説明

効果的なデコイ状態機能を有するQKDステーション

【課題】QKDシステム(10)の一部として、量子信号(QS)にランダムに組み込まれたデコイ信号(DS)を形成する機能を有する量子鍵配送ステーション(アリス)を開示する。
【解決手段】QKDステーションは、可変光減衰器としての使用に適合された偏光無依存光速光学スイッチ(OS)を有する。高速光学スイッチは、平均光子数μを有する量子信号の態様の第1出力光学信号を生じる第1減衰レベルと、平均光子数μを有するデコイ信号としての第2出力光学信号を生じる第2減衰レベルとを有する。減衰レベルは、QKDシステム動作中にランダムに設定セットされ、これにより、デコイ信号が量子信号にランダムに組み込まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子暗号に関し、量子暗号に関連する産業上の有用性を有している。本発明は、特に、デコイ状態の使用によってQKDシステムのセキュリティを向上するシステムおよび方法に関し、そのシステムおよび方法に関連する産業上の有用性を有している。
【背景技術】
【0002】
量子鍵配送は、“量子チャネル”を通して伝送される弱い(例えば、1パルス当たり1光子)光学信号(量子信号)を用いることにより、送信者(「アリス」)と受信者(「ボブ」)との間の鍵を確立することを含んでいる。量子鍵配送の安全性は、不確定状態にある量子システムのどのような測定もその状態を変えてしまうという量子力学的原理に基づいている。その結果、量子信号を傍受あるいは測定することを試みる盗聴者(「イブ」)は、送信信号にエラーを与え、イブの存在を明らかにする。
量子暗号法の概略的な原理は、BennettおよびBrassard共著論文(非特許文献1)において述べられている。具体的なQKDシステムは、C.H.Bennettらの出版物(非特許文献2)や、Bennettに付与された米国特許第5,307,410号(特許文献1)(‘410特許)に説明されている。QKDの動作の一般的な流れについては、Bouwmeesterらによる書籍(非特許文献3)に説明されている。
【0003】
‘410特許に記載されているQKDシステムは、信号が一方のQKDステーション(すなわちアリス)から他方のQKDステーション(ボブ)へ送信される、いわゆる、「ワンウェイ」システムである。Ribordyらによる論文(非特許文献4)、および、米国特許第6,188,768号(特許文献2)は、それぞれ、量子信号が、第1QKDステーション(ボブ)から第2QKDステーション(アリス)へと送信され、そして、第1QKDステーション(ボブ)へ戻ってくる、いわゆる、「ツーウェイ」システムについて記載している。一般に、第1QKDステーションから第2QKDステーションへ送信される量子信号は、比較的強く(例えば、平均で、1パルス当たり数百あるいは数千もの光子)、また、第1QKDステーションに戻ってくる前には、第2QKDステーションで量子レベル(つまり、平均で、1パルス当たり1光子あるいはそれ以下)まで減衰される。ツーウェイQKDシステムは、ドイツのJoachim Meier博士によって発明され、1995年に(ドイツで)“Stabile Interferometrie des nichtlinearen Brechzahl−Koeffizienten von Quarzglasfasern der optischen Nachrichtentechnik”(Joachim Meier.−Als Ms. gedr..−Dusseldorf:VDI−Verl., Nr.443, 1995(ISBN3−18−344308−2))として発表されたタイプの自動補償干渉計を用いている。Meierの干渉計は自動的に補償されるので、それに基づくツーウェイシステムは、当然、ワンウェイシステムよりも環境の影響を受けにくい。
【0004】
最も一般的なQKDシステムは、レーザなどの複数光子源を使用し、単一光子量子信号(パルス)、つまり、平均光子数μ1の光パルスを達成するよう複数光子パルスを減衰させる。これは、「微弱コヒーレント光」、あるいは、WCP QKDと呼ばれている。他のQKDシステムは、量子信号を生成するために単一光子源を用いている。単一光子源を用いる従来技術QKDシステムでは、単一光子源によって生成される複数光子信号を抑制する、あるいは、なくす努力がなされている。もし、イブが大きなチャネルロスを利用することができる場合には、複数光子パルスに対する攻撃は、イブにとって非常に効果的であることが分かる。このように、ロスが存在する場合において、アリスからボブまでの複数光子パルスと単一光子パルスとの効率を変えるイブを検出する能力は、システムセキュリティを維持する非常に重要な要素である。
【特許文献1】米国特許第5,307,410号公報
【特許文献2】米国特許第6,188,768号公報
