説明

加熱体、像加熱装置、及び画像形成装置

【課題】非通紙部昇温の低減と、加熱体制御系の故障などにより発生する熱暴走を抑止できるようにする
【解決手段】基板7と、前記基板の基板面上に前記基板の長手方向に沿って設けられた正の抵抗温度特性を有する発熱抵抗体6と、前記基板の基板面上に前記基板の長手方向に沿って設けられた負の抵抗温度特性を有する発熱抵抗体15と、を有する加熱体3において、正の抵抗温度特性を有する前記発熱抵抗体と負の抵抗温度特性を有する前記発熱抵抗体は電気的に直列に接続されており、前記基板の短手方向において、正の抵抗温度特性を有する前記発熱抵抗体と負の抵抗温度特性を有する前記発熱抵抗体が重なる領域を有し、かつ前記基板の長手方向において、正の抵抗温度特性を有する前記発熱抵抗体が、負の抵抗温度特性を有する前記発熱抵抗体よりも短いことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真複写機、電子写真プリンタ等の画像形成装置に搭載する加熱定着装置のヒータとして用いれば好適な加熱体、その加熱体を備える像加熱装置、その像加熱装置を備える画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真式のプリンタや複写機に搭載する加熱定着装置(定着器)として、セラミック製の基板上に発熱抵抗体を有するヒータ、ヒータに接触しつつ移動する定着フィルム、定着フィルムを介してヒータとニップ部を形成する加圧ローラと、を有するものがある。未定着トナー画像を担持する記録材は定着器のニップ部で挟持搬送されつつ加熱され、これにより記録材上の画像は記録材に加熱定着される。この定着器は、ヒータへの通電を開始し定着可能温度まで昇温するのに要する時間が短いというメリットを有する。したがって、この定着器を搭載するプリンタは、プリント指令の入力後、一枚目の画像を出力するまでの時間(FPOT:First Print Out Time)を短く出来る。またこのタイプの定着器は、プリント指令を待つ待機中の消費電力が少ないというメリットもある。
【0003】
ところで、定着フィルムを用いた定着器を搭載するプリンタで小サイズの記録材を大サイズの記録材と同じ間隔で連続プリントすると、ヒータの記録材が通過しない領域(非通紙領域)が過度に昇温することが知られている。ヒータの非通紙領域が過昇温すると、ヒータを支持するホルダや加圧ローラが熱により損傷する場合がある。
【0004】
そこで、定着フィルムを用いた定着器を搭載するプリンタは、小サイズの記録材に連続プリントする場合、大サイズの記録材に連続プリントする場合よりもプリント間隔を広げる制御を行いヒータの非通紙部の過昇温を抑えている。
【0005】
しかしながら、プリント間隔を広げる制御は単位時間当りの出力枚数を減らすものであり、単位時間当りの出力枚数を大サイズの記録材の場合と同等或いは若干少ない程度に抑えることが望まれる。
【0006】
そこで、上述した定着器に用いるヒータとして、温度が上昇するほど抵抗値が下がる負の抵抗温度特性(NTC:Negative Temperature Coefficient)のものを用いることも考えられている。ヒータが負の抵抗温度特性であれば、非通紙領域が過昇温しても非通紙領域の抵抗値は下がるので非通紙領域が過度の昇温を抑えられるという発想である。
【0007】
しかし、一般的に負の抵抗温度特性を有する発熱抵抗体は体積抵抗が高く、商用電源で使用できる範囲の抵抗を得ることは通常の発熱抵抗体パターンでは困難である場合が多い。
【0008】
この負の抵抗温度特性を有する発熱抵抗体を用いて商用電源で使用できる範囲の抵抗を得るようにした加熱体が特許文献1に提案されている。この加熱体では、例えばグラファイト等の負の抵抗温度特性を有する発熱抵抗体を基板を長手方向に分割し、分割した発熱抵抗体の1区域には基板の短手方向(記録材搬送方向)に給電し、分割した発熱抵抗体の区域同士は直列に接続してある。このような構成の発熱抵抗体パターンを有する加熱体を用いることにより、簡単な構成で非通紙部昇温を低減することができた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−25474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記定着器に用いるヒータ(加熱体)においては、非通紙部昇温の低減と、加熱体制御系の故障などにより発生する熱暴走を抑止することが求められている。
【0011】
本発明の目的は、非通紙部昇温の低減と、加熱体制御系の故障などにより発生する熱暴走を抑止できるようにした加熱体、像加熱装置及び画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)上記目的を達成するための本発明に係る加熱体の構成は、基板と、前記基板の基板面上に前記基板の長手方向に沿って設けられた正の抵抗温度特性を有する発熱抵抗体と、前記基板の基板面上に前記基板の長手方向に沿って設けられた負の抵抗温度特性を有する発熱抵抗体と、を有する加熱体において、正の抵抗温度特性を有する前記発熱抵抗体と負の抵抗温度特性を有する前記発熱抵抗体は電気的に直列に接続されており、前記基板の短手方向において、正の抵抗温度特性を有する前記発熱抵抗体と負の抵抗温度特性を有する前記発熱抵抗体が重なる領域を有し、かつ前記基板の長手方向において、正の抵抗温度特性を有する前記発熱抵抗体が、負の抵抗温度特性を有する前記発熱抵抗体よりも短いことを特徴とする。
【0013】
(2)上記目的を達成するための本発明に係る像加熱装置の構成は、加熱体と、前記加熱体と接触しながら移動する可撓性部材と、前記可撓性部材を介して前記加熱体と共にニップ部を形成するバックアップ部材と、を有し、前記ニップ部で画像を担持する記録材を挟持搬送しつつ記録材に画像を加熱する像加熱装置において、前記加熱体が(1)の記載の加熱体であることを特徴とする。
【0014】
(3)上記目的を達成するための本発明に係る画像形成装置の構成は、記録材上に画像を形成する像形成手段と、前記記録材上の画像を加熱する像加熱手段とを有する画像形成装置において、前記像加熱手段として(2)に記載の像加熱装置を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、非通紙部昇温の低減と、加熱体制御系の故障などにより発生する熱暴走を抑止できるようにした加熱体、像加熱装置及び画像形成装置を提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1に係るヒータの正面図
【図2】実施例1に係るヒータの正面図及び背面図と、このヒータの通電制御系の説明図
【図3】図2に示すヒータのIII−III線矢視断面図
【図4】定着装置の横断側面模式図
【図5】画像形成装置の一例の概略構成図
【図6】比較例1のヒータの正面図
【図7】比較例2のヒータの正面図
【図8】比較例1のヒータの発熱抵抗体のモデル図
【図9】実施例1に係るヒータの発熱抵抗体のモデル図
【図10】本実施例、比較例1、比較例2の各ヒータの総抵抗の温度変化を表す図
【図11】本実施例、比較例1、比較例2の各ヒータに140Vの電圧を印加し全通電した場合の電力の温度変化を表す図
【図12】実施例1に係るヒータの発熱抵抗体の中央と端部に印加される電力の温度変化を表す図
【図13】実施例1に係るヒータの変形例の正面図
【図14】実施例2に係るヒータの正面図
【図15】実施例3に係るヒータの正面図及び背面図と、このヒータの給電制御系の説明図
【図16】図15に示すヒータのXVI−XVI線矢視断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
[実施例1]
(1)画像形成装置例
図5は本発明に係る像加熱装置を画像定着装置(定着器)として搭載する画像形成装置の一例の概略構成図である。この画像形成装置は、転写式電子写真プロセス利用のレーザービームプリンタである。このプリンタは、搬送可能な最大用紙幅をA4サイズ(210mm)とする。このプリンタの記録材の基準搬送は、記録材の搬送方向と直交する方向における記録材搬送路の中央とその方向における記録材の端部間の中央とを一致させて記録材の搬送を行う中央基準搬送である。
【0018】
101は像担持体としての電子写真感光体ドラム(以下、感光体ドラムと記す)である。感光体ドラム10は、矢示の反時計方向に所定の周速度(プロセススピード)をもって回転される。
【0019】
102は接触帯電ローラ等の帯電手段である。この帯電手段102により感光体ドラム101の外周面(表面)が所定の極性・電位に一様に帯電処理(一次帯電)される。
【0020】
