動力伝達部品
【課題】粉末プレス焼結法で焼結材の高密度化を達成することにより、高強度、高剛性の動力伝達部品を提供する。
【解決手段】動力伝達部品であるギヤ10は、鉄を主成分とする原料粉末を造粒した造粒粉がプレス成形され、かつ焼成された焼結材からなる。焼結材の相対密度が85%以上、破壊強度が1500N/mm2以上で、原料粉末の粉末粒度(D50)が20μm以下、造粒粉の粉末粒度(D50)が500μm以下、造粒粉がプレス成形される圧力は、400MPa以上800MPa以下である。また、焼結材は焼入れ処理が施され、ロックウェルCスケール硬さがHRC50以上、さらに焼戻し処理が施され、ロックウェルCスケール硬さがHRC50以上である。
【解決手段】動力伝達部品であるギヤ10は、鉄を主成分とする原料粉末を造粒した造粒粉がプレス成形され、かつ焼成された焼結材からなる。焼結材の相対密度が85%以上、破壊強度が1500N/mm2以上で、原料粉末の粉末粒度(D50)が20μm以下、造粒粉の粉末粒度(D50)が500μm以下、造粒粉がプレス成形される圧力は、400MPa以上800MPa以下である。また、焼結材は焼入れ処理が施され、ロックウェルCスケール硬さがHRC50以上、さらに焼戻し処理が施され、ロックウェルCスケール硬さがHRC50以上である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達部品に関し、特に焼結材からなる動力伝達部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属原料粉末を金型を用いてプレス成形し、焼成により焼結することで焼結材が得られる。この方法は、焼結材を得るのに簡易な方法として広く採用されている。以下、この方法は粉末プレス焼結法と称される。通常、粉末プレス焼結法で焼結材を製造すると、溶製材の真密度に対する焼結材の密度の割合である相対密度が低くなり、焼結材内部に多くの空孔が残ってしまう。空孔は応力負荷時に応力集中源となるため、焼結材は低強度、低疲労強度の脆い素材となりやすい。また焼結材は、その多くの空孔を含有するため、剛性も溶製材と比べると低くなりやすい。
【0003】
そこで、焼結材の高強度化および高剛性化を目的とし、焼結材の高密度化を図るためにCIP(Cold Isostatic Pressing)法やHIP(Hot Isostatic Pressing)法を始め、様々な方法が提案されている。
【0004】
金属原料粉末を工夫する方法として、金属原料粉末を微粒子化する方法がある。金属原料粉末の微粒子化によって金属原料粉末の表面積は増加する。この表面積の増加に伴い、隣接粉との焼結性が向上する。具体的には、熱などのエネルギーにより金属原料粉末同士の原子的な結合が起こりやすくなる。また金属原料粉末を構成する元素の内部拡散が促進されることで空孔が収縮することから、高密度の焼結材が得られる。
【0005】
しかしながら、微粒子化された金属原料粉末を用いる場合、圧粉体成形時に、微粒子化に伴う金属原料粉末間、金属原料粉末および金型間で摩擦損失の著しい増加が起こる。これにより、金型内での粉末の流動性が悪化し、成形性が悪化してしまう。その結果、成形欠陥による大きな空孔が生じたり、焼結材の高密度化が困難という問題、精密成形が困難という問題がある。そのため、金属原料粉末を微粒子化する方法の適用は限定されている。
【0006】
成形方法を工夫するものとして、温間成形法が挙げられる。たとえば、特開2004−197157号公報(特許文献1)には、金型内面と原料粉末とが接触する部分の温度が100℃〜225℃で金型へ充填された原料粉末を加圧成形することが記載されている。温間成形法は、高温下で塑性変形しやすくなった原料粉末を成形することで、圧粉体の密度を向上し得る。その一方で、専用の潤滑剤が必要になるという問題、エッジ部にバリが存在し除去工程が必要になるという問題がある。
【0007】
焼結温度および焼結時間を工夫する方法として、高温長時間焼成法が挙げられる。高温長時間焼成法は、焼結時における温度を通常より高温にし、また焼結時間も長くすることで焼結性を向上させ、焼結密度を向上させることで空孔を減らし、高密度化を図る方法である。しかしながら高温長時間焼成法では、焼結材中の結晶粒が粗大化してしまい、強度低下を招いてしまうおそれがある。また、製造に長時間が必要となるという問題がある。
【0008】
焼結後に後加工を施して高密度化を図る方法として、焼結鍛造法が挙げられる。焼結鍛造法は、焼結後の焼結材に冷間鍛造を施すことで空孔を潰す方法である。焼結鍛造法では、真密度に近い値を出すことが可能であるが、製造のリードタイムが長くなるという問題、鍛造装置が必要であるという問題および鍛造のために従来の粉末プレス焼結法による焼結材並みの高精度を得難いという問題などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−197157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
多くの空孔を有する鉄系焼結材を高強度、高剛性が要求される用途に適用することは、その空孔に起因する強度面の脆弱性の問題から限定されている。このような厳しい強度、剛性が求められる鉄合金からなる金属部品には、溶製材を切削加工した切削加工品および溶製材を鍛造した鍛造品が用いられる場合が多い。したがって、一般的な粉末プレス法で製造された鉄合金からなる金属焼結材をギヤおよびカムなどの動力伝達部品に適用する場合、特に高強度、高剛性が要求される用途には適用することが困難であったり、前述の溶製材からなる部品に比べ、大きな寸法が必要になるという課題がある。
【0011】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、その目的は、粉末プレス焼結法で焼結材の高密度化を達成することにより、高強度、高剛性の動力伝達部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の動力伝達部品は、鉄を主成分とする原料粉末を造粒した造粒粉がプレス成形され、焼成された焼結材からなる。
【0013】
本発明者は、鋭意検討した結果、金属微粉末を造粒した造粒粉をプレス成形し、焼成した焼結材からなる動力伝達部品では、成形性および焼結性が向上し、圧環強度が向上することを見出した。成形性および焼結性が向上し、圧環強度が向上する理由は、以下のように考えられる。
【0014】
本発明の動力伝達部品によれば、微粉末原料粉を適度な粒径に造粒した造粒粉を用いているため、微粉末を用いているにも拘わらず金型内での原料粉の流動性を向上することができるので成形性を向上することができる。一方、微細な原料粉末を用いることで、原料粉末の表面積の増加に伴って隣接粉との焼結性を向上することができる。これらにより、特にCIPやHIP、焼結鍛造等の特殊な方法を用いなくても高密度の焼結材を得ることができる。
【0015】
また、原料粉末を造粒する際に用いられる造粒剤やプレス成形時に必要な潤滑剤の量は、造粒粉全体の数%の比率で含有されていればよいため、潤滑剤および造粒剤は、一般的な脱脂条件にて消失するので、MIM(金属射出成形)法のように長時間の脱脂時間を要しない。そのため、高密度の焼結材からなる動力伝達部品を短いサイクルタイムで得ることができる。
【0016】
また、動力伝達部品では、動力を伝達するため、過大荷重および繰り返し荷重が加わることが多い。そのため、動力伝達部品には欠けが発生する場合がある。この欠けによる破片を噛み込むことにより駆動部全体が停止するおそれもある。本発明の動力伝達部品は高密度の焼結材からなっているため、高い圧環強度を有することができる。これにより、動力伝達部品に欠けが発生することを抑制することができる。よって、駆動部全体が停止するリスクを低減することができる。
【0017】
上記より焼結材の高密度化を達成することができるので、高強度、高剛性の動力伝達部品を提供することができる。
【0018】
上記の動力伝達部品においては、焼結材の相対密度が85%以上であり、好ましくは92%以上である。これにより、信頼性の高い高密度、高強度の焼結材からなる動力伝達部品を提供することができる。
【0019】
上記の動力伝達部品において鉄系合金の場合、好ましくは、焼結材の破壊強度(圧環強度)が1500N/mm2以上である。これにより、高い破壊強度を有する焼結材からなる動力伝達部品を提供することができる。
【0020】
上記の動力伝達部品において、原料粉末の粉末粒度(D50)が20μm以下、好ましくは10μm以下である。これにより、焼結時に短時間で空孔が十分に埋まるので焼結材の高密度化を達成することができる。
【0021】
上記の動力伝達部品において、造粒粉の粉末粒度(D50)が500μm以下、好ましくは40μm以上でかつ200μm以下である。これにより、金型へ造粒粉を十分に充填することができるので焼結材の高密度化を達成することができる。
【0022】
