説明

加工装置

【課題】切削力を高精度に検出することができる加工装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る加工装置1は、切刃12を有する工具2と、工具2を微小振動させるアクチュエータ3と、アクチュエータ3を収容するケーシング4と、ケーシング4の内部に配置されアクチュエータ3に予荷重を与える予負荷機構5と、切刃12と予負荷機構5の間に配置された力センサ6と、力センサ6の出力に基づいて加工部1の切削力を検出する検出手段(コンピュータ19)とを具備する。本発明において、力センサ6は、工具2の慣性質量に基づく力成分のみを検出する。これにより、非加工時に検出される力センサ6の出力を小さくすることができるため、加工時に検出される力センサの出力との差分が大きくなり、切削力の検出精度を大幅に向上させることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物の表面に微細形状を形成するための加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被加工物の表面に微細パターンを作製する技術は、それによって新たな機能表面を生み出すことができるという理由から、近年の情報産業の基幹を成している。例えば、光学的機能では、フレネルレンズ、マイクロプリズム、マイクロレンズアレイ等があり、情報産業において幅広く応用されている。例えば、被加工物の表面に3次元微細形状を形成し、FPD(Flat Panel Display)の表示部分を構成する部材に3次元微細形状を分布させることによって、ディスプレイに光源強度分布の補正、反射防止、虹・モアレ発生防止等の機能を付与することができる。また、クリーンエネルギーとして期待されている太陽電池において発電量を高めるために、3次元微細形状が形成される。
【0003】
近年、FPDは、中・小型のものから大面積のものまで大きさは様々であり、太陽電池にしても同様である。それらの光学的機能や発電量を高めるなどの目的で形成される3次元微細形状は、デバイスの大きさ、用途によって様々であるため、それぞれの目標スペックに対応可能な微細形状形成技術が必要とされている。
【0004】
その他にも、トライボロジー的機能を改善するために、エンジンのピストン摺動部に微細形状を形成し、接触面積を減らすことにより摩擦力を低減するといった応用がある。また、境界面的機能を改善するために、微細形状により撥水性を高めた自浄表面を形成したり、熱伝導率、境界層流れ、軸受け、防錆、接着等の特性を改善したりすることもできる。更には、バイオ分野におけるインプラントやバイオセンサ等にも応用が広まっている。
【0005】
これらの微細パターンの作製技術としては、精度の高い表面形状を大面積にわたって実時間で作製できる加工法が望ましい。電気的、光学的な三次元微細形状作製技術には、電子ビーム描画方式、レーザ描画方式、ホログラフィック方式等、様々な種類が知られている。これらの手法は、無反射表面、回折格子、マイクロレンズアレイ等、マイクロメートルからサブマイクロメートルの非常に短い空間波長をもつ構造の作製には有効ではあるが、複雑な三次元形状の作製には不向きである。
【0006】
一方、現在の超精密切削・研削加工技術は、精密運動制御や計測・精密加工用ツールの進歩によってサブマイクロメートル・オーダ以下の制度の加工が容易に行えるようになっている。その代表的な例がシングルポイント・ダイヤモンド切削加工であり、非常に鋭利な単一の切刃をもつ単結晶ダイヤモンド工具を使い、軟質金属などを高精度の加工機を用いて加工する方法である。この方法は、ファスト・ツール・サーボ(FTS:高速工具サーボ)やファスト・ツール・コントロール(FTC:高速工具制御)の技術を用いることによって、工具を工作物に対して三次元的に精密かつ高速に運動制御することが可能である。電気的、光学的加工法に比べて、ダイヤモンド切削では、数十マイクロメートルから数百マイクロメートルの範囲の空間波長を有する三次元微細形状の作製に適している。
【0007】
通常の切削加工では、直動2軸及び回転軸の3軸を旋盤によって制御し、加工物に目標形状を与える。一方、FTCは、直動2軸のうち1軸を圧電素子などの高い分解能、剛性および応答性をもつ機構によって制御する技術である。通常の機械加工と異なり、工具を高速に制御するという特徴をもつFTC技術においては、微細形状を精密に作製する上で、加工時に工具に作用する力を正確に計測することが重要な課題となっている。
【0008】
そこで特許文献1のように、工具を駆動する圧電素子(PZT)からなるアクチュエータと、このアクチュエータに結合され、工具を保持する工具ホルダと、アクチュエータと同軸に配置され、工具の変位を計測する変位センサと、工具に印加される力を計測する力センサとを一体として構成した加工装置が提案されている。アクチュエータは工具を微小振動させて被加工物の表面を加工する。切削力は、加工時に検出される力センサの出力から、非加工時に検出される力センサの出力を差し引いた値として検出される。非加工時に検出される力センサの出力とは、工具を被加工物に接触させないで工具を微小振動させたときに検出される力センサの出力をいう。これにより、工具の切削力をインプロセスでモニタリングすることが可能となる。
【0009】
【特許文献1】特開2006−159299号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載の加工装置においては、アクチュエータを予負荷状態で収容するPZTケースと、このPZTケースを支持するベースとの間に、上記力センサが配置されている。このため、力センサは、工具だけでなく、上記アクチュエータやPZTケースを含む系の慣性質量あるいは振動質量をも計測してしまうことになる。その結果、工具の切削力を高精度に検出することができなくなり、被加工物がアルミニウムや銅などの軟質金属である場合には、加工制御が困難となる。
【0011】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、切削力を高精度に検出することができる加工装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る加工装置は、切刃を有する加工部と、前記加工部を微小振動させるアクチュエータと、前記アクチュエータを収容するケーシングと、前記ケーシングの内部に配置され前記アクチュエータに予荷重を与える予負荷機構と、前記切刃と前記予負荷機構の間に配置された力センサと、前記力センサの出力に基づいて前記加工部の切削力を検出する検出手段とを具備する。
