説明

加熱調理器

【課題】鍋の底面の温度を正確に測定し、調理性能に優れた加熱調理器を提供する。
【解決手段】鍋11を加熱する加熱手段13と、鍋11の底面(以下「鍋底」という)から放射される赤外線強度を検知する赤外線センサ14と、鍋底に対して投光する投光手段15〜17と、鍋底で反射した投光手段15〜17からの光の強度を検知する反射センサ18〜20と、反射センサ18〜20の出力から鍋底の反射率を換算し、さらにその反射率から放射率を換算する放射率換算手段21と、この換算された放射率及び赤外線センサ14の出力から鍋底の温度を算出する温度算出手段22と、温度算出手段22の出力に応じて加熱手段13に供給する電力量を制御する制御手段23とを備え、放射率換算手段21は、鍋底の複数箇所の反射率から赤外線センサ14の視野部の放射率を推定するもので、鍋底の温度を精度良く測定して、調理性能に優れた加熱調理器を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱調理器に関するもので、特に、トッププレートに載置された鍋の底の温度の検知方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の加熱調理器の多くは、被加熱物である鍋を載置するトッププレート裏に接触させたサーミスタなどの感温素子で鍋底の温度を間接的に検出している。また、鍋底から放射される赤外線をトッププレート越しに赤外線センサで検出して非接触かつ直接に鍋底の温度を検知するものもある(例えば、特許文献1参照)。また、トッププレートに接触させた感温素子で鍋底の温度を、赤外線センサで鍋底の温度変化勾配を検出して、沸騰点等の検出感度を向上させているものもある(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
また、温度勾配が安定した時の感温素子の出力と赤外線センサの出力から鍋底の赤外線放射率を算出して、赤外線センサの出力を補正するものもある(例えば、特許文献3参照)。また、発光手段からの照射光が鍋底で反射した光を受光手段により受光して反射率を測定し、この反射率から換算した放射率を使って赤外線センサで検出した赤外線量を補正することにより放射率の影響をなくしているものもある(例えば、特許文献4参照)。
【0004】
また、トッププレート上の複数箇所に入射する光、あるいは複数箇所の下面より照射した光が鍋底にて反射した光を検知して、トッププレート上の被加熱物の形状と、載置の状態の判定を行うものもある(例えば、特許文献5参照)。
【0005】
図11は、上記特許文献4に記載された従来の加熱調理器を示すものである。図11に示すように、演算制御部1は、発光制御回路4に指示し発光素子7を点灯し、トッププレート10に載置された被加熱物である鍋11の底で反射した光を、受光センサ9で受光し反射検知回路6で電圧量に変換し演算制御部1に入力する。この入力電圧量と演算制御部1に記憶させてある反射率と放射率の相関関係を示す演算式により、鍋11の底の放射率を算出する。次に、赤外線センサ8で鍋11の底から放射される赤外線を受光し、放射検知回路5で電圧量に変換して演算制御部1に入力する。この入力電圧量と同じく演算制御部1に記憶させてある赤外線量と放射率εから温度に換算するための温度算出式により鍋11の底の温度を算出する構成としている。
【特許文献1】特開2004−95316号公報
【特許文献2】特開平3−208288号公報
【特許文献3】特開2003−249341号公報
【特許文献4】特開平11−225881号公報
【特許文献5】特開2004−22304号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、加熱調理器は、調理鍋の底面の材質、形状、寸法、表面状態、反り等、反射光強度を決めるパラメータが多く、また、調理毎(開始時)にあるいは、調理中にも頻繁に使用者により載置される位置がずれるので、加熱コイル中心の1ケ所で反射光強度を検知する従来の方式では、「反射光強度が大きい、従って、放射率の低い鍋底」を、「反射光強度が小さい、従って、放射率の高い鍋底」と見誤るケースがまれに存在した。
【0007】
特に、鍋11の底中心部に、使用できる加熱源や、鍋材質等に関する情報を刻印してある場合は、刻印の凹凸による乱反射と埋め込まれた黒色の文字のため反射率が低く、刻印の周辺は金属鏡面で刻印部以外の鍋底より反射率が高いという特性を有しているために、鍋の載置位置によっては正しい鍋底の放射率を算出できない場合があるという課題を有していた。
【0008】
鍋11の底からの表面反射光は、拡散反射成分と正反射成分に分けて考えられ、これらの反射光は、材質や表面状態によって異なり、図12(1)に示すように、鏡面体や光沢のある物体では正反射成分32が、それ以外の物体では拡散反射成分33が支配的になるため、金属製の被加熱物11の底面を鏡面と考えれば、20°〜60°の取付角度とするのが一般的であった。
【0009】
しかし、図12(1)に示すように、正反射成分を主体に鏡面反射光32を検出するため20°〜60°の取付角度とすると、刻印や文字入れ(黒色)、打ち込み等の表面状態によっては、乱反射34や、吸収をおこし正反射成分が大きく減少するため、本来、反射率の高いSUS鍋を、反射率の低い(15%程度)ホーロー鍋と誤検知する場合がある。従って、そのような鍋11では、図12(2)に示すように、刻印により、使用者が載置する加熱領域の中心位置からのずれ量によって反射光量は大きく変わる。また、最大反射光強度に距離依存性(焦点距離)が生じるため、鍋11の反りや使用者の調理作業での持ち上げによる反射面までの距離が変動しても同じく誤検知するという課題があった。
【0010】
また、誘導加熱方式やラジエントヒータ式の加熱調理器では、トッププレートを介して投光及び受光を行うために、発光素子から照射される参照光(近赤外線)、及び、その被加熱物の底からの反射光は各々15%程はトッププレートで吸収され、比較的強い反射光の成分しか検知できないため、被加熱物の底の放射率を正しく算出することは、さらに、困難であった。
