説明

加圧加熱殺菌処理方法

【課題】内容物を容器に充填して加圧加熱殺菌処理するにあたり、容器内部の酸素を効率的に除去することができる加圧加熱殺菌処理方法を提供すること。
【解決手段】密封された容器内に充填された内容物を加圧加熱殺菌処理する方法であって、前記容器が、酸素吸収性材料により形成された酸素吸収性層と、酸素バリア性材料により形成され、酸素吸収性層よりも容器外側に位置する酸素バリア性層とを含んでなる積層体を用いて構成されたものであり、加圧加熱殺菌処理時に、前記容器内の圧力を加圧加熱殺菌処理時の内容物の温度における飽和水蒸気圧よりも0.10MPa以上高くすることを特徴とする加圧加熱殺菌処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加圧加熱殺菌処理方法に関し、さらに詳しくは、内容物を容器に充填して加圧加熱殺菌処理するにあたり、容器内部の酸素を効率的に除去することができる加圧加熱殺菌処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
長期保存するためには殺菌処理が必要となる調理済み食品や食材を可撓性を有する容器に充填して、その全体を加圧加熱殺菌処理することにより製造される食品(いわゆるレトルトパウチ食品など)は、常温での流通や長期保存が可能である上に、缶詰やビン詰に比して軽量であり使い勝手が良いことなどから、広く賞用されている。
【0003】
しかし、酸化劣化し易い食品を充填した容器を加圧加熱殺菌処理すると、その処理時や処理後の保存時において、容器のヘッドスペースなど容器内部に残存する酸素により内容物が酸化されて、内容物の風味が損なわれてしまうという問題があった。この問題を解決する手法として、例えば特許文献1〜3に記載されるように、酸素吸収性を備える容器に内容物を充填して加圧加熱殺菌処理を行うことにより、容器に容器内部の酸素を吸収させて、容器内部の酸素を除去する方法が知られている。
【0004】
しかしながら、酸素吸収性を備える容器に一般的な条件の加圧加熱殺菌処理を適用するだけでは、容器内部の酸素を十分に除去することは困難である。そこで、特許文献4では、酸素吸収性を備える容器に食品を充填して加圧加熱殺菌処理を行うにあたり、容器のヘッドスペースの酸素濃度を効率良く低減させる方法として、容器のヘッドスペースが容器内部で移動するように容器を動かしながら、加圧加熱殺菌処理を行う方法が提案されている。この特許文献4に記載された方法によれば、酸素吸収性を備える容器に一般的な条件の加圧加熱殺菌処理を単に適用する場合に比して、容器のヘッドスペースの酸素濃度を効率良く低減させることが可能となる。しかし、特許文献4に記載された方法では、容器のヘッドスペースを容器内部で移動させる必要があることから、特別な加圧加熱殺菌処理装置が必要になるという問題があり、また、この方法でも、容器内部の酸素の除去効率が十分であるとは言い難く、さらなる改良が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−58363号公報
【特許文献2】特開2007−22558号公報
【特許文献3】特開2007−204694号公報
【特許文献4】特開2002−128029号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、内容物を容器に充填して加圧加熱殺菌処理するにあたり、容器内部の酸素を効率的に除去することができる加圧加熱殺菌処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するために、鋭意検討を行った結果、特定の酸素吸収性を備える容器を用いる場合において、処理温度における飽和水蒸気圧よりも0.10MPa以上高い圧力条件で加圧加熱殺菌処理を行うと、容器内部の酸素を効率的に除去することができることを見出した。本発明は、この知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0008】
かくして、本発明によれば、密封された容器に充填された内容物を加圧加熱殺菌処理する方法であって、前記容器が、酸素吸収性材料により形成された酸素吸収性層と、酸素バリア性材料により形成され、酸素吸収性層よりも容器外側に位置する酸素バリア性層とを含んでなる積層体を用いて構成されたものであり、加圧加熱殺菌処理時に、前記容器内の圧力を加圧加熱殺菌処理時の内容物の温度における飽和水蒸気圧よりも0.10MPa以上高くすることを特徴とする加圧加熱殺菌処理方法が提供される。
【0009】
