説明

加速器システム及び粒子線治療システム

【課題】
粒子線治療装置は、一般に前段加速器とシンクロトロンで構成される加速器システムと照射装置を設置した回転ガントリーで構成される。民間病院への普及に伴い、既存施設に隣接して粒子線治療システムを設置する際には、制限のある敷地面積に設置しなければならない。
【解決手段】
粒子線治療システムを構成要素である加速器システムにおいて、前段加速器をシンクロトロンの階下に設置し、加速器システムを設置する加速器室に隣接する壁面を利用して前段加速器から加速器室までビームを輸送する。これにより、敷地面積に対する加速器室の投影面積を削減可能となる。また、前段加速器からシンクロトロンまでビームを輸送する際の垂直輸送部には、ビーム輸送手段機器を架台に固定し、架台を壁面に据え付けることで、ビーム輸送手段機器の据え付け・調整作業を効率化できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陽子や炭素等のイオンビームを加速する加速器システム及びその加速器システムによって加速したイオンビームを、患者の患部に照射して治療する粒子線治療システムに関する。
【背景技術】
【0002】
がん等の患者の患部に、陽子や炭素等のイオンビーム(以下、ビームという)を照射する治療方法(以下、粒子線治療という)が知られている。粒子線治療は、他のがん治療方法と比較して患者への肉体的負担が小さく、患者のQoL(Quality of Life)が高い治療方法として注目されている。
【0003】
粒子線治療システムは一般に、患者に照射するビームを発生し所望のエネルギーまでビームを加速する加速器システム、患者にビームを照射する複数の照射装置および、加速器システムから照射装置までビームを輸送する複数のビーム輸送手段を備えている。最近の粒子線治療装置では、患者の患部に対して任意の角度からのビーム照射を可能とする回転ガントリーが適用されており、この回転ガントリーに照射装置が設置されている。また、粒子線治療システムに利用される加速器システムは一般に、主加速器であるシンクロトロンと、前段加速器である線形加速器から構成される。
【0004】
粒子線治療では、医師の治療計画に基づき、患部形状に基づく照射角度とビーム照射野形状および照射線量が指定される。照射角度は照射装置が設置されている回転ガントリーを回転させることで調整する。ビーム照射野形状は、患部の深さ方向への照射領域の調整は加速器システムから供給するビームのエネルギーおよび、ボーラスと呼ばれる患部の深さ形状に合わせたビーム飛程調整具を用いて制御し、患部形状に合わせた照射領域の調整はコリメータにより制御する。ボーラス及びコリメータは、照射装置内に設置される。照射線量は照射装置内の線量モニタの積算値に基づき加速器システムから供給量を制御する。照射ベッドを移動することで照射位置を調整後、患者の患部と照射室の患部照射基準点(以下、アイソセンター)を固定し、ビームを照射する。線量モニタでの積算線量値が所定の線量に到達したら、加速器システムからのビーム供給を停止し、照射治療を完了する。
【0005】
【非特許文献1】“LOMA LINDA MEDICAL ACCELERATOR PROJECT”,F.T. Cole, et al., Proceedings of IEEE Particle Accelerator Conference, 1989, pp737-741
【非特許文献2】“Accelerator Facility PATRO for Hadrontherapy at Hyogo Ion Beam Medical Center”,A.Itano, Proceedings of the 13th symposium on Accelerator Science and Technology, 2001, pp160-164
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
粒子線治療システムの民間病院への普及に伴い、施設の導入および運営において、経営的な視点が求められている。施設の導入に関しては既存の病院施設への併設が求められており、施設の運営に関しては高い治療スループットが求められる。
【0007】
