説明

化合物半導体系光電変換素子の製造方法

【課題】化合物半導体系光電変換素子の製造方法において、CBD法によるバッファ層成膜時のタイムロスを抑制して、低コストに光電変換素子を製造する。
【解決手段】基板10上に、下部電極層20と、光電変換半導体層30と、バッファ層40と、透光性導電層50が順次積層された光電変換素子1の製造方法において、光電変換半導体層30上に、所定の温度T(℃)の反応液Lを用いて化学浴析出法によりバッファ層40を形成する工程と、化学浴析出法において、反応液Lに浸漬させる基板(10,B)の温度T(℃)と反応液Lの温度T(℃)との差が、所定値t(℃)以下となるように基板(10,B)の温度Tを調整する工程とを有する。化学浴析出法の反応液Lの温度Tは70℃以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物半導体系の太陽電池等の光電変換素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光電変換層とこれに導通する電極とを備えた光電変換素子が、太陽電池等の用途に使用されている。従来、太陽電池においては、バルクの単結晶Si又は多結晶Si、あるいは薄膜のアモルファスSiを用いたSi系太陽電池が主流であったが、Siに依存しない化合物半導体系太陽電池の研究開発がなされている。化合物半導体系太陽電池としては、GaAs系等のバルク系と、Ib族元素とIIIb族元素とVIb族元素とからなるCISあるいはCIGS系等の薄膜系とが知られている。CI(G)Sは、一般式Cu1−zIn1−xGaSe2−y(式中、0≦x≦1,0≦y≦2,0≦z≦1)で表される化合物半導体であり、x=0のときがCIS系、x>0のときがCIGS系である。本明細書では、CISとCIGSとを合わせて「CI(G)S」と表記してある箇所がある。
【0003】
CI(G)S系等の薄膜系光電変換素子においては一般に、光電変換層上に、バッファ層を介して、あるいはバッファ層と窓層を介して透光性導電層(透明電極)が設けられている。かかる系では通常、バッファ層は化学浴析出法(CBD法:Chemical Bath Deposition)により成膜されている。
【0004】
バッファ層の役割としては、(1)光生成キャリアの再結合の防止、(2)バンド不連続の整合、(3)格子整合、及び(4)光電変換層の表面凹凸のカバレッジ等が考えられる。CI(G)S系等では光電変換層の表面凹凸が比較的大きく、特に(4)の条件を良好に充たすために、液相法であるCBD法が好ましいと考えられる。
【0005】
CI(G)S系光電変換素子のバッファ層としては、CdSやZn(S,O)等が一般的に用いられる。かかるバッファ層をCBD法により成膜する際の反応温度は、一般に60℃〜95℃が必要とされている(特許文献1〜特許文献3など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−124487号公報
【特許文献2】特許第4320529号公報
【特許文献3】特許第4264801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、CBD法を施す成膜基板は、一般に室温に近い温度となっているため、CBD法の反応液に浸漬させた際に、バッファ層の析出温度に調温されている反応液の温度を低下させてしまい、その都度反応液の温度を上昇させなければならず、タイムロスが大きくなる。CI(G)S層表面の凹凸をカバーして表面の平滑性の良好なバッファ層とするためには、一般に、50nm以上の比較的厚いバッファ層の膜厚が必要とされているため、特に、析出温度と室温との温度の差が大きい場合や、ロール・トゥ・ロール方式の成膜においてはタイムロスが非常に大きくなり、製造コストが高くなってしまう。かかる課題は、CI(G)S系光電変換層の他、CdTe系化合物半導体系光電変換層などにおいても少なからず存在する課題である。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、化合物半導体系光電変換素子の製造において、CBD法によるバッファ層成膜時のタイムロスを抑制して、低コストに光電変換素子を製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の光電変換素子の製造方法は、基板上に、下部電極層と、化合物半導体系光電変換半導体層と、バッファ層と、透光性導電層が順次積層された光電変換素子の製造方法において、前記光電変換半導体層上に、所定の温度の反応液を用いて化学浴析出法により前記バッファ層を形成する工程と、前記化学浴析出法において、前記反応液に浸漬させる前記基板の温度と前記反応液の温度との差が、所定値以下となるように前記基板の温度を調整する工程とを有し、前記化学浴析出法の反応液の温度が70℃以上であることを特徴とするものである。
【0010】
前記基板の温度を調整する工程において、前記差を3℃以内となるように、前記基板の温度を調整することが好ましく、1℃以内となるように前記基板の温度を調整することがより好ましい。
【0011】
前記基板の温度の調整は、前記基板をガスにより加熱して行ってもよいし、前記基板を液体に浸漬させることにより加熱して行ってもよいし、ヒーターにより加熱して行ってもよい。
【0012】
前記バッファ層を形成する前に、前記光電変換半導体層の前記バッファ層を形成する表面を、該表面の不純物を除去しうる反応液中に浸漬させて前記表面を表面処理する工程と、
該表面処理された表面を、水で洗浄する工程と、前記表面を乾燥する工程とを有する場合は、該乾燥する工程において、温風を用いて前記基板の温度を調整してもよいし、水で洗浄する工程において前記水として温水を用いて前記基板の温度を調整してもよい。
【0013】
