説明

創傷および線維性障害の治療における性ステロイド機能モジュレーターの使用

【課題】創傷および/または線維性障害の治療のための化合物を提供すること。
【解決手段】本出願は、創傷および/または線維性障害の治療における性ホルモン系に影響を与える化合物の使用に関する。このような治療に使用する化合物としては、ステロイドホルモンが好ましく、エストロゲン類が特に好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、創傷の治癒、および線維症が組織修復の主なメカニズムである状態あるいは過剰の線維症が病的障害および組織の機能不全を引き起こす状態の治療における、線維症の調節に関する。
【背景技術】
【0002】
成人における創傷治癒は、複雑な修復プロセスである。治癒プロセスは、創傷部位における種々の特殊細胞の漸増から始まり、細胞外マトリックスおよび基底膜の蓄積、血管形成、選択的プロテアーゼ活性および再上皮形成を含んでいる。成人哺乳類における治癒プロセスの重要な構成要素は、線維芽細胞を刺激して細胞外マトリックスを産生させることである。この細胞外マトリックスは、創傷領域の修復を進展させる結合組織の主な構成要素である。
【0003】
治癒プロセス中に形成される結合組織は、天然においてしばしば線維状であり、通例、結合組織に瘢痕が形成される(線維症として知られるプロセス)。
【0004】
瘢痕は、損傷および創傷(切開、切除または外傷など)の結果として形成される異常な形態学上の構造である。瘢痕は、主としてI型およびIII型コラーゲンならびにフィブロネクチンからなるマトリックスである結合組織を含む。瘢痕は、異常な組織形成にけるコラーゲン線維からなる場合もあり(皮膚の瘢痕)、あるいは結合組織の異常な蓄積である場合もある(中枢神経系の瘢痕)。大部分の瘢痕は、異常に組織されたコラーゲンおよび過剰なコラーゲンからなる。ヒトの皮膚の場合、瘢痕は皮膚表面の下に押し下げられているかまたは上に押し上げられた形状で存在する。肥大した瘢痕は、正常な瘢痕よりも深刻な形態であり、皮膚の正常な表面の上に押し上げられており、異常なパターンで配列された過剰のコラーゲンを含んでいる。ケロイドは、病的瘢痕の他の形態であり、皮膚の表面の上に押し上げられているばかりでなく、もとの損傷の境界を越えて広がる。ケロイドには、膠原性の組織の渦巻き中で主に異常な形式で組織される過剰の結合組織が存在する。肥大性瘢痕とケロイド性瘢痕の両方を形成する遺伝的素因がある。このような素因は、人種としてはアフリカ−カリビアンおよびモンゴロイドに特によく見られる。
【0005】
創傷の治癒を促進する医薬を提供する必要がある。たとえば、急性創傷(刺し傷、火傷、選択的外科手術の結果生じる神経損傷または創傷など)、慢性創傷(糖尿病性潰瘍形成、静脈潰瘍形成および床ずれ潰瘍形成など)または一般に治癒が困難となっている個体(老年者など)の場合、治癒進度の増進を所望されることが多い。これらの例において、創傷は、生命の状況に重大な影響を及ぼし、死に至らしめることさえもあるので、臨床的に可能な限り、治癒進度の増進が必要とされる。創傷治癒進度が増進すると、瘢痕形成もそれにともなって増進することも多いが、このことは、所望の治癒進度の増進と比べると二次的重要度である。
【0006】
本明細書で用いる語句「創傷」は、皮膚への損傷を意味するがこれに限定されるものではない。他のタイプの創傷には、肺、腎臓、心臓、腸、腱または肝臓などの内部組織あるいは臓器への障害、損傷または外傷が含まれる。
【0007】
しかし、瘢痕形成の調節が一次的重要度であり、創傷治癒の進度が二次的に考慮されるという場合もある。このような状況の例は、過剰の瘢痕が、組織の機能を妨げるような場合の皮膚の瘢痕であり、特に、瘢痕拘縮が起こる場合である(たとえば、関節の柔軟性を減損するような皮膚の火傷および創傷)。美容上の考慮が重要である場合の皮膚の瘢痕の減少もまた、強く所望されている。皮膚において、肥大性またはケロイド性瘢痕(特に、アフリカ−カリビアンおよびモンゴロイドにおいて)は、機能的および美容的減損を引き起こすものであり、それらの発生を予防する必要がある。両方(移植部および切除部)の皮膚部位に生じる瘢痕および人工皮膚の適用によって生じる瘢痕もまた、問題であり、最小化あるいは予防が必要とされている。
【0008】
皮膚の瘢痕と同様に、内部瘢痕または線維症も非常に有害であり、その特定の例として以下のものが挙げられる。
【0009】
(i)中枢神経系において、グリアの瘢痕形成は、(神経外科手術または脳の穿損傷後などの)神経の再接続を妨げる。
(ii)眼内の瘢痕形成は、減損性である。角膜において、瘢痕形成は異常な混濁を引き起こし、視覚に問題を与え、盲目に至らしめることさえある。網膜において、瘢痕形成は、ゆがみあるいは網膜剥離を引き起こし、盲目に至らしめる。緑内障において眼圧を低下する手術(緑内障ろ過術など)における創傷治癒後の瘢痕は、水性体液が排出されないことによって外科処置の失敗を引き起こし、その結果として緑内障が再発する。
(iii)心臓における瘢痕形成(外科手術または心筋梗塞後など)は、異常な心臓機能を亢進する。
(iv)腹部または腎盂における手術は、しばしば、内臓癒着を引き起こす。たとえば、腸と体壁の癒着が形成されると、腸のループがねじれて、虚血、壊疽が生じ、緊急処置が必要となる(処置しなければ死亡する)。腸の外傷または切開は、瘢痕の形成および瘢痕による拘縮を引き起こし、狭窄に至らしめ、腸の管腔閉塞が起こり、その結果再び生命が脅かされる。
(v)卵管の領域における腎盂の瘢痕形成は、不妊症を引き起こす。
(vi)筋肉の損傷後の瘢痕形成は、異常な拘縮をもたらし、筋肉の機能が減損する。
(vii)腱および靭帯の損傷後の瘢痕形成または線維症は、重篤な機能減損をもたらす。
【0010】
上記に関連して、事実、過剰の線維症が病的障害および組織の機能不全を引き起こす線維性障害として知られる多数の医療的対処を必要とする体調がある。線維性障害は、組織内に異常な形式で線維性組織(主にコラーゲン)が蓄積することを特徴とする。このような線維性組織は、種々の障害プロセスから生じる。これらの障害は、必ずしも外科手術、外傷あるいは創傷によって引き起こされるとは限らない。線維性障害は通常慢性的である。線維性障害の例として、肝硬変、肝臓線維症、糸球体腎炎、肺線維症、強皮症、心筋線維症、心筋梗塞後の線維症、発作後または神経退行性障害(アルツハイマー病)後の中枢神経系線維症、増殖性硝子体網膜症および関節炎が挙げられる。したがって、これらの線維性障害において、線維症/瘢痕形成を調節する(すなわち、予防、阻止または回復させる)ことによってこのような体調の治療に用いうる医薬も必要である。
【0011】
上記考察は主としてヒトの体調、障害あるいは疾病に対して適用するものであるが、他の動物、特に愛玩動物または家畜(ウマ、ウシ、イヌ、ネコなど)においても、創傷治癒、瘢痕形成および線維性障害が問題であることが理解されよう。たとえば、腱と靭帯の損傷から瘢痕形成または線維症に至るために、腹部創傷または癒着は、ウマ(特に競走馬)を引退させる主な原因である。
【0012】
創傷治癒、瘢痕形成および線維性障害の分野において、最近幾らかの発展がなされている。これらの発展の幾つかは、一連のサイトカインおよび成長因子が組織の修復に深くかかわっているという最近の知識に関連するものである。
【0013】
WO−A−92/17206には、線維症促進成長因子に対して中和剤を使用することにより、創傷治癒中に瘢痕形成が阻害されることが開示されている。たとえば、WO−A−92/17206は、組成物がトランスフォーミング成長因子β1およびβ2を特に阻害すること、および瘢痕形成を減少させるのに血小板由来成長因子が特に有用であることを実証している。
【0014】
WO−A−93/19769には、トランスフォーミング成長因子β3といったような非線維性因子を使用することにより、線維症を誘発することなく創傷治癒が促進されるという驚くべき発見が開示されている。
【0015】
GB−A−2288118には、成長因子に対して産生された特異的抗体を用いることにより、該成長因子の作用が強化されて治癒を促進することが開示されている。
【0016】
他の発展の例として、マンノース−6−ホスフェートを、細胞外マトリックスの蓄積およびトランスフォーミング成長因子β1またはβ2の濃度上昇に関連した線維性障害の治療に使用することが挙げられる(GB−A−2265310)。マンノース−6−ホスフェートは、これらのトランスフォーミング成長因子の潜伏型から活性型への転換を妨げると考えられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
これらの進歩にもかかわらず、創傷治癒を調節するのに用い得る医薬を発達させることを継続する必要性は依然として残っている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の第1の態様は、性ホルモン系に影響を及ぼす化合物を、創傷または線維性障害の治療用医薬の製造に使用することである。
【0019】
本発明の第2の態様は、創傷または線維性障害の部位に、治療上有効量の性ホルモン系に影響を及ぼす化合物を適用することを特徴とする創傷または線維性障害の治療方法である。
【0020】
本発明の第3の態様は、創傷または線維性障害を治療するための、治療上有効量の性ホルモン系に影響を及ぼす化合物の相当量ならびに医薬的に許容しうるビヒクルを含む治癒組成物である。
【0021】
「性ホルモン系」とは、性、性的発達、受精能力、第2次性徴および雌性における月経周期ならびに妊娠に影響を及ぼす内分泌系を意味する。有用な化合物は、この系に影響を及ぼす化合物である。このような化合物としては、エストロゲン、アンドロゲン、プロゲステロン、コリオゴナドトロフィン、濾胞刺激ホルモン放出ホルモンおよび黄体形成ホルモンならびにそれらの先駆体といったような内因性ホルモンが挙げられる。
【0022】
本発明にしたがって、本発明者らは、性ホルモン系に影響を及ぼす化合物を用いて創傷および線維性障害を治療しうることを見出した。該化合物を用いることにより、創傷または線維性障害を治療するための種々の調節効果が提供されるが、それについて以下にさらに詳しく説明する。
【0023】