粒子線治療システムを既存の病院施設へ併設する際の課題として、治療システムを併設する際の敷地面積の制限が挙げられる。先に示したとおり、粒子線治療システムは、照射するためのビームを発生・加速するための加速器システムと、患者に照射治療する照射装置から構成されており、特に照射装置に関しては、患者の患部に対して任意の角度から照射が可能な回転ガントリーの適用が求められている。また、加速器システムで加速した高エネルギーのイオンビームを患者に照射するため、粒子線治療システムを設置する建物の遮蔽壁(特に加速器および照射室のそれぞれを囲む壁)を1〜2m程度と厚くする必要があるため、敷地面積に対して機器の配置に利用可能な実効的な面積が制限される。
【0008】
敷地面積が制限される一方で、経営的視点から、一つの加速器に対して複数の照射室を設けることで、治療スループットを上げることが求められている。粒子線治療を実施するにあたって、患者へのビーム照射前に照射装置に対する患部の位置決め作業が必要である。この位置決め作業に15分〜20分程度の時間が掛かるため、一つの照射室で照射治療を実施している間に他の照射室で位置決め作業を進めることで、効率的なビーム利用を実現する。
【0009】
高い治療スループットを実現する方策として、複数の照射室を設ける他に、加速器システムから照射装置に供給するビーム強度を高める必要がある。シンクロトロンを用いた粒子線治療システムの場合、まずは、イオン源で発生したビームを前段加速器に入射する。前段加速器は、シンクロトロンが受け入れられる入射エネルギーまでビームを加速する。一般に前段加速器には線形加速器が適用される。前段加速器からシンクロトロンに入射されるビームのエネルギーは2〜7MeVであり、空間電荷効果によるビーム損失が生じやすいエネルギー領域である。そのため、ビーム強度を高めるためには、シンクロトロンに入射するビームエネルギーを可能な限り高めておき、空間電荷効果によるビーム損失を抑制する手段を講じるのがよい。
【0010】
既存の病院施設と併設して粒子線治療システムを設置する場合や、狭い敷地面積に粒子線治療システムを設置する場合、加速器システムと回転ガントリーを含む照射装置の配置を敷地面積に対して効率的に利用する必要がある。
【0011】
加速器システムとしては、線形加速器の長さが短く、線形加速器からシンクロトロンまでのビーム輸送距離は短い方が、敷地面積を小さくするという観点では良い。しかし、線形加速器の長さを短くすると、線形加速器から出力されるビームのエネルギーが低くなるため、線形加速器から出射されたビームをシンクロトロンに輸送するまでの間および、ビームをシンクロトロンへ入射した際に空間電荷効果によるビーム損失が発生しやすくなる。その結果、加速器システムから照射装置に供給するビーム電荷量(以下、ビーム強度)が低下してしまう。また、ビーム輸送距離を短くすると、線形加速器からシンクロトロンまでのビーム輸送効率を高め、運動量分散を抑えるための四極電磁石やデバンチャー等の機器配置が最適化しにくくなる。そのため、結果的にシンクロトロンへのビーム入射効率が低下し、強いては加速器システムから照射装置に供給できるビーム強度が低下してしまう。以上のことを考慮すると、線形加速器から供給されるビームのエネルギーをなるべく高く維持し、かつ、線形加速器からシンクロトロンまでのビーム輸送距離を必要十分な距離に確保することが必要となる。
【0012】
また、加速器システムのビームライン上の機器設置精度は、一般に±0.2mm以下が求められているため、設置コストの面からはビームラインを可能な限り短くするか、合理的に設置精度が得られる手段を採用するのがよい。
【0013】
非特許文献1に示されている陽子ビームを照射する粒子線治療システムでは、シンクロトロンの上面に2MeVの陽子ビームを出力する線形加速器を設置している。線形加速器から出射された陽子ビームは、シンクロトロンに対して垂直方向から入射されている。非特許文献1でシンクロトロンの上面に線形加速器を設置可能な理由として、線形加速器の出力ビームエネルギーが低く、線形加速器が小型であることが挙げられる。
【0014】
