説明

加工方法及び加工装置

【課題】長尺ワークの両端部よりも中央寄りの一部に設けられた加工個所を加工する加工方法及び加工装置において、レスト装置とレスト支持面の加工工程、及び駆動金具を省略することができる、加工方法及び加工装置を提供する。
【解決手段】一対の工作物支持手段30L、30Rを互いに近接する方向に移動させて、一対の工作物支持手段30L、30Rの間に配置された長尺ワークWの両端部から一対の工作物支持手段30L、30Rの各々に長尺ワークWを挿入し、一対の工作物支持手段30L、30Rの各々が予め設定した加工個所Kの両端の近傍に達した場合、工作物支持手段30L、30Rの移動を停止して長尺ワークWを支持して加工個所Kの両端の近傍を支持し、工作物回転軸回りに回転させて加工個所Kを加工する加工方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺ワークの両端部よりも中央寄りの一部に設けられた加工個所を加工する加工方法、及び当該長尺ワークの加工個所を加工する加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、略円筒状の長尺ワーク(工作物)として、例えばEPS(Electric Power Steering)のステアリングロッドのねじ部(ボールネジ部)を研削加工する場合、図4の例に示すねじ研削盤101等を用いて加工している。なお、ステアリングロッドの加工すべきねじ部となる加工個所Kは、図1(B)に示すように、両端よりも中央寄りの一部の円筒面にのみ形成されており、ねじ部を加工する加工個所Kの他にも、ラック&ピニオンの構造におけるラック部KR(円筒面の一部を平面状にして、ピニオンギアが嵌合する溝が形成された形状)が形成されている。
また、本明細書では、Y軸方向は鉛直上向きの方向を示しており、X軸方向とZ軸方向は水平方向を示している。そしてX軸方向はワークWの回転軸(工作物回転軸)に直交する方向を示しており、Z軸方向はワークWの回転軸に平行な方向を示している。
【0003】
図4に示す従来のねじ研削盤101では、ワークWの一方の端面を心押しセンタ43(心押し台41に挿通されたラム42に設けられている)で支持し、他方の端面を主軸センタ33(主軸台31の主軸32に設けられている)で支持しており、ワークWの両端面を支持している。また、支持したワークWをZ軸方向に平行な工作物回転軸回りに回転させるために、制御装置50からの駆動信号にて主軸32を回転させ、主軸32から駆動ピン34を介して、ワークWを挟持させた駆動金具35を回転させている。なお、主軸台31及び心押し台41は、基台102上に固定されており、種々の長さのワークWに対して、心押し台41に挿通させたラム42が、制御装置50からの駆動信号によってワークWの長手方向にスライドすることで、主軸センタ33と心押しセンタ43との間隔が調整される。
また、制御装置50は、ねじ研削盤101を制御する数値制御装置、作業者が操作する操作盤、動作状態や操作指示を表示する表示装置等から構成されている。
【0004】
また、ねじ研削盤101には、ワークWを主軸センタ33と心押しセンタ43とで挟持するまでに一時的に保持するための仮受け台73、74と、砥石22を押し付けた際のワークWの湾曲を防止するレスト装置71、72が設けられている。レスト装置71は、図5(B)に示すように、ワークWにおける砥石22の反対側を支持体71Aで支持し、ワークWの上下を支持ピン71B、71Cにて支持する。
また、ねじ研削盤101では、基台102上にZ軸方向に平行に設けられたリニアガイドGZに沿ってZ軸方向に移動可能な砥石台10が設けられている。制御装置50は、Z軸方向駆動モータ10Mに駆動信号を出力するとともに、検出手段10E(エンコーダ等)からの検出信号にて、砥石台10のZ軸方向の位置及び速度を制御可能である。
また、砥石台10にはX軸方向に平行に設けられたリニアガイドGXに沿ってX軸方向に移動可能な砥石テーブル20が設けられている。制御装置50は、X軸方向駆動モータ20Mに駆動信号を出力するとともに、検出手段20E(エンコーダ等)からの検出信号にて、砥石テーブル20のX軸方向の位置及び速度を制御可能である。
そして砥石テーブル20には、Z軸方向に平行な砥石回転軸回りに回転する略円筒状の砥石22(加工工具に相当)、及び制御装置50からの駆動信号によって砥石22を回転させる砥石駆動モータ21が設けられている。
【0005】
また、ねじ研削盤101は、砥石22を必要に応じて成形(ツルーイング、ドレッシング)可能なツルーイング装置60(ツルーイング台61と成形砥石62とで構成)を主軸台31に備えており、砥石22は定期的にツルーイング装置60にて成形される。なお、ねじ研削盤101の例では、ツルーイング装置60は、X軸方向において、ワークWに対して砥石22の側に設けられており、砥石22を成形する場合、成形砥石62にて砥石22の加工面を成形する。なお、成形砥石62の回転は、制御装置50から制御される。
【0006】
また、例えば、特許文献1に記載された従来技術では、回転するスピンドル部と、当該スピンドル部と一体となって回転するチャック部とを備えた主軸装置を対向配置し、スピンドル部とチャック部に貫通穴を設け、長尺ワークを一方のスピンドル部の貫通穴を介してチャック部に向けて送り出し、長尺ワークの先端部をチャック部から突出させて加工を行う工程を繰り返し、対向配置した主軸装置の離間距離以上の長尺ワークを連続的に加工する、複合加工工作機械が提案されている。
【特許文献1】特開平1−121106号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図4に示す従来のねじ研削盤101は、図5(A)に示すように、主軸センタ33と心押しセンタ43とで長尺ワークWの両端面を支持しており、支持している間隔(長さL)が比較的長い。例えばステアリングロッドの場合、ワーク全体の長さLが約750mm、加工個所Kの長さL2が約250mm、加工個所Kの両側の長さL1、L3が各々約250mmであり、加工個所Kの直径は約35mm、他の部分の直径は約30mmである。
このため、長尺ワークWの中央寄りの加工個所Kに砥石22を押し当てて加工した場合、長尺ワークWが湾曲して加工精度が低下する可能性がある。そこで、加工個所Kの両端の近傍をレスト装置71、72にて支持し、長尺ワークWの湾曲を抑制している。
ところが、レスト装置71、72にて支持する長尺ワークWの円筒面であるレスト支持面を予め研削して精度を出しておく必要があり、レスト支持面を研削加工する研削盤及び加工工程を必要とし、作業効率の向上を阻害している。なお、この場合のレスト支持面の精度は、ねじ研削が完了した長尺ワークWとしては、不要な精度である。
また、従来のねじ研削盤101における駆動金具35を用いた方法では、作業者がワークWに駆動金具35を取り付ける作業、及び取り外す作業を自動化することが困難であり、作業時間の短縮が困難である。
【0008】
また、特許文献1に記載された従来技術では、長尺ワークWを対向配置した主軸装置の双方に挿通して、長尺ワークWの加工個所の両端の近傍を支持して加工を行うことについては記載されておらず、長尺ワークを一方のスピンドル部の貫通穴を介してチャック部に向けて送り出し、長尺ワークの先端部をチャック部から突出させて加工を行う工程を繰り返し、対向配置した主軸装置の離間距離以上の長尺ワークを連続的に加工している。
また、特許文献1において、他の長尺ワークWの加工については、特許文献1の第14図〜第19図に示されているように、長尺ワークWの両端部を支持して加工を行うことが記載されている。この場合、加工個所が長尺ワークWの中央部に近づくにつれて、長尺ワークWが湾曲する可能性がある。
本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、長尺ワークの両端部よりも中央寄りの一部に設けられた加工個所を加工する加工方法及び加工装置において、レスト装置とレスト支持面の加工工程、及び駆動金具を省略することができる、加工方法及び加工装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための手段として、本発明の第1発明は、請求項1に記載されたとおりの加工方法である。