上記の動力伝達部品において、造粒粉がプレス成形される圧力には、特に制限はない。ただし、プレス成形の圧力を高くすればするほど、成形体の密度が向上し空孔を小さくできるため、焼結により高密度かし易くなるが、過大なプレス圧力は、金型寿命を短くし、また金型からの取り出し時の割れや内部クラック等の成形不具合を起こす恐れがあることから、好ましくは400MPa以上800MPa以下である。これにより、金型の寿命を延ばすことによる生産効率を向上することができる。また、プレス成形での空孔を減少することにより焼結材の高密度化を達成することができる。
【0023】
上記の動力伝達部品において好ましくは、焼結材は、さらに焼入れ処理が施され、ロックウェルCスケール硬さがHRC50以上である。これにより、焼結材に高表面硬度を付与することができる。よって耐摩耗性を向上することができる。
【0024】
上記の動力伝達部品において好ましくは、焼結材は、さらに焼戻し処理が施され、ロックウェルCスケール硬さがHRC50以上である。これにより、焼結材に高靭性を付与することができる。よって耐変形性を向上することができる。
【0025】
上記の動力伝達部品において好ましくは、動力伝達部品は、ギヤおよびカムの少なくともいずれかである。ギヤおよびカムなどには歯折れなどの欠けが発生することが多い。本発明の動力伝達部品であるギヤおよびカムの少なくともいずれかは、高密度の焼結材からなっているため、高い圧環強度を有することができる。これにより、ギヤおよびカムに歯折れなどの欠けが発生することを抑制することができる。よって、駆動部全体が停止するリスクを低減することができる。
【0026】
上記の動力伝達部品において好ましくは、極値統計法による焼結材に含まれる最大空孔の相当円直径が80μm以下である。これにより、応力印加時に素材に含まれる大きな空孔に起因して発生する亀裂の進展を抑制することができる。したがって、高強度化を達成することができ、鉄系焼結製動力伝達部品の信頼性を向上できる。
【0027】
上記の動力伝達部品において好ましくは、極値統計法による焼結材に含まれる最大空孔の相当円直径が40μm以下である。これにより、応力印加時に素材に含まれる大きな空孔に起因して発生する亀裂の進展をさらに抑制することができる。したがって、さらに高強度化を達成することができる。
【発明の効果】
【0028】
以上説明したように、本発明の動力伝達部品によれば、粉末プレス焼結法で焼結材を高密度化することにより、高強度、高剛性の信頼性の高い動力伝達部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施の形態におけるギヤの概略斜視図である。
【図2】本発明の一実施の形態におけるカムの概略斜視図である。
【図3】本発明の一実施の形態における動力伝達部材の製造方法の概略を示す図である。
【図4】本発明の実施例1の造粒粉の試料表面を倍率500倍で示す顕微鏡写真である。
【図5】本発明の実施例2の造粒粉の試料表面を倍率500倍で示す顕微鏡写真である。
【図6】比較例1の原料粉末の試料表面を倍率500倍で示す顕微鏡写真である。
【図7】本発明の実施例1の造粒粉の試料表面を倍率1000倍で示す顕微鏡写真である。
【図8】本発明の実施例2の造粒粉の試料表面を倍率1000倍で示す顕微鏡写真である。
【図9】比較例1の原料粉末の試料表面を倍率1000倍で示す顕微鏡写真である。
【図10】本発明の実施例1のグリーン体の試料表面を倍率1000倍で示す顕微鏡写真である。
【図11】本発明の実施例2のグリーン体の試料表面を倍率1000倍で示す顕微鏡写真である。
【図12】比較例1のグリーン体の試料表面を倍率1000倍で示す顕微鏡写真である。
【図13】本発明の実施例1の焼結材の試料表面を倍率1000倍で示す顕微鏡写真である。
【図14】本発明の実施例2の焼結材の試料表面を倍率1000倍で示す顕微鏡写真である。
【図15】比較例1の焼結材の試料表面を倍率1000倍で示す顕微鏡写真である。
【図16】本発明の実施例1の焼結材の試料の圧環試験後の形状を示す写真である。
【図17】本発明の実施例2の焼結材の試料の圧環試験後の形状を示す写真である。
【図18】比較例1の焼結材の試料の圧環試験後の形状を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の一実施の形態について図に基づいて説明する。
最初に本発明の一実施の形態の動力伝達部品の構成について説明する。本発明の一実施の形態の動力伝達部品として、ギヤおよびカムが挙げられる。
【0031】
図1を参照して、本発明の一実施の形態における動力伝達部品の一例としてのギヤ10は平歯車である。ギヤ10は平面視における中央部に軸と嵌合するための孔を有している。図2を参照して、本発明の一実施の形態における動力伝達部品の他の一例としてのカム20は、板カムである。カム20は、平面視における中央部に軸と嵌合するための孔を有している。
【0032】
次に、本発明の一実施の形態の動力伝達部品の製造方法について説明する。
図3を参照して、本発明の一実施の形態の動力伝達部品の製造方法においては、まず原料粉末準備工程(S10)が実施される。この工程(S10)では、動力伝達部品の材料として、鉄を主成分とする原料粉末が準備され、混合される。鉄を主成分とする原料粉末は、たとえばSUS316L(JIS規格)および2%Ni(ニッケル)含有鉄合金である。その他、必要に応じて銅や二硫化モリブデン、黒鉛などの粒子を配合することもできる。
【0033】
原料粉末の粉末粒度(D50)は、20μm以下が好ましい。粗い粉末粒度の原料粉末では、後工程において成形体(グリーン体)を構成する原料粉末間に大きな空孔ができてしまい、焼結時に十分に空孔が埋まらず、高密度化が達成できない。そのため、微細な原料粉末が好ましい。粉末粒度(D50)20μm以下の原料粉末であれば、焼結時に空孔が十分に埋まるので高密度化を達成することができる。
【0034】
次に、造粒工程(S20)が実施される。この工程(S20)では、上記の原料粉末が造粒される。これにより造粒粉が形成される。上記の原料粉末を造粒することにより、金型内での原料粉末の流動性を向上することで、成形性を確保することができる。造粒粉は、たとえば、上記の原料粉末に、成形時の摩擦損失を低減させるための金属系潤滑剤であるステアリン酸亜鉛や非金属系潤滑剤であるエチレンビスステアルアミドなどの潤滑剤や離型剤などの添加剤と、造粒粉に適度な強度を付与するための糊の作用をする有機物などからなる造粒剤とを加えて、上記原料粉末を凝集した集合体である。
【0035】
造粒粉の粉末粒度(D50)は500μm以下が好ましい。500μmを超えると、たとえば微小なギヤ(歯車)の場合には金型への造粒粉の充填時に、歯先まで造粒粉が充填できなかったり、十分な量の造粒粉を投入できなくなる場合もある。造粒粉の形状は、特に球状が流動性に優れているため好ましい。
【0036】
次に、プレス成形工程(S30)が実施される。この工程(S30)では、上記の造粒粉がプレス成形される。これによりグリーン体(圧粉体)が形成される。グリーン体作製時のプレス成形圧力は、特に制限はないが、金型の摩耗などによる金型寿命や金型取り出しの割れ、内部クラック発生の抑制の点から、800MPa以下が好ましい。また、プレス成形圧力が小さすぎると、造粒粉がプレス成形圧力で破壊および変形し難いため、グリーン体内に数十μm以上の大きな空孔が残ってしまい、焼結しても高密度化が図られない場合があることから、グリーン体作製時のプレス成形圧力は400MPa以上で成形することが好ましい。
【0037】
次に、脱脂工程(S40)が実施される。この工程(S40)では、上記のグリーン体に含まれる潤滑剤や造粒剤などが除去される。脱脂条件は、通常の粉末プレス焼結法と同様に行うことができるので、特に長時間、高温化する必要はない。脱脂条件として、たとえば、上記のグリーン体が窒素雰囲気などの不活性雰囲ガス気下で、750℃の温度で30分間加熱される。
【0038】
次に、焼結工程(S50)が実施される。この焼結工程(S50)では、上記の脱脂されたグリーン体が焼成される。これにより焼結材が形成される。焼結条件は、通常の粉末プレス焼結法と同様に行うことができるので、特に長時間、高温化する必要はない。焼結条件として、たとえば、上記の脱脂されたグリーン体が1250℃に昇温後、その温度で60分間加熱される。
【0039】
次に、焼入れ工程(S60)が実施される。この工程(S60)では、必要に応じて上記の焼結材に焼入れ処理が施される。これにより焼結材に高い表面硬度を付与することができる。よって耐摩耗性を向上することができる。焼入れ処理はオーステナイト化温度(A3変態点)以上に加熱した状態から急冷する処理であり、その条件として、たとえば、850℃程度の温度から急冷する。
【0040】
次に、焼戻し工程(S70)が実施される。この工程(S60)では、上記の焼入れされた焼結材に焼戻し処理が施される。これにより、焼結材に高い靭性を付与することができる。よって変形性を向上することができる。焼戻し処理の条件として、A1変態点以下であるたとえば、400〜650℃の温度に加熱したのち急冷する。
