説明

加飾フィルム、加飾フィルムの製造方法及び射出成型品

【課題】クラックの発生原因に鑑みて、ハードコート層にクラックが生じない加飾フィルム及びこれを固定した射出成型品を提供する。
【解決手段】基材11に対して、紫外線硬化性を有するUVインクを用いてインクジェットプリンタにより印刷された加飾フィルム10において、基材11は、紫外線硬化性を有する半硬化状態の保護層12と、インクジェットプリンタにより印刷されたUVインク層16とが形成されており、UVインクを硬化させる紫外線波長と、保護層12を硬化させる紫外線波長とが異なる波長である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材に印刷がなされた加飾フィルム、加飾フィルムの製造方法及び当該加飾フィルムを用いた射出成型品に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成型品では基材として例えばABS樹脂等の熱可塑性の注入樹脂材料を用いている。しかし、この熱可塑性の樹脂材料が表面に露わになった状態の射出成型品は表面硬度が低いので傷などがつきやすい。
そこで、ハードコート層が形成されたフィルムを表面に固定した射出成型品が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、ハードコートフィルムの基材層として易成形性PET(ポリエチレンテレフタレート)等を用い、基材層の片面又は両面にアクリル系ポリマーと、多官能オリゴマーと、モノマー成分と、光重合開始剤とを含有した紫外線硬化型樹脂組成物の硬化物から成ることが開示されている。なお、このハードコートはUV硬化性のものであるが、成形性を持たせるために成形当初はUV硬化させず、最終の成形後にUV照射をして硬化させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−260202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
射出成型品の表面にフィルムを固定する技術として、射出成型に用いられる金型のキャビティ内にフィルムを配置させた状態で、キャビティ内に注入樹脂材料を注入することにより、金型内でフィルムと注入樹脂材料と密着させ、フィルムを射出成型品の本体壁部に一体的に固定する、インモールド成型(IMD:In Mold Decoration)と呼ばれる方法が開発されている。
なお、IMDと称される技術では、フィルムに印刷された文字や模様を金型内で成型品に熱転写する技術であるとしている場合もあるが、本願発明においては、成型品とフィルムとを金型内で一体に成型している技術として説明する。
【0006】
ところが、ハードコート層を有するフィルムを、上記のIMDにより射出成型品に固定しようとすると、ハードコート層にクラックが生じてしまうという課題が存在する。そこで、本発明者は、ハードコート層にクラックが生じる原因を突き止めるべく、様々な仮説をたて検証を試みたところ、その原因を突き止めることに成功した。
【0007】
本発明者が突き止めたクラックの原因を以下に説明する。
まず射出成型品に固定するフィルムとして加飾フィルムを用いることが一般的である。 加飾フィルムとは、印刷が施されたフィルムのことである。
加飾フィルムの印刷は、インクジェットプリンタを用い、紫外線で硬化する感光性樹脂を有するUVインクをフィルム上に着弾させて行う。
【0008】
インクジェットプリンタの印刷速度は、近年高速化が進んでいる。印刷速度の高速化に伴い、フィルム上に着弾したUVインクを確実に硬化させるため、インクジェットプリンタでは、キャリッジに搭載された紫外線照射手段からの紫外線照射強度を大きくしてキャリッジを走査するようになっている。
このように、インクジェットプリンタ内でUVインクを硬化させるための紫外線照射強度が大きくなることにより、加飾時にUVインクを硬化させる紫外線がフィルムを通過してフィルムのハードコート層へ照射され、本来であれば最後に照射されるべき紫外線がこの段階で照射されることとなり、ハードコート層の硬化が促進されて脆くなってしまう。そして、ハードコート層が脆くなった状態で、IMDにより射出成型品にフィルムを固定しようとすると、フィルムが延伸することに伴ってハードコート層にクラックが入ってしまうのである。
