説明

化学剤または生物剤を分解するための光触媒特性を有する織物用繊維、その製造方法、および光触媒作用におけるその使用

本発明は、化合物、特に化学剤または生物剤を分解する光触媒特性を有するナノメートルサイズの半導体材料で少なくとも部分的に被覆された織物用繊維であって、前記半導体材料は、一次元形態を有するナノ構造またはナノコンポジットの形態である、織物用繊維に関する。この織物用繊維は、軍、医療、および民間領域などの用途に用いることができる。曲線60および曲線62は、それぞれ、本発明による一次元形態を有するナノ構造またはナノコンポジット、および従来技術による粒状形態を有するナノ粒子で被覆された織物用繊維の表面における有機化合物の光触媒分解を示す。本発明60のナノ構造またはナノコンポジットはより効率的である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学剤または生物剤の分解のための光触媒特性を有する織物用繊維および織物用材料、これらの繊維を製造する方法、および光触媒作用のためのこれらの繊維およびこの織物用材料の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
軍人または民間人の、核、放射線、生物および化学(NRBC)保護は通常、例えば、衣服、手袋、靴、テント、防水布などの、空気に対して、不透過性、半透過性または透過性である保護織物または材料によって確保され、これらの織物物品は、人間または環境に対して毒性または病原性であるNRBC兵器剤に対して個人または任意の製品を保護するために用いられる。
【0003】
不透過性または半不透過性織物または材料は、薬剤に対してバリアを与えるが、空気透過性織物または材料は、例えば、ガス状化合物を捕捉する活性炭に基づくろ過媒体の形態のフィルターを有する。貯蔵、捕捉またはバリア効果を有するこれらの保護織物または材料は、NRBC剤が皮膚または自然環境と接触することを防ぐことが意図されている。
【0004】
この種の保護織物または材料は現在、有機リン化合物(VX、サリン、タブン、ソマン、など)または発疱薬(イペリット、ルイサイトなど)などの気体、蒸気または液体形態の化学剤に対して保護するための人の衣服を製造するために、軍または民間用途に用いられている。通常の保護材料は、織物および場合によって、化学剤を捕捉することを目的としたさらなるフィルター材から形成される。
【0005】
しかし、これらの織物は、化学剤および/または生物剤を破壊することを可能にしないことにより多くの欠点を有する。この種の衣服を使用する個人は、この衣服を着用している限り毒剤に対して保護される。しかし、その人が衣服を脱ぐとき、衣服の表面に残存しているか、または衣服の吸着層によって吸着された毒剤と接触し、したがって、接触もしくは吸入によってまたは再浮遊後に汚染される危険がある。さらに、吸着材が毒剤で飽和されると、この材料はこの毒剤の一部を浸出させる傾向があり、これは、その人の周りの個人または人々の二次汚染の危険を増加させる。また、この衣服を扱う、例えば、それを汚染除去しまたは処理する人の汚染の大きな危険もある。生物剤または化学剤で汚染された衣服の汚染除去は、複雑で、費用がかかり、毒剤全てを除去することが必ずしも可能ではなく、その結果、この種の衣服は一般に1度使用されるだけである。
【0006】
自然または人工の照明に曝されるときに、光触媒反応によって有機化合物を分解することができる破壊または汚染除去効果を有する保護織物は、さらに民間用途に知られている。これらの織物の繊維は、有機化合物を分解する光触媒特性を有する半導体材料で被覆されている。この光触媒材料は、通常の技術にしたがって、半導体材料の所定の領域を光線に曝すことを可能にする粒状形態のナノ粒子の形態であり、それらの比表面積は、中程度または平均的である。既知の方法で、半導体材料がこの材料の禁制帯または「ギャップ」より高いまたはそれに等しいエネルギーの光子を受け取るとき、電子−正孔の対が半導体材料中に生成し、それぞれ、伝導帯の電子および価電子帯の正孔である。これらの電荷担体は、限定された寿命をもち、様々な機構によって再結合し、または織物の表面に堆積した半導体材料と接触して存在する、除去されるべき化合物と反応し得る。次いで、酸化還元反応が起こり、これは、目的化合物の酸化を可能にし、毒性生成物の分解、またはあまり毒性ではないもしくは有害ではない光分解残留物(例えば、硫酸塩、リン酸塩、二酸化炭素など)をもたらす。そのとき、それは、洗浄することによって織物を清浄にし、織物から光分解残留物を除去するようにするのに十分である。
【0007】
したがって、破壊または汚染除去効果を有する織物は、さらなる試薬を必要とすることなく、および織物に堆積した半導体材料の消耗を伴うことなく、貯蔵、捕捉またはバリア効果を有する織物に対して有機化合物の破壊を可能にする利点を有する。破壊効果を有する織物は、洗濯することもでき、したがって再利用できる。
【0008】
しかし、織物に堆積した半導体材料のナノ粒子の、照明により生成した電荷担体の寿命は、比較的短いことがあり得、よって光触媒作用の効力を制限する。特に、電荷担体の寿命がより短いほど(すなわち、電荷担体がより速く再結合するほど)、これらの電荷担体により生成した酸化還元反応の数は少なくなり、有機化合物の光触媒分解はあまり効率的ではなくなる。破壊効果を有する織物は現在、光触媒作用によって、コーヒー、ワインなどの有機食品化合物またはグリースのしみおよび汚れを分解することを可能にする。さらに、織物の表面に存在する有機食品化合物の全てまたは実質的に全てを分解することができるように、この種の織物の光線への曝露期間は、比較的長いことがあり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、特に、従来技術の問題に対して簡単で、有効かつ経済的な解決策を与えることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の1つの主題は、特に化学剤または生物剤(神経毒性化学剤、発疱剤、胞子、細菌、ウイルス、真菌など)などの耐性および毒性有機化合物を分解するための光触媒特性を有する織物用繊維および織物である。
【0011】
この目的のために、本発明は、有機化合物、特に化学剤または生物剤を分解するための光触媒特性を有する半導体材料で少なくとも部分的に被覆された織物用繊維であって、半導体材料は、前記半導体材料の一次元形態のナノ構造、および/または支持材料の一次元形態のナノ構造に付着する前記半導体材料のナノ粒子の形態であることを特徴とする織物用繊維を提案する。
【0012】
本発明によれば、織物用繊維は、半導体材料または支持材料から作製されている一次元形態のナノ構造、例えば、ナノチューブおよび/またはナノファイバーで被覆されており、この一次元形態のナノ構造は、恐らくは、半導体材料から作製されているナノ粒子、または代わりに非半導体粒子から作製されているナノ粒子を担持する支持材料から作製されている。
【0013】
本特許出願では、「半導体材料」という用語は、その電子構造が、そのそれぞれのエネルギー差が禁制帯または「ギャップ」として知られている価電子帯および伝導帯から形成される任意の材料を意味する。半導体材料が、この材料の禁制帯より高いまたはそれに等しいエネルギーの光子を受け取るとき、電子−正孔対が材料中に生成する。本発明の文脈において、これらの電荷担体は、半導体材料の表面でこれらの有機化合物と、これらの化合物の光触媒分解のために、酸化還元反応を引き起こすために用いられる。
【0014】
本特許出願では、「支持材料」という用語は、その機能が特に、半導体材料のナノ粒子、または非半導体材料のナノ粒子を担持することである、上述の種類の半導体材料または非半導体材料を意味する。この支持材料は、一次元形態を有する。
【0015】
本特許出願では、「一次元形態のナノ構造」という用語は、以下により詳細に説明されるように、半導体材料または非半導体材料から作製されていることができ、およびナノ粒子(粒状形態の)と反対に、細長い形状を有する、ナノチューブ、ナノファイバーなどを意味すると理解される。この種のナノ構造と、半導体材料または非半導体材料のナノ粒子との会合または結合は、「ナノコンポジット」という用語で表される。
【0016】
一般に、本発明による織物用繊維は、任意の種類の有機化合物の光触媒分解に用いることができる。それらは、排他的ではないが、民間用途における非毒性有機化合物(これらの有機化合物は、C、H、Oなどに基づく)の分解のために、特に適切である。それらは、繊維:工業用織物、家具用織物、医療用織物、自動車用または交通機関用いす張り材料に対して想定される民間用途による汚れまたは任意の他の種類の化合物であり得る。本発明による繊維または織物は、自浄式のタイプからなっていてもよいし、殺生物剤特性を有していてもよい。
