説明

加熱装置の温度制御方法

【課題】対象物を初期目標値の設定温度許容幅内の温度で、設定温度許容幅より小さい変動幅内に短時間で到達させ保持することが可能な加熱装置の温度制御方法を提供する。
【解決手段】加熱装置10の温度制御方法は、初期目標値を設定温度とした温度設定手段15の温度信号及び温度測定手段14の加熱炉温度信号を制御手段16に入力して制御信号を求め加熱手段11を制御して対象物12を加熱する第1工程と、温度測定手段14の温度値Aが、初期目標値に対して定められた設定温度許容幅内の特定温度値に到達したことを温度設定手段15で判定し、温度設定手段15の設定温度を温度値Aに変更する第2工程と、設定温度が温度値Aに変更された温度設定手段15からの温度信号及び加熱炉温度信号を制御手段16に入力して新たな制御信号を求め、加熱炉13内の温度を特定温度値に対して設定された変動幅内の温度にする第3工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱炉内に収容した対象物を初期目標値に向けて加熱し、加熱炉内の温度が初期目標値に対して予め決められた設定温度許容幅内の特定温度値に到達すると、加熱炉内の温度を特定温度値に対して設定温度許容幅より小さく設定された変動幅内に保持する加熱装置の温度制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電気ヒータを用いた加熱炉の温度制御方法では、特許文献1に記載されているように、加熱炉に炉内温度を測定する温度測定器(熱電対)と、温度測定器からの温度信号に基づいて電気ヒータを制御する制御回路とを設け、制御回路で設定される炉内の設定温度信号を基準に電気ヒータを制御して炉内の温度を制御している。具体的には、図6に示すように、加熱炉100内に対象物101の温度を測定する対象物温度測定器102及び加熱炉100内の温度を測定する制御用温度測定器103を個別に設け、加熱炉100の温度制御パターンを設定する設定器104より出力される温度設定値信号Tと、制御用温度測定器103で加熱炉100内の温度を測定した際に制御用温度測定器103から出力される温度信号TPCとを制御回路105に入力して加熱電源用制御信号Yを求め、この信号により加熱用電源106から加熱炉内ヒータ107に供給する電力を制御している。そして、対象物温度測定器102から出力される対象物温度信号TPSを温度指示計108に入力して、対象物101の温度を確認している。
【0003】
あるいは、図7に示すように、加熱炉109内に対象物101の温度を測定する対象物温度測定器102を設け、対象物101の目標温度を設定する設定器104より出される温度設定値信号Tと、対象物温度測定器102で対象物101の温度を測定した際に対象物温度測定器102から出力される対象物温度信号TPSとを制御回路105に入力して加熱電源用制御信号Yを求め、この信号により加熱用電源106から加熱炉内ヒータ110に供給する電力を制御している。そして、対象物温度測定器102から出力される対象物温度信号TPSを温度指示計108に入力して、対象物101の温度を確認している。
【0004】
【特許文献1】特開2004−77055号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、例えば、図8に示すように、温度設定値信号Tが、昇温開始温度Tから目標温度TX0までは所定の昇温プログラムに基づいて上昇し、目標温度TX0に到達するとその温度で保持されるという温度制御パターンに基づいて加熱炉100、109を運転する場合、制御用温度測定器103から出力される温度信号TPC、あるいは対象物温度測定器102から出力される対象物温度信号TPSの変化に素早く応答して加熱電源用制御信号Y、Yを演算して加熱炉内ヒータ107、110に供給する電力を制御すると、応答例1に示すように温度信号TPC、あるいは対象物温度信号TPSはオーバーシュートをしながら目標温度TX0に漸近する応答を示す。また、温度信号TPC、あるいは対象物温度信号TPSの変化に遅く応答して加熱電源用制御信号Y、Yを演算して加熱炉内ヒータ107、110に供給する電力を制御すると、応答例2に示すように温度信号TPC、あるいは対象物温度信号TPSはゆっくり目標温度TX0に漸近する応答を示す。そして、いずれの場合も、最終段階においては、制御対象温度(図6では制御用温度測定器103から出力される温度信号TPC、図7では対象物温度測定器102から出力される対象物温度信号TPS)は目標温度TX0に対して設定温度許容幅の範囲内で一致し、かつ制御対象温度の変動が許容できる変動幅以内となるとき目的が達成される。ここで、変動幅とは、ある設定された時間内において制御対象温度に生じる温度の変動幅であり、通常の温度制御においては、設定温度許容幅と変動幅は同一となることが多い。
しかしながら、設定温度許容幅に比較して小さな変動幅が要求される場合では、温度設定値信号Tが目標温度TX0に達した後、対象物温度が設定温度許容幅内に入るのに要する時間に比較して、対象物温度の変動が変動幅内に入るのに要する時間(以下、従来時間Taとする)が格段に長く、結果として対象物温度を、目標温度TX0の設定温度許容幅内に到達させると共に、目標温度TX0の変動幅内にも到達させるまでに長時間を要するという問題が生じている。
【0006】
本発明は係る事情に鑑みてなされたもので、加熱炉内に収容した対象物を初期目標値に向けて加熱し、加熱炉内の温度が初期目標値に対して予め決められた設定温度許容幅内の特定温度値に到達すると、加熱炉内の温度又は対象物の温度を特定温度値に対して設定温度許容幅より小さく設定された変動幅内に従来時間Taよりも短時間で到達させて保持することが可能な加熱装置の温度制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的に沿う第1の発明に係る加熱装置の温度制御方法は、加熱手段を備え収納された対象物を加熱する加熱炉と、前記加熱炉内の温度を測定する温度測定手段と、前記対象物を加熱保持する際に目標となる設定温度に到達するまでの温度変化パターンを設定する温度設定手段と、前記温度設定手段から出力される温度信号及び前記温度測定手段から出力される加熱炉温度信号に基づいて前記加熱手段を制御する制御手段とを備えた加熱装置の温度制御方法において、
初期目標値を前記設定温度とした前記温度設定手段の温度信号及び前記温度測定手段によって計測された加熱炉温度信号を前記制御手段に入力して前記加熱手段を制御する制御信号を求め、該制御信号に基づいて前記加熱手段を制御して前記対象物を加熱する第1工程と、
前記温度測定手段で測定された温度値Aが、前記初期目標値に対して予め定められた設定温度許容幅内の特定温度値に到達したことを前記温度設定手段で判定して、前記温度設定手段の前記対象物の設定温度を前記初期目標値から温度値Aに変更する第2工程と、