103は画像露光手段としてのレーザービームスキャナである。レーザービームスキャナ103は、不図示のイメージスキャナやコンピュータ等の外部装置から入力する目的の画像情報の時系列電気デジタル画素信号に対応してオン/オフ変調したレーザー光を出力して、感光体ドラム101の帯電処理面を走査露光(照射)する。この走査露光により感光体ドラム101表面の帯電処理面の露光明部の電荷が除電され帯電処理面に目的の画像情報に対応した静電潜像が形成される。
【0021】
104は現像装置である。現像装置104は、現像装置104に設けられている現像スリーブ(不図示)から感光体ドラム101表面の帯電処理面にトナー(現像剤)を供給し帯電処理面の静電潜像(静電像)をトナー画像(現像像)として現像する。レーザービームプリンタの場合、一般的に、静電潜像の露光明部にトナーを付着させて現像する反転現像方式が用いられる。
【0022】
106は接触型・回転型の転写部材としての転写ローラである。転写ローラ106にはトナーと逆極性の転写バイアスが印加されることで後述の転写部位において感光体ドラム101のトナー画像が記録材上に静電的に転写される。以上が像形成手段としての画像形成機構部の構成である。
【0023】
109は給紙カセットである。給紙カセット109には記録材Pを積載収納させてある。給紙スタート信号に基づいて給紙ローラ108が駆動されて給紙カセット109内の記録材Pが一枚ずつ分離給紙される。そしてその記録材Pは、搬送ローラ110、レジストローラ111等を含むシートパス112を通って、感光体ドラム101表面と転写ローラ106の外周面(表面)との当接ニップ部である転写部位に所定のタイミングで導入される。すなわち、感光体ドラム101表面上のトナー画像の先端部が転写部位に到達したとき、記録材Pの先端部もちょうど転写部位に到達するタイミングとなるようにレジストローラ111で記録材Pの搬送が制御される。
【0024】
転写部位に導入された記録材Pは、この転写部位を感光体ドラム1表面と転写ローラ106表面とにより挟持搬送され、その間、転写ローラ106には不図示の転写バイアス印加電源から転写電圧(転写バイアス)が印加される。この転写ローラ106及び転写電圧制御については後述する。
【0025】
転写部位においてトナー画像の転写を受けた記録材Pは、感光体ドラム101表面から分離されてシートパス113を通って像加熱装置としての画像定着装置(以下、定着装置と称す)107へ搬送導入され、ここでトナー画像の加熱・加圧定着処理を受ける。
【0026】
一方、記録材分離後(記録材Pに対するトナー画像転写後)の感光体ドラム101表面はクリーニング装置105で転写残トナーや紙粉等の除去を受けて清浄面化され、繰り返して作像に供される。
【0027】
定着装置107を通った記録材Pは、シートパス114を通って排紙口から排紙トレイ115上に排出される。
【0028】
転写ローラ106は、一般にSUS、Fe等の芯金上にカーボン、イオン導電性フィラー等で1×10〜1×1010Ω程度の抵抗に調整された半導電性のスポンジ弾性層を形成した弾性スポンジローラが用いられる。本実施例では、芯金の外回りに同心一体に、NBRゴムと界面活性剤等を反応させ、導電性を有する弾性層をローラ状に成形具備させてなるイオン導電系の転写ローラを用いた。抵抗値は1×10〜5×10Ωの範囲のものを用いた。
【0029】
(2)定着装置107
次に、本実施例1における定着装置107について説明する。
【0030】
以下の説明において、定着装置及びこの定着装置を構成する部材に関し、長手方向とは記録材の面において記録材搬送方向と直交する方向をいう。短手方向とは記録材の面において記録材搬送方向と平行な方向をいう。長さとは長手方向の寸法をいう。幅とは短手方向の寸法をいう。記録材に関し、長手方向とは記録材の面において記録材搬送方向と平行な方向をいう。短手方向とは記録材の面において記録材搬送方向と直交する方向をいう。長さとは長手方向の寸法をいう。
【0031】
図4は本実施例に係るフィルム加熱方式の定着装置の横断側面模式図である。この装置は特開平4−44075〜44083号公報、同4−204980〜204984号公報などに開示のテンションレスタイプの装置である。
【0032】
テンションレスタイプのフィルム加熱方式の定着装置は、可撓性部材として耐熱性フィルム(エンドレスフィルム)を用いている。そして耐熱性フィルムとしては、エンドレスベルト状もしくは円筒状のものを用いている。耐熱性フィルムの周長の少なくとも一部は常にテンションフリー(テンションが加わらない状態)とし、耐熱性フィルムは加圧体(バックアップ部材)としての加圧ローラの回転駆動力で回転駆動するようにした装置である。
【0033】
(2−1)ステー
1は加熱体としてのヒータ3を支持する支持部材としてのステーである。ステー1は、ヒータ支持部材兼フィルムガイド部材としての耐熱性剛性部材である。このステー1は、ステー1の長手方向両端部が装置フレーム(不図示)に支持されている。ステー1の下面には、ステーの長手方向に沿ってヒータ3を配設して支持させてある。ヒータ3の詳細については後述する。
【0034】
ステー1は、ポリイミド、ポリアミドイミド、PEEK、PPS、液晶ポリマー等の高耐熱性樹脂や、これらの樹脂とセラミックス、金属、ガラス等との複合材料などで構成できる。本実施例では液晶ポリマーを用いた。
【0035】
(2−2)耐熱性フィルム(エンドレスフィルム)
2はエンドレス(円筒状)の耐熱性フィルム(以下、フィルムと称す)である。フィルム2は、ヒータ3を支持しているステー1に外嵌させてある。フィルム2の内周長とヒータ3を支持しているステー1の外周長はフィルム2の方を例えば3mm程度大きくしてある。従ってフィルム2は周長に余裕を持ってステー1に外嵌されている。Aは記録材搬送方向である。
【0036】
フィルム2は、熱容量を小さくしてクイックスタート性を向上させるために、フィルム膜厚は100μm以下、好ましくは50μm以下20μm以上の耐熱性のあるPTFE、PFA、FEP等の単層フィルム、或いは複合層フィルムを使用できる。複合層フィルムとして、ポリイミド、ポリアミドイミド、PEEK、PES、PPS等のフィルムの外周表面にPTFE、PFA、FEP等をコーティングした複合層フィルムを使用できる。本実施例では、膜厚50μmのポリイミドフィルムの外周表面にPTFEをコーティングしたものを用いた。フィルム2の外径は24mmとした。
【0037】
(2−3)加圧ローラ(バックアップ部材)
4は加圧ローラである。加圧ローラ4は、ヒータ3との間にフィルム2を挟んでヒータ3とニップ部(定着ニップ部)Nを形成し、かつフィルム2を回転駆動させるローラ部材である。加圧ローラ4は、丸軸状の芯金4aと、芯金4aの外周面上にローラ状に設けられた弾性体層4bと、弾性体層4bの外周面上に設けられた最外層の離形層4cと、を有する。この加圧ローラ4は、ステー1に外嵌させたフィルム2と並列に配置され、芯金4aの長手方向両端部が装置フレームに軸受(不図示)を介して回転自在に支持されている。そしてその軸受を加圧バネ等の付勢手段(不図示)により所定の押圧力をもって付勢し加圧ローラ4の外周面(表面)をフィルム2を挟ませてヒータ3の表面(フィルム摺動面)に加圧することにより加圧ローラ4の弾性体層4bを弾性変形させている。その弾性体層4bの弾性変形によってフィルム2の外周面(表面)と加圧ローラ4表面との間に未定着トナー画像Tの加熱定着に必要な所定幅のニップ部Nを形成している(図4参照)。本実施例では、芯金4aはアルミ芯金を用いた。弾性体層4bはシリコーンゴムを用いた。離形層4cは厚さ約30μmのPFAのチューブを用いた。加圧ローラ4の外径は22mm、弾性体層4bの厚さは約3mmとした。
【0038】
この加圧ローラ4は、芯金4aの長手方向一端部に設けられている駆動ギア(不図示)が駆動モータなどを有する回転駆動系Mにより回転されることによって矢印の時計方向に所定の周速度で回転される。この加圧ローラ4の回転により、ニップ部Nにおける加圧ローラ4表面とフィルム2表面との摩擦力でフィルム2に回転力が作用する。これによりフィルム2は、フィルム2の内周面(内面)がニップ部でヒータのオーバーコート層8の表面(フィルム摺動面)に密接して摺動しながらステー1の外回りを矢印の反時計方向に加圧ローラの回転周速度とほぼ同じ周速度で従動回転(移動)する。
【0039】
(3)ヒータ(加熱体)3
次に、ヒータ3について説明する。図2は本実施例に係るヒータ3の正面図及び背面図と、このヒータの通電制御系の説明図である。図3は図2に示すヒータ3のIII−III線矢視断面図である。
【0040】