【0017】
本発明によれば、織物用繊維は、
− 非半導体材料、例えば、炭素のナノチューブおよび/またはナノファイバー(これらのナノチューブまたはナノファイバーは、半導体材料のナノ粒子で少なくとも部分的に被覆および/または充填されている);
− 半導体材料のナノチューブおよび/またはナノファイバー(例えば、二酸化チタンまたはチタン酸塩の);
− 半導体材料のナノチューブおよび/またはナノファイバー(これらのナノチューブまたはナノファイバーは、半導体材料のナノ粒子で少なくとも部分的に被覆および/または充填されている);および/または
− 半導体材料のナノチューブおよび/またはナノファイバー(これらのナノチューブまたはナノファイバーは、非半導体材料(例えば、金属の)のナノ粒子で少なくとも部分的に被覆および/または充填されている)
で、被覆され得る。半導体材料のナノ粒子は、TiO、WO、CdS、ZnOまたはSiCで作製されていることができる。
【0018】
言い換えれば、本発明による一次元形態のナノ構造は、少なくともナノチューブまたはナノファイバー、および場合によって、これらのナノチューブまたはナノファイバーによって担われるナノ粒子を含み、該ナノチューブまたはナノファイバー、および該ナノ粒子の中からの2種の少なくとも1種は、半導体材料で作製されている。
【0019】
半導体材料または支持材を形成する材料としてのナノチューブおよび/またはナノファイバーの使用は、以下に説明される多くの利点を有する。
【0020】
ナノチューブおよびナノファイバーは、粒状形態のナノ粒子と対照的に、「一次元」形態を有する、すなわち、ナノチューブおよびナノファイバーは、長手方向の方向Xに1つの寸法を有し、これは、他の2つの寸法YおよびZより非常に大きい(少なくとも10倍)のに対して、ナノ粒子の寸法X、Y、Zは、実質的に互いに等しい。
【0021】
言い換えれば、ナノチューブおよびナノファイバーは、それらの直径より非常に大きい長さを有するのに対して、ナノ粒子は、平均直径または平均サイズで規定される。本発明によるナノチューブおよびナノファイバーは、これらの寸法の少なくとも一方がナノメートルサイズからなる2つの寸法(例えば、その長さおよび直径)で特に特徴づけられる。
【0022】
一例として、半導体材料および/または支持材料のナノチューブまたはナノファイバーは、約5から150ナノメートルの間、例えば、約15から20ナノメートルの間の直径、および約0.1μmから5mmの間、例えば、約0.5μmから2mmの間の長さを有する。
【0023】
これらの一次元形態のナノ構造は、さらに、分解することが非常に難しく、したがって、本発明の織物用繊維は、比較的長い寿命を有し、光分解残留物を除去することができ、およびこれらの織物用繊維を1回以上再利用することができるために、例えば、水で簡単に洗濯することができる。
【0024】
本発明の繊維および織物の別の利点は、照射による有機化合物の破壊の効力が大きく、光触媒作用条件と無関係であるという、本発明者らによって観察された事実にある:例えば、その性能品質が、例えば、相対湿度のレベル15%から80%の間、および特に20%から50%の間の湿度に無関係に、同一または実質的に同一であることが観察された。
【0025】
本発明による半導体材料または非半導体材料のナノチューブおよびナノファイバーは、この同じ材料の粒状形態のナノ粒子の比表面積と少なくとも等しいおよびそれよりも一般に大きい比表面積を有する。このナノチューブは、例えば、比較的大きな比表面積を有する、半導体または支持材料のシートをそれ自体の上に巻き取ることによって形成される。有機化合物の光触媒分解のためのこれらのナノチューブおよびナノファイバーの使用は、光線に曝露される材料の比表面積を増加させることによって、したがって有機化合物の吸着のための表面を増加させることによって光触媒作用反応を最適化することを可能にする。さらに、光によって生成した電荷の再結合は、一次元構造に沿ったそれらの空間的非局在化の結果として制限される。
【0026】
当業者に知られている方法では、織物に堆積した半導体材料による有機化合物の光触媒分解は、以下の通り起こる。
【0027】
半導体材料で被覆された織物は、自然または人工の光線に曝露され、この織物の表面に存在し、この半導体材料と接触している有機化合物の光触媒分解を確実にするように意図される。
【0028】
有利には、半導体材料(例えば、TiO)は、一次元形態のナノ構造の形態であり、その結果、紫外線のみによって活性化され得る従来技術のナノ粒子の形態である、ある種の半導体材料と対照的に、紫外線およびまた可視光(これは、例えば、チタン酸塩ナノチューブに基づくナノ材料の場合である)によって同時に活性化され得る。光触媒分解は、例えば、可視光、紫外線放射および/または太陽光への曝露によって、自然または人工の照明の下で行われる。
【0029】
光触媒作用は、触媒を形成する、照明される半導体材料の表面で生じる電子酸化還元過程に基づく不均一系触媒作用である。半導体は、禁制帯または「ギャップ」を有する電子構造を有する。禁制帯のエネルギーと少なくとも等しいエネルギーの光子照射を受けると、電子は、価電子帯から伝導帯の空軌道に移動し得る。そのとき、価電子帯に正孔の生成、および伝導帯に電子の放出がある。電子−正孔対の寿命は非常に限られている。光触媒作用が有効であるために、再結合は避けられなければならず、これは、光生成した自由電荷の移動および捕捉によって可能となる。生成した電荷は、触媒の表面に移動し、電子を受け取るまたは供与することができる吸着物質と反応する。有害および毒性の化合物を破壊し、したがって、織物を浄化および/または汚染除去するために有利であるのは、これらの酸化または還元反応である。電子は、例えば、吸着された酸素と反応することができ、正孔は、電子を供与することができるある種の吸着された種、例えば、水蒸気または有機化合物を酸化し得る。そして次に、生成した種は、高度に反応性であり、半導体の表面上に吸着された化合物を、それらを鉱化するまで酸化し得る。
【0030】
ナノチューブもしくはナノファイバーの形態の、または半導体材料もしくは支持材料のナノチューブもしくはナノファイバーによって担われたナノ粒子の形態の半導体材料の使用は、以下の理由のために、半導体材料のナノ粒子単独の使用と比較した場合、有機化合物の光触媒分解に対して顕著な利点を有する。直径に対して長い長さを特徴とする、一次元形態のナノ構造は、第1に、その材料の比表面積を増加させ、この材料の表面で分解される有機化合物の吸着特性を増加させ、第2に、ナノ構造に沿ったこれらの電荷の大きな非局在化のために、この材料の電荷の空間的な分離を改善することを可能にする。この非局在化の増加は、電子−正孔対のより長い寿命をもたらし、これらの電荷とこの材料の表面に吸着された物質との光触媒反応の増加、および最後に、光触媒作用の性能の顕著な改善で反映される。
【0031】
有機化合物の全体の分解率は特に、これらの織物用繊維を含む織物の表面に存在する半導体材料の量に依存する。半導体材料は、約0.01から100g/m、例えば、約0.1から10g/mの比率で、織物の表面に存在する。分解率は、光線の強度にも依存する。
【0032】
本発明の一実施形態によれば、この繊維は、二酸化チタンまたはチタン酸塩のナノチューブおよび/またはナノファイバーで被覆される。二酸化チタン(TiO)は、不活性、非毒性、安価、および光化学腐食に対してわずかに感受性である。さらに、それは、有利な酸化還元特性を有する。価電子帯の高い酸化還元電位は、吸着された物質から半導体への電子の移動(酸化)を促進し、伝導帯のわずかに負の電位は、プロトンまたは酸素が還元されることを可能にする。
【0033】
二酸化チタンもしくはチタン酸塩のナノチューブまたはナノファイバーは、別の半導体材料、例えば、三酸化タングステン(WO)、硫化カドミウム(CdS)、酸化亜鉛(ZnO)もしくは炭化ケイ素(SiC)のナノ粒子、または非半導体材料、例えば、白金、金、銅、パラジウム、銀などのナノ粒子で少なくとも部分的に被覆または充填され得る。ナノ構造のナノ粒子による被覆は、ナノ構造の外側の円筒状表面上へのナノ粒子の堆積および固着であると理解される。ナノチューブの粒子による充填は、ナノチューブの長手方向の空洞における、およびナノチューブの内側円筒状表面上のナノ粒子の堆積および固着であると理解される。本発明によるナノ構造と別の半導体材料のナノ粒子とのカップリングは、特に、電荷担体が生成する活性化または吸収波長範囲を広げることを可能にする。織物の照射波長は、価電子帯から伝導帯への電子移動を引き起こすために十分エネルギーがなければならず、したがって、特に、半導体材料の禁制帯の幅に依存する。本発明によるナノ構造と非半導体材料のナノ粒子とのカップリングは、このように形成されたナノコンポジットの光触媒および殺生物剤特性を改善することを可能にする。
