説明

包接分子を含有するシクロデキストリンを含むリソグラフィー用下層膜形成組成物

【課題】
半導体装置製造のリソグラフィープロセスにおいて使用され、フォトレジストに比べて大きなドライエッチング速度を有し、フォトレジストとのインターミキシングを起こさず、半導体基板上のホールの充填性に優れた有機下層膜を形成するためのリソグラフィー用下層膜形成組成物を提供する。
【解決手段】 包接分子を含有するシクロデキストリンを含むリソグラフィー用下層膜形成組成物。包接分子はハロゲン分子、酸分子、塩基分子、酸発生剤、又は塩基発生剤である。シクロデキストリンは、シクロデキストリンに含有する水酸基を有機基に置き換えた化学修飾シクロデキストリンである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包接分子を含有するシクロデキストリンを含むリソグラフィー用下層膜形成組成物、それにより得られる下層膜、その下層膜を用いたレジストパターンの形成方法、更にはそれらを用いる半導体装置の製造方法に係わる。
【背景技術】
【0002】
従来から半導体デバイスの製造において、フォトレジストを用いたリソグラフィーによる微細加工が行われている。前記微細加工はシリコンウエハー基板等の半導体基板上にフォトレジストの薄膜を形成し、その上に半導体デバイスのパターンが描かれたマスクパターンを介して紫外線などの活性光線を照射し、現像し、得られたフォトレジストパターンを保護膜として基板をエッチング処理することにより、基板表面に、前記パターンに対応する微細凹凸を形成する加工法である。ところが、近年、半導体デバイスの高集積度化が進み、使用される活性光線もKrFエキシマレーザー(248nm)からArFエキシマレーザー(193nm)へと短波長化される傾向にある。これに伴い活性光線の基板からの乱反射や定在波の影響が大きな問題となってきた。そこで、この問題を解決すべく、フォトレジストと基板の間に反射防止膜(bottom anti−reflective coating)を設ける方法が広く検討されている。かかる反射防止膜としては、その使用の容易さなどから、吸光性物質と高分子化合物等とからなる有機反射防止膜について数多くの検討が行われている(特許文献1及び2を参照)。
【0003】
有機反射防止膜に要求される特性としては、光や放射線に対して大きな吸光度を有すること、フォトレジストとのインターミキシングが起こらないこと(フォトレジスト溶媒に不溶であること)、加熱焼成時に反射防止膜から上層のフォトレジストへの低分子物質の拡散が生じないこと、フォトレジストに比べて大きなドライエッチング速度を有すること等がある。
【0004】
また、近年、半導体装置のパターンルール微細化の進行に伴い明らかになってきた配線遅延の問題を解決するために、配線材料として銅を使用する検討が行われている。そして、それと共に半導体基板への配線形成方法としてデュアルダマシンプロセスの検討が行われている。そして、デュアルダマシンプロセスではビアホールが形成され、大きなアスペクト比を有する基板に対して反射防止膜が形成されることになる。そのため、このプロセスに使用される反射防止膜に対しては、ホールを隙間なく充填することができる埋め込み特性や、基板表面に平坦な膜が形成されるようになる平坦化特性などが要求されている。
【0005】
しかし、有機反射防止膜用の材料を大きなアスペクト比を有する半導体基板に適用することは難しく、近年、埋め込み特性や平坦化特性に重点をおいた材料が開発されるようになってきた(例えば、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6参照)。
【0006】
また、半導体などのデバイス製造において、誘電体層によるフォトレジスト層のポイズニング効果を減少させるために、架橋可能なポリマー等を含む組成物より形成されるバリア層を誘電体層とフォトレジスト層の間に設けるという方法が開示されている(特許文献7)。
【0007】
このように、近年の半導体装置の製造においては、反射防止効果を初め、さまざまな効果を達成するために、半導体基板とフォトレジスト層の間、すなわちフォトレジスト層の下層として、有機化合物を含む組成物から形成される有機系の下層膜が配置されるようになってきている。そして、多様性を増してきている下層膜への要求性能を満たすために、新しい下層膜用の組成物の開発が常に求められている。
【0008】
ところで、ある種の糖化合物を含む組成物が知られている。例えば、セルロース化合物を含む反射防止膜形成組成物が知られている(例えば、特許文献8、特許文献9参照。)。また、多糖類であるブルランを主成分とする水溶性反射防止用有機膜を用いたパターン形成方法が開示されている(例えば、特許文献10参照。)。また、シリル置換基を有する多糖類を含有する反射防止膜材料について記載されている(例えば、特許文献11参照)。
【0009】
デキストリンの水酸基の50%をエステル化した化合物をリソグラフィー用下層膜形成組成物に用いたことが記載されている(特許文献12)。
【特許文献1】米国特許第5919599号明細書
【特許文献2】米国特許第5693691号明細書等
【特許文献3】特開2000−294504号公報
【特許文献4】特開2002−47430号公報
【特許文献5】特開2002−190519号公報
【特許文献6】国際公開第02/05035号パンフレット
【特許文献7】特開2002−128847号公報に
【特許文献8】国際公開第99/56178号パンフレット
【特許文献9】国際公開第02/071155号パンフレット
【特許文献10】特開昭60−223121号公報
【特許文献11】特開2002−107938号公報
【特許文献12】国際公開第05/043248号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、半導体装置の製造に用いることのできる下層膜形成組成物を提供することにある。そして、上層に塗布、形成されるフォトレジストとのインターミキシングを起こさず、フォトレジストに比較して大きなドライエッチング速度を有するリソグラフィー用下層膜及び該下層膜を形成するための下層膜形成組成物を提供することである。
【0011】
また、本発明の目的は、半導体基板上のホールの充填性に優れた下層膜を形成するためのリソグラフィー用下層膜形成組成物を提供することである。
【0012】
また、本発明の目的は、半導体装置製造のリソグラフィープロセスにおいて、半導体基板上に形成されたフォトレジストへの露光照射光の基板からの反射を軽減させる下層反射防止膜、凹凸のある半導体基板を平坦化するための平坦化膜、加熱焼成時に半導体基板から発生する物質によるフォトレジストの汚染を防止する膜等として使用できるリソグラフィー用下層膜及び該下層膜を形成するための下層膜形成組成物を提供することである。そして、該下層膜形成組成物を用いたリソグラフィー用下層膜の形成方法、及びフォトレジストパターンの形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明は第1観点として、包接分子を含有するシクロデキストリンを含むリソグラフィー用下層膜形成組成物、
第2観点として、包接分子がハロゲン分子、酸分子、塩基分子、酸発生剤、又は塩基発生剤である第1観点に記載のリソグラフィー用下層膜形成組成物、
第3観点として、上記シクロデキストリンは、α型、β型、γ型、又はδ型シクロデキストリンである第1観点又は第2観点に記載のリソグラフィー用下層膜形成組成物、
第4観点として、上記シクロデキストリンは、その分子中に含まれる水酸基が式(1):
【0014】
【化1】

【0015】
(式(1)中、Rはハロゲン基、炭素原子数1〜6のアルコキシ基、フェニル基、シアノ基及びニトロ基からなる群から選ばれる基で置換されていてもよい炭素原子数1〜10のアルキル基若しくは芳香族基、又は式(2):
【0016】
【化2】

【0017】
で表される基を表し、式(2)中、Rはハロゲン基、炭素原子数1〜6のアルコキシ基、フェニル基、シアノ基及びニトロ基からなる群から選ばれる基で置換されていてもよい炭素原子数1〜10のアルキル基または芳香族基を表す。)で表される有機基に置き換えた化学修飾シクロデキストリンである第1観点乃至第3観点のいずれか一つに記載のリソグラフィー用下層膜形成組成物、