【非特許文献1】“Quantum Cryptography:Public key distribution and coin tossing,”IEEE Proceedings of the International Conference on Computers,Systems and Signal Processing,Bangalore,India,December 10−12, 1984,pp.175−179
【非特許文献2】“Experimental Quantum Cryptography,” J. Cryptology 5: 3−28 (1992)
【非特許文献3】“The Physics of Quantum Information,” Springer−Verlag 2001, in Section 2.3, pages 27−33
【非特許文献4】“Automated ‘Plug and play” quantum key distribution,” Electronics Letters Vol. 34, No. 22 October 29, 1998 (“the Ribordy paper”)
【非特許文献5】“Quantum key distribution with high loss: toward global secure communication,”(arXiv:quant−ph/0211153 v5、2003年5月19日発表)
【非特許文献6】“Experimental decoy state quantum key distribution over 15 km,”(2005年3月25日発表、http://arxiv.org/PS cache/quant−ph/pdf/0503/0503192v2.pdf)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
複数光子パルスの盗聴に対するセキュリティ対策の一つとして、デコイ(おとり)状態方式がある。そのような1方法は、Hwangによる論文(非特許文献5)の中で提案されている。そのデコイ状態方式では、アリスは、平均光子数を、2つの値(0.5と0.25など)の間で、ランダムに変調し、それらの一つがデコイ状態を表す。デコイ状態によって、アリスは、イブがチャネルロスを利用しているかどうか、そして、あるタイプの攻撃−つまり、例えば、PNS攻撃、あるいは、明白状態識別(unambiguous state discrimination)(USD)攻撃−を行っているかどうかを、デコイ状態信号のロス(つまりビット誤り率)を量子信号のそれと比較することによって判定できる。概して、平均光子数の異なる2つの値は、二つの状態に最良の統計をもたらすために、QKDシステムパラメータに基づいて選択される。
【0006】
Zhaoらは、論文(非特許文献6)の中で、微弱コヒーレント(「量子状態」)パルスと共にデコイ状態パルスの生成を可能にするツーウェイQKDシステムに対する改良について発表している。Zhaoの論文について、図2に示すように、その改良は、「デコイ生成器」によって駆動される2つの音響光学変調器(AOMS)−「デコイ」AOM−と、「補償生成器」によって駆動される上流側の補償AOMとを加えることを含んでいる。デコイ発生器は、通常の光検出器に連結され、その結果、デコイAOMを位相変調器(PM)およびファラデーミラー(FM)に接続する光ファイバーに光学的に連結される。補償AOMおよび関連する補償発生器は、アリスおよびボブの干渉計の間のアラインメントを維持する信号の周波数をシフトするよう用いられる。Zhaoの改良は、デコイ状態プロトコルを研究する論文の実験の目的には適っていたが、商用QKDシステムには過度に複雑で扱いにくい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様は、デコイ信号が組み込まれた量子信号を形成することが可能なQKDステーションである。QKDステーションは、通過する光学信号を位相変調あるいは偏光変調するように適合された変調器を有する。QKDステーションは、また、可変光減衰器として使用するのに適合された偏光無依存光学スイッチを有する。光学スイッチは、変調器に光学的に連結されるとともに、光学スイッチを通過する光学信号を、入力された駆動信号に基づいて選択量だけ減衰するように適合されている。QKDステーションは、また、光学スイッチに機能的に連結されるとともに、駆動信号を光学スイッチに出力するように適合された光学スイッチドライバを有する。
【0008】