本実施例に示すヒータ3は、細長いヒータ基板(以下、基板と称す)7を有する。そしてこの基板7のフィルム2側の表面上(基板面上)に、発熱抵抗体6,15と、電極としての給電用電極9,10と、導電パターン14と、保護層としての耐熱性のオーバーコート層8などを有する全体に低熱容量の加熱体である。
【0041】
基板7は、耐熱性、絶縁性及び良熱伝導性を有する。基板7の材料としては、例えば、酸化アルミニウムや窒化アルミニウム等のセラミックス材料が用いられる。本実施例では、基板7として、幅7mm、長さ270mm、厚さ1mmの酸化アルミニウム基板を使用している。
【0042】
発熱抵抗体6は、基板7の短手方向において、記録材搬送方向上流側の基板端部の内側に設けられている。発熱抵抗体15は、基板7の短手方向において、記録材搬送方向下流側の基板端部の内側に設けられている。記録材搬送方向上流側の発熱抵抗体6は、グラファイトと、ガラス粉末(無機結着剤)と、有機結着剤を混練して調合したペーストをスクリーン印刷により、基板7の表面上に形成して得たものである。発熱抵抗体6は、図2に示すように、4つの区域に分割されている。発熱抵抗体6の形状・特性の詳細については後述する。記録材搬送方向下流側の発熱抵抗体15は、銀パラジウム(Ag/Pd)と、ガラス粉末(無機結着剤)と、有機結着剤を混練して調合したペーストをスクリーン印刷により、基板7の表面上に形成して得たものである。発熱抵抗体15の形状・特性の詳細についても後述する。
【0043】
導電パターン14は、発熱抵抗体6と発熱抵抗体15とを電気的に直列に接続するように配設されている。即ち、基板7の短手方向において発熱抵抗体6の両側には、導電パターン14−1(第1の導電パターン),14−2(第2の導電パターン)が基板7の長手方向に沿って設けられている。基板7の長手方向において発熱抵抗体15の両側には、導電パターン14−3(第1の導電パターン),14−4(第2の導電パターン)が基板7の長手方向に沿って設けられている。そして発熱抵抗体6の外側(上流側)に設けられている導電パターン14−1は発熱抵抗体15の導電パターン14−3と接続されている。そして、導電パターン14−1には給電用電極9が、導電パターン14−4には給電用電極10が、それぞれ接続されている。以下、発熱抵抗体6とその両側の導電パターン14−1、14−2を第1の発熱セグメントS1と称し、発熱抵抗体15とその両側の導電パターン14−3、14−4を第2の発熱セグメントS2と称する。第1の発熱セグメントS1と第2の発熱セグメントS2は上述の導電パターン14−1と14−3を介して電気的に直列に繋がっている。また第1の発熱セグメントS1は、基板7の長手方向に4つの発熱部分6を有し、この4つの発熱部分は上述の導電パターン14−1と14−2を介して電気的に直列に繋がっている。
【0044】
給電用電極9,10と導電パターン14−1,14−2,14−3,14−4は,銀を材料としたペーストを基板7表面上にスクリーン印刷したものである。給電用電極9,10と導電パターン14−1,14−2,14−3,14−4は発熱抵抗体6,15に給電する目的で設けられている。そのため、給電用電極9,10と導電パターン14−1,14−2,14−3,14−4の抵抗は発熱抵抗体6,15に対して十分低くしている。
【0045】
オーバーコート層8は、発熱抵抗体6,15と導電パターン14−1,14−2,14−3,14−4を保護するように基板7表面上に設けられている。このオーバーコート層8は、発熱抵抗体6,15とヒータ3表面との電気的な絶縁性を確保することと、ヒータ3表面とフィルム2内面との摺動性を確保することが主な目的である。本実施例では、オーバーコート層8として厚さ約50μmの耐熱性ガラス層を用いた。
【0046】
基板7のステー1側の裏面((非フィルム摺動面))には、ヒータ3の温度を検知する温度検知部材としての検温素子5が設けられている。本実施例では、検温素子としてヒータ3から分離した外部当接型のサーミスタを用いている。この外部当接型サーミスタ5は、例えば支持体上に断熱層を設けその上にチップサーミスタの素子を固定し、素子を下側(基板7裏面側)に向けて所定の加圧力により基板7裏面に当接するような構成をとる。本実施例では、支持体として高耐熱性の液晶ポリマーを用い、断熱層としてセラミックスペーパーを積層したものを用いた。外部当接型サーミスタ5は基板7の最小通紙域内即ち基板7の長手方向においてサイズの異なる記録材Pが必ず通過する領域内に設けられている。そしてそのサーミスタ5はヒータ制御系(加熱体制御系)HCの制御手段としてのCPU11と電気的に接続されている。ヒータ制御系HCは、CPU11とトライアック12などを有している。
【0047】
また、基板7の裏面には、ヒータ制御系HCの故障などによりヒータ3の温度が異常昇温した場合に、発熱抵抗体6,15への通電を遮断するための感熱素子としてサーモスイッチや温度ヒューズなどが設けられている。本実施例では、感熱素子17として、所定の温度でバイメタルが反転することにより電流を遮断することができる機構をもつサーモスイッチを用いた。外部当接型サーミスタ5と同じく、サーモスイッチ17も最小通紙域内に設けられている。
【0048】
上述のように構成されたヒータ3は、ヒータ3のオーバーコート層8を形成具備させた表面側を下向きに露呈させてステー1の下面側に支持させて固定配設してある。以上の構成をとることにより、ヒータ3全体を低熱容量にすることができ、クイックスタートが可能になる。
【0049】
ヒータ3は、基板7の長手方向端部に設けられている給電用電極9,10に商用電源(電源)13から給電用コネクタ(不図示)を通じて給電される。これにより、給電用電極10と給電用電極9間で発熱抵抗体6,15に導電パターン14−1,14−2,14−3,14−4を通じて図7にて矢印で示す通電経路を辿って通電される。発熱抵抗体6,15は通電により長手方向全長にわたって発熱することで昇温する。その昇温がサーミスタ5で検知され、サーミスタ5の出力信号(温度検知信号)をA/D変換しCPU11に取り込む。CPU11は、サーミスタ5からの出力信号に基づいてトライアック12により発熱抵抗体6に通電する電力を位相制御や、波数制御などにより制御して、ヒータ3の温度制御を行う。即ちサーミスタ5の検知温度が所定の定着温度(目標温度)より低いとヒータ3が昇温するように、所定の定着温度より高いと降温するように通電を制御することで、ヒータ3は所定の定着温度に保たれる。本実施例では位相制御により出力を0〜100%まで5%刻みの21段階で変化させている。出力100%はヒータ3に全通電したときの出力を示す。
【0050】
ヒータ3の温度が所定の定着温度に立ち上がり、かつ加圧ローラ4の回転によるフィルム2の回転周速度が定常化した状態においてニップ部Nに未定着トナー画像Tを担持する記録材Pが転写部位より導入される。そして、記録材Pがフィルム2と一緒にニップ部Nを挟持搬送されることによりヒータ3の熱がフィルム2を介して記録材Pに付与され記録材P上のトナー画像Tが記録材P面に加熱定着される。ニップ部Nを通った記録材Pはフィルム2表面から分離されて搬送される。
【0051】
以下に本実施例のヒータ3の製法を述べる。まず、酸化アルミニウム製の基板7の基板表面上に給電用電極9,10と導電パターン14−1,14−2,14−3,14−4を同時にスクリーン印刷し、乾燥後、800℃程度の温度で焼成する。次に、前述の銀パラジウムペーストをスクリーン印刷し、乾燥後、800℃程度の温度で焼成して発熱抵抗体15を形成する。更に、前述のグラファイトペーストをスクリーン印刷し、乾燥・焼成し発熱抵抗体6を形成する。グラファイトは700℃程度で表面酸化が始まるので、この時の焼成温度は約600℃とした。その後、オーバーコート層8をスクリーン印刷により形成し、乾燥・焼成する。グラファイトの耐熱性を考慮して、オーバーコート層8の材料は400〜500℃で焼成可能なガラスを選択した。
【0052】
次に、本実施例の発熱抵抗体6,15の形状・特性について詳細に説明する。図1は本実施例に係るヒータ3の正面図である。図1においては、簡単のためオーバーコート層8を省略している。
【0053】
本実施例では、ヒータ3の記録材搬送方向上流側の発熱抵抗体6と記録材搬送方向下流側の発熱抵抗体15とを導電パターン14−1,14−2,14−3,14−4を介して直列接続している。図1に示すように、記録材搬送方向上流側の発熱抵抗体6は、基板7の長手方向において4つの発熱部分(以下、区域と称す)に分割されている。発熱抵抗体6の4つの区域のうち、中央の2つの区域を6aとし、端部の2つの区域を6bとする。分割された発熱抵抗体6の各区域には記録材搬送方向Aの向きに給電するように導電パターン14−1,14−2を配設している。そして分割された隣り合う区域同士は導電パターン14−1,14−2のうち何れか一方の導電パターンによって直列に接続されている。よって、給電用電極9,10に給電されると、各区域に流れる電流は図1の矢印の向き(ヒータ3の短手方向)になる。本実施例の発熱抵抗体6は、特許文献1に記載されている分割パターンと同じ構成をとっている。