【0034】
一次元形態のナノ構造上への半導体材料または非半導体材料のナノ粒子の固着は、任意の種類の結合または相互作用、例えば、共有結合、イオン結合、水素結合、静電相互作用などによって行われ得る。
【0035】
本発明の別の実施形態では、織物用繊維は、炭素のナノチューブおよび/またはナノファイバーで被覆され、これらのナノチューブまたはナノファイバーは、TiO、WO、CdS、ZnOまたはSiCの半導体ナノ粒子で少なくとも部分的に被覆または充填される。
【0036】
炭素は、上記に示されるように、その一次元形態が電荷の非局在化を促進し、したがって、特定の電子相互作用を促進するナノチューブおよび/またはナノファイバーの形態であり得る非半導体支持材料である。他の支持材料、例えば、活性炭、ゼオライト、アルミナ、シリカ、ジルコニア、クレーなどが本発明の文脈で用いられ得る。支持材料のナノチューブまたはナノファイバーは、光線に曝露されるときに、電荷担体を生成することが意図される半導体材料のナノ粒子で部分的に被覆または充填される。
【0037】
本発明はまた、上記の通りの繊維を含む、織布または不織タイプの織物に関する。
【0038】
本発明はまた、上記の通りの織物用繊維または織物を製造する方法に関する。本発明によれば、それは、
− 半導体材料のナノチューブもしくはナノファイバー、半導体材料もしくは非半導体材料のナノ粒子と結合した半導体支持材料のナノチューブもしくはナノファイバー、および/または半導体材料のナノ粒子と結合した非半導体支持材料のナノチューブもしくはナノファイバーを合成する工程、ならびに次いで、これらのナノチューブまたはナノファイバーの繊維を被覆する工程、
− あるいは直接繊維上でこれらのナノチューブまたはナノファイバーのその場合成(synthesis in situ)を行う工程
にある。
【0039】
織物用繊維または織物上にナノ構造またはナノコンポジットの固着(fixing or anchoring)は、堆積法に応じて変化し得る。結果として、光触媒ナノ材料と織物との間の共有型もしくはイオン型の結合、静電相互作用またはさらに水素結合が存在し得る。
【0040】
本発明による織物用繊維は、天然または合成であり得る。それらは、例えば、綿、ポリエステルもしくはポリアミド繊維、アラミド繊維(Kevlar(登録商標))、ガラス繊維など、またはその上に上述の種類のナノファイバーおよびナノチューブが、固着、付着または会合され得る、織もしくは不織(例えば、Gore−Tex(登録商標))であることが意図される任意の他の繊維状織物用材料の繊維であり得る。
【0041】
吸着剤も、2つの特性(光触媒特性および分解される分子の吸着特性)を結合させるために、これらの繊維に結合させ得る。大きな比表面積を有する吸着相は、第1に、分解される吸着分子の量を増加させ、第2に、これらの分子と半導体材料の光触媒部位との間の接触を容易にすることを可能にする。密接な接触が、光触媒ナノ構造と吸着粒子との間に存在する場合、これらの効果はまた、増強され得る。本発明による方法の第1の実施形態では、半導体材料のナノチューブもしくはナノファイバー、および/または半導体材料もしくは非半導体材料のナノ粒子と結合した支持材料のナノファイバーもしくはナノチューブは、直接織物用繊維または織物上で合成される。これを行うために、以下により詳細に説明されるように、該繊維は、ナノチューブまたはナノファイバーが合成される溶液中に浸漬され得る。
【0042】
この第1の実施形態に対する代替は、チタン(例えば、金属チタン、酸化チタンまたはチタンアルコキシド)を有する前駆体を含む溶液を適切な基材上に堆積させ、次いで、この基材上に一次元形態のナノ構造を直接成長させる工程にある。
【0043】
1つの変形として、上述のナノチューブまたはナノファイバー(半導体材料および/または支持材料の)は、第1の段階で合成され、次いで、
− スプレー技術(ナノチューブまたはナノファイバーを適切な液体または気体ビヒクルに所定の濃度で懸濁させる工程、この懸濁液の所定量を繊維にスプレーする工程、および次いで、織物を、例えば、ビヒクルを蒸発させることにより乾燥させる工程にある);このスプレー工程および乾燥工程は、1回以上繰り返され得る;
− 「交互積層(layer−by−layer)」堆積技術(繊維に所定の濃度のポリカチオン溶液を含浸させる工程、繊維を適切なすすぎ洗い液ですすぎ洗いする工程、繊維に所定の濃度のポリアニオン溶液を含浸させる工程、繊維を適切なすすぎ洗い液ですすぎ洗いする工程、および次いで、繊維を乾燥させる工程にあり、ポリアニオン溶液はナノチューブまたはナノ繊維を含む);反対に、ポリアニオン溶液が第1の段階で、その後、ナノチューブまたはナノファイバーを含むポリカチオン溶液が適用され得る;含浸およびすすぎ洗い工程は、正に帯電した層および負に帯電した層の交互から構成される多層フィルムで織物用繊維または織物を被覆するために、1回以上繰り返され得る;
− 浸漬またはディッピング技術(繊維または織物に、懸濁液中に所定の濃度でナノチューブもしくはナノファイバーを含む適切な液体または気体ビヒクルで含浸させる工程、および次いで、繊維または織物を乾燥させる工程にある)
から選択される、1つ以上の適切な技術によって織物用繊維または織物上に堆積される。
【0044】
例えば、二酸化チタンもしくはチタン酸塩の半導体材料のナノチューブまたはナノファイバーの製造は、以下の通り行われ得る。これらのナノ構造の合成は、例えば、粉末の形態、またはチタンを含み、例えば5〜20Mの濃度の、例えば、水酸化ナトリウム(NaOH)または水酸化カリウム(KOH)に基づく塩基性溶液における半導体材料(例えば、二酸化チタン(TiO))のナノ構造の前駆体の形成する基材などの別の形態の半導体材料の100〜150℃での熱水処理によって行われ得る。例えば、テフロン(登録商標)(Teflon)製オートクレーブ中5〜500mLのNaOH溶液(2〜20M)に、0.1から10gの粉末の半導体材料を添加することができる。全体を1時間撹拌し、次いで、100〜150℃で数時間放置する。この工程は、半導体材料のナノチューブの生成をもたらす。次いで、得られた粉末(または基材上の成長により得られた堆積物)を真空下でろ別し、例えば、中性まで塩酸で洗浄し、蒸留水ですすぎ洗し、次いで、乾燥させ得る。合成後焼成処理は、300〜400℃、例えば、約350℃で行われ得る。すすぎ洗い工程の間に、半導体材料の一次元構造の形成が徐々に得られる。この構造は、大きな外部の接触表面を曝露することを可能にし、このように合成された半導体材料は、近似的に約150から400m/gの、またはさらにより大きい、比較的大きな比表面積を有する。
【0045】
別の半導体材料のナノ粒子で被覆および/または充填された半導体材料のナノチューブまたはナノファイバーを含むナノコンポジットの製造は、以下の通り行われ得る。例えば、前に記載された方法によって得られた半導体材料のナノチューブに、適切な溶液、例えば、アルコール/水溶液、アセトン、炭化水素、クロロホルムなどの溶液を含浸させることが可能であり、この溶液は、半導体材料、例えば、タングステンの塩を含む。撹拌後に、この混合物に超音波処理を施し、その後室温で撹拌しながら蒸発させ得る。次いで、得られた粉末を、乾燥させ、焼成させ得る。次いで、上述の種類(ナノチューブ/ナノ粒子)のナノコンポジットが得られる。
【0046】
半導体材料のナノ粒子で被覆および/または充填された非半導体支持材料のナノチューブまたはナノファイバーを含むナノコンポジットの製造は、以下の通り行われ得る。支持材料(例えば、炭素)のナノチューブまたはナノファイバーは、例えば、Pyrograf Products, Inc.社(Cerdaville, Ohio, USA)から市販されているか、または前もって合成される。これらのナノ構造は、前述の種類(アルコール/水、アセトン、炭化水素、クロロホルムなど)の1種の適切な溶液中で超音波処理によって分散され、これに、半導体材料の前駆体、例えば、塩が添加される。チタンイソプロポキシドを用いることができ、これは、ゾル−ゲル経路によって合成前駆体を形成する。次いで、酸または塩基、例えば、塩酸を添加することができ、ゾルをもたらし、これを撹拌し、数時間撹拌しながら熟成させ、ゲルを生成させる。最後に、このようにして得られたミルク状溶液を、焼成まで数時間室温で乾燥させる。
【0047】
ナノ構造の外側表面上および/または内側表面上への半導体材料の堆積は、ナノコンポジットの製造に関与した1つ以上のパラメータの関数として有利にされ得る。例えば、アルコール溶液中の半導体材料の量を変化させることが可能であり、少量では、ナノ粒子がナノチューブの外側表面上に位置するナノコンポジットの形成が促進され、多量ではむしろ、ナノ粒子がナノチューブの内側空洞に位置するナノコンポジットの形成が促進される。ナノチューブの内側および外側の異なる湿潤性を有する溶媒を用いることも可能である。
