説明

動力伝達チェーンおよび動力伝達装置

【課題】 別部品のチェーン破断対策部材(例えば枠体)を使用することなく、チェーン破断対策を可能とし、これにより、別部品のチェーン破断対策部材を使用するものに比べて、製造コストを大幅に削減することができる動力伝達チェーンおよび動力伝達装置を提供する。
【解決手段】 複数のリンク11,21の内の一部は、動力伝達チェーン1が破断してハウジング30に衝突した際の衝撃を吸収する衝撃吸収用リンク21とされている。衝撃吸収用リンク21は、他のリンク11の外周面よりもチェーン径方向外方に突出し動力伝達チェーン1破断時に先にハウジング30に衝突して衝撃を吸収する径方向外方突出部22を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、動力伝達チェーン、さらに詳しくは、自動車等の無段変速機(CVT)に好適な動力伝達チェーンおよびこれを用いた動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
動力伝達チェーンとして、ピンが挿通される前後挿通部を有する複数のリンクと、一のリンクの前挿通部と他のリンクの後挿通部とが対応するようにチェーン幅方向に並ぶリンク同士を連結する前後に並ぶ複数の第1ピンおよび複数の第2ピンとを備え、第1ピンと第2ピンとが相対的に転がり接触移動することにより、リンク同士の長さ方向の屈曲が可能とされており、第1ピンおよび第2ピンの少なくとも一方の両端面がプーリと接触して摩擦力により動力が伝達されるものが知られている。
【0003】
この種の動力伝達装置では、動力伝達チェーンが破断した場合、これに伴って、プーリから外れたチェーンの一部がハウジングに衝突し、ハウジングが損傷する可能性がある。したがって、動力伝達チェーンに、フェールセーフ機構として、チェーン破断対策の構成を設けておくことが好ましい。
【0004】
特許文献1には、チェーンの幅方向に並ぶすべてのリンクを囲む枠体を使用して、チェーン破断対策の構成とすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第4618338号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の特許文献1で使用されている枠体は、リンクとは異なる形状(部材)とされ、これを使用することで、製作の手間および組立ての手間が増加することから、特許文献1のものでは、製造コストが高くつくという問題があった。
【0007】
この発明の目的は、別部品のチェーン破断対策部材(例えば枠体)を使用することなく、チェーン破断対策を可能とし、これにより、別部品のチェーン破断対策部材を使用するものに比べて、製造コストを大幅に削減することができる動力伝達チェーンおよび動力伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明による動力伝達チェーンは、ピンが挿通される前後挿通部を有する複数のリンクと、一のリンクの前挿通部と他のリンクの後挿通部とが対応するようにチェーン幅方向に並ぶリンク同士を連結する前後に並ぶ複数の第1ピンおよび複数の第2ピンとを備え、第1ピンと第2ピンとが相対的に転がり接触移動することにより、リンク同士の長さ方向の屈曲が可能とされており、第1ピンおよび第2ピンの少なくとも一方の両端面がプーリと接触して摩擦力により動力が伝達される動力伝達チェーンにおいて、複数のリンクの内の一部は、動力伝達チェーンが破断してハウジングに衝突した際の衝撃を吸収する衝撃吸収用リンクとされており、衝撃吸収用リンクは、標準のリンクの外周面よりもチェーン径方向外方に突出し動力伝達チェーン破断時に先にハウジングに衝突して衝撃を吸収する径方向外方突出部を有していることを特徴とするものである。
【0009】
この発明の動力伝達チェーンによると、動力伝達チェーンが破断した場合、これに伴って、プーリから外れたチェーンの一部がハウジングに衝突する可能性があるが、この衝突時には、衝撃吸収用リンクの径方向外方突出部が先にハウジングに衝突し、径方向外方突出部が変形して衝撃を吸収する。したがって、ハウジングの損傷を防止することができる。