第5観点として、上記シクロデキストリンは、その分子中に含まれる水酸基が10〜90%の割合で式(1)の有機基に置き換えた化学修飾シクロデキストリンを含む第1観点乃至第4観点のいずれか一つに記載のリソグラフィー用下層膜形成組成物、
第6観点として、更にポリマーと溶媒を含有する第1観点乃至第5観点のいずれか一つに記載のリソグラフィー用下層膜形成組成物、
第7観点として、更に架橋性化合物と架橋触媒を含有する第1観点乃至第6観点のいずれか一つに記載のリソグラフィー用下層膜形成組成物、及び
第8観点として、第1観点乃至第7観点のいずれか一つに記載のリソグラフィー用下層膜形成組成物を半導体基板上に塗布し、焼成して下層膜を形成する工程、前記下層膜上にフォトレジスト層を形成する工程、前記下層膜と前記フォトレジスト層で被覆された半導体基板を露光する工程、露光後にフォトレジスト層を現像する工程、を含む半導体装置の製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明のリソグラフィー用下層膜形成組成物により、ボイド(隙間)を発生することなくホール内部の高い充填性を達成できる。
【0019】
また、本発明のリソグラフィー用下層膜形成組成物により、ホールを有する基板の凹凸を埋めて平坦化することができる。そのため、その上に塗布、形成されるフォトレジスト等の膜厚の均一性を上げることができる。そのため、ホールを有する基板を用いたプロセスにおいても、良好なフォトレジストのパターン形状を形成することができる。
【0020】
本発明のリソグラフィー用下層膜形成組成物により、フォトレジストと比較して大きなドライエッチング速度を有し、フォトレジストとのインターミキシングを起こさない下層膜を提供することができる。
そして、本発明の下層膜は、反射防止膜、平坦化膜及びフォトレジストの汚染防止膜等として用いることができる。これにより、半導体装置製造のリソグラフィープロセスにおけるフォトレジストパターンの形成を、容易に、精度良く行なうことができるようになる。
【0021】
また、本発明の下層膜形成組成物より形成される下層膜は包接作用を有するシクロデキストリン化合物を含む。シクロデキストリンが包接分子としてハロゲン分子(特にヨウ素分子、ヨウ素含有化合物)を含有しているためエッチングレートが高い。シクロデキストリンが包接分子として、酸分子、塩基分子、熱酸発生剤、又は熱塩基発生剤を含有しているため、該包接分子を含むシクロデキストリンを含む下層膜形成組成物の加熱により下層膜が形成される過程でシクロデキストリンに包接された酸成分や塩基成分が下層膜中に放出され熱硬化膜の硬化を促進させる。
【0022】
また、シクロデキストリンが包接分子として、光酸発生剤、光塩基発生剤を包含しているため、該包接分子を含むシクロデキストリンを含む下層膜形成組成物の加熱により、光酸発生剤又は光塩基発生剤が下層膜中に放出され、上部のフォトレジスト膜の露光時に下層膜からフォトレジスト膜に酸又は塩基を供給し、フォトレジスト膜のプロファイルを向上させることができる。また、シクロデキストリンから放出された光酸発生剤や光塩基発生剤はフォトレジストの露光時に酸や塩基を発生し、それによってアルカリ溶解性を示す樹脂に転換し現像液により除去することが可能となる。
【0023】
また、半導体基板に含まれるアミン成分に由来し、焼成時に発生する低分子化合物をシクロデキストリンが含有された下層膜が吸着することができ、これによって、レジストポイズニング現象(フォトレジストの保護基にダメージを与える現象)を抑制することができる。
【0024】
また、本願発明ではシクロデキストリンが酸分子、塩基分子、酸発生剤、塩基発生剤等を包接分子として含んでいるため、リソグラフィー用下層膜形成組成物が溶媒中でそれら成分と、ポリマー成分や架橋剤成分が直接接触することはないので、リソグラフィー用下層膜形成組成物の保存安定性の向上が達成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明のリソグラフィー用下層膜形成組成物は、包接分子を含有するシクロデキストリン化合物を含む。そして、ポリマー化合物、架橋性化合物、架橋触媒、界面活性剤、溶媒等を含むことができる。
【0026】
本発明の下層膜形成組成物に占める固形分の割合としては、各成分が溶媒に均一に溶解している限り特に限定はないが、例えば0.5〜50質量%であり、または1〜30質量%であり、または1〜25質量%であり、または1〜15質量%である。ここで固形分とはリソグラフィー用下層膜形成組成物の全成分から溶媒を除いたものである。
【0027】
シクロデキストリンは環状オリゴ糖とも呼ばれ、α−D−グルコピラノース基がα−1,4−グリコシド結合によって環状につながったもので、そのピラノース基の個数によりα型(6個のピラノース基を有する。シクロヘキサアミロース構造、空孔率=0.45〜0.60nm)、β型(7個のピラノース基を有する。シクロヘプタアミロース、空孔率=0.70〜0.80nm)、γ型(8個のピラノース基を有する。シクロオクタアミロース、空孔率=0.85〜1.0nm)、δ型(9個のピラノース基を有する。シクロノナアミロース)が存在する。
【0028】
グルコース単位の中で2位、3位、及び6位に水酸基が存在し、6位に存在する水酸基は1級水酸基であり、2位及び3位に存在する水酸基は2級である。
【0029】
本発明において使用されるシクロデキストリンは、α型、β型、γ型、及びδ型のシクロデキストリンを用いる場合(ケース1)と、それらの水酸基が式(1)で表される有機基となった化学修飾シクロデキストリンを用いる場合(ケース2)と、前者と後者の混合物を用いる場合(ケース3)がある。本発明ではこれらのシクロデキストリン化合物を用いることができる。
【0030】
本発明のリソグラフィー用下層膜形成組成物に使用されるシクロデキストリンは、その分子中に含まれる水酸基が化学的に未修飾のシクロデキストリンを用いる場合がケース1である。
また、その分子中に含まれる水酸基が化学修飾されたシクロデキストリンを用いる場合がケース2であり、その2位、3位及び6位の総水酸基の10〜90%が式(1)で表される有機基で化学修飾されたものである。
シクロデキストリンの水酸基が式(1)〔式(1)中、Rはハロゲン基、炭素原子数1〜6のアルコキシ基、フェニル基、シアノ基及びニトロ基からなる群から選ばれる基で置換されていてもよい炭素原子数1〜10のアルキル基若しくは芳香族基、又は式(2)で表される基を表し、式(2)中、Rはハロゲン基、炭素原子数1〜6のアルコキシ基、フェニル基、シアノ基及びニトロ基からなる群から選ばれる基で置換されていてもよい炭素原子数1〜10のアルキル基または芳香族基を表す。〕で表される有機基に置き換えた化学修飾シクロデキストリンを用いることができる。
上記式(1)において炭素原子数1〜10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、ノルマルペンチル基、シクロヘキシル基及びノルマルオクチル基等である。炭素原子数1〜6のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基及びシクロヘキシルオキシ基等である。ハロゲン基としては、クロロ基、フルオロ基、ブロモ基及びヨード基である。芳香族基としては、ベンゼン環、ナフタレン環及びアントラセン環等の炭素環式芳香族基及びピリジン環、ピリミジン環、トリアジン環、チアゾール環、及びイミダゾール環等の含窒素芳香族基等である。
【0031】
式(1)中のRが前記炭素原子数1〜10のアルキル基または前記芳香族基である場合とは、シクロデキストリンの水酸基がエーテル基となっている場合である。Rが前記式(2)で表される基である場合とは、シクロデキストリンの水酸基がエステル基となっている場合である。
【0032】