【0013】
本発明において、力センサは、切刃と予負荷機構との間に配置されている。その結果、力センサは、加工部、アクチュエータおよびケーシングのうち、アクチュエータおよびケーシングが除かれた、加工部の慣性質量に基づく力成分のみを検出する。これにより、非加工時に検出される力センサの出力を小さくすることができるため、加工時に検出される力センサの出力との差分が大きくなり、切削力の検出精度を大幅に向上させることが可能となる。
【0014】
前記予負荷機構は、前記アクチュエータに接触され前記ケーシングに対して相対駆動されるヘッド部材と、前記ケーシングと前記ヘッド部材の間に配置され前記ヘッド部材を前記アクチュエータに押し付ける弾性部材とを有し、前記力センサは、前記切刃と前記ヘッド部材の間に配置されている。力センサは、弾性部材の反力を検出することはないので、加工時における切削力を高精度に検出することが可能である。
【0015】
前記加工部は、切刃を保持する保持部を有する。この場合、前記力センサは、前記保持部と前記ヘッド部材の間に配置されることができる。あるいは、前記力センサは、前記切刃と前記保持部の間に配置されることができる。更には、前記力センサは、前記保持部に埋め込まれることができる。上記構成により、力センサは、切刃または切刃および保持部の慣性質量のみに基づく力検出が可能となるので、切削力の検出精度の更なる向上を図ることが可能となる。
【0016】
また、本発明に係る他の加工装置は、切刃を有する加工部と、前記加工部を微小振動させるアクチュエータと、前記アクチュエータを収容するケーシングと、前記ケーシングの内部に配置され前記アクチュエータに予荷重を与える予負荷機構と、前記切刃と前記予負荷機構の間に配置された力センサと、前記加工部の変位を検出する変位センサと、前記力センサと前記変位センサの出力に基づいて前記アクチュエータを駆動する制御手段とを具備する。
【0017】
この構成により、非加工時に検出される力センサの出力を小さくすることができるため、加工時に検出される力センサの出力との差分を大きくして、切削力の検出精度を大幅に向上させることが可能となる。また、変位センサの出力に基づいてアクチュエータの駆動をフィードバック制御が可能となり、加工制御を高精度に行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によれば、切削力を高精度に検出することができるので、被加工物の表面に対して微細かつ複雑な三次元形状を高精度に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の各実施形態を図面に基づき説明する。
【0020】
(第1の実施形態)
[加工装置の構成]
図1は本発明の実施形態による加工装置の構成を示す概略断面図である。
【0021】
本実施形態の加工装置1は、工具2と、工具2を微小振動させるアクチュエータ3と、アクチュエータ3を支持するケーシング本体4と、ケーシング本体4の内部に配置され、アクチュエータ3に予荷重を与える予負荷機構5と、工具2と予負荷機構5の間に配置された力センサ6と、ケーシング本体4に対する工具2の変位を検出する変位センサ7と、アクチュエータ3を駆動する制御部15とを有している。
【0022】
ケーシング本体4は、大径孔部4aおよび小径孔部4bからなる段付き孔が内部に形成された円筒形状を有している。このケーシング本体4の大径孔部4aには、アクチュエータ3および予負荷機構5が収容されている。大径孔部4aの開口部には、中央部に円形の貫通孔8aが形成された第1の蓋部材8が複数本のネジ部材M1によって取り付けられている。一方、ケーシング本体4の小径孔部4bには、この小径孔部4bの開口部に複数本のネジ部材M2によって取り付けられた第2の蓋部材9の柱状部9aが挿通されている。第1の蓋部材8及び第2の蓋部材9は、ケーシング本体4と共に、本発明に係る「ケーシング」を構成している。
【0023】
アクチュエータ3は、高剛性かつ応答性に優れた圧電素子で構成されている。特に本実施形態では、アクチュエータ3は、円筒形状のPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)の積層体で構成され、ケーシング本体4と蓋部材9の柱状部9aとの間に形成された環状空間に同心的に配置されている。アクチュエータ3の外周面および内周面は、ケーシング本体4の内壁面および柱状部9aの外周面に対してそれぞれ一定以上の隙間を介して対向している。
【0024】
アクチュエータ3は、ケーシング本体4の段付き孔の段部4sと、予負荷機構5を構成するヘッド部材10との間に予負荷状態で支持されている。この予負荷機構5は、ヘッド部材10と弾性部材11を有している。ヘッド部材10の前面側には、蓋部材8の貫通孔8aに所定のクリアランスを介して嵌合される凸部10aが形成されている。ヘッド部材10の背面側はアクチュエータ3の先端と接触している。
【0025】
弾性部材11は、ウェーブワッシャで構成されており、蓋部材8とヘッド部材10の凸部10aの外周側との間に圧縮状態で組み込まれている。この構成により、弾性部材11の復元力によってヘッド部材10がアクチュエータ3に押し付けられ、アクチュエータ3に圧縮方向への予荷重が与えられる。アクチュエータ3に対する予荷重は、ネジ部材M1の締め付け量によって調整される。弾性部材11をウェーブワッシャで構成することにより、弾性部材11の薄型化を図ることができ、さらに、小さい変形量で大きな弾性力を得ることができる。なお、ウェーブワッシャに代えて、板バネ等の他のバネ部材やゴム部材を用いてもよい。
【0026】
工具2は、切刃12と、切刃12を保持するシャンク13とからなる。切刃12は、刃先が鋭利に尖った単結晶ダイヤモンドで形成されているが、切刃の形状、材質はこれに限定されない。切刃12とシャンク13とは、例えば、ろう付けによって固定されている。工具2は、工具ホルダ14によって保持されている。なお、シャンク13および工具ホルダ14は本発明の「保持部」に対応する。
【0027】