しかし、非特許文献1に示されて粒子線治療システムには、三つの課題が挙げられる。まず、線形加速器から供給されるビームのエネルギーが2MeVと低いため、シンクロトロンでの加速制御時に生ずる空間電荷効果によりビーム損失が生じやすく、シンクロトロンから照射装置に供給可能な値までビーム強度を高めることが困難である点にある。次に、加速器システムの専有面積を狭くするために線形加速器をシンクロトロンの上面に配置したことで、シンクロトロンに対してビームを垂直方向からシングルターン入射制御を適用している点にある。つまり、非特許文献1の粒子線治療システムでは、シンクロトロンに対して水平方向から複数回に分けてビームを入射し、シンクロトロン内の蓄積電荷量を高めることが可能なマルチターン入射制御ができないため、シンクロトロンへの入射ビーム量が一般のシンクロトロンに対して相対的に低くなる。また、線形加速器をシンクロトロンの上面に配置しているため、メンテナンス性の課題がある。
【0015】
非特許文献2には、炭素等の重イオンビームを照射する粒子線治療システムが記載されている。重イオンビームの場合、前段加速器もシンクロトロンも加速粒子の静止質量が陽子ビームと比較して重くなるため、粒子線治療システム自体が大きくなる傾向がある。現在、陽子ビームとともに炭素等の重イオンビームを用いた粒子線治療が脚光を浴びているが、重イオンビームを用いた粒子線治療システムは、加速器システムが大型なため、陽子ビームを用いた粒子線治療システムよりも広い敷地面積が必要となる。
【0016】
本発明の目的は、粒子線治療システムにおける加速器システムの機器配置を効率化し、コンパクトかつメンテナンス性を向上した粒子線治療システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題を解決するため、本発明では、イオンビームを加速して出射する前段加速装置と、前段加速装置から出射されたイオンビームを加速する主加速装置と、前段加速装置からのイオンビームを主加速装置に輸送するビーム輸送装置とを有し、前段加速装置を主加速装置の下部に設置する構成を有する。
【0018】
また、上記課題を解決するために、本発明では、イオンビームを加速して出射する前段加速装置と、前段加速装置から出射されたイオンビームを加速する主加速装置と、前段加速装置からのイオンビームを主加速装置に輸送するビーム輸送装置とを有し、前段加速装置と主加速装置を上下に配置し、ビーム輸送装置が、前段加速装置から出射されたイオンビームを、イオンビームの進行方向に対して垂直に偏向する第1偏向電磁石と、偏向されたイオンビームを、主加速装置を周回するイオンビームの周回軌道の平面と平行となる方向に偏向する第2偏向電磁石とを備える構成を有する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、コンパクト、かつメンテナンス性を向上させた粒子線治療システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0021】
本発明の一実施形態である陽子ビームを用いた粒子線治療システムを、図1,図2及び図3を用いて説明する。図1には、建屋内に設置した本実施例の粒子線治療システムの各機器の配置を示している。図1(a)に建屋上面図、図1(b)に建屋断面図を示す。
【0022】
粒子線治療システムを設置する建屋は、図1(b)に示すように、主加速器室41a,前段加速器室41b及び照射室42を備える。粒子線治療システムでは、高エネルギーのイオンビームを使用するため、建物の遮蔽壁は1〜2m程度の厚さを有する。照射室42は、主加速器室41a及び前段加速器室41bに隣接して配置される。遮蔽機能を有する遮蔽壁40によって、主加速器室41a及び前段加速器室41bと照射室42とが隔てられる。前段加速器室41bは、主加速器室41aの階下に配置される。主加速器室41aと前段加速器室41bの間の床には開口部43が設けられている。主加速器室41aの天井付近に搬送装置(例えば、天井クレーム)50が設けられている。主加速器室41の壁に固定される天井クレーン50は、シンクロトロン12を構成する各機器の据え付けおよびメンテナンスの際に、各機器を搬送するときに使用される。本実施例の天井クレーン50は、主加速器室41aの壁に固定されるが、建屋の強度との関係で設置可能な場合には加速器室41aの天井に固定してもよい。
【0023】
粒子線治療システムは、加速器システム10,ビーム輸送系21及び照射野形成装置(照射装置)31を備える。ビーム輸送系21が、加速器システム10と照射装置31を接続する。
