説明

加熱炉及び温度計

【課題】可及的にビレット近傍の炉内温度を測定すること。
【解決手段】炉内の天井に設置する上部燃焼制御用熱電対式温度計11のための保護管16と絶縁管12a、及び該絶縁管12aを固定するための端子板13を有する。前記保護管16は、前記炉内の天井壁14に固定される。前記端子板13は、水平方向及び上下方向の移動が自在なように前記保護管16に取付けられ、炉内を搬送する材料の表面近傍の雰囲気温度を測定可能に構成した。
【効果】炉内を搬送するビレットの裏面近傍の雰囲気温度が測定可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炉内材料の偏熱を抑制可能な加熱炉、及び、この加熱炉に設置される炉内温度制御用の温度計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、図4に示すウォーキングビーム式加熱炉31では、装入側から予熱帯32、加熱帯33、均熱帯34となされ、これら各帯32〜34で所定の温度に加熱された例えばビレット等の炉内材料(以下、「ビレット35」と言う。)は順次出側から抽出される。従って、これら各帯32〜34における炉内温度制御は、ビレット温度の偏熱を抑制するために極めて重要である。特に抽出直前の均熱帯34の炉内温度制御は需要である。そして、この炉内温度の制御に際し、炉内温度を測定する温度計は、最も重要なセンサーである。
【0003】
このビレットの温度を最適に制御するためには、ビレット近傍の温度を測定し、この測定値に基づいて炉内温度を制御することが望ましいが、炉内温度制御用の温度計(熱電対装置)は、価格・寿命・操作性の面から、一般に、炉壁に設置されている。
【0004】
例えば上部燃焼制御用の温度計36aは、図4(a)に示したように、天井壁に設置され、下部燃焼制御用の温度計36bは、図4(b)に示したように、側壁に取り付けられることが多い。なお、下部燃焼制御用の温度計を炉床に取り付けずに、側壁に取付けるのは、故障時に容易に取り替えられる場所に設置する必要があるためである。この下部燃焼制御用の温度計は、炉壁に設けられているため、実際の抽出帯におけるビレット下部周辺の温度とは、かなり異なる傾向がある。これは、抽出扉、排出ローラ、下部バーナ、スケールピット等が直近にあり、外乱の影響を受け易いためである。
【0005】
しかしながら、同じ炉壁であっても、天井壁と側壁と炉床では、かなり温度が異なる。通常は、熱損失が少なく、バーナフレームに近い炉床が最も温度が高く、続いて天井壁、側壁の順になる。特にウォーキングビーム式加熱炉のように、広くて大きな炉においては、実際に制御に使用している温度計周辺の雰囲気温度と、ビレット周辺の温度とは、かなり異なる場合が多い。これは、先に述べた外乱の影響とバーナの焚き量によってフレーム長さ、つまり火炎のピーク温度点が変わる事が主な原因である。
【0006】
また、ウォーキングビーム式連続加熱炉では、搬送ビームや固定ビームを冷却する冷却水によって、ビーム周辺(ビレット近傍)の雰囲気温度が天井壁や側壁の部分に比べてかなり低く、また、抽出ローラ付近は極端に温度が低くなっていることが、本発明者の調査によって判明した。
【0007】
よって、ビレット温度をより正確に知るためには、炉内温度制御用の温度計は、可及的にビレットの近傍に設置することが望ましいが、ウォーキングビーム式加熱炉では、炉内温度が1200〜1300℃と高いこと、また、天井壁や側壁から挿入した温度計でビレット近傍の炉内温度を測定するには、2mもの長尺の温度計を必要とする等から、温度計の構造や環境的にきわめて困難であり、天井壁や側壁から100mm程度炉内側の位置の雰囲気温度を測定しているのが実情である。
【0008】
従って、図4に示したような位置に設置した従来の温度計による測定値を使用した炉内温度制御では、抽出が停滞した時等、状況が変化した場合、ビレットの上下方向で温度差がつき易く、圧延時における偏肉不良の原因となる。
【0009】
ところで、温度計(熱電対装置)は、図5に示したように、熱接点37と、この熱接点37に接続される、例えば白金38aと白金ロジウム38bの2本の熱電対素線38を絶縁保持する絶縁管39を備えた熱電対素子40を、保護管41の内部に収納した構成である(特許文献1)。なお、前記絶縁管39は軸方向に分割された構成である。
【0010】
このような構成の温度計の不良は、保護管の不良と、熱電対素線の不良に分けることができる。このうち、保護管の不良は、炉内温度が昇降することによる機械的熱歪やバーナフレームや炉内雰囲気ガスによる劣化が主な原因である。一方、熱電対素線の不良は、その構成上絶縁管を保持しなければならないことから起こる自重による断線や、炉内温度が昇降することによる熱膨張収縮による断線、炉内雰囲気ガスによる材質変化による誤差等が主な原因である。
【0011】
また、熱電対素線そのものも、本発明者による調査の結果、熱応力により膨張・収縮を繰り返す毎に白金・白金ロジウムの白金側が白金ロジウム側に比べて伸びが激しく、捩じれて破断し易くなることが判明した。
【0012】
