移性試料のさらに大きな上昇を表示した。新生物が陰性である転移性患者に由来した臓器に存在しないことから、腫瘍成長の部位とのサルコシンの関連は明白ではなかった(図11a〜c)。前立腺癌進行において、さらに4つの代謝産物の増加がしたことは、標的質量分光分析を用いて確認した。図14に示されるように、システイン、グルタミン酸、グリシン、およびチミンのレベルが、良性から局所前立腺癌への進行および転移性癌への進行によって上昇した。
【0147】
初期の疾患検出のためのバイオマーカー・パネルを開発した。第一のステップとして、生検が陽性および陰性である個々の被験者の尿の中で、非侵入性の前立腺癌マーカーとしてサルコシンが機能する能力を分析した。この臨床的に関連するコホートに由来する尿沈渣および上清の両方で、サルコシンの評価を各々独立しておこなった(160人の患者に由来する203の試料、患者43人は尿沈渣および上清の両方に寄与。臨床情報については表6を参照)。サルコシン・レベルを、対数比率として、アラニン・レベル(尿沈渣の場合)あるいはクレアチニン・レベル(尿上清の場合)のいずれかに対して、報告した。アラニンおよびクレアチニンの両方を、尿濃度における変動の対照群として用いた。サルコシンに関するアラニンまたはクレアチニンの対数比に対して標準化された平均値は、生検証明前立腺癌患者由来の尿沈渣(n=49)および上清(n=59)の両方で、生検陰性対照(n=44尿沈渣についてはウィルコクソンP=0.0004、図3d、およびn=51尿上清についてはウィルコクソンP=0.0025、図3e)と比較して有意に高かった。図12fに示すように、尿沈渣(n=93)のサルコシン評価のためのレシーバー・オペレーター特性(ROC)カーブでは、AUCが0.71であった。同様に、尿上清(n=110)のサルコシン評価では同程度のAUC0.67が得られた(図13b)。このことから、サルコシンが前立腺癌の検出のために非侵入性のマーカーとして使用できることがわかった。さらに、尿沈渣中および上清中のサルコシン・レベルについては、種々の臨床パラメーター、例えば年齢、PSA、および腺重量はなんら関連づけられなかった(表7)。単一のマーカーとして、これらの性能基準は現在入手可能な前立腺癌バイオマーカーと等しいかあるいはそれよりも上である。
【0148】
前立腺癌におけるサルコシン上昇の生物学役割の検討するために、前立腺癌細胞株VCaP、DU145、22RV1およびLNCaP、それらの良性上皮対応物、原発性良性前立腺上皮細胞PrEC、および不死化良性RWPE前立腺細胞を用いた。これらの細胞株のサルコシン・レベルを、同位体希釈GC/MSを用いて分析した。また、細胞の浸潤を改変ボイデンチャンバー・マトリゲル浸潤分析法(Kleer et al., Proc Natl Acad Sci U S A 100, 11606-11611 (2003))を用いて分析した。図4aの中で示されるように、それらの良性上皮相当物(平均値±SEM(fmol)/100万細胞:9.3±1.04対2.7±1.49)と比較して、前立腺癌細胞株は有意に高いサルコシン・レベルを示した(P=0.0218、繰り返し測定ANOVA)。これらの細胞に含まれるサルコシン・レベルは、それらの侵襲性の程度との関連性が高かった(図4a、スピアマンの相関係数:0.943、P=0.0048)。
【0149】
良性の細胞のEZH2過剰発現が細胞浸潤および新生物の進行を媒介することができたという初期の知見にもとづいて(Varambally et al., 2002, 上掲; Kleer et al., 2003, 上掲)、サルコシン・レベルをEZH2発現と比較した。良性前立腺上皮細胞におけるEZH2誘導浸潤で、サルコシン・レベルが4.5倍上昇した。対照的に、DU145細胞は、サルコシン・レベルが約2.5倍減少することが伴うEZH2の一時的なノックダウンが細胞浸潤を減じる侵襲性の前立腺癌細胞株である(図4bおよび図15)。したがって、腫瘍形成性のEZH2の過剰発現はサルコシン産生を引き起こし、その一方でEZH2のノックダウンはサルコシン産生を減じている。前立腺癌とのサルコシンとの関連性は、さらに、前立腺癌のTMPRSS2−ERGおよびTMPRSS2−ETV1遺伝子融合モデルを用いた研究によって、さらに高まった。TMPRSS2による転写因子(ERGとETVl)のETSファミリーが関与する再発性遺伝子融合は、前立腺癌の進行には不可欠である((Tomlins et al., Cancer Res 66, 3396-3400 (2006); Tomlins et al., Science 310, 644-648 (2005))。前立腺由来細胞株中の融合生成物の構成的過剰発現あるいは減衰に対するサルコシン・レベルを試験した。良性前立腺上皮細胞でサルコシンが3倍上昇したことに関連して、TMPRSS2−ERGおよびTMPRSS2−ETV1の両方は浸潤を引き起こした(TMPRSS2−ERG対対照群についてはP=0.0019、TMPRSS2−ETV1対対照群についてはP=0.0057)(図4c、過剰発現、平均値±SEM(fmole/100万細胞):対照群の0.5±0.3に対してTMPRSS2−ERGでは3.3±0.1およびTMPRSS2−ETV1では3.4±0.2、ERG対対照に関してP=0.0035、ならびにETV1対対照群に関してP=0.0016)。同様に、VCaP細胞(この遺伝子融合を持つ)でのTMPRSS2−ERG遺伝子融合のノックダウンでは、浸潤性の表現型で同様の減少を呈する代謝産物のレベルが3倍を上回る(>3)減少を生じた(図4c、ノックダウン、siRNA媒介ノックダウンでのERGの転写産物レベルについては図16を参照)。
【0150】
これらのことから、結果は、サルコシン・レベルが癌細胞侵入に関係していたことを示している。サルコシンがこのプロセスに役割を果たすかどうか判断するために、それを、非侵入性の良性前立腺上皮細胞に直接加えた。アラニン(サルコシンの異性体)を対照としてこれらの実験に用いた。同位体希釈GC−MSによって判断されるように、細胞内のサルコシン・レベルが著しく上昇し、細胞によってサルコシンが取り込まれることが確認された(図17)。サルコシンの添加は良性前立腺上皮細胞に浸潤性の表現型を与えた(図4d、対照と比較してサルコシン添加によって湿潤が増加。25μM:1.64倍、P=0.065、および50μM:2.57倍、p<0.001)。同様の結果は、原発性前立腺上皮細胞および良性の不死化胸上皮細胞で得られた。アミノ酸への細胞の照射線量は、細胞周期の異なる段階(図18a〜d)を介して該アミノ酸が持つ進行の能力に影響を及ぼすものではなく、また増殖に影響を及ぼすものではなかった(図18e)。とりわけ、サルコシンよりは程度が落ちるが、グリシン(サルコシンの前駆体)はさらにこれらの細胞の浸潤を引き起こした(図4d)。本発明は特定のメカニズムに限定されるものではない。確かに、メカニズムについての理解は本発明を実行するのには必要ではない。それにもかかわらず、このことは、細胞によってグリシンがサルコシンに変換されており、それによって浸潤をもたらされることを示すと考えられる。この仮説をテストするために、本発明者らは、侵襲性のDU145前立腺癌細胞において、グリシンをサルコシンに変換することに関与する酵素であるグリシン−N−メチル基転移酵素(GNMT)のRNA干渉媒介ノックダウンを用いて、サルコシンへのグリシンの転化を阻害した(図19)(Takata et al., Biochemistry 42, 8394-8402 (2003))。GNMTノックダウンによって、浸潤が有意に減少した(P=0.0073,t検定)。この際、対照非標的siRNAトランスフェクト細胞と比較して、細胞内のサルコシン・レベルが同時に3倍減少した(図4e、10.2対31.9フェムトモル(fmol)/100万細胞)。良性前立腺上皮細胞(図19、RWPE)で実施した同様のノックダウン実験では、GNMTの減衰が外因性のサルコシンによる浸潤の誘導能に影響しないことが実証された(図4fおよび図20a、b、サルコシン添加に関しては平均値±SEM、GNMTノックダウン対対照非標的siRNAトランスフェクト細胞に関しては0.64±0.07対0.65±0.05)。この場合、外因性のグリシンが浸潤を引き起こす能力が有意に妨げられた(図4fおよび図20a,b、グリシン添加に関しては平均値±SEM、GNMTノックダウン対対照非標的siRNAトランスフェクト細胞に関しては0.20±0.03対0.46±0.04、P=0.0082)。これらの知見は、腫瘍浸潤を媒介する際のサルコシンの役割を実証し、なぜそれが侵襲性の前立腺癌で上昇するのかの生物学的説明を提供するものと考えられる。
【0151】
サルコシンが浸潤を媒介することで活性化される経路を決定するために、サルコシン処理前立腺上皮細胞の遺伝子発現解析を、アラニン処理された細胞と比較した。オンコマイン・コンセプト(Oncomine Concepts)を用いて、サルコシンによって誘導された遺伝子が他の分子概念にマッピングされるかどうかを評価した(図21および表8)。サルコシン誘導遺伝子に著しく関係していると分かった目的の概念は次を含む:(1)エストロゲン受容体(ER)陽性乳腺腫瘍に関連する遺伝子、(2)黒色腫の転移性または高悪性度変種に関連する遺伝子、および(3)腫瘍内のEGFレセプター経路の活性化に関連する遺伝子。
【0152】
EGFR経路とそのいくつかの下流媒介物質(srcおよびp38MAPKを含む)は、ER陽性乳癌(Gross and Yee, Breast Cancer Res 4, 62-64 (2002); Lazennec et al., Endocrinology 142, 4120- 4130 (2001); Rakovic et al., Arch Oncol 14, 146-150 (2006))および侵襲性の黒色腫(Fagiani et al., Cancer Res 67, 3064-3073 (2007))に関与していることから、この経路を、サルコシン誘導細胞浸潤のコンテキストにおいて調べた。免疫ブロット法分析によって、アラニン処理の対照と比較した場合のEGFRの時間依存的増加(図4g)およびサルコシン処理前立腺上皮細胞(PrEC)におけるsrcリン酸化(図22)を確認した。このことで一致したことは、これらの試料におけるp38MAPKのリン酸化という知見であった(図22)。p38MAPKがEGFR−Src−媒介浸潤に重要な役割を果たしていることが報告されていた(Park et al., Cancer Res 66, 8511-8519 (2006); Hiscox et al., Clin Exp Metastasis 24, 157-167 (2007); Hiscox et al., Breast Cancer Res Treat 97, 263-274 (2006))。また、全EGFRレベルがアラニンまたはサルコシンによる処理で上昇した。10μM濃度のエルロチニブ(EGFR56−58の小分子阻害剤)によるPrEC細胞の前処理によって、サルコシンによって誘導される浸潤が70%減少した(P=0.0003)(図4hおよび図23a〜c)。サルコシン誘導浸潤の同様の減衰もまた、不死化前立腺上皮細胞RWPE(t検定:P=0.00007、図26を参照)で見られた。この観察は、EGFR活性の抗体媒介阻害と、レセプター・レベルのsiRNA媒介ノックダウンとを用いることによって、さらに強化された。特に、50μg/mlのC225は、RWPE(図4iおよび図25a、b)およびPrEC細胞におけるサルコシン誘導浸潤を完全にブロックした。サルコシン誘導侵潤の同様の減衰は、非標的対照(P=0.0058、図25a〜c)と比較して、EGFRのsiRNAを媒介としたノックダウンを用いて、得られた。
【0153】
代謝活性の変化と癌進行の変化とは、高い相互関係が示された現象である。サルコシンのレベルの変化は、腫瘍がより一層進行した段階へ成長および進行することから、腫瘍の生化学における固有の変化を反映する。このことは、癌進行は、腫瘍のアミノ酸代謝およびメチル化ポテンシャルの増加に関係していることが示された上述のデータから明白である。さらに、増加したメチル化ポテンシャルに結びつく要因のうちの1つは、腫瘍進行中のS−アデノシル・メチオニン(SAM)のレベルの増加およびその経路構成要素である。このことは、それらの良性相当物と比較して、腫瘍でのN−メチル−グリシン(サルコシン)、メチル−グアノシン、メチル−アデノシン(DNAメチル化の既知マーカー)等のメチル化された代謝産物のレベルを上昇させることになる。特に、サルコシン生成の主な経路の1つは、SAMからグリシンに至るメチル基の転移を伴うもので、これはグリシン−N―メチル基転移酵素(GNMT)によって触媒される反応である。GNMTに対するsiRNAを用いることによって、サルコシン生成が細胞浸潤プロセスにとって重要であることが示された。このことによって立証されることは、サルコシンのレベルが高いことが、腫瘍進行のプロセスに密接に関係している腫瘍の代謝活性の変化の結果であるという仮説である。代謝活性の腫瘍進行に関連する変化により生じたサルコシンは、それ自体で腫瘍浸潤を促進する。
【0154】
本明細書中に記述されたデータは、サルコシン・レベルが前立腺癌の進行に関連した2つの重要な顕著な特徴、すなわちエピジェニックなサイレンシングに結びつくアミノ酸代謝の上昇およびメチル化ポテンシャルの増強を反映することを示している。前者は、高レベルの多数のアミノ酸が示される局在化した前立腺癌の代謝学的プロファイルから明白である。これも、無痛性腫瘍に増加したタンパク質生合成について記述する遺伝子発現研究(Tomlins et al, Nat Genet, 2007. 39(1): 41-51))によっても、十分に確証される。メチル化の増加は後成的サイレンシングに主な役割を果たすと知られている。EZH2(ポリコーム複合体に属するメチルトランスフェラーゼ)のレベル増加は、高悪性度前立腺癌および転移性疾患で見出される(Varambally et al., Nature, 2002.419(6907):624-9)。本研究は、増加したメチル化ポテンシャルに関連する腫瘍進行を関係させることによりこの領域の理解を深める。このことは、前立腺癌進行中にS−アデノシル・メチオニン(細胞の主要なメチル化通貨)とその関連経路構成要素のレベルが上昇するという知見によって支持される。このことは、データセット中のメチル化された代謝産物のレベルの上昇にさらに反映される。これらのなかには、グリシン(すなわち、サルコシン)のメチル化された誘導体も含まれ、該誘導体は局所的な腫瘍から転移性疾患に至るまで、そのレベルが漸進的に増加する。とりわけ、サルコシン生成の主な経路の1つとして、メチル化反応が挙げられ、該反応において、酵素グリシン-N-メチル基転移酵素は、SAMからグリシン(必須アミノ酸)へのメチル基の転移を触媒する。したがって、サルコシン・レベルの上昇は、アミノ酸のレベル(この場合、グリシン)の増加とメチル化の上昇に寄与し得るもので、これらは前立腺癌進行の顕著な特徴をもたらす。
【0155】
この実施例は、前立腺癌進行中に調節異常になった代謝経路およびネットワークを解明するために、前立腺癌組織の無作為な代謝学的プロファイリングについて説明する。本発明は特定メカニズムに制限されていない。実際、メカニズムについての理解は本発明を実行するのには必要ではない。それにもかかわらず、腫瘍進行中のメタボロームの調節異常が、腫瘍発生/進行過程におけるそれらの調節酵素の活性の混乱、栄養入手または老廃物クリアランスの変化等の無数の原因に起因するかもしれないことを検討する。
【0156】
(表1)
【0157】
(表2)
【0158】
(表3)質量分析法と連動した液体クロトグラフィ(LC)あるいは気体クロトグラフィ(GC)のいずれかを用いて良性、PCA、および転移性癌組織で測定された、指定の代謝産物および同重体(isobar)のリスト
【0159】
(表4)LOOCV由来の3−クラス予測因子を構成する198の代謝産物のリスト
【0160】
(表5)
【0161】
(表6)
【0162】
(表7)
【0163】
(表8)
【0164】
下記の表9は、上記の表4にリストされた特定されていない代謝産物の各々の分析的特徴を含む。この表には、例えば、上記分析方法を用いて得られた各々のリストされた代謝産物「X」、化合物識別子(化合物ID:COMP_ID)、保持時間(RT)、保持指標(RI)、質量、定量マス(quant mass)、および極性が含まれる。「質量(mass)」とは、化合物の定量で使用される親イオンのC12同位体の質量のことをいう。「定量マス(quant mass)」とは、定量に使用された分析方法を示すものであり、「Y」はGC−MSを示し、または「1」はLC−MSを示す。「極性(polarity)」は、陽性(+)または陰性(−)である量的イオンの極性を示す。
【0165】
(表9)特定されていない代謝産物の分析的な特性
【0166】
実施例2
腫瘍の悪性度のバイオマーカー
この実施例は、腫瘍の悪性度のレベルに基づいた前立腺癌腫瘍を識別する際に併用して役立つバイオマーカーについて説明する。分析に用いる組織試料は、非侵襲性のもの(すなわち、良性)から非常に悪性度の高いもの(すなわち、転移性)に至る範囲のものであった。バイオマーカーの測定を、良性前立腺組織(N=16)、グリーソン・スコア・メジャー3(GS3)腫瘍(N=8)、グリーソン・スコア・メジャー4(GS4)腫瘍(N=4)、および転移性腫瘍(N=14)においておこなった。クエン酸塩、リンゴ酸塩、N−アセチルアスパルタート(NAA)、およびサルコシン(メチルグリシン)で構成された4枚のバイオマーカー・パネルのレベルを各試料で測定した。バイオマーカーであるクエン酸塩およびリンゴ酸塩の比を測定した(クエン酸塩/リンゴ酸塩)。分析の結果は、代謝産物パネルを用いて、悪性度がより高い腫瘍と悪性度が低い腫瘍とを識別することができることを示しており、該分析結果を図29に示す。転移性腫瘍(最も高悪性)をひとまとめにし、良性(非高悪性)試料から分けた。GS3およびGS4の試料は転移性と良性の中間であり、GS3よりもG4の方が悪性度が高かった。GS4試料は転移性試料に近く、その一方でGS3は良性試料に近かった。3種類のGS3試料(図上の番号が付けられた矢印によって示す)は、悪性度がより高い腫瘍(GS4および転移性)に対して、よりいっそう緊密に関係していた。バイオマーカー分析によれば、これらの腫瘍が、より緊密に良性の組織に関係していたGS3試料よりも、悪性が高いこと(悪性度が高いこと)を予想している。この予測はこれらの試料に関連した臨床データによって支持された。臨床データによれば、試料#1および#2は、前立腺外に広がった。すなわち、臨床的に、組織が前立腺外に広がった場合に、その組織は、よりいっそう悪性度が高いと判断した。良性試料により近いクラスターに分けられた試料では、前立腺外への広がりはみられなかった。両方を考慮すると、これらの結果は、代謝産物パネルを用いて癌腫瘍と良性とを識別することができ、またより悪性度が高い腫瘍と悪性度の低い腫瘍とを識別すること(すなわち、癌腫瘍の侵襲性を決定すること)ができることを示している。
【0167】
提示したパネルで選択されるマーカーは、サルコシンと他のメカニズムに基づいた生体マーカーとを組み合わせた生体マーカー・パネルの一例である。NAAは膜に関連する前立腺特異的マーカーである。また、クエン酸塩とリンゴ酸塩はTCA回路の中間体である。さらに、この結果は、バイオマーカー比の有用性を例証する。代謝産物の組み合わせを変えること、すなわち数量および組成を変えること、ならびに本明細書または他のもの(例えば、PCT US2007/078805、その全体を参照により本明細書中に援用する)に記載されるバイオマーカーから選択することもまた、腫瘍の悪性度を予想する上で有用である代謝産物パネルを作る際に使用されうる。
【0168】
実施例3
尿中に発見された生体マーカー
I. 一般的方法
A. 前立腺癌の代謝学的プロファイルの同定
数百の代謝産物の濃度を決定するために、各々の試料を分析した。GC−MS(ガスクロトグラフィ/質量分析法)およびUHPLC−MS(超高性能液体クロトグラフィ質量分析)等の分析技術を用いて、代謝産物の分析をおこなった。多数のアリコートを同時かつ平行して分析し、適切な品質管理(QC)後に、各々の分析から得られた情報を再結合した。いずれに試料も数千に及ぶ特性にもとづいて特徴付けがなされ、結局は数百の化学種に達する。用いた技術は、新規かつ化学的に特定されていない化合物を同定することができた。
【0169】
B. 統計的分析
T検定を用いてデータを分析することで、定義可能な母集団(例えば、前立腺癌と、対照、低悪性度の前立腺癌および高悪性度の前立腺癌)間を区別するために有用な定義可能な母集団または準集団(例えば対照生体試料と比較される前立腺癌生体試料のバイオマーカー)で異なるレベルで存在する分子(既知の名前が知れた代謝産物または名前が知れていない代謝産物)を、同定した。定義可能な母集団または準集団の中の他の分子(一方の既知の名前が知れた代謝産物または名前が知れていない代謝産物)も同定した。いくつかの分析では、試料中のクレアチニン・レベルによってデータを正規化し、一方、他の分析では試料の正規化はおこなわなかった。両方の分析の結果を含む。
【0170】
C. バイオマーカー同定
統計的に有意なこととして識別されたものを含む分析(例えばGC−MS、UHPLC−MS、MS−MS)で識別された様々なピークを、質量分析法に基づいた化学的同定プロセスにかけた。バイオマーカーの発見は、(1)試料中の代謝産物のレベルを決定するためにヒトの異なるグループから得られた尿試料を分析すること、(2)つぎに、結果を統計的に解析して2つのグループで異なって存在したこれらの代謝産物を決定すること、によっておこなわれたものである。
【0171】
癌と非癌とを区別するバイオマーカー:
分析に用いられた尿試料は、前立腺癌のための陰性生検である51人の被験者および前立腺癌である59人の対照被験者から得たものである。代謝産物のレベルを決定した後、ウィルコクソン検定を用いてデータを分析し、2つの個体群(すなわち前立腺癌対対照)の代謝産物平均レベル間の差を決定した。
【0172】
以下に表10に示すように、バイオマーカーは、癌患者由来の血漿と、陰性前立腺生検(すなわち、前立腺癌とは診断されていない)の対照患者由来の血漿との間に、異なって存在した。
【0173】
表10では、リストされたバイオマーカーに関して、バイオマーカーに関するデータの統計学的分析で決定されるp値、化学データベースで化合物を追跡するのに有用な化合物ID、および化合物(GCはGC/MSのことを、またLCはUHPL/MS/MS2)のことをいう)を同定するために用いられる分析プラットフォームが含まれる。0.000としてリストされるP値は、p<0.0001で有意である。
【0174】
(表10)癌と非癌とを区別するのに有用なバイオマーカー
【0175】
個々の被験者の癌状態(すなわち非癌または癌)を、バイオマーカーであるサルコシンおよびN−アセチチロシンを用いて決定した。これらの2つのマーカーを併用して用いることで、83%の感度および49%の特異性がある癌診断をなすことができた。PSAの陽性母集団での癌罹患率を30%と仮定すると、これらのバイオマーカーによって87%の陰性的中度(NPV)および41%の陽性的中度(PPV)が得られた。
【0176】
悪性度がより低い癌と悪性度がより高い癌の相違を示すバイオマーカー:
分析に用いられた尿試料は、生検のGSメジャー3またはGSメジャー4以上の前立腺癌と診断された個々の被験者から得たものでる。GSメジャー3は、一般的に悪性度が比較的低い、より低いグレードの癌を示し、GSメジャー4は、一般的に悪性度が比較的高い、より高いグレードの癌を示している。この分析では、GSメジャー3の被験者(N=45)をGSメジャー4の被験者(N=13)と比較した。代謝産物のレベルを決定した後、ウィルコクソン検定を用いてデータを分析し、2つの個体群(すなわち前立腺癌対対照)の代謝産物平均レベル間の差を決定した。
【0177】
以下の表11に示すように、より低い悪性度/より低いグレードの前立腺癌の被験者から得た尿試料と、より高い悪性度/より高いグレードの前立腺癌の被験者から得た尿試料との間に差次的に存在するバイオマーカーを発見した。表11には、リストされたバイオマーカーの各々について、バイオマーカーに関するデータの統計的分析において決定されたp値、化学データベースで化合物を追跡する際に有用な化合物ID、化合物の同定に使用される分析プラットフォーム(GCはGC/MSのことをいい、LCはUHPLC/MS/MS2のことをいう)が含まれる。0.000としてリストされるP値は、p<0.0001で有意である。