また、前記バッファ層を形成する前に、更に、前記表面処理する工程は、前記光電変換半導体層の前記バッファ層を形成する表面を、該表面を平滑化しうる反応液中に浸漬させて前記表面を表面処理する工程有していることが好ましい。かかる構成において、前記平滑化する工程は、前記基板をBr水溶液又はI水溶液に基板を浸漬させることにより前記平滑化を実施する工程であることが好ましい。
【0014】
前記表面の不純物を除去しうる反応液としては、KCN水溶液が挙げられる。
【0015】
上記本発明の光電変換素子の製造方法において、前記表面処理後、60分以内に前記バッファ層を形成することが好ましく、10分以内に前記バッファ層を形成することがより好ましい。ここで、「表面処理後、60分以内」とは、表面処理終了直後からの時間を意味し、その後の水洗工程及び乾燥工程まで含んだ時間となる。
【0016】
前記光電変換半導体層の主成分としては、少なくとも1種のカルコパイライト構造の化合物半導体が好ましく、
Cu及びAgからなる群より選択された少なくとも1種のIb族元素と、
Al,Ga及びInからなる群より選択された少なくとも1種のIIIb族元素と、
S,Se,及びTeからなる群から選択された少なくとも1種のVIb族元素とからなる少なくとも1種の化合物半導体であることがより好ましい。
【0017】
本明細書において、「主成分」とは、含量80重量%以上の成分を意味する。
【0018】
本発明の光電変換素子の製造方法において、前記基板は、
Alを主成分とするAl基材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板、
Feを主成分とするFe材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とするAl材が複合された複合基材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板、
及び、Feを主成分とするFe材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とするAl膜が成膜された基材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板からなる群より選ばれた陽極酸化基板であることが好ましい。
【0019】
また、本発明の光電変換素子の製造方法は、前記基板として可撓性を有する基板を用いる場合は、前記基板の温度を調整する工程から前記バッファ層の成膜する工程までをインラインにてロール・トウ・ロール方式で行うことができる。ここで、インラインとは、ロール状に巻かれた基材が、製造工程に繰り出されてから再びロールに巻き取られるまでの間を言う。
【0020】
本発明の光電変換素子は、基板上に、下部電極層と、光電変換半導体層と、バッファ層と、透光性導電層が順次積層された光電変換素子であって、前記基板が、Alを主成分とするAl基材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板、Feを主成分とするFe材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とするAl材が複合された複合基材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板、及び、Feを主成分とするFe材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とするAl膜が成膜された基材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板からなる群より選ばれた陽極酸化基板であり、前記光電変換層の前記バッファ層側の面の算術平均表面粗さRaが600Å以下であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明の光電変換素子の製造方法は、化合物半導体系光電変換半導体層上に、所定の温度の反応液を用いて化学浴析出法(CBD法)によりバッファ層を形成する際に、反応液に浸漬させる基板の温度と反応液の温度との差が所定値以下となるように基板の温度を調整する。かかる方法によれば、CBD法によるバッファ層の析出温度に調整されている反応液の温度変化を抑制することにより、反応液の温度調整に伴うタイムロスを抑制することができる。従って本発明によれば、製造時間を短縮して低コストに光電変換素子を製造することができる。
【0022】
また、バッファ層を形成する光電変換半導体層の表面に、不純物を除去する表面処理及び/又は該表面を平滑化させる表面処理を施し、表面処理後の洗浄工程及び/又は乾燥工程において上記基板の温度を調整する構成において、表面処理終了後からバッファ層形成開始までの処理速度を早くすることにより、変換効率を低下させることなく製造時間を短縮して低コストに光電変換素子を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る一実施形態の光電変換素子の構成を示す概略断面図。
【図2】本発明の光電変換素子の製造方法の概要を示す概略図
【図3】陽極酸化基板の構成を示す概略断面図
【図4】陽極酸化基板の製造方法を示す斜視図
【図5】ロール・トゥ・ロール方式の光電変換素子の製造方法を示す概略断面図
【発明を実施するための形態】
【0024】
「光電変換素子の製造方法」
図面を参照して、本発明の光電変換素子の製造方法について説明する。図1は、本発明にかかる一実施形態の光電変換素子(太陽電池)1の構成を示す概略断面図である。また、図2(a)〜(c)は、本発明の光電変換素子1の製造方法の概要を示す概略図である。視認しやすくするため、各構成要素の縮尺等は実際のものとは適宜異ならせてある。
【0025】
光電変換素子(太陽電池)1は、図1に示されるように、基板10上に、下部電極20と光吸収により正孔・電子対を発生する光電変換半導体層30と、バッファ層40と、窓層50と、透光性導電層(透明電極)60と、上部電極(グリッド電極)70とが順次積層された素子である。
【0026】