【0011】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、使用のたびに被加熱物の載置位置がずれたり、被加熱物の底に刻印や、ヘアライン加工、リング加工、打ち込み加工があったりという特殊な表面状態であっても、正確に反射率を測定でき、これにより算出された放射率により、非接触で精度良く被加熱物の底の温度を検出し、良好な調理加熱制御を実現できる加熱調理器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記従来の課題を解決するために、本発明の加熱調理器は、鍋を加熱する加熱手段と、前記鍋の底面から放射される赤外線強度を検知する赤外線センサと、前記鍋の底面に対して投光する投光手段と、前記鍋の底面で反射した前記投光手段からの光の強度を検知する反射センサと、前記反射センサの出力から前記鍋の底面の反射率を換算し、さらにその反射率から放射率を換算する放射率換算手段と、この換算された放射率及び前記赤外線センサの出力から前記鍋の底面の温度を算出する温度算出手段と、前記温度算出手段の出力に応じて前記加熱手段に供給する電力量を制御する制御手段とを備え、前記放射率換算手段は、前記鍋の底の複数箇所の反射率から前記赤外線センサの視野部の放射率を推定するようにしたもので、鍋の底面の温度を精度良く測定して、調理性能に優れた加熱調理器を提供することができる。
【0013】
又、本発明の加熱調理器は、鍋を加熱する加熱手段と、前記鍋の底面から放射される赤外線強度を検知する赤外線センサと、前記鍋の底面に対して投光し、かつ前記鍋の底面からの反射光を受光する導光体と、前記導光体に光を入射させる投光手段と、前記導光体を介して前記反射光の強度を検知する反射センサと、前記反射センサの出力から前記鍋の底面の反射率を換算し、さらにその反射率から放射率を換算する放射率換算手段と、この換算された放射率及び前記赤外線センサの出力から前記鍋の底面の温度を算出する温度算出手段と、前記温度算出手段の出力に応じて前記加熱手段に供給する電力量を制御する制御手段と、前記加熱手段の加熱領域内の複数箇所に設けられた投光及び受光用の孔とを備え、前記反射センサは、前記複数箇所の反射光強度の合成値を検知し、前記放射率換算手段は、前記反射センサで検知した反射光強度の合成値から前記赤外線センサの視野部の放射率を推定するようにしたもので、複数箇所の反射光強度の合成値を単一の反射センサで検知できるので、赤外線センサの視野部の放射率を低コストで、精度良く推定して、調理性能に優れた加熱調理器を提供することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の加熱調理器は、調理容器となる鍋の底面の放射率を精度良く推定することで、非接触で応答性の良い鍋の底面の正確な温度測定ができるので、調理性能に優れたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
第1の発明は、鍋を加熱する加熱手段と、前記鍋の底面から放射される赤外線強度を検知する赤外線センサと、前記鍋の底面に対して投光する投光手段と、前記鍋の底面で反射した前記投光手段からの光の強度を検知する反射センサと、前記反射センサの出力から前記鍋の底面の反射率を換算し、さらにその反射率から放射率を換算する放射率換算手段と、この換算された放射率及び前記赤外線センサの出力から前記鍋の底面の温度を算出する温度算出手段と、前記温度算出手段の出力に応じて前記加熱手段に供給する電力量を制御する制御手段とを備え、前記放射率換算手段は、前記鍋の底の複数箇所の反射率から前記赤外線センサの視野部の放射率を推定するようにしたもので、鍋の底面の温度を精度良く測定して、調理性能に優れた加熱調理器を提供することができる。
【0016】
第2の発明は、鍋を加熱する加熱手段と、前記鍋の底面から放射される赤外線強度を検知する赤外線センサと、前記鍋の底面に対して投光し、かつ前記鍋の底面からの反射光を受光する導光体と、前記導光体に光を入射させる投光手段と、前記導光体を介して前記反射光の強度を検知する反射センサと、前記反射センサの出力から前記鍋の底面の反射率を換算し、さらにその反射率から放射率を換算する放射率換算手段と、この換算された放射率及び前記赤外線センサの出力から前記鍋の底面の温度を算出する温度算出手段と、前記温度算出手段の出力に応じて前記加熱手段に供給する電力量を制御する制御手段と、前記加熱手段の加熱領域内の複数箇所に設けられた投光及び受光用の孔とを備え、前記反射センサは、前記複数箇所の反射光強度の合成値を検知し、前記放射率換算手段は、前記反射センサで検知した反射光強度の合成値から前記赤外線センサの視野部の放射率を推定するようにしたもので、複数箇所の反射光強度の合成値を単一の反射センサで検知できるので、赤外線センサの視野部の放射率を低コストで、精度良く推定して、調理性能に優れた加熱調理器を提供することができる。
【0017】
第3の発明は、特に、第2の発明の導光体の屈折率を調整し、全反射により投光する往路と、反射光を導く復路を分離して形成したもので、反射光の検出感度が上がり、より精度良く反射率を測定することができる。
【0018】
第4の発明は、特に、第2又は第3の発明の導光体を、プラスチック光ファイバで形成したもので、投光する往路と反射光を導く復路を分離できると共に、経路での光の損失が低減され、より精度良く反射率を測定することができる。
【0019】
第5の発明は、特に、第2〜4のいずれか一つの発明の導光体への入射光と、鍋の底面からの反射光を方向性結合器により分離するようにしたもので、反射光の検出感度が上がり、より精度良く反射率を測定することができる。
【0020】
第6の発明は、特に、第2の発明の導光体を薄膜光導波路で形成したもので、投光する往路と反射光を導く復路が分離されるとともに、低背で組み込み性が良く、且つ、経路での光の損失が低減され、より精度良く反射率を測定することができる。
【0021】
第7の発明は、特に、第2の発明の導光体を、内壁が鏡面の鏡筒と、ハーフミラーで形成したもので、投光する往路と反射光を導く復路が分離されるとともに、経路での光の損失が低減され、より精度良く反射率を測定することができる。
【0022】
第8の発明は、特に、第2の発明の導光体を、鍋と加熱手段との間に配された空洞と、前記空洞に連通すると共に前記加熱手段による加熱領域内の複数箇所の上方に開けた投光及び受光用の孔と、前記孔の下部に設けたミラーとで形成したもので、低コストで、精度良く反射率を測定することができる。