【0178】
(表11)悪性度がより低い癌と悪性度がより高い癌の相違を示すバイオマーカー:
【0179】
実施例4
前立腺癌進行におけるサルコシンの役割
前立腺癌の代謝学的プロファイリングに対する上記の研究によって、前立腺癌進行中に上方制御されているものとして、サルコシン、別名N−メチルグリシンを同定した(図28)。このことは、同位体希釈GC−MSを用いて、個々の組織標本で検証した(図29)。サルコシンのバイオマーカー・ポテンシャルは、生検陰性対照群と比較した生検陽性前立腺癌患者の尿(沈渣および上清の両方とも)において、その上昇レベルに反映された(図12および図13)。前立腺癌進行におけるサルコシンの役割を理解するために、代謝産物のレベルを前立腺由来細胞株のパネルで測定した。前立腺癌細胞株の良性相当物と比較して、該前立腺癌細胞株で、サルコシン・レベルの上昇がみられた。サルコシン・レベルは、インビトロボイデン(Boyden)チャンバー分析において前立腺癌細胞株により示される浸潤の程度と相関していた。さらに、サルコシン・レベルは、EZH2あるいは良性の上皮細胞中の転写因子のETSファミリーのいずれかの過剰発現により上昇した。それらは両方とも細胞を侵襲性にした(図4b、c)。このことによって、前立腺癌細胞の侵襲性表現型を引き起こす上で、サルコシンの役割が確認された。良性前立腺上皮細胞へのサルコシンの添加は該細胞を侵襲性にし、腫瘍における侵襲性表現型の誘導物質としてのその役割を強化した(図4d)。この観察を特徴付けるために、サルコシン生成または分解をもたらす酵素のさらなるノックダウン研究を前立腺由来細胞株で実施した。特異的なsiRNAを用いて、ノックダウン研究を実施し、標的阻害の程度をQ−PCRを用いて評価した。インビトロボイデン(Boyden)チャンバー法を用いて、ノックダウン細胞の侵襲性調節を限定した。
【0180】
サルコシンの生成は、以下の3つの生化学的反応による。
これらのなかで、グリシン−N−メチル基転移酵素(GNMT)はサルコシン生成の主な生合成の酵素として働き、一方サルコシンデヒドロゲナーゼは主たるジメチル化酵素である。
【0181】
侵襲性の前立腺癌細胞株(DU145)におけるGNMTのノックダウンによって、侵襲性が著しく減少するとともに、それに伴ったサルコシンのレベルの減少が生じた(図4e)。同様の実験では、腫瘍侵襲の誘導におけるサルコシンの重要性を強調するグリシンではなく、サルコシンの添加によってのみ、GNMTノックダウンを保持するRWPE細胞を侵襲性にすることができた(図4f)。さらに、RWPE細胞におけるSARDH(サルコシン分解を触媒する酵素)のノックダウンは、侵襲性の表現型をそれら良性上皮細胞にもたらすとともに、それに付随したサルコシンの蓄積をもたらした(図30)。これらのデータは、前立腺癌での侵襲を可能にする上でサルコシンが重要であることを示している。
【0182】
上記明細書で言及した出版物、特許、特許出願、および受託番号を、それらの全体として参照により本明細書中に援用する。本発明は具体的な実施形態に関連させて説明されたが、クレームされた本発明がそのような具体的な実施形態に過度に制限されるものでないことが理解されるに違いない。実際、記載された本発明の組成物および方法に修正または変更を加えることは、当業者に明らかなことであり、本発明の範囲内であることが意図される。
【図1a】
【図1b】
【図1c】
【図1d】
【図1e】
【図2a】
【図2b−1】
【図2b−2】
【図3a】
【図3b】
【図3c】
【図3d】
【図3e】
【図4a】
【図4b】
【図4c】
【図4d】
【図4e】
【図4f】
【図4g】
【図4h】
【図4i】
【技術分野】
【0001】
この出願は、仮特許出願第60/956,239号(2007年8月16日出願)、第61/075,540号(2008年6月25日出願)、および第61/133,279号(2008年6月27日出願)の優先権を主張するものであり、これらの各々を全体として本明細書において参照により援用する。
【0002】
この発明は、国立衛生研究所の助成金番号5U01CA084986およびU01CA111275のもとで政府援助によってなされたものである。政府は本発明に一定の権利を保有する。
【0003】
本発明は、癌マーカーに関する。詳しくは、本発明は前立腺癌中に異なって存在する代謝産物を提供する。さらに、本発明は癌に特異的な代謝産物を標的とする診断、研究、および治療用途を提供する。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
65歳を超えた男性9人のうち1人が罹患する前立腺癌(PCA)は男性癌関連死亡の主要原因であり、肺癌に次いで第2位である(Abate-Shen and Shen, Genes Dev 14:2410 [2000](非特許文献1); Ruijter et al, Endocr Rev, 20:22 [1999](非特許文献2))。米国癌学会は、約184,500人のアメリカの男性が前立腺癌と診察されて39,200人が2001年に死ぬだろうと、推測している。
【0005】
前立腺癌は、一般に、直腸指診および(または)前立腺特異性抗原(PSA)スクリーニングによって診断される。高血清PSA値によってPCAを示すことができる。PSAが前立腺細胞によってのみ分泌されることから、PSAは前立腺癌のマーカーとして用いられる。健康な前立腺は安定した量、概ね1ミリリットルあたり4ナノグラム(すなわちPSA読み取り値が「4」以下)を生産する。一方、癌細胞では該の重症度に対応して生産量が増加する。その量が4ないし10の場合、患者が前立腺癌であると医師が疑う可能性があり、一方、量が50を超えると腫瘍が体内の他の箇所へ広がったことを示すと考えられる。
【0006】
PSAまたは指診によって癌の存在する可能性が高いことが示される場合、前立腺をマッピングして、いっさいの疑わしい領域を明らかにするために、経直腸超音波(TRUS)が用いられる。前立腺の種々の領域を生検することで、前立腺癌の存在が判断される。治療オプションは、癌の病期に依存する。グリーソン(Gleason)スコアが低く、かつ腫瘍が前立腺を超えて広がっていない男性の余命は10年以下で、しばしば経過観察で治療される(無治療)。侵襲性がより強い癌に対する治療法の選択肢として、前立腺を完全に摘出(神経保存術の有無にかかわらず)する根治的前立腺摘除(RP)等の外科治療と、体外から前立腺に対して線量を直接当てる外部ビームを介した放射線療法または癌細胞を局所的に殺すために前立腺内部に埋め込まれる低線量放射性シードを介した放射線療法とが、挙げられる。抗アンドロゲンホルモン療法は、単独で、あるいは手術または放射線療法と共に用いられる。ホルモン療法は黄体形成ホルモン放出ホルモン(LH−RH)類似体を用いる。このLH−RHは、脳下垂体がテストステロン生成刺激ホルモンを生成するのを阻害する。患者は、余命中、LH−RH類似体を注射し続けなければならない。
【0007】
外科治療およびホルモン治療が局所的なPCAに対してしばしば効果を示す一方で、進行した疾患は本質的に不治のままである。アンドロゲン除去は、進行したPCAに対して最も一般的な治療法であり、アンドロゲン依存型悪性細胞の広範なアポトーシスおよび一時的腫瘍退縮をもたらす。しかし、多くの場合、腫瘍の再出現が著しく、アンドロゲンシグナルとは無関係に腫瘍が増殖し得る。
【0008】
前立腺特異性抗原(PSA)スクリーニングが登場したことで、PCAの早期検出が可能となり、PCAに関連した死亡が著しく減少した。しかし、癌による死亡率に対するPSAスクリーニングの影響は、前向き無作為化スクリーニング試験の結果が得られるまでは、依然として不明である(Ezioni et al, J. Natl. Cancer Inst, 91 :1033 [1999](非特許文献3); Maattanen et al, Br. J. Cancer 79: 1210 [1999](非特許文献4); Schroder et al, J. Natl. Cancer Inst., 90:1817 [1998](非特許文献5))。血清PSA検査を主に制限しているものは、前立腺癌感度および特異性が、特にPSA検出の中間範囲(4〜10ng/ml)内で、不足していることである。高い血清PSA値は、良性前立腺肥大症(BPH)および前立腺炎等の非悪性症状を持つ患者で、しばしば検知され、検知された癌の悪性度に関する情報がほとんど得られない。血清PSA検査の増加と時を同じくして、前立腺針生検の実施数が著しく増加した(Jacobsen et al., JAMA 274:1445 [1995](非特許文献6))。このことは、あいまいな理由による前立腺生検の急増をもたらした(Epstein and Potter J. Urol., 166:402 [2001](非特許文献7))。したがって、PSAスクリーニングを補完するために、追加の血清および組織バイオマーカーの開発が必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Abate-Shen and Shen, Genes Dev 14:2410 [2000]
【非特許文献2】Ruijter et al, Endocr Rev, 20:22 [1999]
【非特許文献3】Ezioni et al, J. Natl. Cancer Inst, 91 :1033 [1999]
【非特許文献4】Maattanen et al, Br. J. Cancer 79: 1210 [1999]
【非特許文献5】Schroder et al, J. Natl. Cancer Inst., 90:1817 [1998]
【非特許文献6】Jacobsen et al., JAMA 274:1445 [1995]
【非特許文献7】Epstein and Potter J. Urol., 166:402 [2001]
【発明の概要】
【0010】
本発明は、癌マーカーに関する。詳しくは、本発明は前立腺癌中に特異的に存在する代謝産物を提供する。さらに、本発明は癌に特異的な代謝産物を標的とする診断、研究、および治療用途を提供する。
【0011】
例えば、いくつかの実施形態では、本発明は癌(例えば前立腺癌)を診断する方法を提供し、該方法は、被験者の試料(例えば、組織(例えば生検)試料、血液試料、血清試料、または尿試料)から、1つ以上(例えば、2つ以上、3つ以上、5つ以上、10以上等の、多重またはパネル・フォーマットで一緒に測定)の癌特異的代謝産物(例えば、サルコシン、システイン、グルタミン酸塩、アスパラギン、グリシン、ロイシン、プロリン、スレオニン、ヒスチジン、n−アセチルアスパラギン酸(N−アセチルアスパルタート(NAA))、イノシン、イノシトール、アデノシン、タウリン、クレアチン、尿酸、グルタチオン、ウラシル、キヌレニン、グリセリン−s−リン酸塩、グリココール酸、スベリン酸、チミン、グルタミン酸、キサントシン、4−アセトアミド酪酸、クエン酸塩、リンゴ酸塩、およびN−アセチルチロシンまたはチミン)の有無を検出すること、癌特異的代謝産物の存在にもとづいて癌を診断すること、を含む。いくつかの実施形態では、癌特異的代謝産物は癌試料に存在するが、非癌試料には存在しない。いくつかの実施形態では、癌特異的代謝産物とともに、さらなる癌マーカーが1つ以上検出される(例えば、パネルまたは多重フォーマットで)。いくつかの実施形態では、パネルはクエン酸塩、リンゴ酸塩、およびN−アセチルアスパラギン酸、ならびにサルコシンを検出する。
【0012】
本発明は、さらに、化合物をスクリーニングする方法を提供するもので、該方法は、癌特異的代謝産物を含む細胞(例えば、癌細胞(例えば、前立腺癌細胞)を試験化合物と接触させること、癌特異的代謝産物の濃度を検出すること、を含む。いくつかの実施形態では、該方法はさらに、試験化合物の存在下での癌特異的代謝産物の濃度を試験化合物の非存在下での癌特異的代謝産物の濃度と比較するステップを含む。いくつかの実施形態では、細胞は、インビトロ、非ヒト哺乳類動物体内、またはエクスビボにある。いくつかの実施形態では、試験化合物は、癌特異的代謝産物の合成または分解に関与する酵素の発現を抑制する小分子または核酸(例えば、アンチセンス核酸、siRNA、またはmiRNA)である。いくつかの実施形態では、癌特異的代謝産物は、サルコシン、システイン、グルタミン酸塩、アスパラギン、グリシン、ロイシン、プロリン、スレオニン、ヒスチジン、n−アセチルアスパラギン酸、イノシン、イノシトール、アデノシン、タウリン、クレアチン、尿酸、グルタチオン、ウラシル、キヌレニン、グリセロール−s−リン酸塩、グリココール酸、スベリン酸、チミン、グルタミン酸、キサントシン、4−アセトアミド酪酸、n−アセチルチロシン、またはチミンである。いくつかの実施形態では、この方法は生産性の高い方法である。
【0013】
本発明はさらに、前立腺癌を特徴付ける方法を提供するもので、該方法は、癌と診断された被験者由来の試料(例えば、組織試料、血液試料、血清試料、または尿試料)中における高濃度のサルコシンの有無を検出すること、高濃度のサルコシンの有無に基づいて前立腺癌を特徴付けること、を含む。いくつかの実施形態では、試料中に高濃度のサルコシンが存在することで、被験者が侵襲性の前立腺癌であることが示される。
【0014】
いくつかの実施形態では、本発明は細胞(例えば、癌細胞)の増殖を抑制する方法を提供するもので、該方法は、化合物が癌特異的代謝産物(例えば、サルコシン、システイン、グルタミン酸塩、アスパラギン、グリシン、ロイシン、プロリン、スレオニン、ヒスチジン、n−アセチルアスパラギン酸、イノシン、イノシトール、アデノシン、タウリン、クレアチン、尿酸、グルタチオン、ウラシル、キヌレニン、グリセロール−s−リン酸塩、グリココール酸、スベリン酸、チミン、グルタミン酸、キサントシン、4−アセトアミド酪酸、グリシンN−メチル基転移酵素あるいはチミン)の濃度を増加または減少させる条件下で、細胞を該化合物と接触させることを含む。いくつかの実施形態では、化合物は、癌特異的代謝産物の合成または分解に関与する酵素の発現を抑制する小分子または核酸(例えば、アンチセンス核酸、siRNA、またはmiRNA)である。
【0015】
本発明のさらなる実施形態を、以下の詳細な説明および実験の項で説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は前立腺癌の代謝学的プロファイリングを示す。a.前立腺由来組織の代謝プロファイリングに含まれるステップの説明図。b.良性前立腺組織(n=16)、臨床的限局性前立腺癌(PCA、n=12)、および転移性前立腺癌(Mets、n=4)を含む3つのクラスの前立腺関連組織のいたる所で測定された626の代謝産物の分布を示すベン図。c.bに記載した前立腺関連組織の無監督(unsupervised)階層的構造形成を示す系統図。N、良性前立腺。T、PCA。M、転移性(Mets)。d.良性前立腺試料の平均値に正規化された前立腺癌試料でモニターされた626の代謝産物に関するZ値プロット。e.代謝学的変化に基づいた前立腺組織資料の主成分分析。
【図2】図2は、前立腺癌進行の異なった代謝学的変化特性を示す。a.良性前立腺組織中における中間値に関連した局所的PCAで変化した代謝産物のZ値プロット。b.aと同様ではあるが、PCA試料の平均に関連したデータによる転移性とPCAとを比較するためのもの。
【図3】図3は、前立腺癌の代謝学的プロファイルの統合的分析と、前立腺癌のマーカーとしてのサルコシンの検証とを示す。a.PCAシグニチャー(signature)における過剰発現の代謝学的プロファイルに関する分子概念分析のネットワーク図。b.aと同様ではあるが、「転移性試料シグニチャーにおける過剰発現」の代謝学的プロファイルに関するもの。c.同位体希釈GC/MS分析に基づく、良性、PCA、および転移性の個々の組織におけるサルコシン・レベル。d.生検陽性および陰性の個々の被験者から得た尿沈渣中のアラニン・レベルに正規化されたサルコシンを示す同位体希釈GC/MS分析に基づいたサルコシン・レベルのボックスプロット(平均値±SEM:0.30±0.13対−0.35±0.13、ウィルコクソン検定P値=0.0004)。e.dと同様ではあるが、生検陰性対照群と比較した生検陽性前立腺癌患者においてクレアチンレベルに対して高サルコシンであることが示される尿上清(平均値±SEM:−5.92±0.13対−6.49±0.17、ウィルコクソン検定P値=0.0025)。
【図4】図4は、サルコシンが前立腺癌侵入および悪性度に関係していることを示す。a.サルコシンと前立腺癌細胞系統および良性上皮細胞の侵入性との事前評価。b.(左図) RWPE細胞におけるアデノウイルス感染によるEZH2の過剰発現がサルコシン・レベルの増加と、ベクター対照との比較した場合の侵入の有意な増加(t検定P値=0.0001)とに関係している。(右図)DU145細胞におけるsiRNAによるEZH2のノックダウンは、サルコシン・レベルの減少と、非標的siRNA対照と比較した場合の侵入の有意な減少(t検定P値=0.0115)とに関係している。c.(左図)RWPEにおけるTMPRSS2−ERGまたはTMPRSS2−ETV1の過剰発現は、野生型対照と比較すると、サルコシン・レベルの上昇(各々、t検定:P=0.0035およびP=0.0016)と侵入の値増加(t検定:P=0.0019およびP=0.0057)とに関係している。(右図)VCaP細胞におけるTMPRSS2−ERGのノックダウンは、非標的siRNA対照と比較したところ、サルコシン・レベルの減少および侵入の有意な減少に関係している(t検定:P値=0.0004)。d.修正ボイデンチャンバー分析を用いて測定されたアラニン(丸)、グリシン(三角)、およびサルコシン(四角)を外から添加した場合の前立腺上皮細胞における侵入の評価。e.GNMTsiRNAを用いたDU145細胞におけるGNMTのノックダウンは侵入およびサルコシンの減少に関連している。f.RWPE細胞におけるGNMTの減衰は、侵入を引き起こす外来グリシンの能力を抑制するが、サルコシンの能力は抑制しない。g.免疫ブロット分析は、アラニンと比較した場合のRWPE細胞に対する50μMサルコシン処理によるEGFRの時間依存性リン酸化を示す。h.10μMエルロチニブによる前処理に対するPrEC前立腺上皮細胞のサルコシン誘導侵入の減少(F検定:P値=0.0003)。DU145細胞は、細胞侵入に関する陽性対照としての役割を果たす。i.RWPE細胞をC225によって前処理することで、サルコシン処理単独と比較してサルコシン誘導侵入が減少する(F検定:P値=0.0056)。
【図5】図5は、プロファイルした2つの実験用バッチにわたって、代謝産物についての標準化ピーク強度の相対分布と各試料クラス由来の組織標本の分布とを示す。3種類の組織クラスの各々から得た試料を等しく2つのバッチに分配した(X軸)。Y軸は、この研究に用いた42個の組織試料においてプロファイルされた624の代謝産物に関する標準化ピーク強度(m/z)を示す。
【図6】図6は、組織代謝産物プロファイルの分析に関与するステップの概要を示す。
【図7】図7は、発見相で用いられる代謝学的プロファイリング・プラットフォームの再現性を示す。
【図8】図8は、異なる部位に由来する転移性組織の全域における転移性癌特異的代謝産物の相対的発現を示す。
【図9】図9は、局所前立腺癌および転移性疾患のOCM分析に関与する異なるステップの概要を示す。
【図10】図10は、同位体希釈GC−MSを用いたサルコシン評価の再現性を示す。(a)3つの前立腺由来細胞系統の生物学的レプリケートにおけるサルコシン測定は、再現性が高かく、CVが<10%であった。(b)異なるGC−MS機器を2台用いて89個の前立腺由来組織試料に対してサルコシン測定をおこなったところ、相関性が高く、Rhoが>0.9であった。
【図11】図11は、同位体希釈GC/MSを用いて転移性前立腺癌を有する患者由来の担癌組織と非腫瘍対照群とにおけるサルコシン・レベルの比較を示す。(a)肺への前立腺癌転移における固有のサルコシンの定量を示すGC/MSトレース。(b)(a)と同様ではあるが、隣接した対照肺組織におけるもの。(c)同位体希釈GC/MS分析に基づいて、転移性組織におけるサルコシン・レベルが高いことを示す棒プロット。
【図12】図12は、癌に関して生検が陽性および陰性である男性から得た尿沈渣中のサルコシンの評価を示す。(a)32人の生検陽性被験者と28人の生検陰性被験者から得た一組(バッチ)60個の尿沈渣物において、アラニンと比較してサルコシン・レベルが著しく高いことを示すボックスプロット((ウィルコクソンの順位和検定:P=0.0188)。(b)60個の試料についてのレシーバー・オペレーター特性(ROC)曲線では、AUCが0.68(95%CI:0.54、0.82)である。(c)(a)と同様ではあるが、33個の試料からなる1つの独立した組(バッチ)(生検陽性の被験者17人と生検陰性の被験者16人)で実施。(d)(b)における33個の試料についてのROC曲線では、AUCが0.76(95%CI:0.59、0.93)である。(e)(a)および(c)に示す93個の試料からなるセット全体についてのボックスプロット。(f)データセット全体(n=93)についてのROC曲線では、AUCが0.71(95%CI:0.61、0.82)である。
【図13】図13は、生検陽性および生検陰性の尿上清に含まれるサルコシンの評価を示す。(a)生検陽性被験者59人および生検陰性被験者51人から得た110個の尿上清からなる一組(バッチ)において、クレアチニンと比較してサルコシン・レベルが顕著に高いことを示すボックスプロット(ウィルコクソンの順位和検定:P=0.0025)。(b)レシーバー・オペレーター)曲線では、AUCが0.67(95%CI:0.57、0.77)である。
【図14】図14は、前立腺由来組織試料において、さらなる前立腺癌関連代謝産物の確認を示す。(a)良性から転移性疾患へ臨床的に限局する進行の過程におけるシステインレベルの上昇を示すボックスプロット(各々n=5、良性対PCA対Metsの平均±SEM:6.19±0.13対7.14±0.34対8.00±0.37)。(b)(a)と同様であるが、グルタミン酸の場合(良性対PCA対Metsの平均±SEM:9.00±0.26対9.92±0.41対11.15±0.44)。(c)(a)と同様であるが、グリシンの場合(良性対PCA対Metsの平均±SEM:8.00±0.06対8.51±0.28対9.28±0.28)。(d)(a)と同様であるが、チミンの場合(良性対PCA対Metsの平均±SEM:1.33±0.15対2.01±0.28対2.27±0.31)。
【図15】図15は、前立腺由来細胞系統におけるEZH2過剰発現およびノックダウンの免疫ブロット法による確認を示す。
【図16】図16は、VCaP細胞におけるERG遺伝子融合生成物のノックダウンのリアルタイムPCRベースの定量を示す。
【図17】図17は、前立腺および乳房上皮細胞に内在化されたサルコシンの評価を示す。
【図18】図18は、アミノ酸処理前立腺上皮細胞における細胞周期分析および増殖の評価を示す。(a)未処理前立腺細胞系統RWPEまたは(b)アラニン、(c)グリシン、および(d)サルコシンのいずれか50μMによって24時間処理したものの細胞周期プロファイル。(e)(a)〜(d)に対するコールターカウンターを用いる細胞数の評価。
【図19】図19は、前立腺細胞系統におけるGNMTノックダウンのリアルタイムPCRベースの定量を示す。(a)DU145細胞では、siRNAを媒介としたノックダウンによってGNMTmRNAレベルが約25%減少した。(b)RWPE細胞では、siRNAを媒介としたノックダウンによってGNMTmRNAレベルが約42%減少した。
【図20】図20は、グリシン誘導侵入を示す。しかし、サルコシン誘導侵入はGNMTのノックダウンによって抑制されている。
【図21】図21は、アラニン処理前立腺上皮細胞と比較して、サルコシン処理前立腺上皮細胞で過剰発現した遺伝子のオンコマイン(Oncomine)概念図を示す。
【図22】図22は、サルコシンによって活性化されたEGFR経路の下流読み出し(download read-out)を示す。
【図23】図23は、エルロチニブがPrEC細胞のサルコシンを媒介とした侵入を抑制することを示す。(a)10μMエルロチニブによるEGFRリン酸化の抑制を示す免疫ブロット分析。(b)10μMエルロチニブによるPrEC細胞の前処理は、サルコシン誘導侵入の顕著な減少をもたらす。(c)(b)の比色定量。
【図24】図24は、エルロチニブがRWPE細胞におけるサルコシンを媒介とした侵入を抑制することを示す。(a)10μMエルロチニブによるRWPE細胞の前処理によってサルコシン誘導侵入が2倍減少する。