なお、工具は種々の形状のものが用意されており、目的とする加工形態に応じて着脱自在に構成されている。具体的には、後述するように、被加工物Wの表面を鏡面加工する場合には先端が一定の曲率で形成された鏡面加工用の工具29(図4(A)参照)が用いられ、被加工物Wの表面に微細な三次元形状を形成する場合には、上述したような先端が鋭利な切刃12を有する工具(以下「マイクロ工具」ともいう。)2が用いられる。
【0028】
工具2は、ネジ等の固定方法によって、工具ホルダ14に保持されている。工具ホルダ14はL字形状を有するが、これに限られない。また、シャンク13と工具ホルダ14が一体となった構成にすることもできる。さらに、シャンク13や工具ホルダ14がない、切刃12のみの構成であってもよい。以上、切刃12、シャンク13および工具ホルダ14により、本発明に係る「加工部」が構成される。
【0029】
力センサ6は、切刃12と予負荷機構5の間に設置されている。本実施形態では、力センサ6は、工具ホルダ14とヘッド部材10の間に設置されている。力センサを切刃12と予負荷機構5の間に設置することにより、アクチュエータ3の駆動時に弾性部材11において生じた反力が、力センサ6によって検出されることがなくなり、力センサ6における力検出感度を高めることができる。
【0030】
力センサ6は、中心部がアクチュエータ3の軸心部の延長線上に位置するように、ヘッド部材10の凸部10aの表面に設置される。なお、力センサ6は、ヘッド部材10の表面に設置される構成に限られず、例えば、ヘッド部材10の表面に埋め込む構成であってもよい。
【0031】
力センサ6は、高剛性かつ応答性に優れた圧電素子で構成され、特に本実施形態では、圧電素子(PZT)の積層体で構成されている。力センサ6の出力は、制御部15へ供給される。なお、力センサ6の検出精度を高めるために、当該力センサ6を構成する圧電素子は、予荷重が付与された状態で設置されることが好ましい。
【0032】
力センサ6は、ウェーブワッシャからなる弾性部材11よりも小さい外形寸法で形成されている。この構成により、加工時において切刃12を中心とするモーメントによる影響を受けにくくし、力センサ6における力検出精度を高めることができる。
【0033】
ここで、力センサ6として市販されている圧電素子を使用する場合は通常、力の検出感度が不明であるため、感度の校正が必要である。校正方法としては、例えば、以下の方法がある。
【0034】
すなわち、予荷重を与えられた当該圧電素子に、その予荷重を解放するように分銅を吊り下げて当該予荷重を減少させる。当該圧電素子の出力が安定した後、分銅を一気に持ち上げ、減少された予荷重を当該圧電素子に再び付与する。そして、この圧電素子で発生した電荷(電圧)を所定の増幅率で増幅して計測する。この作業を分銅の質量を変えて複数回行い、図2に示すように、分銅の質量と圧電素子の出力電圧との関係を求める。圧電素子の感度は、図2に示された近似直線の傾きに相当する。図2の例からでは、圧電素子の感度は、約445mV/Nである。
【0035】
一方、変位センサ7は、第2の蓋部材9の柱状部9aの先端に設置されている。柱状部9aはセンサホルダとして構成されており、軸心部に貫通孔9bを有している。変位センサ7は、ヘッド部材10の背面中心部に対向するように貫通孔9bの端部に取り付けられている。本実施形態において、変位センサ7は、静電容量型変位計で構成されている。変位センサ7の出力は、制御部15へ供給される。
【0036】
次に、制御部15の詳細について説明する。
【0037】
制御部15は、ファンクションジェネレータ16と、ロックインアンプ17と、変位センサアンプ18と、コンピュータ19と、PZT駆動回路20を有している。
【0038】
ファンクションジェネレータ16は、アクチュエータ3を微小な振幅で振動させる正弦波信号を生成し、生成された正弦波信号をロックインアンプ17およびPZT駆動回路20へ入力する。PZT駆動回路20は、ファンクションジェネレータ16からの正弦波信号に基づいて、アクチュエータ3を微小な振幅で振動させるための駆動信号を生成しアクチュエータ3へ入力する。なお、このアクチュエータ3の微小振動の方向は、アクチュエータ3の軸方向(図1においてX軸方向)である。
【0039】
ロックインアンプ17は、ファンクションジェネレータ16とチャージアンプ21に接続されている。ロックインアンプ17は、チャージアンプ21を介して力センサ6のAC出力を検波し、ファンクションジェネレータ16から入力された正弦波信号の周波数と同じ周波数の出力信号を増幅する。増幅された力センサ6の出力信号は、A/D変換ボード22を介してコンピュータ19へ入力される。
【0040】
A/D変換ボード22は、コンピュータ19に取り付けられ、ロックインアンプ17および変位センサアンプ18に接続されている。A/D変換ボード22は、ロックインアンプ17により増幅された力センサ6の出力信号、および、変位センサアンプ18により増幅された変位センサ7の出力信号をアナログ信号からデジタル信号に変換して、コンピュータ19へ送信する。
【0041】
コンピュータ19は、所定の演算器およびメモリーを内蔵し、力センサ6の出力信号および変位センサ7の出力信号に基づいて、様々な解析を実施可能になっている。具体的には、被加工物Wの表面への切刃12の接触検出、切削力検出、表面加工形状の検出等である。コンピュータ19には、図示せずとも、解析結果を表示するディスプレイが接続されている。なお、コンピュータ19は、本発明に係る「検出手段」の一具体例である。
【0042】
コンピュータ19には、被加工物Wの表面に形成するべき三次元微細形状の加工プロファイルが記憶されている。コンピュータ19は、PZT駆動回路20に対してアクチュエータ3をその軸方向(図1においてX軸方向)へ伸縮させることで、工具2を被加工物Wの表面に接近させ、あるいは、遠ざける制御を行う。その制御信号は、コンピュータ19からD/A変換ボード23、加算器24を介してPZT駆動回路20へ入力される。アクチュエータ3の伸縮制御を上記加工プロファイルに基づいて行うことにより、被加工物Wの表面に所定の三次元微細形状が形成される。なお、このアクチュエータ3の伸縮量は、弾性部材11の弾性変形量の範囲とされる。
【0043】
D/A変換ボード23は、コンピュータ19に取り付けられ、加算器24に接続されている。D/A変換ボード23は、コンピュータ19から送信されたデジタル信号をアナログ信号に変換して加算器24へ入力する。加算器24は、D/A変換ボード23からの出力信号と、ファンクションジェネレータ16からの出力信号とを加算して、PZT駆動回路20へ入力する。
