説明

前置増幅器

【課題】光受信器における前置増幅回路においては、PDの電流の一部をバイパスして増幅回路の過大入力を防止する必要があるが、このような目的で付加されるバイパス回路は抵抗およびトランジスタなどの能動素子もしくはダイオードなどの非線形素子を用いて構成されているため、信号帯域内における周波数平坦性が損なわれてしまうという問題点があった。
【解決手段】電流信号と、上記電流信号が片側の入力端子に入力される差動増幅器と、上記差動増幅器のもう一方の入力端子に接続され差動増幅器の閾値電圧を発生させる閾値電圧発生手段とからなる前置増幅器において、上記差動増幅器と上記閾値電圧発生手段との間に、2つ以上の異なった時定数をもつ多重フィルタ回路を接続した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信において光信号を変換した電流信号を電圧信号に変換する前置増幅器のうち、特に、差動入出力型の差動増幅器を備えた前置増幅器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、光ファイバを用いた通信装置においてビットレートの高速化が要求されており、1Gbps(ギガビット毎秒)以上のビットレートを持つ通信装置の普及が進んでいる。幹線系などでは更に高速な10Gbps、40Gbps、100Gbpsなどのビットレートを持つ通信装置の実用化が進みつつある。通信装置のうち光受信器は光入力信号を電気信号に変換し出力する機能を備え、光受信器には特定の通信プロトコルに従いディジタル化、符号化された光信号が入力される。
【0003】
ここで、ディジタル化された光信号はビットレートと通信プロトコルによって決まる一定の周波数帯域を持つ。ビットレートが高いほどディジタル化された光信号の周波数帯域の上限は高くなり、0または1の連続ビットが多くなるほど周波数帯域の下限は低くなる。安定した光信号の受信のためには、光受信器における光電気変換回路や光電気変換回路から出力された電気信号を増幅する前置増幅器などの増幅回路は、光信号の周波数帯域全体において平坦な周波数特性を持つことが特に重要となる。例えば、40Gbpsにおいては100kHz〜30GHzの範囲で、10Gbpsにおいては25kHz〜7.5GHzの範囲で平坦であることが望ましい。
【0004】
一般的に光受信器の光電気変換回路にはフォトダイオード(Photo Diode、以後PDと称する)またはアバランシェフォトダイオード(Avalanche Photo Diode、以後APDと称する)などの受光素子が用いられる。従来の光受信器においては、光電気変換回路からの電気信号を増幅する増幅回路の内部に、電気信号の直流成分を除去するために単一の特性を持つローパスフィルタを備えている。また、大きな光信号を受信した場合のダイナミックレンジを確保するために、過大な電流をバイパスするバイパス回路がPDまたはAPDに接続されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2000−349571公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の光受信器における前置増幅器の構成図を図10に示す。図10において、1はPD、2はPD1に逆バイアスを印加する電源、3はPD1からの入力電流の一部をバイパス電流としてバイパスさせるバイパス回路、5はPD1のアノードに接続された第一の帰還抵抗、6はPD1のアノードに接続され差動型の増幅部を有する差動増幅器、8は差動増幅器6の入力インピーダンスを表す第一の抵抗、9は差動増幅器6の逆相入力端子とグランドとの間に設けられたコンデンサである。12はPD1から出力される電流信号を表す。21は差動増幅器6の逆相出力端子に接続された第二の抵抗、22は差動増幅器6の正相出力端子に接続された第三の抵抗、23は第二の抵抗21及び第三の抵抗22と差動増幅器6の逆相入力端子との間に接続された第二の帰還抵抗、24は第二の抵抗21及び第三の抵抗22とから構成された中間電位発生回路である。25は中間電位発生回路24と第二の帰還抵抗23とから形成された一種のDCフィードバック回路である。
【0007】
つぎに、従来の前置増幅器の動作について説明する。カソードを定電圧源2に接続されたPD1は、光信号を電流信号12に変換して差動増幅器6に出力する。差動増幅器6では、電流信号12を帰還抵抗5の抵抗値に応じて決定される利得で増幅した後、正相及び逆相の信号として出力する。バイパス回路3は、PD1からの電流信号12の大きさに応じて、差動型増幅器6に電流信号が入力される前に、電流信号の一部をバイパス電流として例えばDC的にバイパスさせて過大入力を防止し、前置増幅器の動作を安定化する。