これは、白金が白金ロジウムに比べて柔らかくて重たいので、伸び易く引っ張り強さが弱いために切れ易いからである。また、図5(b)に示したように、絶縁管39の出口がW型となっていたり、図6に示したように、絶縁管39の出口がフラットの従来の温度計では、この絶縁管39の出口の角の部分で、前記膨張・収縮を繰り返す際に擦れることによっても断線が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】実開平5−23079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明が解決しようとする問題点は、ビレット近傍の炉内温度を長時間安定して測定することができないという点、及び、多少バーナフレームの影響を受けても、熱応力等に耐えることができる温度計がないという点である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は上記の知見等に基づいてなされたもので、
本発明の加熱炉は、
可及的に炉内に位置するビレット近傍の温度測定を可能とするために、
炉内の天井に設置する上部燃焼制御用熱電対式温度計のための保護管と絶縁管、及び該絶縁管を固定するための端子板を有し、
前記保護管は、前記炉内の天井壁に固定され、
前記端子板は、水平方向及び上下方向の移動が自在なように前記保護管に取付けられたことを最も主要な特徴としている。
【0016】
この本発明の加熱炉において、少なくとも炉に設置する温度計を前記の構成とするのは、炉内でビレットが所定の温度になっていないと、その後の圧延で偏肉が発生することと、先に説明したように、炉内の特に抽出ローラ付近は温度が低くなっており、より正確にビレット近傍の雰囲気温度を測定する必要があるからである。
【0017】
また、前記本発明の加熱炉に設置する本発明の上部燃焼制御用熱電対式温度計は、
バーナフレーム等による影響を排除して寿命延長を可能とするために、
前記保護管と前記絶縁管と前記熱電対式温度計を構成する熱電対素子を有し、
前記絶縁管は、前記保護管に対して、水平方向及び上下方向の移動が自在なように取り付けられ、
前記熱電対素子は、前記絶縁管内に絶縁保持されたことを最も主要な特徴としている。
【0018】
前記本発明の加熱炉に設置する上部燃焼制御用熱電対式温度計においては、
2本の熱電対素線と前記絶縁管を有し、
前記絶縁管は、その先端を楔状に形成して、この楔状面に前記2本の熱電対素線の出口を設け、
前記熱電対素線は白金ロジウムと白金の2つの部分で構成され、
前記白金ロジウム部分は前記白金部分よりも長く、前記2本の熱電対素線の接点位置を前記白金側寄りに位置させることが、絶縁管の出口での接触に起因する熱電対素線の断線を防止する点からは望ましい。また、前記上部燃焼制御用熱電対式温度計の前記保護管は再結晶アルミナ製であることが、長寿命化の点で望ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、温度計の長寿命化を図りつつ、可及的にビレット近傍の炉内温度を測定することができるので、偏熱発生を抑制することができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の加熱炉における上部燃焼制御用熱電対式温度計の説明図で、均熱帯の天井炉壁に設置した場合を説明する図で、(a)は炉幅方向の両側に設置するもの、(b)は炉幅方向の中央に設置するものである。
【図2】本発明の加熱炉における上部燃焼制御用熱電対式温度計の詳細を断面して示した図であり、(a)は正面から見た図、(b)は保護管と絶縁管、熱電対素線を側面から見た図である。
【図3】本発明の熱電対式温度計における絶縁管の出口における形状及び熱接点の説明図で、(a)は常温時(使用前)、(b)は高温時(使用後)、(c)は(a)図を側面から見た図である。
【図4】ウォーキングビーム式加熱炉における炉内温度制御用温度計の設置位置を説明する図である。
【図5】従来の温度計の一例を説明する図で、(a)は全体図、(b)は熱電対素子の説明図を示す。
【図6】従来の温度計の他の例を説明する熱電対素子の図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明では、温度計の長寿命化を図りつつ、可及的にビレット近傍の炉内温度を測定するという目的を、絶縁管を固定するための端子板を水平方向及び上下方向の移動自在に、炉内の天井壁に固定した上部燃焼制御用熱電対式温度計の保護管に取付けることで実現した。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図1〜図3を用いて説明する。
【0023】
図1はウォーキングビーム式加熱炉に適用した場合の本発明の加熱炉における上部燃焼制御用熱電対式温度計の説明図で、均熱帯の天井壁に設置した場合を説明する図、図2は上部燃焼制御用熱電対式温度計の詳細を断面して示した図である。
【0024】
11は上部燃焼制御用熱電対式温度計であり、図2に示すように、熱電対素子12を構成する絶縁管12aをその軸方向に分割せず一体的に形成し、この一体的に形成した絶縁管12aを、その上端部で端子板13に固定している。このようにすることで、絶縁管12aを熱電対素線12bによって保持することが無くなり、自重による熱電対素線12bの断線を防止できると共に、炉内雰囲気ガスの侵入も防止できる。
