説明

加工肉片の調製方法及び加熱殺菌済食品の調製方法

【課題】レトルト具材肉片の軟化方法及び加熱殺菌済食品の調製方法を提供する。
【解決手段】少なくとも10mm角程度以上の大きさである生の肉片に、複数の突き刺し刃を間隔を空けて立設した突き刺し手段を当接して突き刺し処理し、突き刺し処理後の肉片を、軟化剤と接触させて軟化処理することを特徴とする加工肉片の調製方法、該方法で軟化処理した肉片、及び該肉片を含むレトルト食品等の加熱殺菌済食品。
【効果】レトルト処理後においても、高い軟らかさを維持することを可能にするレトルト食品の具材肉片の軟化方法、及びその製品を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レトルト具材肉片の軟化方法及びその製品に関するものであり、更に詳しくは、突き刺し処理と軟化剤による処理を組み合わせて具材としての肉片を軟化処理する方法、その軟化肉片、及び該軟化肉片を具材として用いたレトルト食品等の加熱殺菌済食品の調製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、肉の軟化方法として、種々の方法が提案されている。例えば、先行文献には、肉片の改質剤及びこれで処理した食用肉片として、乳化剤を用いた肉の軟化方法(特許文献1)が記載されている。しかし、この種の方法には、肉に厚みがある場合、内部まで乳化剤が浸透せず、十分軟化しないという問題点があった。また、他の先行文献には、「肉たたき器」としての剣山によって肉に穴を開け、肉を柔らかくする方法(特許文献2)が記載されている。しかし、この種の方法には、肉に穴を開けるだけでは保水性が低下して、肉がパサパサになり食感が低下するという問題点があった。
【0003】
一方、レトルト食品の技術分野では、具材の肉片が、その製造工程で高温加熱処理されることで硬化し、食感が低下するという問題点があることから、その解決策として、上述のような肉の軟化方法が採用される事例があった。しかし、それらの方法では、依然として食感が低下をするという問題を完全に解決するには至っておらず、当技術分野においては、そのような問題を抜本的に解決することが可能な新しいレトルト具材肉片の軟化方法及びその製品を開発することが強く要請されていた。
【0004】
【特許文献1】特開平7−170942号公報
【特許文献2】実用新案登録第3035995号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、食感低下を防止することが可能な新しいレトルト具材肉片の軟化方法を開発することを目標として鋭意研究を重ねた結果、突き刺し処理と乳化剤等の軟化剤による軟化処理を組み合わせること及び特定の処理条件を採用することで所期の目的を達成し得ることを見出し、更に研究を重ねて、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明は、予め生の肉片に突き刺し処理を行い、次いで、肉片の内部まで軟化剤を浸透させる特定の処理を施すことで、軟化処理の効果を顕著に向上させることを可能とする加工肉片の調製方法及び上記肉片を含むレトルト食品等の加熱殺菌済食品の調製方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)少なくとも10mm角程度以上の大きさである生の肉片に、複数の突き刺し刃を間隔を空けて立設した突き刺し手段を当接して突き刺し処理し、突き刺し処理後の肉片を、軟化剤と接触させて軟化処理することを特徴とする加工肉片の調製方法。
(2)針状、平板状等の突き刺し刃を、略1〜10mmの間隔を空けて略均一に立設した突き刺し手段により、突き刺し処理を行う前記(1)に記載の方法。
(3)突き刺し手段により、多面又は両面から突き刺し処理を行う前記(2)に記載の方法。
(4)50〜80℃の温度下で、軟化剤を接触させて軟化処理する前記(1)に記載の方法。
(5)軟化剤が、ノニオン系乳化剤、酵素、又はアルカリ剤である前記(1)又は(4)に記載の方法。
(6)軟化剤がモノグリセリドあるいはジグリセリドとポリカルボン酸とのエステルを含有する乳化剤である前記(5)に記載の方法。
(7)軟化処理が、上記軟化剤を含有する溶液に肉片を浸漬するか、該溶液を肉片にスプレーするか、肉片と軟化剤とをタンブリングするか、あるいは上記の処理が任意の順に併せて行われる前記(1)に記載の方法。