【0008】
さらに、差動増幅器6の出力に取り付けられた中点電位発生回路24が、差動増幅器6の逆相出力と正相出力との中点電位を発生させる。この中点電位は、第二の帰還抵抗23を経て差動増幅器6の逆相入力端子に、閾値電圧として入力される。すなわち、フィードバックにより適切な閾値が決定される。このフィードバックされる閾値電圧が前置増幅器によって増幅されるべき信号の周波数範囲の成分を含んでいると差動増幅器の利得が低下したり、正帰還による発振動作を招くことになる。そこで、差動増幅器6の逆相入力端子はコンデンサ9によって交流的に接地され、前置増幅器の周波数帯域における電圧振幅の発生を防いでいる。
【0009】
バイパス回路3は抵抗およびトランジスタなどの能動素子もしくはダイオードなどの非線形素子等を用いて構成されている。これらの能動素子または非線形素子のインピーダンスは周波数特性を持つため、従来の前置増幅器においては、入力信号に接続されたバイパス回路3において信号帯域内における周波数平坦性が損なわれてしまうという問題点があった。
【0010】
この発明は、上記のような問題点を解消するためになされたもので、周波数平坦性にすぐれた前置増幅器を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に係る前置増幅器は、受光素子によって生成された電流信号を入力する信号入力端子と、差動増幅器と、上記差動増幅器の基準点を決める閾値電圧を生成する閾値電圧発生器と、多重フィルタ回路と、を備え、上記閾値電圧発生器の出力は上記差動増幅器の入力に接続され、上記多重フィルタ回路は上記閾値電圧発生器の出力と上記差動増幅器の入力との間に接続され、かつ、2つ以上の異なる時定数を持つことを特徴とするものである。
【0012】
この発明に係る前置増幅器は、上記閾値電圧発生器が、一方の入力は上記差動増幅器の逆相出力に接続され、他方の入力は上記差動増幅器の正相出力に接続されたDCフィードバック回路で構成されたことを特徴とするものである。
【0013】
この発明に係る前置増幅器は、上記閾値電圧発生器が、受光素子によって生成された上記電流信号または上記電流信号を増幅して得られた信号を分岐して上記閾値電圧を生成するフィードフォワード回路で構成されたことを特徴とするものである。
【0014】
この発明に係る前置増幅器は、受光素子によって生成された上記電流信号を電圧信号に変換するトランスインピーダンス増幅器をさらに備え、上記トランスインピーダンス増幅器の入力は上記信号入力端子に接続され、上記トランスインピーダンス増幅器の出力は上記差動増幅器の入力に接続されたことを特徴とするものである。
【0015】
この発明に係る前置増幅器は、バイパス回路をさらに備え、上記バイパス回路は上記信号入力端子に接続され、上記信号入力端子に接続された受光素子からの上記電流信号に応じて上記電流信号を引き抜くことを特徴とするものである。
【0016】
この発明に係る前置増幅器は、上記多重フィルタ回路が、第一のコンデンサで構成される第一段フィルタと、互いに直列に接続された第二の抵抗および第二のコンデンサで構成される第二段フィルタとからなり、上記第一のコンデンサの一端は上記閾値電圧発生器の出力と上記差動増幅器の入力との間に接続され、上記第一のコンデンサの他端はグランドに接続され、上記第二段フィルタの一端は上記第一のコンデンサの一端に接続され、上記第二段フィルタの他端はグランドに接続されたことを特徴とするものである。
【0017】
この発明に係る前置増幅器は、上記第一段フィルタが遮断周波数f1のローパスフィルタであり、上記第二段フィルタは遮断周波数f2のローパスフィルタであり、上記遮断周波数f1は補正前の前置増幅器の振幅応答が周波数減少とともに増大し始める周波数以下であり、上記遮断周波数f2は補正前の前置増幅器の振幅応答が周波数減少に伴う増大が終わる周波数以下であることを特徴とするものである。
【0018】
この発明に係る前置増幅器は、上記多重フィルタ回路以外の上記前置増幅器の回路構成要素がワンチップ化された集積回路であり、上記集積回路の外部に上記多重フィルタ回路を接続したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
この発明により、周波数平坦性にすぐれた前置増幅器を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
実施の形態1.
以下、本発明にかかる第1の実施の形態を説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0021】
図1は、本発明の実施の形態1にかかる前置増幅器の概略構成を示す図である。図において、1はPD、2はPDに逆バイアス電圧を与える電源、3はPD1からの入力電流の一部をバイパス電流としてバイパスさせるバイパス回路、4はPD1のアノードに接続されたトランスインピーダンス増幅器、6はトランスインピーダンス増幅器4の出力に接続された第一の差動増幅器、7は第一の差動増幅器6の正相・逆相の直流電圧を基に基準電圧を生成するDCフィードバック回路、8は第一の差動増幅器6の入力インピーダンスを表す第一の抵抗、9は第一の差動増幅器6の逆相入力とグランドの間に接続された第一のコンデンサ、10は一端を第一の差動増幅器6の逆相入力と第一のコンデンサに接続された第二の抵抗、11は第二の抵抗10の他端とグランドの間に接続された第二のコンデンサである。12はPD1から出力される電流信号を表す。第二の抵抗10の一端と第二のコンデンサ11の一端をつなぎ両者を直列に接続して、第二のコンデンサ11の他端をグランドに、第二の抵抗10の他端を第一のコンデンサ9の一端に接続する。第一のコンデンサ9の他端はグランドに接続されている。
【0022】
さらに、バイパス回路3において、13はPD1のアノードとグランドとの間に挿入されたトランジスタ、14はトランジスタのコレクタに接続されたコレクタ抵抗、15はトランジスタのベースに接続されたベース抵抗、16はトランジスタのエミッタに接続されたエミッタ抵抗である。また、DCフィードバック回路7において、17は差動増幅器6の正相・逆相各出力端子電圧を入力された第二の差動増幅器、18は第二の差動増幅器17の出力端子と第一の差動増幅器6の逆相入力端子との間に挿入された第二の帰還抵抗である。26はトランスインピーダンス増幅器4の出力電圧信号の一部を入力に帰還する第一の帰還抵抗である。
【0023】
次に実施の形態1にかかる前置増幅器の動作を説明する。PD1には電源2から+3.3V程度のバイアス電圧がかけられており、このバイアス電圧がかけられた状態でPD1によって受信した40GbpsNRZ(Non Return to Zero)の光信号は、光/電気変換作用によって電流信号12に変換される。この電流信号は、入力した光信号の電力に比例するものであり、PDから前置増幅器の入力端子に流れ込む電流である。この電流信号はトランスインピーダンス増幅器4および帰還抵抗5によって決定される利得で増幅され電圧信号として出力される。ここで、PD1で受信される光信号の電力が著しく大きい場合、出力される直流電流値も比例して増大するため、トランスインピーダンス増幅器の入力端子のバイアス電圧が最適な動作点からずれ、トランスインピーダンス増幅器の増幅特性に歪が発生する。このような直流の電流信号によるバイアス電圧のずれを防ぐために、PD1のアノード側にはトランスインピーダンス増幅器4の入力端子とグランドの間にバイパス回路3が接続されている。バイパス回路3はトランジスタ13によって電流信号12の一部を強制的に引き抜く回路である。トランスインピーダンス増幅器4に流れる直流電流に比例した信号がベース抵抗15を介してトランジスタ13のベースに接続されているため、電流信号12の増大に比例してトランジスタ13によって引き抜かれる電流も増大し、トランスインピーダンス増幅器4への入力信号レベルを一定に保つことができ、回路の飽和による出力波形の劣化を防ぐことができる。
【0024】
トランスインピーダンス増幅器4の出力は、後段にある第一の差動増幅器6の正相入力端子に入力される。第一の差動増幅器6は、正相入力端子に入力された電圧信号と、逆相入力端子に入力された閾値電圧との間で生じる電位差を増幅し、差動信号として出力する増幅器である。第一の差動増幅器6において正相と逆相の間の平均電圧及び動作振幅が均等でなければ差動増幅器の利得の低下やパルス幅の歪を生じるため、差動出力の正相と逆相の電位差に応じて差動増幅器6の差動入力端子の閾値電圧を変化させるようDCフィードバック回路7を介してフィードバックがかけられている。このDCフィードバック回路は、差動出力の正相と逆相の電位差に比例した電圧を出力する第二の差動増幅器17と、その差動増幅器の出力電圧を適正なレベルまで減少させる第二の帰還抵抗18とから構成されており、第一の差動増幅器6の出力端子の正相・逆相間の平均電位差が0Vとなるように、閾値電圧を出力する閾値電圧発生手段である。この回路が動作することにより、光信号の強弱に関わらず差動増幅器が正相・逆相間でバランスのとれた最適動作状態を保つことができるようになっている。DCフィードバック回路7は基準としての閾値電圧を発生する回路なので、その動作速度は主信号の周波数帯域と比較して十分低い周波数でなければならない。そのため、第一のコンデンサ9が接続されており、差動増幅器の第一の抵抗8との間で決定される低域遮断周波数以下で動作する。
【0025】
以上の動作は、従来の技術と同様であるが、本実施の形態においては、第二の抵抗10および第二のコンデンサ11が付加されている点が図10に示す従来の技術とは異なっている。その動作を以下に説明する。
【0026】
図1に示す前置増幅器のように、PD1にバイパス回路3を接続した場合、バイパス回路3がトランスインピーダンス増幅器4の信号入力部分に並列に接続されている。バイパス回路は元来、信号周波数帯域から外れた低周波でのみ動作するべきであるが、バイパス回路のインピーダンス成分を信号帯域全域に渡って十分にハイインピーダンスに保つことは難しく、周波数応答特性が低周波数と高周波数で異なってしまう状況がしばしば発生する。
【0027】
図2に、バイパス回路の影響を受け平坦性が損なわれている状態で、フィルタ回路の効果がない場合、すなわち第一のコンデンサ9、第二の抵抗10、第二のコンデンサ11のいずれも接続していない場合の前置増幅回路の周波数応答特性を示す。この場合は、100kHzと10GHzの間に15dBのレベル差が発生している。すなわち、例示したバイパス回路3は高周波域でインピーダンスが低くなっているので、光信号12の高周波域の成分が差動増幅器6に流れにくくなり、前置増幅器の高周波域での振幅応答が低くなっている。また、この例ではおよそ100kHz以下の領域とおよそ10MHz以上の領域で、振幅応答はほぼ一定になっている。
【0028】
一方、図3は、バイパス回路が接続されていない状態もしくはバイパス回路が周波数特性を持たない状態で、第一のコンデンサ9として100nFを搭載し、第二の抵抗10および第二のコンデンサ11は搭載していない場合の前置増幅器全体としての周波数応答特性を示した図である。図3の周波数特性は、第一の抵抗8すなわち差動増幅器6の入力インピーダンスと第一のコンデンサ9によって構成されるローパスフィルタによって、低周波域のみDCフィードバック回路7が有効となり閾値が調整されることで得られる。なお、第二の差動増幅器17の出力インピーダンスが高ければ抵抗18の寄与は考慮しなくてよい。
第一の抵抗8は差動増幅器内部の回路構成に依存するが、例えば100Ω程度の大きさである。第一の抵抗8の抵抗値R1と第一のコンデンサ9の容量C1で決まる周波数f(=1/(2π・R1・C1))より高いおよそ100kHz以上から10GHzに至るまでおおよそ平坦な周波数応答特性が得られ、およそ100kHz未満で周波数減少とともに単調に振幅応答特性が低下している。
【0029】
図4は、バイパス回路の影響を受け平坦性が損なわれている状態で、第一のコンデンサ9として100nFを搭載し、第二の抵抗10および第二のコンデンサ11は搭載していない場合の前置増幅器の周波数応答特性を示した図である。100kHz近傍で10dB以上のピーキングが発生しており、例えば40Gbpsといった広帯域デジタル信号を扱う場合には深刻なビットエラーを起こす。
ピーキングの原因は、一つの時定数のみを持つ単純なローパスフィルタでは、図3のような、周波数とともに単調に変化せずにステップを持つようなプロファイルの周波数応答特性までも補正することができないからである。
【0030】
このようにバイパス回路の周波数応答特性が扱い難いプロファイルの場合に、第一のコンデンサ、第二の抵抗、および第二のコンデンサの値を適切に設定することにより、複雑なプロファイルの周波数応答特性を補正することができる。
【0031】
バイパス回路の周波数応答特性により生じた図2のような周波数応答特性を補正する場合、まず、100kHzから10MHzにかけて発生している、低周波数域で応答が大きくなっている特性(ロールオフ特性)を補正するために、第一のコンデンサとして2.3nFを選択する。
差動増幅器6の入力端子とグランドの間に、第一の抵抗8と第一のコンデンサ9が互いに並列に接続されているため、第一の抵抗8の抵抗値をR1、第一のコンデンサの容量をC1とすると、第一の抵抗8の抵抗値R1と第一のコンデンサ9の容量C1で決まる周波数f(=1/(2π・R1・C1))より高いおよそ700kHz以上の周波数が遮断されることとなる。したがって、フィードバック回路7が十分有効になるのはおよそ700kHz未満の周波数となり、前置増幅器全体としてはおよそ700kHz未満の周波数域で振幅応答を大きく落とすことができる。
【0032】
しかし、上述のように1段だけのローパス回路として、第二の抵抗10および第二のコンデンサ11を接続しなければ、図3に示したピーキングが生じたり、必要帯域の下限に近い周波数域の振幅応答が低下しすぎたりして、通信に必要な平坦な周波数特性が得られない。
【0033】
そこで、第二のコンデンサとしては、前置増幅回路全体の低域カットオフ周波数を100kHz未満にし、必要な周波数帯域を平坦にするために、100nFまたはそれ以上の大容量コンデンサを選択する。また、第二の抵抗10として200Ωを選択する。この場合、第二の抵抗10の抵抗値R2と第二のコンデンサ11の容量C2で決まる周波数f(=1/(2π・R2・C2))であるおよそ10kHz以上の周波数が遮断されることとなる。したがって、第一の抵抗8と第一のコンデンサ9が構成する第一段のローパスフィルタと、第二の抵抗10と第二のコンデンサ11が構成する第二段のローパスフィルタの効果を合わせると、およそ10kHzからおよそ100kHzまでの周波数域は主に第二段のローパスフィルタの効果によりフィードバック信号を遮断し、およそ100kHz以上の周波数域は主に第一段のローパスフィルタの効果によりフィードバック信号を遮断することとなる。第一段のローパスフィルタと第二段のローパスフィルタの効果を発揮する主たる周波数領域をそれぞれ分担させることによって初めて、前置増幅器の複雑な周波数非平坦性を打ち消すようなフィードバック特性が得られる。その結果、図2に示すようなステップ状の周波数特性のような、周波数特性が単調変化でない前置増幅器を補正することができる。
【0034】
第一段のローパスフィルタと第二段のローパスフィルタの効果を発揮する主たる周波数領域をそれぞれ分担させるためには、有限の抵抗値R2を持つ第二の抵抗10を接続することが重要である。このことを説明するために、図5には、バイパス回路の特性が平坦な状態で、ローパスフィルタの回路定数を変えた場合の前置増幅器の周波数特性を示す。また、図6には、バイパス回路の特性が平坦でない状態で、ローパスフィルタの回路定数を変えた場合の前置増幅器の周波数特性を示す。
第二の抵抗を0Ω、すなわち取り付けなかった場合には第一のコンデンサと第二のコンデンサは単純に並列に接続されていることとなり、合成容量102.3nFのコンデンサが1つだけ接続されている状態と等価になり、本発明による異なった時定数をもつフィルタ特性の合成とはならない。第二の抵抗が0Ωの場合には、図5に示すようにローパスフィルタを通してフィードバックをかけた前置増幅器の周波数特性は、周波数f1に近いおよそ100kHz未満で単調に減少し、図6に示すバイパス回路をつないだ状態の周波数応答は、図3と同じくピーキングを有する周波数応答特性となる。
【0035】
そこで、第二の抵抗を100Ω、200Ωと順次増加していくと、図6に示すピーキングのレベルは徐々に下がり、200Ωにおいて100kHz〜10GHzにおいてピーキングのほとんど無い平坦な特性を得ることができる。すなわち、第一のコンデンサとして2.3nF、第二の抵抗として200Ω、第二のコンデンサとして100nFを搭載した場合に、図5の第二の抵抗が200Ωの場合に示すような2段階で変化する周波数特性のフィルタが得られ、最も最適な周波数応答特性の前置増幅回路を構成することができる。
【0036】
このように平坦な周波数応答特性を得ることができるのは、第一の抵抗と第一のコンデンサによって決定されるローパスフィルタ特性と、第二の抵抗と第二のコンデンサによって決定される異なったローパスフィルタ特性とが合成され、さらに第二のコンデンサによるフィルタ特性を第二の抵抗の値で調整することによって、図5の第二の抵抗が0Ωでない場合のような複雑な形状の多重ハイパスフィルタ特性を作り出すことができ、図2のような扱い難いプロファイルの周波数応答特性までも補正して平坦化できるためである。
【0037】
第一の抵抗8の抵抗値R1と第一のコンデンサ9の容量C1によって決定される遮断周波数f1の値は、前置増幅器の振幅応答が周波数減少とともに増大し始める周波数と同じかそれ未満であることが望ましい。なぜなら、周波数f1の前後の周波数(f1のおよそ25%〜400%)以下の周波数域で第一段のローパスフィルタが信号を有意に透過させるからである。
第一の抵抗10の抵抗値R2と第一のコンデンサ11の容量C2の値は、前置増幅器の振幅応答が、周波数減少とともに増大することが終わった周波数と同じかそれ未満であることが望ましい。なぜなら、周波数f2の前後の周波数(f2のおよそ25%〜400%)以下の周波数域で第二段のローパスフィルタおいても信号を有意に透過させるからである。なお、f2<f1であるので、f2の前後の周波数以下の上記周波数域では第一段のローパスフィルタと第二段のローパスフィルタのいずれもが信号を有意に透過させる。
【0038】
この発明によれば、差動増幅器の入力端子と閾値電圧発生手段との間に、2つ以上の異なった特性をもつ多重フィルタ回路を接続するために、複雑な周波数応答特性を多重フィルタ回路によって補正し、より平坦な周波数応答特性をもつ効果を奏する。
周波数応答特性を補正する場所としてバイパス回路3の近傍に回路を付加することも考えられるが、このようにPDの信号出力近傍に回路を付加していくことは一般的に雑音特性の劣化を招く。本発明ではPDから離れた閾値電圧回路への回路付加のため、このような複雑な回路形式で周波数応答特性を補正しても雑音特性に悪影響を与えることがないという効果もある。
【0039】
周波数平坦性を損なう要因はバイパス回路3以外にも存在する。実際に前置増幅器を集積回路(IC)として作製した場合には、回路パラメータが必ずしも広い周波数帯域に渡って理想的な状態で動作しないため、周波数平坦性が損なわれることがしばしば発生する。さらに、前置増幅器の用途によっては、特定の周波数で応答を落とすといった特殊な周波数応答特性が要求されることもある。本発明によれば、このような種々のニーズに適応した前置増幅器を構成することができる。
【0040】
閾値電圧発生手段としてDCフィードバック回路を用いた場合には、差動増幅器の出力バランスを保ちつつ、前置増幅器全体として理想的な周波数応答特性をもつことができるという効果がある。
【0041】
さらに、この発明によれば、電流信号としてフォトダイオードによる光電流を用い、フォトダイオードにバイパス回路を接続した場合には、入力光信号の増大に応じて出力される電流信号をバイパス回路で引き抜き、トランスインピーダンス増幅器へ入力される電流振幅を保ちつつ、トランスインピーダンス増幅器とバイパス回路の両方、さらには差動増幅器において発生した周波数応答特性の非平坦性を多重フィルタ回路で補正し平坦化できるという効果を奏する。
【0042】
さらに、この発明によれば、多重フィルタ回路が、第一のコンデンサと、上記第一のコンデンサに並列に接続された抵抗および第二のコンデンサとからなることにより、このコンデンサと抵抗の値を組み合わせることで安価に任意のフィルタ特性を生成することができるという効果を奏する。フィードバック回路の出力に多重ローパスフィルタを接続することで、バイパス回路等で損なわれた周波数平坦性を容易に補正することができる。
【0043】
40Gbpsに用いる前置増幅器について上で述べたが、それ以外のビットレートにおいても平坦性が要求される周波数と前置増幅器の非平坦性に合わせて多重フィルタの値を設計すればよいことは言うまでもない。
【0044】
実施の形態2.
本発明の実施の形態2にかかる前置増幅器の構成を図7に示す。
実施の形態1と共通する構成要素については同じ番号を付し説明を省略する。
実施の形態1では、電流信号12がトランスインピーダンス増幅器4により電圧信号に変換された後に差動増幅器6に入力しているが、本実施の形態においては、電流信号を直接差動増幅器6の一方の入力端子に接続した。
【0045】
本実施の形態においては、電流信号を電圧信号に変換するデバイスとして差動増幅器6を使用することにより、差動増幅器6とバイパス回路の両方で発生した周波数応答特性の非平坦性を多重フィルタ回路で補正し平坦化できるという効果を奏する。この構成においても実施の形態1と同様の効果を奏する。また、前置増幅器の構成をより単純にすることができる。
【0046】
実施の形態3.
本発明の実施の形態3にかかる構成を図8に示す。実施の形態1と共通する構成要素については同じ番号を付し説明を省略する。
実施の形態1は、差動増幅器の入力部に接続された閾値電圧発生手段としてDCフィードバック回路によるものであったが、本実施の形態では電流信号を分岐して生成したフィードフォワード回路としている。
【0047】
図8は、上記閾値電圧発生手段としてフィードフォワード回路を用いた前置増幅器を示す概略図である。図8において、19は、トランスインピーダンス増幅器4の出力信号を分岐して閾値電圧を発生するフィードフォワード回路である。DCフィードバック回路7に代えてフィードフォワード回路19を使用していることを除けば実施の形態1と同様の構成である。
フィードフォワード回路19は、例えば、差動増幅器6の正相入力端子にはトランスインピーダンス増幅器4の出力信号を直接的に入力し、差動増幅器6の逆相入力端子にはトランスインピーダンス増幅器4の出力信号の平均電圧を入力する動作をすることにより、差動増幅器6の動作点を最適化する。
【0048】
第一のコンデンサ9、第二の抵抗10、第二のコンデンサ11によって構成される多重フィルタ回路により、第一の実施例と同様の効果を奏する。さらに、このようなフィードフォワード回路の構成においては、差動増幅器の入力インピーダンス8を容易に高めることができるため、その場合は第一のコンデンサ9として、実施の形態1よりも容量の小さなものを用いることができるという効果も奏する。また、閾値電圧発生手段としてフィードフォワード回路を用いることにより、第一のコンデンサの容量値としてDCフィードバック回路よりも比較的小さな値をとることができ、回路規模が小さくできるという効果を奏する。
【0049】
実施の形態4.
実施の形態1ないし3にかかる発明は、ディスクリートな部品で前置増幅器を構成したものであった。本実施の形態は、実施の形態3にかかる前置増幅器の受光素子と多重フィルタ回路以外の部分をIC化したものである。図9において20は1つのICであり、図9に示されるIC20の内部にある回路構成要素は1つのIC20に搭載されている。フォトダイオード1、電源2、第一のコンデンサ9、第二の抵抗10、第二のコンデンサ11以外の部品をすべて1チップ化することにより小型化、低コスト化および利便性の向上を図っているが、ICの寄生インピーダンスによる周波数応答特性の劣化は、ICの外部に接続される多重フィルタ回路によって、第一の実施例と同様に補正することができるという効果がある。
【0050】
このような構成とすることにより、IC化による小型化、低コスト化等のメリットをほとんど損なうことなく、所望の周波数平坦性を得ることができるという効果がある。上記ICの外部に上記多重フィルタ回路を接続することにより、IC化による低コスト化と、多重フィルタ回路によるチューニングの両方を実現することができるという効果を奏する。また、本実施の形態においても実施の形態1ないし3と同様の効果を奏する。
【0051】
本実施の形態における説明では実施の形態3にかかる前置増幅器の受光素子と多重フィルタ回路以外の部分をIC化した形態を例にとって示したが、実施の形態1にかかる前置増幅器の受光素子と多重フィルタ回路以外の部分をIC化した形態や、実施の形態2にかかる前置増幅器の受光素子と多重フィルタ回路以外の部分をIC化した形態についても同様に実施することができ、上記と同様の効果が得られる。
【0052】
実施の形態1ないし4において、受光素子をPDとしたが、APDであっても同様な効果を有する。
【0053】
実施の形態1ないし4において、フィードバック回路は抵抗からなる中間電位発生回路とフィードバック抵抗で構成することもできる。しかし、図1に内部を示したフィードバック回路7のように能動素子を用いてフィードバック回路を構成する場合は、中間電位発生回路のインピーダンスを考慮しなくてもよいため、より自由なフィルタ定数の選択が可能であり、より多様な振幅応答の非平坦性を補正することができる。
【0054】
実施の形態1ないし4において、多重フィルタの定数として第一の抵抗8の抵抗値を調整するために、第1のコンデンサ9に新たな抵抗(図示せず)を第一のコンデンサ9に並列に接続してもよい。
【0055】
実施の形態1ないし4において、より複雑な周波数特性を補正するために、3段以上のフィルタからなる多重フィルタを用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施の形態1にかかる前置増幅器の概略構成を示す図である。
【図2】バイパス回路により周波数特性の平坦性が損なわれている状態の前置増幅器の周波数応答特性を示す図である。
【図3】バイパス回路により周波数特性の平坦性が損なわれていない状態で、単一の時定数を持つローパスフィルタを用いて閾値を調整した場合の前置増幅器の周波数応答特性を示す図である。
【図4】バイパス回路により周波数特性の平坦性が損なわれている状態で、単一の時定数を持つローパスフィルタを用いて閾値を調整した場合の前置増幅器の周波数応答特性を示す図である。
【図5】バイパス回路により周波数特性の平坦性が損なわれていない状態で、実施の形態1における多重フィルタ回路を用いて閾値を調整した場合の前置増幅器の周波数応答特性を示す図である。
【図6】実施の形態1における多重フィルタ回路による調整を行った場合の前置増幅器の周波数応答特性を示す図である。
【図7】実施の形態2にかかる前置増幅器の概略構成を示す図である。
【図8】実施の形態3にかかる前置増幅器の概略構成を示す図である。
【図9】実施の形態4にかかる前置増幅器の概略構成を示す図である。
【図10】従来の前置増幅器の概略構成を示す図である。
【符号の説明】
【0057】
1 PD、2 電源、3 バイパス回路、4 トランスインピーダンス増幅器、6 差動増幅器、7 DCフィードバック回路、8 第一の抵抗、9 第一のコンデンサ、10 第二の抵抗、11 第二のコンデンサ、12 電流信号。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受光素子によって生成された電流信号を入力する信号入力端子と、
差動増幅器と、
上記差動増幅器の基準点を決める閾値電圧を生成する閾値電圧発生器と、
多重フィルタ回路と、を備える前置増幅器であって、
上記閾値電圧発生器の出力は上記差動増幅器のの入力に接続され、
上記多重フィルタ回路は上記閾値電圧発生器の出力と上記差動増幅器の入力との間に接続され、かつ、2つ以上の異なる時定数を持つことを特徴とする前置増幅器。
【請求項2】
上記閾値電圧発生器は、一方の入力は上記差動増幅器の逆相出力に接続され、他方の入力は上記差動増幅器の正相出力に接続されたDCフィードバック回路で構成されたことを特徴とする請求項1に記載の前置増幅器。
【請求項3】
上記閾値電圧発生器は、受光素子によって生成された上記電流信号または上記電流信号を増幅して得られた信号を分岐して上記閾値電圧を生成するフィードフォワード回路で構成されたことを特徴とする請求項1に記載の前置増幅器。
【請求項4】
上記前置増幅器は、受光素子によって生成された上記電流信号を電圧信号に変換するトランスインピーダンス増幅器をさらに備え、
上記トランスインピーダンス増幅器の入力は上記信号入力端子に接続され、
上記トランスインピーダンス増幅器の出力は上記差動増幅器の入力に接続されたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の前置増幅器。
【請求項5】
上記前置増幅器は、バイパス回路をさらに備え、
上記バイパス回路は上記信号入力端子に接続され、上記信号入力端子に接続された受光素子からの上記電流信号に応じて上記電流信号を引き抜くことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の前置増幅器。
【請求項6】
上記多重フィルタ回路は、
第一のコンデンサで構成される第一段フィルタと、
互いに直列に接続された第二の抵抗および第二のコンデンサで構成される第二段フィルタとからなり、
上記第一のコンデンサの一端は上記閾値電圧発生器の出力と上記差動増幅器の入力との間に接続され、
上記第一のコンデンサの他端はグランドに接続され、
上記第二段フィルタの一端は上記第一のコンデンサの一端に接続され、
上記第二段フィルタの他端はグランドに接続されたことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の前置増幅器。
【請求項7】
上記第一段フィルタは遮断周波数f1のローパスフィルタであり、
上記第二段フィルタは遮断周波数f2のローパスフィルタであり、
上記遮断周波数f1は補正前の前置増幅器の振幅応答が周波数減少とともに増大し始める周波数以下であり、
上記遮断周波数f2は補正前の前置増幅器の振幅応答が周波数減少に伴う増大が終わる周波数以下であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の前置増幅器。
【請求項8】
上記多重フィルタ回路以外の上記前置増幅器の回路構成要素はワンチップ化された集積回路であり、上記集積回路の外部に上記多重フィルタ回路を接続したことを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の前置増幅器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−136169(P2010−136169A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−310845(P2008−310845)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】