【0024】
加速器システム10は、イオン源11a,前段加速器11,シンクロトロン(主加速装置)12及びビーム輸送手段20を備える。本実施例では、前段加速器11は、線形加速器である。シンクロトロン12は、ビームを加速する高周波加速空洞(図示せず),出射用デフレクタ(図示せず),偏向電磁石13及び四極電磁石14を有する。ビーム輸送手段20が、前段加速器11とシンクロトロン12とを接続する。なお、ビーム輸送手段20は、第1ビーム輸送手段20a,第2ビーム輸送手段20b及び第3ビーム輸送手段20cで構成される。第1ビーム輸送手段20aが、前段加速器11に接続される。第3ビーム輸送手段20cが、シンクロトロン12に接続される。第2ビーム輸送手段20bが、第1ビーム輸送手段20aと第3ビーム輸送手段20cとを接続する。
【0025】
照射装置31は、回転ガントリー30に取り付けられる。回転ガントリー30内に治療ベッド32が設置される。照射装置31を設置する回転ガントリーの回転半径は、陽子ビームを照射する回転ガントリー30の場合で5m程度必要である。よって、敷地面積に対する加速器システム10の床面積割合を相対的に小さくしたいという要望がある。また、加速器システムのビーム輸送平面(グランドラインからの高さ)と照射室の患部照射基準点(以下、アイソセンター)は同一平面とするのが良い。本実施例のように、360度回転する回転ガントリーを設置する場合には、主加速器室41aの床面よりも深く掘り下げた床面に回転ガントリー30を設置するとよい。回転ガントリー30のアイソセンターが、シンクロトロン12を周回するビームの周回軌道と同一平面となるように配置し、主加速器室41aの下部に前段加速器室41bを配置する。このような構成により、主加速器室41aの床面よりも深く掘り下げた部分(例えば、地下)に前段加速器11を設置可能となり、地下を有効に活用することができる。
【0026】
イオン源11aで生成された陽子は、前段加速器11に入射され加速される。ビーム輸送手段20は、前段加速器11から出射されたビームをシンクロトロン12に輸送する。シンクロトロン12は、前段加速器11から出射されたビームを更に加速する。周回するビームは、高周波加速空洞により目標のビームエネルギーまで加速された後、シンクロトロン12から出射される。ビーム輸送系21が、シンクロトロン12から出射されたビームを照射装置31に輸送する。照射装置31は、入射したビームを照射対象の形状にあわせて形成し、形成したビームを照射対象に照射する。
【0027】
本実施例では、加速器システム10のうち、シンクロトロン12は主加速器室41aに設置される。また、前段加速器11は、シンクロトロン12の階下に位置する前段加速器室41bに設置される。第1ビーム輸送手段20aは主加速器室41a内に設置され、ビーム輸送手段20cは前段加速器室41c内に設置される。第2ビーム輸送手段20bは、主加速器室41a及び前段加速器室41bと照射室42を分ける遮蔽壁40に沿って設置されている。つまり、第2ビーム輸送手段20bは、開口部43を通るように遮蔽壁40に沿って固定され、一方が第1ビーム輸送手段20aに接続され、他方が第3ビーム輸送手段20cに接続される。照射室42には、照射装置31が搭載された回転ガントリー30と、治療ベッド32が設置されている。図1(b)に示したように、階を隔ててシンクロトロン12と前段加速器11を配置することで、敷地面積に対して投影される加速器室41の面積はシンクロトロン12が配置可能な面積があれば良く、加速器室を空間的に利用することで、敷地面積に制限がある既存病院への併設が可能となる。
【0028】
本実施例では、前段加速器11をシンクロトロン12の階下に配置する。前段加速器11をシンクロトロン12の階上に設置し、ビームを輸送することも可能であるが、以下の点で本実施例が効果的である。つまり、本実施例では、シンクロトロン12と天井クレーン50との間に前段加速器11やビーム輸送手段20等の機器が配置されていないため、シンクロトロン12を構成する機器の据え付けおよびメンテナンスの際に使用する天井クレーン50の動作範囲に制限が生じない。このため、シンクロトロン12やビーム輸送手段20のメンテナンス性が向上する。