【0048】
スプレー技術による織物用繊維または織物の製造は、以下の方法で行われ得る。ナノファイバー、ナノチューブまたはナノコンポジットは、所定の濃度で水/アルコール溶液に懸濁され得る。次いで、この溶液を、繊維上に1回目にスプレーし、これらの繊維に含浸させ得る。次いで、繊維は、加熱され、乾燥され得る。溶液を、繊維上に2回目および3回目に再びスプレーすることができ、各スプレー工程は恐らくは、繊維を乾燥させる工程が後に続く。
【0049】
スプレー技術は、任意の種類の織物または織物用繊維上に、半導体材料の任意の種類のナノチューブもしくはナノファイバー、または半導体材料のナノ粒子を担持する支持材料の任意の種類のナノチューブもしくはナノファイバーを堆積させるために用いられ得る。
【0050】
交互積層堆積技術によった、本発明による織物用繊維または織物の製造は、以下の方法で行われ得る。交互積層技術は、繊維または織物の表面上への、負および正に帯電した化合物の連続的な吸着によって多価電解質の多層フィルムを構築することを可能にする。これを行うために、一方にポリカチオン、および他方にポリアニオンを調製することができ、このポリアニオンまたはポリカチオンは、本発明によるナノ構造またはナノコンポジットを含む。ポリアニオンおよびポリカチオンのpHは調整され得る。織物用繊維は、前もってすすぎ洗いおよび脱脂され、次いで、乾燥させ得る。この繊維は、ポリカチオンの溶液中に導入され、蒸留水で完全にすすぎ洗いされ、ポリアニオン溶液に入れられ、次いで、完全にすすぎ洗いされる。これらの工程は、必要に応じて多数回行われ得る。この繊維は最終的に乾燥させる。次いで、得られた繊維は、ナノ構造またはナノコンポジットの連続層から形成された、均一な敷物またはフィルムで被覆される。これらの連続層の生成は、摩擦によって生じる腐食に対してより良好な耐性を与える。この堆積技術は、柔軟性および変調(modulation)も与え、特に、様々な層の機能および性質を分離させ得る。
【0051】
交互積層技術は、任意の種類の織物または織物用繊維上に、半導体材料の任意の種類のナノチューブもしくはナノファイバー、または半導体材料のナノ粒子を担持する、支持材料の任意の種類のナノチューブもしくはナノファイバーを堆積させるために用いられ得る。この技術は、他の技術よりも織物用繊維または織物のより大きな面積を被覆することも可能にさせる。
【0052】
交互積層技術は、他の製造技術と比較した場合、繊維の一次元形態のナノ構造の良好な固着を得ることを可能にするので、本発明による織物用繊維を製造するために特に好適である。この繊維上のナノ構造の堅固さは、これらの繊維を、洗濯をして、繊維のナノ構造を脱離させる危険を全く有さずに、有機化合物の光触媒分解に由来する残留物を除去することができるほどである。さらに、有機化合物の光触媒分解の収率は、同一の繊維上への別の技術で堆積させた同一のナノ構造でよりも、交互積層技術によって繊維上に堆積させた一次元形態のナノ構造でより高いことが分かっている。
【0053】
ディッピングまたは浸漬(またはコーティング)技術によった、本発明による織物用繊維または織物の製造は、以下の通り行われ得る。「コーティング」によるナノ構造またはナノコンポジットの堆積は、所定の濃度で、懸濁液中に粉末形態のナノ構造またはナノコンポジットを含む水/アルコール溶液に、繊維をディッピングすることによって得ることができる。次いで、繊維は、空気の流れの下で乾燥させ、室温で乾燥させ、次いで、より高い温度で乾燥させ得る。
【0054】
ディッピングまたは浸漬技術は、任意の種類の織物または織物用繊維上に、半導体材料の任意の種類のナノチューブもしくはナノファイバー、または半導体材料のナノ粒子を担持するまたは担持しない、支持材料の任意の種類のナノチューブもしくはナノファイバーを堆積させるために用いられ得る。
【0055】
本発明による織物用繊維は、CVD(化学蒸着)技術によっても調製することができ、これは、チタンを含む液体前駆体を、織物用繊維を含む基材または支持材上に直接蒸発させる工程にある。
【0056】
「パッディング」技術によった、本発明による織物用繊維または織物の製造は、以下の通り行われ得る。ナノ構造またはナノコンポジットは、織物製造の分野でよく知られているような、例えば、パッディング、スプレー、コーティング、プリンティングまたは浴吸尽によって、織物に適用され得る。パッディングは、圧迫(熱間または冷間圧迫)によって織物に材料を添加することを可能にする技術である。この材料(本発明者らの場合では、一次元形態のナノ構造またはナノコンポジット)は、含浸溶液が入っている槽に織物をディッピングすることによって織物上に堆積され、次いで、この織物は、2枚のプレート間、2本のロール間、またはゴムロール下に圧迫され、余剰を除去する(または圧搾する)。このパッディング操作は、この2つの段階(含浸および圧搾)を含む。
【0057】
ナノチューブ、ナノファイバーまたはナノコンポジットの織物用繊維への固着は、結合剤またはスペーサによって得ることができる。これらの結合剤は、有機または無機の性質のものであり得る。有機結合剤は、化学反応後に、第1に織物、および第2に半導体材料(例えば、TiO)の表面基と結合を形成することができる少なくとも2個の有機官能基を含む、カルボン酸またはアルコールタイプの有機分子である。織物の繊維と光触媒ナノ構造の間の中間層は、このようにして生成される。
【0058】
シリカなどの無機結合剤を用いることもでき、これは、TiO系ナノ構造またはナノコンポジットの堆積のための付着部位を増加させることを可能にする。特に、TiO分子は、特有の相互作用のために、シリカと、強く、耐久性のある結合を容易に形成する特性を有する。
【0059】
織物の繊維上のナノチューブ、ナノファイバーおよび/またはナノコンポジットのその場合成は、以下の通り行われ得る。合成の工程全てを織物と直接接触させて行うことによって、または織物と接触させて、合成プロセスの工程の1つまたは複数を行うことによって、織物上にナノファイバー、ナノチューブまたはナノコンポジットを直接合成することが可能である。
【0060】
本発明はまた、毒性有機化合物、特に気体もしくは液体形態の生物剤または化学剤の光触媒分解のための上述の種類の織物用繊維または織物の使用に関する。
【0061】
本発明によれば、「化学剤または生物剤」という用語は、ヒトに対して(またはある種の動物および/もしくはある種の植物に対してさえも)致死性または中和性であり得る任意の物質を意味する。化学剤は3つのカテゴリー:刺激剤、精神的または身体的な活動不能化剤、および致死剤(例えば、発疱剤、窒息剤(suffocants)、窒息剤(asphyxiants)および神経毒剤)に分類され得る。有機リン酸エステルまたは硫化アルキルをベースとした毒剤は、特に知られている。生物剤は、細菌兵器またはウイルス兵器であり得、一般に、致命的もしくは活動不能化性疾患を弱めるまたは伝播させることが意図された病的微生物を含む。生物剤は、細菌、ウイルス、真菌および胞子であり得る。本特許出願によれば、これらの化学剤または生物剤は、所定の波長の光線に曝露される半導体材料と接触して光触媒分解によって、破壊、分解または不活性化されることが意図され、この分解は、毒性がより少ないまたは非毒性である、種を生じさせ、これは、洗濯などで容易に除去され得る。
【0062】
本特許出願では、「模擬剤(simulating agent)」という用語は、本物の化学剤または生物剤の特性および特徴の少なくともいくつかを、刺激剤、またはこの本物の薬剤の毒性を有するその分解生成物なしに、模倣する偽の化学剤または生物剤を意味する。
【0063】
光触媒分解は、約−10から150℃の間、例えば、室温で行われ得る。この分解は、自然または人工の照明の下で、例えば、可視光および/または紫外線への曝露下で行われる。「紫外線」という用語は、400nm未満、例えば、UV−A紫外線の特定の場合の350から390nmの間の波長を有する照明を意味する。「可視光」という用語は、400から800nmの間の波長を有する照明を意味し、太陽光の場合には、これは、UV−Aの小部分および可視光の大部分を含む照明を意味し、太陽のそのものを模倣する、または太陽のそのものであるスペクトル分布を有する。本発明による織物用繊維および織物は、軍および民間用途における使用のために、例えば、しかし排他的ではないが、衣類、手袋、靴、テント、防水布、シェルター、パーティション、任意の布地、フィルター、フォーム、膜などの製造のために特に好適である。これらの織物物品および付属品は、例えば、民生または研究目的のために、病院、実験室において、消防士によって、およびまた家庭用途において、しかしまた軍事目的のためなどに用いることができる。したがって、本発明による布地、織布または不織布は、工業用または医療用布地、またはさらに家具用布地であり得る。