【図25】図25は、C225がRWPE細胞のサルコシンを媒介とした侵入を抑制することを示す。(a)50mg/mlのC225によってRWPE細胞を前処理することで、サルコシン誘導侵入の著しい減少をもたらす。(b)50mg/mlのC225によってEGFRリン酸化の抑制を示す免疫ブロット分析。
【図26】図26は、EGFRのノックダウンがサルコシンを媒介とした細胞侵入を減少させることを示す。(a)細胞の顕微鏡写真。(b)侵入の比色評価。(c)QRT−PCRによるEGFRノックダウンの確認。
【図27】図27は、非侵襲から高侵襲に至る範囲にわたって、癌腫瘍一連の腫瘍中の癌腫瘍侵襲性を決定するのに有用なバイオマーカーのパネルの3次元プロットを示す。良性(ダイヤモンド)、転移性(二等辺三角形)、GS3(正方形)、GS4(正三角形)。X軸(クエン酸塩/リンゴ酸塩);Y軸、NAA;Z軸、サルコシン。いくつかの転移性試料は、尺度基準から外れ、示されるようにグラフ上では見ることはできない。
【図28】図28は、前立腺癌の進行中において、メチオニン経路のサルコシンおよび関連代謝産物が高いレベルを示しているZスコアプロットを示す。
【図29】図29は、前立腺癌および転移癌における同位体希釈GCMSを用いたサルコシンの確認を示す。
【図30】図30は、RWPE細胞におけるSARDHのノックダウンを示す。(a)サルコシンのGCMS評価。(b)侵入の比色定量評価。(c)(b)の顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0017】
定義
本発明の理解を容易にするために、いくつかの用語および句を以下に定義する。
【0018】
「前立腺癌」とは、男性生殖器系の腺である前立腺で癌が発現する疾患のことをいう。「低悪性度」または「より低い悪性度」の前立腺癌とは、非転移性の前立腺癌のことをいい、転移する可能性が低い悪性腫瘍(すなわち、悪性度が少ないと考えられる前立腺癌)が挙げられる。「高悪性度」あるいは「より高い悪性度」の前立腺癌とは、被験者の体内で転移した前立腺癌のことをいい、転移する可能性が高い悪性腫瘍(悪性度が高いと考えられる前立腺癌)が挙げられる。
【0019】
本明細書中で用いられる、用語「癌特異的代謝産物」とは、非癌細胞と比較して癌細胞中に差別的に存在する代謝産物のことをいう。例えば、いくつかの実施形態では、癌特異的代謝産物は癌細胞に存在するが、非癌細胞には存在しない。他の実施形態では、癌細胞には癌特異的代謝産物が存在しないが、非癌細胞には存在している。さらに別の実施形態では、非癌細胞と比較して、癌特的代謝産物が異なる濃度(例えば、高濃度または低濃度)で癌細胞に存在している。例えば、癌特異的代謝物は任意の濃度で差別的に存在する。しかし、一般に癌特異的代謝産物は、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%、少なくとも110%、少なくとも120%、少なくとも130%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも140%、少なくとも150%、またはそれ以上の増加する濃度で、存在することが可能であり、あるいは一般に、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも100%(すなわち、不在)まで減少する濃度で、存在することが可能である。癌特異的代謝産物は、統計的に有意である濃度(すなわち、ウェルチのt検定またはウィルコクソンの順位和検定のいずれかを用いて決定されるように、p値は0.05未満および/またはq値は0.10未満)で、好ましくは差別的に存在する。例示的な癌特異的代謝産物は、以下の詳細な説明および実験の部で説明する。
【0020】
本明細書および請求の範囲にある用語「試料(sample)」は、最も広い意味で用いられている。一方では、それは、検体(specimen)または培養(culture)を包含することを意図している。他方では、それは、生体試料および環境試料の両方を包含することを意図している。試料として、合成されたものに由来する検体を挙げることもできる。
【0021】
生体試料として、ヒトを含む動物、流体、固体(例えば便)あるいは組織、ならびに液体および固形食、ならびに飼料および成分、例えば乳製品、野菜、肉および食肉副産物、ならびに廃棄物が考えられる。生体試料は、種々の属の家畜全てから得られ、野獣または野生動物からも得られる。しかし、限定されるものではないが、そのような動物としては、有蹄動物、熊、魚、ウサギ等が挙げられる。生体試料は、所望のバイオマーカーを検知するのに適当な任意の生体物質を含むものであってもよく、被検体由来の細胞物質および/または非細胞物質を含むものであってもよい。試料は、適当な生体組織または生体液、例えば前立腺組織、血液、血漿、尿、または脳脊髄液(CSF)から単離することができる。
【0022】
環境試料として、表面物質、土、水、および産業試料と、食物および乳加工用の道具、装置、機材、器具、使い捨てもしくは使い捨てではない製品から得られる試料が挙げられる。これらの例は、本発明に適用可能である試料の種類を限定するものとして解釈されるものではない。
【0023】
代謝産物の「基準レベル」とは、特定の症状、疾病表現型、またはそれらの欠如を示す、あるいは特定の症状、疾病表現型、またはそれらの欠如の組み合わせを示す代謝産物のレベルを意味する。代謝産物の「陽性」基準レベルとは、特定の症状または疾病表現型を示すレベルを意味する。代謝産物の「陰性」基準レベルは、特定の症状または疾病表現型の不足を示すレベルを意味する。例えば、代謝産物の「前立腺癌陽性基準レベル」は、被験者の前立腺癌の陽性診断を示す代謝産物のレベル意味し、また代謝産物の「前立腺癌陽性基準レベル」は、被験者の前立腺癌の陰性診断を示す代謝産物のレベルを意味する。代謝産物の「基準レベル」は、代謝産物の絶対量もしくは相対量または代謝産物の濃度、代謝産物の有無、代謝産物の量もしくは濃度の範囲、代謝産物の最小および/もしくは最大の量もしくは濃度、代謝産物の平均量もしくは平均濃度、ならびに/または代謝産物の中央量もしくは中央濃度であってもよく、また、さらに、代謝産物の組み合わせの「基準レベル」もまた、2種類以上の代謝産物の絶対量もしくは相対量もしくは濃度について、互いに関する比率であってもよい。特定の症状、疾病表現型、およびそれらの欠如に関する代謝産物の適当な陽性基準レベルおよび陰性基準レベルを、1人以上の適当な被験者における所望の代謝産物のレベルを測定することによって、決定することが可能である。また、そのような基準レベルを被験者の特定の集団に合わせてもよい(例えば、基準値を年齢一致させてもよく、一定の年齢の被験者に由来する試料の代謝産物レベルと、一定の年齢層における特定の症状、疾病表現型、またはそれらの欠如の基準レベルとを比較してもよい)。そのような基準レベルは、生体試料の代謝物のレベルを測定する際に用いられる特定の技術(例えば、LC−MS、GC−MS)によって異なるものであってもよく、用いられる特定技術に応じて代謝産物のレベルが異なる場合もある。
【0024】
本明細書中で用いられる、用語「細胞」とは、インビトロまたはインビボにある任意の真核細胞または原核細胞(例えば、大腸菌(E.coli)、酵母細胞、哺乳動物細胞、鳥類細胞、両生類細胞、植物細胞、魚類細胞、および昆虫細胞)のことをいう。
【0025】
本明細書中で用いられる、用語「プロセッサ」とはプログラムにもとづく一セットのステップを実行する装置(例えば、デジタル・コンピュータのことをいう。例えば、プロセッサとして、プログラム制御のもとでデータの受信、送信、記憶、および/もしくは操作をおこなうための中央処理装置(CPU)、電子装置、またはシステムが挙げられる。
【0026】
本明細書中で用いられる、用語「メモリ素子」、すなわち「コンピュータ・メモリ」とは、コンピュータによって読み取り可能である任意のデータ保存装置のことであり、例えば、限定されるものではないが、ランダム・アクセス・メモリ、ハードディスク、磁気(フロッピ)ディスク、コンパクト・ディスク、DVD、磁気テープ、およびフラッシュ・メモリー等が挙げられる。
【0027】
用語「プロテオミクス」とは、Liebler, D. Introduction to Proteomics: Tools for the New Biology, Humana Press, 2003に記載されているように、多数のタンパク質セットを分析することをいう。プロテオミックスは、タンパク質の同定および定量、該タンパク質の局在化、修飾、相互作用、活性、ならびに該タンパク質の生化学的および細胞機能を扱う。プロテオミックス分野の爆発的な成長は、生産性が高い新規の研究法および測定技術(例えばゲル電気泳動法および質量分析法)と、膨大なデータを処理、分析、および解釈する革新的なコンピュータ・ツールおよび方法によって、もたらされている。
【0028】
「質量分析法」(MS)は、標的分子のフラグメント化を伴う分子の測定および分析をおこない、質量/電荷比に基づいたフラグメントの分析をおこなうことで、「分子の指紋」として役立つ質量スペクトルを作り出す技術である。対象物の質量/電荷比を、その対象物によって電磁エネルギーが吸収される波長を測定する手段によって、測定している。イオンの質量と電荷との比を測定するために一般に用いられる方法にはいくつかあり、そのいくつかはイオン軌跡と電磁波との相互作用を測定するものであり、他のものはイオンが所定の距離を移動するのに要する時間を測定するもので、あるいはそれらを組み合わせたものである。これらのフラグメント質量測定のデータの検索をデータベースに対しておこない、標的分子の最終的な同定が得られる。質量分析法はまた、その他多くの領域の中でも石油化学または医薬品質管理等の他の化学領域で、幅広く用いられている。
【0029】
用語「溶解」とは、物理化学的手段によって引き起こされた細胞の破裂をいう。これは、血清試料または組織試料由来のタンパク質抽出液を得るためにおこなわれる。
【0030】
用語「分離」は、複雑な混合物からその構成要素であるタンパク質または代謝産物を分離することをいう。共通の実験室分離技術として、ゲル電気泳動およびクロマトグラフィが挙げられる。
【0031】
用語「ゲル電気泳動法」とは、電流の影響下でゲルの中を分子が移動する相対距離にもとづいて、該分子の分離および生成をおこなう技術のことをいう。自動ゲル切り出し技術は、本明細書中に記載した方法およびシステムの入力として用いることが可能であるラージ・データセット・フォーマットのデータを提供することが可能である。
【0032】
用語「キャピラリー電気泳動」とは、緩衝液で満たされたキャピラリーの両端に電圧を印加して溶液中の分子を分離する自動分析技術のことをいう。キャピラリー電気泳動は一般にイオンの分離に用いられ、電圧が印加されると、イオンの大きさおよび電荷に依存して、イオンが異なる速度で移動する。溶質(イオン)は検出器を通過する際にピークとして確認され、各ピークの面積が該溶質中のイオン濃度に比例する。このことは、イオンの定量を可能にする。
【0033】
用語「クロトグラフィ」とは、分離すべき成分が2つの相の間に分布する物理的な分離方法のことをいい、該相の1つが固定されており(固定相)、他方(移動相)は一定の方向に移動する。クロトグラフィの出力データを本発明による操作に用いることが可能である。
【0034】
用語「クロトグラフィ時間」は、質量分析法データとの関連で用いられる場合、分離装置に試料を注入してからのクロトグラフィ・プロセスの経過時間のことをいう。「質量分析器」とは、イオンの混合物を該イオンの質量電荷比によって分離する質量分析計内の装置である。
【0035】
「供給源」は、分析すべき試料をイオン化する質量分析計内の装置である。
【0036】
「検出器」はイオンを検知する質量分析計内の装置である。
【0037】
「イオン」は、原子への電子の添加または原子からの電子の除去によって形成される荷電体である。
【0038】
「質量スペクトル」は、質量分析計によって生成されるデータのプロットであり、一般にX軸上にm/z値およびy軸上に強度値が含まれる。
【0039】
「ピーク」は、比較的高いy値を持つ質量スペクトル上の点である。
【0040】
用語「m/z」とは、その電荷数でイオンの質量数を割ることによって形成される無次元量のことをいう。それは長い間、「質量電荷」比と呼ばれてきた。
【0041】
用語「代謝」は、生物の組織内で生ずる化学変化のことをいい、「同化」および「異化」が含まれる。同化とは、分子の生合成または蓄積のことをいい、異化は分子の分解のことをいう。
【0042】
「代謝産物」は、物質代謝に起因する中間体または生成物である。代謝産物は、しばしば「低分子」と言及される。
【0043】
用語「代謝学」は、細胞代謝産物の研究のことをいう。
【0044】
「生体高分子」は、1種類以上の反復単位からなる高分子である。生体高分子は、一般に生物系で見出され、特に多糖類(炭水化物等)およびペプチド(この用語はポリペプチドおよびタンパク質を含むようにして用いられる)およびポリヌクレオチド、同様にそれらの類似体、例えばアミノ酸類似体もしくは非アミノ酸基から構成もしくは含むそれらの化合物、あるいはヌクレオチド類似体もしくは非ヌクレオチド基が挙げられる。これは、従来の主鎖が天然主鎖または合成主鎖によって置き換えられているポリヌクレオチド、および1つ以上の従来の塩基が、ワトソン・クリック型の水素結合相互作用に関与することができる基(天然もしくは合成)と置き換えられている核酸(または合成類似体もしくは天然の類似体)を含む。ポリヌクレオチドとして、単鎖または複鎖状の構成が挙げられ、1本以上の鎖が別のものと完全に整列されていてもよく、あるいはされていなくてもよい。
【0045】
本明細書中で用いられる、用語「手術後組織」とは、外科的処置の過程で被検体から除去された組織のことをいう。例として、限定されるものではないが、生検試料、切除器官、および器官の切除部分が挙げられる。
【0046】
本明細書中で用いられる、用語「検出する」、「検出された」、または「検出」は、検出可能に標識された組成物の発見もしくは識別の一般的行為または特異的な観察を説明するものであってもよい。
【0047】
本明細書中で用いられる、用語「臨床的失敗」とは、前立腺摘除後の陰性結果のことをいう。臨床失敗に関連した結果の例として、限定されるものではないが、PSA値の増加(例えば、少なくとも0.2ng/mlの増加)または疾患(例えば、転移性前立腺癌)の再発が挙げられる。
【0048】
本明細書中で用いられる、用語「siRNA」とは低分子干渉RNAのことをいう。いくつかの実施形態では、siRNAは二重、すなわち二本鎖の領域から構成され、約18〜25ヌクレオチド長である。しばしば、siRNAは、約2ないし4つの不対ヌクレオチドを各々の鎖の3’末端に有する。siRNAの二重または二本鎖領域の少なくとも一本鎖は、標的RNA分子に対して、実質的に相同、または実質的に相補的である。標的RNA分子に対して相補的な鎖は、「アンチセンス鎖」である。標的RNA分子に対して相同な鎖は、「センス鎖」であり、siRNAアンチセンス鎖に対しては相補的である。siRNAはまた、追加の配列も含む。そのような配列の非限定例としては、連結配列、またはループ、同様に幹構造および他の折り畳み構造が挙げられる。siRNAは、無脊椎動物および脊椎動物においてRNA干渉を引き起こす際に、また植物において転写後の遺伝子サイレンシングの過程で配列特異的RNA分解を引き起こす際に、重要な中間体として機能する。
【0049】
用語、「RNA干渉」あるいは「RNAi」とは、siRNAsによる形質発現をサイレンシングまたは減少させることをいう。それは、動物および植物における配列特異的な転写後遺伝子サイレンシングのプロセスであり、サイレンシングされた遺伝子の配列に対する二重領域で相同であるsiRNAによって開始される。遺伝子は、生物に対して内因性または外因性のものであってよく、染色体に結合して存在、あるいはゲノムに結合されない導入ベクター内に存在してもよい。遺伝子の発現は、完全または部分的に抑制される。RNAiはまた、標的RNAの機能を阻害するとも考えられ、標的RNAの機能は完全または部分的であってもよい。
【0050】
発明の詳細な説明
本発明は癌マーカーに関する。特定の実施形態では、本発明は前立腺癌中に異なって存在する代謝産物を提供する。本発明の実施形態の開発の過程で行われた実験は、正常の前立腺に対して前立腺癌に異なって存在していることから一連の代謝産物を同定した。本発明の実施形態の開発過程で実施した実験で同定されたものは、例えばサルコシン、システイン、グルタミン酸塩、アスパラギン、グリシン、ロイシン、プロリン、スレオニン、ヒスチジン、N−アセチルアスパラギン酸、イノシン、イノシトール、アデノシン、タウリン、クレアチン、尿酸、グルタチオン、ウラシル、キヌレニン、グリセロール−s−リン酸塩、グリココール酸、スベリン酸、チミン、グルタミン酸、キサントシン、4−アセトアミド酪酸、N−アセチルチロシン、およびチミンであった。表3、4、10、および11は限局性かつ転移性の癌に存在する別の代謝産物を提供する。開示されたマーカーを診断および治療の標的として用いられることがわかる。いくつかの実施形態では、本発明は、サルコシンのレベル(例えば、腫瘍組織または他の体液中で)が高いことに基づいて侵襲性の前立腺癌を同定する方法を提供する。
【0051】
I. 診断適用
いくつかの実施形態では、本発明は癌を診断するための方法および組成物を提供するもので、限定されるものではないが、癌特異的代謝産物または該代謝産物の誘導体、前駆体、代謝産物等に基づいて、癌のリスク、癌の病期、癌の侵襲性、その他を特徴付けることが含まれている。例示的な診断方法を以下に説明する。
【0052】
したがって、被験者が前立腺癌であるかどうかを診断する(または診断を助ける)方法は、(1)被験者由来の試料中で、サルコシン、システイン、グルタミン酸塩、アスパラギン、グリシン、ロイシン、プロリン、スレオニン、ヒスチジン、N−アセチルアスパラギン酸、イノシン、イノシトール、アデノシン、タウリン、クレアチン、尿酸、グルタチオン、ウラシル、キヌレニン、グリセロール−s−リン酸塩、グリココール酸、スベリン酸、チミン、グルタミン酸、キサントシン、4−アセトアミド酪酸、およびN−アセチルチロシンおよびチミンから選択される1種類以上の癌特異的代謝産物の有無または差レベルを検出すること、ならびに(B)癌特異的代謝産物の有無または差レベルに基づいて癌を診断することが含まれる。そのような方法が前立腺癌の診断を助ける場合、該方法の結果が、被験者に前立腺癌があるかどうかの臨床的判断に役立つ他の方法(あるいはそれの結果)と共に、用いられてもよい。
【0053】
別の例において、前立腺癌を特徴づける方法は、癌と診察された被験者からの試料の有無または代謝産物(例えばサルコシン)の増加量を検出すること;ならびに(b)前記高レベルの代謝産物(例えばサルコシン)の存在に基づいて前立腺癌を特徴づけること、を含む。
【0054】
A. 試料
癌特異的代謝産物を含有すると思われる任意の患者試料を、本明細書中に記載の方法に基づいて試験する。非限定的な例として、試料は、組織(例えば前立腺生検試料あるいは手術後の組織)、血液、尿、またはそれらの分画(例えば血漿、漿液、尿上清、尿細胞沈渣、もしくは前立腺細胞)であってもよい。いくつかの実施形態では、試料は、生検または外科手術(例えば前立腺生検)から得られた組織試料である。
【0055】
いくつかの実施形態では、患者試料は、癌特異的代謝産物を含む細胞について、試料を単離または濃縮するように設計された予備処理を実施する。この目的のために、当業者に知られている種々の技術を用いることが可能であり、該方法として、限定されるものではないが、遠心分離、免疫捕捉、および溶菌が挙げられる。
【0056】
B. 代謝産物の検出
代謝産物は、任意の適当な方法を用いて検出することが可能であり、該方法として、限定されるものではないが、液体クロトグラフィおよび気体クロトグラフィを単独として、または質量分析法(例えば、以下の実験の項を参照)、NMR(例えば、本明細書に援用される米国特許公報第20070055456号を参照)、免疫学的アッセイ、化学的アッセイ、および分光法等が挙げられる。いくつかの実施形態では、クロトグラフィおよびNMR分析用の市販の装置が用いられる。
【0057】
他の実施形態では、代謝産物(すなわち、バイオマーカーおよびその誘導体)の検出は、磁気共鳴分光法(MRS)、磁気共鳴画像(MRI)、CATスキャン、超音波、MSに基づいた組織画像診断、またはX線検出法(例えばエネルギー分散方式のX線螢光検出)等の光学的画像形成技術を用いて、おこなわれる。
【0058】
生体試料中の1種類以上の代謝産物の有無またはレベルを決定するために、任意の適当な方法を用いて該生体試料を分析する。適当な方法として、クロトグラフィ(例えばHPLC、ガスクロトグラフィ、液体クロトグラフィ)、質量分析法(例えばMS、MS−MS)、酵素結合抗体免疫吸着アッセイ(ELISA)、抗体リンケージ、他の免疫化学的技術、生化学反応もしくは酵素反応、または分析、およびそれの組み合わせが挙げられる。さらに、1種類以上の代謝産物のレベルを、例えば、測定が臨まれるバイオマーカーのレベルと関連する測定されることが所望のバイオマーカーのレベルと相関関係を有する化合物(または複数の化合物)のレベルを測定するアッセイを用いることによって、間接的に測定することも可能である。
【0059】
列挙された代謝産物の1つ以上のレベルを本発明の方法で測定することが可能である。例えば、そのような方法で、1つの代謝産物、2つ以上の代謝産物、3つ以上の代謝産物、4つ以上の代謝産物、5つ以上の代謝産物、6つ以上の代謝産物、7つ以上の代謝産物、8つ以上の代謝産物、9つ以上の代謝産物、10以上の代謝産物のレベルを測定または使用することが可能であり、該代謝産物として、限定されるものではないが、例えばサルコシン、システイン、グルタミン酸塩、アスパラギン、グリシン、ロイシン、プロリン、スレオニン、ヒスチジン、N−アセチルアスパラギン酸、イノシン、イノシトール、アデノシン、タウリン、クレアチン、尿酸、グルタチオン、ウラシル、キヌレニン、グリセロール−s−リン酸塩、グリココール酸、スベリン酸、チミン、グルタミン酸、キサントシン、4−アセトアミド酪酸、N−アセチルチロシン、およびチミン等の一部または全部の組み合わせが挙げられる。代謝産物の組み合わせのレベルを決定することで、前立腺癌を診断する方法および前立腺癌の診断を補助する方法等の方法で、より高い感度および特異度が可能となり、また他の前立腺疾患(例えば前立腺肥大症(BPH)、前立腺炎等)または前立腺癌に対して同様もしくはオーバーラップする代謝産物を有すると思われる他の癌の良好な分化または特徴付けを可能とすると考えられる。例えば生体試料に含まれる複数の特定の代謝産物のレベルの比によって、前立腺癌を診断する方法および前立腺癌の診断を補助する方法等の方法で、より高い感度および特異度が可能となり、また前立腺癌に対して同様もしくはオーバーラップする代謝産物を有すると思われる他の癌または他の前立腺疾患の良好な分化または特徴付けを可能とすると考えられる(前立腺癌を持たない被験者と比較)。
【0060】
C. データ分析
いくつかの実施形態では、コンピュータ・ベースの分析プログラムは検出分析(例えば癌特異的代謝産物の有無または量)によって生成された生データを臨床医のための予測価のデータに翻訳するために用いられる。臨床医は任意の適当な手段を用いて、予測データにアクセスすることができる。したがって、いくつかの実施形態では、本発明は、代謝産物分析の訓練を受けていないと思われる臨床医が生データを理解する必要がないという、さらなる利点が得られる。データは、該データの最も有用な形態で、臨床医に直接提示される。続いて、臨床医は、被験者の診療を最適化するために、情報を直ちに利用することができる。
【0061】
本発明が検討することは、分析を実施する研究所間での情報の受信、処理、および送信を可能にする任意の方法であり、情報は医療関係者および被験者に提供される。例えば、本発明のいくつかの実施形態では、被験者から試料(例えば生検試料あるいは血液、尿、または血清試料)を得る。この試料は、世界中の任意の場所(被験者が居住する国とは異なる国の中、もしくは情報が最終的に使用されるところ)に位置したプロファイリング・サービス(例えば医療施設などの臨床試験室)に提出される。試料に組織または他の生体試料が含まれる場合には、被験者は医療センターに出向いて試料の採取をおこない、プロファイリング・センターに送る。あるいは、被験者は自分自身で試料(例えば、尿試料)を採取し、直接それをプロファイリング・センターへ送ってもよい。試料が既に決定された生体情報を含む場合には、被験者によってこの情報を直接プロファイリング・サービスに送付することも可能である(例えば、情報を含む情報カードをコンピュータでスキャンし、電子通信システムを用いてデータをプロファイリング・センターのコンピュータへ送信してもよい)。プロファイリング・サービスによって受信されるとただちに、被験者が臨む診断または予後情報に限定された試料の処理およびプロファイルの作成(すなわち、代謝学的プロファイル)がおこなわれる。