(8)溶液中の軟化剤の濃度が、肉片に対して0.1〜5.0質量%である前記(5)又は(6)に記載の方法。
(9)前記(1)から(3)のいずれかに記載の方法で突き刺し処理した肉片を、50〜80℃の温度下で軟化剤を接触させて軟化処理した後、80℃を超え100℃までの温度下に置いて昇温し、その肉片を食品に加えて、加熱殺菌処理することを特徴とする加熱殺菌済食品の調製方法。
【0008】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明の加工肉片の調製方法は、少なくとも10mm角程度以上の大きさである生の肉片に、複数の突き刺し刃を間隔を空けて立設した突き刺し手段を当接して突き刺し処理し、突き刺し処理後の肉片を、軟化剤と接触させて軟化処理することを特徴とするものである。本発明では、突き刺し処理に付す生の肉片のカットサイズは、10mm角程度以上、好適には15mm角程度以上であり、例えば、厚みが10mm程度以上のステーキ肉状の平板状で大きい肉片も対象となる。一般には、縦10〜30mm×横10〜30mm×厚み10〜25mm程度のものが好適に用いられるが、これらに制限されるものではなく、更に大きいサイズ、例えば、縦10〜200mm×横10〜200mm×厚み10〜30mm程度のものも適宜使用することができる。
【0009】
なお、本発明において、突き刺し処理に付す「生の」肉片とは、加熱処理を施されていない肉片のことであり、生肉の他、冷凍、半解凍されたものも使用できる。特に、平板状の突き刺し刃等を備えた突き刺し手段を当接して突き刺し処理する場合には、半解凍されたものを使用することが、突き刺し刃を均一に突き刺すことができること(後の軟化処理において、軟化剤が均一に作用する)、肉汁の流失回避による風味保持効果も高く、処理後に突き刺し刃を肉片から容易に離隔できること、突き刺し処理を好適に行い得ることから特に望ましい。また、上記半解凍のものは、平板状で大きい肉片を突き刺し処理してカットする場合にも適し、処理後、容易に軟化処理に適したカットサイズにカットすることができる。本発明では、例えば、比較的食感の硬い赤身の畜肉片でも、十分に軟化することができる。更に、本発明では、本発明の作用効果を得ることが可能な範囲で、突き刺し処理の前後で肉片に加熱処理を施すことが可能である。
【0010】
本発明では、上記肉片の種類については、特に限定されるものではなく、例えば、牛、豚、羊、鳥、魚介等の肉が例示され、その用途も限定されないが、具材としては、好適には、例えば、加熱殺菌済食品具材、特に、レトルト具材が例示される。しかし、これらに限定されるものではなく、これらと同等もしくは類似の具材の肉片であれば同様に使用することができる。
【0011】
次に、本発明では、上記肉片に、複数の突き刺し刃を間隔を空けて立設した突き刺し手段の当該突き刺し刃を当接して突き刺し処理し、該突き刺し処理を施して適宜の切れ目や穴を形成した肉片を調製する。本発明では、突き刺し処理の方法及びその条件は、次の好適な条件を考慮して適宜実施することができる。即ち、突き刺し刃の形状については、好適には、例えば、先端が鋭利な円柱状、円錐状等の針状のもの、正方形、長方形、台形(これらでは、いずれかの辺又は角が肉片に対抗する状態で設けるのが望ましい)、三角形(いずれかの頂点が肉片に対抗する状態で設けるのが望ましい)等の平板状のものが挙げられる。平板を接合した刃の断面については、L字状、U字状、ヘの字状、コの字状等のものが例示される。突き刺し刃の形状は、正方形、長方形、台形等の平板状のものが、突き刺し効率が高く、好ましい。本発明では、上記突き刺し刃として、丸刃、例えば、ロール周辺にリング状に設けた刃等、即ち連続した切れ目を形成し得る刃を使用することも適宜可能である。
【0012】
次に、突き刺し刃の大きさについては、好適には、例えば、針状のものでは高さ5〜500mm程度、平板状のものでは一辺の長さが3〜15mm程度、厚さ1〜3mm程度が例示される。連続した切れ目を形成する刃の場合は厚さが1〜3mm程度とすればよい。また、突き刺し刃を略均一に間隔を空けて立設する場合に、垂直平面における隣接する突き刺し刃先端同士の間隔は、2〜20mm程度にすることが例示される。上記の突き刺し刃の大きさ等の条件により、肉片の軟化処理を好適に行うことができる。しかし、これらに制限されるものではなく、突き刺し刃の大きさ、刃の設置間隙については適宜設計することができる。突き刺し刃は、必ずしも整列して設ける必要はなく、任意の形態に形成することができる。