前記設定温度が温度値Aに変更された前記温度設定手段から出力される温度信号及び前記温度測定手段で測定された加熱炉温度信号を前記制御手段に入力して前記加熱手段を制御する新たな制御信号を求め、前記加熱炉内の温度を前記特定温度値に対して予め設定された変動幅内の温度にする第3工程とを有する。
【0008】
第1の発明に係る加熱装置の温度制御方法において、前記制御信号Ya及び前記新たな制御信号Ybは以下の式で表すことができる。
(1)前記温度測定手段で測定される温度値が前記特定温度値になる前の期間
Ya=f(T−T)
(2)前記温度測定手段で測定される温度値が前記特定温度値となった以降の期間
Yb=f(TP0−TP1)+g(TP1−T)
ここで、Tは前記初期目標値を前記設定温度としたときに前記温度設定手段から出力される温度信号、Tは前記温度測定手段から出力される加熱炉温度信号、TP0は前記温度測定手段で測定された温度値が前記特定温度値に到達したときに前記温度設定手段から出力される温度信号、TP1は前記設定温度が温度値Aに変更された前記温度設定手段から出力される温度信号で、該温度測定手段で温度値Aが測定された際に該温度測定手段から出力される加熱炉温度信号と同値であり、f及びgは関数である。
【0009】
第1の発明に係る加熱装置の温度制御方法において、前記設定温度が温度値Aに変更された前記温度設定手段から出力される温度信号及び前記温度測定手段で測定された加熱炉温度信号に基づく前記新たな制御信号で前記加熱手段が制御されている際に、前記温度測定手段で前記温度値Aの近傍で前記設定温度が該温度値Aに変更されて温度変動幅が前記予め設定された変動幅内となるのに要する時間より短い時間で温度変動幅を前記予め設定された変動幅内にすることが可能となる温度値Bが測定されると、前記温度設定手段の設定温度を前記温度値Bに変更し、前記設定温度が温度値Bに変更された前記温度設定手段から出力される温度信号及び前記温度測定手段で測定された加熱炉温度信号を前記制御手段に入力して前記加熱手段を制御する更に新たな制御信号を求め、該更に新たな制御信号で前記加熱手段を制御することが好ましい。そして、前記更に新たな制御信号Ycは以下の式で表すことができる。
Yc=Y+h(TP2−T)
ここで、Yは前記温度測定手段で温度値Bが測定された際に前記制御手段から出力されていた制御信号値、TP2は前記設定温度が温度値Bに変更された前記温度設定手段から出力される温度信号で、前記温度測定手段で温度値Bが測定された際に該温度測定手段から出力される加熱炉温度信号と同値であり、Tは前記温度測定手段から出力される加熱炉温度信号、hは関数である。
【0010】
前記目的に沿う第2の発明に係る加熱装置の温度制御方法において、加熱手段を備え収納された対象物を加熱する加熱炉と、前記加熱炉内の温度を測定する温度測定手段と、前記対象物を加熱保持する際に目標となる設定温度に到達するまでの温度変化パターンを設定する温度設定手段と、前記温度設定手段から出力される温度信号及び前記温度測定手段から出力される測定信号に基づいて前記加熱手段を制御する制御手段とを備えた加熱装置の温度制御方法において、
前記温度測定手段は、前記加熱炉内の雰囲気温度を測定する加熱手段制御用温度測定器と、前記対象物の表面又は近傍の雰囲気温度を測定を測定する対象物用温度測定器とを有し、
前記制御手段に、初期目標値を前記設定温度とした前記温度設定手段の温度信号及び前記加熱手段制御用温度測定器から出力される測定信号を入力して前記加熱手段を制御する制御信号を求め、該制御信号に基づいて前記加熱手段を制御して前記対象物を加熱する第1工程と、
前記対象物用温度測定器で測定された温度値Aが、前記初期目標値に対して予め定められた設定温度許容幅内の特定温度値に到達したことを前記温度設定手段で判定して、前記温度設定手段の前記対象物の設定温度を前記初期目標値から温度値Aに変更する第2工程と、
前記制御手段に、前記設定温度が温度値Aに変更された前記温度設定手段から出力される温度信号及び前記対象物用温度測定器から出力される測定信号を入力して、前記加熱手段を制御する新たな制御信号を求め、前記対象物の温度を前記特定温度値に対して予め設定された変動幅内の温度にする第3工程とを有する。
【0011】
第2の発明に係る加熱装置の温度制御方法において、前記制御信号Ya及び前記新たな制御信号Ybは以下の式で表すことができる。
(1)前記対象物用温度測定器で測定される温度値が前記特定温度値になる前の期間
Ya=f(T−T
(2)前記対象物用温度測定器で測定される温度値が前記特定温度値となった以降の期間
Yb=f(TP0−TPC1)+g(TPS1−T
ここで、Tは前記初期目標値を前記設定温度としたときに前記温度設定手段から出力される温度信号、Tは前記加熱手段制御用温度測定器から出力される測定信号、TP0は前記対象物用温度測定器で測定された温度値が前記特定温度値に到達したときに前記温度設定手段から出力される温度信号、TPC1は前記対象物用温度測定器で測定された温度値が前記特定温度値に到達したときに前記加熱手段制御用温度測定器から出力される温度信号、TPS1は前記設定温度が温度値Aに変更された前記温度設定手段から出力される温度信号で、該対象物用温度測定器で温度値Aが測定された際に該対象物用温度測定器から出力される測定信号と同値であり、Tは該対象物用温度測定器から出力される測定信号であり、f及びgは関数ある。
【0012】
第2の発明に係る加熱装置の温度制御方法において、前記設定温度が温度値Aに変更された前記温度設定手段から出力される温度信号及び前記対象物用温度測定器で測定された測定信号に基づく前記新たな制御信号で前記加熱手段が制御されている際に、前記対象物用温度測定器で前記温度値Aの近傍で前記設定温度が該温度値Aに変更されて温度変動幅が前記予め設定された変動幅内となるのに要する時間より短い時間で温度変動幅を前記予め設定された変動幅内にすることが可能となる温度値Bが測定されると、前記温度設定手段の設定温度を前記温度値Bに変更し、前記設定温度が温度値Bに変更された前記温度設定手段から出力される温度信号及び前記対象物用温度測定器で測定された測定信号を前記制御手段に入力して前記加熱手段を制御する更に新たな制御信号を求め、該更に新たな制御信号で前記加熱手段を制御することが好ましい。そして、前記更に新たな制御信号Ycは以下の式で表すことができる。
Yc=Y+h(TPS2−T
ここで、Yは前記対象物用温度測定器で温度値Bが測定された際に前記制御手段から出力されていた制御信号値、TPS2は前記設定温度が温度値Bに変更された前記温度設定手段から出力される温度信号で、前記対象物用温度測定器で温度値Bが測定された際に該対象物用温度測定器から出力される測定信号と同値であり、Tは前記対象物用温度測定器から出力される測定信号、hは関数である。
【発明の効果】
【0013】
請求項1〜4記載の加熱装置の温度制御方法においては、温度測定手段で測定された温度値Aが、初期目標値に対して予め定められた設定温度許容幅内の特定温度値に到達したことが温度設定手段で判定されると、温度設定手段の対象物の設定温度を初期目標値から温度値Aに変更するので、加熱炉の温度が温度測定手段で測定された温度値Aとなるように制御されることになって、加熱手段の出力変動幅を小さくすることができ、加熱炉の温度を特定温度値に対して設定温度許容幅より小さく設定された変動幅内に従来時間Taよりも(以下、同じ)短時間で到達させて保持することが可能となる。