請求項1に記載の加工方法は、工作物回転軸上に対向配置されて互いに近接及び離間可能であり、長尺ワークを挿入可能であるとともに挿入した長尺ワークを支持可能な一対の工作物支持手段を用いて長尺ワークを工作物回転軸回りに回転させ、支持された長尺ワークに対して加工工具を押し当てながら相対的に移動させて、長尺ワークの両端部よりも中央寄りの一部に設けられた加工個所を加工する加工方法におけるものである。
まず、前記一対の工作物支持手段を互いに近接する方向に移動させて、前記一対の工作物支持手段の間に配置された長尺ワークの両端部から前記一対の工作物支持手段の各々に長尺ワークを挿入していく。
更に、前記一対の工作物支持手段の各々が予め設定した加工個所の両端の近傍に達した場合、工作物支持手段の移動を停止して長尺ワークを支持することで、前記加工個所の両端の近傍を前記一対の工作物支持手段にて支持する。
そして、前記一対の工作物支持手段を前記工作物回転軸回りに回転させて前記加工個所を加工する、加工方法である。
【0010】
また、本発明の第2発明は、請求項2に記載されたとおりの加工方法である。
請求項2に記載の加工方法は、請求項1に記載の加工方法であって、長尺ワークは略円筒状であるとともに前記加工個所は両端部よりも中央寄りの一部の円筒面に設けられており、前記加工工具を、支持された長尺ワークに対して前記工作物回転軸に直交する方向に相対的に移動させて長尺ワークに押し当てながら、支持された長尺ワークに対して前記工作物回転軸に平行な方向に相対的に移動させるとともに、前記一対の工作物支持手段にて、前記加工個所の両端の近傍における円筒面を支持して、前記一対の工作物支持手段を前記工作物回転軸回りに回転させて前記加工個所にねじ部を加工する、加工方法である。
【0011】
また、本発明の第3発明は、請求項3に記載されたとおりの加工装置である。
請求項3に記載の加工装置は、長尺ワークを支持するとともに支持した長尺ワークを工作物回転軸回りに回転させる対向配置された一対の主軸装置と、支持された長尺ワークに対して押し当てられながら相対的に移動して加工する加工工具と、を備え、長尺ワークの両端部よりも中央寄りの一部に設けられた加工個所を加工する加工装置である。
前記一対の主軸装置の各々は、前記工作物回転軸回りに回転するスピンドル部と、前記スピンドル部と一体となって回転するとともに長尺ワークを支持可能なチャック部とを前記工作物回転軸上に備え、前記工作物回転軸に平行な方向に移動可能に構成されて互いに近接及び離間可能である。
また、前記スピンドル部及びチャック部には、長尺ワークを挿入可能な穴部が前記工作物回転軸に沿って形成されており、長尺ワークの少なくとも一方の端面には、当該長尺ワークの回転角度を特定可能な位置決め溝が形成されており、前記位置決め溝が形成された端面に対応する穴部には、前記位置決め溝に嵌合して前記工作物回転軸に平行な方向に移動可能であるとともに前記位置決め溝に嵌合する方向に付勢された嵌合部材が設けられている。
そして、前記一対の主軸装置を互いに近接する方向に移動させて、前記一対の主軸装置の間に配置された長尺ワークの両端部から前記一対の主軸装置の各々の前記穴部に長尺ワークを挿入していくとともに前記位置決め溝を前記嵌合部材に嵌合させ、前記一対の主軸装置の各々が予め設定した加工個所の両端の近傍に達した場合、主軸装置の移動を停止して前記チャック部にて長尺ワークを支持することで、前記加工個所の両端の近傍を、長尺ワークを所定の回転角度とした状態で前記チャック部の各々にて支持し、前記スピンドル部の各々を工作物回転軸回りに回転させて前記加工個所を加工する、加工装置である。
【0012】
また、本発明の第4発明は、請求項4に記載されたとおりの加工装置である。