【0010】
衝撃吸収用リンクは、例えば、標準のリンクを基準にして、そのチェーン径方向外方部分だけが大きくなされた形状とされる。そして、すべてが標準リンクで形成されているものを基準にして、一部の標準リンクがこの衝撃吸収用リンクに置き換えられる。標準リンクは、ピッチ長が相対的に短いショートリンクとピッチ長が相対的に長いロングリンクとの2種類とされることが好ましく、この場合には、ピッチ長が相対的に短いショートリンクの衝撃吸収用リンクとピッチ長が相対的に長いロングリンクの衝撃吸収用リンクとの2種類が使用される。
【0011】
衝撃吸収用リンクは、標準のリンクに置き換えられるチェーン破断対策の構成であり、これを使用することで部品種類は増加するが、部品総数は増加しない。また、衝撃吸収用リンクの製作および組立ての手間は、標準のリンク製作および従来の組立ての手間と同程度であり、製造コストの増加が抑えられる。したがって、チェーン破断対策の構成として別部品の枠体を使用するものに比べて、製造コストを大幅に削減することができる。
【0012】
衝撃吸収用リンクの径方向外方突出部の突出量は、動力伝達チェーンとハウジングとの距離に対応して設定される。衝撃吸収用リンクの径方向外方突出部の突出量は、すべて同じにする必要はなく、ハウジングの内径がチェーン幅方向位置によって異なる場合には、チェーン幅方向位置に応じて異なる突出量としてもよい。
【0013】
衝撃吸収用リンクの径方向外方突出部は、動力伝達チェーンの外周を覆うように曲げられていることが好ましい。このようにすると、衝突する部分の面積が増加し、衝撃吸収効果がさらに高くなる。折曲げ加工により、衝撃吸収用リンクの製作工程が一工程増えることになるが、チェーン破断対策の構成として別部品の枠体を使用するものに比べると、製造コストを大幅に削減することができる。
【0014】
この発明による動力伝達チェーンでは、第1ピンおよび第2ピンの少なくとも一方がプーリと接触して摩擦力により動力伝達する。いずれか一方のピンがプーリと接触するチェーンにおいては、第1ピンおよび第2ピンのうちのいずれか一方は、このチェーンが無段変速機で使用される際にプーリに接触する方のピン(以下では、「第1ピン」または「ピン」と称す)とされ、他方は、プーリに接触しない方のピン(インターピースまたはストリップと称されており、以下では、「第2ピン」または「インターピース」と称す)とされる。
【0015】
第1ピンおよび第2ピンは、例えば、いずれか一方の転がり接触面が平坦面とされ、他方の転がり接触面が相対的に転がり接触移動可能なように所要の曲面に形成される。また、第1ピンおよび第2ピンは、それぞれの転がり接触面が所要の曲面に形成されるようにしてもよい。いずれの場合でも、各ピンの転がり接触面形状がそれぞれ2種類(例えば相対的に曲率が大のものと相対的に曲率が小のもの)形成されることで、転がり接触移動の軌跡が相違するピンの組が2種類存在するようにしてもよい。第1ピンと第2ピンとの接触位置の軌跡は、例えば、インボリュート曲線とされる。
【0016】
このような動力伝達チェーンでは、チェーン幅方向に並ぶリンクの枚数は、全て同じにするのではなく、各リンク列のリンク枚数について多い少ないを作り、例えば、リンク枚数が2n(n:自然数)枚(1例として8枚)の2n層リンク列2つとリンク枚数が2n+1枚(1例として9枚)の2n+1層リンク列1つとを1単位(リンクユニット)として、このリンクユニットをチェーン進行方向に所要数配置することでチェーンが構成される。
【0017】
衝撃吸収用リンクは、例えば、2n+1層リンク列だけの最外側(両側)に配置されたものとされたり、各リンク列の最外側(両側)に配置されたものとされる。衝撃吸収用リンクをどのリンクとするかについては、特に限定されるものではなく、最外側以外の場所でもよく、片側だけに設けるようにしてもよい。
【0018】