【0054】
発熱抵抗体6a,6bの1区域の長手方向の長さa及び幅dは4区域で全て同じとしている。本実施例では、長さaは55mmとし、幅dは1mmとした。また、分割された隣り合う区域間の隙間gの長さcは全て0.5mmとしている。よって、発熱抵抗体6の全長は隙間を含めると221.5mmになり、本実施例の最大通紙幅A4 サイズ(紙幅:210mm)よりも長い。そして、発熱抵抗体6の基板7の長手方向の中心位置(中央の2つの区域6a間の隙間gの中心)を、記録材Pの短手方向の中心位置CLと一致させている。発熱抵抗体6の厚さは4つの区域とも約10μmとした。
【0055】
また、本実施例では、発熱抵抗体6の中央の2つの区域6aと端部の2つの区域6bとでシート抵抗を変えている。発熱抵抗体6の材料に用いているグラファイトとガラスを主成分としたペーストの常温のシート抵抗は50〜500Ω/sq(厚さ10μm)程度であり、グラファイトとガラスの配合比で調整することができる。本実施例では、中央の2つの区域6aのシート抵抗は140Ω/sq(厚さ10μm)、端部の2つの区域6bのシート抵抗はその2倍の280Ω/sq(厚さ10μm)とした(いずれも常温の値)。よって、2つの区域6aの1つの区域の抵抗R1(搬送方向Aの向きの抵抗)は2.5Ω、2つの区域6bの1つの区域の抵抗R2はその2倍の5.0Ω、発熱抵抗体6全体の総抵抗は15.0Ωとなる(全て常温の値)。
【0056】
本実施例のヒータ3は、発熱抵抗体6の中央の2つの区域6aと端部の2つの区域6bとで抵抗を変えているので、中央の2つの区域6aと端部の2つの区域6bの発熱量も異なる。中央の2つの区域6aの基板7の長手方向における単位長さあたりの発熱量をX、端部の2つの区域6bの基板7の長手方向における単位長さあたりの発熱量をYとする。すると、中央の2つの区域6aと端部の2つの区域6bで流れる電流は共通なので、X<Y(2X=Y)という関係になる。
【0057】
従来の発熱抵抗体は銀パラジウム等の金属を主体としたペーストで形成されているのが一般的であり、PTC特性(Positive Temperature Coefficient:温度が上がると抵抗が高くなる正の抵抗温度特性)を示す。一方、本実施例で発熱抵抗体6として用いているグラファイトは、NTC特性(Negative Temperature Coefficient:温度が上がると抵抗が低くなる負の抵抗温度特性)を示すことが知られている。
【0058】
本実施例の発熱抵抗体6の抵抗変化率は−700ppm/℃程度(25℃から300℃までの抵抗変化率 以下の抵抗変化率の値も同様)とした。
【0059】
次に、記録材搬送方向下流側の発熱抵抗体15について説明する。発熱抵抗体15は、基板7の長手方向に給電するので、電流の流れる方向は図1の矢印の向き(ヒータ3の長手方向)になる。発熱抵抗体15の長さbは110.5mmとし、幅dは発熱抵抗体6と同じく1mmとした。図1に示す通り、発熱抵抗体15は、発熱抵抗体6の中央の2つの区域6a、及びこの2つの区域6a間の隙間gと同じ位置に配置してある。よって、発熱抵抗体15の基板7の長手方向の中心位置(破線の位置)も、記録材Pの短手方向の中心位置CLと一致させている。発熱抵抗体15の厚さは発熱抵抗体6と同じく約10μmとした。
【0060】
本実施例では、発熱抵抗体15の常温のシート抵抗を27mΩ/sq(厚さ10μm)としたので、その抵抗2rは常温で3.0Ωである(発熱抵抗体15の半分の長さの抵抗をrとしている r=1.5Ω)。よって、発熱抵抗体6と発熱抵抗体15と合わせた発熱抵抗体全体の総抵抗(給電用電極9,10間の抵抗)は、常温で18.0Ωである。
【0061】
発熱抵抗体15はPTC特性を示す銀パラジウムペーストで形成されており、その抵抗変化率は3000ppm/℃程度とした。銀パラジウムペーストの抵抗変化率は銀とパラジウムの配合比によって調整することができる。本実施例のヒータ3では、記録材搬送方向上流側の発熱抵抗体6をNTC特性を有する発熱抵抗体とし、記録材搬送方向下流側の発熱抵抗体15をPTC特性を有する発熱抵抗体とする構成をとっている。
【0062】
従来の発熱抵抗体は、シート抵抗の低い銀パラジウム等の金属を主体としたペーストで形成されているので、発熱抵抗体15のように長手方向に給電するパターンが一般的である。グラファイトペーストはNTC特性を示す材料の中では比較的シート抵抗が低い方であるが、銀パラジウム等の金属ペーストに比べるとシート抵抗は大きい。よって、グラファイトペーストで発熱抵抗体15のように長手方向に給電するパターンを形成すると、抵抗が非常に大きくなりヒータとして用いることができない。これはグラファイト以外のNTC特性を示す材料にも一般的に言えることである。よって、特許文献1でも説明している通り、シート抵抗の大きいグラファイトペーストを、商用電源で使用できる範囲の総抵抗にするために、発熱抵抗体6を分割して各区域で基板7の短手方向に電流を流す構成を用いている。
【0063】
発熱抵抗体6において、発熱抵抗体6の長手方向全域で、均一な定着性を得るためには、所定の定着温度において発熱抵抗体6の長手方向全域で単位長さあたりの発熱量を同じにする必要がある。本実施例において、発熱抵抗体6,15の長手方向の領域を、中央(発熱抵抗体6aと発熱抵抗体15が存在する領域)と端部(発熱抵抗体6bが存在する領域)の2つに分けて考えると、中央の抵抗は2×(R1+r)、端部の抵抗は2×R2となる。本実施例では、定着温度を200℃としており、その定着温度における各抵抗が以下の関係を満たすように設定している。
【0064】
R1=r=R2/2
前述した通り、常温の各抵抗の値は、R1=2.5Ω、R2=5.0Ω、r=1.5Ω(総抵抗18.0Ω)である。発熱抵抗体6,15の抵抗変化率はそれぞれ−700ppm/℃、3000ppm/℃としている。このため、定着温度200℃における各抵抗の値は、R1=2.2Ω、R2=4.4Ω、r=2.2Ω(総抵抗17.6Ω)となり上式の関係となる。つまり、定着温度200℃で上式を満足するように、各発熱抵抗体6,15のシート抵抗と抵抗変化率と幅と厚さを選択している。
【0065】
上式の関係を満たすように各抵抗を設定することにより、定着温度200℃において、中央の抵抗2×(R1+r)と端部の抵抗2×R2は同じになり、各抵抗を流れる電流は共通なので、中央と端部の発熱量も同じになる。以上の構成をとることによって、本実施例のように、上下流で発熱抵抗体の長さと抵抗変化率が異なる加熱体においても、長手全域で均一な定着性が得られるようにしている。
【0066】
本実施例との比較のために、比較例のヒータ構成について説明する(この比較例を比較例1とも称す)。図6は比較例1のヒータの正面図である。16は比較例1の発熱抵抗体である。発熱抵抗体16は、銀パラジウムと、ガラス粉末(無機結着剤)と、有機結着剤を混練して調合したペーストを、酸化アルミニウム基板7上にスクリーン印刷により、幅1mm、長さ220mm、厚さ約10μmの線帯状に形成して得たものである。発熱抵抗体16の長さは、本実施例の発熱抵抗体6の全長から隙間g部分を除いた長さ(55mm×4)と同じとした。また、比較例1においても、発熱抵抗体16のヒータ3の長手方向の中心位置は、記録材Pの短手方向の中心位置CLと一致させている。発熱抵抗体16の厚さは約10μmとした。比較例1の発熱抵抗体16は、常温のシート抵抗を77Ω/sq(厚さ10μm)としており、抵抗は常温で17.0Ωである。発熱抵抗体16の抵抗変化率は200ppm/℃程度としているので、定着温度200℃における抵抗は17.6Ωであり、本実施例と同じにしている。
【0067】
なお、発熱抵抗体16の材料・形状及び導電パターン14の形状以外のヒータ構成は本実施例と同じとした。オーバーコート層は厚さ約50μmの耐熱性ガラス層を用いているが、図6では簡単のため省略している。比較例1の発熱抵抗体16は長手方向に給電され、電流は図6に示すヒータの長手方向に流れる。比較例1はPTC特性を有する発熱抵抗体のみで構成されたヒータの一般的な構成である。
【0068】
次に、本実施例との比較のために、本発明者が特許文献1で提案したヒータ構成について説明する(この比較例を比較例2とも称す)。比較例2は、NTC特性を有する発熱抵抗体で構成されたヒータの一例である。図7は比較例2のヒータの正面図である。比較例2の発熱抵抗体18は、本実施例と同じグラファイト・ガラスを主成分とするペーストを用いている。発熱抵抗体18及び導電パターン14の形状以外のヒータ構成は本実施例と同じとした。オーバーコート層は厚さ約50μmの耐熱性ガラス層を用いているが、図7では簡単のため省略している。