請求項4に記載の加工装置は、請求項3に記載の加工装置であって、長尺ワークは略円筒状であるとともに前記加工個所は両端部よりも中央寄りの一部の円筒面に設けられており、前記加工工具は、支持された長尺ワークに対して前記工作物回転軸に直交する方向に相対的に移動して長尺ワークに押し当てられながら、支持された長尺ワークに対して前記工作物回転軸に平行な方向に相対的に移動するとともに、前記チャック部の各々にて、前記加工個所の両端の近傍における円筒面を、長尺ワークを所定の回転角度とした状態で支持して、前記スピンドル部の各々を前記工作物回転軸回りに回転させて前記加工個所にねじ部を加工する、加工装置である。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の加工方法、または請求項3に記載の加工装置では、長尺ワークの両端部を支持した場合と比較して、加工個所の両端の近傍(すなわち、図4に示す従来のレスト装置71、72で支持していた部位と同等の部位)を支持して加工し、支持間隔(図2(B)の長さL4)をより狭くすることができるので、長尺ワークの湾曲をより抑制することができる。
これにより、従来のねじ研削盤101で必要としていたレスト装置71、72及びレスト支持面を研削する研削盤及び加工工程が不要となり、作業効率をより向上させることができる。
また、長尺ワークをチャック部及びスピンドル部に加工個所の近傍まで挿入して、加工個所の近傍をチャック部で支持するので、従来のねじ研削盤101で必要としていた駆動金具35等を省略することができ、加工装置への長尺ワークの取り付け及び取り外しを自動化することができ、作業者の作業時間を短縮化することができる。
また、請求項3に記載の加工装置では、更に、長尺ワークを所定の回転角度とした状態でチャック部にて支持するので、例えば図1(B)に示すように支持しようとする部位にラック部KR等が形成されていても、これを回避した回転角度で適切に円筒面を支持することができる。
【0014】
また、請求項2に記載の加工方法、または請求項4に記載の加工装置を用いれば、略円筒状の長尺ワークの両端部よりも中央寄りの一部の円筒面に設けられた加工個所にねじ部を加工する加工方法または加工装置を、適切に実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明を実施するための最良の形態を図面を用いて説明する。図1(A)は、本発明の加工装置1(この場合、ねじ研削盤)の概略平面図の例を示しており、図1(B)は長尺ワークW(以下、長尺ワークWを、ワークWと記載する)の外観の例を示している。
【0016】
●[加工装置1の構成と長尺ワークWの概観(図1〜図3)]
図1(A)に示す本実施の形態にて説明する加工装置1は、図4に示す主軸装置30の主軸センタ33と心押し装置40の心押しセンタ43とでワークWの両端を支持する従来のねじ研削盤101に対して、チャック部33L、33Rにて挿入したワークWの加工個所Kの近傍の円筒面を支持する主軸装置30L、30Rを備え、レスト装置71、72、駆動金具35等が省略されている点が異なる。
また、図1(A)における各パーツの構成や動作等について、すでに説明した点については説明を省略する。
【0017】
図1(A)、及び図3(A)、(B)に示すように、加工装置1には、主軸装置30L、30R(一対の工作物支持手段に相当)が対向配置されており、主軸装置30LはリニアガイドGLに沿ってZ軸方向(工作物回転軸に平行な方向)に移動可能であり、主軸装置30RはリニアガイドGRに沿ってZ軸方向に移動可能である。
制御装置50は、主軸装置30L、30R用のZ軸方向駆動モータ30LM、30RMに駆動信号を出力し、検出手段30LE、30RE(エンコーダ等)からの検出信号を取り込み、主軸装置30L、30RのZ軸方向における位置及び移動速度等を制御可能である。例えば図3(A)及び(B)に示すように、Z軸方向駆動モータ30LM(30RM)は、ボールねじBL(BR)を回転させ、当該ボールねじBL(BR)にナット等で嵌合されたアームCL(CR)を移動させ、アームCL(CR)に接続された主軸装置30L(30R)を移動させる。
また、図1(B)にワークWの外観の例を示す。本実施の形態にて説明する加工装置1が対象とするワークWは、略円筒状の長尺ワークであり、ワークWの両端部よりも中央寄りの一部の円筒面に設けられた加工個所Kにねじ部を加工するワークWを対象とする。図1(B)は、上記の対象内容に合致するEPSのステアリングロッドの外観を示しており、当該ステアリングロッドは、ねじ部を加工する加工個所Kの他にも、ラック&ピニオンの構造におけるラック部KR(円筒面の一部を平面状にして、ピニオンギアが嵌合する溝が形成された形状)が形成されている。
尚、このようなステアリングロッドは、自動車等の車両に搭載され運転者によるステアリングホイールの操舵力を軽減するための電気式動力舵取装置(パワーステアリング装置)として、それぞれタイロッド及びナックルアームを介して左右の車輪に連結されたステアリングロッドに電気モータのトルクに基づく補助操舵力を作用させる、いわゆるラックアシストタイプの電気式動力舵取装置に用いられる。
ステアリングロッドのねじ部には多数のボールを介してボールねじナットが螺合され、電気モータの動力によってボールねじナットが回転すると該回転力(補助トルク)がステアリングロッドの軸方向の移動力(補助転舵力または補助操舵力)に変換され、ラック部KRを介して伝達される運転者によるステアリングホイールの操舵力を補助する。
【0018】
また、図2(A)は、スピンドル部32Lと、チャック部33Lと、ワークWの端面の外観の例を示しており、図2(B)は主軸装置30L、30Rの概略構造の例を示している。
主軸装置30Lは、主軸台31Lと、工作物回転軸回りに回転するスピンドル部32Lと、スピンドル部32Lと一体となって回転するとともに挿入されたワークWの円筒面を支持可能なチャック爪34Lを備えたチャック部33Lとで構成されている。また、スピンドル部32Lとチャック部33Lは、同軸上に(工作物回転軸上に)設けられており、ワークWをZ軸方向に挿入可能な径を有する穴部Nが形成されている。制御装置50は、チャック爪34Lの開閉を制御可能であり、スピンドル部32Lの回転を制御可能である。また、主軸装置30R、主軸台31R、スピンドル部32R、チャック部33R、チャック爪34Rについては、上記に説明した主軸装置30Lと同様であるので説明を省略する。
【0019】
ここで、図1(B)に示すワークWの場合、加工個所Kの両端の近傍を支持しようとすると、ラック部KRの部位の支持が必要となる。しかし、ラック部KRの面をチャック爪34Lまたは34Rで支持(把持)するのは適切でない。チャック爪34Lまたは34Rで支持(把持)する場合、ラック部KRの面を回避してワークWの円筒面を支持することが好ましい。
そこで、図2(A)に示すように、ワークWの端面には、ワークWの回転角度を特定可能な位置決め溝WMが形成されている(例えば、ラック部KRの面と平行な方向に位置決め溝WMが形成されている)。なお、位置決め溝WMは、少なくとも一方の端面に形成されていればよい。
なお、本実施の形態では、図3(A)及び(B)に示すように、ワークWにおけるラック部KRの側の端面を主軸装置30R側に挿入し、ラック部KRと反対側の端面を主軸装置30Lに挿入している。従って、チャック部33Lで支持するワークWの部位は、円周上のどの位置を支持しても円筒面であるので、図2(A)の点線内に示すように、チャック爪34Lが3つ爪のチャック部33Lを用いることが好ましい。また、チャック爪33Rで支持するワークWの部位は、円周上にラック部KRが有るため、これを回避して円筒部を支持できるように、チャック爪34Rが2つ爪のチャック部33Rを用いることが好ましい。なお、各々のチャック部に対するチャック爪の数は、特に限定されるものではない。
【0020】
また、本実施の形態にて説明するワークWは、ラック部KRの側の端面に位置決め溝WMが形成されており、反対側の端面には位置決め溝WMが形成されていない。
そして、図2(B)に示すように、位置決め溝WMが形成された端面が挿入されるスピンドル部32Rの穴部Nには、位置決め溝WMに嵌合してZ軸方向に移動可能であるとともにスピンドル部32Rと一体となって回転する嵌合部材35Rが設けられている。嵌合部材35Rは、弾性部材36RにてワークWの側(位置決め溝WMに嵌合する方向)に付勢されており、弾性部材36Rは、制御装置50からの制御信号によってスピンドル部32R内においてZ軸方向に移動可能な調整部材37Rに設けられている。
また、位置決め溝WMが形成されていない端面が挿入されるスピンドル部32Lの穴部Nには、ワークWの端面が当接する当接部材35Lと、Z軸方向に移動可能で当接部材35LのZ軸方向の位置を制御する調整部材37Lが設けられている。