本発明では、前記酸素吸収性材料が、酸素吸収性成分として共役ジエン重合体環化物を含有してなるものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、内容物を容器に充填して加圧加熱殺菌処理する際に容器内部の酸素が効率的に除去されるので、内容物の酸化劣化が高度に防止される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の加圧加熱殺菌処理方法は、酸素吸収性材料により形成された酸素吸収性層と、酸素バリア性材料により形成され、酸素吸収性層よりも容器外側に位置する酸素バリア性層とを含んでなる積層体を用いて構成された容器に、内容物を充填して、容器を密封し、これを、容器内の圧力が加圧加熱殺菌処理時の内容物の温度における飽和水蒸気圧よりも0.10MPa以上高くなるようにして加圧加熱殺菌処理を行う方法である。
【0012】
本発明において加圧加熱殺菌処理の対象となる内容物は特に限定されないが、本発明は加圧加熱殺菌処理する際に容器内部の酸素が効率的に除去されることを特徴とするものであるから、酸化劣化性を有するものを内容物とする場合に特に好適に用いられる。そのような酸化劣化性を有する内容物の例としては、カレー、スープ、シチュー、粥、パスタソース、丼物の具、ハンバーグ、ミートボール、介護食などの食品や輸液などの医薬品を挙げることができる。
【0013】
本発明では、内容物を充填するための容器として、その少なくとも一部が、酸素吸収性材料により形成された酸素吸収性層と、酸素バリア性材料により形成された酸素バリア性層とを含んでなる積層体を用いて構成された容器を用いる。積層体の酸素吸収性層を構成する酸素吸収性材料は、酸素吸収性を有する材料であれば特に限定されないが、熱可塑性樹脂に酸素吸収性成分を配合してなる酸素吸収性樹脂組成物が好適に用いられる。
【0014】
酸素吸収性樹脂組成物の酸素吸収性成分に特に制限はなく、例えば、共役ジエン重合体環化物などの単独で酸素吸収性を発揮する高分子化合物、共役ジエン重合体やシクロオレフィン開環重合体などの酸化触媒の作用により酸素吸収性を発揮する高分子化合物と遷移金属塩などの酸化触媒との組成物、アスコルビン酸、エリソルビン酸、トコフェロールなどの還元性を有する有機化合物、還元鉄粉、亜鉛粉などの還元性を有する金属粉などを用いることができる。成形性に優れた酸素吸収性樹脂組成物(酸素吸収性材料)を得る観点からは、これらのなかでも、高分子化合物または高分子化合物を含有する組成物を用いることが好ましく、共役ジエン重合体環化物を用いることがより好ましく、ポリイソプレンの環化物を用いることが特に好ましい。なお、酸素吸収性成分として用いられ得る共役ジエン重合体環化物は、共役ジエン重合体を酸触媒の存在下に環化反応させて得られるものであり、その分子中に環構造を有し、環構造中に少なくとも1つの二重結合を有するものである。
【0015】
酸素吸収性成分として共役ジエン重合体環化物を用いる場合には、さらに脂肪酸を配合して用いることが好ましい。共役ジエン重合体環化物に脂肪酸を配合することにより、共役ジエン重合体環化物の酸素吸収性を改良することができる。共役ジエン重合体環化物に配合する脂肪酸は、特に限定されないが、炭素数18〜44の高級不飽和脂肪酸または高級飽和脂肪酸が好適である。炭素数18〜44の高級不飽和脂肪酸の具体例としては、オレイン酸、エイコセン酸、エルカ酸などの直鎖不飽和脂肪酸、2−メチル−9−オクタデセン酸、2−メチル−2−エイコセン酸などの分岐不飽和脂肪酸、ダイマー酸などの不飽和脂肪酸の多量体などを挙げることができる。また、炭素数18〜44の高級飽和脂肪酸の具体例としては、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸などの直鎖飽和脂肪酸、イソステアリン酸、イソアラキジン酸、イソベヘン酸、イソリグノセリン酸などの分岐飽和脂肪酸、ダイマー酸の水素添加物などの不飽和脂肪酸の多量体の水素添加物などを挙げることができる。これらの脂肪酸は、1種を単独で使用しても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。脂肪酸の配合量は、特に限定されるものではないが、共役ジエン重合体環化物の重量に対して、通常0.3〜15重量%であり、好ましくは0.5〜10重量%である。
【0016】