本発明の光電変換素子の製造方法は、図1に示す光電変換素子1のように、基板10上に、少なくとも下部電極20と、化合物半導体層からなる光電変換半導体層30と、バッファ層40と、透光性導電層60との積層構造を有する光電変換素子の製造方法において、光電変換半導体層30上に、所定の温度の反応液を用いて化学浴析出法(CBD法)によりバッファ層40を形成する工程と、CBD法において、反応液Lに浸漬させる基板Bの温度T(℃)と反応液Lの温度T(℃)との差が、所定値t(℃)以下となるように基板Bの温度Tを調整する工程とを有しており、CBD法の反応液Lの温度Tは、70℃以上としている。CBD法によりバッファ層40を成膜する基板Bは、基板10に、少なくとも下部電極20と、化合物半導体層からなる光電変換半導体層30が成膜された積層基板である。
【0027】
「CBD法」とは、一般式 [M(X)] m+ ⇔ Mn++iX(式中、M:金属元素、X:配位子、m,n,i:正数を各々示す。)で表されるような平衡によって過飽和条件となる濃度とpHを有する金属イオン溶液を反応液として用い、金属イオンMの錯体を形成させることで、安定した環境で適度な速度で基板上に結晶を析出させる方法である。基板上にCBD法により複数の微粒子を析出する方法としては、例えばPhysical Chemistry Chemical Physics, 9, 2181-2196 (2007). 等に記載の方法が挙げられる。
【0028】
「背景技術」の項において述べたように、CI(G)S系半導体層などの化合物半導体系光電変換層は、その表面凹凸が比較的大きい。そのため、表面の平滑性が良好且つ、バッファ層としての機能を充分に果たすためには、バッファ層40の膜厚には比較的厚い膜厚が必要となる。
【0029】
従って、「所定値t(℃)」とは、成膜直後の光電変換半導体層表面に対して該表面の凹凸を平滑化する処理などを行わずに、CBD法によりバッファ層を形成する際に、CBD法の反応液に浸漬させる基板の温度を調整せずに、表面の平滑性が良好且つ、バッファ層としての機能を充分に果たすことのできる膜厚のバッファ層を得るのに必要なCBD法の反応時間を基準とし、該反応時間を所望の時間短縮する効果が得られる値とする。
【0030】
バッファ層40の膜厚は、10nm〜2μmが好ましく、15〜200nmがより好ましいとされている。
【0031】
図2(a)に示される積層基板Bは、基板10上に、下部電極20と、化合物半導体層からなる光電変換半導体層30が成膜されている。光電変換半導体層30の表面の凹凸は図示を略してある。
【0032】
バッファ層40は、この積層基板B上に成膜される。バッファ層40としては特に制限されないが、CdS、ZnS,Zn(S,O)及び/又はZn(S,O,OH)、SnS,Sn(S,O)及び/又はSn(S,O,OH)、InS,In(S,O)及び/又はIn(S,O,OH)等の、Cd,Zn,Sn,Inからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む金属硫化物を含むことが好ましい。
【0033】
かかるバッファ層40はCBD法により形成することが好ましいとされている。CBD法において、上記バッファ層の構成物質の析出温度は、70℃以上であることが好ましいとされている。反応温度が70℃未満では反応速度が遅くなり、薄膜が成長しない、あるいは薄膜成長しても実用的な反応速度で所望の厚み(例えば50nm以上)を得るのが難しくなる。反応液Lが水系の液体であるため、反応温度が95℃超では、反応液中で気泡等の発生が多くなり、それが膜表面に付着したりして平坦で均一な膜が成長しにくくなる。さらに、反応が開放系で実施される場合には、溶媒の蒸発等による濃度変化などが生じ、安定した薄膜析出条件を維持することが難しくなる。反応温度は好ましくは80〜90℃である。
【0034】
例えば、バッファ層20がCdSを主成分とするものである場合は、CdSO水溶液,チオ尿素水溶液,アンモニア水溶液を所定量混合した反応液を用いて、CBD法により成膜することが好ましい。反応液としては、例えば、CdSO0.0001M,チオ尿素水溶液0.10M,アンモニア水溶液2.0M含むものが挙げられる。 この場合、反応温度は、70℃〜95℃とすることが好ましい。例えば、反応温度80℃であれば、反応時間は15〜30分程度とすればよい。
【0035】
CdSは、バッファ層として好適な材料であるが、Cdは毒性が強く環境負荷の点では好ましくない。従ってバッファ層20としては、Zn(S,O)及び/又はZn(S,O,OH)を主成分とするZn化合物層がより好ましい。
【0036】
バッファ層20がZn(S,O)及び/又はZn(S,O,OH)を主成分とするZn化合物層である場合は、CBD法において、反応温度を70〜95℃として成膜することが好ましく、その後、150℃〜200℃以下の温度にて、5〜90分間アニール処理を施すことがより好ましい。CBD法によるZn(S,O)及び/又はZn(S,O,OH)を主成分とするZn化合物層の製造方法については、本発明者らが出願した特願2009−112203を参照されたい。特願2009−112203に示される製造方法により製造されたZn系バッファ層は、下地を良好に被覆し、実用的な反応速度で成膜することができる。
【0037】
上記したように、バッファ層40の成膜に使用されるCBD法の反応液Lは、70℃以上の温度であるので、図2(c)に示される反応槽中のCBD法の反応液Lは、バッファ層40が析出する温度T(≧70℃)に調温されている。一方、積層基板Bは、光電変換半導体層30の成膜後に室温雰囲気に取り出されているため、ほぼ室温(r.t)前後の温度となっていると考えられる。従って、図2(a)の積層基板Bをそのまま図2(c)の反応液L中に浸漬させると、70℃以上の温度に調温されている反応液Lの温度がT、室温付近の温度の積層基板B(以下、基板Bとする。)の投入により低下されてしまう。その低下の度合いは反応液Lの量と基板Bの大きさ、熱伝導率等によって様々であるが、この低下した反応液Lの温度Tを析出温度まで上昇させるためのタイムロスが発生してしまう。