本発明は、創傷の治癒進度が、再上皮形成、細胞外マトリックスおよび基底膜の蓄積などの点で、患者の年齢とともに低下するということを示す我々の研究に基づいている。我々は、老年の女性の方が、老年の男性よりも治癒が迅速であることも明らかにした。これには、老年の女性は、老年の男性よりも、創傷線維芽細胞の数の増加、トランスフォーミング成長因子β1(TGF−β1)濃度の上昇およびタンパク質分解活性の増加において優れているが、若年の男性および女性と比べると低下していることが関連していた。若年の男性と若年の女性では、男性の方が瘢痕の形成が少ないということもわかり、それは両性の間で、TGF−β1の濃度が相異することに関連している。両性間で存在するもう一つの差異は、女性の創傷治癒が、通常、男性よりもエラスチン濃度が高く、血管形成が速いことが関連している。
【0024】
これらの発見が、我々を、性ホルモンおよび性ホルモン系に影響を及ぼす他の化合物が創傷治癒の進度と質(瘢痕形成または線維症の広がり)に影響を与え、かつまた線維性障害における線維性組織の蓄積にも影響を与えるということに気づかせた。閉経後の女性において、創傷治癒の進度と質に対するホルモン置換療法(HRT:hormone replacemant therapy)の効果を評価することによって、この仮説を検証し、確認した。エストロゲン単独またはエストロゲンとプロゲステロンのHRTを受けた女性は、薬物を投与されなかった同年齢の女性と比べて、皮膚創傷治癒(再上皮形成および細胞外マトリックスの蓄積の点で)の進度が有意に増大した。HRTにおいて、閉経後の女性の正常な(傷害を受けていない)皮膚および創傷の両方において、タンパク質分解活性は、20〜30歳の女性グループよりも低かった。このような影響もまた、正常皮膚における年齢に関連した、トランスフォーミング成長因子β1の変化の退行またはインターロイキン1のプロフィールに関連していた。
【0025】
本発明者らは、いかなる仮説によっても強制されることを望まないが、性ホルモンおよび性ホルモン系に影響を及ぼす他の化合物がその創傷治癒効果を現すメカニズムが、サイトカイン類(TGF−β1、血小板由来成長因子またはインターロイキン1など)などの創傷治癒を調節する分子の活性を調節し、それによって細胞機能(線維芽細胞の機能など)に影響を及ぼすことによるものである可能性があると考える。たとえば、我々のインビトロでの研究は、エストロゲンが線維芽細胞のTGF−β1産生を増加させ、そのことが、創傷治癒進度を増大させるエストロゲンの効果に関連していることを発見した。性ホルモン系に影響を及ぼす他の化合物もまた線維芽細胞の活性を調節する。たとえば、プロゲステロンは、老年期の線維芽細胞の増殖を阻害するが、アンドロゲンは、エストロゲンの効果と類似した効果をもつ。
【0026】
我々は、性ホルモン系に影響を及ぼす化合物もまた、創傷または線維性傷害を受けている組織において、酵素プロフィールを調節することを見出した。特に、我々は、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)(特に、MMP2およびMMP9)ならびにエラスターゼといったような他の分解性酵素の酵素濃度が、エストロゲン、プロゲステロンおよびテストステロンといったような化合物によって調節されることを見出した。我々は、この調節が、創傷治癒進度に影響を及ぼすのに充分であるかまたは線維症を調節する(そして、それによって瘢痕形成または線維性障害に影響を及ぼす)のに充分であり、これらの影響が、性ホルモン系に影響を及ぼす化合物が創傷または線維性障害を治療することができる、補足的、付加的または二者択一的メカニズム(先のパラグラフで議論した)を説明する可能性があると考える。
【0027】
幾つかのクラスの化合物が、性ホルモン系に影響を及ぼす能力をもつ。このような化合物としては、ホルモン、ホルモン受容体アゴニストまたはアンタゴニスト、ホルモン受容体の内因性アクチベーターまたはインヒビターの放出を調節する作用剤、内因性ホルモン受容体リカンドの合成を調節する作用剤、内因性ホルモン受容体リカンドの分解を調節する作用剤、ホルモン受容体の発現または活性を調節する作用剤、および性ホルモン系の受容体とエフェクター系間のシグナルトランスダクションに含まれるメカニズムを強化する作用剤が挙げられる。
【0028】
好ましい性ホルモン系に影響を及ぼす化合物は、ホルモン(またはその生物学的に活性な誘導体)およびホルモン受容体のアゴニストならびにアンタゴニストである。最も好ましい性ホルモン系に影響を及ぼす化合物は、ステロイド性ホルモン(エストロゲン、プロゲステロンまたはテストステロンなど)または性ステロイドホルモン受容体のアゴニストまたはアンタゴニストである。
【0029】
本発明に従って、2つの主要な方法のうちのひとつ(使用した特定の化合物に応じて)において、創傷治癒を調節するための性ホルモン系に影響を及ぼす化合物が見出されている。本発明の第1および第2の具体例として、この方法を以下に述べる。
【0030】
本発明の第1の具体例において、我々は、性ホルモン系に影響を及ぼすある化合物は、瘢痕形成または線維症を増加するけれども、創傷治癒を促進する能力を有することを発見した。このような化合物は、創傷治癒の進度が優先し、瘢痕の程度が2次的に考慮される場合に、特に非常に有用である。このような創傷は、生命の状況に重大な影響を及ぼし、死に至らしめることさえもあるので、したがって、臨床的に可能な限り、治癒進度の増進が必要とされる。
【0031】
本発明の第1の具体例の最も有効な化合物は、通常、創傷部位においてエストロゲン活性を促進する化合物である。この促進作用によって創傷治癒が加速される。
【0032】
エストロゲン活性を促進するのに用いる化合物としては、エストロゲン、エストロゲン受容体アゴニスト(エチニルエストラジオール、ジエンエストロール、メストラノール、エストラジオール、エストリオール、複合エストロゲン、ピペラジンエストロンスルフェート、スチルベストロール、フォスフェステロールテトラナトリウム、ポリエストラジオールフォスフェート、チボロンなど)、エストロゲンまたはエストロゲン受容体アゴニスト分解のインヒビター、フィトエストロゲン、または黄体形成ホルモン,濾胞刺激ホルモン放出ホルモンおよびコリオゴナドトロピンのモジュレーターが挙げられる。
【0033】
エストロゲン活性のプロモーターに代わる物として、本発明の第1の具体例において、アンドロゲン活性のプロモーターを使用することが可能である。
【0034】
好ましいアンドロゲン活性のプロモーターとしては、アンドロゲンホルモン(テストステロン、ジヒドロテストステロン、5α−アンドロスタンジオールなど)、アンドロゲン受容体アゴニスト(テストステロンウンデカノエート,テストステロンエナンセート、テストステロンエステル、テストステロンプロピオネート、メステロロン、ダナゾールおよびゲストリノンなど)、アンドロゲンまたはアンドロゲン受容体アゴニスト分解のインヒビター(アミノグルテサミンなど)、黄体形成ホルモン および濾胞刺激ホルモン放出ホルモンのモジュレーター、アナボリックステロイド(ナンドロロンまたはスタノゾロールなど)が挙げられる。
【0035】
本発明の第1の具体例として使用するのにこのましい化合物は、エストロゲンホルモン受容体アゴニストである。17β−エストラジオールが特に好ましい。
【0036】
本発明の第2の具体例において、我々は、性ホルモン系に影響を及ぼすある化合物は、創傷治癒の進度は犠牲にするけれども、瘢痕形成の程度を改善するかまたは望ましくない線維症を予防することによって、創傷治癒または線維性障害を調節し得る能力を有することを発見した。
【0037】
本発明の第2の具体例で使用する、このような化合物(線維症を阻止する)は、瘢痕形成を予防あるいは軽減する必要がある場合に有用である。
【0038】
すなわち、本発明の第2の具体例において使用される、このような化合物(線維症を阻止する)は、瘢痕形成が予防または軽減されることが必要な以下のような状況あるいは体調において有用である。
【0039】
(i)皮膚の瘢痕が組織機能に対して過剰および/または有害である場合、特に、瘢痕の拘縮が起こるかまたは起こる可能性がある場合(たとえば、関節の柔軟性を損なう皮膚の火傷および創傷、特に子供の瘢痕)。
(ii)美容上の考慮が重要である皮膚における瘢痕形成。
(iii)機能的および美容的減損を引き起こす、肥大性またはケロイド性瘢痕(特に、アフリカ−カリビアンおよびモンゴロイドにおいて)が生じる場合。
(iv)両方(移植部および切除部)の皮膚部位に生じる瘢痕および人工皮膚の適用によって生じる瘢痕形成。
(v)(神経外科手術または脳の穿損傷後などの)中枢神経系における瘢痕形成。たとえば、グリアの瘢痕形成は、傷んだ神経の再接続を妨げる。
(vi)眼内、特に角膜における瘢痕形成(瘢痕形成が異常な混濁を引き起こし、視覚に問題を与え、盲目に至らしめることさえある)、網膜における瘢痕形成(ゆがみあるいは網膜剥離を引き起こし、盲目に至らしめる)、および緑内障において眼圧を低下する手術(緑内障ろ過術など)における創傷治癒後の瘢痕形成(水性体液が排出されないことによって外科処置の失敗を引き起こし、その結果として緑内障が再発する)。
(vii)異常な心臓機能を亢進する心臓における瘢痕形成(外科手術または心筋梗塞後など)。
(viii)腹部または腎盂における手術は、しばしば、内臓癒着を引き起こす。たとえば、腸と体壁の癒着が形成されると、腸のループがねじれて、虚血、壊疽が生じ、緊急処置が必要となる(処置しなければ死亡する)。腸の外傷または切開は、瘢痕の形成および瘢痕による拘縮を引き起こし、狭窄に至らしめ、腸の管腔閉塞が起こり、その結果再び生命が脅かされる。
(ix)不妊症を引き起こす、卵管の領域における腎盂の瘢痕形成。
(x)異常な拘縮をもたらし、筋肉の機能が減損する、筋肉の損傷後の瘢痕形成。
(xi)重篤な機能減損をもたらす、腱および靭帯の損傷後の瘢痕形成または線維症。
【0040】
本発明の第2の具体例において使用される、このような化合物(線維症を阻止する)はまた、線維性障害、たとえば、肝硬変、肝臓線維症、糸球体腎炎、肺線維症、強皮症、心筋線維症、心筋梗塞後の線維症、発作後または神経退行性障害(アルツハイマー病)後の中枢神経系線維症、増殖性硝子体網膜症および関節炎の治療または予防においても有用である。
【0041】