【0023】
(実施の形態1)
図1は、本発明の第1の実施の形態における加熱調理器のブロック図、図2は、同加熱調理器の反射センサの出力と反射率との関係を示すグラフ図、図3は、同加熱調理器のトッププレートの透過、及び、鍋底による反射のイメージ図と、反射光のエネルギと鍋ずれ量の関係を示すグラフ図である。
【0024】
図1において、加熱調理器は、調理物を加熱調理する被加熱物である鍋11が載置されるトッププレート10と、鍋11を加熱する加熱コイル12と、加熱コイル12に高周波電流を供給し、鍋11を誘導加熱する加熱手段13と、トッププレート10下面に配され、鍋11の底面から放射される赤外線の強度を検知する赤外線センサ14と、同じくトッププレート10下面の複数個所に配され鍋11へ参照用の近赤外線を照射する投光手段15〜17と、この照射された近赤外線の鍋11底面からの反射光強度を検知する反射センサ18〜20と、この反射センサ18〜20の出力から鍋11底面の放射率を換算する放射率換算手段21と、この換算された放射率、及び前記赤外線センサ14の出力から鍋11底面の温度を算出する温度算出手段22と、この温度算出手段22の出力、及び、設定火力に応じて前記加熱手段13に供給する電力量を制御する制御手段23で構成されている。
【0025】
なお、投光手段15〜17は、高周波で変調する変調手段24〜26で駆動され、反射センサ18〜20の出力は検波手段27〜29で検波される。タッチパネル方式の操作部30には電源スイッチを含めた各種キースイッチ(図示せず)が設けてある。
【0026】
以上のように構成された加熱調理器について、以下にその動作、作用を説明する。
【0027】
まず、操作部30内の電源スイッチ(図示せず)及び加熱スイッチ(図示せず)で加熱開始をキー入力し、up、downスイッチ(図示せず)で所定の電力を設定すると、制御手段23が加熱手段13を制御して加熱コイル2に所定の高周波電力を供給する。加熱コイル12に高周波電流が供給されると、加熱コイル12から誘導磁界が発せられ、トッププレート10に載置された鍋11が誘導加熱される。この熱によって鍋11の温度が上昇し、鍋11内の調理物が加熱調理される。赤外線センサ14は受光した赤外線のエネルギに比例した電圧を出力するもので、鍋11の温度が上昇すると鍋11底面からの赤外線放射強度も強くなり、赤外線センサ14が受光する赤外線エネルギ量が増え、赤外線センサ14の出力信号電圧が高くなり、温度算出手段22が算出するところの温度出力も大きくなる。制御手段23はこの温度出力を入力し、所定値(過昇防止温度、あるいは、沸騰温度等)以下なら加熱手段13へ加熱を指示し続ける。そして、電源スイッチまたは加熱スイッチで加熱停止がキー入力された場合や、温度算出手段22の温度出力が所定値を越えた場合は、加熱停止を指示する。
【0028】
次に、加熱コイル12の加熱領域内の複数箇所で、トッププレート10の下面に配した投光手段15〜17が鍋11へ反射率測定用の波長0.7〜0.9μmの近赤外線を照射し、それが鍋11の底面で反射し、その反射光を反射センサ18〜20が測定する。そして、放射率換算手段21はこの反射センサ18〜20を入力し、まず図2に示す反射率と反射センサ18〜20の出力の関係から鍋11底面の3カ所の反射率を換算する。キルヒホフの法則によれば、物質の表面に到達する単位入射エネルギのうち、固有放射率εは0<ε<1の定数で、その物質の放射の吸収率に等しい。また、不透明な(透過率α=0)物体に関しては、
放射率ε(λ)+反射率R(λ)=1 −−−−−−−−−(1)
の関係が成立する。従って、反射率を1から引いて各点の放射率を求めることができる。この算出した各点の放射率の平均処理、あるいは、多数決処理(最小値を除いた平均)を行い、赤外線センサ14の視野部の放射率を推定し出力する。この放射率を入力して、温度算出手段22は、算出した温度値を放射率補正して出力する。
【0029】
以上のように、本実施の形態においては、鍋11の底面に対して投光する投光手段15〜17と、鍋11の底面からの反射光強度を検知する反射センサ18〜20と、この反射センサ18〜20の出力から鍋11の底面の放射率を換算する放射率換算手段21と、この換算された放射率、及び赤外線センサ14の出力から鍋11の底面の温度を算出する温度算出手段22を設けることにより、鍋11の底の複数箇所の反射率が検知可能となりこの複数の反射率から赤外線センサ14の視野部の放射率を精度良く推定することができる。又、複数箇所で反射率を測定することで、鍋11の底の形状や表面状態の影響を無くし、トッププレート10を介しても安定した測定を行うことができる。従って、鍋11の底の非接触で高精度な温度測定が可能となり、微妙な火加減ができる調理性能に優れた加熱調理器を提供することができる。
【0030】
また、本実施の形態では、特に投光手段15〜17と反射センサ18〜20の取り付け角度を90°としており、これにより鍋11の反りによる鍋11の底までの距離の変化の影響が少なく、鍋11の底からの反射光も安定して検出することができる。これは、一つには角度を付けないことで焦点深度が深くなるためである。
【0031】
以上のように、投光手段15〜17を90°の取付角度(図3(1))とし、拡散反射光38を主体に検出し、さらに複数箇所で測定すると、拡散反射成分を主体に測定するため、表面状態による乱反射の影響が少ない上に、焦点深度が深いため距離依存性も少なくなり、誤検知することが無い。
【0032】
但し、トッププレート10の下面での直反射光39の強度が多くなり反射センサ18〜20でバイアス分として検知されるため、鍋11の底面からの拡散反射光38の強度と分離するため、出力の増分を検知する方式や、ピークtoピークの検知方式を用いている。また、全ての立体角にわたって積分した全反射光強度を測定できないが、上述のように、鍋11の自己放射を測定する波長帯域での反射率と、拡散反射光38による反射センサ18〜20の検知出力との間には良好な相関関係があるため問題を生じない。
【0033】
また、本実施の形態のトッププレートの下面には反射防止膜をコーティングしており、これにより、下面での反射、拡散光を減少させ、反射センサ18〜20の受光量を増加させることもできる。また、本実施の形態においては、反射率の測定は加熱開始時に一度行う方法でも、加熱中逐次測定を行う方法でも良い。