また、酸素吸収性成分として共役ジエン重合体環化物を用いる場合には、さらに軟化剤を配合することができる。共役ジエン重合体環化物に軟化剤を配合することにより、共役ジエン重合体環化物の酸素吸収性を改良することができる。軟化剤としては、それ自体のガラス転移温度が−30℃以下である液状物が好適に用いられ、その具体例としては、イソパラフィン系オイル、ナフテン系オイル、流動パラフィンなどの炭化水素オイル;ポリブテン、ポリイソブチレン、アタクティックポリプロピレン、エチレン−α−オレフィン共重合体(線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、線状超低密度ポリエチレン(LVLDPE)など)などのオレフィン重合体(低分子量のもの);ポリイソプレンやポリブタジエンなどの共役ジエン重合体の水素化物(低分子量のもの);スチレン−共役ジエン重合体の水素化物(低分子量のもの)が挙げられる。これらの軟化剤は、1種を単独で使用しても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。軟化剤の配合量は、特に限定されるものではないが、共役ジエン重合体環化物の重量に対して、通常15重量%以下であり、好ましくは5重量%以下である。
【0017】
酸素吸収性樹脂組成物に用いる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリα−オレフィン樹脂、ポリスチレンなどの芳香族ビニル樹脂、ポリ塩化ビニルなどのハロゲン化ビニル樹脂、ポリビニルアルコールやエチレン−ビニルアルコール共重合体などのポリビニルアルコール樹脂、フッ素樹脂、メタクリル樹脂などのアクリル樹脂、ポリアミド6樹脂、ポリアミド66樹脂、ポリアミド610樹脂、ポリアミド11樹脂、ポリアミド12樹脂およびこれらの共重合体などのポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、テレフタル酸−シクロヘキサンジメタノール系ポリエステルなどのポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂などを用いることができる。これらのなかでも、成形性が良好で、適度な柔軟性を有することから、ポリアミド樹脂またはエチレン−ビニルアルコール共重合体を用いることが好ましい。
【0018】
酸素吸収性樹脂組成物における酸素吸収性成分と熱可塑性樹脂との配合比は特に限定されないが、酸素吸収性成分/熱可塑性樹脂の重量比が、5/95〜50/50であることが好ましく、10/90〜40/60であることがより好ましい。
【0019】
酸素吸収性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂および酸素吸収性成分のみからなるものであっても良いが、さらに他の成分を含んでいても良い。他の成分の具体例としては、酸化防止剤、熱安定剤、相溶化剤、分散安定化剤、紫外線吸収剤、着色剤、顔料、中和剤、フタル酸エステルやグリコールエステルなどの可塑剤、炭酸カルシウム、アルミナ、酸化チタンなどの充填剤、粘着性付与剤(水添石油樹脂、水添テルペン樹脂、ひまし油誘導体、ソルビタン高級脂肪酸エステル、低分子量ポリブテン)、界面活性剤、レベリング剤、紫外線吸収剤、光安定剤、脱水剤、ポットライフ延長剤(アセチルアセトン、メタノール、オルト酢酸メチルなど)、ハジキ改良剤を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
酸素吸収性樹脂組成物の各成分を混合する方法は特に限定されず、公知の手法を採用すれば良いが、工程の簡便さやコストの観点から、溶融混練法が好適に使用される。溶融混練に用いる装置にも特に制限はなく、例えば、連続式インテンシブミキサー、(同方向または異方向)ニーディングタイプ二軸押出機、ミキシングロール、コニーダーなどの連続型混練機、高速ミキサー、バンバリーミキサー、インテンシブミキサー、加圧ニーダーなどのバッチ型混練機、KCK社製のKCK混練押出機などの、石臼のような摩砕機構を有する回転円板を使用した装置、一軸押出機に混練部(ダルメージ、CTMなど)を設けたもの、リボンブレンダー、ブラベンダーミキサーなどの簡易型の混練機などを用いることができる。混練温度は、通常50〜300℃の範囲であり、好ましくは170〜240℃の範囲である。
【0021】
以上のようにして得られる酸素吸収性樹脂組成物などの、本発明で用いる酸素吸収性材料の酸素吸収速度は特に限定されるものではないが、30℃における酸素吸収速度が、0.01cc/100cm・日以上のものであることが好ましい。ここで、酸素吸収性材料の酸素吸収速度は、対象とする酸素吸収性材料を厚さ20μmのフィルムとし、そのフィルムを、30℃、大気圧の下、一定容量の乾燥空気中に置いた場合に、そのフィルムが単位面積(100cm)当り1日(24時間)で吸収する酸素の容量(単位:cc)で表すものとする。
【0022】
本発明において、内容物を充填するための容器を構成するために用いられる積層体は、以上のような酸素吸収性材料により形成された酸素吸収性層に、その酸素吸収性層よりも容器外側に位置するように積層された、酸素バリア性材料により形成された酸素バリア性層を含んでなるものである。
【0023】
酸素バリア性材料としては、酸素透過性の低いものであれば、特に限定されず、金属、無機材料、樹脂などが用いられる。金属としては、一般に気体透過性の低いアルミニウムが用いられる。金属は、箔としてこれを樹脂フィルムなどに積層しても良く、蒸着によって樹脂フィルムなどの表面に薄膜を形成しても良い。無機材料としては、シリカやアルミナなどの金属酸化物が用いられ、これらの金属酸化物を単独で使用しまたは併用して、樹脂フィルムなどに蒸着して用いられる。樹脂は、酸素バリア性では金属や無機材料に及ばないものの、機械的性質、熱的性質、耐薬品性、光学的性質、製造方法などの観点において多用な選択肢があり、これらの利点から酸素バリア性材料として好ましく使用することができる。酸素バリア性材料として使用される樹脂の種類は特に限定されず、良好な酸素バリア性を有する樹脂であればいずれも使用することができるが、塩素を含まない樹脂を使用すると焼却処分時に有害ガスを発生することがないので好ましい。以上のように、種々の酸素バリア性材料により酸素バリア性層を形成することができるが、なかでも、樹脂フィルムに無機酸化物を蒸着した透明蒸着フィルムが酸素バリア性層として特に好ましく用いられる。
【0024】
酸素バリア性材料として用いられる樹脂の具体例としては、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体などのポリビニルアルコール樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、MXDナイロン(ポリメタキシリレンアジパミド)などのポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニリデンなどのハロゲン化ビニル樹脂、ポリアクリロニトリルなどを挙げることができる。これらの樹脂は、酸素バリア性材料、強度や靭性や剛性などの機械的特性、耐熱性、印刷性、透明性、接着性など、所望の要求特性を勘案して、多層フィルムとする目的に応じて適宜選択することができる。これらの樹脂は、一種類を単独で用いても良く、二種類以上を併用しても良い。また、これらの樹脂は、前述したような樹脂フィルムに無機酸化物を蒸着した透明蒸着フィルムで酸素バリア性層を構成する場合の樹脂フィルムの材料としても好適に用いることができる。
【0025】
積層体の酸素バリア性層の酸素透過度は、加工性やコストが許す限りできるだけ小さくすることが好ましく、その膜厚に関係なく100cc/m・atm・day(25℃、90%RH)未満であることが必要であり、より好ましくは50cc/m・atm・day(25℃、90%RH)以下である。
【0026】
容器を構成するために用いられる積層体は、酸素吸収性層および酸素バリア性層のみからなるものであって良いが、これら以外の他の層を含んでなるものであっても良い。他の層の具体例としては、密封材層、保護層、接着剤層などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0027】
密封材層は、通常、酸素吸収性層よりも容器内側に位置するように形成される層であり、熱によって溶融して相互に接着する(ヒートシールされる)ことによって、容器に容器外部と遮断された空間を形成する機能を有し、かつ、容器内部において酸素吸収性層と容器の内容物との直接接触を防ぎつつ酸素を透過させて酸素吸収性層に吸収させる層である。密封材層の形成に用いられるヒートシール可能な樹脂の具体例としては、エチレンの単独重合体およびプロピレンなどのα−オレフィンの単独重合体、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレン、メタロセンポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリブテン、;エチレンとα−オレフィンとの共重合体、例えば、エチレン−プロピレン共重合体;α−オレフィンを主体とする、α−オレフィンと酢酸ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルなどとの共重合体、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体などのポリα−オレフィン樹脂;ポリエチレンやポリプロピレンなどのα−オレフィン(共)重合体をアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマール酸、イタコン酸などの不飽和カルボン酸で変性した酸変性ポリα−オレフィン樹脂;エチレンとメタクリル酸との共重合体などにNaイオンやZnイオンを作用させたアイオノマー樹脂;これらの混合物;などが挙げられる。また、これらの樹脂に、例えば、酸化防止剤や滑剤などの各種添加剤を配合して、密封材層の材料としても良い。
【0028】
保護層は、積層体に耐熱性などを付与する目的で設けられる層であって、通常、容器の最外層となるように設けられる層である。保護層の形成に用いられる材料としては、高密度ポリエチレンなどのエチレン重合体;プロピレン単独重合体、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−エチレンブロック共重合体などのプロピレン重合体;ポリアミド6、ポリアミド66などのポリアミド;ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル;などの樹脂を挙げることができる。なお、酸素バリア性層として、ポリエステルフィルム、ポリアミドフィルム、樹脂フィルムに無機酸化物を蒸着した透明蒸着フィルムなどを使用する場合は、これらの酸素バリア性層に保護層の機能を兼ね備えさせることができる。
【0029】
接着剤層は、積層体を構成する任意の2層の間の密着性を改良する目的で設けられる層であって、通常、接着性樹脂によって形成される。接着性樹脂の種類は特に限定されず、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレンなどのα−オレフィンの単独重合体または共重合体;エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体;ポリウレタン系またはポリエステル系の一液型または二液型硬化性接着剤;カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂;などが好適に用いられる。なお、これらの接着性樹脂は、接着剤層以外の他の層の材料に配合して用いることも可能である。
【0030】
容器を構成するために用いられる積層体の全体の厚さは、特に限定されないが、通常800μm未満、好ましくは50〜400μmである。積層体における酸素吸収性層の厚さは、通常1〜50μmであり、好ましくは5〜30μmである。酸素バリア性層の厚さは、通常5〜50μmであり、好ましくは10〜50μmである。密封材層の厚さは、通常10〜700μmであり、好ましくは20〜400μmである。
【0031】
以上のような積層体を得る手法は特に限定されず、積層体を構成する各層の単層フィルムを得て、これらを積層しても良く、多層フィルムや多層チューブを直接成形して積層体として用いても良い。単層フィルムは、公知の方法で製造することができる。例えば、各層を構成する組成物などを溶媒に溶解して得た溶液を概ね平坦な面上に塗布・乾燥する溶液キャスト法によってフィルムを得ることができる。また、例えば、各層を構成する組成物などを押出し機で溶融混練した後、Tダイ、サーキュラーダイ(リングダイ)などを通して所定の形状に押出すことにより、Tダイ法フィルム、ブローンフィルムなどが得られる。押出し機としては、一軸押出し機、二軸押出し機、バンバリーミキサーなどの混練機を使用することができる。Tダイフィルムはこれを二軸延伸することにより、二軸延伸フィルムとすることができる。以上のようにして得られた単層フィルムから、押出しコート法や、サンドイッチラミネーション、ドライラミネーションなどによって積層することにより、積層体として用いることができる多層フィルムを製造することができる。
【0032】
多層フィルムや多層チューブの製造には、公知の共押出成形法を用いることができ、例えば用いる組成物の種類の数に応じた数の押出し機を用いて、多層多重ダイを用いる以外は上記と同様にして押出成形を行なえば良い。共押出成形法としては、共押出ラミネーション法、共押出シート成形法、共押出インフレーション成形法などを挙げることができる。
【0033】
