説明

化学物質検出装置及びクリーニング装置

【課題】センサー種類、構造によらず、測定前のセンサー表面をリフレッシュでき、かつ化学物質検出に影響を与え難い化学物質検出装置、及び化学物質検出装置と組み合わせて使用するクリーニング装置を提供する。
【解決手段】化学物質検出素子1と、化学物質検出素子を収納し、室内を減圧可能なセル2と、セルに気体試料を供給する気体供給流路12と、気体吸引口11とセル2の間の気体移動を遮断する弁13と、セルから気体試料を排出する気体排出流路21と、セルや気体流路内を減圧するための真空ポンプ23と、セルに気体試料を供給するための気体吸引手段24を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学物質検出装置及びクリーニング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シックハウス症候群に代表される室内空気汚染について、近年その関心が高まってきている。そして、空気中に含まれる数ppm以下の極低濃度の化学物質を測定することが極めて重要となってきている。
【0003】
空気中に含まれる極低濃度の化学物質を測定する装置が特許文献1に開示されている。この装置は、半導体センサーを用いた検出装置となっている。通常の半導体センサーは酸化物半導体(MOS:Metal Oxide Semiconductor)が用いられる。半導体センサーは、気体中に含まれる化学物質を吸着し、化学物質の有無と吸着量を検出することができる。
【0004】
空気中に含まれる極低濃度の有機化合物を測定する別の装置が特許文献2に開示されている。この装置は、振動子を用いて有機化合物を検出する装置となっている。この装置は、振動子の共振周波数変化から、吸着膜に特定の気体分子が捕捉されたことを検出する。
【0005】
これらの測定方法ではセンサー表面に化学物質が付着した状態で測定を行うと出力が変化する。このため、繰り返し測定を行う場合には一定間隔毎にセンサー表面を初期状態に回復させるために、クリーニング操作を行う。クリーニング方法としては、空気等のクリーンガスを流して吸着分子を脱離させたり、高温加熱を行って、吸着物質を脱離させる方法が知られている。特許文献1、特許文献2では高温加熱により吸着物質を離脱させている。
【0006】
また別のクリーニング方法として、特許文献3に開示されているように、真空ポンプを用いて気体分子を吸着膜から除去する真空吸引手段を用いる装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−148116号公報
【特許文献2】特開2010−117184号公報
【特許文献3】特開2003−66019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
高温加熱による吸着物質の脱離は、使用するセンサーの種類や構造によっては、高温加熱でセンサー特性が変化するのでセンサーの加熱温度を高くできない。そのためにクリーニング能力が劣るという課題があった。また加熱後にセンサーを冷却しなければならないため冷却時間が必要であり、繰り返し測定を行えないという課題があった。真空吸引による吸着物質の脱離はクリーニング能力は高い。しかし、気体吸引手段として真空吸引を適用すると、気体の移動速度が高速となり化学物質がセンサーに吸着しづらくなるという課題がある。
【0009】
本発明は上述の課題を解決するためになされたものであり、センサーの種類及び構造によらず、クリーニングを行うことで測定前のセンサー表面をリフレッシュでき、かつ化学物質検出センサーが精度良く化学物質を検出できる装置及び化学物質検出装置と組み合わせて使用するクリーニング装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0011】
[適用例1]本適用例にかかる化学物質検出装置は、気体試料に内在する物質が付着することにより発生する信号を検出することで、前記気体試料に内在する前記物質を検出する化学物質検出素子と、前記化学物質検出素子を内蔵するセルと、前記セルに供給する前記気体試料が流動する気体供給流路と、前記気体供給流路を流動する前記気体試料の流動を制御する弁と、前記セルから排出する前記気体試料が流動する気体排出流路と、前記セル内を減圧する真空ポンプと、前記セルに前記気体試料を供給する気体吸引手段と、前記化学物質検出素子に付着した前記物質を検出する信号を発信する信号発信部と、前記物質から発信される信号を検出する信号検出部と、前記信号検出部が検出した信号を用いて、所定の物質の有無を判定する物質判定部と、を備えることを特徴とする。