【0041】
また、必要に応じてCrN(窒化クロム)、TiN(窒化チタン)、WC/C(炭化タングステン/炭素)やDLC(ダイヤモンドライクカーボン)などの硬質皮膜処理を施し得る。さらに、本発明の一実施の形態の動力伝達部品のうち、95%以上の相対密度を有するものは湿式のめっき処理を施し得る。
【0042】
上記では脱脂工程(S40)と焼結工程(S50)とを分けて説明したが、一体の工程で、脱脂および焼結が行われてもよい。また、上記ではプレス成型(S30)と、脱脂工程(S40)と、焼結工程(S50)と、焼入れ工程(S60)を分けて説明したが、一体の工程で、プレス成型、脱脂/焼結/焼入れが行われてもよい。
【0043】
なお、潤滑剤および造粒剤は、脱脂および焼結時に消失するが、一部が消失せずに残っていてもよい。
【0044】
次に、本発明の一実施の形態の動力伝達部品の作用効果について説明する。
粉末プレス焼結法で微細な原料粉末をそのままプレス成形すると、摩擦損失により成形性が悪化する。本発明の一実施の形態の動力伝達部品によれば、鉄を主成分とする原料微粉末を造粒した造粒粉がプレス成形され、かつ焼成された焼結材からなっている。粉末プレス焼結法で造粒粉をプレス成形することにより、金型内での原料粉末の流動性を向上することができるので成形性を向上することができる。よって、微細な原料粉末を用いることができるので、原料粉末の表面積の増加に伴って隣接粉との焼結性を向上することができる。これにより、高密度の焼結材を得ることができる。
【0045】
また、原料粉末を造粒する際に用いられる潤滑剤および造粒剤の量は、造粒粉をたとえば球状に形成するだけなので、造粒粉全体の数%の比率で含有されていればよい。造粒粉全体の数%の低い比率のため、潤滑剤および造粒剤は、脱脂および焼結時に消失する。そのため、高密度の焼結材を得ることができる。
【0046】
また、動力伝達部品では、動力を伝達するため、過大荷重および繰り返し荷重が加わることが多い。そのため、動力伝達部品には欠けが発生することが多い。この欠けによる破片を噛み込むことにより駆動部全体が停止するおそれが高い。本発明の一実施の形態の動力伝達部品は高密度の焼結材からなっているため、高い圧環強度を有することができる。これにより、動力伝達部品に欠けが発生することを抑制することができる。よって、駆動部全体が停止するリスクを低減することができる。
【0047】
上記より焼結材の高密度化を達成することができるので、高強度、高剛性の動力伝達部品を提供することができる。
【0048】
本発明の一実施の形態の動力伝達部品によれば、焼結材の相対密度が85%以上であるため、高密度の焼結材からなる動力伝達部品を提供することができる。
【0049】
本発明の一実施の形態の動力伝達部品によれば、焼結材の破壊強度(圧環強度)が1500N/mm2以上であるため、高い破壊強度を有する焼結材からなる動力伝達部品を提供することができる。
【0050】
粗い粉末粒度の原料粉末では、後工程において成形体(グリーン体)を構成する原料粉末間に大きな空孔ができてしまい、焼結時に十分に空孔が埋まらず、高密度化が達成できない。そのため、微細な原料粉末が好ましい。本発明の一実施の形態の動力伝達部品によれば、原料粉末の粉末粒度(D50)が20μm以下であるため、焼結時に空孔が十分に埋まるので焼結材の高密度化を達成することができる。
【0051】
造粒粉末の粉末粒度(D50)が500μmを超えると、たとえば微小なギヤ(歯車)の場合には金型への造粒粉の充填時に、歯先まで造粒粉が充填できなかったり、十分な量の造粒粉を投入できなくなる場合もある。本発明の一実施の形態の動力伝達部品によれば、造粒粉の粉末粒度(D50)が500μm以下であるため、金型へ造粒粉を十分に充填することができるので焼結材の高密度化を達成することができる。
【0052】
造粒粉がプレス成形される圧力は、金型の摩耗などによる金型寿命や、金型取り出し時の割れや内部クラック発生抑制の点から、800MPa以下が好ましい。また、プレス成形圧力が小さすぎると、造粒粉がプレス成形圧力で破壊および変形し難いため、グリーン体内に数十μm以上の大きな空孔が残ってしまい、焼結しても高密度化が図られない場合があることから、グリーン体作製時のプレス成形圧力は400MPa以上で成形することが好ましい。本発明の一実施の形態の動力伝達部品によれば、造粒粉がプレス成形される圧力は、400MPa以上800MPa以下であるため、金型の寿命を延ばすことによる生産効率を向上することができる。また、プレス成形での空孔を減少することにより焼結材の高密度化を達成することができる。
【0053】
本発明の一実施の形態の動力伝達部品によれば、焼結材は、さらに焼入れ処理が施され、ロックウェルCスケール硬さがHRC50以上であるため、焼結材に高表面硬度を付与することができる。よって耐摩耗性を向上することができる。
【0054】
本発明の一実施の形態の動力伝達部品によれば、焼結材は、さらに焼戻し処理が施され、ロックウェルCスケール硬さがHRC50以上であるため、焼結材に高表面硬度と高靭性を付与することができる。よって変形性を向上することができる。
【0055】
ギヤおよびカムなどには歯折れなどの欠けが発生することが多い。本発明の一実施の形態の動力伝達部品であるギヤおよびカムの少なくともいずれかは、高密度の焼結材からなっているため、高い破壊強度を有することができる。これにより、ギヤおよびカムに歯折れなどの欠けが発生することを抑制することができる。よって、駆動部全体が停止するリスクを低減することができる。
【0056】
また、動力伝達部品を成形する他の方法として、MIM(金属射出成形)および押出成形が挙げられる。MIMは潤滑剤および造粒剤の量が一般に40容積%程度以上と非常に多いため、これらを除去するための脱脂時間が長くなるという問題がある。また、収縮率が高くなるという問題がある。また、押出成形では、歩留まりが悪いという問題がある。したがって、本発明の一実施の形態の動力伝達部品によれば、MIMおよび押出成形で成形された動力伝達部品に比べて、効率よく高密度の動力伝達部品を得ることができる。
【0057】
微細な原料粉末を用いることで成形体(グリーン体)を製作した際の原料粉末間の空隙が小さくなり、ひいては焼結材内部の空孔も小さくなる。空孔が小さくなることで、応力印加時に空孔周辺にかかる応力も小さくなる。そのため、破壊の原因になる亀裂の進展が抑制されるので高強度化が達成される。つまり、空孔径が大きいほど亀裂が進展しやすいので脆弱な焼結材となりやすい。
【0058】
極値統計法による焼結材に含まれる最大空孔の相当円直径が80μmよりも大きい場合、応力印加時に大きな空孔に起因して発生した亀裂が進展しやすいため焼結材が破壊される恐れがある。
【0059】
極値統計法とは、試料の検査の基準となる面積(検査基準面積)内の介在物の中から最大の介在物の大きさを測定し、統計処理により、予測を行う面積(予測面積)内での最大の介在物の大きさを推定可能な手法である。鉄系焼結材では大きな空孔が存在すると著しく低強度となる場合があったが、本法によれば焼結材中に含まれる最大空孔径を制御可能となり、高密度焼結体の機械的信頼性を向上できる。
【0060】
本発明の一実施の形態の動力伝達部品によれば、極値統計法による焼結材に含まれる最大空孔の相当円直径が80μm以下である。素形材中に含まれる最大空孔径を適切な大きさに制御できるようになったことにより、応力印加時に大きな空孔に起因して発生する亀裂の進展を抑制することができる。したがって、高強度化、高信頼性化を達成することができる。
【0061】
本発明の一実施の形態の動力伝達部品によれば、極値統計法による焼結材に含まれる最大空孔の相当円直径が40μm以下であるため、さらに素材中に含まれる最大空孔径を小さくすることができる。したがって、さらに高強度化、高信頼性化を達成することができる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例について説明する。
表1に示す材料および試料作製条件において、本発明の実施例として実施例1の試料および実施例2の試料、従来例として従来例1の試料をそれぞれ複数作製した。
【0063】
【表1】
【0064】
実施例1および実施例2では造粒粉を用い、比較例1では粉末プレス成形用粉末を用いた。各試料は、外径12mm、内径6mm、高さ8mmの円筒型焼結材とした。
【0065】
実施例1、実施例2および比較例1の相対密度、破壊強度として圧環強度を測定した。相対密度は、試料の密度を測定し、試料の材料であるSUS316Lの真密度と比較して算出した。SUS316Lの真密度は、7.98g/cm3とした。
【0066】
圧環強度は、試料を円周方向から圧縮する圧環試験を行い、円筒状の試料が破壊する時の強度を測定した。圧環速度は、1mm/minとした。
【0067】
実施例1、実施例2および比較例1の相対密度、圧環強度の測定結果を表2に示す。