【0009】
そこで、本発明者は、上述したクラックの発生原因に鑑みてその課題を解決すべく鋭意研究して本発明に想到するに至った。
すなわち本発明は、クラックの発生原因に鑑みて課題を解決すべくなされ、その目的とするところは、ハードコート層にクラックが生じない加飾フィルム及びこれを固定した射出成型品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明にかかる加飾フィルムによれば、基材に対して、紫外線硬化性を有するUVインクを用いてインクジェットプリンタにより印刷された加飾フィルムにおいて、前記基材には、紫外線硬化性を有する半硬化状態の保護層と、前記インクジェットプリンタにより印刷された硬化状態のUVインク層とが形成されており、前記UVインクを硬化させる紫外線波長と、前記保護層を硬化させる紫外線波長とが異なる波長であることを特徴としている。
この構成を採用することによって、インクジェットプリンタで印刷時に、着弾されたUVインクを硬化させるために紫外線を照射しても、この紫外線波長は保護層が硬化する紫外線波長と異なる波長であるので保護層を硬化させることを抑制する。このため、加飾フィルムを射出成型品に固定する場合に、IMDでフィルムを延伸する場合であっても保護層が脆くなってクラックを生じてしまうことを防止できる。
【0011】
本発明にかかる加飾フィルムの製造方法によれば、紫外線硬化性を有する半硬化状態の保護層が形成されている基材に対して、紫外線硬化性を有するUVインクを用いてインクジェットプリンタによりUVインク層を形成する加飾フィルムの製造方法において、前記保護層が硬化する紫外線波長と、前記UVインク層が硬化する紫外線波長を異ならせることにより、前記UVインク層を硬化させる際には、半硬化状態の保護層の硬化を抑制することを特徴としている。
この方法を採用することにより、インクジェットプリンタで印刷時に、着弾されたUVインクを硬化させるために紫外線を照射しても、この紫外線波長は保護層が硬化する紫外線波長と異なる波長であるので保護層を硬化させることを抑制する。このため、加飾フィルムを射出成型品に固定する場合に、IMDでフィルムを延伸する場合であっても保護層が脆くなってクラックを生じてしまうことを防止できる。
【0012】
また、本発明にかかる加飾フィルムの製造方法において、前記保護層を硬化させるための紫外線を照射する第1の光源と、前記UVインク層を硬化させるための紫外線を照射する第2の光源とを用いることが好ましい。
これによれば、UVインク層を硬化させるときと保護層を硬化させるときとでは異なる光源を用いることによって、UVインク層の硬化時に保護層が硬化することを抑制できる。
【0013】
さらに、本発明にかかる加飾フィルムの製造方法において、前記第2の光源は、照射する紫外線の波長領域が前記保護層を硬化する波長及び前記UVインク層を硬化する波長を含む波長幅を有しており、前記第2の光源により前記UVインク層を硬化させる際には、前記保護層が硬化する波長の透過を阻止するフィルタを前記第2の光源と前記加飾フィルムとの間に配置することが好ましい。
これによれば、UVインク層を硬化させるときに保護層を硬化させる紫外線波長がフィルタによりカットされるので、UVインク層の硬化時に保護層が硬化することを抑制できる。
【0014】
本発明にかかる射出成型品によれば、射出成型に用いられる金型のキャビティ内に、請求項1または請求項2記載の加飾フィルムを配置させた状態で、キャビティ内に注入樹脂材料を注入することにより金型内で加飾フィルムが壁部に一体的に固定されてなり、加飾フィルムと注入樹脂材料とが一体的に固定された後に前記保護層を硬化させる波長の紫外線が照射されて前記保護層が硬化されてなることを特徴としている。
