説明

創傷治療剤及びそのスクリーニング方法

【課題】PDLIM2の創傷治癒反応における役割を解明し、その知見を創薬に応用すること。
【解決手段】本発明は、PDLIM2の発現又は機能を抑制する物質を含む、創傷治療剤を提供する。PDLIM2の発現又は機能を抑制する物質は、好ましくは、PDLIM2の発現又は機能を抑制する物質が、PDLIM2の発現を特異的に抑制し得るsiRNA、アンチセンス核酸、又はこれらのポリヌクレオチドを発現し得る発現ベクターである。また、本発明は、被験物質が、PDLIM2の発現又は機能を抑制し得るか否かを評価することを含む、創傷を治療し得る物質のスクリーニング方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、創傷治療剤及びそのスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
創傷治癒とは、何らかの原因で皮膚などの上皮組織が欠損した場合に、これを修復するための一連の反応のことで、最も組織化された免疫又は炎症反応の1つである。創傷治癒反応は、(1)炎症期(2)肉芽組織形成期(3)再構築期の3つの過程に大きく分けられる。炎症期においては、組織損傷に伴って局所の炎症反応が惹起され、好中球やマクロファージが創傷部位に遊走してくる。マクロファージは各種炎症性サイトカインやケモカインを分泌することにより炎症反応をさらに増強する。これに続く肉芽組織形成期においては、血管内皮細胞の増殖により血管新生が誘導されるとともに、創部に浸潤してきた線維芽細胞が増殖してコラーゲン等の細胞外マトリックスを産生することにより肉芽組織を形成し組織の再生を図る。さらに、肉芽組織内の線維芽細胞は、アクチンを多く含み収縮力に富む筋線維芽細胞へと分化する。この時期にみられる創収縮は、この筋線維芽細胞が主となっておこる現象で、効率よく創面積を縮小させるための有用な方法である。そして再構築期においては、肉芽組織の上部に上皮細胞の形成が誘導され、元の正常な構造が再構築される。もし、個体あるいは局所の病的な状態によって正常な創傷治癒反応が傷害されると、褥創、手術後の創部感染、糖尿病性潰瘍、熱傷など難治性の創傷となる。ところが一方では、この反応が過剰におこると、さまざまな病的な線維化、たとえば、皮膚においてはケロイドや瘢痕化を、また肺においては気管支喘息にともなう気道リモデリングをひきおこすことが明らかになっている。さらに重症の例としては、強皮症、肺線維症、肝硬変などの原因となることも示唆されている。よって、これらの一連の創傷治癒反応は厳密に制御される必要がある。これまでの研究において、TGFβやIL−6などのサイトカイン、および、PDGFやFGFなどの増殖因子が創傷治癒反応の進行に重要な役割を果たしていることが報告されているが、これらの反応がどのように調節されているかについては、十分には明らかになっていない。
【0003】
PDLIM2(PDZ and LIM domain protein-2)は、SLIM(STAT-interacting LIM protein)とも呼ばれ、本発明者らが単離したLIMタンパク質ファミリーに属する核内ユビキチンリガーゼであり、PDZおよびLIMドメインを有する。PDLIM2は、T細胞におけるTh1細胞分化に必須の転写因子の1つであるSTAT4に核内で結合し、これをユビキチン化及び分解することによりSTAT4によるシグナル伝達を終息させる(非特許文献1、特許文献1)。その後の解析により、PDLIM2がNF−κBに対する核内ユビキチンリガーゼであり、樹状細胞においてNF−κBをユビキチン化、分解及び不活性化することにより、NF−κBによる炎症反応を終息させることが明らかになった(非特許文献2、特許文献2)。PDLIM2欠損樹状細胞では、NF−κBの分解が傷害されており、炎症性サイトカインの産生量も2〜3倍に増加していた。しかしながら、PDLIM2が個体レベルでどのような生理学的機能を有しているのかに関しては、まだ十分には解明されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/246543号明細書
【特許文献2】特開2007−254465号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Tanaka et al, Immunity, 22, 729-736, 2005
【非特許文献2】Tanaka et al, Nat.Immunol. 8, 584, 2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、PDLIM2の創傷治癒反応における役割を解明し、その知見を創薬に応用することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らはPDLIM2欠損マウスを用いて創傷治癒の試験を実施した。その結果、PDLIM2欠損マウスでは、野生型マウスと比較して創傷治癒が促進された。インビトロ解析から、PDLIM2は、Smad2および3の核内ユビキチンリガーゼとして、これらの転写因子をユビキチン化及び分解することにより、TGFβによるSmadの活性化を負に調節していることが明らかになった。TGFβにより誘導される筋線維芽細胞への分化がPDLIM2欠損線維芽細胞において亢進されていた。更に、TGFβにより誘導される筋線維芽細胞への分化がPDLIM2に対する特異的siRNAにより亢進された。これらの結果から、創傷治癒反応においては、PDLIM2はTGFβ依存性のシグナル伝達経路を負に調節することにより、創傷治癒反応が過剰にならないように適切な時点で創傷治癒反応を終息させる役割を果たすことが示唆された。また、創傷モデルマウスにPDLIM2に対するsiRNAを投与すると、創傷の治癒反応が促進された。
以上の知見に基づき、本発明が完成された。
【0008】
即ち、本発明は以下に関する。
[1]PDLIM2の発現又は機能を抑制する物質を含む、創傷治療剤。
[2]PDLIM2の発現又は機能を抑制する物質が、PDLIM2の発現を特異的に抑制し得るsiRNA、アンチセンス核酸、又はこれらのポリヌクレオチドを発現し得る発現ベクターである、[1]の治療剤。
[3]被験物質が、PDLIM2の発現又は機能を抑制し得るか否かを評価することを含む、創傷を治療し得る物質のスクリーニング方法。
[4]1)PDLIM2の発現を測定可能な細胞を用いたPDLIM2の発現の測定、2)PDLIM2の機能を測定可能な再構成系を用いたPDLIM2の機能の測定、3)PDLIM2の機能を測定可能な細胞系を用いたPDLIM2の機能の測定、及び4)動物を用いたPDLIM2の発現又は機能の測定からなる群から選択されるいずれかにより行われる、[3]のスクリーニング方法。
[5]該評価が、被験物質がPDLIM2によるSmad2又は3のユビキチン化を抑制し得るか否かの評価に基づき行われる、[3]のスクリーニング方法。
[6]該評価が、被験物質がPDLIM2及びSmad2又は3を含む複合体の形成を抑制し得るか否かの評価に基づき行われる、[3]のスクリーニング方法。
[7]PDLIM2及びSmad2又は3を含む複合体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、PDLIM2の発現又は機能の抑制という、これまでにない新たなメカニズムに立脚した創傷治療剤や、そのスクリーニング方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】PDLIM2欠損マウスにおいて促進された創部の縮小。(a)創傷7日後における野生型マウス(+/+)及びPDLIM2欠損マウス(−/−)の創傷治癒の様子。1群につき5匹の動物を用いた3回の独立した試験からの代表的な結果を示す。(b)最初の創面積と比較した、各時点における創面積の変化。(c)創傷7日後における野生型マウス及びPDLIM2欠損マウスの組織学的試験。H&E染色、原拡大率 ×10。(d)野生型線維芽細胞及びPDLIM2欠損線維芽細胞により媒介されたI型コラーゲンゲルの収縮。細胞をコラーゲンゲル中に包埋し、ゲルを浮遊させ、TGFβを加えずに又はTGFβと共に培養した。ゲルの表面積を、ゲルの遊離から0、8及び24時間後に測定した。
【図2】PDLIM2はSmad2/3に結合し、TGFβ−Smad媒介転写を負に制御する。(a)c−Mycタグ化したPDLIM2と内在性のSmad転写因子との相互作用。293T細胞へc−Mycタグ化したPDLIM2発現プラスミド(c−Myc PDLIM2)をトランスフェクトし、又はトランスフェクトせずに、全細胞抽出物を調製し、抗c−Myc抗体で免疫沈降し(IP)、抗Smad2、3又は4抗体で免疫ブロット(IB)した。(b)マウス胎児由来線維芽細胞におけるルシフェラーゼ活性。PDLIM2をコードするプラスミドと共に、又は該プラスミドを伴わずに、TAREルシフェラーゼレポーター(pTARE−Luc)をコードするプラスミドを該細胞へトランスフェクトし、その後ヒトTGFβ(10ng/ml)で6時間刺激し、測定した。
【図3】PDLIM2は、Smad2及び3のポリユビキチン化及び分解を促進するが、Smad4についてはしない。(a)293T細胞におけるSmadのユビキチン化アッセイ。293T細胞へ、HAタグ化したPDLIM2発現プラスミド(HA−PDLIM2)と共に、又はそれを伴わずに、His−ユビキチン(His−Ub)、c−Mycタグ化したSmad2、3又は4をコードするプラスミドをトランスフェクトした。ユビキチン化したタンパク質をNi−NTAビーズで精製し、Smadのユビキチン化(Ub−Smad)については抗c−Myc抗体で、PDLIM2自体のユビキチン化(Ub−PDLIM2)については抗PDLIM2抗体で、免疫ブロットした。(b)293T細胞の核Smad2及び3に対するPDLIM2の効果。c−Mycタグ化したPDLIM2発現プラスミドと共に、又はそれを用いずに、c−Mycタグ化したSmad2又は3をコードするプラスミドを293T細胞へトランスフェクトし、抗c−Myc抗体による免疫ブロットで解析した。
