説明

助手席シートの位置調節装置

【課題】 助手席シートに乗員が座っていない時に車室空間を最大限に広くする。
【解決手段】 助手席シート1を前後方向に位置調節する装置3は、中間レール30(中間移動体)と、自動車の床2に対して中間レール30を前後方向に案内するとともに支持する下部レール10(下部案内手段)と、中間レール30に対して助手席シート1を前後方向に案内するとともに支持する上部レール20(上部案内手段)とを備えている。折り畳み状態の助手席シート1が床2に対して最前位置にある時に、インストールメントパネル4と床2との間の空間5に入り込んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、助手席シートの位置調節装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示するように自動車の助手席シート等をスライドさせて前後位置を調節する装置は公知である。
【特許文献1】特開2001−199264号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1では、助手席シートを移動することにより、車室空間を乗員数に応じて有効利用することができる。しかし、車室空間の有効利用は限定的であった。
本発明者は、助手席シートに乗員が座っていない時に、車室空間を最大限に有効活用できる手段を模索してきた。そして、インストルメントパネル(以下、インパネと称す)と床との間に形成されている空間に着目した。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、助手席シートを前後方向に位置調節する装置において、
中間移動体と、自動車の床に対してこの中間移動体を前後方向に案内するとともに支持する下部案内手段と、上記中間移動体に対して上記助手席シートを前後方向に案内するとともに支持する上部案内手段とを備え、
上記助手席シートが上記床に対して最前位置にある時に、この助手席シートの少なくとも一部が、インストールメントパネルと床との間の空間に入り込むことを特徴とする。
【0005】
上記構成によれば、助手席シートに乗員が座っていない時にインパネと床との間の空間に助手席シートの少なくとも一部を収容することができ、車室空間を広く利用することができる。また、中間移動体を含む2段の案内構造を採用しているので、助手席シートの前後移動量が長くなるにも拘わらず、助手席シートが通常位置にある時に案内手段が前方に長く露出しない。そのため、案内手段が助手席の乗員の足に当たるような不都合も生じない。
【0006】
好ましくは、上記助手席シートは、背もたれ部を座部に折り畳んだ状態で、上記インストールメントパネルと床との間の空間に入り込む。これによれば、より一層車室空間を広くすることができる。
【0007】
好ましくは、上記下部案内手段が床に固定されて前後方向に延びる下部レールからなり、上記上部案内手段が助手席シートの座部に固定されて前後方向に延びる上部レールからなり、上記中間移動体が、前後方向に延びるとともに上記下部レール,上部レールにスライド可能に嵌る中間レールからなる。これによれば、簡易な構造でしかも安定した案内作用を発揮することができる。
【0008】
好ましくは、さらに、上記中間レールを最前位置を含む複数位置で上記下部レールにロックする下部ロック手段と、上記上部レールを最前位置を含む複数位置で上記中間レールにロックする上部ロック手段とを備えている。これによれば、助手席シートを、インパネと床との間の空間に入り込んだ最前位置で移動不能に支持できる。
【0009】
好ましくは、上記下部ロック手段は、上記下部レールに前後方向に離れて形成された複数のロック穴と、上記中間レールに変位可能に設けられるとともに上記下部レールのロック穴に離脱可能に嵌るロック爪を有する第1ロック部材とを備え、
上記上部ロック手段は、上記上部レールに前後方向に離れて形成された複数のロック穴と、上記中間レールに変位可能に設けられるとともに上記上部レールのロック穴に離脱可能に嵌るロック爪を有する第2ロック部材とを備えている。
これによれば、ロック手段を簡易な構造とすることができるとともに、ロック作用を安定して発揮することができる。
【0010】
好ましくは、さらに、付勢手段と、上記中間レールに共通支持軸を介して回動可能に支持された操作レバーとを備え、上記第1,第2ロック部材は上記共通支持軸を介して上記中間レールに回動可能に支持され、上記第1ロック部材はそのロック爪が下方に向かうように上記付勢手段により回動付勢され、上記第2ロック部材はそのロック爪が上方に向かうように上記付勢手段により回動付勢され、
上記第1,第2ロック部材はそれぞれ係合片を有し、これら係合片には上下方向に延びる長穴が形成され、
上記第1,第2ロック部材のロック爪がそれぞれ上下部のレールのロック穴に嵌った状態で、上記操作レバーが、上記第1,第2ロック部材の係合片に形成された長穴の端に挟まれて支持されており、