【0013】
次に、突き刺し処理については、肉片の一面、又は多面、即ち、突き刺し方向が交わる多方向や両面から行うことができ、平板状の肉片では、平板面に対して行うことができるが、多面や両面から行うことが望ましい。両面から行う際は、垂直平面でみた場合に、両面の刃の先端同士が、互い違いにずれて位置する状態で設けることが好ましい。その態様の例を図1に示す。即ち、各々周辺にリング状に設けた刃を有するロール2基を上下に軸方向を揃えて対峙して設けた突き刺し装置を前面(垂直平面)からみた模式図である。突き刺しの深さは、突き刺し方向の肉片の厚みに対して突き刺し刃が上記厚みの30%以上、好ましくは50%以上、更に好ましくは100%以上の突き刺しが好ましい。これらの場合、肉片に2mm程度以上の切込みが入るようにすることが好ましい。上記切込みとは、上記刃を用いた突刺し処理による1つ1つの切断長を意味する。上記の突き刺し処理の条件は、例えば、突き刺し方向の厚みが10〜25mm程度の肉片に対して好適である。
【0014】
上記50%以上、あるいは100%という数字は、刃の突刺し程度を示している。肉片に対する上下刃の刺さり具合の総和、即ち、上刃25%、下刃25%ならば、トータル50%となる(図2の左)。上刃50%、下刃50%ならば、100%となる(図2の中)。また、図2の右の場合、100%以上となる。このように、本発明では、刃の突刺し程度は、両方の突刺し総和として規定した(表1)。
【0015】
次に、装置としては、一般に、テンダーライザーといわれる装置を好適に使用することができる。以上の条件で突き刺し処理を行なうことにより、肉片の肉質や食感を過度に損なうことなく軟化処理を好適に行なうことができる。なお、前記の突き刺しの深さの条件範囲において、各々の数値を下回ると、軟化処理が十分に行なえない場合があり、各々の数値を上回ると、肉片の肉質や食感を過度に損なうことになりやすい。
【0016】
次に、本発明では、突き刺し処理後の肉片を、軟化剤と接触させて軟化処理する。この場合、軟化剤としては、乳化剤、酵素及びアルカリ剤が挙げられる。上記乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル(例えば、モノグリセリドあるいはジグリセリドとポリカルボン酸とのエステルを含有するもの)、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン類等のノニオン系乳化剤(非イオン系乳化剤)、特に好ましくはコハク酸モノグリセリドが好適なものとして例示される。また、酵素としては、例えば、パパインを好適なものとして例示することができる。しかし、軟化剤は、これらに制限されるものではなく、これらと同等もしくは類似のものであれば同様に使用することができる。
【0017】
上記突き刺し処理後の肉片を上記軟化剤と接触させて軟化処理する方法としては、例えば、軟化剤を含有する溶液に肉片を浸漬する方法、該溶液を肉片にスプレーする方法、肉片と粉体、溶液等の軟化剤とをタンブリングする方法、及び、これらの処理を任意の順に伴わせて行う方法が例示される。しかし、これらに限定されるものではなく、任意の方法を利用することができる。軟化剤を溶液として用いる場合には、軟化剤の他に、適当な物質を含有する任意の溶液を使用することができる。
【0018】
これらの処理を行うための軟化剤の処理条件としては、軟化剤の濃度は肉片に対して0.1〜5.0質量%、より望ましくは0.3〜1.0重量%、処理温度は5〜90℃、より望ましくは50〜80℃、処理時間は5分間〜24時間、より望ましくは上記温度条件で15分間〜45分間、そして、処理方法は静置ではなく、タンブリング等の攪拌処理が望ましい。なお、軟化剤を水溶液として用いる場合は、軟化剤の濃度を0.05〜2.5重量%、より望ましくは0.1〜0.5重量%とすることができる。なお、本発明において、処理温度とは、軟化剤溶液の温度等の軟化剤が接触する際の被処理肉片の周囲の温度を指し、また、軟化剤の濃度は乾燥重量によるものである。
【0019】