【0029】
ビーム輸送手段20の構成及びその取り付けについて、図2及び図3を用いて説明する。本実施例では、前段加速器11をシンクロトロン12の階下に設置し、ビーム輸送手段20はコの字型に配置される。この際、前段加速器11から出射されたビームを前段加速器11の配置階からシンクロトロンの配置階に輸送する第2ビーム輸送手段(垂直輸送部)20bは、図2に示すように、最下部に第1の偏向電磁石13a、最上部に第2の偏向電磁石13bが配置され、ビームの輸送効率を維持するための四極電磁石14やステアリング電磁石(図示せず)、ビームプロファイルモニタ15等の機器が配置される。第1の偏向電磁石13aは、前段加速器11から出射されて第1ビーム輸送手段20aを通過してきたビームを、そのビームの進行方向に対して垂直に偏向する。偏向されたビームは、四極電磁石14及びプロファイルモニタ15を通過するように、ビームダクト25内を輸送される。第2の偏向電磁石13bは、第1の偏向電磁石13aによって偏向されたビームを、そのビームの進行方向に対して更に垂直に偏向する。偏向されたビームは、第3ビーム輸送手段20cを通過して、シンクロトロン12に入射される。つまり、第2の偏向電磁石13bが、シンクロトロン12を周回するビームの周回軌道の平面と平行となる方向に、ビームを偏向する。これにより、ビームを、シンクロトロン12に対して水平方向から入射することが可能となる。なお、偏向電磁石13aは、必ずしもビームをビーム進行方向に対して垂直に偏向するものではなくてよく、下部に配置される前段加速器11から出射されるビームを、上部に配置されるシンクロトロン12へ輸送する第2ビーム輸送手段20b内を通過するように偏向するものであればよい。また、偏向電磁石13bは、必ずしもビームをビーム進行方向に対して垂直に偏向するものでなくてよく、第2ビーム輸送手段20bを通過してきたビームを、シンクロトロン12に対して水平方向から入射するように偏向するものであればよい。
【0030】
第2ビーム輸送手段20bを構成する機器はビーム中心軌道に対する設置精度を±0.2mm以下の据え付け精度が求められる。そのため、これらのビーム輸送手段20を構成する機器のうち壁面に対して垂直に直接据え付ける方法では、要求設置精度を出すことが容易でない。そのため、図2に示すように、第2ビーム輸送手段20bを構成する機器を、要求精度に合わせて予め架台22a及び22bに据え付け・調整しておく。この架台22a及び22bを所望の精度で据え付けることで、垂直に輸送する第2ビーム輸送手段20bを現地で容易に据え付け・調整することが可能となる。
【0031】
本実施例では、図4に示すように、上下2つに分割して構成されるL字型の架台を用いる。上部に位置する架台22aには、プロファイルモニタ15を固定する固定板23aが設けられる。固定板23aは、架台22aの各側面に対して垂直に配置され、固定板23aの上面にプロファイルモニタ15を固定する。下部に位置する架台22bには、四極電磁石14を固定する固定板23b及び23cが設けられる。固定板23b及び23cは、架台22bの各側面に対して垂直に配置され、固定板23b及び23cの上に四極電磁石14を固定する。固定板23a,23b及び23cにはそれぞれ貫通穴が設けられ、その貫通穴を通すようにビームダクトが設置される。図2及び図3に示すように、架台22a及び22bから伸びるアームを用いて第2ビーム輸送手段20bを固定してもよい。また、固定板23a,23b及び23cの強度を確保するために補強材を設置しても良い。機器を設置する際には、機器に対して架台の各面からアームを伸ばして固定する方法(図示せず)や、架台の二つの面に棚状の固定板23を設け、ビームダクトが通過する部分および設置する機器が干渉する部分を切り欠き、架台をたてた場合に固定板23が平坦に固定する方法を採用することで、機器のアライメント調整を容易にし、経年変化による機器の位置ずれを抑制することができる。
【0032】
上部の架台22aと下部の架台22bの接合部は、位置合わせ部材(ピンやキー等)24a及び24bを設置可能な構成を有する。遮蔽壁40に沿って架台22a及び22bを配置・固定する場合、まず、下部の架台22bを開口部43から挿入して遮蔽壁40の側面に沿って設置し、位置合わせを行う。その後、上部の架台22aを開口部43から挿入して下部の架台22bの上に設置する。上部の架台22aと下部の架台22bの接合部に位置合わせ部材24a及び24bを挿入して、架台の位置合わせをし、固定する。
