説明

動力伝達装置

【課題】部品点数の増加を回避しつつ駆動手段における駆動軸の組み付け性を向上させることができる動力伝達装置を提供する。
【解決手段】作動軸11により車両の2輪駆動と4輪駆動との切り換え及び差動手段の差動のロックを行わせ得る動力伝達装置であって、駆動手段12は、モータMと、該モータMの駆動により回転駆動可能とされ動軸11とその回転方向に係合可能とされた駆動軸16と、モータM及び駆動軸16を内部に収容する収容ケースYと、該収容ケースYに形成され、駆動軸16の作動軸11との係合端面を外部に臨ませつつ当該作動軸11が挿通可能とされた開口Yaと、駆動軸16から離間しつつ開口Yaの内縁面に形成され、作動軸11が駆動軸16に係合した状態で当該作動軸11と開口Yaの内縁面との間をシールして収容ケースY内を密閉状態とするオイルシール22とを具備したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の2輪駆動と4輪駆動との切り換え、及び差動手段の差動のロック又はロックの解除を行わせ得る動力伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、四輪バギーやATV(All Terrain Vehicle)などの車両においては、一般に、駆動輪でない前輪に対するエンジンからの駆動力の伝達を断続し、2輪駆動と4輪駆動との切り換えを行わせる動力伝達装置を具備したものがある(例えば、特許文献1参照)。この動力伝達装置には、一般に差動手段(ディファレンシャルギア)が搭載されており、差動により左右輪の回転数の差を吸収してスムーズな旋回を行わせ得るようになっている。尚、差動手段については、ディファレンシャルギアから成るものの他、特許文献2で挙げられるものが提案されている。
【0003】
更に、車両の左右何れかの一輪が、ぬかるみなど摩擦係数の小さな路面でスリップして脱出不能になったり、或いは旋回時に当該一輪が浮くと、駆動トルクが減少し走行性能が低下することから、一輪の差動を制限すべく差動手段をロック(デフロック)する機構を併せ持たせたものがある。しかして、近時においては、駆動力の断続と差動手段のロックとを任意行わせるべく、モータにて切り換え操作可能とした動力伝達装置が提案されるに至っている。
【0004】
例えば、従来技術として、動力伝達装置の筐体を構成する本体ケース内に作動手段を具備させ、モータへの通電で作動手段を作動させることによりフォークを作動させて、エンジンと連結された入力軸と前輪と連結された出力軸との断続を行わせるとともに、当該動作を続けて行わせることにより他のフォークを作動させ、差動手段をロックし得るものがある。
【0005】
ところで、入力軸と出力軸との断続を行わせるフォーク或いは作動手段をロックし得る他のフォークを動作させるための駆動手段は、特許文献3で開示されているように、当該フォークを動作させる作動手段と係合し得る駆動軸が収容ケースから突出形成されていた。また、駆動手段の筐体を成す収容ケースは、密閉状態とされており、収容ケースから突出した当該駆動軸の突端に作動手段を係合して組み付けることにより、モータの駆動力が駆動軸を介して作動手段に伝達されるよう構成されていた。
【特許文献1】特開2003−191768号公報
【特許文献2】特表平6−509409号公報
【特許文献3】特開2005−324719号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の動力伝達装置においては、駆動軸を収容ケースに組み付ける際、当該収容ケース内部が密閉されるため、組み付けようとする駆動軸に対して反発力が生じてしまい、組み付け難いという問題があった。即ち、収容ケースの開口に駆動軸を挿通して組み付ける際、駆動軸と開口との間をシールして収容ケース内を密閉させる必要があるが、組み付け過程でシールにより収容ケース内が密閉してしまい、反発力が生じて組み付けを困難としているのである。
【0007】