上記の軟化処理の各条件範囲を下回る場合には、本発明で得られる肉片の食感が硬くなる傾向となり、軟化剤の濃度が条件範囲を上回る場合には、肉片の風味に影響がでる傾向があり、処理温度、時間が上記の条件範囲を上回る場合には、肉片の食感が硬くなる傾向となる。これらの条件でも、本発明の作用効果を奏し得るが、特に、前記の各条件範囲で軟化処理を実施すると、肉片の食感を好適に軟化できると共に、肉片の肉質がジューシーで風味がよく、軟化作用を効率的に達成することができる。
【0020】
以上のように、本発明では、特に、生の肉片を鋭利の刃物等で突き刺して、表面積を大きくすること、肉片の厚みは、一片が約10mm以上が望ましいこと、軟化剤を浸漬させ、肉片内部まで軟化剤を浸透させ、染み込ませること、軟化剤は前記の乳化剤が望ましいこと、特定の浸漬温度、浸漬時間において効果が高いこと、が特徴点としてあげられる。
【0021】
また、本発明では、鋭利な刃物あるいは突起物を使用し、筋繊維を切断する方向に突き刺し処理を行うことが望ましい。また、使用する肉片の大きさとしては、カットサイズが小さいと(10mm角に満たないと)、軟化処理の効果が分かりづらい状況となるので、10mm角程度以上が望ましい。肉質としては、赤身が多い部分が特に有効である。また、軟化剤の種類としては、軟化剤であればどの種類でも使用可能であり特に制限されるものではないが、風味的に、コハク酸モノグリセリドが望ましい。
【0022】
従来製品及び従来技術では、軟化剤により肉片を軟化させる方法、あるいは剣山によって肉片に穴を開け、柔らかくする方法が種々試みられていたが、高温で加熱処理されるレトルト食品等の具材の肉片の場合には、レトルト等の加熱処理後に、良好な軟化状態を維持することが困難であり、それらの処理では本来的にその効果に限界があった。また、従来、これらの方法を組み合わせて、レトルト食品等の具材の肉片の軟化に適用することは行われていなかった。
【0023】
これに対して、本発明は、上記突き刺し処理と軟化剤による処理を組み合わせて所定の条件でレトルト食品等の具材の肉片に軟化処理を施すことで、レトルト食品等の具材の肉片に対して、高い軟化効果が得られることを実験的に実証し、また、それにより、従来法では達成し得なかった、具材肉片のレトルト等の加熱処理、保存後における良好な軟化状態の維持を実現可能にした。本発明は、レトルト食品等の具材肉片について、本発明の方法を適用することにより、従来方法からは全く予期し得ない格別の相乗効果が得られることを実験的に実証し、確認したものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)従来方法では、レトルト具材等のカットサイズの大きな肉片に対して、「突き刺し処理」、あるいは「軟化剤処理」単独では軟化効果が小さいという問題点があったが、本発明においては、この2つの処理を所定の条件で併用することによって、レトルト具材等の肉片の軟化処理において、レトルト等の加熱処理後に、良好な軟化状態を維持することを実現し得るという、突き刺し処理又は軟化剤処理の単独処理からは全く予期し得ない格別の量的及び質的に大きな相乗効果を得ることができる。
(2)突き刺し処理と軟化剤処理を組み合わせた具材肉片の新しい軟化方法を提供することができる。
(3)レトルト等の加熱処理後においても、良好な軟化状態を維持している具材肉片を含む加熱殺菌済食品の調製方法及びその製品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
次に、実施例及び比較例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例及び比較例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0026】
本実施例で使用した装置を図4に示す。先端となる上底約5mm、下底約10mm、高さ約10mm、厚さ約1mm台形の突き刺し刃を、外径約120mm、全長約200mmのロール表面に、下底がロールの周方向に沿って一定間隔を空けて直線状に接する状態で、ロールの周方向に複数立設し、これらをロールの全長方向に連続して設けた。隣接する突き刺し刃の先端となる上底同士の間隔は、ロールの周方向及び全長方向共に約5mmとした。突き刺し部には、上記ロール2基を上下に軸方向を揃えて対峙して設け、一方のロールにおける突き刺し刃先端の全長方向の間隔の略真中に、他方のロールにおける突き刺し刃の先端が位置するように、両ロールの突き刺し刃を全長方向にずらせて設け、上下ロールの突き刺し刃の上下方向の間隔を約0mmに調整した(図3)。