【0062】
その後、プロファイル・データを、治療をおこなう医師が解釈するのに適したフォーマットに調製される。例えば、生データを提供するのではなく、準備したフォーマットが患者の診断またはリスク・アセスメント(例えば、癌存在の可能性)を、特定の治療オプションの推奨とともに、提示するものであってもよい。データを任意の適当な方法によって臨床医が表示してもよい。例えば、いくつかの実施形態では、プロファイリング・サービスは、臨床医に対して印刷可能な報告書(例えば、診療現場で)を生成してもよく、または臨床医に対してコンピュータ上に表示してもよい。
【0063】
いくつかの実施形態では、情報の分析は、診療現場あるいは地域施設で最初に分析される。その後、生データは、詳細な分析および/または臨床医もしくは患者にとって有用な情報への生データの変換をおこなうために、中央処理施設に送られる。中央処理施設は、データ分析のプライバシー(データはすべて一定のセキュリティ・プロトコルで中央施設に保存される)、速度、および均一性という利点をもたらす。その後、中央処理施設は、被験者を治療した後のデータの運命を制御することができる。例えば、電子通信装置を用いると、中央施設は臨床医、被験者、あるいは研究者にデータを供給することができる。
【0064】
いくつかの実施形態では、被験者は電子通信装置を用いて、データに直接アクセスすることができる。被験者は、結果に応じて、診療あるいはカウンセリングさらに選ぶことが可能である。いくつかの実施形態では、データは研究使用に用いられる。例えば、特定病状または病期の有用な指標としてマーカーの取り込みまたは除去のさらなる最適化に、データを用いてもよい。
【0065】
試料中の1種類以上の代謝産物の量またはレベルが決定される場合、量またはレベルを、前立腺癌代謝産物基準レベル、例えば前立腺癌陽性基準レベルおよび/または前立腺癌陰性基準レベルと比較することで、診断の補助または患者が前立腺癌を持っているかどうかの診断を補助することが可能である。前立腺癌陽性基準レベルに対応する試料中の1種類以上の代謝産物のレベル(例えば、基準レベルと同じ、実質的に基準レベルと同じ、最小の基準レベル未満および/または最大の基準レベル未満よりも上および/または下、および/または基準レベルの範囲内であるレベル)は、被験者の前立腺癌を診断する指標となる。さらに、前立腺癌陰性基準レベルと比較して、試料内に異なって存在している1種類以上の代謝産物のレベル(特に統計的に有意なレベルで)は、被検体の前立腺癌を診断する上での指標となる。前立腺癌陽性基準レベルと比較して、試料内に異なって存在している1種類以上の代謝産物のレベル(特に統計的に有意なレベルで)は、被検体の前立腺癌を診断する上での指標となる。
【0066】
様々な技術を用いて、1種類以上の代謝産物のレベルを前立腺癌陽性基準レベルおよび/または前立腺癌陰性基準レベルと比較することが可能であり、該技術として、生体試料中の1種類以上の代謝産物のレベルを前立腺癌陽性基準レベルおよび/または前立腺癌陰性基準レベルと単純に比較(例えば手作業で比較)することが挙げられる。生体試料中の1種類以上の代謝産物のレベルも、1つ以上の統計的分析(例えばT検定、ウェルチのT検定、ウィルコクソンの順位和検定、ランダムフォレスト)を用いて、前立腺癌陽性レベルおよび/または前立腺癌陰性レベルと比較可能である。
【0067】
D. 組成物およびキット
本発明のいくつかの実施形態の診断法で用いるための(例えば、十分に、必要な、または有用な)組成物として、癌特異的代謝産物の有無を検出するための試薬が挙げられる。これらの組成物のいずれも、単独で、または本発明の他の組成物と組み合わせて、キットの形で提供することが可能である。キットは、さらに、制御剤および/または検出試薬を複含む。
【0068】
E. パネル
本発明の実施形態は、本発明のマーカーの1つ以上を同時に検出する多重アッセイまたはパネル・アッセイを提供するもので、該マーカー(例えば、サルコシン、システイン、グルタミン酸塩、アスパラギン、グリシン、ロイシン、プロリン、スレオニン、ヒスチジン、N−アセチルアスパラギン酸およびイノシン、イノシトール、アデノシン、タウリン、クレアチン、尿酸、グルタチオン、ウラシル、キヌレニン、グリセロール−s−リン酸塩、グリココール酸、スベリン酸、チミン、グルタミン酸、キサントシン、4−アセトアミド酪酸、N−アセチルチロシン、またはチミン)を単独であるいは当該技術分野で公知の別の癌マーカーと組み合わせる。例えば、いくつかの実施形態では、パネル・アッセイまたは組み合わせアッセイを用いて、単一のアッセイで2種類以上、3種類以上、4種類以上、5種類以上、6種類以上、7種類以上、8種類以上、9種類以上、10種類以上、15種類以上、または20種類以上のマーカーを検出する。いくつかの実施形態では、アッセイは自動化されている、または高処理である。
【0069】
いくつかの実施形態では、さらに別の癌マーカーが多重分析またはパネル分析に含まれている。マーカーの選択は、予測価単独に対して、または本明細書に記載した代謝マーカーと組み合わせに対して、おこなわれる。典型的な前立腺癌マーカーとして、限定されるものではないが、AMACR/P504S(米国特許第6,262,245号);PCA3(米国特許第7,008,765号);PCGEML(米国特許第6,828,429号);プロステイン/P501S、P503S、P504S、P509S、P510S、プロスターゼ/P703P、P710P(米国特許公報第20030185830号);ならびに米国特許第5,854,206号および第6,034,218号、および米国特許公報第20030175736号に開示されたものが挙げられ、これらの各々を全体として本明細書において参考として援用する。他の癌、疾患、感染、及び代謝学的症状のマーカーもまた、多重フォーマットまたはパネル・フォーマットへの包含が意図される。
【0070】
II. 治療方法
いくつかの実施形態では、本発明は治療方法(例えば本明細書中に記載した癌特異的代謝産物を標的にするもの)を提供する。いくつかの実施形態では、治療方法は本明細書中に記載した癌特異的代謝産物の酵素または経路構成要素を標的にする。
【0071】
例えば、いくつかの実施形態では、本発明は、本発明の癌特異的代謝産物を標的とする化合物を提供する。化合物は、例えば癌特異的代謝産物の合成を妨げることによって(例えば代謝産物の合成に関与する酵素の転写あるいは翻訳を阻害することによって、代謝産物の合成に関与する酵素の不活性化によって(例えば翻訳後修飾もしくは不可逆阻害剤への結合によって)、またはさもなければ代謝産物の合成に関与する酵素の活性を抑制することによって)、あるいはそれらの前駆体または代謝産物のレベルを、癌特異的代謝産物に結合してその機能を抑制することによって、癌特異的代謝産物の標的に結合することによって(例えば競合阻害剤または拮抗阻害剤)、あるいは代謝産物の破壊またはクリアランスを増加することによって、癌特異的代謝産物のレベルを減少させうる。化合物は、例えば、癌特異的代謝産物の分解またはクリアランスを抑制することによって(例えば代謝産物の分解に関与する酵素の抑制によって)、癌特異的代謝産物の前駆体のレベルを増加させることによって、あるいはその標的に対する代謝産物の親和性を増加させることによって、癌特異的代謝産物のレベルを増加させることが可能である。典型的な治療標的として、限定されるものではないが、グリシン−N−メチル基転移酵素(GNMT)およびサルコシンが挙げられる。
【0072】
A. 代謝経路
典型的な癌特異的代謝産物の代謝経路を以下に説明する。追加の代謝産物については、本発明の組成物および方法での使用について検討し、例えば、以下の実施例の項で説明する。
【0073】
i. サルコシン代謝
例えば、サルコシンは、肝臓でのコリン代謝に関係する。哺乳類の肝臓でのグリシンへのコリンの酸化分解反応は、ミトコンドリア内で起こり、ここでそれは特異的な輸送体を介して入る。この代謝経路の最後の2ステップは、ジメチルグリシンをサルコシンに変換するジメチルグリシン・デヒドロゲナーゼ(ME2GLYDH)と、サルコシン(N−メチルグリシン)をグリシンに変換するサルコシンデヒドロゲナーゼ(SARDH)とによって、触媒される。したがって、いくつかの実施形態では、治療組成物はME2GLYDHおよび/またはSARDHを標的にする。典型的な化合物は、例えば本明細書に記載の薬物スクリーニング方法を用いて、同定される。
【0074】
ii. グリシド酸代謝
コレステロール利用の最終生産物は、肝臓内で合成される胆汁酸である。胆汁酸の合成は、過剰なコレステロールを排出することに対する主要なメカニズムである。しかし、胆汁酸の形となったコレステロールの排出は、食事によるコレステロールの過剰摂取を相殺するには不十分である。ヒトの胆汁で最も豊富な胆汁酸は、ケノデオキシコール酸(45%)およびコール酸(31%)である。胆汁酸のカルボキシル基は、胆細管への分泌に先だってグリシンまたはタウリンのいずれかへ、アミド結合を介して共役結合する。これらの共役結合反応は、グリココール酸およびタウロコール酸の各々を生ずる。胆細管は胆汁小導管と連結し、その後、胆管を形成する。それらの管を介して、胆汁酸は肝臓から胆嚢へ運ばれ、将来の使用のために、胆嚢に蓄えられる。胆汁酸の最終的な運命は、小腸に分泌されることであり、該小腸で食物中の脂肪の乳化を助ける。腸では、グリシンおよびタウリンの残渣が除去され、胆汁酸は腸によって排泄(僅かな割合)または再吸収され、肝臓に戻される。このプロセスを腸肝循環と呼ぶ。
【0075】
iii. スベリン酸代謝
スベリン酸(さらにオクタン二酸)は、式C6H12(COOH)2のジカルボン酸である。ジカルボン酸のペルオキシゾームの代謝は、中鎖ジカルボン酸、アジピン酸、スベリン酸、およびセバシン酸の生成をもたらし、これらは尿中に排泄される。
【0076】
iv. キサントシン物質代謝
キサントシンはプリンヌクレオシド物質代謝に関係する。具体的には、キサントシンはグアノシンへのイノシンの転化における中間物である。キサンチル酸は、急性リンパ芽球性白血病(ALL)の子どもたちにとって最適なチオプリン療法を保証することで推奨されるように、プリン代謝におけるイノシン酸リン酸塩デヒドロゲナーゼ酵素活性の定量測定に用いられる。
【0077】
B. 小分子療法
いくつかの実施形態では、小分子療法に利用される。一実施形態では、小分子療法は癌特異的代謝産物を標的にする。いくつかの実施形態では、小分子療法は、例えば、本発明の薬物スクリーニング法を用いることで、確認される。
【0078】
C. 核酸に基づく療法
他の実施形態では、核酸ベースの療法が用いられる。典型的な核酸ベースの治療法として、限定されるものではないが、アンチセンスRNA、siRNA、およびmiRNAが挙げられる。いくつかの実施形態では、核酸ベースの治療法は、癌特異的代謝産物(例えば、上記したもの)の代謝経路の酵素の発現を標的にする。
【0079】
いくつかの実施形態では、核酸ベースの治療法はアンチセンスである。siRNAは遺伝子に特有の治療薬として用いられる(Tuschl and Borkhardt, Molecular Intervent. 2002; 2(3): 158-67, 参照により本明細書中に援用する)。動物細胞へのsiRNAのトランスフェクションは、特定遺伝子を効力のある永続的な転写後サイレンシングをもたらす(Caplen et al, Proc Natl Acad Sci U.S.A. 2001; 98: 9742-7; Elbashir et al., Nature. 2001; 411 :494-8; Elbashir et al., Genes Dev. 2001;15: 188-200; および Elbashir et al, EMBO J. 2001; 20: 6877-88、これら全てを参照により本明細書中に援用する)。siRNAによるRNAiをおこなうための方法および組成物は、例えば、米国特許第6,506,559号(参照により本明細書中に援用する)。
【0080】
他の実施形態では、癌特異的代謝産物の代謝経路に含まれる遺伝子の発現はアンチセンス化合物を用いて調節される。該アンチセンス化合物は酵素をコードする1つ以上の核酸と特異的にハイブリダイズする(例えば、Georg Sczakiel, Frontiers in Bioscience 5, d194-201 January 1, 2000; Yuen et al., Frontiers in Bioscience d588-593, June 1, 2000; Antisense Therapeutics, Second Edition, Phillips, M. Ian, Humana Press, 2004; これらの各々の参照により本明細書中に援用する)。
【0081】
D. 遺伝子治療
本発明は、ここに記述された癌特異的代謝産物の代謝経路に含まれる酵素の発現の調節で使用される任意の遺伝子操作の使用を検討する。遺伝子操作の例として、限定されるものではないが、遺伝子ノックアウト(例えば、組換え等を用いて染色体から遺伝子を取り除く)、誘導プロモーターの有無によるアンチセンス構築物の発現等が挙げられる。核酸構築物をインビトロまたはインビボの細胞へ送達することは、任意の適当な方法を用いておこなうことが可能である。適当な方法としては、所望の事象(アンチセンス構築物の発現)が起こるように、核酸構築物を細胞の中に導入する方法である。遺伝子治療もまた、インビボ(例えば、誘導プロモーターによる刺激に対して)で発現するsiRNAまたは他の干渉分子の送達に用いてもよい。
【0082】
遺伝子情報を担持する分子を細胞内に導入することは、種々の方法のいずれによっても達成される。種々の方法として、限定されるものではないが、裸DNA構築物の直接注入、上記構築物によってロードされた金粒子による微粒子銃、ならびにリポソームおよび生体ポリマー等を用いた巨大分子媒介遺伝子導入が挙げられる。好ましい方法は、ウイルス由来の遺伝子送達ビヒクルを用いるもので、該ウイルスとして、限定されるものではないが、アデノウイルス、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、およびアデノ関連ウイルスが挙げられる。レトロウイルスと比べて効率が高いことから、アデノウイルス由来のベクターが、インビボで核酸分子を宿主細胞に導入するための好ましい遺伝子送達ビヒクルとしてある。アデノウイルス・ベクターは、動物モデルにおける種々の固形腫瘍への、および免疫欠陥マウスにおけるヒト固形腫瘍異種移植片へのインビボ遺伝子導入においてかなり効率的である。遺伝子導入のためのアデノウイルス・ベクターおよび方法の例は、PCT公報WO 00/12738およびWO 00/09675ならびに米国特許出願第6,033,908号、第6,019,978号、第6,001,557号、第5,994,132号、第5,994,128号、第5,994,106号、第5,981,225号、第5,885,808号、第5,872,154号、第5,830,730号、および第5,824,544号(これらの各々のその全体を参照により本明細書中に援用する)に記載されている。
【0083】
被験者に対するベクターの投与を、様々な方法でおこなうことが可能である。例えば、本発明のいくつかの実施形態では、ベクターは、直接注射を用いて、腫瘍または腫瘍関連組織に投与される。他の実施形態では、投与は血液またはリンパ循環を介して行われる(例えば、PCT公報99/02685を参照。その全体を参照により本明細書中に援用する)。アデノウイルス・ベクターの典型的な投与レベルは、潅流液に対して添加された108ないし1011個のベクター粒子が好ましい。
【0084】
E.抗体療法
いくつかの実施形態では、本発明の標的癌特異的代謝産物または該産物の代謝経路に関与する酵素を標的とする抗体を提供する。任意の適当な抗体(例えば、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、または合成抗体)をここに開示した治療方法で用いることが可能である。好ましい実施形態では、癌治療に用いる抗体は、ヒト化抗体である。抗体をヒト化する方法は当該技術分野において周知である(例えば米国特許第6,180,370号、第5,585,089号、第6,054,297号、および第5,565,332号を参照。これらの各々を参照により本明細書中に援用する)。
【0085】
いくつかの実施形態では、抗体ベースの治療法は、下記に述べられるような医薬組成物として処方される。好ましい実施形態では、本発明の抗体組成物の投与は、癌の測定可能な減少(例えば、腫瘍の減少または除去)をもたらす。
【0086】
F. 医薬組成物
本発明はさらに医薬組成物を提供する(例えば癌特異的代謝産物のレベルまたは活性を調節する医薬製剤を含む)。本発明のいくつかの実施形態の医薬組成物は、局所治療または全身治療のいずれが求められているのかに応じて、および処置すべき領域に応じて、多くの方法で投与可能である。投与は、局所(眼科用と膣・直腸送達を含む粘膜とに対するものが挙げられる)、肺(例えば、散剤もしくはエアゾール剤の吸入もしくは吸送、あるいは噴霧器によるもの、気管内、鼻腔、表皮、および経皮投与)、経口、または非経口投与が挙げられる。非経口投与として、静脈内、動脈内、皮下、腹腔内もしくは筋肉内注射、または輸液;あるいは頭蓋内、例えば、鞘内または脳室内の投与が挙げられる。
【0087】
局所投与用の医薬組成物および製剤として、軟膏剤、ローション剤、クリーム剤、ゲル剤、点滴剤、坐剤、噴霧剤、液剤、および散剤を挙げることが可能である。従来の医薬担体、水性、粉末、または油性の基剤、増粘剤、およびその他も必要である場合があり、または望ましい場合もある。
【0088】
経口投与用の組成物および製剤として、粉末または顆粒、水中または非水性媒体中の懸濁液または溶液、カプセル、サシェ、あるいは錠剤が挙げられる。増粘剤、香料、賦形剤、乳化剤、分散助剤、または結合材も望まれる場合もある。
【0089】
非経口、鞘内、あるいは脳室内投与の組成物および製剤として、緩衝液、希釈剤、および他の適当な添加剤、例えば、限定されるものではないが、浸透促進剤、担体化合物、および他の医薬的に許容し得る担体または賦形剤等も含むことが可能である滅菌水溶液が挙げられる。
【0090】
本発明の医薬組成物として、限定されるものではないが、溶液、乳剤、およびリポソーム含有製剤が挙げられる。これらの組成物は、種々の成分から生成することが可能であり、該成分として、限定されるものではないが、予備成形液体、自己乳化固体、および自己乳化半固体物質が挙げられる。
【0091】
単位剤形によって簡便に示される本発明の医薬製剤は、薬品工業でよく知られている従来の技術によって調製することが可能である。そのような技術は、有効成分を医薬担体または賦形剤と結合させるステップを含む。一般に、製剤の調製は、有効成分あるいは最終的に分けられる固体担体またはそれらの両方を液体担体と均一かつ一様に結合させ、さらに、必要に応じて、生成物を成形することによって、なされるものである。
【0092】
本発明の組成物を、数多くの可能な剤形のいずれかに処方することが可能であり、該剤形として、限定されるものではないが、例えば錠剤、カプセル剤、液体シロップ剤、ソフトゲル剤、坐薬、および浣腸剤が挙げられる。本発明の組成物を、水性もしくは非水性、または混合媒体状の懸濁剤として構築することも可能である。水性懸濁液は、さらに、懸濁液の粘度を高める物質を含むものであってもよく、該物質として、ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、ソルビトールおよび/またはデキストランが挙げられる。その懸濁液はさらに安定剤を含むものであってもよい。
【0093】
本発明の一実施形態では、医薬組成物を泡として処方および使用することも可能である。医薬用の泡沫には、製剤、例えば、限定されるものではないが、エマルジョン、マイクロエマルジョン、クリーム、ゼリー、およびリポソームが含まれる。自然界において基本的に類似しているが、これらの製剤は最終生産物の成分およびコンシステンシーが異なる。
【0094】
細胞レベルでオリゴヌクレオチドの摂取を増強する薬剤も本発明の医薬組成物および他の組成物に加えられることが可能である。例えば、リポフェクチン(米国特許第許5,705,188号)等のカチオン脂質、カチオン性グリセリン誘導体、およびポリリジン等のポリカチオン性分子(WO 97/30731)もまた、細胞によるオリゴヌクレオチドの取り込みを増強する。
【0095】
本発明の組成物は、さらに、医薬組成物に従来見出されている他の付加的成分をさらに含むものであってもよい。したがって、例えば、組成物は、付加的で、互換性があり、医薬的に活性のある物質を含むものであってもよく、該物質として、例えば、例えばかゆみ止め、収斂剤、局所麻酔剤または抗炎症薬が挙げられる。あるいは、本発明の組成物の種々の剤形を物理的に処方するのに有用な付加的な物質を含むものであってもよく、該物質として、染料、香料、防腐剤、酸化防止剤、乳白剤、増粘剤、および安定化剤が挙げられる。しかし、そのような物質は、添加した場合に、本発明の組成物の成分の生物活性を過度に妨げるものであってはならない。製剤を滅菌することも可能であり、また必要に応じて、助剤と混合することもできる。該助剤として、例えば、潤剤、防腐剤、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧に影響を及ぼす塩類、緩衝液、着色剤、香味剤、および/または芳香族物質等が挙げられ、これらは製剤の核酸と有害的な相互作用するものであってはならない。
【0096】
本発明の特定の実施形態は、医薬組成物を提供するものであり、該医薬組成物は、(a)1種類以上の核酸化合物と、(b)異なる機構で作用する1種類以上の他の化学療法剤を含む。そのような化学療法剤の例として、限定されるものではないが、ダウノルビシン、ダクチノマイシン、ドクソルビシン、ブレオマイシン、マイトマイシン、ナイトロジェンマスタード、クロラムブチル、メルファラン、シクロホスファミド、6−メルカプトプリン、6−チオグアニン、シタラビン(CA)、5−フルオロウラシル(5−FU)、フロクスウリジン(5−FUdR)、メトトレキセート(MTX)、コルヒチン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、エトポシド、テニポシド、シスプラチン、およびジエチルスチルベストロール(DES)等の抗癌薬が挙げられる。抗炎症薬(限定されるものではないが、非ステロイド系抗炎症薬およびコルチコステロイド)ならびに抗ウイルス剤(限定されるものではないが、リビビリン、ビダラビン、アシクロビル、およびガンシクロビル)もまた、本発明の組成物と混合してもよい。他の非アンチセンス化学療法剤は、さらにこの発明の範囲内である。2種類以上の混合化合物を一緒または連続的に使用することも可能である。
【0097】
投薬は、数日から数か月にわたって、あるいは治療が効果を示すか、または疾患状態の減少が達成されるまでの治療経過とともに、扱われる疾患状態の重症度および反応性に依存するものである。最適な投薬スケジュールは、患者体内の薬物蓄積の測定から計算することができる。投与する医師は、容易に最適な投薬量、投薬方法論、および反復率を決定することができる。最適投与量は、個々のオリゴヌクレオチドの相対的な潜在能力に依存して変動する場合があり、一般に、インビトロ・インビボの動物モデルに効果的と分かるEC50に基づいて、あるいは本明細書に記述された例に基づく評価することができる。一般に、投与量は体重1kgあたり0.01μgないし100gであり、毎日、毎週、毎月、または毎年1回以上投与することが可能である。治療をおこなう医師は、測定残留時間および体液および組織中の薬物濃度に基づいて投与するための繰り返し率を評価することができる。治療の成功に続いて、被験者に症状の再発を防ぐための維持療法を受けさせることが望ましいと考えられる。ここでは、医薬組成物の投与は、体重1kgあたり0.01μgないし100gの範囲で、毎日1回以上、20年毎に1回まで、おこなう。