【図4】PDLIM2欠損線維芽細胞において促進されたSmad2/3活性化。ヒトTGFβ(0、2、10ng/ml)で1時間刺激した野生型及びPDLIM2欠損線維芽細胞の細胞質(Cyt)及び核(Nuc)抽出物を抗Smad2、3又は4抗体で免疫ブロットした。抗HSP90抗体及び抗Sp1抗体を対照として用いた。
【図5】PDLIM2欠損線維芽細胞において促進された筋線維芽細胞への分化。(a)ヒトTGFβ(10ng/ml)で3日間刺激した、野生型(+/+)線維芽細胞及びPDLIM2欠損(−/−)線維芽細胞の形態。(b)(a)で述べた紡錘形の細胞の百分率を示す。(c)ヒトTGFβ(10ng/ml)で0、3及び6時間刺激した野生型及びPDLIM2欠損線維芽細胞におけるα平滑筋アクチン(SMA)発現。
【図6】siRNAを用いたPDLIM2ノックダウンにより促進された筋線維芽細胞分化。(a)マウスPDLIM2に対するsiRNA又は対照オリゴヌクレオチドをトランスフェクトした線維芽細胞の形態。(b)(a)において記載した紡錘形細胞の百分率を示す。(c)マウスPDLIM2に対するsiRNA又は対照オリゴヌクレオチドをトランスフェクトして、ヒトTGFβ(10ng/ml)で1時間刺激した線維芽細胞の核抽出物の、抗Smad2又は3抗体による免疫ブロット。抗DNAポリメラーゼδ(DNApol)を対照として用いた。(d)ヒトPDLIM2に対するsiRNA又は対照オリゴヌクレオチドをトランスフェクトした正常ヒト皮膚線維芽細胞における紡錘形細胞の百分率を示す。
【図7】PDLIM2の発現を特異的に抑制するsiRNAにより促進された、創傷の治癒反応。縦軸は傷の面積の相対値(治療前の傷の面積に対するパーセント)を、横軸は傷を作成してからの日数を示す。四角はコントロール群を、黒丸はPDLIM2の発現を特異的に抑制するsiRNAの投与群を、それぞれ示す。
【図8】PDLIM2の発現を特異的に抑制するsiRNAにより、縮小したマウスの創傷の写真(創傷作成から7日目)。siPDLIM2は、PDLIM2の発現を特異的に抑制するsiRNAを投与した群を示す。
【図9】マウス胎児由来線維芽細胞の核抽出物の、抗PDLIM2抗体による免疫ブロット。マウス胎児由来線維芽細胞へ、マウスPDLIM2に対するsiRNA(配列番号5(siPDLIM2-1)又は配列番号8(siPDLIM2-2))或いは対照オリゴヌクレオチド(コントロール)をトランスフェクトした。抗Sp−1抗体を対照として用いた。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(1.創傷治療剤)
本発明は、PDLIM2の発現又は機能を抑制する物質を含む、創傷治療剤を提供するものである。
【0012】
PDLIM2(PDZ and LIM domain protein-2)は、SLIM(STAT-interacting LIM protein)とも呼ばれ、LIMタンパク質ファミリーに属する公知の核内ユビキチンリガーゼであり、PDZおよびLIMドメインを有する(非特許文献1)。
【0013】
本明細書中、PDLIM2は通常、温血動物(哺乳動物又は鳥類)由来のものを意味する。哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、ミンク等の家畜、イヌ、ネコ等のペット、ヒト、サル、カニクイザル、アカゲザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類等を挙げることが出来るが、これらに限定されるものではない。鳥類としては、ニワトリ、ウズラ、アヒル、ガチョウ、シチメンチョウ、エミュ、ダチョウ、ホロホロ鳥、ハト等を挙げることができる。PDLIM2は、好ましくは哺乳動物由来のものであり、より好ましくは霊長類(ヒト等)又はげっ歯類(マウス等)由来のものである。
【0014】
「PDLIM2が哺乳動物由来である」とは、PDLIM2の配列(ヌクレオチド配列又はアミノ酸配列)が哺乳動物のものであることを意味する。
【0015】
PDLIM2のヌクレオチド配列やアミノ酸配列は公知である。ヒト及びマウスのPDLIM2の代表的なヌクレオチド配列及びアミノ酸配列が、NCBIに以下の通りに登録されている。
[ヒトPDLIM2]
ヌクレオチド配列(cDNA配列):アクセッション番号 NM_176871(バージョンNM_176871.2)(配列番号1)
アミノ酸配列:アクセッション番号 NP_789847(NP_789847.1)(配列番号2)
[マウスPDLIM2]
ヌクレオチド配列(cDNA配列):アクセッション番号 NM_145978(バージョンNM_145978.1)(配列番号3)
アミノ酸配列:アクセッション番号 NP_666090(バージョンNP_666090.1)(配列番号4)
【0016】
なお、本明細書においてヌクレオチド配列は、特にことわりのない限りDNAの配列として記載するが、ポリヌクレオチドがRNAである場合は、チミン(T)をウラシル(U)に適宜読み替えるものとする。
【0017】
PDLIM2の機能としては、Smad2又は3との結合、Smad2又は3のユビキチン化等を挙げることが出来る。
【0018】
PDLIM2の発現又は機能を抑制する物質としては、例えば、PDLIM2の発現を特異的に抑制し得るsiRNA、アンチセンス核酸、これらのポリヌクレオチドを発現し得る発現ベクター、低分子化合物が挙げられる。好ましくは、PDLIM2の発現を特異的に抑制し得るsiRNA、アンチセンス核酸、又はこれらのポリヌクレオチドを発現し得る発現ベクターが用いられる。
【0019】
本明細書中、「特異的な遺伝子発現の抑制」とは、標的とする遺伝子の発現を、それ以外の遺伝子の発現よりも強く抑制することを意味する。
【0020】
PDLIM2の発現を特異的に抑制し得るsiRNAとしては、例えば
(A)PDLIM2をコードするmRNA(成熟mRNA又は初期転写産物)のヌクレオチド配列又は18塩基以上のその部分配列に相補的なヌクレオチド配列を含む2本鎖のRNA、及び
(B)PDLIM2をコードするmRNA(成熟mRNA又は初期転写産物)と治療対象動物(好ましくはヒト)の細胞内で特異的にハイブリダイズし得る18塩基以上のヌクレオチド配列を含み、且つハイブリダイズすることによりPDLIM2の転写を抑制する2本鎖のRNAを挙げることができる。
【0021】
本明細書中、「特異的なハイブリダイゼーション」とは、核酸が、標的とするヌクレオチドに対して、それ以外のヌクレオチドよりも強くハイブリダイズすることを意味する。
【0022】
PDLIM2をコードするmRNAのヌクレオチド配列としては、例えば、配列番号1で表されるヌクレオチド配列(ヒトPDLIM2)、配列番号3で表されるヌクレオチド配列(マウスPDLIM2)を挙げることが出来る。
【0023】
短い二本鎖RNAを細胞内に導入するとそのRNAに相補的なmRNAが分解される、いわゆるRNA干渉(RNAi)と呼ばれる現象は、以前から線虫、昆虫、植物等で知られていたが、最近、この現象が動物細胞でも起こることが確認されたことから[Nature, 411(6836): 494-498 (2001)]、リボザイムの代替技術として注目されている。
【0024】
siRNAは、代表的には、標的遺伝子のmRNAのヌクレオチド配列又はその部分配列(以下、標的ヌクレオチド配列)と相補的な配列を有するRNAとその相補鎖からなる2本鎖オリゴRNAである。また、ヘアピンループ部分を介して、標的ヌクレオチド配列に相補的な配列(第1の配列)と、その相補配列(第2の配列)とが連結された一本鎖RNAであって、ヘアピンループ型の構造をとることにより、第1の配列が第2の配列と2本鎖構造を形成するRNA(small hairpin RNA: shRNA)もsiRNAの好ましい態様の1つである。
【0025】
siRNAに含まれる、標的ヌクレオチド配列と相補的な部分の長さは、通常、約18塩基以上、好ましくは約19塩基以上、より好ましくは約21塩基以上の長さであるが、標的遺伝子の発現を特異的に抑制可能である限り、特に限定されない。siRNAが23塩基よりも長い場合には、該siRNAは細胞内で分解されて、約20塩基前後のsiRNAを生じ得るので、理論的には標的ヌクレオチド配列と相補的な部分の長さの上限は、標的遺伝子のmRNA(成熟mRNAもしくは初期転写産物)のヌクレオチド配列の全長である。しかし、インターフェロン誘導の回避、合成の容易さ、抗原性の問題等を考慮すると、該相補部分の長さは、例えば約50塩基以下、好ましくは約25塩基以下、最も好ましくは約23塩基以下である。即ち、該相補部分の長さは、通常、約18〜約50塩基、好ましくは約19〜約25塩基、より好ましくは約21〜約23塩基である。
【0026】
また、siRNAを構成する各RNA鎖の長さも、通常、約18塩基以上、好ましくは約19塩基以上、より好ましくは約21塩基以上の長さであるが、標的遺伝子の発現を特異的に抑制可能である限り、特に限定されず、理論的には各RNA鎖の長さの上限はない。しかし、インターフェロン誘導の回避、合成の容易さ、抗原性の問題等を考慮すると、siRNAの長さは、例えば約50塩基以下、好ましくは約25塩基以下、最も好ましくは約23塩基以下である。即ち、各RNA鎖の長さは、例えば通常、約18〜約50塩基、好ましくは約19〜約25塩基、より好ましくは約21〜約23塩基である。なお、shRNAの長さは、2本鎖構造をとった場合の2本鎖部分の長さとして示すものとする。
【0027】
標的ヌクレオチド配列と、siRNAに含まれるそれに相補的な配列とは、完全に相補的であることが好ましい。しかし、siRNAの中央から外れた位置についての塩基の変異(少なくとも90%以上、好ましくは95%以上の同一性の範囲内であり得る)については、完全にRNA干渉による切断活性がなくなるのではなく、部分的な活性が残存し得る。他方、siRNAの中央部の塩基の変異は影響が大きく、RNA干渉によるmRNAの切断活性が極度に低下し得る。