然るに、予め収容ケースに孔を形成しておき、駆動軸を挿通して組み付ける際、その孔にて密閉空間となるのを回避し、反発力が生じないようにして組み付けを行った後、当該孔をネジ等で埋めて収容ケース内を密閉空間とすることが考えられるが、その場合、部品点数が増大し、組み付け作業性が悪化してしまうという問題がある。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、部品点数の増加を回避しつつ駆動手段における駆動軸の組み付け性を向上させることができる動力伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の発明は、車両の駆動源と連結されて軸周りに回転駆動する入力軸と、該入力軸の回転力が伝達されると、当該車両の前輪又は後輪を駆動させ得る左右一対の出力軸と、前記入力軸と出力軸との間に介装され、差動により当該出力軸の回転数の差を吸収し得る差動手段と、軸周りの回転により、前記入力軸と出力軸との連結又はその解除をさせて前記入力軸の前記出力軸に対する回転力の伝達を断続させるとともに、前記差動手段の差動を許容又はロックさせ得る作動軸と、該作動軸を任意回転させ得る駆動手段と、前記差動手段及び作動軸を収容しつつ車両に搭載される本体ケースとを具備し、前記作動軸により車両の2輪駆動と4輪駆動との切り換え、及び差動手段の差動のロックを行わせ得る動力伝達装置であって、前記駆動手段は、正転及び逆転駆動可能なモータと、該モータの駆動により回転駆動可能とされ、前記作動軸とその回転方向に係合可能とされた駆動軸と、前記モータ及び駆動軸を内部に収容するとともに、前記本体ケースに固定される収容ケースと、該収容ケースに形成され、前記駆動軸の前記作動軸との係合端面を外部に臨ませつつ当該作動軸が挿通可能とされた開口と、前記駆動軸から離間しつつ前記開口の内縁面に形成され、前記作動軸が前記駆動軸に係合した状態で当該作動軸と開口の内縁面との間をシールして前記収容ケース内を密閉状態とする第1シール手段とを具備したことを特徴とする。
【0010】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の動力伝達装置において、前記開口の外縁面には、前記収容ケースが前記本体ケースに固定された状態で、当該収容ケースと本体ケースとの間をシールする第2シール手段が形成されたことを特徴とする。
【0011】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の動力伝達装置において、前記駆動軸の前記作動軸に対する係合端面には、2面幅を有しつつ径方向に貫通したキー溝と、該キー溝内の当該駆動軸の中心軸上の位置に形成されたセンター穴とが形成されるとともに、前記作動軸の前記駆動軸に対する係合端面には、前記キー溝と合致するキー凸部と、前記センター穴と合致しつつ当該作動軸の中心軸上の位置に形成されたセンター凸部とが形成されたことを特徴とする。
【0012】
請求項4記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の動力伝達装置において、前記作動軸の前記駆動軸に対する係合端面には、2面幅を有しつつ径方向に貫通したキー溝と、該キー溝内の当該作動軸の中心軸上の位置に形成されたセンター穴とが形成されるとともに、前記駆動軸の前記作動軸に対する係合端面には、前記キー溝と合致するキー凸部と、前記センター穴と合致しつつ当該駆動軸の中心軸上の位置に形成されたセンター凸部とが形成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、収容ケースの開口から駆動軸の作動軸との係合端面を臨ませ、当該開口から作動軸を挿通させて駆動軸と係合させるので、駆動手段に駆動軸を組み付ける際に収容ケースが密閉状態とならず、部品点数が増加してしまうのを回避しつつ当該駆動軸の組み付け性を向上させることができる。
【0014】
請求項2の発明によれば、開口の外縁面には、収容ケースが本体ケースに固定された状態で、当該収容ケースと本体ケースとの間をシールする第2シール手段が形成されたので、開口に作動軸を挿通させて駆動軸と係合させる過程で収容ケースと本体ケースとの間をシールすることができる。
【0015】
請求項3、4の発明によれば、センター穴にセンター凸部を合致させつつキー溝にキー凸部を合致させれば、駆動軸に対して作動軸をその回転方向に係合させつつ両者の芯出しを図ることができる。また、センター穴、センター凸部、キー溝及びキー凸部は、細い径の駆動軸又は作動軸に切削加工容易であり、精度よく駆動軸と作動軸との係合及び芯だしを行わせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