【0014】
特に、請求項2記載の加熱装置の温度制御方法においては、新たな制御信号Ybにf(TP0−TP1)の項が存在するので、温度設定手段の対象物の設定温度が初期目標値から温度値Aに変更される前後で、YaとYbの値に大きな変動が生じるのが防止でき、設定温度の変更に伴う温度変動を抑制することが可能になる。更に、gの関数形を選択することで、加熱炉の温度を特定温度値に対して設定温度許容幅より小さく設定された変動幅内に短時間で到達させることができる。
【0015】
請求項3記載の加熱装置の温度制御方法においては、加熱炉の温度を特定温度値に対して予め設定された変動幅内の温度に更に短時間で到達させて保持することが可能となる。
請求項4記載の加熱装置の温度制御方法においては、更に新たな制御信号YcにYの項が存在するので、設定温度の変更の前後で温度設定手段から出力さる制御信号値に大きな変動が生じるのが防止でき、設定温度の変更に伴う温度変動を抑制することが可能になる。更に、hの関数形を選択することで、加熱炉の温度を特定温度値に対して設定温度許容幅より小さく設定された変動幅内に短時間で到達させることができる。
【0016】
請求項5〜8記載の加熱装置の温度制御方法においては、対象物用温度測定器で測定された温度値Aが、初期目標値に対して予め定められた設定温度許容幅内の特定温度値に到達したことが温度設定手段で判定されると、温度設定手段の対象物の設定温度を初期目標値から温度値Aに変更するので、加熱炉の温度が対象物用温度測定器で測定された温度値Aとなるように制御されることになって、加熱手段の出力変動幅を小さくすることができ、対象物の温度を特定温度値に対して設定温度許容幅より小さく設定された変動幅内に到達させて保持することが可能となる。
【0017】
特に、請求項6記載の加熱装置の温度制御方法においては、新たな制御信号Ybにf(TP0−TPC1)の項が存在するので、温度設定手段の対象物の設定温度が初期目標値から温度値Aに変更される前後で、YaとYbの値に大きな変動が生じるのが防止でき、設定温度の変更に伴う温度変動を抑制することが可能になる。更に、gの関数形を選定することで、対象物の温度を特定温度値に対して設定温度許容幅より小さく設定された変動幅内に短時間で到達させることができる。
【0018】
請求項7記載の加熱装置の温度制御方法においては、対象物の温度を特定温度値に対して予め設定された変動幅内の温度に更に短時間で到達させて保持することが可能となる。
請求項8記載の加熱装置の温度制御方法においては、更に新たな制御信号YcにYの項が存在するので、設定温度の変更の前後で温度設定手段から出力さる制御信号値に大きな変動が生じるのが防止でき、設定温度の変更に伴う温度変動を抑制することが可能になる。更に、hの関数形を選択することで、加熱炉の温度を特定温度値に対して設定温度許容幅より小さく設定された変動幅内に短時間で到達させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
ここで、図1は本発明の第1の実施の形態に係る加熱装置の温度制御方法が適用される加熱装置の説明図、図2は同加熱装置の温度制御方法による加熱炉の温度制御状態を示す説明図、図3は同加熱装置の温度制御方法の変形例に係る加熱炉の温度制御状態を示す説明図、図4は本発明の第2の実施の形態に係る加熱装置の温度制御方法が適用される加熱装置の説明図、図5は本発明の第3の実施の形態に係る加熱装置の温度制御方法が適用される加熱装置の説明図である。
【0020】
図1に示すように、本発明の第1の実施の形態に係る加熱装置の温度制御方法が適用される加熱装置10は、加熱手段11を備え収納された対象物12を加熱する加熱炉13と、加熱炉13内の温度を測定する温度測定手段14と、対象物12を加熱保持する際に目標となる設定温度に到達するまでの温度変化パターンを設定する温度設定手段15と、温度設定手段15から出力される温度信号及び温度測定手段14から出力される加熱炉温度信号Tに基づいて加熱手段11を制御する制御手段16とを備えている。以下詳細に説明する。
【0021】
加熱炉13は、例えば、金属製の外殻部17と、外殻部17の内面側に設けられ耐火断熱材により構成される図示しない断熱部とを有している。そして、対象物12は、断熱部の内側空間内に設けられた図示しない支持台上に載置される。また、加熱手段11は、断熱部の内側空間内に設けられた加熱部の一例である電気ヒータ18と、電気ヒータ18に電力を供給する加熱電源部19とを有している。更に、温度測定手段14は、加熱炉13内に温度検出部20が設けられて、加熱炉13内の雰囲気温度を測定する熱電対21を有しており、熱電対21の出力端子は温度設定手段15及び制御手段16の各入力端子と接続している。
このような構成とすることにより、電気ヒータ18に加熱電源部19から電力を供給することにより電気ヒータ18を発熱させて、支持台に載置された対象物12を加熱することができる。そして、熱電対21で加熱炉13内の温度を測定し加熱炉温度信号TPCとして、温度設定手段15及び制御手段16にそれぞれ出力することができる。
【0022】
温度設定手段15は、熱電対21から出力される加熱炉温度信号Tを受け入れて、加熱炉13内の温度値Aが初期目標値に対して予め定められた設定温度許容幅ΔT(図2参照)内の特定温度値に到達したことを判定して、温度設定手段15の対象物12の設定温度をを加熱当初に設定した初期目標値から温度値Aに変更する変更指令信号を出力する第1の信号出力機能を備えた切替器22を有している。また、温度設定手段15は、対象物12を初期目標値まで加熱する際の温度変化パターンを設定しその温度変化パターンに対応する温度信号Tを制御手段16に出力する初期温度設定機能と、切替器22からの変更指令信号を受けて設定温度を温度値Aに変更したときに、加熱炉13内の温度を温度値Aに加熱保持するような温度信号TP1を制御手段16に出力する第1の温度設定変更機能を備えた温度パターン設定部23を有している。
【0023】
ここで、切替器22は、設定温度が温度値Aに変更されて温度パターン設定部23から加熱炉13内の温度を温度値Aに加熱保持するような温度信号TP1を制御手段16に出力している際に、温度値Aの近傍で、設定温度が温度値Aに変更されて温度変動幅が予め設定された変動幅内となるのに要する時間より短い時間で温度変動幅を予め設定された変動幅内にすることが可能となる温度値Bが熱電対21で測定されると入力される信号(例えば、熱電対21で温度値Bが最初に測定された時点で、又は温度値Bが繰り返し測定される度に手動スイッチの操作により発生する信号)に基づいて温度パターン設定部23の設定温度を温度値Bに変更する再変更指令信号を出力する第2の信号出力機能を更に備え、温度パターン設定部23は、切替器22からの再変更指令信号を受ける度に設定温度を温度値Bに変更し加熱炉13内の温度を温度値Bに加熱保持するような温度信号TP2を制御手段16に繰り返し出力する第2の温度設定変更機能を更に備えている。そして、温度設定手段15は、第1、第2の信号出力機能、初期温度設定機能、第1、第2の温度設定変更機能をそれぞれ発現するプログラムをマイクロコンピュータに搭載することにより形成することができる。