この構成を採用することによって、IMDのようにフィルムに大きな負荷がかかる方法を用いて、加飾フィルムを射出成型品に固定した場合であっても、加飾フィルムの保護層にクラックを生じてしまうことを防止できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の加飾フィルム、加飾フィルムの製造方法及び射出成型品によれば、射出成型に用いられる金型のキャビティ内に加飾フィルムを配置させた状態で、キャビティ内に注入樹脂材料を注入することにより、金型内で加飾フィルムと注入樹脂材料と密着させ、加飾フィルムを射出成型品の本体壁部に一体的に固定する場合であっても、加飾フィルムの保護層にクラックが生じないようにできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の加飾フィルムを示す断面図である。
【図2】UVインクの成分表である。
【図3】加飾フィルム及び射出成型品を製造する工程を説明するフローチャートである。
【図4】UVインク層の効果の様子を示す説明図である。
【図5】本発明の射出成型品を示す断面図である。
【図6】射出成型品を成型するための装置について説明する説明図である。
【図7】(a)図6の装置において金型内に加飾フィルムを配置したところを示す説明図である。(b)フィルム配置後、図6の装置を型閉じして注入樹脂材料を注入しようとするところを示す説明図である。(c)注入樹脂材料注入後、図6の装置を型開きして成型された射出成型品を取り出したところを示す説明図である。
【図8】IMLにおける実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(加飾フィルム)
本発明の好適な実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1に、本実施形態の加飾フィルムの断面図を示す。
加飾フィルム10は、プラスチックからなる基材11を有するフィルムである。基材11の一方の面側にハードコート層(特許請求の範囲でいう保護層)12が形成され、基材11の他方の面側にUVインク層16が形成されている。
【0018】
基材11の原料としては、PP(ポリプロピレン)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PC(ポリカーボネート)、アクリル樹脂などの樹脂を採用することができる。また、アクリル樹脂としては、PMMA(ポリメタクリル酸メチル樹脂)などがある。
【0019】
ハードコート層12は、上記の基材11や当該加飾フィルム10が固定される対象となる射出成型品の表面を、傷から保護するために形成されている。ハードコート層12は、紫外線により硬化する紫外線硬化性を有する硬化塗料を用いるとよい。また、ハードコート層12は、加飾フィルム10のUVインク層16の加飾層が表面から見えるように無職透明であることが必要である。なお、本実施形態における、ハードコート層12の硬化完了した後の鉛筆硬度としては2H〜3H程度となるような硬化塗料を用いている。
【0020】
ハードコート層12を構成する硬化塗料は、光重合性のオリゴマー、モノマー、触媒としての光重合開始剤、その他充填剤等の補助剤とを含んでおり、紫外線が照射されることで、光重合開始剤がラジカルを発生し、このラジカルがオリゴマーの重合を開示させる。このような重合反応によって硬化塗料は、固体に変換し対象物に定着する。なお、光重合開始剤としては、様々な種類が存在しているが、ベンゾフェノン系、ベンゾイン系、アセトフェノン系、チオキサントン系等が一般的に用いられている。
【0021】
UVインク層16は、インクジェットプリンタ(図示せず)によってプリンタヘッドから着弾されたUVインクが硬化して形成された層である。
UVインクは、紫外線が照射されることによって重合反応を起こし硬化するタイプのインクである。さらに詳細に説明すると、UVインクの成分としては、光重合性のオリゴマー、モノマー、触媒としての光重合開始剤、顔料、その他消泡剤等の補助剤とを含んでおり、紫外線が照射されることで、光重合開始剤がラジカルを発生し、このラジカルがオリゴマーの重合を開示させる。このような重合反応によってUVインクは樹脂状となり印刷された状態として対象物に定着する。なお、光重合開始剤としては、様々な種類が存在しているが、ベンゾフェノン系、ベンゾイン系、アセトフェノン系、チオキサントン系等が一般的に用いられている。
【0022】