【0034】
また、本実施の形態においては仕様上の理由(調理温度範囲以外の室温近辺で放射率を測定する)及び技術的理由(リモコン用に市販されているフォトダイオード、および、フォトトランジスタを用いる方が安価である)により、鍋11の底の赤外線自己放射を測定する波長帯域とは、異なる波長帯において測定している。式(1)に示すように、物体の放射率が波長の関数である場合、放射赤外線を測定する波長帯域λ+Δλと同一の波長帯域において直接放射率を測定することが好ましい。しかし、図2に示すように赤外線センサ14で鍋11の自己放射を測定する波長帯域0.9〜2.6μmでの反射率(X軸)と、投光手段15〜17の照射光0.7〜0.9μmによる反射センサ18〜20の検知出力(Y軸)との間には良好な相関関係があり、反射センサ18〜20の検知出力から赤外線センサ14の検知帯域での放射率への換算を行うことができる。
【0035】
また、本実施の形態では、赤外線センサ14として、主に光通信、放射温度計などの用途に使用されるPINフォトダイオードを用いており、窓材(図示せず)は、ARコート(2μmピーク)付きホウ珪酸ガラスである。一般的に加熱調理器のトッププレート10には、耐熱性を有しながら強度を高めるため特殊組成のガラスを再加熱してガラス中に微細結晶を析出させた結晶化ガラス(例えば、「リシア系セラミックス」Li2O−AL2O3−SiO2)が用いられているおり、0.5μm〜2.6μmの波長の光は80%以上透過し、3〜4μmの波長の光は30%程度透過し、4μmよりも長い波長、及び、0.5μmよりも短い波長の光はほとんど通さない。
【0036】
他方、調理時の鍋11の底面温度は、約30℃〜230℃であり、この温度における単位時間当たりの総放射エネルギ量(W/m2)はステファン・ボルツマンの法則より、1.1μm〜30μmの波長帯域にあり、そのピークは4ミクロン〜10ミクロンの波長にある(温度が高くなればなるほど加速度的に大きなエネルギを赤外線として放射する)。しかし、上記のようにトッププレート10を介することで、赤外線センサ14で測定できる波長帯域は0.9〜2.6μmとなり微弱であるが、モジュールとして赤外線センサ14と一体化されたアンプで500〜5000倍程度に増幅して出力することで、温度の検出を可能としている。また、検出波長帯域0.7〜0.9μmの反射センサは、鍋11の底や、トッププレート10から放射される大きなエネルギ量のより長波長の赤外線には反応しないので、反射光のみを精度良く検知できる。
【0037】
(実施の形態2)
図4は、本発明の第2の実施の形態における加熱調理器の部分展開図である。なお、上記第1の実施の形態における加熱調理器と同一部品については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0038】
本実施の形態は、図4に示すように、トッププレート10の下面に配し、鍋11へ反射率測定用の近赤外線を照射する投光手段40と、鍋11底面からの反射光強度を検知する反射センサ41と、投光手段40から鍋11底面まで、及び、鍋11底面から反射センサ41まで近赤外線光を導く導光体42、43と、加熱コイル12の複数個所に設けた検知孔44(44a、44b、44c)とで加熱調理器の反射率の測定系を構成している。
【0039】
以上のように構成された加熱調理器の反射率の測定系について、以下その動作、作用を説明する。
【0040】
トッププレート10に鍋11を載置し電源キー及び加熱キーを押すと、加熱コイル12に高周波電流が供給され、同時に投光手段40が近赤外線を発光する。この近赤外線光は導光体42を伝播し、検知孔44から鍋11底面へ照射される。鍋11の底面で反射した反射光は導光体43内を伝播し、反射センサ41で受光される。そして、放射率換算手段21が反射センサ41の出力から鍋11底面の反射率を換算する。この換算された放射率及び赤外線センサ14の出力を入力して、温度算出手段22は鍋11底面の温度を算出する。
【0041】
以上のように、本実施の形態によれば、鍋11の底面に対して検知孔44を介して導光体42で複数箇所に投光し、その複数箇所の反射光を導光体43で合成し、単一の反射センサ41で受光することにより、鍋11の底の複数箇所の反射率が一組の発光、受光素子で検知可能となり、この複数の反射率から赤外線センサ14の視野部の放射率を精度良く、安価な構成で推定することができる。複数箇所で測定することで、鍋11の底の形状や表面状態の影響を無くし、トッププレート10を介しても安定した測定を行うことができる。従って、鍋11の底の非接触で高精度な温度測定が可能となり、微妙な火加減ができる加熱調理器を提供することができる。
【0042】
また、本実施の形態では、投光手段15〜17を高周波数で変調しており、外乱光や加熱コイル12等の影響を低減しているが、加熱コイル12が停止している期間のみ反射率を測定するようにすれば、加熱コイル12による影響をさらに低減し、精度良く反射率の測定を行うこともできる。加熱コイル12で加熱している期間は、上記の測定で記憶した反射率を使用する。鍋11が交換されている可能性があるため、加熱開始前には必ず反射率の測定を行う。
【0043】
また、本実施の形態の導光体42、43には、近赤外光を導光する材料であり、アクリル樹脂、ポリカーボネイト、ポリアミド、ポリイミドなどの合成樹脂、またはサファイヤ、スピネルなどの結晶材料を用いることもできる。図4は、断面が四辺形の長方体を用いた場合の例を示したが、円筒形、楕円形でも良い。この導光体42、43は、空気と材料の屈折率差による全反射を利用して、光を効率よく導くものである。
【0044】
また、本実施の形態の導光体42、43の側面(外周面)に反射層(図示せず)を設けることにより、空気との境界面での反射、拡散光をさらに減少させ、反射センサ18〜20の受光量を増加させることができる。この反射層は表面を研磨するなどの機械的手段、または表面をエッチングするなどの化学的手段により、表面に凹凸等を設けることにより形成される。また、金属、あるいは、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタンなどの金属酸化物の粒子を含んだ膜を形成することにより得られる。