【0028】
siRNAは、5’及び/又は3’末端に塩基対を形成しない、付加的な塩基を有していてもよい。該付加的塩基の長さは、siRNAが標的遺伝子の発現を特異的に抑制可能である限り特に限定されないが、通常5塩基以下、例えば2〜4塩基である。該付加的塩基は、DNAでもRNAでもよいが、DNAを用いるとsiRNAの安定性を向上させることができる。このような付加的塩基の配列としては、例えばug-3’、uu-3’、tg-3’、tt-3’、ggg-3’、guuu-3’、gttt-3’、ttttt-3’、uuuuu-3’などの配列が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0029】
shRNAのヘアピンループのループ部分の長さは、標的遺伝子の発現を特異的に抑制可能である限り、特に限定されないが、通常、5〜25塩基程度である。該ループ部分のヌクレオチド配列は、ループを形成することができ、且つ、shRNAが標的遺伝子の発現を特異的に抑制可能である限り、特に限定されない。
【0030】
「アンチセンス核酸」とは、標的mRNA(成熟mRNA又は初期転写産物)を発現する細胞の生理的条件下で該標的mRNAと特異的にハイブリダイズし得るヌクレオチド配列を含み、且つハイブリダイズした状態で該標的mRNAにコードされるポリペプチドの翻訳を阻害し得る核酸をいう。アンチセンス核酸の種類はDNAであってもRNAであってもよいし、あるいはDNA/RNAキメラであってもよいが、好ましくはDNAである。
【0031】
PDLIM2の発現を特異的に抑制し得るアンチセンス核酸としては、例えば
(A)PDLIM2をコードするmRNA(成熟mRNA又は初期転写産物)のヌクレオチド配列又は12塩基以上のその部分配列に相補的なヌクレオチド配列を含む核酸、及び
(B)PDLIM2をコードするmRNA(成熟mRNA又は初期転写産物)と治療対象動物(好ましくはヒト)の細胞内で特異的にハイブリダイズし得る12塩基以上のヌクレオチド配列を含み、且つハイブリダイズした状態でPDLIM2ポリペプチドへの翻訳を阻害し得る核酸
等を挙げることが出来る。
【0032】
アンチセンス核酸中の標的mRNAとハイブリダイズする部分の長さは、PDLIM2の発現を特異的に抑制する限り特に制限はなく、通常、約12塩基以上であり、長いものでmRNA(成熟mRNA又は初期転写産物)の全長配列と同一の長さである。ハイブリダイゼーションの特異性を考慮すると、該長さは好ましくは約15塩基以上、より好ましくは約18塩基以上である。また、合成の容易さや抗原性の問題等を考慮すると、標的mRNAとハイブリダイズする部分の長さは、通常、約200塩基以下、好ましくは約50塩基以下、より好ましくは約30塩基以下である。即ち、標的mRNAとハイブリダイズする部分の長さは、例えば約12〜約200塩基、好ましくは約15〜約50塩基、より好ましくは約18〜約30塩基である。
【0033】
アンチセンス核酸の標的ヌクレオチド配列は、PDLIM2の発現を特異的に抑制可能であれば特に制限はなく、PDLIM2のmRNA(成熟mRNA又は初期転写産物)の全長配列であっても部分配列(例えば約12塩基以上、好ましくは約15塩基以上、より好ましくは約18塩基以上)であってもよいし、あるいは初期転写産物のイントロン部分であってもよいが、好ましくは、標的配列はPDLIM2のmRNAの5’末端からコード領域のC末端までに位置することが望ましい。
【0034】
アンチセンス核酸中の標的mRNAとハイブリダイズする部分のヌクレオチド配列は、標的配列の塩基組成によっても異なるが、生理的条件下でPDLIM2のmRNAとハイブリダイズし得るために、標的配列の相補配列に対して通常約90%以上(好ましくは95%以上、最も好ましくは100%)の同一性を有するものである。
【0035】
アンチセンス核酸の大きさは、通常約12塩基以上、好ましくは約15塩基以上、より好ましくは約18塩基以上である。該大きさは、合成の容易さや抗原性の問題等から、通常約200塩基以下、好ましくは約50塩基以下、より好ましくは約30塩基以下である。
【0036】
さらに、アンチセンス核酸は、PDLIM2のmRNAもしくは初期転写産物とハイブリダイズして翻訳を阻害するだけでなく、二本鎖DNAであるPDLIM2遺伝子と結合して三重鎖(トリプレックス)を形成し、mRNAへの転写を阻害し得るものであってもよい。
【0037】
天然型の核酸は、細胞中に存在する核酸分解酵素によってそのリン酸ジエステル結合が容易に分解されるので、本発明において使用されるsiRNAやアンチセンス核酸は、分解酵素に安定なチオリン酸型(リン酸結合のP=OをP=Sに置換)や2’-O-メチル型等の修飾ヌクレオチドを用いて合成することもできる。siRNAやアンチセンス核酸の設計に重要な他の要素として、水溶性及び細胞膜透過性を高めること等が挙げられるが、これらはリポソームやマイクロスフェアを使用するなどの剤形の工夫によっても克服することができる。
【0038】
PDLIM2の発現を特異的に抑制し得るsiRNA及びアンチセンス核酸は、PDLIM2のmRNA配列(例えば配列番号1又は3で表されるヌクレオチド配列)や染色体DNA配列に基づいて標的配列を決定し、市販のDNA/RNA自動合成機(アプライド・バイオシステムズ社、ベックマン社等)を用いて、これに相補的なヌクレオチド配列を合成することにより調製できる。siRNAは、センス鎖及びアンチセンス鎖をDNA/RNA自動合成機でそれぞれ合成し、適当なアニーリング緩衝液中、約90〜約95℃で約1分程度変性させた後、約30〜約70℃で約1〜約8時間アニーリングさせることにより調製できる。また、相補的なオリゴヌクレオチド鎖を交互にオーバーラップするように合成して、これらをアニーリングさせた後リガーゼでライゲーションすることにより、より長い2本鎖ポリヌクレオチドを調製できる。
【0039】
本発明の創傷治療剤は、PDLIM2の発現を特異的に抑制するsiRNA又はアンチセンス核酸を発現し得る(コードする)発現ベクターを有効成分とすることもできる。当該発現ベクターにおいては、上述のsiRNA又はアンチセンス核酸或いはそれをコードする核酸(好ましくはDNA)が、投与対象である哺乳動物(好ましくはヒト)の細胞(例えば、肉腫細胞)内でプロモーター活性を発揮し得るプロモーターに機能的に連結されている。
【0040】
使用されるプロモーターは、投与対象である哺乳動物の細胞内で機能し得るものであれば特に制限はない。プロモーターとしては、polI系プロモーター、polII系プロモーター、polIII系プロモーター等を使用することができる。具体的には、SV40由来初期プロモーター、サイトメガロウイルスLTR等のウイルスプロモーター、β−アクチン遺伝子プロモーター等の哺乳動物の構成蛋白質遺伝子プロモーター、並びにtRNAプロモーター等のRNAプロモーター等が用いられる。
【0041】
siRNAの発現を意図する場合には、プロモーターとしてpolIII系プロモーターを使用することが好ましい。polIII系プロモーターとしては、例えば、U6プロモーター、H1プロモーター、tRNAプロモーター等を挙げることができる。
【0042】
上記発現ベクターは、好ましくは上述のポリヌクレオチド又はそれをコードする核酸の下流に転写終結シグナル、すなわちターミネーター領域を含有する。さらに、形質転換細胞選択のための選択マーカー遺伝子(テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン等の薬剤に対する抵抗性を付与する遺伝子、栄養要求性変異を相補する遺伝子等)をさらに含有することもできる。
【0043】
本発明において発現ベクターに使用されるベクターの種類は特に制限されないが、ヒト等の哺乳動物への投与に好適なベクターとしては、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス等のウイルスベクターが挙げられる。このうち、アデノウイルスは、遺伝子導入効率が極めて高く、非分裂細胞にも導入可能である等の利点を有する。但し、導入遺伝子の宿主染色体への組込みは極めて稀であるので、遺伝子発現は一過性で通常約4週間程度しか持続しない。治療効果の持続性を考慮すれば、比較的遺伝子導入効率が高く、非分裂細胞にも導入可能で、且つ逆位末端繰り返し配列(ITR)を介して染色体に組み込まれ得るアデノ随伴ウイルスの使用もまた好ましい。
【0044】
本発明の創傷治療剤は、PDLIM2の発現又は機能を抑制する物質に加え、任意の担体、例えば医薬上許容される担体を含むことができる。
【0045】
医薬上許容され得る担体としては、例えば、ショ糖、デンプン、マンニット、ソルビット、乳糖、グルコース、セルロース、タルク、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の賦形剤、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリプロピルピロリドン、ゼラチン、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、ショ糖、デンプン等の結合剤、デンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ナトリウム−グリコール−スターチ、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、エアロジル、タルク、ラウリル硫酸ナトリウム等の滑剤、クエン酸、メントール、グリチルリチン・アンモニウム塩、グリシン、オレンジ粉等の芳香剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸アルミニウム等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水、オレンジジュース等の希釈剤、カカオ脂、ポリエチレングリコール、白灯油等のベースワックスなどが挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0046】