【0012】
本適用例によれば、化学物質検出装置はセルを備え、セルには化学物質検出素子が内蔵されている。そして、気体供給流路を通って気体試料が流動しセルに供給される。また、気体排出流路を通って気体試料が流動しセルから排出される。そして、気体吸引手段が気体試料を流動させてセルに気体試料を供給する。気体試料が化学物質検出素子を通過するとき気体試料の一部が化学物質検出素子に付着する。
【0013】
信号発信部が化学物質検出素子に付着した物質を検出する信号を発信する。そして、信号検出部が物質から発信される信号を検出する。物質判定部が所定の物質の有無を判定する。そして、弁が気体供給流路を流動する気体試料の流動を停止し、真空ポンプがセル内を減圧する。これにより、化学物質検出素子に付着した物質を化学物質検出素子から離脱させることができる。従って、化学物質検出素子を初期状態に戻して、ノイズのない状態で新たな気体試料に含まれる物質を検出することができる。
【0014】
真空ポンプによる負圧吸引力が化学物質検出素子に作用し、化学物質検出素子をリフレッシュしている。そして、気体吸引手段が気体試料を流動させてセルに気体試料を供給する。真空ポンプが気体吸引手段の機能を備える装置がある。このとき装置は簡便な装置となる。真空ポンプは低い流速で気体試料を流動することが難しいので、気体試料に含まれる物質が低濃度のとき、化学物質検出素子に物質が付着させることが難しい。一方、本適用例では、真空ポンプとは別の気体吸引手段が気体試料を流動させる為、低い流速で気体試料を流動させることができる。その結果、気体試料中に低濃度で存在する物質であっても物質の有無を検出することができる。
【0015】
[適用例2]上記適用例に記載の化学物質検出装置は、前記化学物質検出素子に付着する前記物質が所定の状態まで除去されたか否かを判断するクリーニング状態判定部と、前記クリーニング状態判定部で判定された結果を表示する表示部と、を更に備えたことが好ましい。
【0016】
本適用例によれば、クリーニング状態判定部が、化学物質検出素子に付着する物質が所定の状態まで除去されたか否かを判断している。従って、真空ポンプにより化学物質検出素子が所望の状態までリフレッシュされたかどうか明確にわかるため、望ましい状態で物質の検出を行うことができる。
【0017】
[適用例3]上記適用例に記載の化学物質検出装置は、前記化学物質検出素子として振動子を用いたことが好ましい。
【0018】
本適用例によれば、振動子に物質が付着するとき物質の質量により、振動子の共振周波数が変化する。従って、振動子の共振周波数の変化から化学物質検出素子に特定の物質が捕捉されたことを検出することができる。
【0019】
[適用例4]上記適用例に記載の化学物質検出装置は、前記化学物質検出素子に表面プラズモン現象を利用して前記物質を検出する表面プラズモン素子を用いることが好ましい。
【0020】
本適用例によれば、化学物質検出素子に表面プラズモン素子が用いられている。表面プラズモン素子の表面に物質が付着するとき、屈折率が変化しSPR(Surface Plasmon Resonance)角度が変化する。従ってSPR角度を測定することで、物質が付着したかどうかを知ることができる。
【0021】
[適用例5]上記適用例に記載の化学物質検出装置は、前記化学物質検出素子に局在表面プラズモン現象を利用して前記物質を検出する局在表面プラズモン素子を用いたことが好ましい。
【0022】
本適用例によれば、前記化学物質検出素子に局在表面プラズモン素子が用いられている。局在表面プラズモン素子の表面に物質が付着するとき、レーザー光の照射により表面増強ラマン散乱光を発生させることができる。従って、表面増強ラマン散乱光を検出することにより物質が付着したかどうかを知ることができる。
【0023】
[適用例6]本適用例にかかるクリーニング装置は、物質を検出する化学物質検出装置に接続して使用されるクリーニング装置であって、前記化学物質検出装置が前記クリーニング装置に正常に接続されたことを検出する装着検知センサーと、前記化学物質検出装置から排出する気体試料が流動する第1気体排出流路と、前記化学物質検出装置内に設けられたセルを減圧して前記セルに付着した前記物質を除去する真空ポンプと、前記化学物質検出装置が備える第2気体排出流路と、前記第1気体排出流路とを真空接続するシール部材と、前記第1気体排出流路と前記第2気体排出流路とを遮断するシャッターと、を備えたことを特徴とする。