【0038】
従って、本発明では、図2(b)に示されるように、基板Bを加熱してCBD法の反応液Lに投入される基板Bの温度Tと反応液Lの温度Tの差(|T−T|(℃))を所定値t(℃)以下とする。
|T−T|(℃)≦t(℃)
【0039】
反応液Lの温度低下によるタイムロスは、当然のことながら少なければ少ないほどよいため、所定値t(℃)は小さければ小さいほどよい。タイムロスの程度は反応液Lの量や基板Bの大きさや熱伝導率によって異なることを述べたが、通常のCBD法において基板の大きさに対する好適な反応液Lの量の範囲はある程度決まっている。また、本実施形態の光電変換素子1として好適な基板や各層の構成に基づいた熱伝導率から判断すると、所定値tは3℃であることが好ましく、1℃であることがより好ましい。
【0040】
図2(b)に示される加熱の方法は特に制限されず、基板Bをガスによりブローして加熱してもよいし、基板Bを温水などの液体に浸漬させることにより加熱してもよいし、ヒーターにより加熱してもよい。基板Bは、光電変換層30の表面の水洗工程及び乾燥工程を経てからバッファ層40の成膜工程に入ることがある。その場合は、水洗工程又は乾燥工程において加熱をすればよい。
【0041】
本発明において、所定値t以下とする基板Bの温度TとTとの差は、反応液Lに投入される基板温度Tと反応液Lの温度T(析出温度に調温)との差であるので、基板温度の調整において、加熱直後の基板の温度は、反応液Lへの投入時までの基板Bの温度低下を考慮して設定する必要がある。
【0042】
また、光電変換素子の光電変換効率の面内のばらつきを小さくして変換効率を高めるために、バッファ層40を形成する前に、光電変換半導体層30の表面の不純物を除去する表面処理を行うことが好ましい。CI(G)S系光電変換層の場合、成膜後の表面にはセレン化銅や硫化銅等の有害な不純物が残存している可能性が高い。不純物を除去する表面処理としては、光電変換半導体30の表面の不純物を除去しうるKCN水溶液(例えば5−10質量%水溶液)などの反応液中に数分間、光電変換半導体層30の表面を浸漬させる方法が好ましい。
【0043】
更に、光電変換半導体層30の表面の凹凸を除去して平滑化させた後にバッファ層40を成膜してもよい。光電変換半導体層30の表面の平滑化は、Br又はI水溶液(例えば0.1モル%以下の水溶液)等のウエットエッチング液にて光電変換半導体層30の表面を数秒〜数分程度浸漬させる方法が好ましい。かかる表面処理を実施することにより、光電変換半導体層30のバッファ層40側の面の算術平均表面粗さRaを600Å以下とすることができる。光電変換半導体層30の表面の凹凸が除去されていれば、凹凸のカバレッジの必要がないため、バッファ層30の膜厚は比較的薄くてすむ。従って、バッファ層40の成膜時間を短縮することができる。
【0044】
光電変換半導体層30の表面の平滑化をする表面処理を実施してからバッファ層40を成膜する構成では、例えばバッファ層40の厚みを薄くすることができるので、成膜時間をさらに短縮しても変換効率を維持することができる。
【0045】
上記不純物除去及び/又は平滑化の表面処理を実施する場合は、表面処理後、その表面を水洗する工程、及び水洗された表面を乾燥させる工程を、バッファ層40の形成の前に実施する必要がある。従って、上記表面処理を実施する構成では、表面処理後の水洗工程、又は乾燥工程により、温水、又は温風を用いて基板Bの温度の調整(加熱)を行うことが効率的であり好ましい。
【0046】
上記不純物除去の表面処理と平滑化の表面処理の順序は特に制限されないが、平滑化処理を実施した後に不純物除去処理を実施する方が好ましい。また、不純物除去の表面処理のみを行った場合、又は、不純物除去の表面処理を後に実施した場合は、該表面処理後、60分以内にバッファ層40の形成を開始することが好ましく、10分以内に開始することがより好ましい。
【0047】
後記実施例に示されるように、上記本発明の光電変換素子の製造方法により、基板Bの温度を調整せずにバッファ層40を成膜した場合に比して、バッファ層40の成膜時間を3分の1に短縮することに成功している。
【0048】
本発明の光電変換素子1の製造方法では、化合物半導体系光電変換半導体層30上に、所定の温度Tの反応液Lを用いてCBD法によりバッファ層40を形成する際に、反応液Lに浸漬させる基板Bの温度Tと反応液Lの温度Tとの差が所定値t以下となるように基板Bの温度を調整する。かかる方法によれば、CBD法によるバッファ層40の析出温度Tに調整されている反応液Lの温度変化を抑制することにより、反応液Lの温度調整に伴うタイムロスを抑制することができる。従って本発明によれば、製造時間を短縮して低コストに光電変換素子1を製造することができる。
【0049】
以下に、光電変換素子1の基板や各層についてその材料や成膜方法について説明する。
(基板)
基板10としては特に制限されず、ガラス基板、表面に絶縁膜が成膜されたステンレス等の金属基板、Alを主成分とするAl基材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板、Feを主成分とするFe材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とするAl材が複合された複合基材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板、Feを主成分とするFe材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とするAl膜が成膜された基材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板、及びポリイミド等の樹脂基板等が挙げられる。
【0050】
連続工程による生産が可能であることから、表面に絶縁膜が成膜された金属基板、陽極酸化基板、及び樹脂基板等の可撓性基板が好ましい。
【0051】