本発明の第2の態様は、QKDステーションにおいてデコイ信号がランダムに組み込まれている量子信号を生成する方法である。この方法は、ランダムに変調された光学パルスを、可変光減衰器として使用するのに適合された高速光学スイッチを通過させる工程を含む。この方法は、また、平均光子数μを有するデコイ信号が組み込まれた平均光子数μを有する量子信号を生成し、光学パルスの第1および第2レベルの減衰を与えるために、光学スイッチをランダムに駆動する工程を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るQKDステーションによれば、駆動信号により、光学スイッチは、量子信号に関連している第1平均光子数μ、あるいは、デコイ信号に関連している第2平均光子数μのいずれかを有する出力光学パルスを生じる第1および第2レベルの減衰をランダムに与える。駆動信号をランダムに出力することにより、デコイ信号が量子信号の中にランダムに組み込まれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は、光ファイバーリンクFLによって機能的に連結された「アリス」と呼ばれる第1QKDステーションと、「ボブ」と呼ばれる第2QKDステーションと、を含む汎用QKDシステム10の概略図である。アリスとボブとは、QKDステーションのそれぞれの動作を制御し、QKDシステム動作の全体的な同期を調整するように通信し、最終的に安全な量子鍵を確立するために、情報(例えば、シフティング、プライバシー増幅など)を交換し処理する、それぞれのコントローラCA,CBを有する。光ファイバーリンクFLは、微弱光学パルスをアリスからボブまで量子チャネル上で伝送するように適合されている。ここで、微弱光学パルスとは、平均光子数μ1を有する光学パルスとして定義する。共有の量子鍵を確立するために用いられる量子信号QSは、量子チャネル上で交換される微弱光学パルスである。後述のように生成されるデコイ状態信号DS(以下「デコイ信号」)は、また、量子信号QSとは異なる平均光子数μを有する微弱光学パルスとすることができる。デコイ状態信号DSも、量子チャネル上で交換される。
【0011】
光ファイバーリンクFLは、また、アリスとボブとの動作を鍵交換プロセスにおいてコントローラCA,CBを介して同期させる同期チャネルに関連する同期信号SSなどの他のチャネルに関連する光学信号を伝送することができる。さらに、光ファイバーリンクFLは、複数光子デコイ信号DS等の複数光子光学信号(パルス)を伝送することが可能である。他の実施形態では、QKDシステム10は、光ファイバーリンクFL上で必ずしも伝送される必要がない、機能的にコントローラCA,CBを接続している独立した公共のチャネルを有する。公共のチャネルは、例えば、同期信号SSを介した同期情報の通信および/または公共情報信号PIを介した公共情報の交換の通信を可能にする。一例では、公共情報信号PIは、安全な共有量子鍵を得るプロセスの一部として交換された量子信号およびデコイ信号の性質およびタイプに関連する公共情報を含む。
【0012】
(ツーウェイシステムの例示的な実施形態)
図2は、本発明に係るQKDステーション、アリスの例示的な実施形態の概略図であって、アリスは、ツーウェイQKDシステムにおいて、デコイ信号DSを量子信号QSにランダムに組み込むことが可能である。図2のアリスは、従来技術のツーウェイシステムのアリスにおいて見られる通常のエレメントを有する、つまり、ファラデーミラーFMと、位相変調器PMと、可変光減衰器VOAと、位相変調器および可変光減衰器に機能的に連結されたコントローラCAとを有する。なお、システムにおける光減衰器の位置は重要でないことを記載しておく。実際、光学スイッチOSが十分な減衰を与えることができる例示的な実施形態においては、光減衰器は、システムの一部として必要ではない。
Zhaoによる方法のように、2つ以上のVOAやそれに付随するドライバをシステムに付加するのではなく、本発明にかかる図2のアリスは、単に、光学スイッチドライバOSDによって駆動される偏光無依存高速光学スイッチOSを付加している。適当な光学スイッチOSの一例は、EOSPACE社(8711 148th Avenue N.E., Redmond, WA 98052)から、model no.SW 2x2−D00−SFU−SFUとして入手可能である。
【0013】
光学スイッチドライバOSDは、光学スイッチOSと、コントローラCAに機能的に連結される乱数発生器RNGとに機能的に連結される。光学スイッチOSは、本発明において、偏光無依存可変光減衰器として使用するように適合されている。減衰量は、光学スイッチドライバOSDからの駆動信号SDによって与えられる。例えば、駆動信号SD=0ボルトの場合、光学スイッチOSは非作動であり、最小の減衰(〜0dB)を与える。一方、SD=15ボルトの場合、減衰は最大(例えば、〜23dB)となる。その間では、減衰は、駆動信号SDの電圧に対応する定義された方法で変化する。従って、アリスに入ってくる、また、アリスから離れていく光学信号に対する減衰のセットレベルを、光学スイッチに適当な電圧を有する駆動信号SDを出力することにより、光学スイッチOSにより与えることができる。これにより、高出力RFドライバを必要とするとともに、補償を要する周波数シフトを生じる音響光学変調器を用いる複雑さを回避する。
【0014】
図2のアリスは、図1のQKDシステム10のツーウェイの実施形態の一部である。そのため、ボブからの比較的強い光学信号BSが、アリスに送信される。光学信号BSは、2つの比較的強い(つまり、非量子的な)直交偏光光学パルスを含んでいる。2つの比較的強い直交偏光光学パルスは、単一光学パルスとして発信されるものであり、そして、ボブで位相符号化され再結合されて位相符号化情報を有する単一光学パルスを形成するものである。
詳細には、光学信号BSは、パルスの一方を位相変調器PMでコントローラCAによる位相変調のランダムな選択によって変調するアリスによって受信される。ファラデーミラーFMは、それぞれのパルスの偏光を90°変化させ、そして、パルスは、可変光減衰器VOAおよび光学スイッチOSを通過した後ボブへと戻る。アリスとボブとの間で量子信号QSを交換するとき、可変光減衰器VOAおよび光学スイッチOSは、入力信号BSにおけるパルスが減衰されて、そのパルスがボブに戻ったとき選択平均光子数μを有する量子信号QSを形成するようにセットされる。
【0015】
平均光子数μを有するデコイ信号DSを平均光子数μの量子信号QSにランダムに割り込ませるために、コントローラCAは、QKDシステム動作中に、制御信号SAを乱数発生器RNGへ送信する。これにより、乱数発生器が、乱数を表す乱数信号S1を生成し、そして、その信号を光学スイッチドライバOSDへ出力する。乱数信号S1に応じて、光学スイッチドライバOSDは、対応する駆動信号SDを光学スイッチOSへ出力し、光学スイッチを選択減衰に設定する。信号SA,S1,SDは、タイミングが合わされ、これにより、ボブからの光学信号BSがアリスに到達したとき、および/または、反射されたパルスがアリスから離れたとき、光学スイッチOSは選択減衰に設定される。なお、乱数信号S1は、また、システムの動作中に乱数信号によって表わされる乱数を記録するコントローラCAへ出力されることを記載しておく。例示的な実施形態では、乱数は、シングルビット乱数である。
【0016】
光学スイッチドライバOSDは、乱数信号S1を受信するよう、そして、それに応じて対応する駆動信号SDを生成するようにプログラムされている。例えば、乱数信号S1は、2つの可能な値、つまり、0と1とを有する1ビットの乱数を表わすことができる。光学スイッチドライバOSDは、0を表す信号S1に応じて0ボルトの駆動信号SDを生成することができ、その結果、光学スイッチOSおよび可変光減衰器VOAによって与えられた合成の減衰により、アリスから離れていく平均光子数、例えば、μ=0.5を有する量子信号QSとなる。
一方、1の値を表わす信号S1に応じて、光学スイッチドライバOSDは、出力パルスを減衰するようタイミングが合わされた5ボルトの駆動信号SDを生成する。5ボルトの駆動信号SDにより、光学スイッチOSは、3dBの減衰を与える。μ=0.5を有する量子信号に対する3dBの減衰により、μ=0.25を有するデコイ信号DSとなる。その結果、QKDシステム動作中に、デコイ信号DSを量子信号QSにランダムに組み込ませることになる。
【0017】
さらに、量子信号QSおよびデコイ信号DSを生成するよう用いられる乱数のコントローラCAにおけるアリスの記録により、ボブおよびアリスが両方のタイプの信号のボブの検出の結果を比較することができる。乱数発生器RNGによって生成される乱数の適当な選択と、それに応じた光学スイッチドライバOSDに対する適当な設定とによって、デコイ状態信号DSの数に対する量子信号QSの数の比率が、所望のレベルへ設定可能となる。また、ボブからの信号がアリスを通って往復するので、光学スイッチOSを、信号が光学スイッチを通る2つの行程を行き来するのに十分に長い期間作動させることができる。この場合、上記の例を用いて、光学スイッチOSの減衰レベルを、1.5dB(1回の通過のセッティングが3dBに対して)にセットできる。
適当な数の微弱光学信号(QSとDSとの両方)が、アリスとボブとの間で交換されると、アリスとボブとは、どの信号が量子信号であったか、そして、どの信号がデコイ信号であったかに関連する情報を共有する。そして、それぞれの信号タイプの統計が分析され、これにより、鍵交換プロセスの際に盗聴者が存在していたかどうかを確かめることができる。
【0018】
なお、他の例示的な実施形態においては、例えば、光学スイッチドライバOSDの適切なプログラミングによって、μ<μとし、これにより、量子信号QSをデコイ信号DSよりも減衰することができることを付言しておく。
(ワンウェイシステムの例示的な実施形態)
図3は、本発明に係るQKDステーション、アリスの例示的な実施形態の概略図であって、アリスは、ワンウェイQKDシステムにおいては、デコイ信号DSを量子信号QSに効果的にランダムに組み込むことが可能である。図3のアリスは、従来技術のワンウェイのアリスにおいて見られる通常のエレメントを有する。つまり、レーザ源LSと、変調器M(例えば、偏光あるいは位相変調器)と、可変光減衰器VOAと、レーザ源、位相変調器および可変光減衰器に機能的に連結されたコントローラCAと、を有する。また、可変光減衰器の位置は重要でない。実際、光学スイッチOSが十分な減衰を与えることができる例示的な実施形態においては、光減衰器は、システムの一部として必要ではない。
【0019】
本発明に係る図3のアリスは、先の例示的な実施形態において説明したとおり、光学スイッチドライバOSDおよび乱数発生器RNGに加えて、可変減衰器VOAの下流側に配置される偏光無依存高速光学スイッチOSをさらに含んでいる。
図3のアリスの動作は、ボブから強い信号BSを受信する代わりに、アリスが、レーザ源LSを用いて、アリス自身の強い光学信号(パルス)P0を生成することを除いて、基本的に図2のアリスと同じである。信号P0は、変調器Mを通過し、ランダムに偏光変調あるいは位相変調され、これにより、ランダムに変調された光学信号P1を生成する。そして、光学信号P1は、可変光減衰器VOAによって減衰され、これにより、減衰された光学信号P2を生成する。例示的な実施形態では、減衰された光学信号P2は平均光子数μ=μを有しており、したがって、光学信号P2は量子信号QSと同じである。
【0020】
そして、光学信号P2は、図2のアリスに関して上に説明したように制御される光学スイッチOSを通過する。したがって、光学スイッチOSが「オフ」状態にあるとき、光学信号P2は、光学スイッチをそのまま通過し、平均光子数μの量子信号QSとしてアリスを離れる。一方、光学スイッチOSが作動されているとき、光学信号P2はさらに減衰され、μのデコイ信号DSを形成する。また、他の例示的な実施形態においては、例えば、光学スイッチドライバOSDの適切なプログラミングによって、μ<μとし、これにより、量子信号QSをデコイ信号DSよりも減衰することができることを付言しておく。
適切な数の光学信号(QSとDSの両方)が、アリスとボブとの間で交換されると、アリスとボブは、どの信号が量子信号であったか、そして、どの信号がデコイ信号であったかに関連する情報を共有する。そして、それぞれの信号タイプの統計が比較され、これにより、鍵交換プロセスの際に盗聴者が存在していたかどうかを確かめることができる。
【0021】
なお、図面に示した種々のエレメントは、単に、表示的なもので、必ずしもスケールに合わせて描かれてはいない。ある部分が誇張されていることもあり、また、他の部分が極小化されていることもある。図面は、当業者によって理解され適切に実行することができる本発明の種々の実施例を例示するよう意図されたものである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、光ファイバーリンクによって光学的に連結されたQKDステーション「アリス」および「ボブ」を有する汎用QKDシステムの概略図であって、アリスとボブとの間で交換される光学信号の異なるタイプを示している。
【図2】本発明にかかるQKDステーション、アリスの例示的な実施形態の概略図であって、アリスは、図1におけるツーウェイQKDシステムの量子信号がランダムに組み込まれたデコイ信号を効率的に生成することが可能である。
【図3】本発明にかかるQKDステーション、アリスの例示的な実施形態の概略図であって、アリスは、図1におけるワンウェイQKDシステムの量子信号がランダムに割り込まれたデコイ信号を効率的に生成することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デコイ信号が組み込まれる量子信号を形成することが可能なQKDステーションであって、
通過する光学信号を位相変調あるいは偏光変調するように適合された変調器と、
可変光減衰器として使用するのに適合された偏光無依存光学スイッチであって、前記変調器に光学的に連結されるとともに、入力された駆動信号に基づく選択量によって前記偏光無依存光学スイッチを通過する光学信号を減衰するように適合された前記偏光無依存光学スイッチと、
前記偏光無依存光学スイッチに機能的に連結されるとともに、前記駆動信号を前記偏光無依存光学スイッチに出力するよう適合された光学スイッチドライバであって、量子信号に関連する第1平均光子数μ、あるいは、前記量子信号に組み込まれるデコイ信号に関連する第2平均光子数μのいずれかを有する出力光学パルスを生じる第1および第2レベルの減衰をランダムに与える光学スイッチドライバと、
を備えている、QKDステーション。
【請求項2】
前記変調器は、位相変調器であるとともに、
第2QKDステーションから前記位相変調器および前記光学スイッチを通って戻ってくる入力パルスの光を反射して、前記第2QKDステーションへと戻すように配置されたファラデーミラーをさらに備えている、
請求項1に記載のQKDステーション。
【請求項3】
前記変調器の上流に配置されるとともに、前記変調器および前記偏光無依存光学スイッチを通過する前記光学信号を生成するように適合された光源を、さらに備えている、
請求項1に記載のQKDステーション。
【請求項4】
コントローラと、
前記コントローラおよび前記光学スイッチドライバに機能的に連結される乱数発生器であって、乱数を表す乱数信号を生成するように適合されるとともに、前記乱数信号を前記光学スイッチドライバおよび前記コントローラに出力する乱数発生器と、
をさらに備えている、請求項1に記載のQKDステーション。
【請求項5】
μ>μである、
請求項1に記載のQKDステーション。
【請求項6】
μ>μである、
請求項1に記載のQKDステーション。
【請求項7】
前記変調器あるいは前記光学スイッチのいずれかに隣接して配置されて、前記変調器あるいは前記光学スイッチのいずれかを通過する前記光学信号を減衰する光減衰器をさらに備えている、
請求項1に記載のQKDステーション。
【請求項8】
ランダムに変調された光学パルスを、可変光減衰器として使用するのに適合された高速光学スイッチを通過させる工程と、
前記光学パルスの第1および第2の選択レベルの減衰を与え、平均光子数μを有するデコイ信号が組み込まれた平均光子数μを有する量子信号を生成するために、前記光学スイッチをランダムに駆動する工程と、
を備えている、QKDステーションにおいてデコイ信号がランダムに組み込まれる量子信号を生成する方法。
【請求項9】
前記光学パルスが前記QKDステーションを離れる前に、光減衰器を用いて前記光学パルスの第3の選択レベルの減衰を与える工程を含んでいる、
請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記光学スイッチをランダムに駆動する工程は、乱数を表す乱数信号を前記光学スイッチに機能的に連結される光学スイッチドライバへ出力する工程を含んでおり、
前記光学スイッチドライバは、前記乱数信号を受信して、前記第1および第2の選択レベルの減衰に対応する駆動信号を生成するように適合されている、
請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記第1および第2の選択減衰レベルは、μ>μである、
請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記ランダムに変調された光学パルスを形成する際に、前記光学パルスを1回だけ変調器に通過させる工程を含んでいる、
請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記ランダムに変調された光学パルスを形成する際に、前記光学パルスを2回、変調器に通過させる工程を含んでいる、
請求項8に記載の方法。
【請求項14】
前記QKDステーションは、量子鍵交換を行なうために第2QKDステーションに機能的に連結される第1QKDステーションであって、
前記第1QKDステーションに、前記光学スイッチをランダムに駆動することに関連する情報を記憶させる工程と、
前記情報を第2QKDステーションと共有することによって、前記第2QKDステーションによって受信された前記光学信号のどれが量子信号であったか、また、どれがデコイ信号であったかを識別する工程と、
前記第1QKDステーションによって送信され前記第2QKDステーションによって検出された前記量子信号および前記デコイ信号に関連するデータを分析することによって、盗聴者が量子鍵交換に干渉したかどうか判定する工程と、
をさらに備えている、請求項8に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−510907(P2009−510907A)
【公表日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−533378(P2008−533378)
【出願日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際出願番号】PCT/US2006/034750
【国際公開番号】WO2007/037927
【国際公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【出願人】(505188939)マジック テクノロジーズ,インコーポレーテッド (27)
【氏名又は名称原語表記】MAGIQ TECHNOLOGIES,INC.
【Fターム(参考)】