【0098】
III. 薬物スクリーニング適用
いくつかの実施形態では、本発明は薬物スクリーニング検査(例えば、抗癌薬のスクリーニングするために)を提供する。本発明のスクリーニング方法は、本明細書中に記述された癌特異的代謝産物を利用する。上に記述されるように、いくつかの実施形態では、試験化合物は小分子、核酸、あるいは抗体である。いくつかの実施形態では、試験化合物は癌特異的代謝産物を直接標的とする。他の実施形態では、それらは癌特異的代謝産物の代謝経路に関与する酵素を標的とする。
【0099】
好ましい実施形態では、薬物スクリーニング法は高生産性(ハイスループット)の薬物スクリーニング法である。ハイスループットスクリーニングのための方法は当該技術分野では周知であり、限定されるものではないが、米国特許第6468736号、WO06009903、および米国特許第5972639号(本明細書中、これらの各々を参照により援用する)に記載されたものが挙げられる。
【0100】
本発明のいくつかの実施形態の試験化合物は、生物学のライブラリーを含む当該技術分野中で既知の組み合わせのライブラリー方法の中で多数のアプローチのうちのどれでも用いて得ることができる。すなわち、ペプトイド・ライブラリー(ペプチドの機能を持つが、生物活性はそのままであるにもかかわらず、酵素的分解に対して耐性を示す新規な非ペプチド主鎖を有するペプチドの機能性を持った分子のライブラリー(例えば、Zuckennann et al, J. Med. Chem. 37: 2678-85 [1994]を参照)、空間的にアドレス可能な並列固相または溶液相ライブラリー、ディコンボリューションを要求する合成ライブラリー方法、「一ビーズ一化合物」ライブラリー方法、およびアフィニティー・クロトグラフィを用いる合成ライブラリ方法が挙げられる。生物学的ライブラリーおよびペプトイド・ライブラリーによるアプローチは、ペプチド・ライブラリーとともに使用することが好ましく、一方他の4通りのアプローチはペプチド、非ペプチド・オリゴマーまたは複数の化合物の低分子ライブラリーに適用可能である(Lam (1997) Anticancer Drug Des. 12:145)。
【0101】
分子ライブラリーを合成する方法の例を当該技術分野で見出すことができる(その例として、DeWitt et al, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 90:6909 [1993]; Erb et al, Proc. Nad. Acad. Sci. USA 91 :11422 [1994]; Zuckermann et al, J. Med. Chem. 37:2678 [1994]; Cho et al, Science 261 : 1303 [1993]; Carrell et al, Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33.2059 [1994]; Carell et al, Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33:2061 [1994]; and Gallop et al, J. Med. Chem. 37:1233 [1994]、が挙げられる)。
【0102】
化合物のライブラリーは、溶液(例えば、Houghten, Biotechniques 13:412-421 [1992])、またはビーズ上で提示される場合(Lam, Nature 354:82-84 [1991]), チップで提示される場合 (Fodor, Nature 364:555-556 [1993]), 細菌または胞子で提示される場合 (米国特許第5,223,409号、参照により本明細書中に援用)、プラスミド(Cull et al, Proc. Nad. Acad. Sci. USA 89:18651869 [1992])、またはファージ (Scott and Smith, Science 249:386-390 [1990]; Devlin Science 249:404-406 [1990]; Cwirla et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 87:6378-6382 [1990]; Felici, J. MoI. Biol. 222:301 [1991])の状態で提示される。
【0103】
いくつかの実施形態では、本明細書中に記述されたマーカーを用いて、癌のための治療薬を同定するためのモデル系を生産する。例えば、癌特異的バイオマーカー代謝産物(例えば細胞増殖を活性化するサルコシン)は細胞株の癌悪性度を増加させるために細胞株に加えることができる。細胞株は、抗癌剤をスクリーニングするのに有用である反応(例えば、「読み出し」)の動的範囲が改善される。インビトロの例が記述されているが、モデル・アッセイ系はインビトロ、インビボ、またはエクスビボであってもよい。
【0104】
VII. トランスジェニック動物
本発明は、外因性の遺伝子(例えば、癌特異的代謝産物のレベルが変更される)を含むトランスジェニック動物の生成を検討する。好ましい実施形態では、野生型の動物と比較して、トランスジェニック動物において疾病表現型の変化(例えば代謝産物の増加または減少の存在)が示される。そのような疾病表現型の有無を分析する方法として、限定されるものではないが、本明細書中に開示されたものが挙げられる。いくつかの好ましい実施形態では、トランスジェニック動物は、さらに、腫瘍増殖の増大または減少あるいは癌の徴候の増大または減少を示す。
【0105】
本発明のトランスジェニック動物を用いることで、薬物(例えば癌治療)スクリーニングがおこなえることがわかった。いくつかの実施形態では、試験化合物(例えば、癌の治療に有用であると考えられている薬物)および対照化合物(例えば、偽薬)をトランスジェニック動物および対照動物に投与し、効果を評価する。
【0106】
トランスジェニック動物を、種々の方法を介して生成することができる。いくつかの実施形態では、様々な発生段階の胎児細胞が、トランスジェニック動物生産用のトランス遺伝子導入に用いられる。胎児細胞の発生段階に依存して、異なる方法が用いられる。顕微微量注射にとって、受精卵は最良の標的である。マウスでは、雄性前核は直径が約20マイクロメートルの大きさに到達し、それによって1〜2ピコリットル(pi)のDNA輸液を再現可能に注射することが可能になる。遺伝子移入のための標的として受精卵を用いる主な利点は、多くの場合に、注入DNAが第一回目の卵割の前に宿主ゲノムに取り込まれるということである(Brinster et ah, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82:4438-4442 [1985])。結果として、トランスジェニック非ヒト動物の全ての細胞では、取り込まれたトランス遺伝子を運ぶ。このことは、一般的に、生殖細胞の50%がトランス遺伝子を保持することから、トランス遺伝子の効率的な転写にも反映され、創始細胞の子孫への効率的な伝達にも反映される。米国特許第4,873,191号は、受精卵に対する顕微微量注射の方法を開示している。この特許の開示内容全体を本明細書に援用する。
【0107】
他の実施形態では、レトロウイルス感染を用いて、トランス遺伝子を非ヒト動物に導入する。いくつかの実施形態では、レトロウイルスが用いられ、卵母細胞の卵黄周囲腔にレトロウイルス・ベクターを注入することによって卵母細胞のトランスフェクションをおこなう(米国特許第6,080,912号、参照により本明細書中に援用する)。他の実施形態では、発生中の非ヒト胚をインビトロで培養して胚盤胞期にすることができる。この時期では、割球がレトロウイルス感染の標的となり得る(Janenich, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 73:1260 [1976])。割球の効率的な感染は、透明帯を酵素処理によって取り除くことによって得られる(Hogan et al, in Manipulating the Mouse Embryo, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y. [1986])。トランス遺伝子の導入に用いられるウイルスベクターは、一般に、トランス遺伝子を運ぶレプリケート欠損レトロウイルス (Jahner et al, Proc. Natl. Acad Sci. USA 82:6927 [1985])である。トランスフェクションは、ウイルス産生細胞からなる単層上で割球を培養することによって、容易かつ効率的に得られる(Stewart, et al, EMBO J., 6:383 [1987])。あるいは、感染を後期段階でおこなうことができる。ウイルスまたはウイルス産生細胞を胞胚腔に注入することができる (Jahner et al, Nature 298:623 [1982])。創始細胞の多くがトランス遺伝子に対してモザイクとなる。なぜなら、トランスジェニック動物を形成する細胞の部分集合のみに取り込みが生ずるからである。さらに、創始細胞は、一般に子孫に分離されるゲノム内の異なる位置にトランス遺伝子の種々のレトロウイルス挿入片を含むと思われる。また、効率が低いとはいえ、妊娠中期胚の子宮内レトロウイルス感染によってトランス遺伝子を生殖細胞形列に導入することが可能である(Jahner et al, 上掲[1982])。当業者に公知のトランスジェニック動物を作るためのレトロウイルスまたはレトロウイルス・ベクターを用いる別の手段は、受精卵または初期胚の卵黄周囲腔にレトロウイルスを生産するレトロウイルス粒子の顕微微量注射またはマイトマイシンC処理細胞を含む (PCT International Application WO 90/08832 [1990]、およびHaskell and Bowen, MoI. Reprod. Dev., 40:386 [1995])。
【0108】
他の実施形態では、トランス遺伝子は胚性幹細胞へ導入される。また、トランスフェクトされた幹細胞は胚を形成するために利用される。ES細胞は、適当な条件下で着床前の胚をインビトロで培養することにより得られる(Evans et al, Nature 292: 154 [1981]; Bradley et al, Nature 309:255 [1984]; Gossler et al, Proc. Acad. Sci. USA 83:9065 [1986]; and Robertson et al, Nature 322:445 [1986])。トランス遺伝子は、当該技術分野で公知の様々な方法によるDNAのトランスフェクションをおこなうことで、ES細胞に効率的に導入されるもので、該方法として、リン酸カルシウム共沈、プロトプラスト、スフェロプラスト融合、リポフェクション、およびDEAEデキストラン媒介トランスフェクションが挙げられる。トランス遺伝子も、レトロウイルスを媒介とした形質導入あるいは顕微微量注射によって、ES細胞へ導入可能である。その後、そのようなトランスフェクトされたES細胞は、胚盤胞期の胚の胞胚腔内への導入に続いて、胚をコロニー化し、結果として生ずるキメラ動物の生殖細胞系列に寄与する(総説として、例えばJaenisch, Science 240:1468 [1988]を参照)。胞胚腔の中へのトランスフェクトされたES細胞の導入に先立って、トランスフェクトされたES細胞は、ES細胞を豊富にすべき様々な選択プロトコルによって処理することが可能であり、該E細胞は、トランス遺伝子が組み込まれており、該トランス遺伝子によってそのような選択の手段が提供されると考える。あるいは、トランス遺伝子を組み込んだES細胞をスクリーニングするため、ポリメラーゼ連鎖反応を用いてもよい。この技術は、胞胚腔への転移に先立って適当な選択条件下でトランスフェクトされたES細胞の増殖の必要性を取り除く。
【0109】
さらに別の実施形態では、相同組換えを用いて遺伝子機能のノックアウトまたは欠損変異株(例えば、切断突然変異体)の作成をおこなう。相同組換えの方法を米国特許第5,614,396号(参照により本明細中に援用する)に記載する。
【0110】
実験
以下の実施例は、本発明のいくつかの好ましい実施形態および態様を実証するとともにさらに例証するためのものであり、それらの範囲の制限として解釈されるものではない。
【0111】
実施例1
A. 方法:
臨床の試料:
良性の前立腺および局所的な前立腺癌組織を、ミシガン大学病院での一連の根治的前立腺摘除から得た。また、転移性前立腺癌生物検体は迅速剖検プログラム(Rapid Autopsy Program)から得たものである。これらは、両方とも、ミシガン大学における前立腺癌のスペシャライズド・プログラム・オブ・リサーチ・エクセレンス・ティッシュ・コア(Specialized Program of Research Excellence (S.P.O.R.E) Tissue Core)の一部である。試料を、インフォームド・コンセプトと、ミシガン大学での施設内治験審査委員会承認とを受けて、収集した。この研究のプロファイリング・フェーズで使用した組織試料の各々に関する詳細な臨床情報を表1に示す。サルコシンを検証するための組織および尿試料に関する類似の情報を、それぞれ表5および6に示す。代謝学的評価に先立って、試料の全てから識別子を取り除いた。プロファイリング研究をおこなうために、いかなる臨床的情報を付加することもなく、組織試料をメタボロン(Metabolon)社へ送付した。受取に際して、メタボロン(Metabolon)によって各々試料がLIMSシステムに登録され、固有の10桁の識別子が各々の試料に割り当てられた。試料にはバーコードが付加され、この匿名の識別子のみが全ての試料の取り扱い、タスク、結果等を追跡する際に用いられた。試料の全てを、使用まで−80℃に保存した。
【0112】
一般的な考察: すべての試料の代謝学的プロファイリング分析を、次のような一般的なプロトコルを用いて、メタボロン(Metabolon)と共同で実施した。任意の実験的ドリフト(図5)を回避するために、質量分光分析に先立って試料の全てを無作為化した。注入標準、プロセス標準、およびアラインメント標準を含む多くの内部標準を用いることで、QA/QC標的が満たされたことを保証し、かつ実験的ばらつきを制御した(標準の説明については表2を参照)。組織標本を、21の試料の各々について2つのバッチで処理した。3つの組織診断分類(良性前立腺、PCA、および転移性腫瘍)の各々に由来する試料を2つのバッチに等しく分配した(図5)。したがって、各バッチでは、8つの良性前立腺試料、6つのPCA試料、および7つの転移性腫瘍試料があった(図5)。続いて、試料を以下のように処理した。
【0113】
試料調製: 分析を実施するまで、試料を冷凍保存した。試料調製をプログラム化かつ自動化した。そのことはハミルトン・カンパニー(Hamilton Company (Reno, NV))のMicroLab STAR(登録商標)試料調製システム上で実施した。試料抽出を、連続的な有機および水抽出によるものとした。回収の基準を、抽出過程の最初に導入した。結果として生ずるプールされた抽出物を、液体クロトグラフィ(LC)分画およびガスクロトグラフィ(GC)分画に等しく分けた。有機溶媒を取り除くために、TurboVap(登録商標)蒸発装置(Zymark, Claiper Life Science, Hopkinton, MA)上で、試料の乾燥をおこなった。最後に、試料を凍結し、凍結乾燥した。以下に具体的に説明されるように、試料の全てを、注入に先立って最終的な溶解強度および量に合わせた。注入標準を、最終的な溶解過程で導入した。対照およびブランクに加えて、試料調製および分析ばらつきを絶えず評価することができるように、別の十分に特徴付けられた試料(QC検証のためのQC対照)を、無作為化スキームに複数回含ませた。
【0114】
液体クロトグラフィ/質量分析(LC/MS): プラットフォームのLC/MS部分は、サーベイヤー(Surveyor)HPLCおよびテルモ・フィニガン(Thermo−Finnigan)LTQ−FT質量分析計(Thermo Fisher Corporation, Waltham, MA)に基づく。LTQ側データを化合物の定量に用いた。FT側データは、回収した際に、特異的な化合物の同一性を単に確認するために用いられた。機器の設定を、陽性・陰イオンの両方が連続監視できるようにした。いくつかの化合物は、これらのデータ・ストリームの複数にわたって重複して視覚化されるが、インターフェース間で感度および線形性が著しく異なるだけではなく、いくつかの例では、それらの重複性がQCプログラムの一部として実際に使われる。
【0115】
減圧乾燥された試料を、一定の濃度の注入標準を5つ以上含む100μlの注入用溶媒に再度溶解させた。クロトグラフィを標準化し、けっして変更させることはしなかった。注入およびクロトグラフィの一貫性(コンシステンシー)を確認するために、両方とも内部標準を用いた。クロトグラフィ装置の操作は、5%〜100%を8分間、その後に100%ACNで8分間というアセトニトリル(ACN):水勾配(両方の溶媒は0.1%TFAの添加によって変更)を用いて、おこなった。その後、カラムを再調整することで、開始状態にもどした。カラム(Aquasil C-18, Thermo Fisher Corporation, Waltham, MA)の使用中には、温度調節されたチャンバーに保管し、毎回50回の注入後にカラムの交換、洗浄、および再調整をおこなった。メタボロン(Metabolon)の一般業務の一部として、これらの実験の開始時に、全てのカラムを単一の製造元ロットから購入した。全ての溶媒も同様に、全ての実験を完了するのに十分な量で、単一の製造元ロットから大量購入した。全ての試料にLIMSによるバーコードを取り付け、全てのクロトグラフィの稼働をLIMSによりスケジューリングされたタスクとした。生データファイルについては、それらのLIMS識別子による追跡および処理を施し、定期的にDVDへアーカイブ保管した。生データの処理を後述のようにおこなった。
【0116】
上に記述されるような同様のLC/MSプロトコルを、尿上清中のサルコシンおよびクレアチニンの評価に用いた。
【0117】
ガスクロトグラフィ/質量分析(GC/MS): 代謝学的プロファイリング研究のために、GCが予定された試料を、ビストリメチルシリル−トリフルオロアセトアミド(BSTFA)を用いた乾燥窒素下での誘導化に先立って、最小24時間にわたる真空乾燥下で、再乾燥した。試料の分析は、電子衝撃イオン化および高解像度を用いて、テルモ・フィニガン・マット(Thermo−Finnigan Mat)−95 XP(Thermo Fisher Corporation, Waltham, MA)上でおこなった。分析用のカラムを(5%フェニル)−メチルポリシロキサンとした。実行中、16分間のうちに温度を40℃から300℃へ一挙に上昇させた。結果として得られたスペクトルを基準化合物のライブラリーと比較した。既に記したように、全ての試料がLIMSによって予定管理されていることから、クロトグラフィの実行はLIMSスケジュールに基づいたタスクであった。生データの同定を、該生データのLIMS識別子によっておこない、生データを定期的にDVDへアーカイブ保管した。生データの処理を以下のようにおこなった。
【0118】
サルコシンおよびアラニン(尿沈渣の場合、図3d)の同位体希釈GC/MS分析については、残留した水は、100μLのジメチルホルムアミド(DMF)により共沸混合物を形成させ、懸濁液を真空乾燥させて、試料から除去した。全ての試料の注入は、カラム・インジェクターおよびアジレント(Agilent)6890Nガスクロマトグラフを用いておこなった。このガスクロマトグラフには、15−mDB−5キャピラリーカラム(内径0.2mm、膜厚0.33ミクロン、J & W Scientific Folsom, CA)が設けられており、かつアジレント(Agilent)5975MSD質量検出器と接続されている。サルコシンのt−ブチル・ジメチルシリル誘導体の量を、同位体希釈電子衝撃イオン化GC/MSを用いて、選択イオン検出(SIM)により測定した。それぞれ3.8分および4.07分で溶出したアラニンのレベルとサルコシンのレベルとを定量化した。この定量化は、天然代謝産物([M−O−t−ブチル−ジメチルシリル]−)由来のm/z232のイオンと、該化合物の同位体標識された重水素化内部標準[2H3]由来で、それぞれアラニンおよびサルコシンに関するm/z233および235のイオンとの相対比を用いて、おこなった。同様の戦略を、組織中でのサルコシン、システイン、チミン、グリシン、およびグルタミン酸の評価に用いた。これらの化合物に関する天然および標識分子ピークのm/zは、それぞれ158および161(サルコシン)、406および407(システイン)、432および437(グルタミン酸)、297および301(チミン)、ならびに218および219(グリシン)であった。尿上清(図3e)の場合には、サルコシンを測定してクレアチニンに対して標準化した。各化合物の相対面積計算値はエックスカリバ(Xcalibur)ソフトウェア(Thermo Fisher Corporation, Waltham, MA)を用いて、各化合物に対応するクロマトグラム・ピークのマニュアル積分によって得られた。データは比率(サルコシン・イオン計数)/(クレアチニン・イオン計数)の対数として示される。代謝産物確認をおこなうために、全ての試料を機器上で1回実行することによって評価した。この際、組織のサルコシン確認については除外する。各々の試料の実行を四重におこない、平均値を計算されたサルコシンのレベルとした。検出限界(信号/雑音>10)は、同位体希釈GC/MSを用いたころ、サルコシンについては約0.1フェムトモルであった。
【0119】
代謝学的ライブラリー: これらは質量分析データを探索するために用いた。ライブラリーは、メタボロン(Metabolon)LIMSに収集および登録された約800種類の市販の化合物を用いて作成した。化合物すべてを、実験試料としての条件下で、多くの異なる濃度で分析し、各々の化合物の特性をLIMSベースのライブラリーへ登録した。同じライブラリーを、それらが検知可能な特性の決定を目的として、LCおよびGCの両方のプラットフォームで用いた。その後、これらの分析を、カスタム・パッケージ・ソフトを用いておこなった。初期データ視覚化では、SASおよびスポットファイア(Spotfire)を用いた。
【0120】
統計的分析(アウトラインは図6を参照):
a) 代謝学的データ
データの補完: 代謝データは質量分析計データの閾値化により左側打ち切り(left censored)した。欠測値を、被験者全てにわたる代謝産物の平均発現に基づいて入力した。試料全体にわたる平均代謝産物測度(mean metabolite measure across samples)が100,000を超える場合、ゼロが補完(impute)され、さもなければその最小測度の2分の1が補完される。このように、どの代謝産物が試料における不在により欠測値を持っていたのか、およびどれが機器閾値により見当たらなかったかについての識別をおこなった。試料最小値を補完値(imputed value)として用いた。その理由は、検出のための質量分析閾値が試料間で異なり、閾値レベルを捕らえることが好ましいからであった。
【0121】
試料正規化: 試料間のばらつき(試料間変動)を減少するために、各組織試料に関する補完代謝測度を中央値に合わせ、その四分位範囲(IQR)によって見積もった。
【0122】
分析:
zスコア: このzスコア分析は参照分布によって各代謝産物をスケーリングした。別段の定めがない限り、良性試料を参照分布として指定した。このように、良性の試料の平均および標準偏差を代謝産物ごとに決定した。その後、試料を、それぞれ、診断にかかわらず、良性の平均によって中心化し、また1つの代謝産物あたり、良性の標準偏差によってスケーリングした。このように、代謝産物発現がどのように良性の状態から外れるか見ることができる。
【0123】
階層的クラスタリング:階層的クラスタリングを実施し、正規化データを対数変換した。小さな値(単位元(unity))を各々の正規化値に加えて対数変換させた。視覚化を良好にするためのクラスタリングに先立って、代謝産物毎に、対数変換されたデータを中央値に合わせた。ピアソンの相関を類似性測定基準に用いた。クラスタリングを、クラスタ・プログラムを用いておこない、ツリー表示(Treeview)1を用いて視覚化した。薄黄色/青色カラー・スキームを代謝産物のヒートマップに用いた。