熱膨張係数、耐熱性、及び基板の絶縁性等を考慮すれば、Alを主成分とするAl基材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板、Feを主成分とするFe材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とするAl材が複合された複合基材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板、及びFeを主成分とするFe材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とするAl膜が成膜された基材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板からなる群より選ばれた陽極酸化基板が特に好ましい。
【0052】
図3は、陽極酸化基板110の構成を示す概略断面図である。
陽極酸化基板110はAlを主成分とするAl基材101の少なくとも一方の面側を陽極酸化して得られた基板である。基板110は、図3の左図に示すように、Al基材11の両面側に陽極酸化膜102が形成されたものでもよいし、図3の右図に示すように、Al基材101の片面側に陽極酸化膜102が形成されたものでもよい。陽極酸化膜102はAlを主成分とする膜である。
【0053】
デバイスの製造過程において、AlとAlとの熱膨張係数差に起因した基板の反り、及びこれによる膜剥がれ等を抑制するには、図2の左図に示すようにAl基材101の両面側に陽極酸化膜102が形成されたものが好ましい。
【0054】
陽極酸化は、必要に応じて洗浄処理・研磨平滑化処理等が施されたAl基材101を陽極とし陰極と共に電解質に浸漬させ、陽極陰極間に電圧を印加することで実施できる。陰極としてはカーボンやアルミニウム等が使用される。電解質としては制限されず、硫酸、リン酸、クロム酸、シュウ酸、スルファミン酸、ベンゼンスルホン酸、及びアミドスルホン酸等の酸を、1種又は2種以上含む酸性電解液が好ましく用いられる。
【0055】
陽極酸化条件は使用する電解質の種類にもより特に制限されない。条件としては例えば、電解質濃度1〜80質量%、液温5〜70℃、電流密度0.005〜0.60A/cm、電圧1〜200V、電解時間3〜500分の範囲にあれば適当である。
【0056】
電解質としては、硫酸、リン酸、シュウ酸、若しくはこれらの混合液が好ましい。かかる電解質を用いる場合、電解質濃度4〜30質量%、液温10〜30℃、電流密度0.05〜0.30A/cm、及び電圧30〜150Vが好ましい。
【0057】
図4に示すように、Alを主成分とするAl基材101を陽極酸化すると、表面101sから該面に対して略垂直方向に酸化反応が進行し、Alを主成分とする陽極酸化膜102が生成される。陽極酸化により生成される陽極酸化膜102は、多数の平面視略正六角形状の微細柱状体102aが隙間なく配列した構造を有するものとなる。各微細柱状体102aの略中心部には、表面101sから深さ方向に略ストレートに延びる微細孔102bが開孔され、各微細柱状体102aの底面は丸みを帯びた形状となる。通常、微細柱状体102aの底部には微細孔102bのないバリア層が形成される。陽極酸化条件を工夫すれば、微細孔102bのない陽極酸化膜102を形成することもできる。
【0058】
Al基材101及び陽極酸化膜102の厚みは特に制限されない。基板110の機械的強度及び薄型軽量化等を考慮すれば、陽極酸化前のAl基材101の厚みは例えば0.05〜0.6mmが好ましく、0.1〜0.3mmがより好ましい。基板の絶縁性、機械的強度、及び薄型軽量化を考慮すれば、陽極酸化膜102の厚みは例えば0.1〜100μmが好ましい。
【0059】
上記陽極酸化膜を備えた基板110を用いて、上記本発明の光電変換素子の製造方法において、光電変換半導体層30の表面を平滑化する表面処理を行う構成により製造することにより、光電変換半導体層30のバッファ層40側の面の算術平均表面粗さRaを600Å以下とすることができるため、低コストにて、可撓性に優れ、基板の反りや、膜はがれ等の欠陥が少ない光電変換素子1を得ることができる。
【0060】
さらに、陽極酸化基板110は、陽極酸化膜102上にソーダライムガラス(SLG)層が設けられたものであってもよい。
【0061】
(下部電極)
下部電極20の主成分としては特に制限されず、Mo,Cr,W,及びこれらの組合わせが好ましく、Moが特に好ましい。下部電極(裏面電極)20の膜厚は制限されず、200〜1000nm程度が好ましい。下部電極20の成膜方法としては特に制限されず、スパッタ法や蒸着等の気相成膜が好ましい。
【0062】
(光電変換層)
光電変換層30の主成分としては特に制限されず、高光電変換効率が得られることから、少なくとも1種のカルコパイライト構造の化合物半導体である場合に好適に適用することができる。カルコパイライト構造の化合物半導体としては、Ib族元素とIIIb族元素とVIb族元素とからなる少なくとも1種の化合物半導体であることがより好ましい。
【0063】
光電変換層30の主成分としては、
Cu及びAgからなる群より選択された少なくとも1種のIb族元素と、
Al,Ga及びInからなる群より選択された少なくとも1種のIIIb族元素と、
S,Se,及びTeからなる群から選択された少なくとも1種のVIb族元素とからなる少なくとも1種の化合物半導体であることが好ましい。
【0064】
上記化合物半導体としては、
CuAlS,CuGaS,CuInS
CuAlSe,CuGaSe
AgAlS,AgGaS,AgInS
AgAlSe,AgGaSe,AgInSe
AgAlTe,AgGaTe,AgInTe
Cu(In,Al)Se,Cu(In,Ga)(S,Se)
Cu1−zIn1−xGaSe2−y(式中、0≦x≦1,0≦y≦2,0≦z≦1)(CI(G)S),
Ag(In,Ga)Se,及びAg(In,Ga)(S,Se)等が挙げられる。
【0065】