本発明の第2の具体例において使用する化合物の例としては、プロゲステロンおよび他のプロゲステロン受容体アゴニスト(アリエストレノール、デソゲストレル、ジドロゲステロン、エチノジオールジアセテート、ゲストデン、ゲストラノールヘキサノエート、ヒドロキシプロゲステロンヘキサノエート、レボノルゲストレル、メゲストロールアセテート、メドロキシプロゲステロンアセテート、ノルエチステロン、ノルエチステロンアセテート、ノルエチステロンエナンチオエート、ノルゲスチメートまたはノルゲステレルなど)、プロゲステロンまたはプロゲステロン受容体アゴニスト分解のインヒビターおよび黄体ホルモンおよび/または濾胞刺激ホルモンのモジュレーターといったようなプロゲステロン活性のプロモーターが挙げられる。
【0042】
別の態様において、本発明の第2の具体例で用いる化合物は、エストロゲン活性のインヒビターである。好ましいエストロゲン活性のインヒビターとしては、エストロゲン受容体アンタゴニスト(タモキシフェン、クエン酸クロミフェン、またはシクロフェニルなど)、エストロゲン産生のインヒビター(アナストロゾール、4−ヒドロキシアンドロステンジオン、エキセメスタン、エステロン−3−O−スルフェート、ファドラゾール塩酸塩またはフォルメスタンなど)およびフィトエストロゲンが挙げられる。本発明の第2の具体例において使用する化合物として、タモキシフェンが、特に有用である。
【0043】
さらなる可能性として、本発明の第2の具体例において用いる化合物は、アンドロゲン活性のインヒビターである。好ましいアンドロゲン活性のインヒビターとしては、アンドロゲン受容体アンタゴニスト(シプロテロンアセテートまたはフルタミドなど)およびアンドロゲン産生のインヒビターが挙げられる。
【0044】
本発明の第2の具体例において、性ホルモンに影響を及ぼす他の化合物を使用してもよい。たとえば、次に活性化合物に変換される、性ホルモンの先駆体を用いてもよい。デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)およびその硫酸エステル。硫酸DHEA(DHEAS)およびその類縁体は、エストロゲンおよびアンドロゲンの先駆体であり、本発明の第1の具体例において性ホルモンに影響を及ぼす化合物として用いて、創傷治癒を促進することができる。我々は、グルココルチコイドといったような他のステロイド(血中濃度が年齢を重ねても比較的よく保存される)とはコントロール的に、DHEAとDHEASの循環濃度が、年齢とともに急速かつ著しく低下すること(このことを我々は、創傷治癒の遅延化と関連付けた)を観察した後、DHEAおよびDHEASおよびその類縁体が、創傷治癒の調節においてどのように有効かを研究した。我々は、各個体にDHEAを処置することが、創傷修復の進度を刺激することによって老年者の創傷治癒に影響を及ぼすことを立証する実験を行った。このように、本発明の第1の具体例において、DHEAまたはDHEASならびにその類縁体を用いることができる。
【0045】
医薬の効力を最大化するために、上述の化合物を組み合わせて使用しうることが理解されよう。たとえば、プロゲステロン受容体アゴニストおよびエストロゲン受容体アンタゴニストを組み合わせて用いて、瘢痕形成および/または線維症に対する効果を最大化することができる。
【0046】
他の好ましい組み合わせは、治癒の進度が増進され、かつ線維症も阻止されるような、創傷の治療に有効なものである。エストロゲン受容体アゴニストおよびプロゲステロン受容体アゴニストの組み合わせがこの目的において用いられる。
【0047】
別の態様として、本発明の化合物の組み合わせを逐次等よしてもよい。たとえば、エストロゲンアゴニストを手術前(または手術時)に使用して外科切開の治癒を促進することができる。その後、患者が手術から回復してから、プロゲステロンアゴニストを投与して瘢痕形成を軽減することができる。
【0048】
非全身投与(皮膚への局所投与など)のみが、局所的作用を示し、それゆえに望ましくない影響を及ぼさないのに対して、性内分泌系に影響を及ぼす化合物を全身に適用することは、第2次性徴に影響を及ぼすといったような望ましくない影響を与えるので、本発明によって企図される好ましい処置処方は、非全身的処置である。しかし、全身適用が有用である場合もある(たとえば、重篤な傷害または急速な治療が必要である場合など)。
【0049】
本発明組成物は、特に該組成物が用いられるべき作法に応じて多くの異なる形態をとることができる。したがって、たとえば、組成物は、液剤、軟膏、クリーム剤、ゲル剤、ヒドロゲル剤、粉剤またはエアロゾル剤の形態であってよい。本発明組成物のビヒクルが、患者にとって充分に寛容であり、創傷に有効化合物を放出しうるものであるべきだということが理解されよう。このようなビヒクルとして、生体崩壊性、生体分解性および/または非炎症性であるものが好ましい。
【0050】
化合物がステロイド(エストロゲン、プロゲステロン、アンドロゲンまたはDHEAなど)である場合、ビヒクルに化合物の水に対する溶解性を改良する担体分子を含有させる。適当な担体は、2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンであり、ステロイドとほぼ同じ濃度で組成物中に存在するのが好ましい。
【0051】
本発明組成物は、多くの適用方法で用いることができる。したがって、たとえば、本発明の第1および第2の具体例の組成物を、患者の創傷の内部および/または周囲に適用して所望の創傷治癒調節を提供することができる。
【0052】
もし、当面の創傷、損傷あるいは外傷に直接組成物を適用するならば、次いで医薬的に許容しうるビヒクルは、炎症応答を引き起こさず、組織に対して毒性のないものである。
【0053】
しかし、予防薬として、本発明組成物を使用することもまた可能である。たとえば、外科手術(特に選択的外科手術)の前に、性ホルモン系に影響を及ぼす化合物を投与して、創傷治癒進度が増進するように(本発明の第1の具体例)または瘢痕形成および/または線維性障害が軽減するように(本発明の第2の具体例)、適切に手術傷の治癒を調節するのが望ましい。この場合、組成物のビヒクルには、化合物を用的部位にデリバリーしうるものが必要である。たとえば、ビヒクルは、皮膚のケラチン層を通って該化合物を運搬するのに適していることが必要である。この目的に適当なビヒクルの例としては、ジメチルスルホキシドおよび酢酸が挙げられる。
【0054】
組成物は、治療されるべき創傷を覆うかまたは封じるために用い得る滅菌包帯またはパッチに塗布して適用してもよい。この事項については、慣例のホルモン復活療法パッチを用いて創傷および/または線維性障害を治療するのが適当である。
【0055】
本発明化合物のさらに重要な適用は、眼の創傷治癒に関するものである。たとえば、網膜に涙を修復することを所望する場合、本発明の第1の具体例の組成物を用いて、強膜と網膜の間に、瘢痕形成(ならびに治癒進度の増進)を提供することができる。この場合、本発明組成物は、注射液である。別法として、本発明の第2の具体例の組成物を用いて、角膜におけるレーザー手術などの眼の外科手術後の瘢痕形成を軽減または制御することができる。この場合、本発明組成物は点眼剤で用いる。
【0056】
本発明組成物は、体内の創傷治癒に用いることができる(上記眼の治療に加えて)。したがって、たとえば、肺の創傷治癒用の吸入薬、または肺の線維症ならびに狭窄の予防および治療用の吸入薬として、組成物を製剤する。
【0057】
本発明組成物に配合されるべき性ホルモン内分泌系に影響を及ぼす化合物の量および/または創傷部位に適用されるべき化合物の量は、化合物の生物学的活性およびバイオアベイラビィティなどの複数の因子、さらに投与形態ならびに化合物の生理化学的特性に依存する。他の因子として、A)処置される患者における化合物の半減期;B)治療される特定の状況;C)迅速治癒または瘢痕形成減少のいずれを所望するか;D)患者の年齢;E)患者の性別が挙げられる。
【0058】
また、投与頻度、特に、処置された患者の体内における化合物の半減期が上記因子に関与する。
【0059】
一般に、該組成物を用いて存在する創傷または線維性障害を治療する場合、創傷が生じた直後、あるいは障害が診断された直後に、化合物を投与すべきである。該組成物を用いる療法は、臨床医が満足する創傷治癒結果が得られるまで、または線維性障害の場合、異常な線維組織形成の恐れあるいは原因が排除されるまで継続すべきである。
【0060】
創傷治癒を促進する、本発明の第1の具体例の組成物は、創傷が形成された直後に、創傷に適用されるべきである。急性の創傷および回復中の患者の創傷に対しては、創傷形成時、好ましくは、創傷形成後数時間以内、遅くとも2、3日以内に、組成物の完全投与(若年者向けなど)を、行うのが理想的である。慢性創傷または回復した創傷に対しては、できるだけ早くに、妥協投与(老年者向けなど)を行うべきである。
【0061】
瘢痕形成および/または線維性障害を調節する、本発明の第2の具体例の組成物もまた、創傷が形成された直後に、創傷に適用されるべきである。しかし、線維症は、数日あるいは数週間にわたって進行することが可能である。したがって、創傷形成または障害進行(またはその診断)の数日後あるいは数週間後に該組成物が投与される場合でさえも、化合物(プロゲステロンまたはタモキシフェンなど)を投与することによって、治療される患者は恩恵を受けることができる。
【0062】
予防的に使用する場合(たとえば、外科手術前あるいは線維性障害が進行する恐れのある場合)、望ましくない線維症の恐れまたは創傷治癒の進度が遅いという可能性が確認されたら(老年者の患者の場合など)すぐに、組成物を投与すべきである。たとえば、任意の外科手術が行われる予定であり、その後の創傷治癒の進度を増進したい患者の皮膚の部位に、17β−エストラジオールを含有するクリーム剤または軟膏剤を適用する。この場合、、患者に手術前処置をしているとき、または、外科手術の数時間前もしくは数日前に、(患者の健康状態および年齢ならびに形成される予定の創傷の大きさに応じて)組成物を適用するのが望ましい。
【0063】
投与頻度は、使用する化合物の生物学的半減期によって決定する。典型的には、創傷部位または線維性障害に冒された組織における化合物の濃度が、治療効果を得るのに適した濃度に維持されるように、標的組織に化合物を含有するクリーム剤または軟膏剤を投与すべきである。このためには、一日一回投与または一日数回投与が必要である。創傷に対して、17β−エストラジオールを用いる場合、創傷形成の24時間後に化合物の投与を行えば、創傷治癒進度を改善するのに十分であることがわかった。
【0064】
製薬業界において通例用いられる公知の操作(インビボ実験用、臨床施療用など)を用いて、特定の組成物を配合し、厳密な(化合物の一日投与量および投与頻度について)治療養生法を行う。