【0044】
一方、アクチュエータ3として用いている圧電素子(PZT)は、非線形の電圧−変位特性を示す。原因の一つはヒステリシスである。これは電圧に対する変位の応答が線形ではなく、また電圧の上昇時と下降時で一致しないという現象である。もう一つはクリープである。これは一定電圧を加え、一定の位置を保持しようとしても、時間と共に変位がゆっくりと変化してしまう現象である。このため工具の位置を検出し、フィードバック制御を行う必要がある。
【0045】
この場合、図3に示すように、PZT駆動回路20とD/A変換ボード23との間にPIDコントローラ25を設けることにより、変位センサ7により計測された工具2の変位に基づいてアクチュエータ3の駆動をフィードバック制御することが可能となる。なお、図3において、ファンクションジェネレータ16、ロックインアンプ17、チャージアンプ21およびA/D変換ボード22の図示は省略している。
【0046】
PIDコントローラ25は、D/A変換ボード23からの出力信号と変位センサアンプ18からの出力信号とを比較演算する比較器26と、比例制御ブロック27a、積分制御ブロック27bおよび微分制御ブロック27cからなるPID制御部27と、各制御ブロック27a〜27cの出力信号を加算する加算器28とを有する。
【0047】
図3に示す制御部15は、PIDコントローラ25が、コンピュータ19からの指令値と変位センサ7の出力信号とを比較演算し、PZT駆動回路20へ制御信号を送信することによって、アクチュエータ3の駆動をフィードバック制御することが可能になっている。なお、PIDコントローラ25は、本発明に係る「制御手段」の一構成例である。
【0048】
以上のように構成される本実施形態の加工装置1は、図示しないXYZステージの上に設置されており、被加工物Wに対して図1に示すX軸方向、Y軸方向およびZ軸方向(高さ方向)にそれぞれ移動自在に構成されている。加工装置1は、上記XYZステージによって、被加工物Wの表面の任意の加工位置へ移動される。被加工物Wは、その軸心Waの周りに回転駆動される。なお、上記XYZステージに代えて、XYステージを採用してもよい。この場合、被加工物Wは加工装置1に対してZ軸方向へ相対移動される。
【0049】
次に、以上のように構成される本実施形態の加工装置1の作用について説明する。
【0050】
加工装置1は、図示しないXYZステージの上で、被加工物Wの表面の加工位置からX軸方向に一定以上離れた位置で静止される。次に、以下の手順で、加工装置1による被加工物Wの加工が行われる。
【0051】
図4(A)〜(C)は加工装置1による被加工物Wの加工手順を示す概略図である。被加工物Wは旋盤のスピンドルRに取り付けられる。被加工物Wの軸心WaはスピンドルRの軸心と一致している。
【0052】
[鏡面加工]
図4(A)に示すように、まず、加工装置1には、曲率半径が2.0mmの鏡面加工用工具29が取り付けられる。そして、被加工物Wをその軸心Waを中心として所定の回転数で回転させ、鏡面加工用工具29を用いて被加工物Wの表面を鏡面状に加工する。
【0053】
鏡面加工工程は、被加工物Wの表面が荒れており、そのままでは三次元微細形状の加工に適さない場合に、被加工物Wの表面を平滑にする目的で実施される。なお、鏡面加工工程では、磨耗しにくく、比較的大きな先端半径を有する工具を用いて、鏡面加工後の被加工物表面の面粗さを小さくすることが望ましい。
【0054】
次に、図4(B),(C)に示すように、工具29に代えて、先端が鋭利な切刃12を有するマイクロ工具2を加工装置1に取り付けて、被加工物Wの表面に三次元形状を加工する。
【0055】
図4(B)は、被加工物Wに対する工具2の接触検出工程を示している。工具2と被加工物Wとの接触は、力センサ6によって検出される。その検出方法を以下説明する。なお、接触検出工程では、被加工物Wの回転は停止される。
【0056】
[接触検出]
図1を参照して、まず、ファンクションジェネレータ16で生成された任意の周波数の正弦波信号(電圧信号)がPZT駆動回路20を通じてアクチュエータ3へ入力される。これにより、アクチュエータ3は、X軸方向に上記周波数で振動される。工具2が固定されているヘッド部材10は、アクチュエータ3と一体的に接触しているため、アクチュエータ3の伸縮はヘッド部材10を介して工具2に微小振幅の振動変位を与える。
【0057】
次に、与えられた工具2の振動成分が、工具2とヘッド部材10の間に設置された力センサ6によって検出される。その検出信号は、チャージアンプ21に送られ、チャージアンプ21からその周波数の信号とノイズ成分を含む信号がロックインアンプ17に出力される。一方、ファンクションジェネレータ16で生成された正弦波信号がロックインアンプ17へ入力される。ロックインアンプ17では、ファンクションジェネレータ16からの正弦波信号が参照信号として用いられ、これにより力センサ6の出力信号からノイズ信号が除去される。
【0058】
ロックインアンプ17の出力は、A/D変換ボード22を介してコンピュータ19へ入力される。ロックインアンプ17の出力の大きさは、力センサ6の振幅に比例する。コンピュータ19は、このときの力センサ6の検出信号を、工具2が被加工物Wと接触する前の信号(以下「空振り信号」ともいう。)Swとして記憶、処理する。
【0059】
次に、XYZステージによって加工装置1をX方向へ移動させ、工具2を被加工物Wへ接近させる。工具2が被加工物Wに接触すると、このときの力センサ6の出力がロックインアンプ17からコンピュータ19へ送信される。測定された力センサ6の振幅は、接触前よりも大きくなり、ロックインアンプ17の出力が上昇する。図5は、工具2が被加工物Wと接触したときのロックインアンプ17の出力信号の一例を示している。図5から、接触時にロックインアンプ17の出力が上昇していることがわかる。
【0060】
コンピュータ19は、このロックインアンプ17の出力から、工具2と被加工物Wの接触を検出する。被加工物Wに対する工具2の接触位置は、コンピュータ19により記憶される。これにより、工具2と被加工物Wの初期位置が設定される。本実施形態によれば、力センサ6とロックインアンプ17で駆動周波数成分のみが高感度に検出されるため、接触点の位置が高感度に測定される。
【0061】
[微細形状加工]
続いて、図4(C)に示すように、被加工物Wの表面に三次元の微細形状を加工する。
【0062】