光電変換層の成膜方法としては特に制限されない。例えば、Cu,In,(Ga),Sを含むCI(G)S系の光電変換層の成膜では、セレン化法や多元蒸着法等の方法を用いて成膜することができる。
【0066】
光電変換層30の膜厚は特に制限されず、1.0〜3.0μmが好ましく、1.5〜2.0μmが特に好ましい。
【0067】
(窓層)
次いで、窓層(保護層)50を成膜する(図1(c))。窓層50は、光を取り込む中間層である。窓層50としては、光を取り込む透光性を有していれば特に制限されないが、その組成としてはバンドギャップを考慮すれば、i−ZnO等が好ましい。窓層50の膜厚は特に制限されず、10nm〜2μmが好ましく、15〜200nmがより好ましい。
【0068】
窓層30の成膜方法は、特に制限されないが、バッファ層40を液相法により製造するため、製造プロセスを簡易にするためには液相法であることが好ましい。窓層30は必須ではなく、窓層30のない光電変換素子もある。
【0069】
(透光性導電層)
透光性導電層(透明電極)60は、光を取り込むと共に、下部電極20と対になって、光電変換層30で生成された正孔・電子対が流れる電極として機能する層である。透光性導電層60の組成としては特に制限されず、ZnO:Al等のn−ZnO等が好ましい。透光性導電層60の膜厚は特に制限されず、50nm〜2μmが好ましい。
【0070】
透光性導電層60の成膜方法としては特に制限されないが、窓層と同様、製造プロセスを簡易にするためには液相法であることが好ましい。
【0071】
(上部電極)
上部電極70の主成分としては特に制限されず、Al等が挙げられる。上部電極70の膜厚は特に制限されず、0.1〜3μmが好ましい。
【0072】
光電変換素子1は、太陽電池等に好ましく使用することができる。光電変換素子1に対して必要に応じて、カバーガラス、保護フィルム等を取り付けて、太陽電池とすることができる。
【0073】
本発明の光電変換素子1の製造方法は、基板10として可撓性を有する基板を用いる場合は、バッファ層40の成膜を、大面積の基板上に連続成膜可能なロール・トゥ・ロール(Roll-to-Roll)方式で行うことができる。
【0074】
ロール・トゥ・ロール方式とは、ロール状に巻かれた可撓性基板を繰り出して、間欠的、或いは連続的に搬送しながら、巻き取りロールにより巻き取られるまでの間のプロセスを実施する方式であり、kmオーダの長尺基板を一括処理することが可能であるため、簡易に量産が可能であり好ましい。ロール・トゥ・ロール方式と個別に切り離された基材を工程毎に搬送する枚葉方式とを比較すると、枚葉方式では、それぞれの工程に基材の搬入部、搬出部を設ける必要があり、工程毎の装置規模が大きくなりやすいが、ロール・トゥ・ロール方式では、基材は各工程間を間欠的、或いは連続的に流れるため各工程を互いに連結でき、基材搬送に伴う作業の削減や装置の小型化が可能となる。
【0075】
図5に、本発明の光電変換素子1の製造方法において、バッファ層40をロール・トゥ・ロール方式にて成膜する場合の一例を示した断面フロー図を示す。図4に示される態様は、光電変換層30を成膜後の長尺基板Bが、巻き出しロール101に設置されており、該基板Bの表面に、上記した不純物除去を行う表面処理を液相法により実施した後、水洗、乾燥を経てバッファ層20を成膜し、更に水洗、乾燥を実施して巻き取りロール102により巻き取るものであり、つまり、表面処理工程からバッファ層40の成膜後の洗浄・乾燥工程までをインラインにて実施する態様である。
【0076】
図5において、巻き出しロール101から巻き出された基板Bは、ガイドロール103により導かれて各工程のゾーンに搬送される。複数のガイドロール103は、長尺基板Bの搬送方向の調整が必要な箇所に適宜配置されている。
【0077】
また、上流側の反応層Pには、表面処理液L1が、下流側の反応層Pには、バッファ層40をCBD法で成膜する際の反応液L2がそれぞれ備えられており、反応槽Pには、長尺基板Bの処理領域を反応液中に浸漬させるためのドラムDが配置されている。反応液L2は、バッファ層40の析出温度に調温されている(調温手段は図示略)。また、各工程後に基板の洗浄および乾燥を行うために、各反応槽Pの下流側には、洗浄シャワー111,121及び、ドライヤー112,122が備えられている。
【0078】
まず、基板Bは、処理液L1(KCN水溶液)中に供給され、基板Bの光電変換半導体層30の表面に付着した不純物が除去された後、洗浄シャワー111により表面を水洗された後、ドライヤー112により乾燥される。
【0079】
ここで、洗浄シャワー111の洗浄液として温水を用いる、及び/又は温風ドライヤー112を用いることにより、次工程の反応液L2の温度TとL2に浸漬される基板Bの温度Tとの温度差が所定値t以下となるように基板Bを加熱する。
【0080】
反応液の温度TLとの温度差が所定値t以下である基板Bは、反応液L2が備えられたCBD法の反応層Pに供給されてバッファ層40が成膜される。バッファ層40が成膜された積層基板Bは、洗浄シャワー121によりバッファ層40の表面を水洗された後、ドライヤー122により乾燥され、巻き取りロール102により巻き取られる。
【0081】
図5では、表面処理工程からバッファ層40の成膜・洗浄・乾燥工程までをインラインにて実施するロール・トゥ・ロール方式の製造について示したが、光電変換素子1の製造工程においてインラインで実施する範囲は制限されない。
【0082】
「設計変更」
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、適宜設計変更可能である。
【実施例1】
【0083】
本発明に係る実施例及び比較例について説明する。
以下に示す基板及び各層の成膜方法を組み合わせて、実施例1〜11及び比較例1〜8として光電変換素子を作製した。
【0084】
<基板>
基板として、下記の基板1,2を用意した。
基板1:Mo電極層付きソーダライムガラス(SLG)基板上にCIGS層を成膜した基板。基板1の製造プロセスを以下に示す。