本実施形態に係る動力伝達装置は、四輪バギーやATV(All Terrain Vehicle)などの車両に搭載されるとともに、2輪駆動と4輪駆動との切り換え、及び差動手段の差動のロック又はロックの解除を行わせ得るものであり、図1に示すように、車両1の前方であって前輪2a、2bの間に配設されたものである。
【0017】
同図に示すように、エンジンE(駆動源)からは、車両1の後方にプロペラシャフト4が延設され、ドライブシャフト5a、5bを介して後輪3a、3bを回転駆動し得るよう構成されているとともに、当該エンジンEの前方にはプロペラシャフト6(入力軸)が延設され、本実施形態に係る動力伝達装置7と連結されている。これらプロペラシャフト4、6は、エンジンEと連結されて軸周りに回転駆動するものである。
【0018】
また、動力伝達装置7の左右側面bからは、左右一対のドライブシャフト8a、8b(出力軸)が連結されて延設しており、プロペラシャフト6の回転力が伝達されると、当該車両1の前輪2a、2bを駆動させ得るよう構成されている。即ち、4輪駆動の状態であるとき、動力伝達装置7に入力されたエンジンEの駆動力は、ドライブシャフト8a、8bを介して前輪2a、2bに伝達されるので、後輪3a、3bに加え前輪2a、2bも回転駆動し得るようになっているのである。尚、2輪駆動の状態であるときは、後述するように、動力伝達装置7に入力されたエンジンEの駆動力がドライブシャフト8a、8bに伝達されず、前輪2a、2bは非駆動輪とされる。
【0019】
動力伝達装置7は、図2、4、5に示すように、左右半割形状の本体ケース9(第1ケース9b及び第2ケース9a)を筐体としつつ内部に収容空間を有し、当該収容空間に駆動部材13、従動部材14、差動手段10(差動装置)、作動軸11等を収容したものである。具体的には、第2ケース9aの側面bからドライブシャフト8aを延設させつつ第1ケース9bの側面bからドライブシャフト8bを延設させており、第1ケース9bにおけるエンジンE側に臨ませた背面aからプロペラシャフト6が延設されている。
【0020】
駆動部材13は、ベアリングB1にて回転自在に支持されるとともに、プロペラシャフト6とスプライン嵌合にて接続されることにより、当該駆動部材13と共に軸心L1周りに回転可能なものである。従動部材14は、ベアリングB2及びB3にて回転自在に支持されるとともに、後述するスリーブA1にて駆動部材13と連結されてその回転力が伝達されると、軸心L1周りに回転可能とされたものである。かかる従動部材14の周縁には、ギアを構成する歯面14aが形成されており、当該歯面14aが差動手段10のハウジング15における歯面15aと噛み合っている。これにより、従動部材14が回転すると、その回転力が歯面14a、15aを介してハウジング15が回転し得るよう構成されている。
【0021】
差動手段10は、プロペラシャフト6とドライブシャフト8a、8bとの間に介装され、出力カム部材10aと10bの差動により当該ドライブシャフト8aと8bの回転数の差を吸収して車両1の旋回をスムーズに行わせるためのものである。具体的には、従来技術として挙げた特許文献2で開示されたものと同様、ハウジング15内には、ドライブシャフト8a、8bを嵌合するためのスプライン10aa、10baが形成された一対の出力カム部材10a、10bが収容されており、これら出力カム部材10a、10bは、軸心L2を中心として当該ハウジング15に対して相対的に回転可能とされている。
【0022】
出力カム部材10a、10bには、それぞれ波形面のカム面10ab、10bbが形成されている。かかるカム面10abは、例えば6対の相互に傾斜したヘリカル面で作られる環状のジグザグ面で構成されるとともに、カム面10bbも、当該カム面10abと対応して例えば6対の相互に傾斜したヘリカル面で作られている。そして、これらカム面10ab、10bbの間には、カム従動子10cが複数個配設されている。尚、図中符号S1は、出力カム部材10bを出力カム部材10a側に押圧させる板バネを示している。
【0023】
しかして、車両1の直進走行時には、カム従動子10cが荷重をカム面10ab、10bbに加えて出力カム部材10a、10bをハウジング15と共に同じ速度で回転させるとともに、車両1の旋回時には、出力カム部材10aと10bのカム面10ab、10bbの数の相違に起因して当該出力カム部材10a、10bに回転速度の差が生じる。即ち、車両旋回時には、ハウジング15に対して出力カム部材10a、10bが互いに回転差を生じ、当該ドライブシャフト8aと8bの回転数の差(前輪2a、2bにおける内輪と外輪との速度差)を吸収するのである。