衝撃吸収用リンクは、すべてのリンクの内の30%以下(4%以上)とされていることが好ましい。例えば、8−8−9列のリンクユニットの場合、9層のリンク列の片側だけに設ける場合が、1/(8+8+9)=4%となり、すべてのリンク列の両側に設ける場合が、(2+2+2)/(8+8+9)=24%となる。衝撃吸収用リンクが30%を超えると、衝撃吸収効果が増加せずに、重量(コスト)が増加することになる。動力伝達チェーンが破断した場合にハウジングに衝突する部分には、複数のリンク列が含まれており、1つ置きや2つ置きのリンク列に衝撃吸収用リンクを設けた場合でも、所要の衝撃吸収効果を得ることができる。
【0019】
なお、この明細書において、リンクの長さ方向の一端側を前、同他端側を後としているが、この前後は便宜的なものであり、リンクの長さ方向が前後方向と常に一致することを意味するものではない。
【0020】
上記の動力伝達チェーンは、いずれか一方のピン(インターピース)が他方のピン(ピン)よりも短くされ、長い方のピンの端面が無段変速機のプーリの円錐状シーブ面に接触し、この接触による摩擦力により動力を伝達するものであることが好ましい。各プーリは、円錐状のシーブ面を有する固定シーブと、固定シーブのシーブ面に対向する円錐状のシーブ面を有する可動シーブとからなり、両シーブのシーブ面間にチェーンを挟持し、可動シーブを油圧アクチュエータによって移動させることにより、無段変速機のシーブ面間距離したがってチェーンの巻き掛け半径が変化し、スムーズな動きで無段の変速を行うことができる。
【0021】
この発明による動力伝達装置は、円錐面状のシーブ面を有する第1のプーリと、円錐面状のシーブ面を有する第2のプーリと、これら第1および第2のプーリに掛け渡される動力伝達チェーンとを備えたもので、動力伝達チェーンが上記いずれかに記載のものとされる。
【0022】
この動力伝達装置は、自動車等の無段変速機としての使用に好適なものとなる。
【発明の効果】
【0023】
この発明の動力伝達チェーンおよび動力伝達装置によると、複数のリンクの内の一部は、動力伝達チェーンが破断してハウジングに衝突した際の衝撃を吸収する衝撃吸収用リンクとされており、衝撃吸収用リンクは、標準のリンクの外周面よりもチェーンの径方向外方に突出し動力伝達チェーン破断時に先にハウジングに衝突して衝撃を吸収する径方向外方突出部を有しているので、動力伝達チェーンが破断して、プーリから外れたチェーンの一部がハウジングに衝突した場合、衝撃吸収用リンクの径方向外方突出部が先にハウジングに衝突し、径方向外方突出部が変形して衝撃を吸収することにより、ハウジングの損傷を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、この発明による動力伝達チェーンの1実施形態の一部を示す平面図である。
【図2】図2は、標準リンクおよびピンの拡大側面図である。
【図3】図3は、第1実施形態の衝撃吸収用リンクおよびピンの拡大側面図である。
【図4】図4は、第1実施形態の動力伝達チェーンがプーリに取り付けられた状態を示す正面図である。
【図5】図5は、第2実施形態の動力伝達チェーンがプーリに取り付けられた状態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して、この発明の実施形態について説明する。以下の説明において、上下は、図2の上下をいうものとする。
【0026】
図1は、この発明による動力伝達チェーンの一部を示しており、動力伝達チェーン(1)は、チェーン長さ方向に所定間隔をおいて設けられた前後挿通部(12)(13)を有する複数のリンク(11)(21)と、チェーン幅方向に並ぶリンク(11)(21)同士を長さ方向に屈曲可能に連結する複数のピン(第1ピン)(14)およびインターピース(第2ピン)(15)とを備えている。インターピース(15)は、ピン(14)よりも短くなされ、両者は、インターピース(15)が前側に、ピン(14)が後側に配置された状態で対向させられている。
【0027】
チェーン(1)は、幅方向同位相の複数のリンクで構成されるリンク列を進行方向(前後方向)に3つ並べて1つのリンクユニットとし、この3列のリンク列からなるリンクユニットを進行方向に複数連結して形成されている。この実施形態では、リンク枚数が9枚のリンク列とリンク枚数が8枚のリンク列2つとが1つのリンクユニットとされている。