【0024】
本適用例によれば、クリーニング装置は、物質を検出する化学物質検出装置に接続して使用される。真空ポンプが化学物質検出装置内に設けられたセルを減圧してセルに付着した物質を除去する。このとき、化学物質検出装置から排出する気体試料は第2気体排出流路と第1気体排出流路とを通って流動する。第2気体排出流路は化学物質検出装置が備え、第1気体排出流路はクリーニング装置が備える流路である。シャッターは第1気体排出流路と第2気体排出流路とを遮断する。シャッターを用いることにより、第2気体排出流路からの排気を制御することができる。そして、シール部材が第2気体排出流路と第1気体排出流路とを真空接続する。従って、真空ポンプはセルを短時間で強力に減圧させることができる為、セルに付着した物質を除去することができる。その結果、ノイズが低い状態で物質の検出ができる為、精度良く気体試料中に内在する物質の有無を検出することができる。
【0025】
[適用例7]上記適用例に記載のクリーニング装置は、前記セルに付着する前記物質が所定の状態まで除去されたか否かを判断するクリーニング状態判定部と、前記クリーニング状態判定部で判定された結果を表示する表示部と、を更に備えることが好ましい。
【0026】
本適用例によれば、真空ポンプにより化学物質検出素子が所望の状態までリフレッシュされたかどうか明確にわかるため、望ましい状態で物質の検出を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施形態1にかかる化学物質検出装置の構成を示す模式図。
【図2】実施形態2にかかる化学物質検出装置の構成を示す模式図。
【図3】実施形態3にかかる化学物質検出装置の構成を示す模式図。
【図4】実施形態4にかかる化学物質検出装置の構成を示す模式図。
【図5】実施形態5にかかるクリーニング装置及び化学物質検出装置の構成を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、実施形態について、図面を参照して説明する。尚、以下の各図においては、各部材を認識可能な程度の大きさにするため、各部材の尺度を実際とは異ならせしめている。
【0029】
(実施形態1)
図1は、実施形態1にかかる化学物質検出装置の構成を示す模式図である。まず、実施形態1にかかる化学物質検出装置100の概略構成について説明する。図1に示すように、化学物質検出装置100は、筐体3を備え、筐体3の内部には室内を減圧可能なセル2を備えている。セル2の内部には化学物質検出素子1が配置されている。セル2に接続して気体供給流路12が設置されている。気体供給流路12はセルに気体試料を供給する流路となっている。気体供給流路12の一端には弁13を介して気体吸引口11が設置されている。弁13は気体吸引口11とセル2の間で気体が移動することを制御する。気体吸引口11は外部から気体試料16を吸引する取り込み口となっている。
【0030】
セル2には気体試料16を排出する気体排出流路21が設置され、気体排出流路21には気体排出口22が設置されている。そして、気体排出流路21の中程には気体吸引手段24が設置されている。気体吸引手段24は送風ポンプを有し、気体吸引口11から気体試料16を吸引して気体排出口22から排出する。従って、気体吸引手段24はセル2の内部に気体試料16を流動させる機能を備えている。そして、気体試料16がセル2を通過するとき気体試料16に内在する物質が化学物質検出素子1に付着するようになっている。
【0031】
さらに、セル2には気体試料16を排出する気体排出流路25が設置され、気体排出流路25には気体排出口26が設置されている。そして、気体排出流路25の中程には真空ポンプ23が設置されている。真空ポンプ23は、セル2内から気体試料16を吸引して気体排出口26から排出する。従って、真空ポンプ23はセル2の内部を減圧させる機能を備えている。
【0032】
さらに、化学物質検出装置100は化学物質検出素子1に吸着した物質を検出する信号を発信する信号発信部31が設置されている。そして、化学物質検出素子1に物質が付着するとき、化学物質検出素子1は信号発信部31が発信する信号を入力して、物質に対応して信号を出力する。そして、化学物質検出装置100は物質から発信される信号を検出する信号検出部32を備えている。信号検出部32に接続して物質判定部33が設置され、信号検出部32は検出した信号を変換して物質判定部33に出力する。物質判定部33は検出された信号に基づいて、あらかじめ決められた判定方法を元に、目的の物質の有無を判定する。