また、ハードコート層12を構成する硬化塗料、及びUVインク層16を構成するUVインクは、それぞれ硬化時の紫外線波長が異なっている。硬化時の紫外線波長を異ならせるためには、それぞれの波長に合わせた光重合開始剤を使用するとよい。
【0023】
さらに、UVインクとしては、伸びる性質を有するものを用いるとさらに好適である。
伸びる性質を有するUVインクを用いることによって、UVインク層16が完全に硬化した場合であってもUVインク層16そのものが延びる。このため、加飾フィルム10を射出成型品に固定する場合にUVインク層16の割れを防止できる。
【0024】
図2に、伸びる性質のUVインク及び伸びない性質のUVインクの成分の一例を、シアン、マゼンダ、イエロー、ブラックの4色について示す。ここでは、各色の伸びる性質のインクについては、UVインクとLH−100、伸びない性質のインクについては、F200とLF−200というそれぞれ2つの商品について示している。これらは、出願人の商品名である。また、数字はその成分が含まれる%である。
【0025】
図2によれば、各色の伸びない性質のUVインクは、アクリル酸エステルが主成分となっている。
一方、伸びる性質のUVインクの成分は、伸びない性質のUVインクとはその成分が大きく異なっている。以下、最大含有率が10%よりも大きい成分についてのみ記す。
まず、伸びる性質のUVインクのF200について、シアンとイエローは、イソボルニルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、アクリル酸イソオクチル、脂肪族系ウレタンアクリレートがそれぞれ10〜20%の含有成分となっている。マゼンダは、イソボルニルアクリレートが10〜25%、テトラヒドロフルフリルアクリレートが10〜30%、アクリル酸イソオクチルが10〜25%、脂肪族系ウレタンアクリレートが10〜20%の含有成分となっている。ブラックは、イソボルニルアクリレートが10〜25%、テトラヒドロフルフリルアクリレートが10〜30%、変性アミンアクリレートオリゴマーが5〜25%、アクリル酸イソオクチルが10〜25%の含有成分となっている。
【0026】
伸びる性質のUVインクのLF−200について、シアンとイエローは、イソボルニルアクリレートが50〜60%、テトラヒドロフルフリルアクリレートが5〜20%、変性アミンアクリレートオリゴマーが10〜20%、ジフェニル-2.4.6-トリメチルベンゾイルホスフィン=オキシドが5〜15%。アクリル酸2-「2-(エチルオキシ)エチルオキシ」エチルが5〜15%の含有成分となっている。マゼンダは、イソボルニルアクリレートが40〜50%、テトラヒドロフルフリルアクリレートが10〜20%、変性アミンアクリレートオリゴマーが1〜15%、ジフェニル-2.4.6-トリメチルベンゾイルホスフィン=オキシドが5〜15%。アクリル酸2-「2-(エチルオキシ)エチルオキシ」エチルが5〜15%、置換トリアジンが1〜15%の含有成分となっている。ブラックは、イソボルニルアクリレートが40〜50%、テトラヒドロフルフリルアクリレートが5〜15%、変性アミンアクリレートオリゴマーが10〜20%、アクリル酸2-「2-(エチルオキシ)エチルオキシ」エチルが10〜20%の含有成分となっている。
【0027】
上述してきたような成分を含む伸びる性質のUVインクでは、UV硬化後であっても約2倍程度には伸びることができる。このため、かかるUVインクを用いたUVインク層16を有する加飾フィルム10は、後述するような容器状の成型品本体11に、クラックを生じさせずに固定することができる。
【0028】
なお、伸びない性質のUVインクを用いたUVインク層16を有する加飾フィルム10であっても、平板状の成型品本体(図示せず)に固定する場合には、加飾フィルム10が延伸しないので、問題なく固定することが可能である。
【0029】
(加飾フィルムの製造方法)
図3の前段及び図4に基づいて、図1に示した加飾フィルムを製造する製造方法について説明する。
基材11は、まず、加飾フィルム10の基材11の一方の面側にハードコート層12を形成する(ステップS1)。ハードコート層12の形成は、フィルムメーカによって行われる。ハードコート層12は半硬化された状態で、フィルムメーカから出荷される。