【0033】
前段加速器11からシンクロトロン12までのビーム輸送手段20のうち、垂直にビームを輸送する第2ビーム輸送手段20bの長さは、主加速器室41aの床厚や前段加速器11の設置クリアランスから4〜5m程度となる。4〜5mの架台を分割せずに一体型で垂直に設置する場合、設置時の取り回し領域が大きくなるため、垂直に設置された第2ビーム輸送手段20bを設置する主加速器室41aの開口部43を広くする必要があり、建物の強度に影響を及ぼしかねない。本実施例では、上下に分割された2つの架台22a及び22bをそれぞれ開口部43から遮蔽壁40に沿って設置し、架台22a及び22bを組み合わせることで第2ビーム輸送手段20bを設置するため、主加速器室41aの開口部43を狭く維持でき、建物の強度への影響を低く抑えることができる。
【0034】
本実施例によれば、以下の効果を得ることができる。
【0035】
本実施例を適用しない従来の粒子線治療システムを図5に示す。本実施例の図1(a)と比較すると、前段加速器11とシンクロトロン12を同一階に設置する際には、ビーム輸送効率を維持するための機器配置のため、前段加速器11とシンクロトロン12を接続するビーム輸送手段20の長さがある程度必要になり、結果として敷地面積に対する加速器室41cの投影面積が広くなってしまう。また、図5では、粒子線治療システムを模式的に示しているが、実際の前段加速器はさらに長い構成となる。一方、本実施例では、加速器システム10の前段加速器11とシンクロトロン12を二階に分けて配置することで、加速器室の敷地面積に対する割合を下げることが可能となり、狭い敷地面積にも粒子線治療システムを設置することが可能となる。また、本実施例では、第2ビーム輸送手段20bを床に対してほぼ垂直に、遮蔽壁40に備え付ける構成としたため、従来よりも第2ビーム輸送手段20bの分だけ、敷地面積を小さくすることができる。
【0036】
本実施例によれば、加速器システム10の前段加速器11とシンクロトロン12を二階に分けて配置することで粒子線治療システム全体に対する加速器室の敷地面積の割合を下げることができるため、同じ敷地面積の場合には、患者に粒子線を照射して治療する照射室をより多く設置することが可能となる。これにより、治療スループットを向上させることができる。
【0037】
本実施例では、前段加速器11を設置する階とシンクロトロン12を設置する階とを分けて配置しているため、従来と同じ敷地面積に粒子線治療システムを設置する場合、前段加速器11の設置面積を広く取ることができる。そのため、従来よりも大きな前段加速器11を設置することができ、より高いエネルギーにまで前段加速器11にてイオンビームを加速可能となる。前段加速器11から出射されるイオンビームのエネルギーが高くなると、空間電荷効果によるビーム損失が低減され、結果としてビーム強度を高めることができる。
【0038】
本実施例では、同一階に前段加速器11とシンクロトロン12を設置する際と同様に、シンクロトロン12に対して水平方向(水平軸:X軸)からビーム入射が可能であるため、シンクロトロン12に対して複数回に分けてビームを入射し、シンクロトロン内の蓄積電荷量を高めることが可能な多重回転入射(マルチターン入射制御)も可能となり、ビーム強度を高めることが可能である。
【0039】
本実施例では、架台22a及び22bの各接合部にキーやピン等の位置合せ部材を設ける構成を有するため、ビーム輸送装置の位置あわせが容易となり、架台を分割した際にも設置精度を維持することができる。
【0040】
本実施例では、L字型の架台を用いて第2ビーム輸送手段20bを据え付けているため、第2ビーム輸送手段20bに設置される各機器を主加速器室41aや前段加速器室41bから確認することができる。そのため、第2ビーム輸送手段20bの位置調整を容易に実施でき、また、定期点検時のメンテナンス性を維持できる。
【0041】
本実施例では、L字型の架台22を採用したが、コの字型などの架台(構造体)を用いてもよい。コの字型の架台の場合、第2ビーム輸送手段20bに設置する機器を更に安定して固定することができる。