【0124】
比較テスト: 代謝産物検出と診断との関連を調べるために、測度を存在または非存在(すなわち、検出されず)の二つに分けた。カイ2乗検定を用いて、診断群間の各代謝産物の測度の存在/非存在の割合の差を評価した。診断群間の代謝産物発現レベル間の関連性を評価するために、両側ウィルコクソンの順位和検定を2試料テスト(すなわち良性対PCA、PCA対Mets)に用いた。クラスカル−ヴァリス(Kruskal−Wallis)テストを、すべての診断群間の3方向比較(良性対PCA対Mets)に用いた。ノンパラメトリック検定法を用いて、補完値の影響を減少させることが可能である。テストを、試料の少なくとも20%で検知可能な発現をした代謝産物上で、1つの代謝産物あたり実行した。試料ラベルをシャッフルして試験を再計算する順列試験を用いて有意性の決定をおこなった。これを1000回繰り返した。オリジナルの統計量が変更された検定統計量より極端に多かったテストは、診断群間の違いのない帰無仮説のエビデンスを増加させた。誤り発見率は、Rパッケージ「q値」にインプリメントされるように、ストレイ(Storey)ら2のq値変換アルゴリズムを用いて、置換P値から決定される。細胞株データおよび小規模組織データにおける表現のペアワイズ差を、サタスウェイト(Satterthwaite)分散評価による両側検定のt検定を用いて試験した。多数の細胞株を比較するのに、1つの細胞株あたりの多数の測度を調節する反復測定分散分析(ANOVA)を用いた。対数スケール上でANOVAを用いて変化倍率(fold change)を評価した後、モデル対数log(Y)=A+B*処理+Eをおこなう。このようにして、exp(B)は、(Y|処理=1)/(Y|処理=0)の評価であり、exp(B)の標準誤差を、デルタ法を用いてSE(B)から評価し得る。
【0125】
分類: 経験的pP値の増加に基づく分類子に対して、代謝産物を付加した。最適な分類子を決定するために、サポートベクタマシン(SVM)を用いた。リーブ・ワン・アウト・クロス・バリデーション(LOOCV)を用いて、分類子間の誤差率を評価した。バイアスを回避するために、経験的なP値ランキングを決定する比較テストを個々のリーブ・ワン・アウト試料セットに対して、繰り返した。SVMは、分類子への包含にとって最適な経験的P値を選択する。選択された経験的P値以下にある少なくとも80%のLOOCV試料に現れた代謝産物を、分類セットとして選択した。主成分分析を用いることで、代謝産物の生じる分類セットによって与えられる分離の視覚化が促された。主成分1種類、2種類、および4種類をプロットに用いた。
【0126】
尿中のサルコシンの確認: 尿沈渣実験を3つのバッチ全てにわたって実施した。バッチ・レベル変動を2回の修正を用いて取り除いた。最初に、レスポンスとしてアラニンへのサルコシンの対数変換率を備えたANOVAモデルでの、この細胞株データだけを用いて、細胞株対照DU145およびRWPE上で利用可能な測定を備えた2つのバッチ(n=15およびn=18)を、バッチ・レベルの違いを評価することで、組み合わせた。第2の調整は、残りの第三のバッチ(n=60)と一緒に生じる結合したバッチ(n=33)を、センタリング(中央値による)およびスケーリング(中央値絶対偏差による)によって、これら2つのバッチの各々の中に置く。図12で見られるように、サルコシンとアラニンとの比は、結合したデータセット内のみならず、これら2つの小さなバッチの各々で別々に、生検ステータスの予言サルコシン対アラニンの比率は、結合したデータセットだけでなくこれらの2つの各々中の生検ステータスを予測した。
【0127】
尿上清実験は、クレアチニンとの関連でサルコシンを測定した。クレアチニンからの変化倍率示す2を底とする対数を用いて、分析をおこなった。尿沈渣および上清を、生検ステータス間の違いについて両側ウィルコクソンの順位和検定を用いて、試験した。臨床パラメーターの関連性については、連続変数用のピアソンの相関係数およびカテゴリー変数のための両側ウィルコクソンの順位和検定によって評価した。
【0128】
(b) 遺伝子発現:
サルコシン処理PrEC前立腺上皮細胞の発現プロファイリング
50μMのアラニンまたはサルコシンのいずれかで6時間にわたり処理されたPrEC細胞の発現プロファイリングを、アジレントのヒト全ゲノム・オリゴ・マイクロアッセイ(Agilent Whole Human Genome Oligo Microarray (Santa Clara, CA))を用いて実施した。トリゾール(Trizol)を用いて処理された細胞から単離された全RNAを、キアゲンRNAイージー・マイクロ・キット(Qiagen RNAeasy Micro kit (Valencia, CA))を用いて精製した。未処理のPrEC細胞由来の全RNAを参照として用いた。全RNA1μgをcRNAに変換し、製造元のプロトコル(Agilent)に従って、標識した。ハイブリダイゼーションを16時間、65℃で実施し、アレイをアジレント(Agilent)DNAマイクロアレイ・スキャナで走査した。アジレント・フィーチャー・エクストラクション・ソフトウェア(Agilent Feature Extraction Software)9.1.3.1を用いて、画像の分析およびデータの抽出をおこなった。この際、各々のアレイに対して、線形およびロース(lowess)正規化をおこなった。2回の処理の各々に対して、テクニカラル・レプリケートが含まれた。変化倍率は、2つのレプリケートの各々に関してアラニンに対するサルコシンの比として決定した。遺伝子をさらに検討し、両方のレプリケートにおいて、上昇または下降のいずれかで2倍の変化が見られた。
【0129】
共通の識別子への「オミクス(Omics)」データのマッピング
実施例においてプロファイリングされた代謝産物を、それらの化合物IDを用いて、KEGGの代謝マップにマッピングし、その後、マッピングされた経路のすべての同化酵素および異化酵素の同定をおこなった。この後に、KEGGのDBGET統合データ情報検索方式を用いてその公式遺伝子IDにマッピングされた酵素に関する公式酵素委員会番号(EC番号)の検索をおこなった。
【0130】
分子的概念(Molecular Concept)のエンリッチメント
様々な分子の概念と統合データ(メタボロームから得られた情報を含む)との相互関係のネットワークを探索するために、オンコマイン・コンセプト・マップ・バイオインフォマティクス・ツール(Oncomine Concepts Map bioinformatics tool)を用いた(Rhodes et al., Neoplasia 9, 443-454 (2007); Tomlins et al., Nat Genet 39, 41-51 (2007))。連関分析用遺伝子セットの最大のコレクションであることに加えて、リンクした概念の「エンリッチメント・ネットワーク」の同定および視覚化を考慮に入れて、それがデータベース中のすべての遺伝子セット内のペアワイズ連関を計算するという点で、オンコマイン・コンセプト・マップ(OCM)は独特である。OCMを備えた統合は、分子シグニチャー(すなわち、この場合代謝学的シグニチャー)を14,000以上の分子の概念に系統的にリンクさせることを可能にする。代謝学的データのみに起因するエンリッチメントを研究することは、代謝産物の遺伝子IDリストの生成を伴い、該代謝産物は、なされている比較に対して0.05未満のP値で有意であった。このシグニチャーを用いて分析をおこなった。遺伝子発現ベースのエンリッチメント分析と同様に、なされている比較にとって有意(p<0.05)である転写産物の遺伝子IDを用いたことに注意されたい。一旦シーディングされると、分子概念の各々の対を、フィッシャーの直接法を用いて、連関について試験した。その後、概念をそれぞれ独立して分析し、また最も重要な概念を報告した。所定のテストにオッズ比(>1.25およびP値<0.01)があった場合、結果を保存した。多重比較のための調整を、すべてのエンリッチメント分析に対するq値の計算によりおこなった。1x10−4未満のP値を有する全ての概念は有意であると考えられた。さらに、前立腺上皮細胞のサルコシン誘導侵潤の根底にある生物学のニュアンスを明らかにするためにOCMを用いた。アラニン処理と比較して2倍のサルコシン処理によって上制御されるこの遺伝子リストに関して、両方のレプリケートをエンリッチメントに使用した。
【0131】
B. 結果
多くのグループでは、トランスクリプトーム・レベルで、遺伝子発現マイクロアレイを使用して、前立腺癌組織(Dhanasekaran et al., Nature 412, 822-826. (2001); Lapointe et al., Proc Natl Acad Sci U S A 101, 811-816 (2004); LaTulippe et al., Cancer Res 62, 4499-4506 (2002); Luo et al., Cancer Res 61, 4683-4688. (2001); Luo et al., Mol Carcinog 33, 25-35. (2002); Magee et al., Cancer Res 61, 5692-5696. (2001); Singh et al., Cancer Cell 1, 203-209. (2002); Welsh et al., Cancer Res 61, 5974-5978. (2001); Yu et al., J Clin Oncol 22, 2790-2799 (2004))と、他の腫瘍(Golub, T.R., et al. Science 286, 531-537 (1999); Hedenfalk et al. The New England Journal of Medicine 344, 539-548 (2001); Perou et al., Nature 406, 747-752 (2000); Alizadeh et al., Nature 403, 503-511 (2000))とをプロファイリングしている。さらにより限定された範囲では、プロテオーム・レベルで使用されている(Ahram et al., Mol Carcinog 33, 9-15 (2002); Hood et al., Mol Cell Proteomics 4, 1741-1753 (2005); Prieto et al., Biotechniques Suppl, 32- 35 (2005); Varambally et al., Cancer Cell 8, 393-406 (2005); Martin et al., Cancer Res 64, 347-355 (2004); Wright et al., Mol Cell Proteomics 4, 545-554 (2005); Cheung et al., Cancer Res 64, 5929-5933 (2004))。しかし、ゲノミクスとプロテオミクスとは対照的に、代謝学(メタボロミックス)(すなわち、広範囲な観点および先入観のない観点で代謝産物を調べる)は、新たに生起した科学であり、関連する病態生理学と同様に、細胞の状態の遠位読み出し(distal read-out)を意味する。システム生物学的観点の一部として、代謝学的プロファイリングは他のアプローチに対する有用な補完物である。
【0132】
代謝学的プロファイリングは、長い間、高圧液体クロトグラフィ(HPLC)、核磁気共鳴(NMR)(Brindle et al., J MoI Recognit 10, 182-187 (1997))、質量分析法(Gates and Sweeley, Clin Chem 24, 1663-1673 (1978))(GC/MSおよび LC/MS) 、および酵素免疫吸着法(ELISA)の使用に依存していた。集中的なアプローチでそのような技術を用いることは、新生物の代謝に関するほとんどの初期の研究は、低酸素症への腫瘍適応について調べることであった(Dang and Semenza, Trends Biochem Sci 24, 68-72 (1999); Kress et al., J Cancer Res Clin Oncol 124, 315-320 (1998))。これらの研究によって、新生細胞が低い酸素圧条件下で成育することを可能にする代謝産物(例えばブドウ糖または酸素)および生長因子の勾配を変えることにより構成された腫瘍内の異質性が明らかにされた(Dang and Semenza、上掲)。これらのターゲットとされたアプローチには、前立腺癌進行の過程におけるシトラートとコリンとに密接に関係する研究である (Mueller-Lisse et al., European radiology 17, 371-378 (2007); Wu et al., Magn Reson Med 50, 1307-1311 (2003))。多くのグループは、腫瘍の悪性度の異なる程度によるエネルギー利用経路の変化を理解するために細胞株モデルも使用している(Vizan et al., Cancer Res 65, 5512-5515 (2005); Al-Saffar et al., Cancer Res 66, 427 -434 (2006))。Ramanathanらは、腫瘍進行の異なる病期を生体エネルギー経路と関連させるツールとして、メタボリックプロファイリングを用いた(Proc Natl Acad Sci U S A 102, 5992-5997 (2005)。最近、核磁気共鳴を用いるメタボロームのホリスティック・インテロゲーション (Wu et al.,上掲; Cheng et al., Cancer Res 65, 3030-3034 (2005); Burns et al., Magn Reson Med 54, 34-42 (2005); Kurhanewicz et al., J Magn Reson Imaging 16, 451-463 (2002)) および飛行時間型質量分析と結び付けられたガスクロトグラフィ(Denkert et al., Cancer Res 66, 10795-10804 (2006); Ippolito et al., Proc Natl Acad Sci U S A 102, 9901-9906 (2005))によって、腫瘍個体群を分類する際に代謝学的シグニチャーが持つ力が明らかにされている。この力の増大にもかかわらず、しかしながら、これらの研究でモニターされた代謝産物の数は限られている。
【0133】
前立腺癌は、西洋世界における男性の癌関連死亡の一般的な原因の2番目であり、65歳以上の男性の9人に1人が罹患している(Abate- Shen and Shen, Genes Dev 14, 2410-2434 (2000); Ruijter et al, Endocr Rev 20, 22-45 (1999))。前立腺癌開始、無秩序な増殖、浸潤および転移を特徴づける複雑な分子の事象をよりよく理解するために、局所的な疾患およびそれに続く転移に、前駆体病変からのその進行を指令する遺伝子、タンパク質および代謝産物からなる異なった集まりを描写することは重要である。グローバル(大域的)なプロファイリング戦略の出現で、分子の変質のそのような組織分析は今や可能である。
【0134】
前立腺癌進行中のメタボロームをプロファイリングするために、質量分析法と結び付けられた液体クロトグラフィとガスクロトグラフィとの組み合わせを用いて、42の前立腺関連組織標本全体について代謝産物の相対的なレベルを検討した。図1aは、代謝学的プロファイリングのために使用された戦略を概説するものである。詳しくは、この研究では、良性の隣接前立腺試験片(n=16)、臨床的限局性前立腺癌(PCA、n=12)、および転移性前立腺癌(Mets、n=14)(図1b)が含まれた。さらに、異なる部位からの転移性組織試料の選択は、非前立腺の組織の影響を最小化した(臨床情報については表1を参照)。組織標本を、各々のグループが3つのクラスから均等に分配された標本から構成される2つのグループに分けて、処理した(図5)。この研究の中で用いられる代謝学プラットフォームの技術的構成要素は、ロウトン(Lawton)らの文献(Pharmacogenomics 9: 383 (2008)) に記載されており、また概要を図1aに示す。このプロセスには試料抽出、分離、検出、分光分析、データ正規化、クラス特異的代謝産物の描写、経路マッピング、確認、および候補代謝産物の機能的特徴付けが含まれた(図6は、データ分析戦略の概要を提供する)。プロファイリング・プロセスの再現性を2段階で検討した。すなわち、一方は機器による変動のみを測定することによって、また他方は全体的なプロセスによる変動を測定することによっておこなった(再現性を検討する際に用いた対照群のリストを表2に示す)。機器ばらつきの測定は、注入直前に添加された一連の内部標準(この研究ではn=14)によるものであった。内部標準化合物に対する中央変動係数(CV)値は、3.9%だった。全体的なプロセス変動を検討するために、代謝学的研究を強化して実験試料の技術的レプリケート9つからなる一組(また、マトリックスとも呼び、MTRXと略す)を含め、これらは毎日におこなわれる注入剤の間で、均一に間隔を置いた。これらの9つの反復試験試料の各々で検知されたn=339の化合物に関する再現性分析によって、抽出、回復、誘導体化、注入、および機器ステップを含むすべてのプロセス構成要素に関する複合的な変動の基準が得られた。実験試料の技術的レプリケートの中央CV値(この研究の組織プロファイリング部分)は、14.6%だった。図7は、これらの実験試料技術的レプリケートの再現性を示す。技術的レプリケート対間のスピアマンの順位相関係数は0.93〜0.97の範囲で変動した。
【0135】
上記の確証されたプロセスを用いて、前立腺由来組織中の代謝学的変化を定量した。全体では、前立腺組織の高処理プロファイリングは626の代謝産物(175の指定されたもの、19の同重体(isobar)、および同定されない432の代謝産物)を識別した。これらを3つの組織クラス全体にわたって組織試料中で定量的に検出した(プロファイリングした代謝産物の完全なリストについては表3を参照)。これらのうち、515の代謝産物が3つのクラスにまたがって共有されていた(図1b)。PCAおよび/または転移性腫瘍で見つかったが、良性前立腺では見つからない代謝産物は、60あった。
【0136】
3通りの分析を実施してデータの全体的な展望を得た。最初にもちいたものは、正規化データ上での教師なし階層的クラスタリング(手順を詳細に説明するためのデータ分析法の詳細な概要は図6を参照)であった。この分析によって、良性組織およびPCA組織の両方から転移性試料が分離されたが、良性前立腺から臨床的限局性前立腺癌を正確にはクラスタリングしなかった(図1c)。これは、良性およびPCA標本に関連のある転移性試料の代謝学的変化の程度がよりいっそう高いことを示しており、データのヒートマップによる描写によって強調されている。この知見は、遺伝子発現解析(Dhanasekaran et al., 上掲; Tomlins et al., Nat Genet 39, 41-51 (2007))に基づいた以前の観察と一致している。さらに、図8に示されるように、代謝学的変化のこのパターンは、起源の異なる部位に由来した多数の転移性試料全体にわたって共有された。
【0137】
第2の分析では、各代謝産物を平均値に中心化し、正規化された良性代謝産物レベルの標準偏差に基づいてスケーリングすることで、良性試料の分布に基づいたzスコアを作成した(詳細については、図6および方法を参照)。図1dは、各々のクラスの試料について、縦軸にプロットされた626の代謝産物と、横軸にプロットされた各々の試料の良性ベースのZスコアを示す。図に示されるように、代謝学的含有量の変化が転移性腫瘍(zスコア範囲:−13.6〜81.9)で最も確実に生じる。特に、分析された転移性試料の少なくとも33%で、105の代謝産物が2以上のzスコアを有していた。対照的に、38の代謝産物だけが、試料の少なくとも33%で2以上のzスコアを有するように、臨床的限局性前立腺癌試料の変化は転移性疾患未満(zスコア範囲:−7.7〜45.8)であった。
【0138】
代謝学的プロファイルの分類ポテンシャルを検討するために、第三の分析は、リーブ・ワン・アウト・クロス・バリデーションによるサポートベクターマシン(SVM)分類アルゴリズムを用いた(方法を参照)。12のPCA試料のうち2つを誤って良性と分類したものの、この予測は、良性および転移性試料のすべてを正確に同定した。誤って分類された2つの癌試料は、グリーソン・グレードが低く、3+3であった。このことは、それほど高悪性度ではない腫瘍であることを示している。また、リーブ・ワン・アウト・クロス・バリデーションで検証されたデータセットの少なくとも80%で、有意性(P=0.05レベル)があった198の代謝産物のリストを作成した(198の代謝産物のリストについては表4を参照)。視覚化をおこなうために、この198の代謝産物のデータマトリックスに対して、主成分分析を用いた(図1e)。結果として得られた図は、SVMを用いて得られた分類と類似しており、試料は、3つの主成分のみを用いて、十分に描写された。
【0139】
分析された3つのクラスの試料を識別する代謝学的要素をさらに描写するために、PCA試料と良性試料の間の差次的変化を、順列テスト(n=1,000)と組み合わせたウィルコクソンの順位和検定を用いて選択した。合計87/518の代謝産物は、P値カットオフ0.05でのこれら2つのクラス全体にわたって異なっており、23%の誤り発見率に一致した。複数の症状にまたがる87の調節異常代謝産物間の関係を視覚化するために、試料全てに対してそれらの相対的レベルに基づいて、代謝産物を整えるために階層的クラスタリングを用いた。不安定な代謝産物のなかで、50がPCAにおいて上昇し、一方37が下方制御された。図2aは、良性前立腺とPCAとの間で異なる代謝産物とされた37の相対的レベルを示す。上方制御された代謝産物の中には、多くのアミノ酸(すなわちシステイン、グルタミン酸塩、アスパラギン、グリシン、ロイシン、プロリン、スレオニン、およびヒスチジン、あるいはサルコシン、n−アセチルアスパラギン酸等の様なそれらの誘導体)があった。下方制御されたものはイノシン、イノシトール、アデノシン、タウリン、クレアチニン、尿酸、およびグルタチオンを含んだ。
【0140】
同様のアプローチを転移性前立腺癌において異なる代謝産物を識別するために用い、124代謝産物が結果として得られた。これらの代謝産物は臓器に限定された状態と比較して転移性状態において上昇し、102の化合物は下方制御され、289/518(56%)が未変化(P値カットオフが0.05、4%の誤り発見率に一致)であった。図2bは、癌進行中に調節異常になった代謝産物とされた81のレベルを示す。これは、単に転移性前立腺癌で検出された代謝産物、すなわち4−アセトアミド酪酸、チアミン、および2つの特定されていない代謝産物であった。6つの代謝産物からなるサブセットでは、疾患進行にともなって著しく高められた。これらはサルコシン、ウラシル、キヌレニン、グリセリン-3-リン酸塩、ロイシン、およびプロリンを含んでいた。PCA試料の一部および転移性試料の大多数でそれらが生ずることから、これらの代謝産物は進行性の疾患用バイオマーカーとして役立つ。
【0141】
クラス特異的代謝学的パターンを定義する際、これらの変更は、前立腺癌の発生および進行の過程における生化学的経路のコンテキストおよび生化学的プロセスの変化において、評価した。まず、京都遺伝子ゲノム百科事典(Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes (KEGG, リリース 41.1).)に概説されているように、それらの各々の経路に代謝学的プロファイルをマッピングした。これは、癌の進行の過程におけるアミノ酸代謝の増加と窒素の分解経路の増加を明らかにし、前立腺癌の進行過程の初期の出来事としてのアンドロゲン調節されたタンパク質合成の遺伝子発現ベースの予測を支持している(Tomlins et al, 2007; supra)。これらの傾向は転移性疾患への進行過程で維持されるのみならず、そのような傾向の増大も生じた。
【0142】