【0064】
非限定的な実施例によって、および添付の図面を参照して、本発明はよりはっきりと理解され、および本発明の他の詳細、特徴および利点は、与えられる説明を読むとよりはっきりと明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明による、半導体材料のナノファイバーの透視図法の概略図である。
【図2】本発明による、半導体材料のナノチューブの透視図法の概略図である。
【図3】本発明による、ナノコンポジットの透視図法の概略図であり、半導体材料または非半導体材料のナノ粒子で被覆された支持材料のナノファイバーを含む。
【図4】本発明による、ナノコンポジットの透視図法の概略図であり、半導体材料または非半導体材料のナノ粒子で被覆および充填された支持材料のナノチューブを含む。
【図5】三酸化タングステンのナノ粒子で被覆された二酸化チタンまたはチタン酸塩で作製されている、本発明のナノチューブの一部の透過型電子顕微鏡(TEM)画像である。
【図6】二酸化チタンのナノ粒子で被覆および充填された炭素で作製されている、本発明のナノチューブの一部のTEM画像である。
【図7】二酸化チタンのナノ粒子で充填された炭素で作製されている、本発明のナノチューブの一部のTEM画像である。
【図8a】図5に示される種類のナノコンポジット(ナノチューブ/ナノ構造)の、スプレー技術によって被覆された織物用繊維の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
【図8b】図5に示される種類のナノコンポジット(ナノチューブ/ナノ構造)の、スプレー技術によって被覆された織物用繊維の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
【図8c】図5に示される種類のナノコンポジット(ナノチューブ/ナノ構造)の、スプレー技術によって被覆された織物用繊維の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
【図9a】図5に示される種類のナノコンポジット(ナノチューブ/ナノ構造)の、交互積層堆積技術によって被覆された織物用繊維のSEM画像である。
【図9b】図5に示される種類のナノコンポジット(ナノチューブ/ナノ構造)の、交互積層堆積技術によって被覆された織物用繊維のSEM画像である。
【図9c】図5に示される種類のナノコンポジット(ナノチューブ/ナノ構造)の、交互積層堆積技術によって被覆された織物用繊維のSEM画像である。
【図9d】図5に示される種類のナノコンポジット(ナノチューブ/ナノ構造)の、交互積層堆積技術によって被覆された織物用繊維のSEM画像である。
【図10a】二酸化チタンのナノ粒子で被覆された炭素で作製されている、本発明のナノファイバーの、含浸または「コーティング」技術によって被覆された織物用繊維のSEM画像である。
【図10b】TiOナノ粒子を担持する炭素ナノファイバーの網状組織を示す拡大図である。
【図11】2種類の織物(第1の織物は、図9a、図9b、図9cおよび図9dに示される種類の繊維を含み、第2の織物は、粒状形態の二酸化チタンのナノ粒子で被覆された繊維を含む)上に液滴の形態で堆積された模擬剤(DMMP)の残存レベルの変化を、これらの織物の人工太陽への曝露時間の関数として示すグラフである。
【図12】図8a、図8bおよび図8cに示される種類の繊維を含む織物と掃引接触して、低流量で気相中に循環している模擬剤(DES)の減少のレベルの変化を、この織物の人工太陽への曝露時間の関数として示すグラフである。
【図13】図8a、図8bおよび図8c、および図9a、図9b、図9cおよび図9dに示される種類の繊維を含む織物上に堆積したバチリス・サブティリス(Bacillus subtilis)胞子の不活性化のレベルの変化を、織物の人工太陽への曝露時間の関数として示すグラフである。
【図14】種々の構造の半導体材料の光吸収の変化を、入射光線の波長の関数として示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0066】
最初に、図1から図4を参照し、これらは、それぞれ、例えば、半導体材料のナノファイバー10、例えば、半導体材料のナノチューブ12、例えば、半導体材料または非半導体材料のナノ粒子16で被覆された支持材料のナノファイバー14から形成されたナノコンポジット、および例えば、半導体材料または非半導体材料のナノ粒子16で被覆および充填された支持材料のナノチューブ18から形成されたナノコンポジットを非常に概略的に示す。
【0067】
「ナノチューブまたはナノファイバー」という用語は、上記の通りの一次元形態のナノメートルサイズの幾何学的構造(ナノ構造)を意味し、このナノ構造は、半導体材料または支持材料から作製されていることができる。「ナノコンポジット」という用語は、半導体材料または非半導体材料のナノ粒子とまた会合または結合した上述の種類(半導体または非半導体の)ナノ構造を意味する。支持材料は、半導体材料または非半導体材料であってもよい。
【0068】
本発明は、その繊維が、以下により詳細に説明される通りの、この種のナノファイバー10、14またはナノチューブ12、18(またはこの種のナノ構造10、12もしくはナノコンポジット14、16、および16、18)で少なくとも部分的に被覆されている織物用繊維に関し、ナノファイバー10、ナノチューブ12および/またはナノ粒子16の形態の半導体材料は、有機化合物の分解の光触媒特性を有する。この織物の繊維は、1種または複数の種類のナノファイバー、ナノチューブおよび/またはナノコンポジットで被覆され得る。
【0069】
ナノファイバー10、14は、固体であり、実質的に円形の断面を有する。しかし、これらの断面は、正方形、長方形、楕円形または他の形を有してもよい。
【0070】
各ナノチューブ12、18は、ナノチューブの長手方向の軸の周りに、薄い厚さの面またはシート22をそれ自体の上に巻き取ることによって形成される。各ナノチューブ12、18は、ナノチューブの長手方向の軸の周りに、いくつかの重ね合わせた面またはシートをそれら自体の上に巻き取ることによって形成されてもよい。
【0071】
各ナノチューブ12、18は、その内側に半導体材料または非半導体材料のナノ粒子16が収容または固着され得る長手方向の内部の円筒状空洞22を含む。ナノファイバー10、14、またはナノチューブ12、18は、約0.1μmから5mmの間、好ましくは約500nmから500μmの間の長さを有する。ナノチューブおよびナノファイバーの外径は、約5から150ナノメートルの間、好ましくは約15から20ナノメートルの間である。
【0072】
半導体材料のナノ粒子16は、3から200nmの間、好ましくは約5から20nmの間の平均直径を有する。ナノチューブ12、18のその、または各シート22は、1から5nm、好ましくは2から3nmのオーダーの厚さを有する。厚さは特に、その材料に依存する。
【0073】
ナノファイバー14またはナノチューブ18の形態の支持材料は、半導体材料または非半導体材料であってもよく、これらのナノファイバーまたはナノチューブは、一次元のナノ構造を形成する半導体材料と同一であっても異なっていてもよい、ナノ粒子16の形態の半導体材料または非半導体材料で被覆および/または充填されている。
【0074】
ナノファイバーまたはナノチューブの形態の第1の半導体材料と、ナノ粒子の形態の第2の半導体材料との組合せは、それによって光触媒作用が活性化され、および引き起こされる、ナノコンポジット(ナノファイバー/ナノ粒子またはナノチューブ/ナノ粒子の組合せによって形成される)の光の吸収波長範囲を広げるまたはシフトさせることを可能にする。
【0075】
一次元形態のナノ構造の形態の半導体材料と、ナノ粒子の形態の非半導体材料との組合せは、このように形成されたナノコンポジットに新たな特性を与えること、またはこれらのナノコンポジットのある種の特性を改善することを可能にする。一例として、このナノ構造は、例えば、ナノコンポジットの殺生物剤特性を増加させるために、金属ナノ粒子、特に、例えば、Au、Ag、Cu、PdまたはPtのナノ粒子と組み合わせることができる。これらの金属ナノ粒子は、イオン形態または非イオン形態であってもよい。
【0076】
非半導体支持材料と、半導体材料のナノ粒子との組合せは、これらの材料のそれぞれの特性および利点を組み合わせることを可能にする。例えば、カーボンナノファイバーの大きな比表面積、および電荷の空間的非局在化特性は、カーボンナノファイバー/TiOナノ粒子のナノコンポジットにおける二酸化チタンナノ粒子の光触媒特性と組み合わせることができる。