30mm×30mm角のソーダライムガラス(SLG)基板上に、スパッタ法によりMo下部電極を0.8μm厚で成膜した。この基板上にCIGS層の成膜法の一つとして知られている3段階法を用いて膜厚1.8μmのCu(In0.7Ga0.3)Se層を成膜した。
基板2:100μm厚ステンレス(SUS)−30μm厚Al複合基材上のAl表面にアルミニウム陽極酸化膜(AAO)が形成された陽極酸化基板を用い、さらにAAO表面にソーダライムガラス(SLG)層及びMo電極層、CIGS層が形成された基板。各層の膜厚は、SUS(300μm超),Al(300μm),AAO(20μm),SLG(0.2μm),Mo(0.8μm),CIGS(1.8μm)であった。基板2の製造プロセスは基板1と同様、SLG層上に、スパッタ法によりMo下部電極を0.8μm厚で成膜し、Mo下部電極上に、3段階法を用いて、光電変換層として膜厚1.8μmのCu(In0.7Ga0.3)Se2層を成膜した。
【0085】
<表面処理1>
Br0.05mol%水溶液の入った反応槽を用意し、基板上に成膜されたCIGS層の表面を10秒浸漬させてCIGS層表面をエッチングして平滑化させた。取り出した後に水洗シャワーにて表面を洗浄したのちドライヤーにて乾燥させた。
【0086】
<表面処理2>
KCN10質量%水溶液の入った反応槽を用意し、基板上に成膜されたCIGS層の表面を3分浸漬させてCIGS層表面の不純物除去を行った。取り出した後に水洗シャワーにて表面を洗浄したのちドライヤーにて乾燥させた。
【0087】
通常、表面処理1を実施した後に表面処理2を実施した。比較例5においては表面処理2を実施した後に表面処理1を実施した(表中には逆工程と記した。)。
【0088】
<CdSバッファ層の成膜(CBD法)>
CdSO4水溶液、チオ尿素水溶液、アンモニア水溶液を所定量混合して、CdSO:0.0001M、チオ尿素:0.10M、アンモニア:2.0Mである反応液1を調製した。ここで、単位Mは体積モル濃度(mol/L)を示す。光電変換層(CIGS層)が形成された基板を、70℃に調温した反応液1の入った反応槽に浸漬させてCdSバッファ層を析出させた。取り出した後に水洗シャワーにて表面を洗浄したのちドライヤーにて乾燥させ、CdSバッファ層を形成した。膜厚は、作製した試料の厚み方向の断面をSEM観察することにより確認した。
【0089】
<太陽電池の作製>
バッファ層上にさらにスパッタ法によりi−ZnO層(窓層)を50nm、Alをドープしたn−ZnO層(透光性電極層)を500nm順次積層し、最後にAlからなる取り出し電極(上部電極)を形成し、単セルの太陽電池を作製した。
【0090】
<変換効率の測定方法>
各実施例1〜11、および比較例1〜8の方法を経て作製された各太陽電池について、ソーラーシミュレーターを用いて、Air Mass(AM)=1.5、100mW/cm2の擬似太陽光を用いた条件下で、エネルギー変換効率を測定した。
【0091】
<各例の条件及び評価結果>
実施例1〜9、比較例1〜4についての層構成、各層の成膜方法の組み合わせ、及び評価結果を表1に示す。
【0092】
表中、変換効率は、表面処理を実施したが温度調整を行わなかった場合の光電変換率を基準として、対基準値で示している。
【表1】

【0093】
表1に示されるように、本発明の光電変換素子の製造方法により、バッファ層成膜時間を大きく短縮することができることが確認された。表1には、バッファ層を形成する光電変換半導体層の表面に、不純物を除去する表面処理及び/又は該表面を平滑化させる表面処理を施し、表面処理後の洗浄工程及び/又は乾燥工程において上記基板の温度を調整する構成において、表面処理終了後からバッファ層形成開始までの処理速度を早くすることにより、変換効率を低下させることなく製造時間を短縮して低コストに光電変換素子を製造できることも示されている。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の光電変換素子の製造方法は、太陽電池、及び赤外センサ等に使用される光電変換素子等の用途に好ましく適用できる。
【符号の説明】
【0095】
1 光電変換素子(太陽電池)
10 基板
20 下部電極(裏面電極)
30 光電変換半導体層
40 バッファ層
50 窓層(保護層)
60 透光性導電層(透明電極)
70 上部電極(グリッド電極)
101 Al機材
102 陽極酸化膜
110 陽極酸化基板
B 積層基板(基板)
L,L2 反応液
反応液の温度
(積層)基板の温度
t 所定値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、下部電極層と、化合物半導体系光電変換半導体層と、バッファ層と、透光性導電層が順次積層された光電変換素子の製造方法において、
前記光電変換半導体層上に、所定の温度の反応液を用いて化学浴析出法により前記バッファ層を形成する工程と、
前記化学浴析出法において、前記反応液に浸漬させる前記基板の温度と前記反応液の温度との差が、所定値以下となるように前記基板の温度を調整する工程とを有し、
前記化学浴析出法の反応液の温度が70℃以上であることを特徴とする光電変換素子の製造方法。
【請求項2】
前記基板の温度を調整する工程において、
前記差を3℃以内となるように、前記基板の温度を調整することを特徴とする請求項1に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項3】
前記差を1℃以内となるように、前記基板の温度を調整することを特徴とする請求項2に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項4】
前記基板の温度を、前記基板をガスにより加熱して調整することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項5】