【0068】
【表2】
【0069】
相対密度について、表2に示すように、実施例1の相対密度は92%以上となった。実施例2の相対密度は85%以上92%未満となった。比較例1の相対密度は85%未満となった。
【0070】
圧環強度について、表2に示すように、実施例1は、2500N/mm2で円周方向から圧縮して圧環試験を行った。実施例1は、亀裂の発生も認められず、破壊しなかった。実施例2は、1500N/mm2以上2500N/mm2未満で圧環試験を行った。実施例2は、微小な亀裂が発生する場合も見られたが、破壊には至らなかった。比較例1は、1500N/mm2未満で圧環試験を行った。比較例1では、亀裂が発生し、破壊した。
【0071】
続いて、実施例1、実施例2および比較例1の造粒粉、グリーン体および焼結材における試料表面の状態を説明する。
【0072】
図4および図7を参照して、実施例1の造粒粉の試料表面を示す。図5および図8を参照して、実施例2の造粒粉の試料表面を示す。図6および図9を参照して、比較例1の造粒粉の試料表面を示す。図4〜図9を参照して、実施例1および実施例2の原料粉末が比較例1の粉末プレス成形用粉末より小さいことがわかった。
【0073】
図10を参照して、実施例1のグリーン体の試料表面を示す。図11を参照して、実施例2のグリーン体の試料表面を示す。図12を参照して、実施例3のグリーン体の試料表面を示す。図10〜図12を参照して、実施例1および実施例2のグリーン体では原料粉末が比較例1より密に凝集しており、空孔が少ないことがわかった。
【0074】
図13を参照して、実施例1の焼結材の試料表面を示す。図14を参照して、実施例2の焼結材の試料表面を示す。図15を参照して比較例1の焼結材の試料表面を示す。図13〜図15を参照して、実施例1および実施例2の焼結材では、比較例1より空孔が少ないことがわかった。
【0075】
上記より、実施例1および実施例2は、比較例1より高密度化が達成されていることがわかった。
【0076】
また、表3に示す材料および試料作製条件において、本発明の実施例として実施例3および実施例4の試料をそれぞれ10個作製した。
【0077】
【表3】
【0078】
実施例3および実施例4ではNi粒子を2%含有した鉄合金造粒粉を用いた。実施例3では焼入れ処理を施した。実施例4では焼入れ処理および焼戻し処理を施した。焼入れ処理は、焼結処理後の降温時、850℃の温度から急冷した。焼戻し処理は、500℃の温度に加熱保持したのち、急冷した。各試料は、外径12mm、内径6mm、高さ8mmの円筒型焼結材とした。
【0079】
実施例3および実施例4の相対密度、圧環強度、ロックウェル硬さを測定した。相対密度は、試料の密度を測定し、試料の材料である2%Ni含有鉄合金の真密度と比較して算出した。2%Ni含有鉄合金の真密度は、7.89g/cm3とした。
【0080】
圧環強度は、試料を円周方向から圧縮する圧環試験を行い、圧環強度を測定した。圧環速度は、1mm/minとした。
【0081】
実施例3および実施例4の相対密度、圧環強度、ロックウェル硬さの測定結果を表4に示す。
【0082】
【表4】
【0083】
相対密度について、表4に示すように、実施例3および実施例4の相対密度はそれぞれ92%以上となった。
【0084】
圧環強度について、表4に示すように、実施例3および実施例4は、2500N/mm2で円周方向から圧縮して圧環試験を行った。実施例3および実施例4は、それぞれ亀裂の発生も認められず、破壊しなかった。
【0085】
ロックウェルCスケール硬さについて、表4に示すように、実施例3はHRC64となった。なお、実施例3においては、HRC50以上であればよい。実施例4はHRC50となった。
【0086】
また、実施例1、実施例2および比較例1について、いわゆる極値統計を用いて焼結材の内部に含まれる空孔径の最大値を推定した。なお、焼結材の内部の空孔径の極値分布は二重指数分布とした。推定方法は以下に示すとおりである。
【0087】
試料の検査の基準と成る面積を検査基準面積S0(mm2)とし、検査の回数を検査回数nとして、検査基準面積S0中の最大空孔面積の平方根SR(μm)を測定した。平方根SRは式(1)で示される。
【0088】
【数1】
【0089】
測定した平方根SRを小さい順に並べなおし、それぞれに番号j(j=1〜n)を付けた。それぞれの平方根SRjは式(2)で示される。
【0090】
【数2】
【0091】
それぞれの番号j(j=1〜n)について、式(3)から基準化変数yjを求めた。
【0092】
【数3】
【0093】
横軸を基準化変数yj、縦軸を平方根SRjとして、測定結果をプロットした。プロットより最大空孔分布近似直線を求め、最大空孔分布直線の傾きa、切片bを求めた。
【0094】
予測を行う面積を予測面積S(mm2)とした。予測面積Sおよび検査基準面積S0より再帰期間Tは式(4)で示される。
【0095】
【数4】
【0096】
再起期間Tを用いて式(5)により基準化変数yを求めた。
【0097】
【数5】
【0098】
基準化変数y、傾きa、切片bを式(6)に代入して、予測面積S中に含まれる最大空孔面積の平方根SRを求めた。本実施例では予測面積Sが1000mm2の場合の最大空孔面積の平方根SRについて評価した。
【0099】
【数6】
【0100】
最大空孔面積と同じ面積を有する円の直径を相当円直径とする。本実施例では相当円直径を用いて空孔径を評価した。
【0101】
実施例1、実施例2および比較例の最大空孔の相当円直径の評価結果を表5に示す。
【0102】
【表5】
【0103】
表2および表5を参照して、比較例1では相対密度85%未満で粗大な空孔が多く見られた。比較例1では最大空孔の相当円直径は84μmとなった。実施例2では相対密度85%以上92%未満で粗大な空孔は見られなかった。実施例2では最大空孔の相当円直径は67μmとなった。実施例1では相対密度92%以上で粗大な空孔は見られなかった。また実施例1では最大空孔の相当円直径は40μmとなった。
【0104】
上述のとおり、実施例1は、圧環試験において亀裂の発生も認められず破壊しなかった。実施例2は、圧環試験において微小な亀裂が発生する場合も見られたが破壊には至らなかった。一方、比較例1は、圧環試験において亀裂が発生し破壊した。
【0105】
上記に基づいて、発明者等は鋭意検討し、極値統計法による焼結材に含まれる最大空孔の相当円直径を80μm以下に制御すれば、応力印加時に空孔に起因して発生する亀裂の進展を抑制することができることを知得した。これにより、高強度化ならびに高信頼性化を達成することができることがわかった。
【0106】
さらに、極値統計法による焼結材に含まれる最大空孔の相当円直径を40μm以下に制御すれば、応力印加時に空孔に起因して発生する亀裂の進展をさらに抑制することができることを発明者等は知得した。これにより、さらなる高強度化、高信頼性化を達成することができることがわかった。なお、焼結材の空孔を無くすことも可能であるため、極値統計法による焼結材に含まれる最大空孔の相当円直径の下限は0μm以上となる。
【0107】
図16〜図18を参照して、実施例1、実施例2および比較例1の圧環試験後の試料の形状を示す。図16〜図18は、各試料の外径および内径が見えるように各試料高さ方向から見た図である。
【0108】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることを意図される。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明は、焼結材からなる動力伝達部品に特に有利に適用され得る。
【符号の説明】
【0110】
10 ギヤ、20 カム。
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達部品に関し、特に焼結材からなる動力伝達部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属原料粉末を金型を用いてプレス成形し、焼成により焼結することで焼結材が得られる。この方法は、焼結材を得るのに簡易な方法として広く採用されている。以下、この方法は粉末プレス焼結法と称される。通常、粉末プレス焼結法で焼結材を製造すると、溶製材の真密度に対する焼結材の密度の割合である相対密度が低くなり、焼結材内部に多くの空孔が残ってしまう。空孔は応力負荷時に応力集中源となるため、焼結材は低強度、低疲労強度の脆い素材となりやすい。また焼結材は、その多くの空孔を含有するため、剛性も溶製材と比べると低くなりやすい。
【0003】
そこで、焼結材の高強度化および高剛性化を目的とし、焼結材の高密度化を図るためにCIP(Cold Isostatic Pressing)法やHIP(Hot Isostatic Pressing)法を始め、様々な方法が提案されている。
【0004】