【0077】
ナノチューブ、ナノファイバーまたはナノ粒子の形態の半導体材料は、その禁制帯電子構造によって、所定の波長の光線に曝露されるとき、電荷担体を発生させることを可能にする。これらの電荷担体は、織物の表面で有機化合物と反応して、光触媒反応によってそれらを分解することが意図される。しかし、電荷担体の寿命が十分長い場合、すなわち、電荷担体が生成された直後に再結合しない場合のみ、これらの反応は、効率よく、可能である。
【0078】
本発明による、半導体材料または非半導体材料のナノファイバーまたはナノチューブの一次元形態は、電荷がナノファイバーまたはナノチューブの全体の長さにわたって空間的に非局在化されることを可能にし、したがって、この寿命が実質的に増加することを可能にする。したがって、本発明によるナノ構造(ナノチューブおよびナノファイバー)およびナノコンポジットは、例えば、有機リン酸エステル(VX、サリン、ソマンなど)に基づく神経毒化学兵器など、または例えば、硫化アルキルに基づく発疱剤(イペリット、マスタードガスなど)の耐性有機化合物を光触媒作用によって分解するために特に好適である。
【0079】
一例として、ナノファイバー10、ナノチューブ12またはナノ粒子16の形態の半導体材料は、二酸化チタン(TiO)もしくはチタン酸塩、三酸化タングステン(WO)、酸化亜鉛(ZnO)、硫化カドミウム(CdS)、炭化ケイ素(SiC)、または特に紫外および/もしくは可視領域で活性化できる任意の他の半導体材料(または半導体材料の混合物)である。
【0080】
図5は、その外側の円筒状表面上にWOナノ粒子26が堆積する、二酸化チタンまたはチタン酸塩のナノチューブ24の一部の透過型電子顕微鏡(TEM)画像である。ナノチューブ22は、内側の円筒状空洞30を規定する、それら自体の上に巻き取られた1枚または複数のシート28を含む。このナノチューブ24は、約1μmの長さおよび約15〜20nmの直径を有する。ナノチューブの形態の二酸化チタンまたはチタン酸塩の比表面積は、約300から400m/gであり、WOナノ粒子のそれは、約40m/gである。これらのナノ粒子26は、約3〜5nmの平均直径を有する。このナノコンポジット(TiOナノチューブ/WOナノ粒子)は、可視領域の始まりに対応する、最大約450nmに及ぶ(および例えば、UV領域から始まる)照射波長で電荷担体を発生させる。
【0081】
図6および図7は、それぞれ、TiOナノ粒子36で被覆および充填される、ならびにTiOナノ粒子38で充填される、炭素ナノチューブ32、34のTEM画像である。ナノチューブ32、34は、約1μmの長さおよび約150nmの直径を有する。
【0082】
これらのナノチューブは、1枚または複数のシートからも形成され、それぞれ、長手方向の内側空洞を含み、ナノチューブ32、34の内側空洞は、TiOナノ粒子38を含む。ナノチューブ32の表面に存在するナノ粒子36は、約5から10nmの平均直径を有し、ナノチューブ32、34に含まれるナノ粒子36は、数ナノメートルから約50nmの範囲の直径を有する。ナノ粒子36、38の形態の二酸化チタンまたはチタン酸塩の比表面積は、約50m/gである。ナノコンポジット36は、最大約420〜450nmに及ぶ、すなわち、可視領域の開始における照射波長で電荷担体を発生させる。
【0083】
(実施例)
(実施例1)
二酸化チタンまたはチタン酸塩ナノチューブの製造
二酸化チタン(TiO)またはチタン酸塩のナノチューブの合成は、濃(10M)塩基性水酸化ナトリウム(NaOH)溶液中二酸化チタン(TiO)粉末の130℃での水熱処理によって行った。1gの粉末TiO(Degussa P−25)をテフロン(登録商標)製オートクレーブ中50mLのNaOH溶液(10M)に添加した。この混合物を1時間撹拌し、次いで、130℃で48時間放置した。この工程は、チタン酸ナトリウムのナノシートの生成をもたらした。次いで、得られた白色粉末を真空下でろ別し、中性まで塩酸(2MHCl)で洗浄し、蒸留水ですすぎ洗いし、次いで、110℃で一晩乾燥させた。合成後焼成処理は、380℃で行った。すすぎ洗い工程の間に、その構造は、チタン酸ナトリウムシートの形態の構造から、水素を取り込む一次元形態(二酸化チタンまたはチタン酸塩のナノチューブ型の)の「巻き取られた」ナノ構造に徐々に変化し、そのプロトンHは、すすぎ洗いの間にナトリウムイオンNaに徐々に取って代わった。このように合成された半導体材料は、おおよそ約300から400m/gの比表面積を有した。
【0084】
(実施例2)
三酸化タングステン(WO)ナノ粒子を担持しおよび/または含む二酸化チタンまたはチタン酸塩ナノチューブを含むナノコンポジットの製造
実施例1の製造工程後に得られたナノチューブにタングステン塩、(NH1012415HOを含むエタノール/脱イオン水溶液(1対2〜1/2の比で)を含浸させた。1時間撹拌後に、この混合物を1時間超音波処理し、その後、撹拌しながら室温で24時間蒸発させた。次いで、このように得られた粉末を110℃で一晩乾燥させ、次いで、380℃で2時間焼成した。
【0085】
図5に示される通りのナノコンポジット(TiOナノチューブ/WOナノ粒子)をこのようにして得た。これらのナノコンポジットは、おおよそ約15〜20nmの直径を有する。
【0086】
(実施例3)
その繊維が、スプレー技術によって、TiOナノチューブ/WOナノ粒子のナノコンポジットで被覆される、本発明による織物の製造
実施例2の方法で製造されたナノコンポジットを10g/Lの濃度で水/エタノール溶液(50/50)中に懸濁させた。次いで、この溶液をこれらの繊維に含浸させるために、織物の綿繊維上に1回目にスプレーした。次いで、この織物を加熱し、110℃で30分間乾燥させた。溶液をこの織物上に2回目および3回目に再びスプレーし、各スプレー工程は、その後に、織物をオーブン中110℃で30分間乾燥させる工程を続けた。
【0087】
図8a、図8bおよび図8cは、それぞれ、3つの異なる尺度で、このように製造した織物用繊維の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。図8bは、図8aの詳細なIの拡大画像であり、図8cは、図8bの詳細Iの拡大画像である。
【0088】
図8aで目視できる織物の繊維42は、約9〜12μmの直径を有する。これらの繊維42は、交絡されているTiOナノチューブ/WOナノ粒子のナノコンポジット46の敷物44で被覆されている。
【0089】
(実施例4)
二酸化チタンまたはチタン酸塩ナノ粒子を担持するおよび/または含む炭素ナノチューブを含むナノコンポジットの製造
用いた炭素ナノチューブは、Cerdaville(Ohio,USA)のPyrograf Products, Inc社によってPyrograf III Carbon Fiber、等級P.R.−24−P5(0343)の名称の下で販売されている。
【0090】
これらの粉末炭素ナノチューブの所定量(試験1=0.2gおよび試験2=0.4g)をエタノール溶液(20mL)に1時間分散させ、その後、ゆっくり撹拌しながら、チタンイソプロポキシド(7mL)、ゾル−ゲル合成前駆体を添加した。その後、激しく撹拌しながら、2Mの塩酸(12mL)を添加後に得られたゾルを撹拌しながら72時間熟成させた。終了させるために、このように得られたミルク状溶液を室温で24時間、次いで、110℃で1時間乾燥させ、その後、350℃で3時間焼成した。
【0091】
図6および図7に示されるものなどのナノコンポジットをこのようにして得た。
【0092】
エタノール溶液中に分散させた炭素ナノチューブの量が比例的により低い(0.2g)試験1の場合、ナノ粒子36は、炭素ナノチューブの内側および外側両方に非選択的に堆積した(図6のナノコンポジット)。上述の量がより大きい(0.4g)試験2の場合、ナノ粒子38の選択的堆積が、炭素ナノチューブの内側に排他的に得られた(図7のナノコンポジット)。
【0093】
(実施例5)
その繊維が、交互積層堆積技術によってチタン酸塩ナノチューブ/WOナノ粒子のナノコンポジットで被覆されている、本発明による織物の製造
8g/LでポリエチレンイミンPEI(Mw=800)を含むポリカチオン、および実施例2の方法によって製造された炭素ナノチューブ/TiOナノ粒子のナノコンポジットのコロイド溶液を含むポリアニオンを調製し、NaOH(10M)でpH9に調整した。
【0094】
この織物を前もって蒸留水ですすぎ洗いし、アセトン、およびエタノールで脱脂し、次いで、100℃で5分間乾燥させた。次いで、この織物をポリカチオンPEIの溶液中に回転撹拌しながら20分間導入し、蒸留水で完全にすすぎ洗いし、次いで、10g/Lでナノコンポジットを含むコロイド溶液中に20分間入れ、次いで、完全にすすぎ洗いした。これらの工程を必要に応じて多数回繰り返した。最終物質を100℃で5分間乾燥させた。