上記操作レバーを一方向に回動させると、上記第1ロック部材が上記付勢手段に抗してロック爪を上方に移動させるように回動して下部レールと中間レールのロック状態を解除し、上記操作レバーを他方向に回動させると、上記第2ロック部材が上記付勢手段に抗してロック爪を下方に移動させるように回動して中間レールと上部レールのロック状態を解除する。
これによれば、共通の操作レバーにより、上下のロック,ロック解除操作が容易となる。また、操作レバー,第1,第2ロック部材を共通の支持軸で支持するので、構成も簡略化される。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように本発明によれば、助手席シートの不使用時には助手席シートを前方へ大きく移動させてインパネと床との間の空間に入り込ませることにより、車室空間を大きく広げることができる。しかも、助手席シートの使用時には位置調節装置が乗員の邪魔にならない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の第1実施形態をなす自動車の助手席シートの位置調節装置について、図面を参照しながら説明する。図1(A)において符号1は助手席シートを示す。助手席シート1は座部1aと、この座部1aに対して折り畳み可能な背もたれ部1bと、座部1bの下面に固定されたベース1cとを有している。
【0013】
上記助手席シート1は、床2に位置調節装置3を介して支持されており、通常時、例えば乗員が座っている時には、インパネ4から離れて配置されている。インパネ4はその上部が後方に突出しており、インパネ4と床2との間には空間5が形成されている。
【0014】
上記位置調節装置3は、2段スライド構造をなしており、前後方向に延びて床2に固定された左右一対の下部レール10(下部案内手段)と、前後方向に延びて助手席シート1のベース1cに固定された左右一対の上部レール20(上部案内手段)と、前後方向に延びるとともに下部レール10と上部レール20との間に配置された左右一対の中間レール30(中間移動体)とを備えている。
【0015】
図2,図3に示すように、上記下部レール10および上部レール20は、水平壁11、21と、その両側縁部のコ字形をなす案内部12、22とをそれぞれ有している。
上記中間レール30は水平をなす下壁31および上壁32と、これら壁31,32の中央を連結する垂直壁33とを有して、断面略H字形をなしている。下壁31の両側縁部および上壁22の両側縁部は断面コ字形をなしていて嵌合部34,35となっている。下側の嵌合部34が上記下部レール10の案内部12の内側に嵌ることにより、中間レール30が下部レール10に前後方向スライド可能に支持されている。また、上側の嵌合部35が上部レール20の案内部22に嵌ることにより、上部レール20が中間レール30に前後方向スライド可能に支持されている。
【0016】
上記レール10,20の一方の側縁に位置する案内部12,22の水平片部には、前後方向に等間隔をおいて多数のロック穴12a,22aが形成されている。他方、中間レール30の下壁31の一方の側縁に位置する嵌合部34の水平片部には2つの係止穴34aが形成され、上壁32の一方の側縁に位置する嵌合部35の水平片部には2つの係止穴35aが形成されている。
【0017】
上記中間レール30の垂直壁33には、水平をなして左右に延びる支持軸40が貫通している。垂直壁33には、この支持軸40を介して前後に延びる2つの板状アーム41,42(第1,第2のロック部材)が回動可能に支持されている。
【0018】
上記アーム41,42の後端部には、ロック片41a,42aと係合片41b,42bがそれぞれ一体に設けられている。
上記アーム41のロック片41aは下方に延び、その下端には2つのロック爪41xが形成されている。このロック爪41xは、アーム41の回動に伴い上記下部レール10のロック穴12aおよび中間レール30の係止穴34aに入り込んでロックを行ない、ロック穴12aから外れることによりロック解除を行うようになっている。
上記アーム42のロック片42aは上方に延び、その上端には2つのロック爪42xが形成されている。このロック爪42xは、アーム42の回動に伴い上記上部レール20のロック穴22aおよび中間レール30の係止穴35aに入り込んでロックを行ない、ロック穴22aから外れることによりロック解除を行うなっている。
【0019】
上記アーム41の係合片41bは上方に延び、上記アーム42の係合片42bは下方に延びており、両係合片41b,42bは互いに近接して配置されている。係合片41b,42bには上下方向に延びる長穴41y,42yがそれぞれ形成されている。
【0020】
上記支持軸40にはねじりバネ43が巻かれており、このねじりバネ43の一端は、アーム41の前端部の下辺に当たり、他端はアーム42の前端部の上辺に当たっており、これにより、アーム41は図2において時計方向に、すなわちロック爪41xが下方に向かうように回動付勢され、アーム42は反時計方向に、すなわちロック爪42xが上方に向かうように回動付勢されている。
【0021】
上記アーム41および下部レール10のロック穴12aにより、下部ロック手段48が構成されている。同様に上記アーム42および上部レール20のロック穴22aにより、上部ロック手段49が構成されている。
【0022】
上記中間レール30の垂直壁33には支持軸40を介して操作レバー50が回動可能に支持されている。この操作レバー50は断面円形の棒材からなり、前後方向に延び、その後端部が上記係合片41b,42bの長穴41y、42yに挿入されている。操作レバー50の前端部は下方に垂直に直角に折り曲げられ、さらに左右いずれかに水平に直角に折り曲げられており、この水平部が操作部51として提供される。
【0023】
上記位置調節装置3は、レール10,20,30からなる左右のレールアッセンブリを有しているが、上記ロック手段48,49,操作レバー50は、一方のレールアッセンブリだけに設けられている。
【0024】
上記構成の位置調節装置3による上記助手席シート1の位置調節について説明する。図1(A)は助手席シート1が中間位置にある状態を示している。助手席シート1に乗員が座っていない場合には、背もたれ部1bを折り畳み、下部ロック手段48のロックを解除し、中間レール30を下部レール10に対して最前位置にする。この時、上部ロック手段49はロック状態を維持されているので、助手席シート1は中間レール30と一緒に前進し、図1(B)の位置に至る。この位置で下部ロック手段48をロック状態に戻す。
【0025】
次に、上部ロック手段49のロックを解除し、助手席シート1を中間レール30に対して前進させて図1(C)の位置にし、この位置で上部ロック手段49をロック状態に戻す。図1(C)の位置は助手席シート1の最前位置であり、折り畳んだ助手席シート1の一部がインパネ4と床2との間の空間5に入り込み、これにより、車室空間、特に助手席シート1の後方の空間を最大限に広げることができる。
【0026】
上記ロック手段48,49のロック,ロック解除は、共通の操作レバー50の操作により行なわれる。詳述すると、操作レバー50が操作力を受けていない時には、図2,図3に示すように、アーム41,42はねじりバネ43によって回動付勢され、アーム41のロック爪41xは下部レール10のロック穴12aおよび中間レール30の係止穴34aに入り込んでおり、アーム42のロック爪42xは上部レール20のロック穴22aおよび中間レール30の係止穴35aに入り込んでいる。これにより、両ロック手段48,49はロック状態にあり、中間レール30は下部レール10に対してロックされ、上部レール20は中間レール30に対してロックされ、助手席シート1は前後方向に移動不能にして支持されている。
【0027】
両ロック手段48,49のロック状態で、操作レバー50の後端部は、係止片41bの長穴41yの上端と係止片42bの長穴42yの下端とで挟まれ、上記ねじりバネ43の弾性力で支持されている。
【0028】
下部ロック手段48のロック解除は、操作レバー50の操作部51を押し下げることにより実行される。この操作により操作レバー50は反時計方向に回動し、その後端部と係合片41bの長穴41yの上端との係止を介して、アーム41をねじりバネ43に抗して反時計方向に回す。これにより、アーム41のロック爪41xが下部レール10のロック穴12aから外れ、ロックが解除される。操作レバー50の操作部51から手を離すと、ねじりバネ43の力で操作レバー50は中立位置に戻り、下部ロック手段48が再びロック状態になる。
【0029】
上部ロック手段49のロック解除は、操作レバー50の操作部51を押し上げることにより実行される。この操作により操作レバー50は時計方向に回動し、その後端部と係合片42bの長穴42yの下端との係止を介して、アーム42をねじりバネ43に抗して時計方向に回す。これにより、アーム42のロック爪42xが上部レール20のロック穴22aから外れ、ロックが解除される。操作レバー50の操作部51から手を離すと、ねじりバネ43の力で操作レバー50は中立位置に戻り、上部ロック手段49が再びロック状態になる。
【0030】
図4に示すように、運転席シート7,後部座席シート8,9に乗員が座っている場合において、助手席シート1を上述したように図1(C)の最前位置にした時、助手席シート1の真後のシート9を前方へ移動させると、3人の乗員が孤立せずに快適に過ごすことができる。この際、シート9の位置調節装置に助手席シート1と同様の構造のものを用いると、シート9を運転席シート7に近づけることができる。
【0031】
助手席シート1は、上記位置調節装置3により、図1(A)の位置から後方へも大きく移動させることができる。
【0032】
本発明は上記実施形態に制約されず、種々の態様を採用可能である。例えば、中間レール30の係止穴34a,35aは省いてもよい。この場合、シートに付与される前後方向の荷重は支持軸40で負担することになる。