【0065】
通常、本発明組成物は、0.001〜4重量%の性ホルモン系に影響を及ぼす化合物を含有する。例えば、0.005〜1重量%のエストリオール、エストラジオール、エチニルエストラジオールまたはテストステロンを含有する組成物が現存する(すなわち開口している)創傷への適用に適しているが、これらに限定されるものではない。
【0066】
さらに例を挙げると、予防剤として手術前に用いる組成物は、所望の創傷治癒効果を得るために、0.01〜2重量%のエストリオール、エストラジオール、エチニルエストラジオールまたはテストステロンを含有する。
【0067】
好ましい本発明に用いる組成物は、最大1%(0.005〜1%など)の17β−エストラジオールを含有する。
【0068】
性ホルモン系に影響を及ぼす化合物の好適な一日投与量は、前述の因子ならびに治療される創傷の大きさに応じて決定する。創傷または線維性障害の治療に必要な化合物の代表的な量は、24時間当たり、1ng〜100gの範囲の有効化合物であり、創傷の大きさまたは線維症の程度ならびに他の幾つかの因子に応じて決定する。
【0069】
例示として、皮膚の4mmパンチ生検によってできた創傷の治療(治療進度を増進するための)には、0.5〜500μg/24時間の17β−エストラジオールが適当な投与量であり、10〜100μg/24時間の17β−エストラジオールを用いるのが好ましく、25μg/24時間の17β−エストラジオールが最も好ましい。
【0070】
性ホルモン系に影響を及ぼすタンパク質またはペプチド化合物を使用する好ましい手段は、遺伝子治療の手段によって創傷へ化合物をデリバリーすることである。たとえば、遺伝子手段を用いて、慢性ゴナドトロフィン受容体、濾胞刺激ホルモン受容体または黄体ホルモン受容体に対するペプチドリガンドの発現を増加することができる。別法として、遺伝子手段を用いて、ステロイド系性ホルモン(エストロゲン、アンドロゲンまたはプロゲステロンなど)の合成に関与する酵素の発現を調節することもできる。したがって、本発明の第4の態様は、遺伝子治療技術に使用するためのデリバリーシステムを提供することであり、該デリバィーシステムは、性ホルモン系に影響を及ぼすことによって、直接的または間接的に、創傷を治癒および/または線維症もしくは瘢痕形成を調節するタンパク質をコードするDNA分子を特徴とし、該DNA分子は、転写されて該タンパク質を発現する能力をもつ。
【0071】
本発明の第5の態様は、前パラグラフで定義した、創傷治癒および/または線維症もしくは瘢痕形成の調節用の医薬の製造に用いるデリバリーシステムを提供することである。
【0072】
本発明の第6の態様は、治療を必要とする患者に、治療上有効量の、本発明の第4の態様で定義したデリバリーシステムを投与することを特徴とする、創傷を治療および/または線維症もしくは瘢痕形成を調節する方法を提供することである。
【0073】
該デリバリーシステムは、大部分の慣例のデリバリーシステムと比較して、有効成分の濃度を創傷部位または線維症部位において長期にわたって維持するのに非常に適している。創傷部位または線維症部位において、本発明の第4の態様のDNA分子で形質転換された細胞から、タンパク質が継続的に発現される。したがって、該タンパク質が、インビボにおいて作用剤としての半減期が非常に短かったとしても、治療上有効量のタンパク質が、処置された組織から継続的に発現される。
【0074】
さらに、本発明のデリバリーシステムを用いて、創傷に塗布される軟膏剤またはクリーム剤に必要であった慣例の医薬的ビヒクルを使用することなく、DNA分子(およびそれによって、有効な治療剤であるタンパク質)が提供される。これは、創傷治癒に用いる化合物に対する満足できるビヒクル(非炎症性、生体適合性、生体吸収性が要求され、有効成分を崩壊または不活性化してはならない(貯蔵中または使用中に))を提供するのが困難である場合において、特に有利である。
【0075】
デリバリーシステムは、DNA分子が発現して、直接的または間接的に、創傷を治癒および/または線維症もしくは瘢痕形成を治療する、タンパク質を産生しうるものである。“直接的”とは、遺伝子発現産物それ自体が、創傷治癒および/または線維症もしくは瘢痕形成の調節に必要な活性をもつことを意味する。“間接的”とは、遺伝子発現産物が、少なくとも一つのさらなる反応を受けるかまたは媒介して、創傷治癒および/または線維症もしくは瘢痕形成の調節に有効な作用剤を提供することを意味する。
【0076】
該DNA分子を、適当なベクターに導入して組換えベクターを作製することができる。ベクターは、たとえば、プラスミド、コスミドまたはファージである。このような組換えベクターは、本発明のデリバリーシステムにおいて、該DNA分子で細胞を形質転換するのに非常に有用である。
【0077】
組換えベクターには他の機能要素を含めることもできる。たとえば、細胞の核内で自律複製するように、組換えベクターを設計することができる。この場合、DNA複製を誘発する要素は、組換えベクター内に必要である。別法として、ベクターおよび組換えDNA分子が細胞のゲノムに組み込まれるように、組換えベクターを設計することができる。この場合、標的となる組み込みに有利なDNA配列が望ましい。組換えベクターは、クローニング過程において選択可能なマーカーとして用いる遺伝子をコードするDNAを含むこともできる
【0078】
組換えベクターは、さらに、遺伝子発現のコントロールに必要とされる、プロモーターまたはレギュレーターを含むこともできる。
【0079】
DNA分子は、必須ではないが、治療される患者の細胞のDNAに組み入れられてもよい。未分化細胞は、安定に形質転換されて、遺伝子的に修飾された娘細胞が産生される(この場合、患者における発現の調節は、特定の転写因子または遺伝子アクチベーターなどを必要とする)。別法として、治療される患者の分化細胞の不安定または過渡的形質転換を補助するように、該デリバリーシステムを設計することができる。この場合、DNA分子の発現は、形質転換細胞が死亡するかまたはタンパク質の発現を止めた時に停止するので、発現の調節は、さほど重要ではない(理想的には、創傷、線維症もしくは瘢痕形成が治療されるかまたは予防された時点)。
【0080】
デリバリーシステムは、ベクターに組み入れることなく、患者にDNA分子を提供することができる。たとえば、DNA分子をリポソームまたはウイルス粒子に組み入れることができる。別法として、直接のエンドサイトーシスによる飲み込みなどの適当な手段により、“裸の(naked)”DNA分子を患者の細胞に挿入することができる。
【0081】
DNA分子を、トランスフェクション、感染、マイクロインジェクション、細胞融合、原形質融合または弾道衝撃によって、治療される患者の細胞に移入することができる。たとえば、被覆金粒子を用いる弾道トランスフェクション、DNA分子を含むリポソーム、ウイルスベクター(アデノウイルスなど)および、局所適用または注射によりプラスミドDNAを直接創傷領域に適用することによる直接DNA取り込みを提供する手段(エンドサイトーシスなど)などによって、移入を行う。
【0082】
該DNA分子からタンパク質の発現すると、瘢痕形成の減少とともに創傷治癒を直接的または間接的に提供する場合、同時に瘢痕形成の増加がもたらされる場合もある創傷治癒進度の増進を提供する場合、あるいは線維症の調節(阻止、予防または回復)を提供する場合がある。
【0083】
上記考察がは主としてヒトの創傷および線維性障害に対して適用されるが、他の動物種(特に、ウマ、イヌ、ネコといったような家畜)においても、創傷治癒、瘢痕形成および線維症は、問題となりうることが理解されよう。たとえば、腱と靭帯の損傷から瘢痕形成または線維症に至るために、腹部創傷または癒着は、ウマ(特に競走馬)を引退させる主な原因である。上記検討した化合物、組成物およびデリバリーシステムは、このような動物の治癒にも適している。
【0084】
次に記載する実施例および図面において本発明をさらに詳しく説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0085】
実施例1
創傷治癒に対する卵巣切除術(すなわち、エストロゲンの除去)の影響を調べる実験を行った。
1.1方法
1.1.1ラットの準備
雌性のスプラーグドーリーラットを、9匹からなる3つのグループ(1A、1Bおよび1C)に分けて飼育し、発情周期を同調させた。1Aグループは、創傷形成の18日前に卵巣切除術(OVE)を行い、循環する性ホルモンがなくなるようにした。1Bグループ(コントロール)は手術せず、1Cグループは、OVXと同じ手術操作をおこなったが、OVX手術操作が創傷実験において影響を及ぼさないことを確証するために、卵巣は除去しなかった(偽試験:sham)。
【0086】
1.1.2処置
0.1%および0.2%の2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンをそれそれ含むリン酸緩衝食塩水(PBS)中に、17β−エストラジオール(シグマ)を0.1%および1%含有する滅菌溶液を調製した。2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンは、調製物において、β−エストラジオールの水への溶解度を増加するための担体分子として用いる。PBS/シクロデキストリンは、ビヒクルコントロールとして用いた。
1A、1Bおよび1Cグループの動物の頭蓋骨基底部の下4.5〜5.5cmおよび7.5〜8.5cmの部位に、1cmの長さの全厚切開創傷を4箇所作製した。次いで、4つの創傷部位それぞれに1回の100μlの皮内注射を行った。各創傷には、100μlのエストラジオール(0.1%または1%)、100μlのビヒクルコントロール(0.1%または1%のシクロデキストリン)を処置するか、またはなにも処置せず(注射なし)に放置するかのいずれかであった。
【0087】
1.1.3創傷形成後第7日におけるテスト
組織学的分析用に創傷を切除した後、7日間創傷が治癒するように放置した。
7μmのパラフィン固定切片をH&Eおよびマッソンのトリクロームで染色した。再上皮形成の進度(創傷形成後第7日における)、および面積測定法により測定した創傷の大きさを、オリンパスバノックス(Vanox)カメラおよびPC画像捕捉システムを用いる画像分析を行って決定した。創傷内のコラーゲンの量を、サンプルの由来を知らない二人の観察者によって決定した。
【0088】
1.2結果(創傷形成後第7日)