【0033】
本実施形態ではセル2及び気体供給流路12を減圧状態にして、セル2及び気体供給流路12に吸着した物質を脱離除去する。従って、減圧のために使用する真空ポンプ23は真空到達能力が大きい程好ましい。一方、真空到達能力と真空ポンプ23の大きさや真空ポンプ23を駆動するために必要な電源の大きさは比例する。大きな真空ポンプ23を小型機器に組み込むことは可搬性が悪くなるため現実的ではない。得たい清浄度と検出感度、化学物質検出装置の大きさに応じた小型、低消費電力の真空ポンプ23を使用することが望ましい。
【0034】
使用場面、検出したい気体の種類やセンサー表面の状態によりクリーニングに必要な真空度は変化する。セル2の到達真空度としては25KPa以下にすることが望ましい。到達真空度が十分でないと化学物質検出素子1の表面や気体供給流路12に吸着した物質の除去が不十分なため、吸着した物質の種類によっては十分なクリーニング効果が得られない場合がある。
【0035】
化学物質検出装置100は真空ポンプ23等のクリーニング機構を有するため、吸着現象を利用して極低濃度に存在する物質を検出する化学物質検出素子1を用いることが好ましい。化学物質検出素子1として例えば振動子を用いる場合、信号発信部31としては発振制御部が使用され、信号検出部32としては振動検出回路が使用される。
【0036】
化学物質検出素子1への物質の吸着速度は、気体の流速に関係することが知られている。従って、気体の流速が大きすぎると物質が化学物質検出素子1に吸着し難くなるため、検出能力が低下する。真空ポンプ23と気体吸引手段24との一方のみを用いてセル2及び気体供給流路12をクリーニングし、気体試料16を流動するとき、化学物質検出素子1に吸着した物質をクリーニングする能力と、物質の検出能力は相反する。
【0037】
そこで。化学物質検出装置100はクリーニングを行う真空ポンプ23とは別に、気体吸引を行うための気体吸引手段24を別に備えている。気体検出時は気体吸引手段24を用いて気体試料16をセル2に供給することで、気体試料16の流速を適切な速度で流動することができる。従って、真空ポンプ23のみを用いて気体検出を行う場合に比べ、化学物質検出能力を高くすることができる。
【0038】
具体的にはセル2と気体排出流路21との間に弁15が設置されている。そして、セル2と気体排出流路25との間に弁14が設置されている。クリーニングを行う時には弁13と弁15とを閉じて弁14を開放する。次に、真空ポンプ23を駆動し気体供給流路12とセル2とを減圧してクリーニングする。その後、弁14を閉じて真空ポンプ23を停止する。化学物質検出時には弁13及び弁15を開けて気体吸引手段24を駆動することにより気体試料16をセル2に供給する。これにより、化学物質検出素子1に気体試料16に含まれる物質が付着する。次に、信号発信部31が所定の周波数で化学物質検出素子1の振動子を駆動する。そして、信号検出部32が実際に振動子が振動する周波数を検出する。信号発信部31が発信した周波数と、信号検出部32が検出した周波数のずれを検出することで、物質判定部33は化学物質検出素子1に付着した物質を検出する。
【0039】
以上述べたように、本実施形態にかかる化学物質検出装置100によれば、化学物質検出素子1に付着したノイズ物質を気体吸引手段24で強力に、高速に除去することで精度良く物質の検出が可能となる。また、気体吸引手段24を用いて気体試料16の供給を行うことにより、物質が化学物質検出素子1に吸着されやすくなる。従って、極低濃度、たとえばppb単位の濃度で存在する物質の検出であっても、十分なSN比で検出を行うことが可能となる。またクリーニングにかかる時間も短くすることができるため、物質を短時間で繰り返し測定することが可能となる。
【0040】
(実施形態2)
図2は、実施形態2にかかる化学物質検出装置の構成を示す模式図である。本実施形態が、実施形態1と異なる点は、クリーニングが所望のレベルまで完了しているか否かを判断するクリーニング状態判定部と、クリーニング状態判定部で判定された結果を表示する表示部を備える点にある。尚、実施形態1と同一の構成部位については、同一の番号を使用し、重複する説明は省略する。
【0041】
化学物質検出装置101は物質判定部33と接続して、クリーニング状態判定部34を備えている。そして、クリーニング状態判定部34と接続して表示部35を備えている。クリーニング状態判定部34はクリーニングが判定値のレベルまで完了しているか否かを判断する。そして、表示部35はクリーニング状態判定部34が判定した結果を表示する。