金属原料粉末を工夫する方法として、金属原料粉末を微粒子化する方法がある。金属原料粉末の微粒子化によって金属原料粉末の表面積は増加する。この表面積の増加に伴い、隣接粉との焼結性が向上する。具体的には、熱などのエネルギーにより金属原料粉末同士の原子的な結合が起こりやすくなる。また金属原料粉末を構成する元素の内部拡散が促進されることで空孔が収縮することから、高密度の焼結材が得られる。
【0005】
しかしながら、微粒子化された金属原料粉末を用いる場合、圧粉体成形時に、微粒子化に伴う金属原料粉末間、金属原料粉末および金型間で摩擦損失の著しい増加が起こる。これにより、金型内での粉末の流動性が悪化し、成形性が悪化してしまう。その結果、成形欠陥による大きな空孔が生じたり、焼結材の高密度化が困難という問題、精密成形が困難という問題がある。そのため、金属原料粉末を微粒子化する方法の適用は限定されている。
【0006】
成形方法を工夫するものとして、温間成形法が挙げられる。たとえば、特開2004−197157号公報(特許文献1)には、金型内面と原料粉末とが接触する部分の温度が100℃〜225℃で金型へ充填された原料粉末を加圧成形することが記載されている。温間成形法は、高温下で塑性変形しやすくなった原料粉末を成形することで、圧粉体の密度を向上し得る。その一方で、専用の潤滑剤が必要になるという問題、エッジ部にバリが存在し除去工程が必要になるという問題がある。
【0007】
焼結温度および焼結時間を工夫する方法として、高温長時間焼成法が挙げられる。高温長時間焼成法は、焼結時における温度を通常より高温にし、また焼結時間も長くすることで焼結性を向上させ、焼結密度を向上させることで空孔を減らし、高密度化を図る方法である。しかしながら高温長時間焼成法では、焼結材中の結晶粒が粗大化してしまい、強度低下を招いてしまうおそれがある。また、製造に長時間が必要となるという問題がある。
【0008】
焼結後に後加工を施して高密度化を図る方法として、焼結鍛造法が挙げられる。焼結鍛造法は、焼結後の焼結材に冷間鍛造を施すことで空孔を潰す方法である。焼結鍛造法では、真密度に近い値を出すことが可能であるが、製造のリードタイムが長くなるという問題、鍛造装置が必要であるという問題および鍛造のために従来の粉末プレス焼結法による焼結材並みの高精度を得難いという問題などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−197157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
多くの空孔を有する鉄系焼結材を高強度、高剛性が要求される用途に適用することは、その空孔に起因する強度面の脆弱性の問題から限定されている。このような厳しい強度、剛性が求められる鉄合金からなる金属部品には、溶製材を切削加工した切削加工品および溶製材を鍛造した鍛造品が用いられる場合が多い。したがって、一般的な粉末プレス法で製造された鉄合金からなる金属焼結材をギヤおよびカムなどの動力伝達部品に適用する場合、特に高強度、高剛性が要求される用途には適用することが困難であったり、前述の溶製材からなる部品に比べ、大きな寸法が必要になるという課題がある。
【0011】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、その目的は、粉末プレス焼結法で焼結材の高密度化を達成することにより、高強度、高剛性の動力伝達部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の動力伝達部品は、鉄を主成分とする原料粉末を造粒した造粒粉がプレス成形され、焼成された焼結材からなる。
【0013】
本発明者は、鋭意検討した結果、金属微粉末を造粒した造粒粉をプレス成形し、焼成した焼結材からなる動力伝達部品では、成形性および焼結性が向上し、圧環強度が向上することを見出した。成形性および焼結性が向上し、圧環強度が向上する理由は、以下のように考えられる。
【0014】
本発明の動力伝達部品によれば、微粉末原料粉を適度な粒径に造粒した造粒粉を用いているため、微粉末を用いているにも拘わらず金型内での原料粉の流動性を向上することができるので成形性を向上することができる。一方、微細な原料粉末を用いることで、原料粉末の表面積の増加に伴って隣接粉との焼結性を向上することができる。これらにより、特にCIPやHIP、焼結鍛造等の特殊な方法を用いなくても高密度の焼結材を得ることができる。
【0015】
また、原料粉末を造粒する際に用いられる造粒剤やプレス成形時に必要な潤滑剤の量は、造粒粉全体の数%の比率で含有されていればよいため、潤滑剤および造粒剤は、一般的な脱脂条件にて消失するので、MIM(金属射出成形)法のように長時間の脱脂時間を要しない。そのため、高密度の焼結材からなる動力伝達部品を短いサイクルタイムで得ることができる。
【0016】
また、動力伝達部品では、動力を伝達するため、過大荷重および繰り返し荷重が加わることが多い。そのため、動力伝達部品には欠けが発生する場合がある。この欠けによる破片を噛み込むことにより駆動部全体が停止するおそれもある。本発明の動力伝達部品は高密度の焼結材からなっているため、高い圧環強度を有することができる。これにより、動力伝達部品に欠けが発生することを抑制することができる。よって、駆動部全体が停止するリスクを低減することができる。
【0017】
上記より焼結材の高密度化を達成することができるので、高強度、高剛性の動力伝達部品を提供することができる。
【0018】
上記の動力伝達部品においては、焼結材の相対密度が85%以上であり、好ましくは92%以上である。これにより、信頼性の高い高密度、高強度の焼結材からなる動力伝達部品を提供することができる。
【0019】
上記の動力伝達部品において鉄系合金の場合、好ましくは、焼結材の破壊強度(圧環強度)が1500N/mm2以上である。これにより、高い破壊強度を有する焼結材からなる動力伝達部品を提供することができる。
【0020】
上記の動力伝達部品において、原料粉末の粉末粒度(D50)が20μm以下、好ましくは10μm以下である。これにより、焼結時に短時間で空孔が十分に埋まるので焼結材の高密度化を達成することができる。
【0021】
上記の動力伝達部品において、造粒粉の粉末粒度(D50)が500μm以下、好ましくは40μm以上でかつ200μm以下である。これにより、金型へ造粒粉を十分に充填することができるので焼結材の高密度化を達成することができる。
【0022】
上記の動力伝達部品において、造粒粉がプレス成形される圧力には、特に制限はない。ただし、プレス成形の圧力を高くすればするほど、成形体の密度が向上し空孔を小さくできるため、焼結により高密度かし易くなるが、過大なプレス圧力は、金型寿命を短くし、また金型からの取り出し時の割れや内部クラック等の成形不具合を起こす恐れがあることから、好ましくは400MPa以上800MPa以下である。これにより、金型の寿命を延ばすことによる生産効率を向上することができる。また、プレス成形での空孔を減少することにより焼結材の高密度化を達成することができる。
【0023】
上記の動力伝達部品において好ましくは、焼結材は、さらに焼入れ処理が施され、ロックウェルCスケール硬さがHRC50以上である。これにより、焼結材に高表面硬度を付与することができる。よって耐摩耗性を向上することができる。
【0024】
上記の動力伝達部品において好ましくは、焼結材は、さらに焼戻し処理が施され、ロックウェルCスケール硬さがHRC50以上である。これにより、焼結材に高靭性を付与することができる。よって耐変形性を向上することができる。
【0025】
上記の動力伝達部品において好ましくは、動力伝達部品は、ギヤおよびカムの少なくともいずれかである。ギヤおよびカムなどには歯折れなどの欠けが発生することが多い。本発明の動力伝達部品であるギヤおよびカムの少なくともいずれかは、高密度の焼結材からなっているため、高い圧環強度を有することができる。これにより、ギヤおよびカムに歯折れなどの欠けが発生することを抑制することができる。よって、駆動部全体が停止するリスクを低減することができる。
【0026】
上記の動力伝達部品において好ましくは、極値統計法による焼結材に含まれる最大空孔の相当円直径が80μm以下である。これにより、応力印加時に素材に含まれる大きな空孔に起因して発生する亀裂の進展を抑制することができる。したがって、高強度化を達成することができ、鉄系焼結製動力伝達部品の信頼性を向上できる。
【0027】
上記の動力伝達部品において好ましくは、極値統計法による焼結材に含まれる最大空孔の相当円直径が40μm以下である。これにより、応力印加時に素材に含まれる大きな空孔に起因して発生する亀裂の進展をさらに抑制することができる。したがって、さらに高強度化を達成することができる。
【発明の効果】
【0028】
以上説明したように、本発明の動力伝達部品によれば、粉末プレス焼結法で焼結材を高密度化することにより、高強度、高剛性の信頼性の高い動力伝達部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施の形態におけるギヤの概略斜視図である。