非処置の偽グループ(1Cグループ)およびコントロールグループ(1Bグループ)では、再上皮形成されたが、細胞性であり、新しいコラーゲンが蓄積された。非処置の卵巣切除グループ(OVX;1Aグループ)の創傷は、再上皮形成が遅く、非常に幅が広く、偽/コントロールグループ(1Bおよび1C)の創傷と比べて、細胞性であり、新しいコラーゲンは非常に少ししか蓄積されなかった。これらの事実から、創傷形成後第7日において、OVXが創傷治癒進度を遅らせることが示された(表1参照)。
【0089】
高投与量(1%)のシクロデキストリン(ビヒクルコントロール)は、創傷治癒において逆効果をもたらす。3つのグループすべてにおいて、創傷は広く、細胞性であり、新しいコラーゲンは少ししかなかった。このような効果は、0.1%シクロデキストリンでは顕著ではなく、創傷はコントロールPBSの創傷と同程度であり、細胞はより少なく、幾らかの新しいコラーゲンが蓄積された。
【0090】
1%β−エストラジオ−ルで処置された創傷はすべて、再上皮形成され、新しいコラーゲンが蓄積された。OVXグループの創傷は、コントロール/偽グループの創傷よりも狭く、OVX処置グループが、コントロールPBS処置および非処置グループと比べて、創傷治癒進度を増進したことを示している。OVXグループの創傷はすべて、多くの新しいコラーゲンを有し、炎症細胞は非常に少ししかなく、非常に狭かった。OVX0.1%β−エストラジオール処置グループの創傷において、0.1%β−エストラジオールを一回適用することにより、シクロデキストリンビヒクルおよびOVXの逆効果が克服され、コントロール創傷と比べて、創傷治癒が加速されることがわかった。これらの知見は、閉経後の女性がエストロゲンおよびプロゲステロンHRTを投与される場合に、早期時点で創傷治癒の加速が示されるというヒトの創傷データと相互に関連している。
【0091】
β−エストラジオールの2種類の投与量の間には差異があり、0.1%のβ−エストラジオールの方が、1%のβ−エストラジオールよりも好結果を示した。1%β−エストラジオール溶液には1%のシクロデキストリンが存在し、0.1%β−エストラジオール溶液には0.1%のシクロデキストリンが存在するので、この現象は、シクロデキストリンビヒクルの逆効果の結果といえる。
【0092】
これらの知見から、β−エストラジオールの最適用量が1%以下であることが示され(特に、シクロデキストリンが担体として用いられる場合)、異なるビヒクル、異なる投与量および異なる投与回数を採用しても、創傷の治癒の加速を同程度に増加することができる。
【0093】
図1では、切片をマロリーのトリクロームで染色した。a=非手術の雌性ラット(1B)の第7日の創傷;b=OVXラット(1A)の第7日の創傷(再上皮形成が遅くなり、コラーゲンの蓄積が減少し、創傷の幅の有意な増加が見られないことに注目せよ);c=5mmのエストロゲンで処置した非手術の雌性ラットの第7日の創傷;d=OVXラットの第7日の創傷である(cおよびdにおいて、狭くなった創傷の中に多量の成熟コラーゲンが存在し、完全に再上皮形成がなされて、創傷治癒が改善されていることに注目せよ)。スケールバー=100μmである。
【0094】
【表1】

【0095】
実施例2
閉経後の女性の創傷治癒におけるホルモン復活療法(HRT)(すなわちエストロゲン補充)の効果を検討し、性ホルモン系に影響を及ぼす化合物がどのように創傷治癒を調節しうるのかを明らかにした。
【0096】
2.1方法
2.1.1患者
この実験に対する認可は、地方倫理委員会から得た。健康な閉経後の年齢55〜65歳の女性20人を2つのグループに分けた。
(i)2Aグループは、ホルモン復活療法(HRT)以外は薬物投与なしの10人の被験者で構成した(平均年齢55.9歳、標準偏差2.92;エストロゲンパッチおよび経口プロゲステロン投与3ヶ月以上)。
(ii)2Bグループは、薬物投与なしの10人の被験者で構成した(老年グループ:平均年齢59.5歳、標準偏差4.28)。
【0097】
さらに、薬物投与なしの年齢20〜39歳の健康な若年者の女性10人(2Cグループ:平均年齢29.8歳、標準偏差5.03)で第3の実験グループを構成した。
【0098】
すべての被験者は正常な医療履歴ならびに診察結果、CXR、ECG、血液、脂質および生化学的プロフィールの持ち主であった。被験者はすべて非喫煙者であり、正常なダイエット履歴および体重であった。
【0099】
2.1.2生検
インフォームドコンセントの後、2A、2Bおよび2Cグループの被験者それぞれにおいて、1%リグノカインで局所浸潤麻酔を行った後、上腕内側(日光に曝されない部分)に2箇所の4mmパンチ生検を行った。正常な皮膚の生検材料を二分し、一方を最適切断温度化合物(Optimal Cutting Temperature compound)(マイルズ・インコーポレイテッド、エルクハーツ、IN)に固定し、液体窒素で凍結し、−70℃で貯蔵し、他方は液体窒素で急速凍結して−70℃で貯蔵した。
創傷は、マルチソーブ乾燥ガーゼ包帯(スミス&ネフュー、UK)で24時間覆い、次いで覆いを外して放置した。
【0100】
2.1.3再生検
2A、2Bおよび2Cグループからの被験者5人に対し、創傷形成後第7日に、再切除を行い、他の5人には、創傷形成後第84日に再切除を行った。
左の上腕内側をイソプロピルアルコールで消毒し、1%リグノカインで局所浸潤麻酔を行った後、創傷の楕円切除を行い、2針縫合により傷口を閉じた。各創傷を二分し、上述(2.1.2)と同様に処理した。
【0101】
2.1.4生検材料の実験
生検材料の幾つかを用いて分子分析を行った。正常な皮膚によるコンタミネーションがないことを確認するために、これらの創傷の微細解体を行った。
【0102】
2.1.4.1免疫染色
7μmの凍結切片を調製し、TGF−β1抗体(BDA19:R&Dシステムズ、オックスフォードシャー)を用いて免疫染色を行い、創傷中のTGF−β1の存在をテストした。
【0103】
2.1.4.2創傷の画像分析および瘢痕形成評価
ジョイス・レベル・ミニ−マグニスキャン(Joyce Loebel Mini-magniscan)を用いた画像分析により再上皮形成の進度(創傷形成後第7日のみ)を決定した。マッソンのトリクロームで染色した、治癒過程にあるヒトの創傷の肉眼で見た外観を、次の方式に基づいて評点した。
a)色合い(周囲の皮膚との比較):1=完全;2=少し相異;3=明らかに相異;4=大きく相異。
b)外形:1=正常;2=触診可能;3=肥大;4=ケロイド。
c)感触:1=正常な皮膚と同じ;2=盛り上がった状態/デコボコ;3=硬い;4=非常に硬い。
【0104】
治癒過程にあるヒトの創傷の顕微鏡で見た外観を、次の方式に基づいて評点した。
a)コラーゲンの方向性(創傷の上部乳頭皮膚層と深部網状皮膚層を別々に評価):1=正常な網み籠;2=編み籠>平行な線維;3=平行な線維>編み籠;4=平行な線維。
b)線維束密度(創傷の上部乳頭皮膚層と深部網状皮膚層を別々に評価):1=全ての束が正常;2=>50%の束が正常;3=<50%の束が正常;4=全ての束が異常(密度の増加もしくは減少)。
c)乳頭間隆起の形成:1=正常な外観;2=数の減少;3=なし。
【0105】
2.1.5インビボ線維芽細胞実験
線維芽細胞を2A、2Bおよび2Cグループの第1生検サンプルから抽出し、細胞からのTGF−β1の発現を測定するために培養した。
2.1.5.1細胞培養
正常な皮膚の4mmパンチ生検片からヒト皮膚線維芽細胞を外植した。実験に用いる線維芽細胞を湿度100%の95%空気;5%CO下、フェノールレッドフリーのDMEM(ギブコ),100U/mlのペニシリン,100mg/mlのストレプトマイシン,1mMのピルビン酸ナトリウム,2mMのL−グルタミン,非必須アミノ酸および活性炭処理した(charcoal-stripped)10%FCS(ギブコ)中、37℃で培養した(内因性ステロイドを除去するため)。
【0106】
2.1.5.2線維芽細胞の処理
24ウエルのプレート上に、血清フリーの培地中、1ウエル当たり2×10個の細胞密度にて、継代数3−5において培養した細胞を植え、一夜培養した。翌朝、エストロゲンまたはプロゲステロン(シクロデキストリンを担体として配合することにより可溶性にしたもの;シグマ、プール)を1pM〜1mMの範囲で加え、24時間置く。全てのサンプルを3回評価した。24時間培養後、培地を除去した。次いで、1mg/mlのアプロチニン、ロイペプチンおよびペプスタチンAを培地に加え、TGF−βアッセイ(下記参照)において迅速に使用した。コントロールには、適当な濃度にてシクロデキストリンを含んだ血清フリー培地のみを使用した。
【0107】
2.1.5.3線維芽細胞増殖の評価
次いで、血清フリー培地中、[H]チミジン(0.5μCi/ウエル)とともに、細胞をインキュベートして、線維芽細胞増殖におけるエストロゲンまたはプロゲステロンの影響を評価した。24時間後、チミジン溶液を吸引ろ過し、10%TCAを加えて4℃で4時間置く。TCAを250μlの1M NaOH溶液と交換し、18時間置く。各ウエルから2個の100mlのアリコートを採り、シンチレーションカウンターにて放射活性を測定した。平行実験において、24時間のインキュベーションの15分前に、20μg/mlのシクロデキストリンを加えることにより(タンパク質の翻訳を阻止するため)、タンパク質合成におけるホルモン/コントロールの影響を検討した。
【0108】
2.1.5.4TGF−βアッセイ
Danielpourらの(J.Cell Physiol.138、p79−86)に記載されている、ミンク肺成長阻害アッセイを用いて、培地(2.1.5.2)中のTGF−β濃度を決定した。簡略に述べる。10%CO下、37℃において、DMEMおよび10%FCS中でミンク肺上皮細胞(mink lung epithelial cells:MLECs)を維持した。サブコンフルエントな細胞をトリプシン処理し、10%FCSに再懸濁し、500Gで5分間処理してペレット化し、10mlのアッセイ緩衝液(DMEM、2%FCS、10mMのHEPES,pH7.4、ペニシリン25U/ml、ストレプトマイシン25μg/ml)で洗浄し、アッセイ緩衝液に再懸濁し、次いで、24ウエルのコスタープレートにおいて1ウエル当たり10個の細胞を植えた。1時間後、ならし培地または調整培地(1pM〜1mMの範囲の種々の濃度のホルモンあるいはシクロデキストリンのみを加えたもの)を加えた。22時間後、37℃にて2時間、[H]チミジン(0.5μCi/ウエル)とともに細胞をパルス処理し、前述の抽出および放射活性測定操作(2.1.5.3)を行った。10〜1000pg/mlのTGF−βスタンダード(R&D)用いて、標準曲線を作成し、該曲線から阻害データをpg/mlに変換した。結果は、10個の細胞当たりのTGF−βのpg/mlで示した(各個のホルモン濃度に対するコントロールの値に相対的である)。