シクロデキストリンは多数の水酸基を有する化合物であり、溶媒に対する溶解性が低い。そのため、溶媒を用いた下層膜形成組成物に使用することは困難である。そのため、本発明のリソグラフィー用下層膜形成組成物においては、水酸基をエーテル基またはエステル基とし、溶媒への溶解性を向上させたシクロデキストリン化合物が使用される。本発明のリソグラフィー用下層膜形成組成物に使用されるシクロデキストリン化合物は、シクロデキストリンに含まれる水酸基の総数の10%以上、例えば10%〜90%、または20%〜80%、または30%〜60%が式(1)で表される基、すなわちエーテル基またはエステル基となったシクロデキストリン化合物である。そして、シクロデキストリン化合物において式(1)で表される基は、エーテル基のみの場合、エステル基のみの場合、及びエーテル基とエステル基が混在する場合があり得るが、そのいずれの場合であってもよい。
【0033】
式(1)中のRの具体例としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、シクロヘキシル基、ノルマルオクチル基、シアノメチル基、メトキシメチル基、ベンジル基、クロロプロピル基、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フルオロフェニル基、ピリジル基、2−ピリミジニル基、トリアジニル基、4,6−ジメトキシトリアジン−2−イル基、2,4−ジニトロフェニル基及び2−クロロトリアジン−4−イル基等である。
【0034】
式(2)中のRの具体例としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、シクロヘキシル基、ノルマルオクチル基、フェニルエチル基、トリフルオロメチル基、クロロメチル基、シアノメチル基、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フルオロフェニル基、エトキシメチル基、ブロモフェニル基、クロロナフチル基、ニトロフェニル基、ピリジル基、2−ピリミジニル基、トリアジニル基、ベンジル基、2−チアゾリル基及び2−ベンゾオキサゾリル基等である。
【0035】
本願発明に使用されるシクロデキストリンの水酸基の10〜90%が式(1)の有機基で置き換えた化学修飾シクロデキストリンは次の方法で得ることが出来る。
例えば、適当な溶媒中、シクロデキストリンと脱離基を有するアルキル化合物または芳香族化合物とを塩基存在下で反応させることによって、式(1)中のRが前記炭素原子数1〜10のアルキル基または前記芳香族基であるシクロデキストリン化合物を得ることができる。脱離基を有するアルキル化合物としては、ヨウ化メチル、ヨウ化エチル、2−ヨードプロパン、1−ブロモペンタン、ベンジルブロミド、メトキシメチルクロリド、ブロモアセトニトリル及び1−ブロモオクタン等である。脱離基を有する芳香族化合物としては、2−クロロトリアジン、2−クロロ−4,6−ジメトキシトリアジン及び2−クロロピリミジン、2,4−ジニトロクロロベンゼン等である。また、塩基としては、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸カリウム、ナトリウムメトキシド、ピリジン、4−(N,N−ジメチルアミノ)ピリジン、及びトリエチルアミン等である。
【0036】
また、例えば、適当な溶媒中、シクロデキストリンとフェノール性水酸基を有する芳香族化合物とをトリフェニルホスフィン及びアゾジカルボン酸ジエチルの存在下で反応(光延反応)させることによって、式(1)中のRが前記芳香族基であるシクロデキストリン化合物を得ることができる。フェノール性水酸基を有する芳香族化合物としては、フェノール、パラクレゾール、1−ナフトール、2−ナフトール、2−ヒドロキシアントラセン、9−ヒドロキシアントラセン、4−ヒドロキシピリジン、及び3−ヒドロキシピリジン等である。
【0037】
また、式(1)中のRが前記式(2)で表される基であるシクロデキストリン化合物は、シクロデキストリンと酸クロリド、酸ブロミド、カルボニルイミダゾール化合物、カルボン酸活性エステル化合物及び酸無水物等との反応によって、水酸基をエステル基に変換することによって得ることができる。例えば、シクロデキストリンの水酸基のアセチルオキシ基への変換は、ピリジンなどの塩基を用いた条件下、シクロデキストリンをアセチルクロリドや無水酢酸と反応させることによって行なうことができる。
【0038】
水酸基のエステル基への変換には、酢酸、プロピオン酸、酪酸、シクロヘキサンカルボン酸、クロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、シアノ酢酸、エトキシ酢酸、イソ酪酸、安息香酸、ブロモ安息香酸、ヒドロキシ安息香酸、ヨード安息香酸、ニトロ安息香酸、メチル安息香酸、エトキシ安息香酸、tert−ブトキシ安息香酸、ナフタレンカルボン酸、クロロナフタレンカルボン酸、ヒドロキシナフタレンカルボン酸、及びアントラセンカルボン酸等のカルボン酸化合物から誘導される酸クロリド、酸ブロミド、カルボニルイミダゾール化合物、カルボン酸活性エステル化合物を使用することができる。また、これらのカルボン酸化合物の無水物を用いることもできる。さらに、シクロデキストリンの水酸基のエステル基への変換は、ジシクロヘキシルカルボジイミドなどの縮合剤存在下、シクロデキストリンに前記のカルボン酸化合物を反応させることによっても行なうことができる。
【0039】
シクロデキストリンの水酸基のエステル基への変換の割合は、使用する酸クロリド、酸ブロミド、カルボニルイミダゾール化合物、カルボン酸活性エステル化合物及び酸無水物等の当量を変えることによって調整することができる。
【0040】
シクロデキストリン化合物に残っている水酸基の量は、一般的な水酸基価測定法によって測定することができる。例えば、ピリジン存在下でシクロデキストリン化合物を無水酢酸によってアセチル化し、水を加えて過剰の無水酢酸を酢酸に変え、この酢酸をアルカリで定量することによりシクロデキストリン化合物の水酸基残量を測定することができる。
【0041】
シクロデキストリン、及びそれを化学修飾したシクロデキストリンは、王冠のようなシクロデキストリンの構造の内側は疎水性で外側は親水性という性質を有する。従ってこれらの化合物を疎水性の高い有機溶媒に溶解させるためには、シクロデキストリンの外側に存在する親水性の構造(水酸基)の一部を化学修飾により有機溶媒に親和性を持たせた有機基に変換させる必要がある。そのためシクロデキストリンの水酸基の10〜90%が式(1)の有機基に置き換わった構造の化学修飾シクロデキストリンを用いることができる。親水性の高い有機溶媒を用いる場合は、水酸基が未修飾のシクロデキストリン自体を用いるか、又は水酸基が式(1)の有機基に置き換わった率が低い(例えば10〜30%程度)化学修飾シクロデキストリンを用いることができる。
【0042】
本願発明に用いられる包接分子を含有するシクロデキストリンとは、王冠のような上記シクロデキストリンの構造の内側に分子を包接したホスト−ゲスト化合物である。
【0043】
包接分子は、上記シクロデキストリンに対して1〜80質量%、好ましくは1〜50質量%、更に好ましくは1〜30質量%の割合で含有する。
【0044】
包接分子と上記シクロデキストリンとはモル比で1:1の錯体形成を基本とするが、包接分子が嵩高い場合には、包接分子と上記シクロデキストリンとはモル比で1:2の割合で錯体を形成することもできる。これは上記シクロデキストリンがイス型配座の底部(2級水酸基側)を包接分子に向けて、包接分子をその両側から挟み込む形の樽型の錯体である。また包接分子の形状によっては包接分子と上記シクロデキストリンとはモル比で1:3、及び1:4の錯体を形成することができる。従ってシクロデキストリン中の包接分子の割合は、全シクロデキストリン中の包接分子の割合で表される。
【0045】
例えばβ−シクロデキストリンのヨウ素包接体(β−cyclodextrin iodine complex)は、有効ヨウ素量が5〜20質量%品が市販されている。また、メチル化−β−シクロデキストリンのヨウ素包接体(Methyl−β−cyclodextrin iodine complex、ヒドロキシル基の一部がメトキシ基に変換されたもの)は、有効ヨウ素量が3〜15%品が市販されている。
【0046】
上記シクロデキストリンの内側に取り込まれる包接分子は、ハロゲン分子、酸分子、塩基分子、酸発生剤、及び塩基発生剤が挙げられる。