【0045】
(実施の形態3)
図5は、本発明の第3の実施の形態における加熱調理器の反射率測定系の構成図と、その要部断面図を示すものである。なお、上記実施の形態における加熱調理器と同一部品については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0046】
本実施の形態は、図5(1)に示すように、投光手段40からの照射光及び鍋11底面からの反射光を導く導光体45を、投光手段40から鍋11底面まで近赤外線光を導く導光体45a(図面手前)及び、鍋11の底面から反射センサ41まで近赤外線光を導く導光体45b(図面奥側)とで構成し、さらに図5(2)に示すように、導光体45a、45のそれぞれを、導光体45a、45bの95%以上の断面積を有する導光部46a、46bと、各導光部46a、46bを覆うと共に屈折率を低く調整した、あるいは、屈折率の低い別な素材からなる外周部47a、47bの二重構造としたものである。
【0047】
以上のように構成された加熱調理器の反射率の測定系について、以下その動作、作用を説明する。
【0048】
投光手段40から投光された近赤外線光は導光体45aを伝播し、検知孔44a〜44c(第2の実施の形態参照)から鍋11底面へ照射される。鍋11底面で反射した拡散反射光は導光体45bを伝播し、反射センサ41で受光される。そして、放射率換算手段21が反射センサ41の出力から鍋11底面の反射率、放射率を換算する。この換算された放射率及び赤外線センサ14の出力を入力して、温度算出手段22は鍋11の底面の温度を算出する。
【0049】
また、導光部46a、46bと外周部47a、47bとの2つの屈折率の違うものの間(界面)を、全反射するような角度の近赤外線が入射することで、光は導光体45aの中に閉じこめられ、効率よく伝播し、検知孔44(44a〜44c)から照射される。また、全反射するような角度の反射光成分が再入射し、導光体45bの中を反射センサ41まで伝播する。
【0050】
以上のように、本実施の形態によれば、鍋11の底面に対して導光体45で複数箇所に投光し、その複数箇所の反射光を導光体45で合成し、単一の反射センサ41で受光することにより、鍋11の底の複数箇所の反射率が一組の発光、受光素子で検知可能となる。また、導光体45を樹脂部品で作ることで、組み立て工数が低減し、より安価な構成にすることができる。
【0051】
(実施の形態4)
図6は、本発明の第4の実施の形態における加熱調理器の反射率測定系の構成図と、その要部の断面図を示すものである。なお、上記実施の形態における加熱調理器と同一部品については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0052】
本実施の形態は、図6(1)に示すように、反射率の測定系を、トッププレート10の下面に配し鍋11へ反射率測定用の近赤外線を照射する投光手段40と、鍋11の底面からの反射光強度を検知する反射センサ41と、光カプラ48、49と、投光手段40からの鍋11の底面まで近赤外線光を導くと共に3本の光ファイバ50a〜50cからなる第1の導光体50と、鍋11の底面から反射センサ41まで近赤外線光を導くと共に3本の光ファイバ51a〜51cからなる第2の導光体51と、3個のレンズ52a〜52cからなる拡散集光手段52と、加熱コイル12に設けた複数の検知孔44(44a〜44c)とで構成したものである。
【0053】
以上のように構成された加熱調理器の反射率の測定系について、以下その動作、作用を説明する。
【0054】
投光手段40から投光された近赤外線光は光カプラ48で分配され、第1の導光体50を構成する3本の光ファイバ50a〜50cのコア内を伝播し、拡散集光手段52を経て、複数の検知孔44(44a〜44c)から鍋11底面へ照射される。鍋11底面で反射した反射光は拡散集光手段52で集められ、第2の導光体51を構成する3本の光ファイバ51a〜51cのコア内を伝播し、光カプラ49で合成されて反射センサ41で受光される。そして、放射率換算手段21が反射センサ41の出力から鍋11底面の反射率、放射率を換算する。この換算された放射率及び赤外線センサ14の出力を入力して、温度算出手段22は鍋11の底面の温度を算出する。
【0055】
以上のように、本実施の形態によれば、鍋11の底面に対して光ファイバ50a、50b、50cで複数箇所に投光し、その複数箇所の反射光を光ファイバ51a、51b、51cで集光し、単一の反射センサ41で受光することにより、鍋11の底の複数箇所の反射率が一組の発光、受光素子で検知可能となる。また、光ファイバ50a〜50c、51a〜51cは近赤外線が透過する樹脂部品(プラスチック)で作ることで、任意の形状、寸法にできるとともに、より安価な構成にすることができる。
【0056】
また、本実施の形態における光カプラ48、49は一括溶融延伸技術により光を1芯から3芯に均等に分配する部品で、3芯側に光ファイバ50a〜50c、あるいは、51a〜51cを取り付け、1芯側に投光手段40あるいは反射センサ41を取り付けている(図6(2)参照)。これにより投光手段40から投光された近赤外線光はほぼ均等に分配され、光ファイバ50a〜50cに入射する。
【0057】
また、光ファイバ51a〜51cを伝播してきた鍋11底面からの反射光は合成されて反射センサ41で受光されるので、接続部での近赤外線光の損失を低減できるため、精度良く反射率の測定を行うことができる。
【0058】
また、本実施の形態では拡散集光手段52は、凸レンズを半分にしたもの、あるいは、パラボラ形状の樹脂部品の内面に、反射膜をコーティングしたもので、照射用・受光用の光ファイバ各2本を取り付け、トッププレート10下面に密接させてある。これによって、検知孔44(加熱コイル12の中央孔を含む)からトッププレート10の下面に効率よく照射され、鍋11の底面からの反射光は効率よく3本の光ファイバ51a〜51cに入射される。このように照射部及び入射部での近赤外線光の損失を低減できるため、さらに精度良く反射率の測定を行うことができる。
【0059】
(実施の形態5)
図7は、本発明の第5の実施の形態における加熱調理器の反射率測定系の構成図と、その要部断面図を示すものである。なお、上記実施の形態における加熱調理器と同一部品については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0060】