PDLIM2の発現又は機能を抑制する物質として、PDLIM2の発現を特異的に抑制し得るsiRNA、アンチセンス核酸、又はこれらのポリヌクレオチドを発現し得る発現ベクターを用いる場合、核酸の細胞内への導入を促進するために、本発明の創傷治療剤は更に核酸導入用試薬を含むことができる。また、核酸導入試薬としては、リポフェクチン、リポフェクタミン(lipofectamine)、リポフェクタミンRNAiMAX(LipofectamineRNAiMAX)、インビボフェクタミン(Invivofectamine)、DOGS(トランスフェクタム)、DOPE、DOTAP、DDAB、DHDEAB、HDEAB、ポリブレン、あるいはポリ(エチレンイミン)(PEI)等の陽イオン性脂質を用いることが出来る。また、発現ベクターとしてレトロウイルスを用いる場合には、導入試薬としてレトロネクチン、ファイブロネクチン、ポリブレン等を用いることができる。
【0047】
本発明の創傷治療剤の投与単位形態としては、液剤、錠剤、丸剤、飲用液剤、散剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、エキス剤、細粒剤、シロップ剤、浸剤、煎剤、点眼剤、トローチ剤、パップ剤、リニメント剤、ローション剤、眼軟膏剤、硬膏剤、カプセル剤、坐剤、浣腸剤、注射剤(液剤、懸濁剤など)、貼付剤、軟膏剤、ゼリー剤、パスタ剤、吸入剤、クリーム剤、スプレー剤、点鼻剤、エアゾール剤などが例示される。
【0048】
医薬組成物中のPDLIM2の発現又は機能を抑制する物質の含有量は、特に限定されず広範囲に適宜選択されるが、例えば、医薬組成物全体の約0.01ないし100重量%である。
【0049】
本発明の創傷治療剤は、その使用に際し各種形態に応じた方法で投与される。例えば、外用剤の場合には、皮膚ないしは粘膜などの所要部位に直接噴霧、貼付または塗布され、錠剤、丸剤、飲用液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤およびカプセル剤の場合には経口投与され、注射剤の場合には静脈内、筋肉内、皮内、皮下、関節腔内もしくは腹腔内投与され、坐剤の場合には直腸内投与される。
【0050】
本発明の剤の投与量は、有効成分の活性や種類、投与様式(例、経口、非経口)、病気の重篤度、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なり一概に云えないが、通常、成人1日あたり有効成分量として約0.001mg〜約2.0gである。
【0051】
本発明の創傷治療剤は、通常、PDLIM2の発現又は機能を抑制する物質が、創傷部位に送達されるように、哺乳動物(例えば、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ウマ、ブタ、ウシ、サル、ヒト)に対して安全に投与される。
【0052】
本発明の創傷治療剤を用いると、創傷治癒反応を促進することが出来る。特に、後述の実施例に示すように、PDLIM2の発現又は機能を阻害すると、創収縮に重要な筋繊維芽細胞への分化が促進されること等から、本発明の創傷治療剤は、創収縮を促進する効果(創面積を縮小させる効果)に優れている。従って、本発明の創傷治療剤は、種々の創傷(例、褥創、手術後感染、糖尿病性潰瘍、熱傷、ドライアイに伴う角膜潰瘍などにおける創傷)の治療用医薬として有用である。
【0053】
(2.スクリーニング方法)
本発明は、被験物質がPDLIM2の発現又は機能を抑制し得るか否かを評価することを含む、創傷を治療し得る物質のスクリーニング方法、ならびに当該スクリーニング方法により得られる物質、及び当該物質を含む剤を提供する。
【0054】
本発明のスクリーニング方法においては、PDLIM2の発現又は機能を抑制する物質を、創傷を治療し得る物質又は創傷治療薬の候補物質として得ることが出来る。
【0055】
スクリーニング方法に供される被験物質は、いかなる化合物又は組成物であってもよく、例えば、核酸(例、ヌクレオシド、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド)、糖質(例、単糖、二糖、オリゴ糖、多糖)、脂質(例、飽和又は不飽和の直鎖、分岐鎖及び/又は環を含む脂肪酸)、アミノ酸、タンパク質(例、オリゴペプチド、ポリペプチド)、有機低分子化合物、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、固相合成やファージディスプレイ法により作製されたランダムペプチドライブラリー、天然成分(例、微生物、動植物、海洋生物等由来の成分)、あるいは食品、飲料水等が挙げられる。
【0056】
本発明のスクリーニング方法は、被験物質がPDLIM2の発現又は機能を抑制し得るか否かを評価可能である限り、如何なる形態でも行われ得る。例えば、本発明のスクリーニング方法は、
1)PDLIM2の発現を測定可能な細胞を用いたPDLIM2の発現の測定、
2)PDLIM2の機能を測定可能な再構成系を用いたPDLIM2の機能の測定、
3)PDLIM2の機能を測定可能な細胞系を用いたPDLIM2の機能の測定、
4)動物を用いたPDLIM2の発現又は機能の測定
などに基づき行われ得る。
【0057】
上記1)において、PDLIM2の発現を測定可能な細胞を用いるスクリーニング方法は、例えば、下記の工程(a)〜(c)を含み得る:
(a)被験物質とPDLIM2の発現を測定可能な細胞とを接触させる工程;
(b)被験物質を接触させた細胞におけるPDLIM2の発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞におけるPDLIM2の発現量と比較する工程;
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、PDLIM2の発現量を抑制する被験物質を選択する工程。
【0058】
上記方法の工程(a)では、被験物質がPDLIM2の発現を測定可能な細胞と接触条件下におかれる。PDLIM2の発現を測定可能な細胞に対する被験物質の接触は、培地中で行われ得る。
【0059】
PDLIM2の発現を測定可能な細胞とは、PDLIM2の産物(例、転写産物、翻訳産物)の発現レベルを直接的又は間接的に評価可能な細胞をいう。PDLIM2の産物の発現レベルを直接的に評価可能な細胞は、PDLIM2発現細胞であり得、一方、PDLIM2の産物の発現レベルを間接的に評価可能な細胞は、PDLIM2遺伝子の転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞であり得る。PDLIM2の発現を測定可能な細胞は、哺乳動物の細胞であり得る。
【0060】
PDLIM2発現細胞は、PDLIM2を潜在的に発現するものである限り特に限定されない。かかる細胞は、当業者であれば容易に同定でき、初代培養細胞、当該初代培養細胞から誘導された細胞株、市販の細胞株、セルバンクより入手可能な細胞株などを使用できる。また、PDLIM2発現細胞として、マクロファージ等の免疫細胞や線維芽細胞を使用することもまた好ましい。
【0061】
PDLIM2遺伝子の転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞は、PDLIM2遺伝子の転写調節領域、当該領域に機能可能に連結されたレポーター遺伝子を含む細胞である。PDLIM2遺伝子の転写調節領域、レポーター遺伝子は、発現ベクター中に挿入され得る。PDLIM2遺伝子の転写調節領域は、PDLIM2の発現を制御し得る領域である限り特に限定されないが、例えば、各PDLIM2遺伝子の転写開始点から上流約2kbpまでの領域、あるいは該領域の塩基配列において1以上の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、且つこれらのPDLIM2の転写を制御する能力を有する領域などが挙げられる。レポーター遺伝子は、検出可能なタンパク質又は検出可能な物質を生成する酵素をコードする遺伝子であればよく、例えばGFP(緑色蛍光タンパク質)遺伝子、GUS(β−グルクロニダーゼ)遺伝子、LUC(ルシフェラーゼ)遺伝子、CAT(クロラムフェニコルアセチルトランスフェラーゼ)遺伝子等が挙げられる。
【0062】
PDLIM2遺伝子の転写調節領域、当該領域に機能可能に連結されたレポーター遺伝子が導入される細胞は、PDLIM2遺伝子の転写調節機能を評価できる限り、即ち、該レポーター遺伝子の発現量が定量的に解析可能である限り特に限定されない。しかしながら、PDLIM2に対する生理的な転写調節因子を発現し、PDLIM2の発現調節の評価により適切であると考えられることから、該導入される細胞としては、PDLIM2発現細胞が好ましい。
【0063】
被験物質とPDLIM2の発現を測定可能な細胞とが接触される培地は、用いられる細胞の種類などに応じて適宜選択されるが、例えば、約5〜20%のウシ胎仔血清を含む最少必須培地(MEM)、ダルベッコ改変最少必須培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地などである。培養条件もまた、用いられる細胞の種類などに応じて適宜決定されるが、例えば、培地のpHは約6〜約8であり、培養温度は通常約30〜約40℃であり、培養時間は約12〜約72時間である。
【0064】