【0095】
図9a、図9b、図9cおよび図9dは、それぞれ、4つの異なる尺度で、交互積層技術によって調製した織物の繊維のSEM画像である。繊維48は綿で作製されており、約20〜25μmの直径を有する。それらは、チタン酸塩ナノチューブ/WOナノ粒子のナノコンポジットの連続層から形成された、敷物50または均一なフィルムで被覆されている。
【0096】
(実施例6)
その繊維が、ディッピングまたは浸漬(またはコーティング)技術によって、炭素ナノファイバー/二酸化チタンナノ粒子のナノコンポジットで被覆されている、本発明による織物の製造
この実施例では、巨視的な織物用繊維は、一次元ナノメートル構造として働く炭素ナノファイバー(またはナノチューブ)の網状組織で被覆されており、これらのナノ構造は、TiOナノ粒子で被覆されている。この場合、巨視的繊維状構造にディッピングによってニッケル塩Ni(NO6HO(Merck(登録商標))のエタノール性溶液(0.5gの繊維当たり、0.19モル/Lのニッケルを含む0.9mLのエタノール)を含浸させ、TiOのためのナノメートルの支持材として働く炭素ナノファイバーの直接の成長を得る。次いで、この溶媒の蒸発を室温で一晩行い、その後、110℃で10時間乾燥させた。金属ニッケルの粒子を得るために水素下250℃で2時間還元後に、0.5gのNi/織物マイクロファイバー基材を用いて、700℃で1時間、エタノール/水素混合物(総流量120mL/分に対してモル比1:5)中CCVD(触媒化学気相成長法)によって、炭素ナノファイバーの合成を得た。
【0097】
ナノコンポジットで被覆した織物用繊維を、空気の流れ下(500mL/分で)2分間乾燥させ、室温で24時間乾燥させ、次いで、100℃で30分間乾燥させた。
【0098】
図10aおよび図10bは、それぞれ、2つの異なる尺度で、上述の技術によって製造した織物の繊維のSEM画像である。織物用繊維52は、約9〜10μmの直径を有し、ナノコンポジット54で均一に被覆されている。
【0099】
(実施例9)
織物と静的に接触した液滴の形態の化学剤の破壊のための、本発明による織物の使用
第1の織物の繊維は、実施例2で製造した一次元形態のナノコンポジット(TiOナノチューブ/WOナノ粒子)のコーティングで被覆した。第2の織物の繊維は、半導体材料の粒状形態のナノ粒子のコーティングで被覆した。
【0100】
化学兵器剤(VX、HD)および模擬剤(DMMP:ジメチルメチルホスホネート、およびDES:硫化ジエチル)を、10g/mの流量で、第1および第2の織物の4cm試料の上に液滴の形態で堆積させた(NATO標準)。次いで、これらの試料を24Wの電力の人工太陽に曝露させ、ランプを試料の上7cmに水平位置で置いた。
【0101】
試験は全て、性能品質に影響を与えることなく、約20%から約50%の範囲の相対湿度において室温で行った。実施例2で製造したナノコンポジット(TiOナノチューブ/WOナノ粒子)を、その繊維が50%ポリアミド/50%綿の種類からなっている第1の織物上に実施例5の方法(交互積層堆積法)によって堆積させた。第2の織物の繊維は、第1の織物のものと同一であり、実施例3のスプレー法によって堆積させた二酸化チタンのナノ粒子(P25 Degussa(登録商標))で被覆されている。
【0102】
図11は、人工太陽下で時間経過とともにDMMPの分解の反応速度を示すグラフである。このグラフはより具体的には、それぞれの織物の表面上のDMMPの残存レベルの変化を、これらの織物の光線への曝露時間の関数として示す。このグラフは、第2の織物について100分に対して(曲線2)、曝露8分後の第1の織物の表面での化学剤の除去合計(曲線60)を示す。実施例3の方法(スプレー法)によって製造した第1の織物で実質的に同一の結果が得られた。したがって、この図は、化学剤などの有機化合物の光触媒分解について、粒状形態のものと比較して、一次元形態の半導体材料の大きな効力をはっきりと示す。
【0103】
(実施例10)
掃引フロー(sweeping flow)下で織物と点接触した気体形態の化学剤の破壊のための、本発明による織物の使用
【0104】
液体化学剤を含むサチュレーターを通して50cm/分で空気流を通すことによって気相中の化学兵器剤(VX、HD)および模擬剤(DMMPおよびDES)を分解させた。350ppmのDES(模擬性イペリット)で汚染されたガス流を、その繊維がナノ構造またはナノコンポジットの堆積で前もって被覆された織物材料と掃引フロー接触に置き、この織物は円筒状反応器の内壁に巻き取られていた。24Wの電力のランプの模擬太陽を円筒状チューブの内側に滑らせ、このようにして反応器上の巻き取られた織物の均一な照明を可能にした。
【0105】
全ての試験は、人工太陽下で、交互積層法またはスプレーによって、50%ポリアミド/50%綿織物用繊維上に堆積させた二酸化チタンまたはチタン酸塩ナノチューブで、20%から50%の範囲の相対湿度において室温で行った。
【0106】
図12は、DESの分解の反応速度を示すグラフであり、より具体的には、DESの減少のレベルの変化を、織物の光線への曝露時間の関数として示す。このグラフは、150分にわたって汚染の総除去、その後、70%の減少度での安定化を示す。
【0107】
(実施例11)
生物剤の破壊のための、本発明による織物の使用
織物用繊維(綿)上に堆積させた二酸化チタンまたはチタン酸塩ナノチューブの殺生物剤特性(殺菌剤、殺ウイルス剤、殺真菌剤、殺胞子剤など)を実証した。胞子、バチリス・サブティリス(模擬炭疽菌)の1実施例の不活性化を図13に報告する。この実施例を、上述の種類のナノチューブの堆積物で被覆した4cmの織物試料上で行った。10個の胞子/mLの比率でバチリスを含むアリコートの1mL試料を、人口UV−A照明(24W)に曝露させた、ナノファイバーコーティングを有する織物上にマイクロピペットで堆積させた。UV−Aランプは、織物の試料上7cmに水平に設置した。プレート上で培養し、形成されたコロニーを数えることによって、依然として生存している胞子の数を、UV−A放射への曝露期間の関数として決定した。UV−A放射への曝露100分後に、99.999%を超える減少が得られた(図13)。
【0108】
(実施例12)
織物上に、半導体材料のナノチューブもしくはナノファイバー、または半導体材料のナノ粒子を有する支持材料のナノファイバーもしくはナノチューブを含むナノコンポジットのその場合成
織物と直接接触して合成工程の全てを行うことによって(上記実施例1、実施例2および実施例4を参照のこと)、または織物と接触して合成方法の工程の1つまたは複数を行うことによって、織物上にナノファイバー、ナノチューブまたはナノコンポジットを直接合成することが可能である。
【0109】
実施例1の特定の場合では、織物は、二酸化チタンもしくはチタン酸塩ナノチューブの製造のための出発溶液中に浸漬させ得るか、または塩酸での洗浄およびすすぎ洗いの工程の間でのみ白色粉末と接触して置くことができ、その結果、ナノチューブの形態の半導体材料の構造化が直接織物上で起こる。
【0110】
(実施例13)
この織物を再利用する目的のための、光触媒作用による汚染除去および/または浄化後の、本発明による織物の洗浄および清浄化
汚染除去後に、織物は、スルフェートまたはホスフェート(硫黄またはリンを含む毒剤の最終酸化由来)の固体堆積物で被覆され得る。これらの堆積物は、水での洗浄によって除去され得る。
【0111】
(実施例14)
図14で例証されたように、様々な構造の形態の半導体材料の光吸収を、入射光線の波長の関数として測定した。3種類の半導体材料を試験し、これらの試験の結果を、曲線64、曲線66および曲線68で示す。曲線64および曲線66は、TiOナノ粒子、すなわち、粒状形態のTiOの光吸収の変化を示す。曲線68は、WOで被覆されたチタン酸塩ナノチューブ(例えば、実施例3で得られたもの)の光吸収の変化を示す。
【0112】
破線印の線70は、400nm未満である紫外領域と、400nmより大きい可視領域との間の境界を示す。
【0113】
TiOナノ粒子は紫外線のみ吸収し、可視領域の光を少ししかまたは全く吸収しないことがはっきりと認められ得る。対照的に、本発明による、WOで被覆されたチタン酸塩ナノチューブは、紫外領域のみならず、可視領域でも吸収する。
【符号の説明】
【0114】
10 ナノファイバー
12 ナノチューブ
14 ナノファイバー
16 ナノ粒子
18 ナノチューブ
22 シート
24 ナノチューブ
26 ナノ粒子
28 シート
30 円筒状空洞
32 ナノチューブ
34 ナノチューブ
36 ナノ粒子