【0042】
クリーニング状態の判定方法としては例えば、図示しない場所に設けた標準物質をセルに供給し、あらかじめ設定された信号を検出することによって判定する方法がある。他にも、化学物質検出素子1に付着する物質を含まない気体試料16をセル2に供給し、信号が検出されないことを確認する方法がある。
【0043】
化学物質検出装置101は上記の構成により化学物質検出素子が所望の状態までリフレッシュされたことを確認してから気体試料16に含まれる物質の検出ができる。従って、精度良く気体試料16に含まれる物質の検出を行うことができる。
【0044】
(実施形態3)
図3は、実施形態3にかかる化学物質検出装置の構成を示す模式図である。本実施形態が実施形態1と異なる点は化学物質を検出する方法が異なる点にある。尚、実施形態1及び2と同一の構成部位については、重複する説明を省略する。
【0045】
本実施形態における化学物質検出装置102の例では化学物質検出素子5に表面プラズモン素子が使用されている。表面プラズモン素子上に吸着した物質を検出するために化学物質検出装置102は信号発信部としての光源41、化学物質検出素子5に接触して配置されるプリズム42、信号検出部としての光検出器43を備える。光源41には一般的にレーザー光源が使用される。
【0046】
光源41はレーザー光6を射出し、プリズム42を照射する。レーザー光6はプリズム42に入射して、化学物質検出素子5を照射する。レーザー光6は化学物質検出素子5に入射すると、特定の入射角度(SPR角度)では反射率が0に近くなる。SPR角度は表面の屈折率の影響を大きく受ける。このため、化学物質検出素子5の表面に物質が付着して屈折率が変化するときSPR角度が変化する。従って、光検出器43を用いてSPR角度を測定することにより、化学物質検出素子5に物質が付着したかどうかを知ることができる。
【0047】
(実施形態4)
図4は、実施形態4にかかる化学物質検出装置の構成を示す模式図である。本実施形態が実施形態1と異なる点は化学物質を検出する方法が異なる点にある。尚、実施形態1〜3と同一の構成部位については、重複する説明を省略する。
【0048】
本実施形態における化学物質検出装置103の例では化学物質検出素子7に局在表面プラズモン素子を使用している。局在表面プラズモン素子上に吸着した化学物質を検出するために化学物質検出装置103は光源41、コリメーターレンズ47、偏光制御素子46、ハーフミラー45、対物レンズ44、ミラー51、集光レンズ48、光フィルター49、分光素子50、光検出器43を備える。
【0049】
光源41は一般的にはレーザー光源を使用する。光源41が射出したレーザー光6をコリメーターレンズ47が平行光にして偏光制御素子46を照射する。偏光制御素子46はレーザー光6を偏光制御して、ハーフミラー45を照射する。レーザー光6はハーフミラー45にて反射して進行方向をかえ対物レンズ44を通過する。そして、レーザー光6は対物レンズ44により集光されて、化学物質検出素子7の局在表面プラズモン素子を照射する。その結果、化学物質検出素子7に電場増強されたプラズモン場が発生し、そこに付着した物質が存在するとき、化学物質検出素子7に表面増強ラマン散乱光8が発生する。
【0050】
化学物質検出素子7に発生した表面増強ラマン散乱光8は対物レンズ44にて集光されハーフミラー45を通過する。そして、表面増強ラマン散乱光8はミラー51にて反射し進行方向をかえる。その後、表面増強ラマン散乱光8は集光レンズ48を通過して集光され、光フィルター49を通過してレイリー散乱光がカットされる。次に表面増強ラマン散乱光8は分光素子50を通過して、検出したい波長の光を光検出器43に導く。光検出器43は表面増強ラマン散乱光8の光強度を検出する。
【0051】
光検出器43には物質判定部33、クリーニング状態判定部34、表示部35がこの順に接続されている。光検出器43が検出した表面増強ラマン散乱光の情報を物質判定部33が解析することで、化学物質検出素子7に吸着した物質の種類を知ることができる。そして、クリーニング状態判定部34は化学物質検出素子7のクリーニングが正常に行われたかを判定し、その結果を表示部35が表示する。
【0052】
(実施形態5)
図5は、実施形態5にかかるクリーニング装置及び化学物質検出装置の構成を示す模式図である。尚、本実施形態が実施形態4と異なる点はクリーニング装置及び気体検出装置を備える点にある。尚、上記実施形態と同一の内容については、重複する説明は省略する。