上記方法の工程(b)では、先ず、被験物質を接触させた細胞におけるPDLIM2の発現量が測定される。発現量の測定は、用いた細胞の種類などを考慮し、上述した自体公知の方法により行われ得る。また、PDLIM2の発現を測定可能な細胞として、PDLIM2転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞を用いた場合、発現量は、レポーターのシグナル強度に基づき測定され得る。
【0065】
次いで、被験物質を接触させた細胞におけるPDLIM2の発現量が、被験物質を接触させない対照細胞におけるPDLIM2の発現量と比較される。発現量の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれる。被験物質を接触させない対照細胞におけるPDLIM2の発現量は、被験物質を接触させた細胞におけるPDLIM2の発現量の測定に対し、事前に測定した発現量であっても、同時に測定した発現量であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した発現量であることが好ましい。
【0066】
上記方法の工程(c)では、PDLIM2の発現量を減少させる被験物質が選択される。PDLIM2の発現量を減少させる(発現を抑制する)被験物質は、創傷を治療し得る物質として選択することができ、創傷の治療薬の候補物質として有用である。特に、PDLIM2の発現量を減少させる被験物質は、創収縮を促進する効果(創面積を縮小させる効果)に優れていることが期待される。
【0067】
上記2)において、PDLIM2の機能を測定可能な再構成系とは、PDLIM2(タンパク質)及びその他の因子(例、タンパク質)を含む、被験物質によるPDLIM2の機能の抑制を評価可能な非培養細胞系をいう。
【0068】
一実施形態では、PDLIM2の機能を測定可能な再構成系を用いる本発明のスクリーニング方法は、被験物質がPDLIM2及びその結合対(例、Smad2、Smad3)を含む複合体の形成能を抑制するか否かを評価することにより行われ得る。このようなスクリーニング方法は、例えば、下記の工程(a1)〜(c1)を含み得る:
(a1)被験物質、ならびにPDLIM2及びその結合対を接触させる工程;
(b1)被験物質を接触させた場合におけるPDLIM2及びその結合対を含む複合体量を測定し、該複合体量を被験物質を接触させない場合の複合体量と比較する工程;
(c1)上記(b1)の比較結果に基づいて、PDLIM2及びその結合対を含む複合体量を抑制する被験物質を選択する工程。
【0069】
上記方法の工程(a1)では、PDLIM2及びその結合対を含む複合体の形成が可能であるアッセイ系において、被験物質、PDLIM2及びその結合対が接触される。その結合対としては、Smad2、Smad3が挙げられる。なお、PDLIM2及びその結合対の一方又は双方は、それらの複合体の検出を容易にするため標識されていてもよい。標識としては、例えば、標識用物質(例、FITC、FAM等の蛍光物質、ルミノール、ルシフェリン、ルシゲニン等の発光物質、H、14C、32P、35S、123I等の放射性同位体、ビオチン、ストレプトアビジン等の親和性物質)による標識の他、レポーター遺伝子によりコードされ得るタンパク質との融合が挙げられる。また、本アッセイ系では、PDLIM2及び/又はその結合対等を含む細胞ホモジネート(例、PDLIM2発現ベクター及び/又はPDLIM2結合対の発現ベクターをトランスフェクトした細胞のホモジネート)も使用することができる。
【0070】
上記方法の工程(b1)では、先ず、被験物質を接触させた場合における複合体量が測定される。PDLIM2及びその結合対を含む複合体としては、PDLIM2及びSmad2を含む複合体、PDLIM2及びSmad3を含む複合体、PDLIM2、Smad2及びSmad3を含む複合体等を挙げることが出来る。複合体量の測定は、自体公知の方法により行うことができ、例えば、免疫学的手法(例、免疫沈降法、ELISA)、表面プラズモン共鳴を利用する相互作用解析法(例、BiacoreTMの使用)が挙げられる。
【0071】
次いで、被験物質を接触させた場合の複合体量が、被験物質を接触させない場合の複合体量と比較される。複合体量の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれる。被験物質を接触させない場合の複合体量は、被験物質を接触させた場合の複合体量の測定に対し、事前に測定した複合体量であっても、同時に測定した複合体量であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した複合体量であることが好ましい。
【0072】
上記方法の工程(c1)では、複合体量を減少させる被験物質が選択される。PDLIM2及びその結合対(例えば、Smad2、Smad3)を含む複合体の量を減少させる被験物質は、創傷を治療し得る物質として選択することができ、創傷の治療薬の候補物質として有用である。特に、PDLIM2及びSmad2又は3を含む複合体量を減少させる被験物質は、創収縮を促進する効果(創面積を縮小させる効果)に優れていることが期待される。
【0073】
別の実施形態では、PDLIM2の機能を測定可能な再構成系を用いる本発明のスクリーニング方法は、例えば、被験物質がPDLIM2によるSmad2又は3のユビキチン化を抑制し得るか否かを評価することにより行われ得る。このようなスクリーニング方法は、例えば、下記の工程(a2)〜(c2)を含み得る:
(a2)被験物質、ならびにPDLIM2、Smad2又は3及びユビキチン化反応に必要な因子を接触させる工程;
(b2)被験物質を接触させた場合におけるユビキチン化Smad2又は3量を測定し、該ユビキチン化Smad2又は3量を被験物質を接触させない場合のユビキチン化Smad2又は3量と比較する工程;
(c2)上記(b2)の比較結果に基づいて、ユビキチン化Smad2又は3量を抑制する被験物質を選択する工程。
【0074】
上記方法の工程(a2)では、Smad2又は3のユビキチン化が可能であるアッセイ系において、被験物質、PDLIM2、Smad2又は3及びユビキチン化反応に必要な因子が接触される。ユビキチン化反応に必要な因子としては、例えば、ユビキチン、E1、E2が挙げられる。
【0075】
上記方法の工程(b2)では、先ず、被験物質を接触させた場合におけるユビキチン化Smad2又は3が測定される。ユビキチン化Smad2又は3量の測定は、自体公知の方法により行うことができ、例えば、ウエスタンブロッティング法等の免疫学的手法が挙げられる。
【0076】
次いで、被験物質を接触させた場合のユビキチン化Smad2又は3量が、被験物質を接触させない場合のユビキチン化Smad2又は3量と比較される。ユビキチン化Smad2又は3量の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれる。被験物質を接触させない場合のユビキチン化Smad2又は3量は、被験物質を接触させた場合のユビキチン化Smad2又は3量の測定に対し、事前に測定したユビキチン化Smad2又は3量であっても、同時に測定したユビキチン化Smad2又は3量であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定したユビキチン化Smad2又は3量であることが好ましい。
【0077】
上記方法の工程(c2)では、ユビキチン化Smad2又は3量を減少させる(即ち、Smad2又は3のユビキチン化を抑制する)。被験物質が選択される。ユビキチン化Smad2又は3量を減少させる被験物質は、創傷を治療し得る物質として選択することができ、創傷の治療薬の候補物質として有用である。特に、ユビキチン化Smad2又は3量を減少させる(即ち、Smad2又は3のユビキチン化を抑制する)被験物質は、創収縮を促進する効果(創面積を縮小させる効果)に優れていることが期待される。なお、ユビキチン化アッセイの詳細については、例えば、Tanaka T. et al, Immunity 22: 729-736 (2005) を参照のこと。
【0078】
上記3)において、PDLIM2の機能を測定可能な細胞系を用いたPDLIM2の機能を測定するスクリーニング方法は、例えば、i)被験物質がPDLIM2によるSmad2又は3のユビキチン化を抑制するか否か、あるいはii)PDLIM2及びその結合対(例、Smad2、Smad3)を含む複合体量を減少させるか否かの評価により行われ得る。このようなスクリーニング方法は、例えば、下記の工程(a)〜(c)を含み得る:
(a)被験物質とPDLIM2発現細胞とを接触させる工程;
(b)被験物質を接触させた細胞におけるPDLIM2の機能レベルを測定し、該機能レベルを、被験物質を接触させない対照細胞における機能レベルと比較する工程;
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、PDLIM2の機能レベルを抑制する被験物質を選択する工程。
【0079】
上記方法の工程(a)では、被験物質がPDLIM2発現細胞と接触条件下におかれる。PDLIM2発現細胞に対する被験物質の接触は、培地中で行われ得る。ここで用いられるPDLIM2発現細胞は、タンパク質レベルでのPDLIM2のアッセイが可能な程度にPDLIM2を発現し得る細胞であり得る。このようなPDLIM2発現細胞の好ましい例としては、PDLIM2発現ベクター及び/又はSmad2発現ベクター及び/又はSmad3発現ベクターがトランスフェクトされた細胞(例、肥満細胞、T細胞、線維芽細胞)、PDLIM2及びSmad2及び/又はSmad3の天然発現細胞(例、マクロファージ等の免疫細胞、線維芽細胞)が挙げられる。PDLIM2発現細胞に対する被験物質の接触は、培地中で行われ得る。
【0080】