【0047】
ハロゲン分子としては、フッ素分子、塩素分子、臭素分子、ヨウ素分子であり、特にヨウ素分子が好ましい。
【0048】
酸分子としては塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素、硫化水素、硫酸、リン酸、硝酸、シュウ酸、安息香酸、p−トルエンスルホン酸、ピリジニウム−p−トルエンスルホン酸、サリチル酸、スルホサリチル酸、4−クロロベンゼンスルホン酸、4−ヒドロキシベンゼンスルホン酸、ベンゼンジスルホン酸、1−ナフタレンスルホン酸、及びピリジニウム−1−ナフタレンスルホン酸等が挙げられ、特に塩化水素、p−トルエンスルホン酸が好まし。
【0049】
塩基分子としては、アンモニアやアミンであり、アミンとしては例えばメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、オクチルアミン等の脂肪族第一アミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、メチルエチルアミン、ジイソプロピルアミン等の脂肪族第二アミン、トリエチルアミン、トリエチルアミン、メチルジエチルアミン、トリブチルアミン等の脂肪族第三アミン、アリルアミン、ジアリルアミン等の脂肪族不飽和アミン、シクロプロピルアミン、シクロヘキシルアミン等の脂環式アミン、アニリン、ベンジルアミン、ジフェニルアミン、トリフェニルアミン、ナフチルアミン等の芳香族アミンが挙げられ、アンモニア、メチルアミン等が特に好ましい。
【0050】
光酸発生剤は例えば、オニウム塩化合物、スルホンイミド化合物、及びジスルホニルジアゾメタン化合物等が挙げられる。
【0051】
オニウム塩化合物としてはジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフエート、ジフェニルヨードニウムトリフルオロメタンスルホネート、ジフェニルヨードニウムノナフルオロ−ノルマルブタンスルホネート、ジフェニルヨードニウムパーフルオロ−ノルマルオクタンスルホネート、ジフェニルヨードニウムカンファースルホネート、ビス(4−tert−ブチルフェニル)ヨードニウムカンファースルホネート及びビス(4−tert−ブチルフェニル)ヨードニウムトリフルオロメタンスルホネート等のヨードニウム塩化合物、及びトリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、トリフェニルスルホニウムノナフルオロ−ノルマルブタンスルホネート、トリフェニルスルホニウムカンファースルホネート及びトリフェニルスルホニウムトリフルオロメタンスルホネート等のスルホニウム塩化合物等が挙げられる。
【0052】
スルホンイミド化合物としては、例えばN−(トリフルオロメタンスルホニルオキシ)スクシンイミド、N−(ノナフルオロ−ノルマルブタンスルホニルオキシ)スクシンイミド、N−(カンファースルホニルオキシ)スクシンイミド及びN−(トリフルオロメタンスルホニルオキシ)ナフタルイミド等が挙げられる。
【0053】
ジスルホニルジアゾメタン化合物としては、例えば、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)ジアゾメタン、ビス(シクロヘキシルスルホニル)ジアゾメタン、ビス(フェニルスルホニル)ジアゾメタン、ビス(p−トルエンスルホニル)ジアゾメタン、ビス(2,4−ジメチルベンゼンスルホニル)ジアゾメタン、及びメチルスルホニル−p−トルエンスルホニルジアゾメタン等が挙げられる。
【0054】
光塩基発生剤は例えば、ビス[[(2−ニトロベンジル)オキシ]カルボニルへキサン−1,6−ジアミン]、ニトロベンジルシクロへキシルカルバメート、ジ(メトキシベンジル)ヘキサメチレンジカルバメート等が挙げられる。
【0055】
このシクロデキストリン及び化学修飾シクロデキストリンの立体構造の内側へ包接分子を取り込み、包接分子を含有するシクロデキストリン及び化学修飾シクロデキストリンを製造する方法は公知方法で行われる。例えば、包接分子がガス状分子であれば、上記シクロデキストリンにガス状分子(例えばハロゲン分子、アンモニア、塩化水素)を、固体−気体で接触させることにより得られる。包接分子がガス状分子の時に、上記シクロデキストリンを溶解させた溶媒にガス状分子(例えばハロゲン分子、アンモニア、及び塩化水素である。)を吹き込み、液体−気体で接触させることにより得られる。
また、包接分子が有機溶媒に可溶性であれば、包接分子を溶解した有機溶媒に上記シクロデキストリンを溶解させ、液体−液体で包接させることができる。
【0056】
本発明のリソグラフィー用下層膜形成組成物は架橋性化合物を含む。架橋性化合物としては、上記シクロデキストリン中の水酸基と反応可能な置換基を二つ以上、例えば二乃至六個、または二乃至四個、有する化合物が使用される。
【0057】
このような架橋性化合物が使用されることにより、下層膜を形成するための焼成時に、シクロデキストリン化合物と架橋性化合物との間で反応が起こり、形成される下層膜は架橋構造を有することになる。その結果、下層膜は強固となり、その上層に塗布されるフォトレジストの溶液に使用されている有機溶媒に対する溶解性が低いものとなる。シクロデキストリン化合物中の水酸基と反応可能な置換基としてはイソシアネート基、エポキシ基、ヒドロキシメチルアミノ基、及びアルコキシメチルアミノ基等が挙げられる。そのため、これらの置換基を二つ以上、例えば二乃至六個、または二乃至四個、有する化合物が架橋性化合物として使用することができる。
【0058】
本発明の架橋性化合物としては、ヒドロキシメチル基またはアルコキシメチル基で置換された窒素原子を有する含窒素化合物が挙げられる。ヒドロキシメチル基、メトキシメチル基、エトキシメチル基、ブトキシメチル基、及びヘキシルオキシメチル基等の基で置換された窒素原子を有する含窒素化合物である。
【0059】
具体的には、ヘキサメトキシメチルメラミン、テトラメトキシメチルベンゾグアナミン、1,3,4,6−テトラキス(ブトキシメチル)グリコールウリル、1,3,4,6−テトラキス(ヒドロキシメチル)グリコールウリル、1,3−ビス(ヒドロキシメチル)尿素、1,1,3,3−テトラキス(ブトキシメチル)尿素、1,1,3,3−テトラキス(メトキシメチル)尿素、1,3−ビス(ヒドロキシメチル)−4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリノン及び1,3−ビス(メトキシメチル)−4,5−ジメトキシ−2−イミダゾリノン等の含窒素化合物が挙げられる。
【0060】
架橋性化合物としては、また、三井サイテック(株)製メトキシメチルタイプメラミン化合物(商品名サイメル300、サイメル301、サイメル303、サイメル350)、ブトキシメチルタイプメラミン化合物(商品名マイコート506、マイコート508)、グリコールウリル化合物(商品名サイメル1170、パウダーリンク1174)、メチル化尿素樹脂(商品名UFR65)、ブチル化尿素樹脂(商品名UFR300、U−VAN10S60、U−VAN10R、U−VAN11HV)、大日本インキ化学工業(株)製尿素/ホルムアルデヒド系樹脂(高縮合型、商品名ベッカミンJ−300S、ベッカミンP−955、ベッカミンN)等の市販されている化合物を挙げることができる。
【0061】
また、架橋性化合物としては、アミノ基の水素原子がヒドロキシメチル基またはアルコキシメチル基で置換された前記のようなメラミン化合物、尿素化合物、グリコールウリル化合物及びベンゾグアナミン化合物を縮合させて得られる化合物であってもよい。例えば、米国特許6323310号に記載されている、メラミン化合物(商品名サイメル303)とベンゾグアナミン化合物(商品名サイメル1123)から製造される高分子量の化合物を架橋性化合物として使用することができる。
【0062】