【0030】
次に、ハードコート層12が半硬化された状態の基材11の他方の面側にインクジェットプリンタにより所定の印刷を行う。インクジェットプリンタによる印刷は、ヘッド23から吐出されるUVインクを基材11に着弾させることによって施される(ステップS2)。
UVインクが着弾後、インクジェットプリンタのキャリッジに搭載された第2の光源(紫外線を照射する手段)によって紫外線を照射してUVインクを硬化させる(ステップS3)。
【0031】
このステップS3で用いられる第2の光源としては、例えばメタルハライドランプ(metal halide lamp)24を採用することができる。メタルハライドランプ24とは、ハロゲン化金属を水銀と共に封入したランプであって、紫外線硬化用のメタルハライドランプ24としては、例えば250nmから450nmの範囲で連続して紫外線を出力することができる。
【0032】
なお、本実施形態では、UVインクの硬化する紫外線波長が250nm〜450nmの間の波長であり、ハードコート層12の硬化する紫外線波長が280nmであるとする。
そしてメタルハライドランプ24と加飾フィルム10との間にはハードコート層12が硬化する波長成分をカットする機能を有するフィルタ25を配置する。
フィルタ25は、ハードコート層12が硬化する紫外線波長を遮断するので、ハードコート層12は、第2の光源の紫外線照射によっても硬化せず、半硬化状態のままで存在することができる。上記のフィルタ25としては、280nmの波長を吸収する成分が含まれており、250nmから450nmの波長のうち、280nm付近の波長をカットする機能を有している。
【0033】
(射出成型品)
次に、上述してきた加飾フィルムを壁部に固定した射出成型品の好適な実施形態を、図5に基づいて説明する。
本実施形態の射出成型品20は、注入樹脂材料によって形成された容器状の成型品本体21の壁部に、ハードコート層12を有する加飾フィルム10を固定したものである。なお、加飾フィルム10のUVインク層16と成型品本体21との間には、バインダ層18が形成されている。バインダ層18は、加飾フィルム10のUVインク層16と成型品本体21との間の接合力を高めるための接合剤として設けられている。
【0034】
射出成型品20の成型品本体21の原料(注入樹脂材料)としては、PP(ポリプロピレン)、PET(ポリエチレンテレフタラート)、PC(ポリカーボネート)、アクリル樹脂などの樹脂を採用できる。アクリル樹脂としては、PMMA(ポリメタクリル酸メチル樹脂)などがある。
【0035】
なお、成型品本体21の壁部に固定されている加飾フィルム10としては、第1の実施形態において説明してきた加飾フィルム10と同一のものであるとする。ここでは、加飾フィルム10の構成については同一の符号を付し、説明を省略する。
【0036】
射出成型品20は、インモールド成型(IMD:In Mold Decoration)によって成型される。IMDは後述するように、いわゆるインサート成型と同様に、射出成型用金型内に加飾フィルム10を配置させ、注入樹脂材料を押し出してフィルムを注入樹脂材料とを同時に密着させて所定形状に成型させるようにした成型方法である。
【0037】
続いて、図3の後段及び図6に基づいて射出成型品の製造工程について説明する。
まず、インクジェットプリンタによるフィルムへの印刷が終了すると、注入樹脂材料とUVインク層16との接着を良好とするために、UVインク層16の表面にバインダ(結合剤)を塗布してバインダ層18を形成する(ステップS4)。
そして、バインダ層18がUVインク層16側に形成された加飾フィルム10は、射出成型用の金型のキャビティ内に配置される(ステップS5)。
そして、金型内に注入樹脂材料が射出され、成型品本体21の壁部に加飾フィルム10が固定された射出成型品20が形成される(ステップS6)。
【0038】
成型された射出成型品には、ハードコート層12を硬化させるための紫外線が第1の光源27より照射される(ステップS7)。この第1の光源27はLEDを用い、280nmを中心とした紫外線を照射させるようにする。このため既に硬化したUVインク層16へさらに紫外線が照射されることによる退色等の影響を小さくすることができる。