本発明の加圧加熱殺菌処理方法では、容器内部と容器外部とを隔てる容器壁の少なくとも一部が、上述したような積層体を用いて構成された容器を用いる。このとき、容器壁を構成する積層体は、酸素バリア性層が酸素吸収性層よりも容器外側に位置するようにして容器が構成される。容器の形態は、密封が可能である限りにおいて特に限定されないが、加圧加熱殺菌処理時に容器内部の圧力調整を容易にする観点からは、容器壁の少なくとも一部が可撓性を有していることが好ましく、その具体例としては、袋状やシール蓋付容器状を挙げることができる。
【0034】
容器を袋状のものとする場合において、その種類は特に限定されず、例えば、三方または四方シールの通常のパウチ類、ガセット付パウチ類、スタンディングパウチ類、ピロー包装袋などのいずれであっても良い。なお、積層体を用いて袋状の容器を構成する手法は、常法に従えば良く、例えば、密封材層を備えたフィルム状またはチューブ状の積層体を得て、これにヒートシールなどの加工を加えることにより、所望の形態を有する袋状の容器を得ることができる。
【0035】
また、容器をシール蓋付容器状のものとする場合において、その種類は特に限定されず、例えば、トレー状やカップ状の容器本体と、その容器の開口部を密封可能な蓋材とからなる形態とすることができる。この場合、容器本体および蓋材の一方または両方を上述したような酸素吸収性層を有する積層体で構成することができるが、蓋材のみを酸素吸収性層を有する積層体で構成することが好ましい。
【0036】
本発明の加圧加熱殺菌処理方法では、上述したような容器に内容物を充填して、容器を密封したものを、処理の対象とする。容器の密封の方法は、容器の形態に応じて常法に従って行えば良く、特に限定されない。例えば、容器が密封材層を有する積層体により構成された袋状のものである場合には、内容物を充填した容器の開口部をヒートシールすることにより、密封することができる。
【0037】
本発明の加圧加熱殺菌処理方法は、以上のようにして得られる内容物が充填されて密封された容器を、容器内の圧力を加圧加熱殺菌処理時の内容物の温度における飽和水蒸気圧よりも0.10MPa以上高くなるようにして、加圧加熱殺菌処理を行うことを特徴とするものである。
【0038】
加圧加熱殺菌処理を行うために用いる装置は、処理の対象となる容器内の圧力を加圧加熱殺菌処理時の内容物の温度における飽和水蒸気圧よりも0.10MPa以上高くできるものである限りにおいて特に限定されないが、この圧力調整を容易にする観点からは、処理対象物収納部を加圧するための、エアコンプレッサーなどの加圧手段を備える加圧加熱殺菌処理装置が好適であり、なかでも、処理対象物収納部の温度および圧力を所望のものに制御する機能を有する加圧加熱殺菌処理装置が特に好適である。加圧加熱殺菌処理装置の加熱方式は、特に限定されず、例えば、熱水置換式、熱水シャワー式、蒸気加熱式など、各種加熱方式の装置を用いることができる。
【0039】
加圧加熱殺菌処理時の内容物の温度は、内容物の耐熱性などに応じて設定すれば良く、特に限定されないが、通常100〜140℃であり、好ましくは105〜135℃である。なお、加圧加熱殺菌処理時の内容物の温度は、処理の対象となる内容物の流動性などを考慮した上で、加圧加熱殺菌処理装置の処理対象物収納部の温度や処理時間を調整することにより、容易に調整することができる。
【0040】
加圧加熱殺菌処理時の容器内の圧力は、加圧加熱殺菌処理時の内容物の温度における飽和水蒸気圧よりも0.10MPa以上高いものであれば、特に限定されないが、当該飽和水蒸気圧よりも、0.13MPa以上高いことが好ましく、0.14MPa以上高いことがより好ましく、0.15MPa以上高いことが特に好ましい。加圧加熱殺菌処理時の容器内の圧力を高くするほど、容器内部の酸素の除去効率が向上する。加圧加熱殺菌処理時の容器内の圧力の上限は、特に限定されるものではないが、通常、加圧加熱殺菌処理時の内容物の温度における飽和水蒸気圧よりも0.20MPa高い圧力である。容器内の圧力の調整方法は、特に限定されるものでないが、容器として容器壁の少なくとも一部が可撓性を有するものを用いた上で、加圧加熱殺菌処理装置の処理対象物収納部の圧力を、容器内の圧力として所望の圧力と等しくなるように調整する方法が好適である。
【0041】
加圧加熱殺菌処理の時間は、処理温度や必要な殺菌の程度や酸素吸収の程度に応じて設定すれば良く、特に限定されないが、通常5〜120分であり、好ましくは10〜90分である。なお、加圧加熱殺菌処理が完了したら、常法に従って容器の冷却を行えば良い。
【0042】
以上のような本発明の加圧加熱殺菌処理方法では、加圧加熱殺菌処理時の容器内の圧力が、従来の処理における圧力よりも高くされるので、それに応じて、加圧加熱殺菌処理時における容器内の酸素ガスの分圧も高くなる。そのため、一定時間に、容器内部から容器を構成する積層体の酸素吸収性層へ侵入する酸素量が増大し、その結果、酸素吸収性層に吸収される酸素量も増大する。したがって、本発明の加圧加熱殺菌処理方法によれば、容器内部の酸素を効率的に除去することが可能となる。
【実施例】
【0043】
以下に、実施例および比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。なお、各例中の部および%は、特に断りのない限り、重量基準である。
【0044】
各種の測定については、以下の方法に従って行った。
【0045】
〔ポリイソプレン環化物の重量平均分子量(Mw)〕
ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて、ポリスチレン換算分子量として求めた。なお、溶出溶剤としては、テトラヒドロフランを使用した。
【0046】
〔ポリイソプレン環化物の不飽和結合減少率〕
(i) M.A.Golub and J.Heller,Can.J.Chem.,第41巻,937(1963).および(ii) Y.Tanaka and H.Sato,J.Polym.Sci:Poly.Chem.Ed.,第17巻,3027(1979).の文献に記載された方法を参考にして、プロトンNMR測定により求めた。なお、ポリイソプレンにおいて、環化反応前の全プロトンピーク面積をSBT、二重結合に直接結合したプロトンのピーク面積をSBU、環化反応後の全プロトンピーク面積をSAT、二重結合に直接結合したプロトンのピーク面積をSAUとすると、環化反応前の二重結合に直接結合したプロトンのピーク面積比率(SB)は、式:SB=SBU/SBTで表され、環化反応後の二重結合に直接結合したプロトンのピーク面積比率(SA)は、式:SA=SAU/SATで表される。従って、不飽和結合減少率は、式:不飽和結合減少率(%)=100×(SB−SA)/SBにより求められる。
【0047】
〔酸素濃度〕
パウチ内部の酸素濃度は、注射器によりパウチ内部の気体の一部を抜き取って、酸素濃度計(セラマテック社製、「フードチェッカー HS−750」)を用いて測定した。
【0048】
〔製造例1(ポリイソプレン環化物の製造)〕
攪拌機、温度計、還流冷却管および窒素ガス導入管を備えた耐圧反応器に、10mm角に裁断したポリイソプレン(シス−1,4単位73%、トランス−1,4単位22%、3,4−単位5%、重量平均分子量243,100)100部を、シクロヘキサン374部とともに仕込んだ。反応器内を窒素置換した後、75℃に加温して攪拌下でポリイソプレンをシクロヘキサンに完全に溶解した後、p−トルエンスルホン酸(トルエン中で、水分量が150ppm以下になるように、還流脱水したもの)0.95部を、15%のトルエン溶液として添加し、温度が80℃を超えないように制御しながら環化反応を行った。7時間反応させた後、炭酸ナトリウム0.59部を含む25%炭酸ナトリウム水溶液を添加して反応を停止した。80℃で、共沸還流脱水により水を除去した後、孔径2μmのガラス繊維フィルターにて系中の触媒残渣を除去した。得られた溶液からシクロヘキサンを留去して、さらに、真空乾燥によってトルエンを除去して、固形状のポリイソプレン環化物を得た。ポリイソプレン環化物の重量平均分子量は190,800であり、不飽和結合減少率は64.6%であった。得られた固形状のポリイソプレン環化物は、単軸混練押出機(40φ、L/D=25、ダイス径3mm×1穴、池貝社製)を用いて、シリンダー1:140℃、シリンダー2:150℃、シリンダー3:160℃、シリンダー4:170℃、ダイス温度170℃、回転数25rpmの混練条件で混練し、ペレット化した。
【0049】
〔製造例2(酸素吸収性樹脂組成物の調製)〕
製造例1で得られたポリイソプレン環化物のペレット19.7部、ダイマー酸の水素添加物(クローダ社製「Pripol 1009」)0.3部およびポリアミド樹脂のペレット(宇部興産社製「5034B」)80部を混合し、得られた混合物を、二軸混練押出機(43φ、L/D=33.5、ベルストルフ社製「ZE40A」)を用いて、シリンダー1:150℃、シリンダー2:200℃、シリンダー3:200℃、シリンダー4:200℃、ダイス温度200℃、回転数150rpmの混練条件で混練し、ペレット化することにより、酸素吸収性樹脂組成物のペレットを得た。この酸素吸収性樹脂組成物は、ポリアミド樹脂中に、ポリイソプレン環化物およびダイマー酸の水素添加物からなる酸素吸収性成分が分散した構成を有していた。
【0050】