また、架橋性化合物としては、N−ヒドロキシメチルアクリルアミド、N−メトキシメチルメタクリルアミド、N−エトキシメチルアクリルアミド及びN−ブトキシメチルメタクリルアミド等のヒドロキシメチル基またはアルコキシメチル基で置換されたアクリルアミド化合物またはメタクリルアミド化合物を使用して製造されるポリマー化合物を用いることができる。そのようなポリマー化合物としては、例えば、ポリ(N−ブトキシメチルアクリルアミド)、N−ブトキシメチルアクリルアミドとスチレンの共重合体、N−ヒドロキシメチルメタクリルアミドとメチルメタクリレートの共重合体、N−エトキシメチルメタクリルアミドとベンジルメタクリレートの共重合体、及びN−ブトキシメチルアクリルアミドとベンジルメタクリレートと2−ヒドロキシプロピルメタクリレートの共重合体等を挙げることができる。
【0063】
架橋性化合物は、一種の化合物のみを使用することができ、また、二種以上の化合物を組み合わせて用いることもできる。
【0064】
架橋性化合物はシクロデキストリン化合物100質量部に対して1〜100質量部、または3〜70質量部、または5〜50質量部、または10〜40質量部、または20〜30質量部で使用することができる。架橋性化合物の種類や含有量を変えることによって、フォトレジストプロファイルや下地基板の段差被覆性を調整することができる。
【0065】
本発明のリソグラフィー用下層膜形成組成物は架橋触媒を含む。架橋触媒を使用することにより、架橋性化合物の反応が促進される。
【0066】
架橋触媒としては、p−トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、メタンスルホン酸、ピリジニウム−p−トルエンスルホン酸、サリチル酸、カンファースルホン酸、スルホサリチル酸、クエン酸、安息香酸、及びヒドロキシ安息香酸等の酸化合物が使用できる。
【0067】
架橋触媒としては、芳香族スルホン酸化合物が使用できる。芳香族スルホン酸化合物の具体例としては、p−トルエンスルホン酸、ピリジニウム−p−トルエンスルホン酸、スルホサリチル酸、4−クロロベンゼンスルホン酸、4−ヒドロキシベンゼンスルホン酸、ベンゼンジスルホン酸、1−ナフタレンスルホン酸、及びピリジニウム−1−ナフタレンスルホン酸等を挙げることができる。
【0068】
架橋触媒は、一種のみを使用することができ、また、二種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0069】
架橋触媒はシクロデキストリン化合物100質量部に対して0.01〜10質量部、または0.05〜8質量部、または0.1〜5質量部、または0.3〜3質量部、または0.5〜1質量部で使用することができる。
【0070】
本発明のリソグラフィー用下層膜形成組成物はポリマー化合物を含むことができる。ポリマー化合物としては、特にその種類が限定されるものではない。ポリエステル、ポリスチレン、ポリイミド、アクリルポリマー、メタクリルポリマー、ポリビニルエーテル、フェノールノボラック、ナフトールノボラック、ポリエーテル、ポリアミド、ポリカーボネート等の付加重合ポリマー及び縮重合ポリマーを使用することができる。光吸収部位として機能するベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、トリアジン環、キノリン環、及びキノキサリン環等の芳香環構造を有するポリマー化合物が好ましく使用される。
【0071】
ポリマー化合物としては例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレートまたは2−ヒドロキシプロピルメタクリレートを使用し、ポリマー化合物を構成する全単位構造中にこれらモノマー成分を50%〜100%の割合で有するポリマー化合物を好ましく使用することができる。
【0072】
ポリマー化合物の合成には、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレートまたは2−ヒドロキシプロピルメタクリレートのみを使用することもできる。また、前記単位構造の割合の条件を満たす範囲内で、前記アクリレート化合物または前記メタクリレート化合物と重合反応可能な化合物を、ポリマー化合物の合成に使用することができる。そのような重合反応可能な化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル化合物、メタクリル酸エステル化合物、アクリルアミド化合物、メタクリルアミド化合物、ビニル化合物、スチレン化合物、マレイミド化合物、マレイン酸無水物及びアクリロニトリル等が挙げられる。
【0073】
ポリマー化合物の具体例としては、ポリ(2−ヒドロキシエチルアクリレート)、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(2−ヒドロキシプロピルアクリレート)、ポリ(2−ヒドロキシプロピルメタクリレート)、2−ヒドロキシエチルアクリレートと2−ヒドロキシプロピルアクリレートの共重合ポリマー、2−ヒドロキシエチルアクリレートと2−ヒドロキシプロピルアクリレートの共重合ポリマー、2−ヒドロキシエチルアクリレートとメチルメタクリレートの共重合ポリマー、2−ヒドロキシプロピルメタクリレートとエチルアクリレートの共重合ポリマー、2−ヒドロキシプロピルメタクリレートとベンジルメタクリレートの共重合ポリマー、2−ヒドロキシエチルメタクリレートとアントリルメチルメタクリレートの共重合ポリマー、2−ヒドロキシエチルメタクリレートとスチレンの共重合ポリマー及び2−ヒドロキシエチルアクリレートと4−ヒドロキシスチレンの共重合ポリマー等が挙げられる。
【0074】
ポリマー化合物を使用することによって、下層膜の屈折率、減衰係数及びドライエッチング速度等を調整することができる。
【0075】
ポリマー化合物の分子量としては、重量平均分子量として、例えば、1000〜300000であり、または3000〜100000であり、また、例えば5000〜50000であり、または9000〜20000である。
【0076】
本発明のリソグラフィー用下層膜形成組成物にポリマー化合物が含まれる場合、シクロデキストリン化合物100質量部に対して1〜1000質量部、または10〜500質量部、または20〜200質量部、または30〜100質量部、または40〜50質量部で使用することができる。
【0077】
本発明のリソグラフィー用下層膜形成組成物の溶媒としては、前記固形分を溶解し、均一溶液とできるものであれば、使用することができる。そのような溶媒としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールプロピルエーテルアセテート、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、2−ヒドロキシプロピオン酸エチル、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸エチル、エトキシ酢酸エチル、ヒドロキシ酢酸エチル、2−ヒドロキシ−3−メチルブタン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸エチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、3−エトキシプロピオン酸メチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、水及び乳酸ブチル等を用いることができる。これらの溶媒は単独または二種以上の組合せで使用することができる。さらに、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート等の高沸点溶媒を混合して使用することができる。
【0078】
また、下層膜の形成では、後述のように半導体基板に本発明の下層膜形成組成物が塗布され、その後焼成が行なわれる。焼成温度の点から、溶媒の沸点は145℃〜220℃、または155℃〜200℃、または160℃〜180℃の範囲にあることが好ましい。特に、高さ/直径で示されるアスペクト比が1以上のホールを有する半導体基板に対して使用する場合に、溶媒の沸点は前記の範囲にあることが好ましい。このような、比較的高い沸点の溶媒を使用することにより、焼成時における下層膜形成組成物の流動性を、一定時間、保つことができる。そのため、下層膜形成組成物から形成される下層膜によるホール内部充填性や平坦化性を向上させることができる。前記溶媒の中で乳酸ブチル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、シクロヘキサノン及びジエチレングリコールモノメチルエーテル、またはそれらの混合物が好ましい。