なお、図2(B)ではより明確となるように、スピンドル部32L及び32R内に設けられた嵌合部材35R、弾性部材36R、調整部材37R及び37L、当接部材35Lを点線ではなく実線で記載している。
上記の説明では、ワークWの位置決め溝WMをラック部KRの側の端面のみに形成した例を説明したが、位置決め溝WMをワークWの両端面に形成してもよい。その場合、スピンドル部32L内の当接部材35Lを嵌合部材35Rと同様の部材とすればよい。
【0021】
●[ねじ部の加工手順(図3)]
次に、図3(A)及び(B)を用いて、加工装置1によるワークWの加工の手順について説明する。図3(A)及び(B)は、作業者から見た加工装置1の正面図を示しており、図1(A)の平面図に対して砥石22等を省略している。
ワークWをセットする前は、主軸装置30L、30Rの間隔はワークWの長さよりも長く、チャック爪34L、34Rはアンクランプ状態(開口状態)となっている。この状態を初期状態とする。このとき、嵌合部材35Rの回転角度が、所定角度位置(例えば、位置決め溝WMが上下方向である場合に嵌合する角度位置)となるように制御装置50から、回転角度が初期化されている。
なお、初期状態では、調整部材37L、37Rを近接する方向に移動させ、チャック部33Lの穴部Nの位置まで当接部材35Lを移動させ、チャック部33Rの穴部Nの位置まで嵌合部材35Rを移動させておくと、作業者から嵌合部材35Rが見えるので、ワークWの位置決め溝WMに嵌合部材35Rを確実に嵌合させることができるようにワークWを容易にセットすることができる。
なお、図3(A)及び(B)では、弾性部材36R、調整部材37L、37Rの図示を省略している。
【0022】
作業者は、主軸装置30Lと30Rの間、且つ仮受け台73、74の上にワークWをセットし(この場合、位置決め溝WMが上下方向となるようにセットする)、制御装置50から加工開始の指示を入力する。このときの状態が、図3(A)に示す状態である。
すると、主軸装置30L、30Rは、制御装置50からの制御信号によって、互いにZ軸方向に近接する方向に移動する(ワークWを両端部から挟み込む)。そしてワークWの両端部は、チャック部33L、33Rの穴部をとおり、スピンドル部32L、32Rの穴部に挿入されていく。このとき、嵌合部材35Rには位置決め溝WMが嵌合され、当接部材35LにはワークWの端面が当接され、制御装置50は、主軸装置30Lの移動方向と反対方向に調整部材37Lを移動させ、主軸装置30Rの移動方向と反対方向に調整部材37Rを移動させ、弾性部材36Rによる付勢力を調整する。
【0023】
そして、制御装置50は、予め設定した加工個所Kの近傍となる位置まで主軸装置30L、30Rを移動させると、主軸装置30L、30Rの移動を停止する。そして制御装置50は、チャック爪34L、34Rをアンクランプ状態からクランプ状態に制御し、ワークWの加工個所Kの両端の近傍の円筒面をチャック爪34L、34Rにて支持する。このときの状態が、図3(B)に示す状態である。このとき、チャック爪34Lまたは34Rで支持(把持)しようとする部位に図1(B)に示すラック部KR等があっても、ワークWの位置決め溝WMと嵌合部材35Rとを嵌合させることで、前記ラック部KRを回避した円筒面をチャック爪34Rで支持(把持)することができる。なお、ワークWをチャック爪34L及び34Rでクランプすると、ワークWは仮受け台73、74から少し浮いた状態となり、ワークWと仮受け台73、74とが非接触状態となり、ワークWを回転させても仮受け台73、74と干渉しない。
そして制御装置50は、スピンドル部32L、32Rを回転させてワークWを工作物回転軸回りに回転させる。
そして、制御装置50は、加工個所Kの端部に工作物回転軸に直交する方向から砥石22(回転砥石)を押し当てながら、ワークWの回転角度に対応させて砥石22を工作物回転軸に平行な方向に移動させて、加工個所Kにねじ部を加工する。
【0024】
以上、本実施の形態にて説明した加工装置1、ねじの加工方法では、レスト装置71、72とレスト支持面の加工工程を省略することができるので、作業効率が良く、レスト支持面を加工するための研削盤も省略することができる。