本実施の形態は、図7(1)に示すように、反射率の測定系を、トッププレート10の下面に配し、鍋11へ反射率測定用の近赤外線を照射する投光手段40と、この近赤外線の鍋11底面からの反射光強度を検知する反射センサ41と、投光手段40から鍋11底面まで、及び、鍋11底面から反射センサ41まで近赤外線光を導くと共に光ファイバ53a、53b、53cからなる導光体53と、方向性結合器54、55と、3個のレンズ52a〜52cからなる拡散集光手段52と、加熱コイル12に複数個設けた検知孔44(44a〜44c)により構成している。
【0061】
以上のように構成された加熱調理器の反射率の測定系について、図7(2)、(3)を用いて、以下その動作、作用を説明する。
【0062】
投光手段40から投光された近赤外線光56は、光ファイバ53cを伝播しレンズ52cから照射光57として鍋11底面へ照射される。また、方向性結合器54により分岐された約50%の近赤外線光58はレンズ52bから照射光59として鍋11底面へ照射される。方向性結合器55により分岐された約50%の近赤外線光60はレンズ52aから照射光61として鍋11底面へ照射される。次に、照射光59による鍋11底面での反射光62は光ファイバ53bを伝播し反射センサ41で受光される。
【0063】
照射光61による反射光64は光ファイバ53aを伝播し方向性結合器55で結合され、光ファイバ53bを伝播(図7(3)の65)し反射センサ41で受光される。照射光57による反射光67は光ファイバ53cを伝播し方向性結合器54で結合され光ファイバ53bを伝播(図7(3)の68)し反射センサ41で受光される。こうして、3つの反射光63、66、69を合成した光が反射センサ41で受光される。
【0064】
そして、放射率換算手段21が、反射センサ41の出力から鍋11の底面の反射率、放射率を換算する。この換算された放射率及び赤外線センサ14の出力を入力して、温度算出手段22は鍋11の底面の温度を算出する。分岐比50%で順次、入射光56が分岐すると、“照射光57の強度”/4≒“照射光59の強度”/2≒“照射光61の強度”となり、“反射光62の強度”はそのまま、“反射光64の強度”と“反射光67の強度”は1/2が受光されるが、この照射強度分布における反射光の強度と鍋11の底の反射率との関係を放射率換算手段21に予め記憶させるため、問題を生じることはない。
【0065】
方向性結合器54、55は、二本の光ファイバのコア(大部分の光が伝わる部分)が光の波長の数倍(数ミクロン)程度まで近接すると、光はそれぞれのコアを独立に伝播せず、互いに光のパワーの授受を行いながら伝播してゆく、量子力学におけるトンネル効果に類似した現象をもちいた光を分波または合波する機能を持った素子である。一方の光ファイバのコアに光を入射すると、その光は他方のコアに結合して伝播する。また、入射された光は入射したファイバ端面(例えば、図7(2)の53c右端)および入射点と隣接する他方のファイバ端面(例えば、図7(2)の53b右端)には戻って来ない。
【0066】
二本のコア間の距離d、結合部分の長さβを制御することにより、任意の値の分岐比(結合パワーPcと透過パワーPtの比)を得ることができる。結合部(図示せず)のコアを数ミクロン程度に近接させるため、結合部のクラッド(コア周辺の約60μm厚程度)は研磨等の手段で除去している。また結合部の位置を固定させるためにクラッドと同じ屈折率に整合させた保持材54a、55aで二本の光ファイバを保持して、光の損失が生じないようにしてある。
【0067】
以上のように、本実施の形態においては鍋11の底面に対して導光体53と方向性結合器54、55で複数箇所に投光し、その複数箇所の反射光を導光体53と方向性結合器54、55で合成し、単一の反射センサ41で受光することにより、鍋11の底の複数箇所の反射率が一組の発光、受光素子で検知可能となる。また、導光体53及び方向性結合器54、55を近赤外線を透過する樹脂部品で作ることで、安価な構成にすることができる。
【0068】
また、本実施の形態では方向性結合器54、55の分岐比を約50%としているが、この値に限定する必要はなく、鍋11の底の反射率を測定するのに適した値を選定することができる。また、導光体53cのレンズ52cとの接合部の端面に、真空蒸着などの方法でハーフミラーを形成し、このハーフミラー全体に微細な穴を空けることにより、透過率が照射光に対しては50%、反射光に対しては100%となり、3つの経路の照射光の強度と、反射光の検出強度を等しくすることができ、反射率の換算を容易に行うことができる。
【0069】
(実施の形態6)
図8は、本発明の第6の実施の形態における加熱調理器の反射率測定系の構成図と、その要部の断面図を示すものである。なお、上記実施の形態における加熱調理器と同一部品については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0070】
本実施の形態では、図8(1)に示すように、トッププレート10の下面に配し鍋11へ反射率測定用の近赤外線を照射する投光手段40と、鍋11底面からの反射光強度を検知する反射センサ41と、光コネクタ70、71と、投光手段40からの照射光及び鍋11からの反射光を導く薄膜光導波路72と、加熱コイル12に設けた検知孔44(44a〜44c)とで加熱調理器の反射率の測定系を構成し、薄膜光導波路72を、投光手段40から鍋11底面まで近赤外線光を導く薄膜光導波路A72a(図中の手前)と、鍋11底面からの反射光を反射センサ41に導く薄膜光導波路B72b(図中の奥側)で構成している。
【0071】
以上のように構成された加熱調理器の反射率の測定系について、以下その動作、作用を説明する。
【0072】
投光手段40から投光された近赤外線光は薄膜光導波路A72aを伝播し、検知孔44a〜44cから鍋11底面へ照射される。鍋11底面で反射した拡散反射光は薄膜光導波路B72bを伝播し、反射センサ41で受光される。そして、放射率換算手段21が反射センサ41の出力から鍋11底面の反射率、放射率を換算する。この換算された放射率及び赤外線センサ14の出力を入力して、温度算出手段22は鍋11の底面の温度を算出する。薄膜光導波路72は、図8(2)に示すように、誘電体、半導体、あるいは、石英ガラス基板73の表面に印刷技術等により、光ファイバと同様にクラッド74と、屈折率の高い領域コア75a、75bを形成し、光を閉じ込めながら伝搬させる薄膜光導波路としている。