【0024】
作動軸11は、その軸L3周りの回転により、プロペラシャフト6(入力軸)とドライブシャフト8a、8b(出力軸)との連結又はその解除を行わせてプロペラシャフト6のドライブシャフト8a、8bに対する回転力の伝達を断続させる(断続操作)とともに、差動手段10の差動を許容又はロックさせ得る(デフロック操作)ものである。即ち、作動軸11は、軸L3周りの回転により、入力軸と出力軸との断続操作と、差動手段10に対するデフロック操作とを行わせ得るものである。
【0025】
また、作動軸11は、小径円筒状部材から成る小径部11aと、該小径部11aの一端に係止されて大径円筒状部材から成る大径部11bとから構成されており、小径部11aがベアリングB6にて回転自在に支持されつつ大径部11bがブッシュB7にて回転自在に支持されている。そして、後述する駆動手段12が駆動すると、小径部11a及び大径部11bが共に軸L3周りに回転し得るよう構成されている。即ち、作動軸11全体として、その両端がベアリングB6及びブッシュB7にて回転自在に支持されているのである。
【0026】
作動軸11の側面(小径部11aの側面)には、図6に示すように、第1フォークF1を動作させ得る側面用カム溝11aaが形成されており、該側面用カム溝11aa内にはピンP2が挿通されている。第1フォークF1には、図7に示すように、その基端に作動軸11(小径部11a)を挿通させ得る挿通孔F1aが形成されており、基端側で作動軸11を挟持しつつ取り付けられているとともに、当該挿通孔F1aの下縁から側面用カム溝11aaに向かってピンP2が圧入にて突出形成されている。
【0027】
これにより、作動軸11が回転すると、側面用カム溝11aaに沿ってピンP2が移動し、それに伴い第1フォークF1が作動軸11に案内されつつ作動するようになっている。第1フォークF1の先端は、駆動部材13側に形成されたスリーブA1と係止されており、当該第1フォークF1が初期位置(図2参照)から作動位置(図4参照)まで移動すると、図4に示すように、スリーブA1が移動(前進)して従動部材14に形成されたスプラインと嵌合し、これにより駆動部材13と従動部材14とを連結させ、プロペラシャフト6とドライブシャフト8a、8bとを連結し得るよう構成されている。この状態で、車両の前輪2a、2bが駆動輪となり、4輪駆動に切り替わる。
【0028】
その後、作動軸11が反対方向に回転すると、側面用カム溝11aaに沿ってピンP2が逆方向に移動し、それに伴い第1フォークF1が作動軸11に案内されつつ作動位置から初期位置まで戻るので、図2に示すように、スリーブA1が後退し、元の位置まで移動して駆動部材13と従動部材14との連結が解除されるよう構成されている。しかして、車両は、4輪駆動から2輪駆動へと切り替わることとなる。
【0029】
一方、作動軸11の大径部11bには、図8に示すように、その端面に第2フォークF2を動作させ得る端面用カム溝11baが形成されており、該端面用カム溝11ba内にはピンP3が挿通されている。第2フォークF2は、図9に示すように、その基端側にピンP3を具備しつつ先端側でスリーブA2を係止するとともに、作動軸11の延長線(軸L3)上に延びて配設されている。
【0030】
これにより、作動軸11が回転すると、端面用カム溝11baに沿ってピンP3が移動し、それに伴い第2フォークF2が作動してスリーブA2を図2中上方へ移動させ得るよう構成されている。尚、端面用カム溝11baは、作動軸11の回転に伴い第1フォークF1が作動してプロペラシャフト6とドライブシャフト8a、8bとが連結した後、第2フォークF2を作動させるよう設定されている。
【0031】
スリーブA2は、図10に示すように、複数(本実施形態においては3本)のピンP1が一体的に突出形成されており、第2フォークF2が作動すると、図4に示すように、当該ピンP1が出力カム部材10aの嵌合孔10acに挿通されるようになっている。ピンP1が出力カム部材10aに挿通すると、当該出力カム部材10aとハウジング15とが連結されることとなり、差動手段10の差動がロック(デフロック)される。
【0032】