【0028】
複数のリンク(11)(21)の内、1つのリンクユニットの最も外側(両側)にあるリンク(21)は、後述するフェールセーフ機構のための衝撃吸収用リンクとされている。
【0029】
衝撃吸収用リンク(21)以外のリンク(「標準リンク」と称すことがある)(11)は、従来と同じ形状であり、 図2に示すように、リンク(11)の前挿通部(12)は、ピン(14)が移動可能に嵌め合わせられるピン可動部(16)およびインターピース(15)が固定されるインターピース固定部(17)からなり、後挿通部(13)は、ピン(14)が固定されるピン固定部(18)およびインターピース(15)が移動可能に嵌め合わせられるインターピース可動部(19)からなる。
【0030】
衝撃吸収用リンク(21)は、図3に示すように、標準リンク(その外周面を(11a)で示す)に径方向外方突出部(22)が追加されたものである。すなわち、衝撃吸収用リンク(21)は、標準リンク(11)と同じ形状の前後挿通部(12)(13)を有しているとともに(前後挿通部(12)(13)の前後、中間および下部の形状も同じ)、上方(チェーン径方向外方)に突出している径方向外方突出部(22)を有している。
【0031】
各ピン(14)は、インターピース(15)に比べて前後方向の幅が広くなされており、インターピース(15)の上下縁部には、各ピン(14)側にのびる突出縁部(15a)(15b)が設けられている。
【0032】
チェーン幅方向に並ぶリンク(11)(21)を連結するに際しては、一のリンク(11)(21)の前挿通部(12)と他のリンク(11)(21)の後挿通部(13)とが対応するようにリンク(11)(21)同士が重ねられ、ピン(14)が一のリンク(11)(21)の後挿通部(13)に固定されかつ他のリンク(11)(21)の前挿通部(12)に移動可能に嵌め合わせられ、インターピース(15)が一のリンク(11)(21)の後挿通部(13)に移動可能に嵌め合わせられかつ他のリンク(11)(21)の前挿通部(12)に固定される。そして、このピン(14)とインターピース(15)とが相対的に転がり接触移動することにより、リンク(11)(21)同士の長さ方向(前後方向)の屈曲が可能とされる。
【0033】
リンク(11)(21)のピン固定部(18)とインターピース可動部(19)との境界部分には、インターピース可動部(19)の上下の凹円弧状案内部(19a)(19b)にそれぞれ連なりピン固定部(18)に固定されているピン(14)を保持する上下の凸円弧状保持部(18a)(18b)が設けられている。同様に、インターピース固定部(17)とピン可動部(16)との境界部分には、ピン可動部(16)の上下の凹円弧状案内部(16a)(16b)にそれぞれ連なりインターピース固定部(17)に固定されているインターピース(15)を保持する上下の凸円弧状保持部(17a)(17b)が設けられている。
【0034】
ピン(14)を基準としたピン(14)とインターピース(15)との接触位置の軌跡は、円のインボリュートとされており、この実施形態では、ピン(14)の転がり接触面(14a)が、断面において半径Rb、中心Mの基礎円を持つインボリュート曲線とされ、インターピース(15)の転がり接触面(15c)が平坦面(断面形状が直線)とされている。これにより、各リンク(11)(21)がチェーン(1)の直線領域から曲線領域へまたは曲線領域から直線領域へと移行する際、前挿通部(12)においては、ピン(14)が固定状態のインターピース(15)に対してその転がり接触面(14a)がインターピース(15)の転がり接触面(15c)に転がり接触(若干のすべり接触を含む)しながらピン可動部(16)内を移動し、後挿通部(13)においては、インターピース(15)がインターピース可動部(19)内を固定状態のピン(14)に対してその転がり接触面(15c)がピン(14)の転がり接触面(14a)に転がり接触(若干のすべり接触を含む)しながら移動する。なお、図2および図3において、符号AおよびBで示す箇所は、チェーン(1)の直線部分においてピン(14)とインターピース(15)とが接触している線(断面では点)であり、AB間の距離がピッチである。
【0035】
図4は、上記動力伝達チェーン(1)がV型プーリ式CVTに取り付けられた動力伝達装置を示しており、動力伝達装置では、図4に示すように、プーリ軸(2e)を有するプーリ(2)の固定シーブ(2a)および可動シーブ(2b)の各円錐状シーブ面(2c)(2d)にインターピース(15)の端面が接触しない状態で、ピン(14)の端面がプーリ(2)の円錐状シーブ面(2c)(2d)に接触し、この接触による摩擦力により動力が伝達される。
【0036】
図4に実線で示した位置にあるドライブプーリ(2)の可動シーブ(2b)を固定シーブ(2a)に対して接近・離隔させると、ドライブプーリ(2)における巻き掛け径は、同図に鎖線で示すように、接近時には大きく、離隔時には小さくなる。ドリブンプーリでは、図示省略するが、その可動シーブがドライブプーリ(2)の可動シーブ(2b)とは逆向きに移動し、ドライブプーリ(2)の巻き掛け径が大きくなると、ドリブンプーリの巻き掛け径が小さくなり、ドライブプーリ(2)の巻き掛け径が小さくなると、ドリブンプーリの巻き掛け径が大きくなる。この結果、ドライブプーリ(2)の巻き掛け径が最小で、ドリブンプーリの巻き掛け径が最大であるU/D(アンダードライブ)状態が得られ、また、ドライブプーリ(2)の巻き掛け径が最大で、ドリブンプーリの巻き掛け径が最小のO/D(オーバードライブ)状態が得られる。
【0037】
図4において、動力伝達チェーン(1)が破断した場合、プーリ(2)から外れたチェーンの一部は、ハウジング(30)に衝突し、ハウジング(30)が損傷する可能性がある。したがって、動力伝達チェーン(1)に、フェールセーフ機構として、チェーン破断対策の構成を設けておくことが好ましい。上記の衝撃吸収用リンク(21)は、そのためのもので、動力伝達チェーン(1)破断時には、この衝撃吸収用リンク(21)の径方向外方突出部(22)が先にハウジング(30)に衝突し、径方向外方突出部(22)が変形することで、ハウジング(30)に衝突した際の衝撃を吸収するようになっている。したがって、動力伝達チェーン(1)が破断した場合であっても、これに伴って、ハウジング(30)まで破損するようなことはない。
【0038】
衝撃吸収用リンク(21)は、標準リンク(11)に置き換えられるチェーン破断対策の構成であり、これを使用することで部品種類は増加するが、部品総数は増加しない。また、衝撃吸収用リンク(21)の製作および組立ての手間は、標準リンク(11)製作および従来の組立ての手間と同程度であり、製造コストの増加が抑えられる。したがって、チェーン破断対策の構成として別部品の枠体を使用するものに比べて、製造コストを大幅に削減することができる。
【0039】
衝撃吸収用リンクの形状は、上記図3および図4に示したものに限られるものではなく、径方向外方突出部(22)が変形することで、ハウジング(30)に衝突した際の衝撃を吸収することができるように適宜変更可能である。
【0040】
例えば、図5に示すように、衝撃吸収用リンク(23)の径方向外方突出部(24)は、L字状となるように折り曲げられて、動力伝達チェーン(1)の外周を覆うようになされる。このようにすると、衝突する部分の面積が増加し(折り曲げられた部分の面積>リンク厚みに相当する面積)、衝撃吸収効果がさらに高くなる。また、L字状の径方向外方突出部(24)の径方向長さおよび折曲げ部の長さを適宜変更することで、ハウジング(30)に応じた適切な形状とすることができ、より確実にハウジング(30)の損傷を防止することができる。
【0041】
なお、図5に示す衝撃吸収用リンク(23)は、図3および図4に示した衝撃吸収用リンク(21)に比べると、折曲げ加工が必要となることにより、その製作工程が一工程増えることになるが、チェーン破断対策の構成として別部品の枠体を使用するものに比べた場合には、製造コストを大幅に削減することができる。
【0042】