上記方法の工程(b)では、先ず、被験物質を接触させた細胞におけるPDLIM2の機能レベルが測定される。例えば、i)については、ユビキチン化Smad2又は3量の測定(実施例及びTanaka T. et al, Immunity 22: 729-736 (2005) 参照)により行われ得る。ii)については、上記2)の(b1)の方法の他、ツーハイブリッドシステムにより測定できる。なお、本工程(b)における機能レベルの比較は、上記方法2)と同様に行われ得る。
【0081】
上記方法の工程(c)では、PDLIM2の機能レベルを減少させる(機能を抑制する)被験物質が選択される。PDLIM2の機能レベルを減少させる被験物質は、創傷を治療し得る物質として選択することができ、創傷の治療薬の候補物質として有用である。特に、PDLIM2の機能レベルを減少させる被験物質は、創収縮を促進する効果(創面積を縮小させる効果)に優れていることが期待される。
【0082】
上記4)において、動物を用いる本発明のスクリーニング方法は、例えば、下記の工程(a)〜(c)を含み得る:
(a)被験物質を動物に投与する工程;
(b)被験物質を投与した動物におけるPDLIM2の発現量又は機能レベルを測定し、該発現量又は機能レベルを被験物質を投与しない対照動物におけるPDLIM2の発現量又は機能レベルと比較する工程;
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、PDLIM2の発現量又は機能レベルを抑制する被験物質を選択する工程。
なお、本方法論は、(b)及び(c)の工程のみを必須とすることもできる。
【0083】
上記方法の工程(a)では、動物として、任意の温血動物、例えば、上述の哺乳動物が使用され得る。被験物質の動物への投与は自体公知の方法により行われ得る。
【0084】
上記方法の工程(b)では、PDLIM2の発現量又は機能レベルの測定は自体公知の方法により測定され得る。例えば、動物から単離又は採取された免疫細胞におけるPDLIM2の発現量又は機能レベルが、上記1)〜3)の方法の工程(b)と同様の方法論により測定され得る。本工程(b)における発現量の比較及び上記方法の工程(c)もまた、上記1)〜3)の方法論と同様に行われ得る。
【0085】
(3.その他)
本発明は、PDLIM2及びSmad2又は3を含む複合体、並びにその作製方法及び検出方法を提供する。PDLIM2及びSmad2又は3を含む複合体としては、PDLIM2及びSmad2を含む複合体、PDLIM2及びSmad3を含む複合体、PDLIM2、Smad2及びSmad3を含む複合体等を挙げることが出来る。本発明の複合体は、本発明のスクリーニング方法に有用である。
【0086】
Smad2及び3は、TGFβシグナリングを媒介する公知の転写因子である。
【0087】
本明細書中、Smad2及び3は通常、温血動物(哺乳動物又は鳥類)由来のものを意味する。哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、ミンク等の家畜、イヌ、ネコ等のペット、ヒト、サル、カニクイザル、アカゲザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類等を挙げることが出来るが、これらに限定されるものではない。鳥類としては、ニワトリ、ウズラ、アヒル、ガチョウ、シチメンチョウ、エミュ、ダチョウ、ホロホロ鳥、ハト等を挙げることができる。Smad2及び3は、好ましくは哺乳動物由来のものであり、より好ましくは霊長類(ヒト等)又はげっ歯類(マウス等)由来のものである。
【0088】
本発明の複合体における、PDLIM2とSmad2又は3との結合の強度は、免疫沈降試験においてPDLIM2とSmad2又は3とが共沈降し得る程度の強度である。
【0089】
PDLIM2、Smad2及びSmad3は、目的とするタンパク質を天然に発現する細胞から回収され得るタンパク質、又は組換えタンパク質であり得る。PDLIM2は、自体公知の方法により調製でき、例えば、a)天然のPDLIM2発現細胞(例、マクロファージ、樹状細胞、線維芽細胞、T細胞、B細胞)からPDLIM2を回収してもよく、b)宿主細胞(例、エシェリヒア属菌、バチルス属菌、酵母、昆虫細胞、昆虫、動物細胞)にPDLIM2発現ベクターを導入することにより形質転換体を作製し、該形質転換体により産生されるPDLIM2を回収してもよく、c)ウサギ網状赤血球ライセート、コムギ胚芽ライセート、大腸菌ライセート等を用いる無細胞系によりPDLIM2を合成してもよい。Smad2及びSmad3もまた同様に調製できる。PDLIM2、Smad2及びSmad3は、塩析や溶媒沈澱法などの溶解度を利用する方法;透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法、及びSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法などの主として分子量の差を利用する方法;イオン交換クロマトグラフィーなどの荷電の差を利用する方法;アフィニティークロマトグラフィー、抗体の使用などの特異的親和性を利用する方法;逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法;等電点電気泳動法などの等電点の差を利用する方法;これらを組合せた方法などにより適宜単離又は精製される。
【0090】
本発明の複合体は、このようにして得られたPDLIM2とSmad2又は3とを、適切な緩衝液中で混合し、結合させることにより製造することが出来る。得られた複合体は、好ましくは更に、ゲルろ過等により目的とする複合体以外のタンパク質を除去し、単離又は精製される。
【0091】
このような複合体の検出は、抗PDLIM2抗体及び/或いは抗Smad2抗体又は抗Smad3を用いる抗体免疫学的手法により行われ得る。
【0092】
本発明はまた、PDLIM2発現ベクターが導入されたSmad2又は3天然発現細胞、Smad2又は3発現ベクターが導入されたPDLIM2天然発現細胞、PDLIM2及びSmad2又は3を発現する1又は2個のベクター(例、発現ベクターの組合せ、共発現ベクター)が導入された細胞を提供する。本発明のこのような細胞は、本発明のスクリーニングに有用である。
【0093】
本明細書中で挙げられた特許及び特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、本明細書での引用により、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
【0094】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下に示す実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0095】
[実施例1]
[方法]
(プラスミド)
Smad発現コンストラクトを作成するため、マウスsmad2、3又は4のコード配列をpCMV−Myc(Clontech)内へ挿入した。c−Mycタグ化PDLIM2の発現プラスミドは、マウスpdlim2のコーディング領域をpCMV−Myc (Clontech)内へサブクローニングすることにより作成した。HA−タグ化PDLIM2コンストラクトのため、PDLIM2−pCMV−Mycコンストラクトのc−Mycタグ化pdlim2を、PCR増幅したHAタグが付加したマウスpdlim2のコーディング領域で置換した。pTAREルシフェラーゼレポーターコンストラクトは、STRATAGENEより購入した。
【0096】
(試薬及び抗体)
ヒト組み換えTGFβは和光純薬より購入した。抗Smad2及びSmad4抗体は、セルシグナリングテクノロジーより購入した。抗Smad3抗体はAbcamより購入した。抗HSP90抗体、抗Sp1抗体及び抗DNAポリメラーゼδ触媒サブユニット抗体は、サンタクルズバイオテクノロジーより購入した。抗アクチン抗体はシグマより購入した。抗Myc抗体はMBLより購入した。
【0097】
(創傷治癒試験)
Pdlim2-/-マウスの作成については以前に記載している(Tanaka et al, Nat. Immunol. 8, 584-591, 2007)。マウスをSPF(specific pathogen-free)条件下で維持し、Balb/cへ少なくとも7回バッククロスした後で用いた。全ての試験は理研横浜研究所動物使用委員会により許可されたガイドラインに従ったものである。全厚皮膚切除創傷を、背部皮膚の中心に作成した(直径6mm)。創傷から0、3、5及び7日後に創面積を測定した。創傷組織を7日目に採集し、10%ホルマリンで固定し、パラフィン中に包埋し、切片を作成し、ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)で染色した。
【0098】
(コラーゲンゲル収縮アッセイ)
このアッセイには、コラーゲンゲル培養キット(新田ゼラチン株式会社)を使用した。I型コラーゲン溶液を製造者のプロトコールに従って調製した。コラーゲン溶液を野生型胚性線維芽細胞及びPDLIM2欠損胚性線維芽細胞と混合し、12穴細胞培養プレート(各ウェル中に1ml)中に注ぎ、37℃で30分ゲル化させた。血清不含DMEM(1ml)を更にゲル上に注いだ。12時間のインキュベーション後、ゲルを各ウェルから分離し、浮遊させ、TGFβの存在下又は非存在下でインキュベートした。ゲルの表面積をゲルの遊離から0、8及び24時間後に測定した。
【0099】
(細胞、トランスフェクション、レポーターアッセイ)
マウス胚性線維芽細胞(MEF)を13.5dpc胚から調製し、表示したパーセントのFCSを添加したDMEM中で培養した。正常ヒト線維芽細胞は、Lonza Walkersville Incより購入し、線維芽細胞培養培地キット(Lonza)又は10%FCSを添加したDMEM中で培養した。293T細胞は10%FCSを添加したDMEM中で維持した。エフェクテントランスフェクション試薬(QIAGEN)を一過性トランスフェクションに使用した。レポーターアッセイのため、MEFをpTAREルシフェラーゼコンストラクト及び野生型PDLIM2分子又はフレームシフト変異体PDLIM2分子をコードする発現プラスミドをトランスフェクトした。トランスフェクトしたDNAの全量は、対照プラスミドを添加することにより一定に維持した。ルシフェラーゼ活性を製造者(Promega)のプロトコールに従って測定した。