また、上下のロック手段を別々の操作部材により、ロック解除したりロックするようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1実施形態をなす助手席シートの位置調節装置の作用を説明するための概略側面図であり、(A)は助手席が通常位置にある状態を示し、(B)は助手席が前進した状態を示し、(C)は助手席がさらに前進して最前位置に達し、その一部がインパネの下方の空間に入り込んだ状態を示す。
【図2】同位置調節装置の前後方向に沿う縦断面図である。
【図3】図2におけるIII−III線に沿う断面図である。
【図4】3人乗りの場合のシートの配置例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0034】
1 助手席シート
1a 座部
1b 背もたれ部
2 床
3 位置調節装置
4 インストルメントパネル
5 空間
10 下部レール(下部案内手段)
20 上部レール(上部案内手段)
30 中間レール(中間移動体)
40 支持軸
41 アーム(第1ロック部材)
42 アーム(第2ロック部材)
41b,42b 係合片
41x,42x ロック爪
41y、42y 長穴
43 ねじりバネ(付勢手段)
48 下部ロック手段
49 上部ロック手段
50 操作レバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
助手席シートを前後方向に位置調節する装置において、
中間移動体と、自動車の床に対してこの中間移動体を前後方向に案内するとともに支持する下部案内手段と、上記中間移動体に対して上記助手席シートを前後方向に案内するとともに支持する上部案内手段とを備え、
上記助手席シートが上記床に対して最前位置にある時に、この助手席シートの少なくとも一部が、インストールメントパネルと床との間の空間に入り込むことを特徴とする助手席シートの位置調節装置。
【請求項2】
上記助手席シートは、背もたれ部を座部に折り畳んだ状態で、上記インストールメントパネルと床との間の空間に入り込むことを特徴とする請求項1に記載の助手席シートの位置調節装置。
【請求項3】
上記下部案内手段が床に固定されて前後方向に延びる下部レールからなり、上記上部案内手段が助手席シートの座部に固定されて前後方向に延びる上部レールからなり、上記中間移動体が、前後方向に延びるとともに上記下部レール,上部レールにスライド可能に嵌る中間レールからなることを特徴とする請求項1または2に記載の助手席シートの位置調節装置。
【請求項4】
さらに、上記中間レールを最前位置を含む複数位置で上記下部レールにロックする下部ロック手段と、上記上部レールを最前位置を含む複数位置で上記中間レールにロックする上部ロック手段とを備えていることを特徴とする請求項3に記載の助手席シートの位置調節装置。
【請求項5】
上記下部ロック手段は、上記下部レールに前後方向に離れて形成された複数のロック穴と、上記中間レールに変位可能に設けられるとともに上記下部レールのロック穴に離脱可能に嵌るロック爪を有する第1ロック部材とを備え、
上記上部ロック手段は、上記上部レールに前後方向に離れて形成された複数のロック穴と、上記中間レールに変位可能に設けられるとともに上記上部レールのロック穴に離脱可能に嵌るロック爪を有する第2ロック部材とを備えたことを特徴とする請求項4に記載の助手席シートの位置調節装置。
【請求項6】
さらに、付勢手段と、上記中間レールに共通支持軸を介して回動可能に支持された操作レバーとを備え、上記第1,第2ロック部材は上記共通支持軸を介して上記中間レールに回動可能に支持され、上記第1ロック部材はそのロック爪が下方に向かうように上記付勢手段により回動付勢され、上記第2ロック部材はそのロック爪が上方に向かうように上記付勢手段により回動付勢され、
上記第1,第2ロック部材はそれぞれ係合片を有し、これら係合片には上下方向に延びる長穴が形成され、
上記第1,第2ロック部材のロック爪がそれぞれ上下部のレールのロック穴に嵌った状態で、上記操作レバーが、上記第1,第2ロック部材の係合片に形成された長穴の端に挟まれて支持されており、
上記操作レバーを一方向に回動させると、上記第1ロック部材が上記付勢手段に抗してロック爪を上方に移動させるように回動して下部レールと中間レールのロック状態を解除し、上記操作レバーを他方向に回動させると、上記第2ロック部材が上記付勢手段に抗してロック爪を下方に移動させるように回動して中間レールと上部レールのロック状態を解除することを特徴とする請求項5に記載の助手席シートの位置調節装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−142923(P2006−142923A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−333994(P2004−333994)
【出願日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(000100366)しげる工業株式会社 (95)
【Fターム(参考)】