【図2】本発明の一実施の形態におけるカムの概略斜視図である。
【図3】本発明の一実施の形態における動力伝達部材の製造方法の概略を示す図である。
【図4】本発明の実施例1の造粒粉の試料表面を倍率500倍で示す顕微鏡写真である。
【図5】本発明の実施例2の造粒粉の試料表面を倍率500倍で示す顕微鏡写真である。
【図6】比較例1の原料粉末の試料表面を倍率500倍で示す顕微鏡写真である。
【図7】本発明の実施例1の造粒粉の試料表面を倍率1000倍で示す顕微鏡写真である。
【図8】本発明の実施例2の造粒粉の試料表面を倍率1000倍で示す顕微鏡写真である。
【図9】比較例1の原料粉末の試料表面を倍率1000倍で示す顕微鏡写真である。
【図10】本発明の実施例1のグリーン体の試料表面を倍率1000倍で示す顕微鏡写真である。
【図11】本発明の実施例2のグリーン体の試料表面を倍率1000倍で示す顕微鏡写真である。
【図12】比較例1のグリーン体の試料表面を倍率1000倍で示す顕微鏡写真である。
【図13】本発明の実施例1の焼結材の試料表面を倍率1000倍で示す顕微鏡写真である。
【図14】本発明の実施例2の焼結材の試料表面を倍率1000倍で示す顕微鏡写真である。
【図15】比較例1の焼結材の試料表面を倍率1000倍で示す顕微鏡写真である。
【図16】本発明の実施例1の焼結材の試料の圧環試験後の形状を示す写真である。
【図17】本発明の実施例2の焼結材の試料の圧環試験後の形状を示す写真である。
【図18】比較例1の焼結材の試料の圧環試験後の形状を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の一実施の形態について図に基づいて説明する。
最初に本発明の一実施の形態の動力伝達部品の構成について説明する。本発明の一実施の形態の動力伝達部品として、ギヤおよびカムが挙げられる。
【0031】
図1を参照して、本発明の一実施の形態における動力伝達部品の一例としてのギヤ10は平歯車である。ギヤ10は平面視における中央部に軸と嵌合するための孔を有している。図2を参照して、本発明の一実施の形態における動力伝達部品の他の一例としてのカム20は、板カムである。カム20は、平面視における中央部に軸と嵌合するための孔を有している。
【0032】
次に、本発明の一実施の形態の動力伝達部品の製造方法について説明する。
図3を参照して、本発明の一実施の形態の動力伝達部品の製造方法においては、まず原料粉末準備工程(S10)が実施される。この工程(S10)では、動力伝達部品の材料として、鉄を主成分とする原料粉末が準備され、混合される。鉄を主成分とする原料粉末は、たとえばSUS316L(JIS規格)および2%Ni(ニッケル)含有鉄合金である。その他、必要に応じて銅や二硫化モリブデン、黒鉛などの粒子を配合することもできる。
【0033】
原料粉末の粉末粒度(D50)は、20μm以下が好ましい。粗い粉末粒度の原料粉末では、後工程において成形体(グリーン体)を構成する原料粉末間に大きな空孔ができてしまい、焼結時に十分に空孔が埋まらず、高密度化が達成できない。そのため、微細な原料粉末が好ましい。粉末粒度(D50)20μm以下の原料粉末であれば、焼結時に空孔が十分に埋まるので高密度化を達成することができる。
【0034】
次に、造粒工程(S20)が実施される。この工程(S20)では、上記の原料粉末が造粒される。これにより造粒粉が形成される。上記の原料粉末を造粒することにより、金型内での原料粉末の流動性を向上することで、成形性を確保することができる。造粒粉は、たとえば、上記の原料粉末に、成形時の摩擦損失を低減させるための金属系潤滑剤であるステアリン酸亜鉛や非金属系潤滑剤であるエチレンビスステアルアミドなどの潤滑剤や離型剤などの添加剤と、造粒粉に適度な強度を付与するための糊の作用をする有機物などからなる造粒剤とを加えて、上記原料粉末を凝集した集合体である。
【0035】
造粒粉の粉末粒度(D50)は500μm以下が好ましい。500μmを超えると、たとえば微小なギヤ(歯車)の場合には金型への造粒粉の充填時に、歯先まで造粒粉が充填できなかったり、十分な量の造粒粉を投入できなくなる場合もある。造粒粉の形状は、特に球状が流動性に優れているため好ましい。
【0036】
次に、プレス成形工程(S30)が実施される。この工程(S30)では、上記の造粒粉がプレス成形される。これによりグリーン体(圧粉体)が形成される。グリーン体作製時のプレス成形圧力は、特に制限はないが、金型の摩耗などによる金型寿命や金型取り出しの割れ、内部クラック発生の抑制の点から、800MPa以下が好ましい。また、プレス成形圧力が小さすぎると、造粒粉がプレス成形圧力で破壊および変形し難いため、グリーン体内に数十μm以上の大きな空孔が残ってしまい、焼結しても高密度化が図られない場合があることから、グリーン体作製時のプレス成形圧力は400MPa以上で成形することが好ましい。
【0037】
次に、脱脂工程(S40)が実施される。この工程(S40)では、上記のグリーン体に含まれる潤滑剤や造粒剤などが除去される。脱脂条件は、通常の粉末プレス焼結法と同様に行うことができるので、特に長時間、高温化する必要はない。脱脂条件として、たとえば、上記のグリーン体が窒素雰囲気などの不活性雰囲ガス気下で、750℃の温度で30分間加熱される。
【0038】
次に、焼結工程(S50)が実施される。この焼結工程(S50)では、上記の脱脂されたグリーン体が焼成される。これにより焼結材が形成される。焼結条件は、通常の粉末プレス焼結法と同様に行うことができるので、特に長時間、高温化する必要はない。焼結条件として、たとえば、上記の脱脂されたグリーン体が1250℃に昇温後、その温度で60分間加熱される。
【0039】
次に、焼入れ工程(S60)が実施される。この工程(S60)では、必要に応じて上記の焼結材に焼入れ処理が施される。これにより焼結材に高い表面硬度を付与することができる。よって耐摩耗性を向上することができる。焼入れ処理はオーステナイト化温度(A3変態点)以上に加熱した状態から急冷する処理であり、その条件として、たとえば、850℃程度の温度から急冷する。
【0040】
次に、焼戻し工程(S70)が実施される。この工程(S60)では、上記の焼入れされた焼結材に焼戻し処理が施される。これにより、焼結材に高い靭性を付与することができる。よって変形性を向上することができる。焼戻し処理の条件として、A1変態点以下であるたとえば、400〜650℃の温度に加熱したのち急冷する。
【0041】
また、必要に応じてCrN(窒化クロム)、TiN(窒化チタン)、WC/C(炭化タングステン/炭素)やDLC(ダイヤモンドライクカーボン)などの硬質皮膜処理を施し得る。さらに、本発明の一実施の形態の動力伝達部品のうち、95%以上の相対密度を有するものは湿式のめっき処理を施し得る。
【0042】
上記では脱脂工程(S40)と焼結工程(S50)とを分けて説明したが、一体の工程で、脱脂および焼結が行われてもよい。また、上記ではプレス成型(S30)と、脱脂工程(S40)と、焼結工程(S50)と、焼入れ工程(S60)を分けて説明したが、一体の工程で、プレス成型、脱脂/焼結/焼入れが行われてもよい。
【0043】
なお、潤滑剤および造粒剤は、脱脂および焼結時に消失するが、一部が消失せずに残っていてもよい。
【0044】
次に、本発明の一実施の形態の動力伝達部品の作用効果について説明する。
粉末プレス焼結法で微細な原料粉末をそのままプレス成形すると、摩擦損失により成形性が悪化する。本発明の一実施の形態の動力伝達部品によれば、鉄を主成分とする原料微粉末を造粒した造粒粉がプレス成形され、かつ焼成された焼結材からなっている。粉末プレス焼結法で造粒粉をプレス成形することにより、金型内での原料粉末の流動性を向上することができるので成形性を向上することができる。よって、微細な原料粉末を用いることができるので、原料粉末の表面積の増加に伴って隣接粉との焼結性を向上することができる。これにより、高密度の焼結材を得ることができる。
【0045】
また、原料粉末を造粒する際に用いられる潤滑剤および造粒剤の量は、造粒粉をたとえば球状に形成するだけなので、造粒粉全体の数%の比率で含有されていればよい。造粒粉全体の数%の低い比率のため、潤滑剤および造粒剤は、脱脂および焼結時に消失する。そのため、高密度の焼結材を得ることができる。
【0046】
また、動力伝達部品では、動力を伝達するため、過大荷重および繰り返し荷重が加わることが多い。そのため、動力伝達部品には欠けが発生することが多い。この欠けによる破片を噛み込むことにより駆動部全体が停止するおそれが高い。本発明の一実施の形態の動力伝達部品は高密度の焼結材からなっているため、高い圧環強度を有することができる。これにより、動力伝達部品に欠けが発生することを抑制することができる。よって、駆動部全体が停止するリスクを低減することができる。
【0047】
上記より焼結材の高密度化を達成することができるので、高強度、高剛性の動力伝達部品を提供することができる。