前記基板の温度を、前記基板を液体に浸漬させることにより加熱して調整すること特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項6】
前記基板の温度を、前記基板をヒーターにより加熱して調整することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項7】
前記バッファ層を形成する前に、
前記光電変換半導体層の前記バッファ層を形成する表面を、該表面の不純物を除去しうる反応液中に浸漬させて前記表面を表面処理する工程と、
該表面処理された表面を、水で洗浄する工程と、
前記表面を乾燥する工程とを有し、
該乾燥する工程において、温風を用いて前記基板の温度を調整することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項8】
前記バッファ層を形成する前に、
前記光電変換半導体層の前記バッファ層を形成する表面を、該表面の不純物を除去しうる反応液中に浸漬させて前記表面を表面処理する工程と、
該表面処理された表面を、水で洗浄する工程を有し、
前記水として温水を用いて前記基板を加熱して、該基板の温度を調整することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項9】
前記バッファ層を形成する前に、
更に、前記光電変換半導体層の前記バッファ層を形成する表面を、該表面を平滑化しうる反応液中に浸漬させて前記表面を表面処理する工程を有することを特徴とする請求項7又は8に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項10】
前記平滑化する工程が、前記基板をBr水溶液又はI水溶液に基板を浸漬させることにより前記平滑化を実施する工程であることを特徴とする請求項9に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項11】
前記表面の不純物を除去しうる反応液が、KCN水溶液であることを特徴とする請求項7〜10のいずれかに記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項12】
前記表面処理終了後、60分以内に前記バッファ層を形成することを特徴とする請求項7〜11のいずれかに記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項13】
前記表面処理終了後、10分以内に前記バッファ層を形成することを特徴とする請求項12に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項14】
前記光電変換半導体層の主成分が、少なくとも1種のカルコパイライト構造の化合物半導体であることを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項15】
前記光電変換半導体層の主成分が、
Cu及びAgからなる群より選択された少なくとも1種のIb族元素と、
Al,Ga及びInからなる群より選択された少なくとも1種のIIIb族元素と、
S,Se,及びTeからなる群から選択された少なくとも1種のVIb族元素とからなる少なくとも1種の化合物半導体であることを特徴とする請求項14に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項16】
前記基板が、
Alを主成分とするAl基材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板、
Feを主成分とするFe材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とするAl材が複合された複合基材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板、
及び、Feを主成分とするFe材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とするAl膜が成膜された基材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板からなる群より選ばれた陽極酸化基板であることを特徴とする請求項1〜15のいずれかに記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項17】
前記基板として可撓性を有する基板を用い、
前記基板の温度を調整する工程から前記バッファ層の成膜工程までを、インラインにてロール・トウ・ロール方式で行うことを特徴とする請求項1〜16のいずれかに記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項18】
基板上に、下部電極層と、化合物半導体系光電変換半導体層と、バッファ層と、透光性導電層が順次積層された光電変換素子であって、
前記基板が、Alを主成分とするAl基材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板、
Feを主成分とするFe材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とするAl材が複合された複合基材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板、
及び、Feを主成分とするFe材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とするAl膜が成膜された基材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板からなる群より選ばれた陽極酸化基板であり、
前記光電変換層の前記バッファ層側の面の算術平均表面粗さRaが600Å以下であることを特徴とする光電変換素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate