説明

力学量センサの製造方法

【課題】力学量センサの製造における初期投資やランニングコストを低減する。
【解決手段】
受圧管2のダイヤフラム10の表面に、めっき技術により絶縁膜20を形成する。さらに、絶縁膜20の上面に、めっき技術により金属薄膜30を形成する。そして、金属薄膜30を部分的に除去することにより、ひずみゲージ35を加工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部から加えられる力等の検出を行うために用いられる力学量センサの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
薄膜材料を使用する圧力センサには、アモルファスSi薄膜を有するものがある。この圧力センサを製造するためには、高度に管理されたシラン利用設備と高価なプラズマCVDあるいは光CVDなどの設備が必要となる。また、ダイヤフラムの表面に、スパッタリングにより、酸化シリコンの絶縁膜を形成した後、さらに酸化クロム膜を形成し、フォトリソグラフィー技術を利用してひずみゲージが形成された圧力センサがある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第2838361号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記圧力センサを製造する場合には、プラズマCVD、光CVDあるいはスパッタリング装置などの高価な設備や高価なターゲット材が必要になると共に、各設備の運用も厳重な管理が必要になる。そのため、初期投資やランニングコストが高くなるという大きな問題点がある。また、処理温度も比較的高く低融点の材料上には成膜が難しいという問題もある。また、有毒なシランガスを使用するので排ガス処理設備も必要になると共に、作業上の厳重な注意も必要になり、環境負荷が大きい。また、これらの方法は、形成する薄膜の膜圧均一性の理由から、比較的大量に処理はできない。
【0004】
そこで、本発明の目的は、初期投資やランニングコストを低減可能な力学量センサの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0005】
本発明の力学量センサの製造方法は、力または圧力を受けてひずみを発生させるダイヤフラムまたは起歪部を有する力学量センサの製造方法において、前記ダイヤフラムまたは起歪部の表面に絶縁膜をめっき技術により形成する絶縁膜形成ステップと、前記絶縁膜の表面に金属薄膜をめっき技術により形成する金属薄膜形成ステップとを備えたものである。
【0006】
本発明の力学量センサの製造方法は、力または圧力を受けてひずみを発生させるダイヤフラムまたは起歪部を有する力学量センサの製造方法において、前記ダイヤフラムまたは起歪部の表面に絶縁膜を化学反応により形成する絶縁膜形成ステップと、前記絶縁膜の表面に金属薄膜をめっき技術により形成する金属薄膜形成ステップとを備えたものである。
【0007】
本発明の力学量センサの製造方法の前記絶縁膜形成ステップでは、シラザンを溶媒で溶かして薄膜状に塗布し、これをオゾンで酸化させることにより絶縁膜を形成してもよい。
【0008】
本発明の力学量センサの製造方法は、力または圧力を受けてひずみを発生させ且つアルミニウムを材料としたダイヤフラムまたは起歪部を有する力学量センサの製造方法において、陽極酸化法により前記ダイヤフラムまたは起歪部の表面を酸化させることにより絶縁膜を形成する絶縁膜形成ステップと、前記絶縁膜の表面に金属薄膜をめっき技術により形成する金属薄膜形成ステップとを備えたものである。
【0009】
この構成によると、プラズマCVD、光CVDあるいはスパッタリング装置などの高価な設備が不要になる。そのため、初期投資(設備投資額)やランニングコストを低減することができる。その結果、製品コストが低減される。
【0010】
本発明の力学量センサの製造方法において、金属薄膜形成ステップで形成された金属薄膜からひずみゲージを加工するひずみゲージ加工ステップをさらに備えていてもよい。
【0011】
この構成によると、ひずみゲージを容易に作製することができる。
【0012】
本発明の力学量センサの製造方法において、前記ダイヤフラムを有する受圧管を作製する受圧管作製ステップをさらに備えていてもよい。
【0013】
この構成によると、受圧管一体型の力学量センサを製造可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る製造方法により製造される圧力センサの模式的な断面図である。本発明は、圧力、力、モーメント、加速度、角加速度などをひずみゲージを利用して検出する力学量センサに応用可能であるが、本実施の形態では圧力センサを例にとって説明する。
【0015】
図1に示す圧力センサ1は、ステンレス鋼で形成された受圧管2を有している。受圧管2の一端部にはダイヤフラム10が形成されており、他端部は測定する気体や液体を導入する圧力導入口4となっている。ダイヤフラム10の表面には、SiO2 薄膜などの絶縁膜20が形成されており、さらにその上に、ひずみゲージ35となる金属薄膜30が形成されている。ひずみゲージ35の端部には、リード線を接続するためのハンダランドとして導電性薄膜40が配置されている。そして、導電性薄膜40以外の部分に非導電性の保護膜50が形成されている。
【0016】
絶縁膜20は、S薄膜の他、窒化シリコン膜、酸化アルミ膜(アルマイト)などで形成されてもよい。ひずみゲージ35となる金属薄膜30は、酸化クロム膜、クロム膜、銅・ニッケル合金膜、ニクロム系合金膜、ニッケル膜、タングステン膜などの金属薄膜である。また、金属薄膜30には、フォトリソグラフィー技術を用いて任意のひずみゲージ35のパターンが形成される。そして、任意のひずみゲージ35はリード線により接続され、ブリッジ回路が構成されている。ここで、ブリッジ回路の構成は、公知の技術なので詳細な説明は省略する。
【0017】
次に、圧力センサ1の製造方法について、図2及び図3を参照して説明する。図2は、圧力センサの製造手順を示すフローチャートである。図3は、圧力センサの製造手順を示す図である。
【0018】
まず、適切な材料(例えばステンレス鋼)を用いて、図3(a)に示すように、受圧管2を作製する(ステップS101)。そして、図3(b)に示すように、受圧管2のダイヤフラム10の表面(薄膜を形成する面)を鏡面研磨して平坦にする(ステップS102)と共に、その他の面は、レジスト膜やマスキングテープなどのカバー15で覆うことにより、めっきが付かないようにする(ステップS103)。
【0019】
次に、ダイヤフラム10の表面に、図3(c)に示すように、酸化シリコン膜などの絶縁膜20を、水溶液からの酸化物膜製造技術を利用して形成する(ステップS104)。絶縁膜20は、なるべく平坦になるよう成膜するのが好ましい。また、母材のダイヤフラム10と、後で成膜する金属薄膜30とが電気的に接続されることがないようにピンホールの発生を抑えなければならない。また、耐電圧を高くするため、絶縁膜20の中になるべく水分が残らないように注意しなければならない。
【0020】
ここで、酸化物膜製造技術の例を示すが、液組成及び条件は適宜変更してもよい。
【0021】
第1の方法:酸化物の電解形成技術を利用する方法
液組成 (NHSiF:0.1mol/l
条件 25℃ pH3.3 −1V(Ag/AgCl)
【0022】
第2の方法:酸化物の化学的形成を利用する方法
液組成 (NHSiF:0.5mol/l
DMAB:0.2mol/l
条件 50℃
【0023】
第3の方法:液相析出法(LPD)
液組成 HSiF:2mol/l
BO
条件 35℃
【0024】
第4の方法:陽極酸化法(受圧管1の材料がアルミニウム、チタニウム、マグネシウムである場合)
但し、絶縁膜20は材料の酸化物となる。材料がアルミニウムの場合は、一般にアルマイト処理と呼ぶ。特に硬質アルマイトは、膜厚を100μmくらいまで厚くできるので、鏡面研磨をして平坦にし、後工程のフォトリソグラフィによるひずみゲージ形成を容易に且つ確実にできる。
【0025】
第5の方法:シラザンを溶媒に溶かして薄膜状に塗布し、これをオゾンで酸化して、絶縁膜20を形成する。
【0026】
次に、絶縁膜20の上面に、図3(d)に示すように、酸化クロム膜、クロム膜、銅・ニッケル合金膜、ニクロム系合金膜、ニッケル膜、タングステン膜などの金属薄膜30をめっきで形成する(ステップS105)。めっきは、電解の影響を受けにくく膜圧が均一になりやすい無電解めっきが好ましい。金属薄膜30の厚さや比抵抗は、ゲージ抵抗値に影響を与えるので、膜厚管理は厳重にした方がよい。膜厚が厚ければ、ひずみゲージの抵抗値は小さくなり、膜厚が薄ければ、ひずみゲージの抵抗値は大きくなる。
【0027】
なお、無電解めっきは、微量の添加剤の添加により浴の安定性が改善されることが知られている。一例として無電解ニッケルめっきの条件を示す。
<無電解ニッケルめっき浴>
硫酸ニッケル 0.04mol/l
三塩化チタン 0.04mol/l
四塩化チタン 0.04mol/l
クエン酸ナトリウム 0.24mol/l
ニトリロ三酢酸 0.04mol/l
硫黄含有化合物 10〜100mg/l
アミノ酸 100〜500mg/l
pH (アンモニア水で調整)8〜9
浴温 50℃
【0028】
次に、フォトリソグラフィーを用いて金属薄膜30の余分な部分をエッチング液で除去し、図3(e)に示すように、ひずみゲージ35に加工する(ステップS106)。そして、ひずみゲージを形成した後、図3(f)に示すように、ひずみゲージ35の両端部にリード線を接続するためのハンダランドとして導電性薄膜40をめっきで付ける(ステップS107)。導電性薄膜40の材質は、ハンダのぬれ性に優れた、例えばニッケル膜や銅膜などでよい。このとき、導電性薄膜40以外の部分をフォトリソグラフィー技術を用いて導電性薄膜40の部分以外にレジスト膜を付着させておけば、ニッケル膜を選択的に成膜し導電性薄膜40を形成することができる。なお、必要に応じ、この段階で、導電性薄膜40で形成したハンダランドにリード線をハンダ付けしてもよい。さらに、図3(g)に示すように、導電性薄膜40以外の部分にフォトリソグラフィー技術を用いて非導電性の保護膜50をめっきで形成する(ステップS108)。保護膜50として、酸化シリコン膜などを用いることができる。以上、めっき技術を利用した全ての薄膜の形成が完了し、レジスト膜やマスキングテープなどの覆いを取り外すと、図3(h)に示すように、圧力センサ1が完成する。
【0029】