【0079】
本発明のリソグラフィー用下層膜形成組成物には、必要に応じて界面活性剤、レオロジー調整剤及び接着補助剤等を添加することができる。界面活性剤はピンホールやストレーション等の発生を抑制するのに有効である。レオロジー調整剤は、下層膜形成組成物の流動性を向上させ、特に焼成工程において、ホール内部への下層膜形成組成物の充填性を高めるのに有効である。接着補助剤は、半導体基板またはフォトレジストと下層膜の密着性を向上させ、特に現像時のフォトレジストの剥離を抑制するのに有効である。
【0080】
界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンオクチルフエノールエーテル、ポリオキシエチレンノニルフエノールエーテル等のポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロツクコポリマー類、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート、ソルビタントリステアレート等のソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等のノニオン系界面活性剤、商品名エフトップEF301、EF303、EF352((株)トーケムプロダクツ製)、商品名メガファックF171、F173、R−08、R−30(大日本インキ化学工業(株)製)、フロラードFC430、FC431(住友スリーエム(株)製)、商品名アサヒガードAG710,サーフロンS−382、SC101、SC102、SC103、SC104、SC105、SC106(旭硝子(株)製)等のフッ素系界面活性剤、及びオルガノシロキサンポリマ−KP341(信越化学工業(株)製)等を挙げることができる。これらの界面活性剤は単独で使用してもよいし、また二種以上の組合わせで使用することもできる。本発明の下層膜形成組成物において界面活性剤が含まれる場合、その含有量は下層膜形成組成物の全成分中、通常0.2質量%以下、または0.1質量%以下である。
【0081】
以下、本発明のリソグラフィー用下層膜形成組成物の使用について説明する。
【0082】
本発明の下層膜形成組成物を適用する半導体基板としては、例えば、図1に示すような高さ/直径で示されるアスペクト比が1以上のホールを有する半導体装置製造に慣用されている半導体基板(例えば、シリコン/二酸化シリコン被覆基板、シリコンナイトライド基板、ガラス基板、ITO基板等)である。このようなホールを有する半導体基板は、特にデュアルダマシンプロセスにおいて使用される基板である。また、1より小さいアスペクト比のホールを有する半導体基板や、段差を有する半導体基板に対しても使用することができる。また、段差などを有さない半導体基板に対しても使用することができる。
【0083】
半導体基板の上に、スピナー、コーター等の適当な塗布方法により本発明の下層膜形成組成物が塗布され、その後、焼成することにより下層膜が形成される。焼成する条件としては、焼成温度60℃〜220℃、焼成時間0.3〜60分間の中から適宜、選択される。好ましくは、焼成温度130℃〜250℃、または170℃〜220℃である。また、焼成時間0.3〜5分間、または0.5〜2分間である。ここで、下層膜の膜厚としては、例えば0.01〜3.0μmであり、また、例えば0.03〜1.0μmである。
【0084】
次いで、下層膜の上に、フォトレジストの層が形成される。フォトレジストの層の形成は、周知の方法、すなわち、フォトレジスト組成物溶液の下層膜上への塗布及び焼成によって行なうことができる。
【0085】
本発明の下層膜の上に塗布、形成されるフォトレジストとしては露光に使用される光に感光するものであれば特に限定はない。また、ネガ型フォトレジスト及びポジ型フォトレジストのいずれも使用できる。ノボラック樹脂と1,2−ナフトキノンジアジドスルホン酸エステルとからなるポジ型フォトレジスト、酸により分解してアルカリ溶解速度を上昇させる基を有するバインダーと光酸発生剤からなる化学増幅型フォトレジスト、酸により分解してフォトレジストのアルカリ溶解速度を上昇させる低分子化合物とアルカリ可溶性バインダーと光酸発生剤とからなる化学増幅型フォトレジスト、酸により分解してアルカリ溶解速度を上昇させる基を有するバインダーと酸により分解してフォトレジストのアルカリ溶解速度を上昇させる低分子化合物と光酸発生剤からなる化学増幅型フォトレジストなどがあり、例えば、シプレー社製商品名APEX−E、住友化学工業(株)製商品名PAR710及び信越化学工業(株)製商品名SEPR430等が挙げられる。
【0086】
次に、所定のマスクを通して露光が行なわれる。露光には、KrFエキシマレーザー(波長248nm)、ArFエキシマレーザー(波長193nm)及びF2エキシマレーザー(波長157nm)等を使用することができる。露光後、必要に応じて露光後加熱(post exposure bake)を行なうこともできる。露光後加熱は、加熱温度70℃〜150℃、加熱時間0.3〜10分間から適宜、選択される。
【0087】
次いで、現像液によって現像が行なわれる。これにより、例えばポジ型フォトレジストが使用された場合は、露光された部分のフォトレジストが除去され、フォトレジストのパターンが形成される。
【0088】
現像液としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物の水溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、コリンなどの水酸化四級アンモニウムの水溶液、エタノールアミン、プロピルアミン、エチレンジアミンなどのアミン水溶液等のアルカリ性水溶液を例として挙げることができる。現像液としては、汎用されている2.38質量%の水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液を使用できる。さらに、これらの現像液に界面活性剤などを加えることもできる。現像の条件としては、温度5〜50℃、時間0.1〜5分間から適宜選択される。
【0089】
そして、このようにして形成されたフォトレジストのパターンを保護膜として、下層膜の除去及び半導体基板の加工が行なわれる。下層膜の除去は、テトラフルオロメタン、パーフルオロシクロブタン、パーフルオロプロパン、トリフルオロメタン、一酸化炭素、アルゴン、酸素、窒素、六フッ化硫黄、ジフルオロメタン、三フッ化窒素及び三フッ化塩素等のガスを用いて行われる。
【0090】
半導体基板上に本発明の下層膜が形成される前または後に有機反射防止膜層が形成されることもできる。そこで使用される反射防止膜組成物としては特に制限はなく、これまでリソグラフィープロセスにおいて慣用されているものの中から任意に選択して使用することができ、また、慣用されている方法、例えば、スピナー、コーターによる塗布及び焼成によって反射防止膜を形成することができる。反射防止膜組成物としては、例えば、吸光性化合物、ポリマー及び溶媒を主成分とするもの、化学結合により連結した吸光性基を有するポリマー、架橋剤及び溶媒を主成分とするもの、吸光性化合物、架橋剤及び溶媒を主成分とするもの、及び吸光性を有する高分子架橋剤及び溶媒を主成分とするもの等が挙げられる。これらの反射防止膜組成物はまた、必要に応じて、酸成分、酸発生剤成分、レオロジー調整剤等を含むことができる。吸光性化合物としては、反射防止膜の上に設けられるフォトレジスト中の感光成分の感光特性波長領域における光に対して高い吸収能を有するものであれば用いることができ、例えば、ベンゾフェノン化合物、ベンゾトリアゾール化合物、アゾ化合物、ナフタレン化合物、アントラセン化合物、アントラキノン化合物、トリアジン化合物等が挙げられる。ポリマーとしては、ポリエステル、ポリイミド、ポリスチレン、ノボラック樹脂、ポリアセタール、アクリルポリマー等を挙げることができる。化学結合により連結した吸光性基を有するポリマーとしては、アントラセン環、ナフタレン環、ベンゼン環、キノリン環、キノキサリン環、チアゾール環といった吸光性芳香環構造を有するポリマーを挙げることができる。
【0091】
また、本発明の下層膜形成組成物が塗布される半導体基板は、その表面にCVD法などで形成された無機系の反射防止膜を有するものであってもよく、その上に本発明の下層膜を形成することもできる。
【0092】
本発明のリソグラフィー用下層膜形成組成物より形成される下層膜は、リソグラフィープロセスにおいて使用される光の波長によっては、その光に対する吸収を有することがあり、そのような場合には、半導体基板からの反射を防止する効果を有する層、すなわち、下層反射防止膜として使用することができる。
【0093】
さらに、本発明の下層膜は、基板とフォトレジストとの相互作用の防止するための層、フォトレジストに用いられる材料又はフォトレジストへの露光時に生成する物質の基板への悪作用を防ぐための層、焼成時に半導体基板から生成する物質の上層フォトレジストへの拡散を防ぐための層、及び半導体基板誘電体層によるフォトレジスト層のポイズニング効果を減少させるためのバリア層等として使用することも可能である。
【0094】
また、下層膜形成組成物より形成される下層膜は、デュアルダマシンプロセスで用いられるビアホールが形成された基板に適用され、ホールを隙間なく充填することができる埋め込み材として使用でき、また、基板表面を平坦化するための平坦化材として使用することもできる。
【実施例】
【0095】
実施例1
プロピレングリコールモノメチルエーテル74.16gに、ヨウ素を5〜20質量%包接したβ−シクロデキストリン(日宝化学株式会社製、商品名 BCDI、β−シクロデキストリンの末端基割合:β−シクロデキストリンの全ての水酸基が未修飾であり、β−シクロデキストリン自体の水酸基が100%存在していた。)10.0g、テトラメトキシメチルグリコールウリル(三井サイテック(株)製、商品名パウダーリンク1174)3.50g、ピリジニウム−p−トルエンスルホン酸0.175g及び界面活性剤R−30(大日本インキ化学(株)製)0.10g、を加え、15質量%溶液とした後、孔径0.05μmのポリエチレン製ミクロフィルターを用いて濾過し、リソグラフィー用下層膜形成組成物の溶液を調製した。
【0096】
実施例2
プロピレングリコールモノメチルエーテル74.16gに、ヨウ素を2〜20質量%包接したβ−シクロデキストリン(日宝化学株式会社製、商品名 BCDI、β−シクロデキストリンの末端基割合:β−シクロデキストリンの全ての水酸基が未修飾であり、β−シクロデキストリン自体の水酸基が100%存在していた。)10.0g、ヘキサメトキシメチロールメラミン(三井サイテック(株)製、商品名サイメル303)3.50g、ピリジニウム−p−トルエンスルホン酸0.175g及び界面活性剤R−30(大日本インキ化学(株)製)0.10g、を加え、15質量%溶液とした後、孔径0.05μmのポリエチレン製ミクロフィルターを用いて濾過し、リソグラフィー用下層膜形成組成物の溶液を調製した。
【0097】
実施例3
プロピレングリコールモノメチルエーテル74.16gに、p−トルエンスルホン酸を2〜20質量%包接したメチル−β−シクロデキストリン(ワッカーケミー(Wacker−Chemie GmbH)社製、β型の化学修飾シクロデキストリン、商品名CAVASOL W7M、β−シクロデキストリンの末端基割合:β−シクロデキストリンの総水酸基量の50%がメトキシ基に変換され、残り50%は水酸基であった。)10.0g、ヘキサメトキシメチロールメラミン(三井サイテック(株)製、商品名サイメル303)、p−トルエンスルホン酸0.350g及び界面活性剤R−30(大日本インキ化学(株)製)0.10g、を加え、15質量%溶液とした後、孔径0.05μmのポリエチレン製ミクロフィルターを用いて濾過し、リソグラフィー用下層膜形成組成物の溶液を調製した。
【0098】
比較例1
水684gにクロロトリアジニル−β−シクロデキストリン(ワッカーケミー(Wacker−Chemie GmbH)社製、商品名CAVASOL W7MCT、β−シクロデキストリンの末端基割合:β−シクロデキストリンの総水酸基量の50%が2−クロロトリアジン−4−イル−オキシ基に変換され、残り50%は水酸基であった。)100g、テトラメトキシメチルグリコールウリル20.0g、ピリジニウム−p−トルエンスルホン酸0.6g、及び界面活性剤R−30(大日本インキ化学(株)製)0.10gを加え、15質量%溶液とした後、孔径0.05μmのポリエチレン製ミクロフィルターを用いて濾過し、リソグラフィー用下層膜形成組成物の溶液を調製した。
【0099】
比較例2
デキストリンエステル化合物(群栄化学工業(株)製、商品名BZ−1、重量平均分子7300、デキストリンの末端基割合:デキストリンの総水酸基量の87%がベンゾエート基であり、残り13%は水酸基であった。)を固形分濃度31%で溶解させた乳酸エチルの溶液10.0gに、テトラメトキシメチルグリコールウリル1.09g、ピリジニウム−p−トルエンスルホン酸0.00546g、界面活性剤R−30(大日本インキ化学(株)製)0.0153g、プロピレングリコールモノメチルエーテル5.26g、及び乳酸エチル5.32gを加え、18質量%溶液とした後、孔径0.05μmのポリエチレン製ミクロフィルターを用いて濾過し、下層膜形成組成物の溶液を調製した。
【0100】
フォトレジスト溶媒への溶出試験
実施例1〜3、及び比較例1〜2で得たリソグラフィー用下層膜形成組成物の溶液を、それぞれ、スピナーによりシリコンウエハー基板上に塗布した。ホットプレート上、205℃で1分間焼成し、下層膜(膜厚0.70μm)を形成した。これらの下層膜をフォトレジストに使用する溶媒であるプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに浸漬し、それらの溶媒に不溶であることを確認した。
【0101】
平坦化率、充填性の試験
実施例1〜3、及び比較例1〜2で得たリソグラフィー用下層膜形成組成物の溶液を、それぞれ、スピナーにより、ホール(直径0.13μm、深さ0.80μm)を有する二酸化シリコン(SiO)絶縁膜を有するウエハー基板上に塗布した。使用した基板は図1に示すようなホールのIso(粗)とDense(密)パターンを有する基板である。Isoパターンは、ホール中心から隣のホール中心までの間隔が、当該ホールの直径の5倍であるパターンである。また、Denseパターンは、ホール中心から隣のホール中心までの間隔が、当該ホールの直径の1倍であるパターンである。
【0102】
塗布後、ホットプレート上、205℃で1分間焼成し、下層膜を形成した。膜厚は、ホールパターンが近傍に無いオープンエリアで0.70μmであった。走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、それぞれの基板の断面形状を観察することにより、下層膜による平坦化率を評価した。平坦化率は、下式に従い求めた。基板上のホールを完全に平坦化できたときの平坦化率は100%である。
【0103】
平坦化率={1−(ホール中心部での下層膜の凹み深さa)/(ホールの深さb)}×100
また、ホール内部にボイド(隙間)の発生は観察されず、ホール内部が下層膜で充填されていることが観察された。
[表1]
表1
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
膜厚(nm) 平坦化率(%)
Iso Dense Bias Iso Dense Bias
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
実施例1 710 590 120 100 100 0
実施例2 690 580 110 100 100 0
実施例3 720 600 120 100 100 0
比較例1 700 580 120 100 100 0
比較例2 700 590 110 100 100 0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
実施例1〜3の下層膜のIso(粗)パターン上とDense(密)パターン上での膜厚差(Bias)は小さい。これは、ホール基板上の単位面積当たりのホール数(ホール密度)が、Iso部に比べ大きいDense部においても、下層膜形成組成物の溶液がホール内にスムーズに流れ込んだ為と考えられる。その結果、Iso部とDense部の膜厚差が小さく、かつ平坦化率が大きくなったものと考えられる。
【0104】
また、比較例1〜2に全く遜色なく、実施例1〜3の下層膜形成組成物によって、Iso部とDense部に関わらず、平坦化できることが分かった。
【0105】
光学パラメータの測定
実施例1で調製した下層膜形成組成物溶液をスピナーにより、シリコンウェハー基板上に塗布した。ホットプレート上、205℃で1分間焼成し、下層膜(膜厚0.70μm)を形成した。そして、この下層膜を分光エリプソメーターにより、波長193nmでの屈折率(n値)及び減衰係数(k値)を測定したところ、屈折率(n値)は1.68であり、減衰係数(k値)は0.09であった。
実施例2で調製した下層膜形成組成物溶液をスピナーにより、シリコンウェハー基板上に塗布した。ホットプレート上、205℃で1分間焼成し、下層膜(膜厚0.70μm)を形成した。そして、この下層膜を分光エリプソメーターにより、波長193nmでの屈折率(n値)及び減衰係数(k値)を測定したところ、屈折率(n値)は1.70であり、減衰係数(k値)は0.09であった。
【0106】
実施例3で調製した下層膜形成組成物溶液をスピナーにより、シリコンウェハー基板上に塗布した。ホットプレート上、205℃で1分間焼成し、下層膜(膜厚0.70μm)を形成した。そして、この下層膜を分光エリプソメーターにより、波長193nmでの屈折率(n値)及び減衰係数(k値)を測定したところ、屈折率(n値)は1.68であり、減衰係数(k値)は0.08であった。
比較例1で調製した下層膜形成組成物溶液をスピナーにより、シリコンウェハー基板上に塗布した。ホットプレート上、205℃で1分間焼成し、下層膜(膜厚0.70μm)を形成した。そして、この下層膜を分光エリプソメーターにより、波長193nmでの屈折率(n値)及び減衰係数(k値)を測定したところ、屈折率(n値)は1.70であり、減衰係数(k値)は0.20であった。
比較例2で調製した下層膜形成組成物溶液をスピナーにより、シリコンウェハー基板上に塗布した。ホットプレート上、205℃で1分間焼成し、下層膜(膜厚0.70μm)を形成した。そして、この下層膜を分光エリプソメーターにより、波長193nmでの屈折率(n値)及び減衰係数(k値)を測定したところ、屈折率(n値)は1.57であり、減衰係数(k値)は0.68であった。
【0107】
ドライエッチング速度の試験
実施例1〜3、及び比較例1〜2で得たリソグラフィー用下層膜形成組成物の溶液を、それぞれ、スピナーによりシリコンウエハー基板上に塗布した。ホットプレート上、205℃で1分間焼成し、下層膜(膜厚0.70μm)を形成した。そしてこれらを、日本サイエンティフィック製RIEシステムES401を用い、ドライエッチングガスとしてCF4を使用した条件下でドライエッチング速度を測定した。
【0108】
結果を表2に示す。選択比は、ArFエキシマレーザーリソグラフィー用のフォトレジスト(富士写真フィルム(株)製、商品名GARS8105G1)のドライエッチング速度を1.00とした時の、下層膜のドライエッチング速度を示したものである。
[表2]
表2
――――――――――――
選択比
――――――――――――
実施例1 3.10
実施例2 3.15
実施例3 3.12
比較例1 2.70
比較例2 1.39
――――――――――――
実施例1〜3の下層膜形成組成物から得られた下層膜のエッチング速度は、比較例1〜2のそれに比較してフォトレジストに比較して極めて大きいことが確認された。選択性が3以上を有するレジスト下層膜を見出せた理由は、ヨウ素を包接させたシクロデキストリンを用いたことによる。
【0109】
下層膜のドライエッチング速度はフォトレジストのドライエッチング速度よりも高いことが必要性とされる。それは、フォトレジストを現像、ドライエッチングにより基板の下地を露出させる工程で、下層膜のドライエッチング速度がフォトレジストのドライエッチング速度よりも高くなることにより、下層膜がエッチングによって除去される間にエッチングによって削り取られるフォトレジストの量、すなわち、フォトレジストの膜厚を抑えることができるからである。
【産業上の利用可能性】
【0110】
包接分子を含有するシクロデキストリンを含むリソグラフィー用下層膜形成組成物、それにより得られる下層膜、その下層膜を用いたレジストパターンの形成方法、更にはそれらを用いる半導体装置の製造に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】図1はホールを有する基板に下層膜を形成した状態の断面図である。
【符号の説明】
【0112】
aはホール中心での下層膜の凹み深さ(μm)である。
【0113】
bは使用した基板における当初のホールの深さ(μm)である。
【0114】
cは下層膜である。
【0115】
dは基板である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
包接分子を含有するシクロデキストリンを含むリソグラフィー用下層膜形成組成物。
【請求項2】
包接分子がハロゲン分子、酸分子、塩基分子、酸発生剤、又は塩基発生剤である請求項1に記載のリソグラフィー用下層膜形成組成物。
【請求項3】
上記シクロデキストリンは、α型、β型、γ型、又はδ型シクロデキストリンである請求項1又は請求項2に記載のリソグラフィー用下層膜形成組成物。
【請求項4】
上記シクロデキストリンは、その分子中に含まれる水酸基が式(1):
【化1】


(式(1)中、Rはハロゲン基、炭素原子数1〜6のアルコキシ基、フェニル基、シアノ基及びニトロ基からなる群から選ばれる基で置換されていてもよい炭素原子数1〜10のアルキル基若しくは芳香族基、又は式(2):
【化2】


で表される基を表し、式(2)中、Rはハロゲン基、炭素原子数1〜6のアルコキシ基、フェニル基、シアノ基及びニトロ基からなる群から選ばれる基で置換されていてもよい炭素原子数1〜10のアルキル基または芳香族基を表す。)で表される有機基に置き換えた化学修飾シクロデキストリンである請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のリソグラフィー用下層膜形成組成物。
【請求項5】
上記シクロデキストリンは、その分子中に含まれる水酸基が10〜90%の割合で式(1)の有機基に置き換えた化学修飾シクロデキストリンを含む請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のリソグラフィー用下層膜形成組成物。
【請求項6】
更にポリマーと溶媒を含有する請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のリソグラフィー用下層膜形成組成物。
【請求項7】
更に架橋性化合物と架橋触媒を含有する請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載のリソグラフィー用下層膜形成組成物。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載のリソグラフィー用下層膜形成組成物を半導体基板上に塗布し、焼成して下層膜を形成する工程、前記下層膜上にフォトレジスト層を形成する工程、前記下層膜と前記フォトレジスト層で被覆された半導体基板を露光する工程、露光後にフォトレジスト層を現像する工程、を含む半導体装置の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−256773(P2007−256773A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−82921(P2006−82921)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】