【0024】
このような構成とすることにより、温度測定手段14の熱電対21で測定される温度値が特定温度値になる前の期間は、温度設定手段15から制御手段16に向けて、対象物12を初期目標値まで加熱する温度変化パターンに対応する温度信号Tが出力され、加熱手段11では、温度変化パターンに従った加熱が行なわれる。そして、温度測定手段14の熱電対21で測定される温度値が特定温度値となった以降の期間は、温度設定手段15から制御手段16に向けて、加熱炉13内の温度を温度値Aに加熱保持するような温度信号TP1が出力され、加熱手段11で加熱炉13内の温度を温度値Aに保持する加熱を行なうことができる。更に、加熱炉13内の温度を温度値Aに保持する加熱が行なわれている際に、温度値Aの近傍でより短い時間で温度変動幅を予め設定された変動幅内にすることが可能となる温度値Bが熱電対21で測定されて切替器22からの再変更指令信号を受ける度に温度パターン設定部23の設定温度を温度値Bに変更し、温度パターン設定部23から加熱炉13内の温度を温度値Bに加熱保持するような温度信号TP2を制御手段16に出力して、加熱手段11で加熱炉13内の温度を温度値Bに保持する加熱を行なうことができる。
【0025】
制御手段16は、切替器22からの変更指令信号が入力されるまでは、すなわち、温度測定手段14の熱電対21で測定される温度値が特定温度値になる前の期間においては、温度パターン設定部23から入力される温度信号T(対象物12を初期目標値まで加熱する温度変化パターンに対応する温度信号)と、温度測定手段14の熱電対21から出力される加熱炉温度信号Tに基づいて、制御信号Yaとしてf(T−T)を演算して加熱電源部19に出力する初期演算出力機能を有している。ここで、fは温度信号の関数である。これにより、温度信号Tと加熱炉温度信号Tの差が少なくなるように加熱電源部19が制御される。
【0026】
また、制御手段16は、切替器22からの変更指令信号が入力されてからは、すなわち、熱電対21で測定される温度値が特定温度値となった以降の期間においては、設定温度が温度値Aに変更された温度パターン設定部23から入力される温度信号(加熱炉13内の温度を温度値Aに加熱保持する温度信号)TP1と、熱電対21から出力される加熱炉温度信号Tに基づいてに基づいて、新たな制御信号Ybとしてf(TP0−TP1)+g(TP1−T)を演算して加熱電源部19に出力する第1の演算出力機能を有している。ここで、TP0は設定温度変更前に温度設定手段15から出力される設定した温度変化パターンに基づく温度信号で、gは温度信号の関数である。これにより、温度信号TP1と加熱炉温度信号Tの差が少なくなるように加熱電源部19が制御される。また、新たな制御信号Ybにf(TP0−TP1)という定数項が存在するので、温度設定手段15の対象物12の設定温度が初期目標値から温度値Aに変更される前後で、YaとYbの値に大きな変動が生じるのが防止でき、設定温度の変更に伴う加熱炉13内の温度変動を抑制することができる。
【0027】
また、制御手段16は、切替器22からの再変更指令信号が入力される毎に、設定温度が温度値Bに変更された温度パターン設定部23から入力される温度信号(加熱炉13内の温度を温度値Bに加熱保持する温度信号)TP2と、熱電対21から出力される加熱炉温度信号Tに基づいて更に新たな制御信号Ycとして、Y+h(TP2−T)を演算して加熱電源部19に繰り返し出力する第2の演算出力機能を有している。
ここで、Yは熱電対21で温度値Bが測定された際に制御手段16から新たな制御信号として出力されていた制御信号値で、f(TP0−TP1)+g(TP1−TP2)であり、TP2は設定温度が温度値Bに変更された温度設定手段15から出力される温度信号で、温度設定手段15で温度値Bが測定された際に温度測定手段14から出力される加熱炉温度信号と同値であり、hは温度信号の関数である。これにより、温度信号TP2と加熱炉温度信号Tの差が少なくなるように加熱電源部19が制御される。また、更に新たな制御信号YcにYという定数項が存在するので、温度設定手段15の対象物12の設定温度が温度値Bに変更される前後で、制御信号値に大きな変動が生じるのが防止でき、設定温度の変更に伴う加熱炉13内の温度変動を抑制することができる。なお、制御手段16は、初期演算出力機能、第1、第2の演算出力機能を発現するプログラムをマイクロコンピュータに搭載することにより形成することができる。
【0028】
ここで、fは、広い温度範囲の制御に適した関数形を有し、g及びhは狭い温度範囲の制御に適した関数であり、PID制御で使用されているPID制御関数を使用する。例えば、T−Tの差又はTP1−Tの差の時間変化をe(t)と表すと、f、g、hの関数形は、e(t)に比例した出力を出す比例動作関数部Pと、e(t)の時間積分に比例した出力を出す積分動作関数部Iと、e(t)の時間部分に比例する出力を出す微分動作関数部Dの和として表せる。ここで、P=Ke(t)、I=(K/S)∫e(t)dt、D=(K/S)(de(t)/dt)であり、Kは比例動作の大きさを示す定数、Sは積分時間、Sは微分時間である。そして、K、S、及びSの値を加熱炉13の特性に合わせて設定することで、f、g、hの各関数形を具体的に決定することができる。
【0029】
続いて、本発明の第1の実施の形態に係る加熱装置の温度制御方法が適用される加熱装置10の使用方法について説明する。
先ず、加熱炉13の図示しない扉を開けて加熱炉13内に設けられた支持台上に対象物12を載置して扉を閉じる。次いで、温度設定手段15の温度パターン設定部23を用いて、対象物12を加熱保持する際に目標となる設定温度として初期目標値を決めて、初期目標値に到達するまでの温度変化パターンを設定する。また、切替器22に初期目標値に対しての設定温度許容幅ΔTを入力する。そして、温度パターン設定部23の運転を開始する。
【0030】
温度パターン設定部23の運転を開始すると、熱電対21から出力される加熱炉温度信号Tは、温度設定手段15の温度パターン設定部23及び切替器22と、制御手段16にそれぞれ入力され、温度パターン設定部23からは設定された温度変化パターンに基づく温度信号Tが制御手段16に入力される。続いて、制御手段16では、入力された温度信号T及び加熱炉温度信号Tの差が少なくなるように、すなわち、加熱炉温度信号Tが温度信号Tとなるように電気ヒータ18に電力を供給する加熱電源部19を操作する制御信号Yaを演算し、得られた制御信号Yaを加熱電源部19に向けて出力する。これによって、制御信号Yaに基づいて加熱手段11の電気ヒータ18に供給する電力が制御されて、図2に示すように、加熱炉13内の対象物12は初期目標値に向けて徐々に加熱される(以上、第1工程)。
【0031】
熱電対21から出力される加熱炉温度信号Tが切替器22に入力されて、熱電対21で測定された温度値Aが、初期目標値に対して予め定められた設定温度許容幅ΔT内の特定温度値に到達したことが判定されると、温度設定手段15の対象物12の設定温度を初期目標値から温度値Aに変更する変更指令信号が出力され、変更指令信号を受けて温度パターン設定部23では、対象物12の設定温度が初期目標値から温度値Aに変更される。これによって、温度パターン設定部23からは、加熱炉13内の温度を温度値Aに加熱保持する温度信号TP1が出力される。ここで、温度信号TP1は、熱電対21で温度値Aが測定された際に熱電対21から出力される加熱炉温度信号と同値となる(以上、第2工程)。
【0032】
切替器22から変更指令信号が出力されると、すなわち、熱電対21で測定される温度値が特定温度値となった以降の期間では、温度パターン設定部23からは対象物12を加熱保持する温度を温度値Aにする温度信号TP1が制御手段16に入力される。そして、制御手段16では、温度パターン設定部23から入力される温度信号TP1と、熱電対21から入力される加熱炉温度信号Tに基づいて、入力された温度信号TP1及び加熱炉温度信号Tの差が少なくなるように、すなわち、加熱炉温度信号Tが温度信号TP1となるように電気ヒータ18に電力を供給する加熱電源部19を操作する新たな制御信号Ybを演算し、得られた制御信号Ybを加熱電源部19に向けて出力する。これによって、制御信号Yb、すなわち、f(TP0−TP1)+g(TP1−T)に基づいて加熱手段11の電気ヒータ18に供給する電力が制御されて、図2に示すように、加熱炉13内の対象物12は温度値Aに加熱保持される。
【0033】
加熱炉13内の温度が温度値Aに加熱保持されると、時間の経過と共に加熱炉13内の温度と対象物12の温度は熱平衡状態になるので、対象物12の温度も、温度値Aに対して予め設定された変動幅ΔU内の温度に入るようになる。なお、対象物12の温度は、温度検出部24が対象物12に近接して配置した熱電対25の対象物温度信号TPSを温度指示計26に入力することにより求められる。
【0034】
対象物12を加熱保持する温度を初期目標値から温度値Aに変更した場合、制御手段16から出力される新たな制御信号Ybがf(TP0−TP1)+g(TP1−T)となって、制御信号Ybに定数項f(TP0−TP1)が存在する。そして、f(TP0−TP1)は、温度パターン設定部23の設定温度が温度値Aに変更される直前に制御手段16から加熱電源部19に向けて出力された制御信号Yaと同値であるので、温度設定手段15で設定温度が初期目標値から温度値Aに変更される前後で、YaとYbの値に大きな変動が生じるのが防止でき、設定温度の変更に伴う加熱炉13内の温度変動を抑制することができる。そして、図2に示すように、対象物12を加熱保持する温度を初期目標値から温度値Aに変更しない場合と比べて、加熱炉13内の温度を、温度値Aに対して設定温度許容幅ΔTより小さく、gの関数形に依存した変動幅ΔU内の温度に短時間で到達させて保持することができる。
【0035】
また、加熱炉13内の温度が設定温度許容幅ΔT内の温度で加熱保持されている状態で、加熱炉13内の温度が、温度値Aの近傍でより短い時間で温度変動幅を予め設定された変動幅内にすることが可能となる温度値Bとなったことが温度設定手段15の図示しない温度表示部の表値から確認された場合、例えば、切替器22に設けられた図示しない手動スイッチを操作して切替器22から再変更指令信号を出力する。これによって、温度パターン設定部23では設定温度が温度値Bに変更され、温度パターン設定部23からは加熱炉13内の温度を温度値Bに加熱保持する温度信号TP2が出力される。そして、制御手段16では、温度パターン設定部23から入力される温度信号TP2と、熱電対21から入力される加熱炉温度信号Tに基づいて、入力された温度信号TP2及び加熱炉温度信号Tの差が少なくなるように、すなわち、加熱炉温度信号Tが温度信号TP2となるように電気ヒータ18に電力を供給する加熱電源部19を操作する更に新たな制御信号Ycを演算し、得られた制御信号Ycを加熱電源部19に向けて出力する。これによって、制御信号Yc、すなわち、Y+h(TP2−T)に基づいて加熱手段11の電気ヒータ18に供給する電力が制御されて、図3に示すように、加熱炉13内の対象物12は温度値Bに加熱保持されるようになる。
【0036】
ここで、対象物12を加熱保持する温度を温度値Aから温度値Bに変更した場合、制御手段16から出力される更に新たな制御信号YcがY+h(TP2−T)となって、制御信号Ycに定数項Yが存在する。そして、Yは、温度パターン設定部23の設定温度が温度値Bに変更される直前に制御手段16から加熱電源部19に向けて出力された制御信号Ybと同値であるので、温度設定手段15で設定温度が温度値Aから温度値Bに変更される前後で、YbとYcの値に大きな変動が生じるのが防止でき、設定温度の変更に伴う加熱炉13内の温度変動を抑制することができる。そして、図3に示すように、加熱炉13内の温度を、温度値Bに対してhの関数形に依存した変動幅ΔS内の温度に短時間で到達させて保持することができる。なお、熱電対21で温度値Bが繰り返し測定される度に切替器22から再変更指令信号を温度パターン設定部23及び制御手段16に繰り返し入力する場合は、温度パターン設定部23では再変更指令信号を受ける度に設定温度を温度値Bに変更し加熱炉13の温度を温度値Bに加熱保持する温度信号TP2を制御手段16に出力し、制御手段16では再変更指令信号が入力される毎に、設定温度が温度値Bに変更された温度パターン設定部23から入力される温度信号TP2と熱電対21から入力される温度信号Tに基づいて更に新たな制御信号Ycを演算して加熱電源部19に繰り返し出力することになる。これによって、加熱炉13の温度を温度値Aの近傍の温度値Bにおいて、より短い時間で変動幅ΔS内にすることが可能となる(以上、第3工程)。
【0037】
図4に示すように、本発明の第2の実施の形態に係る加熱装置の温度制御方法が適用される加熱装置27は、第1の実施の形態の加熱装置10と比較して、温度測定手段14の代りに、対象物12に近接して配置される温度検出部28を備えた熱電対29を有する温度測定手段30を設け、熱電対29の出力端子を温度設定手段15、制御手段16、及び温度指示計26の各入力端子に接続したことが特徴になっている。このため、加熱装置10と同一の構成部材には同一の符号を付して加熱装置27に関する詳細な説明は省略する。そして、温度設定手段15から出力される温度信号と熱電対29から出力される加熱炉温度信号Tに基づいた加熱装置27の温度制御方法は、加熱装置10の温度制御方法と実質的に同一なので、加熱装置27の温度制御方法に関する説明も省略する。なお、対象物12の温度は、温度検出部28が対象物12に近接して配置した熱電対29の加熱炉温度信号Tを温度指示計26に入力することにより求められる。
【0038】