まず、工具2を被加工物Wとの接触位置から所定量だけ離間させた後、スピンドルRを駆動して被加工物Wを回転させる。スピンドルRには、図示せずともロータリーエンコーダが設置されている。ロータリーエンコーダのパルス信号は、加工装置1の制御部15を構成するコンピュータ19へ入力される。
【0063】
次に、アクチュエータ3の駆動により工具2を微小振動させながら、上記接触検出工程にて検出された接触位置へ工具2を移動させる。コンピュータ19は、ロータリーエンコーダから入力されるパルス信号をクロックとして、記憶されている加工プロファイルに基づいて、アクチュエータ3を伸縮移動させる。これにより、図4(C)に示すように、被加工物Wの表面に対する切削加工が行われる。また、被加工物Wに対して工具2を被加工物Wの軸方向に相対移動させることにより、被加工物Wの長さ方向(図1においてZ軸方向)にわたって所定の微細形状を形成することができる。
【0064】
本実施形態では、複数段階に分けて被加工物Wの表面に所定の三次元微細形状を加工する。例えば、被加工物Wの円周方向に沿って溝形状を複数列形成する場合、各列の溝加工が複数回に分けて実施される。具体的には、各列において円周方向に所定長さのパターンP(図4(C)参照)を所定ピッチで形成した後、同一列上に位置するパターンPの間に再度同様なパターンを形成することで、円周方向に連続する溝を形成する。
【0065】
なお、上記の例に限られず、例えば複数の工具を同時に使用する等して、所定の三次元微細形状を被加工物Wの表面に一時に形成することも可能である。
【0066】
[切削力の検出]
さて、被加工物Wの加工工程では工具2に加わる切削力が検出される。以下、切削力の検出方法について説明する。
【0067】
図1を参照して、被加工物Wの加工中に測定された力センサ6の出力は、チャージアンプ21、ロックインアンプ17およびA/D変換ボード22を介してコンピュータ19へ入力される。コンピュータ19は、このときの力センサ6の検出信号を、被加工物Wの加工中に測定された信号(以下「測定信号」ともいう。)Spとして記憶、処理する。
【0068】
切削力は、工具2の切刃12の形状を被加工物Wに転写するときに生じる力である。したがって、加工中に測定された力の出力から空振り駆動中に測定された力の出力を減じることで、切削力が求められる。すなわち、測定信号Spから空振り信号Swの成分を差し引くことで、被加工物Wに対する工具2の切削力に相当する信号(以下「切削力信号」ともいう。)Scが求められる。切削力は、コンピュータ19によって演算される。
【0069】
図6は、測定信号Spと空振り信号Swと切削力信号Scとの関係を示す力センサ6の出力の一例である。切削力信号Scは、測定信号Spと空振り信号Swの差分が大きいほど高い精度で検出することが可能となる。したがって、空振り信号Swの出力は小さいほど、切削力は高精度で検出される。
【0070】
本実施形態によれば、上述のように、力センサ6を工具2とヘッド部材10の間に配置されているので、力センサ6は、工具2の慣性質量に基づく力成分のみを検出することになる。これにより、非加工時に検出される力センサ6の出力(空振り信号Sw)を小さくすることができるため、加工時に検出される力センサ6の出力(測定信号Sp)との差分が大きくなり、切削力信号Scの検出精度を向上させることが可能となる。
【0071】
[本実施形態の効果]
以下、図7および図8に示す加工装置の構成例と比較した本実施形態の効果について説明する。
【0072】
図7は、比較例1に係る加工装置31の構成を示す概略断面図である。図8は、比較例2に係る加工装置32の構成を示す概略断面図である。なお、図7および図8において図1と対応する部分についてはそれぞれ同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0073】
図7に示す加工装置31は、力センサ33は、工具2を支持するヘッド部材10とアクチュエータ3の間に設置されている。図8に示す加工装置32は、アクチュエータ3を収容するケーシング本体4は、ベース34に対して複数本のネジ部材35を介して固定されている。力センサ36は、ケーシング本体4とベース34の間に設置されており、ネジ部材35の締め付け力によって力センサ36の予荷重量が設定されている。
【0074】
図9は、比較例1に係る加工装置31の力センサ33が出力する空振り信号(センサI)と、比較例2に係る加工装置32の力センサ36が出力する空振り信号(センサII)をそれぞれ示している。
【0075】
比較例2に係る加工装置32においては、力センサ36がベース34とケーシング本体4の間に設置されているため、工具2の微小振動時に、工具2だけでなく、これを支持するアクチュエータ3、さらにアクチュエータ3を収容するケーシング本体4等を含む慣性系に作用する力を検出することになる。つまり、工具2以外にも、アクチュエータ3やケーシング本体4の質量成分に基づく力も同時に検出される。その結果、図9に示すように、力センサ36の出力(センサII)はノイズが重畳した波形となり、精度の高い力検出が困難な状態にある。
【0076】
一方、比較例1に係る加工装置31においては、力センサ33が弾性部材11とアクチュエータ3の間に設置されているため、工具2の微小振動時に、ケーシング本体4やアクチュエータ3の質量成分に基づく力を含まない、力検出が可能となる。その結果、図9に示すように、力センサ33の出力(センサI)を、力センサ36の出力(センサII)に比べて、より高感度に検出することが可能である。
【0077】
しかしながら、比較例1に係る加工装置31においては、力センサ33は、弾性部材11とアクチュエータ3の間に設置される構成であるため、工具2の切削力のみならず、弾性部材11の反力をも同時に検出してしまう。このため、空振り信号Swの出力が大きくなるという不都合がある。測定信号Spは、被加工物の硬度が高いほど大きな出力が得られるが、被加工物が銅やアルミニウムなどの比較的軟質の材料の場合には大きな出力が得られない。
【0078】
したがって、軟質の被加工物を加工する場合には、空振り信号Swの出力が大きいと、測定信号Spと差分がとれず、所望とする切削力信号Scを得ることができないおそれがある。図10は、その一例を示している。空振り信号Sw(破線)と測定信号Sp(一点鎖線)とがほぼ同じ出力となった結果、切削力信号Sc(実線)を高精度に検出することができない。
【0079】
これに対して、本実施形態の加工装置1においては、力センサ6が工具2とヘッド部材10の間に設置されているため、弾性部材11の反力の影響を受けることはない。したがって、本実施形態によれば、空振り信号Swの出力を比較例1および比較例2よりも小さくすることが可能となる。これにより、加工中の測定信号Spと空振り信号Swとの差分を大きくとることが可能となるので、これら2つの信号の差として抽出される切削力信号Scを高精度に検出することが可能となる。
【0080】
図11(A),(B)は、表面にNi−P(ニッケル−リン)めっきが施された被加工物に対する加工装置1の力センサ6の出力(空振り信号Sw、測定信号Spおよび切削力信号Sc)の一例を示している。ここで、(A)は、平滑な(形状加工する前の)被加工物の表面を切削する場合を示しており、(B)は、形状加工した被加工物の表面を更に切削する場合を示している。切削力(図における「Trust force」)は、(A)の例では0.34[N]、(B)の例では0.43[N]である。
【0081】
また、図12(A),(B)は、Al(アルミニウム)製の被加工物に対する加工装置1の力センサ6の出力(空振り信号Sw、測定信号Spおよび切削力信号Sc)の一例を示している。ここで、(A)は、平滑な(形状加工する前の)被加工物の表面を切削する場合を示しており、(B)は、形状加工した被加工物の表面を更に切削する場合を示している。切削力(図における「Trust force」)は、(A)の例では0.15[N]、(B)の例では0.12[N]である。
【0082】
さらに、図13(A),(B)は、Cu(銅)製の被加工物に対する加工装置1の力センサ6の出力(空振り信号Sw、測定信号Spおよび切削力信号Sc)の一例を示している。ここで、(A)は、平滑な(形状加工する前の)被加工物の表面を切削する場合を示しており、(B)は、形状加工した被加工物の表面を更に切削する場合を示している。切削力(図における「Trust force」)は、(A)の例では0.08[N]、(B)の例では0.11[N]である。
【0083】
図11〜図13に示したように、本実施形態によれば、測定信号Spと空振り信号Swとの差分を大きくとることができるので、切削力信号Scの信号を高精度に検出することができる。また、図11〜図13の各図の(A),(B)に示したように、被加工物の表面状態(平滑面または凹凸面)に応じた切削力の違いも高精度に検出することができる。これにより、加工中の切削力を高精度に測定することができ、被加工物の表面に微細な三次元形状を高精度に作製することが可能となる。
【0084】
さらに、本実施形態によれば、空振り信号Swを測定信号Spよりも十分小さく抑えることができるので、アルミニウムや銅などの比較的軟質の被加工物に対しても、測定信号Spと空振り信号Swとの間に所定以上の出力差を確保することができる。これにより、図12および図13に示したように、加工中の切削力を高精度に検出することが可能である。
【0085】
(第2の実施形態)
次に、図14および図15を参照して本発明の第2の実施形態について説明する。図14(A),(B)、図15(A),(B)は、本実施形態の加工装置における加工部(工具)周辺の概略構成を示す側面図である。なお、それ以外の構成は上述の第1の実施形態と同様であるので、その図示は省略している。また、各図において上述の第1の実施形態と対応する部分については同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0086】
本実施形態においては、切刃12、シャンク13および工具ホルダ14によって構成される加工部の構成内に力センサ6が設けられている点で、上述の第1の実施形態と異なっている。
【0087】
具体的に、図14(A)に示す構成の加工装置においては、工具2を保持する工具ホルダ14の内部に力センサ6が埋め込まれている。工具ホルダ14は、L字形状を有しており、シャンク13とヘッド部材10の間に位置する第1のアーム部14aと、この第1のアーム部14aと直交しシャンク13を支持する第2のアーム部14bとを有している。力センサ6は、第1のアーム部14aに埋め込まれている。
【0088】
この構成においても上述の第1の実施形態と同様の作用および効果を得ることができる。また、工具ホルダ14と力センサ6を一体化できるので、当該加工装置の加工部周辺の部品点数の削減を図ることが可能となる。
【0089】
図14(B)に示す構成の加工装置においては、工具2を構成するシャンク13の内部に力センサ6が埋め込まれている。この構成によれば、力センサ6は、切刃12および一部のシャンク13の質量成分に基づく力のみを検出することが可能となるので、第1の実施形態に比べて、工具2の空振り信号Swの出力を更に抑制して、切削力信号Scの検出精度の更なる高精度化を実現することができる。
【0090】
一方、図15(A),(B)に示す構成の加工装置においては、工具2を構成する切刃12とシャンク13の間に力センサ6が設置されている。特に、図15(A)の構成では、力センサ6の一端部が切刃12の基端部に接続され、力センサ6の底面の一部がシャンク13の上面に接合されている。また、図15(B)の構成では、力センサ6の上面に切刃12の下面が接合され、力センサ6の下面がシャンク13の上面に接合されている。なお図示せずとも、シャンク13と工具ホルダ14の間に力センサ6を配置してもよい。
【0091】
図15に示した構成によれば、力センサ6により検出される力信号は、実質的に、切刃12に作用する慣性力のみとなる。その結果、図14に示した構成に比べて、工具2の空振り信号Swの更なる低出力化を実現することができ、切削力の検出精度の更なる高精度化を図ることが可能となる。
【0092】
(第3の実施形態)
図16は本発明の第3の実施形態による加工装置41の構成を示す側断面図である。なお、図において上述の第1の実施形態と対応する部分については同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0093】
本実施形態の加工装置41は、工具2を支持するヘッド部材10が第1のヘッド部材10aと第2のヘッド部材10bの2分割構造を有している。第1のヘッド部材10aは工具2を支持し、第2のヘッド部材10bはアクチュエータ3の端部に一体的に固定されている。そして、これら第1のヘッド部材10aと第2のヘッド部材10bの間には、力センサ6が設置されている。
【0094】
力センサ6は、圧電素子で構成されている。力センサ6の中心部には、第1のヘッド部材10aと第2のヘッド部材10bとを一体的に固定するネジ部材44の軸部が貫通する貫通孔が形成されており、このネジ部材44の締め付け力によって、力センサ6の予荷重量が設定される。ネジ部材44は、力センサ6をヘッド部材10への押付け機構を構成している。なお、ネジ部材44の軸心位置は、アクチュエータ3の軸心位置と一致している。
【0095】
ケーシング本体4の先端部には、第2のヘッド部材10bをアクチュエータ3の端部に押し付ける予負荷機構が設けられている。この予負荷機構は、ケーシング本体4の開口端に取り付けられ、中心部に第1のヘッド部材10aが挿通されるガイド孔42aが形成されたガイド部材42と、このガイド部材42と第2のヘッド部材10bの間に設置された弾性部材11とを備えている。
【0096】
弾性部材11は、力センサ6の外形寸法よりも大きな内径を有するウェーブワッシャで構成されている。弾性部材11の弾性力によって、アクチュエータ3に所定の予荷重が与えられる。なお、ガイド部材42は、ケーシング本体4の側周部に複数形成されたネジ収容孔を介してガイド部材42の側周部に結合された複数のネジ部材43によって、ケーシング本体4に固定されている。なお、上記ネジ収容孔の内径は、ネジ部材43の頭部とほぼ同等の大きさに形成されている。
【0097】
ガイド部材42は、そのガイド孔42aに挿通されたヘッド部材10をアクチュエータ3の伸縮駆動によってネジ部材44の軸方向に所定長だけスライド自在に支持している。ヘッド部材10のスライド量は、弾性部材11の弾性変形量の範囲内とされている。本実施形態では、ガイド孔42aの一部、特に、第1のヘッド部材10aの移動案内部を、ガイド部材42に装着したブッシュ45で構成している。ブッシュ45は低摩擦の合金材料やゴム材料で構成することができる。なお、ブッシュ45を省略して、ガイド部材42の構成材料で第1のヘッド部材10aのスライド面を構成してもよい。
【0098】
以上のように構成される本実施形態の加工装置41においても、上述の第1の実施形態と同様な作用および効果を得ることができる。特に本実施形態によれば、ネジ部材44の締め付け力によって力センサ6に任意の予荷重を設定することができるので、力センサ6の安定した力検出信号を得ることができる。
【0099】
また、本実施形態によれば、ガイド部材42によってヘッド部材10の軸移動を規制することができるので、力センサ6の検出精度を高めて信頼性の高い切削力測定が可能となる。また、力センサ6が弾性部材11よりも小さい外形寸法を有するので、図7を参照して説明した加工装置31のように弾性部材11とほぼ同等の大きさに形成された力センサ33に比べて、アクチュエータ3の中心部に関するモーメントの影響を受けにくい。これにより、力センサ6による切削力の検出精度の向上を図ることができる。
【0100】
[被加工物の具体例]
本発明に係る加工装置は、FPDや太陽電池などの分野をはじめとして、様々な分野において利用可能である。本実施形態では、液晶ディスプレイ(LCD)に搭載される光学シート(又は光学フィルム)を作製する際に用いられる成形ロールを、本加工装置を用いて形成することができる。
【0101】
図17は光学シートの成形装置50を示す概略構成図である。この成形装置50は、押出機51、Tダイ52、成形ロール53、弾性ロール54および冷却ロール55を備えている。押出機51は、ホッパー(図示略)から供給された樹脂材料を溶融し、Tダイ52に供給する。Tダイ52は、押出機51から供給された樹脂材料を、成形しようとするシートの幅まで広げて吐出する。Tダイ52から吐出された溶融樹脂は、成形ロール53と弾性ロール54にニップされて、成形ロール53によって成形される。成形された樹脂シートは、その後、冷却ロール55にて冷却され、光学シート60として連続的に形成される。
【0102】
成形ロール53は、ステンレス製の本体の表面にNiP、Cuをめっきした円柱体であり、その中心軸を回転軸として回転駆動可能に構成されている。成形ロール53の円柱面には、光学シート60の一主面に凹凸パターンを転写するための微細三次元形状(図示略)が設けられている。この微細形状は、例えば図18(A)に示したプリズム体60P、図18(B)に示したシリンドリカルレンズ体60L、更には図示せずともマイクロレンズ体などをシートに転写するための微細な凹凸形状である。また、この微細形状は、円柱形状を有する成形ロール53の周方向または軸方向に向けて形成されている。
【0103】
光学シートには、上記プリズム体またはシリンドリカルレンズ体が、例えば、数μm〜数百μmのピッチで連続的に形成されている。液晶ディスプレイのバックライト光源からの光を効率よく集光するためには、これらのプリズム体などが所望の光学設計どおりに作製される必要があり、そのためには成形ロールの表面の微細形状が所望の配列で形成されていることが必須である。
【0104】
成形ロール53の表面への凹凸形状の形成には、例えば図1に示したような本発明に係る加工装置1を用いることができる。工具2の切刃12としては、例えばダイヤモンドバイトが用いられる。本発明によれば、成形ロール53の加工時において、工具2の切削力を正確に測定しながら微細加工を行うことができるため、微細形状の配列が歪んだり、凹形状の谷の深さ又は凸形状の山の高さにバラツキが生じたりすることが防止される。
【0105】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0106】
例えば以上の実施形態では、力センサ6を圧電素子で構成したが、これに限られず、例えば歪ゲージ等の他の検出器を用いても構わない。同様に、アクチュエータ3を圧電素子の積層体で構成したが、これに代えて、ソレノイドと鉄心を備えた電磁アクチュエータを用いてもよい。
【0107】
また、以上の実施形態では、本発明に係る加工装置を被加工物の表面への微細形状の加工に用いる例を説明したが、その他にも、以下に説明するような用途にも適用することが可能である。
【0108】
[工具の摩耗や破損の検出]
本発明に係る加工装置1は、高精度で測定された力センサ6の出力を利用することにより、加工中の切刃12の摩耗やチッピング等の破損を検出することができる。これにより、工具2の取替の判断が容易となり、生産性を向上させることが可能となる。
【0109】
[工具の摩耗量の測定]