【0069】
図7に示す通り、比較例2の発熱抵抗体18の形状は、本実施例の構成から下流側のPTC特性の発熱抵抗体15を削除したものになっており、本実施例の発熱抵抗体6と全く同じである。分割された1つの区域の長手方向の長さa、幅b、区域間の隙間gの距離cも、本実施例と同じ値としている。よって、発熱抵抗体18の全長は隙間を含めると221.5mmとなり、本実施例の発熱抵抗体6の全長と同じである。比較例2においても、発熱抵抗体18のヒータ長手方向の中心位置は、記録材Pの短手方向の中心位置CLと一致させている。発熱抵抗体18の厚さは約10μmとした。
【0070】
比較例2でも、定着温度200℃における抵抗は、本実施例、比較例1の各ヒータと同じ17.6Ωにしている。200℃でこの抵抗になるように、発熱抵抗体18の常温のシート抵抗は280Ω/sq(厚さ10μm)、抵抗変化率は−700ppm/℃程度(本実施例の発熱抵抗体6と同じ)としている。よって、発熱抵抗体18の常温における総抵抗は20.1Ωである。なお、本実施例では発熱抵抗体6の中央と端部でシート抵抗を変えているが、比較例2の発熱抵抗体18では4つの区域とも同じシート抵抗としている。
【0071】
比較例1のヒータを備えた定着装置に小サイズ紙を通紙すると、前述した非通紙部昇温が発生する。比較例1のヒータを本実施例で説明した定着装置に搭載した場合を考え、以下、非通紙部昇温についてモデル図を用いて説明する。
【0072】
図8は比較例1のヒータの発熱抵抗体16のモデル図である。ここでは、発熱抵抗体16を長さa(=55mm)に4分割して考え、中央の2つの区域の抵抗をそれぞれr1、端部の2つの区域の抵抗をそれぞれr2とする(中央と端部の温度が同じであればr1=r2)。2(r1+r2)が総抵抗になり、常温では17.0Ωである。発熱抵抗体16に流れる電流をiとすると、中央の1区域の発熱量q1はi×r1であり、端部の1区域の発熱量q2はi×r2である。
【0073】
簡単のため、幅2a(=110mm)の小サイズ紙が通紙された場合を考えると、中央の抵抗がr1の区域は通紙部に、端部の抵抗がr2の区域は非通紙部になる。ヒータの温度制御は通紙部に設けられたサーミスタ5で行われるので、小サイズ紙に熱を奪われる通紙部に比べて、小サイズ紙に熱を奪われない非通紙部の温度は上昇する。比較例1の発熱抵抗体16はPTC特性を示すため、小サイズ紙通紙時はr1<r2となる。電流iは通紙部、非通紙部で同じであるためq1<q2となり、非通紙部の発熱量は中央の発熱量よりも大きくなる。
【0074】
本実施例のヒータ3についても、同様にモデル図を用いて考えてみる。図9は本実施例に係るヒータ3の発熱抵抗体6,15のモデル図である。前述の通り、発熱抵抗体6aの1つの区域の抵抗をR1、発熱抵抗体6bの1つの区域の抵抗をR2、発熱抵抗体15の半分の長さの抵抗(発熱抵抗体6の1区域分に相当)をrとする。なお、発熱抵抗体15の長さbは110.5mmであるが、ここでは、簡単のため、長さを2a(=110mm)として説明する。本実施例の発熱抵抗体6,15の総抵抗は、2(R1+R2+r)であり、常温では18.0Ωである。発熱抵抗体6,15に流れる電流をIとすると、中央の長さa分(1区域相当分)の発熱量Q1はI×(R1+r)であり、端部の長さa分(1区域相当分)の発熱量Q2はI×R2である。定着温度の200℃では、前述の通り、R1=r=R2/2という関係になっているので、Q1=Q2であり、中央と端部の発熱量は等しい。
【0075】
比較例1のヒータの場合と同様に、幅2a(=110mm)の小サイズ紙が通紙された場合を考えると、中央の抵抗がR1とrの区域は通紙部に、端部の抵抗がR2の区域は非通紙部になる。小サイズ紙の定着温度も200℃とすると、通紙部では200℃のままなのでR1=rであり、Q1=2I×R1である。一方、本実施例のヒータ3でも、小サイズ紙を通紙すると紙に熱を奪われない非通紙部は通紙部よりも温度が高くなる傾向があるので、端部の温度は200℃よりも高くなる。発熱抵抗体6はNTC特性を有するので、小サイズ紙が通紙された場合は、R1>R2/2という関係になり、電流Iは通紙部、非通紙部で同じであるためQ1>Q2となる。よって、本実施例の構成では、小サイズ紙通紙時に非通紙部の発熱量は通紙部の発熱量よりも小さくなる。
【0076】
比較例1と本実施例のヒータを同じ定着温度200℃で制御し、同じ小サイズ紙を通紙した場合、両者の中央の発熱量q1とQ1の関係がどうなるかを考える。比較例1の場合、加熱体全体が200℃になった場合の総抵抗は2(r1+r2)=4r1である(200℃ではr1=r2)。本実施例の場合、ヒータ全体が200℃になった場合の総抵抗は2(R1+R2+r)=8R1である(200℃では、R1=r=R2/2)。200℃における両者の総抵抗を同じにしているので、200℃においては、r1=2R1(4r1=8R1)という関係が成り立つ。また、前述の通り、q1=i×r1、Q1=2(I・R1)(中央部は定着温度200℃なので、ここでいうr1×R1は200℃の抵抗)なので、q1=Q1である。
【0077】
故に、同じ小サイズ紙を通紙したときの非通紙部の発熱量はq2>Q2となり、本実施例の方が比較例1よりも非通紙部昇温が小さくなることが分かる。なお、q1=Q1なので、同じ小サイズ紙を通紙すれば、比較例1と本実施例の定着性は同等になる。
【0078】
本実施例の発熱抵抗体15はPTC特性を有するため、発熱抵抗体15が端部にも存在すると、比較例1と同じく非通紙部昇温が悪化し、NTC特性の発熱抵抗体6による非通紙部昇温低減の効果が損なわれてしまう。本実施例では、PTC特性の発熱抵抗体15は非通紙部昇温が問題となる端部には設けていないので、NTC特性とPTC特性の発熱抵抗体を併用しても非通紙部昇温低減効果が損なわれることはない。
【0079】
なお、ここでは、簡単のために、PTC特性の発熱抵抗体15の存在領域と小サイズ紙の紙幅が一致している場合を例に挙げて非通紙部昇温の低減効果を説明した。以下で、それらが一致しない場合について述べる。
【0080】
本実施例のヒータ3では、発熱抵抗体15の存在領域bの長さを110.5mmとしている。これにより、特に非通紙部昇温の厳しいハガキやCOM10、MONARCH、DLサイズの封筒は紙幅が100〜110mm程度であるので、それらの記録材を通紙した場合の非通紙部昇温低減効果は十分得られた。つまり、PTCの発熱抵抗体15がわずかに非通紙部に入ることはあるが、その領域は片側で最大5mm程度であるので、非通紙部昇温低減効果を大きく損なうことはなかった。
【0081】
また、紙幅がPTC特性の発熱抵抗体15の存在領域よりも広い、例えばB5、A5サイズにおいては、それらのサイズの非通紙部にはNTC特性の発熱抵抗体6bしか存在しない。特開2000−58232号公報に開示されているように、記録材搬送方向に給電する発熱抵抗体パターンでは、一般的にPTC特性の方がNTC特性より非通紙部昇温防止に対しては有利である。よって、これらのサイズに対しては、本実施例のヒータ3のようにNTC特性の発熱抵抗体6を4分割した構成では非通紙部昇温低減効果が得られない。これらのサイズにも対応するには、NTC特性の発熱抵抗体6の分割数を増やす必要がある。ただし、これらのサイズは非通紙部の領域が少ないので、ハガキや前述した封筒に比べて非通紙部昇温自体がそれほど高くない。本実施例では、説明を簡単にする目的もあって、特に非通紙部昇温の厳しいハガキや封筒に対応する4分割パターンで説明しているが、分割数を増やしてB5、A5サイズの非通紙部昇温を低減することも可能である。
【0082】
比較例2についても、本実施例と同じメカニズムで非通紙部昇温を低減できる(特許文献1で詳細を述べている)。非通紙部昇温低減の効果は、本実施例と比較例2でほぼ同等であった。
【0083】
本実施例、比較例1、比較例2のヒータをそれぞれ備えた各定着装置において、ヒータの制御に用いるサーミスタ5、CPU11或いはトライアック12などが故障して制御不能になり、ヒータが暴走し異常昇温した場合について述べる。
【0084】
図10は本実施例、比較例1、比較例2の各ヒータの総抵抗の温度変化を示す図である。図10の横軸はヒータ温度を示し、縦軸は発熱抵抗体の総抵抗(本実施例であれば、発熱抵抗体6,15を合わせた抵抗)を示す。ここでは、各構成の発熱抵抗体の抵抗変化率は温度によらず一定であるとし、各々の常温の総抵抗と抵抗変化率から計算した結果を図10に示している。比較例1のヒータはPTC特性なので、温度が上昇すると抵抗が大きくなり、比較例2のヒータはNTC特性なので、温度が上昇すると抵抗が小さくなる。本実施例のヒータは、NTC特性の発熱抵抗体6とPTC特性の発熱抵抗体15を直列に接続しており、全体としては、温度が上昇すると若干抵抗が下がる弱いNTC特性を示している。前述した通り、定着温度200℃においては、各ヒータの総抵抗は同じ値(17.6Ω)にしている。
【0085】
ヒータ制御系HCなどの故障によりヒータに全通電された場合が、最も温度上昇が速く、ヒータ破損の可能性も高くなるので、その場合について考える。図11は本実施例、比較例1、比較例2の各ヒータに140Vの電圧を印加し全通電した場合の電力の温度変化を示す図である。比較例2は、温度上昇とともに抵抗が下がるので、印加される電力が上昇する(ヒータ暴走時の温度は500〜700℃に達する)。本実施例、比較例1の各ヒータは、図10に示した抵抗の温度変化が小さく、温度が上昇しても印加される電力に大きな変化はない。よって、本実施例、比較例1の各ヒータは、比較例2のヒータよりも、ヒータ暴走時に加熱体が破損するまでの時間が長くなる。実際に、各ヒータを本実施例の構成の定着装置に搭載して、同じ条件(140V印加)でヒータの暴走試験を実施したところ、表1に示す結果が得られた。なお、この試験においては、感熱素子であるサーモスイッチ17は外しており、ヒータに全通電を続けた場合、どの位の時間でヒータ破損に至るかを比較している。
【0086】
【表1】

【0087】
本実施例のヒータ3で用いているサーモスイッチ17は、この試験条件であれば、3sec.位で動作する性能がある。よって、比較例2のヒータでも、ヒータが破損する時間とサーモスイッチ動作時間との差は1.5sec.あり、必ずヒータの熱暴走時にヒータが破損するわけではない。ただし、本実施例のヒータ3は、比較例2のヒータに比べてマージンが約4sec.アップしており、より信頼性が高い構成であると言える。図11に示す通り、比較例1は本実施例よりも異常高温時の印加電力が小さいので、ヒータ破損時間(加熱体破損時間)も比較例1の方が若干長い結果であった。ただし、その差は0.3sec.であり、サーモスイッチ動作時間に対するマージンという観点では、本実施例と比較例1はほぼ同等の性能であると考えられる。
【0088】
本実施例のヒータ3は、NTC特性の発熱抵抗体6とPTC特性の発熱抵抗体15の両方を用いており、発熱抵抗体15のPTC特性により、異常昇温時に総抵抗が比較例2のように大きく下がることを防止している。このPTC特性の効果をより強くするために、発熱抵抗体15の抵抗変化率を3000ppm/℃と大きくしている。
【0089】
比較例1のヒータでは、抵抗変化率を200ppm/℃としており、本実施例のヒータ3の発熱抵抗体15の抵抗変化率よりも小さくしている。比較例1で抵抗変化率を本実施例並みに大きくすると、熱暴走時の印加電力はより下がるので、熱暴走の抑止という点では本実施例よりも優れる。しかし、比較例1の構成で単純に抵抗変化率を大きくすると、小サイズ紙通紙時に端部の抵抗上昇がより大きくなってしまうため、非通紙部昇温が更に悪化してしまう。性能のバランスを考慮すると、比較例1の構成では200ppm/℃程度の抵抗変化率が妥当な値である。
【0090】
特開2006−114378号公報で本発明者は、NTC特性とPTC特性を有する発熱抵抗体をヒータの基板の記録材搬送方向上流側と記録材搬送方向下流側に設け、両者を直列接続する構成について述べている。この構成のPTC特性の発熱抵抗体は、NTC特性の発熱抵抗体と同じ長さであり、基板の長手方向の略全域に配置されている。この構成でも、熱暴走時の電力上昇は、PTC特性の発熱抵抗体の効果によって、本実施例と同様に防止することができる。しかし、PTC特性の発熱抵抗体が端部にも存在するために、非通紙部昇温については本実施例の方がより低減の効果が高い。
【0091】
特開2000−223244号公報にも、NTC特性とPTC特性のパターンを併用する構成のヒータが開示されている。この構成は、基板の長手方向の略全域に配置されたPTC特性の発熱抵抗体の端部の給電部の一部にNTC特性のパターンを介在させるものである。大サイズ紙を通紙する場合は、非通紙部昇温がないので、NTCパターンの抵抗が高くほとんど電流が流れないためPTC特性の発熱抵抗体は長手全域で発熱する。小サイズ紙を通紙する場合は、非通紙部昇温により端部のNTCパターンの抵抗が低くなり電流が流れるようになるので、PTC特性の発熱抵抗体は通紙部に選択的に電流が流れるようになり、その結果、非通紙部昇温が低減される。
【0092】
この構成は、長手方向の略全域のPTC特性の発熱抵抗体と、端部のみに設けられたNTC特性のパターンという構成であるので、本実施例のヒータ3の構成とは異なるが、非通紙部昇温低減の効果は本実施例のヒータ3と同様にある。端部のみに設けられたNTC特性の上記パターンは発熱抵抗体として記録材を加熱する働きはなく、記録材の幅に合わせてPTC特性の発熱抵抗体の発熱領域を変えるために設けられている。
【0093】
この構成で、ヒータが暴走して異常昇温した場合を考えてみる。PTC特性の発熱抵抗体の異常昇温により端部のNTCパターン部の温度も上昇し、NTCパターンの抵抗は、PTC特性の発熱抵抗体に給電する導電パターンと同等の抵抗に下がると考えられる。よって、PTC特性の発熱抵抗体の端部にはほとんど電流が流れなくなり中央のみ非常に高温となる。長手方向で極端に温度差が生じると、それに起因する熱応力が基板に発生するので、熱暴走時のヒータ破損という観点からは、本実施例の方が熱暴走抑止効果が高いと考えられる。
【0094】
中央と端部で発熱抵抗体のシート抵抗と抵抗変化率を変えているので、本実施例でも、熱暴走時における中央と端部の温度の違いは生じる。図12は本実施例のヒータの発熱抵抗体の中央と端部に印加される電力の温度変化を示した図である。ここでは、図11と同じく140Vの電圧を印加し全通電した場合を考えている。中央の電力は発熱抵抗体6aと発熱抵抗体15で消費される電力を足したものであり、端部の電力は発熱抵抗体6bで消費される電力を示している。図12には中央と端部の電力を足した全体の電力も示しており、これは図11で本実施例の電力として示したものと同じである。電力は発熱量と等価であるから、図12より本実施例のヒータ3が熱暴走したときの長手方向の温度分布の概要が分かる。
【0095】
前述の通り、中央と端部の発熱量は定着温度200℃のときは同じにしており、200℃よりも温度が上がると中央の発熱量が端部よりも大きくなる。これは、中央のPTC特性の発熱抵抗体15の抵抗上昇の寄与が大きいためである。よって、熱暴走時は、中央の方が端部よりも温度が高い状態になるが、特開2000−223244号公報の構成のように端部の発熱量がほとんどなくなることはない。つまり、特開2000−223244号公報の構成よりも本実施例の方が、熱暴走時の中央と端部の温度差は小さく、基板に発生する熱応力も小さくなるので、より熱暴走抑止効果は高いと言える。
【0096】
非通紙部昇温の低減、及び熱暴走の抑止という2つの観点から、これまで説明してきた本実施例、比較例1、比較例2の各ヒータを比較してみると、以下の表2のようになる。
【0097】
【表2】

【0098】
表2に示す通り、本実施例のヒータ構成が、非通紙部昇温の低減と、熱暴走の抑止とを両立できる構成であることが分かる。本実施例のヒータ構成は、NTC特性の発熱抵抗体とPTC特性の発熱抵抗体の両方を有し、PTC特性の発熱抵抗体がNTC特性の発熱抵抗体よりも短く、かつPTC特性の発熱抵抗体が端部に存在しないヒータ構成である。
【0099】
本実施例では、NTC特性の発熱抵抗体6とPTC特性の発熱抵抗体15の材料として、それぞれ、グラファイトと銀パラジウムを主体としたペーストを用いたが、それぞれ別の材料を用いてもよい。
【0100】
本実施例では、NTC特性の発熱抵抗体6の中央と端部の抵抗を変えるために、シート抵抗を変えたが、発熱抵抗体の厚さを変えてもよい(例えば、シート抵抗は同じにして、中央を10μm、端部を5μm程度にする)。
【0101】
本実施例では、NTC特性の発熱抵抗体6で所望の抵抗を得るために、分割したパターンを用いているが、所望の抵抗が得られるのであれば、NTC特性の発熱抵抗体で発熱抵抗体15のように長手方向に給電する線帯状のパターンを用いてもよい。図13は本実施例のヒータの変形例の正面図であって、NTC特性の発熱抵抗体23を長手方向に給電する線帯状のパターンにした場合のヒータの正面図である。図13中の矢印は電流の流れる方向を表しており、NTC特性の発熱抵抗体23でも、長手方向に電流が流れる。
【0102】
図13も本発明に係る加熱体(ヒータ)の一例であり、本実施例で説明したNTC特性の発熱抵抗体6を分割するパターンと同等に、非通紙部昇温の低減と、熱暴走の抑止とを両立できる。図13の構成であれば、どのような紙幅の小サイズ紙でも非通紙部昇温低減の効果が発揮できるので、所望の抵抗が得られるNTC特性を有する材料があれば、本発明に係る加熱体の発熱抵抗体の材料として理想的な適用例であると言える。
【0103】
本実施例では、NTC特性の発熱抵抗体6の分割数は4分割としたが、前述した通り、4分割に限定されるものではない。
【0104】
本実施例では、NTC特性を有する発熱抵抗体6を基板7の上流側に、PTC特性を有する発熱抵抗体15を基板7の下流側に配置したが、これらの発熱抵抗体の基板7の短手方向における配置は逆でもよい。また、NTC特性を有する発熱抵抗体6・PTC特性を有する発熱抵抗体15は、それぞれ1本ずつ設けているが、これらの発熱抵抗体はそれぞれ複数本設けてもよい。
【0105】
本実施例では記録材を中央基準で搬送する画像形成装置を例にとったが、本発明は記録材を端部基準で搬送する画像形成装置にも適用可能である。端部基準で搬送する画像形成装置の定着装置に本実施例のヒータを適用する場合にも、小サイズ紙の通紙部に合わせてPTC特性の発熱抵抗体を配置すればよい。
【0106】
[実施例2]
ヒータの他の例を説明する。本実施例では、実施例1で述べたNTC特性の発熱抵抗体6の中央と端部の抵抗を変えるための他の構成として、発熱抵抗体の幅を変える。実施例1のヒータ3と大きく異なる構成は、NTC特性の発熱抵抗体の構成のみであり、それ以外の構成は実施例1と同じとする。
【0107】
以下、本実施例のヒータ3について説明する。図14は本実施例におけるヒータ3の正面図である。図14においては、簡単のためヒータ3のオーバーコート層を省略している。
【0108】
19は本実施例におけるNTC特性の発熱抵抗体である。発熱抵抗体19は、実施例1の発熱抵抗体6と同じく、グラファイトと、ガラス粉末(無機結着剤)と、有機結着剤とを混練して調合したペーストをスクリーン印刷により、基板7の表面上に形成して得たものである。基板7は実施例1と同じく、酸化アルミニウム基板を用いている。
【0109】
本実施例も、記録材搬送方向上流側にNTC特性の発熱抵抗体19を設け、記録材搬送方向下流側にPTC特性の発熱抵抗体15を設けている。そして、発熱抵抗体19と、発熱抵抗体15を導電バターン14により直列接続している。PTC特性の発熱抵抗体15の材料・特性は実施例1と全く同じとした。図14に示すように発熱抵抗体19は4つの区域に分割している。この4つの区域のうち、中央の2つの区域を19aとし、端部の2つの区域を19bとする。分割された発熱抵抗体19の各区域には記録材搬送方向Aの向きに給電するように導電パターン14−1,14−2,14−3,14−4を配設している。そして分割された隣り合う区域同士は直列に接続されている。よって、給電用電極9,10に給電されると、各区域には流れる電流は図14の矢印の向き(ヒータの短手方向)になる。
【0110】
本実施例では、発熱抵抗体19の中央の発熱抵抗体19aと端部の発熱抵抗体19bのシート抵抗は同じとし、端部の発熱抵抗体19bの幅を中央の発熱抵抗体19aの2倍とすることで抵抗を2倍にしている。すなわち、発熱抵抗体19の常温のシート抵抗を長手全域で140Ω/sq(厚さ10μm)とし、中央の発熱抵抗体19aの幅dを1mm、端部の発熱抵抗体19bの幅eを2mmとしている。発熱抵抗体19のシート抵抗は、実施例1の中央の発熱抵抗体6aと同じである。中央の発熱抵抗体19aの幅dは、実施例1の中央の発熱抵抗体6aの幅と同じである。また、図14中のa、b、cの寸法は、実施例1と同じとしている。なお、発熱抵抗体19,15のヒータ長手方向の中心位置は、記録材Pの短手方向の中心位置CLと一致させている。発熱抵抗体19の厚さは4つの区域19a,19bとも約10μmとした。
【0111】
NTC特性の発熱抵抗体19の抵抗変化率は、実施例1と同じく−700ppm/℃程度とした。つまり、発熱抵抗体19の材料はシート抵抗も含めて、実施例1の中央の発熱抵抗体6aと全く同一である。
【0112】
上記構成をとることにより、発熱抵抗体19a,19b,15の各区域分の抵抗R1,R2,rは実施例1で述べた各抵抗と全く同じになる。本実施例でも定着温度は200℃としており、実施例1と同じく定着温度において、R1=r=R2/2という関係を満たすので、基板7の長手方向の略全域で均一な定着性が得られる。
【0113】
本実施例のヒータ3は、発熱抵抗体19,15の電気抵抗としての構成が実施例1と全く等価である。このため、非通紙部昇温の低減と、熱暴走の抑止との両立という観点においても、実施例1のヒータ3で説明した表1、表2に示されるように、本実施例のヒータ3は比較例1、比較例2の各ヒータよりも優れている。
【0114】
また、実施例1のヒータ3では、NTC特性の発熱抵抗体6のシート抵抗を中央と端部で変えているので、ヒータ製造時に、スクリーン印刷を2回に分けて行う必要がある(ペーストが中央と端部で異なるため)。その点、本実施例のヒータ3では、NTC特性の発熱抵抗体19は基板7の長手方向の略全域で同じペーストを使用して形成できるので、スクリーン印刷が1回で可能であり、ヒータの製造工程を削減できるという利点がある。
【0115】
[実施例3]
ヒータの他の例を説明する。本実施例では、基板として窒化アルミニウムを用いる。実施例1、実施例2のヒータ3のように、基板7の材料に酸化アルミニウムを用いる場合は、基板7の表面側に発熱抵抗体を形成し、基板7の裏面側に検温素子を設ける構成が一般的である(表面発熱タイプ)。これに対して、基板7の材料に窒化アルミニウムを用いる場合、窒化アルミニウムは酸化アルミニウムより熱伝導率が高い。このため、基板7の裏面側に発熱抵抗体を形成し、その上から絶縁層を介して検温素子を当接させ温度制御する構成の方が熱効率が良く一般的である(裏面発熱タイプ)。よって、本実施例においても裏面発熱タイプを用いた。
【0116】
以下、本実施例のヒータ3について説明する。図15は本実施例のヒータ3の正面図及び背面図と、このヒータ3の通電制御系の説明図である。図16は図15に示すヒータ3のXVI−XVI線矢視断面図である。本実施例では、基板20として幅7mm、長さ270mm、厚さ0.6mmの窒化アルミニウム基板を用いている。実施例1、実施例2において、ヒータ3の基板7として用いている酸化アルミニウム基板の幅、長さは本実施例のヒータ3の基板20と同じであるが、厚さは1mmであった。
【0117】
基板として用いる窒化アルミニウム基板と酸化アルミニウム基板とで基板厚さが異なるのは以下の理由による。ヒータが高温になると、基板内の温度差(基板短手方向において発熱抵抗体が存在する部分と、基板端など存在しない部分との温度差)より熱応力が生じる。この熱応力が基板の破断強度を超えると、基板が破損してしまう。基板を厚くすると、強度は増すが、その分、熱容量が大きくなりクイックスタートに不利になる、表面発熱タイプの場合は検温素子の応答性が悪化する、裏面発熱タイプの場合は記録材へ熱が伝わりにくくなるため熱効率が悪化する、等の問題点がある。よって、基板に発生しうる熱応力に十分耐えられる範囲でなるべく基板を薄くすることが望ましい。窒化アルミニウム基板は、酸化アルミニウム基板よりも熱伝導率が高いので、基板内の温度差が小さく基板に生じる熱応力が小さい。基板に発生する熱応力によって基板が破損しない範囲でできるだけ薄くするという観点で、酸化アルミニウム基板は1mm、窒化アルミニウム基板は0.6mmという厚さを選択している。
【0118】
本実施例では、発熱抵抗体19,15を基板20の裏面に設け、この発熱抵抗体19,15を絶縁層22でオーバーコートしている。絶縁層22は厚さ約50μmの耐熱性ガラス層である。この絶縁層22は発熱抵抗体19,15を後述するサーミスタ5や、サーモスイッチ17などの他の部材から電気的に絶縁するために設けている。この絶縁層22の表面が本実施例のヒータ3の非フィルム摺動面となる(図16参照)。基板20の表面には、摺動層21を設けている。摺動層21はヒータ3と定着フィルム2との摺動性を確保するために設けている。本実施例では、摺動層21として、厚さ約10μmの耐熱性ガラス層を用いた。この摺動層21の表面が本実施例のヒータ3のフィルム摺動面となる(図16参照)。
【0119】
本実施例においても、基板20の記録材搬送方向上流側にNTC特性の発熱抵抗体19を設け、記録材搬送方向下流側にPTC特性の発熱抵抗体15を設けている。発熱抵抗体19,15の材料、形状は実施例2のヒータ3と全く同じであるが、本実施例では発熱抵抗体19,15は基板20の裏面に設けられているので、図15の発熱抵抗体パターンは、図14の上下を反転したパターンになっている。本実施例でも、NTC特性の発熱抵抗体19とPTC特性の発熱抵抗体15の両方の発熱抵抗体を有し、PTC特性の発熱抵抗体がNTC特性の発熱抵抗体よりも短く、かつPTC特性の発熱抵抗体が端部に存在しないという点が特徴である。
【0120】
5はヒータ3の温度を検知するために設けられた検温素子である。検温素子として、実施例1、実施例2と同じく、ヒータ3から分離した外部当接型のサーミスタを用いている。外部当接型サーミスタ5は、前述の最小通紙域内でヒータ3の裏面に所定の加圧力で当接させている。
【0121】
17はヒータ制御系HCの故障などによりヒータ3の温度が異常昇温した場合に、発熱抵抗体19,15への通電を遮断するための感熱素子である。感熱素子17は所定の加圧力でヒータ3の裏面に当接されている。本実施例では、感熱素子17として、実施例1、実施例2と同じ構成のサーモスイッチを用いた。外部当接型サーミスタ5と同じく、サーモスイッチ17も最小通紙域内に設けられている。
【0122】
本実施例のヒータ3も、発熱抵抗体19,15の長手端部の給電用電極9,10に対する給電により発熱抵抗体19,15が長手方向全長にわたって発熱することで昇温する。その昇温がサーミスタ5で検知され、サーミスタ5の出力信号(温度検知信号)をA/D変換しCPU11に取り込む。CPU11は、サーミスタ5からの出力信号に基づいてトライアック12により発熱抵抗体6に通電する電力を位相制御や、波数制御などにより制御して、ヒータ3の温度制御を行う。即ちサーミスタ5の検知温度が所定の定着温度(目標温度)より低いとヒータ3が昇温するように、所定の定着温度より高いと降温するように通電を制御することで、ヒータ3は所定の定着温度に保たれる。本実施例でも、位相制御により出力を0〜100%まで5%刻みの21段階で変化させている。
【0123】
本実施例のヒータ3の製法も実施例1、実施例2と同様である。まず、窒化アルミニウム基板20の表面に摺動層21をスクリーン印刷し、乾燥後、800℃程度の温度で焼成する。次に、基板20の裏面に給電用電極9,10と導電パターン14を同時にスクリーン印刷し、乾燥後、800℃程度の温度で焼成する。次に、基板20の裏面に銀パラジウムペーストをスクリーン印刷し、乾燥後、800℃程度の温度で焼成して発熱抵抗体15を形成する。更に、基板20の裏面にグラファイトペーストをスクリーン印刷し、乾燥・焼成し発熱抵抗体19を形成する。グラファイトは700℃程度で表面酸化が始まるので、この時の焼成温度は約600℃とした。その後、絶縁層22を基板20の裏面にスクリーン印刷し、乾燥・焼成する。グラファイトの耐熱性を考慮して、絶縁層22の材料は400〜500℃で焼成可能なガラスを選択した。
【0124】
本実施例のヒータ3は、基板20の材料と、発熱抵抗体19,15の基板配置面が実施例1、実施例2のヒータ3と異なるが、非通紙部昇温の低減と、熱暴走の抑止の両立という観点において、実施例1、実施例2のヒータと同等の効果が得られた。
【0125】
また、本実施例のヒータ3は、基板に窒化アルミニウムを用いた裏面発熱タイプであるため、実施例1、実施例2のヒータ3のように基板に酸化アルミニウムを用いた表面発熱タイプより熱効率が良いという利点がある。それは以下の理由によるものである。
【0126】
熱効率、すなわち発熱抵抗体で発生する熱が効率良く記録材に伝達されているかを判断するのは、発熱抵抗体からみたヒータ表面方向の熱抵抗とヒータ裏面方向の熱抵抗とを比較すると分かりやすい。熱抵抗とは熱の伝わりやすさを表す物理量であり、厚さがd(m)で厚さ方向と直交する面の面積がS(m)である直方体を考えたときに、その直方体の厚さ方向の熱抵抗R(K/W)は以下の式で定義される。
R = d /(λ・S)
ここで、λは直方体の厚さ方向の熱伝導率(W/m・K)である。
【0127】
熱は、熱抵抗が小さいほど伝わりやすく、大きいほど伝わりにくいので、発熱抵抗体からみてヒータ表面方向の熱抵抗は小さく、ヒータ裏面方向の熱抵抗は大きい方が、効率良く記録材に熱を伝達することができ、熱効率が良いと言える。
【0128】
実施例1、実施例2のヒータ構成と本実施例のヒータ構成で、熱抵抗を計算してみると、表3のようになる。実施例1のヒータ、及び本実施例のヒータで用いている材料の熱伝導率は以下の通りである。なお、簡単のため、Sは1mとして計算している。
・実施例1、実施例2
酸化アルミニウム基板:20W/m・K オーバーコート層:2W/m・K
・本実施例
窒化アルミニウム基板:170W/m・K 絶縁層・摺動層:2W/m・K
【0129】
【表3】

【0130】
表3の熱抵抗比は、表面側の熱抵抗を裏面側の熱抵抗で割った値であり、この値が小さいほど裏面側に対して表面側の熱抵抗が小さいということになるので、熱効率が良い。表3に示す通り、本実施例は実施例1、実施例2よりも熱抵抗比が小さい。すなわち、本実施例の方が、発熱抵抗体からヒータ表面に熱が伝わりやすいということになる。
【0131】
以上、説明したとおり、本実施例のヒータは、実施例1、実施例2のヒータよりも熱効率が良い。よって、近年、要求が高まっている画像形成装置の高速化にも、より対応しやすい構成であると言える。
【符号の説明】
【0132】
2‥‥耐熱性フィルム、3‥‥ヒータ、4‥‥加圧ローラ、6,19,23‥‥負の抵抗温度特性を有する発熱抵抗体(グラファイト)、7‥‥ヒータ基板(酸化アルミニウム)、15‥‥正の抵抗温度特性を有する発熱抵抗体、20‥‥ヒータ基板(窒化アルミニウム)、23‥‥NTC特性の発熱抵抗体、N‥‥定着ニップ部、P‥‥記録材、T‥‥トナー画像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板の基板面上に前記基板の長手方向に沿って設けられた正の抵抗温度特性を有する発熱抵抗体と、前記基板の基板面上に前記基板の長手方向に沿って設けられた負の抵抗温度特性を有する発熱抵抗体と、を有する加熱体において、
正の抵抗温度特性を有する前記発熱抵抗体と負の抵抗温度特性を有する前記発熱抵抗体は電気的に直列に接続されており、前記基板の短手方向において、正の抵抗温度特性を有する前記発熱抵抗体と負の抵抗温度特性を有する前記発熱抵抗体が重なる領域を有し、かつ前記基板の長手方向において、正の抵抗温度特性を有する前記発熱抵抗体が、負の抵抗温度特性を有する前記発熱抵抗体よりも短いことを特徴とする加熱体。
【請求項2】
正の抵抗温度特性を有する前記発熱抵抗体と重なる領域における負の抵抗温度特性を有する前記発熱抵抗体の前記基板の長手方向における単位長さあたりの発熱量をX、正の抵抗温度特性を有する前記発熱抵抗体と重ならない領域における負の抵抗温度特性を有する前記発熱抵抗体の前記基板の長手方向における単位長さあたりの発熱量をYとした場合、X<Yという関係であることを特徴とする請求項1記載の加熱体。
【請求項3】
負の抵抗温度特性を有する前記発熱抵抗体は、前記基板の長手方向において4つ以上の区域に分割されており、分割された前記発熱抵抗体の1つの区域に対しては前記基板の短手方向に電流が流れるように導電パターンが配設されており、分割された前記発熱抵抗体の隣り合う区域同士は前記基板の長手方向で前記導電パターンにより電気的に直列に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の加熱体。
【請求項4】
負の抵抗温度特性を有する前記発熱抵抗体はグラファイトを含むことを特徴とする請求項1に記載の加熱体。
【請求項5】
前記基板はセラミックスであることを特徴とする請求項1に記載の加熱体。
【請求項6】
前記基板は酸化アルミニウムからなることを特徴とする請求項1に記載の加熱体。
【請求項7】
前記基板は窒化アルミニウムからなることを特徴とする請求項1に記載の加熱体。
【請求項8】
加熱体と、前記加熱体と接触しながら移動する可撓性部材と、前記可撓性部材を介して前記加熱体と共にニップ部を形成するバックアップ部材と、を有し、前記ニップ部で画像を担持する記録材を挟持搬送しつつ記録材に画像を加熱する像加熱装置において、前記加熱体が請求項1から請求項7の何れか1項に記載の加熱体であることを特徴とする像加熱装置。
【請求項9】
記録材上に画像を形成する像形成手段と、前記記録材上の画像を加熱する像加熱手段とを有する画像形成装置において、前記像加熱手段として請求項8に記載の像加熱装置を備えたことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−83606(P2012−83606A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−230682(P2010−230682)
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】