その後、作動軸11が反対方向に回転すると、端面用カム溝11baに沿ってピンP3が逆方向に移動し、それに伴い第2フォークF2が初期位置まで戻るので、図2に示すように、スリーブA2が元の位置まで移動してピンP1を出力カム部材10aの嵌合孔10acから離間させ、差動手段10の差動を許容(即ち、デフロックを解除)するよう構成されている。
【0033】
一方、駆動手段12は、図3に示すように、モータMと、ウォームギアG1及びギアG2で構成されるギア群と、スプリングSと、駆動軸16と、回転部材18と、駆動手段12の筐体を成す収容ケースYとから主に構成されている。モータMは、通電によりその出力軸Maを回転駆動させるものであり、正転及び逆転駆動が可能とされている。ウォームギアG1は、出力軸Maと連結されて、モータMの駆動に伴い回転可能とされたものである。
【0034】
ギアG2は、大径ギアG2aと小径ギアG2bとを有するものであり、大径ギアG2aがウォームギアG1と噛み合っているとともに、小径ギアG2bが回転部材18の周縁に形成された歯面と噛み合って構成されている。回転部材18は、その周方向にスプリングSを収容したもので、ギアG2の回転と連動して、当該スプリングSと共に軸L3を中心として回転可能とされている。
【0035】
駆動軸16は、回転部材18の中心部を貫通して形成され、軸L3を軸心としつつその軸周りに回転可能とされたもので、その端面には連結部材17が固定されている。かかる連結部材17には、折り曲げ部17aが延設されており、該折り曲げ部17aがスプリングSの端部と当接して構成されている。これにより、モータMの駆動により、回転部材18が回転すると、その回転力がスプリングSを介して連結部材17に伝達され、駆動軸16が回転駆動し得るようになっている。
【0036】
駆動軸16の作動軸11に対する係合端面には、図11に示すように、2面幅16aaを有しつつ径方向に貫通したキー溝16aと、該キー溝16a内の当該駆動軸16の中心軸上の位置に形成されたセンター穴16bとが形成されている。これに対し、作動軸11の駆動軸16に対する係合端面には、図12に示すように、キー溝16aと合致するキー凸部11cと、センター穴16bと合致しつつ当該作動軸11の中心軸上の位置に形成されたセンター凸部11dとが形成されている。
【0037】
然るに、2面幅とは、所定寸法離間した平行な2面を指すとともに、係合を行わせるべくキー溝16aの方がセンター凸部11dよりも若干大きな寸法とされている。尚、本実施形態においては、駆動軸16にキー溝16a及びセンター穴16bが形成され、作動軸11にキー凸部11c及びセンター凸部11dが形成されているが、これとは反対に、作動軸11にキー溝及びセンター穴を形成し、駆動軸16にキー凸部及びセンター凸部を形成するようにしてもよい。
【0038】
即ち、作動軸11の駆動軸16に対する係合端面には、2面幅を有しつつ径方向に貫通したキー溝と、該キー溝内の当該作動軸16の中心軸上の位置に形成されたセンター穴とが形成されるとともに、駆動軸16の作動軸11に対する係合端面には、キー溝と合致するキー凸部と、センター穴と合致しつつ当該駆動軸16の中心軸上の位置に形成されたセンター凸部とが形成されたものとしてもよいのである。
【0039】
しかして、センター穴16bにセンター凸部11dを合致させつつキー溝16aにキー凸部11cを合致させれば、駆動軸16に対して作動軸11をその回転方向に係合させつつ両者の芯出しを図ることができる。また、センター穴16b、センター凸部11d、キー溝16a及びキー凸部11cは、細い径の駆動軸16又は作動軸11に切削加工容易であり、精度よく駆動軸16と作動軸11との係合及び芯だしを行わせることができる。
【0040】
ここで、本実施形態において、収容ケースYは、モータM及び駆動軸16等の構成要素を内部に収容するとともに、本体ケースの背面aに固定されるよう構成されており、かかる収容ケースYには、駆動軸16の作動軸11との係合端面を外部に臨ませつつ当該作動軸11が挿通可能とされた開口Yaが形成されている。また、収容ケースYの開口Yaにおける内縁面には、第1シール手段としてのオイルシール22が形成されるとともに、当該開口Yaの外縁面には、第2シール手段としてのOリング21が形成されている。
【0041】