図5に示すように、本発明の第3の実施の形態に係る加熱装置の温度制御方法が適用される加熱装置31は、第1の実施の形態の加熱装置10と比較して、温度測定手段14の代りに、対象物12に近接して配置される温度検出部32を備えた熱電対33からなる対象物用温度測定器34と、加熱手段11の電気ヒータ18に近接して配置される温度検出部35を備えた熱電対36からなる加熱手段制御用温度測定器37とを備えた温度測定手段38を設け、対象物用温度測定器34の出力端子を温度設定手段15の温度パターン設定部23及び切替器22、制御手段16、並びに温度指示計26の各入力端子に接続し、加熱手段制御用温度測定器37の出力端子を温度パターン設定部23、制御手段16、及び切替器22の各入力端子に接続したことが特徴になっている。このため、加熱装置10と同一の構成部材には同一の符号を付して加熱装置31に関する詳細な説明は省略し、加熱装置31の使用方法についてのみ説明する。
【0039】
先ず、加熱炉13の図示しない扉を開けて加熱炉13内に設けられた支持台上に対象物12を載置して扉を閉じる。次いで、温度設定手段15の温度パターン設定部23を用いて、対象物12を加熱保持する際に目標となる設定温度として初期目標値を決めて、初期目標値に到達するまでの温度変化パターンを設定する。また、切替器22に初期目標値に対しての設定温度許容幅ΔTを入力する。そして、温度パターン設定部23の運転を開始する。
【0040】
温度パターン設定部23の運転を開始すると、加熱手段制御用温度測定器37から出力される測定信号Tは温度設定手段15の温度パターン設定部23及び切替器22と、制御手段16にそれぞれ入力され、対象物用温度測定器34から出力される測定信号Tは温度設定手段15の温度パターン設定部23及び切替器22と、制御手段16にそれぞれ入力される。また、温度パターン設定部23からは設定された温度変化パターンに基づく温度信号Tが制御手段16に入力される。続いて、制御手段16では、入力された温度信号T及び加熱手段制御用温度測定器37からの測定信号Tの差が少なくなるように、すなわち、測定信号Tが温度信号Tとなるように電気ヒータ18に電力を供給する加熱電源部19を操作する制御信号Ya(Ya=f(T−T))を演算し、得られた制御信号Yaを加熱電源部19に向けて出力する。これによって、制御信号Yaに基づいて加熱手段11の電気ヒータ18に供給する電力が制御されて加熱炉13内の対象物12は初期目標値に向けて徐々に加熱される(以上、第1工程)。
【0041】
対象物用温度測定器34から出力される測定信号Tが切替器22に入力されて、対象物用温度測定器34で測定された温度値Aが、初期目標値に対して予め定められた設定温度許容幅ΔT内の特定温度値に到達したことが判定されると、温度設定手段15の対象物12の設定温度を初期目標値から温度値Aに変更する変更指令信号が出力され、変更指令信号を受けて温度パターン設定部23では、対象物12の設定温度が初期目標値から温度値Aに変更される。これによって、温度パターン設定部23からは、対象物12の温度を温度値Aに加熱保持する温度信号TPS1が出力される。ここで、温度信号TPS1は、設定温度が温度値Aに変更された温度設定手段15から出力される温度信号で、対象物用温度測定器34で温度値Aが測定された際に対象物用温度測定器34から出力される測定信号と同値となる(以上、第2工程)。
【0042】
切替器22から変更指令信号が出力されると、すなわち、対象物用温度測定器34で測定される温度値が特定温度値となった以降の期間では、温度パターン設定部23からは対象物12を加熱保持する温度を温度値Aにする温度信号TPS1が制御手段16に入力される。そして、制御手段16では、温度パターン設定部23から入力される温度信号TPS1と、対象物用温度測定器34から入力される測定信号Tに基づいて、入力された温度信号TPS1及び測定信号Tの差が少なくなるように、すなわち、測定信号Tが温度信号TPS1となるように電気ヒータ18に電力を供給する加熱電源部19を操作する新たな制御信号Ybを演算し、得られた制御信号Ybを加熱電源部19に向けて出力する。これによって、制御信号Yb、すなわち、f(TP0−TPC1)+g(TPS1−T)に基づいて加熱手段11の電気ヒータ18に供給する電力が制御されて、加熱炉13内の対象物12は温度値Aに加熱保持される。なお、TP0は対象物用温度測定器34で測定された温度値が特定温度値に到達したときに温度設定手段15から出力される温度信号であり、TPC1は対象物用温度測定器34で測定された温度値が特定温度値に到達したときに加熱手段制御用温度測定器37から出力される温度信号である。
【0043】
加熱炉13内の温度が温度値Aに加熱保持されると、時間の経過と共に加熱炉13内の温度と対象物12の温度は熱平衡状態になるので、対象物12の温度も、温度値Aに対して予め設定された変動幅ΔU内の温度に入るようになる。なお、対象物12の温度は、対象物用温度測定器34の測定信号Tを温度指示計26に入力することにより求められる。
【0044】
対象物12を加熱保持する温度を初期目標値から温度値Aに変更した場合、制御手段16から出力される新たな制御信号Ybがf(TP0−TPC1)+g(TPS1−T)となって、制御信号Ybに定数項f(TP0−TPC1)が存在する。そして、f(TP0−TPC1)は、温度パターン設定部23の設定温度が温度値Aに変更される直前に制御手段16から加熱電源部19に向けて出力された制御信号Yaと同値であるので、温度設定手段15で設定温度が初期目標値から温度値Aに変更される前後で、YaとYbの値に大きな変動が生じるのが防止でき、設定温度の変更に伴う加熱炉13内の温度変動を抑制することができる。また、対象物12を加熱保持する温度を初期目標値から温度値Aに変更しない場合と比べて、加熱炉13内の温度を、温度値Aに対して設定温度許容幅ΔTより小さく、gの関数形に依存した変動幅ΔU内の温度に短時間で到達させて保持することができる。
【0045】
また、加熱炉13内の温度が設定温度許容幅ΔT内の温度で加熱保持されている状態で、対象物12の温度が、温度値Aの近傍で設定温度が温度値Aに変更されて温度変動幅が予め設定された変動幅内となるのに要する時間より短い時間で温度変動幅を予め設定された変動幅内にすることが可能となる温度値Bとなったことが温度設定手段15の図示しない温度表示部の表値から確認された場合、例えば、切替器22に設けられた図示しない手動スイッチを操作して切替器22から再変更指令信号を出力する。これによって、温度パターン設定部23では設定温度が温度値Bに変更され、温度パターン設定部23からは対象物12の温度を温度値Bに加熱保持する温度信号TPS2が出力される。そして、制御手段16では、温度パターン設定部23から入力される温度信号TPS2と、対象物用温度測定器34から出力される測定信号Tに基づいて、入力された温度信号TPS2及び測定信号Tの差が少なくなるように、すなわち、測定信号Tが温度信号TPS2となるように電気ヒータ18に電力を供給する加熱電源部19を操作する更に新たな制御信号Ycを演算し、得られた制御信号Ycを加熱電源部19に向けて出力する。これによって、制御信号Yc、すなわち、Y+h(TPS2−T)に基づいて加熱手段11の電気ヒータ18に供給する電力が制御されて、加熱炉13内の対象物12は温度値Bに加熱保持されるようになる。