【0053】
本実施形態の化学物質検出装置104はクリーニング装置200と接続されている。化学物質検出装置104はセル2を備え、セル2は弁14を介して第2気体排出流路としての気体排出流路27と接続されている。そして、気体排出流路27において弁14とは別の端にはシャッター208が設置されている。
【0054】
クリーニング装置200は筐体201を備え、筐体201の化学物質検出装置104側には化学物質検出装置104がクリーニング装置200に正常に接続されたことを検出する装着検知センサー202を備えている。さらに、クリーニング装置200は第1気体排出流路としての気体排出流路206を備えている。気体排出流路206の一端には気体排出口207が設置され、他端にはシャッター204が設置されている。シャッター204はクリーニング装置200内に設けられた気体排出流路206を遮断する。
【0055】
気体排出流路206の中間には真空ポンプ205が設置され、真空ポンプ205は化学物質検出装置104内に設けられたセル2や気体供給流路12を減圧して、化学物質検出素子7に吸着した物質を除去する。シャッター204の周囲にはシール部材203が設置され、シール部材203は、化学物質検出装置104の気体排出流路27とクリーニング装置200の気体排出流路206とを真空接続する。
【0056】
クリーニング装置200はさらに、化学物質検出装置104が備える物質判定部33と接続してクリーニング状態判定部34及び表示部35を備えている。
【0057】
続いて、化学物質検出装置104及びクリーニング装置200がクリーニングするときの動作を説明する。化学物質検出装置104とクリーニング装置200とが正常に接続されたことを装着検知センサー202が検知する。そして、化学物質検出装置104の図示しない弁開閉制御回路にその情報を伝達する。弁開閉制御回路は、弁13、弁15を閉じ、弁14、シャッター208を開放する。
【0058】
その後、クリーニング装置200はシャッター204を開放し、真空ポンプ205を作動する。次に、クリーニング状態判定部34がクリーニングを終了するかの判断をして、表示部35に判断結果を表示する。
【0059】
クリーニング装置200は化学物質検出装置104とは別の装置となっている。従って、クリーニング装置200の内部に設置する真空ポンプ205が高真空吸引が可能な大型の装置の場合でも、化学物質検出装置104自体の大きさは変わらない。そのため、化学物質検出装置104の大きさによらず非常に大きなクリーニング効果を得ることができる。
【0060】
上記実施形態の化学物質検出装置100〜化学物質検出装置104ではセル2及び気体供給流路12を減圧状態にして、セル2及び気体供給流路12に吸着した化学物質を脱離除去している。従って減圧のために使用する真空ポンプ23及び真空ポンプ205は真空到達能力が大きい程好ましい。真空ポンプ23及び真空ポンプ205の真空到達能力と真空ポンプ23及び真空ポンプ205の大きさは比例する。さらに、真空ポンプ23及び真空ポンプ205の真空到達能力と真空ポンプ23及び真空ポンプ205を駆動するために必要な電源の大きさは比例する。大きな真空ポンプ205を小型機器に組み込むことは可搬性が悪くなるため現実的ではない。
【0061】
そこで、クリーニング部を化学物質検出装置104と分離してクリーニング能力の高い真空ポンプ205を用いることで、得たい清浄度と検出感度を両立することができる。
【0062】
具体的にはセル2と気体排出口22の間に弁15を設け、セル2と気体排出口207の間に弁14を設ける。クリーニング時には弁13、弁15を閉じ、次にシャッター208、シャッター204を開放する。次に、弁14を開放し、その後、真空ポンプ205を駆動し気体供給流路12とセル2とをクリーニングする。
【0063】
クリーニング後に化学物質検出装置104は弁14とシャッター208を閉じる。そして、クリーニング装置200はシャッター204を閉じて真空ポンプ205を停止する。化学物質検出時には化学物質検出装置104は弁13、弁15を開け、気体吸引手段24を駆動し気体試料をセル2に供給し、化学物質検出素子7に吸着した化学物質を検出する。
【0064】
以上述べたように、本実施形態にかかるクリーニング装置200によれば、実施形態1での効果に加えて、真空到達能力の高い真空ポンプ205を用いるためより大きなクリーニング効果を得ることができる。また化学物質検出装置104内に真空ポンプ205を内蔵しないため、化学物質検出装置104の小型化を達成することができる。