また、図4に示す従来のねじ研削盤101では、ラム42を伸長させて心間調整しており、200mmも突出させると剛性が低下してしまうが、本実施の形態の加工装置1では、リニアガイドGL、GRを使用して主軸装置30L、30Rを移動させて心間調整しており、200mm以上の移動を行っても充分な剛性を確保している(心間距離で剛性が変化しない)。
本実施の形態にて説明した加工装置1では、従来のねじ研削盤101におけるレスト装置71、72にて支持していた部位と同等の部位をチャック爪34L、34Rで支持するので、ワークWの湾曲を抑制して高精度にねじ加工を行うことができる。
また、駆動金具35等を省略して主軸装置30L、30Rの移動とチャック爪の開閉にて、ワークWのセットと解放を行うことができるので、自動化が可能であり、作業者の作業時間を短縮化することができる。
また、レスト装置71、72の間隔が固定である従来のねじ研削盤101に対して、本実施の形態にて説明した加工装置1では、チャック爪34L、34Rの支持部位を自由に設定できるので、種々のワークWに対して、より適切な部位を支持することができる。
また、本実施の形態の説明では、ワークWに対して砥石22をX軸方向に移動させたが、砥石22に対してワークWをX軸方向に移動させる構成にすることもできる。従って、砥石22はワークWに対して相対的にX軸方向に移動するものである。
同様に、Z軸方向については、ワークWに対して砥石22をZ軸方向に移動させたが、砥石22に対してワークWをZ軸方向に移動させる構成にすることもできる。従って、砥石22はワークWに対して相対的にZ軸方向に移動するものである。
【0025】
本発明のねじ部の加工方法及び加工装置1は、本実施の形態で説明した加工手順、加工装置1の外観、構成、構造等に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更、追加、削除が可能である。
また、ワークWは、本実施の形態にて説明したステアリングロッド(EPSボールねじ)に限定されるものではなく、略円筒状の長尺ワークで、両端部よりも中央寄りの一部の円筒面の加工個所を加工するワークに適用することができる。また、加工装置1も、ねじ研削盤に限定されず、前記条件を満足するワークに対応した種々の加工装置に適用することができる。
また、加工工具は砥石22に限定されず、バイト等、種々の加工工具を利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の加工装置1の外観(平面図)の一実施の形態を説明する図、及びワークWの外観の例を説明する図である。
【図2】スピンドル部32L、チャック部33L、ワークWの端面に形成した位置決め溝WMの外観の例、及び主軸装置30L、30Rの構造を説明する図である。
【図3】加工装置1による加工個所Kにねじ部を加工する加工手順を説明する図である。
【図4】従来のねじ研削盤101の外観(平面図)の例を説明する図である。
【図5】従来のねじ研削盤101における主軸センタ33、駆動金具35、レスト装置71等の例を説明する図である。
【符号の説明】
【0027】
1 研削盤
2 基台
10 砥石台
10M、30LM、30RM Z軸方向駆動モータ
10E、30LE、30RE 検出手段
20 砥石テーブル
20M X軸方向駆動モータ
20E 検出手段
21 砥石駆動モータ
22 砥石(加工工具)
30L、30R 主軸装置(工作物支持手段)
31、31L、31R 主軸台
32、32L、32R 主軸
33 主軸センタ
33L、33R チャック部
34L、34R チャック爪
35R 嵌合部材
35L 当接部材
35 駆動金具
50 制御装置
60 ツルーイング装置
61 ツルーイング台
62 成形砥石
71、72 レスト装置
73、74 仮受け台
W ワーク(工作物)
WM 位置決め溝
K 加工個所



【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作物回転軸上に対向配置されて互いに近接及び離間可能であり、長尺ワークを挿入可能であるとともに挿入した長尺ワークを支持可能な一対の工作物支持手段を用いて長尺ワークを工作物回転軸回りに回転させ、