【0025】
そして、前記端子板13を、前記天井壁14に例えばフランジ15によって固定する再結晶アルミナ製の保護管16に対して、水平方向及び上下方向の移動が自在なように取付けている。保護管16に対して端子板13を水平方向及び上下方向の移動が自在なように取付ける手段は、特に限定されないが、図2に示した例では次のような構成のものを示している。
【0026】
すなわち、保護管16を外側保護管16aと内側保護管16bの2重に構成し、このうちの外側保護管16aの外側に更に耐熱セメント17によって接着した例えばステンレス製のケース18内に保持板19を固定する。なお、ステンレスの部分は、耐熱温度の関係より、炉内に入らないような長さにする。
【0027】
前記保持板19に突出状に取り付けたねじ軸20より大径の孔21aを有する座21を、前記ねじ軸20を貫通して前記保持板19の上に載せ、この座21の軸心に設けた軸孔21bに前記端子板13嵌め込む。このようにすることで、保護管16に対して端子板13が水平方向及び上下方向に自在に移動することができる。
【0028】
図3は本発明の熱電対式温度計における絶縁管の先端部における形状及び熱接点の説明図である。
前記の上部燃焼制御用熱電対式温度計11では、その熱電対素子12を構成する絶縁管12aの先端を図3(c)に示したように楔状に形成して、この楔状面12aaに2本の熱電対素線12bの出口を設けると共に、図3(a)に示したように、常温時には、2本の熱電対素線12bのうち、熱膨張率の小さい白金ロジウム12bbを、熱膨張率の大きい白金12baよりも予め長くなして、熱接点22の位置を白金12ba側寄りに位置させておくことが望ましい。
【0029】
このような構成とすれば、2本の熱電対素線12bの膨張・収縮時に、絶縁管12aの出口の角での接触が効果的に防止でき、熱電対素線12bの断線を防ぐことができる。
【0030】
前記の上部燃焼制御用熱電対式温度計11を均熱帯に設置した例えばウォーキングビーム式加熱炉では、ビレット近傍の炉内雰囲気温度を測定し、炉内温度の制御が最適に行えることになって、偏熱の発生が抑制できる。
【0031】
上記の例は単なる一例であり、本発明は上記の例に限らず、各請求項に記載された技術的思想の範囲内で、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0032】
以上の本発明は、加熱炉に限らず、保熱炉やあらゆる炉にも適用できる。また、ウォーキングビーム式炉以外の炉にも適用できる。
【符号の説明】
【0033】
11 上部燃焼制御用熱電対式温度計
12 熱電対素子
12a 絶縁管
12aa 楔状面
12b 熱電対素線
12ba 白金
12bb 白金ロジウム
13 端子板
14 天井壁
16 保護管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉内の天井に設置する上部燃焼制御用熱電対式温度計のための保護管と絶縁管、及び該絶縁管を固定するための端子板を有し、
前記保護管は、前記炉内の天井壁に固定され、
前記端子板は、水平方向及び上下方向の移動が自在なように前記保護管に取付けられ、炉内を搬送する材料の表面近傍の雰囲気温度を測定可能に構成したことを特徴とする加熱炉。
【請求項2】
前記保護管と前記絶縁管と前記熱電対式温度計を構成する熱電対素子を有し、
前記絶縁管は、前記保護管に対して、水平方向及び上下方向の移動が自在なように取り付けられ、
前記熱電対素子は、前記絶縁管内に絶縁保持されたことを特徴とする請求項1に記載の加熱炉に設置する上部燃焼制御用熱電対式温度計。
【請求項3】
2本の熱電対素線と前記絶縁管を有し、
前記絶縁管は、その先端を楔状に形成して、この楔状面に前記2本の熱電対素線の出口を設け、
前記熱電対素線は白金ロジウムと白金の2つの部分で構成され、
前記白金ロジウム部分は前記白金部分よりも長く、前記2本の熱電対素線の接点位置を前記白金側寄りに位置させたことを特徴とする請求項2に記載の加熱炉に設置する上部燃焼制御用熱電対式温度計。
【請求項4】
前記上部燃焼制御用熱電対式温度計の前記保護管は再結晶アルミナ製であることを特徴とする請求項2又は3に記載の加熱炉に設置する上部燃焼制御用熱電対式温度計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−122232(P2010−122232A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−3230(P2010−3230)
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【分割の表示】特願2004−133905(P2004−133905)の分割
【原出願日】平成16年4月28日(2004.4.28)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】