また、本発明に係る加工装置1は、切刃12の摩耗量も測定することができる。すなわち、加工前に行われる被加工物と工具の接触検出工程において、接触位置の変化を変位センサ7の出力に基づいて検出することで、工具2の摩耗量を測定することができる。また、同様な方法により、工具2を交換したときの取付け誤差や工具2の寸法の個体差などによる工具2の先端位置のずれを求めることができる。
【0110】
[表面加工形状の計測]
さらに、本発明に係る加工装置1は、力センサ6の計測値が一定になるよう制御部15でアクチュエータ3の駆動を制御することにより、変位センサ7の変位から被加工物Wの表面の形状を計測することができる。また、同様の方法で、形状が既知の基準試料を使用することにより、工具2の先端の形状を測定することができる。
【0111】
[工具の切削特性の計測]
さらに、高精度で測定された力センサ6の出力を、直接、A/D変換ボード22へ入力することにより、工具2の切削特性を調べることができる。これにより、加工条件を最適化したり、加工の形状精度を向上させたりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】本発明の第1の実施形態による加工装置の概略構成図である。
【図2】力センサの感度の測定例を示す一実験結果である。
【図3】図1に示した加工装置の構成の変形例を示す図である。
【図4】図1の加工装置を用いた被加工物の加工手順を説明する図である。
【図5】被加工物と工具の接触検出工程において測定された力センサの出力例を示す図である。
【図6】力センサの空振り時の出力(空振り信号)と加工時の出力(測定信号)から切削力を算出する方法を説明する図である。
【図7】比較例1に係る加工装置の構成を示す概略断面図である。
【図8】比較例2に係る加工装置の構成を示す概略構成図である。
【図9】図7の加工装置における力センサの出力と、図8の加工装置における力センサの出力との関係を示す図である。
【図10】図7に示した加工装置において発生し得る力センサの出力例を示す図である。
【図11】本発明に係る加工装置における力センサの出力例を示す図である。
【図12】本発明に係る加工装置における力センサの他の出力例を示す図である。
【図13】本発明に係る加工装置における力センサの更に他の出力例を示す図である。
【図14】本発明の第2の実施形態による加工装置の加工部の構成例を示す図である。
【図15】本発明の第2の実施形態による加工装置の加工部の他の構成例を示す図である。
【図16】本発明の第3の実施形態による加工装置の構成を示す断面図である。
【図17】本発明に係る加工装置を用いて加工された成形ロールを具備する光学シートの成形装置の概略構成図である。
【図18】図17の成形装置を用いて製造された光学シートの構成例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0113】
1…加工装置
2…工具
3…アクチュエータ
4…ケーシング本体
5…予負荷機構
6…力センサ
7…位置センサ
10…ヘッド部材
11…弾性部材
12…切刃
15…制御部
19…コンピュータ
41…加工装置
50…成形装置
53…成形ロール
60…光学シート
W…被加工物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
切刃を有する加工部と、
前記加工部を微小振動させるアクチュエータと、
前記アクチュエータを収容するケーシングと、
前記ケーシングの内部に配置され前記アクチュエータに予荷重を与える予負荷機構と、
前記切刃と前記予負荷機構の間に配置された力センサと、
前記力センサの出力に基づいて前記加工部の切削力を検出する検出手段と
を具備する加工装置。
【請求項2】
請求項1に記載の加工装置であって、
前記予負荷機構は、
前記アクチュエータと接触し、前記加工部と共に前記ケーシングに対して相対駆動されるヘッド部材と、
前記ケーシングと前記ヘッド部材の間に配置され前記ヘッド部材を前記アクチュエータに押し付ける弾性部材とを有し、
前記力センサは、前記切刃と前記ヘッド部材の間に配置されている
加工装置。
【請求項3】
請求項2に記載の加工装置であって、
前記加工部は、前記切刃を保持する保持部を有し、
前記力センサは、前記保持部と前記ヘッド部材の間に配置されている
加工装置。
【請求項4】
請求項2に記載の加工装置であって、
前記加工部は、前記切刃を保持する保持部を有し、
前記力センサは、前記切刃と前記保持部の間に配置されている
加工装置。
【請求項5】
請求項2に記載の加工装置であって、
前記加工部は、前記切刃を保持する保持部を有し、
前記力センサは、前記保持部に埋め込まれている
加工装置。
【請求項6】
請求項2に記載の加工装置であって、
前記弾性部材は、ウェーブワッシャでなり、
前記力センサは、前記ウェーブワッシャよりも小さい外形寸法を有する圧電素子でなる
加工装置。
【請求項7】
請求項1に記載の加工装置であって、さらに、
前記ケーシングに対する前記加工部の変位を検出する変位センサを具備する
加工装置。
【請求項8】
請求項2に記載の加工装置であって、さらに、
前記加工部と前記力センサの間に、前記力センサを前記ヘッド部材へ押し付ける機構を具備する
加工装置。
【請求項9】
請求項1に記載の加工装置であって、
前記検出手段は、前記アクチュエータを駆動する駆動回路を含む
加工装置。
【請求項10】
切刃を有する加工部と、
前記加工部を微小振動させるアクチュエータと、
前記アクチュエータを収容するケーシングと、
前記ケーシングの内部に配置され前記アクチュエータに予荷重を与える予負荷機構と、
前記切刃と前記予負荷機構の間に配置された力センサと、
前記加工部の変位を検出する変位センサと、
前記力センサと前記変位センサの出力に基づいて前記アクチュエータを駆動する制御手段と
を具備する加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2009−142950(P2009−142950A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−324022(P2007−324022)
【出願日】平成19年12月14日(2007.12.14)
【出願人】(899000035)株式会社 東北テクノアーチ (68)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】