オイルシール22は、駆動軸16から離間しつつ開口Yaの内縁面に形成されており、作動軸11が駆動軸16に係合した状態で当該作動軸11と開口Yaの内縁面との間をシールして収容ケースY内を密閉状態とし得るよう構成されている。即ち、本体ケース9に組み付けられる前の駆動手段12は、図13に示すように、収容ケースY内に駆動軸16を収容しつつ、当該駆動軸16がオイルシール22と離間した状態(シールされていない状態)とされているため、密閉状態となっていないのである。
【0042】
そして、収容ケースYを本体ケース9に組み付ける過程で、図14に示すように、開口Yaに作動軸11を挿通させるとともに、センター穴16bにセンター凸部11dを合致させつつキー溝16aにキー凸部11cを合致させることにより、駆動軸16に対して作動軸11をその回転方向に係合させつつ両者の芯出しを行う。これにより、図2に示すように、作動軸11の外周面にオイルシール22が当接してシールするとともに、Oリング21が本体ケース9側と当接してシールすることとなる。
【0043】
上記の如く組み付けられた状態で、モータMを回転駆動させると、その回転力がウォームギアG1、ギアG2、回転部材18、スプリングS、連結部材17及び駆動軸16に伝達され、当該駆動軸16に係止された作動軸11を回転するのである。尚、収容ケースY内には、表裏面に導通パターンが形成された基板19が固定されているとともに、駆動軸16と共に回転し得るステー20が形成されている。回転部材18、ステー20からは基板19の導通パターンに向かって接触子(不図示)が形成されており、当該導通パターンで形成される電気信号に基づき、当該回転部材18の回転角度(即ち、モータM側の回転角度)及びステー20の回転角度(即ち、駆動軸16及び作動軸11の回転角度)を検知し得るようになっている。
【0044】
次に、本実施形態に係る動力伝達装置7の作用について説明する。
まず、車両を2輪駆動から4輪駆動に切り換えるには、モータMを駆動させて作動軸11(小径部11a及び大径部11b)を軸L3周りに回転させる。これにより、第1フォークF1が作動軸11に案内されつつ小径部11aの周面を摺動することにより作動し、スリーブA1を従動部材14のスプラインに嵌合させる。尚、スリーブA1のスプライン形状とこれに対応する従動部材14側のスプラインとが合致していない場合、スプリングSが収縮することにより、駆動手段12側(具体的には回転部材18)の回転を吸収している。
【0045】
しかして、モータMの駆動を継続して行わせつつスリーブA1がスプライン嵌合するまで作動軸11の回転を停止させることができる。そして、スリーブA1のスプライン形状とこれに対応する従動部材14側のスプラインとが合致すると、スプリングSが伸長して当該スリーブA1が規定位置まで移動し、従動部材14とスプライン嵌合することとなる。これにより、駆動部材13と従動部材14とを連結させ、プロペラシャフト6とドライブシャフト8a、8bとを連結することにより、エンジンEの駆動力を後輪3a、3b及び前輪2a、2bに伝達し得るようになっている。
【0046】
尚、上記の作動過程においては、ピンP3は、端面用カム溝11baの円弧状に形成された部位に挿通された状態となり、第2フォークF2は作動しない。その状態から差動手段10の差動をロック(デフロック)するには、モータMを更に回転させ、作動軸11(小径部11a及び大径部11b)を軸L3周りに回転させる。それに伴い大径部11bの端面用カム溝11baに沿って第2フォークF2が作動するので、スリーブA2が図2中上方へ移動し、ピンP1を出力カム部材10aの嵌合孔10acに挿通させる。尚、スリーブA2のピンP1と嵌合孔10acとが合致していない場合、スプリングSが収縮することにより、駆動手段12側(具体的には回転部材18)の回転を吸収している。
【0047】
しかして、モータMの駆動を継続して行わせつつスリーブA2がスプライン嵌合するまで作動軸11の回転を停止させることができる。そして、スリーブA2のピンP1と嵌合孔10acとが合致すると、スプリングS2が伸長して当該スリーブA2が規定位置まで移動し、ピンP1が嵌合孔10acに挿通することとなる。これにより、当該出力カム部材10aとハウジング15とが連結され、差動手段10の差動がロック(デフロック)されることとなる。
【0048】
尚、モータMを反対方向に回転駆動させれば、作動軸11をその軸L3周りであって反対方向に回転させることができ、作動手段10の差動の許容(デフロックの解除)、及びプロペラシャフト6とドライブシャフト8a、8bとの連結の解除を順次行わせることができる。このように、本実施形態に係る動力伝達装置7によれば、作動軸11により車両1の2輪駆動と4輪駆動との切り換え、及び差動手段10の差動のロック(デフロック)を任意行わせることができる。