【0065】
更に、クリーニングが所望のレベルまで完了しているか否かをクリーニング状態判定部34が判断する。そして、表示部35が判定された結果を表示することが望ましい。
【0066】
クリーニング状態の判定方法としては例えば、図示しない場所に設けた標準物質をセルに供給し、あらかじめ設定された信号が出ることによって判定する方法や、外気をフィルターを介してセルに供給し、信号が出ないことを確認する方法がある。上記構成により化学物質検出素子が所望の状態までリフレッシュされたことを確認してから化学物質の検出ができるため、望ましい状態での検出を行うことができる。
【符号の説明】
【0067】
1,5,7…化学物質検出素子、2…セル、12…気体供給流路、13,14,15…弁、16…気体試料、21,25…気体排出流路、23,205…真空ポンプ、24…気体吸引手段、27…第2気体排出流路としての気体排出流路、31…信号発信部、32…信号検出部、33…物質判定部、34…クリーニング状態判定部、35…表示部、41…信号発信部としての光源、43…信号検出部としての光検出器、100,101,102,103,104…化学物質検出装置、200…クリーニング装置、202…装着検知センサー、203…シール部材、204,208…シャッター、206…第1気体排出流路としての気体排出流路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体試料に内在する物質が付着することにより発生する信号を検出することで、前記気体試料に内在する前記物質を検出する化学物質検出素子と、
前記化学物質検出素子を内蔵するセルと、
前記セルに供給する前記気体試料が流動する気体供給流路と、
前記気体供給流路を流動する前記気体試料の流動を制御する弁と、
前記セルから排出する前記気体試料が流動する気体排出流路と、
前記セル内を減圧する真空ポンプと、
前記セルに前記気体試料を供給する気体吸引手段と、
前記化学物質検出素子に付着した前記物質を検出する信号を発信する信号発信部と、
前記物質から発信される信号を検出する信号検出部と、
前記信号検出部が検出した信号を用いて、所定の物質の有無を判定する物質判定部と、を備えることを特徴とする化学物質検出装置。
【請求項2】
前記化学物質検出素子に付着する前記物質が所定の状態まで除去されたか否かを判断するクリーニング状態判定部と、前記クリーニング状態判定部で判定された結果を表示する表示部と、を更に備えたことを特徴とする請求項1に記載の化学物質検出装置。
【請求項3】
前記化学物質検出素子として振動子を用いたことを特徴とする請求項1または2に記載の化学物質検出装置。
【請求項4】
前記化学物質検出素子に表面プラズモン現象を利用して前記物質を検出する表面プラズモン素子を用いたことを特徴とする請求項1または2に記載の化学物質検出装置。
【請求項5】
前記化学物質検出素子に局在表面プラズモン現象を利用して前記物質を検出する局在表面プラズモン素子を用いたことを特徴とする請求項1または2に記載の化学物質検出装置。
【請求項6】
物質を検出する化学物質検出装置に接続して使用されるクリーニング装置であって、
前記化学物質検出装置が前記クリーニング装置に正常に接続されたことを検出する装着検知センサーと、
前記化学物質検出装置から排出する気体試料が流動する第1気体排出流路と、
前記化学物質検出装置内に設けられたセルを減圧して前記セルに付着した前記物質を除去する真空ポンプと、
前記化学物質検出装置が備える第2気体排出流路と、前記第1気体排出流路とを真空接続するシール部材と、
前記第1気体排出流路と前記第2気体排出流路とを遮断するシャッターと、を備えたことを特徴とするクリーニング装置。
【請求項7】
前記セルに付着する前記物質が所定の状態まで除去されたか否かを判断するクリーニング状態判定部と、前記クリーニング状態判定部で判定された結果を表示する表示部と、を更に備えたことを特徴とする請求項6に記載のクリーニング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−215493(P2012−215493A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81708(P2011−81708)
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】