【0100】
(細胞内分画、免疫沈降及び免疫ブロット)
免疫ブロット解析のために用いた全ての可溶化バッファーは、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche)を含有するものであった。細胞質抽出物および核抽出物は以下のように調製した。細胞を、低張性のバッファー(20mM HEPES pH8.0、10mM KCl、1mM MgCl、0.1% Triton X−100、20% グリセロール)により、氷上にて10分間可溶化した。遠心分離(5,000rpm、1分)後、上清を回収し、細胞質画分として使用した。次に、ペレットを高張性のバッファー(20mM HEPES pH8.0、1mM EDTA、20% グリセロール、0.1% Triton X−100、400mM NaCl)により、短時間のボルテックスをしたあと、氷上にて20分間可溶化した。遠心分離(15,000rpm、5分)後、上清を回収し、核画分として用いた。得られた画分の精製度を、抗HSP90抗体(細胞質用)、抗Sp1抗体(核画分用)を用いて確認した。免疫沈降のため、細胞をバッファー(250mM NaCl、50mM Tris pH8.0及び0.5% NP−40)中で可溶化することにより、全細胞抽出物を調製した。抽出物を抗Myc抗体及びプロテインGセファロース(AmershamBioscience)と共にインキュベートし、4回洗浄し、表示した抗体による免疫ブロット解析に付した。
【0101】
(ユビキチン化アッセイ)
293T細胞へ、c−Mycタグ化Smad2、3又は4、Hisタグ化ユビキチン及びHAタグ化野生型PDLIM2分子又はフレームシフト変異体PDLIM2分子をコードする発現プラスミドをトランスフェクトした。トランスフェクトした細胞を、6Mグアニジン−HCl、NaHPO/NaHPO、PH8.0、10mMイミダゾールを含む緩衝液を用いた変性条件下で抽出した。抽出物をNi−NTAアガロース(Novagen)で3時間インキュベートしたあと、25mM Tris pH6.8及び20mM イミダゾールを含有するバッファーで洗浄した。精製したタンパク質を抗c−Myc抗体による免疫ブロットに付した。
【0102】
(筋線維芽細胞分化試験)
野生型線維芽細胞及びPDLIM2欠損線維芽細胞を10%FCSを添加したDMEM中に播種した。24時間後、培地をFCSを含有しないDMEMに交換し、細胞を更に24時間培養した。その後、細胞をヒトTGFβ(10ng/ml)で3日間刺激した。細胞の形態を解析し、紡錘形細胞の百分率を算出した。
【0103】
(RT−PCR解析)
野生型線維芽細胞及びPDLIM2欠損線維芽細胞をFCS不含DMEM中に播種し、24時間培養した。次に、細胞をヒトTGFβ(10ng/ml)で3又は6時間刺激した。全RNAをRNeasy micro RNA extraction kit (Qiagen)を用いて抽出した。PrimeScript RT reagent kit (TAKARA)を用いてcDNAを合成し、7000シークエンスディテクター(Applied Biosystems)を用いた定量的リアルタイムPCR解析に付した。反応は、18S rRNA(内部対照)及びα-smooth muscle actin(TaqMan Gene Expression Assays, Applied Biosystems)に対するプライマーを用いて実施した。
【0104】
(siRNA)
二重鎖siRNAを合成し、ステルスsiRNA(Invitrogen)へ改変した。siRNAの標的部位は、Invitrogen からのオンラインツールであるBLOCK-iT RNAidesignerを用いて選択した。siRNAオリゴヌクレオチドの配列は以下の通りである;
マウスPDLIM2に対するsiRNA:5’-CAGAGATTTCCACACACCCATCATT-3’(配列番号5)
対照siRNA(マウス):5’-CAGTTTACACCCACATACCCGAATT-3’(配列番号6)
ヒトPDLIM2に対するsiRNA:5’-TGATGGCCACGATTATGTCTCCAGG-3’(配列番号7)
ステルスRNAi陰性対照二量体(Invitrogen, Cat#12935-115)を、ヒト線維芽細胞における対照として使用した。siRNAは、リポフェクタミンRNAiMAX(Invitrogen)を用いて、マウス胎児由来線維芽細胞又は正常ヒト皮膚線維芽細胞へトランスフェクトした。
【0105】
[結果]
(PDLIM2欠損マウスにおける創傷治癒反応の促進)
マウスの背部の皮膚を直径6mmの円形に切り取り、この部分の修復治癒過程を7日間観察した。野生型およびPDLIM2欠損マウスの7日目の創部を図1aに示した。PDLIM2欠損マウスにおける7日目の創部の大きさは、野生型マウスに比べて明らかに縮小しており、PDLIM2欠損マウスにおいて、創傷治癒が著明に促進していることが示唆された。また、PDLIM2欠損マウスにおいては、創部の周りの発毛が顕著に促進していた。図1bは野生型マウスおよびPDLIM2欠損マウスの創部の大きさを経時的に示したものである。PDLIM2欠損マウスにおいては、創作製後5日目以後で特に顕著に創部の面積の縮小が認められた。次に、創部の皮膚および皮下組織を組織学的に観察したところ、肉芽組織の形成、血管新生、再上皮化に関しては、PDLIM2欠損マウスと野生型マウスでは差が認められず、肉眼的な創部の収縮のみがPDLIM2欠損マウスにおいて亢進していることが明らかになった(図1c)。そこで次に、野生型およびPDLIM2欠損マウス由来の胎児初代培養線維芽細胞を用いて、in vitroでの創収縮モデルの実験を行った。これまでの研究から、この実験系における創収縮は、TGFβ刺激によって促進されることが明らかになっている。そこで、線維芽細胞をコラーゲンゲル溶液に包埋し、これを12時間培養した。その後ゲルを培養プレートから剥離して浮遊させ、TGFβ存在下および非存在下で経時的にコラーゲンゲルの表面積を測定することにより、それぞれの線維芽細胞を含むゲルの収縮の程度を評価した。PDLIM2欠損マウス由来線維芽細胞を包埋したゲルにおいては、TGFβで刺激したときの収縮が、野生型マウスの場合と比べて有意に促進していた(図1d)。このことから、PDLIM2欠損マウスにおいては、TGFβ依存性のシグナル伝達が亢進していることが示唆された。そこで、次にPDLIM2がTGFβ依存性のシグナル伝達をどのように制御しているのかに関して解析を行った。
【0106】
(PDLIM2はSmad2/3に結合し、TGFβ依存性シグナル伝達を抑制する)
TGFβが細胞表面の受容体に結合すると、受容体はまず転写因子Smad2およびSmad3のセリン残基を直接リン酸化する。これにより活性化されたSmad2/3はさらにSmad4と複合体を形成し、核に移行してさまざまな標的遺伝子の発現を誘導する。これらの活性化されたSmadは、ユビキチン化及び分解されることにより不活性化されることが報告されており、このユビキチン化を担うユビキチンリガーゼもすでにいくつか同定されている。PDLIM2は、核内蛋白であり、STAT4およびNF−κBに対するユビキチンリガーゼとしてはたらくことから、PDLIM2がSmadに対しても核内ユビキチンリガーゼとして機能している可能性を検討した。
まず、PDLIM2がこれらのSmad転写因子と会合するかどうかについて、共免疫沈降法を用いて検討を行った。c−Mycタグ化したPDLIM2を293細胞に強制発現し、この細胞の蛋白抽出物をc−Mycに対する抗体で免疫沈降した。そしてSmad2、3および4に対する抗体を用いて、それぞれのSmadのPDLIM2に対する結合を調べた。PDLIM2は、Smad2およびSmad3と選択的に会合し、Smad4とは結合しなかった(図2a)。次に、レポーターアセッイを用いてSmad依存性の遺伝子発現に対するPDLIM2の効果を調べた。線維芽細胞株に、Smadの結合配列を3個上流に有するルシフェラーゼレポータープラスミドを移入した。この細胞をTGFβで刺激するとレポーターが活性化されたが、ここにPDLIM2を同時に強制発現させるとレポーターの活性化を有意に阻害した(図2b)。これらのことから、PDLIM2がTGFβ依存性のSmadの活性化に対して抑制的にはたらくことが明らかになった。
【0107】
(PDLIM2はSmad2および3をユビキチン化及び分解する)
次に、PDLIM2がこれらのSmadをユビキチン化するかどうかを検討した。c−Mycタグ化したSmad2、3、または4の発現ベクターを、ヒスチジンタグ化したユビキチン発現ベクター、および、PDLIM2発現ベクターまたはコントロールベクターとともに293細胞に強制発現させた。これらの細胞の蛋白抽出物からニッケルNTAビーズを用いてヒスチジン標識された蛋白を精製し、抗c−Myc抗体を用いて、それぞれのSmadのユビキチン化を検出した(図3a)。PDLIM2の共発現により、Smad2およびSmad3は強くユビキチン化されたが、Smad4はほとんどユビキチン化されなかった。一般に、ユビキチン化されたタンパク質はプロテアソームによって分解されることが知られている。そこで、PDLIM2がSmad2および3の分解を誘導し得るかどうかを調べた。c−Mycタグ化したSmad2および3を、PDLIM2発現ベクターまたはコントロールベクターとともに293細胞に強制発現させた。これらの細胞から核分画を抽出し、抗c−Myc抗体を用いて核内のSmad2/3の蛋白量を調べた(図3b)。PDLIM2の共発現により、核内のSmad2および3のタンパク質量の減少が認められた。以上の結果より、PDLIM2はSmad2および3に選択的に結合して、これらの転写因子をユビキチン化及び分解することにより不活性化すること、すなわち、PDLIM2がSmad2およびSmad3のユビキチンリガーゼであることが明らかになった。