以上説明したように、本実施の形態の圧力センサ1の製造方法では、高価なスパッタリング装置、プラズマCVD装置、光CVD装置などの設備は不要であり、その代わりに安価なめっき槽があればよいので、その分、設備投資は少額でよい。また、めっき技術では、めっき槽の容量を有効に利用でき比較的大量処理も可能である。その結果、初期の設備投資を抑えることができ、ランニングコストも小さくてすみ、大量の圧力センサ1を安価に製造できる。
【0030】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な設計変更が可能なものである。例えば、上述の実施の形態では、全ての薄膜をめっき技術により形成する場合を説明したが、絶縁膜20及び金属薄膜30がめっき技術により形成されれば、導電性薄膜40及び保護膜50は、めっき技術以外の方法で形成されてもよい。また、絶縁膜20及び金属薄膜30の形成以外において、必要が有れば、部分的にスパッタリング技術やCVD成膜技術を利用してもよい。例えば、前処理としてスパッタリング装置でめっきをする表面を清浄してもよい。この場合は、短時間の処理なので量産性は、大きく落ちることは無い。
【0031】
また、上述の実施の形態では、絶縁膜20及び金属薄膜30を成膜する際、ダイヤフラム10の圧力導入口4と反対側以外が、めっきが付かないようにレジスト膜やマスキングテープなどで覆われるが、覆わない方法もある。例えば、絶縁膜20及び金属薄膜30をそれぞれ全面的に成膜後、必要部分だけレジスト膜やマスキングテープなどで覆い不要な部分をエッチング液で除去してもよい。もちろん支障が無ければ受圧管1の全面に絶縁膜20や金属薄膜30が付いた状態のままにしておいてもよい。
【0032】
また、上述の実施の形態では、ダイヤフラムを備えた圧力センサ1の製造方法を説明しているが、圧力センサ以外の力覚センサや加速度センサ、角速度センサ、角加速度センサなどの基本的にひずみゲージやピエゾ抵抗素子を利用した力学量センサの製造方法に応用できる。また、ひずみゲージを形成するのは、ダイヤフラム上であってもよいし、ダイヤフラムのような形状ではなく、ひずみを発生させる起歪部でもよい。但し、フォトリソグラフィ技術を利用するので、ひずみゲージを形成する部分は、平坦な平面であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施の形態に係る製造方法により製造される圧力センサの模式的な断面図である。
【図2】圧力センサの製造手順を示すフローチャートである。
【図3】圧力センサの製造手順を示す図である。
【符号の説明】
【0034】
1 圧力センサ
2 受圧管
10 ダイヤフラム
20 絶縁膜
30 金属薄膜
35 ひずみゲージ
40 導電性薄膜
50 保護膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
力または圧力を受けてひずみを発生させるダイヤフラムまたは起歪部を有する力学量センサの製造方法において、
前記ダイヤフラムまたは起歪部の表面に絶縁膜をめっき技術により形成する絶縁膜形成ステップと、
前記絶縁膜の表面に金属薄膜をめっき技術により形成する金属薄膜形成ステップとを備えたことを特徴とする力学量センサの製造方法。
【請求項2】
力または圧力を受けてひずみを発生させるダイヤフラムまたは起歪部を有する力学量センサの製造方法において、
前記ダイヤフラムまたは起歪部の表面に絶縁膜を化学反応により形成する絶縁膜形成ステップと、
前記絶縁膜の表面に金属薄膜をめっき技術により形成する金属薄膜形成ステップとを備えたことを特徴とする力学量センサの製造方法。
【請求項3】
前記絶縁膜形成ステップでは、シラザンを溶媒で溶かして薄膜状に塗布し、これをオゾンで酸化させることにより絶縁膜を形成することを特徴とする請求項2に記載の力学量センサの製造方法。
【請求項4】
力または圧力を受けてひずみを発生させ且つアルミニウムを材料としたダイヤフラムまたは起歪部を有する力学量センサの製造方法において、
陽極酸化法により前記ダイヤフラムまたは起歪部の表面を酸化させることにより絶縁膜を形成する絶縁膜形成ステップと、
前記絶縁膜の表面に金属薄膜をめっき技術により形成する金属薄膜形成ステップとを備えたことを特徴とする力学量センサの製造方法。
【請求項5】
金属薄膜形成ステップで形成された金属薄膜からひずみゲージを加工するひずみゲージ加工ステップをさらに備えたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の力学量センサの製造方法。
【請求項6】
前記ダイヤフラムを有する受圧管を作製する受圧管作製ステップをさらに備えたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の力学量センサの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−71594(P2007−71594A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−256716(P2005−256716)
【出願日】平成17年9月5日(2005.9.5)
【出願人】(000111085)ニッタ株式会社 (588)
【Fターム(参考)】