【0039】
続いて、本実施形態における射出成型品のIMDによる製造工程について、図6〜図7に基づいて説明する。
図6に示すように、IMDには射出成型用の金型30が用いられる。金型30は、互いに接離動可能な分割型32、34によって構成されている。金型30には、一方の分割型32と他方の分割型34を組み付けた状態において成型品の形状に合わせた形状のキャビティ36が形成されている。他方の分割型34には、注入樹脂材料をキャビティ36内に注入するためのゲート38が形成されている。また、この分割型34のゲート38には、射出スクリューや加熱筒を有する射出装置(図示せず)が接続されている。
【0040】
図7(a)には、キャビティ36の一方の分割型32側内部に、加飾フィルム10を配置したところを示している。加飾フィルム10のUVインク層16は、注入樹脂材料側(他方の分割型34側)に向くように配置される。
キャビティ36の一方の分割型32側内部に加飾フィルム10を配置した後、一方の分割型32と他方の分割型34とを型閉じする。
【0041】
図7(b)には、一方の分割型32と他方の分割型34とを型閉じしたところを示している。
型閉じ後、他方の分割型34のゲート38から注入樹脂材料を注入し、キャビティ36内で注入樹脂材料と加飾フィルム10とを一体的に成型する。
【0042】
図7(c)には、成型後に、一方の分割型32と他方の分割型34とを型開きして射出成型品20を取り出したところを示す。この後、取り出した射出成型品20のハードコート層12を最終的に硬化させるべく、ハードコート層12側から紫外線照射を行う。上述したように本実施形態のハードコート層12の硬度としては、鉛筆硬度で2H〜3H程度である。
このように、IMDにより、ハードコート層12を有する加飾フィルム10を成型品本体21の外側に密着させて固定することができる。また、加飾フィルム10を成型品本体21に固定する際に接着剤等が必要ないので、低コストで容器状の射出成型品20を提供できる。
【0043】
(IMLの実施形態)
上述してきた実施形態はいわゆるIMDによって加飾フィルムを射出成型品に固定するものであった。しかしながら、加飾フィルムとしては、基材であるフィルムを剥がして用いるIML(In Mold Lamination)を採用する場合であっても、本発明を好適に実施できる。
【0044】
図8にIMLの実施形態の断面図を示す。
IMLの加飾フィルム40は、プラスチックからなる基材11の他方の面側に離型剤層42、ハードコート層44が形成されており、さらにハードコート層42の他方の面側にUVインク層46が形成されている。
UVインク層46の他方の面側には、結合剤からなるバインダ層48が形成されており、バインダ層48によって任意の部材に加飾フィルム40を貼り付けることができる。また、バインダ層48を任意の部材に貼り付け後は、離型剤層42から基剤11を剥がす。するると、UVインク層46の表面にハードコート層42が施されていて、印刷面が傷ついたりしない製品を提供することができる。
【0045】
なお、基材11の原料としては、上述してきた実施形態と同様に、PP(ポリプロピレン)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PC(ポリカーボネート)、アクリル樹脂などの樹脂を採用することができる。また、アクリル樹脂としては、PMMA(ポリメタクリル酸メチル樹脂)などがある。
【0046】
基材11をハードコート層42から剥離するための離型剤層42は、シリコーン等の材料で構成されている。
この剥離剤層42及びハードコート層44は、基材11を製造するフィルムメーカ内で予め形成され、フィルムメーカから出荷されたものを用いることができる。
【0047】
ハードコート層44は、紫外線により硬化する紫外線硬化性を有する硬化塗料が用いられる。また、ハードコート層44は、加飾フィルム40のUVインク層46の加飾層が表面から見えるように無職透明であることが必要である。なお、本実施形態における、ハードコート層44の硬化完了した後の鉛筆硬度としては2H〜3H程度となるような硬化塗料を用いている。
【0048】
ハードコート層44を構成する硬化塗料は、光重合性のオリゴマー、モノマー、触媒としての光重合開始剤、その他充填剤等の補助剤とを含んでおり、紫外線が照射されることで、光重合開始剤がラジカルを発生し、このラジカルがオリゴマーの重合を開示させる。このような重合反応によって硬化塗料は、固体に変換し対象物に定着する。なお、光重合開始剤としては、様々な種類が存在しているが、ベンゾフェノン系、ベンゾイン系、アセトフェノン系、チオキサントン系等が一般的に用いられている。
【0049】
UVインク層46は、インクジェットプリンタ(図示せず)によってプリンタヘッドから着弾されたUVインクが硬化して形成された層である。
UVインクは、紫外線が照射されることによって重合反応を起こし硬化するタイプのインクである。さらに詳細に説明すると、UVインクの成分としては、光重合性のオリゴマー、モノマー、触媒としての光重合開始剤、顔料、その他消泡剤等の補助剤とを含んでおり、紫外線が照射されることで、光重合開始剤がラジカルを発生し、このラジカルがオリゴマーの重合を開示させる。このような重合反応によってUVインクは樹脂状となり印刷された状態として対象物に定着する。なお、光重合開始剤としては、様々な種類が存在しているが、ベンゾフェノン系、ベンゾイン系、アセトフェノン系、チオキサントン系等が一般的に用いられている。
【0050】
また、ハードコート層44を構成する硬化塗料、及びUVインク層46を構成するUVインクは、それぞれ硬化時の紫外線波長が異なっている。硬化時の紫外線波長を異ならせるためには、それぞれの光重合開始剤の種類を異ならせるようにするとよい。
本実施形態においても、上述してきた実施形態と同様に、例としてUVインク層46の硬化する紫外線波長が250nm〜450nmの間の波長であり、ハードコート層44の硬化する紫外線波長が280nmであるとする。
【0051】
本実施形態においてもハードコート層44の硬化には第1の光源、UVインク層46の硬化には第2の光源を用いる。
第1の光源としては、例えば、280nmの波長の紫外線を照射できるLED27(図5参照)を用い、第2の光源としては、例えば250nmから450nmの範囲で連続して紫外線を出力することができるメタルハライドランプ24(図4参照)を用いることができる。
【0052】
また、第2の光源には、フィルタ25(図4参照)が設けられ、250nm〜450nmの波長のうち特定の280nm付近の波長を遮断するようにする。このようにすることで、第2の光源によってUVインク層46を硬化させる際に、第2の光源から照射された紫外線による基材11のハードコート層44の硬化を抑制できる。
【0053】
まず、基材11の他方の面側(ハードコート層44の表面)にインクジェットプリンタによってUVインク層46を形成する。そして、第2の光源を用いてUVインク層46のみを硬化させる。このとき、ハードコート層44は第2の光源からの紫外線によっては硬化が促進されないので、半硬化状態のままである。
そして、硬化したUVインク層46の表面に結合剤を塗布してバインダ層48を形成した後、バインダ層48によって加飾フィルム40を任意の部材に貼り付ける。このとき、ハードコート層44は、まだ半硬化の状態であるので凹凸のある部材に貼り付ける場合であってもハードコート層44のクラックを生じさせないようにできる。
その後、第1の光源によって紫外線を照射してハードコート層44を硬化させる。
【0054】
このように、IMLに用いる加飾フィルム40であっても、UVインク層46とハードコート層44が硬化する紫外線波長を異ならせたので、ハードコート層44のクラックを防止できる。また、硬化したUVインク層46へさらに紫外線が照射されることによる退色等の影響を小さくすることができる。
【0055】
なお、ハードコート層を硬化させる紫外線波長及びUVインク層を硬化させる紫外線波長としては、上述してきた各実施形態の波長に限定されることはなく、他の波長であってもよい。
【0056】
上述してきたように、UVインク層16を硬化させる紫外線波長と、ハードコート層(保護層)12を硬化させる紫外線波長とを異なる波長とすることにより、着弾されたUVインクを硬化させるために紫外線を照射しても、この紫外線波長は保護層が硬化する紫外線波長と異なる波長であるので保護層を硬化させることを抑制する。このため、加飾フィルムを射出成型品に固定する場合に、フィルムを延伸する場合であっても保護層が脆くなってクラックを生じてしまうことを防止できる。
【0057】
また、ハードコート層(保護層)12を硬化させるための紫外線を照射する第1の光源27と、UVインク層16を硬化させるための紫外線を照射する第2の光源24とを用いることによれば、UVインク層16を硬化させるときにハードコート層12が硬化することを抑制できる。
【0058】
さらに、第2の光源24は、照射する紫外線の波長領域がハードコート層(保護層)12を硬化する波長及びUVインク層16を硬化する波長を含む波長幅を有しており、第2の光源24によりUVインク層16を硬化させる際には、ハードコート層12が硬化する波長の透過を阻止するフィルタ25を配置すると、UVインク層16を硬化させるときハードコート層12を硬化させる紫外線波長がフィルタ25によりカットされ、UVインク層16の硬化時にハードコート層12が硬化することを抑制できる。
【符号の説明】
【0059】
10,40 加飾フィルム
11 基材
12,44 ハードコート層(保護層)
16,46 UVインク層
18,48 バインダ層
20 射出成型品
21 成型品本体
23 ヘッド
24 第2の光源
25 フィルタ
27 第1の光源
30 金型
32,34 分割型
36 キャビティ
38 ゲート
42 離型剤層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に対して、紫外線硬化性を有するUVインクを用いてインクジェットプリンタにより印刷された加飾フィルムにおいて、
前記基材には、紫外線硬化性を有する半硬化状態の保護層と、前記インクジェットプリンタにより印刷された硬化状態のUVインク層とが形成されており、
前記UVインクを硬化させる紫外線波長と、前記保護層を硬化させる紫外線波長とが異なる波長であることを特徴とする加飾フィルム。
【請求項2】
紫外線硬化性を有する半硬化状態の保護層が形成されている基材に対して、紫外線硬化性を有するUVインクを用いてインクジェットプリンタによりUVインク層を形成する加飾フィルムの製造方法において、
前記保護層が硬化する紫外線波長と、前記UVインク層が硬化する紫外線波長を異ならせることにより、前記UVインク層を硬化させる際には、半硬化状態の保護層の硬化を抑制することを特徴とする加飾フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記保護層を硬化させるための紫外線を照射する第1の光源と、前記UVインク層を硬化させるための紫外線を照射する第2の光源とを用いることを特徴とする請求項2記載の加飾フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記第2の光源は、照射する紫外線の波長領域が前記保護層を硬化する波長及び前記UVインク層を硬化する波長を含む波長幅を有しており、
前記第2の光源により前記UVインク層を硬化させる際には、前記保護層が硬化する波長の透過を阻止するフィルタを前記第2の光源と前記加飾フィルムとの間に配置することを特徴とする請求項3記載の加飾フィルムの製造方法。
【請求項5】
射出成型に用いられる金型のキャビティ内に、請求項1記載の加飾フィルムを配置させた状態で、キャビティ内に注入樹脂材料を注入することにより金型内で加飾フィルムが壁部に一体的に固定されてなり、加飾フィルムと注入樹脂材料とが一体的に固定された後に前記保護層を硬化させる波長の紫外線が照射されて前記保護層が硬化されてなることを特徴とする射出成型品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−206262(P2012−206262A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−71528(P2011−71528)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000137823)株式会社ミマキエンジニアリング (437)
【Fターム(参考)】