【0108】
(PDLIM2欠損細胞におけるSmad2/3の活性の亢進)
さらに、PDLIM2欠損マウス胎児由来線維芽細胞を用いて、TGFβによるSmadの活性化に対するPDLIM2の効果を検討した。野生型およびPDLIM2欠損マウス由来線維芽細胞を、TGFβ(0、2、10ng/ml)で1時間刺激し、細胞質分画および核分画を抽出した。そして、抗Smad2、3および4抗体を用いて、それぞれのSmadの細胞質内および核内のタンパク質量を調べた(図4)。PDLIM2欠損線維芽細胞においては、核内のSmad2および3のタンパク質量が、野生型マウス由来細胞と比べて有意に増加していた。これに対し、核内のSmad4のタンパク質量にはこれらの細胞間での差は認められなかった。また、細胞質内のSmad2および3のタンパク質量に関しては、両細胞間での差は認められなかった(図4)。これらより、PDLIM2欠損細胞においては、TGFβによるSmad2/3の活性化が亢進していることが示唆された。これはPDLIM2がSmad2/3の核内ユビキチンリガーゼであるという上記の知見とよく一致する。
【0109】
(PDLIM2欠損細胞における筋線維芽細胞への分化の亢進)
前述のように、創傷治癒過程にみられる創収縮においては、肉芽組織内の線維芽細胞が筋線維芽細胞へと分化することが重要であるが、TGFβがこの分化を促進することが明らかになっている。そこで、野生型およびPDLIM2欠損マウス由来線維芽細胞を、TGFβ存在下および非存在下で培養し、これらの細胞の筋線維芽細胞への分化を調べた。典型的な線維芽細胞は星型の形態をとるが、筋線維芽細胞に分化すると、これが紡錘形になり、細胞質からの突起が顕著に認められるようになる。PDLIM2欠損マウス由来線維芽細胞は、TGFβ存在下においては、野生型の細胞に比べて、紡錘型の細胞の割合が有意に増加していた(図5a、図5b)。また、筋線維芽細胞の分化のマーカーであるα−smooth muscle actinの発現も、PDLIM2欠損マウス由来線維芽細胞において亢進していた(図5c)。このことから、PDLIM2欠損細胞においては、TGFβ依存性の筋線維芽細胞への分化が亢進していることが明らかになった。
【0110】
(PDLIM2に対するsiRNAによる筋線維芽細胞への分化の亢進)
次に、siRNA(RNA干渉法)を用いて、線維芽細胞においてPDLIM2をノックダウンした場合の、筋線維芽細胞への分化に対する効果を検討した。まず、マウスのPDLIM2遺伝子に対するsiRNAおよびコントロールのsiRNAを野生型マウス由来線維芽細胞に移入した。PDLIM2に対するsiRNAを移入した細胞においては、コントロールのsiRNAを移入した細胞と比べて、紡錘型の細胞の割合が有意に増加していた(図6a、図6b)。また、PDLIM2に対するsiRNAを移入した細胞においては、TGFβ刺激したときのSmad2およびSmad3の核内蛋白量も、コントロールの細胞とくらべて亢進していた(図6c)。このことから、PDLIM2に対するsiRNAは、Smad2およびSmad3の分解を抑制し、TGFβ依存性のシグナル伝達を亢進させることにより、筋線維芽細胞への分化を促進させることが示唆された。さらに、ヒトのPDLIM2に対するsiRNAを作製し、これをヒト皮膚由来正常二倍体線維芽細胞に移入したところ、コントロールのsiRNAを移入した細胞と比べて、有意に紡錘型の細胞の割合が増加した(図6d)。以上より、PDLIM2の発現又は機能を抑制することにより、ヒトにおいても、筋線維芽細胞への分化が亢進することが示唆された。
【0111】
以上より、PDLIM2は、Smad2および3の核内ユビキチンリガーゼとして、これらの転写因子をユビキチン化及び分解することにより、TGFβによるSmadの活性化を負に調節していることが明らかになった。創傷治癒反応においては、PDLIM2はTGFβ依存性のシグナル伝達経路を負に調節することにより、創傷治癒反応が過剰にならないように適切な時点で終息させるようにはたらくことが示唆された。従って、PDLIM2の発現又は機能を抑制することにより、創傷治癒反応(特に、創部の収縮)が促進されることが示唆された。
【0112】
[実施例2]
二重鎖siRNAを合成し、ステルスsiRNA(Invitrogen)へ改変した。siRNAの標的部位は、Invitrogen からのオンラインツールであるBLOCK-iT RNAidesignerを用いて選択した。siRNAオリゴヌクレオチドの配列は以下の通りである;
マウスPDLIM2に対するsiRNA:5’-CACACCTGTGAGAAATGCAGCGTCA-3’(配列番号8)
対照siRNA(マウス):5’-CAGTTTACACCCACATACCCGAATT-3’(配列番号6)
マウス個体へsiRNAを投与する実験においては、Invivofectamine(Invitrogen社)を用いた。
InvivofectamineとsiRNA(PDLIM2の発現を特異的に阻害するsiRNA又はコントロールのRNA)とを、製造者のプロトコールに従って混合した。反応終了後、Amicon Ultra-15 CentifugalDevice with Ultracel-50 membrane(Amicon社)を用いて、反応産物の溶媒を5%グルコースと置換することにより、投与用のsiRNA溶液を得た。
【0113】
Balb/cマウスを麻酔し、背部の毛を剃ったあと、背部の皮膚を直径約7mmの円形に切除することにより、創傷を作成した。そして、得られたsiRNA溶液(PDLIM2の発現を特異的に阻害するsiRNA又はコントロールのRNA)を、1匹あたり30マイクロリットル(RNAとして20マイクログラム)、傷の粘膜の上に滴下した。5−10分ほどでsiRNA溶液は傷の粘膜に吸収された。この手術の間、マウスは麻酔のため、動かなかった。傷の長径と短径を経時的に測定し、治療前の傷の面積に対するパーセントを計算した。
【0114】
図7に創面積の経時的な変化を、図8にsiRNA投与群又はコントロール群の7日目の創部を示した。PDLIM2に対するsiRNAの投与により、コントロールと比較して傷の治癒が促進した。PDLIM2に対するsiRNAを投与した群では、傷の周りの発毛が顕著に促進されており、この効果は、PDLIM2のノックアウトマウスの表現型と一致していた(実施例1参照)。
【0115】
以上の結果から、PDLIM2の発現又は機能を抑制することにより、創傷治癒反応が促進することが示された。
【0116】
[参考例1]
実施例1及び2において使用したマウスPDLIM2に対するsiRNA(配列番号5(siPDLIM2-1)又は配列番号8(siPDLIM2-2))、或いは対照オリゴヌクレオチドを、リポフェクタミンRNAiMAX(Invitrogen)を用いて、マウス胎児由来線維芽細胞にトランスフェクトした。2日間培養したあと、核抽出物を調製し、抗PDLIM2抗体により免疫ブロットを行った。抗Sp-1抗体を対照として用いた。
図9に示すように、siPDLIM2-1およびsiPDLIM2-2のいずれのsiRNAも、同程度にPDLIM2の発現を抑制した。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明によれば、PDLIM2の発現又は機能の抑制という、これまでにない新たなメカニズムに立脚した創傷治療剤や、そのスクリーニング方法が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PDLIM2の発現又は機能を抑制する物質を含む、創傷治療剤。
【請求項2】
PDLIM2の発現又は機能を抑制する物質が、PDLIM2の発現を特異的に抑制し得るsiRNA、アンチセンス核酸、又はこれらのポリヌクレオチドを発現し得る発現ベクターである、請求項1の治療剤。
【請求項3】
被験物質が、PDLIM2の発現又は機能を抑制し得るか否かを評価することを含む、創傷を治療し得る物質のスクリーニング方法。
【請求項4】
1)PDLIM2の発現を測定可能な細胞を用いたPDLIM2の発現の測定、2)PDLIM2の機能を測定可能な再構成系を用いたPDLIM2の機能の測定、3)PDLIM2の機能を測定可能な細胞系を用いたPDLIM2の機能の測定、及び4)動物を用いたPDLIM2の発現又は機能の測定からなる群から選択されるいずれかにより行われる、請求項3記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
該評価が、被験物質がPDLIM2によるSmad2又は3のユビキチン化を抑制するか否かの評価に基づき行われる、請求項3記載のスクリーニング方法。
【請求項6】
該評価が、被験物質がPDLIM2及びSmad2又は3を含む複合体の形成を抑制するか否かの評価に基づき行われる、請求項3記載のスクリーニング方法。
【請求項7】
PDLIM2及びSmad2又は3を含む複合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−280651(P2010−280651A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−254379(P2009−254379)
【出願日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年11月5日 特定非営利活動法人 日本免疫学会発行の「日本免疫学会総会・学術集会記録 第38巻」に発表
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】