【0027】
上記の装置の突き刺し部に処理物を導入するコンベア上に、冷凍後半解凍した30mm×30mm×20mm(厚み)のダイス状の肩部牛肉を、厚みが上下方向に沿うようにして載せ、前記の上下ロールが同期して回転駆動する突き刺し部に導入した。この場合、上下より牛肉の厚みの約100%の深さにまで突き刺し刃の先端が達する状態で突き刺し処理を実施した(図2の中、図3)。
【0028】
上記の方法で突き刺し処理した上記牛肉を、乳化剤(コハク酸モノグリセリド、花王社製:ソフミールアルファ)を添加した浸漬水溶液に浸漬(肉:水重量比=1:2)した。この場合、乳化剤の浸漬水溶液中の濃度0.15重量%、浸漬温度70℃で攪拌しながら30分ホールドした後、95℃で湯せんして昇温し、カレーソースと共に容器に充填密封し、レトルト処理(122℃、25分)した。
【0029】
なお、レトルト処理前に牛肉片を95℃で湯せんして昇温するのは、蛋白を変性させ、雑菌繁殖を防ぐためであり、このように、本発明においては、軟化処理の好適温度の80℃を超え100℃までの温度下で湯せんして昇温することで、中温域での細菌増殖抑制、ライン充填適性を図り、高品質の加熱殺菌済食品を調製することができる。本発明には、上記の湯せんに替え、他の手段により、上記の温度下に置いて肉片を昇温する態様が含まれる。
【0030】
実施例2〜10 比較例1〜3
突き刺し刃同士のロールの周方向、全長方向の間隔及び突き刺しの深さ、並びに浸漬温度、浸漬時間を表1に記載された条件とする以外は、実施例1と同様にして、レトルト製品を製造した。
【0031】
実施例11
実施例1と同じ方法で突き刺し処理を施した牛肉を、乳化剤(ジグリセリンモノオレエート、理研ビタミン社製:ポエムDO−100V)を添加した浸漬水溶液に浸漬(肉:水重量比=1:2)した。このとき、乳化剤の浸漬水溶液中の濃度0.5重量%、浸漬温度を70℃で攪拌しながら30分ホールドした後、95℃で湯せんして昇温し、カレーソースと共に容器に充填密封し、レトルト処理(122℃、25分)した。
【0032】
実施例12
実施例1と同じ方法で突き刺し処理を施した牛肉を、乳化剤(レシチン、理研ビタミン社製:レシオン LP−1)を添加した浸漬水溶液に浸漬(肉:水重量比=1:2)した。このとき、乳化剤の浸漬水溶液中の濃度0.5重量%、浸漬温度を70℃で攪拌しながら30分ホールドした後、95℃で湯せんして昇温し、カレーソースと共に容器に充填密封し、レトルト処理(122℃、25分)した。
【0033】
実施例13
実施例1と同じ方法で突き刺し処理を施した牛肉を、酵素(パパイン、天野エンザイム社製:パパイン W−40)を添加した浸漬水溶液に浸漬(肉:水重量比=1:2)した。このとき、酵素の浸漬水溶液中の濃度0.25重量%、浸漬温度を70℃で攪拌しながら30分ホールドした後、95℃で湯せんして昇温し、カレーソースと共に容器に充填密封し、レトルト処理(122℃、25分)した。
【0034】
得られたレトルト製品中の牛肉について、突き刺し処理及び浸漬処理とその効果についての官能試験を10人のパネラー(N=10)の5段階の官能評価で行い、その値を平均した。その結果を表1に示す。上記官能試験により、特に、50〜80℃の温度帯で一定時間のホールドをすることで、高い軟化効果と食感保持効果が得られることが分かった。本発明には、生の肉片を上記の温度帯下で、軟化剤を接触させて軟化処理する態様が含まれる。即ち、70℃、30分の条件において、特に、これらの効果が高いことが確認された。なお、官能評価の基準は、次のとおりである。この場合に、「3」のレベル以上で、十分な軟化効果と食感保持効果を得ることが可能であり、本発明の実施品(実施例1〜13)で示されるように、本発明の方法を採用することにより、略そのような効果と性能が得られることが確認された。
【0035】
[食感に関する官能評価の基準]
1‥硬く、パサパサしたジューシーさのない食感である。
2‥無処理品(比較例1)に比べ、硬さはやや軟化しているが、パサパサしたジューシーさのない食感である。
3‥無処理品に比べ、軟らかさを感じさせる、パサパサした食感及びジューシーさが改善された食感である。
4‥無処理品に比べ、明確に軟らかく、ジューシーさのある食感である。