【0042】
本実施例では、架台が上部の架台22aと下部の架台22bの2つに分割して構成されているが、3つ以上に分割した構成であってもよい。複数に分割することで、主加速器室41aの開口部43を更に狭く確保でき、建物の強度を高く維持できる。
【0043】
本実施例では、前段加速器11をシンクロトロン12の階下に設置し、階下の前段加速器11から階上のシンクロトロン12までのビーム輸送手段20は、シンクロトロン12を設置する主加速器室41aの床面に貫通口43を開け、主加速器室41aを囲む遮蔽壁面に沿って貫通口43を通してビーム輸送機器を設置する。一般に粒子線治療システムの建屋内の機器配置は、ビーム輸送時の損失を低減し、機器アライメント費用を低減するため、加速器システムから照射装置までのビーム輸送経路を最短にする。そのため、加速器システムを設置する加速器室の脇に照射室が配置されることが多い。加速器室に隣接して配置する照射室42に回転ガントリー30を設置する場合、加速器室のフロアよりも低く掘り下げ、厚い遮蔽壁を構築する。そこで、シンクロトロン設置フロアの階下に前段加速器である線形加速器を設置し、この厚い遮蔽壁をビーム輸送壁面として利用する。このビーム輸送壁面に沿ってビーム輸送手段を設置することで、ビーム輸送手段の壁面強度を補強することなく設置が可能となる。
【0044】
本実施例では、壁面強度の強い遮蔽壁40に第2ビーム輸送手段20bを支持しているため、重量の大きい機器が設置される第2ビーム輸送手段20bを長く確保したとしても、確実に保持することができる。第2ビーム輸送手段20bを長さを確保することによって、四極電磁石14やデバンチャー等の配置を最適化することができ、結果として、ビーム輸送効率を高めることができる。
【0045】
本実施例では、ビーム輸送壁面に沿って輸送機器を設置する際に、ビーム輸送機器を予め壁面に直接固定可能な架台に設置し、架台上で機器のアライメント調整を実施後、加速器室に隣接するビーム輸送壁面に架台を固定設置し、アライメント調整を実施する。前段加速器からシンクロトロンまでビームを輸送するビーム輸送手段に、このような架台を適用することで、据え付け調整期間を短縮することが可能となる。
【0046】
本実施例によれば、ビーム輸送機器をベースモジュールに固定設置する際、複数の架台に分割して固定設置することで、架台をビーム輸送壁面に設置する際の作業性を高めることができる。
【実施例2】
【0047】
以下に、本発明の第二の実施例である炭素ビームを用いた粒子線治療システムを図4を用いて説明する。図4は、建屋内に設置した本実施例の粒子線治療システムの各機器の配置を示している。
【0048】
本実施例の粒子線治療システムは、以下の点で実施例1の粒子線治療システムと異なる構成を有する。炭素ビームを加速する加速器システムは、陽子ビームを加速する加速器システムと異なり、加速粒子の静止質量が重いため、同じ飛程のビームを加速しようとすると、加速器システム10を構成する前段加速器11およびシンクロトロン12が大きくなり、陽子ビームと炭素ビームを併用利用する場合には、それぞれのビームを発生するイオン源11a,11bが必要となる。本実施例の粒子線治療システムの他の構成は、実施例1と同様である。
【0049】
本実施例では、実施例1と同様にシンクロトロン12の階下に前段加速器11を設置し、加速器室の投影面積を狭くすることが可能となり、従来必要であった広い敷地面積を狭くできる。これ以外の効果は実施例1と同一である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施形態である陽子ビームを用いた粒子線治療システムの建屋内機器配置の部分を示す。
【図2】前段加速器からシンクロトロンへのビーム輸送手段における垂直輸送部の架台の構成を示す。
【図3】前段加速器からシンクロトロンへビームを輸送するビーム輸送手段の構成を示す斜視図である。
【図4】本発明の一実施形態である炭素ビームを用いた粒子線治療システムの建屋内機器配置の部分を示す。
【図5】従来の陽子ビームを用いた建屋内機器配置例の部分を示す。
【符号の説明】
【0051】
10 加速器システム
11 前段加速器
12 シンクロトロン
13 偏向電磁石
14 四極電磁石
15 プロファイルモニタ