【0046】
ここで、対象物12を加熱保持する温度を温度値Aから温度値Bに変更した場合、制御手段16から出力される更に新たな制御信号YcがY+h(TPS2−T)となって、制御信号Ycに定数項Yが存在する。そして、Yは、温度パターン設定部23の設定温度が温度値Bに変更される直前に制御手段16から加熱電源部19に向けて出力された制御信号Ybと同値であるので、温度設定手段15で設定温度が温度値Aから温度値Bに変更される前後で、YbとYcの値に大きな変動が生じるのが防止でき、設定温度の変更に伴う加熱炉13内の温度変動を抑制することができ、対象物12の温度を、温度値Bに対してhの関数形に依存した変動幅ΔS内の温度に短時間で到達させて保持することができる。なお、対象物用温度測定器34で温度値Bが繰り返し測定される度に切替器22から再変更指令信号を温度パターン設定部23及び制御手段16に繰り返し入力する場合は、温度パターン設定部23では再変更指令信号を受ける度に設定温度を温度値Bに変更し対象物12の温度を温度値Bに加熱保持する温度信号TPS2を制御手段16に出力し、制御手段16では再変更指令信号が入力される毎に、設定温度が温度値Bに変更された温度パターン設定部23から入力される温度信号TPS2と対象物用温度測定器34から入力される測定信号Tに基づいて更に新たな制御信号Ycを演算して加熱電源部19に繰り返し出力することになる。これによって、対象物12の温度を温度値Aの近傍の温度値Bにおいて、より短い時間で変動幅ΔS内にすることが可能となる(以上、第3工程)。
【0047】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載した構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。
例えば、切替器、温度パターン設定部、及び制御手段を個別の機器で構成したが、パーソナルコンピュータに切替器、温度パターン設定部、及び制御手段の各機能を発現するプログラムを搭載することで構成することもできる。
【0048】
第1の実施の形態では、温度測定手段で測定した加熱部に近接した部位の加熱炉温度、第2の実施の形態では、温度測定手段で測定した対象物に近接した部位の加熱炉温度をそれぞれ測定して温度設定手段に入力し、加熱炉温度が目標温度に対して予め定められた設定温度許容幅内となる許容温度に到達したことを検知して、対象物を加熱保持する温度を目標温度から許容温度範囲内の新たな温度に自動で変更したが、手動で変更するようにしてもよい。
【0049】
更に、加熱炉の温度変化特性が明らかであれば、温度パターン設定部からの温度信号に対する加熱炉温度又は対象物温度の追従状況が把握できるので、温度測定手段で測定された温度値Aが、初期目標値に対して予め定められた設定温度許容幅内の特定温度値に到達するのに要する時間を推定することができる。このため、初期目標値に相当する温度信号が温度パターン設定部から出力されてから所定時間経過後に、設定温度を温度測定手段で測定された温度値A、すなわち初期目標値に対して予め定められた設定温度許容幅内の特定温度値に自動変更するようにしてもよい。また、初期目標値に相当する温度信号が温度パターン設定部から出力されてから、温度測定手段で測定される温度の時間微分値の絶対値が一定値未満(すなわち、温度変化が収束傾向)となったときに、設定温度を初期目標値から温度測定手段で測定された温度値A、すなわち初期目標値に対して予め定められた設定温度許容幅内の特定温度値に自動変更するようにすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る加熱装置の温度制御方法が適用される加熱炉の説明図である。
【図2】同加熱装置の温度制御方法による加熱炉の温度制御状態を示す説明図である。
【図3】同加熱装置の温度制御方法の変形例に係る加熱炉の温度制御状態を示す説明図、
【図4】本発明の第2の実施の形態に係る加熱装置の温度制御方法が適用される加熱炉の説明図である。
【図5】本発明の第3の実施の形態に係る加熱装置の温度制御方法が適用される加熱炉の説明図である。
【図6】従来例に係る加熱炉の温度制御方法が適用される加熱炉の説明図である。
【図7】従来例に係る加熱炉の温度制御方法が適用される別の加熱炉の説明図である。
【図8】従来例に係る加熱炉の温度制御方法による加熱炉の温度制御状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0051】
10:加熱装置、11:加熱手段、12:対象物、13:加熱炉、14:温度測定手段、15:温度設定手段、16:制御手段、17:外殻部、18:電気ヒータ、19:加熱電源部、20:温度検出部、21:熱電対、22:切替器、23:温度パターン設定部、24:温度検出部、25:熱電対、26:温度指示計、27:加熱装置、28:温度検出部、29:熱電対、30:温度測定手段、31:加熱装置、32:温度検出部、33:熱電対、34:対象物用温度測定器、35:温度検出部、36:熱電対、37:加熱手段制御用温度測定器、38:温度測定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱手段を備え収納された対象物を加熱する加熱炉と、前記加熱炉内の温度を測定する温度測定手段と、前記対象物を加熱保持する際に目標となる設定温度に到達するまでの温度変化パターンを設定する温度設定手段と、前記温度設定手段から出力される温度信号及び前記温度測定手段から出力される加熱炉温度信号に基づいて前記加熱手段を制御する制御手段とを備えた加熱装置の温度制御方法において、
初期目標値を前記設定温度とした前記温度設定手段の温度信号及び前記温度測定手段によって計測された加熱炉温度信号を前記制御手段に入力して前記加熱手段を制御する制御信号を求め、該制御信号に基づいて前記加熱手段を制御して前記対象物を加熱する第1工程と、
前記温度測定手段で測定された温度値Aが、前記初期目標値に対して予め定められた設定温度許容幅内の特定温度値に到達したことを前記温度設定手段で判定して、前記温度設定手段の前記対象物の設定温度を前記初期目標値から温度値Aに変更する第2工程と、
前記設定温度が温度値Aに変更された前記温度設定手段から出力される温度信号及び前記温度測定手段で測定された加熱炉温度信号を前記制御手段に入力して前記加熱手段を制御する新たな制御信号を求め、前記加熱炉内の温度を前記特定温度値に対して予め設定された変動幅内の温度にする第3工程とを有することを特徴とする加熱装置の温度制御方法。
【請求項2】
請求項1記載の加熱装置の温度制御方法において、前記制御信号Ya及び前記新たな制御信号Ybは以下の式で表されることを特徴とする加熱装置の温度制御方法。