5‥非常に軟らかく、ジューシーさのある最上の食感である。
表1の「評価」における「直後」とは、レトルト処理した翌日のものを指し、「保管後」とは、レトルト処理した後常温で9ヵ月保存した状態のものを指す。
【0036】
【表1】

【0037】
また、実施例1及び比較例1〜3で得られたレトルト製品の肉片の硬さをレオメータ(山電社製:クリープメータ:RE−3305 RHEONER)を用いて測定した。即ち、試料台の上に、レトルト製品から取り出して水洗した後、1cm角にトリミングした肉片を置き、筋繊維方向に対し、平行にプランジャー(NO.1:φ30)を一定速度で下ろして徐々に肉片を押しつぶして行き、その時の応力(反発力)を測定し、肉の硬さを数値化した。各例では、肉片の20%のところまでプランジャーで押しつぶしたときの応力を少なくとも6回測定し、その平均値を調べた。その結果を表1に示す。その結果、突き刺し処理と乳化剤処理の併用が、レトルト後の肉片の良好な軟化状態の維持に最も有効であることが分かった。なお、実施例1及び比較例1〜3で得られたレトルト製品の肉片の硬さについての評価結果は、製造直後、保管後とも実施例1のものが優れていた。比較例3は、軟化剤処理の併用がなく、応力は比較的小さいが、肉エキスがぬけて食感が低下した。
【産業上の利用可能性】
【0038】
以上詳述したように、本願発明は、加工肉片の調製方法及び加熱殺菌済食品の調製方法に係るものであり、本発明により、従来方法ではなし得なかった、加熱済食品の具材肉片の加熱処理後における軟化状態を維持することができる肉片の軟化方法及びその製品を提供することができる。本発明は、突き刺し処理と軟化剤処理を所定の条件で行うことで、従来技術では達成できなかった肉片の軟化処理を実現可能にするものである。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】垂直平面でみた場合に、両面の刃の先端同士が、互い違いにずれて位置する状態を模式的に示す。
【図2】突き刺し処理による上下刃の肉片に対する刺さり具合の状態を模式的に示す。
【図3】突き刺し刃の上下方向の間隔を約0mmに調整した状態を模式的に示す。
【図4】実施例で使用した装置の突き刺し刃の一例を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも10mm角程度以上の大きさである生の肉片に、複数の突き刺し刃を間隔を空けて立設した突き刺し手段を当接して突き刺し処理し、突き刺し処理後の肉片を、軟化剤と接触させて軟化処理することを特徴とする加工肉片の調製方法。
【請求項2】
針状、平板状等の突き刺し刃を、略1〜10mmの間隔を空けて略均一に立設した突き刺し手段により、突き刺し処理を行う請求項1に記載の方法。
【請求項3】
突き刺し手段により、多面又は両面から突き刺し処理を行う請求項2に記載の方法。
【請求項4】
50〜80℃の温度下で、軟化剤を接触させて軟化処理する請求項1に記載の方法。
【請求項5】
軟化剤が、ノニオン系乳化剤、酵素、又はアルカリ剤である請求項1又は4に記載の方法。
【請求項6】
軟化剤がモノグリセリドあるいはジグリセリドとポリカルボン酸とのエステルを含有する乳化剤である請求項5に記載の方法。
【請求項7】
軟化処理が、上記軟化剤を含有する溶液に肉片を浸漬するか、該溶液を肉片にスプレーするか、肉片と軟化剤とをタンブリングするか、あるいは上記の処理が任意の順に併せて行われる請求項1に記載の方法。
【請求項8】
溶液中の軟化剤の濃度が、肉片に対して0.1〜5.0質量%である請求項5又は6に記載の方法。
【請求項9】
請求項1から3のいずれかに記載の方法で突き刺し処理した肉片を、50〜80℃の温度下で軟化剤を接触させて軟化処理した後、80℃を超え100℃までの温度下に置いて昇温し、その肉片を食品に加えて、加熱殺菌処理することを特徴とする加熱殺菌済食品の調製方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−54065(P2007−54065A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−209118(P2006−209118)
【出願日】平成18年7月31日(2006.7.31)
【出願人】(000111487)ハウス食品株式会社 (262)
【Fターム(参考)】