20 ビーム輸送手段(ビーム輸送装置)
20a 第1ビーム輸送手段(第1ビーム輸送装置)
20b 第2ビーム輸送手段(第2ビーム輸送装置)
20c 第3ビーム輸送手段(第3ビーム輸送装置)
21 ビーム輸送系
22a,22b 架台
23 固定板
24 位置合わせ部材
30 回転ガントリー
31 照射装置
32 治療ベッド
40 遮蔽壁
41a 主加速器室
41b 前段加速器室
42 照射室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンビームを加速して出射する前段加速装置と、
前記前段加速装置から出射された前記イオンビームを加速する主加速装置と、
前記前段加速装置からの前記イオンビームを前記主加速装置に輸送するビーム輸送装置とを有し、
前記前段加速装置を前記主加速装置の下部に設置することを特徴とする加速器システム。
【請求項2】
イオンビームを加速して出射する前段加速装置と、
前記前段加速装置から出射された前記イオンビームを加速する主加速装置と、
前記前段加速装置からの前記イオンビームを前記主加速装置に輸送するビーム輸送装置とを有し、
前記前段加速装置と前記主加速装置を上下に配置し、
前記ビーム輸送装置が、
前記前段加速装置から出射された前記イオンビームを、当該イオンビームの進行方向に対して垂直に偏向する第1偏向電磁石と、
前記偏向されたイオンビームを、前記主加速装置を周回する前記イオンビームの周回軌道の平面と平行となる方向に偏向する第2偏向電磁石とを備えることを特徴とする加速器システム。
【請求項3】
前記ビーム輸送装置が、
前記前段加速装置を配置する前段加速器室の壁面に沿って設置されることを特徴とする請求項1又は2に記載の加速器システム。
【請求項4】
前記イオンビーム輸送手段を構成する機器を設置する架台を有し、
前記架台を前記壁面に固定することで、前記イオンビーム輸送手段を固定する構成であることを特徴とする請求項3に記載の加速器システム。
【請求項5】
前記ビーム輸送装置を設置する前記架台が、上下に複数に分割して構成されることを特徴とする請求項4に記載の加速器システム。
【請求項6】
複数に分割して構成される各架台の接合部に位置合せ部材を設置して、前記ビーム輸送装置の位置合せをすることを特徴とする請求項5に記載の加速器システム。
【請求項7】
前記前段加速装置内を進行する前記イオンビームが、前記前段加速装置を配置する前段加速器室と前記イオンビームを形成して前記照射対象に出射する照射装置を配置する照射室との間の遮蔽壁へ向かうように、前記前段加速装置を配置することを特徴とする加速器システム。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の加速器システムと、
前記加速器システムから出射された前記イオンビームを照射対象に合わせて形成し、形成した前記イオンビームを前記照射対象に照射する照射装置とを備えることを特徴とする粒子線治療システム。
【請求項9】
イオンビームを加速して出射する前段加速装置と、
前記前段加速装置から出射された前記イオンビームを加速する主加速装置と、
前記前段加速装置からの前記イオンビームを前記主加速装置に輸送するビーム輸送装置と、
前記主加速装置から出射された前記イオンビームを照射対象に合わせて形成し、形成した前記イオンビームを前記照射対象に照射する照射装置とを有し、
前記前段加速装置が、前記主加速装置の階下に設置され、
前記ビーム輸送装置が、
前記前段加速装置から出射された前記イオンビームを、当該イオンビームの進行方向に対して垂直に偏向する第1偏向電磁石と、
前記偏向されたイオンビームを、前記主加速装置を周回する前記イオンビームの周回軌道の平面と平行となる方向に偏向する第2偏向電磁石とを有し、
前記主加速装置を構成する機器を搬送する搬送装置を備えることを特徴とする粒子線治療システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−217938(P2009−217938A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−57156(P2008−57156)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】