(1)前記温度測定手段で測定される温度値が前記特定温度値になる前の期間
Ya=f(T−T)
(2)前記温度測定手段で測定される温度値が前記特定温度値となった以降の期間
Yb=f(TP0−TP1)+g(TP1−T)
ここで、Tは前記初期目標値を前記設定温度としたときに前記温度設定手段から出力される温度信号、Tは前記温度測定手段から出力される加熱炉温度信号、TP0は前記温度測定手段で測定された温度値が前記特定温度値に到達したときに前記温度設定手段から出力される温度信号、TP1は前記設定温度が温度値Aに変更された前記温度設定手段から出力される温度信号で、該温度測定手段で温度値Aが測定された際に該温度測定手段から出力される加熱炉温度信号と同値であり、f及びgは関数である。
【請求項3】
請求項1及び2のいずれか1項に記載の加熱装置の温度制御方法において、前記設定温度が温度値Aに変更された前記温度設定手段から出力される温度信号及び前記温度測定手段で測定された加熱炉温度信号に基づく前記新たな制御信号で前記加熱手段が制御されている際に、前記温度測定手段で前記温度値Aの近傍で前記設定温度が該温度値Aに変更されて温度変動幅が前記予め設定された変動幅内となるのに要する時間より短い時間で温度変動幅を該予め設定された変動幅内にすることが可能となる温度値Bが測定されると、前記温度設定手段の設定温度を前記温度値Bに変更し、前記設定温度が温度値Bに変更された前記温度設定手段から出力される温度信号及び前記温度測定手段で測定された加熱炉温度信号を前記制御手段に入力して前記加熱手段を制御する更に新たな制御信号を求め、該更に新たな制御信号で前記加熱手段を制御することを特徴とする加熱装置の温度制御方法。
【請求項4】
請求項3記載の加熱装置の温度制御方法において、前記更に新たな制御信号Ycは以下の式で表されることを特徴とする加熱装置の温度制御方法。
Yc=Y+h(TP2−T)
ここで、Yは前記温度測定手段で温度値Bが測定された際に前記制御手段から出力されていた制御信号値、TP2は前記設定温度が温度値Bに変更された前記温度設定手段から出力される温度信号で、前記温度測定手段で温度値Bが測定された際に該温度測定手段から出力される加熱炉温度信号と同値であり、Tは前記温度測定手段から出力される加熱炉温度信号、hは関数である。
【請求項5】
加熱手段を備え収納された対象物を加熱する加熱炉と、前記加熱炉内の温度を測定する温度測定手段と、前記対象物を加熱保持する際に目標となる設定温度に到達するまでの温度変化パターンを設定する温度設定手段と、前記温度設定手段から出力される温度信号及び前記温度測定手段から出力される測定信号に基づいて前記加熱手段を制御する制御手段とを備えた加熱装置の温度制御方法において、
前記温度測定手段は、前記加熱炉内の雰囲気温度を測定する加熱手段制御用温度測定器と、前記対象物の表面又は近傍の雰囲気温度を測定を測定する対象物用温度測定器とを有し、
前記制御手段に、初期目標値を前記設定温度とした前記温度設定手段の温度信号及び前記加熱手段制御用温度測定器から出力される測定信号を入力して前記加熱手段を制御する制御信号を求め、該制御信号に基づいて前記加熱手段を制御して前記対象物を加熱する第1工程と、
前記対象物用温度測定器で測定された温度値Aが、前記初期目標値に対して予め定められた設定温度許容幅内の特定温度値に到達したことを前記温度設定手段で判定して、前記温度設定手段の前記対象物の設定温度を前記初期目標値から温度値Aに変更する第2工程と、
前記制御手段に、前記設定温度が温度値Aに変更された前記温度設定手段から出力される温度信号及び前記対象物用温度測定器から出力される測定信号を入力して、前記加熱手段を制御する新たな制御信号を求め、前記対象物の温度を前記特定温度値に対して予め設定された変動幅内の温度にする第3工程とを有することを特徴とする加熱装置の温度制御方法。
【請求項6】
請求項5記載の加熱装置の温度制御方法において、前記制御信号Ya及び前記新たな制御信号Ybは以下の式で表されることを特徴とする加熱装置の温度制御方法。
(1)前記対象物用温度測定器で測定される温度値が前記特定温度値になる前の期間
Ya=f(T−T
(2)前記対象物用温度測定器で測定される温度値が前記特定温度値となった以降の期間
Yb=f(TP0−TPC1)+g(TPS1−T
ここで、Tは前記初期目標値を前記設定温度としたときに前記温度設定手段から出力される温度信号、Tは前記加熱手段制御用温度測定器から出力される測定信号、TP0は前記対象物用温度測定器で測定された温度値が前記特定温度値に到達したときに前記温度設定手段から出力される温度信号、TPC1は前記対象物用温度測定器で測定された温度値が前記特定温度値に到達したときに前記加熱手段制御用温度測定器から出力される温度信号、TPS1は前記設定温度が温度値Aに変更された前記温度設定手段から出力される温度信号で、該対象物用温度測定器で温度値Aが測定された際に該対象物用温度測定器から出力される測定信号と同値であり、Tは該対象物用温度測定器から出力される測定信号であり、f及びgは関数ある。
【請求項7】
請求項5及び6記載の加熱装置の温度制御方法において、前記設定温度が温度値Aに変更された前記温度設定手段から出力される温度信号及び前記対象物用温度測定器で測定された測定信号に基づく前記新たな制御信号で前記加熱手段が制御されている際に、前記対象物用温度測定器で前記温度値Aの近傍で前記設定温度が該温度値Aに変更されて温度変動幅が前記予め設定された変動幅内となるのに要する時間より短い時間で温度変動幅を前記予め設定された変動幅内にすることが可能となる温度値Bが測定されると、前記温度設定手段の設定温度を前記温度値Bに変更し、前記設定温度が温度値Bに変更された前記温度設定手段から出力される温度信号及び前記対象物用温度測定器で測定された測定信号を前記制御手段に入力して前記加熱手段を制御する更に新たな制御信号を求め、該更に新たな制御信号で前記加熱手段を制御することを特徴とする加熱装置の温度制御方法。
【請求項8】
請求項7記載の加熱装置の温度制御方法において、前記更に新たな制御信号Ycは以下の式で表されることを特徴とする加熱装置の温度制御方法。
Yc=Y+h(TPS2−T
ここで、Yは前記対象物用温度測定器で温度値Bが測定された際に前記制御手段から出力されていた制御信号値、TPS2は前記設定温度が温度値Bに変更された前記温度設定手段から出力される温度信号で、前記対象物用温度測定器で温度値Bが測定された際に該対象物用温度測定器から出力される測定信号と同値であり、Tは前記対象物用温度測定器から出力される測定信号、hは関数である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−322094(P2007−322094A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−155028(P2006−155028)
【出願日】平成18年6月2日(2006.6.2)
【出願人】(594081397)株式会社超高温材料研究所 (15)
【Fターム(参考)】