【0048】
本発明の一実施の形態の動力伝達部品によれば、焼結材の相対密度が85%以上であるため、高密度の焼結材からなる動力伝達部品を提供することができる。
【0049】
本発明の一実施の形態の動力伝達部品によれば、焼結材の破壊強度(圧環強度)が1500N/mm2以上であるため、高い破壊強度を有する焼結材からなる動力伝達部品を提供することができる。
【0050】
粗い粉末粒度の原料粉末では、後工程において成形体(グリーン体)を構成する原料粉末間に大きな空孔ができてしまい、焼結時に十分に空孔が埋まらず、高密度化が達成できない。そのため、微細な原料粉末が好ましい。本発明の一実施の形態の動力伝達部品によれば、原料粉末の粉末粒度(D50)が20μm以下であるため、焼結時に空孔が十分に埋まるので焼結材の高密度化を達成することができる。
【0051】
造粒粉末の粉末粒度(D50)が500μmを超えると、たとえば微小なギヤ(歯車)の場合には金型への造粒粉の充填時に、歯先まで造粒粉が充填できなかったり、十分な量の造粒粉を投入できなくなる場合もある。本発明の一実施の形態の動力伝達部品によれば、造粒粉の粉末粒度(D50)が500μm以下であるため、金型へ造粒粉を十分に充填することができるので焼結材の高密度化を達成することができる。
【0052】
造粒粉がプレス成形される圧力は、金型の摩耗などによる金型寿命や、金型取り出し時の割れや内部クラック発生抑制の点から、800MPa以下が好ましい。また、プレス成形圧力が小さすぎると、造粒粉がプレス成形圧力で破壊および変形し難いため、グリーン体内に数十μm以上の大きな空孔が残ってしまい、焼結しても高密度化が図られない場合があることから、グリーン体作製時のプレス成形圧力は400MPa以上で成形することが好ましい。本発明の一実施の形態の動力伝達部品によれば、造粒粉がプレス成形される圧力は、400MPa以上800MPa以下であるため、金型の寿命を延ばすことによる生産効率を向上することができる。また、プレス成形での空孔を減少することにより焼結材の高密度化を達成することができる。
【0053】
本発明の一実施の形態の動力伝達部品によれば、焼結材は、さらに焼入れ処理が施され、ロックウェルCスケール硬さがHRC50以上であるため、焼結材に高表面硬度を付与することができる。よって耐摩耗性を向上することができる。
【0054】
本発明の一実施の形態の動力伝達部品によれば、焼結材は、さらに焼戻し処理が施され、ロックウェルCスケール硬さがHRC50以上であるため、焼結材に高表面硬度と高靭性を付与することができる。よって変形性を向上することができる。
【0055】
ギヤおよびカムなどには歯折れなどの欠けが発生することが多い。本発明の一実施の形態の動力伝達部品であるギヤおよびカムの少なくともいずれかは、高密度の焼結材からなっているため、高い破壊強度を有することができる。これにより、ギヤおよびカムに歯折れなどの欠けが発生することを抑制することができる。よって、駆動部全体が停止するリスクを低減することができる。
【0056】
また、動力伝達部品を成形する他の方法として、MIM(金属射出成形)および押出成形が挙げられる。MIMは潤滑剤および造粒剤の量が一般に40容積%程度以上と非常に多いため、これらを除去するための脱脂時間が長くなるという問題がある。また、収縮率が高くなるという問題がある。また、押出成形では、歩留まりが悪いという問題がある。したがって、本発明の一実施の形態の動力伝達部品によれば、MIMおよび押出成形で成形された動力伝達部品に比べて、効率よく高密度の動力伝達部品を得ることができる。
【0057】
微細な原料粉末を用いることで成形体(グリーン体)を製作した際の原料粉末間の空隙が小さくなり、ひいては焼結材内部の空孔も小さくなる。空孔が小さくなることで、応力印加時に空孔周辺にかかる応力も小さくなる。そのため、破壊の原因になる亀裂の進展が抑制されるので高強度化が達成される。つまり、空孔径が大きいほど亀裂が進展しやすいので脆弱な焼結材となりやすい。
【0058】
極値統計法による焼結材に含まれる最大空孔の相当円直径が80μmよりも大きい場合、応力印加時に大きな空孔に起因して発生した亀裂が進展しやすいため焼結材が破壊される恐れがある。
【0059】
極値統計法とは、試料の検査の基準となる面積(検査基準面積)内の介在物の中から最大の介在物の大きさを測定し、統計処理により、予測を行う面積(予測面積)内での最大の介在物の大きさを推定可能な手法である。鉄系焼結材では大きな空孔が存在すると著しく低強度となる場合があったが、本法によれば焼結材中に含まれる最大空孔径を制御可能となり、高密度焼結体の機械的信頼性を向上できる。
【0060】
本発明の一実施の形態の動力伝達部品によれば、極値統計法による焼結材に含まれる最大空孔の相当円直径が80μm以下である。素形材中に含まれる最大空孔径を適切な大きさに制御できるようになったことにより、応力印加時に大きな空孔に起因して発生する亀裂の進展を抑制することができる。したがって、高強度化、高信頼性化を達成することができる。
【0061】
本発明の一実施の形態の動力伝達部品によれば、極値統計法による焼結材に含まれる最大空孔の相当円直径が40μm以下であるため、さらに素材中に含まれる最大空孔径を小さくすることができる。したがって、さらに高強度化、高信頼性化を達成することができる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例について説明する。
表1に示す材料および試料作製条件において、本発明の実施例として実施例1の試料および実施例2の試料、従来例として従来例1の試料をそれぞれ複数作製した。
【0063】
【表1】
【0064】
実施例1および実施例2では造粒粉を用い、比較例1では粉末プレス成形用粉末を用いた。各試料は、外径12mm、内径6mm、高さ8mmの円筒型焼結材とした。
【0065】
実施例1、実施例2および比較例1の相対密度、破壊強度として圧環強度を測定した。相対密度は、試料の密度を測定し、試料の材料であるSUS316Lの真密度と比較して算出した。SUS316Lの真密度は、7.98g/cm3とした。
【0066】
圧環強度は、試料を円周方向から圧縮する圧環試験を行い、円筒状の試料が破壊する時の強度を測定した。圧環速度は、1mm/minとした。
【0067】
実施例1、実施例2および比較例1の相対密度、圧環強度の測定結果を表2に示す。
【0068】
【表2】
【0069】
相対密度について、表2に示すように、実施例1の相対密度は92%以上となった。実施例2の相対密度は85%以上92%未満となった。比較例1の相対密度は85%未満となった。
【0070】
圧環強度について、表2に示すように、実施例1は、2500N/mm2で円周方向から圧縮して圧環試験を行った。実施例1は、亀裂の発生も認められず、破壊しなかった。実施例2は、1500N/mm2以上2500N/mm2未満で圧環試験を行った。実施例2は、微小な亀裂が発生する場合も見られたが、破壊には至らなかった。比較例1は、1500N/mm2未満で圧環試験を行った。比較例1では、亀裂が発生し、破壊した。
【0071】
続いて、実施例1、実施例2および比較例1の造粒粉、グリーン体および焼結材における試料表面の状態を説明する。
【0072】
図4および図7を参照して、実施例1の造粒粉の試料表面を示す。図5および図8を参照して、実施例2の造粒粉の試料表面を示す。図6および図9を参照して、比較例1の造粒粉の試料表面を示す。図4〜図9を参照して、実施例1および実施例2の原料粉末が比較例1の粉末プレス成形用粉末より小さいことがわかった。
【0073】
図10を参照して、実施例1のグリーン体の試料表面を示す。図11を参照して、実施例2のグリーン体の試料表面を示す。図12を参照して、実施例3のグリーン体の試料表面を示す。図10〜図12を参照して、実施例1および実施例2のグリーン体では原料粉末が比較例1より密に凝集しており、空孔が少ないことがわかった。
【0074】
図13を参照して、実施例1の焼結材の試料表面を示す。図14を参照して、実施例2の焼結材の試料表面を示す。図15を参照して比較例1の焼結材の試料表面を示す。図13〜図15を参照して、実施例1および実施例2の焼結材では、比較例1より空孔が少ないことがわかった。
【0075】
上記より、実施例1および実施例2は、比較例1より高密度化が達成されていることがわかった。
【0076】
また、表3に示す材料および試料作製条件において、本発明の実施例として実施例3および実施例4の試料をそれぞれ10個作製した。
【0077】
【表3】
【0078】
実施例3および実施例4ではNi粒子を2%含有した鉄合金造粒粉を用いた。実施例3では焼入れ処理を施した。実施例4では焼入れ処理および焼戻し処理を施した。焼入れ処理は、焼結処理後の降温時、850℃の温度から急冷した。焼戻し処理は、500℃の温度に加熱保持したのち、急冷した。各試料は、外径12mm、内径6mm、高さ8mmの円筒型焼結材とした。
【0079】