【0109】
2.1.6定量的RT−PCR
定量的RT−PCRを用いて、急性創傷およびインビトロ実験(2.1.5)で用いた線維芽細胞由来の10個の細胞におけるTGF−β1のmRNAの定常状態の濃度を決定した。チョムシンスキおよびサッチの方法(Anal. Biochem.、156−159(1987))を用いて標本から細胞性RNAを単離した。分光光学的手法により、A260/280の比率を用いて、抽出物の純度を評価したが、すべてにおいて1.75以上であった。各時点における、組織湿潤重量1μg当たりの全RNA含量には有意な差はなかった。タムッツァーらの記載(Biotechniques、20、670−674(1996))にしたがって、定量的RT−PCRを行った。簡略に述べる。1μgの真正の細胞性RNAを含むテンプレートの8減少希釈液を用いて、逆転写反応を行った。β−アクチンをポジティブコントロールとして用いた。次いで、エレクトロ4タンク(Hybayd、テディントン、UK)を用いて、25ng/mlの臭化エチジウムを含む2%寒天ゲル上にて、100vで1時間、電気泳動を行い、デュアル・インテンシティー・トランスイルミネーター(ジェネティック・リサーチ・インスツルメンテーション、ダンモウ、UK)およびポラロイドMP4+カメラならびに665ポラロイド白黒フィルムを用いて撮影した。486DX2Danコンピューター(Dan、UK)およびCCDカメラ(Swift、UK)においてPCイメージ・ソフトウェア・システムを用い、写真画像を捕捉した。マッキントッシュコンピューターおよびNIHソフトウェアプログラムを用いる画像分析により、バンド強度を決定した。生成物の分子量に基づいて、バンド強度を標準化した。各レーン内のバンド強度比の対数を反応毎に追加したテンプレートのコピー数の対数に対してプロットした。テンプレートと標的バンド強度の比が1に等しい場所で、標的メッセージの量を決定した。コピー数は、全RNA当たりの量(創傷組織)で現すかまたは細胞当たりの量(インビボ実験)で現した。後者は、26pgのRNA/細胞を仮定することにより算出した。
【0110】
2.1.7統計学的分析
すべてのデータを、平均±標準偏差で表した。全てのデータは標準分布であった。平均間の差は、適宜、独立したスチューデントt試験およびターキー−HSA試験で補足されたワンファクター・アンド・マルチプルANOVA(分散の分析)によって算出した。すべての状況において、p<0.05を有意とみなした。
【0111】
2.2結果
2.2.1ヒト創傷の修復における年齢および循環する性ステロイドの影響
2.2.1.1治癒進度:再上皮形成およびコラーゲン蓄積
本来の加齢(2Bグループ)は、創傷形成後第7日における再上皮形成(図2)および第7日ならびに第84日におけるコラーゲンマトリックスの減少の点で、創傷治癒進度の減少に関連があった。しかし、HRTグループ(2A)は、第7日の再上皮形成の進度において、若年グループ(2C)に見られるのと同程度の著しい増進を示した(図2)。さらに、HRTグループは、老年グループと比べて、第7日および第84日におけるコラーゲン蓄積のレベルを著しく増進した(若年グループ2Cにおいて観察されるレベルに至る)。
【0112】
図3は、H&Eで染色された創傷の組織学的切片を示す。a=28歳(グループ2C)、b=57歳(グループ2B)、c=HRT処置58歳(グループ2A)である。H&E染色から、2Aグループおよび2Cグループの創傷における(cおよびa)コラーゲンの蓄積(CO)が示される。b(2bグループ)では、コラーゲン染色が認められず、顆粒組織(G)は未成熟である。a(2C)およびc(2A)においては、創傷を完全に覆う新しい表皮(E)が形成され、再上皮形成は完全である(矢印は、表皮の基底層を示す)。bでは、矢印は、創傷の縁のみに存在する移動する新表皮を示す。C=クロッツ。スケールバー=100μmである。
【0113】
2.2.1.2治癒の質:顕微鏡および肉眼による瘢痕の程度
成熟瘢痕組織の肉眼で見た外観は、若年の被験者(2C)において肥大した瘢痕形成が見られるのとは逆に、老年の被験者(2Aおよび2Bグループ)において、色合い、感触および外形の点で、非常に優れていた[各グループの評点(n=5):若年(2C)の平均=10、SD=1;老年(2B)の平均=4、SD=2;HRT(2A)の平均=10、SD=2;p<0.001]。若年者のグループ(2C)の瘢痕が、色濃く、反り返った損傷となっているのに対し,老年者のグループ(2B)の瘢痕は、それぞれ一致して淡く、平坦であった。老年グループの創傷における皮膚の構造の修復に関し、顕微鏡で見た場合の修復の質の決定においても、加齢は重要な因子であった[評点:若年(2C)の平均=13、SD=2;老年(2B)の平均=9、SD=2;HRT(2A)の平均=13、SD=2;p<0.001]。注目すべきことに、老年の被験者の創傷において、乳頭間隆起が再生され、大きな乳頭状の血管が観察され、正常な皮膚の状態に似たコラーゲンの網み籠組織が確認された。若年グループ(2C)の創傷においては、皮膚−表皮の接合部は平坦であり、稠密に充填された平行な層のコラーゲンが創傷中くまなく存在した。HRT(2A)では、顕微鏡および肉眼による評価の両方において、若年の女性にみられるものと同様の逆行性瘢痕形成プロフィールが認められた。微視的には、皮膚−表皮接合部は平坦であり、皮膚は、瘢痕組織コラーゲンの平行な層および線維芽細胞からなる。巨視的には、創傷は例外なく隆起し、着色していた。
【0114】
2.2.1.3TGF−β1免疫染色およびmRNA濃度
a=22歳(グループ2C)、b=60歳(グループ2B)、c=HRT処置61歳(グループ2A)であり、TGF−β1に対する染色を示す、図4において明らかなように、創傷後第7日において、若年者のグループ(2C)およびHRTグループ(2A)と比べて、老年者のグループ(2B)における創傷のTGF−β1濃度は、著しくかつ一貫して減少した。
【0115】
定量的RT−PCRデータから、TGF−β1に対する定常状態のmRNAの濃度が、若年グループ(2C)では創傷形成後第7日において、平均5656コピー/全RNApg(SD74)および創傷形成後第84日において、減少して平均140コピー/全RNApg(SD9)であるのに対し、2Bグループの女性では、創傷形成後第7日において、平均84コピー/全RNApg(SD6)および創傷形成後第84日において、平均116コピー/全RNApg(SD9)と低いことに、本来の加齢が関連していることが示された。
【0116】
異なるグループ間における第7日のmRNA濃度の差異を図5に示す。図5では、mRNAをa=22歳(グループ2C)、b=60歳(グループ2B)、c=HRT処置61歳(グループ2A)で示す。老年グループ(2B)と若年グループ(2C)もしくはHRTグループ(2A)の間のmRNAの差異は、非常に有意であった(p=0.0006)。したがって、HRTでは、創傷治癒の初期に観察される、局所的なTGF−β1のmRNA定常状態の濃度における年齢相関性の減少が逆行する。このことは、性ホルモン系に影響を及ぼす化合物が、TGF−β発現の調節を含むメカニズムによってそのように作用していることを示唆している。
【0117】
2.2.1.4マクロファージの数におけるHRTの影響
単球/マクロファージマーカーの免疫染色から、HRT(2A)が、第7日におけるマクロファージの数が、平均39細胞/領域(SD6)と、増加していることに関連していることが示された。これは、若年の女性(2C)の創傷においてマクロファージの数が平均35細胞/領域(SD4)であることに類似していた。老年のグループ(2B)の創傷におけるマクロファージの数は、平均12細胞/領域(SD4)(ワンファクターANOVAにおいてF(2.14)=14.3、p=0.0007、0.05レベルに対するターキーHSDレンジ=3.77)と、他の2つのグループのマクロファージの数に比べて、有意に少なかった。老年のグループよりもHRTグループの創傷において観察されるマクロファージの浸潤の方が多いことは、創傷治癒プロセスについて、重要な結果となった:食作用におけるマクロファージの役割に加えて、マクロファージは、細胞移動、増殖およびマトリックス産生の刺激において重要である、TGF−β1を含む種々のサイトカインも産生している。
【0118】
2.2.3ヒト皮膚線維芽細胞増殖およびTGF−β1産生におけるエストロゲンおよびプロゲステロンの影響
創傷治癒における、性ホルモン系に影響を及ぼす化合物の影響をさらに検討するために、線維芽細胞増殖およびTGF−β1産生におけるエストロゲンおよびプロゲステロンの影響を決定した。24時間後の線維芽細胞増殖の平均ベースラインは(培地のみ)、3つのグループ間で有意な差異はなかった。
【0119】
1pMから1mMの範囲のエストロゲンを投与すると、若年および老年被験者の両方において増殖が阻害された(コントロールと比べて)(図6)。増殖の阻害の程度は、若年および老年の女性グループにおいて類似していた。プロゲステロンは、1pMから1mMの範囲を投与するとすべての被験者において線維芽細胞の増殖を阻害し、阻害の程度は、1mMのエストロゲンよりも有意に大きかった(p<0.05)。
【0120】
トリパン・ブルー切除テストで調べたところ、細胞の生存能力は、ホルモン処置によって影響を受けなかった。細胞に加える前に、TGF−β1に対する中和抗体(10μg/l;R&Dシステムズ)を含む培地を30分間プレインキュベートしても、ホルモンの効果は低下せず、このことから、増殖の阻害が、TGF−β1とは独立して起こることがわかった。
【0121】
ミンク肺細胞アッセイ(2.1.5.2)を用い、血清フリー培地(ホルモンまたはシクロデキストリン担体を含まない)のみで処理した若年女性被験者(2Cグループ)由来のベースラインコントロール線維芽細胞培養物からのならし培地は、ミンク肺上皮細胞(MLEC)の増殖において、老年女性線維芽細胞(2Aおよび2B)と比較して、有意に大きい阻害を示した(p<0.05:表II)。MLECに加える前に、TGF−β1に対する中和抗体を含む培地を30分間プレインキュベートすると、ホルモンの効果は低下し、このことから、MLEC増殖の阻害が、TGF−β1に従属して起こることがわかった。