支持された長尺ワークに対して加工工具を押し当てながら相対的に移動させて、長尺ワークの両端部よりも中央寄りの一部に設けられた加工個所を加工する加工方法において、
前記一対の工作物支持手段を互いに近接する方向に移動させて、前記一対の工作物支持手段の間に配置された長尺ワークの両端部から前記一対の工作物支持手段の各々に長尺ワークを挿入していき、
前記一対の工作物支持手段の各々が予め設定した加工個所の両端の近傍に達した場合、工作物支持手段の移動を停止して長尺ワークを支持することで、前記加工個所の両端の近傍を前記一対の工作物支持手段にて支持し、
前記一対の工作物支持手段を前記工作物回転軸回りに回転させて前記加工個所を加工する、
加工方法。
【請求項2】
請求項1に記載の加工方法であって、
長尺ワークは略円筒状であるとともに前記加工個所は両端部よりも中央寄りの一部の円筒面に設けられており、
前記加工工具を、支持された長尺ワークに対して前記工作物回転軸に直交する方向に相対的に移動させて長尺ワークに押し当てながら、支持された長尺ワークに対して前記工作物回転軸に平行な方向に相対的に移動させるとともに、前記一対の工作物支持手段にて、前記加工個所の両端の近傍における円筒面を支持して、前記一対の工作物支持手段を前記工作物回転軸回りに回転させて前記加工個所にねじ部を加工する、
加工方法。
【請求項3】
長尺ワークを支持するとともに支持した長尺ワークを工作物回転軸回りに回転させる対向配置された一対の主軸装置と、
支持された長尺ワークに対して押し当てられながら相対的に移動して加工する加工工具と、を備え、長尺ワークの両端部よりも中央寄りの一部に設けられた加工個所を加工する加工装置であって、
前記一対の主軸装置の各々は、前記工作物回転軸回りに回転するスピンドル部と、前記スピンドル部と一体となって回転するとともに長尺ワークを支持可能なチャック部とを前記工作物回転軸上に備え、前記工作物回転軸に平行な方向に移動可能に構成されて互いに近接及び離間可能であり、
前記スピンドル部及びチャック部には、長尺ワークを挿入可能な穴部が前記工作物回転軸に沿って形成されており、
長尺ワークの少なくとも一方の端面には、当該長尺ワークの回転角度を特定可能な位置決め溝が形成されており、
前記位置決め溝が形成された端面に対応する穴部には、前記位置決め溝に嵌合して前記工作物回転軸に平行な方向に移動可能であるとともに前記位置決め溝に嵌合する方向に付勢された嵌合部材が設けられており、
前記一対の主軸装置を互いに近接する方向に移動させて、前記一対の主軸装置の間に配置された長尺ワークの両端部から前記一対の主軸装置の各々の前記穴部に長尺ワークを挿入していくとともに前記位置決め溝を前記嵌合部材に嵌合させ、
前記一対の主軸装置の各々が予め設定した加工個所の両端の近傍に達した場合、主軸装置の移動を停止して前記チャック部にて長尺ワークを支持することで、前記加工個所の両端の近傍を、長尺ワークを所定の回転角度とした状態で前記チャック部の各々にて支持し、
前記スピンドル部の各々を工作物回転軸回りに回転させて前記加工個所を加工する、
加工装置。
【請求項4】
請求項3に記載の加工装置であって、
長尺ワークは略円筒状であるとともに前記加工個所は両端部よりも中央寄りの一部の円筒面に設けられており、
前記加工工具は、支持された長尺ワークに対して前記工作物回転軸に直交する方向に相対的に移動して長尺ワークに押し当てられながら、支持された長尺ワークに対して前記工作物回転軸に平行な方向に相対的に移動するとともに、前記チャック部の各々にて、前記加工個所の両端の近傍における円筒面を、長尺ワークを所定の回転角度とした状態で支持して、前記スピンドル部の各々を前記工作物回転軸回りに回転させて前記加工個所にねじ部を加工する、
加工装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−72842(P2009−72842A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−242315(P2007−242315)
【出願日】平成19年9月19日(2007.9.19)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】