【0073】
以上のように、本実施の形態によれば、鍋11の底面に対して薄膜光導波路72で複数箇所に投光し、その複数箇所の反射光を薄膜光導波路72で合成し、単一の反射センサ41で受光することにより、鍋11の底の複数箇所の反射率が一組の発光、受光素子で検知可能となる。また、薄膜光導波路72を、誘電体、半導体、あるいは、石英ガラス基板の表面に印刷技術等により形成することで、光導波路の実効断面積を小さくすることができ、一体化した低背の部品として組み込みの自由度を上げるとともに、より安価な構成にすることができる。
【0074】
また、本実施の形態の薄膜光導波路72のクラッド及びコアに、有機薄膜成形技術、屈折率制御技術によりプラスチック材料を用いることもできる。その樹脂材料には耐熱性(約380℃)、耐環境安定性に優れたポリイミドや、簡易加工・大口径化・平坦性・密着性に勝れ、200℃の耐熱性も有するエポキシ系樹脂が適している。このような樹脂材料を用いることにより、柔軟性・衝撃安定性を向上させることが可能となる。
【0075】
(実施の形態7)
図9は、本発明の第7の実施の形態における加熱調理器の反射率測定系の構成図と、その要部の断面図を示すものである。なお、上記実施の形態における加熱調理器と同一部品については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0076】
本実施の形態は、図9(1)に示すように、トッププレート10下面に配され、鍋11へ反射率測定用の近赤外線を照射する投光手段40と、鍋11の底面からの反射光強度を検知する反射センサ41と、投光手段40から鍋11の底面まで、及び、鍋11の底面から反射センサ41まで近赤外線光を導く銅管内部に金メッキなどを施して形成した鏡面を有する鏡筒75と、この鏡筒75内部の投光手段40近くに設けたハーフミラー77と、加熱コイル12に設けた複数の検知孔44a〜44cとで加熱調理器の反射率の測定系を構成したものである。
【0077】
以上のように構成された加熱調理器の反射率の測定系について、以下その動作、作用を説明する。
【0078】
投光手段40から投光された近赤外線光は、ハーフミラー77を透過して鏡筒75内部を伝播し(図9(2)の伝播光80)、各々の検知孔44a〜44cに対向した反射体78a〜78cで一部が反射され、開口部76a〜76cから鍋11の底面へ照射される。鍋11の底面で反射した反射光は、開口部76a〜76cから入射して反射体78で反射され再び鏡筒75内部を逆方向に伝播し(図9(2)、(3)の伝播光81)、ハーフミラー77で反射され受光部79に取り付けた反射センサ41で受光される。そして、この受光出力から放射率換算手段21が鍋11の底面の反射率、放射率を換算する。この換算された放射率及び赤外線センサ14の出力を入力して、温度算出手段22は鍋11底面の温度を算出する。
【0079】
図9(2)は、図9(1)のD−D断面図を示すもので、検知孔44aに対向した反射体78aでは鏡筒75を伝搬してきた近赤外線光の一部(所定の割合)が反射され、検知孔44aに嵌め込まれた開口部76aから鍋11の底へ照射される。残りの近赤外線光は鏡筒75を伝搬して、次の反射体78bへ向かう。各々の開口部76a〜76cから照射される近赤外線光が、ほぼ均等になるように反射体78a〜78cの伝搬光80に対する投影面積と、鏡筒75の断面積の割合を決めている。
【0080】
以上のように、本実施の形態によれば、鍋11の底面に対して鏡筒75で複数箇所に投光し、その複数箇所の反射光を再び鏡筒75及び反射体78a〜78cで集光、伝播し、ハーフミラー77で方向を変えて単一の反射センサ41で受光することにより、鍋11の底の複数箇所の反射率が一組の発光、受光素子で検知可能となる。また、鏡筒75の内部に金メッキを施すことで、伝搬効率が向上して、より正確に反射率を測定できる構成にすることができる。
【0081】
また、本実施の形態における鏡筒75は、近赤外光を導光するアクリル樹脂、ポリカーボネイトなどの合成樹脂、またはサファイヤ、スピネルなどの結晶材料の外周部に反射材を蒸着あるいは塗布したり、外周部に拡散材を塗布あるいは内表面を乱反射するように研磨、エッチング等の処理することにより、安価に構成することもできる。
【0082】
(実施の形態8)
図10は、本発明の第8の実施の形態における加熱調理器の断面図を示すものである。なお、上記実施の形態における加熱調理器と同一部品については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0083】
図10において、耐熱樹脂製のコイルベース85の上面に強磁性体であるフェライトコア86が放射状に配置され、前記コイルベース85に一体成型で取り付けられている。加熱コイル12は、細い素線を束ねた撚り線を平板状に巻回したコイルで、耐熱プラスチックの成形品によるコイルホルダ87で保持されている。コイルホルダ87の上には、集積マイカ製の遮熱板88と、電気導体からなる浮力低減板89が設けられている。浮力低減板89は、トッププレート10の下面に当接または接着されている。コイルホルダ87と遮熱板88との間は所定の間隔を空けてあり、投光手段40から照射する近赤外線の伝搬する空洞90とし、鍋11の底面からの反射光強度を検知する反射センサ41と、空洞90内部に設けたハーフミラー77と、反射体78a〜78cと、遮熱板88及び浮力低減板89に設けた検知孔91a〜91cとで加熱調理器の反射率の測定系を構成している。
【0084】
以上のように構成された加熱調理器の反射率の測定系について、以下その動作、作用を説明する。
【0085】
投光手段40から投光された近赤外線光は、ハーフミラー77を透過して空洞90内部を伝播し、各々の検知孔91a〜91cに対向した反射体78a〜78cで一部が反射され、鍋11の底面へ照射される。鍋11の底面で反射した反射光は、検知孔91a〜91cから入射して反射体78a〜78cで反射され、再び空洞90内部を逆方向に伝播し、ハーフミラー77で反射され反射センサ41で受光される。そして、この受光出力から放射率換算手段21が鍋11の底面の反射率、放射率を換算する。この換算された放射率及び赤外線センサ14の出力を入力して、温度算出手段22は鍋11の底面の温度を算出する。