38 ナノ粒子
42 繊維
44 敷物
46 ナノコンポジット
48 繊維
50 敷物
52 繊維
54 ナノコンポジット
60 曲線
62 曲線
64 曲線
66 曲線
68 曲線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機化合物、特に化学剤または生物剤を分解する光触媒特性を有する半導体材料で少なくとも部分的に被覆された織物用繊維であって、半導体材料は、前記半導体材料の一次元形態のナノ構造(10、12)、および/または支持材料の一次元形態のナノ構造(14、18)に付着している前記半導体材料のナノ粒子(16)の形態であることを特徴とする、織物用繊維。
【請求項2】
非半導体材料のナノチューブ(32、34)および/またはナノファイバーで被覆されており、これらのナノチューブまたはナノファイバーは、半導体材料のナノ粒子(36、38)で少なくとも部分的に被覆および/または充填されていることを特徴とする、請求項1に記載の織物用繊維。
【請求項3】
非半導体材料が炭素であることを特徴とする、請求項2に記載の織物用繊維。
【請求項4】
半導体材料のナノチューブおよび/またはナノファイバーで被覆されていることを特徴とする、請求項1から3の何れか一項に記載の織物用繊維。
【請求項5】
半導体材料のナノチューブ(24)および/またはナノファイバーで被覆されており、これらのナノチューブまたはナノファイバーは、半導体材料または非半導体材料のナノ粒子(26)で少なくとも部分的に被覆および/または充填されていることを特徴とする、請求項1から4の何れか一項に記載の織物用繊維。
【請求項6】
ナノチューブ(24)および/またはナノファイバーを形成する前記半導体材料が、二酸化チタンまたはチタン酸塩であることを特徴とする、請求項5に記載の織物用繊維。
【請求項7】
非半導体材料のナノ粒子(26)が、金属であることを特徴とする、請求項5または6に記載の織物用繊維。
【請求項8】
半導体材料のナノ粒子(26)が、TiO、WO、CdS、ZnOまたはSiCで作製されていることを特徴とする、請求項1から7の何れか一項に記載の織物用繊維。
【請求項9】
ナノチューブ(12、18)および/またはナノファイバー(10、14)が、約5から150nmの間、特に約15から20nmの間の直径、および約0.1μmから5mmの間、特に約0.5μmから2mmの間の長さを有することを特徴とする、請求項2から8の何れか一項に記載の織物用繊維。
【請求項10】
請求項1から9の何れか一項に記載の織物用繊維を含むことを特徴とする、織布タイプまたは不織タイプの織物。
【請求項11】
半導体材料が、織物の表面に0.01から100g/mの比率で存在していることを特徴とする、請求項10に記載の織物。
【請求項12】
請求項1から11の何れか一項に記載の織物用繊維または織物を製造する方法であって、
半導体材料のナノチューブ(12)もしくはナノファイバー(10)、半導体材料もしくは非半導体材料のナノ粒子(16)と結合した半導体支持材料のナノチューブ(18)もしくはナノファイバー(14)、および/または半導体材料のナノ粒子(16)と結合した非半導体支持材料のナノチューブ(18)もしくはナノファイバー(14)を合成する工程、ならびに次いで、これらのナノチューブ(12、18)またはこれらのナノファイバー(10、14)の繊維を被覆する工程、あるいは
前記ナノチューブ(12、18)またはナノファイバー(10、14)のその場合成を直接繊維上で行う工程
にあることを特徴とする、方法。
【請求項13】
織物用繊維が、交互積層技術によってナノチューブ(12、18)またはナノファイバー(10、14)で被覆されることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
繊維に所定の濃度のポリカチオン溶液を含浸させる工程、繊維を適切なすすぎ洗い液ですすぎ洗いする工程、繊維に所定の濃度でナノチューブ(12、18)もしくはナノファイバー(10、14)を含むポリアニオン溶液を含浸させる工程、繊維を適切なすすぎ洗い液ですすぎ洗いする工程、および次いで、繊維を乾燥させる工程、または繊維に所定の濃度のポリアニオン溶液を含浸させる工程、繊維を適切なすすぎ洗い液ですすぎ洗いする工程、繊維に所定の濃度でナノチューブ(12、18)もしくはナノファイバー(10、14)を含むポリカチオン溶液を含浸させる工程、繊維を適切なすすぎ洗い液ですすぎ洗いする工程、および次いで、繊維を乾燥させる工程にあることを特徴とする、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
含浸工程およびすすぎ洗い工程が、正に荷電した層および負に荷電した層の交互からなる多層フィルムで繊維を被覆するために、1回以上繰り返されることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
ナノチューブ(12、18)またはナノファイバー(10、14)を所定の濃度で適切な液体ビヒクル中に懸濁させる工程、この懸濁液の所定量を繊維上にスプレーする工程、および次いで、繊維を乾燥させる工程にあることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
スプレー工程および乾燥工程が1回以上繰り返されることを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
所定の濃度で懸濁液中にナノチューブ(12、18)またはナノファイバー(10、14)を含む適切な液体ビヒクルを繊維に含浸させる工程、および次いで、繊維を乾燥させる工程にあることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
有機化合物、特に生物剤または化学剤の光触媒分解のための、請求項1から11の何れか一項に記載の織物繊維または織物の使用。
【請求項20】
分解が、約−10から100℃の間、例えば、室温で行われることを特徴とする、請求項19に記載の使用。
【請求項21】
分解が、自然または人工の照明下で、例えば、可視光または紫外線への曝露によって行われることを特徴とする、請求項19または20に記載の使用。
【請求項22】
神経毒化学剤または発疱剤の分解のための、請求項19または20に記載の使用。
【請求項23】
生物剤、例えば、細菌、ウイルス、真菌および胞子の破壊のための、請求項19または20に記載の使用。
【請求項24】
織物、例えば、工業用織物、医療用織物または家具用織物の製造のための、請求項1から9の何れか一項に記載の織物繊維の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8a】
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【図8b】
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【図8c】
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【図9a】
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【図9b】
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【図9c】
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【図9d】
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【図10a】
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【図10b】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公表番号】特表2011−517295(P2011−517295A)
【公表日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−549174(P2010−549174)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【国際出願番号】PCT/FR2009/000238
【国際公開番号】WO2009/118479
【国際公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(598118019)セントレ・ナショナル・デ・ラ・レシェルシェ・サイエンティフィーク (15)
【出願人】(509228260)ユニヴェルシテ・ドゥ・ストラスブール (8)
【Fターム(参考)】