上記において、衝撃吸収用リンク(21)(23)は、1つのリンクユニットの最も外側に配置する必要はなく、ハウジング(30)の形状に応じて、その他の位置に配置してもよく、また、その数もハウジング(30)の損傷程度(試験結果)に応じて適宜変更可能である。ただし、衝撃吸収用リンク(21)(23)の数が全体のリンク(11)(21)(23)の30%を超えると、衝撃吸収効果が増加せずに、動力伝達チェーン(1)の重量(コスト)が増加することになるので、衝撃吸収用リンク(21)(23)は、すべてのリンク(11)(21)(23)の内の30%以下とされることが好ましい。
【0043】
上記の動力伝達チェーン(1)では、ピンの上下移動の繰り返しにより、多角形振動が生じ、これが騒音の要因となるが、ピン(14)とインターピース(15)とが相対的に転がり接触移動しかつピン(14)を基準としたピン(14)とインターピース(15)との接触位置の軌跡が円のインボリュートとされていることにより、ピンおよびインターピースの接触面がともに円弧面である場合などと比べて、振動を小さくすることができ、騒音を低減することができる。
【0044】
そして、CVTで使用された場合、ピン(14)とインターピース(15)とは、上述のように、各可動部(16)(19)に案内されて転がり接触移動するので、プーリ(2)のシーブ面(2c)(2d)に対してピン(14)はほとんど回転しないことになり、摩擦損失が低減し、高い動力伝達率が確保される。
【0045】
なお、図示省略するが、騒音低減の点から、標準リンク(11)は、ピッチ長が相対的に短いショートリンクとピッチ長が相対的に長いロングリンクとの2種類とされて、これらがランダムに配置されることが好ましい。この場合、衝撃吸収用リンク(21)(23)についても、ピッチ長が相対的に短いショートリンクの衝撃吸収用リンクとピッチ長が相対的に長いロングリンクの衝撃吸収用リンクとの2種類が使用される。
【符号の説明】
【0046】
(1) 動力伝達チェーン
(2) プーリ
(2a) 固定シーブ
(2b) 可動シーブ
(2c)(2d) 円錐状シーブ面
(11) 標準リンク
(14) ピン(第1ピン)
(15) インターピース(第2ピン)
(21)(23) 衝撃吸収用リンク
(22)(24) 径方向外方突出部
(30) ハウジング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピンが挿通される前後挿通部を有する複数のリンクと、一のリンクの前挿通部と他のリンクの後挿通部とが対応するようにチェーン幅方向に並ぶリンク同士を連結する前後に並ぶ複数の第1ピンおよび複数の第2ピンとを備え、第1ピンと第2ピンとが相対的に転がり接触移動することにより、リンク同士の長さ方向の屈曲が可能とされており、第1ピンおよび第2ピンの少なくとも一方の両端面がプーリと接触して摩擦力により動力が伝達される動力伝達チェーンにおいて、
複数のリンクの内の一部は、動力伝達チェーンが破断してハウジングに衝突した際の衝撃を吸収する衝撃吸収用リンクとされており、衝撃吸収用リンクは、標準のリンクの外周面よりもチェーン径方向外方に突出し動力伝達チェーン破断時に先にハウジングに衝突して衝撃を吸収する径方向外方突出部を有していることを特徴とする動力伝達チェーン。
【請求項2】
衝撃吸収用リンクの径方向外方突出部は、動力伝達チェーンの外周を覆うように曲げられている請求項1の動力伝達チェーン。
【請求項3】
衝撃吸収用リンクは、すべてのリンクの内の30%以下とされている請求項1または2の動力伝達チェーン。
【請求項4】
円錐面状のシーブ面を有する第1のプーリと、円錐面状のシーブ面を有する第2のプーリと、これら第1および第2のプーリに掛け渡される動力伝達チェーンとを備え、動力伝達チェーンが請求項1から3までのいずれかに記載のものである動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−127378(P2012−127378A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277618(P2010−277618)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】