【0122】
線維芽細胞をエストロゲンまたはプロゲステロンとともにインキュベートした場合、ならし培地は、問題のホルモンおよびその濃度に従属して、MLECの成長阻害を誘発した(コントロールと比較して)(表II)。TGF−β1に対する中和抗体(10μg/l;R&Dシステムズ)は、MLECに加える前に30分間プレインキュベートした場合、すべての濃度においてホルモンの影響を排除した(TGF−β2およびβ3に対する抗体は効果がなかった)。この濃度では、MLEC(コントロール培地において)に加えた抗体は、コントロール培地単独の場合と比較して、チミジン採りこみに影響を及ぼさなかった。すべての被験者において、エストロゲン処置の24時間後、加熱活性化ならし培地中の全TGF−β1濃度は増加し、mMエストロゲン投与において、若年細胞(2C)において四倍、老年被験者(2Aおよび2B)において12倍と、最大に増加した(表II)。若年線維芽細胞(2C)に対しては、プロゲステロン処置は、コントロールと比べて、TGF−β1産生において有意な影響は及ぼさなかったが、老年被験者(2Aまたは2B)由来の線維芽細胞においてnMおよびmM投与を行うと2倍増加するという有意な結果が得られた。エストロゲンまたはプロゲステロンのいずれかを処置した後は、活性TGF−β1は増加しなかった(すなわち、非加熱活性化サンプルはMLECアッセイにおいてコントロールと比べた場合影響がなかった)。これらのデータから、エストロゲンが皮膚線維芽細胞産生/TGF−β1の分泌にかかわる主要な性ステロイドであり、性ホルモン系に影響を及ぼす化合物が創傷治癒において効果を現すメカニズムがTGF−β1濃度の調節によるものであることが示唆される。
表II.ミンク肺細胞の成長阻害アッセイにより決定した若年(2C)および老年の女性(2Aまたは2B)の皮膚線維芽細胞が分泌するTGF−β1量

【0123】
TGF−β1量の転写制御および転写後の制御の間の識別をするため、本発明者らは種々の濃度のエストロゲンで処置した線維芽細胞のmRNA定常状態量を決定した。コントロール標準およびすべての女性由来の処置線維芽細胞の間に(年齢にかかわらず)TGF−β1mRNA量の有意な差は見られなかった(表III)。ホルモンまたは培地のみとともに加えられたシクロヘキシミドは観察された総TGF−β1タンパク質量に影響しなかったことから、タンパク質合成の阻害はエストロゲン処置を受けた培地中の高いTGF−β1量には影響しないことが示される。シクロヘキシミドは実験に用いた用量では細胞の生存能力に影響しなかった。このデータはエストロゲン処置を受けた培地中の総サイトカイン量の増加は転写後の現象によるものであることを示す。

表III.定量的RT−PCRによって決定した皮膚線維芽細胞TGF−β1mRNA量に対する年齢およびホルモン処置の影響

【0124】
実施例3
男性および女性に関する臨床試験での創傷治癒に対する局所的エストロゲンの効果を示す実験を行った。
【0125】
3.1 方法
3.1.1 患者
地方倫理委員会からこの実験に関する承認を得た。健康状態の明らかな40人のボランティアを4つの群に分けた:
(i)群3Aにはエストロゲン補給(エストラジオール25μg/24時間)を受けた平均年齢76.3歳(Sd 5.6)の女性10人が含まれ;
(ii)群3Bにはエストロゲンのかわりにプラセボを受けた平均年齢72.5歳(Sd 7.1)の女性10人が含まれ;
(iii)群3Cにはエストロゲン補給を受けた平均年齢69.6歳(Sd 3.6)の男性10人が含まれ;
(ii)群3Dにはエストロゲンのかわりにプラセボを受けた平均年齢71.8歳(Sd 8.9)の男性10人が含まれていた。
【0126】
すべての被験者は正常な医療履歴および検査、CXR、ECG、血液学、脂質および生化学的プロファイルを有していた。被験者はすべて非喫煙者であり、正常な食事歴および体重指数を有していた。
【0127】
3.1.2 生検
群3A、3B、3Cおよび3Dのそれぞれ由来の被験者は同意した後、1%リグノカイン1mLで局所浸潤麻酔を受けた上部内腕(太陽に露出していない部位)から2回の4mmパンチ生検に従った。正常な皮膚の各生検物を二分し、半分をOptimal Cutting Temperature化合物(Miles Inc. Elkhart, IN)に包埋し、液体窒素で凍結し、−70℃で保存し、もう半分を液体窒素で急速凍結し、−70℃で保存した。
【0128】
生検領域を2×3cmパッチ(プラセボ群3Bおよび3Dまたは活性エストラジオール3Aおよび3C)で覆い、これを通して生検物を作成した。このパッチは多吸着(Multisorb)乾燥ガーゼ包帯(Smith&Nephew)で覆い、24時間後に両者を取り除いた。活性なパッチは創傷部位がエストラジオール25μg/24時間に暴露されるのに十分なエストラジオールを含んでいた。
【0129】
3.1.3 再生検
群3A、3B、3Cおよび3Dの被験者5人は創傷後7日目に、それぞれの群の他の5人は創傷後84日目に創傷の再摘出を受けた。
【0130】
左上部内腕をイソプロピルアルコールで消毒し、1%リグノカイン浸透後に創傷の切除摘出を行い、二針縫合して間隙を閉じた。各創傷を二分し、上記(3.1.3)のように操作した。
【0131】
3.1.4 内生ホルモンの測定
女性群(3Aおよび3B)における循環エストロゲン量は、プロゲステロンで<50pmol/L、最初の生検および再生検の両方において<2nmol/Lであった。
【0132】
男性群(3Cおよび3D)については、すべてのプロゲステロン量は<2nmol/Lであった。群3Cについて:テストステロン量は15.9nmol/L(Sd 3.9)であった。SHBGは47.3(SD 14.2)、エストロゲン量は92pmol/L(Sd 16.6)であった。群3Dについては:テストステロン量は13.0nmol/L(Sd 3.5)であった。SHBGは46.9(SD 27.4)、エストロゲン量100pmol/L(Sd 14.7)であった。プロラクチン量およびPSA量(3Cおよび3D)は正常範囲内にあった。
【0133】
3.1.5 生検物の実験
分子分析にいくつかの生検物を用い、正常皮膚からの混入がないことを確認するために創傷を顕微鏡下で切開した。
3.1.5.1 創傷のイメージ分析
7μmパラフィン包埋切片をH&EおよびMasson'S Tricromeで染色した。面積測定により求めた(創傷後7日目の)再上皮化率および創傷サイズをOlympus VanoxカメラおよびPCイメージキャプチャーシステムを用いたイメージ分析で決定した。以下の尺度に基づいて、サンプルの由来を知らない二人の観察者によって創傷内のコラーゲン量を決定した:+=最少量:++=正常な皮膚より少ない:+++=正常な皮膚と同等:++++=正常な皮膚より多い。
【0134】
3.1.5.2 次元解析システム
非破壊次元解析システム(Das)を用いて80日目での創傷の堅さを求めた。以前の実験では、このシステムを用いて創傷崩壊強度値(破壊の際の終局圧力)を創傷の堅さと相関させていた。このシステムは多軸性負荷(陰圧)を創傷に適用し、高解像度カメラおよびビデオ処理装置を用いて、創傷のへりに設置した2個の反映標的への荷重によるひずみを測定する。圧力を最大100mmHgにまで適用し、その後解放する。堅さは20および80mmHgの間で測定した。
【0135】
3.1.5.3 フィブロネクチンザイモグラフィー
フィブロネクチンを分解するプロテアーゼをフィブロネクチン含有アクリルアミドゲル(12%アクリルアミドおよび0.33mg/mLフィブロネクチン、Central Blood Products Ltd)を用いたザイモグラフィーによって同定した。組織サンプルを凍結乾燥し、緩衝液(100mMトリス/HCl、6M尿素、15mM CaCl、0.25%トリトン−X100、pH7.4)0.5mLを含むすりガラスホモジナイザーを用いてホモジナイズした。11,000rpm、4℃で10分間遠心した後、サンプル(乾燥重量20μg)を37℃で30分間、2×レムリサンプル緩衝液でインキュベートし、非還元条件下で電気泳動に付した(Laemmli、1990)。電気泳動後、ゲルを2.5%トリトン−X100で2回、1時間洗浄し、SDSを除去した。このゲルを蒸留水で2回、手短に洗浄し、50mMトリス/HCl、150mM NaClおよび5mM CaCl、pH7.4を含む発育緩衝液中、37℃で18時間インキュベートした。インキュベート終了後、ゲルを0.5%クーマシーブリリアントブルーで染色し、脱染した。プロテアーゼ領域の活性は暗青色背景に対する透明な区域として現れた。もう1つのゲルを10mM金属プロテアーゼ阻害物質、EDTA(BDH、Poole)添加物か、または1.7mMセリンプロテアーゼ阻害物質、アミノエチルベンゼンスルホニルフルオライド(AEBSF:Sigma)添加物かどちらかとともにインキュベートした。広い領域の染色前の分子量標準(Bio-rad)を分子量マーカーとして用いた。別のレーンにヒト好中球エラスターゼ(ICN)500ngおよび50ngを載せた。
【0136】
3.1.5.4 SDS−PAGEおよび免疫ブロッティング
上記のように抽出したタンパク質サンプル(乾燥重量20μg)を12%アクリルアミドゲル電気泳動に付した。同時に並行フィブロネクチンザイモグラムを行った。免疫ブロッティングのために、転移緩衝液(25mMトリス/HCl、192mMグリシン、10%メタノール、pH8.3)中、ポリペプチドを20Vで30分間電気泳動(Bio-Rad、半乾燥転移ブロット装置、Semi dry transfer blot apparatus)することによってニトロセルロース紙(0.45μm孔サイズ、Bio-Rad)に移した。非特異的結合を遮断するために、免疫ブロッティング物をTBST(10mMトリス/HCl、150mM NaCl、0.5%トゥイーン−20、pH7.5)中の4%マーベル(Marvel)低脂肪乳中、4℃で18時間インキュベートした。転移タンパク質をTBST中1:500希釈したポリクローナル抗ヒト好中球エラスターゼ抗体(Calibiochem Co)と室温で2時間浸とうしながらインキュベートし、次いでヤギ抗ウサギIgG(Sigma)と複合させたホースラディッシュペルオキシダーゼと4%低脂肪乳を含むTBST中1:3000希釈で、室温で1時間インキュベートした。ECLキットを用い、製造元の指示にしたがって(Amersham Int.)抗体結合を明視化した。
【0137】
3.1.5.5 エラスターゼ決定
組織サンプル(乾燥重量20μg)およびヒト好中球エラスターゼ(0.01−0.3μg/mL)を0.5M NaCl、10%ジメチルスホキシドおよび0.1mMエラスターゼ基質(メトキシスクシニル−ala−ala−pro−val−p−ニトロアニリド;Calbiochem Co;)を含む0.1Mヘペス緩衝液、pH7.5、200μL中、37℃で1時間までインキュベートした。OD410を測定(Dynatech MR5000)することによって基質分解を求めた。エラスターゼのデータから分解の標準曲線を調製した。結果をng/mLエラスターゼ活性/20μg乾燥重量として表した。
【0138】
3.1.6 統計分析
独立のスチューデントt−試験(student t-test)を用いてすべてのデータを標準化し、評価した。P<0.05を有意と考える。
【0139】
3.2 結果
3,2.1 創傷治癒の速度に対するエストロゲンの効果
エストロゲン処置は女性(3A)および男性被験者(3C)の両方において、プラセボコントロール標準(それぞれ3Bおよび3D)と比べ、再上皮化の速度を加速させた(表IV参照)。プラセボ群における性別間の不一致(男性の再上皮化は女性より急速)のため、この結果は女性群(p>0.005)において有意であるだけであった。男性群3Cおよび3Dの両方の間において、創傷後7日目での創傷領域はエストロゲン処置で有意に減少した(p<0.05)。エストロゲン処置した男女両方(3Aおよび3C)ではプラセボ(3Bおよび3D)と比べ、創傷後7日目および80日目の両方でのコラーゲン量が一貫して増加した。創傷後80日目での創傷の堅さはエストロゲン処置によって影響されなかった。
【0140】
3.2.2 創傷エラスターゼ活性に対するエストロゲンの効果
7日目急性創傷の組織抽出物はすべて、約30kdの位置の主要なバンドを示すフィブロネクチンを分解するが、エストロゲン処置群(3Aおよび3C)において起こる分解は一貫してこれより少なかった。すべてのサンプルでの30kdフィブロネクチン特異的プロテアーゼの活性は広い範囲のセリンプロテアーゼ阻害物質、AEBSFとインキュベートすることによって完全に破壊されたが、金属プロテアーゼ阻害物質、EDTAによっては破壊されず、このことから主要なフィブロネクチン分解活性は、セリンプロテアーゼによるものであり、市販の好中球エラスターゼとともに移動することが示された。フィブロネクチンザイモグラムに見られた30kdプロテアーゼ活性はエラスターゼの活性であることが免疫ブロッティングにより確認された。エラスターゼ活性はプラセボ処置群(3Bおよび3D)においてのみ存在した。合成エラスターゼ基質分解アッセイを用いてエラスターゼ活性を定量し、これによりエストロゲン処理がプラセボと比べ、7日目創傷において有意にエラスターゼ活性を減少させることが示された(ウエスタンブロッティングデータと一致するプラセボ群の組織乾燥重量20μg当たり<50ngエラスターゼ)。(表IV)。

【0141】
3.2.3 瘢痕形成に対するエストロゲンの効果
図7および図8は2.1.4.2で決定した瘢痕形成に対するエストロゲンの効果(e)を(それぞれ顕微鏡的および巨視的に)示す。エストロゲン処置は(TGF−β量と相関するかもしれない)創傷の非優先性に関連していた。このことはエストロゲンアンタゴニストが瘢痕の優先性に関連し(ならびにTGF−β量を減少させ)、本発明の第2の具体例にしたがって瘢痕形成および/または線維形成障害を妨げるのに用いることができることを示す。
図7および図8はまた、プロゲステロン処置(p)が優先的な瘢痕形成に関連し、それゆえプロゲステロンが本発明の第2具体例にしたがう使用に適した化合物であることを示す。
【図面の簡単な説明】
【0142】
【図1】図1は、実施例1のラットの創傷の着色された組織学的切片の写真である。
【図2】図2は、実施例2の被験者における、創傷形成後第7日の再上皮形成の進度を現すグラフである。
【図3】図3は、実施例2の被験者において、H&E染色を行った創傷の組織学的切片の写真である。
【図4】図4は、実施例2の創傷サンプルに対する免疫染色を示す。
【図5】図5は、実施例2の被験者における、創傷形成後第7日のTGF−β1のmRNA濃度を示す。
【図6】図6は、実施例2の被験者由来のヒトの線維芽細胞の増殖におけるエストロゲンの影響を示すグラフである。
【図7】図7は、実施例3において顕微鏡で評価された、瘢痕形成におけるエストロゲンおよびプロゲステロンの影響を示すグラフである。
【図8】図8は、実施例3において顕微鏡で評価された、瘢痕形成におけるエストロゲンおよびプロゲステロンの影響を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線維症を阻害するための医薬の製造のためのエストロゲン活性を阻害するタモキシフェン以外の化合物の使用。
【請求項2】
エストロゲン活性のインヒビターが、エストロゲン受容体アンタゴニストである請求項1記載の化合物の使用。
【請求項3】
エストロゲン受容体アンタゴニストが、クエン酸クロミフェンまたはシクロフェニルである請求項2記載の化合物の使用。
【請求項4】
エストロゲン活性のインヒビターが、アナストロゾール、4−ヒドロキシアンドロステンジオン、エキセメスタン、エステロン−3−O−スルフェート、ファドラゾール塩酸塩またはフォルメスタンから選ばれるエストロゲン産生のインヒビターまたはフィトエストロゲンである請求項1記載の化合物の使用。
【請求項5】
瘢痕形成を減少させるか、または予防する請求項1〜4のいずれか1つに記載の化合物の使用。
【請求項6】
創傷の治癒を促進するための医薬の製造におけるアンドロゲン活性を促進する化合物の使用。
【請求項7】
創傷が、皮膚創傷である請求項6記載の化合物の使用。
【請求項8】
化合物が、テストステロン、ジヒドロテストステロン、5α−アンドロスタンジオール、テストステロンウンデカノエート,テストステロンエナンセート、テストステロンエステル、テストステロンプロピオネート、メステロロン、ダナゾールおよびゲストリノンから選ばれるアンドロゲンホルモンまたはアンドロゲン受容体アゴニストである請求項6または7記載の化合物の使用。
【請求項9】
化合物が、アンドロゲン分解のインヒビター、アンドロゲン受容体アゴニスト分解のインヒビターまたは黄体形成ホルモン、濾胞刺激ホルモンまたはコリオゴナドトロフィンのモジュレーターの1つである請求項6または7記載の化合物の使用。
【請求項10】
アンドロゲン分解のインヒビターまたはアンドロゲン受容体アゴニスト分解のインヒビターが、アミノグルテサミドである請求項9記載の化合物の使用。
【請求項11】
線維症を阻害するための医薬の製造におけるアンドロゲン活性を阻害する化合物の使用。
【請求項12】
化合物が、アンドロゲン受容体アンタゴニストである請求項11記載の化合物の使用。
【請求項13】
化合物が、シプロテロンアセテートまたはフルタミドである請求項12記載の化合物の使用。
【請求項14】
化合物が、アンドロゲン産生のインヒビターである請求項11記載の化合物の使用。
【請求項15】
瘢痕形成を減少させるか、または予防するための請求項11〜14のいずれか1つに記載の化合物の使用。
【請求項16】
線維症を阻害するための医薬の製造におけるプロゲステロン活性を促進する化合物の使用。
【請求項17】
化合物が、プロゲステロンまたはアリエストレノール、デソゲストレル、ジドロゲステロン、エチノジオールジアセテート、ゲストデン、ゲストラノールヘキサノエート、ヒドロキシプロゲステロンヘキサノエート、レボノルゲストレル、メゲストロールアセテート、メドロキシプロゲステロンアセテート、ノルエチステロン、ノルエチステロンアセテート、ノルエチステロンエナンチオエート、ノルゲスチメートもしくはノルゲステレルから選ばれる他のプロゲステロン受容体アゴニストである請求項16記載の化合物の使用。
【請求項18】
化合物が、プロゲステロンまたはプロゲステロン受容体アゴニスト分解のインヒビターまたは黄体ホルモン、濾胞刺激ホルモンもしくはコリオゴナドトロフィンのモジュレーターの1つである請求項16記載の化合物の使用。
【請求項19】
瘢痕形成を減少させるか、または予防するための請求項16〜18のいずれか1つに記載の化合物の使用。
【請求項20】
創傷の治癒を促進するための医薬の製造における性ステロイドホルモン先駆体の使用。
【請求項21】
化合物が、エストロゲンまたはアンドロゲン性ステロイドホルモンの先駆体である請求項20記載の化合物の使用。
【請求項22】
化合物が、デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)または硫酸DHEA(DHEAS)である請求項21記載の化合物の使用。
【請求項23】
非全身適用に用いる、前記請求項のいずれかに記載の化合物の使用。
【請求項24】
液剤、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、ヒドロゲル剤、紛剤、エアロゾル剤またはインプラントの剤形で医薬を製造するための前記請求項のいずれかに記載の化合物の使用。
【請求項25】
点眼剤の剤形で医薬を製造するための請求項1から23のいずれか1つに記載の化合物の使用。
【請求項26】
医薬が0.001%から4重量%の化合物を含む、前記請求項のいずれかに記載の化合物の使用。
【請求項27】
治療有効量の請求項1〜5および11〜19のいずれか1つに記載の化合物を創傷または線維性障害の部位に供給することを含む線維症を阻害する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−174566(P2008−174566A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−39816(P2008−39816)
【出願日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【分割の表示】特願平10−506706の分割
【原出願日】平成9年7月22日(1997.7.22)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ポラロイド
【出願人】(500588178)レノボ・リミテッド (17)
【氏名又は名称原語表記】RENOVO LTD.
【Fターム(参考)】