【0049】
本実施形態によれば、収容ケースYの開口Yaから駆動軸16の作動軸11との係合端面を臨ませ、当該開口Yaから作動軸11を挿通させて駆動軸16と係合させるので、駆動手段12に駆動軸16を組み付ける際に収容ケースYが密閉状態とならず、部品点数が増加してしまうのを回避しつつ当該駆動軸16の組み付け性を向上させることができる。また、開口Yaの外縁面には、収容ケースYが本体ケース9に固定された状態で、当該収容ケースYと本体ケース9との間をシールする第2シール手段としてのOリング21が形成されたので、開口Yaに作動軸11を挿通させて駆動軸16と係合させる過程で収容ケースYと本体ケース9との間をシールすることができる。
【0050】
更に、本実施形態によれば、第1フォークF1の基端が作動軸11を挟持して取り付けられ、当該作動軸11に案内されつつ作動するので、プロペラシャフト6(入力軸)とドライブシャフト8a、8b(出力軸)との断続操作を確実に行わせることができるとともに、別個の案内手段が不要となることから、部品点数を削減して組み付け作業性を向上させつつ本体ケース9内のレイアウトの自由度を向上させることができる。
【0051】
尚、作動軸11は、その両端で回転自在に支持されたので、片持ちで支持されるものに比べ、強度が向上し、第1フォーク等を介して付与される荷重にも十分耐えうる構成とすることができる。特に、本実施形態においては、スリーブA1のスプライン形状とこれに対応する従動部材14側のスプラインとが合致していないとき(スプリングSが収縮しているとき)、側面用カム溝11aaに大きな荷重が付与されてしまうのであるが、作動軸11が両端で支持されているため、かかる荷重にも十分に耐え得ることができる。
【0052】
以上、本実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば自動車等他の車両に適用されたものであってもよい。他の車両に適用した場合、エンジンの駆動力を常時前輪に伝達させるとともに、後輪への伝達の断続を行わせ、2輪駆動と4輪駆動とを切り換え可能とされたものとしてもよい。更に、本実施形態に係る第1シール手段としてのオイルシール22、第2シール手段としてのOリング21に代え、他の汎用的なシール手段としてもよい。また、本実施形態における差動手段10は、ハウジング内に収容された一対の出力カム部材を有したものとされているが、これに代えて、遊星歯車等を用いた汎用的な差動手段としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0053】
正転及び逆転駆動可能なモータと、該モータの駆動により回転駆動可能とされ、作動軸とその回転方向に係合可能とされた駆動軸と、モータ及び駆動軸を内部に収容するとともに、本体ケースに固定される収容ケースと、該収容ケースに形成され、駆動軸の作動軸との係合端面を外部に臨ませつつ当該作動軸が挿通可能とされた開口と、駆動軸から離間しつつ開口の内縁面に形成され、作動軸が駆動軸に係合した状態で当該作動軸と開口の内縁面との間をシールして収容ケース内を密閉状態とする第1シール手段とを具備した動力伝達装置であれば、外観形状等が異なるもの或いは他の機能が付加されたもの等にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施形態に係る動力伝達装置が適用される車両を示す模式図
【図2】同動力伝達装置を示す全体断面図
【図3】同動力伝達装置における駆動手段の内部構成を示す模式図
【図4】同動力伝達装置(4輪駆動に切り換えた状態)を示す全体断面図
【図5】同動力伝達装置(差動手段の差動をロックした状態)を示す全体断面図
【図6】同動力伝達装置における側面用カム溝を示す作動軸の展開図
【図7】同動力伝達装置における側面用カム溝に沿って作動するフォークを示す模式図
【図8】同動力伝達装置における端面用カム溝を示す作動軸の端面図
【図9】同動力伝達装置における端面用カム溝に沿って作動するフォークを示す模式図
【図10】同端面用カム溝に沿って作動するフォークと係止するスリーブを示す模式図
【図11】同動力伝達装置における作動軸及び駆動軸の係合端面を示す斜視図