〔製造例3(パウチの製造)〕
製造例2で得られた酸素吸収性樹脂組成物を、シリンダー温度150〜210℃、アダプター温度210℃、ダイス温度210℃、回転数15rpm、引取速度2.0m/分、引取ロール温度30℃の条件で、Tダイを備えたラボプラストミル単軸押出機(東洋精機社製、ダイス幅150mm、口径25mm)によって単層押出フィルム成形を行うことにより、厚さ20μmの酸素吸収性樹脂組成物の単層フィルムを得た。次いで、透明シリカ蒸着フィルム(「テックバリア T」、三菱樹脂社製)と、得られた酸素吸収性樹脂組成物の単層フィルムと、無延伸ポリプロピレンフィルム(「パイレンフィルム−CT P1146」、東洋紡績社製)とをこの順で積層して、これをロールラミネーターを用いて、ロール温度125℃の条件で各層を接着することにより、透明シリカ蒸着フィルム層(酸素バリア性層)/酸素吸収性樹脂組成物フィルム層(酸素吸収性層)/ポリプロピレンフィルム層(密封材層)の構成を有する多層フィルムを得た。この多層フィルムをヒートシールすることにより、大きさが100mm×150mmの三方シールパウチを得た。
【0051】
〔実施例1〕
製造例3で得られたパウチに、100ccの水と室温下で10ccの空気(酸素濃度20.7%)を充填した後、パウチの開口辺をヒートシールして密封した。次に、このパウチを、温度および圧力のデジタルコントローラーを備える蒸気加熱式加圧加熱殺菌処理装置(アルプ社製、「レトルト高圧蒸気滅菌器 RK−3030」)に収納して、温度121℃、圧力(ゲージ圧)0.264MPaに設定して、30分間加圧加熱殺菌処理を行った。加圧加熱殺菌処理完了後、加圧加熱殺菌処理装置の冷却プログラムにしたがってパウチを冷却処理し、冷却処理完了直後にパウチを加圧加熱殺菌処理装置から取り出した。取り出したパウチを、室内で1時間静置してから、パウチ内部の酸素濃度を測定したところ、酸素濃度は0.5%であった。なお、121℃における飽和水蒸気圧はゲージ圧で0.104MPaである。加圧加熱殺菌処理の条件および酸素濃度の測定結果は表1にまとめて示した。
【0052】
【表1】

【0053】
〔実施例2、比較例1および2〕
加圧加熱殺菌処理装置の設定温度および設定圧力を表1に示す通りに変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、パウチ内部の酸素濃度を測定した。なお、105℃における飽和水蒸気圧はゲージ圧で0.020MPaである。加圧加熱殺菌処理の条件および酸素濃度の測定結果は表1にまとめて示した。
【0054】
表1に示した結果から分かるように、加圧加熱殺菌処理時の処理温度(用いたパウチは十分な熱伝導性を有し、水は流動性に優れるので、パウチ内の水の温度は、処理温度に等しいといえる)における飽和水蒸気圧+0.10MPa未満の圧力下(用いたパウチは十分な可撓性を有するので、パウチ内の圧力は、加圧加熱殺菌処理装置内の圧力に等しいといえる)で加圧加熱処理を行った場合、パウチ内部に残存する酸素の濃度が高く、酸素が十分には除去されていないといえる(比較例1および2)。一方、加圧加熱殺菌処理の処理温度における飽和水蒸気圧よりも0.10MPa以上高い圧力下で加圧加熱処理を行った場合、パウチ内部に残存する酸素の濃度が低くなっていて、十分な酸素の除去が行われているといえる(実施例1および2)。したがって、本発明は、容器内部の酸素を効率的に除去することができる加圧加熱殺菌処理方法であるといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密封された容器に充填された内容物を加圧加熱殺菌処理する方法であって、前記容器が、酸素吸収性材料により形成された酸素吸収性層と、酸素バリア性材料により形成され、酸素吸収性層よりも容器外側に位置する酸素バリア性層とを含んでなる積層体を用いて構成されたものであり、加圧加熱殺菌処理時に、前記容器内の圧力を加圧加熱殺菌処理時の内容物の温度における飽和水蒸気圧よりも0.10MPa以上高くすることを特徴とする加圧加熱殺菌処理方法。
【請求項2】
前記酸素吸収性材料が、酸素吸収性成分として共役ジエン重合体環化物を含有してなるものであることを特徴とする請求項1に記載の加圧加熱殺菌処理方法。

【公開番号】特開2012−205543(P2012−205543A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73727(P2011−73727)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】