さらに、統合クラス特異的代謝産物パターンの検討を、バイオインフォマティクス・ツールを用いておこなった。このツールは、分子的概念への代謝学的シグニチャーの系統的のリンケージを可能にして前立腺癌の生物学的進行に関する新しい仮説を生成するオンコマイン・コンセプト・マップ(Oncomine Concept Map)である(局所的な前立腺癌および転移性前立腺癌の分析の概要を示す図9を参照するとともに、OCMの性状のための方法を参照する)(Rhodes et al., Neoplasia 9, 443-454 (2007))。KEGG分析と一致して、このテーマおよび(図3a)に対してオンコマイン(Oncomine)分析を適用するとともに、これらの標本(図3a)でのアミノ酸代謝のエンリッチメント・ネットワークを同定した。これらには、最もエンリッチされたGO生物学的方法、アミノ酸代謝産物(P=6x10−13)と、グルタミン酸塩代謝産物(P=6.1x10−24)のKEGG経路とが含まれていた。また、グリシン、セリンおよびスレオニン代謝(P=2.8x10−14)、アラニンおよびアスパルテート代謝(P=3.3x10−11)、アルギニンおよびプロリン代謝(P=2.3x10−10)、およびアミノ基(P=1.7x10−6)の尿素サイクルおよび代謝のKEGG経路も、強いエンリッチメントが見られた。
【0143】
「転移性試料での過剰発現」した化合物の代謝学的プロファイル(図3b)は、メチルトランスファラーゼ活性の上昇に対して高いエンリッチメントを示した(図3b)。このメチル化ポテンシャルの増加は、Sアデノシル・メチオニン(SAM)を媒介としたメチルトランスフェラーゼ活性のマルチプル・エンリッチメントによって、支持され、これにはエンリッチされたインタープロ(InterPro)概念、SAM結合モチーフ(P=1.1x10−11)、およびGOモレキュラー・ファンクション(Molecular Function)、メチルトランスフェラーゼ活性(P=7.7x10−8)が含まれる。これらのエンリッチメントは、PCA試料と比較して、転移性試料の中のSアデノシル・メチオニン(P=0.004)のレベルの有意な上昇の結果だった。腫瘍のメチル化ポテンシャルで生じる増強は、追加の概念によってさらに支持された。該概念は、転移性試料におけるクロマチン修飾の増加(GOバイオロジカル・プロセス(GO Biological Process)、P=2.9x10−6)、タンパク質(インタープロ(InterPro)(P=7.4x10−7)を含むSET領域の関与、およびヒストン・リジンN−メチルトランスフェラーゼ活性(GOモレキュラー・ファンクション(GO Molecular Function)、P=6.3x10−6)(図3b)を説明した。これは、転移性腫瘍にヒストン・メチルトランスフェラーゼEZH2を含んでいるSET領域の上昇を示す初期の研究を裏付けるものである(Rhodes et al., Neoplasia 9, 443-454 (2007); Varambally et al., Nature 419, 624-629 (2002); van der Vlag and Otte, Nat Genet 23, 474-478. (1999); Laible et al., Embo J 16, 3219-3232. (1997); Cao et al., Science 298, 1039-1043. (2002); Kleer et al., Proc Natl Acad Sci U S A 100, 11606-11611 (2003))。
【0144】
アミノ酸前駆体の濃縮および腫瘍のメチル化ポテンシャルに照らして、これらのメカニズムを両方とも代表した代謝学的バイオマーカーを特徴づけた。アミノ酸代謝産物サルコシン(グリシンのN−メチル誘導体)は、それがメチル化され、過剰なアミノ酸プールおよびメチル化の増加の存在下で、増加すると予想されるこの基準に適合する(Mudd et al., Metabolism: clinical and experimental 29, 707-720 (1980))。確かに、転移性試料の代謝学的プロファイルは、分析された(カイ2乗検定、P=0.0538)標本の79%でサルコシンが有意に高いレベルを示した。しかし、PCA試料の42%は、この代謝産物(図2a−b)のレベルの段階的増加を示した。良性試料はいずれも、検知できるレベルのサルコシンがなかった。
【0145】
転移性試料中のサルコシンのレベルはPCA試料より有意に高かった(ウィルコクソンの順位和検定、P=0.005)、(図2b)。このことによって、それが代謝産物マーカーとして臨床的に有用であり、また疾患進行および悪性度のモニタリングにとっても有用である。確認については、正確に組織および細胞の試料(検出限界=0.1フェントモル(fmol))からのサルコシンの量を計る非常に高感度で特異的な同位体希釈GC/MS方法が開発された。図10は、前立腺由来細胞株および組織の両方を用いて、GC−MSプラットフォームの再現性を示す。
【0146】
この方法を用いて、バイオマーカーとしてのサルコシンの有用性を89の組織試料からなる独立集合で検証した(25は良性、36はPCA、および28は転移性前立腺癌(試料の情報は表5を参照))。図3cに示すように、サルコシン・レベルは、良性試料と比較して、PCA試料中で有意に上昇した(ウィルコクソンの順位和、P=4.34x10−11)。さらに、サルコシン・レベルは、臓器に限定された疾患(ウィルコクソンの順位和(P=6.02x10−11))と比較して、転移性試料のさらに大きな上昇を表示した。新生物が陰性である転移性患者に由来した臓器に存在しないことから、腫瘍成長の部位とのサルコシンの関連は明白ではなかった(図11a〜c)。前立腺癌進行において、さらに4つの代謝産物の増加がしたことは、標的質量分光分析を用いて確認した。図14に示されるように、システイン、グルタミン酸、グリシン、およびチミンのレベルが、良性から局所前立腺癌への進行および転移性癌への進行によって上昇した。
【0147】
初期の疾患検出のためのバイオマーカー・パネルを開発した。第一のステップとして、生検が陽性および陰性である個々の被験者の尿の中で、非侵入性の前立腺癌マーカーとしてサルコシンが機能する能力を分析した。この臨床的に関連するコホートに由来する尿沈渣および上清の両方で、サルコシンの評価を各々独立しておこなった(160人の患者に由来する203の試料、患者43人は尿沈渣および上清の両方に寄与。臨床情報については表6を参照)。サルコシン・レベルを、対数比率として、アラニン・レベル(尿沈渣の場合)あるいはクレアチニン・レベル(尿上清の場合)のいずれかに対して、報告した。アラニンおよびクレアチニンの両方を、尿濃度における変動の対照群として用いた。サルコシンに関するアラニンまたはクレアチニンの対数比に対して標準化された平均値は、生検証明前立腺癌患者由来の尿沈渣(n=49)および上清(n=59)の両方で、生検陰性対照(n=44尿沈渣についてはウィルコクソンP=0.0004、図3d、およびn=51尿上清についてはウィルコクソンP=0.0025、図3e)と比較して有意に高かった。図12fに示すように、尿沈渣(n=93)のサルコシン評価のためのレシーバー・オペレーター特性(ROC)カーブでは、AUCが0.71であった。同様に、尿上清(n=110)のサルコシン評価では同程度のAUC0.67が得られた(図13b)。このことから、サルコシンが前立腺癌の検出のために非侵入性のマーカーとして使用できることがわかった。さらに、尿沈渣中および上清中のサルコシン・レベルについては、種々の臨床パラメーター、例えば年齢、PSA、および腺重量はなんら関連づけられなかった(表7)。単一のマーカーとして、これらの性能基準は現在入手可能な前立腺癌バイオマーカーと等しいかあるいはそれよりも上である。
【0148】
前立腺癌におけるサルコシン上昇の生物学役割の検討するために、前立腺癌細胞株VCaP、DU145、22RV1およびLNCaP、それらの良性上皮対応物、原発性良性前立腺上皮細胞PrEC、および不死化良性RWPE前立腺細胞を用いた。これらの細胞株のサルコシン・レベルを、同位体希釈GC/MSを用いて分析した。また、細胞の浸潤を改変ボイデンチャンバー・マトリゲル浸潤分析法(Kleer et al., Proc Natl Acad Sci U S A 100, 11606-11611 (2003))を用いて分析した。図4aの中で示されるように、それらの良性上皮相当物(平均値±SEM(fmol)/100万細胞:9.3±1.04対2.7±1.49)と比較して、前立腺癌細胞株は有意に高いサルコシン・レベルを示した(P=0.0218、繰り返し測定ANOVA)。これらの細胞に含まれるサルコシン・レベルは、それらの侵襲性の程度との関連性が高かった(図4a、スピアマンの相関係数:0.943、P=0.0048)。
【0149】
良性の細胞のEZH2過剰発現が細胞浸潤および新生物の進行を媒介することができたという初期の知見にもとづいて(Varambally et al., 2002, 上掲; Kleer et al., 2003, 上掲)、サルコシン・レベルをEZH2発現と比較した。良性前立腺上皮細胞におけるEZH2誘導浸潤で、サルコシン・レベルが4.5倍上昇した。対照的に、DU145細胞は、サルコシン・レベルが約2.5倍減少することが伴うEZH2の一時的なノックダウンが細胞浸潤を減じる侵襲性の前立腺癌細胞株である(図4bおよび図15)。したがって、腫瘍形成性のEZH2の過剰発現はサルコシン産生を引き起こし、その一方でEZH2のノックダウンはサルコシン産生を減じている。前立腺癌とのサルコシンとの関連性は、さらに、前立腺癌のTMPRSS2−ERGおよびTMPRSS2−ETV1遺伝子融合モデルを用いた研究によって、さらに高まった。TMPRSS2による転写因子(ERGとETVl)のETSファミリーが関与する再発性遺伝子融合は、前立腺癌の進行には不可欠である((Tomlins et al., Cancer Res 66, 3396-3400 (2006); Tomlins et al., Science 310, 644-648 (2005))。前立腺由来細胞株中の融合生成物の構成的過剰発現あるいは減衰に対するサルコシン・レベルを試験した。良性前立腺上皮細胞でサルコシンが3倍上昇したことに関連して、TMPRSS2−ERGおよびTMPRSS2−ETV1の両方は浸潤を引き起こした(TMPRSS2−ERG対対照群についてはP=0.0019、TMPRSS2−ETV1対対照群についてはP=0.0057)(図4c、過剰発現、平均値±SEM(fmole/100万細胞):対照群の0.5±0.3に対してTMPRSS2−ERGでは3.3±0.1およびTMPRSS2−ETV1では3.4±0.2、ERG対対照に関してP=0.0035、ならびにETV1対対照群に関してP=0.0016)。同様に、VCaP細胞(この遺伝子融合を持つ)でのTMPRSS2−ERG遺伝子融合のノックダウンでは、浸潤性の表現型で同様の減少を呈する代謝産物のレベルが3倍を上回る(>3)減少を生じた(図4c、ノックダウン、siRNA媒介ノックダウンでのERGの転写産物レベルについては図16を参照)。
【0150】
これらのことから、結果は、サルコシン・レベルが癌細胞侵入に関係していたことを示している。サルコシンがこのプロセスに役割を果たすかどうか判断するために、それを、非侵入性の良性前立腺上皮細胞に直接加えた。アラニン(サルコシンの異性体)を対照としてこれらの実験に用いた。同位体希釈GC−MSによって判断されるように、細胞内のサルコシン・レベルが著しく上昇し、細胞によってサルコシンが取り込まれることが確認された(図17)。サルコシンの添加は良性前立腺上皮細胞に浸潤性の表現型を与えた(図4d、対照と比較してサルコシン添加によって湿潤が増加。25μM:1.64倍、P=0.065、および50μM:2.57倍、p<0.001)。同様の結果は、原発性前立腺上皮細胞および良性の不死化胸上皮細胞で得られた。アミノ酸への細胞の照射線量は、細胞周期の異なる段階(図18a〜d)を介して該アミノ酸が持つ進行の能力に影響を及ぼすものではなく、また増殖に影響を及ぼすものではなかった(図18e)。とりわけ、サルコシンよりは程度が落ちるが、グリシン(サルコシンの前駆体)はさらにこれらの細胞の浸潤を引き起こした(図4d)。本発明は特定のメカニズムに限定されるものではない。確かに、メカニズムについての理解は本発明を実行するのには必要ではない。それにもかかわらず、このことは、細胞によってグリシンがサルコシンに変換されており、それによって浸潤をもたらされることを示すと考えられる。この仮説をテストするために、本発明者らは、侵襲性のDU145前立腺癌細胞において、グリシンをサルコシンに変換することに関与する酵素であるグリシン−N−メチル基転移酵素(GNMT)のRNA干渉媒介ノックダウンを用いて、サルコシンへのグリシンの転化を阻害した(図19)(Takata et al., Biochemistry 42, 8394-8402 (2003))。GNMTノックダウンによって、浸潤が有意に減少した(P=0.0073,t検定)。この際、対照非標的siRNAトランスフェクト細胞と比較して、細胞内のサルコシン・レベルが同時に3倍減少した(図4e、10.2対31.9フェムトモル(fmol)/100万細胞)。良性前立腺上皮細胞(図19、RWPE)で実施した同様のノックダウン実験では、GNMTの減衰が外因性のサルコシンによる浸潤の誘導能に影響しないことが実証された(図4fおよび図20a、b、サルコシン添加に関しては平均値±SEM、GNMTノックダウン対対照非標的siRNAトランスフェクト細胞に関しては0.64±0.07対0.65±0.05)。この場合、外因性のグリシンが浸潤を引き起こす能力が有意に妨げられた(図4fおよび図20a,b、グリシン添加に関しては平均値±SEM、GNMTノックダウン対対照非標的siRNAトランスフェクト細胞に関しては0.20±0.03対0.46±0.04、P=0.0082)。これらの知見は、腫瘍浸潤を媒介する際のサルコシンの役割を実証し、なぜそれが侵襲性の前立腺癌で上昇するのかの生物学的説明を提供するものと考えられる。
【0151】
サルコシンが浸潤を媒介することで活性化される経路を決定するために、サルコシン処理前立腺上皮細胞の遺伝子発現解析を、アラニン処理された細胞と比較した。オンコマイン・コンセプト(Oncomine Concepts)を用いて、サルコシンによって誘導された遺伝子が他の分子概念にマッピングされるかどうかを評価した(図21および表8)。サルコシン誘導遺伝子に著しく関係していると分かった目的の概念は次を含む:(1)エストロゲン受容体(ER)陽性乳腺腫瘍に関連する遺伝子、(2)黒色腫の転移性または高悪性度変種に関連する遺伝子、および(3)腫瘍内のEGFレセプター経路の活性化に関連する遺伝子。
【0152】
EGFR経路とそのいくつかの下流媒介物質(srcおよびp38MAPKを含む)は、ER陽性乳癌(Gross and Yee, Breast Cancer Res 4, 62-64 (2002); Lazennec et al., Endocrinology 142, 4120- 4130 (2001); Rakovic et al., Arch Oncol 14, 146-150 (2006))および侵襲性の黒色腫(Fagiani et al., Cancer Res 67, 3064-3073 (2007))に関与していることから、この経路を、サルコシン誘導細胞浸潤のコンテキストにおいて調べた。免疫ブロット法分析によって、アラニン処理の対照と比較した場合のEGFRの時間依存的増加(図4g)およびサルコシン処理前立腺上皮細胞(PrEC)におけるsrcリン酸化(図22)を確認した。このことで一致したことは、これらの試料におけるp38MAPKのリン酸化という知見であった(図22)。p38MAPKがEGFR−Src−媒介浸潤に重要な役割を果たしていることが報告されていた(Park et al., Cancer Res 66, 8511-8519 (2006); Hiscox et al., Clin Exp Metastasis 24, 157-167 (2007); Hiscox et al., Breast Cancer Res Treat 97, 263-274 (2006))。また、全EGFRレベルがアラニンまたはサルコシンによる処理で上昇した。10μM濃度のエルロチニブ(EGFR56−58の小分子阻害剤)によるPrEC細胞の前処理によって、サルコシンによって誘導される浸潤が70%減少した(P=0.0003)(図4hおよび図23a〜c)。サルコシン誘導浸潤の同様の減衰もまた、不死化前立腺上皮細胞RWPE(t検定:P=0.00007、図26を参照)で見られた。この観察は、EGFR活性の抗体媒介阻害と、レセプター・レベルのsiRNA媒介ノックダウンとを用いることによって、さらに強化された。特に、50μg/mlのC225は、RWPE(図4iおよび図25a、b)およびPrEC細胞におけるサルコシン誘導浸潤を完全にブロックした。サルコシン誘導侵潤の同様の減衰は、非標的対照(P=0.0058、図25a〜c)と比較して、EGFRのsiRNAを媒介としたノックダウンを用いて、得られた。
【0153】
代謝活性の変化と癌進行の変化とは、高い相互関係が示された現象である。サルコシンのレベルの変化は、腫瘍がより一層進行した段階へ成長および進行することから、腫瘍の生化学における固有の変化を反映する。このことは、癌進行は、腫瘍のアミノ酸代謝およびメチル化ポテンシャルの増加に関係していることが示された上述のデータから明白である。さらに、増加したメチル化ポテンシャルに結びつく要因のうちの1つは、腫瘍進行中のS−アデノシル・メチオニン(SAM)のレベルの増加およびその経路構成要素である。このことは、それらの良性相当物と比較して、腫瘍でのN−メチル−グリシン(サルコシン)、メチル−グアノシン、メチル−アデノシン(DNAメチル化の既知マーカー)等のメチル化された代謝産物のレベルを上昇させることになる。特に、サルコシン生成の主な経路の1つは、SAMからグリシンに至るメチル基の転移を伴うもので、これはグリシン−N―メチル基転移酵素(GNMT)によって触媒される反応である。GNMTに対するsiRNAを用いることによって、サルコシン生成が細胞浸潤プロセスにとって重要であることが示された。このことによって立証されることは、サルコシンのレベルが高いことが、腫瘍進行のプロセスに密接に関係している腫瘍の代謝活性の変化の結果であるという仮説である。代謝活性の腫瘍進行に関連する変化により生じたサルコシンは、それ自体で腫瘍浸潤を促進する。
【0154】
本明細書中に記述されたデータは、サルコシン・レベルが前立腺癌の進行に関連した2つの重要な顕著な特徴、すなわちエピジェニックなサイレンシングに結びつくアミノ酸代謝の上昇およびメチル化ポテンシャルの増強を反映することを示している。前者は、高レベルの多数のアミノ酸が示される局在化した前立腺癌の代謝学的プロファイルから明白である。これも、無痛性腫瘍に増加したタンパク質生合成について記述する遺伝子発現研究(Tomlins et al, Nat Genet, 2007. 39(1): 41-51))によっても、十分に確証される。メチル化の増加は後成的サイレンシングに主な役割を果たすと知られている。EZH2(ポリコーム複合体に属するメチルトランスフェラーゼ)のレベル増加は、高悪性度前立腺癌および転移性疾患で見出される(Varambally et al., Nature, 2002.419(6907):624-9)。本研究は、増加したメチル化ポテンシャルに関連する腫瘍進行を関係させることによりこの領域の理解を深める。このことは、前立腺癌進行中にS−アデノシル・メチオニン(細胞の主要なメチル化通貨)とその関連経路構成要素のレベルが上昇するという知見によって支持される。このことは、データセット中のメチル化された代謝産物のレベルの上昇にさらに反映される。これらのなかには、グリシン(すなわち、サルコシン)のメチル化された誘導体も含まれ、該誘導体は局所的な腫瘍から転移性疾患に至るまで、そのレベルが漸進的に増加する。とりわけ、サルコシン生成の主な経路の1つとして、メチル化反応が挙げられ、該反応において、酵素グリシン-N-メチル基転移酵素は、SAMからグリシン(必須アミノ酸)へのメチル基の転移を触媒する。したがって、サルコシン・レベルの上昇は、アミノ酸のレベル(この場合、グリシン)の増加とメチル化の上昇に寄与し得るもので、これらは前立腺癌進行の顕著な特徴をもたらす。
【0155】
この実施例は、前立腺癌進行中に調節異常になった代謝経路およびネットワークを解明するために、前立腺癌組織の無作為な代謝学的プロファイリングについて説明する。本発明は特定メカニズムに制限されていない。実際、メカニズムについての理解は本発明を実行するのには必要ではない。それにもかかわらず、腫瘍進行中のメタボロームの調節異常が、腫瘍発生/進行過程におけるそれらの調節酵素の活性の混乱、栄養入手または老廃物クリアランスの変化等の無数の原因に起因するかもしれないことを検討する。
【0156】
(表1)
【0157】
(表2)
【0158】
(表3)質量分析法と連動した液体クロトグラフィ(LC)あるいは気体クロトグラフィ(GC)のいずれかを用いて良性、PCA、および転移性癌組織で測定された、指定の代謝産物および同重体(isobar)のリスト
【0159】
(表4)LOOCV由来の3−クラス予測因子を構成する198の代謝産物のリスト
【0160】
(表5)
【0161】
(表6)
【0162】
(表7)
【0163】
(表8)
【0164】
下記の表9は、上記の表4にリストされた特定されていない代謝産物の各々の分析的特徴を含む。この表には、例えば、上記分析方法を用いて得られた各々のリストされた代謝産物「X」、化合物識別子(化合物ID:COMP_ID)、保持時間(RT)、保持指標(RI)、質量、定量マス(quant mass)、および極性が含まれる。「質量(mass)」とは、化合物の定量で使用される親イオンのC12同位体の質量のことをいう。「定量マス(quant mass)」とは、定量に使用された分析方法を示すものであり、「Y」はGC−MSを示し、または「1」はLC−MSを示す。「極性(polarity)」は、陽性(+)または陰性(−)である量的イオンの極性を示す。
【0165】
(表9)特定されていない代謝産物の分析的な特性
【0166】
実施例2
腫瘍の悪性度のバイオマーカー
この実施例は、腫瘍の悪性度のレベルに基づいた前立腺癌腫瘍を識別する際に併用して役立つバイオマーカーについて説明する。分析に用いる組織試料は、非侵襲性のもの(すなわち、良性)から非常に悪性度の高いもの(すなわち、転移性)に至る範囲のものであった。バイオマーカーの測定を、良性前立腺組織(N=16)、グリーソン・スコア・メジャー3(GS3)腫瘍(N=8)、グリーソン・スコア・メジャー4(GS4)腫瘍(N=4)、および転移性腫瘍(N=14)においておこなった。クエン酸塩、リンゴ酸塩、N−アセチルアスパルタート(NAA)、およびサルコシン(メチルグリシン)で構成された4枚のバイオマーカー・パネルのレベルを各試料で測定した。バイオマーカーであるクエン酸塩およびリンゴ酸塩の比を測定した(クエン酸塩/リンゴ酸塩)。分析の結果は、代謝産物パネルを用いて、悪性度がより高い腫瘍と悪性度が低い腫瘍とを識別することができることを示しており、該分析結果を図29に示す。転移性腫瘍(最も高悪性)をひとまとめにし、良性(非高悪性)試料から分けた。GS3およびGS4の試料は転移性と良性の中間であり、GS3よりもG4の方が悪性度が高かった。GS4試料は転移性試料に近く、その一方でGS3は良性試料に近かった。3種類のGS3試料(図上の番号が付けられた矢印によって示す)は、悪性度がより高い腫瘍(GS4および転移性)に対して、よりいっそう緊密に関係していた。バイオマーカー分析によれば、これらの腫瘍が、より緊密に良性の組織に関係していたGS3試料よりも、悪性が高いこと(悪性度が高いこと)を予想している。この予測はこれらの試料に関連した臨床データによって支持された。臨床データによれば、試料#1および#2は、前立腺外に広がった。すなわち、臨床的に、組織が前立腺外に広がった場合に、その組織は、よりいっそう悪性度が高いと判断した。良性試料により近いクラスターに分けられた試料では、前立腺外への広がりはみられなかった。両方を考慮すると、これらの結果は、代謝産物パネルを用いて癌腫瘍と良性とを識別することができ、またより悪性度が高い腫瘍と悪性度の低い腫瘍とを識別すること(すなわち、癌腫瘍の侵襲性を決定すること)ができることを示している。
【0167】
提示したパネルで選択されるマーカーは、サルコシンと他のメカニズムに基づいた生体マーカーとを組み合わせた生体マーカー・パネルの一例である。NAAは膜に関連する前立腺特異的マーカーである。また、クエン酸塩とリンゴ酸塩はTCA回路の中間体である。さらに、この結果は、バイオマーカー比の有用性を例証する。代謝産物の組み合わせを変えること、すなわち数量および組成を変えること、ならびに本明細書または他のもの(例えば、PCT US2007/078805、その全体を参照により本明細書中に援用する)に記載されるバイオマーカーから選択することもまた、腫瘍の悪性度を予想する上で有用である代謝産物パネルを作る際に使用されうる。
【0168】
実施例3
尿中に発見された生体マーカー
I. 一般的方法
A. 前立腺癌の代謝学的プロファイルの同定
数百の代謝産物の濃度を決定するために、各々の試料を分析した。GC−MS(ガスクロトグラフィ/質量分析法)およびUHPLC−MS(超高性能液体クロトグラフィ質量分析)等の分析技術を用いて、代謝産物の分析をおこなった。多数のアリコートを同時かつ平行して分析し、適切な品質管理(QC)後に、各々の分析から得られた情報を再結合した。いずれに試料も数千に及ぶ特性にもとづいて特徴付けがなされ、結局は数百の化学種に達する。用いた技術は、新規かつ化学的に特定されていない化合物を同定することができた。
【0169】
B. 統計的分析
T検定を用いてデータを分析することで、定義可能な母集団(例えば、前立腺癌と、対照、低悪性度の前立腺癌および高悪性度の前立腺癌)間を区別するために有用な定義可能な母集団または準集団(例えば対照生体試料と比較される前立腺癌生体試料のバイオマーカー)で異なるレベルで存在する分子(既知の名前が知れた代謝産物または名前が知れていない代謝産物)を、同定した。定義可能な母集団または準集団の中の他の分子(一方の既知の名前が知れた代謝産物または名前が知れていない代謝産物)も同定した。いくつかの分析では、試料中のクレアチニン・レベルによってデータを正規化し、一方、他の分析では試料の正規化はおこなわなかった。両方の分析の結果を含む。
【0170】
C. バイオマーカー同定
統計的に有意なこととして識別されたものを含む分析(例えばGC−MS、UHPLC−MS、MS−MS)で識別された様々なピークを、質量分析法に基づいた化学的同定プロセスにかけた。バイオマーカーの発見は、(1)試料中の代謝産物のレベルを決定するためにヒトの異なるグループから得られた尿試料を分析すること、(2)つぎに、結果を統計的に解析して2つのグループで異なって存在したこれらの代謝産物を決定すること、によっておこなわれたものである。
【0171】
癌と非癌とを区別するバイオマーカー:
分析に用いられた尿試料は、前立腺癌のための陰性生検である51人の被験者および前立腺癌である59人の対照被験者から得たものである。代謝産物のレベルを決定した後、ウィルコクソン検定を用いてデータを分析し、2つの個体群(すなわち前立腺癌対対照)の代謝産物平均レベル間の差を決定した。
【0172】
以下に表10に示すように、バイオマーカーは、癌患者由来の血漿と、陰性前立腺生検(すなわち、前立腺癌とは診断されていない)の対照患者由来の血漿との間に、異なって存在した。
【0173】
表10では、リストされたバイオマーカーに関して、バイオマーカーに関するデータの統計学的分析で決定されるp値、化学データベースで化合物を追跡するのに有用な化合物ID、および化合物(GCはGC/MSのことを、またLCはUHPL/MS/MS2)のことをいう)を同定するために用いられる分析プラットフォームが含まれる。0.000としてリストされるP値は、p<0.0001で有意である。
【0174】
(表10)癌と非癌とを区別するのに有用なバイオマーカー
【0175】
個々の被験者の癌状態(すなわち非癌または癌)を、バイオマーカーであるサルコシンおよびN−アセチチロシンを用いて決定した。これらの2つのマーカーを併用して用いることで、83%の感度および49%の特異性がある癌診断をなすことができた。PSAの陽性母集団での癌罹患率を30%と仮定すると、これらのバイオマーカーによって87%の陰性的中度(NPV)および41%の陽性的中度(PPV)が得られた。
【0176】
悪性度がより低い癌と悪性度がより高い癌の相違を示すバイオマーカー:
分析に用いられた尿試料は、生検のGSメジャー3またはGSメジャー4以上の前立腺癌と診断された個々の被験者から得たものでる。GSメジャー3は、一般的に悪性度が比較的低い、より低いグレードの癌を示し、GSメジャー4は、一般的に悪性度が比較的高い、より高いグレードの癌を示している。この分析では、GSメジャー3の被験者(N=45)をGSメジャー4の被験者(N=13)と比較した。代謝産物のレベルを決定した後、ウィルコクソン検定を用いてデータを分析し、2つの個体群(すなわち前立腺癌対対照)の代謝産物平均レベル間の差を決定した。
【0177】
以下の表11に示すように、より低い悪性度/より低いグレードの前立腺癌の被験者から得た尿試料と、より高い悪性度/より高いグレードの前立腺癌の被験者から得た尿試料との間に差次的に存在するバイオマーカーを発見した。表11には、リストされたバイオマーカーの各々について、バイオマーカーに関するデータの統計的分析において決定されたp値、化学データベースで化合物を追跡する際に有用な化合物ID、化合物の同定に使用される分析プラットフォーム(GCはGC/MSのことをいい、LCはUHPLC/MS/MS2のことをいう)が含まれる。0.000としてリストされるP値は、p<0.0001で有意である。
【0178】
(表11)悪性度がより低い癌と悪性度がより高い癌の相違を示すバイオマーカー:
【0179】
実施例4
前立腺癌進行におけるサルコシンの役割
前立腺癌の代謝学的プロファイリングに対する上記の研究によって、前立腺癌進行中に上方制御されているものとして、サルコシン、別名N−メチルグリシンを同定した(図28)。このことは、同位体希釈GC−MSを用いて、個々の組織標本で検証した(図29)。サルコシンのバイオマーカー・ポテンシャルは、生検陰性対照群と比較した生検陽性前立腺癌患者の尿(沈渣および上清の両方とも)において、その上昇レベルに反映された(図12および図13)。前立腺癌進行におけるサルコシンの役割を理解するために、代謝産物のレベルを前立腺由来細胞株のパネルで測定した。前立腺癌細胞株の良性相当物と比較して、該前立腺癌細胞株で、サルコシン・レベルの上昇がみられた。サルコシン・レベルは、インビトロボイデン(Boyden)チャンバー分析において前立腺癌細胞株により示される浸潤の程度と相関していた。さらに、サルコシン・レベルは、EZH2あるいは良性の上皮細胞中の転写因子のETSファミリーのいずれかの過剰発現により上昇した。それらは両方とも細胞を侵襲性にした(図4b、c)。このことによって、前立腺癌細胞の侵襲性表現型を引き起こす上で、サルコシンの役割が確認された。良性前立腺上皮細胞へのサルコシンの添加は該細胞を侵襲性にし、腫瘍における侵襲性表現型の誘導物質としてのその役割を強化した(図4d)。この観察を特徴付けるために、サルコシン生成または分解をもたらす酵素のさらなるノックダウン研究を前立腺由来細胞株で実施した。特異的なsiRNAを用いて、ノックダウン研究を実施し、標的阻害の程度をQ−PCRを用いて評価した。インビトロボイデン(Boyden)チャンバー法を用いて、ノックダウン細胞の侵襲性調節を限定した。
【0180】
サルコシンの生成は、以下の3つの生化学的反応による。
これらのなかで、グリシン−N−メチル基転移酵素(GNMT)はサルコシン生成の主な生合成の酵素として働き、一方サルコシンデヒドロゲナーゼは主たるジメチル化酵素である。
【0181】
侵襲性の前立腺癌細胞株(DU145)におけるGNMTのノックダウンによって、侵襲性が著しく減少するとともに、それに伴ったサルコシンのレベルの減少が生じた(図4e)。同様の実験では、腫瘍侵襲の誘導におけるサルコシンの重要性を強調するグリシンではなく、サルコシンの添加によってのみ、GNMTノックダウンを保持するRWPE細胞を侵襲性にすることができた(図4f)。さらに、RWPE細胞におけるSARDH(サルコシン分解を触媒する酵素)のノックダウンは、侵襲性の表現型をそれら良性上皮細胞にもたらすとともに、それに付随したサルコシンの蓄積をもたらした(図30)。これらのデータは、前立腺癌での侵襲を可能にする上でサルコシンが重要であることを示している。
【0182】
上記明細書で言及した出版物、特許、特許出願、および受託番号を、それらの全体として参照により本明細書中に援用する。本発明は具体的な実施形態に関連させて説明されたが、クレームされた本発明がそのような具体的な実施形態に過度に制限されるものでないことが理解されるに違いない。実際、記載された本発明の組成物および方法に修正または変更を加えることは、当業者に明らかなことであり、本発明の範囲内であることが意図される。
【図1a】
【図1b】
【図1c】
【図1d】
【図1e】
【図2a】
【図2b−1】
【図2b−2】
【図3a】
【図3b】
【図3c】
【図3d】
【図3e】
【図4a】
【図4b】
【図4c】
【図4d】
【図4e】
【図4f】
【図4g】
【図4h】
【図4i】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)被験者から得た試料中のサルコシン、システイン、グルタミン酸塩、アスパラギン、グリシン、ロイシン、プロリン、スレオニン、ヒスチジン、n−アセチルアスパラギン酸、イノシン、イノシトール、アデノシン、タウリン、クレアチン、尿酸、グルタチオン、ウラシル、キヌレニン、グリセロール−s−リン酸塩、グリココール酸、スベリン酸、グルタミン酸、キサントシン、4−アセトアミド酪酸、およびチミンからなる群から選択される1種類以上の癌特異的代謝産物の有無を検出すること、ならびに
(b)前記癌特異的代謝産物の存在に基づいて癌を診断すること
を含む、癌を診断する方法。
【請求項2】
前記癌が前立腺癌である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記癌特異的代謝産物が、癌試料に存在するが、非癌試料には存在しない、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記試料が、組織試料、血液試料、血清試料、および尿試料からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記組織試料が生検試料である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記癌特異的代謝産物が、クエン酸塩、リンゴ酸塩、およびN−アセチルチロシンからなる群から選択される1種類以上の癌特異的代謝産物をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記1種類以上の癌特異的代謝産物がクエン酸塩、リンゴ酸塩、N−アセチルチロシン、N−アセチルアスパラギン酸、およびサルコシンである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
(a)癌と診断された被験者由来の試料に含まれるサルコシン・レベルの上昇の有無を検出すること、および
(b)前記サルコシン・レベルの上昇の存在に基づいて前記前立腺癌と特徴付けること
を含む、前立腺癌を特徴付ける方法。
【請求項9】
前記試料に含まれるサルコシン・レベルの上昇の存在が前記被験者の侵襲性前立腺癌を示す、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記試料が、組織試料、血液試料、血清試料、および尿試料からなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
(a)細胞を試験化合物と接触させること、ならびに
(b)サルコシン、システイン、グルタミン酸塩、アスパラギン、グリシン、ロイシン、プロリン、スレオニン、ヒスチジン、n−アセチルアスパラギン酸、イノシン、イノシトール、アデノシン、タウリン、クレアチン、尿酸、グルタチオン、ウラシル、キヌレニン、グリセロール−s−リン酸塩、グリココール酸、スベリン酸、チミン、グルタミン酸、キサントシン、4−アセトアミド酪酸、グリシン−N−メチル基転移酵素、およびチミンからなる群から選択される癌特異的代謝産物のレベルを増減する能力について、前記試験化合物を検定すること
を含む、化合物をスクリーニングする方法。
【請求項12】
前記癌特異的代謝産物が、クエン酸塩、リンゴ酸塩、およびN−アセチルチロシンからなる群から選択される1種類以上の癌特異的代謝産物をさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記癌が癌細胞である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記細胞がインビトロである、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記細胞がインビボである、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記細胞がエクスビボである、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記化合物が小分子である、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
前記化合物が前記癌特異的代謝物の合成または分解に関与する酵素の発現を抑制する核酸である、請求項11に記載の方法。
【請求項19】
前記核酸がアンチセンス核酸、siRNA、およびmiRNAからなる群から選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記癌細胞が前立腺癌細胞である、請求項13に記載の方法。
【請求項21】
サルコシン、システイン、グルタミン酸塩、アスパラギン、グリシン、ロイシン、プロリン、スレオニン、ヒスチジン、n−アセチルアスパラギン酸、イノシン、イノシトール、アデノシン、タウリン、クレアチン、尿酸、グルタチオン、ウラシル、キヌレニン、グリセロール−s−リン酸塩、グリココール酸、スベリン酸、チミン、グルタミン酸、キサントシン、4−アセトアミド酪酸、グリシン−N−メチル基転移酵素、およびチミンからなる群から選択される癌特異的代謝産物のレベルを化合物が増加または減少させる条件下で、該化合物と細胞とを接触させること
を含む、細胞の増殖を抑制する方法。
【請求項22】
前記代謝産物がサルコシンである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記細胞が癌細胞である、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記細胞がインビトロである、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
前記細胞がインビボである、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
前記細胞がエクスビボである、請求項21に記載の方法。
【請求項27】
前記化合物が小分子である、請求項21に記載の方法。
【請求項28】
前記化合物が前記癌特異的代謝物の合成または分解に関与する酵素の発現を抑制する核酸である、請求項21に記載の方法。
【請求項29】
前記核酸がアンチセンス核酸、siRNA、およびmiRNAからなる群から選択される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記癌細胞が前立腺癌細胞である、請求項29に記載の方法。
【請求項1】
(a)被験者から得た試料中のサルコシン、システイン、グルタミン酸塩、アスパラギン、グリシン、ロイシン、プロリン、スレオニン、ヒスチジン、n−アセチルアスパラギン酸、イノシン、イノシトール、アデノシン、タウリン、クレアチン、尿酸、グルタチオン、ウラシル、キヌレニン、グリセロール−s−リン酸塩、グリココール酸、スベリン酸、グルタミン酸、キサントシン、4−アセトアミド酪酸、およびチミンからなる群から選択される1種類以上の癌特異的代謝産物の有無を検出すること、ならびに
(b)前記癌特異的代謝産物の存在に基づいて癌を診断すること
を含む、癌を診断する方法。
【請求項2】
前記癌が前立腺癌である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記癌特異的代謝産物が、癌試料に存在するが、非癌試料には存在しない、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記試料が、組織試料、血液試料、血清試料、および尿試料からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記組織試料が生検試料である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記癌特異的代謝産物が、クエン酸塩、リンゴ酸塩、およびN−アセチルチロシンからなる群から選択される1種類以上の癌特異的代謝産物をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記1種類以上の癌特異的代謝産物がクエン酸塩、リンゴ酸塩、N−アセチルチロシン、N−アセチルアスパラギン酸、およびサルコシンである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
(a)癌と診断された被験者由来の試料に含まれるサルコシン・レベルの上昇の有無を検出すること、および
(b)前記サルコシン・レベルの上昇の存在に基づいて前記前立腺癌と特徴付けること
を含む、前立腺癌を特徴付ける方法。
【請求項9】
前記試料に含まれるサルコシン・レベルの上昇の存在が前記被験者の侵襲性前立腺癌を示す、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記試料が、組織試料、血液試料、血清試料、および尿試料からなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
(a)細胞を試験化合物と接触させること、ならびに
(b)サルコシン、システイン、グルタミン酸塩、アスパラギン、グリシン、ロイシン、プロリン、スレオニン、ヒスチジン、n−アセチルアスパラギン酸、イノシン、イノシトール、アデノシン、タウリン、クレアチン、尿酸、グルタチオン、ウラシル、キヌレニン、グリセロール−s−リン酸塩、グリココール酸、スベリン酸、チミン、グルタミン酸、キサントシン、4−アセトアミド酪酸、グリシン−N−メチル基転移酵素、およびチミンからなる群から選択される癌特異的代謝産物のレベルを増減する能力について、前記試験化合物を検定すること
を含む、化合物をスクリーニングする方法。
【請求項12】
前記癌特異的代謝産物が、クエン酸塩、リンゴ酸塩、およびN−アセチルチロシンからなる群から選択される1種類以上の癌特異的代謝産物をさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記癌が癌細胞である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記細胞がインビトロである、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記細胞がインビボである、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記細胞がエクスビボである、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記化合物が小分子である、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
前記化合物が前記癌特異的代謝物の合成または分解に関与する酵素の発現を抑制する核酸である、請求項11に記載の方法。
【請求項19】
前記核酸がアンチセンス核酸、siRNA、およびmiRNAからなる群から選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記癌細胞が前立腺癌細胞である、請求項13に記載の方法。
【請求項21】
サルコシン、システイン、グルタミン酸塩、アスパラギン、グリシン、ロイシン、プロリン、スレオニン、ヒスチジン、n−アセチルアスパラギン酸、イノシン、イノシトール、アデノシン、タウリン、クレアチン、尿酸、グルタチオン、ウラシル、キヌレニン、グリセロール−s−リン酸塩、グリココール酸、スベリン酸、チミン、グルタミン酸、キサントシン、4−アセトアミド酪酸、グリシン−N−メチル基転移酵素、およびチミンからなる群から選択される癌特異的代謝産物のレベルを化合物が増加または減少させる条件下で、該化合物と細胞とを接触させること
を含む、細胞の増殖を抑制する方法。
【請求項22】
前記代謝産物がサルコシンである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記細胞が癌細胞である、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記細胞がインビトロである、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
前記細胞がインビボである、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
前記細胞がエクスビボである、請求項21に記載の方法。
【請求項27】
前記化合物が小分子である、請求項21に記載の方法。
【請求項28】
前記化合物が前記癌特異的代謝物の合成または分解に関与する酵素の発現を抑制する核酸である、請求項21に記載の方法。
【請求項29】
前記核酸がアンチセンス核酸、siRNA、およびmiRNAからなる群から選択される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記癌細胞が前立腺癌細胞である、請求項29に記載の方法。
【図5】
【図6】
【図7】
【図8−1】
【図8−2】
【図9】
【図10a】
【図10b】
【図11a】
【図11b】
【図11c】
【図12a】
【図12b】
【図12c】
【図12d】
【図12e】
【図12f】
【図13a】
【図13b】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18a】
【図18b】
【図18c】
【図18d】
【図18e】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図6】
【図7】
【図8−1】
【図8−2】
【図9】
【図10a】
【図10b】
【図11a】
【図11b】
【図11c】
【図12a】
【図12b】
【図12c】
【図12d】
【図12e】
【図12f】
【図13a】
【図13b】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18a】
【図18b】
【図18c】
【図18d】
【図18e】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【公表番号】特表2010−537170(P2010−537170A)
【公表日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−521202(P2010−521202)
【出願日】平成20年8月15日(2008.8.15)
【国際出願番号】PCT/US2008/073318
【国際公開番号】WO2009/026152
【国際公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(510041142)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミシガン (20)
【出願人】(510041197)メタボルン インコーポレーティッド (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月15日(2008.8.15)
【国際出願番号】PCT/US2008/073318
【国際公開番号】WO2009/026152
【国際公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(510041142)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミシガン (20)
【出願人】(510041197)メタボルン インコーポレーティッド (1)
【Fターム(参考)】
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