説明

包装体、及び光学素子の製造方法

【課題】 低コストで、しかも簡易な手段で、多数のプリフォームを収容、梱包してなり、これによってプリフォームの取扱いを容易にすることができる包装体、及びそのような包装体からプリフォームを取り出して、光学素子に精密プレス成形する光学素子の製造方法を提供する。
【解決手段】 複数の収容凹部13が所定の配列で設けられたトレー本体11を有し、このトレー本体11の外周に沿って設けられた外周壁12を介して積み重ねられた柔軟性材料からなる複数のトレー10を、収容凹部13に被収容物40が収容された状態で積み重ねるとともに、フィルム材30により一体に包み込む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、ガラスレンズのようなガラス製の光学素子を精密プレス成形によって製造するための精密プレス成形用プリフォームなどを収容、梱包するのに好適な包装体、及びそのような包装体に収容、梱包されたプリフォームから光学素子を製造する光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非球面レンズなどの高機能の光学素子を優れた量産性のもとに生産する技術として、精密プレス成形法(又は、モールドオプティクス法)と呼ばれる方法が知られている。このような方法は、例えば、特許文献1に記載されているように、光学ガラスからなるプリフォームを用意し、このプリフォームを加熱、軟化して、比較的高粘度の状態で高い圧力をかけてプレス成形することにより、プレス成形型の成形面を精密に転写して、レンズ面などの光学機能面を形成するとともに、光学素子全体の形状も成形する方法である。
【特許文献1】特開2002−29763号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、精密プレス成形法は、研磨加工を施すことなく光学機能面を形成するのを目的とすることから、プリフォームの表面に傷があると、その傷が、得られた光学素子の光学機能面にそのまま残ってしまうおそれがある。したがって、精密プレス成形法に供するプリフォームの表面に傷がつかないよう、その取扱いには、十分に注意する必要がある。
一方、精密プレス成形法は、高機能な光学素子を安価に量産することを目的に開発された技術であるから、低コストで、かつ、手間のかからない方法で、多数のプリフォームを取扱う必要がある。
【0004】
このように、プリフォームの取扱いには、プリフォームに傷をつけないように十分な注意を必要とするが、プリフォームの移送に際して、コストや手間のかかる梱包を行ったのでは、高機能な光学素子を安価に量産できるという精密プレス成形法の利点を損ねてしまうという問題があった。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みなされたものであり、低コストで、しかも簡易な手段で、多数のプリフォームを収容、梱包してなり、これによってプリフォームの取扱いを容易にすることができる包装体、及びそのような包装体からプリフォームを取り出して、光学素子に精密プレス成形する光学素子の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る包装体は、複数の収容凹部が所定の配列で設けられたトレー本体を有し、かつ、前記収容凹部を取り囲むようにして、前記トレー本体の外周に沿って設けられた外周壁を介して積み重ねられるようにされた、柔軟性材料からなる複数のトレーを、前記収容凹部の全部又は一部に被収容物が収容された状態で積み重ねるとともに、フィルム材により一体に包み込んでなる構成としてある。
【0007】
このような構成とした本発明に係る包装体によれば、低コストで、しかも簡易な手段で、多数のプリフォームを収容、梱包し、プリフォームの取扱いを容易にすることができる。
【0008】
また、本発明に係る包装体は、前記外周壁の下端縁が、直下に位置するトレーに設けられた外周壁の上端縁によって支持されるようにした構成とすることができる。
このような構成とすれば、積み重ねられた各トレーが、水平方向にずれないようにすることができる。
【0009】
また、本発明に係る包装体は、前記トレーに収容された被収容物が、直上に積み重ねられたトレーによって押さえつけられている構成とすることができる。
このような構成とすれば、収容凹部内にプリフォームが固定された状態で梱包できる。
【0010】
また、本発明に係る包装体は、最上段に位置する被収容物が収容された前記トレーの上に、柔軟性材料からなる保護部材をさらに積み重ねた構成とすることができる。
このような構成とすれば、最上段のトレーに収容された被収容物が、フィルム材に直に接するのを防止して、被収容物に傷がつくなどの不具合を有効に回避することができる。
【0011】
また、本発明に係る包装体は、被収容物が収容されていない前記トレーを前記保護部材とした構成とすることができる。
このような構成とすれば、大きさや、形状などをトレーに適合させた保護部材を別途用意する必要がない。
【0012】
また、本発明に係る包装体は、積み重ねられて前記フィルム材に包み込まれた前記トレーの周囲が、減圧状態とされている構成とすることができる。
このような構成とすれば、内外の気圧差によってフィルム材がトレーどうし、さらには、トレーと保護部材とを圧迫固定し、これによって、それらの間にあるプリフォームも固定されて、その状態で梱包することができる。
【0013】
また、本発明に係る包装体は、前記トレーに、帯電防止加工が施されている構成とすることができる。
このような構成とすれば、トレーが帯電して埃を引きつけてしまうのを防止することができる。
【0014】
また、本発明に係る包装体は、被収容物が、精密プレス成形に用いるガラスプリフォームである構成とすることができ、本発明に係る光学素子の製造方法は、このような包装体から取り出されたガラスプリフォームを用いて、精密プレス成形する方法としてある。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によれば、低コストで、しかも簡易な手段で、多数のプリフォームを容易に取り扱うことができ、その結果、高機能な光学素子を安価に量産できるという利点を損なうことなく、種々の光学素子を精密プレス成形法により製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施形態について、図面を参照して説明する。
【0017】
[包装体]
まず、本発明に係る包装体の実施形態について説明する。
なお、図1は、本実施形態に係る包装体の概略を示す説明図であり、包装体1には、同一形状、等重量の複数のプリフォーム40が収容、梱包されている。
【0018】
図1に示す包装体1は、精密プレス成形用のプリフォーム40が被収容物として収容された状態で、複数のトレー10が積み重ねられているとともに、その全体がフィルム材30によって一体に包み込まれている。
【0019】
このような包装体1において、トレー10は、トレー本体11と、トレー本体11の外周に沿って設けられた外周壁12とを備えている。トレー本体11には、プリフォーム40を収容する複数の収容凹部13が所定の配列(図2に示す例では、等間隔で縦横6×6個)で設けられており、これらの収容凹部13は、その全てが外周壁12に取り囲まれている。
また、トレー本体11に収容凹部13を設けるにあたっては、隣接する収容凹部13の間を仕切る仕切部13aを設けるのが好ましい。このようにすれば、隣接する収容凹部13のそれぞれに収容されたプリフォーム40どうしの接触を避け、接触による傷つきなどを防止することができる。
なお、図2は、トレー10の概略を示す斜視図であり、図3は、図2のA−A断面図である。
【0020】
本実施形態において、トレー10は、外周壁12を介して積み重ねられるが、図示する例では、上下に隣接する二つのトレー10のうち、上方に位置するトレー10の外周壁12の下端縁12bが、その直下に位置するトレー10の外周壁12の上端縁12aに係合、支持されるようにして、プリフォーム40が収容されたトレー10の上に、別のトレー10が積み重ねられるようになっている。これにより、積み重ねられた各トレー10が、水平方向にずれないようにすることができるが、そのためには、図示するように、外周壁12の側面を末広がり状とするとともに、その肉厚を一定にするのが好ましい。
【0021】
また、外周壁12は、トレー10の強度を高めるリブとしての機能を発揮するとともに、複数のトレー10を積み重ねていったときに、プリフォーム40が収容される空間をトレー10間に確保するためのスペーサとしても機能する。
外周壁12をスペーサとして機能させるにあたっては、外周壁12の下端縁12bよりも収容凹部13の裏面が上位に位置するようにするとともに、それぞれの収容凹部13の間に形成される仕切部13aが、収容凹部13に収容されたプリフォーム40の頂部よりも低くなるようにするのが好ましい。このようにすることで、トレー10に収容されたプリフォーム40が、その直上に積み重ねられたトレー10(より具体的には、当該トレー10における収容凹部13の底部裏面)によって押さえつけられるようにして、収容凹部13内にプリフォーム40が固定された状態で梱包できる。
【0022】
また、トレー10は、柔軟性(クッション性)を有する材料からなり、プリフォーム40との接触によって、プリフォーム40の表面に傷がついてしまうなどの不具合が生じないようにしている。このような柔軟性材料としては、緩発泡ポリスチレン、発泡ポリプロピレン、発泡ポリエチレンなど、緩衝材として一般に用いられているものを例示することができる。トレー10は、これらの材料からなるシート材を真空成形などにより一体成形するのが、製造効率や、コスト管理の面から好ましく、真空成形によりトレー10を一体成形する材料としては、特に、発泡ポリスチレンが好ましい。
【0023】
また、プリフォーム40が収容された状態で、複数のトレー10を積み重ねるに際し、その最上段のトレー10に収容されたプリフォーム40が、フィルム材30に直に接すると、プリフォーム40の表面に傷がつくなどの不具合が生じるおそれがある。このため、プリフォーム40が収容されて積み重ねられたトレー10のうち、最上段に位置するトレー10の上には、さらに、トレー10と同様の柔軟性材料からなる保護部材20を積み重ねておくのが好ましい。
【0024】
保護部材20としては、例えば、トレー10の外周壁12の内側に収まり、かつ、収容されたプリフォーム40の全てを覆うような大きさ、形状の板状のものとすることができるが、図示する例では、空のトレー10を保護部材20として利用している。すなわち、プリフォーム40が収容されていない空のトレー10が、プリフォーム40が収容されている最上段のトレー10の上に積み重ねられている。このようにすれば、大きさや、形状などをトレー10に適合させた保護部材を別途用意する必要がない。
【0025】
以上のような包装体1は、その全体がフィルム材30によって一体に包み込まれているところ、トレー10の周囲を減圧状態として、プリフォーム40を収容した状態で積み重ねられたトレー10をフィルム材30により減圧パックするのが好ましい。
【0026】
減圧パックをするにあたっては、まず、収容凹部13の全部又は一部にプリフォーム40を収容したトレー10を、搬送を考慮して決定される数だけ積み重ねる(目安としては、最大で20段程度)。これとともに、その最上段に位置するトレー10の上に、保護部材20(図示する例では、空のトレー)をさらに積み重ね、これらを製袋されたフィルム材30の中に入れる(図4参照)。
次いで、真空梱包機を用いて、フィルム材30中に存在する空気などを十分に脱気してトレー10の周囲を減圧状態とし、そのままフィルム材30を密封して減圧パックする。真空梱包機としては、市販のノズル式真空梱包機や、チャンバー式梱包機を用いることができる。
なお、図4は、減圧パックの一工程の概略を示す説明図である。
【0027】
減圧パックした包装体1は、内外の気圧差によってフィルム材30がトレー10どうし、さらには、トレー10と保護部材20とを圧迫固定する。これにより、それらの間にあるプリフォーム40も固定され、その状態で梱包されることになる。
【0028】
ここで、上下に隣接するトレー10のそれぞれに収容されたプリフォーム40は、トレー10を介して互いに圧迫されているため、トレー10は、その緩衝材としての機能が損なわれないためにも、ある程度の厚みを要する。トレー10の厚みは、少なくとも0.5mm以上であるのが好ましく、より好ましくは1.0mm以上である。ただし、トレー10が不必要に厚くなってしまうと材料費が嵩むだけでなく、梱包したときの体積が大きくなるとともに、輸送費も嵩んでしまうため、トレー10の厚みは2.0mm以下であるのが好ましい。
【0029】
また、プリフォーム40は清浄な状態に保つ必要があり、精密プレス成形を行う環境も清浄な環境が求められる。このことからも、減圧パックにより包装体1を密封するのが好ましく、さらに、トレー10には、帯電防止加工を施すことが好ましい。トレー10に帯電防止加工を施すことによって、トレー10が帯電して埃を引きつけてしまうのを防止することができ、プリフォーム40をトレー10に載せた状態でクリーンな精密プレス成形工程へ送ることが可能となる。
このとき、同様な帯電防止加工を保護部材20やフィルム材30に施してもよい。帯電防止加工としては、公知の加工法を適用することができる。
【0030】
また、トレー10は柔軟性材料からなり、適度の可撓性を有している。このため、減圧パック時に適度に変形して、トレー10どうしの間や、トレー10と保護部材20との間に隙間ができ、これらの間の脱気を容易に行うことができる。このように、減圧パック時には、トレー10が適度に変形して脱気を容易にするため、強度低下を招くおそれのある溝や、孔などをトレー10に設けて、脱気を促すようにする必要がない。
なお、トレー10が厚く必要以上に剛性が高くなっていると、減圧パック時の脱気が困難となってしまうおそれがあるが、このことも考慮して、前述した範囲でトレー10の厚みを設定するのが好ましい。
【0031】
また、フィルム材30の中には、シリカゲルなどの乾燥剤50を一緒に入れて減圧パックするのが好ましい。乾燥ガスでフィルム材30中を満たした後に減圧パックしてもよく、この場合、フィルム材30の中に乾燥剤50を入れておいてもよい。
このようにすることで、フィルム材30中に閉じ込められた水蒸気がプリフォーム40の表面に結露して、プリフォーム40の表面を変質してしまうのを防止することができる。このような態様は、減圧パックした包装体1を寒冷地に送ったり、空輸したりする際に、特に有効である。
【0032】
本実施形態において、被収容物としてのプリフォーム40は、目的とする光学素子の屈折率、アッベ数などの光学特性を満たす光学ガラスを用いて作製される。
例えば、所定の光学ガラスが得られるように、ガラス原料を調合して加熱、熔融し、清澄工程により泡を切り、攪拌して十分に均質化した後に、鋳型に鋳込んで成形し、次いで、必要に応じてアニールし、適当な大きさに切断した後、研削、研磨して精密プレス成形品1個分の重量のプリフォームに仕上げる方法、又は熔融ガラスをガラス流出パイプから流出し、それからプリフォーム1個分の熔融ガラス塊を分離して、熔融ガラス塊が冷却固化するまでに、噴出ガスにより成形型上で浮上させながらプリフォームに成形する方法などにより作製することができる。
【0033】
プリフォームの形状としては、図示するような球形状のほか、回転対称軸を1本有し、この軸の周りの任意の角度の回転に対して対称であり、外側に凸の形状、例えば、扁平球や、マーブル状のような形状のものを例示することができる。
精密プレス成形では、プリフォーム40の表面の曲率と、プレス成形型の成形面の曲率の関係によっては、ガストラップと呼ばれる現象、すなわち、プリフォーム40と、型成形面との間に、雰囲気ガスが閉じ込められてガラスの充填が妨げられる現象が起きることがある。したがって、扁平球や、マーブル状などのように、部位によって曲率が異なる表面を有するプリフォームの場合には、トレー10上に置くプリフォーム40の向きを一定に揃える(例えば、全てのプリフォームにおいて、曲率が大きい面を上に向けるなどする)ことが好ましい。このように、プリフォーム40の向きを揃えることによって、トレー10上のプリフォーム40をすべて所定の向きにして後工程に送れば、すべての精密プレス成形においてガストラップを有効に回避することができる。
【0034】
また、使用するプレス成形型の材質、型成形面に設ける離型膜の種類、プリフォーム40を構成するガラスの種類によっては、プリフォーム40の表面に、公知の炭素含有膜や、自己組織化膜をコートすることができる。このようなコートをすると、精密プレス成形時にガラスと型の摩擦を小さくし、ガラスを伸びやすくすることができるが、プリフォーム40は、これを形成するガラスが露出したものであってもよい。
【0035】
また、包装体1に収容、梱包されるプリフォーム40の仕様、例えば、使用されているガラスの品名、形状、重量などは、これらが判別しやすいように、少なくとも一つのトレー10に収容されるプリフォーム40の全てにおいて、同一仕様とするのが好ましく、一つの包装体1に収容、梱包されている全てのプリフォーム40の仕様を同一にするのがより好ましい。
【0036】
[光学素子の製造方法]
次に、本発明に係る光学素子の製造方法の実施形態について説明する。
【0037】
本実施形態にあっては、上記したような包装体1からプリフォーム40を取り出して、このプリフォーム40を用いて精密プレス成形する。
より具体的には、まず、包装体1を開封して積み重ねられた複数のトレー10を取り出し、次いで、トレー10を一段ずつ分けて後工程へ送る。
【0038】
このとき、プリフォーム40が十分に清浄な状態であれば、必要に応じて表面に、炭素含有膜や、自己組織化膜などをコートして、精密プレス成形工程へ送る。プリフォーム40が十分に清浄でない場合は、洗浄、乾燥工程へ送って清浄な状態にした後、必要に応じて表面にコート処理を施し、精密プレス成形工程へ送る。
また、必要なコート処理が既に施されている場合には、そのまま、又は清浄化してから、精密プレス成形工程へ送るようにしてもよい。
なお、これらの処理操作において、トレー10上のプリフォームの向きが揃っている場合は、それらの向きが、そのままの状態となるように操作するのが好ましい。
【0039】
精密プレス成形は、モールドオプティクス成形とも呼ばれる。光学素子において、光線を透過したり、屈折させたり、回折させたり、反射させたりする面を光学機能面(レンズを例にとると、非球面レンズの非球面や、球面レンズの球面などのレンズ面が、この光学機能面に相当する)というが、精密プレス成形によれば、プレス成形型の成形面を精密にガラスに転写することにより、プレス成形によって光学機能面を形成することができる。このため、光学機能面を仕上げるために研削や研磨などの機械加工を加える必要がない。
このような精密プレス成形は、レンズ、レンズアレイ、回折格子、プリズムなどの光学素子の製造に好適であり、特に、非球面レンズを高い生産性のもとに製造する方法として適している。
【0040】
精密プレス成形に使用するプレス成形型としては、公知のもの、例えば、炭化珪素、ジルコニア、アルミナなどの耐熱性セラミックスの型材の成形面に離型膜を設けたものを使用することができる。これらの中でも、炭化珪素製のプレス成形型が好ましい。また、離型膜としては、炭素含有膜などを使用することができるが、耐久性、コストの面から特にカーボン膜が好ましい。
【0041】
精密プレス成形では、プレス成形型の成形面を良好な状態に保つために、成形時の雰囲気を非酸化性ガスにするのが好ましい。非酸化性ガスとしては、窒素、窒素と水素の混合ガスなどが好ましい。
【0042】
本実施形態で適用可能な精密プレス成形の具体的態様としては、以下の二つのものが例示できる。
【0043】
[第一態様]
本態様は、プレス成形型に、プリフォーム40を導入し、プレス成形型とプリフォームを一緒に加熱してから、精密プレス成形するものであり、プレス成形型とプリフォーム40の温度をともに、プリフォーム40を形成するガラスが10〜1012dPa・sの粘度を示す温度に加熱して、精密プレス成形を行うことが好ましい。そして、プレス後は、好ましくは1012dPa・s以上、より好ましくは1014dPa・s以上、さらに好ましくは1016dPa・s以上の粘度を示す温度にまで冷却してから、精密プレス成形品をプレス成形型から取り出す。
【0044】
このような条件により、プレス成形型の成形面の形状を、より精密にプリフォーム40に転写することができるとともに、精密プレス成形品を変形することなく取り出すこともできる。また、複数組のプレス成形型を用い、各プレス成形型内にプリフォーム40を導入して、順次、精密プレス成形を行うようにすれば、相当数の光学素子を生産性よく量産することができる。
【0045】
[第二態様]
本態様は、予熱したプレス成形型に、加熱したプリフォーム40を導入して精密プレス成形するものである。本態様によれば、プリフォーム40をプレス成形型に導入する前に、予め加熱するので、サイクルタイムを短縮化しつつ、表面欠陥のない良好な面精度を有する光学素子を製造することができる。
このような態様において、プレス成形型の予熱温度は、プリフォーム40の予熱温度よりも低く設定することが好ましい。このように、プレス成形型の予熱温度を低くすることにより、プレス成形型の消耗を低減することができる。
【0046】
本態様では、まず、プリフォーム40を予熱工程へ送り、予熱したプリフォーム40をプレス成形型に導入して精密プレス成形する。このとき、プリフォーム40を形成するガラスが、10dPa・s以下の粘度を示す温度に、プリフォーム40を予熱することが好ましく、予熱に際しては、プリフォーム40を浮上させながら予熱するのが好ましい。そして、プレス開始と同時に、又はプレスの途中から冷却を開始するのが好ましい。
【0047】
また、このようにして精密プレス成形を行うにあたり、プレス成形型の温度は、プリフォーム40の予熱温度よりも低い温度に調温するが、プリフォーム40を形成するガラスが10〜1012dPa・sの粘度を示す温度を目安にすればよい。また、プレス成形後、ガラスの粘度が1012dPa・s以上にまで冷却してから離型するのが好ましい。
【0048】
上記各態様において精密プレス成形された成形品は、プレス成形型より取り出され、必要に応じて徐冷される。成形品がレンズなどの光学素子の場合には、必要に応じて表面に光学薄膜をコートしてもよく、また、芯取り加工を適宜施して、光学素子としての形状を整えるようにしてもよい。
プリフォーム40が取り出された空のトレーは、積み重ねてプリフォーム生産工程へ戻され、新たに生産されたプリフォームを収容、梱包するのに供される。また、フィルム材30も、チャック付き密閉袋などに製袋して使用すれば、使い捨てではなく、トレー10と同様に繰り返し使用することができる。このようなリサイクル型のトレーやフィルム材を用いることにより、廃棄物を削減することができる。
【実施例】
【0049】
次に、具体的な実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。
まず、図2及び図3に示したものと同様の発泡ポリスチレン製のトレーを真空成形した。トレーの厚みは1mmとし、トレーの表面には帯電防止加工を施した。このようにして多数のトレーを用意した後、プリフォームの生産を行った。
【0050】
プリフォームを生産するにあたり、まず、得ようとする光学素子に求められる屈折率、アッベ数などの光学特性を備え、精密プレス成形時の温度を低くすることができるように、所定のガラス転移温度を有するガラス組成でガラス原料を秤量し、十分に混合して調合原料とした。
次に、調合原料を熔融槽に入れて加熱、熔融して熔融ガラスを得た。そして、得られた熔融ガラスを清澄槽へ送って泡を切り、作業槽へ送って攪拌して十分に均質化した後、熔融ガラスをガラス流出パイプから連続して流出させた。パイプ下方には成形型を待機させておき、この成形型で、流下する熔融ガラスの下端を支持して熔融ガラス流の途中にくびれを作り、所定のタイミングで成形型を急降下させた。このとき、表面張力によって、熔融ガラス流のくびれより下の部分が分離され、成形型上に、熔融ガラス塊を形成した。成形型には、多数のガス噴出口が設けられており、これらの噴出口より噴出するガスによって、熔融ガラス塊を浮上させた状態でプリフォームに成形した。
以上のようにして、複数の成形型を使い回しして、連続流出する熔融ガラスから扁平球形状のプリフォームを順次成形した。
【0051】
成形型上で十分に冷却した後にプリフォームを取り出し、曲率が大きい面を下にして徐冷用の耐熱トレーに載せて徐冷した。徐冷したプリフォームは、発泡ポリスチレン製のトレーの収容凹部に順次移送するが、このときもプリフォームの曲率が大きい面が下を向くように載置した。
トレーの各収容凹部のそれぞれに、一つずつプリフォームを収容し、一枚のトレーがプリフォームで満たされた後に、別のトレーにプリフォームを収容していった。このような操作を繰り返し行うことにより、プリフォームが収容された複数のトレーを得た。これらのトレーを積み重ねるとともに、最上段のトレーの上に、さらに空のトレーを積み重ね、ビニール製のフィルム材を製袋してなる袋に、予め透湿性の袋に入れたシリカゲルとともに入れ、真空包装機で減圧パックした。
なお、シリカゲルはプリフォームと直接接触しないように、最下段のトレーの下、又は保護部材として積み重ねられた空のトレーの上に入れた。
【0052】
このようにしてプリフォームが収容、梱包された包装体を空輸して、精密プレス成形を行う工場に送った。空輸の場合、上空では低温に晒されるが、シリカゲルを一緒に減圧パックしているので、プリフォーム表面への結露を防止することができ、プリフォーム表面にヤケなどの変質は認められなかった。また、空輸だけでなく、寒冷地にある精密プレス成形を行う工場に包装体を送る場合にも、同様の効果が得られた。
【0053】
精密プレス成形を行う工場では、包装体を開封して、プリフォームをトレーごと取り出し、プリフォームの向きが不揃いにならないようにしながら、洗浄、乾燥させてから全表面を炭素膜でコートした。
次に、これらプリフォームを加熱し、プレス成形型を用いて精密プレス成形して、多数の非球面レンズを製造した。
【0054】
上記の実施例では、成形したプリフォームをそのまま包装体に収容、梱包したが、徐冷したプリフォームを洗浄、乾燥してから包装体に収容、梱包するようにしてもよく、洗浄、乾燥したプリフォームの表面にコート処理を施してから包装体に収容、梱包するようにしてもよい。また、プリフォームの成形をクリーンルームで行うことにより、洗浄工程を不要としてもよい。
【0055】
さらに、上記の実施例は、熔融ガラスから直接プリフォームを成形するものであるが、熔融ガラスを鋳型に鋳込んで成形し、得られたガラス成形体を徐冷した後、所定の大きさに切断してカットピースと呼ばれるガラス片を作り、このカットピースを研削、研磨してプリフォームに仕上げることもできる。
【0056】
プリフォームをすべて取り出した空のトレーは、積層してプリフォーム生産現場へ戻し、繰り返し使用する。このようにして、比較的安価なコストで、多量のプリフォームを精密プレス成形工程へ送ることができる。また、トレーを繰り返し使用するため、廃棄物を出さずに済むというメリットも享受することができる。
【0057】
なお、上記の実施例では扁平球状のプリフォームを例にして説明したが、球状プリフォームの場合も同様である。球状プリフォームの場合は、プリフォームの向きを考えずに済むというメリットがある。
【0058】
以上、本発明について、好ましい実施形態を示して説明したが、本発明は、前述した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
【0059】
例えば、前述した実施形態では、フィルム材30によって一体に包み込まれたトレー10の周囲を減圧状態として、プリフォーム40を収容した状態で積み重ねられたトレー10をフィルム材30により減圧パックするようにしたが、本発明は、このような態様に限られるものではない。
すなわち、フィルム材30がトレー10どうし、トレー10と保護部材20とを圧迫固定し、これによって、それらの間にあるプリフォーム40が固定されて、その状態で梱包することができれば、積み重ねられたトレーなどをフィルム材30により一体に包み込む上での具体的な態様に制限はない。
【0060】
フィルム材30としては、例えば、熱収縮性のいわゆるシュリンクフィルムを用いて、積み重ねられたトレーなどを一体に包み込むようにしてもよい。このとき、積み重ねられたトレーなどの全体を包み込む必要はなく、トレー10どうし、さらには、トレー10と保護部材20とを圧迫固定することにより、プリフォーム40が包装体1内を動き回ることがないようすることができれば、積み重ねられたトレーなどの少なくとも一部を包み込むようにしてもよい。そして、このようにしてプリフォーム40が収容、梱包された包装体1は、箱詰めするなどして、他の包装材などに収容(必要に応じて、減圧下で密封収容)するようにしてもよい。
【0061】
また、前述した実施形態では、被収容物として精密プレス成形に用いるガラスプリフォームの例を挙げたが、本発明に適用可能な被収容物は、レンズなどの光学素子であってもよく、種々のものが適用可能である。このとき、本発明では、被収容物をトレー上に収容することから、微小な被収容物への適用には不向きであり、例えば、被収容物をプリフォームとする場合、重量にして100mg以上のプリフォームであるのが好ましいが、微小な被収容物であっても、適当な治具を介して収容、梱包するようにすればよい。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、精密プレス成形用プリフォームなどを被収容物とし、多数の被収容物を、低コストで、しかも簡易な手段で収容、梱包して、その取扱いを容易にする。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明に係る包装体の実施形態の概略を示す説明図である。
【図2】トレーの概略を示す斜視図である。
【図3】図2のA−A断面図。
【図4】減圧パックの一工程の概略を示す説明図である。
【符号の説明】
【0064】
1 包装体
10 トレー
11 トレー本体
12 外周壁
12a 上端縁
12b 下端縁
13 収容凹部
20 保護部材
30 フィルム材
40 プリフォーム(被収容物)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の収容凹部が所定の配列で設けられたトレー本体を有し、かつ、前記収容凹部を取り囲むようにして、前記トレー本体の外周に沿って設けられた外周壁を介して積み重ねられるようにされた、柔軟性材料からなる複数のトレーを、
前記収容凹部の全部又は一部に被収容物が収容された状態で積み重ねるとともに、フィルム材により一体に包み込んでなることを特徴とする包装体。
【請求項2】
前記外周壁の下端縁が、直下に位置するトレーに設けられた外周壁の上端縁によって支持されるようにした請求項1に記載の包装体。
【請求項3】
前記トレーに収容された被収容物が、直上に積み重ねられたトレーによって押さえつけられている請求項1〜2のいずれか1項に記載の包装体。
【請求項4】
最上段に位置する被収容物が収容された前記トレーの上に、柔軟性材料からなる保護部材をさらに積み重ねた請求項1〜3のいずれか1項に記載の包装体。
【請求項5】
被収容物が収容されていない前記トレーを前記保護部材とした請求項4に記載の包装体。
【請求項6】
積み重ねられて前記フィルム材に包み込まれた前記トレーの周囲が、減圧状態とされている請求項1〜5のいずれか1項に記載の包装体。
【請求項7】
前記トレーに、帯電防止加工が施されている請求項1〜6のいずれか1項に記載の包装体。
【請求項8】
被収容物が、精密プレス成形に用いるガラスプリフォームである請求項1〜7のいずれか1項に記載の包装体。
【請求項9】
請求項8に記載の包装体から取り出されたガラスプリフォームを用いて、精密プレス成形することを特徴とする光学素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−81141(P2008−81141A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−260999(P2006−260999)
【出願日】平成18年9月26日(2006.9.26)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】