【0086】
以上のように、本実施の形態によれば、鍋11の底面に対して、空洞90で複数箇所に投光し、その複数箇所の反射光を再び空洞90及び反射体78a〜78cで集光・伝播し、ハーフミラー77で方向を変えて単一の反射センサ41で受光することにより、鍋11の底の複数箇所の反射率が一組の発光、受光素子で検知可能となる。
【0087】
また、遮熱板88及び浮力低減板89の近赤外光を伝搬する空洞90を構成する部分に金メッキを施すことで、伝搬効率が向上して、より正確に反射率を測定できる構成にすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
以上のように、本発明にかかる加熱調理器は、調理容器となる鍋の底面の放射率を精度良く推定することで、非接触で応答性の良い鍋の底面の正確な温度測定ができるので、調理性能に優れたもので、加熱調理器に限らず、加熱部を有する各種機器、装置にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の実施の形態1における加熱調理器のブロック図
【図2】同加熱調理器の反射センサの出力と反射率との関係を示すグラフ
【図3】(1)同加熱調理器のトッププレートの透過、及び、鍋底による反射のイメージ図(2)同加熱調理器における反射光のエネルギと鍋ずれ量の関係を示すグラフ
【図4】本発明の実施の形態2における加熱調理器の部分展開図
【図5】(1)本発明の実施の形態3における加熱調理器の反射率測定系の構成を示す図(2)図5(1)のA−A断面図
【図6】(1)本発明の実施の形態4における加熱調理器の反射率測定系の構成を示す図(2)図6(1)のB−B断面図
【図7】(1)本発明の実施の形態5における加熱調理器の反射率測定系の構成を示す図(2)同測定系の要部断面図(3)同測定系の要部断面図
【図8】(1)本発明の実施の形態6における加熱調理器の反射率測定系の構成を示す図(2)図8(1)のC−C断面図
【図9】(1)本発明の実施の形態7における加熱調理器の反射率測定系の構成を示す図(2)図9(1)のD−D断面図(3)図9(1)のE−E断面図
【図10】本発明の実施の形態8における加熱調理器の断面図
【図11】従来の加熱調理器の概略構成を示すブロック図
【図12】同加熱調理器の投光手段による照射光と鍋の底による反射光のイメージ図
【符号の説明】
【0090】
10 トッププレート
11 鍋
13 加熱手段
14 赤外線センサ
15〜17 投光手段
18〜20 反射センサ
21 放射率換算手段
22 温度算出手段
23 制御手段
42、43 導光体
44 検知孔
44a〜44c、91a〜91c 検知孔(孔)
51a、51b、51c 光ファイバ
52 拡散集光手段
54、55 方向性結合器
70 誘電体導光路
75 鏡筒
75a、75b コア
77 ハーフミラー
90 空洞

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍋を加熱する加熱手段と、前記鍋の底面から放射される赤外線強度を検知する赤外線センサと、前記鍋の底面に対して投光する投光手段と、前記鍋の底面で反射した前記投光手段からの光の強度を検知する反射センサと、前記反射センサの出力から前記鍋の底面の反射率を換算し、さらにその反射率から放射率を換算する放射率換算手段と、この換算された放射率及び前記赤外線センサの出力から前記鍋の底面の温度を算出する温度算出手段と、前記温度算出手段の出力に応じて前記加熱手段に供給する電力量を制御する制御手段とを備え、前記放射率換算手段は、前記鍋の底の複数箇所の反射率から前記赤外線センサの視野部の放射率を推定するようにした加熱調理器。
【請求項2】
鍋を加熱する加熱手段と、前記鍋の底面から放射される赤外線強度を検知する赤外線センサと、前記鍋の底面に対して投光し、かつ前記鍋の底面からの反射光を受光する導光体と、前記導光体に光を入射させる投光手段と、前記導光体を介して前記反射光の強度を検知する反射センサと、前記反射センサの出力から前記鍋の底面の反射率を換算し、さらにその反射率から放射率を換算する放射率換算手段と、この換算された放射率及び前記赤外線センサの出力から前記鍋の底面の温度を算出する温度算出手段と、前記温度算出手段の出力に応じて前記加熱手段に供給する電力量を制御する制御手段と、前記加熱手段の加熱領域内の複数箇所に設けられた投光及び受光用の孔とを備え、前記反射センサは、前記複数箇所の反射光強度の合成値を検知し、前記放射率換算手段は、前記反射センサで検知した反射光強度の合成値から前記赤外線センサの視野部の放射率を推定するようにした加熱調理器。
【請求項3】
導光体の屈折率を調整し、全反射により投光する往路と、反射光を導く復路を分離して形成した請求項2に記載の加熱調理器。
【請求項4】
導光体を、プラスチック光ファイバで形成した請求項2又は3に記載の加熱調理器。
【請求項5】
導光体への入射光と、鍋の底面からの反射光を方向性結合器により分離するようにした請求項2〜4のいずれか1項に記載の加熱調理器。
【請求項6】
導光体を薄膜光導波路で形成した請求項2に記載の加熱調理器。
【請求項7】
導光体を、内壁が鏡面の鏡筒と、ハーフミラーで形成した請求項2に記載の加熱調理器。
【請求項8】
導光体を、鍋と加熱手段との間に配された空洞と、前記空洞に連通すると共に前記加熱手段による加熱領域内の複数箇所の上方に開けた投光及び受光用の孔と、前記孔の下部に設けたミラーとで形成した請求項2に記載の加熱調理器。

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2006−294286(P2006−294286A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−109642(P2005−109642)
【出願日】平成17年4月6日(2005.4.6)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】