実施例3および実施例4の相対密度、圧環強度、ロックウェル硬さを測定した。相対密度は、試料の密度を測定し、試料の材料である2%Ni含有鉄合金の真密度と比較して算出した。2%Ni含有鉄合金の真密度は、7.89g/cm3とした。
【0080】
圧環強度は、試料を円周方向から圧縮する圧環試験を行い、圧環強度を測定した。圧環速度は、1mm/minとした。
【0081】
実施例3および実施例4の相対密度、圧環強度、ロックウェル硬さの測定結果を表4に示す。
【0082】
【表4】
【0083】
相対密度について、表4に示すように、実施例3および実施例4の相対密度はそれぞれ92%以上となった。
【0084】
圧環強度について、表4に示すように、実施例3および実施例4は、2500N/mm2で円周方向から圧縮して圧環試験を行った。実施例3および実施例4は、それぞれ亀裂の発生も認められず、破壊しなかった。
【0085】
ロックウェルCスケール硬さについて、表4に示すように、実施例3はHRC64となった。なお、実施例3においては、HRC50以上であればよい。実施例4はHRC50となった。
【0086】
また、実施例1、実施例2および比較例1について、いわゆる極値統計を用いて焼結材の内部に含まれる空孔径の最大値を推定した。なお、焼結材の内部の空孔径の極値分布は二重指数分布とした。推定方法は以下に示すとおりである。
【0087】
試料の検査の基準と成る面積を検査基準面積S0(mm2)とし、検査の回数を検査回数nとして、検査基準面積S0中の最大空孔面積の平方根SR(μm)を測定した。平方根SRは式(1)で示される。
【0088】
【数1】
【0089】
測定した平方根SRを小さい順に並べなおし、それぞれに番号j(j=1〜n)を付けた。それぞれの平方根SRjは式(2)で示される。
【0090】
【数2】
【0091】
それぞれの番号j(j=1〜n)について、式(3)から基準化変数yjを求めた。
【0092】
【数3】
【0093】
横軸を基準化変数yj、縦軸を平方根SRjとして、測定結果をプロットした。プロットより最大空孔分布近似直線を求め、最大空孔分布直線の傾きa、切片bを求めた。
【0094】
予測を行う面積を予測面積S(mm2)とした。予測面積Sおよび検査基準面積S0より再帰期間Tは式(4)で示される。
【0095】
【数4】
【0096】
再起期間Tを用いて式(5)により基準化変数yを求めた。
【0097】
【数5】
【0098】
基準化変数y、傾きa、切片bを式(6)に代入して、予測面積S中に含まれる最大空孔面積の平方根SRを求めた。本実施例では予測面積Sが1000mm2の場合の最大空孔面積の平方根SRについて評価した。
【0099】
【数6】
【0100】
最大空孔面積と同じ面積を有する円の直径を相当円直径とする。本実施例では相当円直径を用いて空孔径を評価した。
【0101】
実施例1、実施例2および比較例の最大空孔の相当円直径の評価結果を表5に示す。
【0102】
【表5】
【0103】
表2および表5を参照して、比較例1では相対密度85%未満で粗大な空孔が多く見られた。比較例1では最大空孔の相当円直径は84μmとなった。実施例2では相対密度85%以上92%未満で粗大な空孔は見られなかった。実施例2では最大空孔の相当円直径は67μmとなった。実施例1では相対密度92%以上で粗大な空孔は見られなかった。また実施例1では最大空孔の相当円直径は40μmとなった。
【0104】
上述のとおり、実施例1は、圧環試験において亀裂の発生も認められず破壊しなかった。実施例2は、圧環試験において微小な亀裂が発生する場合も見られたが破壊には至らなかった。一方、比較例1は、圧環試験において亀裂が発生し破壊した。
【0105】
上記に基づいて、発明者等は鋭意検討し、極値統計法による焼結材に含まれる最大空孔の相当円直径を80μm以下に制御すれば、応力印加時に空孔に起因して発生する亀裂の進展を抑制することができることを知得した。これにより、高強度化ならびに高信頼性化を達成することができることがわかった。
【0106】
さらに、極値統計法による焼結材に含まれる最大空孔の相当円直径を40μm以下に制御すれば、応力印加時に空孔に起因して発生する亀裂の進展をさらに抑制することができることを発明者等は知得した。これにより、さらなる高強度化、高信頼性化を達成することができることがわかった。なお、焼結材の空孔を無くすことも可能であるため、極値統計法による焼結材に含まれる最大空孔の相当円直径の下限は0μm以上となる。
【0107】
図16〜図18を参照して、実施例1、実施例2および比較例1の圧環試験後の試料の形状を示す。図16〜図18は、各試料の外径および内径が見えるように各試料高さ方向から見た図である。
【0108】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることを意図される。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明は、焼結材からなる動力伝達部品に特に有利に適用され得る。
【符号の説明】
【0110】
10 ギヤ、20 カム。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄を主成分とする原料粉末を造粒した造粒粉がプレス成形され、かつ焼成された焼結材からなる、動力伝達部品。
【請求項2】
前記焼結材の相対密度が85%以上である、請求項1に記載の動力伝達部品。
【請求項3】
前記焼結材の破壊強度が1500N/mm2以上である、請求項1または2に記載の動力伝達部品。
【請求項4】
前記原料粉末の粉末粒度(D50)が20μm以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の動力伝達部品。
【請求項5】
前記造粒粉の粉末粒度(D50)が500μm以下である、請求項1〜4のいずれかに記載の動力伝達部品。
【請求項6】
前記造粒粉がプレス成形される圧力は、400MPa以上800MPa以下である、請求項1〜5のいずれかに記載の動力伝達部品。
【請求項7】
前記焼結材は、さらに焼入れ処理が施され、ロックウェルCスケール硬さがHRC50以上である、請求項1〜6のいずれかに記載の動力伝達部品。
【請求項8】
前記焼結材は、さらに焼戻し処理が施され、ロックウェルCスケール硬さがHRC50以上である、請求項7に記載の動力伝達部品。
【請求項9】
前記動力伝達部品は、ギヤおよびカムの少なくともいずれかである、請求項1〜8のいずれかに記載の動力伝達部品。
【請求項10】
極値統計法による前記焼結材に含まれる最大空孔の相当円直径が80μm以下である、請求項1〜9のいずれかに記載の動力伝達部品。
【請求項11】
極値統計法による前記焼結材に含まれる最大空孔の相当円直径が40μm以下である、請求項10に記載の動力伝達部品。
【請求項1】
鉄を主成分とする原料粉末を造粒した造粒粉がプレス成形され、かつ焼成された焼結材からなる、動力伝達部品。
【請求項2】
前記焼結材の相対密度が85%以上である、請求項1に記載の動力伝達部品。
【請求項3】
前記焼結材の破壊強度が1500N/mm2以上である、請求項1または2に記載の動力伝達部品。
【請求項4】
前記原料粉末の粉末粒度(D50)が20μm以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の動力伝達部品。
【請求項5】
前記造粒粉の粉末粒度(D50)が500μm以下である、請求項1〜4のいずれかに記載の動力伝達部品。
【請求項6】
前記造粒粉がプレス成形される圧力は、400MPa以上800MPa以下である、請求項1〜5のいずれかに記載の動力伝達部品。
【請求項7】
前記焼結材は、さらに焼入れ処理が施され、ロックウェルCスケール硬さがHRC50以上である、請求項1〜6のいずれかに記載の動力伝達部品。
【請求項8】
前記焼結材は、さらに焼戻し処理が施され、ロックウェルCスケール硬さがHRC50以上である、請求項7に記載の動力伝達部品。
【請求項9】
前記動力伝達部品は、ギヤおよびカムの少なくともいずれかである、請求項1〜8のいずれかに記載の動力伝達部品。
【請求項10】
極値統計法による前記焼結材に含まれる最大空孔の相当円直径が80μm以下である、請求項1〜9のいずれかに記載の動力伝達部品。
【請求項11】
極値統計法による前記焼結材に含まれる最大空孔の相当円直径が40μm以下である、請求項10に記載の動力伝達部品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2011−94789(P2011−94789A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−196581(P2010−196581)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
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