【図12】同動力伝達装置における駆動軸及び作動軸の係合端面を示す斜視図
【図13】同動力伝達装置における駆動手段単体を示す拡大断面図
【図14】同動力伝達装置における駆動手段を本体ケースに組み付ける過程の状態を示す拡大断面図
【符号の説明】
【0055】
1 車両
2a、2b 前輪
3a、3b 後輪
4 プロペラシャフト
5a、5b ドライブシャフト
6 プロペラシャフト(入力軸)
7 動力伝達装置
8a、8b ドライブシャフト(出力軸)
9 ケース
10 差動手段
11 作動軸
11aa 側面用カム溝
11ba 端面用カム溝
12 駆動手段
13 駆動部材
14 従動部材
15 ハウジング
16 回転軸部材
17 連結部材
18 回転部材
19 基板
20 ステー
21 Oリング(第2シール手段)
22 オイルシール(第1シール手段)
Y 収容ケース
Ya 開口
M モータ
F1 第1フォーク
F2 第2フォーク
A1、A2 スリーブ
a (ケースの)背面
b (ケースの)側面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動源と連結されて軸周りに回転駆動する入力軸と、
該入力軸の回転力が伝達されると、当該車両の前輪又は後輪を駆動させ得る左右一対の出力軸と、
前記入力軸と出力軸との間に介装され、差動により当該出力軸の回転数の差を吸収し得る差動手段と、
軸周りの回転により、前記入力軸と出力軸との連結又はその解除をさせて前記入力軸の前記出力軸に対する回転力の伝達を断続させるとともに、前記差動手段の差動を許容又はロックさせ得る作動軸と、
該作動軸を任意回転させ得る駆動手段と、
前記差動手段及び作動軸を収容しつつ車両に搭載される本体ケースと、
を具備し、前記作動軸により車両の2輪駆動と4輪駆動との切り換え、及び差動手段の差動のロックを行わせ得る動力伝達装置であって、
前記駆動手段は、
正転及び逆転駆動可能なモータと、
該モータの駆動により回転駆動可能とされ、前記作動軸とその回転方向に係合可能とされた駆動軸と、
前記モータ及び駆動軸を内部に収容するとともに、前記本体ケースに固定される収容ケースと、
該収容ケースに形成され、前記駆動軸の前記作動軸との係合端面を外部に臨ませつつ当該作動軸が挿通可能とされた開口と、
前記駆動軸から離間しつつ前記開口の内縁面に形成され、前記作動軸が前記駆動軸に係合した状態で当該作動軸と開口の内縁面との間をシールして前記収容ケース内を密閉状態とする第1シール手段と、
を具備したことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
前記開口の外縁面には、前記収容ケースが前記本体ケースに固定された状態で、当該収容ケースと本体ケースとの間をシールする第2シール手段が形成されたことを特徴とする請求項1記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記駆動軸の前記作動軸に対する係合端面には、2面幅を有しつつ径方向に貫通したキー溝と、該キー溝内の当該駆動軸の中心軸上の位置に形成されたセンター穴とが形成されるとともに、前記作動軸の前記駆動軸に対する係合端面には、前記キー溝と合致するキー凸部と、前記センター穴と合致しつつ当該作動軸の中心軸上の位置に形成されたセンター凸部とが形成されたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の動力伝達装置。
【請求項4】
前記作動軸の前記駆動軸に対する係合端面には、2面幅を有しつつ径方向に貫通したキー溝と、該キー溝内の当該作動軸の中心軸上の位置に形成されたセンター穴とが形成されるとともに、前記駆動軸の前記作動軸に対する係合端面には、前記キー溝と合致するキー凸部と、前記センター穴と合致しつつ当該駆動軸の中心軸上の位置に形成されたセンター凸部とが形成されたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−279880(P2008−279880A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−125358(P2007−125358)
【出願日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(000128175)株式会社エフ・シー・シー (109)
【Fターム(参考)】